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JP2011516463A - 複合試料からのn末端修飾されたペプチドの選択的濃縮 - Google Patents

複合試料からのn末端修飾されたペプチドの選択的濃縮 Download PDF

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Abstract

本発明は、特定のポリペプチド/ペプチド・ラベル付けおよび分画戦略を、解析されるべきN末端断片を標的にする特異的な化学反応および/または酵素反応と組み合わせることによって、複合試料からポリペプチドおよび/またはペプチドのN末端断片の選択的な濃縮を許容する方法に関する。

Description

本発明は、特定のポリペプチド/ペプチド・ラベル付け〔標識付け〕および分画(fractionation)戦略を、解析すべきN末端断片(fragment)を標的にする特異的な化学反応および/または酵素反応と組み合わせることによって、複合試料からのポリペプチドおよび/またはペプチドのN末端断片の選択的濃縮を許容する方法に関する。
複合試料からの特定のタンパク質またはタンパク質の部分集合〔サブセット〕の同定、分離および分析は、生体プロセスが分子レベルでどのようにして行われるか、あるいはさまざまな細胞種別の間でもしくは生理状態の間でタンパク質がどの程度異なっているかを解き明かすために計り知れない重要性がある。
現代の生物学における主要な課題は、生物体によってエンコードされるタンパク質の集合全体の発現、機能および調節の理解に向けられている。プロテオミクスとして一般に知られる技術分野である。しかしながら、タンパク質の増幅はできないので、この分野における研究は一般に根気のいるものになっている。それというのも、比較的単純な原核生物の細胞抽出物でさえ、広い範囲の濃度にまたがるたくさんのタンパク質を含んでいるからである。したがって、そのようなタスクは、現代のいかなる単独の分析方法の能力をも超えるものである。
よって、方法論的な制約のため、プロテオーム解析は、タンパク質を同定および定量する方法ばかりでなく、――かなりの度合い――その構造的および/または機能的属性に従ってその正確でありかつ信頼できる分類を許容し、それらの部分集合〔サブセット〕をさらなる解析にとってよりアクセスしやすいようにする方法にも依拠することになる。
プロテオームは、ダイナミックな性質をもち、細胞環境における外的な刺激または変化に応答して、タンパク質合成、活性化および/または翻訳後修飾における変化がある。したがって、プロテオームの内在的な複雑さは、ゲノムまたはトランスクリプトーム、細胞のmRNA相補体の複雑さを超える。
そのようなプロテオーム研究において処理されるべきデータの並外れた量のため、タンパク質/ペプチド同定プロセスは途方もない分解能を要求する。そのようなきわめて複雑な混合物を分解するために一般的に使われる二つの方法は、二次元ゲル電気泳動(2D-GE;たとえば非特許文献1参照)および(二次元)液体クロマトグラフィー((2D)-LC;たとえば非特許文献2参照)である。2D-GEまたは2D-LCによって単離されたペプチドおよびタンパク質は通例、質量分析によって、あるいはアミノ酸組成および/またはアミノ酸配列を決定することによって同定される。
特に質量分析は、高いスループットのセットアップにおいて、タンパク質の正確な定性的同定および定量的決定を許容する。にもかかわらず、質量分析はいくつかの本来的な技術的限界がある。質量分析に基づくタンパク質解析における今日最大の問題の一つは、検出されるタンパク質のダイナミックレンジおよび数である。特に、血清または血漿のような試料では、数十万のタンパク質と組み合わさって、ダイナミックレンジは1012のオーダーであると推定される。タンパク質を同定する典型的な作業フローは、これらのタンパク質のプロテオーム的消化および結果として得られる断片の解析を含む。人間の血漿または血清の場合、血漿または血清タンパク質がトリプシンで消化されたときに平均して55のトリプシン・ペプチドが生じることを考えると、これは複雑さをほぼ50倍増すことがありうる。同時に、たいていの質量分析器のダイナミックレンジは単一のスペクトルにおいて100を超えない。よって、利用可能な分離窓は、存在するすべてのタンパク質の検出を許容しないか、あるいはその目的のために増大させる必要がある。
質量分析器による解析を行う前に検出されるべきタンパク質にラベル付けして、たとえばトリプシン消化物から帰結するラベル付けされたペプチド断片だけを単離することによって複雑さを減らすために、種々のアプローチが取られてきた。このアプローチの背後にある動機は、ラベル付け効率は検出されるべきタンパク質の大多数を通じてほぼ等しく、よってラベル付けされたペプチド断片だけを解析すれば、解析されるべき試料に存在するタンパク質の代表的な描像を与えるであろうということである。
そのようなプロセスは、プロテオーム解析において検出されるべき信号の複雑さの軽減を許容したものの、質量分析器による解析のためにタンパク質およびペプチドのある種の部分集合を合目的的に選択するためのさらなるアプローチに対する継続的な必要性が存在している。
O'Farrell,P.H., J. Biol. Chem, 250, 4007-4021, 1975 Lipton,M.S. et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 99, 11049-11054, 2002 Ross,P.L. et al., Mol. Cell. Proteomics, 3, 1154-1169, 2004 Gygi,S.P. et al., Nat. Biotechnol., 17, 994-999, 1999 Lis,H., and Sharon,N., Chem. Rev., 98, 637-674, 1998 Kaji,H. et al., Nat. Biotechnol., 21, 667-672, 2003 Hirabayashi,J., Glycoconj. J., 21, 35-40, 2004 Drake,R.R. et al., Mol. Cell. Proteomics, 5, 1957-1967, 2006 Zhang,H. et al., Nat. Biotechnol., 21, 660-666, 2003 Sun,B. et al., Mol. Cell. Proteomics, 6, 141-149, 2007 Goshe,M.B. et al., Anal. Chem., 73, 2578-2586, 2001
質量分析器による解析において使うための、複雑な試料からポリペプチドおよび/またはペプチドのペプチド断片の選択的濃縮のための新しいアプローチを提供することが本発明の一つの目的である。より具体的には、質量分析において並行して解析されるべきポリペプチドおよび/またはペプチドのペプチド断片の選択的濃縮を許容する方法を提供することが本発明の目的である。
これらの目的および以下の記述から明白となるであろうその他の目的は、独立請求項の主題によって達成される。本発明の好ましい実施形態のいくつかは、従属請求項の主題によって定義される。
ある実施形態では、本発明は、試料中のポリペプチドおよび/またはペプチドのN末端断片の選択的濃縮および/または分離のための方法であって:
(a)少なくとも第一の試料内に含まれるタンパク質、ポリペプチドおよび/またはペプチドの二重の化学ラベル付けと;
(b)少なくとも第二の試料内に含まれるタンパク質、ポリペプチドおよび/またはペプチドの二重の化学ラベル付けと;
(c)段階(a)および(b)のラベル付けされたタンパク質、ポリペプチドおよび/またはペプチドを組み合わせる段階と;
(d)ラベル付けされたタンパク質、ポリペプチドおよび/またはペプチドを消化してその断片を生成する段階と;
(e)前記断片を分画する段階と;
(f)前記断片とのメチル化反応を実行する段階と;
(g)前記断片を再分画する段階と;
(h)段階(e)および(g)において得られた分画パターンを比較する段階と;
(i)段階(h)において得られた結果に基づいて、ラベルを担持する前記ポリペプチドおよび/またはペプチドのN末端断片を分離する段階とを含み、
段階(a)および(b)における二重の化学ラベル付けは、同位体ラベル付けおよび同重体ラベル付けを含む、
方法に関する。
ある好ましい実施形態では、段階(e)および(g)の分画/再分画は等電点電気泳動によって実行される。
もう一つの好ましい実施形態では、段階(a)および(b)において使用される少なくとも一つの化学ラベルが、前記タンパク質、ポリペプチドおよび/またはペプチドの第一アミン基のラベル付けを許容するよう構成される。特に好ましくは、第一アミン基は、前記ポリペプチドおよび/またはペプチドのN末端にある。
さらにもう一つの好ましい実施形態では、前記試料に含まれる前記タンパク質、ポリペプチドおよび/またはペプチドのラベル付けは、少なくとも二つの異なる同位体ラベルを用いたラベル付けを含む。本発明の別の実施形態では、ラベル付けは、少なくとも二つの異なる同重体ラベルの使用を含む。
ある好ましい実施形態では、段階(a)および(b)のラベルは、それぞれの試料内のタンパク質、ポリペプチドおよび/またはペプチドを、出現するすべての利用可能な自由なアミン基において、たとえばアミノ酸リシン(lysine)およびアルギニンにおけるN末端において、ラベル付けするために使われる。
本発明の別の好ましい実施形態は、段階(f)におけるメチル化反応は第一アミン基のメチル化を許容する。
本発明のある実施形態は、質量分析による、段階(g)で同定されたN末端ペプチド断片のさらなる解析を含む。そのような質量分析器による解析は、MS/MSスキャンを含んでいてもよい。本発明のある実施形態は、本方法が高いスループットのフォーマットで実行されることに関する。
本発明の諸方法は、定性的および/または定量的なプロテオーム解析を実行するために使用されうる。
本発明の他の実施形態は以下の詳細な記述から明白となるであろう。
タンパク質、ポリペプチドまたはペプチドのN末端ペプチド断片の選択的濃縮を許容する、本発明の好ましい実施形態の適用の概略図である。所与の試料に含まれるたとえばポリペプチドは、16Oまたは18Oでラベル付けされた水(同位体ラベル付け)の存在下で消化される。同位体ラベル付けの前に、ポリペプチドまたは結果として得られる断片が、相対的および絶対的定量技術のため同重体ラベルを使ってラベル付けされる(iTraq、同重体ラベル付け)。同重体ラベルは、試料のポリペプチド内のすべての利用可能なアミン基をラベル付けする量で使用される。ラベル付けされた断片は等電点電気泳動(IEF: isoelectric focusing)によって分画される。すべての個々の画分(fraction)が収集され、個々にN末端アミン基をメチル化する反応において処理される。すべての画分は次いでIEFによって個々に再分画される。第一段のIEF後と同じ画分に分類されたペプチドはメチル化によっていかなる追加的な修飾も受けておらず、よってもともとiTraqマーカーでラベル付けされていたN末端断片である。だが、再分画の異なる画分に分類されたペプチドは、消化後に利用可能となったN末端でメチル化を受けている。こうして、最初の分画段階と再分画段階との比較により、ポリペプチドおよび/またはペプチドのN末端断片であるペプチドの同定が許容される。 図2a〜2fは、免疫除去した血漿試料に含まれる二重に化学ラベル付けしたペプチドを使った、MALDI-MSおよびMALDI-MS/MS解析の結果を示す図である。血漿試料は、多重親和除去LCカラム―ヒト7(Multiple Affinity Removal LC Column-Human 7)(米国カリフォルニア州サンタクララ、アジレント・テクノロジーズ社)によって免疫除去した。タンパク質は、ICAT試薬(米国カリフォルニア州フォスターシティー、アプライド・バイオシステムズ社)を使って本質的にはメーカーの説明書に従って同位体ラベル付けし、トリプシンで消化した(トリプシン:試料比=1:20)。その後、結果として得られるペプチドを、本質的には確立されたiTRAQプロトコル(米国カリフォルニア州フォスターシティー、アプライド・バイオシステムズ社)に従って同重体ラベル付けした。ラベル付けしたペプチドは、50-70-90-100-110-120-130-140-150-180-210-350mM KCl/10mM KH2PO4/25%アセトニトリル、pH3.0およびRP-HPLC(20s画分、SCX画分当たり380画分)を使って強カチオン交換(SCX: strong cation exchange)分画によって処理した。MALDI-MSおよびMALDI-MS/MS解析は4579個のスポットに対して実行された。図2aは、RP-HPLC画分#12(SCX画分 350mM KCl)のMS解析を示している。四つのICATピーク対が割り当てられている。ICAT(軽):ICAT(重)の間の期待されるピーク比=1.8である。 ピーク対#4(図3A参照)のICAT(軽)(1655.04Da)のMS/MS解析を示している。iTRAQリポーターm/zリージョン(114-117)が拡大されている。期待されるiTRAQ比は1:0.1:1:1である。 ピーク対#4(図3A参照)のICAT(重)(1664.08Da)のMS/MS解析を示している。iTRAQリポーターm/zリージョン(114-117)が拡大されている。期待されるiTRAQ比は1:1:1:1である。 RP-HPLC画分#39(SCX画分 50mM KCl)のMS解析を示している。四つのICATピーク対が割り当てられている。ICAT(軽):ICAT(重)の間の期待されるピーク比=1.5である。 ピーク対#4(図3D参照)のICAT(軽)(1586.84Da)のMS/MS解析を示している。iTRAQリポーターm/zリージョン(114-117)が拡大されている。期待されるiTRAQ比は1:0.1:1:1である。 ピーク対#4(図3D参照)のICAT(重)(1595.87Da)のMS/MS解析を示している。iTRAQリポーターm/zリージョン(114-117)が拡大されている。期待されるiTRAQ比は1:1:1:1である。 リポーターおよびバランス基を有する同重体ラベルの一般的な構造を示す図である。 いずれも親和性基としてpoly-Leuタグを使う同位体ラベルの組を示す図である。これらのラベルは、たとえば12Cおよび13Cの使用において異なる。 図4の(a)に示した(Leu)3化合物の化学合成のための詳細な反応段階のステップ(1)および(2)を示す図である。合成手順は例2において概説される。 図5−Iに続くステップ(3)および(4)を示す図である。 図5−IIに続くステップ(5)および(6)を示す図である。 図5−IIIに続くステップ(7)および(8)を示す図である。 図5−IVに続くステップ(9)を示す図である。 図5−Vに続くステップ(10)および(11)を示す図である。
本発明は、特定のタンパク質/ポリペプチド/ペプチド・ラベル付け〔標識付け〕および分画(fractionation)戦略を、第一アミンを標的にする特異的な化学反応および/または酵素反応と組み合わせることによって、複合試料からのこれらのポリペプチド/ペプチドのN末端断片の高速かつ高度に選択的な濃縮および/または分離が許容されるという予期されなかった発見に基づいている。
以下で例示的に記載される本発明は、本稿に特に開示されていないいずれかの要素(単数または複数)、制限(単数または複数)がなくても好適に実施されることがありうる。
本発明は、個別的な実施形態との関連で、ある種の図面を参照して記載されるが、本発明はそれらに限定されるものではなく、請求項によってのみ限定される。記載される図面は単に概略的なものであって、限定するものではない。図面において、例解の目的のために一部の要素の大きさは誇張されており、縮尺通りに描かれていないことがある。
本稿および請求項において「有する」の語が用いられるとき、これは他の要素を排除するものではない。本発明の目的のためには、「からなる」の語は「有する」の語のある好ましい実施形態であると考えられる。以下において、少なくともある数の実施形態を含むようグループが定義される場合、これは、好ましくはそれらの実施形態のみからなるグループを開示するとも理解される。
単数名詞を指すときに不定冠詞または定冠詞、たとえばa, anまたはtheが使われるとき、これは、そうでないことが特に記されているのでない限り、その名詞の複数を含む。本発明の脈絡における「約」または「ほぼ」の用語は、問題となっている特徴の技術的効果を保証すると当業者が理解するような精度の区間を表す。この用語は典型的には指示された数値から±10%、好ましくは±5%の逸脱を示す。
用語のさらなる定義は、そうした用語が使用される文脈において、以下で与えることにする。
ある実施形態では、本発明は、試料中のポリペプチドおよび/またはペプチドのN末端断片の選択的濃縮および/または分離のための方法であって:
(a)少なくとも第一の試料内に含まれるタンパク質、ポリペプチドおよび/またはペプチドの二重の化学ラベル付けと;
(b)少なくとも第二の試料内に含まれるタンパク質、ポリペプチドおよび/またはペプチドの二重の化学ラベル付けと;
(c)段階(a)および(b)のラベル付けされたタンパク質、ポリペプチドおよび/またはペプチドを組み合わせる段階と;
(d)ラベル付けされたタンパク質、ポリペプチドおよび/またはペプチドを消化してその断片を生成する段階と;
(e)前記断片を分画する段階と;
(f)前記断片とのメチル化反応を実行する段階と;
(g)前記断片を再分画する段階と;
(h)段階(e)および(g)において得られた分画パターンを比較する段階と;
(i)段階(h)において得られた結果に基づいて、ラベルを担持する前記ポリペプチドおよび/またはペプチドのN末端断片を分離する段階とを含み、
段階(a)および(b)における二重の化学ラベル付けは、同位体ラベル付けおよび同重体ラベル付けを含む、
方法に関する。
「タンパク質」の用語は、ここでの用法では、複数の天然のまたは修飾されたアミノ酸がペプチド結合を介してつながったものを含む任意の天然のまたは合成の(たとえば化学合成または組み換えDNA技術によって生成された)高分子を指す。「ポリペプチド」の用語は、同様に、複数の天然のまたは修飾されたアミノ酸がペプチド結合によってつながったものを含む天然のまたは合成の高分子を指す。そのような分子の長さは、アミノ酸数千個にも上りうる。よって、この用語は、一般にオリゴペプチドと称されるものをも含む。典型的には、「タンパク質」または「ポリペプチド」の用語は、アミノ酸20個を超える長さをもつ分子に関する。よって、本発明において解析すべきタンパク質はアミノ酸約30個ないし約500個、約50個ないし約1000個、あるいは約100個ないし約2000個、などの長さをもっていてもよい。
「ペプチド」の用語は、ここでの用法では、高々20個の天然のまたは修飾されたアミノ酸がペプチド結合を介してつながったものを含む天然のまたは合成の分子を指す。典型的には、本発明において解析すべきペプチドはアミノ酸約2個ないし約20個、約3個ないし約18個、あるいは約5個ないし約15個の長さをもっていてもよい。
「断片」の用語は、ここでの用法では、上述したタンパク質、ポリペプチドおよび/またはペプチドの、一つまたは複数のペプチド結合の切断後に得られる任意の断片を指す。以下に記載されるような切断は、化学的におよび/または酵素により実行されてもよい。本発明において使用される断片は、その断片が導出されるもとになったタンパク質、ポリペプチドまたはペプチドよりもそのアミノ酸配列の点で短いというほかは、その大きさや性質に関していかなる点でも限定されない。
「N末端断片」の用語は、ここでの用法では、上述したタンパク質、ポリペプチドまたはペプチドのN末端の最も近くに位置するタンパク質、ポリペプチドまたはペプチドの断片が段階(b)における化学的および/または酵素による消化によって得られたものを表す。
「翻訳後修飾」の用語は、ここでの用法では、タンパク質翻訳の完了後に生起する、本発明に従ってタンパク質、ポリペプチドおよび/またはペプチドの任意の型の化学修飾を表す。そのような修飾の例としては、なかでも、リン酸化、ユビキチニル化、アセチル化、グリコシル化、アルキル化、イソプレニル化、リポイル化が含まれ、特にリン酸化が好ましい。この用語は、タンパク質および/またはペプチドに含まれる翻訳後修飾の数および/または型に関して制限されないとも理解しておくべきである。よって、所与のタンパク質は、その配列中に、二つ以上のリン酸化されたアミノ酸または一つもしくは複数のリン酸化したアミノ酸および一つもしくは複数のユビキチニル化されたアミノ酸残基を含んでいてもよい。
「リン酸化タンパク質」、「リン酸化ポリペプチド」および「リン酸化ペプチド」の用語は、ここでの用法では、一つまたは複数のリン酸化されたアミノ酸残基、特にリン酸化されたセリン、トレオニンまたはチロシン残基をその一次配列中に含む任意のタンパク質、ポリペプチドおよび/またはペプチドを表す。本発明の範囲内で、アミノ酸リン酸化は、翻訳後タンパク質修飾によって生体内で行われてもよいし、あるいは特定のタンパク質キナーゼを用いて生体外で行われてもよい。
「グリコシル化したタンパク質」(本稿では「糖タンパク質」とも称される)、「グリコシル化したポリペプチド」(本稿では「グリコペプチド」とも称される)、「グリコシル化したペプチド」(本稿では「グリコペプチド」とも称される)の用語は、ここでの用法では、一つまたは複数のグリコシル化したアミノ酸残基をその一次配列中に含む任意のタンパク質、ポリペプチドおよび/またはペプチドを表す。ここで、グリコシル化はN-グリコシル化、O-グリコシル化またはグリコシルホスファチジルイノシトール・アンカー付けであってもよい。「N-グリコシル化」(本稿では「N結合型グリコシル化」とも称される)の用語は、ここでの用法では、アスパラギン・アミノ酸残基のアミド窒素への任意の糖部分(すなわち、グルコースまたはガラクトースのような単糖、マルトースおよびスクロースのような二糖ならびにオリゴ糖または多糖を含む炭水化物または糖部分)の酵素誘導された部位特異的な付加を表す。一方、「O-グリコシル化」(本稿では「O結合型グリコシル化」とも称される)の用語は、ここでの用法では、セリンまたはトレオニン・アミノ酸残基の水酸基の酸素への任意の糖部分の酵素誘導された部位特異的な付加を表す。最後に、「グリコシルホスファチジルイノシトール・アンカー付け」(本稿では「GPIアンカー付け〔繋止〕(anchoring)」とも称される)の用語は、ここでの用法では、タンパク質および/またはペプチドのC末端のアミノ酸への、炭水化物含有結合部〔リンカー〕(ホスホリルエタノールアミン残基に結合されたグルコサミンおよびマンノースのような)を通じてリンクされる疎水性のホスファチジルイノシトール基の付加を表す。ここで、ホスファチジルイノシトール基内の二つの脂肪酸がタンパク質を細胞膜にアンカー付けする。本発明の範囲内で、アミノ酸グリコシル化は、翻訳後タンパク質修飾によって生体内で行われてもよいし、あるいは特定のグリコシル転移酵素を用いて生体外で行われてもよい。
「試料」または「複合試料」の用語は、ここでの用法では、本発明の方法を使って解析される試料が典型的には、異なる濃度で存在する多数の異なるタンパク質、ポリペプチドおよび/またはペプチド(またはそのようなタンパク質、ポリペプチドおよび/またはペプチドの異なる変形)を含むという事実を表している。たとえば、本発明内の複合試料は、少なくとも約500、少なくとも約1000、少なくとも約5000または少なくとも約10000のタンパク質、ポリペプチドおよび/またはペプチドを含んでいてもよい。本発明で使われる典型的な複合試料は、なかでも、細胞抽出物または原核生物または真核生物起源の溶解物ならびにヒトまたはヒト以外の、全血、血清、血漿試料のような体液などを含む。
本発明に基づく方法では、タンパク質、ポリペプチドおよび/またはペプチドは化学的にラベル付けされる。
「化学的ラベル付け〔標識付け〕」の用語は、ここでの用法では、本発明で使われるタンパク質、ポリペプチドおよび/またはペプチド中への一つまたは複数の検出可能なマーカー(つまり「ラベル」)の取り付けまたは組み込みを表す。「検出可能なマーカー」の用語は、ここでの用法では、一つまたは複数の適切な化学物質または酵素を含む任意の化合物を指す。これは、直接的または間接的に、化学反応、物理的反応または酵素反応において検出可能な化合物または信号を生成する。ここでの用法では、この用語は、ラベルそのもの(すなわち、タンパク質および/またはペプチドに結合した化合物または化合物部分)もラベル付け試薬(すなわち、ペプチドまたはタンパク質との結合前の化合物または化合物部分)も両方とも含むものと理解しておくものとする。本発明で使用されるラベルは、タンパク質、ポリペプチドおよび/またはペプチドのアミノ基、カルボキシル基またはアミノ酸残基に共有結合または非共有結合を介して取り付けられうる。典型的には、結合は共有結合である。ラベルは、中でも特に、同位体ラベル、同重体ラベル、酵素ラベル、着色された(colored)ラベル、蛍光ラベル、発色性(chromogenic)ラベル、ルミネッセント・ラベル、放射性ラベル、ハプテン、ビオチン、金属錯体、金属およびコロイド金から選択できる。等張性〔アイソトニック〕ラベルおよび同重体ラベルが特に好ましい。これらすべての型のラベルは当技術分野においてよく確立されている。
ラベル付け段階(a)および(b)は二重の化学ラベル付け段階である。
「二重の化学ラベル付け」の用語は、ここでの用法では、タンパク質および/またはペプチドが、二つの異なる型のラベル、つまり同位体ラベルおよび同重体ラベルの一つまたは複数の検出可能なマーカーでラベル付けされることを表す。
「同重体ラベル」の用語は、ここでの用法では、同じ質量をもつが衝突誘起解離(CID: collision induced dissociation)に際して異なる質量の断片を生成しうる少なくとも二つのラベルの群を指す。この目的のために、同重体ラベルは、CIDに際して生成される、異なる質量のリポーター基と、さまざまなリポーター基の異なる質量を補償するバランス基とからなる。ある好ましい実施形態では、同重体ラベルはCIDによって分解される前に同じ質量をもつばかりでなく、同じ構造をもつ。リポーター基とバランス基との間の差のある質量分布は、同重体ラベル内での同位体の差のある分布によって達成されうる。そのような同重体ラベルの概略的な例が図3に描かれている。
本発明に基づく同重体ラベルの例は、中でも特に、相対的・絶対的定量用同重体タグ(iTRAQ: Isobaric Tag for Relative and Absolute Quantitation)ラベルを含む(非特許文献3参照)。この手法は、四つの異なるiTRAQ試薬を用い、各試薬はリポーター基、バランス基および第一アミン基と反応するペプチド反応性基を含む。リポーター基は、各試薬における12C/13Cおよび16O/18Oの差のある同位体組み合わせに依存して、114、115、116または117Daの質量をもつ。リポーター基とバランス基の組み合わされた質量が四つの試薬について一定(145Da)に留まることを保証するよう、バランス基は質量において31Daから28Daまで変化する。したがって、これらの試薬のそれぞれで同じペプチドをラベル付けすると、同重であり、よってたとえば液体クロマトグラフィーにおいて共溶出するペプチドを、結果として与える。よって、それらはクロマトグラフィー的には互いに識別不可能である。しかしながら、質量分析では、少なくともそれぞれのリポーター基はCIDに際して解放され、114Daないし117Daの相異なる質量を示す。これらの断片の強度が、単独での個々のタンパク質および/またはペプチドの定量のために使用できる。
同重体ラベルを使うことの利点は、異なる試料の同一のタンパク質、ポリペプチドまたはペプチドを異なる同重体ラベルでラベル付けすることができ、それらを質量分析解析において解析できるということである。そのような同重体ラベルでラベル付けされた異なる試料からの同一のタンパク質、ポリペプチドまたはペプチドおよびそれから帰結する断片は、質量分析解析において同じ信号を与える。しかしながら、CIDに際し、質量の信号は異なる信号に分解され、各信号は、異なるリポーター基質量から帰結する異なる質量によって特徴付けられる。これにより、これらの同一のタンパク質、ポリペプチドまたはペプチドのもともと使われた異なる試料における相対的な分布の解析ができる。
「同位体ラベル」の用語は、同じ化学式をもつが、一つまたは複数の原子について存在している同位体の数および/または型において互いに異なっている少なくとも二つまたはそれ以上のラベルの組を指す。同位体ラベルを使うことの利点は、異なる試料の同一のタンパク質、ポリペプチドまたはペプチドを異なる同位体ラベルでラベル付けして、それらを質量分析解析において解析できるということである。そのような同位体ラベルでラベル付けされた異なる試料からの同一のタンパク質、ポリペプチドまたはペプチドおよびそれから帰結する断片は、異なる同位体の使用に起因する同位体ラベルの重さの違いによって厳密な仕方で異なる信号を質量分析解析において与える。換言すれば、異なる試料からの普通なら同一のタンパク質、ポリペプチドおよび/またはペプチドに異なる同位体ラベルでラベル付けしたものは、質量分析解析において異なる質量に基づいて異なるものとして区別できるということである。
本発明に基づく同位体ラベルの例は、中でも特に、16Oまたは18Oでラベル付けされた水または同位体符号化親和性タグ(ICAT: Isotope-Coded Affinity Tag)ラベル(非特許文献4参照)を含む。ICAT試薬は三つの機能要素を使う:還元されたシステイン・アミノ酸残基の選択的ラベル付けのためのチオール反応性基と、ラベル付けされたペプチドの選択的単離を許容するためのビオチン親和性タグと、「軽い」(同位体〔アイソトピック〕でない)形と「重い」(たとえば2Hや13Cを使う)形の二つの同位体の形で合成される同位体タグである。本発明の範囲内で、同位体ラベル付けはペプチド・レベルで(たとえば、16Oまたは18Oのいずれかでラベル付けされた水の存在のもとに、解析されるべき試料中に含まれるタンパク質を切断することによって)、あるいはタンパク質レベルで直接(すなわち切断前に)、たとえば市販のICAT試薬(米国カリフォルニア州フォスターシティー、アプライド・バイオシステムズ社)を用いることによって、実行されうる。
同重体ラベル(上記参照)は原則として特定の型の同位体ラベルをなすものの、本発明のコンテキストでは、「同位体ラベル」の用語は、同重体でないがCIDが実行される前でもその分子量に基づいて質量分析解析において区別できるラベルを指すのに使われる
本発明の目的のためには、ラベルおよび好ましくは同位体および/または同重体ラベルはさらにそのタンパク質、ポリペプチドおよび/またはペプチドへの結合を許容する反応性基を有していてもよい。反応性基は好ましくは、その同位体および/または同重体ラベルとタンパク質、ポリペプチドおよび/またはペプチドとの間の共有結合を許容する。反応性基は、中でも特に、カルボキシル基、アミン基、ヒドロキシル基、スルフヒドリル基などを含む結合化学の群から選択されてもよい。他の共有付着化学も反応性基として適用可能であり、これに限られないが無水物、エポキシド、アルデヒド、ヒドラジド、アシルアジド、アリールアジド、ジアゾ化合物、ベンゾフェノン、カルボジイミド、イミドエステル、イソチオシアナート、NHSエステル、CNBr、マレイミド、トシラート、塩化トレシル、マレイン酸無水物およびカルボニルジイミダゾールを含む。NHSエステルが結合基として好まれる。
好ましくは、これらの結合化学は、ラベルの、タンパク質、ポリペプチドおよび/またはペプチド内の第一アミンへの、すなわちタンパク質、ポリペプチドおよび/またはペプチドのN末端におけるアミノ基への結合を許容するよう選択される。
このように、タンパク質、ポリペプチドおよび/またはペプチドにその利用可能なアミン基においてラベル付けしようとするなら、結合化学は好ましくはNHSエステルであってもよい。しかしながら、タンパク質、ポリペプチドおよび/またはペプチド内の標的基がシステインのスルフヒドリル基である場合には、ヨードアセトアミドのようなチオール反応性の結合化学を使ってもよい。
同重体および/または同位体ラベルはさらに、いわゆる親和性基を有していてもよい。本稿で用いるそのような親和性基は、ある種のクロマトグラフィー的アプローチによる、タンパク質、ポリペプチドおよび/またはペプチドのラベル付けされた断片の単離を許容する。この目的のため、タンパク質、ポリペプチドおよび/またはペプチドを選択的に濃縮するために、当技術分野において知られているような親和性基を使ってもよい。これらは、グルタチオン-S-転移酵素〔グルタチオン-S-トランスフェラーゼ〕タグ、ポリヒスチジン・タグ、ビオチン・タグ、HAタグ、フラッグ(Flag)・タグなどのような親和性タグを含む。そのような親和性基を含むマーカーでラベル付けされたタンパク質、ポリペプチドおよび/またはペプチドは、グルタチオン-S-転移酵素セファロースのようなクロマトグラフィー媒体、ニッケルNTAセファロースのような固定化金属アフィニティー・クロマトグラフィー樹脂、ストレプトアビジン・セファロース、抗HA抗体ベースのクロマトグラフィー、抗FLAG抗体ベースのクロマトグラフィーなどを使って単離されうる。
親和性および/または反応性の基は、同重体および/または同位体ラベル内で異なって配置されうる。同重体および/または同位体ラベル内でのこれらの基の、排他的ではない配置は、以下の式において示される。
Figure 2011516463
ここで、Aは親和性基質への可逆的な共有または非共有結合のための少なくとも一つの親和性基(affinity group)を指定し;IBは同重体(isobaric)タグ基を含む基であり;ITは同位体(isotopic)タグ基を含む基であり;Lは切断可能な(cleavable)化合物部分(moiety)を含むリンカー(linker)を指定し;RGはこれに限られないがタンパク質またはペプチドといった生体分子の選択的結合のための反応性基である。本発明のある好ましい実施形態では、同重体基は、式I、II、IIIおよびVに示されるように、本発明の分子の末端に位置される。特に好ましい実施形態は式Vのラベルに関する。
当業者は、よりよい結合効率を許容するなどのため、親和性基をできるだけ小さくすることが好ましいことがありうることを認識するであろう。親和性基を、ラベルの同位体部をなす原子の配置内に組み込むことを考えてもよい。たとえば、異なる同位体分布をもつヒスチジンまたはロイシン残基が使われてもよい。そのような場合、親和性基と同位体基は同一になり、ラベルの大きさはさらに低減できる。ヒスチジンの場合、親和性タグはNi-NTAセファロースのようなIMAC(immobilized metal affinity chromatography[固定化金属アフィニティー・クロマトグラフィー])樹脂によって認識されうる。poly-Leuベースのタグの場合、市販の抗ロイシン抗体を使ってもよい。
このように、好ましい実施形態では、同位体ラベルとたとえば親和性基が組み合わされてもよい。たとえば、poly-Hisタグまたはpoly-Leuタグにおいて単独のヒスチジンまたはロイシンのアミノ酸が12Cまたは13Cおよび/または14Nおよび15Nを用いて異なる仕方でラベル付けされたものを使ってもよい。そのような好ましい実施形態の代表的な例が図4に描かれている。図4に描かれているラベルは、本発明のコンテキストにおいて特に好ましいことがありうる。
このように、特に好ましい実施形態は一般に式VIのラベルを使用する:
Figure 2011516463
ここで、RG、IT、AおよびIBは上述のように定義され、ITおよびAは同じ分子実体によって形成される。
本発明は、多重化されたタンパク質解析のための、すなわちたとえば2、4、8または16個の並列試料について並行して複数の解析を実行するための、同位体ラベルおよび同重体ラベルの組み合わされた使用に関する。特に、そのような組み合わされたラベル付け戦略は、異なる試料の間の相対的なタンパク質レベルの比較をも可能にする。同位体および同重体ラベル付けの組み合わせは、異なる発現レベルが観察されるペプチドがたとえばMALDI-MS/MS解析またはiTRAQ定量によって特に解析される必要があるだけであるという利点をもちうる。これにより、より高速で、複雑さの低い試料解析が実現される。
たとえば、ある疾病を患う患者たちから取られた四つの試料が、同一の同位体ラベルを含むが四つの異なる同重体ラベルを含む第一の組のラベルでラベル付けされうる。同重体ラベルは同じ構造をもつがCIDに際して四つの異なるリポーター基を生じるよう選ばれうる。上述したiTRAQラベルを使ってもよい。次いで、対照母集団からの四つの試料を、やはり同じ同位体ラベルを含むが四つの異なる同重体ラベルを含む第二の組のラベルを用いてラベル付けすることができる。同重体ラベルは最初の四つの試料についてと厳密に同じでありうるが、同位体ラベルは最初の四つの試料についての同位体ラベルとは、たとえば単一の同位体12C/13C交換によって異なりうる。質量差を通じて同位体ラベルをまず検出することによって、たとえば対照群と比べて患者において過剰に発現しているタンパク質を同定できる。このようにして同定されたピークは次いでMS/MSスキャンにおいて解析されることができる。CID後、たとえば単独のピークへの、患者群における四つの試料の相対的な寄与が、同重体ラベルを検出することによって解析できる。
当業者は、ひとたびタンパク質、ポリペプチドおよび/またはペプチドがラベル付けされたら、たとえばリシンおよびアルギニンにおいて存在するような残りの利用可能なアミン基が、タンパク質、ポリペプチドおよび/またはペプチドが消化されるまでにブロックされる必要があることを理解するであろう。
このように、ある好ましい実施形態では、タンパク質、ポリペプチドおよび/またはペプチド内のアミン基への結合を許容する結合化学を有するラベルが使用されうる。これらのラベルが過剰に使用されると、これらのラベルはタンパク質、ポリペプチドおよび/またはペプチドのN末端アミン基のほか、リシンまたはアルギニンのようなアミノ酸内に見出されるアミン基を修飾することを許容する。そのような場合、タンパク質、ポリペプチドおよび/またはペプチド内のすべてのアミン基が修飾され、さらなるブロックは必要ない。代替的な実施形態では、そのようなラベルが過剰に使用されず、タンパク質、ポリペプチドおよび/またはペプチドが消化される前にラベル内で修飾されていなかった残りのアミン基をブロックしてもよい。ラベルは好ましくは、任意的に同重体ラベルを含みうる同位体ラベルであってもよい。
別の実施形態では、タンパク質、ポリペプチドおよび/またはペプチド内のアミン基以外の基への結合を許容する結合化学を有するラベルが使用されてもよい。そのような基はシステインのスルフヒドリル基であってもよい。そのような場合、タンパク質、ポリペプチドおよび/またはペプチド内のすべてのアミン基は、タンパク質、ポリペプチドおよび/またはペプチドが消化される前にブロックされる必要があろう。ラベルは好ましくは同位体ラベルでありうる。
タンパク質、ポリペプチドおよび/またはペプチド内でまだ存在している自由なアミン基は、たとえば酢酸スルホ-N-ヒドロキシスクシンイミドを用いたアセチル化によってラベル付け後にブロックされてもよい。
このように、一つの側面において、本発明は、タンパク質、ポリペプチドおよび/またはペプチド内に存在しているいかなる自由なアミン基も、のちにメチル化できないよう、消化前に修飾されることを要求する。
「ラベル付けされたタンパク質、ポリペプチドおよび/またはペプチドを消化してその断片を生成する」という表現は、ここでの用法では、化学的および/または酵素による切断によりラベル付けされたタンパク質、ポリペプチドおよび/またはペプチドの断片を生成することをいう。
タンパク質などのそのような切断(cleavage)は、たとえば臭化シアン、2-(2'-ニトロフェニルスルホニル)-3-メチル-3-ブロモインドレニン(BNPS)、ギ酸、ヒドロキシルアミン、ヨード安息香酸および2-ニトロ-5-チオシアノベンゾイド酸といった化学物質を用いる酸または塩基処理によって化学的に、あるいは、中でも特に、トリプシン、ペプシン、トロンビン、パパインおよびプロテイナーゼKを含むプロテアーゼを介して酵素により、達成されうる。これらの酵素はみな当技術分野ではよく知られている。
「分画(fractionation)」および「再分画(re-fractionation)」の用語は、ここでの用法では、タンパク質、ポリペプチドおよび/またはペプチドならびにその断片で試料中にある量で存在しているものが、分子量、大きさおよび全体的な正味電荷といった物理化学的属性における何らかの差に従って、多数の、より少量のもの(すなわち画分(fraction))に分けられる(すなわち分類される)任意の型の分離工程をいう。分画における共通の性質は、収集される画分の量とそれぞれの画分における所望される純度との間の最適を見出す必要である。分画は、単一のランで混合物中の二つより多くの成分を単離することを可能にする。この属性が分画を他の分離技法と区別する。タンパク質および/またはペプチドを分画するための、当技術分野においてよく確立されたいくつかの方法がある。それには、古典的なSDSポリアクリルアミドゲル電気泳動(SDS-PAGE)、二次元ゲル電気泳動、サイズ排除クロマトグラフィー、(二次元)液体クロマトグラフィー、等電点電気泳動が含まれ、この最後のものが特に好ましい。分画が行われた後のタンパク質性の分子の解析、特に視覚化のための方法は当技術分野においてよく確立されている。
等電点電気泳動〔等電点フォーカス〕は、電荷の差によって異なる分子を分離する技法である。これは、通例ゲル(たとえばアガロースゲルまたは好ましくはポリアクリルアミドゲル)内でまたは液相内で実行されるゾーン電気泳動の一種であり、分子の電荷がその環境のpHとともに変化するという事実を利用するものである。フォーカスされるべき分子は、pH勾配をもつ媒体上に分散される。媒体を通じて電流が流され、「正」のアノードと「負」のカソードの端を生じる。負に帯電した分子は媒体中のpH勾配を通じて「正」の端のほうに移動し、一方、正に帯電した分子は「負」の端のほうに動く。粒子がその電荷と反対の極に向かって動く際、その分子の等電点(pI)のpHに達する点に至るまで、変化するpH勾配の中を動いていく。その点で、分子はもはや正味の電荷をもたなくなり(関連する官能基のプロトン化または脱プロトンのため)、よってゲル内でそれ以上進まなくなる。等電点電気泳動は、pI値がたった0.01異なるタンパク質も分解できる。
等電点電気泳動は通例、二次元ゲル電気泳動の第一段階である。二次元ゲル電気泳動においては、まずタンパク質はそのpIによって分離され、次いでさらに標準的なSDS-PAGEを通じて分子量によって分離される。
本発明に基づくラベルが親和性基またはタグを有する場合、その親和性基に特異的な対応する親和性樹脂を、分画目的のために使うことができる。たとえば、ビオチンでラベル付けした断片の分画のために、ストレプトアビジン・ベースの樹脂を使うことができる。
「再分画(re-fractionating)」の用語はまた、ここでの用法では、本発明の方法が単一の型の分画方法を用いて実行されてもよいことを表す。すなわち、試料中に存在するタンパク質、ポリペプチドおよび/またはペプチドが、メチル化および/または特定の翻訳後修飾、特にリン酸基の除去および/または変更といった化学反応を実行する前および後に、同じ方法、好ましくは等電点電気泳動を適用することによって分画される。しかしながら、具体的な手順に依存して、異なる方法、たとえば等電点電気泳動と古典的なSDS-PAGE、親和性分画などを使うことも可能である。
分画/再分画の他の方法およびその組み合わせも考えられている。よって、分画/再分画は、イオン交換クロマトグラフィー、サイズ排除クロマトグラフィー、疎水性相互作用クロマトグラフィー、逆相クロマトグラフィーおよび/または(免疫)アフィニティー・クロマトグラフィーに依拠してもよい。
「メチル化反応」の用語は、ここでの用法では、化学反応または酵素反応による第一アミン基のメチル化をいう。当業者は、そのようなメチル化反応を、典型的には2,4,6-トリニトロベンゼンスルホン酸(TNBS)を使ってどのようにして実行するかはよく知っている。
手短にいうと、乾燥させた消化された断片が50mMのホウ酸ナトリウム(pH9.5)50μlに再溶解される。次いで、乾燥させたTNBSの2μmolが50mMのホウ酸ナトリウム(pH9.5)200μlに再溶解され、このうち15μlが各試料に移される。ペプチドは37°Cで55分にわたってTNBSとともにインキュベートされる。この反応は一度繰り返され、その後、試料が乾燥される。実質的に定量的なTNBS修飾を確実にするため、二つの反応段階を含むこの修飾手順が一度繰り返される。
自由なアミンは30°Cで90分にわたって10mMの酢酸スルホ-N-ヒドロキシスクシンイミド中でアセチル化されることもできる。セリンおよびトレオニンの部分アセチル化は、タンパク質混合物にヒドロキシルアミン1μlを加えることによって逆行させることができる。
メチル化試薬および反応条件は、第一アミン基のメチル化を許容するよう選ばれる。このように、メチル化試薬およびメチル化反応の条件は、ラベル付けされたタンパク質、ポリペプチドおよび/またはペプチドの化学的または酵素による消化に際して生成されるN末端NH2基のラベル付けを許容するよう選ばれうる。たとえばアミノ酸リシンおよびアルギニンのアミン基のメチル化は、これらの基の事前のブロックまたはこれらの基のラベルによる完全な修飾(上記参照)によって防止される。
本発明に基づく方法を使って、試料内のタンパク質、ポリペプチドおよび/またはペプチドを表すN末端断片のみを見ることによって、質量分析解析の複雑さを軽減することが可能である。よって、ラベル付け段階は、タンパク質、ポリペプチドおよび/またはペプチドのN末端に見出される第一アミンをラベル付けするだけのために実行される。これらのラベル付けされた種の消化後、結果として得られる断片のそれぞれのN末端に新たな第一アミンが生成される。その後のメチル化反応はこれらの新たに生成された断片の物理化学的振る舞いを変更し、メチル化前およびメチル化後のクロマトグラフィー分離において異なる振る舞いをするようにする。ラベル付けされた断片がこのようにまず分画段階にかけられ、次いでメチル化されて、次いで再び同じクロマトグラフィー分離原理にかけられるならば、メチル化反応が成功した画分だけがクロマトグラフィー振る舞いに関して異なるはずである。しかしながら、不変のままである画分は、タンパク質、ポリペプチドおよび/またはペプチドが消化される前にラベル付けされたN末端ペプチドであるはずである。
本発明に基づく方法は、このように、各タンパク質、ポリペプチドおよび/またはペプチドの代表的な断片が解析されるので原理的には定性的および定量的な解析結果は変わらないはずである一方、解析されるべき信号の複雑さの著しい低減を許容する。
本発明の方法を使うことのもう一つの利点は、異なる仕方でスプライシングされたタンパク質の解析を許容するということである。たとえば、全転写物の30ないし50%が、N末端に関してある程度違いがある異なるタンパク質アイソフォームを生成するスプライシングされたmRNAにつながると推定されている。このように、多くのタンパク質アイソフォームは組織特異的な仕方で発現することがわかっている。すなわち、異なるスプライス変異体は特化した細胞型において選択的に発現されるが他の細胞型においては発現されないのである。したがって、疾病条件下でのタンパク質アイソフォームの異なる発現は、組織特異的な疾病マーカーを導出できる。しかしながら、標準的な質量分析の手法では、変異体に固有の情報はしばしばタンパク質のN末端にある若干数のトリプシン・ペプチドに含まれるだけなので、ある種のタンパク質の異なるスプライシングされた変異体についてイオン形成をモニタリングするのは難しい。
本発明は、質量分析解析のためのN末端ペプチドの特異的な選択を許容するので、疾病固有のスプライス活動を同定し、特徴付けることが可能となることがありうる。
タンパク質、ポリペプチドおよび/またはペプチドが、リン酸基で、あるいはたとえばグリコシル部分で翻訳後修飾されうることがよく知られている。たとえば疾病の発達において異なる翻訳後修飾が関わることがありうるので、異なる翻訳後修飾が起こるタンパク質を同定することに関心がある。
したがって、本発明のある実施形態は、試料中のポリペプチドおよび/またはペプチドのN末端断片の選択的濃縮および/または分離のための方法であって:
(a)少なくとも第一の試料内に含まれるタンパク質、ポリペプチドおよび/またはペプチドの二重の化学ラベル付けと;
(b)少なくとも第二の試料内に含まれるタンパク質、ポリペプチドおよび/またはペプチドの二重の化学ラベル付けと;
(c)段階(a)および(b)のラベル付けされたタンパク質、ポリペプチドおよび/またはペプチドを組み合わせる段階と;
(d)ラベル付けされたタンパク質、ポリペプチドおよび/またはペプチドを消化してその断片を生成する段階と;
(e)前記断片を分画する段階と;
(f)前記断片とのメチル化反応を実行する段階と;
(g)前記断片を再分画する段階と;
(h)段階(e)および(g)において得られた分画パターンを比較する段階と;
(i)段階(h)において得られた結果に基づいて、ラベルを担持する前記ポリペプチドおよび/またはペプチドのN末端断片を分離する段階と;
(j)段階(i)で得られたN末端断片を分画する段階と;
(k)前記N末端断片の少なくとも第一の部分集合からリン酸基を除去または変更する段階と;
(l)前記N末端断片を再分画する段階と;
(m)段階(j)および(l)において得られた分画パターンを比較する段階と;
(n)段階(m)において得られた結果に基づいて、段階(k)で修飾されたN末端ホスホ〔リン酸化〕断片の前記少なくとも第一の部分集合を分離する段階とを含み、
段階(a)および(b)における二重の化学ラベル付けは、同位体ラベル付けおよび同重体ラベル付けを含む、
方法に関する。
特に、本発明は、このように、N末端断片にリン酸基をもつリン酸化タンパク質、リン酸化ポリペプチドおよび/またはリン酸化ペプチドの選択的な濃縮および/または分離に関する。
「除去」の用語は、ここでの用法では、たとえば化学的な切断または酵素作用によってリン酸基を完全になくすことをいう(下記の議論も参照)。「変更」の用語は、ここでの用法では、もとのリン酸基と変更された翻訳後リン酸基をもつ変異体の間の弁別を許容するようなタンパク質、ポリペプチドおよび/またはペプチドの物理化学的属性における変化につながるリン酸基の任意の修正を表す。そのような変更の例としては、中でも特に、リン酸基をアミノ酸の骨格構造から除去することなくリン酸基内の一つまたは複数の化学結合を切断すること、またリン酸基が任意の化合物部分(moiety)と接合(conjugation)して分子量が増すことが含まれる。典型的には、タンパク質、ポリペプチドおよび/またはペプチドならびにその断片の処理は、いかなる「中間分子」の発生も回避するよう、分子内に含まれるすべての翻訳後リン酸基の除去および/または変更を保証する反応条件下で実行される。「中間分子」とは、一つまたは複数のリン酸基は除去および/または変更されているが、一つまたは複数の他のリン酸基は不変のままであるものである。
翻訳後リン酸修飾の除去および/または変更は、試料中に存在するタンパク質、ポリペプチドおよび/またはペプチドの残っているN末端断片に比べてN末端断片においてリン酸基修飾をもつ、リン酸化タンパク質、リン酸化ポリペプチドおよび/またはリン酸化ペプチドから導出されたリン酸化されたN末端断片の前記少なくとも第一の部分集合だけの物理化学的属性の変更につながる。よって、この少なくとも第一の部分集合が、その後の再分画段階において同定できる。この少なくとも第一の部分集合だけが、異なる画分に分類されるからである。リン酸修飾をもたなかった他のすべてのN末端断片は、N末端断片の前記少なくとも第一の部分集合からリン酸基を除去/変更するのに先立つ初期分画段階時と同じ画分に分類されることになる。
このように、リン酸化タンパク質、リン酸化ポリペプチドおよび/またはリン酸化ペプチドの前記少なくとも第一の部分集合のN末端の同定および/または分離のために、初期の分画段階および再分画段階において得られた結果を比較する必要がある(たとえば、電気泳動によるタンパク質分離に使われたゲルを染色した後に得られる特定のパターンを比較する)。
分類/分離工程を容易にするために、初期分画段階後に得られる画分は、それらを再分画にかける前に翻訳後リン酸基を除去/変更するよう好ましくは個々に処理される。
本発明の好ましい実施形態では、本方法は、リン酸化されたN末端断片の異なる部分集合、つまりセリン/トレオニンでリン酸化された(すなわちリン酸がセリンまたはトレオニンのアミノ酸残基に取り付けられた)N末端断片とチロシンでリン酸化された(つまりリン酸がチロシンのアミノ酸残基に取り付けられた)N末端断片の弁別のために使われる。リン酸化タンパク質および/またはリン酸化ペプチドのこれらの部分集合は、異なるキナーゼおよびホスファターゼによって調節されるので、これらは異なる細胞プロセスまたは信号伝達カスケードに関わっていたかもしれない。
重要なことだが、リン酸化タンパク質、リン酸化ポリペプチドおよび/またはリン酸化ペプチドから導出されたN末端断片の二つの上記の部分集合は、翻訳後修飾の除去および/または変更に関する化学処理へのアクセス可能性においても異なる。たとえば、セリンおよびトレオニンでリン酸化されたタンパク質性分子は、β脱離(すなわち、当技術分野においてよく確立されている脱離反応の一種であり、基質の二つの隣接する原子から原子または原子団が除去されてπ結合が形成される)によるリン酸基の化学的除去に対してアクセス可能であるが、一方、チロシンでリン酸化されたタンパク質性分子はそうではない。この差は、リン酸化タンパク質および/またはリン酸化ペプチドのN末端断片のこれら二つの部分集合を区別する基礎を提供する。
このように、本発明の好ましい実施形態においては、本方法は、リン酸化されたタンパク質、ポリペプチドおよび/またはペプチドのセリンおよびトレオニンでリン酸化されたN末端断片とチロシンでリン酸化されたN末端断片との間の弁別を許容するよう構成される。化学的処理への上述したアクセス可能性に基づいて、リン酸化タンパク質、リン酸化ポリペプチドおよび/またはリン酸化ペプチドのN末端断片の前記少なくとも第一の部分集合がセリンおよびトレオニンでリン酸化されたN末端断片を含むことが特に好ましい。換言すれば、初期分画後、チロシンでリン酸化されたN末端断片およびリン酸化されていないN末端断片から濃縮および/または分離されるべき前記第一の部分集合が、セリンおよびトレオニンでリン酸化されたN末端断片を含む。
好ましくは、リン酸化タンパク質、リン酸化ポリペプチドおよび/またはリン酸化ペプチドのN末端断片の解析に関係する本発明のいずれの実施形態でも、リン酸基は化学的にβ脱離を介して除去される。しかしながら、リン酸基をたとえば特異的または非特異的なホスファターゼによって酵素によって除去することも可能である。
ホスホセリンおよびホスホトレオニン・アミノ酸残基からリン酸部分を特異的に除去するためには、β脱離は典型的には塩基加水分解によって誘起される。システインおよびメチオニン残基の側鎖に対するいかなる悪影響も回避するために、試料はまず過ギ酸で処理されてもよい。これは酸化を起こし、よってこれらの残基を不活性化する。β脱離を実行するための典型的な反応混合物は、H2O、ジメチルスルホキシド、アセトニトリル、250mM EDTA(pH8.0)および5M NaOHを含む。試料はN2雰囲気のもとで55°Cで1時間インキュベートされ、室温まで冷まされ、酢酸を用いた中和によってクエンチされる。β脱離を介したリン酸基の除去は、非天然アミノ酸(たとえばデヒドロアラニン、デヒドロ-2-アミノ酪酸)の形成につながる。
初期分画段階後に得られる個々の画分を上記の処理にかけたのち、それらの画分は再分画される。これは典型的には同じ分画方法、好ましくは等電点電気泳動を適用することによる。
ホスホセリンおよびホスホトレオニン・アミノ酸残基からリン酸部分特異的にリン酸基を除去および/または変更することは、そのような修飾されたアミノ酸残基をもつN末端断片の部分集合(すなわち、前記少なくとも第一の部分集合)だけの物理化学的属性の変更につながる。それにより、それらがその後の再分画段階の間に同定できるようになる。この部分集合だけが、異なる画分に分類されるからである。
チロシンでリン酸化された、そして――もちろん――リン酸化されていないタンパク質、ポリペプチドおよび/またはペプチドのN末端断片を含む試料中に含まれるすべての他のタンパク質および/またはペプチドは、翻訳後リン酸基の除去/変更に先立つ初期分画段階の間と同じ画分に分類される。このように、上記の方法を使って、セリンおよびトレオニンでリン酸化されたタンパク質、ポリペプチドおよび/またはペプチドのN末端断片が、実行された初期分画および再分画段階の結果を比較することによって、複合試料から選択的に濃縮できる。
別の実施形態では、本発明の方法はさらに、上述したような再分画段階後の前記少なくとも第一の部分集合の分離後に残っているタンパク質および/またはペプチドの部分集合から、リン酸化タンパク質、リン酸化ポリペプチドおよび/またはリン酸化ペプチドのN末端断片の少なくとも第二の部分集合の選択的な濃縮および/または分離を含む。この目標を達成するため、N末端断片の残っている部分集合が、分画、翻訳後リン酸修飾の除去または変更および再分画のもう一つのサイクルにかけられる。このサイクルにおいて、リン酸化タンパク質および/またはリン酸化ペプチドのN末端断片の少なくとも第二の部分集合からのリン酸基が除去または変更される。
特に好ましくは、リン酸化タンパク質、リン酸化ポリペプチドおよび/またはリン酸化ペプチドN末端断片の前記少なくとも第二の部分集合はチロシンでリン酸化された分子である。リン酸化されたチロシン残基は、β脱離を介した化学的切断にとってアクセス可能でないので、リン酸基を酵素によって除去することが好ましい。酵素による除去は、ホスファターゼを介して、特にアルカリホスファターゼを介して(リン酸基の非特異的除去のため)またはタンパク質チロシンホスファターゼを介して(ホスホチロシン残基を特異的に脱リン酸させるため)達成されうる。そのようなホスファターゼは市販されている。
第二の再分画段階を実行することによって、チロシンでリン酸化されたタンパク質、ポリペプチドおよび/またはペプチドのN末端断片は、上記と同じ原理に基づいて、そのリン酸化されていない対応物から分離できる。タンパク質および/またはペプチドの残りの部分集合は任意的に、分画、翻訳後修飾の除去/変更および再分画の第三、第四などのサイクルにかけてもよい。それらのサイクルにおいて、除去または変更されるべき翻訳後修飾の型は典型的にはリン酸化ではなく、たとえばユビキチニル化またはグリコシル化である。
追加的および/または代替的に、本発明は、グリコシル化されたタンパク質、ポリペプチドおよび/またはペプチドから帰結するN末端断片の選択的濃縮および/または分離に関する。そのような断片の同定は、リン酸化タンパク質について上述したのと同じ流れに従ってもよい。
このように、あるさらなる実施形態における本発明は、試料中のポリペプチドおよび/またはペプチドのN末端断片の選択的濃縮および/または分離のための方法であって:
(a)少なくとも第一の試料内に含まれるタンパク質、ポリペプチドおよび/またはペプチドの二重の化学ラベル付けと;
(b)少なくとも第二の試料内に含まれるタンパク質、ポリペプチドおよび/またはペプチドの二重の化学ラベル付けと;
(c)段階(a)および(b)のラベル付けされたタンパク質、ポリペプチドおよび/またはペプチドを組み合わせる段階と;
(d)ラベル付けされたタンパク質、ポリペプチドおよび/またはペプチドを消化してその断片を生成する段階と;
(e)前記断片を分画する段階と;
(f)前記断片とのメチル化反応を実行する段階と;
(g)前記断片を再分画する段階と;
(h)段階(e)および(g)において得られた分画パターンを比較する段階と;
(i)段階(h)において得られた結果に基づいて、ラベルを担持する前記ポリペプチドおよび/またはペプチドのN末端断片を分離する段階と;
(j)段階(i)で得られたグリコシル化されたN末端断片の部分集合を捕捉する段階と;
(k)前記グリコシル化されたN末端断片の捕捉された部分集合を分離する段階とを含み、
段階(a)および(b)における二重の化学ラベル付けは、同位体ラベル付けおよび同重体ラベル付けを含む、
方法に関する。
典型的には、前記捕捉する段階は、少なくとも一つのアフィニティー精製またはアフィニティー・クロマトグラフィー段階、すなわち、グリコシル化されたN末端断片の部分集合の、選択されるべきN末端断片の部分集合について特定的な結合活性をもつ結合メンバーへの付着(すなわち捕捉)を含む。しかしながら、前記捕捉する段階は、イオン交換クロマトグラフィー、サイズ排除クロマトグラフィー、疎水性相互作用クロマトグラフィーおよび/または逆相クロマトグラフィーに依拠してもよい。本発明の範囲内で、同じまたは異なる型の二つ以上の捕捉する段階を組み合わせる、たとえば(同じ型の基質を使うまたは異なる型の基質を使う)二つのアフィニティー・クロマトグラフィー段階、あるいはアフィニティー精製段階とイオン交換クロマトグラフィーを組み合わせることも可能である。
グリコシル化されたN末端端末の解析に関係する好ましい実施形態では、前記捕捉する段階は、レクチン親和性捕捉および糖タンパク質化学捕捉の少なくとも一つを含む。「レクチン親和性捕捉(lectin affinity capture)」の用語は、ここでの用法では、レクチンを結合メンバーとして用いる任意の捕捉手順を表す。「レクチン」の用語は、ここでの用法では、特定のオリゴ糖部分に結合すると知られている、植物、細菌、菌類および動物において見出されるタンパク質のクラスを指す(たとえば非特許文献5において概説されている)。抗原‐抗体の結合親和性とは違って、単糖およびオリゴ糖のたいていのレクチンへの結合についての親和性定数はマイクロモル範囲(micromolar range)の低いほうにあるが、ミリモル範囲(millimolar range)にあることもある。親和性捕捉の目的のためには、多糖およびレクチン自身の両方の多価性がこれらの相互作用をクロマトグラフィー分離のために有用にしている。好適なレクチンの例としては、中でも特に、α-サルシン、リシン(rizin)、コンカバリンA(concavalin A)およびカルネキシン(calnexin)が含まれる。レクチン親和性捕捉のためのいくつかの手順が当技術分野において知られている(たとえば非特許文献6〜8参照)。
「糖タンパク質化学捕捉」の用語は、ここでの用法では、レクチンの使用を含まない糖タンパク質の任意の化学的な捕捉手順をいう。これらの手順の多くはイオン交換クロマトグラフィー段階を含む。いくつかの手順が当技術分野においてよく確立されている(たとえば非特許文献9〜10参照)。
このように、ある実施形態では、本発明は、試料中のポリペプチドおよび/またはペプチドのN末端断片の選択的濃縮および/または分離のための方法であって:
(a)少なくとも第一の試料内に含まれるタンパク質、ポリペプチドおよび/またはペプチドの二重の化学ラベル付けと;
(b)少なくとも第二の試料内に含まれるタンパク質、ポリペプチドおよび/またはペプチドの二重の化学ラベル付けと;
(c)段階(a)および(b)のラベル付けされたタンパク質、ポリペプチドおよび/またはペプチドを組み合わせる段階と;
(d)ラベル付けされたタンパク質、ポリペプチドおよび/またはペプチドを消化してその断片を生成する段階と;
(e)前記断片を分画する段階と;
(f)前記断片とのメチル化反応を実行する段階と;
(g)前記断片を再分画する段階と;
(h)段階(e)および(g)において得られた分画パターンを比較する段階と;
(i)段階(h)において得られた結果に基づいて、ラベルを担持する前記ポリペプチドおよび/またはペプチドのN末端断片を分離する段階と;
(j)段階(i)で得られたN末端断片を分画する段階と;
(k)段階(j)で同定されたN末端断片の少なくとも第一の部分集合からグリコシル基を除去または変更する段階と;
(l)前記N末端断片を再分画する段階と;
(m)段階(j)および(l)において得られた分画パターンを比較する段階と;
(n)段階(m)において得られた結果に基づいて、段階(k)で修飾されたグリコシル化されたN末端断片の前記少なくとも第一の部分集合を分離する段階とを含み、
段階(a)および(b)における二重の化学ラベル付けは、同位体ラベル付けおよび同重体ラベル付けを含む、
方法にも関する。
好ましくは、グリコシル基は化学的に(たとえばβ脱離を介して)、あるいは特定のグリコシダーゼにより酵素によって除去される。
タンパク質、ポリペプチドおよび/またはペプチドのグリコシル化されたN末端断片の選択的な濃縮および/または分離に関する本発明の方法のある実施形態では、分離されたグリコシル化されたN末端断片の前記少なくとも第一の部分集合は、N-グリコシル化されたN末端断片を含む。
N末端断片からのN結合型グリコシル修飾の除去は、ペプチド:N-グリコシダーゼF(PNGase F)を粗タンパク質2-6mg当たり500U(1μl)PNGase Fの濃度で使って37°Cにおいて一晩、N結合型ペプチドの、グリコシル部分からの酵素による切断によって達成されうる。PNGase Fは、N結合型糖タンパク質から、最も内側のGlcNAcと高マンノース型、ハイブリッド型および複合型のオリゴ糖のアスパラギン残基との間を切断するアミダーゼである。切り離された脱グリコシル化されたペプチドを含む上澄みは遠心分離によって捕集できる。こうして、この手順は、N-グリコシル化されたタンパク質および/またはペプチドの、他の型の糖タンパク質および/またはペプチド(すなわち、それぞれO-グリコシル化された、およびGPIアンカーされたタンパク質および/またはペプチド)からの選択的な弁別を許容する。
PNGase F脱グリコシルはグリコペプチドから糖部分を除去するが、グリコシル化部位はそれでも質量分析解析によって検出できる。PNGase Fの脱グリコシルは全アスパラギンについてアスパラギン酸を生じる(質量差+1Daに対応)からである。
もう一つの典型的な実施形態では、本発明の方法、特に分離段階はさらに、分離されたグリコシル化されたN末端断片の少なくとも第二の部分集合から翻訳後修飾を除去することを含む。グリコシル化されたN末端断片の選択的な濃縮および/または分離に関する本発明の方法のある実施形態では、分離されたグリコシル化されたN末端断片の前記少なくとも第二の部分集合は、O-グリコシル化されたN末端断片を含む。
これらの断片からのO-結合型グリコシル修飾の除去は、特定のO-グリコシダーゼを用いる酵素切断によって、あるいはβ脱離(すなわち、当技術分野においてよく確立されている脱離反応の一種であり、基質の二つの隣接する原子から原子または原子団が除去されてπ結合が形成される)を介するなど化学的に、達成されうる。
他の実施形態では、上記の方法はさらに、単離されたN末端断片(これはたとえばリン酸化されたおよび/またはグリコシル化されたN末端断片であってもなくてもよい)を質量分析によって解析することを含む。質量分析は、イオンの質量対電荷比を測定するために使われる技法である。重要なことだが、ホスホ-N-末端断片については、質量分析解析は、不安定なリン酸基を除去するが、セリンおよびトレオニンでリン酸化された種についての独特な非天然アミノ酸を残すことによって容易にされる。適用される具体的な質量分析解析は、種々の試料において決定されるタンパク質および/またはペプチド発現のレベルに依存しうる。いくつかの実施形態では、本発明の方法は高スループットのフォーマットで実行される。
あるさらなる実施形態では、本発明は、定性的および/または定量的なプロテオーム解析を実行するための本稿に記載されるような方法の使用に関する。
上述したような同位体および同重体ラベルの組み合わされた使用は、たとえば2、4、8または16個の並行試料の、並行した複数の解析を実行することを許容する。N末端断片の選択的濃縮に関し、解析の低減した複雑さと組み合わされた多重質量分析解析を実行できることは、疾病マーカーの同定において強力なツールとなりうる。たとえば、特定の疾病を患っていないとわかっている四人の異なる個人から試料を採取し、これらの分子に同位体および同重体ラベルを使って上述したように二重にラベル付けしてもよい。たとえば、iTRAQラベルを、異なる質量の四つまでのリポーター基を生成できる同重体ラベルとして使うことによって、これら四人の個人からの全タンパク質にラベル付けすることが可能である。
並行して、特定の疾病を患っているとわかっている四人の個人から試料を採取し、組み合わされた同位体同重体ラベルを使ってもよい。ここで、同位体ラベルは、健康な個人の試料にラベル付けするのに使われた同位体ラベルとは異なるが、同重体ラベルは同じである。これらのラベル付けされた試料を組み合わせ、消化し、上述したような本発明の方法を実行すると、健康な個人の四つの試料および患者の四つの試料のN末端断片を得ることになる。患者と健康な個人との間の異なる仕方で発現されたペプチドが質量分析解析において、異なる同位体ラベルに起因する質量の変化によるなどして、認識可能となる。その後の解析でMS/MSスキャンが実行される場合、四人の健康な個人についておよび四人の患者についての個別ピーク分布に関して、そのような同定された質量ピークを解析できる。
このように、そのような解析のスループットを大きく高め、同時に、N末端断片の単離に関して8個の試料がすべて同一の処理をされたとすると、信号対雑音比を高めることができる。誤差源はこのようにして著しく軽減される。したがって、本発明は、定量的および定性的なプロテオーム解析を実行するための本稿において記載される方法の使用にも関する。
上記の発明は、その好ましい実施形態のいくつかに関して記載してきたが、これらの実施形態は決して本発明の範囲を限定するものではない。当業者は、さらなる実施形態および前述した実施形態への変更であって本発明の範囲内であるものを明確に認識する。
例1――N末端断片のメチル化
たとえば任意的に同重体ラベルを含む同位体ラベルでラベル付けされたタンパク質、ポリペプチドおよび/またはペプチドから帰結するトリプシン断片の自由なアミノ基をメチル化するために、2,4,6-トリニトロベンゼンスルホン酸(TNBS)が使われる。手短にいうと、乾燥させたペプチドが50mMのホウ酸ナトリウム(pH9.5)50μlに再溶解される。次いで、乾燥させたTNBSの2μmolが50mMのホウ酸ナトリウム(pH9.5)200μlに再溶解され、このうち15μlが各試料に移される。ペプチドは37°Cで55分にわたってTNBSとともにインキュベートされる。この反応は一度繰り返され、その後、試料が乾燥される。実質的に定量的なTNBS修飾を確実にするため、前記二つの反応段階を含む前記修飾手順が一度繰り返される。
自由なアミンは30°Cで90分にわたって10mMの酢酸スルホ-N-ヒドロキシスクシンイミド中でアセチル化されることもできる。セリンおよびトレオニンの部分アセチル化は、タンパク質混合物にヒドロキシルアミン1μlを加えることによって逆行させることができる。
例2――(Leu)3ラベル付け化合物の合成
図4のaおよび図6のaに示される(Leu)3ラベル付け化合物は、以下の手順に従って化学的に合成された。個々の合成段階は図5に描かれた反応方式に対応する。
段階(1):出発物質(S)-2-(tert-ブトキシカルボニルアミノ)-4-メチルペンタン酸、塩酸(S)-2-アミノ-4-メチルペンタン酸メチル、ヘキサフルオロリン酸(V)1-(ビス(ジメチルアミノ)メチレン)-1H-[1,2,3]トリアゾロ[4,5-b]ピリジン-1-イウム-3-オキシドおよびN-エチル-N-イソプリピルプロパン-2-アミンをジクロロメタン(150ml)中に溶解させ、2.0mlのDMFを加えて混合物を2時間にわたって攪拌後、Boc保護されたアミンが消失していた(TLC溶媒EtOAc/ヘキサン1:1)。飽和塩化アンモニウム150mlを加え、粗生成物をジクロロメタン(8×30ml)で抽出した。有機層を硫酸ナトリウム上で乾燥させ、減圧下で濃縮した。粗生成物はヘプタンに40%のEtOAcを溶かしたものを溶媒として使ってシリカゲルを有するガラス・フィルタで精製した。これは純正生物(S)-2-((S)-2-(tert-ブトキシカルボニルアミノ)-4-メチルペンタンアミド)-4-メチルペンタン酸メチルを1.96g(84%)生じた。
段階(2):段階(1)のBoc保護されたジペプチドをDCM/TFA(44:11ml)に溶解し、1.5時間にわたって攪拌した。小さな試料を飽和NaHCO3で処置(working up)したのち、TLCは反応が完了していることを示した。反応混合物は減圧下で濃縮され、黄色がかった油を2.58g生じた。1H NMRは、生成物が、該生成物と一緒に若干の遊離のトリフルオロ酢酸を含むはずであることを示し、蒸留によってこれを取り除く試みが失敗したので、粗生成物2,2,2-トリフルオロ酢酸(S)-2-((S)-2-アミノ-4-メチルペンタンアミド)-4-メチルペンタン酸メチルをさらなる精製なしに使った。
段階(3):段階(2)のアミノトリフルオロ酢酸塩をジクロロメタン(150ml)に溶解した。0°CでDIPEAを加え、次いでHATUおよびBoc-Leu-OHを加えた。混合物を室温で2時間にわたって攪拌した。TLCによれば、反応は完了していた。混合物は飽和塩化アンモニウムでクエンチされ、水層がジクロロメタン(8×50ml)で抽出された。組み合わされた有機層は硫酸ナトリウム上で乾燥され、減圧下で濃縮された。粗生成物はEtOAcをヘプタンに溶かしたもの(4:6)を溶媒として使ってシリカゲル上で精製した。結果として得られるトリペプチド、(6S,9S,12S)-6,9-ジイソブチル-2,2,14-トリメチル-4,7,10-トリオキソ-3-オキサ-5,8,11-トリアザペンタデカン-12-カルボキシル酸メチルが収量1.78g(3.77mmol;50%)で得られた。
段階(4):段階(3)のBoc保護されたトリペプチドをDCM/TFA(44:11ml)に溶解し、1.5時間にわたって攪拌した。小さな試料を飽和NaHCO3で処置(working up)したのち、TLCは反応が完了していることを示した(生成物はヘプタン中の50%EtOAcとは走らない)。反応混合物は減圧下で濃縮され、ジクロロメタンで一度ストリップされた。生成物に倍散(trituration)のためにジエチルエーテルを追加し(20ml)、5分後、10mlのヘプタンを追加して、40分後に固体を濾過し、1,480gの白色粉末(2,2,2-トリフルオロ酢酸(trifluoroacetate)(S)-2-((S)-2-アミノ-4-メチルペンタンアミド)-4-メチルペンタンアミド)-4-メチルペンタン酸メチル)が生じた。
段階(5):段階(4)のトリペプチド‐TFA塩の混合物に、N-メチルピペラジニル酢酸、トルエン(50ml、ジクロロメタンだと思った)中のEDCおよびHOAt、DIPEAを加え、混合物を1時間にわたって攪拌した。その間に黄色い固体がフラスコの底に形成された。混合物を飽和重炭酸ナトリウム(70ml)でクエンチした。二つの層が分離し、水層をジクロロメタン(4×50ml)で抽出した。組み合わされた有機層は硫酸ナトリウム上で乾燥させ、減圧下で濃縮して、0.203gの粗製物質を生じた。これは所望の生成物のほか出発物質をも含んでいた(LC-MSおよび1H NMRによる)。粗製物質はもう一度ジクロロメタン中のEDC、HOAtおよびDIPEA(25ml)で2時間、処理した。処置(上述した手順と同様)後、粗生成質0.231gが得られた。LC-MSによれば、反応は完了していた。ジクロロメタン中のMeOH中の5から10%の0.5M NH3の勾配でシリカゲル上で精製すると、結晶性の白色固体として0.158gの生成物が得られた((S)-4-メチル-2-((S)-4-メチル-2-((S)-4-メチル-2-(2-(4-メチルピペラジン-1-イル)アセトアミド)ペンタンアミド)ペンタンアミド)ペンタン酸メチル)。
段階(6):段階(5)の出発物質をテッサー塩基(Tesser's base)(ジオキサン/MeOH/4N NaOH水溶液15:4:1)に溶解し、混合物を室温で攪拌した。一晩攪拌したのち、溶液を濃縮して、粗生成物(S)-4-メチル-2((S)-4-メチル-2-((S)-4-メチル-2-(2-(4-メチルピペラジン-1-イル)アセトアミド)ペンタンアミド)ペンタンアミド)ペンタン酸ナトリウムを生じた。この化合物を、さらなる精製をすることなく次の段階で使った。Na分析が実行された。
段階(7):段階(6)の粗生成物のジクロロメタン(5ml)懸濁液に、0°Cで、NHSおよびEDCを逐次的に加え、混合物を0°Cで3時間にわたって攪拌した。混合物を濃縮し、粘りけのある固体が生じた。粘りけのある固体をジクロロメタン(7ml)に再溶解した。次いで、ジエチルエーテル(7ml)を加え、溶媒を半分の体積になるまで蒸発させた。ジエチルエーテルの追加とそれに続く部分蒸発を二回繰り返し、その後、沈殿物(エチル(N,N-ジメチルアミノ)プロピルウレウム(ureum)および塩化ナトリウム)を濾過した。濾液を濃縮し、52mgの粘稠な油を生じた。1H NMRスペクトルを見ると、この画分は所望のコハク酸エステル((S)-4-メチル-2-((S)-4-メチル-2-((S)-4メチル-2-(2-(4-メチルピペラジン-1-イル)アセトアミド)ペンタンアミド)ペンタンアミド)ペンタン酸2,5-ジオキソピロリジン-1-イル)を、とりわけエチルジイソプロピルウレウムを不純物として含む形で含んでいるかもしれないと思われる。濾過された沈殿(33mg)はおそらく所望の生成物(2.65ppmにおける一重項〔シングレット〕、コハク酸エステル・プロトン)を含んでいる。
段階(8):段階(6)の出発物質をテッサー塩基(ジオキサン/MeOH/4N NaOH水溶液15:4:1)に溶解し、混合物を室温で攪拌した。LC-MS(酸モード(acidic mode))で反応をモニタリングした。2時間の攪拌後、溶液を濃縮し、粗生成物を生じた。この化合物をさらなる精製なしに次の段階で使った。終了は決定しなかった。
段階(9):段階(8)の粗生成物を、ジオキサン(乾燥)およびジクロロメタン(2.0ml、脱水した)の1:1混合物中に溶かした溶液に、室温で、NHS、DIPEA(26μl)およびEDC(18.9mg)を逐次加え、混合物を室温で5時間にわたって攪拌した。6-アミノカプロン酸および2mlのジオキサン(乾燥)を加えた。混合物を一晩攪拌した。翌日、さらなるEDC(19mg)を加えて、活性化されたスクシンイミドエステルを精製した。混合物を再び一晩攪拌した。翌日、反応混合物からサンプルを採取し、n-ブチルアミンをサンプルに加えて、結果として得られる混合物を10分間攪拌した。溶液を減圧下で濃縮し、LC-MSによって解析した。粗生成物は、カプロン酸付加物(adduct)からの期待されるブチルアミド(m/z=666.4における[M+H]+)、カプロン酸付加生成物(m/z=611.4における[M+H]+)、出発物質からのスクシンイミドエステル(m/z=553.4における[M+H]+)およびその対応するメチルエステル(m/z=512.4における[M+H]+)からなっていた。反応混合物は飽和重炭酸ナトリウム(25ml)中でクエンチし、水(5ml)を加えた。水性層をジクロロメタン(5×20ml)で抽出し、組み合わされた有機層は硫酸ナトリウム上で乾燥させ、減圧下で濃縮した。これで41mgの固体が得られた。その固体をLC-MS5を用いて解析し、化合物の混合物であることを明らかにした。ブチルアミンとの試験反応(上記参照)を実行するために試料を採取した。この試験反応からの生成物をLC-MS5で解析した。これは、期待されるブチルアミドを含んでいるが、その存在量は最初の試験反応におけるよりも低いように思われる。混合物の複雑さおよび生成物の組成についての不確実さにその潜在的な不安定さが相俟って、この生成物は出荷しないことに決めた。
段階(10):段階(9)の生成物を予備的HPLCによって精製した。これは8mgの遊離酸を生じた。
段階(11):段階(10)の出発物質のDMF溶液にEDCおよびN-ヒドロキシスクシンイミド(NHS)を加え、混合物をN2雰囲気のもとで一晩攪拌した。翌日、さらなるNHS(4mg)を加え、混合物を再び5時間にわたって攪拌した。試験試料を採取し、解析のために過剰なN-ブチルアミンと反応させた。この試料のLC-MSは、生成物が形成されたことを示した(m/z=667のブチルアミド)。混合物を減圧下で濃縮し、ジクロロメタン(20ml)に再溶解させた。この溶液を飽和NaHCO3(20ml)でクエンチした。有機層を飽和NaClで洗い、硫酸ナトリウム上で乾燥させた。解析のために試験試料を採取した。過剰なブチルアミンを加え、混合物を15分間攪拌した。減圧下で溶液を濃縮し、LC-MSによって解析した。この解析は、生成物が良好な品質であることを示した。溶液を濃縮し、所望の(Leu)3生成物7mgを生じた。
例3――リン酸化ペプチドの単離
下記の例は、複合試料中でどのようにしてリン酸化ペプチドを同定できるかを示す。同等な条件が、例1で単離されたN末端断片に適用されることができる。
試料をその等電点に従って電気泳動分離するのに、IPGPhor IEFユニット(米国、ニュージャージー州、ピスカタウェイのアマーシャム・ファーマシア)のような市販の機材を用いた。タンパク質をペプチドにする化学的または酵素による消化を、確立された手順に従って任意的に実行した。
ホスホセリンおよびホスホトレオニン・アミノ酸残基からリン酸部分を特異的に除去するために、塩基加水分解を使ってβ脱離を誘起した。システインおよびメチオニン残基の側鎖に対するいかなる悪影響をも回避するために、試料をまず過ギ酸で処理し、これらの残基の酸化を起こし、それにより不活性化させた(非特許文献11)。
使用したβ脱離反応混合物は次のとおり:H2O、ジメチルスルホキシド、アセトニトリル、250mM EDTA(pH8.0)および5M NaOH。すべての溶媒は、反応混合物の調整の前および後にN2で脱ガスした。
β脱離反応混合物を、等電点電気泳動後にゲルから単離したタンパク質画分を凍結乾燥させたものに加えた。試料をN2雰囲気のもとで55°Cで1時間にわたってインキュベートし、室温まで冷まし、酢酸で中和することによって反応をクエンチした(非特許文献11)。
市販のリン酸塩/エステルは、ホスホチロシン・アミノ酸残基を特異的に脱リン酸化するためであった。
上記の仕方でタンパク質および/またはペプチドを処理し、その後それぞれの画分をその等電点に従って電気泳動分離することによって、セリン/トレオニンでリン酸化されたタンパク質および/またはペプチドならびにチロシンでリン酸化されたタンパク質および/またはペプチドが選択的に濃縮および分離できる。
例3――ICATおよびiTRAQラベル付けされたペプチドのMS解析
下記の例は、同重体および同位体ラベルを用いた二重のラベル付けがMS解析においてどのように使用できるかを例解する。
まず、ヒトの血漿試料を多重親和除去LCカラム―ヒト7(Multiple Affinity Removal LC Column-Human 7)(4.6×10mm;米国カリフォルニア州サンタクララ、アジレント・テクノロジーズ社)をメーカーの説明書に従って使って免疫除去した。この処理により、ヒトの血漿の全タンパク質質量の約85%を占める七種の非常に存在量の多い血漿タンパク質――アルブミン、IgG、抗トリプシン、IgA、トランスフェリン、フィブリノゲンおよびハプトグロビン――が除去された。上記のカラムは、運用のために二緩衝液系を必要とする。緩衝液AおよびBは、標的としないタンパク質の共吸着を最小にし、カラム・パフォーマンスの再現性および長いカラム寿命を保証するよう最適化される。緩衝液A――塩を含有する中性緩衝液、pH7.4――は、カラムのロード、洗浄および再平衡化のために使い、緩衝液B――低pHの尿酸緩衝液――は結合した高存在量のタンパク質をカラムから溶離させるために使った。前記除去は、アジレント1200シリーズLCシステムを使って実行した。ヒトの男性のAB血漿からカラム血清への注入前に、無菌濾過した(シグマ-H4522)を緩衝液Aで4倍に希釈した。試料を0.22μmのスピン管に移し、16,000gで1分間遠心分離して微粒子を除去した。希釈した結晶は4°Cに保った。
タンパク質は、ICAT試薬(米国カリフォルニア州フォスターシティー、アプライド・バイオシステムズ社)を使って本質的にはメーカーの説明書に従って同位体ラベル付けし、トリプシンで消化した(トリプシン:試料比=1:20)。その後、結果として得られるペプチドを、本質的には確立されたiTRAQプロトコル(米国カリフォルニア州フォスターシティー、アプライド・バイオシステムズ社)に従って同重体ラベル付けした。
しかしながら、ICATに使う緩衝液はiTRAQラベル付けと互換でなく、逆にiTRAQで使う緩衝液はICATラベル付けと互換でない。試料を連続してラベル付けし精製するのは時間がかかり、多重化手順の利点をフルに活用しないので、一つの緩衝液組成が両方のラベル付け反応に使えるように緩衝液組成を最適化した。さらに、アジレント緩衝液AはiTRAQラベル付けとも非互換である。そこで、ICATおよびiTRAQラベル付け化学の両方と互換な適切な緩衝液の使用を保証するよう、通過画分は5K MWCOスピン濃縮器(アジレント・テクノロジーズ)を使った緩衝液交換(buffer exchange)手順にかけた。50mMの重炭酸トリエチルアンモニウム(TEAB: triethyl ammonium bicarbonate)が最適であると見出された。
ラベル付けの順序も重要である。(ICATラベル付けに使われる)システイン・アミノ酸残基をブロックすることなく最初にiTRAQラベル付けを実行すると、タンパク質消化の効率が著しく低下するからである。出発物質の量は、40μlの50mM重炭酸トリエチルアンモニウム(TEAB)(ICATラベル付け用;濃度は1.2mg/mlのはずである)に溶解させた50μgのタンパク質(ブラッドフォード検定(Bradford assay)により決定される;米国カリフォルニア州、ハーキュリーズ、バイオラド・ラボラトリーズ)であった。各試料に対し、1μlの50mM TCEP(トリス(2-カルボキシエチル)ホスフィン塩酸塩)および2μlの2% SDSを加え、混合物を10分間沸騰させた。次いで、20μlのアセトニトリルを各試料に加えた。試料をそのまま冷まし、各試料をICAT試薬のバイアルに加えた。37°Cで2時間にわたってインキュベーションを行った。
タンパク質の切断のため、1:20の比でトリプシンを加え、試料を12〜16時間にわたってインキュベートした。次いで、試料をスピード・バック(speed-vac)で完全に乾燥させた。iTRAQラベル当たり30μlの1M TEABおよび70μlのアセトニトリルが事前混合され、それぞれのICATラベル付けされたタンパク質消化物に加えられた。ペプチドの再可溶化が保証されるべきである。この混合物をiTRAQ試薬管に加え、室温で1時間にわたってラベル付けした。反応をクエンチするために、100μlのMilliQ純水を各管に加えて、それらの管を室温で30分間インキュベートした。最後に、試料を遠心真空濃縮器を使って乾燥させた。
試料の精製のため、各試料管に250μlのCEX添加液(loading buffer)(10mMのKH2PO4/25%のアセトニトリル(ACN)、pH3.0)を加えた。ペプチドの再可溶化を最大にするよう、試料を三サイクルの間ボルテックス攪拌および超音波処理した。試料を組み合わせ、4mlのCEX添加液の全体積まで希釈した。SCXおよびアビジン試料クリーンアップをメーカーの手順に従って実行し、以下の手順に従ってICATを切断する。
・pH紙を使ってpHを検査する。pHが2.5から3.3までの間になければ、さらにカチオン交換緩衝液―添加(Cation Exchange Buffer-Load)を加えることによって調整する。
・CEXカートリッジを調えるために、2mlのカチオン交換緩衝液―添加を注入する。偏向して破棄(Divert to waste)。
・希釈した試料混合物をカチオン交換カートリッジにゆっくりと注入し(〜1滴/秒)、通過分を試料管に集める。
・1mlのカチオン交換緩衝液―添加を注入してTCEP、SDSおよび過剰なICAT試薬をカートリッジから洗う。
・ペプチドを溶離させるために、500μlのカチオン交換緩衝液―溶離(Cation Exchange Buffer-Elute)(10mMのKH2PO4/500mMのKCl/25%のACN、pH3.0)をゆっくりと注入する(〜1滴/秒)。新しい1.5mL管に溶離液を捕捉する。溶離したペプチドを単一の画分として集める。
ビオチン化したペプチドの精製およびビオチン・ラベルの除去を以下のようにして実行した。
・2mlの親和緩衝液―溶離(30%ACN/0.4%TFA)をアビジン・カートリッジに注入する。偏向して破棄。
・2mlの親和緩衝液―添加(2×PBS、pH7.2)を注入。偏向して破棄。
・1mlの親和緩衝液―添加を加えることによって、各カチオン交換画分を中和する。
・pH紙を使ってpHを検査する。もしpHが7でなければ、さらに親和緩衝液―添加を加えることによって調整する。
・ボルテックス攪拌して混合し、次いで数秒間遠心分離して溶液全体を管の底にもってくる。
・三つの画分捕集管に#1(通過分)、#2(洗浄)、#3(溶出)とラベル付けし、ラックに置く。
・中和された画分をアビジン・カートリッジにゆっくり注入し(〜1滴/5秒)、通過分を管#1(通過分)に捕集する。
・500μlの親和緩衝液―添加をカートリッジに注入し、管#1(通過分)に捕集し続ける。
・塩濃度を下げるため、1mlの親和緩衝液―洗浄1(PBS、pH7.2)を注入。出力を偏向して破棄。
・結合したペプチドを非特異的に除去するため、1mlの親和緩衝液―洗浄2(50mMのNH4HCO3/20%のMeOH、pH8.3)を注入。最初の500μlを管#2(洗浄)に捕集。残りの500μlを偏向して破棄。
・1mlのMilliQ純水または等価物を注入。偏向して破棄。
・注射器を800μlの親和緩衝液―溶出で満たす。
・ラベル付けされたペプチドを溶出させるため、50μlの親和緩衝液―溶出をゆっくり注入し(〜1滴/5秒)、溶出液を捨てる。
・親和緩衝液―溶出の残りの750μlを注入し、溶出液を管#3(溶出)に捕集する。
・ボルテックス攪拌して混合し、次いで数秒間遠心分離して溶液全体を管の底にもってくる。
・それぞれの親和溶出された画分を遠心真空濃縮器で蒸発乾燥させる。
・新しい管において、TFA(切断試薬A)と切断試薬B(アプライド・バイオシステムズ)を95:5の比で組み合わせることによって、最終切断試薬を調製する。試料当たり〜90μlの最終切断試薬が必要とされる。
・ボルテックス攪拌して混合し、次いで数秒間遠心分離して溶液全体を管の底にもってくる。
・新たに調製された切断試薬の〜90μlを各試料管に移す。
・ボルテックス攪拌して混合し、次いで数秒間遠心分離して溶液全体を管の底にもってくる。
・37°Cで2時間にわたってインキュベートする。
・管を数秒間遠心分離して溶液全体を管の底にもってくる。
・試料を遠心真空濃縮器で蒸発乾燥させる(〜30ないし60分)。
多次元液体クロマトグラフィー(SCX-RP-LC)または代替的にペプチドの等電点電気泳動とそれに続く逆相液体クロマトグラフィー(RF-LC)または1D(RP)-LCが、ペプチドを分離するために使われた。4800MALDI-ToF-ToF解析器(アプライド・バイオシステムズ社)を使って4579スポットに対してMALDI-MSおよびMALDI-MS/MS解析が実行された。
図2aは、RP-HPLC画分#12(SCX画分 350mM KCl)のMS解析を示している。四つのICATピーク対が割り当てられている。ICAT(軽):ICAT(重)の間の期待されるピーク比=1.8である。図2bは、ピーク対#4(図3A参照)のICAT(軽)(1655.04Da)のMS/MS解析を示している。iTRAQリポーターm/zリージョン(114-117)が拡大されている。期待されるiTRAQ比は1:0.1:1:1である。図2cは、ピーク対#4(図3A参照)のICAT(重)(1664.08Da)のMS/MS解析を示している。iTRAQリポーターm/zリージョン(114-117)が拡大されている。期待されるiTRAQ比は1:1:1:1である。図2dは、RP-HPLC画分#39(SCX画分 50mM KCl)のMS解析を示している。四つのICATピーク対が割り当てられている。ICAT(軽):ICAT(重)の間の期待されるピーク比=1.5である。図2eは、ピーク対#4(図3D参照)のICAT(軽)(1586.84Da)のMS/MS解析を示している。iTRAQリポーターm/zリージョン(114-117)が拡大されている。期待されるiTRAQ比は1:0.1:1:1である。図2fは、ピーク対#4(図3D参照)のICAT(重)(1595.87Da)のMS/MS解析を示している。iTRAQリポーターm/zリージョン(114-117)が拡大されている。期待されるiTRAQ比は1:1:1:1である。

Claims (14)

  1. 試料中のポリペプチドおよび/またはペプチドのN末端断片の選択的濃縮および/または分離のための方法であって:
    (a)少なくとも第一の試料内に含まれるタンパク質、ポリペプチドおよび/またはペプチドの二重の化学ラベル付けと;
    (b)少なくとも第二の試料内に含まれるタンパク質、ポリペプチドおよび/またはペプチドの二重の化学ラベル付けと;
    (c)段階(a)および(b)のラベル付けされたタンパク質、ポリペプチドおよび/またはペプチドを組み合わせる段階と;
    (d)ラベル付けされたタンパク質、ポリペプチドおよび/またはペプチドを消化してその断片を生成する段階と;
    (e)前記断片を分画する段階と;
    (f)前記断片とのメチル化反応を実行する段階と;
    (g)前記断片を再分画する段階と;
    (h)段階(e)および(g)において得られた分画パターンを比較する段階と;
    (i)段階(h)において得られた結果に基づいて、ラベルを担持する前記ポリペプチドおよび/またはペプチドのN末端断片を分離する段階とを含み、
    段階(a)および(b)における二重の化学ラベル付けは、同位体ラベル付けおよび同重体ラベル付けを含む、
    方法。
  2. 段階(a)および(b)において使用される少なくとも一つの化学ラベルが、前記ポリペプチドおよび/またはペプチドの第一アミン基のラベル付けを許容するよう構成される、請求項1記載の方法。
  3. 前記第一アミン基が前記ポリペプチドおよび/またはペプチドのN末端にある、請求項2記載の方法。
  4. 段階(a)および(b)において、少なくとも二つの異なる同位体ラベルが使用される、請求項1ないし3のうちいずれか一項記載の方法。
  5. 段階(a)および(b)において使用される同位体および/または同重体ラベルがさらに親和性基を含む、請求項1ないし4のうちいずれか一項記載の方法。
  6. ラベル付けした後に、前記タンパク質、ポリペプチドおよび/またはペプチド内に存在するいかなる自由なアミン基も、これらのアミン基が段階(f)においてメチル化されることができないよう、段階(d)に先立ってブロックされる、請求項1ないし5のうちいずれか一項記載の方法。
  7. 段階(e)および(g)の分画/再分画が等電点電気泳動により実行される、請求項1ないし6のうちいずれか一項記載の方法。
  8. 段階(f)のメチル化反応が第一アミン基のメチル化を許容する、請求項1ないし7のうちいずれか一項記載の方法。
  9. 前記メチル化反応が、段階(d)で生成された断片のN末端の第一アミン基のメチル化を許容する、請求項8記載の方法。
  10. 質量分析による得られたN末端断片の解析をさらに含む、請求項1ないし9のうちいずれか一項記載の方法。
  11. 当該方法がMS/MSスキャンを含む、請求項10記載の方法。
  12. 請求項1ないし11のうちいずれか一項記載の方法であって、さらに:
    (j)前記N末端断片を分画する段階と;
    (k)前記N末端断片の少なくとも第一の部分集合から少なくとも一つのリン酸基を除去または変更する段階と;
    (l)前記N末端断片を再分画する段階と;
    (m)段階(j)および(l)において得られた分画パターンを比較する段階と;
    (n)段階(m)において得られた結果に基づいて、段階(k)で修飾されたN末端ホスホ断片の前記少なくとも第一の部分集合を分離する段階とを含む、
    方法。
  13. 前記リン酸基がβ脱離によって化学的に除去される、請求項12記載の方法。
  14. 高スループット・フォーマットで実行される、請求項1ないし13のうちいずれか一項記載の方法。
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