以下、実施形態の太陽電池およびその製造方法について、図面を参照して説明する。図1は実施形態の太陽電池の一例として有機薄膜太陽電池を示している。図1に示す有機薄膜太陽電池1は、電池構造体10と封止基板20とを具備している。電池構造体10は、図1に示すように、支持基板11と、支持基板11上に配置された第1電極層12と、第1電極層12上に配置された光電変換層13と、光電変換層13上に配置された第2電極層14と、第2電極層14上に配置された保護層15とを備えている。第1電極層12は電極端子16を有する。封止基板20は、電池構造体10の太陽電池素子を覆うように支持基板11上に接着剤層21を介して貼り合わされている。
光電変換層13は、図2に示すように、p型半導体とn型半導体とを含む有機活性層131と、第1電極層12と有機活性層131との間に第1バッファ層として配置された電子輸送層132と、有機活性層131と第2電極層14との間に第2バッファ層として配置された正孔輸送層133とを有している。保護層15は、第2電極層14上に設けられた第1中間層17と、第1中間層17上に設けられた第2中間層18とを有している。第1中間層17は無機化合物を含み、光電変換層13を覆うように第2電極層14上に設けられている。第2中間層18は、熱および光の少なくとも一方で硬化する有機化合物の硬化物を含み、第1中間層17を覆うように設けられている。なお、有機薄膜太陽電池1は、電子輸送層132や正孔輸送層133以外の付加層を備えていてもよい。
図1に示す有機薄膜太陽電池1において、光電変換層13には支持基板11側から太陽光や照明光等の光が照射される。光電変換層13に照射された光を有機活性層131が吸収すると、p型半導体とn型半導体との相界面で電荷分離が生じることによって、電子とそれと対になる正孔とが生成される。有機活性層131で生成された電子と正孔のうち、例えば電子は第1電極層12で捕集され、正孔は第2電極層14で捕集される。この例(逆構成型)では、第1電極層12が電子を捕集するアノード(以下、陰極とも言う)であり、第2電極層14が正孔を捕集するカソード(以下、陽極とも言う)である。なお、第1電極層12と第2電極層14の機能が反対(順構成型)であってもよい。この場合、第1電極層12が正孔を捕集するカソード(陽極)で、第2電極層14が電子を捕集するアノード(陰極)である。以下、これら各部について説明する。
支持基板11は、光透過性を有する材料により構成される。支持基板11の構成材料としては、無アルカリガラス、石英ガラス、サファイア等の無機材料、ポリエチレン、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリイミド、ポリアミド、ポリアミドイミド、液晶ポリマー、シクロオレフィンポリマー等の有機材料が挙げられる。支持基板11は、光透過性の高い材料で構成することが好ましい。
実施形態の有機薄膜太陽電池1においては、第1電極層12側から光が照射される。第1電極層12は、光透過性と導電性とを有する材料により構成される。また、第1電極層12をアノード(陰極)として機能させる場合、第1電極層12は電子の捕集に適した材料で構成することが好ましい。第1電極層12は、太陽光を40%以上透過させることが好ましく、太陽光を70%以上透過させることがより好ましい。これによって、第1電極層12を透過させて光電変換層13に光を到達させやすくなる。
第1電極層12の構成材料としては、酸化インジウム、酸化亜鉛、酸化錫、酸化インジウム錫(ITO)、フッ素がドープされた酸化錫(FTO)、インジウム−亜鉛酸化物(IZO)、インジウム−ガリウム−亜鉛酸化物(IGZO)等の導電性金属酸化物、あるいは金、白金、銀、銅、チタン、ジルコニウム、コバルト、ニッケル、インジウム、アルミニウム等の金属やそれら金属を含む合金等が挙げられる。第1電極層12は、ITOやFTOで構成することが好ましい。第1電極層12は、例えば真空蒸着法、スパッタリング法、イオンプレーティング法、メッキ法、塗布法等により形成される。
第1電極層12の膜厚は、特に制限はないが、10nm以上1μm以下が好ましく、さらに好ましくは30nm以上300nm以下である。第1電極層12の膜厚が薄すぎると、シート抵抗が高くなる。第1電極層12の膜厚が厚すぎると、光透過率が低下すると共に、可撓性が低くなることで応力によりひび割れ等が生じやすくなる。第1電極層12は、高い光透過率と低いシート抵抗との双方が得られるように、膜厚を選択することが好ましい。第1電極層12のシート抵抗に特段の制限はないが、通常1000Ω/□以下であり、500Ω/□以下が好ましく、より好ましくは200Ω/□以下である。大きな電流を取り出す観点から、第1電極層12のシート抵抗は小さいことが好ましい。電極端子16には、アルミニウム、モリブデン、金、銀、銅の単層膜や積層膜等が用いられる。
有機活性層131は、照射された光により電荷分離を行う機能を有し、p型半導体とn型半導体とを含んでいる。p型半導体には、電子供与性を有する材料が用いられる。n型半導体には、電子受容性を有する材料が用いられる。有機活性層131を構成するp型半導体およびn型半導体は、それらが共に有機材料であってもよいし、一方が有機材料であってもよい。p型半導体は、有機材料(有機半導体)であることが好ましい。
有機活性層131に含まれるp型半導体には、ポリチオフェンおよびその誘導体、ポリピロールおよびその誘導体、ピラゾリン誘導体、アリールアミン誘導体、スチルベン誘導体、トリフェニルジアミン誘導体、オリゴチオフェンおよびその誘導体、ポリビニルカルバゾールおよびその誘導体、ポリシランおよびその誘導体、側鎖または主鎖に芳香族アミンを有するポリシロキサン誘導体、ポリアニリンおよびその誘導体、フタロシアニン誘導体、ポルフィリンおよびその誘導体、ポリフェニレンビニレンおよびその誘導体、ポリチエニレンビニレンおよびその誘導体等を用いることができ、またこれらを併用してもよい。p型半導体は、これらの共重合体であってもよく、例えばチオフェン−フルオレン共重合体、フェニレンエチニレン−フェニレンビニレン共重合体等を用いてもよい。
p型半導体には、π共役構造を有する導電性高分子であるポリチオフェンおよびその誘導体を用いること好ましい。ポリチオフェンおよびその誘導体は、優れた立体規則性を有し、溶媒への溶解性が比較的高い。ポリチオフェンおよびその誘導体は、チオフェン骨格を有する化合物であれば特に限定されない。ポリチオフェンおよびその誘導体の具体例としては、ポリ(3−メチルチオフェン)、ポリ(3−ブチルチオフェン)、ポリ(3−ヘキシルチオフェン)、ポリ(3−オクチルチオフェン)、ポリ(3−デシルチオフェン)、ポリ(3−ドデシルチオフェン)等のポリアルキルチオフェン、ポリ(3−フェニルチオフェン)、ポリ(3−(p−アルキルフェニルチオフェン))等のポリアリールチオフェン、ポリ(3−ブチルイソチオナフテン)、ポリ(3−ヘキシルイソチオナフテン)、ポリ(3−オクチルイソチオナフテン)、ポリ(3−デシルイソチオナフテン)等のポリアルキルイソチオナフテン、ポリエチレンジオキシチオフェン等が挙げられる。p型半導体としては、カルバゾール、ベンゾチアジアゾール、およびチオフェンの共重合体である、ポリ[N−9”−ヘプタ−デカニル−2,7−カルバゾール−アルト−5,5−(4’,7’−ジ−2−チエニル−2’,1’,3’−ベンゾチアジアゾール)](PCDTBT)のようなポリチオフェン誘導体を用いてもよい。ポリチオフェンおよびその誘導体をp型半導体として用いることによって、光電変換効率を高めることができる。
有機活性層131に含まれるn型半導体としては、フラーレンおよびフラーレン誘導体を用いることが好ましい。フラーレン誘導体は、フラーレン骨格を有するものであればよい。フラーレンおよびフラーレン誘導体としては、C60、C70、C76、C78、C84等のフラーレン、これらフラーレンの炭素原子の少なくとも一部が酸化された酸化フラーレン、フラーレン骨格の一部の炭素原子を任意の官能基で修飾した化合物、これら官能基同士が互いに結合して環を形成した化合物等が挙げられる。フラーレン誘導体には、フラーレン結合ポリマーも含まれる。n型半導体には、溶剤に親和性の高い官能基を有し、溶媒への可溶性を高めたフラーレン誘導体を用いることが好ましい。
フラーレン誘導体に用いられる官能基としては、水素原子、水酸基、フッ素原子や塩素原子のようなハロゲン原子、メチル基やエチル基のようなアルキル基、ビニル基のようなアルケニル基、シアノ基、メトキシ基やエトキシ基のようなアルコキシ基、フェニル基やナフチル基のような芳香族炭化水素基、チエニル基やピリジル基のような芳香族複素環基等が挙げられる。フラーレン誘導体の具体例としては、C60H36やC70H36のような水素化フラーレン、C60やC70を酸化した酸化フラーレン、フラーレン金属錯体等が挙げられる。フラーレン誘導体には、[6,6]−フェニルC61酪酸メチルエステル(60PCBM)、[6,6]−フェニルC71酪酸メチルエステル(70PCBM)、インデン−C60ビス付加物(60ICBA)、ジヒドロナフチル−C60ビス付加物(60NCBA)、ジヒドロナフチル−C70ビス付加物(70NCBA)等を用いることが好ましい。未修飾のフラーレンとしては、光キャリアの発生効率が高いC70が好ましい。
有機活性層131は、p型半導体層とn型半導体層とが積層された薄膜積層構造やp型半導体材料とn型半導体材料との混合物を含むバルクヘテロ接合構造を有する。これらのうち、p型半導体とn型半導体との相界面を拡大することが可能なバルクヘテロ接合構造を適用することが好ましい。バルクヘテロ接合型の有機活性層131は、p型半導体材料とn型半導体材料とのミクロ相分離構造を有する。有機活性層131内において、p型半導体相とn型半導体相とは互いに相分離しており、ナノオーダーのpn接合を形成している。有機活性層131が光を吸収すると、これらの相界面で正電荷(正孔)と負電荷(電子)とが分離され、各半導体を通って電極12、14に輸送される。
バルクヘテロ接合型の有機活性層131は、p型半導体とn型半導体を溶媒に溶解させた溶液を塗布することにより形成される。従って、印刷法等により安価な装置を用いて、低コストでかつ大面積の有機薄膜太陽電池1を形成することが可能になる。バルクヘテロ接合型の有機活性層131の形成方法は、特に限定されるものではないが、スピンコート法、ディップコート法、キャスティング法、バーコート法、ロールコート法、ワイアーバーコート法、スプレー法、スクリーン印刷法、グラビア印刷法、フレキソ印刷法、オフセット印刷法、グラビア・オフセット印刷法、ディスペンサー塗布法、ノズルコート法、キャピラリーコート法、インクジェット法等が適用される。これらの塗布法を組み合わせた方法を有機活性層131の形成に適用してもよい。
p型半導体とn型半導体を溶解させる溶媒の種類は、半導体材料を均一に溶解できるものであれば特に限定されない。溶媒としては、例えばトルエン、キシレン、テトラリン、デカリン、メシチレン、n−ブチルベンゼン、sec−ブチルベンゼン、tert−ブチルベンゼン等の不飽和炭化水素系溶媒、クロロベンゼン、ジクロロベンゼン、トリクロロベンゼン等のハロゲン化芳香族炭化水素系溶媒、四塩化炭素、クロロホルム、ジクロロメタン、ジクロロエタン、クロロブタン、ブロモブタン、クロロペンタン、クロロヘキサン、ブロモヘキサン、クロロシクロヘキサン等のハロゲン化飽和炭化水素系溶媒、テトラヒドロフラン、テトラヒドロピラン等のエーテル類が挙げられる。これらのうちでも、ハロゲン化芳香族炭化水素系溶媒が好ましく用いられる。これらの溶媒は単独または混合して使用することができる。有機活性層131を形成するにあたって、溶液中のn型半導体とp型半導体との混合比率(n:p)は、1:0.1〜1であることが好ましい。
有機活性層131の厚さは特に限定されないが、10nm〜1000nmが好ましく、50nm〜250nmがさらに好ましい。有機活性層131の厚さを10nm以上とすることで層の均一性が保たれ、短絡が起こりにくくなる。有機活性層131の厚さを1000nm以下とすることによって、内部抵抗を小さくすることができ、さらに電極12、14間の距離が近くなることで電荷の拡散を良好にすることができる。
電子輸送層132は、有機活性層131で生成された正孔をブロックし、電子を選択的にかつ効率的に第1電極層12に輸送する機能や、有機活性層131との界面で生じた励起子(エキシトン)の消滅を防ぐ機能を有する。逆構成型の場合、電子輸送層132は第1電極層12の表面凹凸をレベリングし、太陽電池素子の短絡を抑制する機能も有する。電子輸送層132の構成材料としては、酸化亜鉛(ZnO)、酸化チタン(TiOx)、酸化ガリウム(GaOx)等の金属酸化物が挙げられる。金属酸化物は、アモルファスであっても、また結晶物であってもよい。電子輸送層132の具体例としては、ゾルゲル法にてチタンアルコキシドを加水分解して得たアモルファス状の酸化チタンが挙げられる。電子輸送層132は金属酸化物を含んでいればよく、それ以外の材料、例えばアルカリ金属の塩や有機化合物材料等を含んでいてもよい。
電子輸送層132は、例えばスパッタ法のような真空成膜法、ゾルゲル法、スピンコート法等により形成される。電子輸送層132の膜厚は、1nm以上50nm以下であることが好ましく、2nm以上20nm以下であることがより好ましい。電子輸送層132が薄すぎると、ホールブロック効果が減少し、発生したエキシトンが電子とホールに解離する前に失活してしまうため、効率的に電流を取り出すことができないおそれがある。電子輸送層132が厚すぎると膜抵抗が大きくなり、発生した電流を制限してしまうために光変換効率が低下するおそれがある。
正孔輸送層133は、有機活性層131で生成された電子をブロックし、正孔を選択的にかつ効率的に第2電極層14に輸送する機能や、有機活性層131との界面で生じた励起子(エキシトン)の消滅を防ぐ機能を有する。順構成型の場合、正孔輸送層133は下部の電極層の表面凹凸をレベリングし、太陽電池素子の短絡を抑制する機能も有する。正孔輸送層133の構成材料としては、ポリチオフェン、ポリピロール、ポリアセチレン、トリフェニレンジアミンポリピロール、ポリアニリン等や、それらにスルホン酸やヨウ素をドープした有機導電性ポリマーが挙げられる。それらの中でも、スルホン酸をドープした有機導電性ポリマーが好ましく、さらにはポリチオフェン誘導体にポリスチレンスルフォン酸をドーピングしたPEDOT:PSS(ポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)−ポリ(スチレンスルホネート))がより好ましい。正孔輸送層133の構成材料は、酸化バナジウム、酸化タンタル、酸化モリブデン等の無機材料でもよい。
正孔輸送層133は、例えば真空蒸着法やスパッタ法のような真空成膜法、ゾルゲル法、スピンコート法等により形成される。正孔輸送層133の膜厚は、1nm以上100nm以下であることが好ましく、より好ましくは2nm以上30nm以下である。なお、ここで説明する電子輸送層132と正孔輸送層133の配置位置は、逆構成型の太陽電池素子の場合である。順構成型の太陽電池素子の場合には、電子輸送層132と正孔輸送層133の配置位置は逆になる。順構成型の場合、第1電極層(カソード)12と有機活性層131との間に正孔輸送層133が配置され、有機活性層131と第2電極層(アノード)14との間に電子輸送層132が配置される。
第2電極層14は、導電性を有する材料により構成される。また、第2電極層14をカソード(陽極)として機能させる場合、第2電極層14は正孔の捕集に適した材料で構成することが好ましい。第2電極層14の構成材料としては、例えば白金、金、銀、銅、ニッケル、コバルト、鉄、マンガン、タングステン、チタン、ジルコニウム、錫、亜鉛、アルミニウム、インジウム、クロム、リチウム、ナトリウム、カリウム、ルビジウム、セシウム、カルシウム、マグネシウム、バリウム、サマリウム、テルビウム、イッテルビウム等の金属、あるいはそれらの合金が挙げられる。
順構成型の太陽電池素子において、陽極である第1電極層12に仕事関数の高い材料を用いた場合、陰極である第2電極層14は仕事関数の低い材料で構成することが好ましい。仕事関数の低い材料としては、アルカリ金属、アルカリ土類金属、希土類金属、インジウム、アルミニウム、ジルコニウム等が挙げられる。第2電極層14は、単層膜であってもよいし、仕事関数が異なる材料の積層膜であってもよい。第2電極層14には、仕事関数が異なる材料の合金を用いてもよい。そのような合金としては、リチウム−アルミニウム合金、リチウム−マグネシウム合金、リチウム−インジウム合金、マグネシウム−銀合金、マグネシウム−インジウム合金、マグネシウム−アルミニウム合金、インジウム−銀合金、カルシウム−アルミニウム合金等が挙げられる。
第2電極層14は、例えば真空蒸着法、スパッタリング法、イオンプレーティング法、メッキ法、塗布法等により形成される。第2電極層14の膜厚は特に制限はないが、1nm以上1μm以下が好ましく、2nm以上500nm以下がより好ましく、さらに好ましくは100nm以上300nm以下である。第2電極層14が薄すぎると、抵抗が大きくなりすぎて、発生した電荷を十分に外部回路へ伝達できない。第2電極層14が厚すぎると、その成膜に長時間要し、材料温度が上昇して有機活性層131がダメージを受けるおそれがある。第2電極層14のシート抵抗は特に制限されないが、500Ω/□以下が好ましく、より好ましくは200Ω/□以下である。
実施形態の有機薄膜太陽電池1においては、光電変換層13を覆うように第2電極層14上に第1中間層17を設け、さらに第1中間層17を覆うように第2中間層18を設けている。第1中間層17は無機化合物を含んでおり、第2中間層18は熱および光の少なくとも一方で硬化する有機化合物の硬化物を含んでいる。ここで、支持基板11として無アルカリガラス基板(厚さ:0.7mm、線熱膨張係数:3.3×10−6/K)、第1電極層12としてITO層(厚さ:150nm、線熱膨張係数:7.2×10−6/K)、光電変換層13としてp型半導体とn型半導体とのバルクヘテロ接合層(厚さ:100nm、線熱膨張係数:50×10−6/K)、第2電極層14としてAg層(厚さ:200nm、線熱膨張係数:18.9×10−6/K)を用いた積層体を例として説明する。光電変換層13は、バルクヘテロ接合型の有機活性層131で代表される。
上述した積層体において、第2電極層14上に保護層15として熱硬化性エポキシ樹脂の硬化物層(厚さ:10μm、線熱膨張係数:60×10−6/K)のみを形成した場合、比較的線膨張係数が大きい光電変換層13とエポキシ樹脂の硬化物層との間に、線膨張係数が小さい第2電極層(Ag層)14のみが配置されることになる。前述したように、第2電極層14は光電変換層13に対する密着性が劣るため、エポキシ樹脂が熱硬化する際に、第2電極層14と光電変換層13との界面から剥離が生じる。さらに、光電変換層13の一部は、第2電極層14から露出しているため、樹脂塗布液が光電変換層13の露出部から侵入するおそれがある。このため、光電変換層13の構成材料が樹脂塗布膜中に溶出したり、バルクヘテロ構造の相分離したパスを通って活性層端面からn型半導体としてのフラーレンやその誘導体が樹脂塗布膜内に流出するおそれがある。それらの結果として、光電変換層13の効率が低下する。
このような点に対して、第2電極層14上に第1中間層17として、第2電極層14および光電変換層13を完全に被覆するように無機化合物膜(厚さ:100nm)を形成し、その上に第2中間層18として、第1中間層17を完全に被覆するように熱硬化性エポキシ樹脂の硬化物層(厚さ:10μm)を形成した場合、エポキシ樹脂の熱硬化時における第2電極層14と光電変換層13との界面からの剥離を抑制することができる。すなわち、第2電極層14や光電変換層13に対して密着性に優れる無機化合物膜を第1中間層17として形成することによって、エポキシ樹脂(有機化合物)の硬化時の収縮等に基づく応力が第2電極層14と光電変換層13との界面に影響しにくくなる。従って、第2電極層14と光電変換層13との界面剥離を抑制することができる。
この際、第1中間層17としての無機化合物膜の室温における線膨張係数をα1、第2中間層18としての有機化合物の硬化物層の室温における線膨張係数をα2としたとき、第1中間層17の線膨張係数α1は第2中間層18に対してα1<α2の関係を満足する必要がある。第1中間層17の線膨張係数α1が第2中間層18の線膨張係数α2以上であると、有機化合物の硬化時の応力を緩和する効果が得られない。このため、第2電極層14と光電変換層13との界面剥離を抑制することができない。さらに、第1中間層17としての無機化合物膜が光電変換層13と第2電極層14との間を遮っているため、樹脂層中への光電変換層13(有機活性層131)の構成材料の溶出や流出が抑制される。従って、光電変換層13による変換効率を良好に保つことができる。
ここで、各層の室温における線膨張係数は、TMA(Thermal Mechanical Analysis)法により測定した値である。TMA法は、「物質の温度を、調節されたプログラムに従って変化させながら非振動的な荷重を加え、その物質の変形を温度の関数として測定する技法」である。TMA法によれば、高分子材料、セラミックス材料、金属材料、複合材料等を対象とし、圧縮モード、針入モード、引張モードを使い分けることによって、線膨張係数を測定することができる。TMA法によって、熱膨張、熱収縮等の温度依存による力学的解析を行うことができる。室温における線膨張係数とは、上記したTMA法により、例えば−20℃から250℃の温度範囲で、温度変化に伴う試料の変位量から変位量−温度曲線を求め、室温(300K)における接線の傾きから求めた線膨張係数を意味する。
第2中間層18の線膨張係数α2に対してα1<α2の関係を満足する線膨張係数α1を有する第1中間層17としては、金属酸化物膜、金属フッ化物膜、金属窒化物膜、金属酸窒化物膜等が挙げられる。これらは複合化合物を形成していてもよい。例えば、第1中間層17として、厚さが100nmの酸化バナジウム膜(α1:21×10−6/K)、酸化亜鉛膜(α1:5.5×10−6/K)、フッ化リチウム膜(α1:37×10−6/K)、および酸窒化ケイ素(SiON)膜(α1:3.5×10−6/K)を個々に形成し、それらの上に第2中間層18として厚さが10μmの熱硬化性エポキシ樹脂の硬化物層(α2:60×10−6/K)をそれぞれ形成した試料においては、いずれもエポキシ樹脂の硬化時に第2電極層14の剥離が生じることはなかった。
さらに、第1中間層17としての無機化合物膜は、4×10−6/K以上の線膨張係数α1(4×10−6/K≦α1)を有することが好ましい。第1中間層17の線膨張係数α1が4×10−6/K未満であると、第2中間層18との線膨張係数差が大きくなることから、耐熱試験時において膜にクラックや破壊等が生じやすくなる。例えば、上述した試料の耐熱試験(条件:85℃)を実施したところ、第1中間層17として酸化バナジウム膜、酸化亜鉛膜、およびフッ化リチウム膜を用いた試料では、いずれも1000時間後においても膜にクラック等は生じておらず、また1000時間後の効率低下は初期効率の10%以下であった。これらの結果から耐熱性に優れることが確認された。一方、酸窒化ケイ素膜を用いた試料では、100時間で膜にクラックが生じた。
このような点から、第1中間層17は金属酸化物および金属フッ化物から選ばれる少なくとも1つを含むことが好ましい。さらに、第1中間層17の光電変換層13や電極層12、14との密着性を考慮すると、第1中間層17はカルシウム、バリウム、マグネシウム、リチウム、イットリウム、バナジウム、ニオブ、チタン、ジルコニウム、ニッケル、亜鉛、アルミニウム、およびケイ素から選ばれる少なくとも1つの酸化物、あるいはカルシウム、バリウム、マグネシウム、およびリチウムから選ばれる少なくとも1つのフッ化物を含むことがより好ましい。これら金属酸化物や金属フッ化物は、蒸着等による形成性にも優れることから、第1中間層17の構成材料として好ましい。第1中間層17は、金属酸化物と金属フッ化物との複合物を含んでいてもよい。また、例えば一酸化ケイ素(SiO)のように、実際にはケイ素と二酸化ケイ素(SiO2)が混在した状態である金属酸化物でもよい。さらに、化学式で表現すると、SiOxやV2Oxのように化学量論比からずれ、酸素欠損状態であるような金属酸化物も、真空蒸着法では容易に成膜される。このような酸素欠損状態にある金属酸化物でも、線膨張係数が所定の範囲にあれば、同様の効果が得られる。
第1中間層17の厚さは、10nm以上500nm以下であることが好ましく、30nm以上200nm以下であることがより好ましい。第1中間層17の厚さが薄すぎると、第2電極層14や光電変換層13に対する密着強度が低下し、第2中間層18の硬化時に、第2電極層14と光電変換層13との界面剥離を抑制する効果が発現できないおそれがある。さらに、ピンホールや膜欠陥が生じる可能性が高くなり、これらの欠陥から第2中間層18の樹脂塗布液が侵入し、光電変換層13の構成材料が樹脂塗布膜中に溶出するおそれがある。第1中間層17の厚さが厚すぎると、例えば耐熱試験時に第1中間層17にクラックや割れ等が生じやすくなる。
第2中間層18の形成材料として有機化合物には、熱硬化性樹脂、紫外線等により硬化する光硬化性樹脂、熱および光により硬化する熱および光硬化性樹脂等が用いられる。第2中間層18は、これら熱や光で硬化する樹脂(有機化合物)の硬化物を含んでいる。ここで、光電変換層13の室温における線膨張係数をαL、第2中間層18の室温における線膨張係数をα2としたとき、第2中間層18の線膨張係数α2は光電変換層13の線膨張係数αLに対してαL≦α2の関係を満足している。第2中間層18の線膨張係数α2が光電変換層13の線膨張係数αLより小さいと、第2中間層18の形成時や耐熱試験時に第1中間層17にクラックや割れ等が生じやすくなる。さらに、第2中間層18の線膨張係数α2は30×10−6/Kを超えることが好ましい。
前述した第1中間層17として酸化バナジウム膜を用いた試料において、第2中間層18として厚さが10μmのエポキシ樹脂の硬化物層(α2:60×10−6/K)、紫外線硬化樹脂の硬化物層(α2:50×10−6/K)、アクリル樹脂の硬化物層(α2:70×10−6/K)、およびフェノール樹脂の硬化物層(α2:30×10−6/K)をそれぞれ形成した試料の耐熱試験(条件:85℃)を実施したところ、第2中間層18の線膨張係数α2が光電変換層13の線膨張係数αL(50×10−6/K)以上である試料では、いずれも1000時間後においても第1中間層17にクラック等は生じておらず、また1000時間後の効率低下は初期効率の10%以下であった。一方、線膨張係数α2が光電変換層13の線膨張係数αLより小さいフェノール樹脂を用いた試料では、耐熱試験時に第1中間層17にクラックが生じ、また変換効率の低下も大きかった。
第2中間層18の厚さは、1μm以上50μm以下であることが好ましく、2μm以上20μm以下であることがより好ましい。第2中間層18の厚さが薄すぎると、光電変換層13の保護層としての機能を十分に得ることができないおそれがある。第2中間層18の厚さが厚すぎると、第2中間層18の硬化時に収縮による応力が大きくなり、第2中間層18そのものにクラックが生じるおそれがある。また、第1中間層17や支持基板11から剥離するおそれがあり、いずれも保護層としての機能を十分に果たすことができなくなくなる。
なお、光電変換層13の線膨張係数αLは、有機活性層131の厚さに比べて電子輸送層132や正孔輸送層133の厚さが小さいため、有機活性層131の線膨張係数で近似することができる。ここで言う光電変換層13の線膨張係数αLは、基本的には有機活性層131の線膨張係数を指すものとする。また、光電変換層13と第2中間層18との間には、光電変換層13や第2中間層18のそれより小さい線膨張係数α1を有する第1中間層17が介在されているものの、第1中間層17の厚さは第2中間層18に比べて小さい。このため、第2中間層18の線膨張係数α2に関しては、光電変換層13の線膨張係数αLとの差がより大きく影響するものと考えられる。
上述したように、線膨張係数α1を有する第1中間層17と、第1中間層17の線膨張係数α1より大きく、かつ光電変換層13の線膨張係数αL以上の線膨張係数α2(α1<α2およびαL≦α2)を有する第2中間層18とを、光電変換層13および第2電極層14を覆うように設けることによって、第2中間層18の形成時における光電変換層13と第2電極層14との界面剥離を抑制することができる。さらに、4×10−6/K以上の線膨張係数α1を有する第1中間層17や30×10−6/Kを超える線膨張係数α2を有する第2中間層18を用いることによって、耐熱試験時における第1中間層17のクラックや割れ等を抑制することができる。これらによって、製造性に優れ、さらに耐久性や信頼性に優れる有機薄膜太陽電池1を提供することが可能となる。
実施形態の有機薄膜太陽電池1の製造工程について、図3および図4を参照して説明する。図3(a)に示すように、支持基板11に第1電極層12を形成する。第1電極層12の電極取出し端部に電極端子16を形成する。図3(b)に示すように、第1電極層12上に光電変換層13を塗布法等により形成する。図3(c)に示すように、光電変換層13上に電極取出し端部を有するように第2電極層14を形成する。図3(d)に示すように、光電変換層13および第2電極層14を覆うように、無機化合物を含む第1中間層17を形成する。次いで、第1中間層17を覆うように樹脂等の有機化合物の塗布液を塗布した後、熱および光の少なくとも一方で有機化合物を硬化させることによって、図3(e)に示すように有機化合物の硬化物を含む第2中間層18を形成する。このようにして、電池構造体10を作製する。電池構造体10の作製工程は、光電変換層13の水分等による劣化を抑制するために、窒素雰囲気のような不活性雰囲気中で実施する。
次に、図4に示すように、電池構造体10上に接着剤層21を介して封止基板20を貼り合わせる。封止基板20は、支持基板11上の太陽電池素子(第1電極層12、光電変換層13、および第2電極層14を有する素子部)の形成面上に接着される。これによって、電池構造体10中の光電変換層13は水分等から保護され、その特性を長期間にわたって発揮させることが可能になる。電池構造体10は保護層15で覆われているため、封止基板20の貼り合せ工程は大気中で実施することができる。封止基板20の構成材料には、支持基板1と同様な無機材料や有機材料を用いることができる。封止基板20は、ステンレス鋼(SUS)やシリコン等からなる金属基板であってもよいし、また樹脂フィルムにアルミニウム等の金属膜を蒸着した複合基板であってもよい。
なお、上述した実施形態では有機薄膜太陽電池について詳述したが、実施形態の太陽電池は有機薄膜太陽電池に限られるものではない。実施形態の太陽電池およびその製造方法は、例えば活性層に有機−無機ハイブリット構造を有するペロブスカイト半導体薄膜を用いたペロブスカイト太陽電池、ペロブスカイト半導体薄膜と有機半導体薄膜とを組み合わせた太陽電池等、活性層の構成材料の少なくとも一部として有機物を含む光電変換層を備える太陽電池に適用することができる。太陽電池の活性層に用いられるペロブスカイト半導体としては、代表的には(CH3NH3)BX3(BはPbやSn等の金属原子、XはI、Br、Cl等のハロゲン元素である)が知られている。このような構成材料の一部として有機物を含む材料を用いた活性層を有する光電変換層を備える太陽電池に、実施形態の構成および製造工程を適用することができる。
また、時計に搭載される太陽電池や室内用機器に搭載される太陽電池のように、高温高湿状態に長時間晒されるおそれがない太陽電池においては、第1および第2中間層のみの保護層で十分な耐久性が得られる場合もある。このような場合には、封止基板を省いてもよい。封止基板を有しない有機薄膜太陽電池(電池構造体10のみを有する有機薄膜太陽電池)では、外気からの水分の侵入を第2中間層で阻止するために、第2中間層として吸湿性材料を含む樹脂材料、すなわち防湿効果を高めた樹脂材料を用いてもよい。これらの樹脂材料としては、前述した樹脂の他、エチレン・酢酸ビニル共重合樹脂(EVA)(α2:160〜200×10−6/K)、シリコーン系樹脂(α2:50〜250×10−6/K)、オレフィン系樹脂(α2:50〜150×10−6/K)、フッ素系樹脂(α2:45〜140×10−6/K)、ニトリルブタジエンゴム(NBR)(α2:200〜230×10−6/K)等が挙げられる。
次に、実施例およびその評価結果について述べる。
(実施例1)
実施例1においては、図1に示した構造を有する有機薄膜太陽電池を作製した。まず、厚さが0.7mmの無アルカリガラス基板上に、スパッタ法により第1電極層として膜厚が150nmのITO膜を形成した。ITO膜の電極取出し端部にMo膜とAl膜を連続成膜し、この積層膜をパターニングしてAl/Mo電極端子を形成した。ガラス基板のITO膜の形成面に、酸化亜鉛を溶解した溶液を塗布、乾燥することによって、電子輸送層として膜厚が10nmの酸化亜鉛膜を形成した。
次に、電子輸送層上にp型半導体材料とn型半導体材料との混合溶液を塗布し、これを乾燥させることによって、有機活性層として膜厚が100nmのバルクヘテロ接合層を形成した。有機活性層上に正孔輸送層として膜厚が10nmの酸化タングステン膜をマスク蒸着法により形成し、続いて第2電極層として膜厚が200nmのAg膜をマスク蒸着法により形成した。有機活性層やAg膜を覆うように、第1中間層として膜厚が100nmの酸化バナジウム膜をマスク蒸着法により形成した。酸化バナジウム膜を覆うように、熱硬化性エポキシ樹脂を含む塗布液を塗布し、この塗布膜を80℃×1時間の条件で乾燥させることによって、第2中間層として膜厚が10μmのエポキシ樹脂の硬化物層を形成した。
上述した工程により得た電極構造体上に、封止基板としてAlの蒸着膜を有するPETフィルム(厚さ:0.2mm)を貼り合せた。Al膜付きPETフィルムは、接着剤としてシリコーン樹脂を使用し、シリコーン樹脂を80℃×1時間の条件で硬化させることによって、電極構造体上に貼り付けた。このようにして、実施例1の有機薄膜太陽電池を作製した。実施例1の有機薄膜太陽電池において、有機活性層の線膨張係数αLは50×10−6/K、第1中間層としての酸化バナジウム膜の線膨張係数α1は21×10−6/K、第2中間層としてのエポキシ樹脂の硬化物層の線膨張係数α2は60×10−6/Kであり、α1<α2およびαL≦α2の関係を満たしている。
実施例1の有機薄膜太陽電池の製造工程において、光電変換層とAg膜との界面を確認したところ、第2中間層の形成工程後においても剥離は生じていなかった。実施例1の有機薄膜太陽電池の耐熱試験を85℃×1000時間の条件で実施したところ、光電変換層とAg膜との界面からの剥離や酸化バナジウム膜のクラック等は認められず、また初期値に対する耐熱試験後の変換効率の低下も10%以下と低いものであった。これらの結果から、耐久性に優れる有機薄膜太陽電池を提供できることが確認された。
実施例1においては、モジュール幅が50mmのガラス基板上に太陽電池素子を形成した。このような太陽電池素子において、図1の断面構造を参照すると、第1電極層が第2中間層の封止領域外に延長された側において、第2中間層による封止領域内のITO膜の露出幅が0.1mm、光電変換層の露出幅が0.1mmであり、これらを合わせた0.2mmの幅が封止幅に相当する。同様に、反対側の第2電極層側においては、ITO膜と光電変換層の積層膜から延長されたAg膜の0.2mmの幅が封止幅に相当する。これら両方の封止幅を合わせると、第2中間層による封止幅は0.4mmとなる。さらに、両端の第2中間層の封止領域外にあるITO膜とAl/Mo電極端子の幅(1.0mm)とAg電極端子の幅(1.0mm)を合わせた2.4mm幅が発電に使えない領域である。よって、両端の非発電領域を除いた有効発電領域は47.6mmであった。実施例1の封止構造を用いることによって、端部の封止幅を小さくすることができるため、有効発電領域を広げることが可能になる。従来例に比べて端面に額縁状に形成したシール材がないため、十分な可撓性を有する有機薄膜太陽電池を実現することができる。
(実施例2)
実施例2においては、図1に示した構造を有する有機薄膜太陽電池を作製した。まず、厚さが0.2mmのポリカーボネート(PC)フィルム上に、スパッタ法により第1電極層として膜厚が150nmのITO膜を形成した。ITO膜の電極取出し端部にMo膜とAl膜を連続成膜し、この積層膜をパターニングしてAl/Mo電極端子を形成した。PCフィルムのITO膜の形成面に、ゾルゲル法により酸化チタン(TiOx)を成膜した後、130℃で焼成することによって、電子輸送層として膜厚が6nmの酸化チタン膜を形成した。
次に、電子輸送層上にp型半導体材料とn型半導体材料との混合溶液を塗布し、これを乾燥させることによって、有機活性層として膜厚が100nmのバルクヘテロ接合層を形成した。有機活性層上に正孔輸送層として膜厚が10nmのPEDOT:PSS膜を塗布法により形成し、続いて第2電極層として膜厚が200nmのAg膜をマスク蒸着法により形成した。有機活性層やAg膜を覆うように、第1中間層として膜厚が100nmのフッ化リチウム膜をマスク蒸着法により形成した。フッ化リチウム膜を覆うように、紫外線硬化樹脂を含む塗布液を塗布し、この塗布膜に紫外線を照射することによって、第2中間層として膜厚が3μmの紫外線硬化樹脂の硬化物層を形成した。
上述した工程により得た電極構造体上に、封止基板としてAlの蒸着膜を有するPETフィルム(厚さ:0.2mm)を貼り合せた。Al膜付きPETフィルムは、接着剤として熱硬化性のエポキシ樹脂を使用し、エポキシ樹脂を80℃×1時間の条件で硬化させることによって、電極構造体上に貼り付けた。このようにして、実施例2の有機薄膜太陽電池を作製した。実施例2の有機薄膜太陽電池において、有機活性層の線膨張係数αLは50×10−6/K、第1中間層としてのフッ化リチウム膜の線膨張係数α1は37×10−6/K、第2中間層としての紫外線硬化樹脂の硬化物層の線膨張係数α2は50×10−6/Kであり、α1<α2およびαL≦α2の関係を満たしている。
実施例2の有機薄膜太陽電池の製造工程において、光電変換層とAg膜との界面を確認したところ、第2中間層の形成工程後においても剥離は生じていなかった。実施例2の有機薄膜太陽電池の耐熱試験を85℃×1000時間の条件で実施したところ、光電変換層とAg膜との界面からの剥離やフッ化リチウム膜のクラック等は認められず、また初期値に対する耐熱試験後の変換効率の低下も10%以下と低いものであった。これらの結果から、耐久性に優れる有機薄膜太陽電池を提供できることが確認された。
(実施例3)
実施例3においては、図5に示す構造を有する有機薄膜太陽電池1Sを作製した。図5に示す有機薄膜太陽電池1Sは、直列接続された2組の太陽電池素子部を有している。支持基板11上には、分離された2つの第1電極層12A、12Bが形成されている。これら第1電極層12A、12B上には、それぞれ光電変換層13A、13Bが形成されている。これら光電変換層13A、13B上には、それぞれ第2電極層14A、14Bが形成されている。第1の太陽電池素子部の第2電極層14Aは、第2の太陽電池素子部の第1電極層12Bと電気的に接続されている。これら2組の太陽電池素子部を一括して覆うように、第1中間層17と第2中間層18とが設けられている。これら以外の構成については、図1に示した有機薄膜太陽電池1と同様である。
まず、厚さが0.2mmのポリカーボネート(PC)フィルム上に、スパッタ法により第1電極層としてパターンニングされた2つのITO膜(膜厚:150nm)を形成した。第1のITO膜の電極取出し端部にAl/Mo電極端子を形成した。2つのITO膜上にゾルゲル法により酸化チタン(TiOx)を成膜した後、130℃で焼成することによって、電子輸送層として膜厚が6nmの酸化チタン膜をそれぞれ形成した。電子輸送層上にp型半導体材料とn型半導体材料との混合溶液を塗布し、これらを乾燥させることによって、それぞれ有機活性層として膜厚が100nmのバルクヘテロ接合層を形成した。
次に、2つの有機活性層上に正孔輸送層として膜厚が10nmの酸化バナジウム膜をマスク蒸着法によりそれぞれ形成し、続いて第2電極層として膜厚が200nmのAg膜をマスク蒸着法によりそれぞれ形成した。第1のAg膜は第2のITO膜の一部と重なるように形成し、第2のAg膜は電極取出し端部を有するように形成した。2つの有機活性層およびAg膜を全体的に覆うように、第1中間層として膜厚が100nmの酸化カルシウム膜をマスク蒸着法により形成した。酸化カルシウム膜を覆うように、紫外線硬化樹脂を含む塗布液を塗布し、この塗布膜に紫外線を照射することによって、第2中間層として膜厚が5μmの紫外線硬化樹脂の硬化物層を形成した。
上述した工程により得た電極構造体上に、封止基板としてAlの蒸着膜を有するPETフィルム(厚さ:0.2mm)を貼り合せた。Al膜付きPETフィルムは、接着剤として熱硬化性のエポキシ樹脂を使用し、エポキシ樹脂を80℃×1時間の条件で硬化させることによって、電極構造体上に貼り付けた。このようにして、実施例3の有機薄膜太陽電池を作製した。実施例3の有機薄膜太陽電池において、有機活性層の線膨張係数αLは50×10−6/K、第1中間層としての酸化カルシウム膜の線膨張係数α1は11.6×10−6/K、第2中間層としての紫外線硬化樹脂の硬化物層の線膨張係数α2は50×10−6/Kであり、α1<α2およびαL≦α2の関係を満たしている。
実施例3の有機薄膜太陽電池の製造工程において、光電変換層とAg膜との界面を確認したところ、第2中間層の形成工程後においても剥離は生じていなかった。実施例3の有機薄膜太陽電池の耐熱試験を85℃×1000時間の条件で実施したところ、光電変換層とAg膜との界面からの剥離や酸化バナジウム膜のクラック等は認められず、また初期値に対する耐熱試験後の変換効率の低下も10%以下と低いものであった。これらの結果から、耐久性に優れる有機薄膜太陽電池を提供できることが確認された。
実施例3においては、モジュール幅が50mmのガラス基板上に太陽電池素子を形成した。このような太陽電池素子において、第2中間層による封止領域内のITO膜と光電変換層の露出領域が非発電領域である。さらに、両端の封止領域外にある電極端子幅も非発電領域となる。実施例3の封止構造を用いることによって、非発電領域を除いた有効発電領域を広げることが可能になる。
なお、本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施し得るものであり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると共に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。