本発明の実施形態の一例を以下に図面を参照して説明する。
図1は、本実施形態による継手の断面図である。図1を参照すると、継手10は、それぞれ円筒状をなしている継手本体11、ナット12、およびフェルール13と、Oリング(ゴム弾性体)14とを有している。継手は流体を通す管と管とを接続する等の目的で、管と接続して使用される。
継手本体11とナット12はネジ結合され、締め込んだり、緩めたりすることができる。継手本体11、ナット12、およびフェルール13には、管20を受け入れる貫通孔がある。継手10は、継手本体11の内周面11aと、ナット12の内周面12aと、管20の外周面20aで形成される収納空間にフェルール13およびOリング14を収容するように、ナット12、フェルール13、Oリング14、継手本体11の順番に管20を受け入れ、継手本体11とナット12のネジ結合を締め込むと、管20に接続される。
フェルール13は、前方端部(第1端部)13aから後方端部(第2端部)13bまでの間に、押圧部13c、立ち上がり部13d、湾曲部13e、中間部13f、および被押圧部13gを有している。フェルール13の厚みは、前方端部13aから後方端部13bまで略一定である。ここでは継手本体11側を前方とし、ナット12側を後方としている。湾曲部13eおよび中間部13fは、接続部に相当する。
フェルール13の前方端部13aと後方端部13bの間に前方端部13aおよび後方端部13bよりも内径が大きい領域がある。押圧部13cは、前方端部13aを含み、径方向において、Oリング14の太さとほぼ等しい厚さを有し、押圧部13cの前端の外周はR面取りされている。立ち上がり部13dは、押圧部13cの後端の外周側に接続され、軸方向に沿って延び、内径および外径はほぼ一定である。よって、立ち上がり部13dの内径は、押圧部13cの内径よりも大きく構成される。
湾曲部13eは、立ち上がり部13dの後端に接続され、外側に突出するように湾曲している。これにより、湾曲部13eは、最も内径および外径の大きい部分を含んでいる。また、湾曲部13eは、フェルール13の軸方向における中央付近に位置している。中間部13fは、湾曲部13eの後端に接続され、軸方向に沿って延び、内径および外径はほぼ一定である。中間部13fの内径は、押圧部13cの内径よりも大きく構成される。被押圧部13gは、後方端部13bを含み、中間部13fの後端に接続され、後方に向けて徐々に内径および外径が縮小するように構成されている。被押圧部13gの最内径は、立ち上がり部13dおよび中間部13fの内径よりも小さく構成される。また、被押圧部13gの後端の外周はR面取りされている。
Oリング14は、ゴム弾性体により構成され、フェルール13の前方に配置される。
継手本体11は、Oリング14およびフェルール13の前方端部13aに当接可能なテーパ形状の内周面であるテーパ内周面11bを有する。テーパ内周面11bとフェルール13の立ち上がり部13dおよび中間部13fの外周面とは中心軸を通る平面上で所定の角度αをなしている。テーパ内周面11bは、後方に向かうにつれて、内径が増加するように構成されている。なお、角度αは、フェルール13の厚さ、立ち上がり部13dの長さ、継手本体11の形状など様々なパラメータの設定値に応じて適切な値に設定すればよい。また、テーパ内周面11bの径方向における幅Wは、Oリング14の太さおよび押圧部13cの厚さよりも大きく構成されている。
ナット12は、継手本体11に対しネジ結合する結合部12Bと、結合部12Bの内周面12aよりも内方に突出する突出部(被嵌合部)12Cとを有する。突出部12Cは、フェルール13の被押圧部13gの少なくとも一部を押圧する押圧部12Dを有し、押圧部12Dには、切欠き12eが形成されている。切欠き12eは、押圧部12Dの内周面に一周連続して形成されている。切欠き12e内に、フェルール13の被押圧部13gが嵌合されることにより、ナット12とフェルール13とが一体化する。なお、被押圧部13gは、弾性変形しながら切欠き12eに圧入され、嵌合される。詳細には、嵌合部13fが、切欠きに12eに圧入されて、被押圧部13gの外周面が切欠き12eの内面に当接することにより、被押圧部13gは突出部(被嵌合部)12Cに嵌合される。
継手本体11とナット12がフィンガータイトの状態では、収納空間には、フェルール13およびOリング14を収納して、更に、湾曲部13eを中心に、立ち上がり部13dおよび中間部13eを管20の外周面20aとのなす角を増大させるように(立ち上がり部13dは角度αを縮小、中間部13fは角度αを増大させるように)立ち上げることができるだけの許容空間15がある。フィンガータイトの状態は、継手本体11とOリング14、Oリング14とフェルール13、フェルール13とナット12がそれぞれ当接しているがフェルール13の変形は生じない程度まで継手本体11とフェルール13のネジ結合を締め込んだ状態である。
ナット12、フェルール13、Oリング14および継手本体11の中心軸を一致させ、ナット12、フェルール13、Oリング14、継手本体11の順番に管20を受け入れ、フィンガータイトの状態から、継手本体11とナット12のネジ結合を所定の締め付けトルクで所定の締め付け量だけ締め込むと、図2に示すように、押圧部13cがOリング14を押しながらテーパ内周面11bと管20の外周面20aとの間に入り込んで、Oリング14は、押圧部13c、テーパ内周面11b、外周面20aによりつぶされてシールをなし、フェルール13の前方端部13aが管20に食い込んでシールをなし、継手10が管20と接続される。
以下、継手10を管20に組み付けるときの各部の動作および作用について更に説明する。図3は、継手を管に組み付けるときの各部の動作および作用について説明するための図である。
図3に示すように、継手本体11とナット12のネジ結合を締め込むと、軸方向に発生する力F1によってナット12の押圧部12Dがフェルール13の被押圧部13gを前方に押す。被押圧部13gを押されたフェルール13は、それに伴ってOリング14を介して前方の継手本体11を前方に押す。そして、その反作用として、フェルール13は、継手本体11により後方に押される。
前方端部13aを後方に押され、被押圧部13gを前方に押されたフェルール13は、力F1から派生した力F2により、湾曲部13eが外側に突出しているので、立ち上がり部13dおよび中間部13fの内径および外径が増大し、前方端部13aと後方端部13bが接近するように変形する。すなわち、フェルール13は、湾曲部13eを中心として曲がる。このときに、立ち上がり部13dは、その外周面の角度が継手本体11のテーパ内周面11bの角度と一致するまで、管20の外周とのなす角を増大させるように立ち上がる。
立ち上がり部13dが立ち上がることで、前方端部13aでは、継手本体11のテーパ内周面11bに当接する外周部がテーパ内周面11bによって制限され、管20に当接する内周部が管に食い込むように駆動される。つまり、フェルール13の前方端部13aでは、外周部が支点となり、内周部が作用点となって、テコの原理により強い力でフェルール13が管20に向けて食い込み駆動される。
一方、被押圧部13g(後方端部13b)は、管20に食い込むことなく、管20の外周面20a上を移動する。また、中間部13fの立ち上がりに伴い、被押圧部13gと押圧部12Dとの嵌合状態が解消される。また、湾曲部13eは塑性変形するため、被押圧部13gと押圧部12Dとの嵌合状態の解消が維持され、継手10を管20に組み付けた後、ナット12を取り外したとしても、フェルール13も一緒に外れることはなく、フェルール13の食い込み状態を確認することができる。
また、変形したフェルール13には、元の形状に戻ろうとする弾性力がある程度は残るので、フェルール13と継手本体11とが押し合い、またフェルール13とナット12とが押し合う状態となる。その結果、振動などによる継手10が管20から緩んでしまうのを抑制することができる。また、フェルール13の弾性変形は、フィンガータイトの状態まで戻したときには、弾性力が無くなるので、継手10を取り外すときに弾性力でナット12やフェルール13が飛び出してくることが無い。
続いて、本実施形態においてフェルール13が管20に向けて食い込み駆動される原理について説明する。図4、5は、フェルールが管に向けて食い込み駆動される原理について説明するための図である。なお、Oリング14の有無によってフェルールの食い込み駆動はほとんど変わらないので、図4、5においては、図の簡略化のためOリング14の図示を省略している。
本実施形態のフェルール13は、中心軸を通る断面で見ると、図4に示すように、立ち上がり部13dを模した部材13d´と、中間部13fを模した部材13f´との長手方向の一端同士を湾曲部13eを模した接続点13e´で接続し、更に部材13d´と部材13f´と中間点において弾性体13h´で接続した構造体と考えることができる。この構造体は、外力が加わっていない状態では、弾性体13h´の弾性力によって部材13d´と部材13f´とが所定の角度を保っている。
部材13d´の先端13a´の左側への進行を継手本体11によって制限し、部材13f´に図中の左方向に力F1を加えると、弾性体13h´を縮め、接続点13e´を上に押し上げる力F2が派生する。その結果、部材13d´の先端13a´では反時計回りの回転運動が発生する。
図5に示す先端13a´近傍の拡大図を参照すると、部材13d´全体が管20および継手本体11に押し付けられた状態で、部材13d´の先端13a´では回転運動が発生し、支点13i´を中心として作用点13j´が回転し、作用点13j´が管20に食い込むように駆動される。
図6は、フェルールの前方端部が管の外周に向けて食い込み駆動されたときの管に対するフェルールの前方端部の相対的な位置の変化を測定したグラフである。図6において、実線で示されている複数のグラフは、フェルール13の前方端部13aが管20の外周に向けて食い込み駆動されたときの前方端部13aの位置の変化をパラメータを変更して複数測定したものである。図6において破線で示されているのは、ダブルフェルールタイプ継手における継手本体側に位置するフロントフェルールの前方端部の位置の変化を示す比較例である。
図6において、横軸が軸方向の相対位置を示し、縦軸が深さ方向の相対変位を示している。横軸および縦軸においてフィンガータイトの状態における相対位置を原点としている。軸方向においては、前方に進むほど負の値が大きくなる。縦軸においては、食い込みが進むほど負の値が大きくなる。
図6を見ると分かるように、フィンガータイトの状態から所定のトルクでネジ結合の締め込みを進めると、最初の段階は、フェルール13の前方端部13aは管20に対して主に軸方向に進行する。しかし、ある所まで来ると、フェルール13の前方端部13aの内周が管20の外周に食いつき、立ち上がり部13dが立ち上がって起こるテコの原理により、前方端部13aが主に食い込み方向に進む段階に移行する。この移行点が図中のグリップポイントである。前方端部13aが主に食い込み方向に進む段階では、軸方向で見ると、前方端部13aは逆に後退している。立ち上がり部13dの立ち上がりが終了すると、前方端部13aは再び主に前方に進行する段階に移行する。このように、立ち上がり部13dが立ち上がるとき、前方端部13aの外周を支点とし、前方端部13aの内周を作用点としてテコの原理が働き、ネジ結合が締め込まれる間の少なくとも一部の段階において、前方端部13aの内周が、ナット12がフェルール13を軸方向に押す力とは軸方向の逆向きに戻りながら、管20の外周に向けて食い込む現象が起こる。
このようにフェルール13の前方端部13aが食い込み駆動されることにより、強い力でフェルール13が管20に食い込み、シール性が発揮される。また、フェルール13の前方端部13aが一旦逆方向に戻りながら食い込み駆動されることにより、フェルール13と管20の間が良好にシールされ、高いシール性が発揮される。図6から分かるように、実線で示されたシングルフェルールタイプ継手(本実施形態)が、破線で示されたダブルフェルールタイプ継手とを比べて同程度の深さまでフェルール13の前方端部13aが管20に食い込んでいる。
以上のように、本実施形態では、継手本体11とナット12のネジ結合を所定の締め付けトルクで所定の締め付け量だけ締め込むと、図2に示すように、押圧部13cがOリング14を押しながらテーパ内周面11bと管20の外周面20aとの間に入り込んで、Oリング14を、押圧部13c、テーパ内周面11b、外周面20aによりつぶし、かつフェルール13の立ち上がり部13cが立ち上がり、前方端部13aの外周を支点として前方端部13aの内周が作用点となって回転し、管20の外周に向けて食い込み駆動される。
このように、フェルール13によりOリング14を押圧してつぶしながら、フェルール13を管20に食い込ませて、Oリング14およびフェルール13が管20の外周を締め付けるように構成される。そして、外周部が支点となり、内周部が作用点となって、テコの原理を利用してフェルール13を管20に対し食い込ませるので、小さい締め付けトルクであっても、強い力でフェルール13を管20に食い込ませることができると共に、Oリング14をつぶして、Oリング14により管20を締め付けることができる。その結果、管20が大口径になり、流体の圧力による管20の軸方向に生じる力が大きくなったとしても、Oリング14およびフェルール13の締め付けにより、大きな軸力に耐えることが可能な継手10を提供することができる。
また、Oリング14およびフェルール13により、管20と継手10との間を良好にシールすることができ、高いシール性を得ることができる。
また、フェルール13の押圧部13cは、Oリング14を押しながらテーパ内周面11bと管20の外周面20aとの間に入り込んで、フェルール13およびOリング14が管20を締め付けるように構成されているので、管20の外径寸法にバラつきがあっても、フェルール13、テーパ内周面11b、管20の外周面20aにより形成される空間の形状は変わらないため、Oリング14のつぶし代のバラつきを防止することができる。よって、管20の外径のバラつきによる液漏れの可能性を減少させることができる。
また、フェルール13は、外側に突出するように湾曲する湾曲部13eを有するため、ナット12がフェルール13の被押圧部13gを押圧すると、フェルール13は湾曲部13eを中心に曲がり、立ち上がり部13dは立ち上がり、前方端部13aに回転運動を発生させることができる。
また、押圧部13cの径方向の厚さは、Oリング14の太さとほぼ等しい厚さを有しているので、押圧部13cはOリング14をテーパ内周面11bと管20の外周面20aとの間に確実に押し込んでつぶすことができる。
また、フェルール13の押圧部13cの外周がR面取りされているので、立ち上がり部13dが立ち上がるとき、継手本体11に押しつけられ押圧部13cの外周が継手本体11のテーパ内周面11b上を滑り、押圧部13cの内周の管20の上でずれにくく、良好に食い込み駆動することが可能である。
また、立ち上がり部13dの長さは、フェルール13の前方端部13a(押圧部13c)の厚さよりも大きく構成されている。これにより、立ち上がり部13cが立ち上がることで、前方端部13aの外周を支点とし、内周を作用点とするテコの原理において、作用点である前方端部13aの内周に強い力を発生させることができ、フェルール13を管20に対し強い力で食い込ませることができる。
また、継手本体11とナット12のネジ結合を締めこむと、フェルール13の被押圧部13gは、管20の外周面20aに沿って移動して、前方端部13aに接近するので、被押圧部13gが管20に食い込むことない。よって、立ち上がり部13dをスムーズに立ち上げることができ、前方端部13aを管20の外周に向けて良好に食い込み駆動させることができるので、作用点となる前方端部13aの内周で強い食い込み力が発生し、良好なシール機構が実現される。
上述した本発明の実施形態は、本発明の説明のための例示であり、本発明の範囲をそれらの実施形態にのみ限定する趣旨ではない。当業者は、本発明の要旨を逸脱することなしに、他の様々な態様で本発明を実施することができる。
図7は、本実施形態による継手のフェルールの変形例について説明するための図である。
図7に示すように、本変形例による継手110のフェルール113は、フェルール13の湾曲部13eを有しておらず、立ち上がり部113dと中間部113fとが、フェルール13の中央に向かうにつれて徐々に内径および外径が増大し、外側に凸状をなすように構成されている。
かかる構成によれば、継手本体11とナット12とを締め付けると、フェルール113は、立ち上がり部113dと中間部113fとの接続部分を中心に曲がり、立ち上がり部13dが立ち上がるので、前方端部13aに回転運動を発生させることができる。また、本変形例においても、上記の実施形態と同様の効果を奏することができる。
図8は、他の変形例による継手について説明するための図である。
図8に示すように、本変形例による継手210のフェルール213は、立ち上がり部213dと中間部213fとが軸方向に沿って延びており、立ち上がり部213dと中間部213fとの接続部分であって、内周面に切欠き213eが形成されている。
かかる構成によれば、継手本体11とナット12とを締め付けると、フェルール213は、切欠き213eを中心に曲がり、立ち上がり部13dは立ち上がり、前方端部13aに回転運動を発生させることができる。また、本変形例においても、上記の実施形態と同様の効果を奏することができる。
また、上記の実施形態では、フェルール13とナット12は一体化されていたが、一体化されていなくても良い。
また、上記の実施形態では、継手本体11の内周面と、ナット12の内周面と、管20の外周面で構成される収納空間の天井面は、フェルール13の立ち上がり部13cが角度αだけ立ち上がった状態で、外径が増大した中間部13eと当接するものであってもよい。これは、フィンガータイトの状態においてフェルール13の湾曲部13eにある頂部と収納空間の天井面との間隔が所定距離となるように予め設計しておくことで実現することができる。これによれば、立ち上がり部13dが適切な角度αだけ立ち上がり、フェルール13と管20との良好ナシールが得られる状態となると、フェルール13の頂部が収納空間の天井面に当接し、フェルール13が補強されるので、良好なシール性を維持することができる。なお、収納空間の天井面は、継手本体11とナット12のいずれによって構成されていても良い。また、本発明においては、フェルール13の頂部が収納空間の天井面に当接することは必須ではなく、フェルール13の頂部が収納空間の天井面に当接しなくても良い。
また、図1の実施形態においては、ナット12がフェルール13の被押圧部13gを軸方向に押し、継手本体11とフェルール13の前方端部13aおよびOリング14とが当接し、フェルール13の立ち上がり部13dが継手本体11のテーパ内周面11bに向けて立ち上がる例を示したが、本発明がこの例に限定されることは無い。他の例として、フェルール13の立ち上がり部13dと被押圧部13gが逆に配設されていても良い。Oリング14は、立ち上がり部13dの後側(ナット12側)に配設される。その場合、ナット12には、フェルール13の前方端部13と当接する、図1では継手本体11にあるテーパ内周面11bと同様のテーパ内周面がある。ナット12がそのテーパ内周面によってOリング14を軸方向に押すと、フェルール13の被押圧部13gに当接する継手本体11が相対的に被押圧部13gを押し返す。それによって、フェルール13が変形し、ナット12に当接している前方端部13aに回転運動が起こり、前方端部13aの外周が支点となり、内周が作用点となってテコの原理によって内周が管20の外周に向けて食い込み駆動される。さらに、Oリング14がナット12のテーパ内周面、フェルール13の押圧部13c、および管20によりつぶされる。また、この場合、継手本体11にフェルール13の被押圧部13gが圧入され、継手本体11とフェルール13とが一体化される。