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JP2012092068A - 骨粗鬆症の予防及び/又は治療剤、骨吸収抑制剤、骨形成促進剤及びそれらのスクリーニング方法 - Google Patents

骨粗鬆症の予防及び/又は治療剤、骨吸収抑制剤、骨形成促進剤及びそれらのスクリーニング方法 Download PDF

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JP2012092068A JP2010241776A JP2010241776A JP2012092068A JP 2012092068 A JP2012092068 A JP 2012092068A JP 2010241776 A JP2010241776 A JP 2010241776A JP 2010241776 A JP2010241776 A JP 2010241776A JP 2012092068 A JP2012092068 A JP 2012092068A
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Abstract

【課題】破骨細胞分化を抑制するとともに骨芽細胞分化を促進する、骨粗鬆症の予防及び/又は治療に有用な医薬やそのスクリーニング方法を提供することである。
【解決手段】L型アミノ酸トランスポーター阻害剤を含有する、骨粗鬆症の予防及び/又は治療剤。被検物質が、L型アミノ酸トランスポーターを阻害し得るか否かを評価する工程を含む、骨粗鬆症の予防及び/又は治療剤の候補物質のスクリーニング方法。
【選択図】なし

Description

本発明は、破骨細胞分化を抑制するとともに骨芽細胞分化を促進する、骨粗鬆症の予防及び/又は治療に有用な医薬、並びにそのスクリーニング方法に関する。
骨粗鬆症は、破骨細胞による骨組織の破壊・吸収が骨芽細胞による骨形成を上回ることにより発生する疾患である。骨粗鬆症の患者は、日本国内に1000万人以上、アメリカ合衆国に3000万人以上存在するといわれている。骨粗鬆症は、大きく分けて、閉経や老化に伴い骨密度が低下するタイプの原発性骨粗鬆症と、ステロイド剤の投与や糖尿病等の何らかの疾患のバックグラウンドの上に成り立つタイプの続発性骨粗鬆症に分類され、骨粗鬆症患者の8割を、原発性骨粗鬆症に分類される閉経後の女性患者が占める。これは、女性の閉経後、ホルモンの分泌量が低下することが原因で生ずるもので、日本の高齢化の進行と共にますます骨粗鬆症患者が増えることが予測される。
骨粗鬆症治療薬としては、例えば、ビスフォスフォネート製剤やカルシトニン製剤が挙げられる。しかし、いずれも破骨細胞の働きを抑え、骨吸収を抑制するだけで、破骨細胞と骨芽細胞の両方に働く薬はほとんど知られていない。
ところで、アミノ酸トランスポーターは、アミノ酸の細胞内への取り込みに寄与する輸送膜タンパク質であり、例えばL型アミノ酸トランスポーターは、個々の細胞に栄養としてのアミノ酸を供給する目的のほか、脳毛細血管内皮細胞等に存在し、血液・脳関門におけるアミノ酸の透過を担当しているといわれている。そして、特許文献1ではL型アミノ酸トランスポーターの働きを阻害するL型アミノ酸トランスポーター阻害剤(2-アミノビシクロ-(2,2,1)-ヘプタン-2-カルボン酸)が中枢神経系の疲労を抑制することが開示されている。また、特許文献2では、L型アミノ酸トランスポーター阻害剤が腫瘍細胞の増殖を抑制することが開示されている。しかし、L型アミノ酸トランスポーターの働きと骨代謝との関連性については全く知られていない。
国際公開第02/34257号 国際公開第08/81537号
上記の事情に鑑み、本発明が解決しようとする課題は、骨吸収を抑制すると共に骨形成を促進する、骨粗鬆症の予防及び/又は治療に有用な医薬、並びにそのスクリーニング方法を提供することである。
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、従来から脳における特定の働きが知られているL型アミノ酸トランスポーターを阻害すると、意外にも骨代謝がその影響を受け、破骨細胞の分化が抑制されると共に骨芽細胞の分化が促進されることを見出した。そしてL型アミノ酸トランスポーター阻害剤が骨粗鬆症の治療に有用であることを見出した。
以上の知見に基づき本発明が完成された。即ち、本発明は以下の通りである。
[1]L型アミノ酸トランスポーター阻害剤を含有する、骨粗鬆症の予防及び/又は治療剤。
[2]L型アミノ酸トランスポーター阻害剤が、
(1)2-アミノビシクロ-(2,2,1)-ヘプタン-2-カルボン酸又はその薬理学的に許容される塩;
(2)LAT1に対するRNA干渉誘導性RNA若しくはアンチセンス核酸又はこれらの核酸を発現し得る発現ベクター;
(3)LAT2に対するRNA干渉誘導性RNA若しくはアンチセンス核酸又はこれらの核酸を発現し得る発現ベクター;又は
(4)CD98を特異的に認識し、且つ該CD98とヘテロダイマーを形成するL型アミノ酸トランスポーターのアミノ酸輸送機能を阻害する抗体
である、[1]の骨粗鬆症の予防及び/又は治療剤。
[3]L型アミノ酸トランスポーター阻害剤として、
(2)LAT1に対するRNA干渉誘導性RNA若しくはアンチセンス核酸又はこれらの核酸を発現し得る発現ベクター;及び
(3)LAT2に対するRNA干渉誘導性RNA若しくはアンチセンス核酸又はこれらの核酸を発現し得る発現ベクター
を含む、[1]の骨粗鬆症の予防及び/又は治療剤。
[4]L型アミノ酸トランスポーター阻害剤を含有する、骨吸収抑制剤。
[5]L型アミノ酸トランスポーター阻害剤を含有する、骨形成促進剤。
[6]被検物質が、L型アミノ酸トランスポーターを阻害し得るか否かを評価する工程を含む、骨粗鬆症の予防及び/又は治療剤、骨吸収抑制剤、或いは骨形成促進剤の候補物質のスクリーニング方法。
本発明によれば、骨破壊を抑制し、骨形成を促進する医薬を提供することができる。したがって、本発明の医薬は骨粗鬆症の予防及び/又は治療に有用である。
また、本発明によれば、L型アミノ酸トランスポーターの阻害という新たなメカニズムに基づく骨粗鬆症の予防及び/又は治療に有用な医薬のスクリーニングが可能となる。
図1は、RAW264.7細胞(破骨細胞の前駆細胞)をBCH(1mM又は10mM)の存在下又は非存在下で培養し、培養後の細胞中に含まれるTRAP陽性細胞の百分率を測定した結果を示す(BCH無添加時を100%とする)。 図2は、MC3T3-E1細胞(骨芽細胞の前駆細胞)をBCH(10mM)の存在下又は非存在下で培養し、培養後の細胞中のALP活性を測定した結果を示す(BCH無添加時を100%とする)。 図3は、MC3T3-E1細胞(骨芽細胞の前駆細胞)をBCH添加(10mM)の存在下又は非存在下で培養し、培養後の細胞内のカルシウムイオン蓄積量を測定した結果を示す(BCH無添加時を100%とする)。 図4は、卵巣摘出(OVX)マウスの体重(a)、子宮重量(b)及び骨密度(c)に対するBCHの効果を示す。 図5は、RAW264.7細胞にLAT1及び/又はLAT2を標的とするsiRNAを導入し、RANKL存在下で4日間培養して得られた細胞におけるTRAP陽性多核細胞の割合を示す。Control: negative siRNA control。siSlc7a5:マウスLAT1を標的とするsiRNA。siSlc7a8:マウスLAT2を標的とするsiRNA。siSlc7a5+ Slc7a8:マウスLAT1を標的とするsiRNA+マウスLAT2を標的とするsiRNA。
本発明は、L型アミノ酸トランスポーター阻害剤を含有する剤(又は組成物)を提供するものである。本発明の剤は、骨粗鬆症の予防及び/又は治療剤、骨吸収抑制剤、骨形成促進剤、破骨細胞分化の抑制剤、又は骨芽細胞分化の促進剤として有用である。本発明は、L型アミノ酸トランスポーター阻害剤の、骨粗鬆症の予防及び/又は治療、骨吸収抑制、骨形成促進、破骨細胞分化の抑制、又は骨芽細胞分化の促進のための使用を提供する。
後述の実施例に示されるように、L型アミノ酸トランスポーターの働きを阻害すると、破骨細胞分化が抑制されると共に骨芽細胞分化が促進される。破骨細胞分化が抑制されると、骨組織の破壊・吸収が抑制され、骨芽細胞分化が促進されると、骨形成が促進されるので、L型アミノ酸トランスポーターの働きを阻害することにより、骨粗鬆症の予防及び/又は治療効果が得られる。
L型アミノ酸トランスポーター(LAT)は、分岐アミノ酸や芳香族アミノ酸等の大型鎖を持つ中性アミノ酸を、Na非依存的に細胞内へ輸送する公知のアミノ酸トランスポーターである。L型アミノ酸トランスポーターには、2つのアイソタイプ(LAT1及びLAT2)が包含される。
本明細書中、L型アミノ酸トランスポーターは通常、哺乳動物由来のものを意味する。哺乳動物としては、例えば、マウス、ラット、ハムスター、モルモット等のげっ歯類やウサギ等の実験動物、ブタ、ウシ、ヤギ、ウマ、ヒツジ、ミンク等の家畜、イヌ、ネコ等のペット、ヒト、サル、カニクイザル、アカゲザル、マーモセット、オランウータン、チンパンジーなどの霊長類等を挙げることが出来るが、これらに限定されるものではない。L型アミノ酸トランスポーターは、好ましくは霊長類(ヒト等)又はげっ歯類(マウス等)由来のものである。
「L型アミノ酸トランスポーターが哺乳動物由来である」とは、L型アミノ酸トランスポーターの配列(ヌクレオチド配列又はアミノ酸配列)が哺乳動物のものであることを意味する。
LAT1及びLAT2のヌクレオチド配列やアミノ酸配列は公知である。ヒト及びマウスのLAT1及びLAT2の代表的なヌクレオチド配列及びアミノ酸配列が、NCBIに以下の通りに登録されている。
[ヒトLAT1]
ヌクレオチド配列(cDNA配列):アクセッション番号NM_003486(バージョンNM_003486.5)(配列番号1)
アミノ酸配列:アクセッション番号NP_003477(バージョンNP_003477.4)(配列番号2)
[マウスLAT1]
ヌクレオチド配列(cDNA配列):アクセッション番号NM_011404(バージョンNM_011404.3)(配列番号3)
アミノ酸配列:アクセッション番号NP_035534(バージョンNP_035534.2)(配列番号4)
[ヒトLAT2]
ヌクレオチド配列(cDNA配列):アクセッション番号NM_012244(バージョンNM_012244.2)(配列番号5)又はアクセッション番号NM_182728(バージョンNM_182728.1)(配列番号7)
アミノ酸配列:アクセッション番号NP_036376(バージョンNP_036376.2)(配列番号6)又はアクセッション番号NP_877382(バージョンNP_877382.1)(配列番号8)
[マウスLAT2]
ヌクレオチド配列(cDNA配列):アクセッション番号NM_016972(バージョンNM_016972.2)(配列番号9)
アミノ酸配列:アクセッション番号NP_058668(バージョンNP_058668.1)(配列番号10)
なお、本明細書においてヌクレオチド配列は、特にことわりのない限りDNAの配列として記載するが、ポリヌクレオチドがRNAである場合は、チミン(T)をウラシル(U)に適宜読み替えるものとする。
LAT1は、4F2hcとヘテロダイマーを形成し、ロイシン、イソロイシン、バリン、フェニルアラニン、チロシン、トリプトファン、メチオニン、ヒスチジン等の大型の中性アミノ酸をNa+非依存的に細胞内に輸送する。
LAT2は、4F2hcとヘテロダイマーを形成し、ロイシン、イソロイシン、バリン、フェニルアラニン、チロシン、トリプトファン、メチオニン、ヒスチジン等の大型の中性アミノ酸に加え、グリシン、アラニン、セリン、システイン、スレオニン等の小型の中性アミノ酸をNa+非依存的に細胞内に輸送する。
L型アミノ酸トランスポーター阻害剤とは、このようなL型アミノ酸トランスポーターによるアミノ酸の細胞内への輸送を阻害する化合物をいう。本発明に有用なL型アミノ酸トランスポーター阻害剤は、好ましくはLAT1阻害剤又はLAT2阻害剤である。本発明に用いるL型アミノ酸トランスポーター阻害剤は、LAT1及び/又はLAT2によるアミノ酸の細胞内への輸送を阻害する。
L型アミノ酸トランスポーター阻害剤としては、2-アミノビシクロ-(2,2,1)-ヘプタン-2-カルボン酸(BCH)、WO2003/066574に開示された化合物、それらの薬理学的に許容される塩等が挙げられるが、これらに限定されない。2-アミノビシクロ-(2,2,1)-ヘプタン-2-カルボン酸(BCH)は、シグマアルドリッチ(株)等より市販されている。2-アミノビシクロ-(2,2,1)-ヘプタン-2-カルボン酸(BCH)は、LAT1及びLAT2の双方を阻害することが報告されている。
薬理学的に許容される塩としては、例えば、無機塩基との塩、有機塩基との塩などが挙げられる。
無機塩基との塩の好適な例としては、ナトリウム塩、カリウム塩などのアルカリ金属塩;カルシウム塩、マグネシウム塩などのアルカリ土類金属塩;ならびにアルミニウム塩、アンモニウム塩などが挙げられる。
有機塩基との塩の好適な例としては、トリメチルアミン、トリエチルアミン、ピリジン、ピコリン、エタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、ジシクロヘキシルアミン、N,N-ジベンジルエチレンジアミンなどとの塩が挙げられる。
L型アミノ酸トランスポーター(好ましくは、LAT1又はLAT2)に対するRNA干渉誘導性RNA若しくはアンチセンス核酸又はこれらの核酸を発現し得る発現ベクターも、L型アミノ酸トランスポーターの発現を抑制することにより、結果としてL型アミノ酸トランスポーターによるアミノ酸の細胞内への輸送を阻害するので、本発明に有用なL型アミノ酸トランスポーター阻害剤に包含される。
L型アミノ酸トランスポーター(好ましくは、LAT1又はLAT2)に対するRNA干渉誘導性RNA若しくはアンチセンス核酸は、当該L型アミノ酸トランスポーターの発現を特異的に抑制し得る。「L型アミノ酸トランスポーター特異的な発現の抑制」とは、標的となるL型アミノ酸トランスポーター(好ましくは、LAT1又はLAT2)の発現をそれ以外の遺伝子の発現よりも強く抑制することを意味する。
L型アミノ酸トランスポーター(好ましくは、LAT1又はLAT2)に対するRNA干渉誘導性RNAとしては、例えば
(A)L型アミノ酸トランスポーター(好ましくは、LAT1又はLAT2)をコードするmRNA(成熟mRNA又は初期転写産物)のヌクレオチド配列又は18塩基以上のその部分配列に相補的なヌクレオチド配列を含む1本鎖又は2本鎖のRNA、及び
(B)L型アミノ酸トランスポーター(好ましくは、LAT1又はLAT2)をコードするmRNA(成熟mRNA又は初期転写産物)と投与対象の哺乳動物(例えばヒト等の霊長類やマウス等のげっ歯類)の細胞内でハイブリダイズし得る18塩基以上のヌクレオチド配列を含み、且つハイブリダイズすることにより当該L型アミノ酸トランスポーターのRNA干渉を誘導する1本鎖又は2本鎖のRNA
を挙げることができる。
二本鎖RNAを細胞内に導入するとそのRNAに相補的なmRNAが分解される、いわゆるRNA干渉(RNAi)と呼ばれる現象は、以前から線虫、昆虫、植物等で知られていたが、最近、この現象が動物細胞でも起こることが確認されたことから[Nature, 411(6836): 494-498 (2001)]、リボザイムの代替技術として注目されている。
RNA干渉誘導性RNAは、代表的には、標的遺伝子のmRNAのヌクレオチド配列又はその部分配列(以下、標的ヌクレオチド配列)と相補的な配列を有するRNAとその相補鎖からなる2本鎖オリゴRNAである。また、ヘアピンループ部分を介して、標的ヌクレオチド配列に相補的な配列(第1の配列)と、その相補配列(第2の配列)とが連結された一本鎖RNAであって、ヘアピンループ型の構造をとることにより、第1の配列が第2の配列と2本鎖構造を形成するRNA(small hairpin RNA: shRNA)もRNA干渉誘導性RNAの好ましい態様の1つである。
RNA干渉誘導性RNAに含まれる、標的ヌクレオチド配列と相補的な部分の長さは、通常、約18塩基以上、好ましくは約19塩基以上、より好ましくは約21塩基以上の長さであるが、標的遺伝子の発現を特異的に抑制可能である限り、特に限定されない。RNA干渉誘導性RNAが23塩基よりも長い場合には、該RNA干渉誘導性RNAは細胞内で分解されて、約20塩基前後のsiRNAを生じ得るので、理論的には標的ヌクレオチド配列と相補的な部分の長さの上限は、標的遺伝子のmRNA(成熟mRNAもしくは初期転写産物)のヌクレオチド配列の全長である。しかし、インターフェロン誘導の回避、合成の容易さ、抗原性の問題等を考慮すると、該相補部分の長さは、例えば約50塩基以下、好ましくは約25塩基以下、最も好ましくは約23塩基以下である。即ち、該相補部分の長さは、通常、約18〜50塩基、好ましくは約19〜約25塩基、より好ましくは約21〜約23塩基である。
また、RNA干渉誘導性RNAを構成する各RNA鎖の長さも、通常、約18塩基以上、好ましくは約19塩基以上、より好ましくは約21塩基以上の長さであるが、標的遺伝子の発現を特異的に抑制可能である限り、特に限定されず、理論的には各RNA鎖の長さの上限はない。しかし、インターフェロン誘導の回避、合成の容易さ、抗原性の問題等を考慮すると、RNA干渉誘導性RNAを構成する各RNA鎖の長さは、例えば約50塩基以下、好ましくは約25塩基以下、最も好ましくは約23塩基以下である。即ち、各RNA鎖の長さは、例えば通常、約18〜50塩基、好ましくは約19〜約25塩基、より好ましくは約21〜約23塩基である。なお、shRNAの長さは、2本鎖構造をとった場合の2本鎖部分の長さとして示すものとする。
尚、本明細書において、全長が23塩基以下の2本鎖のRNA干渉誘導性RNAをsiRNAという。
標的ヌクレオチド配列と、RNA干渉誘導性RNAに含まれるそれに相補的な配列とは、完全に相補的であることが好ましい。しかし、当該相補配列の中央から外れた位置についての塩基の変異(少なくとも90%以上、好ましくは95%以上の同一性の範囲内であり得る)については、完全にRNA干渉による切断活性がなくなるのではなく、部分的な活性が残存し得る。他方、相補配列の中央部の塩基の変異は影響が大きく、RNA干渉によるmRNAの切断活性が極度に低下し得る。
RNA干渉誘導性RNAは、5’及び/又は3’末端に塩基対を形成しない、付加的な塩基を有していてもよい。該付加的塩基の長さは、RNA干渉誘導性RNAが標的遺伝子の発現を特異的に抑制可能である限り特に限定されないが、通常5塩基以下、例えば2〜4塩基である。該付加的塩基は、DNAでもRNAでもよいが、DNAを用いるとsiRNAの安定性を向上させることができる。このような付加的塩基の配列としては、例えばug-3’、uu-3’、tg-3’、tt-3’、ggg-3’、guuu-3’、gttt-3’、ttttt-3’、uuuuu-3’などの配列が挙げられるが、これに限定されるものではない。
shRNAのヘアピンループのループ部分の長さは、標的遺伝子の発現を特異的に抑制可能である限り、特に限定されないが、通常、5〜25塩基程度である。該ループ部分のヌクレオチド配列は、ループを形成することができ、且つ、shRNAが標的遺伝子の発現を特異的に抑制可能である限り、特に限定されない。
「アンチセンス核酸」とは、標的mRNA(成熟mRNA又は初期転写産物)を発現する細胞内の生理的条件下で該標的mRNAとハイブリダイズし得るヌクレオチド配列を含み、且つハイブリダイズした状態で該標的mRNAにコードされるポリペプチドの翻訳を阻害し得る核酸をいう。アンチセンス核酸の種類はDNAであってもRNAであってもよいし、あるいはDNA/RNAキメラであってもよいが、好ましくはDNAである。
L型アミノ酸トランスポーター(好ましくは、LAT1又はLAT2)の発現を特異的に抑制し得るアンチセンス核酸としては、例えば
(A)L型アミノ酸トランスポーター(好ましくは、LAT1又はLAT2)をコードするmRNA(成熟mRNA又は初期転写産物)のヌクレオチド配列又は12塩基以上のその部分配列に相補的なヌクレオチド配列を含む核酸、及び
(B)L型アミノ酸トランスポーター(好ましくは、LAT1又はLAT2)をコードするmRNA(成熟mRNA又は初期転写産物)と治療対象動物(好ましくはヒト)の細胞内でハイブリダイズし得る12塩基以上のヌクレオチド配列を含み、且つハイブリダイズした状態で当該L型アミノ酸トランスポーターポリペプチドへの翻訳を阻害し得る核酸
等を挙げることが出来る。
アンチセンス核酸中の標的mRNAとハイブリダイズする部分の長さは、L型アミノ酸トランスポーターの発現を特異的に抑制する限り特に制限はなく、通常、約12塩基以上であり、長いものでmRNA(成熟mRNA又は初期転写産物)の全長配列と同一の長さである。ハイブリダイゼーションの特異性を考慮すると、該長さは好ましくは約15塩基以上、より好ましくは約18塩基以上である。また、合成の容易さや抗原性の問題等を考慮すると、標的mRNAとハイブリダイズする部分の長さは、通常、約200塩基以下、好ましくは約50塩基以下、より好ましくは約30塩基以下である。即ち、標的mRNAとハイブリダイズする部分の長さは、例えば約12〜約200塩基、好ましくは約15〜約50塩基、より好ましくは約18〜約30塩基である。
アンチセンス核酸の標的ヌクレオチド配列は、L型アミノ酸トランスポーターの発現を特異的に抑制可能であれば特に制限はなく、L型アミノ酸トランスポーターのmRNA(成熟mRNA又は初期転写産物)の全長配列であっても部分配列(例えば約12塩基以上、好ましくは約15塩基以上、より好ましくは約18塩基以上)であってもよいし、あるいは初期転写産物のイントロン部分であってもよいが、好ましくは、標的配列はL型アミノ酸トランスポーターのmRNAの5’末端からコード領域のC末端までに位置することが望ましい。
アンチセンス核酸中の標的mRNAとハイブリダイズする部分のヌクレオチド配列は、標的配列の塩基組成によっても異なるが、生理的条件下でL型アミノ酸トランスポーターのmRNAとハイブリダイズし得るために、標的配列の相補配列に対して通常約90%以上(好ましくは95%以上、最も好ましくは100%)の同一性を有するものである。
アンチセンス核酸の大きさは、通常約12塩基以上、好ましくは約15塩基以上、より好ましくは約18塩基以上である。該大きさは、合成の容易さや抗原性の問題等から、通常約200塩基以下、好ましくは約50塩基以下、より好ましくは約30塩基以下である。
天然型の核酸は、細胞中に存在する核酸分解酵素によってそのリン酸ジエステル結合が容易に分解されるので、本発明において使用されるRNA干渉誘導性RNAやアンチセンス核酸は、分解酵素に安定なチオリン酸型(リン酸結合のP=OをP=Sに置換)や2’-O-メチル型等の修飾ヌクレオチドを用いて合成することもできる。RNA干渉誘導性RNAやアンチセンス核酸の設計に重要な他の要素として、水溶性及び細胞膜透過性を高めること等が挙げられるが、これらはリポソームやマイクロスフェアを使用するなどの剤形の工夫によっても克服することができる。
L型アミノ酸トランスポーターに対するRNA干渉誘導性RNA及びアンチセンス核酸は、標的とするL型アミノ酸トランスポーターのmRNA配列(例えば配列番号1、3、5、7又は9で表されるヌクレオチド配列)や染色体DNA配列に基づいて標的配列を決定し、市販の核酸自動合成機(アプライド・バイオシステムズ社、ベックマン社等)を用いて、これに相補的なヌクレオチド配列を有する核酸を合成することにより調製できる。2本鎖のRNA干渉誘導性RNAは、センス鎖及びアンチセンス鎖を核酸自動合成機でそれぞれ合成し、適当なアニーリング緩衝液中、約90〜約95℃で約1分程度変性させた後、約30〜約70℃で約1〜約8時間アニーリングさせることにより調製できる。また、相補的なオリゴヌクレオチド鎖を交互にオーバーラップするように合成して、これらをアニーリングさせた後リガーゼでライゲーションすることにより、より長い2本鎖ポリヌクレオチドを調製できる。
L型アミノ酸トランスポーターに対するRNA干渉誘導性RNA又はアンチセンス核酸を発現し得る発現ベクターにおいては、投与対象である哺乳動物(例えばヒト等の霊長類、マウス等のげっ歯類)の細胞(好ましくは、標的とするL型アミノ酸トランスポーターを発現している細胞(例えば、骨芽細胞又は破骨細胞))内でプロモーター活性を発揮し得るプロモーターの下流に、上述のRNA干渉誘導性RNA又はアンチセンス核酸或いはそれらをコードする核酸(好ましくはDNA)が機能的に連結されている。
使用されるプロモーターは、投与対象である哺乳動物(例えばヒト等の霊長類、マウス等のげっ歯類)の細胞(好ましくは、標的とするL型アミノ酸トランスポーターを発現している細胞(例えば、骨芽細胞又は破骨細胞))内で機能し得るものであれば特に制限はない。プロモーターとしては、polI系プロモーター、polII系プロモーター、polIII系プロモーター等を使用することができる。具体的には、SV40由来初期プロモーター、サイトメガロウイルスLTR等のウイルスプロモーター、β−アクチン遺伝子プロモーター等の哺乳動物の構成蛋白質遺伝子プロモーター、並びにtRNAプロモーター等のRNAプロモーター等が用いられる。
RNA干渉誘導性RNAの発現を意図する場合には、プロモーターとしてpolIII系プロモーターを使用することが好ましい。polIII系プロモーターとしては、例えば、U6プロモーター、H1プロモーター、tRNAプロモーター等を挙げることができる。
上記発現ベクターは、好ましくはRNA干渉誘導性RNA又はアンチセンス核酸或いはそれらをコードする核酸の下流に転写終結シグナル、すなわちターミネーター領域を含有する。さらに、上記発現ベクターは、形質転換細胞選択のための選択マーカー遺伝子(テトラサイクリン、アンピシリン、カナマイシン等の薬剤に対する抵抗性を付与する遺伝子、栄養要求性変異を相補する遺伝子等)をさらに含有することもできる。上記発現ベクターは、所望によりエンハンサー、スプライシングシグナル、ポリA付加シグナル、SV40複製オリジンなどを、それぞれ機能可能な態様で含有していてもよい。
発現ベクターに使用されるベクターの種類は特に制限されないが、哺乳動物への投与に好適なベクターとしては、プラスミドベクター;レトロウイルス、アデノウイルス、アデノ随伴ウイルス等のウイルスベクターが挙げられる。
L型アミノ酸トランスポーター(好ましくは、LAT1又はLAT2)へ特異的に結合し、且つ該L型アミノ酸トランスポーターのアミノ酸輸送機能を阻害する抗体(中和抗体)も、本発明に有用なL型アミノ酸トランスポーター阻害剤に包含される。「L型アミノ酸トランスポーターへの特異的結合」とは、標的となるL型アミノ酸トランスポーター(好ましくは、LAT1又はLAT2)への親和性が、他の抗原への親和性よりも強いことを意味する。
本明細書において、抗体には、ポリクローナル抗体、モノクローナル抗体(mAb)等の天然型抗体、遺伝子組換技術を用いて製造され得るキメラ抗体、ヒト化抗体や一本鎖抗体、ヒト抗体、およびこれらの結合性断片が含まれるが、これらに限定されない。好ましくは、抗体はポリクローナル抗体、モノクローナル抗体又はこれらの結合性断片である。抗体の結合性断片とは、抗原に対する特異的結合活性を有する前述の抗体の一部分の領域を意味し、具体的には例えばF(ab')2、Fab'、Fab、Fv、sFv、dsFv、sdAb等が挙げられる(Exp. Opin. Ther. Patents, Vol.6, No.5, p.441-456, 1996)。抗体のクラスは、特に限定されず、IgG、IgM、IgA、IgDあるいはIgE等のいずれのアイソタイプを有する抗体をも包含する。好ましくは、IgG又はIgMであり、精製の容易性等を考慮するとより好ましくはIgGである。
L型アミノ酸トランスポーターを特異的に認識する抗体は、L型アミノ酸トランスポーターポリペプチドやその抗原性を有する部分ペプチド、或いはL型アミノ酸トランスポーターのトランスフェクタントを免疫原として用い、既存の一般的な抗体製造方法に準じて製造することができる。
例えば、モノクローナル抗体は、ケーラーおよびミルシュタインらの方法[Nature, vol.256, p.495 (1975)]や、組換えDNA法(Cabillyら、米国特許第4816567号)を用いて作製することができる。
例えば、上述の免疫原を市販のアジュバントと共にマウスに2〜4回皮下あるいは腹腔内に投与し、最終投与の約3日後に脾臓あるいはリンパ節を採取し、白血球を採取する。この白血球と骨髄腫細胞(例えば、NS-1、P3X63Ag8など)を細胞融合して所望のL型アミノ酸トランスポーターに対するモノクローナル抗体を産生するハイブリドーマを得る。細胞融合はPEG(ポリエチレングリコール)法[J. Immunol. Methods, 81(2): 223-228 (1985)]でも電圧パルス法[Hybridoma, 7(6): 627-633 (1988)]であってもよい。所望のモノクローナル抗体を産生するハイブリドーマは、周知のEIAまたはRIA法等を用いて抗原と特異的に結合する抗体を、培養上清中から検出することにより選択できる。モノクローナル抗体を産生するハイブリドーマの培養は、インビトロ、又はマウスもしくはラット、好ましくはマウス腹水中等のインビボで行うことができ、抗体はそれぞれハイブリドーマの培養上清及び動物の腹水から取得することができる。
キメラ抗体は、前記のようにして得たモノクローナル抗体のV領域をコードするDNAをヒト抗体C領域をコードするDNAと連結し、これを発現ベクターに組み込んで宿主に導入し産生させることにより得られる。
ヒト化抗体は、再構成(reshaped)ヒト抗体とも称され、これは、ヒト以外の哺乳動物、例えばマウス抗体の相補性決定領域(CDR; complementarity determining region)をヒト抗体の相補性決定領域へ移植したものであり、その一般的な遺伝子組換え手法も知られている(EP125023、WO96/02576参照)。
具体的には、マウス抗体のCDRとヒト抗体のフレームワーク領域(framework region; FR)とを連結するように設計したDNA配列を、CDR及びFR両方の末端領域にオーバーラップする部分を有するように作製した数個のオリゴヌクレオチドをプライマーとして用いてPCR法により合成する(WO98/13388に記載の方法を参照)。
CDRを介して連結されるヒト抗体のフレームワーク領域は、相補性決定領域が良好な抗原結合部位を形成するものが選択される。必要に応じ、再構成ヒト抗体の相補性決定領域が適切な抗原結合部位を形成するように、抗体の可変領域におけるフレームワーク領域のアミノ酸を置換してもよい(Sato,K.et al., Cancer Res.(1993)53, 851-856)。
キメラ抗体及びヒト化抗体のC領域には、ヒト抗体のものが使用され、例えばH鎖では、Cγ1、Cγ2、Cγ3、Cγ4を、L鎖ではCκ、Cλを使用することができる。また、抗体またはその産生の安定性を改善するために、ヒト抗体C領域を修飾してもよい。
キメラ抗体は、ヒト以外の哺乳動物由来抗体の可変領域とヒト抗体由来の定常領域とからなる。一方、ヒト化抗体は、ヒト以外の哺乳動物由来抗体の相補性決定領域と、ヒト抗体由来のフレームワーク領域およびC領域とからなる。ヒト化抗体はヒト体内における抗原性が低下されているため、本発明に使用する抗体として有用である。
ヒト抗体は、免疫する非ヒト動物としてヒト抗体産生マウス(特許第3030092号、US6632976、US2004073957、US2009253902等)を用いることにより、上述のモノクローナル抗体の製造方法と同様にして製造することが出来る。
L型アミノ酸トランスポーターポリペプチドの部分ペプチドを抗原として用いる場合には、好ましくは、L型アミノ酸トランスポーターの細胞外ドメイン内の部分ペプチドが用いられる。各L型アミノ酸トランスポーターの細胞外ドメインは、そのアミノ酸配列をTMPred(EMBnet提供)等の公知のタンパク質のトポロジー解析ソフトや膜貫通ドメイン解析ソフトに付すことにより決定することが出来る。LAT1やLAT2は12回膜貫通型タンパク質であり、その高次構造についても解析されている。
更に、得られたL型アミノ酸トランスポーターを特異的に認識する抗体の中から、該L型アミノ酸トランスポーターのアミノ酸輸送機能を阻害する活性を有するものを選択することにより、目的とする中和抗体を得ることが出来る。L型アミノ酸トランスポーターのアミノ酸輸送機能を阻害する活性の評価は、後述の本発明のスクリーニング方法において使用することのできるL型アミノ酸トランスポーターの活性の評価方法や、WO2007/114496、US2010143367に記載された方法等により行うことが出来る。
ヒトへの適用を意図する場合には、ヒトL型アミノ酸トランスポーター(好ましくは、LAT1又はLAT2)へ特異的に結合し、且つ該ヒトL型アミノ酸トランスポーターのアミノ酸輸送機能を阻害する抗体が用いられる。
上述のように、L型アミノ酸トランスポーター(好ましくは、LAT1又はLAT2)は、4F2hc(CD98)とヘテロダイマーを形成することにより、アミノ酸をNa+非依存的に細胞内に輸送する。従って、CD98へ特異的に結合し、且つ該CD98とヘテロダイマーを形成するL型アミノ酸トランスポーター(好ましくは、LAT1又はLAT2)のアミノ酸輸送機能を阻害する抗体(中和抗体)も、本発明に有用なL型アミノ酸トランスポーター阻害剤に包含される。「CD98への特異的結合」とは、標的となるCD98への親和性が、他の抗原への親和性よりも強いことを意味する。
本明細書中、CD98は通常、哺乳動物由来のものを意味する。哺乳動物としては、例えば、マウス、ラット、ハムスター、モルモット等のげっ歯類やウサギ等の実験動物、ブタ、ウシ、ヤギ、ウマ、ヒツジ、ミンク等の家畜、イヌ、ネコ等のペット、ヒト、サル、カニクイザル、アカゲザル、マーモセット、オランウータン、チンパンジーなどの霊長類等を挙げることが出来るが、これらに限定されるものではない。CD98は、好ましくは霊長類(ヒト等)又はげっ歯類(マウス等)由来のものである。
「CD98が哺乳動物由来である」とは、CD98の配列(ヌクレオチド配列又はアミノ酸配列)が哺乳動物のものであることを意味する。
CD98のヌクレオチド配列やアミノ酸配列は公知である。ヒトのCD98の代表的なヌクレオチド配列及びアミノ酸配列が、NCBIに以下の通りに登録されている。
[ヒトCD98]
ヌクレオチド配列(cDNA配列):アクセッション番号AB018010(バージョンAB018010.1)(配列番号11)
アミノ酸配列:アクセッション番号BAA84649(バージョンBAA84649.1)(配列番号12)
CD98を特異的に認識する抗体は、上述のL型アミノ酸トランスポーターを特異的に認識する抗体の製造方法に準じて、CD98ポリペプチドやその抗原性を有する部分ペプチド、或いはCD98のトランスフェクタントを免疫原として用い、既存の一般的な抗体製造方法に準じて製造することができる。
例えば、ヒトCD98を特異的に認識し、ヒトLAT1のアミノ酸輸送機能を阻害する中和抗体のエピトープが、ヒトCD98の第372アミノ酸残基から530アミノ酸残基の領域、又は第104アミノ酸残基から第371アミノ酸残基の領域内に存在することが報告されている(WO2007/114496、US2010143367)ので、これらの領域を含むポリペプチドは、ヒトCD98へ特異的に結合し、且つ該ヒトCD98とヘテロダイマーを形成するヒトL型アミノ酸トランスポーター(好ましくは、ヒトLAT1又はLAT2)のアミノ酸輸送機能を阻害する抗体(中和抗体)を製造するための好適な抗原となり得る。
更に、得られたCD98を特異的に認識する抗体の中から、該CD98とヘテロダイマーを形成するL型アミノ酸トランスポーター(好ましくは、LAT1又はLAT2)のアミノ酸輸送機能を阻害する活性を有するものを選択することにより、目的とする中和抗体を得ることが出来る。L型アミノ酸トランスポーターのアミノ酸輸送機能を阻害する活性の評価は、後述の本発明のスクリーニング方法において使用することのできるL型アミノ酸トランスポーターの活性の評価方法や、WO2007/114496、US2010143367に記載された方法により行うことが出来る。
ヒトへの適用を意図する場合には、ヒトCD98へ特異的に結合し、且つヒトCD98とヘテロダイマーを形成するヒトL型アミノ酸トランスポーター(好ましくは、LAT1又はLAT2)のアミノ酸輸送機能を阻害する抗体が用いられる。
ヒトCD98へ特異的に結合し、且つヒトLAT1のアミノ酸輸送機能を阻害する好適な抗体が、WO2007/114496、US2010143367に開示されている。WO2007/114496及びUS2010143367には該抗体の重鎖及び軽鎖可変領域のアミノ酸配列、該アミノ酸配列をコードするヌクレオチド配列を含むプラスミドベクターの寄託番号等の情報が開示されている。当業者であれば、WO2007/114496及びUS2010143367の記載に基づき、容易にヒトCD98へ特異的に結合し、且つヒトLAT1のアミノ酸輸送機能を阻害する抗体を製造することが出来る。
本発明に用いられるL型アミノ酸トランスポーター阻害剤は、結晶であっても非結晶であってもよく、水和物および/または溶媒和物の形で存在することもあるので、これらの水和物および/または溶媒和物も本発明に包含される。化学量論量の水和物および凍結乾燥のような方法によって得られる種々の量の水を含む化合物も本発明の範囲内にある。
本発明に用いられるL型アミノ酸トランスポーター阻害剤の好適な例としては、以下を挙げることができる:
(1)2-アミノビシクロ-(2,2,1)-ヘプタン-2-カルボン酸(BCH)又はその薬理学的に許容される塩;
(2)LAT1に対するRNA干渉誘導性RNA若しくはアンチセンス核酸又はこれらの核酸を発現し得る発現ベクター;
(3)LAT2に対するRNA干渉誘導性RNA若しくはアンチセンス核酸又はこれらの核酸を発現し得る発現ベクター;及び
(4)CD98を特異的に認識し、且つ該CD98とヘテロダイマーを形成するL型アミノ酸トランスポーターのアミノ酸輸送機能を阻害する抗体。
後述の実施例に示されるように、LAT1阻害剤とLAT2阻害剤を組み合わせることにより、それぞれの阻害剤を単独で使用した場合と比較して、骨粗鬆症の予防及び/又は治療効果、骨吸収抑制効果、骨形成促進効果、破骨細胞分化の抑制効果、又は骨芽細胞分化の促進効果が増強されることが期待される。従って、一態様において、本発明の剤はLAT1阻害剤及びLAT2阻害剤を含む。LAT1阻害剤とLAT2阻害剤の組み合わせの例としては、以下の(2)及び(3)を含む組み合わせを挙げることが出来る:
(2)LAT1に対するRNA干渉誘導性RNA若しくはアンチセンス核酸又はこれらの核酸を発現し得る発現ベクター;及び
(3)LAT2に対するRNA干渉誘導性RNA若しくはアンチセンス核酸又はこれらの核酸を発現し得る発現ベクター。
本発明の剤は、活性成分であるL型アミノ酸トランスポーター阻害剤を薬理学的に許容される一種もしくはそれ以上の担体と一緒に混合し、製剤学の技術分野においてよく知られている任意の方法により製造することができる。本発明の剤は、L型アミノ酸トランスポーター阻害剤以外の任意の他の治療のための有効成分を更に含んでいてもよい。
薬理学的に許容される担体としては、製剤素材として慣用の各種有機あるいは無機担体物質が用いられ、その具体例としては、固形製剤における賦形剤、滑沢剤、結合剤、崩壊剤、液状製剤における溶剤、溶解補助剤、懸濁化剤、等張化剤、緩衝剤、無痛化剤などが挙げられる。製剤化の際には、必要に応じて、防腐剤、抗酸化剤、着色剤、甘味剤などの製剤添加剤を用いてもよい。
また、投与経路は、治療に際し最も効果的なものを使用するのが望ましく、通常は、経皮、静脈内等の非経口又は経口で投与される。非経口投与に適当な製剤は、好ましくは受容者の血液と等張である活性化合物を含む滅菌水性剤からなる。例えば、注射剤の場合は、塩溶液、ブドウ糖溶液又は塩水とブドウ糖溶液の混合物からなる担体等を用いて注射用の溶液を調製する。これら非経口剤には、更に、必要に応じて溶解補助剤、緩衝剤、pH調整剤、等張化剤、無痛化剤、保存剤等を添加することもできる。また、非経口に適当な製剤は、L型アミノ酸トランスポーター阻害剤を、注射用蒸留水又は植物油に懸濁して調製したものであってもよく、この場合、必要に応じて基剤、懸濁化剤、粘調剤等を添加することができる。また、非経口に適当な製剤は、L型アミノ酸トランスポーター阻害剤の粉末又は凍結乾燥品を用時溶解する形であってもよく、必要に応じて賦形剤等を添加することができる。経口製剤としては、錠剤(舌下錠、口腔内崩壊剤を含む)、カプセル剤(ソフトカプセル、マイクロカプセルを含む)、散剤、顆粒剤、トローチ剤、シロップ剤、乳剤、懸濁剤などが挙げられる。これらの製剤は、速放性製剤又は除放性製剤などの放出制御製剤(例、除放性マイクロカプセル)であってもよい。
本発明の剤における、L型アミノ酸トランスポーター阻害剤の含有量は、通常0.01〜100重量%の範囲内であるが、製剤の形態等により変動し得る。注射剤の場合には、L型アミノ酸トランスポーター阻害剤の含有量は例えば、0.01〜10重量%の範囲内である。
また、本発明の剤は、食品(一般食品類、病者用食品、栄養機能食品、特定保健用食品等)の形態として製剤化することもできる。食品の形態は、粉末、顆粒、錠剤、カプセル、クッキー、ゼリー、飲料、あるいは一般食品の形態が可能である。食品中のL型アミノ酸トランスポーター阻害剤の含有量は、通常0.01〜100重量%、好ましくは0.1〜30重量%程度とするが、食品が飲料である場合は、溶解性等の観点から通常0.01〜5重量%程度が含まれる。
また、食品には、一般の食品素材をベースとするほか、例えば、様々な栄養剤、ビタミン、鉱物(電解質)、ミネラル、合成風味剤、天然風味剤、着色剤、充填剤(チーズ、チョコレート等)、ペクチン酸又はその塩、アルギン酸又はその塩、有機酸、保護性コロイド増粘剤、pH調節剤、安定化剤、防腐剤、グリセリン、アルコール等が含まれていても良い。
本発明の剤は、骨粗鬆症の予防及び/又は治療剤、骨吸収抑制剤、骨形成促進剤、破骨細胞分化の抑制剤、又は骨芽細胞分化の促進剤として有用である。骨粗鬆症としては、原発性骨粗鬆症(退行期骨粗鬆症(閉経後骨粗鬆症、老人性骨粗鬆症)、特発性骨粗鬆症)、続発性骨粗鬆症(薬剤性、関節リウマチ、糖尿病、甲状腺機能亢進症、性機能異常、不動性、栄養性、先天性疾患)等が挙げられるが、これらに限定されない。本発明の剤は、好ましくは、閉経後骨粗鬆症及び性機能異常に起因する骨粗鬆症の予防及び/又は治療に用いられる。
本発明の剤の投与対象は、通常哺乳動物である。哺乳動物としては、例えば、マウス、ラット、ハムスター、モルモット等のげっ歯類やウサギ等の実験動物、ブタ、ウシ、ヤギ、ウマ、ヒツジ、ミンク等の家畜、イヌ、ネコ等のペット、ヒト、サル、カニクイザル、アカゲザル、マーモセット、オランウータン、チンパンジーなどの霊長類等を挙げることが出来るが、これらに限定されるものではない。哺乳動物は、好ましくは霊長類(ヒト等)又はげっ歯類(マウス等)である。ある特定の動物種の哺乳動物に対しては、その動物種のL型アミノ酸トランスポーター(好ましくは、LAT1又はLAT2)を阻害する本発明の剤が投与される。
本発明の剤の投与量及び投与回数は、投与形態、患者の年齢、体重、適用疾患、骨粗鬆症の種類、治療すべき症状の性質もしくは重篤度により異なるが、通常、閉経後骨粗鬆症の患者を静脈内投与により治療する場合、有効成分であるL型アミノ酸トランスポーター阻害剤として、体重1kg当たり0.01〜800 mgを一日1回ないし数回投与する。投与期間は、例えば、卵巣を摘出した性機能異常に起因する骨粗鬆症患者に対しては、卵巣摘出の翌日から4週間かけて骨粗鬆症になるため、卵巣摘出の翌日から少なくとも4週間連日投与することが好ましい。また、閉経後骨粗鬆症の患者に対しても少なくとも4週間連日投与することが好ましい。しかしながら、これら投与量、投与回数及び投与期間は前述の種々の条件により変動する。
また、本発明は、被検物質が、L型アミノ酸トランスポーター(好ましくは、LAT1又はLAT2)を阻害し得るか否かを評価する工程を含む、骨粗鬆症の予防及び/又は治療剤、骨吸収抑制剤、骨形成促進剤、破骨細胞分化の抑制剤、又は骨芽細胞分化の促進剤の候補物質のスクリーニング方法を提供するものである。後述の実施例に示されるように、L型アミノ酸トランスポーターの働きを阻害すると、破骨細胞分化が抑制されると共に骨芽細胞分化が促進されるので、L型アミノ酸トランスポーターの阻害活性を指標として、骨粗鬆症の予防及び/又は治療剤、骨吸収抑制剤、骨形成促進剤、破骨細胞分化の抑制剤、又は骨芽細胞分化の促進剤の候補物質をスクリーニングすることが可能である。
本発明のスクリーニング方法は、具体的には、以下の工程を含む:
(1)被検物質をL型アミノ酸トランスポーター(好ましくは、LAT1又はLAT2)の活性を測定可能な細胞へ接触させること;
(2)該細胞における当該L型アミノ酸トランスポーターの活性を測定すること;
(3)被検物質を接触させた細胞における当該L型アミノ酸トランスポーターの活性を、被検物質を接触させない対照細胞における当該L型アミノ酸トランスポーターの活性と比較すること;及び
(4)比較の結果得られた当該L型アミノ酸トランスポーターの活性の変化を、骨粗鬆症を予防及び/又は治療する活性、骨吸収抑制活性、骨形成促進活性、破骨細胞分化を抑制する活性、又は骨芽細胞分化を促進する活性と相関付けること。
本発明のスクリーニング方法に供される被検物質は、いかなる公知化合物及び新規化合物であってもよく、例えば、核酸、糖質、脂質、蛋白質、ペプチド、有機低分子化合物、コンビナトリアルケミストリー技術を用いて作製された化合物ライブラリー、ランダムペプチドライブラリー、あるいは微生物、動植物、海洋生物等由来の天然成分等が挙げられる。
上述のように、L型アミノ酸トランスポーター(好ましくは、LAT1又はLAT2)は、4F2hcとヘテロダイマーを形成することにより、アミノ酸をNa+非依存的に細胞内に輸送する。従って、本発明のスクリーニング方法に使用することができる「L型アミノ酸トランスポーターの活性を測定可能な細胞」は、L型アミノ酸トランスポーター(好ましくは哺乳動物のLAT1及び/又はLAT2)及び4F2hc(好ましくは哺乳動物の4F2hc)を共発現する。この場合、好ましくはL型アミノ酸トランスポーターが由来する哺乳動物の種類は4F2hcが由来する哺乳動物の種類と同一である。
「L型アミノ酸トランスポーターの活性を測定可能な細胞」の由来は、通常動物である。動物には、哺乳動物のほか、鳥類(ニワトリ等)、爬虫類、両生類(カエル等)、魚類(ゼブラフィッシュ等)、昆虫(カイコ等)等が包含される。
本発明において、哺乳動物には、例えば、マウス、ラット、ハムスター、モルモット等のげっ歯類やウサギ等の実験動物、ブタ、ウシ、ヤギ、ウマ、ヒツジ、ミンク等の家畜、イヌ、ネコ等のペット、ヒト、サル、カニクイザル、アカゲザル、マーモセット、オランウータン、チンパンジーなどの霊長類等が包含されるが、これらに限定されるものではない。哺乳動物は、好ましくは霊長類(ヒト等)又はげっ歯類(マウス等)である。
本発明において用いられる「L型アミノ酸トランスポーターの活性を測定可能な細胞」は、L型アミノ酸トランスポーター及び4F2hcを天然で発現する細胞であるか、あるいは遺伝子導入によりL型アミノ酸トランスポーター及び4F2hcを強制発現する細胞である。
L型アミノ酸トランスポーター及び4F2hcを天然で発現する細胞は、L型アミノ酸トランスポーター及び4F2hcを潜在的に発現するものである限り特に限定されず、当該細胞として、初代培養細胞、当該初代培養細胞から誘導された細胞株、腫瘍細胞、卵母細胞などを用いることができる。L型アミノ酸トランスポーター及び4F2hcは、中枢神経系(神経細胞等)、骨組織(骨芽細胞、破骨細胞等)、癌組織(癌細胞)等に発現しているので、これらの細胞から誘導された細胞株、及びこれらの細胞由来の腫瘍細胞を、L型アミノ酸トランスポーター及び4F2hcを天然で発現する細胞として使用することができる。
L型アミノ酸トランスポーター(好ましくは、LAT1又はLAT2)及び4F2hcを強制発現する細胞は、適切なL型アミノ酸トランスポーターの発現ベクター及び4F2hc発現ベクターを、周知のトランスフェクション法で細胞内へ導入することにより、製造することができる。あるいは、L型アミノ酸トランスポーター及び4F2hcの発現ベクター又はmRNAをマイクロインジェクションにより注入することによっても、L型アミノ酸トランスポーター及び4F2hcを強制発現する細胞を製造することができる。遺伝子導入に用いる好適な細胞としては、HEK293、COS7等を挙げることが出来る。
被検物質のL型アミノ酸トランスポーターの活性を測定可能な細胞への接触は、通常、インビトロにおいて行われる。例えば、L型アミノ酸トランスポーターの活性を測定可能な細胞を、被検物質を含む適切な培地中で培養する。培地は、細胞の種類に応じて適宜選択されるが、例えば、哺乳動物細胞を用いる場合には、約5〜20%のウシ胎仔血清を含む最少必須培地(MEM)、ダルベッコ改変イーグル培地(DMEM)等が例示される。他の培養条件も同様に適宜決定されるが、例えば、培地のpHは約6〜約8であり、培養温度は通常約30〜約40℃であり、培養時間は約0.5〜約72時間である。当業者であれば、細胞の種類に応じて適切な培養条件を容易に設定することが可能である。
L型アミノ酸トランスポーターの活性は、例えば、放射線同位体(例えば3H、14C、13C、15S等)により標識された、L型アミノ酸トランスポーターが輸送可能なアミノ酸(ロイシン、イソロイシン、バリン、フェニルアラニン、チロシン、トリプトファン、メチオニン、ヒスチジン等の大型の中性アミノ酸、グリシン、アラニン、セリン、システイン、スレオニン等の小型の中性アミノ酸)の細胞内への取り込みを、シンチレーションカウンター等により測定することにより評価することができる(J. Neurosci. Res. 2008, 86(8), 1846-1856.等参照)。
L型アミノ酸トランスポーターの活性の比較は、好ましくは、有意差の有無に基づいて行なわれ得る。なお、被検物質を接触させない対照細胞におけるL型アミノ酸トランスポーターの活性は、被検物質を接触させた細胞におけるL型アミノ酸トランスポーターの活性の測定に対し、事前に測定した値であっても、同時に測定した値であってもよいが、実験の精度、再現性の観点から同時に測定した値であることが好ましい。
尚、対照細胞についての試験条件(細胞の種類、培養条件等)は、被検物質を接触させない点を除き、被検物質を接触させる細胞と同一であることが好ましい。
そして、比較の結果得られたL型アミノ酸トランスポーターの活性の変化を、骨粗鬆症を予防及び/又は治療する活性、骨吸収抑制活性、骨形成促進活性、破骨細胞分化を抑制する活性、又は骨芽細胞分化を促進する活性と相関付ける。L型アミノ酸トランスポーター活性の低下は、骨粗鬆症を予防及び/又は治療する活性、骨吸収抑制活性、骨形成促進活性、破骨細胞分化を抑制する活性、及び骨芽細胞分化を促進する活性と正に相関するので、L型アミノ酸トランスポーターの活性を低下させた被検物質を、骨粗鬆症の予防及び/又は治療剤、骨吸収抑制剤、骨形成促進剤、破骨細胞分化の抑制剤、又は骨芽細胞分化の促進剤の候補物質として選択することが出来る。
このようにして選択された候補物質が、実際に骨粗鬆症を予防及び/又は治療するか、骨吸収を抑制するか、骨形成を促進するか、破骨細胞分化を抑制するか、或いは骨芽細胞分化を促進するか、確認する試験を引き続き行ってもよい。このような確認試験は、例えば、以下のI、II又はIIIの方法論により行うことができる。
I.
(1’)骨粗鬆症モデル非ヒト哺乳動物に候補物質を投与すること;
(2’)該非ヒト哺乳動物における骨粗鬆症の症状を評価すること;
(3’)候補物質を投与した非ヒト哺乳動物における骨粗鬆症の症状を、候補物質を投与していない対照非ヒト哺乳動物における骨粗鬆症の症状と比較すること。
骨粗鬆症モデル非ヒト哺乳動物は、当業者に周知であり、例えば、卵巣摘出非ヒト哺乳動物(Am. J. Pathol. 2007, 170(4), 1277-1290等)、関節炎非ヒト哺乳動物(Biochemical Pharmacol. 2005, 70(12), 1744-1755等)、尾部懸垂による重力低下非ヒト哺乳動物(Exp. Cell. Res. 2006, 312(16), 3075-3083等)等を挙げることができるが、これらに限定されない。
骨粗鬆症の症状の評価は、当業者に周知のパラメーター、例えば、骨密度、骨量、血中アルカリフォスファターゼ活性等に基づき行われる。
尚、対照非ヒト哺乳動物についての試験条件(動物の種類、骨粗鬆症モデルの種類等)は、候補物質を投与しない点を除き、候補物質を投与する非ヒト哺乳動物と同一であることが好ましい。
そして、候補物質を投与した非ヒト哺乳動物における骨粗鬆症の症状が、候補物質を投与していない対照非ヒト哺乳動物における骨粗鬆症の症状よりも有意に軽減されている場合には、当該候補物質を、骨粗鬆症を予防及び/又は治療する活性、骨吸収抑制活性、骨形成促進活性、破骨細胞分化を抑制する活性、及び骨芽細胞分化を促進する活性を有する物質として得ることが出来る。
II.
(1’’)被検物質の存在下で、破骨細胞の前駆細胞を破骨細胞分化条件下で培養すること;
(2’’)培養後の培養物における破骨細胞への分化の程度を評価すること;
(3’’)候補物質の存在下での培養後の破骨細胞への分化の程度を、候補物質の非存在下での対照培養後の破骨細胞への分化の程度と比較すること。
破骨細胞の前駆細胞としては、単球、骨髄細胞、マクロファージ系細胞やそれ由来の細胞株を挙げることができる。
破骨細胞分化条件としては、破骨細胞分化因子(RANKL、sRANKL、PMA、LPS等)の添加が挙げられる。破骨細胞分化条件については、例えばAm. J. Pathol. 2007, 170(4), 1277-1290等を参照のこと。
破骨細胞分化の程度は、例えばTRAP(酒石酸耐性酸性フォスファターゼ)染色を行い、TRAP陽性多核細胞の数に基づき、評価することができる。破骨細胞分化の程度の評価方法については、例えば、Am. J. Pathol. 2007, 170(4), 1277-1290等を参照のこと。
尚、対照培養についての試験条件(破骨細胞の前駆細胞の種類、破骨細胞分化条件等)は、候補物質の非存在下で培養する点を除き、候補物質の存在下での試験条件と同一であることが好ましい。
そして、候補物質で処理した培養物における破骨細胞分化の程度が、候補物質で処理していない対照培養物における破骨細胞分化の程度よりも有意に抑制されている場合には、当該候補物質を、骨粗鬆症を予防及び/又は治療する活性、骨吸収抑制活性、及び破骨細胞分化を抑制する活性を有する物質として得ることが出来る。
III.
(1’’’)被検物質の存在下で、骨芽細胞の前駆細胞を骨芽細胞分化条件下で培養すること;
(2’’’)培養後の培養物における骨芽細胞への分化の程度を評価すること;
(3’’’)候補物質の存在下での培養後の骨芽細胞への分化の程度を、候補物質の非存在下での対照培養後の骨芽細胞への分化の程度と比較すること。
骨芽細胞の前駆細胞としては、骨髄間質細胞やそれ由来の細胞株を挙げることができる。
骨芽細胞分化条件としては、骨芽細胞分化因子(BMP-2、アスコルビン酸等)の添加が挙げられる。骨芽細胞分化条件については、例えば、J. Biol. Chem. 2006, 281(26), 18015-24等を参照のこと。
骨芽細胞分化の程度は、例えば細胞中のアルカリフォスファターゼ活性を測定することにより、評価することができる。骨芽細胞分化の程度の評価方法については、例えば、J. Biol. Chem. 2006, 281(26), 18015-24等を参照のこと。
或いは、骨芽細胞分化の程度は、培養後の細胞を石灰化条件下で更に培養することにより石灰化を誘導し、細胞内へ蓄積されたカルシウムの量を測定することによっても、評価することができる。石灰化条件としては、例えば石灰化因子(α−グリセロリン酸)の添加が挙げられる。骨芽細胞の石灰化培養の条件については、例えば、J. Biol. Chem. 2006, 281(26), 18015-24等を参照のこと。
尚、対照培養についての試験条件(骨芽細胞の前駆細胞の種類、骨芽細胞分化条件等)は、候補物質の非存在下で培養する点を除き、候補物質の存在下での試験条件と同一であることが好ましい。
そして、候補物質で処理した培養物における骨芽細胞分化の程度が、候補物質で処理していない対照培養物における骨芽細胞分化の程度よりも有意に促進されている場合には、当該候補物質を、骨粗鬆症を予防及び/又は治療する活性、骨形成促進活性、及び骨芽細胞分化を促進する活性を有する物質として得ることが出来る。
本明細書に引用するすべての特許、特許出願、および刊行物は、その全体が参照により本明細書に組み込まれるものとする。
以下、本発明について、実施例を挙げてさらに具体的に説明する。本発明はこれらにより何ら限定されるものではない。
[実施例1]
RAW264.7細胞にRANKLおよびBCHを添加して培養を4日間行ったのち、TRAP染色を行った。図1に示される通り、BCH非添加条件下においては、TRAP陽性の多核破骨細胞が多く観察されたのに対して、BCHを1mMおよび10 mM添加した条件下においてはBCHの濃度依存的に、TRAP陽性の多核破骨細胞の数が顕著に減少した。この結果から、L型アミノ酸トランスポーターの阻害剤は、破骨細胞の分化を抑制することが示唆された。
[実施例2]
MC3T3-E1細胞に分化誘導剤(アスコルビン酸とβ−グリセロリン酸)とBCHを添加して培養を21日間行ったのち、アルカリフォスファターゼ活性測定およびカルシウム蓄積量の測定を行った。アルカリフォスファターゼ活性はBCH添加条件下および非添加条件下で、顕著な差は認められなかった(図2)。しかしながら、カルシウム蓄積量はBCH添加条件下では、非添加条件下と比較して、有意に上昇した(図3)。この結果から、L型アミノ酸トランスポーターの阻害剤は、骨芽細胞への分化を促進することが示唆された。
[実施例3]
野生型マウスに卵巣摘出術を施し、BCH(400 mg/kg)を毎日腹腔内投与し、術後28日目に体重、子宮重量および骨密度の測定を行った。その結果、マウスの体重には変化は認められなかったが(a)、子宮重量はOVX群およびOVXにBCHを投与した群で有意に低下した(b)。また、骨密度については、OVX群ではSham群と比較して、顕著な骨密度低下が認められたが、OVXにBCHを投与した群では、その骨密度低下が有意に抑制された(c)。この結果から、L型アミノ酸トランスポーターの阻害剤は、骨粗鬆症の予防及び/又は治療に有用であることが示唆された。
[実施例4]
RAW264.7細胞にマウスLAT1(Slc7a5)を標的とするsiRNAおよびマウスLAT2(Slc7a8)を標的とするsiRNAを単独導入あるいは共導入したのちに、RANKLを培地に添加して、該細胞を4日間培養し、得られた細胞をTRAP染色に付した。単独導入のsiRNAの濃度は5 pmol、共導入時の各siRNAの濃度は5 pmol(合計10 pmol)である。各siRNAの配列は以下の通りである。
LAT1を標的とするsiRNA : UUGAAUCGGAGCCACAUCAUACCGA(配列番号13)
LAT2を標的とするsiRNA : AACAGAAAUGGGCAUGAUCCAGGCC(配列番号14)
その結果、LAT1を標的とするsiRNA又はLAT2を標的とするsiRNAを単独で導入したところ、TRAP陽性の多核破骨細胞がそれぞれ有意に低下した(図5)。さらに、LAT1を標的とするsiRNAおよびLAT2を標的とするsiRNAを共導入した場合、単独導入と比較してさらに顕著にTRAP陽性の多核破骨細胞が減少した(図5)。以上の結果から、LAT1及びLAT2の少なくとも一方を阻害することにより破骨細胞の分化を抑制できることが示された。また、LAT1阻害剤とLAT2阻害剤を併用すると、破骨細胞の分化抑制効果が顕著に増強されることが示唆された。
本発明は、破骨細胞分化を抑制するとともに骨芽細胞分化を促進する医薬に関し、骨粗鬆症の予防や治療に有用である。

Claims (6)

  1. L型アミノ酸トランスポーター阻害剤を含有する、骨粗鬆症の予防及び/又は治療剤。
  2. L型アミノ酸トランスポーター阻害剤が、
    (1)2-アミノビシクロ-(2,2,1)-ヘプタン-2-カルボン酸又はその薬理学的に許容される塩;
    (2)LAT1に対するRNA干渉誘導性RNA若しくはアンチセンス核酸又はこれらの核酸を発現し得る発現ベクター;
    (3)LAT2に対するRNA干渉誘導性RNA若しくはアンチセンス核酸又はこれらの核酸を発現し得る発現ベクター;又は
    (4)CD98を特異的に認識し、且つ該CD98とヘテロダイマーを形成するL型アミノ酸トランスポーターのアミノ酸輸送機能を阻害する抗体
    である、請求項1記載の骨粗鬆症の予防及び/又は治療剤。
  3. L型アミノ酸トランスポーター阻害剤として、
    (2)LAT1に対するRNA干渉誘導性RNA若しくはアンチセンス核酸又はこれらの核酸を発現し得る発現ベクター;及び
    (3)LAT2に対するRNA干渉誘導性RNA若しくはアンチセンス核酸又はこれらの核酸を発現し得る発現ベクター
    を含む、請求項1記載の骨粗鬆症の予防及び/又は治療剤。
  4. L型アミノ酸トランスポーター阻害剤を含有する、骨吸収抑制剤。
  5. L型アミノ酸トランスポーター阻害剤を含有する、骨形成促進剤。
  6. 被検物質が、L型アミノ酸トランスポーターを阻害し得るか否かを評価する工程を含む、骨粗鬆症の予防及び/又は治療剤、骨吸収抑制剤、或いは骨形成促進剤の候補物質のスクリーニング方法。
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