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JP2016171993A - 重症度評価支援システム及びプログラム - Google Patents

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Abstract

【課題】痙縮の重症度について、簡易な構成によって、定量的かつ高い分解能の評価を支援する。【解決手段】重症度評価支援システム1は、被験者Sの関節S0を他動的に屈曲伸展運動させるときの関節S0の角度の時間変化に関する情報を計測する計測装置2と、計測装置2によって計測される情報に基づいて、痙縮の重症度の評価に用いるパラメータを算出する算出装置3と、によって構成される。算出装置3は、伸展運動時における関節S0の角加速度に基づいて痙縮発生角度を算出する。【選択図】図1

Description

本発明は、痙縮の重症度の評価を支援する重症度評価支援システム等に関するものである。
痙縮は、脳卒中や脊髄損傷などの中枢神経系への障害の後遺症として極めて一般的に見られる症状であり、腱反射亢進を伴った緊張性伸張反射の速度依存性増加を特徴とする運動障害である。上肢痙縮の代表的な重症度評価スケールとして、Modified Ashworth Scale(MAS)がある。医師や作業療法士は、痙縮患者を問診・診察した後、MASの評価項目に基づき、主観で痙縮の重症度を評価している。主観で評価しているため、痙縮の重症度は、主治医の経験に依存するものとなり、定量的に評価することができない。また、MASでは痙縮を評価する分解能が低いという課題があり、リハビリテーションの際に患者の回復度を評価しにくいという問題点がある。そのため痙縮を定量的かつ高い分解能をもつ評価手法が必要となる。
例えば、特許文献1及び2には、力覚センサとジャイロセンサを用いて、健常者とパーキンソン病患者とを識別する装置が開示されている。
国際公開第2009/154117号 国際公開第2011/145465号
しかしながら、特許文献1及び2に記載の装置のいずれも、力覚センサとジャイロセンサの両方を用いる必要があり、装置の構成が複雑である。
また、痙縮は、他動運動に対して、運動開始時に抵抗が大きく、あるところまで動かすと急に抵抗が小さくなるという特徴がある一方、パーキンソン病患者にみられる筋強剛は、他動運動中に継続して抵抗があるという特徴がある。このような違いがあるため、パーキンソン病患者に最適な特許文献1及び2に記載の装置を、痙縮の重症度の評価に適用可能かどうか不明である。
本発明は、前述した問題点に鑑みてなされたものであり、その目的とすることは、痙縮の重症度について、簡易な構成によって、定量的かつ高い分解能の評価を支援することが可能な重症度評価支援システム等を提供することである。
前述した目的を達成するための第1の発明は、痙縮の重症度の評価を支援する重症度評価支援システムであって、被験者の関節を他動的に屈曲伸展運動させるときの前記関節の角度の時間変化に関する情報を計測する計測装置と、前記計測装置によって計測される情報に基づいて、前記重症度の評価に用いるパラメータを算出する算出装置と、を備え、前記算出装置は、伸展運動時における前記関節の角加速度に基づいて痙縮発生角度を算出することを特徴とする重症度評価支援システムである。第1の発明によって、力覚センサを不要とする簡易な構成によって、定量的かつ高い分解能を持つパラメータである痙縮発生角度を得ることができる。特に、上肢痙縮の代表的な重症度評価スケールであるMASでは、痙縮発生角度が評価項目となっているところ、痙縮発生角度を自動的に得ることができるので、医師や作業療法士の経験に依存しない定量的な評価を支援することができる。
更に、前記算出装置は、伸展運動時における前記関節の角加速度の高周波成分から低周波成分を引いた差分が、負から正になる時刻から、正から負になる時刻までの区間の積分値を痙縮の大きさとしても良い。これによって、力覚センサを不要とする簡易な構成によって、定量的かつ高い分解能を持つパラメータである痙縮の大きさを得ることができる。特に、痙縮は、腱反射亢進を伴った緊張性伸張反射の速度依存性増加を特徴とする運動障害であるところ、速度依存を考慮した痙縮の大きさを自動的に得ることができるので、信頼性の高い定量的な評価を支援することができる。
また、例えば、前記計測装置は、前記関節に連結される一方の側の第1部位に装着される第1センサと、前記関節に連結される他方の側の第2部位に装着される第2センサとを有し、前記第1センサ及び前記第2センサは姿勢情報を計測し、前記算出装置は、前記第1センサによって計測される前記姿勢情報を用いて第1回転行列を算出し、前記第2センサによって計測される前記姿勢情報を用いて第2回転行列を算出し、前記第1回転行列及び前記第2回転行列に基づいて前記関節の角度を算出しても良い。これによって、少なくとも姿勢情報(3自由度の情報)を計測可能な計測装置があれば、定量的な評価を支援することが可能となる。尚、姿勢情報のみを用いる場合、被験者の初期姿勢を一定にする必要がある。
また、例えば、前記計測装置は、前記関節に連結される一方の側の第1部位に装着される第1センサと、前記関節に連結される他方の側の第2部位に装着される第2センサとを有し、前記第1センサ及び前記第2センサは姿勢情報及び位置情報を計測し、前記算出装置は、前記第1部位をローカル座標の原点とするときの前記第2部位の移動軌跡を算出し、前記移動軌跡を円弧で近似し、前記円弧がなす円の中心座標を算出し、前記中心座標を回転中心とする前記移動軌跡の回転角度に基づいて前記関節の角度を算出しても良い。これによって、被験者の初期姿勢を一定にしなくても、定量的な評価を支援することが可能となる。
また、例えば、前記計測装置は、前記関節に連結される一方の側の第1部位に装着される第1センサと、前記関節に連結される他方の側の第2部位に装着される第2センサとを有し、前記第1センサ及び前記第2センサは姿勢情報及び位置情報を計測し、前記算出装置は、前記第2センサによって計測される位置情報及び姿勢情報を前記第1センサの装着位置を原点とするローカル座標系に変換するとともに、ローカル座標系に変換した前記第2センサによって計測される位置情報を前記関節の回転中心と前記第1センサの装着位置のずれ分だけ平行移動する座標変換を行い、座標変換後の前記第2センサによって計測される位置情報の第1フレームが示す座標と原点を結ぶベクトルと、座標変換後の前記第2センサによって計測される位置情報の第2フレーム以降が示す座標と原点を結ぶベクトルとのなす角度を計測開始位置からの回転角度とし、前記計測開始位置からの回転角度に基づいて前記関節の角度を算出しても良い。これによって、初回の計測に対してのみキャリブレーションを行い、各センサを外さずに連続して行う2回目以降の計測に対してはキャリブレーションが不要となる。また、屈曲伸展運動において関節が回転する平面上で関節の角度を算出するので、予期しない方向への関節の移動や傾き等にも追従し、痙縮発生角度などのパラメータを精度良く算出することができる。
また、例えば、上肢痙縮の重症度の評価を支援する場合において、前記第1センサは、前記被験者の上腕骨の内側上顆及び外側上顆と密接する治具を介して装着されるようにしても良い。これによって、上腕の内外回旋の影響を低減でき、痙縮発生角度などのパラメータを精度良く出力することができる。
第2の発明は、コンピュータを、被験者の関節を他動的に屈曲伸展運動させるときの前記関節の角度の時間変化に関する情報を計測する計測装置によって計測される情報に基づいて、痙縮の重症度の評価に用いるパラメータを算出する算出装置として機能させるためのプログラムであって、前記算出装置を、伸展運動時における前記関節の角加速度に基づいて痙縮発生角度を算出するように機能させるためのプログラムである。第2の発明のプログラムを汎用のコンピュータにインストールすることによって、第1の発明における算出装置を得ることができる。
本発明により、痙縮の重症度について、簡易な構成によって、定量的かつ高い分解能の評価を支援することが可能な重症度評価支援システム等を提供することができる。
重症度評価支援システムの概要を示す図 重症度評価支援処理の流れを示すフローチャート ローカル座標系における各主成分及び移動軌跡を示す図 二次元平面上の移動軌跡を示す図 第3算出手法におけるローカル座標系の座標軸を説明する図 ワールド座標系で表示した屈曲伸展運動時の第1レシーバ及び第2レシーバの移動軌跡の鳥瞰図 ローカル座標系で表示した屈曲伸展運動時の第2レシーバの移動軌跡の鳥瞰図 解析例1における関節の角度の経時変化を示す図 解析例1における関節の角速度の経時変化を示す図 解析例1における関節の角加速度の経時変化を示す図 解析例1における関節の角度、角速度及び角加速度を各波形の絶対値の最大値で規格化した経時変化を示す図 解析例1における各痙縮患者の痙縮発生角度を示す図 解析例1における移動平均15を掛けた角加速度および移動平均31を掛けた角加速度を重ね合わせた図 解析例1における移動平均15を掛けた角加速度と移動平均31を掛けた角加速度との差分を示す図 解析例2における関節の角度の経時変化を示す図 解析例2における関節S0の角速度の経時変化を示す図 解析例2における関節S0の角加速度の経時変化を示す図 解析例2における関節S0の角度、角速度及び角加速度を各波形の絶対値の最大値で規格化した経時変化を示す図 解析例2における各痙縮患者の痙縮発生角度を示す図 解析例3におけるレシーバの装着法を示す図 解析例3における上腕を原点としたときの前腕の移動距離の左右成分の経時変化を示す図 解析例3における二次元平面上の移動軌跡を示す図 解析例3における角度の経時変化を示す図 解析例4における関節S0の角度、角速度及び角加速度を各波形の絶対値の最大値で規格化した経時変化を示す図 解析例4における各痙縮患者の痙縮発生角度を示す図
以下図面に基づいて、本発明の実施形態を詳細に説明する。図1は、重症度評価支援システムの概要を示す図である。図1に示すように、重症度評価支援システム1は、被験者Sの関節S0を他動的に屈曲伸展運動させるときの関節S0の角度の時間変化に関する情報を計測する計測装置2と、計測装置2によって計測される情報に基づいて、痙縮の重症度の評価に用いるパラメータを算出する算出装置3と、によって構成される。
計測装置2は、磁気センサによる3次元位置姿勢計測装置であって、3軸直交コイルで構成されるトランスミッタ20と、同じく3軸直交コイルで構成される第1レシーバ21及び第2レシーバ22と、これらを制御するためのコントローラ23と、によって構成される。第1レシーバ21及び第2レシーバ22は、本発明で言うところの第1センサ及び第2センサである。
コイルの直径は、トランスミッタ20と、第1レシーバ21及び第2レシーバ22との間の距離に比べて十分に小さいため、各コイルは1つの点とみなすことができる。トランスミッタ20のコイルに電流を流し、励磁すると、磁界が発生する。第1レシーバ21及び第2レシーバ22は、トランスミッタ20が励磁されることにより発生するパルス磁場を受け、電磁誘導によってコイルに電流が流れる。コントローラ23は、第1レシーバ21及び第2レシーバ22のコイルに流れる電流を検出し、AD変換を行い、無線通信によって算出装置3に計測データを送信する。計測データは、トランスミッタ20と第1レシーバ21及び第2レシーバ22との相対的な位置情報(x、y、z)や姿勢情報(azimuth、elevation、roll)である。
算出装置3は、ノートPC(「Personal Computer」の略)等であって、制御手段としてのCPU(「Central Processing Unit」の略)、主記憶手段としてのメモリ、補助記憶手段としてのHDD(「Hard Disk Drive」の略)やフラッシュメモリ、外部記憶手段としての記憶媒体、表示手段としての液晶ディスプレイ、入力手段としてのキーボードやマウス、タッチパネルディスプレイ、無線通信手段としての無線モジュール等を有する。補助記憶手段としてのHDDやフラッシュメモリには、OS(「Operating System」の略)やアプリケーションプログラムが保存されており、計測装置2から受信する計測データも保存される。算出装置3のCPUは、補助記憶手段からOSやアプリケーションプログラムを読み出して主記憶手段に格納し、主記憶手段にアクセスしながら、その他の機器を制御し、後述する処理を実行する。
尚、計測装置2は、磁気センサに限られるものではなく、超音波センサ、ジャイロセンサ、電気角度計等、関節S0の角度の時間変化に関する情報を計測可能な装置であれば良い。また、算出装置3は、ノートPCに限られるものではなく、デスクトップPC、タブレット端末、スマートフォン等でも良い。また、計測装置2及び算出装置3は、無線通信に限らず、有線通信であっても良い。
図2は、重症度評価支援処理の流れを示すフローチャートである。以下では、肘関節の場合について説明する。図2に示すように、医師又は作業療法士等(以下、「医師等」という。)は、被験者Sの上腕S1に第1レシーバ21を装着し、被験者Sの前腕S2に第2レシーバ22を装着する(ステップ1)。
第1レシーバ21は、関節S0の肘頭から肩峰方向へ3〜5cm移動した上腕S1の上腕骨上となる箇所に装着されることが望ましい。第2レシーバ22は、関節S0の内側上顆及び外側上顆を結ぶ線から、前腕S2の背側を手根関節側に3〜5cm移動した箇所に装着されることが望ましい。第1レシーバ21及び第2レシーバ22が、このように装着されることによって、筋肉の伸縮によるズレが発生しにくい。また、第1レシーバ21及び第2レシーバ22は、サポータの表面に縫い付けるようにしても良い。これによって、被験者Sは第1レシーバ21及び第2レシーバ22をスムーズに装着できるとともに、第1レシーバ21及び第2レシーバ22が被験者Sの肌に直接触れることがない。
尚、本発明は、肘関節以外の部位の上肢痙縮や、下肢痙縮にも適用可能であり、第1レシーバ21は、関節S0に連結される一方の側の第1部位に装着され、第2レシーバ22は、関節S0に連結される他方の側の第2部位に装着される。第1レシーバ21及び第2レシーバ22は、姿勢情報のみを計測しても良いし、姿勢情報及び位置情報の両方を計測しても良い。
次に、医師等は、被験者Sの肘の関節S0を屈曲伸展運動させ、計測装置2が関節S0の角度の時間変化に関する情報を計測する(ステップ2)。
医師等は、被験者Sの肘を左手で支え、被験者Sの手首を右手で握り、右手に力を加えて、被験者Sの上肢を屈曲伸展運動させる。例えば、上腕S1と前腕S2の角度が直角の状態を初期姿勢とする。初期姿勢から、医師等の任意の速度で、被験者Sの腕が伸びきる角度まで伸展させた後、再び初期姿勢の角度まで屈曲させる。
次に、計測装置2は、無線通信によって算出装置3に計測データを送信し、算出装置3は、計測データを補助記憶手段等に保存する(ステップ3)。
コントローラ23は、例えば、位置情報及び姿勢情報を60Hzで計測する。計測データの座標系は、トランスミッタ20、第1レシーバ21及び第2レシーバ22共に右手系となっており、計測データは、例えば、ZYX型のオイラー角で保存される。
ここで、座標系とオイラー角について説明する。座標系は、ワールド座標系とローカル座標系に分類できる。ワールド座標系は、全ての物体に共通な座標系であり、絶対座標系ともよばれる。ワールド座標系では、物体が動いても座標系自体は移動しない。ローカル座標系は、各物体固有の座標系であり、相対座標系とも呼ばれる。ローカル座標系では、物体の移動及び回転に伴い、座標系自体も移動及び回転する。ワールド座標系とローカル座標系は、相互に変換可能である。オイラー角は、ローカル座標系であり、回転する軸の選び方が12種類ある。ZYXオイラー角では、Z軸、Y軸、X軸の順に回転させ、姿勢情報(azimuth、elevation、roll)が定まる。オイラー角と回転行列は、相互に変換可能である。
次に、算出装置3は、計測データに基づいて、痙縮の重症度の評価に用いるパラメータを算出する(ステップ4)。痙縮の重症度の評価に用いるパラメータは、例えば、痙縮発生角度や痙縮の大きさを示すパラメータである。
痙縮の特徴は、前腕S2の伸張時に引っかかるような抵抗力が現れることである。そこで、本発明の実施の形態では、前腕S2に装着される第2レシーバ22に着目する。移動軌跡を解析する際、同じ動作であっても、第1レシーバ21及び第2レシーバ22の装着位置により、移動軌跡長、速度及び加速度が変動する。そこで、第1レシーバ21及び第2レシーバ22の装着位置に影響されることなく、痙縮の症状である引っかかりを定量的に検出するため、上腕S1及び前腕S2の間、すなわち関節S0の角度変化に着目する。
本発明の実施形態では、関節S0の角度を算出する手法は、姿勢情報のみを用いる第1算出手法と、姿勢情報及び位置情報を用いる第2算出手法、第3算出手法がある。以下では、これらの3つの算出手法について説明する。
<角度の第1算出手法>
第1算出手法では、算出装置3は、計測データの姿勢情報(azimuth、elevation、roll)のみを用いて、第1レシーバ21をローカル座標系の原点とし、第2レシーバ22のY軸周りの回転成分によって、関節S0の角度を算出する。第2レシーバ22の回転成分は、ローカル座標系である第1レシーバ21の座標系で表すことができる。例えば、肘の屈曲伸展運動は、第1レシーバ21の座標系で表すと、主にY軸周りの回転になるので、第1レシーバ21を原点とする第2レシーバ22のY軸周りの角度を、関節S0の角度とする。
具体的な算出手法は、次の通りである。算出装置3は、第1レシーバ21によって計測される姿勢情報を用いて第1回転行列を算出する。次に、算出装置3は、第2レシーバ22によって計測される姿勢情報を用いて第2回転行列を算出する。そして、算出装置3は、第2回転行列と第1回転行列の逆行列との積を算出し、関節S0の角度とする。
第1算出手法によれば、少なくとも姿勢情報(3自由度の情報)を計測可能な計測装置があれば、関節S0の角度を算出することが可能となる。尚、姿勢情報のみを用いる場合、被験者Sの初期姿勢を一定(本実施の形態では90度)にする必要がある。
<角度の第2算出手法>
第2算出手法では、算出装置3は、計測データの位置情報(x、y、z)及び姿勢情報(azimuth、elevation、roll)を用いて、第1レシーバ21が装着される第1部位をローカル座標の原点とするときの第2レシーバ22が装着される第2部位の移動軌跡を算出し、移動軌跡を円弧で近似し、円弧がなす円の中心座標を算出し、中心座標を回転中心とする移動軌跡の回転角度に基づいて関節S0の角度を算出する。
図3は、ローカル座標系における各主成分及び移動軌跡を示す図である。図4は、二次元平面上の移動軌跡を示す図である。算出装置3は、移動軌跡を円弧で近似するために、ローカル座標系表示の移動軌跡に主成分分析を行い、二次元平面上に配置する。
図3には、第1レシーバ21が装着される第1部位をローカル座標の原点としてプロットした第2レシーバ22が装着される第2部位の移動軌跡、及び主成分分析により算出した第一主成分〜第三主成分のベクトルが重畳して示されている。図3に示すX軸、Y軸、Z軸はローカル座標系の座標軸である。弧を描く曲線は、第2レシーバ22の移動軌跡である。
算出装置3は、第一主成分及び第二主成分からなる平面より、移動軌跡を配置する二次元平面を求める。図4には、第一主成分及び第二主成分のなす二次元平面上の移動軌跡が示されている。横軸が第一主成分と移動軌跡の内積、縦軸が第二主成分と移動軌跡の内積である。尚、第1レシーバ21が装着される第1部位が座標の原点である。算出装置3は、図4に示す移動軌跡を円弧と仮定し、円弧の中心座標を推定する。円弧の中心座標の推定処理については、最小二乗法により近似した円の方程式を用いる、垂直二等分線を用いるなどの公知技術を適用することができる。
次に、算出装置3は、円の中心座標をローカル座標系に変換する。具体的には、以下の手順によって行う。
(1)第一主成分の単位ベクトルと円の中心のx成分の積を求める。
(2)第二主成分の単位ベクトルと円の中心のy成分の積を求める。
(3)移動軌跡を構成する各計測点の位置ベクトルと第三主成分の単位ベクトルとの内積をそれぞれ求め、内積集合の中央値を求める。
(4)第三主成分と(3)の積を求める。
(5)(1)、(2)及び(4)の和をとる。
次に、算出装置3は、円の中心座標と、移動軌跡を構成する各計測点を結ぶベクトルを求め、計測点ごとにベクトル間の内積を計算することによって、関節S0の角度を算出する。具体的には、算出装置3は、まず、中心座標から、移動軌跡を構成する最初の計測点に向かうベクトルを求め、基準ベクトルとする。次に、算出装置3は、中心座標から、移動軌跡を構成する2番目、3番目、・・・、最後の計測点に向かうベクトルを順次算出する。そして、算出装置3は、基準ベクトルと、各計測点に係るベクトルとの内積を算出し、初期姿勢に対する各計測点における関節S0の角度とする。
第2算出手法によれば、各レシーバの初期姿勢にかかわらず、関節S0の角度を算出することができる。従って、装着時の人為的な影響が減少し、より正確に関節S0の角度を算出することができる。
<角度の第3算出手法>
第3算出手法は、屈曲伸展運動において関節S0が回転する平面に分度器を当てるように関節S0の角度を算出する手法である。第3算出手法では、算出装置3は、第2レシーバ22によって計測される位置情報及び姿勢情報を第1レシーバ21の装着位置を原点とするローカル座標系に変換するとともに、ローカル座標系に変換した第2レシーバ22によって計測される位置情報を関節S0の回転中心と第1レシーバ21の装着位置のずれ分だけ平行移動する座標変換を行い、座標変換後の第2レシーバ22によって計測される位置情報の第1フレームが示す座標と原点を結ぶベクトルと、座標変換後の第2レシーバ22によって計測される位置情報の第2フレーム以降が示す座標と原点を結ぶベクトルとのなす角度を計測開始位置からの回転角度とし、計測開始位置からの回転角度に基づいて関節S0の角度を算出する。関節S0が肘の場合、第3算出手法における関節S0の回転中心は肘頭である。
図5は、第3算出手法におけるローカル座標系の座標軸を説明する図である。図5(a)は、屈曲伸展運動における関節S0の回転軸の軸方向から被験者Sの右肘を見た図である。図5(b)は、上腕S1の長手方向から被験者Sの右肘を見た図である。
図5に示すように、第3算出手法におけるローカル座標系の座標軸は、第1レシーバ21の装着位置を原点とし、上腕S1の長手方向をX軸、屈曲伸展運動における関節S0の回転軸の軸方向をY軸、X軸及びY軸と直交する方向をZ軸とする。X軸の正方向は原点から関節S0の回転中心側に向かう方向、Y軸の正方向は原点から被験者Sの身体の内側に向かう方向、Z軸の正方向は原点から上腕S1を通過する方向とする。図5では、X軸の正方向は紙面右から紙面左、Y軸の正方向は紙面奥から紙面手前、Z軸の正方向は紙面下から紙面上である。
(座標変換)
算出装置3は、第2レシーバ22によって計測される位置情報及び姿勢情報を第1レシーバ21の装着位置を原点とするローカル座標系に変換するとともに、ローカル座標系に変換した第2レシーバ22によって計測される位置情報を関節S0の回転中心と第1レシーバ21の装着位置のずれ分だけ平行移動する座標変換を行う。
関節S0の回転中心付近は、回転時に皮膚がずれるため、誤差が発生し易い。そこで、第1レシーバ21は、関節S0の回転中心から少し離れた位置に装着し、関節S0の回転中心とのずれ分について平行移動することによって、誤差の発生を抑制する。関節S0の回転中心と第1レシーバ21の装着位置とのずれの大きさは、第1レシーバ21を装着する際に計測し、算出装置3に入力するようにしても良いし、既定の位置に第1レシーバ21を装着し、算出装置3が既定の位置を記憶しておくようにしても良い。
例えば、第1レシーバ21を関節S0の回転中心から第1部位側に3cmずらした位置に装着する場合、算出装置3は、ローカル座標系に変換した第2レシーバ22によって計測される位置情報のX成分から3cm分減算する。尚、関節S0の回転中心と第1レシーバ21の装着位置とのずれを補正する処理は、X成分だけでなく、Z成分に対しても行うようにしても良い。
また、第2レシーバ22の装着位置は、前腕の回転において回転軸となる尺骨付近が望ましい。これによって、前腕の回転による誤差の発生を抑制できる。特に、第2レシーバ22の装着位置は、肘の回転中心から尺骨の全長の1/3までの範囲内が望ましい。
(計測開始位置からの回転角度の算出)
第1レシーバ21及び第2レシーバ22によって計測される位置情報及び姿勢情報は、1回の計測で複数フレーム存在する。まず、算出装置3は、座標変換後の第2レシーバ22によって計測される位置情報の第1フレームが示す座標を計測開始位置とし、計測開始位置と原点を結ぶベクトルVRを算出する。次に、算出装置3は、座標変換後の第2レシーバ22によって計測される位置情報の第Nフレーム(Nは2以上の整数)が示す座標と原点を結ぶベクトルVNを算出する。そして、算出装置3は、VRとVNとのなす角度θを計測開始位置からの回転角度として算出する。尚、算出装置3は、初回の計測によって算出されるVRを保存しておき、各センサを外さずに連続して行う2回目以降の計測に対して、保存されているVRを用いる。
(関節S0の角度の算出)
算出装置3は、VRとVNの外積(VR×VN)のローカル座標系におけるY成分が正の場合、関節S0の角度φ=90°−θとし、VRとVNの外積(VR×VN)のローカル座標系におけるY成分が負の場合、関節S0の角度φ=90°+θとする。
第3算出手法によれば、初回の計測に対してのみキャリブレーション(=関節S0の回転中心と第1レシーバ21の装着位置とのずれを補正する処理)を行い、各センサを外さずに連続して行う2回目以降の計測に対してはキャリブレーションが不要となる。また、屈曲伸展運動において関節S0が回転する平面上で関節S0の角度を算出するので、予期しない方向への関節S0の移動や傾き等にも追従し、後述する痙縮発生角度などのパラメータを精度良く算出することができる。
算出装置3は、第1算出方法〜第3算出方法のいずれであっても、細かなノイズを低減するために、移動平均を用いても良い。移動平均は、時系列データを平滑化する手法であり、直近のn個のデータの平均を出力する。移動平均には、単純移動平均、加重移動平均、指数移動平均等があるが、いずれを用いても良い。
第1算出方法〜第3算出方法によれば、関節S0の角度の時間変化を算出することができるので、算出装置3は、関節S0の、角速度、角加速度も算出することができる。
<痙縮発生角度の算出>
算出装置3は、伸展運動時における関節S0の角加速度に基づいて痙縮発生角度を算出する。例えば、算出装置3は、関節S0の角加速度の歪みが生じている時刻を痙縮発生時刻とし、痙縮発生時刻における関節S0の角度を痙縮発生角度とする。
上肢痙縮の代表的な重症度評価スケールであるMASでは、痙縮発生角度が評価項目となっているところ、重症度評価支援システム1は、痙縮発生角度を自動的に得ることができるので、医師等の経験に依存しない定量的な評価を支援することができる。
<痙縮の大きさの算出>
算出装置3は、伸展運動時における関節S0の角加速度の高周波成分から低周波成分を引いた差分が、負から正になる時刻から、正から負になる時刻までの区間の積分値を痙縮の大きさとする。
ここで、角加速度の高周波成分とは、移動平均点数が少ない移動平均を掛けた角加速度を意味する。また、角加速度の低周波成分とは、移動平均点数が多い移動平均を掛けた角加速度を意味する。移動平均点数が少なければ、平滑化される度合が低く、移動平均点数が多ければ、平滑化される度合が高い。
例えば、60Hzで計測する計測データに移動平均点数が15を掛けた場合及び移動平均点数が31を掛けた場合のカットオフ周波数は、以下のように算出される。
式(1)から、移動平均15の場合のカットオフ周波数は1.77Hz、移動平均31の場合のカットオフ周波数は0.86Hzとなる。従って、サンプリング間隔が60Hzであり、移動平均15及び移動平均31を用いる場合、算出装置3は、伸展運動時の0.86Hz〜1.77Hzの区間の角加速度を、痙縮の大きさとして算出する。ここで、角加速度の高周波成分は、カットオフ周波数が1.77Hzのローパスフィルタを通過した角速度の時系列信号、角加速度の低周波成分は、カットオフ周波数が0.86Hzのローパスフィルタを通過した角速度の時系列信号である。
肘の屈曲伸展運動を上腕S1と前腕S2の2つの剛体による回転運動と仮定すると、前腕S2のトルクは角加速度に比例すると考えることができる。従って、一定の帯域の角加速度の変化量を求めることによって、痙縮の抵抗力の大きさを近似して評価できる。
痙縮は、腱反射亢進を伴った緊張性伸張反射の速度依存性増加を特徴とする運動障害であるところ、重症度評価支援システム1は、速度依存を考慮した痙縮の大きさを自動的に得ることができるので、信頼性の高い定量的な評価を支援することができる。
以下、重症度評価支援システム1による解析例1〜3について説明する。
<解析例1>
解析例1では、健常者6人と痙縮患者7人の計測データを用いた。健常者は、全員が20代、男性4名、女性2名であった。痙縮患者A〜Gは、49〜81歳(平均年齢65.6歳)、男性3名、女性4名であった。また、痙縮患者は、MASのスコアが「1」(経度の筋緊張の増加あり。屈伸にて、引っかかりと消失、あるいは可動域終わりに若干の抵抗あり。)であった。
計測装置2としては、米国POLHEMUS社製の「G4」(電磁気を利用した3次元位置計測装置)を用いた。第1レシーバ21は、関節S0の肘頭から肩峰方向へ3〜5cm移動した上腕S1の上腕骨上となる箇所に装着した。第2レシーバ22は、関節S0の内側上顆及び外側上顆を結ぶ線から、前腕S2の背側を手根関節側に3〜5cmm移動した箇所に装着した。
1回の計測で「初期姿勢(90度)から被験者の腕が伸びきる角度(約0度)まで伸展し、再び初期姿勢まで屈曲させる動作」を連続して5回計測することを1セッションとし、1人あたり片腕2セッションずつ、合計4セッションを計測した。痙縮患者の場合、痙縮の症状がない腕を先に計測して計測内容を理解してもらい、次に痙縮の症状がある腕を計測した。
解析例1では、算出装置3は、計測データの姿勢情報(azimuth、elevation、roll)のみを用いて、第1レシーバ21をローカル座標系の原点とし、第2レシーバ22のY軸周りの回転成分によって、関節S0の角度を算出した(第1算出手法)。
図6は、痙縮患者Aの痙縮の症状がある左腕に装着された第1レシーバ21及び第2レシーバ22の移動軌跡をワールド座標系で表示した鳥瞰図である。X軸、Y軸、Z軸は、ワールド座標系の座標軸である。図6に示すように、第2レシーバ22の移動軌跡が弧を繰り返し描いていることから、前腕S2の屈曲伸展運動を計測していることが分かる。また、計測時に医師等が上腕S1を支えて固定していたものの、ワールド座標系でプロットすると、肘部分が動いていることが分かる。つまり、ワールド座標系では、腕の屈曲伸展運動の成分だけでなく、腕の縦揺れや横揺れ、体幹の揺れが重畳して計測されていることが分かる。
図7は、屈曲伸展運動時の痙縮患者Aの痙縮の症状がある左腕に装着した第1レシーバ21のローカル座標で表示した第2レシーバ22の移動軌跡の鳥瞰図である。ここで、ローカル座標系とは、上腕S1に装着した第1レシーバ21を原点として第1レシーバ21のX軸、Y軸、Z軸が作る座標系を意味する。図7に示すX軸、Y軸、Z軸は、ローカル座標系の座標軸である。ローカル座標系で第2レシーバ22の移動軌跡をプロットし、第1レシーバ21に対する第2レシーバ22の相対的な移動軌跡を見ると、バイアス成分として重畳している腕の縦揺れや横揺れ、体幹の揺れを取り除かれていることが分かる。
図8は、解析例1における関節S0の角度の経時変化を示す図である。図8(a)が健常者、図8(b)が痙縮患者である。横軸が時間、縦軸が角度である。点線の矩形で囲まれている期間が伸展運動時である。初期姿勢を90度と設定しているので、伸展していくにつれて角度は減少する。よって、波形の傾きが負のときは伸展運動時、傾きが正のときは屈曲運動時を示す。図8(a)及び図8(b)を比較すると、図8(b)の痙縮患者は、図8(a)の健常者に比べて、伸展動作及び屈曲動作を行うために、より長い時間を要したことがわかる。また、図8(b)の波形は、図8(a)の波形に比べて、振幅が小さいことがわかる。尚、図8では、角度表示時に細かなノイズを低減するために、移動平均点数が15の移動平均を掛けた。
図9は、解析例1における関節S0の角速度の経時変化を示す図である。図9(a)が健常者、図9(b)が痙縮患者である。横軸が時間、縦軸が角速度である。点線の矩形で囲まれている期間が伸展運動時である。角速度の値は、動作開始時に0度/秒であり、伸展運動時に負の値、屈曲運動時に正の値となる。図9(a)及び図9(b)を比較すると、図9(a)の波形が、図9(b)の波形よりも振幅が大きいことがわかる。また、図9(a)の波形は正弦波に近い形なのに対し、図9(b)の波形は三角波に近い形となった。尚、図9では、角速度表示時に細かなノイズを低減するために、移動平均点数が15の移動平均を掛けた。
図10は、解析例1における関節S0の角加速度の経時変化を示す図である。図10(a)が健常者、図10(b)が痙縮患者である。横軸が時間、縦軸が角加速度である。点線の矩形で囲まれている期間が伸展運動時である。図10(a)より、健常者の角加速度は、伸展開始時に負の成分であり、伸展運動時は傾きがほぼ一定で上昇していることがわかる。一方、図10(b)より、痙縮患者の角加速度は、伸展開始時に負の成分で、伸展運動につれ角加速度は上昇するが、途中で歪みが発生していることがわかる。尚、図10では、角加速度表示時に細かなノイズを低減するために、移動平均点数が15の移動平均を掛けた。
図11は、解析例1における関節S0の角度、角速度及び角加速度を各波形の絶対値の最大値で規格化した経時変化を示す図である。図11(a)が健常者、図11(b)が痙縮患者である。横軸が時間、縦軸が任意単位である。点線の矩形で囲まれている期間が伸展運動時である。図11(a)及び図11(b)を比較すると、角度及び角速度ではあまり違いはみられないが、角加速度は健常者と痙縮患者とで大きな違いがある。図11(b)に示すように、痙縮患者の場合のみ、伸展運動時の角加速度の曲線に歪みがある。ここで、本発明の実施の形態では、伸展運動時の関節S0の角加速度の経時変化における高い周波数成分を歪みと定義する。特に、伸展運動開始後の最も早い時点で生じる加速度の変曲点を「痙縮の開始時刻」と定義する。
例えば、算出装置3は、以下のように、痙縮発生角度を算出する。
(1)算出装置3は、第1レシーバ21及び第2レシーバ22の相対的な位置から、関節S0の伸展運動期間を算出する(例えば、図7に示す円弧の両端は、伸展屈曲動作の各回の終点となるため、伸展運動開始時から伸展運動終了時までの伸展運動期間を特定できる。)。
(2)算出装置3は、それぞれの伸展運動期間における(任意の移動平均処理した)角加速度の時系列データを対象として、増加から減少へと変化する変曲点を求め、最初に現れる変曲点の時刻を「痙縮の開始時刻」とする。
(3)算出装置3は、この痙縮の開始時刻における関節S0の角度を「痙縮発生角度」とする。
このように、算出装置3によれば、自動的に痙縮発生角度を求めることができる。
図12は、解析例1における各痙縮患者の痙縮発生角度を示す図である。白線が1回目、黒線が2回目に計測した痙縮発生角度5回分の平均値であり、黒い棒が標準偏差である。図12より、痙縮患者の被験者Dおよび被験者Gを除いて、1回目と2回目の痙縮発生角度において危険率p<0.05で有意差が発生していないことがわかる。つまり、検査の再現性が高いことがわかる。尚、被験者Dおよび被験者Gで有意差が発生した理由は、1回目および2回目の計測開始時の初期姿勢のずれである。初期姿勢は、医師等によって被験者の上腕と前腕のなす角が90度になるように目分量で調整された。解析時には初期姿勢が90度であるとして、角度、角速度および角加速度を算出した。よって、被験者Dおよび被験者Gの初期姿勢は1回目または2回目で90度から多少ずれており、初期姿勢のずれにより有意差が発生した。
図13は、解析例1における移動平均15を掛けた角加速度および移動平均31を掛けた角加速度を重ね合わせた図である。図13(a)が健常者、図13(b)が痙縮患者である。横軸が時間、縦軸が角加速度である。点線の矩形で囲まれている期間が伸展運動時である。図13(a)及び図13(b)を比較すると、伸展運動時の角加速度が最小値から増加する期間において、移動平均15の角加速度と移動平均31の角加速度が交差する交点は、健常者が1点、痙縮患者が2点以上存在することがわかる。この知見により,当該期間に交点が2点以上存在するか否かを判定基準として、「痙縮が発生したか否か」を自動的に判定できる。図13(a)では、移動平均15の角加速度において大きな歪みは観測できず、移動平均31の角加速度は平滑化され、振幅が減少する。一方、図13(b)では、移動平均15の角加速度において歪みが生じており、移動平均31の角加速度は、歪みが平滑化され、正弦波に近い。その結果、移動平均15の角加速度の歪み波形と移動平均31の角加速度の正弦波に近い波形との間に複数の交点が生じることになる。
図14は、解析例1における移動平均15を掛けた角加速度と移動平均31を掛けた角加速度との差分を示す図である。図14(a)が健常者、図14(b)が痙縮患者である。横軸が時間、縦軸が角加速度である。点線の矩形で囲まれている期間が伸展運動時である。図14(a)では、伸展開始時の傾きが負であり、下に凸の波形となり、その後は傾きが正であり、横軸とは交わらない(角加速度は0deg/s2とはならない)。一方、図14(b)では、伸展開始時に、傾きが負であり、下に凸の波形となり、その後は上に凸の波形となり、横軸と交わる(角速度が再び0deg/s2となる)ことで閉区間をつくる。算出装置3は、図14(b)に示すグラフにおいて、伸展運動時の上に凸の閉区間を積分区間とし、その積分値を痙縮の大きさとする。つまり、痙縮の大きさの積分区間は、伸展運動時における関節S0の角加速度の高周波成分から低周波成分を引いた差分が、負から正になる時刻から、正から負になる時刻までの区間である。ここで、図14(b)に示すグラフにおいて、高周波成分は、移動平均15を掛けた角加速度、低周波成分は、移動平均31を掛けた角加速度である。
図12より、痙縮患者の被験者Dおよび被験者Gを除いて、1回目と2回目の痙縮発生角度において危険率p<0.05で有意差が発生せず、痙縮発生角度が被験者ごとにほぼ一定であった。そして、MASでは痙縮の重症度が痙縮発生角度によって決まることから、痙縮発生角度が被験者ごとにほぼ一定であるという結果は、本発明の実施形態による算出手法によって痙縮発生角度が正しく算出できたことを裏付けるものである。痙縮発生角度に基づいて重症度の軽い順に被験者を並べると、B(48.34度)、C(49.46度)、E(52.32度)、A(55.44度)、D(58.39度)、F(72.54度)、G(81.70度)となる。ここで、痙縮発生角度の大小比較では、1回目および2回目の平均値を用いた。
本発明の実施形態による算出手法では、「移動平均15と移動平均31を掛けた角加速度の差分」を「伸展運動において両者の差分が正である期間」(図14に示す「痙縮の大きさの積分区間」参照)で積分することで、痙縮の大きさを評価した。このような評価法は、従来までの医師等の主観に頼った診断に代えて、簡易で信頼性の高い定量的な評価法として提案できる。
<解析例2>
解析例2では、解析例1と同じ計測データを用いた。解析例2では、算出装置3は、計測データの位置情報(x、y、z)及び姿勢情報(azimuth、elevation、roll)を用いて、第1レシーバ21が装着される第1部位をローカル座標の原点とするときの第2レシーバ22が装着される第2部位の移動軌跡を算出し、移動軌跡を円弧で近似し、円弧がなす円の中心座標を算出し、中心座標を回転中心とする移動軌跡の回転角度に基づいて関節S0の角度を算出した(第2算出手法)。
図15は、解析例2における関節S0の角度の経時変化を示す図である。図15(a)が健常者、図15(b)が痙縮患者である。横軸が時間、縦軸が角度である。点線の矩形で囲まれている期間が伸展運動時である。初期姿勢を90度と設定しているので、伸展していくにつれて角度は減少する。よって、波形の傾きが負のときは伸展運動時、傾きが正のときは屈曲運動時を示す。図15(a)及び図15(b)を比較すると、両波形の振幅は変わらず、図15(b)の痙縮患者は、図15(a)の健常者に比べて、伸展動作及び屈曲動作を行うために、より長い時間を要したことがわかる。尚、図15では、角度表示時に細かなノイズを低減するために、移動平均点数が15の移動平均を掛けた。
図16は、解析例2における関節S0の角速度の経時変化を示す図である。図16(a)が健常者、図16(b)が痙縮患者である。横軸が時間、縦軸が角速度である。点線の矩形で囲まれている期間が伸展運動時である。角速度の値は、動作開始時に0度/秒であり、伸展運動時に負の値、屈曲運動時に正の値となる。図16(a)の波形は正弦波に近い形であるのに対し、図16(b)の波形は三角波に近い形となった。尚、図16では、角速度表示時に細かなノイズを低減するために、移動平均点数が15の移動平均を掛けた。
図17は、解析例2における関節S0の角加速度の経時変化を示す図である。図17(a)が健常者、図17(b)が痙縮患者である。横軸が時間、縦軸が角加速度である。点線の矩形で囲まれている期間が伸展運動時である。図17(a)及び図17(b)を比較すると、図17(b)の波形は、伸展運動時に歪みがあることが分かる。尚、図17では、角加速度表示時に細かなノイズを低減するために、移動平均点数が15の移動平均を掛けた。
図18は、解析例2における関節S0の角度、角速度及び角加速度を各波形の絶対値の最大値で規格化した経時変化を示す図である。図18(a)が健常者、図18(b)が痙縮患者である。横軸が時間、縦軸が任意単位である。点線の矩形で囲まれている期間が伸展運動時である。図18(a)及び図18(b)を比較すると、角度及び角速度ではあまり違いはみられないが、角加速度は健常者と痙縮患者とで大きな違いがある。図18(b)では伸展運動時に角加速度の曲線に歪みがある。算出装置3は、歪みの発生時刻を算出し、歪みの発生時刻における関節S0の角度を痙縮発生角度とした。
図19は、解析例2における各痙縮患者の痙縮発生角度を示す図である。白線が1回目、黒線が2回目に計測した痙縮発生角度5回分の平均値であり、黒い棒が標準偏差である。図19より、痙縮患者の被験者Dおよび被験者Gを除いて、1回目と2回目の痙縮発生角度において危険率p<0.05で有意差が発生していないことがわかる。しかし、被験者Cおよび被験者Fは、1回目と2回目の平均値に差があり、標準偏差が大きいことがわかる。
図8及び図15を比較すると、解析例2では、解析例1よりも、健常者及び痙縮患者の伸展屈曲運動の可動域が大きいことが確認できる。姿勢情報のみを用いた解析例1では、第1レシーバ21からみた第2レシーバ22のy軸周りの回転角度を算出していたが、肘の屈曲伸展運動の中心を正確に捉えていなかった。一方、位置情報及び姿勢情報を用いた解析例2では、屈曲伸展運動の中心を算出し、中心からの角度変化を解析しているので、肘の可動域を広く正確に評価できている。
また、図19より、解析例2における痙縮発生角度は、被験者ごとの1回目及び2回目の平均値が異なり、標準偏差の値も大きい場合があることが分かる。1回目及び2回目の痙縮発生角度の平均値が異なり、標準偏差の値も大きくなってしまう原因は、計測時のレシーバの装着法に問題があることが判明した。すなわち、上腕S1に装着した第1レシーバ21と上腕骨の間には、皮膚および筋肉が介在するため、第1レシーバ21が上腕骨に追従できない場合があることが判明した。特に、医師等が痙縮患者の痙縮の症状がある腕を他動的に屈曲伸展する際に、第1レシーバ21のy軸周りに回転(屈曲・伸展)させず、ねじれ成分(左右に動かすx軸周りの回転成分)を加えながら動かした場合において、この問題が顕著に発生していた。第1レシーバ21が上腕骨に追従できていないため、痙縮患者の伸展屈曲時の左右成分が重畳して計測された。その結果、左右成分の影響で主成分分析を掛けた移動軌跡が弧にならず、y軸周りの回転中心を算出する際に誤差が発生していることが確認できた。
<解析例3>
解析例2における問題を解消するため、解析例3では、第1レシーバ21は、被験者Sの上腕骨の内側上顆及び外側上顆と密接する治具を介して装着されるようにした。
図20は、解析例3におけるレシーバの装着法を示す図である。被験者には、治具24を介した第1レシーバ21bと、第2レシーバ22が装着された。また、比較のために、被験者には、治具24を介さない第1レシーバ21aも装着された。
治具24は、フリープラスチックで作製された。治具24は、内側に2か所の窪みがあり、上腕骨の内側上顆および外側上顆に合致するように造形されている。内側上顆および外側上顆と密接する治具24は、伸展屈曲時でもずれることなく上腕骨に追従するため、治具24を介して装着された第1レシーバ21bも上腕骨の動きに追従する。
解析例3の被験者は若年者1名とし、計測する動作は他動的な肘の屈曲伸展運動とした。計測者は、被験者の内側上顆および外側上顆を治具24の上から左手で支え、被験者の手首を右手で握り、右手に力を加えて被験者の上肢を屈曲伸展運動させた。この屈曲伸展運動では、伸展時に左右成分を含む動作とし、上腕S1と前腕S2の角度が直角の状態を屈曲伸展運動の初期姿勢とした。初期姿勢(90度)から、計測者の任意の速度で、被験者の腕が伸びきる角度まで伸展させた後、再び初期姿勢の角度まで屈曲させた。1回の計測で「初期姿勢(90度)から被験者の腕が伸びきる角度(約0度)まで伸展し、再び初期姿勢(90度)まで屈曲させる動作」を、第1レシーバ21a、21bのy軸の正方向へ力を加えて2回、y軸の負方向へ力を加えて2回、およびy軸成分に力を加えずに2回の一連の伸展屈曲動作を計測した。
図21は、解析例3における上腕を原点としたときの前腕の移動距離の左右成分の経時変化を示す図である。図21(a)は治具24を介さない第1レシーバ21aが原点、図21(b)は治具24を介した第1レシーバ21bが原点である。横軸が時間、縦軸がy軸成分の移動距離である。図21(a)の振幅は、約0.03m〜0.06m程度であることが分かる。一方、図21(b)の振幅は、約0.01m〜0.02m程度であり、図21(a)と比較して、左右成分が小さいことが分かる。
図22は、解析例3における二次元平面上の移動軌跡を示す図である。図22(a)は治具24を介さない第1レシーバ21aが原点、図22(b)は治具24を介した第1レシーバ21bが原点である。横軸が第一主成分と移動軌跡の内積であり、縦軸が第二主成分と移動軌跡の内積である。図22(a)では、二次元平面上の移動軌跡が弧のような波形と直線に近い波形となっており、主成分分析の第二主成分の再現性に乏しく、軌道が一致せずに変動していることが分かる。一方、図22(b)では、二次元平面上の移動軌跡が弧を描いており、主成分分析の第二主成分のばらつきが少なく、軌道が一致していることが分かる。また、図22(a)の移動軌跡と比べて、図22(b)の移動軌跡の移動距離が小さいことが分かる。
図23は、解析例3における角度の経時変化を示す図である。図23(a)は治具24を介さない第1レシーバ21aが原点、図23(b)は治具24を介した第1レシーバ21bが原点である。横軸が時間、縦軸が角度である。点線の矩形で囲まれている期間が伸展運動時である。図23(a)では、初期姿勢90度からの可動域が約140度となっており、可動域が過大に算出されているのに対し、図23(b)では約90度となり、実際の動作に近い可動範囲が算出できていることが分かる。
以上の通り、治具24を介さない第1レシーバ21aよりも、治具24を介した第1レシーバ21bを原点としたときの方が、前腕の移動距離の左右成分の変動を抑えることができた。また、治具24を介した第1レシーバ21bを原点としたときの方が、移動軌跡に主成分分析を適応した際、再現性のある円弧を取得できた。主成分分析を適応した移動軌跡を円と仮定した際の決定係数rは、治具24を介さない第1レシーバ21aを原点としたときでは0.744であるのに対し、治具24を介した第1レシーバ21bを原点としたときでは0.909に向上した。従って、解析例3では、より正確に円の中心を算出することができたと言える。
<解析例4>
解析例4では、解析例1と同じ計測データを用いた。解析例4では、算出装置3は、第2レシーバ22によって計測される位置情報及び姿勢情報を第1レシーバ21の装着位置を原点とするローカル座標系に変換するとともに、ローカル座標系に変換した第2レシーバ22によって計測される位置情報を関節S0の回転中心と第1レシーバ21の装着位置のずれ分だけ平行移動する座標変換を行い、座標変換後の第2レシーバ22によって計測される位置情報の第1フレームが示す座標と原点を結ぶベクトルと、座標変換後の第2レシーバ22によって計測される位置情報の第2フレーム以降が示す座標と原点を結ぶベクトルとのなす角度を計測開始位置からの回転角度とし、計測開始位置からの回転角度に基づいて関節S0の角度を算出した(第3算出手法)。
図24は、解析例4における関節S0の角度、角速度及び角加速度を各波形の絶対値の最大値で規格化した経時変化を示す図である。図24(a)が健常者、図24(b)が痙縮患者である。横軸が時間、縦軸が任意単位である。点線の矩形で囲まれている期間が伸展運動時である。図24(a)及び図24(b)を比較すると、角度及び角速度ではあまり違いはみられないが、角加速度は健常者と痙縮患者とで大きな違いがある。図24(b)では伸展運動時に角加速度の曲線に歪みがある。算出装置3は、歪みの発生時刻を算出し、歪みの発生時刻における関節S0の角度を痙縮発生角度とした。
図25は、解析例4における各痙縮患者の痙縮発生角度を示す図である。各被験者の左側が1回目、右側が2回目に計測した痙縮発生角度5回分の平均値であり、黒い棒が標準偏差である。図25に示す通り、痙縮発生角度が被験者ごとにほぼ一定であった。これは、痙縮発生角度が正しく算出できたことを裏付けるものである。
以上、添付図面を参照しながら、本発明に係る重症度評価支援システム等の好適な実施形態について説明したが、本発明はかかる例に限定されない。当業者であれば、本願で開示した技術的思想の範疇内において、各種の変更例又は修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
1.........重症度評価支援システム
2.........計測装置
3.........算出装置
20.........トランスミッタ
21.........第1レシーバ(第1センサ)
22.........第2レシーバ(第2センサ)
23.........コントローラ
24.........治具
S.........被験者
S0.........関節
S1.........上腕
S2.........前腕

Claims (7)

  1. 痙縮の重症度の評価を支援する重症度評価支援システムであって、
    被験者の関節を他動的に屈曲伸展運動させるときの前記関節の角度の時間変化に関する情報を計測する計測装置と、
    前記計測装置によって計測される情報に基づいて、前記重症度の評価に用いるパラメータを算出する算出装置と、
    を備え、
    前記算出装置は、伸展運動時における前記関節の角加速度に基づいて痙縮発生角度を算出する
    ことを特徴とする重症度評価支援システム。
  2. 前記算出装置は、伸展運動時における前記関節の角加速度の高周波成分から低周波成分を引いた差分が、負から正になる時刻から、正から負になる時刻までの区間の積分値を痙縮の大きさとする
    ことを特徴とする請求項1に記載の重症度評価支援システム。
  3. 前記計測装置は、前記関節に連結される一方の側の第1部位に装着される第1センサと、前記関節に連結される他方の側の第2部位に装着される第2センサとを有し、
    前記第1センサ及び前記第2センサは姿勢情報を計測し、
    前記算出装置は、前記第1センサによって計測される前記姿勢情報を用いて第1回転行列を算出し、前記第2センサによって計測される前記姿勢情報を用いて第2回転行列を算出し、前記第1回転行列及び前記第2回転行列に基づいて前記関節の角度を算出する
    ことを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の重症度評価支援システム。
  4. 前記計測装置は、前記関節に連結される一方の側の第1部位に装着される第1センサと、前記関節に連結される他方の側の第2部位に装着される第2センサとを有し、
    前記第1センサ及び前記第2センサは姿勢情報及び位置情報を計測し、
    前記算出装置は、前記第1部位をローカル座標の原点とするときの前記第2部位の移動軌跡を算出し、前記移動軌跡を円弧で近似し、前記円弧がなす円の中心座標を算出し、前記中心座標を回転中心とする前記移動軌跡の回転角度に基づいて前記関節の角度を算出する
    ことを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の重症度評価支援システム。
  5. 前記計測装置は、前記関節に連結される一方の側の第1部位に装着される第1センサと、前記関節に連結される他方の側の第2部位に装着される第2センサとを有し、
    前記第1センサ及び前記第2センサは姿勢情報及び位置情報を計測し、
    前記算出装置は、前記第2センサによって計測される位置情報及び姿勢情報を前記第1センサの装着位置を原点とするローカル座標系に変換するとともに、ローカル座標系に変換した前記第2センサによって計測される位置情報を前記関節の回転中心と前記第1センサの装着位置のずれ分だけ平行移動する座標変換を行い、座標変換後の前記第2センサによって計測される位置情報の第1フレームが示す座標と原点を結ぶベクトルと、座標変換後の前記第2センサによって計測される位置情報の第2フレーム以降が示す座標と原点を結ぶベクトルとのなす角度を計測開始位置からの回転角度とし、前記計測開始位置からの回転角度に基づいて前記関節の角度を算出する
    ことを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の重症度評価支援システム。
  6. 上肢痙縮の重症度の評価を支援する場合において、
    前記第1センサは、前記被験者の上腕骨の内側上顆及び外側上顆と密接する治具を介して装着される
    ことを特徴とする請求項4に記載の重症度評価支援システム。
  7. コンピュータを、被験者の関節を他動的に屈曲伸展運動させるときの前記関節の角度の時間変化に関する情報を計測する計測装置によって計測される情報に基づいて、痙縮の重症度の評価に用いるパラメータを算出する算出装置として機能させるためのプログラムであって、
    前記算出装置を、伸展運動時における前記関節の角加速度に基づいて痙縮発生角度を算出するように機能させるためのプログラム。
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