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JP2013216991A - 印字方法および印字装置 - Google Patents

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JP2013216991A JP2012087238A JP2012087238A JP2013216991A JP 2013216991 A JP2013216991 A JP 2013216991A JP 2012087238 A JP2012087238 A JP 2012087238A JP 2012087238 A JP2012087238 A JP 2012087238A JP 2013216991 A JP2013216991 A JP 2013216991A
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Abstract

【課題】繊維密度が異なる領域を含む被印字物に対して内部まで均一に印字することができる印字方法を提供する。
【解決手段】インク供給装置3および4が、インクAおよびBを2回のインク打滴工程に分けて打滴し、凝集剤供給装置5および6が、インクAおよびBの粘度をそれぞれ上昇させるための凝集剤CおよびDを2回の凝集剤供給工程に分けて、それぞれ対応するインク打滴工程の前に供給し、制御部9がインク供給装置3および4、凝集剤供給装置5および6を制御して、それぞれ打滴されたインクAおよびBが被印字物の着弾位置から溢れずに被印字物内に浸透すると共に浸透したインクAおよびBが被印字物内を所定の距離だけ浸透したところで移動が抑制されるように、凝集剤CおよびDが供給される。
【選択図】図1

Description

この発明は、印字方法および印字装置に係り、特に、繊維密度の異なる領域を含む被印字物にインクジェット方式で印字を行う方法および装置に関する。
インクジェット方式は、簡便な機構で高速に印字できることから広く普及し、紙だけでなく、布、織物、平滑樹脂表面などの様々な被印字物に対する印字が試みられている。近年では、これら被印字物の形態や素材も多様化しており、被印字物を均一に印字することが困難となっている。
例えば、平織りまたは綾織りなどから構成される被印字物では、経糸と緯糸の交差頻度の違いで糸の繊維密度が異なる領域が生じる。また、糸を織る際の糸張力等の違いによっても繊維密度が異なる領域が生じる。このような、繊維密度が異なる領域に打滴されたインクは、式(1)で示すように、繊維間の空隙の大きさ、すなわち繊維密度に応じた浸透速度で被印字物の厚さ方向へ浸透される。
=d・γ・t・cosθ/4η ・・・(1)
なお、Lは浸透距離、dは繊維間の空隙サイズ、γは表面張力、tは時間、θはインクと繊維の間の濡れ性を示す接触角、ηはインクの粘度である。
印字されたインクが、繊維間の空隙に浸透した後は、式(1)で示されるような浸透は止まるが、毛管力差に起因するインクの移動が起こる。すなわち、隣接した領域間で繊維密度あるいはインクとの接触角の違いにより、繊維間の空隙に浸透したインクに対して毛管力が生ずる。なお、毛管力とは、インクに働く力であり、濡れ性が大きくまたは繊維間距離が小さくなると毛管力は大きくなり、濡れ性が小さくまたは繊維間距離が大きくなると毛管力は小さくなるものである。その結果、周囲の繊維密度が高い領域から毛管力が働くことにより、毛管力の高い領域へインクが移動される。繊維が同じ素材の場合、インクとの接触角は同じなので、繊維密度の高い領域にインクは移動することとなる。
このように、被印字物に打滴されたインクは、繊維密度に応じた浸透速度で被印字物を厚さ方向に浸透して繊維間の空隙を満たし、糸の太さ距離あるいは被印字物の裏面まで浸透した後、周囲の領域から働く毛管力に応じて被印字物に沿う方向へ移動していく。このため、被印字物におけるインクの最終的な浸透方向は、繊維密度の違いに起因して被印字物の厚さ方向および被印字物に沿う方向にそれぞれ差が生じ、これが均一な発色の妨げとなっている。
実際に、被印字物の繊維密度の違いによるインクの浸透方向の差は、例えば織物の一部にインク滴を供給したときのインクの浸透速度差として検出することができる。インク滴供給後、インクは繊維の厚さ方向に浸透し始めるが、繊維密度が低くて空隙が多い領域への浸透速度が速いことが観察できる。また、織物をインク液に完全に浸した後に、引き上げ、スクイズ(ローラ等で液量を絞る)させると、スクイズ直後は均一にインクを含有し、色ムラが検出できないが、乾燥を伴う時間経過と共にインクの移動が起こり、繊維密度の高い領域、すなわち毛管力の高い領域のインク濃度が高くなることが観察される。
そこで、繊維密度が異なる領域を含む被印字物に印字する技術として、例えば特許文献1に開示されているように、予め酸性溶液に浸漬させた被印字物にインクを打滴することでインクを凝集させてにじみを抑制することが提案されている。
特開2004−025723号公報
しかしながら、特許文献1に示される方法では、被印字物に着弾したインクを瞬時に凝集させるため、被印字物の表層にインクの被膜が形成され、その後に印字されたインクは被印字物内部に浸透できずに液のまま止まることになる。印字量が少ない場合は被印字物の表面上を均一に印字することはできるが、印字量が多い場合、例えば60g/m以上のインクを印字する場合には、最初に打滴されたインクで被膜が形成され、その後から打滴されたインクは被膜に遮られて周囲に溢れるように流れるため印字にムラが生じてしまう。
また、被印字物の表面にインクの被膜が形成されないように凝集剤の供給量を低下させると、初期に印字されたインクは凝集剤と反応して固定されるものの、後から印字されたインクは凝集反応するための凝集剤の量が足りなくなり、固定化されず印字ムラの原因となる。
この発明は、このような従来の問題点を解消するためになされたもので、繊維密度が異なる領域を含む被印字物に対して内部まで均一に印字することができる印字方法および印字装置を提供することを目的とする。
上記目的を達成するために、本発明に係る印字方法は、繊維密度が異なる領域を含む被印字物にインクジェット法によりインクを打滴して印字を行う印字方法であって、インクジェット法により、被印字物の同一箇所にインクを複数のインク打滴工程に分けて打滴し、インクの粘度を上昇させるための凝集剤を複数の凝集剤供給工程に分けて、それぞれ対応するインク打滴工程の前に供給し、それぞれの凝集剤供給工程で供給される凝集剤は、対応するインク打滴工程において被印字物内に供給されたインクの粘度を所定の範囲に保つ分量とすることにより、それぞれのインク打滴工程で打滴されたインクが被印字物の着弾位置から溢れずに被印字物内に浸透すると共に浸透したインクが被印字物内を所定の距離だけ浸透したところで移動が抑制されるものである。
ここで、インクが被印字物内を浸透する所定の距離は、被印字物を構成する糸の太さ距離に相当するのが好ましい。
また、最後の凝集剤供給工程で供給される凝集剤により、被印字物に供給される全てのインクが固定されるのが好ましい。また、最後のインク打滴工程の後で、被印字物に供給された全てのインクを固定するための凝集剤供給工程をさらに有することができる。
また、全ての凝集剤供給工程により被印字物に供給された凝集剤の供給量の総和は、全てのインク打滴工程により被印字物内に供給されたインクと反応して等電点を超えるように設定されることにより、被印字物内に供給された全てのインクを固定することができる。
また、それぞれのインク打滴工程では30g/m以上のインク量を打滴することができる。
また、凝集剤は、ディップ法により供給することができる。また、凝集剤は、エアースプレー法により供給することもできる。
また、それぞれのインク打滴工程で打滴されるインクはアニオン性に荷電されると共に、それぞれの凝集剤供給工程で供給される凝集剤はカチオン性に荷電することができる。また、それぞれのインク打滴工程で打滴されるインクはカチオン性に荷電されると共に、それぞれの凝集剤供給工程で供給される凝集剤はアニオン性に荷電することもできる。
また、本発明に係る印字装置は、繊維密度が異なる領域を含む被印字物にインクジェット法によりインクを打滴して印字を行う印字装置であって、インクジェット法により、被印字物の同一箇所にインクを複数のインク打滴工程に分けて打滴する複数のインク供給装置と、インクの粘度を上昇させるための凝集剤を複数の凝集剤供給工程に分けて、それぞれ対応するインク打滴工程の前に供給する複数の凝集剤供給装置と、それぞれの凝集剤供給工程で供給される凝集剤は、対応するインク打滴工程において被印字物内に供給されたインクの粘度を所定の範囲に保つ分量とすることにより、それぞれのインク打滴工程で打滴されたインクが被印字物の着弾位置から溢れずに被印字物内に浸透すると共に浸透したインクが被印字物内を所定の距離だけ浸透したところで移動が抑制されるように、インク供給装置と凝集剤供給装置を制御する制御部とを備えたものである。
この発明によれば、それぞれのインク打滴工程で打滴されたインクが被印字物の着弾位置から溢れずに被印字物内に浸透すると共に浸透したインクが被印字物内を所定の距離だけ浸透したところで移動が抑制されるので、繊維密度が異なる領域を含む被印字物に対して内部まで均一に印字することが可能となる。
この発明の実施の形態1に係る印字方法を行う印字装置の構成を示すブロック図である。 平織りされた被印字物を示す図である。 綾織りされた被印字物を示す図である。 被印字物を構成する糸を示す断面図である。 被印字物を構成する糸の内部に浸透するインクの様子を段階的に示す断面図である。 実施の形態1の変形例で用いられた被印字物を示す断面図である。 実施の形態1の変形例で印字された被印字物を示す図である。 エアースプレー法により凝集剤を供給する凝集剤供給装置を示す図である。 ロールコーターにより凝集剤を供給する凝集剤供給装置を示す図である。 実施の形態2に係る印字方法を行う印字装置の構成を示すブロック図である。 実施の形態2で用いられた供給量演算部の構成を示すブロック図である。
以下、図面に示す好適な実施の形態に基づいて、この発明を詳細に説明する。
実施の形態1
図1に、この発明の実施の形態1に係る印字方法を行う印字装置の構成を示す。印字装置は、被印字物Pに印字を行う印字部1と、被印字物Pに印字されたインクを定着させる定着部2とを有する。
印字部1は、インクジェット法で2回のインク打滴工程に分けて多量のインクを被印字物Pに打滴するインク供給装置3および4と、インクの粘度を上昇させるための凝集剤を3回の凝集剤供給工程に分けて被印字物Pに供給する凝集剤供給装置5〜7と、インク供給装置3および4並びに凝集剤供給装置5〜7をそれぞれ駆動する印字駆動部8と、インク供給装置3および4から打滴されるインク量並びに凝集剤供給装置5〜7から供給される凝集剤量をそれぞれ制御する制御部9とを有する。
インク供給装置3および4は、被印字物Pの移動方向に向かって順次配置され、被印字物Pの同一箇所に印字される多量のインクを2回のインク打滴工程に分けて供給するものである。インク供給装置3および4は、例えば、保水能が100g/mの被印字物Pに対して30g/m以上のインク量をそれぞれ打滴することができる。ここで、保水能は、被印字物Pをインク液に浸して垂れない程度に絞った場合に、被印字物Pに保持されたインク量から求められる。また、インク供給装置3および4は、それぞれ複数の印字ヘッド、例えばY(イエロー)、M(マゼンダ)、C(シアン)、K(ブラック)を印字するための4つの印字ヘッドを有する。図1では、インク供給装置3に備えられた4つの印字ヘッドから打滴されるインクをまとめてインクAとし、インク供給装置4に備えられた4つの印字ヘッドから打滴されるインクをまとめてインクBとした。インク供給装置3とインク供給装置4の間は、例えば約400msの短い打滴間隔でそれぞれのインクを打滴するような間隔に設定されている。
インク供給装置3および4から打滴されるインクAおよびBには、凝集剤供給装置5〜7から供給される凝集剤と凝集反応するための被凝集剤が含まれており、この凝集反応によりインクの粘度が上昇する。また、インクAおよびBに含まれる染料は、被印字物Pの素材に応じたものが用いられ、例えば、被印字物Pがポリエステル繊維からなる場合には分散染料を、被印字物Pが木綿などの植物繊維からなる場合には反応性染料を、被印字物Pがナイロンおよび動物性繊維(毛または絹など)からなる場合には酸性染料をそれぞれ用いることができる。
凝集剤供給装置5〜7は、インクAおよびBに含まれる被凝集剤と凝集反応する凝集剤を3回の凝集剤供給工程に分けて被印字物Pに供給するものである。
凝集剤供給装置5は、被印字物Pの移動方向に対して、インク供給装置3の上流側に配置され、インク供給装置3から打滴されるインクAに対応する分量の凝集剤Cを、インクAが打滴される前に被印字物Pに供給する。凝集剤Cは、凝集反応によりインクAの粘度を上昇させることで、インクAの移動速度を低下させる。
凝集剤供給装置6は、インク供給装置3とインク供給装置4の間に配置され、インク供給装置4から打滴されるインクBに対応する分量の凝集剤Dを、インクBが打滴される前に被印字物Pに供給する。凝集剤Dは、凝集反応によりインクBの粘度を上昇させることで、インクBの移動速度を低下させる。
凝集剤供給装置7は、被印字物Pの移動方向に対して、インク供給装置4の下流側に配置され、インクAおよびBが打滴された後で、被印字物Pに凝集剤Eを供給する。凝集剤Eは、凝集反応によりインクAおよびBの粘度を上昇させることで、被印字物PにおけるインクAおよびBの移動を固定する。
なお、凝集剤供給装置5〜7から供給される凝集剤C、DおよびEは、それぞれ同じ成分から構成するのが好ましい。
印字駆動部8は、インク供給装置3および4、並びに、凝集剤供給装置5〜7にそれぞれ接続されており、制御部8から入力される電気信号に応じて各供給装置を駆動する。
制御部9は、印字駆動部8と接続され、インク供給装置3および4から打滴されるインクAおよびBの打滴量、並びに、凝集剤供給装置5〜7から供給される凝集剤C、DおよびEの供給量を制御するものである。
制御部9は、被印字物Pに印字しようとする印字画像などに基づいて、インク供給装置3および4から打滴するインクAおよびBの量をそれぞれ設定する。
また、制御部9は、インク供給装置3から被印字物内に供給されるインクAの粘度を所定の範囲に保つように凝集剤供給装置5から供給される凝集剤Cの分量を設定すると共に、インク供給装置4から被印字物内に供給されるインクBの粘度を所定の範囲に保つように凝集剤供給装置6から供給される凝集剤Dの分量を設定する。すなわち、それぞれの凝集剤供給工程で供給される凝集剤の分量は、それぞれのインク打滴行程に対応して設定され、対応するインク打滴工程において被印字物内に供給されるインクの粘度を所定の範囲に保つように設定される。
ここで、凝集剤CおよびDの供給量の上限値は、それぞれのインク打滴工程において打滴されるインクAおよびBが、被印字物の着弾位置から溢れずに被印字物内に浸透可能な粘度となる量である。一方、凝集剤CおよびDの供給量の下限値は、凝集剤供給装置7から凝集剤Eが被印字物Pに供給されてインクAおよびBの移動が固定されるまでの間、それぞれのインク打滴行程で打滴されたインクAおよびBが、被印字物Pを構成する糸の太さ範囲以内、あるいは、被印字物Pの織りのピッチ範囲以内に留まり、この範囲を超えて周囲の毛管力により被印字物Pに沿う方向に拡散しない粘度となる量である。
このため、凝集剤の分量の上限値は、各インク打滴工程で打滴されるインクに含まれる被凝集剤の量と、インク打滴工程間の打滴間隔と、被印字物P内へのインクの浸透速度などに基づいて設定することができる。また、凝集剤の分量の下限値は、被印字物Pを構成する糸の太さ距離あるいは被印字物Pの織りのピッチ距離と、被印字物Pの毛管力などに基づいて設定することができる。
さらに、制御部9は、被印字物P内におけるインクAおよびBの移動を固定するように凝集剤Eの分量を設定する。例えば、インクAおよびBに含まれる全ての被凝集剤が凝集剤C、DおよびEと凝集反応することにより、被凝集剤の電荷が等電点を超えるように凝集剤C、DおよびEの供給量の総和を設定し、凝集剤Eは、その供給量の総和から凝集剤CおよびDの供給量を差し引いた量以上の値に供給量を設定することができる。なお、被凝集剤の等電点を超える凝集剤C、DおよびEの供給量の総和は、例えば電気泳動法、コロイド粒子凝集測定などの計測結果に基づいて求めることができる。
定着部2は、被印字物Pの移動方向に対して、印字部1の下流側に配置され、乾燥装置10、発色処理装置11および洗浄乾燥装置12を有する。乾燥装置10は、インクが固定された被印字物Pを乾燥するものである。発色処理装置11は、被印字物Pの素材および染料の種類に応じた発色処理を行うものである。例えば、分散染料を用いた場合には加熱発色処理,あるいは高温スチーム処理により発色処理を行うことができ、酸性染料および反応性染料を用いた場合には高温スチーム処理により発色を行うことができる。洗浄乾燥装置12は、染色された被印字物Pを洗浄および乾燥して仕上げるためのものである。アルカリ還元洗浄液を用い残留未反応物を除去することもできる。
上記の印字装置により印字が施される繊維密度の異なる領域を有する被印字物Pとしては、例えば、図2に示されるように平織りされたもの、または図3に示されるように綾織りされたものを用いることができる。あるいは、部分的に異なる織りが組み込まれた布を用いることもできる。被印字物Pを構成する糸Yは、図4に示されるように、複数の繊維Fが集合して構成されているが、例えば、糸が織られた交差部と交差部以外の部分、経糸と緯糸の交差頻度が異なる部分、織のパターンが変化した部分、部分的にエッチングを施して繊維太さが異なる部分などにおいて、糸Yを構成する繊維密度に差が生じており、これがインクの浸透を不均一とさせている。図3に示される綾織りの場合には、経糸と横糸の交差ピッチが局所的に変化しており、交差ピッチが広い部分の繊維密度は交差ピッチが狭い部分の繊維密度より低いものとなる。
なお、被印字物Pの材料としては、ポリエステル、ナイロン、アクリル等の合成繊維、綿、毛、絹等の動物または植物性繊維から構成される糸で織られた布、あるいは編まれた編み物などを用いることができる。
次に、インクAおよびBに含まれる被凝集剤と凝集剤C、DおよびEの凝集反応について説明する。
インクAおよびBとしては、アニオン性に荷電されたものが使用できる。例えば、アニオン性の界面活性剤で荷電された顔料分散物を含むと共にアニオン性の極性を有する荷電調節剤で調節されたインクを使用することができる。あるいはアニオン性染料水溶液を使用することができる。
なお、インクの粘度調整、粒子分散の安定のため、酢酸ビニル系、アクリル系、ポリエステル系あるいはウレタン系等の水性ポリマー分散液、PVAあるいはアルギン酸等の水性ポリマーをインクに添加することもできる。また、インクジェットヘッドの乾燥を防ぐ目的で、エチレングリコール、グリセリン等の水可溶性高沸点溶剤を添加することもできる。
このようにしてインクを調整し、染料、荷電調節剤、あるいは水性ポリマーなどを被凝集剤として機能させることができる。
一方、凝集剤C、DおよびEとしては、カチオン性に荷電されたもので凝集反応を行うことができる。
凝集反応は、インク中において中性あるいはアルカリ性に調整された状態でイオン解離していることで分散安定しているアニオン性界面活性剤に対し、凝集剤C、DおよびEとして有機酸を加え酸性とするとその解離度が低くなって分散が不安定となり凝集される。これに伴い、インクAおよびBに含まれる水性ポリマーが凝集し、凝集剤C、DおよびEの濃度に応じた粘度の上昇がそれぞれ引き起こされる。
また、被凝集剤がアニオン界面活性剤あるいはアニオン性水性ポリマーで構成されたインクAおよびBを、カチオン高分子からなる凝集剤C、DおよびEを用いて凝集反応する場合、インクAおよびBの中のアニオン成分と、凝集剤C、DおよびEに含まれるカチオンポリマーのカチオン基とが反応し凝集が起こる。この凝集反応はカチオン基の密度が高いほど起こりやすく、凝集反応の速度に対応する。
また、凝集剤C、DおよびEは、凝集に寄与する官能基の種類を選択、または凝集剤の働くphをコントロールすることで凝集能を調整することもできる。例えば、カチオンポリマーの重合度を上げることで水中での移動速度を下げ、これによりカチオン基の密度が同じであっても凝集速度を遅くすることができる。
アニオン性界面活性剤およびアニオン性水性ポリマーとしては、水中で解離した時に陰イオンとなる基を含むものが使用され、例えば、カルボン酸、スルホン酸、あるいはリン酸構造を持つものが使用される。具体的には、カルボン酸系の荷電調節剤として脂肪酸塩やコール酸塩が、スルホン酸系の荷電調節剤として直鎖アルキルベンゼンスルホン酸ナトリウム、ラウリル硫酸ナトリウム、モノアルキル硫酸塩、またはアルキルポリオキシエチレン硫酸塩が、リン酸構造を持つ荷電調節剤としてモノアルキルリン酸塩などが利用できる。一方、凝集剤C、DおよびEに用いられる酸としては、マロン酸、クエン酸、酢酸等の有機酸、希塩酸などの無機酸が利用できる。
次に、印字装置により行われる印字方法について説明する。
まず、図1に示されるように、繊維密度の異なる領域を含む被印字物Pが一定方向に移動される。ここで、被印字物Pは、ポリエステル繊維からなるもので、100g/m程度の保水能を有するものとし、この被印字物Pに対して多量のインクを供給して糸の内部または裏面まで印字を行う。
被印字物Pが移動されて凝集剤供給装置5の直下に到達するタイミングで、制御部9が印字駆動部8を介して凝集剤供給装置5を制御し、凝集剤供給装置5から被印字物Pに向けて、例えばカチオン高分子が2重量%含まれる凝集剤Cを10g/m程度供給する。この凝集剤Cの供給量は、インク供給装置3から供給されるインクAの供給量に対応し、インクAの粘度を所定の範囲に保つ分量である。具体的には、凝集剤Cの供給量は、インク供給装置3から供給された全てのインクAが被印字物Pの着弾位置から溢れずに被印字物内に浸透すると共に、浸透したインクAが凝集剤Eを供給するまでの間に被印字物P内を糸の太さ距離以上に浸透しないように設定される。ここで、インクAは、インク供給装置3に備えられた4つの印字ヘッドから被印字物Pに供給されるものであり、凝集剤Cの供給量は、4つの印字ヘッドから打滴される全てのインクが上記の粘度範囲を満たすように設定される。
凝集剤Cが供給された被印字物Pが凝集剤供給装置5の直下からインク供給装置3の直下に到達するタイミングで、制御部9が印字駆動部8を介してインク供給装置3を制御し、インク供給装置3から被印字物Pに向けて、例えば30g/m程度のインクAが打滴される。インクAとしては、例えば、アニオン界面活性剤で荷電された分散染料、分散安定のための水性ポリマーとして水性アクリル樹脂、水性ポリエステル樹脂、リグニンスルフォン酸、および高沸点溶剤としてグリセリンを含むものが使用され、分散染料、アニオン界面活性剤、および水性ポリマーが被凝集剤として機能する。
インク供給装置3から打滴されたインクAは、図5(a)に示すように、被印字物Pを構成する糸Yに着弾し、糸Yの表面から糸Y内に吸収される。そして、図5(b)に示すように、インクAは、糸Y内の凝集剤Cと凝集反応しながら浸透し、糸Yの太さ距離の範囲内でインクAの粘度が所定の粘度範囲まで上昇され、浸透速度が低下してインクAが糸Yの太さ距離の範囲内に留められる。
なお、凝集剤Cは、インクAと凝集反応してインクの粘度を所定の粘度範囲に保てればよく、全てのインクAとの凝集反応が終了した時に未反応の凝集剤Cが残っていてもよい。
ここで、糸Y内の凝集剤CはインクAと凝集反応することにより、凝集剤Cの未反応成分の量が低下しており、続いてインク供給装置4からインクBが打滴されると、インクBと凝集反応するための凝集剤の量が足りずに被印字物P内のインクBの粘度が所定の粘度範囲を保てないおそれがある。このため、凝集剤CとインクAとの凝集反応により低下した未反応の凝集剤量をインクBが供給される前に適切な量とするため、新たに補充する必要がある。
そこで、インクAが供給された被印字物Pが凝集剤供給装置6の直下に到達するタイミングで、制御部9が印字駆動部8を介して凝集剤供給装置6を制御し、凝集剤供給装置6から被印字物Pに向けて、例えばカチオン高分子を2重量%含む凝集剤Dが10g/m程度供給される。この凝集剤Dの供給量は、インク供給装置4から供給されるインクBの供給量に対応し、インクBの粘度を所定の粘度範囲に保つ分量である。具体的には、凝集剤Dの供給量は、インク供給装置4から打滴される全てのインクBが被印字物Pの着弾位置から溢れずに被印字物内に浸透すると共に、浸透したインクBが凝集剤Eを供給するまでの間に被印字物P内を糸の太さ距離以上に浸透しないように設定される。
ここで、凝集剤Cの供給量は、4つの印字ヘッドから被印字物Pに供給される全てのインクBが上記の粘度範囲を満たすように設定される。なお、インクAと凝集剤Cの凝集反応において、凝集剤Cの未反応成分が残っている場合には、その量も加味して凝集剤Dの供給量は設定される。
凝集剤Dが供給された被印字物Pがさらにインク供給装置4の直下に到達するタイミングで、制御部9が印字駆動部8を介してインク供給装置4を制御し、インク供給装置4から被印字物Pに向けて、例えば30g/m程度のインクBが打滴される。このように、インクAの供給量と併せて60g/m以上のインクを供給することにより、被印字物Pの糸の内部までインクを浸透させることができる。
インク供給装置4から打滴されたインクBは、図5(c)に示すように、被印字物Pの糸Yに着弾し、インクAに続くように糸Yの表面から糸Y内に吸収される。
この時、インクBの前に打滴されたインクAの粘度が所定の粘度範囲を超えないように制御されているため、次に打滴されたインクBが糸Yの表面から溢れることなく内部に吸収される。すなわち、インクAの粘度が上記の範囲を超えていると、インクAの粘度が糸Yの表面近傍で必要以上に高くなり、インクAが糸Yの内部に十分に浸透する前にインク供給装置4から打滴されたインクBが糸Yの表面に着弾してしまう。このため、インクAが糸Yの表面近傍に被膜を形成したような状態となり、糸Y内へのインクBの吸収が阻害され、インクBが糸Yの表面から溢れて周囲の糸へ移動してしまう。本実施の形態では、凝集剤Cの供給量によりインクAの粘度が所定の粘度範囲を超えないように制御することで、上記のような現象を抑制することができる。また、インクの粘度が所定の粘度範囲を超えないように制御することにより、インク供給装置3とインク供給装置4の打滴間隔を、例えば約400msと短時間に設定した場合でも、被印字物Pの着弾位置からインクが溢れることなく、全てのインクを被印字物P内に浸透させることができる。
インクAに続いて糸Y内に吸収されたインクBは、図5(d)に示すように、凝集剤Dと凝集反応しながら浸透し、糸Yの太さ距離の範囲内でインクBの粘度が所定の粘度範囲まで上昇され、インクBが糸Yの太さ距離の範囲内に留められる。
ここで、被印字物Pを浸透するインクAおよびBの粘度を所定の粘度範囲よりも低下しないように制御することにより、凝集剤Eが供給されてインクの移動が固定されるまでの間、インクAおよびBの浸透距離を糸の太さ距離の範囲に留めるようにインクAおよびBの移動速度が抑制される。すなわち、インクAおよびBの粘度が上記の範囲よりも低下すると、凝集剤Eが供給されてインクの移動が固定されるまでの間にインクAおよびBが糸Yの太さ距離を浸透し、続いて周囲の繊維密度が高い領域からの毛管力により、インクAおよびBは被印字物Pに沿う方向へ移動されるため、繊維密度に依存した染色ムラが生じてしまう。本実施の形態では、凝集剤CおよびDの供給量によりインクAおよびBの粘度が所定の粘度範囲よりも低下しないように制御することで、上記のような現象を抑制することができる。
このように、各インク打滴行程に対応してインクが打滴される前に凝集剤を供給することにより、未反応の凝集剤の量が変動してインクの粘度が大きく変化するのを抑制し、各インク打滴工程で打滴されたそれぞれのインクの粘度を所定の粘度範囲に保つことができる。すなわち、各インク打滴行程で打滴されたインクを着弾位置の糸から溢れずに浸透させると共に浸透したインクの移動を糸の太さ距離に留めることができる。
なお、インク供給装置4は、インク供給装置3と異なる解像度で印字することができ、インク供給装置3と異なる角度(被印字物と印字ヘッドの間の角度)から印字することもできる。また、インク供給装置4から打滴されるインクBは、インク供給装置3で使用したインクAを希釈したもの、またはインクAと異なる色相のものを用いることができる。
インクBが供給された被印字物Pが凝集剤供給装置7の直下に移動されるタイミングで、制御部9が印字駆動部8を介して凝集剤供給装置7を制御し、被印字物PにおいてインクAおよびBの浸透距離が糸Yの太さ距離の範囲内に留められているうちに、凝集剤供給装置7から被印字物Pに向けて、例えばカチオン高分子が2重量%含む凝集剤Eが30g/m程度供給される。この凝集剤Eは、先に供給された凝集剤CおよびDと合わせて、インク内に含まれる被凝集剤と反応することで被凝集剤の等電点を超える量となるように供給される。
凝集剤供給装置7から供給された凝集剤Eは、被印字物Pに供給されたインクに含まれる未反応の被凝集剤、すなわち凝集剤CおよびDと反応していない被凝集剤と凝集反応して、被印字物Pにおいて浸透距離が糸Yの太さ距離の範囲内に留められていたインクを固定し、インクの移動を完全に停止させる。このようにして、繊維密度の異なる領域を含む被印字物Pを厚さ方向に糸の内部まで均一に浸透したインクを被印字物Pに沿う方向に拡散させることなく固定することができる。また、被印字物に沿う方向への毛管力によるインクの移動を止めることができるので、被印字物の面方向の発色パターンはインクジェットインクの供給パターンにより制御することが可能となる。
被印字物Pは、被印字物Pにインクを固定した状態で定着部2に移動され、乾燥装置10により乾燥される。通常、この乾燥工程における部分的な乾燥速度の違いが被印字物Pに浸透したインクの移動を促進させてにじみの原因となるが、凝集剤Eの供給によりインクの移動を完全に固定しているため乾燥工程におけるインクのにじみを抑制することができる。続いて、被印字物Pは、発色処理装置11により、例えば160℃から200℃に数分から数十分置かれて加熱発色処理が行われ、糸の内部の繊維表面に付着した分散染料が昇華されて繊維内に取り込まれる。その後、被印字物Pは、洗浄乾燥装置12によりアルカリ還元条件で未反応物の洗浄が行われると共に乾燥されて、被印字物Pの染色が完了する。
なお、定着部2は、被印字物Pやインクの種類に応じて変更することができ、例えば、酸性染料または反応性染料を使用した場合には、被印字物Pを乾燥後、高温スチーム処理により染料と繊維との結合反応を生じさせ、結合反応した被印字物Pを洗浄および乾燥させることで被印字物Pを染色することができる。
本実施の形態によれば、多量のインクを供給して被印字物Pを印字する場合に、各インク打滴工程で打滴されたインクを被印字物Pの着弾位置から溢れずに被印字物P内に浸透させると共に浸透したインクを被印字物Pの厚さ方向に糸の内部まで均一に浸透するようにインクの粘度を所定の粘度に保ち、さらにこの状態が保たれているうちにインクの移動を完全に固定するため、被印字物Pを厚さ方向に糸の内部まで均一に染色することができる。
なお、実際に、ポリエステル繊維から成る被印字物Pに対して、凝集剤供給装置5によりカチオン高分子を2重量%含む凝集剤Cを10g/m程度供給すると共にインク供給装置3により30g/m程度のインクAを供給した。続いて、インク供給装置により30g/m程度のインクBを供給すると、インクの粘度が所定の範囲より低下して繊維密度に応じた印字ムラが観察されるのに対し、凝集剤供給装置6によりカチオン高分子を2重量%含む凝集剤Dを10g/m程度供給した後でインク供給装置4により30g/m程度のインクBを供給することにより、繊維密度に応じた印字ムラを抑制することができた。
また、図6に示すように、複数の糸が厚さ方向に重なるようにして織られた被印字物Pに対してもインクのにじみを抑制した印字をすることができる。この時、各凝集剤供給工程で供給される凝集剤CおよびDにより制御されるインクAおよびBの粘度は、各インク打滴工程で打滴されたインクAおよびBが被印字物Pの着弾位置から溢れずに糸Yの内部に浸透すると共に、浸透したインクAおよびBが凝集剤供給装置7から凝集剤Eが供給されるまでの間に被印字物P内を被印字物Pの織りのピッチ範囲以上に浸透しないように設定される。
具体的には、凝集剤供給装置5により被印字物Pの糸の内部まで凝集剤Cが供給された後、インク供給装置3からインクAが打滴され、被印字物Pに着弾したインクAが糸Yの内部に浸透される。続いて、凝集剤供給装置6により凝集剤Dが供給された後、インク供給装置4からインクBが被印字物Pに打滴される。ここで、インクBの打滴前に被印字物Pに供給されたインクAは、凝集剤Cとの凝集反応により粘度が上昇されているが、その粘度は所定の範囲を超えないように制御されるため、その後に打滴されるインクBが糸Yの表面から溢れることなく、インクAに続いて糸Yの内部に吸収される。また、被印字物P内を浸透するインクAおよびBの粘度は所定の範囲よりも低下しないように制御されるため、凝集剤Eが供給されてインクの移動が固定されるまでの間、インクAおよびBの浸透距離は被印字物Pの織りのピッチ範囲内に留められる。
このようにして、インクAおよびBが被印字物Pの裏面まで浸透し且つ織りのピッチの範囲内に留められているうちに、凝集剤供給装置7から凝集剤Eが供給され、被印字物PにおけるインクAおよびBの移動を完全に固定することができる。
これにより、被印字物Pを表面から裏面まで均一に染色すると共に、図7に示すようにインクのにじみを織りのピッチ範囲に収めることができる。
また、凝集剤供給装置5、6および7は、それぞれ凝集剤C、凝集剤Dおよび凝集剤Eの供給量を制御して被印字物Pに供給できればよく、例えば、エアースプレー法、ロールコーター、ディップ法、インクジェット法などを用いることができる。
図8に、エアースプレー法により凝集剤を供給する凝集剤供給装置の一例を示す。この凝集剤供給装置は、凝集剤を収容する凝集剤収容部21と、凝集剤収容部21から供給される凝集剤を被印字物Pに向けて排出するノズル22と、凝集剤収容部21からノズル22に供給される凝集剤の供給量を調節する供給弁23と、ノズル22に供給された凝集剤を霧状にして排出するためのエアーコンプレッサー24とを有する。制御部9は、凝集剤収容部21からノズル22に供給される凝集剤の量を、供給弁23あるいはエアーコンプレッサー24を制御して調節することができる。このように、凝集剤を霧状に小さくして供給することにより、被印字物P内に浸透したインクの移動が凝集剤の供給により乱れるのを抑制することができる。
また、図9に、ロールコーターにより凝集剤を供給する凝集剤供給装置の一例を示す。この凝集剤供給装置は、被印字物Pの裏面側に配置されたロールコーター25と、凝集剤を収容してロールコーター25に凝集剤を供給するバット26と、ロールコーター25の回転速度を制御する回転速度制御装置27とを有する。制御部9は、回転速度制御装置27を介してロールコーター25の回転速度を制御することにより、被印字物Pへの凝集剤の供給量を調節することができる。このように、被印字物Pの裏面側から凝集剤を供給することで、ロールコーター25が被印字物Pの印字面に直接接触することがなく、凝集剤の供給による印字の乱れを抑制することができる。
また、凝集剤としての有機カチオン性高分子として、アンモニアやアルキルアミン等のアミノ基(-NH2)を有する化合物及び窒素を更に多く有するアルギニンやグアニジンあるいはビグアニド誘導体等のグアニジノ基やビグアニド基を持つ化合物を用いることができる。また、側鎖あるいは主鎖にアミノ基あるいはイミノ基をもつ高分子としては、ポリエチレンイミン、ポリビニルアミン、ポリアリルアミン等の合成高分子及びポリオルニチン、ポリリジン等のポリアミノ酸を含む水性ポリマーが使用できる。
アクリルアミドとN,N−ジメチルアミノエチルメタクリレートまたはN,N−ジメチルアミノエチルアクリレートモノマーとを共重合したN,N−ジメチルアミノエチルアクリレート系共重合物や、ポリビニルアミジン系高分子、両性高分子などが利用できる。
また、上記の実施の形態では、アニオン性に荷電されたインクとカチオン性に荷電された凝集剤を用いて凝集反応を行ったが、カチオン性に荷電されたインクとアニオン性に荷電された凝集剤を用いて凝集反応を行うこともできる。
アニオン性の凝集剤としては、例えば、水溶性あるいは水分散性高分子に親水基としてカルボン酸、スルホン酸、あるいはリン酸構造をもつものが使用できる。具体的には、動植物油脂脂肪酸、アルキルベンゼンスルホン酸、アルキルナフタレンスルホン酸等のソーダ塩、カリウム塩等が使用できる。また、カチオン性のインクとしては、アルカリ性染料などのカチオン性の色材を含むと共にカチオン性の荷電調節剤が使用される。カチオン性の荷電調節剤としては、水中で解離した時に陽イオンとなるものが使用され、例えば、親水基としてテトラアルキルアンモニウムを持つものが使用される。具体的には、アルキルトリメチルアンモニウム塩、ジアルキルジメチルアンモニウム塩、またはアルキルベンジルジメチルアンモニウム塩などが利用できる。
また、上記の実施の形態では、インク供給装置4からインクBが供給された後に凝集剤供給装置7から凝集剤Eを供給して、被印字物P内におけるインクの移動を固定したが、凝集剤供給装置7を除くと共に凝集剤供給装置6から供給される凝集剤Dの分量を被印字物P内におけるインクの移動を固定するように設定することもできる。この時、凝集剤Dの分量は、被印字物P内におけるインクの移動を固定し、且つ、インクBの粘度を上記の所定の範囲に保つように設定される。例えば、インク供給装置4に備えられたそれぞれの印字ヘッドから打滴されるインクの打滴量が等量である場合に、凝集剤Dの分量を被印字物P内のインクの移動を固定するように設定することができる。
また、上記の実施の形態では、インク供給装置3および4を配置して2回のインク打滴工程に分けてインクを被印字物Pに打滴したが、インクの供給量等に応じて複数のインク供給装置を配置し、複数のインク打滴工程に分けてインクを被印字物Pに打滴することができる。この時、それぞれのインク供給装置に対応して上流側に凝集剤供給装置が配置され、対応するインク打滴工程の前に、各インク打滴工程のインク供給量に応じた分量の凝集剤が被印字物Pに供給される。
実施の形態2
図10に示されるように、実施の形態2に係る印字方法で用いられる印字装置は、入力データに基づいてインクA、インクB、凝集剤C、凝集剤Dおよび凝集剤Eの供給量を演算することでそれぞれの供給を自動化すると共に、被印字物Pに印字した結果をフィードバックすることでそれぞれの供給量を順次補正することができる。
また、凝集剤CおよびDの供給量あるいは種類を切り替えることで、被印字物Pへのインクの浸透位置を制御することもできる。さらに、印字および発色処理等を施し、染色が完了した被印字物Pの光学特性を表裏両面で計測することにより、被印字物Pへのインクの浸透位置を計測してその結果をフィードバックすることも可能である。
本実施の形態で用いられる印字装置は、入力データが入力される供給量演算部31を有し、この供給量演算部31が実施の形態1で用いられた印字装置1の制御部9に接続されている。なお、被印字物Pの裏面側にインク供給装置4に対向してインク供給装置4aを配置することもできる。また、印字装置は、被印字物Pの移動方向に対し、定着部2の下流側に計測装置32aおよび32bを表面側および裏面側にそれぞれ配置し、計測装置32aおよび32bに印字結果計測値入力部33を接続すると共にこの印字結果計測値入力部33を供給量演算部31に接続している。
供給量演算部31は、例えば図11に示されるように、インクAおよびBの供給量を演算するインク供給量演算部34と、このインク供給量演算部34に接続されて凝集剤C、DおよびEの供給量を演算する凝集剤供給量演算部35とを有し、インク供給量演算部34と凝集剤供給量演算部35がそれぞれ制御部9に接続する構成とすることができる。
まず、供給量演算部31には、インクA、インクB、凝集剤C、凝集剤Dおよび凝集剤Eの供給量に関する情報が入力データとしてオペレータにより入力される。インクAおよびBの供給量に関する情報としては、印字画像の情報(画素毎の色など)および被印字物Pの情報(素材、厚み、糸の太さなど)などが入力される。また、凝集剤C、DおよびEに関する情報としては、被印字物Pの情報、インクの情報(種類、濃度、被凝集剤の等電点など)などが入力される。
供給量演算部31のインク供給量演算部34は、入力された情報に基づいてインクAおよびBの供給量を演算する。このインクAおよびBの供給量は、インク供給量演算部34から制御部9に出力されると共に凝集剤供給量演算部35に出力される。凝集剤供給量演算部35は、オペレータから入力された情報、インクAおよびBの供給量に基づいて、凝集剤C、凝集剤Dおよび凝集剤Eの供給量をそれぞれ演算する。
具体的には、凝集剤供給量演算部35は、被印字物Pに供給されるインクAの粘度を所定の範囲に保つような凝集剤Cの分量を演算する。ここで、所定の範囲のインクAの粘度とは、被印字物Pに打滴されたインクAが被印字物Pの着弾位置から溢れずれに被印字物内に浸透すると共に、浸透したインクAが凝集剤Eを供給するまでの間に被印字物P内を目標の浸透距離、例えば被印字物Pを構成する糸の太さ距離以上または被印字物Pの織りのピッチ範囲以上に浸透しない粘度であり、予め印字実験等を行うことにより求められるものである。
続いて、凝集剤供給量演算部35は、凝集剤CとインクAの供給量から未反応の凝集剤の量を演算すると共に、被印字物Pに供給されるインクBの粘度を所定の範囲に保つような凝集剤の分量を演算し、この凝集剤の分量から未反応の凝集剤の量を差し引いた量を凝集剤Dの供給量として演算する。さらに、凝集剤供給量演算部35は、インクAおよびBの供給量と、凝集剤CおよびDの供給量からインクに含まれる被凝集剤が等電点を超える凝集剤の量を演算し、これを凝集剤Eの供給量とする。
このようにして、凝集剤供給量演算部35により演算された凝集剤C、DおよびEの供給量は、凝集剤供給量演算部35から制御部9に出力される。
制御部9はインクA、インクB、凝集剤C、凝集剤Dおよび凝集剤Eの供給量をそれぞれ適当な時点で駆動部8に出力し、駆動部8がそれぞれの供給量に応じた駆動信号を凝集剤供給装置5、インク供給装置3、凝集剤供給装置6、インク供給装置4、インク供給装置4aおよび凝集剤供給装置7にそれぞれ出力することにより、被印字物Pに凝集剤C、インクA、凝集剤D、インクBおよび凝集剤Eが順次供給される。インク供給装置4aは、例えばインク供給装置4と異なる色のインクを打滴する場合などに使用することができ、被印字物Pを表面と裏面で異なる色に染色することができる。続いて、被印字物Pに固定されたインクが定着部2により被印字物Pに定着されることで、被印字物Pへの印字が完了する。
被印字物Pに印字された印字画像は、光学センサなどからなる計測装置32aおよび32bにより光学特性が計測され、その計測値が印字結果計測値入力部33に入力されることで被印字物Pに印字した結果がフィードバックされる。供給量演算部31は、印字結果計測値入力部33から入力された計測値に基づいて、目標の発色を実現するようにインクA、インクB、凝集剤C、凝集剤Dおよび凝集剤Eの供給量をそれぞれ補正し、補正されたそれぞれの供給量に応じて印字駆動部8が凝集剤供給装置5、インク供給装置3、凝集剤供給装置6、インク供給装置4、インク供給装置4aおよび凝集剤供給装置7をそれぞれ駆動し、被印字物Pへの印字が行われる。
本実施の形態によれば、インクA、インクB、凝集剤C、凝集剤Dおよび凝集剤Eの供給量に関する情報を入力するだけで、それぞれ適当な量を自動的に被印字物Pに供給することができる。また、被印字物Pに印字した結果をフィードバックして補正されたインクA、インクB、凝集剤C、凝集剤Dおよび凝集剤Eの供給量に基づき再び被印字物Pに印字するため、初期の供給量が悪い場合、あるいは、インクおよび被印字物Pなどの物性が変化した場合であっても、発色の変動を効果的に抑制することができる。
1 印字部、2 定着部、3,4,4a インク供給装置、5,6,7 凝集剤供給装置、8 印字駆動部、9 制御部、10 乾燥装置、11 発色処理装置、12洗浄装置、21 凝集剤収容部、22 ノズル、23 供給弁、24 エアーコンプレッサー、25 ロールコーター、26 バット、27 回転速度制御装置、31 供給量演算部、32a,32b 計測装置、33 印字結果計測値入力部、34 インク供給量演算部、35 凝集剤供給量演算部、Y 糸、F 繊維、N インク、P 被印字物。

Claims (11)

  1. 繊維密度が異なる領域を含む被印字物にインクジェット法によりインクを打滴して印字を行う印字方法であって、
    インクジェット法により、被印字物の同一箇所にインクを複数のインク打滴工程に分けて打滴し、
    インクの粘度を上昇させるための凝集剤を複数の凝集剤供給工程に分けて、それぞれ対応するインク打滴工程の前に供給し、
    それぞれの凝集剤供給工程で供給される前記凝集剤は、対応するインク打滴工程において被印字物内に供給されたインクの粘度を所定の範囲に保つ分量とすることにより、それぞれのインク打滴工程で打滴されたインクが被印字物の着弾位置から溢れずに被印字物内に浸透すると共に浸透したインクが被印字物内を所定の距離だけ浸透したところで移動が抑制されることを特徴とする印字方法。
  2. インクが被印字物内を浸透する前記所定の距離は、被印字物を構成する糸の太さ距離に相当する請求項1に記載の印字方法。
  3. 最後の凝集剤供給工程で供給される前記凝集剤により、被印字物に供給される全てのインクが固定される請求項1または2に記載の印字方法。
  4. 最後のインク打滴工程の後で、被印字物に供給された全てのインクを固定するための凝集剤供給工程をさらに有する請求項1または2に記載の印字方法。
  5. 全ての凝集剤供給工程により被印字物に供給された前記凝集剤の供給量の総和は、全てのインク打滴工程により被印字物内に供給されたインクと反応して等電点を超えるように設定されることにより、被印字物内に供給された全てのインクが固定される請求項3または4に記載の印字方法。
  6. それぞれのインク打滴工程では30g/m以上のインク量が打滴される請求項1〜5のいずれか一項に記載の印字方法。
  7. 前記凝集剤は、ディップ法により供給される請求項1〜6のいずれか一項に記載の印字方法。
  8. 前記凝集剤は、エアースプレー法により供給される請求項1〜6のいずれか一項に記載の印字方法。
  9. それぞれのインク打滴工程で打滴されるインクはアニオン性に荷電されると共に、それぞれの凝集剤供給工程で供給される前記凝集剤はカチオン性に荷電される請求項1〜8のいずれか一項に記載の印字方法。
  10. それぞれのインク打滴工程で打滴されるインクはカチオン性に荷電されると共に、それぞれの凝集剤供給工程で供給される前記凝集剤はアニオン性に荷電される請求項1〜8のいずれか一項に記載の印字方法。
  11. 繊維密度が異なる領域を含む被印字物にインクジェット法によりインクを打滴して印字を行う印字装置であって、
    インクジェット法により、被印字物の同一箇所にインクを複数のインク打滴工程に分けて打滴する複数のインク供給装置と、
    インクの粘度を上昇させるための凝集剤を複数の凝集剤供給工程に分けて、それぞれ対応するインク打滴工程の前に供給する複数の凝集剤供給装置と、
    それぞれの凝集剤供給工程で供給される前記凝集剤は、対応するインク打滴工程において被印字物内に供給されたインクの粘度を所定の範囲に保つ分量とすることにより、それぞれのインク打滴工程で打滴されたインクが被印字物の着弾位置から溢れずに被印字物内に浸透すると共に浸透したインクが被印字物内を所定の距離だけ浸透したところで移動が抑制されるように、前記インク供給装置と前記凝集剤供給装置を制御する制御部とを備えたことを特徴とする印字装置。
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