関連出願の相互参照
本願は、2009年2月5日に出願された米国特許出願第12/366,510号、名称「Multi-Electrode Channel Configurations」の優先権を主張するものであり、当該出願の内容は、参照により本明細書に組み込まれる。
本発明は刺激医療装置(stimulating medical device)に関し、より詳細には、刺激医療装置における多電極チャネル構成の使用に関する。
聴力喪失といった障害を補うために、いくつかの電気的刺激装置は、電気信号を使用して受容者の神経線維または筋線維を活性化する。特に、人工聴覚装置(prosthetic hearing device)またはインプラント(implant)は、蝸牛内部の機能している聴神経(functioning auditory nerves)を、電流パルスによって生ずる電界により、直接刺激することで動作する。これらのインプラント装置は、典型的には、入ってくる音を受け取るマイクロホンと、選択された音声戦略に基づいて、入ってくる音の選択された部分を対応する刺激信号に変換する信号プロセッサ(signal processor)とを有している。皮下に埋め込まれた内部受信機が、上記信号を受信し、蝸牛内部に巻かれた電極の配列に電流パルスを送る。電極は蝸牛内の聴神経線維を刺激し、その結果得られる電気的な音情報が聴神経に沿って脳まで運ばれ、解釈される。各電極は単極刺激または双極刺激を与えることができる。単極刺激は、単一の蝸牛内電極から、離れた位置にある蝸牛外電極へ送られる刺激である。双極刺激は、近接して対をなす蝸牛内電極から刺激が与えられることで発生する。双極刺激は刺激をより集中させ、おそらくは、より小さく局在化された聴神経線維の集まりを刺激する。他方、単極刺激は、より広い面積にわたって電流を拡散させ、より大きいニューロンの集まりを刺激する。
単極刺激を使用した場合、現在のインプラント装置では、刺激電極から電気的に遠く離れた標的ニューロンに刺激を集中させることができない。例えば、鼓室階(scala tympani)の長手方向に沿って配置された電極を使用してらせん神経節細胞(spiral ganglion cells)を刺激するインプラント装置では、上記配置された電極による単極刺激を用いてらせん神経節細胞の小さい部分集団を局部的に刺激することは不可能である。鼓室(scalae)を取り囲む骨は、鼓室を満たす外リンパ液(fluid perilymph)や組織に比べて相対的に高いインピーダンスを有するため、刺激電流は蝸牛の長手方向に沿って縦方向に拡散しようとする傾向にある。健康な耳において狭帯域の音響的刺激により誘導された神経興奮パターンに比べ、拡散された縦電流は、相対的に広い神経興奮パターンをもたらす。単極刺激によって生じる広い神経興奮パターンを狭める試みとして、2つまたはそれ以上の近接する電極により電流の全部または一部を供給し及び吸い込む構成が使用されてきた。しかし、複数のチャネルが同じ極性で同時に刺激されると、電界が加算され、神経刺激パターンが非線形的に組み合わされる。複数の電極からなるチャネル構成はより集中したパターンを実現することができるが、それでもなお、通常は、ある程度の有意なチャネル相互作用が近接するチャネル間に生じる。単極チャネル構成において最大となる傾向にある上記チャネル相互作用の悪影響を回避するために、現在のインプラント装置のほとんどは、連続する又は時間的に「インターリーブされた」刺激パターンを組み込む刺激戦略を使用している。
最小限のチャネル相互作用を生み出すように複合チャネル構成を最適化する装置および方法が提供される。
本発明の一態様では、複数の刺激チャネルを備える刺激装置の重みを調整する方法が提供され、各刺激チャネルはそれぞれが対応する重みを有する複数の電極を備える。この方法は、複数の刺激チャネルの中からプローブチャネルを選択する行程と、複数の刺激チャネルの中から少なくとも1つの摂動チャネルを選択する行程と、複数の電極および当該各電極に対応する重みを使用してプローブチャネルにより刺激を加える行程と、少なくとも1つの摂動チャネルにより刺激を加える行程と、プローブチャネルからの刺激と1つまたは複数の摂動チャネルからの刺激との相互作用に基づき、刺激チャネルのうちの少なくとも1つに対応付けられた1つまたは複数の重みを調整する行程と、を含む。
別の態様では、複数の刺激チャネルを備える刺激装置の重みを調整するのに用いる装置が提供される。この装置は、複数の刺激チャネルの中からプローブチャネルと摂動チャネルとを選択するように構成された選択器を有する。ここでプローブチャネルは、それぞれが対応する重みと関連付けられた複数の電極を備えている。また、この装置は、複数の電極と当該各電極に対応付けられた重みとを用いる上記プローブチャネルによる刺激と、少なくとも1つの摂動チャネルによる刺激とを加えるための情報を送るように構成された刺激コントローラと、プローブチャネルからの刺激と1つまたは複数の摂動チャネルからの刺激との相互作用に基づき、刺激チャネルのうちの少なくとも1つに対応付けられた1つまたは複数の重みを調整するように構成された重み調整器と、を備える。
別の態様では、コンピュータ読み取り可能な媒体上に具体化されたコンピュータプログラムが提供され、当該コンピュータプログラムは、プロセッサを制御して、複数の電極を備えた複数の刺激チャネルを備える刺激装置の、該複数の電極にそれぞれ対応付けられた重みを調整する方法をプロセッサに実行させるための、プログラムコードを備えている。この方法は、複数の刺激チャネルの中からプローブチャネルを選択する行程と、複数の刺激チャネルの中から少なくとも1つの摂動チャネルを選択する行程と、複数の電極および当該各電極に対応する重みを使用してプローブチャネルにより刺激を加える行程と、少なくとも1つの摂動チャネルにより刺激を加える行程と、プローブチャネルからの刺激と1つまたは複数の摂動チャネルからの刺激の相互作用に基づき、刺激チャネルのうちの少なくとも1つに対応付けられた1つまたは複数の重みを調整する行程と、を含む。
別の態様では、それぞれが複数の電極で構成される複数の刺激チャネルを備えた刺激装置の、当該複数の電極に対応付けられた重みを調整する装置が提供される。この装置は、複数の刺激チャネルの中からプローブチャネルを選択する手段と、複数の刺激チャネルの中から少なくとも1つの摂動チャネルを選択する手段と、複数の電極および当該各電極に対応する重みを使用してプローブチャネルにより刺激を加える手段と、少なくとも1つの摂動チャネルにより刺激を加える手段と、プローブチャネルからの刺激と1つまたは複数の摂動チャネルからの刺激との相互作用に基づき、刺激チャネルのうちの少なくとも1つに対応付けられた1つまたは複数の重みを調整する手段と、を備える。
以下では、本発明の実施形態を、添付図面を参照して説明する。
本発明に係る実施形態が実装される、蝸牛インプラントを示す透視図である。
一実施形態に係る電極配列を、より詳細に示す図である。
一実施形態に係る、聴覚インプラント・フィッティング・システムを使用して複合刺激チャネル電極の重みの割り当て及び調整を行う構成の一例を示す概略図である。
一実施形態に係る、複合刺激チャネルの重みを調整するための動作を示す、上位レベル(high-level)のフロー図である。
同じ極性を用いて刺激を加える場合の、波形の一例を示す図である。
反対の極性を用いて刺激を加える場合の、波形の一例を示す図である。
摂動チャネルがプローブチャネルと同じ極性を有する場合の、プローブチャネル電界および摂動チャネル電界を示す図である。
極性が同じである場合に、プローブチャネル電界と摂動チャネル電界の組み合わせから生じる複合電界を示す図である。
摂動チャネルがプローブチャネルと反対の極性を有する場合の、プローブチャネル電界および摂動チャネル電界を示す図である。
極性が反対である場合に、プローブチャネル電界と摂動チャネル電界606の組み合わせから生じる複合電界を示す図である。
一実施形態に係る、フェーズドアレイ(phased-array)刺激チャネルの重みの調整を示すフロー図である。
各実施形態に係る、インピーダンス変換行列(transimpedance matrix)の例を示す図である。
一実施形態に係る聴覚インプラント・フィッティング・システムを示す、上位レベルの機能ブロック図である。
本発明の各態様は、一般に、刺激装置における刺激チャネルの決定に関する。一実施形態では、それぞれ複数の重み付き電極を使用して刺激を提供する刺激チャネルの、初期セットが決定される。次に、各刺激チャネルの電極重みを調整することにより、刺激チャネルの相互作用を最小化する反復プロセスが用いられる。この反復プロセスでは、刺激チャネルのうちの1つをプローブチャネルとして用い、近接するチャネルを摂動チャネルとして選択することを用いることができる。次に、プローブチャネルと摂動チャネルが刺激され、2つのチャネル間の相互作用が測定される。測定された相互作用が閾値を超える場合には重みが調整され、新しい重みを使用して、プローブチャネルと摂動チャネルとに再度刺激が加えられる。さらに、このプロセスは、測定チャネル相互作用が閾値を下回るまで繰り返される。次に、別の刺激チャネルのセットがプローブチャネル及び摂動チャネルとして選択され、すべての刺激チャネルをそれぞれプローブチャネルとして用いたときの測定チャネル相互作用が閾値を下回ることが判明するまで、このプロセスが繰り返される。次に、これらの重みは、刺激チャネルにより刺激を加える際に刺激装置により使用される。
本明細書では、本発明の実施形態を、主に聴覚補綴の一種(hearing prosthesis)、すなわち蝸牛補綴(一般には、蝸牛補綴装置(cochlear prosthetic device)、蝸牛インプラント、蝸牛装置などと呼ばれ、本明細書では単に「蝸牛インプラント」という)と関連付けて説明する。蝸牛インプラントとは、一般に、受容者の蝸牛に電気的刺激を送る聴覚補綴をいう。本明細書では、蝸牛インプラントとは、音響的刺激や機械的刺激といった別の種類の刺激と組み合わせて電気的刺激を送る聴覚補綴をも含むものとする。本発明の実施形態は、聴覚脳刺激装置(auditory brain stimulator)、すなわち、受容者の中耳または内耳の構成部分を音響的に、または機械的に刺激する埋め込み型聴覚補綴を含む、現在公知の、または今後開発されるあらゆる蝸牛インプラントまたは他の聴覚補綴において実装され得ることが理解されるはずである。
図1は、外耳101、中耳105および内耳107をもつ受容者に埋め込まれた、従来方式の蝸牛インプラント100の透視図である。以下では、外耳101、中耳105および内耳107の構成部分を説明し、続いて蝸牛インプラント100を説明する。
完全に機能する耳において、外耳101は、耳介110および耳道102を備える。音圧または音波103は、耳介110によって集められ、耳道102内を通って伝えられる。耳道(ear cannel)102の遠位端にまたがって配置されているのが、音波103に反応して振動する鼓膜104である。この振動は、耳小骨106と総称され、槌骨108、砧骨109およびあぶみ骨111を含む中耳105の3つの骨を介して、卵円窓または前庭窓112に結合される。中耳105の骨108、109および111は、音波103をフィルタリングし、増幅し、鼓膜104の振動に反応して卵円窓112を調音させ、または振動させるように働く。この振動は蝸牛140内の外リンパの流体運動の波を生じさせる。
そのような流体運動は、さらには、蝸牛140内部のごく小さい有毛細胞(図示せず)を活性化する。有毛細胞の活性化は、適切な神経インパルスを発生させ、らせん神経節細胞(図示せず)および聴神経114を経て、それが音として知覚される脳(やはり図示せず)まで伝達される。
蝸牛インプラント100は、受容者の身体に直接的または間接的に取り付けられる外部構成部分142と、一時的または永久的に受容者に埋め込まれる内部構成部分144とを備える。外部構成部分142は、典型的には、音を検出するためのマイクロホン124といった1つまたは複数の音入力要素と、音処理部126と、電源(図示せず)と、外部送信部128とを備える。外部送信部128は、外部コイル130と、好ましくは、直接的または間接的に外部コイル130に固定された磁石(図示せず)とを備える。音処理部126は、図示の実施形態では、受容者の耳介110に配置されたマイクロホン124の出力を処理する。音処理部126は、符号化信号(本明細書では、符号化データ信号ともいう)を生成し、ケーブル(図示せず)を介して外部送信部128に提供する。
内部構成部分144は、内部受信部132と、刺激部120と、細長い電極集合体118とを備える。内部受信部132は、内部コイル136と、好ましくは、内部コイルに対して固定された磁石(図示せず)とを備える。内部受信部132と刺激部120とは、生体適合性ハウジング内に密封されており、刺激/受信部と総称されることもある。内部コイルは、前述の外部コイル130から電力および刺激データを受け取る。細長い電極集合体118は、刺激部120に接続された近位端と、蝸牛140内に埋め込まれた遠位端とを有する。電極集合体118は、刺激部120から乳様突起骨119を経て蝸牛140まで延在し、蝸牛104に埋め込まれている。実施形態によっては、電極集合体118は、少なくとも基底領域116に埋め込まれ、場合によってはさらに遠位まで埋め込まれてもよい。例えば、電極集合体118は、蝸牛頂134と呼ばれる、蝸牛140の先端部に向かって延在していてもよい。場合により、電極集合体118は、蝸牛開窓部(cochleostomy)122を介して蝸牛140内に挿入され得る。他の場合には、蝸牛開窓部は、正円窓(round window)121、卵円窓112、岬角123を通して、または蝸牛140の頂回転147を通して形成され得る。
電極集合体118は、その長手方向に沿って配置され、遠位に延在する電極148のアレイ146(本明細書では電極アレイ146ともいう)を備える。電極配列146は電極集合体118上に配置されてもよいが、大部分の実際の適用例では、電極配列146は電極集合体118に組み込まれている。したがって、本明細書では、電極配列146は電極集合体118内に配置されているものとする。刺激部120は、刺激信号を生成する。この刺激信号は、電極148によって蝸牛140に印加され、聴神経114を刺激する
蝸牛インプラント100において、外部コイル130は、無線周波数(RF)リンクを介して内部コイル136に電気信号(すなわち、電力および刺激データ)を送る。内部コイル136は、典型的には、電気的に絶縁された単線(single-strand)または多線(multi-strand)のプラチナ線または金線を複数回巻いたものから構成される線状アンテナコイルである。内部コイル136の電気的絶縁は、柔軟なシリコーン成形(図示せず)によって提供される。使用に際し、埋め込み型受信部132は、受容者の耳介110に隣接する側頭骨のくぼみに位置決めすることができる。
蝸牛は周波数特性によりマップされている、すなわち、それぞれが特定の周波数範囲の刺激信号に反応する領域に区分されている。このため、各周波数を電極集合体の1つまたは複数の電極に割り振って、通常の聴覚であれば当該周波数により自然に刺激されるはずの領域に近い蝸牛内の位置で電界が発生するようにすることができる。これにより、人工聴覚インプラントが、蝸牛内の有毛細胞を迂回して電気的刺激を聴神経線維に直接届け、それによって、脳に自然な聴覚に似た聴覚を知覚させることが可能になる。これを実現するため、音処理部126の処理チャネル、したがって、当該処理チャネルに関連付けられた特定の周波数帯域が、蝸牛の所望の神経線維または神経領域を刺激するために、1つまたは複数の電極のセットにマップされる。このような、刺激に用いられる1つまたは複数の電極のセットを、本明細書では、「電極チャネル」または「刺激チャネル」と呼ぶ。
図2に、一実施形態に係る複数の電極148を備える電極配列146の、より詳細な図を示す。電極配列146は、例えば、単極刺激、双極刺激、三極刺激、フェーズドアレイ刺激などといった異なるモードの刺激を加えるのに使用され得る。以下に説明する実施形態では、概して、電極配列146が複合刺激チャネルを提供する蝸牛インプラントシステムを例にとる。本明細書で使用する場合、複合刺激チャネルとは、例えば、三極刺激チャネルやフェーズドアレイ刺激チャネルなどといった、3つ以上の電極148を使用する刺激チャネルをいう。三極刺激チャネル(四極刺激ともいう)では、電流は中央電極(電極3など)から流れ、2つの近接する電極(電極2および電極4など)のそれぞれに戻る。また三極刺激は、蝸牛外電極と共に使用されてもよく、その場合蝸牛外電極(図示せず)は、2つの近接する電極(電極2および電極4など)と連動して中央電極(電極3など)から流れる電流を吸い込む。以下でさらに詳細に論じるように、これらのシンク電極(電極2および電極4や蝸牛外電極など)はそれぞれ重み付けされ、各シンク電極は割り当てられた重みに従うパーセンテージで、中央電極(電極3など)から流れる電流の一部を吸い込む。
フェーズドアレイ刺激では、重みが複数の電極(例えば電極1〜5、2〜8、すべての電極など)に割り当てられ、刺激は重み付き電極を使用して加えられる。またフェーズドアレイ刺激は、重み付き蝸牛外電極(図示せず)も用いて行うこともできる。フェーズドアレイ刺激の詳細は、Chris van den Honertによる米国特許出願第11/414360号、名称「Focused Stimulation in a Medical Stimulation Device」、並びに、非特許文献(Chris van den Honert and David C. Kelsall, 「Focused Intracochlear Electric Stimulation with Phase Array Channels」, J. Acoust. Soc. Am., 121, 3703-3716 (June 2007))に記載されている。本願は、上記特許文献及び非特許文献を参照することにより、両文献の全内容を包含するものである。これらの参照文献をまとめて、以下では「van den Honert文献」と称するものとする。
図3は、一実施形態に係る、聴覚インプラント・フィッティング・システム306を使用して複合刺激チャネル電極重みの割り当て及び調整を行う、一の例示構成300を示す概略図である。図3に示すように、聴覚訓練士または臨床医304は、対話式ソフトウェアおよびコンピュータハードウェアを備える聴覚インプラント・フィッティング・システム306(本明細書における「フィッティングシステム」)を使用して、その受容者に固有の受容者マップデータ322を作成する。この受容者マップデータ322は、ディジタルデータとしてシステム306に記憶され、最終的には受容者302のための音処理部126のメモリにダウンロードされる。システム306は、マッピング機能、神経反応測定機能、音響的刺激機能、及び、神経反応測定その他の刺激の記録機能といった機能の1つまたは複数を実行するようにプログラムすることができ、かつ/または、そのようにプログラムされたソフトウェアを実装することもできる。
図3に示す実施形態では、蝸牛インプラント100の音処理部126は、フィッティングシステム306に直接接続され、音処理部126とフィッティングシステム306との間のデータ通信リンク308が確立される。その後システム306は、データ通信リンク308によって音処理部126と双方向に結合される。図3では音処理部126とフィッティングシステム306とがケーブルによって接続されているが、現在の、または今後開発される任意の通信リンクを用いて、インプラントとフィッティングシステムとを通信可能に結合することができるものと理解すべきである。
最初に、聴覚訓練士304は、蝸牛インプラントシステム100をセットアップし、蝸牛インプラントシステム100に初期パラメータセットを与える。この作業は、蝸牛インプラント100の校正や、電極配列146の各刺激チャネルに対する閾値および最大快適レベルの決定及び設定を含むものとすることができる。蝸牛インプラントを適合させるためのメカニズムの一例が、2006年2月6日にJames F. Patrickらにより出願された、米国特許出願第11/348,309号、名称「Prosthetic Hearing Implant Fitting Technique」に記載されている。本願は、上記特許文献を参照することにより、その全内容を包含するものである。しかし、上記特許文献の内容は蝸牛インプラントシステムを初期セットアップする技法の一例にすぎず、現在の、または今後開発される任意の技法が蝸牛インプラントシステムの初期セットアップに使用され得ることに留意すべきである。また、初期セットアップ時に、聴覚訓練士は、刺激チャネルのそれぞれについて最初に使用すべきデフォルトの重みセットを与えることもできる。
図4は、一実施形態に係る、複合刺激チャネル重みを調整する動作を示す、上位レベルのフロー図である。図4について、図3に示すフィッティングシステムを参照しつつ説明する。ただし、図4は説明のための一例にすぎず、図4に示す一般的方法は、別の種類のシステムでも用いることができることに留意すべきである。
図3および図4についての以下の説明では、例示した蝸牛インプラント100は、22個の電極に加えて1つの蝸牛外電極を備え、20個の三極刺激チャネルを提供する電極配列を含むものとする。しかし、これは説明のための例にすぎず、図4の方法は、フェーズドアレイ刺激チャネルといった他の複合刺激チャネルでも使用され得ることに留意すべきである。以下では、図4のプロセスがどのようにしてフェーズドアレイ刺激チャネルの重みの調整に用いられるのかについて、図7を参照しつつ説明する。
上述したように、これらの刺激チャネルは、電流が中央電極(電極2など)からその近傍の電極(電極1および電極3など)と蝸牛外電極に流れる三極刺激チャネルとすることができる。蝸牛インプラント100を初期セットアップする際に、聴覚訓練士304は、フィッティングシステム306を使用して、刺激チャネルごとに電極のそれぞれに対して、デフォルトの重みセットを割り当てることができる。例えば、近接する電極(1と3など)はそれぞれ、中央電極(2など)からの電流の30%を吸い込み、蝸牛外電極はその40%を吸い込むように、中央電極には+1.0の重み、近接する電極にはそれぞれ−0.3の重み、蝸牛外電極には−0.4の重みを割り当てることができる。
刺激チャネルに対するデフォルトの重みを用いて蝸牛インプラントシステム100を初期セットアップした後、図4のプロセスを使用して刺激チャネルごとの電極重みを調整し、各刺激チャネルの焦点を調整する。まず、ステップ410において、フィッティングシステム306は、複数の刺激チャネルの中からプローブチャネルと摂動チャネルを選択する。例示した22個の電極配列では、第1の刺激チャネル(SC1)は、中心とする電極2と、これに近接する電極(1および3)と、シンクとして動作する蝸牛外電極とで構成される。この第1の刺激チャネル(SC1)は、プローブチャネルとして選択する。この例では、摂動チャネルとして、上記選択されたプローブチャネルに近接する刺激チャネルが選択される。すなわち、この例では、摂動チャネルとして、電極3を中心とする第2の刺激チャネル(SC2)が選択される。しかし、図4のプロセスでは、任意の刺激チャネルを初期プローブチャネルとして選択することができ、第1の刺激チャネル(SC1)が選択されたのは単に例示のためであることに留意すべきである。また、各実施形態において、聴覚訓練士304は、ユーザインターフェース314を用いてプローブチャネルおよび摂動チャネルを選択し、フィッティングシステムによって選択されたチャネルを無効することもできることに留意すべきである。
次に、フィッティングシステム306は、蝸牛インプラントに対し、選択されたプローブチャネルおよび摂動チャネルに刺激信号を印加するよう指示し、ステップ420において、それらの相互作用を測定する。プローブチャネルと摂動チャネルとの間の相互作用を測定するには様々な方法およびシステムを使用することができ、その方法およびシステムの例については後述する。
プローブチャネルと摂動チャネルとの間の相互作用を測定した後、ステップ430において、フィッティングシステム306は、相互作用の大きさが閾値を超えるかどうかチェックする。状況によっては、相互作用の大きさは、指定された閾値を決して下回らない場合もあり得る。むしろ、チャネル構成が調整される際には、測定された相互作用は建設的状態と破壊的状態とを交互に繰り返し、決して閾値を下回ることはない。そのような場合、フィッティングシステム360は、ステップ430において、相互作用の大きさが最小化される点(すなわち、測定された相互作用が建設的状態と破壊的状態とを繰り返す点)において反復プロセスを停止するものとしてもよい。一実施形態では、ステップ430までの処理を所定の回数だけ行った後で、測定された相互作用の大きさが減少していない場合には、測定された相互作用は最小化されたものと判断するものとする。
測定された相互作用が閾値を超えると判定され、最小化されたと判定されない場合、フィッティングシステム306は、ステップ440において、プローブチャネルと摂動チャネルとの間の相互作用が建設的であるかそれとも破壊的であるか判定する。本明細書では、建設的相互作用とは、プローブチャネルに建設的に干渉し、プローブチャネルによって発生する電界の大きさを増大させる摂動チャネルをいい、破壊的相互作用とは、プローブチャネルに破壊的に干渉し、プローブチャネルによって発生する電界の大きさを減少させる摂動チャネルをいう。
相互作用が建設的である場合、フィッティングシステム306は、ステップ450において、プローブチャネルおよび/または摂動チャネルの焦点を強めるようにプローブチャネルおよび/または摂動チャネルの重みを調整し、蝸牛インプラント100に新しい重みを与える。しかし、測定された相互作用が破壊的である場合には、フィッティングシステム306は、ステップ460において、プローブチャネルおよび/または摂動チャネルの焦点を弱めるようにプローブチャネルおよび/または摂動チャネルの重みを調整し、蝸牛インプラント100に新しい重みを与える。本明細書で使用する場合、焦点(focus)という用語は、埋め込まれた電極配列の刺激時に刺激チャネルによって生成される電界の集中をいう。例えば、刺激チャネルの焦点が強められる場合には、結果として生じる電界は狭められる。また、刺激チャネルの焦点を弱めるとは、結果として生じる電界を広げることをいう。
重みが調整された後で、反復プロセスはステップ410に戻り、そこで新しい重みを使用して刺激が加えられ(ステップ410)、更新された重みを用いたプローブチャネルと摂動チャネルとの間の相互作用が測定される(ステップ420)。この反復プロセスは、ステップ430で、プローブチャネルと摂動チャネルとの間の測定された相互作用が閾値を下回るまで続く。測定された相互作用が閾値を下回った後で、フィッティングシステム306は次に、ステップ470で、チェックすべき次の刺激チャネルがあるかどうかチェックする。そうである場合、プロセスはステップ410に戻り、新しい刺激チャネルがプローブチャネルおよび摂動チャネルとして選択される。例えば、プローブチャネルとしての刺激チャネル1(SC1)のための重みを調整した後で、プロセスは次いで、刺激チャネル2(SC2)の重みを調整するために、プローブチャネルとして刺激チャネル2(SC2)を選択し得る。前述のように、各実施形態では、近接する刺激チャネルが摂動チャネルとして選択される。したがって、この第2の通過では、フィッティングシステム306は第1(SC1)または第3(SC3)の刺激チャネルを摂動チャネルとして選択し得る。次に、本プロセスは、ステップ470において蝸牛インプラント100のすべての刺激チャネルの焦点が調整された(すなわち、その重みが調整された)と判定されるまで、刺激チャネルごとに繰り返される。その後、プロセスはステップ480で終了する。
前述のように、フィッティングシステム306は、ステップ420で、プローブチャネルと摂動チャネルとの間の相互作用を測定する。以下では、相互作用の測定に用いることのできるメカニズムの例を、より詳細に説明する。まず、フィッティングシステム306は、蝸牛インプラント100に対し、同じ形状の波形であって全振幅のみが異なる2つの波形を用いてプローブチャネルおよび摂動チャネルに刺激を加えるよう指示する。図5Aに、刺激の付与のためプローブチャネル502と摂動チャネル504に与えられる波形の例を示す。図示のように、プローブ波形502と摂動波形504とは、同一の形状および極性を有し、その全振幅だけが異なる。さらに、図示のように、この例では、波形502と波形504は二相方形波(bi-phasic square wave)である。しかし、これらの波形形状は例示にすぎず、三角波、正弦波などといった他の波形形状も使用され得ることに留意すべきである。この波形の特性は、フィッティングシステム306および/または聴覚訓練士304により選択することができる。
摂動チャネル刺激の振幅は、摂動チャネルの閾値レベルを下回るレベル(本明細書では閾値下レベルと称する)に設定され得る。前述のように、この閾値レベルは、フィッティングシステム306を使用して蝸牛インプラント100のセットアップ時に決定される。次いで、閾値下レベルの摂動チャネルが存在するときのプローブチャネルの閾値が、例えば、言葉によるフィードバック法などを使用して決定され得る。例えば、フィルタリングシステム306は、プローブチャネルが聞こえることを受容者が通知するまで、閾値下レベルの摂動チャネルが存在するときのプローブチャネルのレベルを繰り返し上げることができる。聴覚訓練士または臨床医師304は、ユーザインターフェース314を使用して、この通知をフィッティングシステム306に与えることができ、あるいは例えば、フィッティングシステム306は、例えば、神経反応遠隔測定、聴性脳幹反応、他の誘発電位などといった非精神物理的尺度を使用して、相互作用を測定する(プローブ閾値を決定するなど)ことができる。
次に、摂動チャネルの極性が反転され、刺激がプローブチャネルと摂動チャネルとで同時に加えられる。図5Bに、プローブチャネル502と摂動チャネル506の波形の例を示す。図示のように、プローブチャネル波形502は図5Aのものと同じであり、摂動チャネル波形506は摂動チャネル波形504と同一であるが、反対の極性を有する。次に、反対の極性を有する摂動チャネルの存在下でのプローブチャネルの閾値が、摂動チャネルのレベルを以前に用いたものと同じ閾値下レベルに設定して決定される。
2つのプローブ閾値(1つは同じ極性の摂動チャネルでのものであり、1つは反対の極性の摂動チャネルでのものである)を決定した後で、相互作用インデックス(II)が計算され得る。
このIIは以下の式を使用する。
ここで、II(probe,pert)は、プローブチャネルと摂動チャネルの相互作用インデックスであり、probeThreshold(opposite)は、プローブチャネルと反対の極性を有する摂動チャネル存在下でのプローブチャネル測定の閾値であり、probeThreshold(same)は、プローブチャネルと同じ極性を有する摂動チャネル存在下でのプローブチャネル測定の閾値であり、perturbationChannelLevelは、プローブ閾値レベルを決定する際に使用される摂動チャネルの閾値下レベルである。一実施形態では、この式で使用されるプローブチャネル閾値と摂動チャネルレベルは線形電流単位(linear current unit)で表される。
次に、フィッティングシステム306は、ステップ430において、計算された相互作用インデックス(II)の大きさを閾値と比較して、相互作用インデックス(II)の大きさが閾値を下回るか否か判定する。下回らない場合、これはプローブチャネルと摂動チャネルとの間の相互作用が有意であることを示す。また、下回る場合、相互作用は有意でないと判定される。
また、相互作用が有意であるか否か判定することに加えて、フィッティングシステム306は、ステップ440において、算出されたこの相互作用インデックス(II)を使用して、相互作用が建設的であるかそれとも破壊的であるかも判定する。例えば、この例では、ステップ440において、相互作用インデックス(II)が正である(すなわち、>0)場合、相互作用は建設的であると判定され、相互作用インデックス(II)が負である(すなわち、<0)場合、相互作用は破壊的であると判定される。
図6A〜6Dに、例示したプローブチャネルおよび摂動チャネルにより発生する電界の一例を示し、これらを使用してチャネル間の建設的相互作用よび破壊的相互作用を説明する。図6Aには、摂動チャネルがプローブチャネルと同じ極性を有する場合のプローブチャネル電界602と摂動チャネル電界604が示されている。図6Bには、極性が同じである場合のプローブチャネル電界602と摂動チャネル電界604の組み合わせから生じる複合電界614が示されている。図6Cには、摂動チャネルがプローブチャネルと反対の極性を有する場合のプローブチャネル電界602と摂動チャネル電界606が示されている。図6Dには、極性が反対である場合のプローブチャネル電界602と摂動チャネル電界606の組み合わせから生じる複合電界616が示されている。図6A〜6Dにおいて、横軸は電極配列に沿った位置を示し、縦軸は電界の電位を示している。さらに、点線601は、結果として生じる電界レベルの違いを読み取りやすくするための、単なる目安である。
建設的干渉は、共通の極性から生じる電界614が反対の極性から生じる電界616より大きいときに発生し、破壊的干渉は、共通の極性から生じる電界614が反対の極性から生じる電界616より小さいときに発生する。前述の相互作用インデックス(II)を参照すると、建設的干渉は、プローブチャネルと摂動チャネルの間で極性が共通する場合について決定されたプローブ閾値が、極性が反対である場合について決定されたプローブ閾値より小さいときに認められ、破壊的干渉は逆の状態が生じるときに認められる。
前述のように、ステップ450および460において、プローブチャネルおよび/または摂動チャネルの焦点は、それぞれ、プローブチャネルおよび/または摂動チャネルの重みを調整することによって強められ、または弱められる。蝸牛外電極を備える三極刺激を使用した蝸牛インプラント100では、焦点は、例えば、フィッティングシステム306が近接する電極(電極1および/または電極3など)の一方または両方の重みの大きさを増大させたり、蝸牛外電極の重みの大きさを低減することなどにより強められ得る。例えば、最初に、近接する電極には−0.3の重みが割り当てられ、蝸牛外電極には−0.4の重みが割り当てられ得る。この例では、中央電極の重みは、常に、三極刺激では+1.0に設定されており、所与のチャネルにおけるすべての重みの合計値は0になることに留意すべきである。
焦点を調整する際に、フィッティングシステム306は、例えば、それぞれ、0.05刻みで、近接する電極の一方または両方の重みの大きさを増大させ、0.5刻みまたは0.1刻みで蝸牛外電極の重みの大きさを低減することによって焦点を強めることができる。これらの値は例示にすぎないことに留意すべきである。同様に、プローブチャネルおよび/または摂動チャネルの焦点は、近接する電極の重みの大きさを低減し、蝸牛外電極の重みの大きさを増大させることによって弱めることもできる。これは、どのようにして重みが調整され得るかの一例にすぎず、他の方法も使用され得ることに留意すべきである。例えば、重みを調整する際に重みを乗算または除算するのにスカラが使用されてもよい。あるいは例えば、刻みサイズは、最初は大きな刻みが使用され、次いで、相互作用が建設的から破壊的になるかどうか、またはその逆であるかどうかなど、ある一定の条件に応じてその刻みが低減されるように調整する方法を使用してもよい。
前述のように、図3〜4の方法およびシステムは、例えばフェーズドアレイ刺激チャネルなどといった、三極チャネル以外の種類の複合チャネルのための重みの調整にも使用することができる。以下に、フェーズドアレイ刺激チャネルのための重みを調整する方法およびシステムの一例を説明する。van den Honert文献でより詳細に論じられているように、フェーズドアレイ刺激チャネルのデフォルトの重みは、蝸牛インプラント100のインピーダンス変換行列を計算し、次いでそのインピーダンス変換行列を反転させて刺激チャネルの重みを提供することによって決定され得る。
図7に、一実施形態に係る、図4に示す一般的方法がどのようにしてフェーズドアレイ刺激チャネルのための重みを調整するのに使用され得るかについての流れ図を示す。図7について、前述のフィッティング構成システム300を参照しつつ、説明する。ただし、他のシステムにも使用され得ることに留意すべきである。
最初に、ステップ702において、初期インピーダンス変換行列が取得される。このインピーダンス変換行列は、例えばvan den Honert文献で論じられているような方法で取得することができる。図8に、実施形態に係るインピーダンス変換行列Zmの一例を示す。図示のように、インピーダンス変換行列Zm800は22列、22行を含む。各列と行は、例示した22個の電極を含む電極配列の個々の電極に対応し、行は、インピーダンス変換行列を測定する際に刺激が加えられる電極に対応している。また列は、インピーダンス変換行列を獲得する際に加えられた刺激が測定される電極に対応している。van den Honert文献で論じられているように、インピーダンス変換行列の、対角を除くすべての値は、一度に1つずつ、既知の電流で各電極を刺激することによって実験的に測定される。次に、各非刺激電極において、結果として得られる電圧が測定される。刺激電極上で観測される電圧は、体抵抗および組織インピーダンスからの寄与部分を含むため、インピーダンス変換行列の対角はこのようにしては求められない。というよりは、van den Honert文献によれば、インピーダンス変換行列800の対角802に沿った値は、対角値を取り囲む値の線形外挿によって推定することができる。インピーダンス変換行列を獲得し、対角値802を推定する方法およびシステムは、前述のvan den Honert文献に記載されており、ここではこれ以上論じない。インピーダンス変換行列Zm800は22列22行を含むが、これは例にすぎず、他の実施形態では、22以外の数の電極を含む電極配列も使用され得ることに留意すべきである。
推定対角値を用いてインピーダンス変換行列が獲得された後で、フィッティングシステム306は、インピーダンス変換行列を反転させて、フェーズドアレイチャネルのための重みの初期セットを獲得する。特に、反転したインピーダンス変換行列(トランスアドミタンス行列ともいう)の各列は、単一の個別の刺激領域にゼロでないスカラ内電圧(intrascalar voltage)を生じさせる各電極からの電流寄与を定義する、数値重み(トランスアドミタンス値)のセットを含んでいる。したがって、このような重みのベクトルは、それぞれフェーズドアレイ刺激チャネルを定義する。
フィッティングシステム306は、ステップ704において、刺激チャネルのうちの1つをプローブチャネルとして選択し、近接するチャネルを摂動チャネルとして選択する。次いで、ステップ706において、選択されたプローブチャネルと摂動チャネルとの間の相互作用が測定される。これは、図4のステップ420を参照して説明したのと同様に行われる。特に、一実施形態では、この相互作用は、固定された閾値下レベルで摂動チャネルを刺激すると同時に、当該刺激を実行する間にプローブチャネルの閾値を決定することによって測定することができる。刺激を加えるため各チャネルに供給される電流波形の形状は、図5A〜Bに示す波形のように、スカラ乗数(scalar multiplier)以外は同一とすることができる。
プローブチャネルの閾値は、プローブと同じ極性を有する摂動チャネルを用いて1回測定され、また、プローブチャネルの反対の極性を有する摂動チャネルを用いて1回測定されて、計2回測定される。どちらの閾値決定においても、摂動チャネルのレベルは固定されている。次に、前述の相互作用インデックス(II)が以下のように計算される。
次いでフィッティングシステム306は、ステップ708において、計算された干渉インデックス(II)の大きさが閾値を超えるかどうか判定する。このIIの閾値は、例えば0.05とすることができるが、相互作用インデックス尺度の正確さに応じて、0.05以外の値も使用することができる。閾値を上回る場合には、フィッティングシステムは、ステップ710において、相互作用が建設的であるかそれとも破壊的であるかを判定する。前述のように、フィッティングシステム306は、干渉インデックス(II)が正(すなわち、建設的干渉)であるかそれとも負(すなわち、破壊的干渉)であるかチェックすることにより、相互作用が建設的であるかそれとも破壊的であるかを判定することができる。
相互作用が有意であり、建設的である場合、フィッティングシステム306は、ステップ712において、刺激チャネルの焦点を強めるようにインピーダンス変換行列を調整する。これは、インピーダンス変換行列のすべての不確定の対角項の値を減少させることによって実現できる。各対角項の値は、個々の刺激チャネルの電極中心に対応しており、実施形態においては、当該刺激チャネルの焦点に対して最も有意な影響を及ぼす。したがって、別の実施形態では、フィッティングシステム306は、すべての不確定項の値を低減するのではなく、プローブチャネルの電極中心に対応する対角項、またはこの項を取り囲む値のサブセットを低減するだけでもよい。
相互作用が有意であり、破壊的である場合には、フィッティングシステム306は、ステップ714において、刺激チャネルの焦点を弱めるためにインピーダンス変換行列の不確定対角項の値を増大させることができる。あるいは、例えばフィッティングシステム306は、プローブチャネル電極中心に対応する項の値またはこの項を取り囲む値のサブセットを増大させるだけでもよい。次いで、ステップ716において、更新されたインピーダンス変換行列から新しいチャネル重みが計算され、反復手順が続行されて、新しい重みを使用してプローブチャネルと摂動チャネルとの間の相互作用が測定される。
ステップ708のいて、相互作用インデックス(II)の大きさが閾値を下回る場合には、この特定のプローブチャネルについての反復手順が停止され、フィッティングシステム306は、プローブチャネルの電極中心に対応するインピーダンス変換行列の対角項の最終値を、確定されたものとして設定する。フィッティングシステム306は、単に、メモリまたは他の記憶装置に、その特定の対角項が確定されていることを識別する指示を記憶するだけで、対角項を確定されたものとして設定することができる。次いでフィッティングシステム306は、ステップ720において、すべての対角項が確定されているかどうか判定する。そうでない場合、プロセスはステップ704に戻り、そこでプローブチャネルとして選択された別の刺激チャネルについて最適化手順が繰り返される。次いでこのプロセスは、すべてのチャネルがプローブチャネルとしてテストされ、すべての対角値が確定されるまで、処理を繰り返す。
ステップ712および714に戻って、フィッティングシステム306は、プローブチャネルの電極中心に対応する値および/または不確定項などの対角項を、様々なやり方で調整することができる。例えば、一実施形態では、本明細書でフェーズドアレイ補償係数(PACF:phased array compensation factor)と呼ぶ変数を使用して、増倍率(MF:multiplication factor)が決定される。また、(1つまたは複数の)対角項は、(1つまたは複数の)対角項をこの増倍率(MF)で乗算することによって調整することができる。一実施形態では、PACFとMFとの関係は以下のように定義される。
PACF=1−(1/MF)、または
MF=1/(1−PACF)、
ここで、0≦PACF≦1である。
対角項を調整する際には、フィッティングシステム306は最初に、PACFを特定の値、例えばPACF=0.0などに設定し、次いで対応するMF(すなわち、MF=1)を計算する。次いで、フィッティングシステム306は、対角項(例えば、不確定項、プローブの電極中心に対応する対角項など)をMFで乗算し、新しい対角項を用いてIIを計算する。次に、その後の反復処理ごとに、PACFを、特定の大きさの刻み(+0.2など)だけ増大させる。すなわち、次の反復ではPACF=0.2になり、よって、MF=1.25になる。この刻みサイズ(0.2など)は、逆の条件が発生する(すなわち、相互作用インデックス(II)の値が負から正になる、またはその逆になる)まで使用することができる。逆の条件が発生した場合には、刻みサイズが半減され、その符号が反転され(例えば−0.1にされ)、プロセスが繰り返される。言い換えると、PACFを増大させる場合、初期刻みサイズ(0.2など)は、相互作用インデックス(II)が正(建設的)になるまで使用され、次いで、刻みサイズが低減される(半減されるなど)と共にその符号が反転され(すなわち、−0.1に低減され)、IIの値が負になるまで低減するのに使用され、次いで再度低減され(半減されるなど)(すなわち、+0.05まで低減され)、II値が閾値を下回るまで以下同様に繰り返される。これは、対角項の値がどのようにして調整され得るかの一例にすぎず、特許請求される発明を逸脱することなく他の方法も使用され得ることに留意すべきである。
例えば、別の実施形態では、一度に1つの刺激チャネルを調整し、各反復の終了時に対角値を確定するのではなく、システムは、終了するまでどの項も確定せず、その代わりに、反復ごとに対角値の全部または一部を調整し得る。しかし、これらは、相互作用を最小化するために重みを調整するのに使用され得るいくつかの例示的方法にすぎず、本発明を逸脱することなく他の方法も使用され得ることを理解すべきである。
反復プロセスの終わりに、すべての可能なプローブチャネルと対応する摂動チャネル(すなわち、プローブチャネルに近接するチャネル)との間の相互作用が最小化されると、フィッティングシステム306は、その最終値を使用して刺激チャネルのための電極重みを生成し、次いで、これらの重みを蝸牛インプラント100に提供する。次いで蝸牛インプラント100は、これらの重みを音処理部126および/または刺激部120に記憶し、使用することができる。本発明の別の実施形態では、相互作用が有意でなくなった時点においてチャネル構成を推定することにより、プローブ/摂動チャネル対ごとの反復最適化プロセスを早期に打ち切ることができる。例えば、チャネル構成の推定は、それぞれ、建設的相互作用と破壊的相互作用とをそれぞれ示す最適化の反復処理を内挿することによって行うことができる。本発明の別の実施形態では、プローブ/摂動チャネル対ごとの反復最適化プロセスは、相互作用が有意でなくなる状態には決してならず、反復手順は、相互作用の最小限の大きさまたは推定される最小限の大きさにおいて停止される。
このように、この実施形態は、複合チャネルの構成を各個人の耳にカスタマイズすることができ、神経興奮パターンを狭め、かつ、多数の独立チャネルを提供することができる。またこの実施形態は、複数のチャネルを同時に刺激することができるため刺激速度の上限を引き上げることもでき、かつ、スペクトル分解能をより高め、チャネル相互作用を低減することもできる。
前述のチャネル相互作用を測定する方法およびシステムは、単に、チャネル相互作用を測定するのに用いられ得る一つの手法にすぎないことを理解すべきである。例えば、別の実施形態では、フィッティングシステムは、同じ極性を有するプローブチャネルと摂動チャネルとで同時に刺激信号を印加し、決定されたプローブ閾値を、セットアッププロセスにおいて摂動チャネルを使用せずに決定されたプローブ閾値と比較することによって、チャネル相互作用を測定することができる。摂動チャネルがある場合と摂動チャネルがない場合とのプローブ閾値の差を、閾値と比較することができる。この差が閾値より大きい場合には、それに応じてプローブチャネルの焦点を変更することができる。同様に、別の実施形態では、刺激信号がプローブチャネルと摂動チャネルの両方に印加されてもよく、その場合、プローブ閾値は、まず同じ極性の摂動チャネルを用いて決定され、次いで反対の極性の摂動チャネルを用いて決定される。しかしこの例では、摂動チャネルを固定された閾値下レベルに設定するのではなく、プローブチャネルと摂動チャネルとは同じレベルに設定されかつ調整されて、上記の方法により極性ごとのプローブ閾値が決定される。次いで、極性ごとのプローブ閾値の差が閾値と比較されて、チャネル間の相互作用が有意であるか否かが判定される。
さらに別の実施形態では、フィッティングシステムは、閾値を決定するのではなく、特定の音量を使用することにより相互作用を測定し得る。例えば、摂動チャネルの極性ごとのプローブチャネルのレベルは、受容者が、プローブチャネルの音量が固定された音量レベルと一致すると指示するまで増大される。次いで、これらのレベルを使用してチャネル動作が測定され、前述のように、この測定に基づいて重みが調整される。さらに別の例では、フィッティングシステム306を用いて、閾値より上のレベルに設定されたプローブチャネルについての2つの刺激例、すなわち、一つは当該プローブチャネルと同じ極性を持つ摂動チャネル存在下での刺激例、もう一つはこれと反対の極性を持つ摂動チャネル存在下での刺激例、を提示することができる。その場合受容者は、これらの刺激のどちらがより大きく聞こえるか(すなわち、音がより大きいのは、プローブチャネルと摂動チャネルとが同じ極性を有するときか、それとも反対の極性を有するときか)判定し得る。受容者がそれと気づくほどの差を知覚する場合、チャネル相互作用は有意であると判定され、重みがしかるべく調整される。さらに別の例では、フィッティングシステムは、プローブチャネルと摂動チャネルを同時に適用する必要はなく、その代わりに、2つの刺激信号を、一方を他方の直後に、または2つの信号間に短い時間差をおいて印加し得る。したがって、特許請求される発明を逸脱することなく使用され得る、チャネル相互作用を決定するための他の多数の手法がある。
図9は、本発明の一実施形態に係る聴覚インプラント・フィッティング・システム306の、上位レベルの機能ブロック図である。説明を容易にするために、フィッティングシステム306の主要な構成要素および動作態様がブロック図形式で示されている。これらのブロックは他の多数のやり方で分割され、または組み合わされ得ることを理解すべきである。図9に示す例示的実施形態では、各構成要素は、通信バスにより結合されているものとして示されている。しかし、フィッティングシステム306の構成要素は、個々の用途に適する任意のやり方で接続され得ることを理解すべきである。
図示のように、フィッティングシステム306は、マネージャ902、プローブ/摂動選択904、刺激コントローラ906、重み計算器908、重み調整器910、データ変換器912、音声プロセッサ制御インターフェース922、およびユーザインターフェース930を備える。マネージャ902は全般的操作を行い、図9に示すその他の構成要素を制御する。音声プロセッサ制御インターフェース922は、フィッティングシステム306を、データ通信リンク308を介して蝸牛インプラント100の音声プロセッサに接続するためのインターフェースを提供する。プローブ/摂動選択器904は、マネージャ902の指示により、プローブチャネルと摂動チャネルとして機能すべき刺激チャネルを選択する役割を果たす。刺激コントローラ906は、選択されたプローブチャネルと摂動チャネルに対する刺激の印加を制御する。例えば、刺激コントローラ906は、印加すべき波形、その振幅、極性などを選択し、その情報を蝸牛インプラントに送信して刺激を印加させる。例えば、各実施形態において、刺激コントローラ906は、選択された波形を生成し、選択されたプローブチャネルおよび摂動チャネルにおいて刺激を加えるために、音声プロセッサ制御インターフェース922を介してその波形を蝸牛インプラントに送ることができる。あるいは、例えば刺激コントローラは、音声処理部126に、選択された信号を生成して刺激を加えるよう求める指示を送ることもできる。
ユーザインターフェース930は、聴覚訓練士/臨床医師304が、ユーザインターフェース314を介してフィッティング・インプラント・システム306とやりとりするのに使用される任意のインターフェースを含むことができる。聴覚訓練士/臨床医師304は、コンピュータキーボード、マウス、音声応答ソフトウェア、タッチスクリーン、網膜制御、ジョイスティック、および現在の、または今後開発される他の任意のデータ入力またはデータ提示形式を含む、公知の方法の任意の1つまたはこれらの組み合わせを使用して入力を提供することができる。
図9に示す実施形態では、ユーザインターフェース930は、前述のユーザインターフェース314によって表示されるグラフィカル・ユーザ・インターフェース(GUI)408を含み得る。前述のように、ユーザインターフェース406は、例えば、ユーザインターフェース314を介して選択されたプローブチャネルおよび摂動チャネル、ならびにそれらのレベル、重みなどといった、音響に関するデータを提供し、受け取るのに使用され得る。加えて、聴覚訓練士/臨床医師304は、グラフィカル・ユーザ・インターフェース(GUI)408を使用して、閾値下レベルに設定された摂動チャネルの存在下で受容者にプローブチャネルが聞こえるか否かといった、刺激の結果に関する情報を入力することもできる。加えて、GUI408は、蝸牛インプラントのセットアップ時に、例えば、電極配列の各電極の初期閾値および最大快適レベルを決定する際の情報を入力し/受け取るのに使用することもできる。
図9に示すように、フィッティングシステム306は、刺激チャネルごとの重みを決定する重み計算器908も備えている。例えば、フェーズドアレイ刺激チャネルを用いる蝸牛インプラントシステムにおいて、重み計算器908は、インピーダンス変換行列を反転し、チャネルごとの重みを決定する役割を果たす。またフィッティングシステム306は、各刺激チャネルの重みを調整するように構成された重み調整器910を備えている。例えば、重み調整器910は、受け取った極性ごとのプローブチャネル閾値に基づいて相互作用インデックス(II)を計算し、重みが調整されるべきかどうか判定し、そうである場合、調整のための刻みサイズを決定し、決定した調整を行うことができる。フェーズドアレイ刺激システムでは、重み調整器910は、調整を行うに際してインピーダンス変換行列の対角値を調整し、次いで、変更されたインピーダンス変換行列を重み計算器908に提供することができ、重み計算器908は各チャネルのための新しい重みを計算する。三極刺激システムでは、重み調整器910は刺激チャネルの重みを直接調整し得る。
図9に示す例示的実施形態では、フィッティングシステム206は、決定された重みおよびその他のデータ(閾値や最大快適レベルデータなど)を蝸牛インプラント100のためのインプラントベースのマップデータ322に変換する音響蝸牛インプラント(CI:cochlear implant)データ変換器912も備えている。このマップデータ322は実装される蝸牛インプラント100に適する任意の形とすることができる。データ変換器916によって生成されたこのマップデータ322は、次いで、音声プロセッサ制御インターフェース922を介して音処理部126に提供される。
本明細書で説明した主題は、所望の構成に応じて、様々なシステム、装置、方法、および/または物品において実現され得る。特に、図9に示す実施形態などの、前述の主題の様々な実装形態において、構成要素は、ディジタル電子回路、集積回路、特別に設計されたASIC(特定用途向け集積回路)、コンピュータハードウェア、ファームウェア、ソフトウェア、および/またはこれらの組み合わせとして実現され得る。これらの様々な実装形態には、記憶システム、少なくとも1つの入力装置、および少なくとも1つの出力装置からデータおよび命令を受け取り、これらにデータおよび命令を送るように結合された、専用または汎用とすることのできる少なくとも1つのプログラマブルプロセッサを含むプログラマブルシステム上で実行ないしは解釈が可能な、1つまたは複数のコンピュータプログラムとしての実装形態を含む。
これらのコンピュータプログラム(プログラム、ソフトウェア、ソフトウェアアプリケーション、アプリケーション、コンポーネント、コードともいう)は、プログラマブルプロセッサのためのマシン命令を含み、上位レベルの手続き型プログラミング言語および/もしくはオブジェクト指向プログラミング言語として、かつ/またはアセンブリ言語/機械語として実装され得る。本明細書で使用する場合、「機械可読媒体」という用語は、マシン命令を機械可読信号として受け取る機械可読媒体を含む、プログラマブルプロセッサにマシン命令および/またはデータを提供するのに使用される、任意のコンピュータプログラム製品、コンピュータ可読媒体、装置および/またはデバイス(例えば、磁気ディスク、光ディスク、メモリ、プログラマブル論理回路(PLD:Programmable Logic Device))をいう。同様に、本明細書では、プロセッサと、プロセッサに結合されたメモリとを含むシステムも説明されている。メモリは、本明細書で説明した動作のうちの1つまたは複数をプロセッサに実行させるための1つまたは複数のプログラムを含むことができる。
本願において引用されたすべての文書、特許、学術文献他の資料は、参照により本明細書に組み込まれるものである。
以上、本発明の実施形態を、本発明のいくつかの態様を参照して説明した。一態様として説明した実施形態は、本発明の範囲を逸脱することなく別の態様においても使用され得ることが理解されるはずである。
本発明は、添付の図面を参照しつつ、本発明のいくつかの実施形態に関連して詳細に説明されているが、当業者には様々な変更および改変が明らかとなり得ることを理解すべきである。そのような変更および変形は、それらが添付の特許請求の範囲を逸脱するものでない限り、添付の特許請求の範囲によって定義される本発明の範囲内に含まれるものと理解すべきである。
以上の説明は本発明の特定の実施形態を対象としている。しかし、前述の実施形態には、本発明の利点の一部または全部の達成を伴う他の変更および変形も加えられ得ることが明らかであろう。したがって、添付の特許請求の範囲の目的は、そのようなあらゆる変更および変形を本発明の真の主旨および範囲に含まれるものとして包含することである。
関連出願の相互参照
本願は、2009年2月5日に出願された米国特許出願第12/366,510号、名称「Multi-Electrode Channel Configurations」の優先権を主張するものであり、当該出願の内容は、参照により本明細書に組み込まれる。
本発明は刺激医療装置(stimulating medical device)に関し、より詳細には、刺激医療装置における多電極チャネル構成の使用に関する。
聴力喪失といった障害を補うために、いくつかの電気的刺激装置は、電気信号を使用して受容者の神経線維または筋線維を活性化する。特に、人工聴覚装置(prosthetic hearing device)またはインプラント(implant)は、蝸牛内部の機能している聴神経(functioning auditory nerves)を、電流パルスによって生ずる電界により、直接刺激することで動作する。これらのインプラント装置は、典型的には、入ってくる音を受け取るマイクロホンと、選択された音声戦略に基づいて、入ってくる音の選択された部分を対応する刺激信号に変換する信号プロセッサ(signal processor)とを有している。皮下に埋め込まれた内部受信機が、上記信号を受信し、蝸牛内部に巻かれた電極の配列に電流パルスを送る。電極は蝸牛内の聴神経線維を刺激し、その結果得られる電気的な音情報が聴神経に沿って脳まで運ばれ、解釈される。各電極は単極刺激または双極刺激を与えることができる。単極刺激は、単一の蝸牛内電極から、離れた位置にある蝸牛外電極へ送られる刺激である。双極刺激は、近接して対をなす蝸牛内電極から刺激が与えられることで発生する。双極刺激は刺激をより集中させ、おそらくは、より小さく局在化された聴神経線維の集まりを刺激する。他方、単極刺激は、より広い面積にわたって電流を拡散させ、より大きいニューロンの集まりを刺激する。
単極刺激を使用した場合、現在のインプラント装置では、刺激電極から電気的に遠く離れた標的ニューロンに刺激を集中させることができない。例えば、鼓室階(scala tympani)の長手方向に沿って配置された電極を使用してらせん神経節細胞(spiral ganglion cells)を刺激するインプラント装置では、上記配置された電極による単極刺激を用いてらせん神経節細胞の小さい部分集団を局部的に刺激することは不可能である。鼓室(scalae)を取り囲む骨は、鼓室を満たす外リンパ液(fluid perilymph)や組織に比べて相対的に高いインピーダンスを有するため、刺激電流は蝸牛の長手方向に沿って縦方向に拡散しようとする傾向にある。健康な耳において狭帯域の音響的刺激により誘導された神経興奮パターンに比べ、拡散された縦電流は、相対的に広い神経興奮パターンをもたらす。単極刺激によって生じる広い神経興奮パターンを狭める試みとして、2つまたはそれ以上の近接する電極により電流の全部または一部を供給し及び吸い込む構成が使用されてきた。しかし、複数のチャネルが同じ極性で同時に刺激されると、電界が集中し、神経刺激パターンが非線形的に組み合わされる。複数の電極からなるチャネル構成はより集中したパターンを実現することができるが、それでもなお、通常は、ある程度の有意なチャネル相互作用が近接するチャネルとの間に生じる。単極チャネル構成において最大となる傾向にある上記チャネル相互作用の悪影響を回避するために、現在のインプラント装置のほとんどは、連続する又は時間的に「インターリーブされた」刺激パターンを組み込む刺激戦略を使用している。
最小限のチャネル相互作用を生み出すように複合チャネル構成を最適化する装置および方法が提供される。
本発明の一態様では、複数の刺激チャネルを備える刺激装置の重みを調整する方法が提供され、各刺激チャネルはそれぞれが対応する重みを有する複数の電極を備える。この方法は、複数の刺激チャネルの中からプローブチャネルを選択する行程と、複数の刺激チャネルの中から少なくとも1つの摂動チャネルを選択する行程と、複数の電極および当該各電極に対応する重みを使用してプローブチャネルにより刺激を加える行程と、少なくとも1つの摂動チャネルにより刺激を加える行程と、プローブチャネルからの刺激と1つまたは複数の摂動チャネルからの刺激との相互作用に基づき、刺激チャネルのうちの少なくとも1つに対応付けられた1つまたは複数の重みを調整する行程と、を含む。
別の態様では、複数の刺激チャネルを備える刺激装置の重みを調整するのに用いる装置が提供される。この装置は、複数の刺激チャネルの中からプローブチャネルと摂動チャネルとを選択するように構成された選択器を有する。ここでプローブチャネルは、それぞれが対応する重みと関連付けられた複数の電極を備えている。また、この装置は、複数の電極と当該各電極に対応付けられた重みとを用いる上記プローブチャネルによる刺激と、少なくとも1つの摂動チャネルによる刺激とを加えるための情報を送るように構成された刺激コントローラと、プローブチャネルからの刺激と1つまたは複数の摂動チャネルからの刺激との相互作用に基づき、刺激チャネルのうちの少なくとも1つに対応付けられた1つまたは複数の重みを調整するように構成された重み調整器と、を備える。
以下では、本発明の実施形態を、添付図面を参照して説明する。
本発明に係る実施形態が実装される、蝸牛インプラントを示す透視図である。
一実施形態に係る電極配列を、より詳細に示す図である。
一実施形態に係る、聴覚インプラント・フィッティング・システムを使用して複合刺激チャネル電極の重みの割り当て及び調整を行う構成の一例を示す概略図である。
一実施形態に係る、複合刺激チャネルの重みを調整するための動作を示す、上位レベル(high-level)のフロー図である。
同じ極性を用いて刺激を加える場合の、波形の一例を示す図である。
反対の極性を用いて刺激を加える場合の、波形の一例を示す図である。
摂動チャネルがプローブチャネルと同じ極性を有する場合の、プローブチャネル電界および摂動チャネル電界を示す図である。
極性が同じである場合に、プローブチャネル電界と摂動チャネル電界の組み合わせから生じる複合電界を示す図である。
摂動チャネルがプローブチャネルと反対の極性を有する場合の、プローブチャネル電界および摂動チャネル電界を示す図である。
極性が反対である場合に、プローブチャネル電界と摂動チャネル電界606の組み合わせから生じる複合電界を示す図である。
一実施形態に係る、フェーズドアレイ(phased-array)刺激チャネルの重みの調整を示すフロー図である。
各実施形態に係る、インピーダンス変換行列(transimpedance matrix)の例を示す図である。
一実施形態に係る聴覚インプラント・フィッティング・システムを示す、上位レベルの機能ブロック図である。
本発明の各態様は、一般に、刺激装置における刺激チャネルの決定に関する。一実施形態では、それぞれ複数の重み付き電極を使用して刺激を提供する刺激チャネルの、初期セットが決定される。次に、各刺激チャネルの電極重みを調整することにより、刺激チャネルの相互作用を最小化する反復プロセスが用いられる。この反復プロセスでは、刺激チャネルのうちの1つをプローブチャネルとして用い、近接するチャネルを摂動チャネルとして選択することを用いることができる。次に、プローブチャネルと摂動チャネルが刺激され、2つのチャネル間の相互作用が測定される。測定された相互作用が閾値を超える場合には重みが調整され、新しい重みを使用して、プローブチャネルと摂動チャネルとに再度刺激が加えられる。さらに、このプロセスは、測定チャネル相互作用が閾値を下回るまで繰り返される。次に、別の刺激チャネルのセットがプローブチャネル及び摂動チャネルとして選択され、すべての刺激チャネルをそれぞれプローブチャネルとして用いたときの測定チャネル相互作用が閾値を下回ることが判明するまで、このプロセスが繰り返される。次に、これらの重みは、刺激チャネルにより刺激を加える際に刺激装置により使用される。
本明細書では、本発明の実施形態を、主に聴覚補綴の一種(hearing prosthesis)、すなわち蝸牛補綴(一般には、蝸牛補綴装置(cochlear prosthetic device)、蝸牛インプラント、蝸牛装置などと呼ばれ、本明細書では単に「蝸牛インプラント」という)と関連付けて説明する。蝸牛インプラントとは、一般に、受容者の蝸牛に電気的刺激を送る聴覚補綴をいう。本明細書では、蝸牛インプラントとは、音響的刺激や機械的刺激といった別の種類の刺激と組み合わせて電気的刺激を送る聴覚補綴をも含むものとする。本発明の実施形態は、聴覚脳刺激装置(auditory brain stimulator)、すなわち、受容者の中耳または内耳の構成部分を音響的に、または機械的に刺激する埋め込み型聴覚補綴を含む、現在公知の、または今後開発されるあらゆる蝸牛インプラントまたは他の聴覚補綴において実装され得ることが理解されるはずである。
図1は、外耳101、中耳105および内耳107をもつ受容者に埋め込まれた、従来方式の蝸牛インプラント100の透視図である。以下では、外耳101、中耳105および内耳107の構成部分を説明し、続いて蝸牛インプラント100を説明する。
完全に機能する耳において、外耳101は、耳介110および耳道102を備える。音圧または音波103は、耳介110によって集められ、耳道102内を通って伝えられる。耳道(ear cannel)102の遠位端にまたがって配置されているのが、音波103に反応して振動する鼓膜104である。この振動は、耳小骨106と総称され、槌骨108、砧骨109およびあぶみ骨111を含む中耳105の3つの骨を介して、卵円窓または前庭窓112に結合される。中耳105の骨108、109および111は、音波103をフィルタリングし、増幅し、鼓膜104の振動に反応して卵円窓112を調音させ、または振動させるように働く。この振動は蝸牛140内の外リンパの流体運動の波を生じさせる。
そのような流体運動は、さらには、蝸牛140内部のごく小さい有毛細胞(図示せず)を活性化する。有毛細胞の活性化は、適切な神経インパルスを発生させ、らせん神経節細胞(図示せず)および聴神経114を経て、それが音として知覚される脳(やはり図示せず)まで伝達される。
蝸牛インプラント100は、受容者の身体に直接的または間接的に取り付けられる外部構成部分142と、一時的または永久的に受容者に埋め込まれる内部構成部分144とを備える。外部構成部分142は、典型的には、音を検出するためのマイクロホン124といった1つまたは複数の音入力要素と、音処理部126と、電源(図示せず)と、外部送信部128とを備える。外部送信部128は、外部コイル130と、好ましくは、直接的または間接的に外部コイル130に固定された磁石(図示せず)とを備える。音処理部126は、図示の実施形態では、受容者の耳介110に配置されたマイクロホン124の出力を処理する。音処理部126は、符号化信号(本明細書では、符号化データ信号ともいう)を生成し、ケーブル(図示せず)を介して外部送信部128に提供する。
内部構成部分144は、内部受信部132と、刺激部120と、細長い電極集合体118とを備える。内部受信部132は、内部コイル136と、好ましくは、内部コイルに対して固定された磁石(図示せず)とを備える。内部受信部132と刺激部120とは、生体適合性ハウジング内に密封されており、刺激/受信部と総称されることもある。内部コイルは、前述の外部コイル130から電力および刺激データを受け取る。細長い電極集合体118は、刺激部120に接続された近位端と、蝸牛140内に埋め込まれた遠位端とを有する。電極集合体118は、刺激部120から乳様突起骨119を経て蝸牛140まで延在し、蝸牛104に埋め込まれている。実施形態によっては、電極集合体118は、少なくとも基底領域116に埋め込まれ、場合によってはさらに遠位まで埋め込まれてもよい。例えば、電極集合体118は、蝸牛頂134と呼ばれる、蝸牛140の先端部に向かって延在していてもよい。場合により、電極集合体118は、蝸牛開窓部(cochleostomy)122を介して蝸牛140内に挿入され得る。他の場合には、蝸牛開窓部は、正円窓(round window)121、卵円窓112、岬角123を通して、または蝸牛140の頂回転147を通して形成され得る。
電極集合体118は、その長手方向に沿って配置され、遠位に延在する電極148のアレイ146(本明細書では電極アレイ146ともいう)を備える。電極配列146は電極集合体118上に配置されてもよいが、大部分の実際の適用例では、電極配列146は電極集合体118に組み込まれている。したがって、本明細書では、電極配列146は電極集合体118内に配置されているものとする。刺激部120は、刺激信号を生成する。この刺激信号は、電極148によって蝸牛140に印加され、聴神経114を刺激する
蝸牛インプラント100において、外部コイル130は、無線周波数(RF)リンクを介して内部コイル136に電気信号(すなわち、電力および刺激データ)を送る。内部コイル136は、典型的には、電気的に絶縁された単線(single-strand)または多線(multi-strand)のプラチナ線または金線を複数回巻いたものから構成される線状アンテナコイルである。内部コイル136の電気的絶縁は、柔軟なシリコーン成形(図示せず)によって提供される。使用に際し、埋め込み型受信部132は、受容者の耳介110に隣接する側頭骨のくぼみに位置決めすることができる。
蝸牛は周波数特性によりマップされている、すなわち、それぞれが特定の周波数範囲の刺激信号に反応する領域に区分されている。このため、各周波数を電極集合体の1つまたは複数の電極に割り振って、通常の聴覚であれば当該周波数により自然に刺激されるはずの領域に近い蝸牛内の位置で電界が発生するようにすることができる。これにより、人工聴覚インプラントが、蝸牛内の有毛細胞を迂回して電気的刺激を聴神経線維に直接届け、それによって、脳に自然な聴覚に似た聴覚を知覚させることが可能になる。これを実現するため、音処理部126の処理チャネル、したがって、当該処理チャネルに関連付けられた特定の周波数帯域が、蝸牛の所望の神経線維または神経領域を刺激するために、1つまたは複数の電極のセットにマップされる。このような、刺激に用いられる1つまたは複数の電極のセットを、本明細書では、「電極チャネル」または「刺激チャネル」と呼ぶ。
図2に、一実施形態に係る複数の電極148を備える電極配列146の、より詳細な図を示す。電極配列146は、例えば、単極刺激、双極刺激、三極刺激、フェーズドアレイ刺激などといった異なるモードの刺激を加えるのに使用され得る。以下に説明する実施形態では、概して、電極配列146が複合刺激チャネルを提供する蝸牛インプラントシステムを例にとる。本明細書で使用する場合、複合刺激チャネルとは、例えば、三極刺激チャネルやフェーズドアレイ刺激チャネルなどといった、3つ以上の電極148を使用する刺激チャネルをいう。三極刺激チャネル(四極刺激ともいう)では、電流は中央電極(電極3など)から流れ、2つの近接する電極(電極2および電極4など)のそれぞれに戻る。また三極刺激は、蝸牛外電極と共に使用されてもよく、その場合蝸牛外電極(図示せず)は、2つの近接する電極(電極2および電極4など)と連動して中央電極(電極3など)から流れる電流を吸い込む。以下でさらに詳細に論じるように、これらのシンク電極(電極2および電極4や蝸牛外電極など)はそれぞれ重み付けされ、各シンク電極は割り当てられた重みに従うパーセンテージで、中央電極(電極3など)から流れる電流の一部を吸い込む。
フェーズドアレイ刺激では、重みが複数の電極(例えば電極1〜5、2〜8、すべての電極など)に割り当てられ、刺激は重み付き電極を使用して加えられる。またフェーズドアレイ刺激は、重み付き蝸牛外電極(図示せず)も用いて行うこともできる。フェーズドアレイ刺激の詳細は、Chris van den Honertを発明者とする米国特許出願第11/414360号、名称「Focused Stimulation in a Medical Stimulation Device」、並びに、非特許文献(Chris van den Honert and David C. Kelsall, 「Focused Intracochlear Electric Stimulation with Phase Array Channels」, J. Acoust. Soc. Am., 121, 3703-3716 (June 2007))に記載されている。これらの参照文献をまとめて、以下では「van den Honert文献」と称するものとする。
図3は、一実施形態に係る、聴覚インプラント・フィッティング・システム306を使用して複合刺激チャネル電極重みの割り当て及び調整を行う、一の例示構成300を示す概略図である。図3に示すように、聴覚訓練士または臨床医304は、対話式ソフトウェアおよびコンピュータハードウェアを備える聴覚インプラント・フィッティング・システム306(本明細書における「フィッティングシステム」)を使用して、その受容者に固有の受容者マップデータ322を作成する。この受容者マップデータ322は、ディジタルデータとしてシステム306に記憶され、最終的には受容者302のための音処理部126のメモリにダウンロードされる。システム306は、マッピング機能、神経反応測定機能、音響的刺激機能、及び、神経反応測定その他の刺激の記録機能といった機能の1つまたは複数を実行するようにプログラムすることができ、かつ/または、そのようにプログラムされたソフトウェアを実装することもできる。
図3に示す実施形態では、蝸牛インプラント100の音処理部126は、フィッティングシステム306に直接接続され、音処理部126とフィッティングシステム306との間のデータ通信リンク308が確立される。その後システム306は、データ通信リンク308によって音処理部126と双方向に結合される。図3では音処理部126とフィッティングシステム306とがケーブルによって接続されているが、現在の、または今後開発される任意の通信リンクを用いて、インプラントとフィッティングシステムとを通信可能に結合することができるものと理解すべきである。
最初に、聴覚訓練士304は、蝸牛インプラントシステム100をセットアップし、蝸牛インプラントシステム100に初期パラメータセットを与える。この作業は、蝸牛インプラント100の校正や、電極配列146の各刺激チャネルに対する閾値および最大快適レベルの決定及び設定を含むものとすることができる。蝸牛インプラントを適合させるためのメカニズムの一例が、2006年2月6日にJames F. Patrickらにより出願された、米国特許出願第11/348,309号、名称「Prosthetic Hearing Implant Fitting Technique」に記載されている。しかし、上記特許文献の内容は蝸牛インプラントシステムを初期セットアップする技法の一例にすぎず、現在の、または今後開発される任意の技法が蝸牛インプラントシステムの初期セットアップに使用され得ることに留意すべきである。また、初期セットアップ時に、聴覚訓練士は、刺激チャネルのそれぞれについて最初に使用すべきデフォルトの重みセットを与えることもできる。
図4は、一実施形態に係る、複合刺激チャネル重みを調整する動作を示す、上位レベルのフロー図である。図4について、図3に示すフィッティングシステムを参照しつつ説明する。ただし、図4は説明のための一例にすぎず、図4に示す一般的方法は、別の種類のシステムでも用いることができることに留意すべきである。
図3および図4についての以下の説明では、例示した蝸牛インプラント100は、22個の電極に加えて1つの蝸牛外電極を備え、20個の三極刺激チャネルを提供する電極配列を含むものとする。しかし、これは説明のための例にすぎず、図4の方法は、フェーズドアレイ刺激チャネルといった他の複合刺激チャネルでも使用され得ることに留意すべきである。以下では、図4のプロセスがどのようにしてフェーズドアレイ刺激チャネルの重みの調整に用いられるのかについて、図7を参照しつつ説明する。
上述したように、これらの刺激チャネルは、電流が中央電極(電極2など)からその近傍の電極(電極1および電極3など)と蝸牛外電極に流れる三極刺激チャネルとすることができる。蝸牛インプラント100を初期セットアップする際に、聴覚訓練士304は、フィッティングシステム306を使用して、刺激チャネルごとに電極のそれぞれに対して、デフォルトの重みセットを割り当てることができる。例えば、近接する電極(1と3など)はそれぞれ、中央電極(2など)からの電流の30%を吸い込み、蝸牛外電極はその40%を吸い込むように、中央電極には+1.0の重み、近接する電極にはそれぞれ−0.3の重み、蝸牛外電極には−0.4の重みを割り当てることができる。
刺激チャネルに対するデフォルトの重みを用いて蝸牛インプラントシステム100を初期セットアップした後、図4のプロセスを使用して刺激チャネルごとの電極重みを調整し、各刺激チャネルの焦点を調整する。まず、ステップ410において、フィッティングシステム306は、複数の刺激チャネルの中からプローブチャネルと摂動チャネルを選択する。例示した22個の電極配列では、第1の刺激チャネル(SC1)は、中心とする電極2と、これに近接する電極(1および3)と、シンクとして動作する蝸牛外電極とで構成される。この第1の刺激チャネル(SC1)は、プローブチャネルとして選択する。この例では、摂動チャネルとして、上記選択されたプローブチャネルに近接する刺激チャネルが選択される。すなわち、この例では、摂動チャネルとして、電極3を中心とする第2の刺激チャネル(SC2)が選択される。しかし、図4のプロセスでは、任意の刺激チャネルを初期プローブチャネルとして選択することができ、第1の刺激チャネル(SC1)が選択されたのは単に例示のためであることに留意すべきである。また、各実施形態において、聴覚訓練士304は、ユーザインターフェース314を用いてプローブチャネルおよび摂動チャネルを選択し、フィッティングシステムによって選択されたチャネルを無効することもできることに留意すべきである。
次に、フィッティングシステム306は、蝸牛インプラントに対し、選択されたプローブチャネルおよび摂動チャネルに刺激信号を印加するよう指示し、ステップ420において、それらの相互作用を測定する。プローブチャネルと摂動チャネルとの間の相互作用を測定するには様々な方法およびシステムを使用することができ、その方法およびシステムの例については後述する。
プローブチャネルと摂動チャネルとの間の相互作用を測定した後、ステップ430において、フィッティングシステム306は、相互作用の大きさが閾値を超えるかどうかチェックする。状況によっては、相互作用の大きさは、指定された閾値を決して下回らない場合もあり得る。むしろ、チャネル構成が調整される際には、測定された相互作用は建設的状態と破壊的状態とを交互に繰り返し、決して閾値を下回ることはない。そのような場合、フィッティングシステム360は、ステップ430において、相互作用の大きさが最小化される点(すなわち、測定された相互作用が建設的状態と破壊的状態とを繰り返す点)において反復プロセスを停止するものとしてもよい。一実施形態では、ステップ430までの処理を所定の回数だけ行った後で、測定された相互作用の大きさが減少していない場合には、測定された相互作用は最小化されたものと判断するものとする。
測定された相互作用が閾値を超えると判定され、最小化されたと判定されない場合、フィッティングシステム306は、ステップ440において、プローブチャネルと摂動チャネルとの間の相互作用が建設的であるかそれとも破壊的であるか判定する。本明細書では、建設的相互作用とは、プローブチャネルに建設的に干渉し、プローブチャネルによって発生する電界の大きさを増大させる摂動チャネルをいい、破壊的相互作用とは、プローブチャネルに破壊的に干渉し、プローブチャネルによって発生する電界の大きさを減少させる摂動チャネルをいう。
相互作用が建設的である場合、フィッティングシステム306は、ステップ450において、プローブチャネルおよび/または摂動チャネルの焦点を強めるようにプローブチャネルおよび/または摂動チャネルの重みを調整し、蝸牛インプラント100に新しい重みを与える。しかし、測定された相互作用が破壊的である場合には、フィッティングシステム306は、ステップ460において、プローブチャネルおよび/または摂動チャネルの焦点を弱めるようにプローブチャネルおよび/または摂動チャネルの重みを調整し、蝸牛インプラント100に新しい重みを与える。本明細書で使用する場合、焦点(focus)という用語は、埋め込まれた電極配列の刺激時に刺激チャネルによって生成される電界の集中をいう。例えば、刺激チャネルの焦点が強められる場合には、結果として生じる電界は狭められる。また、刺激チャネルの焦点を弱めるとは、結果として生じる電界を広げることをいう。
重みが調整された後で、反復プロセスはステップ410に戻り、そこで新しい重みを使用して刺激が加えられ(ステップ410)、更新された重みを用いたプローブチャネルと摂動チャネルとの間の相互作用が測定される(ステップ420)。この反復プロセスは、ステップ430で、プローブチャネルと摂動チャネルとの間の測定された相互作用が閾値を下回るまで続く。測定された相互作用が閾値を下回った後で、フィッティングシステム306は次に、ステップ470で、チェックすべき次の刺激チャネルがあるかどうかチェックする。そうである場合、プロセスはステップ410に戻り、新しい刺激チャネルがプローブチャネルおよび摂動チャネルとして選択される。例えば、プローブチャネルとしての刺激チャネル1(SC1)のための重みを調整した後で、プロセスは次いで、刺激チャネル2(SC2)の重みを調整するために、プローブチャネルとして刺激チャネル2(SC2)を選択し得る。前述のように、各実施形態では、近接する刺激チャネルが摂動チャネルとして選択される。したがって、この第2の通過では、フィッティングシステム306は第1(SC1)または第3(SC3)の刺激チャネルを摂動チャネルとして選択し得る。次に、本プロセスは、ステップ470において蝸牛インプラント100のすべての刺激チャネルの焦点が調整された(すなわち、その重みが調整された)と判定されるまで、刺激チャネルごとに繰り返される。その後、プロセスはステップ480で終了する。
前述のように、フィッティングシステム306は、ステップ420で、プローブチャネルと摂動チャネルとの間の相互作用を測定する。以下では、相互作用の測定に用いることのできるメカニズムの例を、より詳細に説明する。まず、フィッティングシステム306は、蝸牛インプラント100に対し、同じ形状の波形であって全振幅のみが異なる2つの波形を用いてプローブチャネルおよび摂動チャネルに刺激を加えるよう指示する。図5Aに、刺激の付与のためプローブチャネル502と摂動チャネル504に与えられる波形の例を示す。図示のように、プローブ波形502と摂動波形504とは、同一の形状および極性を有し、その全振幅だけが異なる。さらに、図示のように、この例では、波形502と波形504は二相方形波(bi-phasic square wave)である。しかし、これらの波形形状は例示にすぎず、三角波、正弦波などといった他の波形形状も使用され得ることに留意すべきである。この波形の特性は、フィッティングシステム306および/または聴覚訓練士304により選択することができる。
摂動チャネル刺激の振幅は、摂動チャネルの閾値レベルを下回るレベル(本明細書では閾値下レベルと称する)に設定され得る。前述のように、この閾値レベルは、フィッティングシステム306を使用して蝸牛インプラント100のセットアップ時に決定される。次いで、閾値下レベルの摂動チャネルが存在するときのプローブチャネルの閾値が、例えば、言葉によるフィードバック法などを使用して決定され得る。例えば、フィルタリングシステム306は、プローブチャネルが聞こえることを受容者が通知するまで、閾値下レベルの摂動チャネルが存在するときのプローブチャネルのレベルを繰り返し上げることができる。聴覚訓練士または臨床医師304は、ユーザインターフェース314を使用して、この通知をフィッティングシステム306に与えることができ、あるいは例えば、フィッティングシステム306は、例えば、神経反応遠隔測定、聴性脳幹反応、他の誘発電位などといった非精神物理的尺度を使用して、相互作用を測定する(プローブ閾値を決定するなど)ことができる。
次に、摂動チャネルの極性が反転され、刺激がプローブチャネルと摂動チャネルとで同時に加えられる。図5Bに、プローブチャネル502と摂動チャネル506の波形の例を示す。図示のように、プローブチャネル波形502は図5Aのものと同じであり、摂動チャネル波形506は摂動チャネル波形504と同一であるが、反対の極性を有する。次に、反対の極性を有する摂動チャネルの存在下でのプローブチャネルの閾値が、摂動チャネルのレベルを以前に用いたものと同じ閾値下レベルに設定して決定される。
2つのプローブ閾値(1つは同じ極性の摂動チャネルでのものであり、1つは反対の極性の摂動チャネルでのものである)を決定した後で、相互作用インデックス(II)が計算され得る。
このIIは以下の式を使用する。
ここで、II(probe,pert)は、プローブチャネルと摂動チャネルの相互作用インデックスであり、probeThreshold(opposite)は、プローブチャネルと反対の極性を有する摂動チャネル存在下でのプローブチャネル測定の閾値であり、probeThreshold(same)は、プローブチャネルと同じ極性を有する摂動チャネル存在下でのプローブチャネル測定の閾値であり、perturbationChannelLevelは、プローブ閾値レベルを決定する際に使用される摂動チャネルの閾値下レベルである。一実施形態では、この式で使用されるプローブチャネル閾値と摂動チャネルレベルは線形電流単位(linear current unit)で表される。
次に、フィッティングシステム306は、ステップ430において、計算された相互作用インデックス(II)の大きさを閾値と比較して、相互作用インデックス(II)の大きさが閾値を下回るか否か判定する。下回らない場合、これはプローブチャネルと摂動チャネルとの間の相互作用が有意であることを示す。また、下回る場合、相互作用は有意でないと判定される。
また、相互作用が有意であるか否か判定することに加えて、フィッティングシステム306は、ステップ440において、算出されたこの相互作用インデックス(II)を使用して、相互作用が建設的であるかそれとも破壊的であるかも判定する。例えば、この例では、ステップ440において、相互作用インデックス(II)が正である(すなわち、>0)場合、相互作用は建設的であると判定され、相互作用インデックス(II)が負である(すなわち、<0)場合、相互作用は破壊的であると判定される。
図6A〜6Dに、例示したプローブチャネルおよび摂動チャネルにより発生する電界の一例を示し、これらを使用してチャネル間の建設的相互作用よび破壊的相互作用を説明する。図6Aには、摂動チャネルがプローブチャネルと同じ極性を有する場合のプローブチャネル電界602と摂動チャネル電界604が示されている。図6Bには、極性が同じである場合のプローブチャネル電界602と摂動チャネル電界604の組み合わせから生じる複合電界614が示されている。図6Cには、摂動チャネルがプローブチャネルと反対の極性を有する場合のプローブチャネル電界602と摂動チャネル電界606が示されている。図6Dには、極性が反対である場合のプローブチャネル電界602と摂動チャネル電界606の組み合わせから生じる複合電界616が示されている。図6A〜6Dにおいて、横軸は電極配列に沿った位置を示し、縦軸は電界の電位を示している。さらに、点線601は、結果として生じる電界レベルの違いを読み取りやすくするための、単なる目安である。
建設的干渉は、共通の極性から生じる電界614が反対の極性から生じる電界616より大きいときに発生し、破壊的干渉は、共通の極性から生じる電界614が反対の極性から生じる電界616より小さいときに発生する。前述の相互作用インデックス(II)を参照すると、建設的干渉は、プローブチャネルと摂動チャネルの間で極性が共通する場合について決定されたプローブ閾値が、極性が反対である場合について決定されたプローブ閾値より小さいときに認められ、破壊的干渉は逆の状態が生じるときに認められる。
前述のように、ステップ450および460において、プローブチャネルおよび/または摂動チャネルの焦点は、それぞれ、プローブチャネルおよび/または摂動チャネルの重みを調整することによって強められ、または弱められる。蝸牛外電極を備える三極刺激を使用した蝸牛インプラント100では、焦点は、例えば、フィッティングシステム306が近接する電極(電極1および/または電極3など)の一方または両方の重みの大きさを増大させたり、蝸牛外電極の重みの大きさを低減することなどにより強められ得る。例えば、最初に、近接する電極には−0.3の重みが割り当てられ、蝸牛外電極には−0.4の重みが割り当てられ得る。この例では、中央電極の重みは、常に、三極刺激では+1.0に設定されており、所与のチャネルにおけるすべての重みの合計値は0になることに留意すべきである。
焦点を調整する際に、フィッティングシステム306は、例えば、それぞれ、0.05刻みで、近接する電極の一方または両方の重みの大きさを増大させ、0.5刻みまたは0.1刻みで蝸牛外電極の重みの大きさを低減することによって焦点を強めることができる。これらの値は例示にすぎないことに留意すべきである。同様に、プローブチャネルおよび/または摂動チャネルの焦点は、近接する電極の重みの大きさを低減し、蝸牛外電極の重みの大きさを増大させることによって弱めることもできる。これは、どのようにして重みが調整され得るかの一例にすぎず、他の方法も使用され得ることに留意すべきである。例えば、重みを調整する際に重みを乗算または除算するのにスカラが使用されてもよい。あるいは例えば、刻みサイズは、最初は大きな刻みが使用され、次いで、相互作用が建設的から破壊的になるかどうか、またはその逆であるかどうかなど、ある一定の条件に応じてその刻みが低減されるように調整する方法を使用してもよい。
前述のように、図3〜4の方法およびシステムは、例えばフェーズドアレイ刺激チャネルなどといった、三極チャネル以外の種類の複合チャネルのための重みの調整にも使用することができる。以下に、フェーズドアレイ刺激チャネルのための重みを調整する方法およびシステムの一例を説明する。van den Honert文献でより詳細に論じられているように、フェーズドアレイ刺激チャネルのデフォルトの重みは、蝸牛インプラント100のインピーダンス変換行列を計算し、次いでそのインピーダンス変換行列を反転させて刺激チャネルの重みを提供することによって決定され得る。
図7に、一実施形態に係る、図4に示す一般的方法がどのようにしてフェーズドアレイ刺激チャネルのための重みを調整するのに使用され得るかについての流れ図を示す。図7について、前述のフィッティング構成システム300を参照しつつ、説明する。ただし、他のシステムにも使用され得ることに留意すべきである。
最初に、ステップ702において、初期インピーダンス変換行列が取得される。このインピーダンス変換行列は、例えばvan den Honert文献で論じられているような方法で取得することができる。図8に、実施形態に係るインピーダンス変換行列Zmの一例を示す。図示のように、インピーダンス変換行列Zm800は22列、22行を含む。各列と行は、例示した22個の電極を含む電極配列の個々の電極に対応し、行は、インピーダンス変換行列を測定する際に刺激が加えられる電極に対応している。また列は、インピーダンス変換行列を獲得する際に加えられた刺激が測定される電極に対応している。van den Honert文献で論じられているように、インピーダンス変換行列の、対角を除くすべての値は、一度に1つずつ、既知の電流で各電極を刺激することによって実験的に測定される。次に、各非刺激電極において、結果として得られる電圧が測定される。刺激電極上で観測される電圧は、体抵抗および組織インピーダンスからの寄与部分を含むため、インピーダンス変換行列の対角はこのようにしては求められない。というよりは、van den Honert文献によれば、インピーダンス変換行列800の対角802に沿った値は、対角値を取り囲む値の線形外挿によって推定することができる。インピーダンス変換行列を獲得し、対角値802を推定する方法およびシステムは、前述のvan den Honert文献に記載されており、ここではこれ以上論じない。インピーダンス変換行列Zm800は22列22行を含むが、これは例にすぎず、他の実施形態では、22以外の数の電極を含む電極配列も使用され得ることに留意すべきである。
推定対角値を用いてインピーダンス変換行列が獲得された後で、フィッティングシステム306は、インピーダンス変換行列を反転させて、フェーズドアレイチャネルのための重みの初期セットを獲得する。特に、反転したインピーダンス変換行列(トランスアドミタンス行列ともいう)の各列は、単一の個別の刺激領域にゼロでないスカラ内電圧(intrascalar voltage)を生じさせる各電極からの電流寄与を定義する、数値重み(トランスアドミタンス値)のセットを含んでいる。したがって、このような重みのベクトルは、それぞれフェーズドアレイ刺激チャネルを定義する。
フィッティングシステム306は、ステップ704において、刺激チャネルのうちの1つをプローブチャネルとして選択し、近接するチャネルを摂動チャネルとして選択する。次いで、ステップ706において、選択されたプローブチャネルと摂動チャネルとの間の相互作用が測定される。これは、図4のステップ420を参照して説明したのと同様に行われる。特に、一実施形態では、この相互作用は、固定された閾値下レベルで摂動チャネルを刺激すると同時に、当該刺激を実行する間にプローブチャネルの閾値を決定することによって測定することができる。刺激を加えるため各チャネルに供給される電流波形の形状は、図5A〜Bに示す波形のように、スカラ乗数(scalar multiplier)以外は同一とすることができる。
プローブチャネルの閾値は、プローブと同じ極性を有する摂動チャネルを用いて1回測定され、また、プローブチャネルの反対の極性を有する摂動チャネルを用いて1回測定されて、計2回測定される。どちらの閾値決定においても、摂動チャネルのレベルは固定されている。次に、前述の相互作用インデックス(II)が以下のように計算される。
次いでフィッティングシステム306は、ステップ708において、計算された干渉インデックス(II)の大きさが閾値を超えるかどうか判定する。このIIの閾値は、例えば0.05とすることができるが、相互作用インデックス尺度の正確さに応じて、0.05以外の値も使用することができる。閾値を上回る場合には、フィッティングシステムは、ステップ710において、相互作用が建設的であるかそれとも破壊的であるかを判定する。前述のように、フィッティングシステム306は、干渉インデックス(II)が正(すなわち、建設的干渉)であるかそれとも負(すなわち、破壊的干渉)であるかチェックすることにより、相互作用が建設的であるかそれとも破壊的であるかを判定することができる。
相互作用が有意であり、建設的である場合、フィッティングシステム306は、ステップ712において、刺激チャネルの焦点を強めるようにインピーダンス変換行列を調整する。これは、インピーダンス変換行列のすべての不確定の対角項の値を減少させることによって実現できる。各対角項の値は、個々の刺激チャネルの電極中心に対応しており、実施形態においては、当該刺激チャネルの焦点に対して最も有意な影響を及ぼす。したがって、別の実施形態では、フィッティングシステム306は、すべての不確定項の値を低減するのではなく、プローブチャネルの電極中心に対応する対角項、またはこの項を取り囲む値のサブセットを低減するだけでもよい。
相互作用が有意であり、破壊的である場合には、フィッティングシステム306は、ステップ714において、刺激チャネルの焦点を弱めるためにインピーダンス変換行列の不確定対角項の値を増大させることができる。あるいは、例えばフィッティングシステム306は、プローブチャネル電極中心に対応する項の値またはこの項を取り囲む値のサブセットを増大させるだけでもよい。次いで、ステップ716において、更新されたインピーダンス変換行列から新しいチャネル重みが計算され、反復手順が続行されて、新しい重みを使用してプローブチャネルと摂動チャネルとの間の相互作用が測定される。
ステップ708において、相互作用インデックス(II)の大きさが閾値を下回る場合には、この特定のプローブチャネルについての反復手順が停止され、フィッティングシステム306は、プローブチャネルの電極中心に対応するインピーダンス変換行列の対角項の最終値を、確定されたものとして設定する。フィッティングシステム306は、単に、メモリまたは他の記憶装置に、その特定の対角項が確定されていることを識別する指示を記憶するだけで、対角項を確定されたものとして設定することができる。次いでフィッティングシステム306は、ステップ720において、すべての対角項が確定されているかどうか判定する。そうでない場合、プロセスはステップ704に戻り、そこでプローブチャネルとして選択された別の刺激チャネルについて最適化手順が繰り返される。次いでこのプロセスは、すべてのチャネルがプローブチャネルとしてテストされ、すべての対角値が確定されるまで、処理を繰り返す。
ステップ712および714に戻って、フィッティングシステム306は、プローブチャネルの電極中心に対応する値および/または不確定項などの対角項を、様々なやり方で調整することができる。例えば、一実施形態では、本明細書でフェーズドアレイ補償係数(PACF:phased array compensation factor)と呼ぶ変数を使用して、増倍率(MF:multiplication factor)が決定される。また、(1つまたは複数の)対角項は、(1つまたは複数の)対角項をこの増倍率(MF)で乗算することによって調整することができる。一実施形態では、PACFとMFとの関係は以下のように定義される。
PACF=1−(1/MF)、または
MF=1/(1−PACF)、
ここで、0≦PACF≦1である。
対角項を調整する際には、フィッティングシステム306は最初に、PACFを特定の値、例えばPACF=0.0などに設定し、次いで対応するMF(すなわち、MF=1)を計算する。次いで、フィッティングシステム306は、対角項(例えば、不確定項、プローブの電極中心に対応する対角項など)をMFで乗算し、新しい対角項を用いてIIを計算する。次に、その後の反復処理ごとに、PACFを、特定の大きさの刻み(+0.2など)だけ増大させる。すなわち、次の反復ではPACF=0.2になり、よって、MF=1.25になる。この刻みサイズ(0.2など)は、逆の条件が発生する(すなわち、相互作用インデックス(II)の値が負から正になる、またはその逆になる)まで使用することができる。逆の条件が発生した場合には、刻みサイズが半減され、その符号が反転され(例えば−0.1にされ)、プロセスが繰り返される。言い換えると、PACFを増大させる場合、初期刻みサイズ(0.2など)は、相互作用インデックス(II)が正(建設的)になるまで使用され、次いで、刻みサイズが低減される(半減されるなど)と共にその符号が反転され(すなわち、−0.1に低減され)、IIの値が負になるまで低減するのに使用され、次いで再度低減され(半減されるなど)(すなわち、+0.05まで低減され)、II値が閾値を下回るまで以下同様に繰り返される。これは、対角項の値がどのようにして調整され得るかの一例にすぎず、特許請求される発明を逸脱することなく他の方法も使用され得ることに留意すべきである。
例えば、別の実施形態では、一度に1つの刺激チャネルを調整し、各反復の終了時に対角値を確定するのではなく、システムは、終了するまでどの項も確定せず、その代わりに、反復ごとに対角値の全部または一部を調整し得る。しかし、これらは、相互作用を最小化するために重みを調整するのに使用され得るいくつかの例示的方法にすぎず、本発明を逸脱することなく他の方法も使用され得ることを理解すべきである。
反復プロセスの終わりに、すべての可能なプローブチャネルと対応する摂動チャネル(すなわち、プローブチャネルに近接するチャネル)との間の相互作用が最小化されると、フィッティングシステム306は、その最終値を使用して刺激チャネルのための電極重みを生成し、次いで、これらの重みを蝸牛インプラント100に提供する。次いで蝸牛インプラント100は、これらの重みを音処理部126および/または刺激部120に記憶し、使用することができる。本発明の別の実施形態では、相互作用が有意でなくなった時点においてチャネル構成を推定することにより、プローブ/摂動チャネル対ごとの反復最適化プロセスを早期に打ち切ることができる。例えば、チャネル構成の推定は、それぞれ、建設的相互作用と破壊的相互作用とをそれぞれ示す最適化の反復処理を内挿することによって行うことができる。本発明の別の実施形態では、プローブ/摂動チャネル対ごとの反復最適化プロセスは、相互作用が有意でなくなる状態には決してならず、反復手順は、相互作用の最小限の大きさまたは推定される最小限の大きさにおいて停止される。
このように、この実施形態は、複合チャネルの構成を各個人の耳にカスタマイズすることができ、神経興奮パターンを狭め、かつ、多数の独立チャネルを提供することができる。またこの実施形態は、複数のチャネルを同時に刺激することができるため刺激速度の上限を引き上げることもでき、かつ、スペクトル分解能をより高め、チャネル相互作用を低減することもできる。
前述のチャネル相互作用を測定する方法およびシステムは、単に、チャネル相互作用を測定するのに用いられ得る一つの手法にすぎないことを理解すべきである。例えば、別の実施形態では、フィッティングシステムは、同じ極性を有するプローブチャネルと摂動チャネルとで同時に刺激信号を印加し、決定されたプローブ閾値を、セットアッププロセスにおいて摂動チャネルを使用せずに決定されたプローブ閾値と比較することによって、チャネル相互作用を測定することができる。摂動チャネルがある場合と摂動チャネルがない場合とのプローブ閾値の差を、閾値と比較することができる。この差が閾値より大きい場合には、それに応じてプローブチャネルの焦点を変更することができる。同様に、別の実施形態では、刺激信号がプローブチャネルと摂動チャネルの両方に印加されてもよく、その場合、プローブ閾値は、まず同じ極性の摂動チャネルを用いて決定され、次いで反対の極性の摂動チャネルを用いて決定される。しかしこの例では、摂動チャネルを固定された閾値下レベルに設定するのではなく、プローブチャネルと摂動チャネルとは同じレベルに設定されかつ調整されて、上記の方法により極性ごとのプローブ閾値が決定される。次いで、極性ごとのプローブ閾値の差が閾値と比較されて、チャネル間の相互作用が有意であるか否かが判定される。
さらに別の実施形態では、フィッティングシステムは、閾値を決定するのではなく、特定の音量を使用することにより相互作用を測定し得る。例えば、摂動チャネルの極性ごとのプローブチャネルのレベルは、受容者が、プローブチャネルの音量が固定された音量レベルと一致すると指示するまで増大される。次いで、これらのレベルを使用してチャネル動作が測定され、前述のように、この測定に基づいて重みが調整される。さらに別の例では、フィッティングシステム306を用いて、閾値より上のレベルに設定されたプローブチャネルについての2つの刺激例、すなわち、一つは当該プローブチャネルと同じ極性を持つ摂動チャネル存在下での刺激例、もう一つはこれと反対の極性を持つ摂動チャネル存在下での刺激例、を提示することができる。その場合受容者は、これらの刺激のどちらがより大きく聞こえるか(すなわち、音がより大きいのは、プローブチャネルと摂動チャネルとが同じ極性を有するときか、それとも反対の極性を有するときか)判定し得る。受容者がそれと気づくほどの差を知覚する場合、チャネル相互作用は有意であると判定され、重みがしかるべく調整される。さらに別の例では、フィッティングシステムは、プローブチャネルと摂動チャネルを同時に適用する必要はなく、その代わりに、2つの刺激信号を、一方を他方の直後に、または2つの信号間に短い時間差をおいて印加し得る。したがって、特許請求される発明を逸脱することなく使用され得る、チャネル相互作用を決定するための他の多数の手法がある。
図9は、本発明の一実施形態に係る聴覚インプラント・フィッティング・システム306の、上位レベルの機能ブロック図である。説明を容易にするために、フィッティングシステム306の主要な構成要素および動作態様がブロック図形式で示されている。これらのブロックは他の多数のやり方で分割され、または組み合わされ得ることを理解すべきである。図9に示す例示的実施形態では、各構成要素は、通信バスにより結合されているものとして示されている。しかし、フィッティングシステム306の構成要素は、個々の用途に適する任意のやり方で接続され得ることを理解すべきである。
図示のように、フィッティングシステム306は、マネージャ902、プローブ/摂動選択904、刺激コントローラ906、重み計算器908、重み調整器910、データ変換器912、音声プロセッサ制御インターフェース922、およびユーザインターフェース930を備える。マネージャ902は全般的操作を行い、図9に示すその他の構成要素を制御する。音声プロセッサ制御インターフェース922は、フィッティングシステム306を、データ通信リンク308を介して蝸牛インプラント100の音声プロセッサに接続するためのインターフェースを提供する。プローブ/摂動選択器904は、マネージャ902の指示により、プローブチャネルと摂動チャネルとして機能すべき刺激チャネルを選択する役割を果たす。刺激コントローラ906は、選択されたプローブチャネルと摂動チャネルに対する刺激の印加を制御する。例えば、刺激コントローラ906は、印加すべき波形、その振幅、極性などを選択し、その情報を蝸牛インプラントに送信して刺激を印加させる。例えば、各実施形態において、刺激コントローラ906は、選択された波形を生成し、選択されたプローブチャネルおよび摂動チャネルにおいて刺激を加えるために、音声プロセッサ制御インターフェース922を介してその波形を蝸牛インプラントに送ることができる。あるいは、例えば刺激コントローラは、音声処理部126に、選択された信号を生成して刺激を加えるよう求める指示を送ることもできる。
ユーザインターフェース930は、聴覚訓練士/臨床医師304が、ユーザインターフェース314を介してフィッティング・インプラント・システム306とやりとりするのに使用される任意のインターフェースを含むことができる。聴覚訓練士/臨床医師304は、コンピュータキーボード、マウス、音声応答ソフトウェア、タッチスクリーン、網膜制御、ジョイスティック、および現在の、または今後開発される他の任意のデータ入力またはデータ提示形式を含む、公知の方法の任意の1つまたはこれらの組み合わせを使用して入力を提供することができる。
図9に示す実施形態では、ユーザインターフェース930は、前述のユーザインターフェース314によって表示されるグラフィカル・ユーザ・インターフェース(GUI)408を含み得る。前述のように、ユーザインターフェース406は、例えば、ユーザインターフェース314を介して選択されたプローブチャネルおよび摂動チャネル、ならびにそれらのレベル、重みなどといった、音響に関するデータを提供し、受け取るのに使用され得る。加えて、聴覚訓練士/臨床医師304は、グラフィカル・ユーザ・インターフェース(GUI)408を使用して、閾値下レベルに設定された摂動チャネルの存在下で受容者にプローブチャネルが聞こえるか否かといった、刺激の結果に関する情報を入力することもできる。加えて、GUI408は、蝸牛インプラントのセットアップ時に、例えば、電極配列の各電極の初期閾値および最大快適レベルを決定する際の情報を入力し/受け取るのに使用することもできる。
図9に示すように、フィッティングシステム306は、刺激チャネルごとの重みを決定する重み計算器908も備えている。例えば、フェーズドアレイ刺激チャネルを用いる蝸牛インプラントシステムにおいて、重み計算器908は、インピーダンス変換行列を反転し、チャネルごとの重みを決定する役割を果たす。またフィッティングシステム306は、各刺激チャネルの重みを調整するように構成された重み調整器910を備えている。例えば、重み調整器910は、受け取った極性ごとのプローブチャネル閾値に基づいて相互作用インデックス(II)を計算し、重みが調整されるべきかどうか判定し、そうである場合、調整のための刻みサイズを決定し、決定した調整を行うことができる。フェーズドアレイ刺激システムでは、重み調整器910は、調整を行うに際してインピーダンス変換行列の対角値を調整し、次いで、変更されたインピーダンス変換行列を重み計算器908に提供することができ、重み計算器908は各チャネルのための新しい重みを計算する。三極刺激システムでは、重み調整器910は刺激チャネルの重みを直接調整し得る。
図9に示す例示的実施形態では、フィッティングシステム206は、決定された重みおよびその他のデータ(閾値や最大快適レベルデータなど)を蝸牛インプラント100のためのインプラントベースのマップデータ322に変換する音響蝸牛インプラント(CI:cochlear implant)データ変換器912も備えている。このマップデータ322は実装される蝸牛インプラント100に適する任意の形とすることができる。データ変換器916によって生成されたこのマップデータ322は、次いで、音声プロセッサ制御インターフェース922を介して音処理部126に提供される。
本明細書で説明した主題は、所望の構成に応じて、様々なシステム、装置、方法、および/または物品において実現され得る。特に、図9に示す実施形態などの、前述の主題の様々な実装形態において、構成要素は、ディジタル電子回路、集積回路、特別に設計されたASIC(特定用途向け集積回路)、コンピュータハードウェア、ファームウェア、ソフトウェア、および/またはこれらの組み合わせとして実現され得る。これらの様々な実装形態には、記憶システム、少なくとも1つの入力装置、および少なくとも1つの出力装置からデータおよび命令を受け取り、これらにデータおよび命令を送るように結合された、専用または汎用とすることのできる少なくとも1つのプログラマブルプロセッサを含むプログラマブルシステム上で実行ないしは解釈が可能な、1つまたは複数のコンピュータプログラムとしての実装形態を含む。
これらのコンピュータプログラム(プログラム、ソフトウェア、ソフトウェアアプリケーション、アプリケーション、コンポーネント、コードともいう)は、プログラマブルプロセッサのためのマシン命令を含み、上位レベルの手続き型プログラミング言語および/もしくはオブジェクト指向プログラミング言語として、かつ/またはアセンブリ言語/機械語として実装され得る。本明細書で使用する場合、「機械可読媒体」という用語は、マシン命令を機械可読信号として受け取る機械可読媒体を含む、プログラマブルプロセッサにマシン命令および/またはデータを提供するのに使用される、任意のコンピュータプログラム製品、コンピュータ可読媒体、装置および/またはデバイス(例えば、磁気ディスク、光ディスク、メモリ、プログラマブル論理回路(PLD:Programmable Logic Device))をいう。同様に、本明細書では、プロセッサと、プロセッサに結合されたメモリとを含むシステムも説明されている。メモリは、本明細書で説明した動作のうちの1つまたは複数をプロセッサに実行させるための1つまたは複数のプログラムを含むことができる。
前記プローブチャネルを選択する行程と前記摂動チャネルを選択する行程とを繰り返す行程と、前記複数のチャネルの各チャネルを前記プローブチャネルとして繰り返す行程と、を含む方法。
前記インピーダンス変換行列の1つまたは複数の対角項を調整する行程は、前記相互作用が建設的であると判定される場合に前記対角の1つまたは複数の値を低減する行程と、および、前記相互作用が破壊的であると判定される場合に前記対角の1つまたは複数の値を増大させる行程と、を含む方法。
前記マネージャがさらに、前記選択器と刺激コントローラと重み調整器とに、前記プローブチャネルを選択すること、前記プローブチャネルとしての前記複数のチャネルの各チャネルについて摂動チャネルを選択することを繰り返すよう指示するように構成されている装置。
前記重み調整器がさらに、前記インピーダンス変換行列の1つまたは複数の対角項を調整するように構成されている装置。
前記重み調整器がさらに、前記相互作用が建設的であると判定される場合に前記対角の1つまたは複数の値を低減し、前記相互作用が破壊的であると判定される場合に前記対角の1つまたは複数の値を増大させるように構成されている装置。
それぞれ対応する重みを有する複数の電極をそれぞれ備える複数の刺激チャネルを備える刺激装置の重みを調整する方法を実行するようにプロセッサを制御するためのプログラムコードを含む、コンピュータ可読媒体上に実現されたコンピュータプログラムであって、前記方法は、前記複数の刺激チャネルの中からプローブチャネルを選択する行程と、前記複数の刺激チャネルの中から少なくとも1つの摂動チャネルを選択する行程と、前記複数の電極および前記電極に対応する重みを使用して前記プローブチャネルにより刺激を加える行程と、前記少なくとも1つの摂動チャネルにより刺激を加える行程と、前記プローブチャネルからの前記刺激と前記1つまたは複数の摂動チャネルからの前記刺激との間の相互作用に基づき、前記刺激チャネルのうちの少なくとも1つに対応付けられた1つまたは複数の重みを調整する行程と、を含む、コンピュータプログラム。
それぞれ対応する重みを有する複数の電極をそれぞれ備える複数の刺激チャネルを備える刺激装置の重みを調整する装置であって、前記複数の刺激チャネルの中からプローブチャネルを選択する手段と、前記複数の刺激チャネルの中から少なくとも1つの摂動チャネルを選択する手段と、前記複数の電極および前記電極に対応する重みを使用して前記プローブチャネルにより刺激を加える手段と、前記少なくとも1つの摂動チャネルにより刺激を加える手段と、前記プローブチャネルからの前記刺激と前記1つまたは複数の摂動チャネルからの前記刺激との間の相互作用に基づき、前記刺激チャネルのうちの少なくとも1つに対応付けられた1つまたは複数の重みを調整する手段と備える、装置。
本願において引用されたすべての文書、特許、学術文献他の資料は、参照により本明細書に組み込まれるものである。
以上、本発明の実施形態を、本発明のいくつかの態様を参照して説明した。一態様として説明した実施形態は、本発明の範囲を逸脱することなく別の態様においても使用され得ることが理解されるはずである。
本発明は、添付の図面を参照しつつ、本発明のいくつかの実施形態に関連して詳細に説明されているが、当業者には様々な変更および変形が可能であることが明らかとなり得ることを理解すべきである。そのような変更および変形は、それらが添付の特許請求の範囲を逸脱するものでない限り、添付の特許請求の範囲によって定義される本発明の範囲内に含まれるものと理解すべきである。
以上の説明は本発明の特定の実施形態を対象としている。しかし、前述の実施形態には、本発明の利点の一部または全部の達成を伴う他の変更および変形も加えられ得ることが明らかであろう。したがって、添付の特許請求の範囲の目的は、そのようなあらゆる変更および変形を本発明の真の主旨および範囲に含まれるものとして包含することである。