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JP2011233817A - 圧電体素子、その製造方法、及び圧電体デバイス - Google Patents

圧電体素子、その製造方法、及び圧電体デバイス Download PDF

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JP2011233817A
JP2011233817A JP2010105002A JP2010105002A JP2011233817A JP 2011233817 A JP2011233817 A JP 2011233817A JP 2010105002 A JP2010105002 A JP 2010105002A JP 2010105002 A JP2010105002 A JP 2010105002A JP 2011233817 A JP2011233817 A JP 2011233817A
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Kazufumi Suenaga
和史 末永
Kenji Shibata
憲治 柴田
Kazutoshi Watanabe
和俊 渡辺
Akira Nomoto
明 野本
Fumimasa Horikiri
文正 堀切
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Hitachi Cable Ltd
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Abstract

【課題】圧電特性や誘電性の向上を図り、これらの基板面内での均一性に優れた圧電体素子、その製造方法、及び圧電体デバイスを提供する。
【解決手段】圧電体素子は、表面に酸化膜が形成された基板1と、密着層2と、下部電極層3と、(NaLi)NbOで表される圧電薄膜4を有し、圧電薄膜4が、擬立方晶、立方晶、正方晶、斜方晶、六方晶、単斜晶、三斜晶、もしくは斜方面体の結晶構造、または少なくとも一つの結晶構造が共存した状態を有しており、ある特定の軸に優先的に配向しており、圧電薄膜4の基板面内の格子面間隔aと基板面外の基板法線方向の格子面間隔cとの結晶格子歪量c/a、及び圧電定数、比誘電率、誘電損失のうち少なくとも一つの物理量の相対標準偏差が、c/aでは0.2%未満、圧電定数では4.3%以下、比誘電率では3.2%以下、あるいは誘電損失では10.1%以下である。
【選択図】図1

Description

本発明は、ニオブ酸リチウムカリウムナトリウムなどを用いた圧電体素子、その製造方法、及び圧電体デバイスに関する。
圧電体は種々の目的に応じて様々な圧電体素子に加工され、特に電圧を加えて変形を生じさせるアクチュエータや、逆に素子の変形から電圧を発生するセンサなどの機能性電子部品として広く利用されている。また、通信関連デバイスのフィルタに用いられるSAW(表面弾性波)デバイスとしても用いられる。アクチュエータ、センサ、フィルタなどの用途に利用されている圧電体としては、優れた圧電特性を有する鉛含有の誘電体、特にPZTと呼ばれるPb(Zr1−xTi)O系のペロブスカイト型強誘電体がこれまで広く用いられており、通常個々の元素からなる酸化物を焼結することにより形成されている。
しかし、近年では環境への配慮から鉛を含有しない圧電体の開発が望まれており、ニオブ酸リチウムカリウムナトリウム等の開発が進められている。このニオブ酸リチウムカリウムナトリウムは、PZTに匹敵する圧電特性を有することから、非鉛圧電材料の有力な候補として期待されている。
一方、現在、各種電子部品の小型かつ高性能化が進むにつれ、圧電体素子においても小型化と高性能化が強く求められるようになった。しかしながら、従来からの製法である焼結法を中心とした製造方法により作製したバルクの圧電材料は、その厚さが特に10μm以下の厚さになると、材料を構成する結晶粒の大きさに近づき、その影響が無視できなくなる。そのため、特性のばらつきや劣化が顕著になるといった問題が発生し、それを回避するために、焼結法に代わる薄膜技術等を応用した圧電薄膜の形成法が近年研究されるようになってきた。
最近、RFスパッタリング法で形成したPZT圧電薄膜が高精細高速インクジェットプリンタのヘッド用アクチュエータや、小型低価格のジャイロセンサとして実用化されている(例えば、特許文献1、非特許文献1参照)。また、鉛を用いないニオブ酸リチウムカリウムナトリウムの圧電薄膜を用いた圧電体素子も提案されている(例えば、特許文献2参照)。
特開平10−286953号公報 特開2007−19302号公報
中村偉良監修、圧電材料の高性能化と先端応用技術(サイエンス&テクノロジー刊2007年)
圧電薄膜として非鉛圧電薄膜を形成することにより、環境負荷の小さい高精細高速インクジェットプリンタ用ヘッドや小型低価格なジャイロセンサを作成することができる。その具体的な候補として、ニオブ酸リチウムカリウムナトリウムの薄膜化の基礎研究が進め
られている。また応用面における低コスト化においては、Si基板やガラス基板の上に当該圧電薄膜を制御良く形成する技術を確立することも不可欠である。
しかしながら従来技術では、非鉛系の圧電薄膜については、その残留応力(内部応力)の起因である「結晶格子歪」について詳細な検討が成されておらず、圧電特性や誘電性の要求性能を満足し、これらの基板面内での均一性に優れた非鉛系の圧電体素子を生産することができなかった。
本発明の目的は、上記課題を解決して、圧電特性や誘電性の向上を図り、これらの基板面内での均一性に優れた非鉛系の圧電体素子およびその製造方法を提供することにある。
本発明の一態様によれば、基板上に、一般式(NaLi)NbO(0≦x≦1、0≦y≦1、0≦z≦0.2、x+y+z=1)で表される圧電薄膜を有する圧電体素子であって、
前記圧電薄膜が、擬立方晶、立方晶、正方晶、斜方晶、六方晶、単斜晶、三斜晶、もしくは斜方面体の結晶構造、または前記結晶の少なくとも一つの結晶構造が共存した状態を有しており、それら結晶軸のうち2軸以下のある特定の軸に優先的に配向しており、
前記圧電薄膜の基板面内の格子面間隔aと基板面外の基板法線方向の格子面間隔cとの格子面間隔比である結晶格子歪量c/a、及び前記結晶格子歪量によって制御される圧電定数、比誘電率、誘電損失のうち少なくとも一つの物理量において、
前記基板面内における前記物理量の分布指標である相対標準偏差が、
前記物理量が、前記c/aであるときは0.2%未満、
前記圧電定数であるときは4.3%以下、
前記比誘電率であるときは3.2%以下、
あるいは前記誘電損失であるときは10.1%以下
である圧電体素子が提供される。
この場合において、前記結晶格子歪量c/aが、1.005以下であることが好ましい。
また、前記圧電薄膜が前記基板に対して垂直方向に(001)優先配向であることが好ましい。
また、前記基板と前記圧電薄膜との間には下部電極を形成し、前記圧電薄膜上には上部電極を形成することが可能である。
また、前記下部電極が柱状構造の粒子で構成された集合組織を有していることが好ましい。
また、前記下部電極は、PtもしくはPtを主成分とする合金、またはこれらPtを主成分とする電極層を含む積層構造の電極層であることが好ましい。
本発明の他の態様によれば、前記圧電体素子を製造する方法において、前記圧電薄膜の結晶格子歪量c/aは、前記圧電薄膜の成膜時におけるスパッタリング投入電力が40W以上120W以下の範囲内で制御される圧電体素子の製造方法が提供される。
本発明の他の態様によれば、前記圧電薄膜の結晶格子歪量c/aは、前記圧電薄膜の成膜後に実施される熱処理の温度が800℃以下の範囲内で制御される圧電体素子の製造方法が提供される。
本発明の他の態様によれば、上述した圧電体素子と、電圧印加手段又は電圧検出手段とを備えた圧電体デバイスが提供される。
本発明によれば、圧電特性や誘電性の向上を図り、これらの基板面内での均一性に優れた非鉛系の圧電体素子およびその製造方法が得られる。
本発明の一実施の形態となる下部電極層、圧電薄膜を備えた圧電体素子の説明図であって、その断面構造の図である。 本発明の一実施の形態となる圧電体素子のX線回折パターンの図である。 本発明の一実施の形態となるKNN圧電薄膜の結晶構造の図である。 本発明の一実施の形態となるKNN圧電薄膜の面外方向すなわち膜厚方向の格子定数cのX線回折測定における説明図であって、(a)は実験配置図であり、(b)はX線回折パターンの図である。 本発明の一実施の形態となるKNN圧電薄膜の面内方向すなわち薄膜面にほぼ平行な方向の格子定数aのX線回折測定、いわゆるIn−PlaneX線回折測定における説明図であって、(a)は実験配置図であり、(b)はX線回折パターンの図である。 本発明の一実施例に係る圧電体素子を用いて作製したアクチュエータの構成および圧電特性評価方法を説明する概略構成図である。 本発明の実施例1に係る2次元X線検出器を用いたX線回折測定の説明図である。 本発明の実施例1に係るKNN圧電薄膜の基板面内における結晶格子歪量c/aの分布の説明図であって、(a)は従来の基板面上において不均一な結晶格子歪量の分布であり、(b)は本発明の一実施の形態となる均一な結晶格子歪量の分布である。 本発明の実施例2に係るKNN圧電薄膜の基板面内における圧電定数の分布の説明図であって、(a)は従来の基板面上において不均一な圧電定数の分布であり、(b)は本発明の一実施の形態となる均一な圧電定数の分布である。 本発明の実施例2に係るKNN圧電薄膜の基板面内における比誘電率の分布の説明図であって、(a)は従来の基板面上において不均一な比誘電率の分布であり、(b)は本発明の一実施の形態となる均一な比誘電率の分布である。 本発明の実施例2に係るKNN圧電薄膜の基板面内における誘電損失の分布の説明図であって、(a)は従来の基板面上において不均一な誘電損失の分布で、(b)は本発明の一実施の形態となる均一な誘電損失の分布である。 本発明の実施例3に係る圧電体素子における結晶格子歪量c/aと圧電常数および誘電特性との相関の説明図であって、(a)は、結晶格子歪量c/aと印加電圧20V時の圧電特性との相関図であり、(b)は結晶格子歪量c/aと比誘電率との相関図である。 本発明の実施例3に係る圧電体素子における結晶格子歪量c/aと誘電損失との相関図である。 本発明の一実施の形態となる圧電体素子の成膜装置の説明図である。 本発明の一実施の形態の圧電体デバイスの概略構成図である。 本発明の一実施の形態の圧電薄膜を用いたフィルタデバイスの断面図である。 本発明の実施例4のKNN圧電薄膜のc/aとスパッタリング投入電力との相関図である。 本発明の実施例4のKNN圧電薄膜のc/aと成膜後に行った熱処理の熱処理温度との相関図である。
[本発明の知見]
本発明はニオブ酸リチウムカリウムナトリウム(一般式(NaLi)NbO(0≦x≦1、0≦y≦1、0≦z≦0.2、x+y+z=1))圧電薄膜に係るものである。尚、z=0のときのニオブ酸カリウムナトリウムを以下、KNNと略称する。
結晶格子歪量が大きく、かつ広い面積の基板面内に形成される薄膜の結晶格子歪量が不均一であるKNN圧電薄膜は、基板毎の平均誘電率は低く、その結果、平均圧電定数が小さくなることがある。KNN圧電薄膜は、従来のバルク系の鉛系圧電材料(例えばPZT等)と組成が異なるだけであるから、結晶格子歪量と圧電定数、誘電性(誘電率及び誘電損失)の関係において、バルク系の鉛系圧電材料と同じ振る舞いを示すのではないかとの観点から、上記結晶格子歪量をバルク系と同様に適切な状態に制御、管理すれば、基板毎の平均誘電率を上げることができ、平均圧電定数を改善できるではないかと考えられる。
しかし、KNN圧電薄膜は、従来のバルク系の鉛系圧電材料(例えばPZT等)と組成が異なるだけであるからといって、結晶格子歪量と圧電定数、誘電率及び誘電損失の関係において、バルク系の鉛系圧電材料と同じ振る舞いを示すという保障はない。薄膜とバルクとでは各種の物理的性質が異なることはよく知られており、薄膜の結晶格子歪量と圧電特性や誘電性などとの関係を具体的かつ実際的に解析しなければ、それらの関係はわからない。
そこで、KNN圧電薄膜における結晶格子歪量と圧電定数、比誘電率、誘電損失との相関関係を究明すべく、本発明者等は、KNN圧電薄膜の作製条件の最適化やOut of
plane及びIn−PlaneX線回折法を用いた結晶構造解析などを行った。その結果、KNN圧電薄膜において、その圧電特性は結晶格子歪量の影響(効果)が大きいことが認められた。そして、その基板面内での結晶格子歪量の分布が、圧電特性や誘電性の向上や、それらの基板面内での均一性に寄与することも判明した。本発明者等は、上記知見に基づき、本発明を完成するに至ったものである。
[実施の形態の概要]
本実施の形態では、圧電特性(圧電定数、ばらつき)を改善するために、結晶格子歪量や圧電定数などの物理量の基板面内における均一性を表す相対標準偏差をパラメータとして導入した。パラメータとして、結晶格子歪量の相対標準偏差を規定すれば足りるが、結晶格子歪量は、圧電定数、誘電定数(比誘電率、誘電損失)ともに相関があるので、圧電定数、誘電定数の相対標準偏差を規定してもよい。これらの相対標準偏差が規定の範囲に入るよう、KNN圧電薄膜の成膜時のスパッタリング投入電力や、成膜後の熱処理温度を制御することにより、KNN圧電薄膜の圧電特性をはじめ誘電性の向上、およびこれらの基板面内の均一性を改善することができる。
[圧電体素子の一実施の形態]
以下、本発明に係る非鉛系の圧電体素子の一実施の形態を説明する。
(圧電体素子の構成)
図1に、本発明の一実施の形態の圧電体素子の概略断面図を示す。圧電体素子は、表面に酸化膜が形成された基板1と、その上に形成された密着層2と、密着層2の上に形成された下部電極層3と、この下部電極層3の上に形成されたペロブスカイト構造のKNN圧電薄膜4とを有している。
前記基板1としては、Si基板が低価格でかつ工業的に実績があるので好ましいが、Si基板の他に、MgO基板、ZnO基板、SrTiO基板、SrRuO基板、ガラス
基板、石英ガラス基板、GaAs基板、GaN基板、サファイア基板、Ge基板、ステンレス基板であっても良い。
Si基板1の表面に形成される前記酸化膜は、熱酸化により形成される熱酸化膜、あるいはCVD(Chemical Vapor Deposition)法により形成されるSi酸化膜などが挙げられる。なお、MgO、SrTiO、SrRuO3、石英ガラスなどの酸化物基板の場合には、基板1上に前記酸化膜を形成せずに、直接下部電極層3を形成しても良い。
前記密着層2は、Si基板1と下部電極層3との密着性を高めるための接着層であり、例えばTiからなる。
また、前記下部電極層3としては、PtもしくはPtを主成分とする合金、またはこれらPtを主成分とする電極層を含む積層構造の電極層、あるいは、Ru、Ir、Sn、In乃至同酸化物や圧電薄膜中に含む元素との化合物の層を含む積層構造の電極層である。該下部電極層は(001)優先配向結晶、(110)優先配向結晶および(111)優先配向結晶の少なくとも一つが共存した構造であることもある。
前記KNN圧電薄膜4は、(NaLi)NbO(0≦x≦1、0≦y≦1、0≦z≦0.2、x+y+z=1)で表されるペロブスカイト型酸化物を主相とするものである。結晶系としては擬立方晶、立方晶、正方晶、斜方晶、六方晶、単斜晶、三斜晶、もしくは斜方面体の結晶構造、または前記結晶構造の少なくとも一つの結晶構造が共存した状態を有しており、前記結晶の結晶軸のうち2軸以下のある特定の軸に優先的に配向している。前記KNN圧電薄膜の一部に、ペロブスカイト構造を有するABOの結晶層、ABOの非晶質層、またはABOの結晶と非晶質とが混合した混合層のいずれかを含んでいてもよい。ただし、AはLi、Na、K、La、Sr、Nd、Ba、Biのうちから選択される1種類以上の元素であり、BはZr、Ti、Mn、Mg、Nb、Sn、Sb、Ta、Inのうちから選択される1種類以上の元素であり、Oは酸素である。
このようにして得られるKNN圧電薄膜は、柱状構造の結晶粒子で構成された集合組織を有する。また、前記下部電極層が(111)面に配向して形成されている場合、前記圧電薄膜層は前記下部電極層に対し所定方向に優先配向されて形成されている。
また、前記KNN圧電薄膜4は、その作製条件によってKNN圧電薄膜の結晶配向性の状態が変化するが、前記Si基板1に対して垂直方向に(001)優先配向であることが好ましい。また、そのKNN圧電薄膜4の内部応力(歪)が圧縮応力あるいは引張応力ヘと変化することもある。また、応力のない状態、すなわち無歪の状態の場合もある。
上述した非鉛系の圧電体素子については、素子毎に要求される性能を満足させつつ安定に生産するためには、圧電薄膜の結晶格子歪量と、基板面内におけるその分布を詳細に管理あるいは制御することが必要となる。その理由は、次の通りである。すなわち、結晶格子歪量の起因となる内部応力には、引張応力と圧縮応力とがある。引張応力は膜がはがれる様に働く応力で、圧縮応力はその逆で膜がくっつく様に働く力である。内部応力が大きいと膜剥がれが生じたり、膜に割れを生じたり、圧電薄膜の上に形成する上部電極層に悪影響を及ぼしたりする可能性がある。これらの不具合を解消する必要があるからである。
上記不具合を解消するためには、圧電薄膜の結晶格子歪量の基板面内における分布が次のように管理あるいは制御されている必要がある。ここで、結晶格子歪量は、前記圧電薄膜の基板面内の格子面間隔aと基板面外の基板法線方向の格子面間隔cとの格子面間隔比であるc/aである。
本実施の形態の圧電体素子では、前記結晶格子歪量c/a、及び前記結晶格子歪量によ
って制御される圧電定数、比誘電率、誘電損失のうち少なくとも一つの物理量において、前記基板面内における前記物理量の分布指標である相対標準偏差(ばらつき)は、前記物理量が、前記c/aであるときは0.2%未満、前記圧電定数であるときは4.3%以下、前記比誘電率であるときは3.2%以下、あるいは前記誘電損失であるときは10.1%以下となっている。
基板面内における結晶格子歪量c/aの相対標準偏差が0.2%を超すと、圧電体素子特性のばらつきが大きく(実施例1の図8)、圧電体素子を安定かつ大量に作製することができない。また、圧電定数の相対標準偏差が4.3%を超えると、圧電特性のばらつきが大きく(実施例2の図9)、圧電体素子を安定かつ大量に作製することができない。また、比誘電率の相対標準偏差が3.2%を超えると、比誘電特性のばらつきが大きく(実施例2の図10)、圧電体素子を安定かつ大量に作製することができない。さらに、誘電損失の相対標準偏差が10.1%を超えると、誘電損失特性のばらつきが大きく(実施例2の図11)、圧電体素子を安定かつ大量に作製することができない。
結晶格子歪量c/aの相対標準偏差が0.2%未満であると、結晶格子歪量の不均一性に伴うリーク電流の増加や、KNN圧電薄膜や電極等の内部のクラックやKNN圧電薄膜と電極等との界面等における膜剥れによる印加実効電圧の低下を防ぐことができる。また、結晶格子歪量によって制御される圧電定数の相対標準偏差が4.3%以下、比誘電率の相対標準偏差が3.2%以下、あるいは前記誘電損失の相対標準偏差が10.1%以下であると、結晶格子歪量の不均一性に伴うリーク電流の増加や、KNN圧電薄膜や電極等の内部のクラックやKNN圧電薄膜と電極等との界面等における膜剥れによる印加実効電圧の低下を防ぐことができる。
また、従来例と比べて、より高い圧電定数(60以上、好ましくは70以上、より好ましくは90以上)、より高い比誘電率(600以上)、及びより小さい誘電損失(0.15以下、好ましくは0.1以下)を得るために、本実施の形態の圧電体素子では、KNN圧電薄膜の結晶格子歪量c/aは1.005以下、好ましくは0.992以上1.004以下の範囲内となっている(実施例3の図12A、図12B)。
圧電薄膜の結晶格子歪量c/aを1.005以下、好ましくは1付近の0.992以上1.004以下の範囲におさめ、また基板面内におけるKNN圧電薄膜の結晶格子歪量の分布において、その相対標準偏差を0.2%以下に抑制して、基板面内におけるKNN圧電薄膜の結晶格子歪量を一様になるよう制御することにより、結晶格子歪量の不均一性に伴うリーク電流の増加や、KNN圧電薄膜や電極等の内部のクラックやKNN圧電薄膜と電極等との界面等における膜剥れによる印加実効電圧の低下を防ぐことができる。
すなわち、本実施の形態において、上述した相対標準偏差及び結晶格子歪量を満足する圧電体素子であれば、ばらつきが少なく、より高い圧電定数、より高い比誘電率、及びより小さい誘電損失を得ることが可能になる。
(圧電体素子の製造方法)
本実施の形態の圧電体素子を製造するには、まず酸化膜付きSi基板の基板面内にRFマグネトロンスパッタリング法を用いて、Ti密着層2、Pt下部電極層3を順次形成する。Ti密着層2の厚さは1nm以上50nm以下とする。Pt下部電極層3の厚さは10nm以上500nm以下とする。また、Ti密着層2とPt下部電極層3については、基板温度50℃以上350℃以下、スパッタリング投入電力50W以上450W以下、導入ガスはArなどのガス、導入ガス雰囲気の圧力1Pa以上10Pa以下、成膜時間は、Ti密着層では0.1分以上5分以下、Pt下部電極では0.5分以上30分以下とする。
つぎに、Pt下部電極の上に、図13に示すRFマグネトロンスパッタリング法で(K1−xNaNbO圧電薄膜を成膜する。ターゲット31には(K1−xNaNbO焼結体を用い、基板温度(基板表面の温度)100℃以上900℃以下、導入ガスはArなどのガス、導入ガス雰囲気ガスの圧力0.01Pa以上5Pa以下の条件で成膜する。
次に成膜完了後、ランプ加熱装置やヒータ加熱装置などの電気炉を用いて、主成分が酸素と窒素の混合ガスあるいはそれらの少なくとも一つのガスで、成膜後の熱処理を行う。熱処理温度は、圧電薄膜の組成変化に応じて800℃以下、好ましくは600℃以上750℃以下の範囲で制御して行うとよい。また熱処理時間は1時間以上3時間以下の範囲で行うとよい。
熱処理完了後に、RFマグネトロンスパッタリング法を用いて、KNN圧電薄膜の上にPt上部電極4を形成した。このとき、スパッタリング投入電力50W以上450W以下、導入ガスはArなどのガス、導入ガス雰囲気の圧力1Pa以上10Pa以下、成膜時間は0.5分以上30分以下の条件で成膜し、圧電体素子を作製する。
(スパッタリング投入電力)
前記圧電薄膜の結晶格子歪量c/aはスパッタリング投入電力によって制御される。投入電力が小さいと圧電体素子のc/aは1より大きい状態(引張応力)となり、投入電力が大きいとc/aは1より小さい状態(圧縮応力)となる。例えば、Si基板の場合、投入電力が低いとき引張応力状態にあり、その結晶格子歪量c/aは1以下の値をとり、投入電力を上げていくと、ある値付近でc/aは1となり、さらに上げていくと圧縮応力状態にあり、その結晶格子歪量c/aは1以上の値をとる。すなわち、スパッタリング投入電力に応じて結晶格子歪量c/aは無歪状態の1を横切る。したがって、圧電薄膜の成膜時のスパッタリング投入電力を変化させることで、圧電薄膜の内部応力を制御でき、その結晶格子歪量c/aを、1.005以下、好ましくは1付近の0.992以上1.004以下の範囲を制御できる。結晶格子歪量c/aが1.005を超えると、圧電定数、比誘電率が共に小さくなり、誘電損失が大きくなって圧電体素子の要求性能を満足しなくなる。また、結晶格子歪量c/aが0.992以上1.004以下の範囲であると、特に圧電定数が60以上、好ましくは70以上、より好ましくは90以上となる。
上述したKNN圧電薄膜の結晶格子歪c/aを1.005以下、好ましくは0.992以上1.004以下の範囲内に制御するためには、前記圧電薄膜の成膜時におけるスパッタリング投入電力は、40W以上120W以下の範囲内とし(実施例4の図16)、好ましくはスパッタリング投入電力密度が00.01/mm以上0.040W/mm以下の範囲内とするとよい。スパッタリング投入電力が40W未満だとc/aは1.005を超えるうえ、膜剥がれも生じやすく、120Wを超えると膜割れを生じやすくなる。また、スパッタリング投入電力密度が00.010W/mm未満だとc/aは1.005を超えるうえ、膜剥がれも生じやすく、0.040W/mmを超えると膜割れを生じやすくなる。
(成膜後の熱処理)
前記圧電薄膜の成膜後に実施する熱処理の熱処理温度を変化させることによって、圧電薄膜の内部応力を制御することが可能である。熱処理温度を増加させることによって、KNN圧電薄膜を凸形状から凹形状へと引張応力状態へ変化させることができる。すなわち、熱処理温度を変化させることによって、KNN圧電薄膜の内部応力を所望の値に制御できる。
したがって、上述した結晶格子歪量を実現するためのKNN圧電薄膜の内部応力を得るには、前記KNN圧電薄膜の成膜後に実施される熱処理の温度は800℃以下、好ましく
は600℃以上750℃以下とする(実施例4の図17)。熱処理の温度が800℃を超えるとランダム配向の圧電薄膜となり、600℃未満750℃を超えると、c/aが1付近の0.992以上1.004以下の範囲外となるからである。
上述したように結晶格子歪量c/aは、スパッタリング投入電力あるいは成膜後の熱処理のいずれによっても制御することが可能である。スパッタリング投入電力と成膜後の熱処理との制御は、以下に記載した目的で使い分ける。
KNN圧電薄膜の生産性を上げるためには、スパッタリング投入電力を高くする必要がある。しかし、スパッタリング投入電力を高くすると結晶格子歪量c/aが大きくなるため、圧電定数の減少を誘発させ、高性能なKNN圧電薄膜を生産できない。一方、スパッタリング投入電力を低下させれば、結晶格子歪量c/aの増大を低減できるため圧電定数は低下しない(図16参照)。しかし、投入電力低下に伴い成膜速度が減少するため、生産性向上を確保できない。
以上の問題点を払拭するために、生産性向上のために高い投入電力でKNN圧電薄膜を成膜し、その後の熱処理温度の増減によって、結晶格子歪量c/aを正確に制御(小さく)して(図17参照)、高い圧電定数を示すKNN圧電薄膜を一度に多く作製することできるようになる。また、当該熱処理によって、結晶格子歪制御に加え、スパッタリング成膜時に不足すると予想される酸素充填も可能となるため、酸化物であるKNN圧電薄膜の信頼性や安定性を確保できる。
(2θ/θスキャン測定)
こうして作製したKNN圧電薄膜について、走査電子顕微鏡などで断面形状を観察すると、その組織は柱状構造で構成されており、一般的なX線回折装置で結晶構造を調べた結果、基板加熱を行って形成した実施形態のPt薄膜は、図2のX線回折パターン(2θ/θスキャン測定)に示すように、基板表面に垂直な向きに(111)面に配向した薄膜が形成されていることがわかった。この(111)に優先配向したPt膜上に、KNN圧電薄膜を形成した結果、作製されたKNN圧電薄膜は、図3に示す擬立方晶のペロブスカイト型の結晶構造を有する多結晶薄膜であることが判明した。
また、図2のX線回折パターンからわかるように、KNN圧電薄膜は(001)、(002)、(003)の回折ピークのみを確認できることから、KNN圧電薄膜が概ね(001)に優先配向していることが予想できた。本発明の実施の形態においては、意図的に結晶配向性を制御したKNN圧電薄膜について、当該のKNN圧電薄膜の配向性を詳細かつ精密に評価するために、極図形(Pole figure)の測定を行った。極図形はある特定の格子面における極の広がりをステレオ投影した図であり、多結晶の配向の状態を詳細に評価することができる解析方法である。本解析の結果、(001)優先配向であることが明確になった。尚、極図形の詳細については以下の文献1、2、3を参照されたい。
文献1:理学電気(株)編、X線回折の手引き、改訂第4版、(理学電気(株)1986年)
文献2:カリティ著、新版X線回折要論、(アグネ、1980年)
文献3:須藤 一著、残留応力とゆがみ、(内田老鶴圃、1988年)
(面外(膜厚)方向格子定数cと面内方向格子定数aの解析)
以下に本発明の実施の形態となるKNN圧電薄膜の管理、制御方法を説明する。
面外方向格子定数cとは、基板(Si基板)表面やKNN圧電薄膜表面に垂直な方向(面外方向;Out of plane)におけるKNN圧電薄膜の格子定数のことであり、面内方向格子定数aとは、基板(Si基板)表面やKNN圧電薄膜表面に平行な方向(面内方向;In−Plane)におけるKNN圧電薄膜の格子定数のことである。本実施の形態における、KNN圧電薄膜の面外方向格子定数cと面内方向格子定数aの値は、X
線回折パターンで得られた回折ピーク角度から算出した数値である。
以下に、面外方向格子定数cと面内方向格子定数aの算出について詳細に説明する。本実施形態のKNN圧電薄膜は、Pt下部電極上に形成したが、Pt下部電極は(111)面方位に配向した柱状構造の多結晶体となるため、KNN圧電薄膜は、このPt下部電極の結晶配列を引き継いで、ペロブスカイト構造を有する柱状構造の多結晶薄膜となる。すなわち、KNN圧電薄膜は面外方向に(001)面方位に優先配向したものであるが、面内方向は任意方向への優先配向はなく、ランダム配向である。KNN圧電薄膜がペロブスカイト構造の面外方向(001)面に優先配向になっていることは、図4(a)に示す2θ/θ法によるOut of planeX線回折法で得られるX線回折パターン(図4(b))において、(001)面、(002)面の回折ピークがKNN圧電薄膜に起因する他のピークよりも高いことで判断できる。また、前記回折ピークは極図形測定におけるデバイリングの有無でも確認できる。本実施の形態では、KNbOとNaNbOのICDD(International Center for Diffraction
Data)カードを基にして、22.011°≦2θ≦22.890°の範囲の回折ピークを001面回折ピーク、44.880°≦2θ≦46.789°の範囲の回折ピークを002面回折ピークと考えている。
(面外方向格子定数cの算出)
本実施の形態での面外方向格子定数cは、以下の方法で算出した。まず、通常のCuKα線を用いた図4に示すX線回折測定(2θ/θ法)でX線回折パターンを測定した。このX線回折測定では、通常、図4(a)に示すθ軸の周りに試料と検出器とをスキャンし、試料面に平行な格子面からの回折を測定する。図4(b)に示す得られたX線回折パターンにおけるC/A面の回折ピーク角度2θから得たθの値と、CuKα特性X線の波長λ=0.154056nmを、Braggの式である2dsinθ=nλ(n=1)に代入し、C/A面の面間隔dc(002)を算出した。また、KNN圧電薄膜はほぼ立方晶構造であるため、次式に基づき格子定数Aを求めた。
A=d√(h+k+l) (1)
ここでdはBraggの基本式から計算した面間隔であり、h、k、lはミラー指数と呼ばれる面間隔の方位を表すものである。前述に示したように(h,k,l)=(0,0,2)であるので、本発明の実施例における面外(膜厚)方向の面間隔dc(002)の2倍を面外格子定数cとした。
(面内方向格子定数aの算出)
一方、本実施の形態での面内方向格子定数aは以下の方法で算出した。CuKα特性X線を用いて、図5(a)に示すIn−PlaneX線回折法によってX線回折パターンを測定した。この測定では、通常、図5(a)に示す受光平行スリットを含む検出器と試料とを面内回転し、試料面に垂直な格子面からの回折を測定する。図5(b)の得られたX線回折パターンにおけるKNN(200)面の回折ピーク角度2θから得たθの値と、CuKα線の波長λ=0.154056nmを、Braggの式2dsinθ=nλ(n=1)に代入し、KNN 200面の面間隔da(200)を計算した。面外(膜厚)方向の格子定数cの算出と同様に、(h,k,l)=(2,0,0)を先の(1)式へ適用し、面内方向の面間隔da(200)の2倍を面内格子定数aとした。このIn−PlaneX線回折法でのX線回折パターンにおいても、KNbOとNaNbOのICDDカードを基にして、44.880°≦2θ≦46.789°の範囲の回折ピークを200面回折ピークと考えている。
得られたKNN圧電薄膜が、cドメイン(結晶格子が面外(膜厚)方向格子定数cの方向に伸びた領域)または、aドメイン(結晶格子が面内方向格子定数aの方向に伸びた領域)のいずれか一方が、単一に存在するドメインの状態ではなく、cドメインとaドメイ
ンとが混在した正方晶である場合には、2θ/θ法X線回折パターンにおいて、KNN(200)面回折ピークの付近にKNN(200)面回折ピークが得られる。一方、In−plane X線回折パターンにおいては、KNN(200)面回折ピークの近傍にKNN(002)回折ピークが得られる。このような場合は、本実施の形態では、近接する2つの回折ピークのうち、ピーク強度が大きい方(つまり支配的なドメイン)のピーク角度を用いて、面外方向格子定数c、面内方向格子定数aを算出する。また、In−Plane X線回折(微小角入射X線回折)では、X線を基板表面に対してすれすれに入射することになり、全反射臨界角に近い状態となるため試料表面付近の領域しか測定できない。そのため、本実施形態でのIn−Plane測定は、KNN圧電薄膜の上に上部電極が形成されていない状態で行った。もし、上部電極がKNN圧電薄膜上に形成されている試料の場合には、その上部電極をドライエッチング、ウエットエッチング、研磨などによって除去し、KNN圧電薄膜の表面を露出させた状態にした後に、In−Plane X線回折測定を実施すればよい。上記ドライエッチングとしては、例えば、Pt上部電極を除去する場合には、Arプラズマによるドライエッチングが用いられる。
X線回折測定の結果、KNN圧電薄膜の格子歪量c/aは1以下あるいは1以上となった。
KNN圧電薄膜の格子歪量c/aが1以下あるいは1以上となる理由は、
(1)KNN圧電薄膜、基板および下部電極層の伸び縮みの温度係数が異なっているため、薄膜を形成する際の温度と室温の差によって膜と基板の収縮が異なること、
(2)または結晶化温度以上で成膜する際、結晶成長に伴う急激な格子収縮や膨張が起きることによってグレイン(結晶粒)間に引力が働くこと、
(3)更に、スパッタリング成膜時の投入電力(Power)を増加させると、Arイオン(以下、Ar)などエネルギー粒子衝撃により多くのスパッタ粒子が粒界に打ち込まれ、その結果として撤密な膜が形成されて基板面内で伸びようとする状況に反発して作用する力が生じて圧縮応力状態になること、
等が原因となり、上部に形成されるKNN圧電薄膜の結晶格子歪を誘発させていると考えられる。
(アクチュエータの試作および圧電特性の評価)
KNN圧電薄膜の圧電定数d31を評価するために、図6(a)に示す構成のユニモルフカンチレバーを試作する。まず、上記実施の形態のKNN圧電薄膜4の上にPt上部電極5をRFマグネトロンスパッタリング法で形成した後、短冊形に切り出し、KNN圧電薄膜4を有する圧電体素子20を作製する。次に、この圧電体素子20の長手方向の端をクランプ21で固定することで簡易的なユニモルフカンチレバーを作製する。このカンチレバーの上部電極5と下部電極3との間のKNN圧電薄膜4に電圧を印加し、KNN圧電薄膜4を伸縮させることでカンチレバー全体が屈曲させ、カンチレバー先端を矢印で示す上下方向(KNN圧電薄膜の厚さ方向)に往復動作させる。
このときカンチレバーの先端変位量Δを、レーザードップラ変位計22からレーザー光Lをカンチレバー先端に照射して測定する(図6(b))。圧電定数d31はカンチレバー先端の変位量△、カンチレバー長さ、基板1とKNN圧電薄膜4の厚さとヤング率、および印加電圧から算出される。圧電定数d31の算出は、以下の文献4に記載の方法で行う。
文献4:T.Mino、S.Kuwajima、T.Suzuki、I.Kanno、H.Kotera、and K.Wasa:Jpn.J.Appl.Phys.46(2007)6960
KNN圧電薄膜のヤング率の値には104GPaを用い、印加電界66.7kV/cm(3μm厚KNN圧電薄膜に20Vの電圧)の600Hzのsin波電圧を印加した時の
圧電定数d31を測定する(初期d31)。また、そのまま600Hzのsin波電圧を連続で印加し、カンチレバーを10億回駆動させた後に再びd31を測定する(10億回駆動後d31)。
上述したカンチレバーによる圧電定数の評価結果によれば、本発明の一実施の形態におけるKNN圧電薄膜の圧電定数は60以上となり、好ましくは70以上となり、より好ましくは90以上となる。
[圧電体デバイス]
上記実施の形態では、KNN圧電薄膜付の基板に対して、Pt薄膜からなる下部電極を設け、その上にKNN圧電薄膜を設け、さらにその上に上部電極を設けることによって、高い圧電定数を示す圧電体素子を作製した。このような圧電体素子を、さらに所定形状に加工したり、図14に示すように、上部電極層15と下部電極層3との間に電圧印加手段又は電圧検出手段16を設けたりすることにより、圧電体デバイスを形成する。この圧電体デバイスを用いることで、小型のモータ、センサ、及びアクチュエータ等の小型システム装置(例えば、Micro Electric Mechanical System(MEMS))等を形成することができる。
また、基板上に圧電薄膜を形成し、圧電薄膜上に所定の形状(パターン)の電極を形成して表面弾性波を利用したフィルタデバイスを形成することもできる。この実施の形態では、Pt薄膜を配向制御層としても用いる形態であるが、Pt薄膜上に、またはPt薄膜に代わり、(001)面に配向しやすいLaNiOを用いることもできるまた、NaNbOを介してKNN薄膜を形成しても良い。図15には、Si基板1上に、LaNiO層31、NaNbO層32、KNN薄膜4、上部パターン電極51を形成したフィルタデバイスを示す。このようなフィルタデバイスにおいても、KNN薄膜の結晶格子歪量c/aが1.005以下のときに、良好な圧電特性や誘電性特性を有し、しかも圧電定数や比誘電定数、誘電損失が基板面内で均一性に優れたものができることを確認した。なお、表面弾性波を利用したフィルタデバイスでは、密着層であるLaNiO層31上に形成したNaNbO層32は、主に下地層として機能する。
上述した圧電薄膜の上部に形成する上部電極層、又は所定のパターンを有するパターン電極は、下部電極層と同様に、PtもしくはPtを主成分とする合金、またはこれらPtを主成分とする電極層を含む積層構造の電極層であることが好ましい。または、Ru、Ir、Sn、In乃至同酸化物や圧電薄膜中に含む元素との化合物の電極層を含む積層構造の電極層であってもよい。
[実施の形態の効果]
本発明の一つ又はそれ以上の実施の形態によれば、次のような効果がある。
本発明の一実施の形態によれば、構成材料である圧電薄膜、下部電極(下地層)、密着層、基板を適切に管理、選定するとともに当該材料の作製条件の最適化を図り、広い面積の基板面上に形成したKNN圧電薄膜の結晶格子歪量を精密に測定して、圧電体素子の結晶格子歪量を正確に制御することにより、基板面内におけるKNN圧電薄膜の結晶格子歪量分布が制御され、圧電特性が良好で、高性能かつ高信頼性の圧電体素子を実現することができ、製造上高歩留りで高品質な圧電体素子を得ることが可能になる。
また、本発明の一実施の形態によれば、KNN圧電薄膜の結晶格子歪量及びこれにより制御される物理量の相対標準偏差を規定することにより、KNN圧電薄膜の結晶格子歪量が小さく、基板面内の結晶格子歪量を均一にすることができ、その結果、圧電特性や誘電性の向上が図れ、これらの基板面内での均一性を向上できる。さらに、KNN圧電薄膜の結晶格子歪量を規定することにより、圧電特性や誘電性の一層の向上が図れ、これらの均
一性をさらに向上できる。
また、本発明の一実施の形態による圧電体素子は、圧電特性や誘電性が向上するとともに、これらの特性の基板面内の均一性も向上するので、基板の大口径化に対応できる。
また、本発明の一実施の形態による圧電体素子は、鉛を用いない圧電薄膜を備えた圧電体素子である。したがって、本発明の一実施の形態による圧電体素子を搭載することによって、環境負荷を低減させかつ高性能な小型のモータ、センサ、及びアクチュエータ等の小型システム装置、例えばMEMS等が実現できる。
また、本発明の一実施の形態によれば、基板、下部電極、圧電薄膜及び上部電極の積層構造よりなる圧電体素子において、該圧電薄膜の結晶格子歪量c/aを1.005以下、好ましくは1付近の0.992以上1.004以下の範囲におさめ、また基板面内におけるKNN圧電薄膜の結晶格子歪量の分布において、その相対標準偏差を0.2%未満に抑制して、基板面内におけるKNN圧電薄膜の結晶格子歪量を一様になるよう制御することにより、結晶格子歪量の不均一性に伴うリーク電流の増加や、KNN圧電薄膜や電極等の内部のクラックやKNN圧電薄膜と電極等との界面等における膜剥れによる印加実効電圧の低下を防ぐことができる。
また本発明の一実施の形態によれば、上記圧電体素子の下部電極としてPt電極、あるいはPt合金を使用することによって、または、上記下部電極としてRu、Ir乃至同酸化物やPtと、圧電薄膜中に含まれる元素との化合物を使用することによって、上部に形成されるKNN圧電薄膜の内部応力を制御できる。
また、本発明の一実施の形態によれば、基板についても、Siのほか、MgO基板、SrTiO基板、ガラス基板、石英ガラス基板、GaAs基板、サファイア基板、Ge基板、ステンレス基板等を使用することによって、その上に形成したKNN圧電薄膜の結晶格子歪量および基板面内における結晶格子歪量分布の大きさを制御することができる。これにより圧電体素子の圧電特性を更に向上することができる。
また、本発明の一実施の形態によれば、前記KNN圧電薄膜の結晶格子歪を正確に定量化し、その結晶格子歪量について基板(ウェハ)上において細かくマッピング解析を行って、その分布を厳密に制御、管理して作製された圧電薄膜付きの基板に対して、前記KNN圧電体層の上部に上部電極層を形成することによって、均一かつ高い圧電定数を示す圧電体素子を作製できる。この圧電体素子を所定形状に成型したり、電圧印加手段、電圧検出手段を設けたりすることにより各種のアクチュエータやセンサなどの圧電体デバイスを安定かつ大量に作製することができる。したがって、圧電特性や誘電性についてその向上や安定化を実現できるため、高性能なマイクロデバイスを安価に提供できる。
また、本発明の一実施の形態によれば、圧電薄膜付き基板に対して、前記KNN圧電薄膜の上部に所定のパターンを有するパターン電極を形成することによって、表面弾性波を利用したフィルタデバイスを作製することができる。
尚、上述した実施の形態では、基板面内の分布を結晶格子歪量の標準偏差で規定したが、本発明はこれに限定されず、例えば最大値と最小値の差などで規定してもよい。
次に、本発明の実施例を比較例とともに説明する。
[実施例1]
(KNN圧電薄膜の成膜)
図1に示すのと同じ構造の圧電薄膜付きの基板を作製した。基板には熱酸化膜付きSi基板を用いた。Si基板は、その面方位(100)、厚さ0.525mm、直径4インチの円形、熱酸化膜の厚さ200nmである。
まず、この熱酸化膜付きSi基板上に、RFマグネトロンスパッタリング法を用いて、膜厚10nmのTi密着層を形成し、このTi密着層の上にPt下部電極層を形成した。Pt下部電極層は、基板上で均一な(111)面優先配向、膜厚200nmの多結晶Pt薄膜からなる。前記Ti密着層と前記Pt下部電極層についてのスパッタリング条件は、基板温度350℃、スパッタリング投入電力300W、スパッタリング用ガス100%Ar、Ar雰囲気の圧力2.5Paで共通である。成膜時間は、Ti密着層では3分、Pt下部電極層では10分の条件で成膜した。スパッタリング用ターゲットとして、Ti密着層にはTi金属ターゲットを、Pt下部電極層にはPt金属ターゲットをそれぞれ用いた。
次に、Pt下部電極層の上に、RFマグネトロンスパッタリング法を用いて、膜厚3μmの(Kl−xNaNbO圧電薄膜を形成した。ターゲットに(K1−xNaNbO焼結体を用いた。ターゲット組成の範囲は、(K+Na)/Nb=0.82〜1.08、Na/(K+Na)=0.44〜0.77である。基板温度(基板表面の温度)550℃、スパッタリング投入電力75W、導入雰囲気ガスAr/O混合ガス(Ar/O=99/1)、雰囲気ガスの圧力1.3Paの条件で成膜した。
作製されるKNN圧電薄膜について混晶比の影響はほとんどないため、スパッタリング成膜のターゲット組成の範囲を広めにとることができる。従って上記ターゲット組成範囲にあっても、作製されるKNN圧電薄膜の特性を、実施例の狙いとする範囲にあるように制御することが可能である。
(K1−xNaNbO焼結体ターゲットは、KCO粉末、NaCO粉末、Nb粉末を原料にして、ボールミルを用いて24時間混合し、850℃で10時間仮焼成し、その後再びボールミルで粉砕し、200MPaの圧力で成形した後、1080℃で焼成することで作製した。(K+Na)/Nb比率およびNa/(K+Na)比率は、KCO粉末、NaCO粉末、Nb粉末の混合比率を調整することで制御した。作製したターゲットは、スパッタリング成膜に用いる前にEDX(エネルギー分散型X線分光分析)によってK、Na、Nbの原子数%を測定し、(K+Na)/Nb比率およびNa/(K+Na)比率をそれぞれ算出した。
さらに、KNN圧電薄膜の結晶格子歪量の基板面内分布を均一化するために、前記圧電薄膜の成膜時におけるスパッタリング投入電力を800W、もしくはスパッタリング投入電力密度を0.025W/mmとした。
また、成膜完了後、基板面内の内部応力を均一化させて、KNN圧電薄膜の結晶格子歪量の基板面内分布を均一化するために、主成分が酸素と窒素の混合ガスで、成膜後の熱処理を行った。熱処理温度は、675℃とし、熱処理時間は2時間とした。
このようにして4インチウェハ(基板)上に実施例1のKNN圧電薄膜試料A〜Hを作製した。
[比較例1]
比較例1では、実施例1で行っていた下部電極層の配向制御を行わず、前記圧電薄膜の成膜時におけるスパッタリング投入電力の制御を行わず、また成膜後の熱処理も実施しなかった点を除いて実施例1と同じとした。このようにして4インチウェハ上に比較例1のKNN圧電薄膜試料1〜8を作製した。
(格子歪解析)
本実施例1及び比較例1の圧電体素子におけるKNN圧電薄膜の実際上の結晶格子歪解析では、広い面積のX線検出域をもつ2次元検出器を搭載した高出力X線回折装置を用いた。本装置はBruker AXS社製の「D8 DISCOVER with Hi STAR」(登録商標)である。この2次元検出器を用いれば、広範囲の逆格子空間におけるX線回折プロファイルを短時間に測定でき、広域逆格子点マップを速やかに取得できる。また本発明の実施例における測定では入射X線のスポット径を100μmにまで絞っているため、In−plane測定における微小角入射における試料面上の照射面積の広がりを小さく抑えることが可能である。すなわち、基板面内におけるマッピング測定を細かく測定できるので、結果として圧電薄膜の結晶格子歪量の基板面内の分布を精度よく解析することが可能である。
図7に、本実施例及び比較例で行った(111)優先配向の圧電薄膜の結晶格子歪を解析したときの2次元検出器としてのX線回折測定配置図を示す。ここに示すθは、一般に言われるX線回折角度であり、2θ/θで走査したとき、個々の結晶面のBragg反射に対応した角度に回折ピークが観察され、その角度から格子面間隔を求めることができる。
通常のX線回折法ではサンプルがχ=0°の倒立した状態(Out of plane)で設置される。但し、この場合は基板面に対して法線方向、すなわち面外(膜厚)方向の構造情報(格子面間隔)しか得られず、薄膜の格子歪の解析法としては不十分である。この問題を補うためには、サンプルをχ軸について、約90°に再配置させた状態(In−plane)にし、散乱ベクトルが基板面内にほぼ一致するよう、基板面に沿った(平行な)方向の格子面間隔を測定することが必要となる。この測定結果とOut of planeで測定した結果と比較解析することで、膜厚方向と面内方向について、結晶面間隔の伸縮の状況を把握できる。その結果として基板面に平行な方向と垂直な方向の格子面間隔の比を求めれば、薄膜の原子レベルの結晶格子歪量を定量評価することが可能になる。
(実施例1と比較例1の結晶格子歪量評価)
本実施例1となる4インチウェハ(基板)上に形成した試料A〜H、および比較例の試料1〜8のKNN圧電薄膜について、図7で説明した前記Out of planeX線回折測定(2θ/θ法)および前記In−PlaneX線回折測定を行った。4インチ径の各位置で測定されたX線回折パターンから各KNN圧電薄膜の面外方向格子定数c、面内方向格子定数aを導出し、各位置における格子歪量c/aを求めて、ウェハ上のKNN圧電薄膜の結晶格子歪量分布を評価した。尚、本実施例1及び比較例1の全てのKNN圧電薄膜は、擬立方晶であり、かつ(001)面方位に優先配向していた。
表1に従来の比較例1となる圧電薄膜の試料1〜8のマッピング測定結果、表2に本発明の実施例1の圧電薄膜試料A〜Hのマッピング測定結果をまとめている。尚、本実施例におけるマッピング測定では、図8(a)中のウェハ内挿図に示すように、4インチウェハを、その測定位置がオリフラ側の−40mmからそれに対向するトップ側の+40mm方向へ移動するよう走査して行った。
表1は、従来の比較例1となるKNN圧電薄膜の基板面内における結晶格子歪量c/aの説明のための表である。表2は、本発明の実施例1となるKNN圧電薄膜の基板面内における結晶格子歪量c/aの説明のための表である。
前述した表1と表2をもとに作成した結晶格子歪量の基板面内分布のプロット結果を図8に示す。図8(a)は従来のKNN圧電薄膜の結晶格子歪量c/aの基板面内における分布を表しており、図8(b)は本発明の実施例となる結晶格子歪量c/aの基板面内における分布を表している。図8(b)の本発明の実施例1となるKNN圧電薄膜の基板面内における結晶格子歪量の分布のばらつきは、図8(a)の従来のKNN圧電薄膜の基板面内における結晶格子歪量の分布のばらつきより大幅に低減されていることがわかった。両者の分布のばらつき差を数値比較するために相対標準偏差を算出した。
前記相対標準偏差は、上記表1、2の各結晶格子歪量c/aから平均値μを求める。その上で、各c/aと平均値との差から標準偏差σを求め、これを式(1)に代入することにより算出した(以下、同じやりかたで、後述する圧電定数、比誘電率、及び誘電損失の各相対標準偏差を算出した)。
相対標準偏差=(σ/μ)×100(%) (2)
ただし、σ:標準偏差={(nΣx−(Σx))/n(n−1)}1/2
x:各サンプルの物理量(c/a)
μ:平均値=全サンプル物理量の合計/サンプル数(n)
n:サンプル数
その結果、従来のKNN圧電薄膜の結晶格子歪量c/aの分布は約0.2%であるが、本発明の実施例となるKNN圧電薄膜の結晶格子歪量c/aの分布ばらつきは約1/4の約0.05%であることが判明した。したがって、本実施例の結晶格子歪量の相対標準偏差は、従来例の相対標準偏差が0.2%であることから、これよりもばらつきの小さい0.2%未満、好ましくは0.005%以下がよい。
[実施例2]
実施例1と同様の構造の圧電膜付きの基板を作製した。実施例2が実施例1と異なる点は、次の点である。
(1)Ti密着層の厚さを20nmとした。
(2)Pt下部電極層成膜時のスパッタリング投入電力を75W、基板温度を300℃にして成膜を行った。
(3)KNN圧電薄膜の形成時のスパッタリング用ガスに、Ar+Oの混合ガスを使用し、その混合比を9:1とした。
(4)ターゲットには(NaLi)NbO、X=0.5、y=0.5、Z=0の焼結体ターゲットを用いてKNN圧電薄膜を形成した。
(5)さらに、上記実施例のKNN圧電薄膜の上にPt上部電極(膜厚100nm)をRFマグネトロンスパッタリング法で形成した後、同一ウェハ面内から長さ15mm、幅2.5mmの短冊形に切り出し(図9(b)の内挿図参照)、KNN圧電薄膜を有する実施例2の圧電体素子試料1〜17を作製した。
[比較例2]
比較例2では、実施例1で行っていた下部電極層の配向制御を行わず、前記圧電薄膜の成膜時におけるスパッタリング投入電力の制御を行わず、また成膜後の熱処理も実施しなかった点を除いて実施例1と同じとした。このようにして4インチウェハ上に比較例2の圧電体素子試料1〜20を作製した。
(実施例2と比較例2の圧電定数評価)
上記圧電体素子から、図6に示すユニモルフカンチレバーを作製して、実施例2及び比較例2の圧電定数を求めた。KNNの圧電定数の基板面内の分布において検討した結果を表3及び表4に示す。表3は、従来の比較例2となるKNN圧電薄膜の基板面内における圧電定数の説明のための表である。表4は、本発明の実施例2となるKNN圧電薄膜の基板面内における圧電定数の説明のための表である。このとき、KNN圧電薄膜のヤング率をバルクで仮定しているために、圧電定数の単位は任意単位であるが、実際の圧電定数の具体的な例としては、電極面に垂直(厚み)方向の伸縮変化量であるd33、あるいは電極面にそった方向の伸縮の変化量であるd31がある。ここでは圧電定数d31を求めた。
前述した表3と表4をもとに作成した結晶格子歪量の基板面内分布のプロット結果を図9に示す。ここで、図9(a)は従来のKNN圧電薄膜の圧電定数の基板面内における分布を表しており、図9(b)は本発明の実施例2となる圧電定数の基板面内の分布を表している。図9(a)からわかるように従来のKNN圧電薄膜の比誘電率の分布は下に凸形状をしていた。また、図9(b)からわかるように実施例2のKNN圧電薄膜の比誘電率の分布は、基板面内の位置に対してほぼフラットであった。図9(b)の実施例2のKNN圧電薄膜の基板面内における圧電定数の分布のばらつきは、図9(a)の従来の比較例2となるKNN圧電薄膜のそれより大幅に低減大されていることがわかった。
上部電極と下部電極との間に加える印加電圧20Vとしたとき、圧電定数のばらつきを相対標準偏差で数値比較をした結果、従来のそれは約17%であった。一方、本発明の実施例となるKNNの圧電定数の相対標準偏差は約4.3%であり、約1/4に低減できることが判明した。
(実施例2と比較例2の誘電性評価)
また、圧電定数を評価した試料と同じ試料を用いて、基板面内の同一測定位置のKNN圧電薄膜について誘電性評価を行い、比誘電率や誘電損失(tanδ)の基板面内の分布を検討した。
・比誘電率分布
誘電性の一つのパラメータである比誘電率の基板面内の分布において検討した結果を表5及び表6に示す。表5は、従来の比較例2となるKNN圧電薄膜の基板面内における比誘電率の説明のための表である。表6は、本発明の実施例2となるKNN圧電薄膜の基板面内における比誘電率の説明のための表である。
前述した表5と表6をもとに作成した比誘電率の基板面内分布のプロット結果を図10に示す。図10(a)に従来のKNN圧電薄膜における比誘電率の基板面内の分布、図10(b)に本発明の実施例2となるKNN圧電薄膜の比誘電率の分布をそれぞれ示す。図10(a)からわかるように従来のKNN圧電薄膜の比誘電率の分布は下に凸形状であり、圧電定数の分布と同じ傾向を示している。すなわち圧電定数と比誘電率は正の比例関係にあることが示唆される。一方、図10(b)は比誘電率の分布が低減しており、基板面内の位置に対してほぼフラットであり、圧電定数の分布を低減させた状況と一致している。図10(b)の実施例2のKNN圧電薄膜の基板面内における比誘電率の分布のばらつきは、図10(a)の従来の比較例2となるKNN圧電薄膜のそれより大幅に低減大されていることがわかった。
これらの値をもとに、比誘電率のばらつきを相対標準偏差で数値比較をした結果、従来のKNN圧電薄膜の場合は約36%である。また、本発明の実施例2となるKNN圧電薄膜の分布は約3.2%であり、約1/12にまでばらつきが低減できることが判明した。
・誘電損失分布
また、誘電性のもう一つのパラメータである誘電損失(tanδ)の基板面内の分布において検討した結果を表7及び表8に示す。表7は、本発明の実施例となるKNN圧電薄膜の基板面内における誘電損失(tanδ)の説明のための表である。表8は、本発明の実施例となるKNN圧電薄膜の基板面内における誘電損失(tanδ)の説明のための表である。
前述した表7と表8をもとに作成した誘電損失の基板面内分布のプロット結果を図11に示す。図11(a)は従来のKNN圧電薄膜の誘電損失の基板面内分布であり、図11(b)は本発明の実施例2となる誘電損失の基板面内分布を示したものである。図11(a)の従来のKNN圧電薄膜の誘電損失の分布において、オリフラ側の中心寄りの領域で非常に大きく、誘電性が劣化した部分があることがわかる。この部分を含めた相対標準偏差は約80%であった。また、基板中心からオリフラ側へ−5mmから−15mmの範囲にある誘電損失の大きい領域を除いた相対標準偏差は約20%であった。一方、図11(b)の本発明の実施例2となるKNN圧電薄膜の誘電損失の基板面内分布は、ほぼフラットであり、その相対標準偏差は約10.1%であった。したがって、従来の誘電損失の分布に比べて本発明の実施例となるKNN圧電薄膜の誘電損失の分布は、約1/8から1/2にまでばらつきが低減しており、基板面内でのKNN圧電薄膜の誘電性の分布が改善していることが判明した。
[実施例3]
図12A、図12Bに、従来の比較例2及び本発明の実施例2の試料数を増やして、KNN圧電薄膜の圧電特性および誘電性の結晶格子歪量に対する変化を示した。ここで、横軸は結晶格子歪量で共通であり、縦軸は、図12A(a)では圧電定数、図12A(b)では比誘電率、および図12Bでは誘電損失(tanδ)である。
(結晶格子歪量c/aに対する圧電定数評価)
図12A(a)に20Vで電界を印加したときの圧電定数の結晶格子歪量c/a変化を示す。図12A(a)に示すように、c/aが1.01から1.004へ小さくなるに従い、圧電定数が増加する傾向があることがわかる。さらに、本実施例において検討した範囲では、1.004以下になると圧電定数の増加は小さくなり、ほぼ一定で飽和する。結晶格子歪量c/aが1.004から0.992の範囲までは、ばらつきはあるが、結晶格子歪量に対して圧電定数の変化はほとんどないことがわかった。したがって、60〜90の高い圧電定数を実現し、なおかつ安定な圧電特性を実現できる結晶格子歪量の有効範囲は、1.005以下、好ましくは0.992≦c/a≦1.004とみなすことができる。
(結晶格子歪量c/aに対する比誘電率評価)
次に、図12A(b)に1kHzの比誘電率の結晶格子歪量に対する依存性を示す。同図に示すように、結晶格子歪量c/aが小さくなるに従い、比誘電率がほぼ単調に増加することがわかる。本実施例において検討した範囲では、圧電定数のように、比誘電率の増加が飽和する結晶格子歪量の範囲は認められないが、比誘電率600以上を実現するためには、c/a≦1.005の範囲が望ましいことが分かる。また、鉛系の圧電材料であるバルクPZTなど(文献5)とほぼ同等の高い比誘電率1000程度を実現するためには、c/a≦1の範囲が望ましいことが分かる。比誘電率は、圧電定数を向上させるパラメータの一つであり、結晶格子歪量c/aと比誘電率は負の相関があるので、圧電定数向上や安定化には必要な管理パラメータである。
文献5:岡崎清著、第4版セラミック誘電体工学、(学献社、1992年)
(結晶格子歪量c/aに対する誘電損失評価)
更に、図12Bに1kHzの誘電損失(tanδ)の結晶格子歪量に対する依存性を示す。本図からわかるように、結晶格子歪量c/aが小さくなるに従い、誘電損失がほぼ単調に減少することがわかる。誘電損失をなるべく小さく抑制することは、リーク電流の発生を抑えることになり、圧電薄膜(誘電体)に印加される実効的な電圧低下を防ぐことになり、圧電定数の低下や誘電率の低下を抑えることになる。また、高周波での圧電動作などを行うとき、誘電損失の増加は動作不良の原因になることから、誘電損失を低減できる物理パラメータを把握し、最適範囲を規定することは、KNN圧電薄膜の高性能化と安定
生産の実現に不可欠である。本実施例において、Si基板面内の誘電損失分布としての相対標準偏差を約10%以下に小さくすることと(図11(b))、誘電損失値を0.1程度まで低減することの両立を図るためには、c/a≦1の範囲が望ましいことが分かる。
以上のことから、KNN圧電薄膜の結晶格子歪量c/aのばらつきは、予想される圧電定数及びそれと関連のある誘電性である比誘電率や誘電損失のばらつきにほぼ対応しており、KNN圧電薄膜の結晶格子歪量をウェハ上で均一化することによって、圧電定数の均一化と向上を実現できることを示している。すなわち、基板面内のKNN圧電薄膜の結晶格子歪量分布の均一化は、製造上の重要な安定化パラメータであり、結晶格子歪量分布をマッピング測定し、その測定結果を解析することにより、明確に管理、制御することが可能であることが確認できた。
[実施例4]
実施例4では、スパッタリング投入電力と、成膜後の熱処理温度に対するKNN圧電薄膜の上記結晶格子歪量c/aがどのように変化するのかを調べた。このとき使用した試料は実施例2と同様に作製し、試料は二つに分け、一方は投入電力解析用、他方は温度解析用に用いた。
(スパッタリング投入電力解析)
まず、スパッタリング投入電力に対するKNN圧電薄膜の上記結晶格子歪量c/aがどのように変化するのかを調べるために、投入電力を20Wから140Wまで変化させたときのKNN圧電薄膜の結晶格子歪量c/aを解析した。
図16にその結果を示す。この図の縦軸は結晶格子歪量c/a、横軸は投入電力(Power)の値を示している。KNN圧電薄膜の成膜後に実施される熱処理の温度は750℃とした。図16に示すように投入電力が50Wのときは引張応力状態にあり、その結晶格子歪量c/aは0.994以上0.997以下であった。投入電力を大きくするに従い、KNN圧電薄膜の結晶格子歪量c/aは小さくなることがわかる。そして、75W付近でKNN圧電薄膜の結晶格子歪量c/aはほぼ1になることがわかる。更に投入電力を大きくすると、基板の反り形状は凹形状であったものが凸形状へと変わり、引張応力から圧縮応力状態に変化したことがわかる。投入電力を120Wまで増加させたとき、結晶格子歪量c/aの値は約1.008にまで増加することがわかった。
以上のように、KNN圧電薄膜の結晶格子歪量c/aの制御はスパッタリング投入電力を変化させることで可能になることがわかる。スパッタリング投入電力を75W近傍で制御することによってc/a=1のKNN圧電薄膜を作製することが可能である。
以上のことから、4インチSiウェハ(基板)上に形成したKNN圧電薄膜の結晶格子歪量の基板面内分布について、その相対標準偏差が0.2%未満となるようにばらつきを低減する製造方法は、成膜時におけるスパッタリング投入電力を40W以上120W以下の範囲内、またはスパッタリング投入電力密度を0.010W/mm以上0.040W/mm以内の範囲内で制御して、所望のKNN圧電薄膜の結晶格子歪量となるように成膜すればよいことがわかる。
(成膜後の熱処理解析)
つぎに、圧電薄膜の成膜後に実施される熱処理の温度に対するKNN圧電薄膜の上記結晶格子歪量c/aがどのように変化するのかを調べた。
そのために成膜完了後、ランプ加熱装置やヒータ加熱装置などの電気炉を用いて、主成分が酸素と窒素の混合ガスあるいはそれらの少なくとも一つのガスで、熱処理を行った。このとき熱処理温度について、圧電薄膜の組成変化に応じて20℃から800℃の範囲で
制御して行った。また熱処理時間は1時間から3時間の範囲で行い、圧電薄膜の組成に応じて実施した。熱処理完了後に、RFマグネトロンスパッタリング法を用いて、Pt上部電極(膜厚100nm)を形成した。このとき、スパッタリング投入電力300W、導入ガスAr、Ar雰囲気の圧力2.5Pa、成膜時間は5分の条件で成膜し、圧電体素子を作製した。
図17に成膜後の熱処理温度に対する、結晶格子歪量c/aの変化を示す。この図の縦軸は結晶格子歪量c/a、横軸は熱処理温度の値を示している。KNN圧電薄膜の成膜時におけるスパッタリング投入電力は50Wとした。本実施例においては、熱処理温度を20℃(室温)、600℃、700℃、750℃と高くするに従って、結晶格子歪量c/aが約1.0015から約0.9960へと減少することがわかる。これは、熱処理温度が高くなるほど、圧電薄膜の基板面内の格子面間隔aが、基板面外の基板法線方向の格子面間隔cに比べて大きくなることを示している。基板面に対して平行方向に近い格子面間隔aが伸びたことを表しており、Pt下部電極の引張応力状態が顕著になったことを示している。したがって、4インチSiウェハ(基板)上に形成したKNN圧電薄膜の結晶格子歪量の基板面内分布について、その相対標準偏差が0.2%未満となるようにばらつきを低減する製造方法は、成膜後の熱処理温度を800℃以下、好ましくは600℃以上750℃以下の範囲で制御するのがよいことがわかった。
以上のように、KNN圧電薄膜の結晶格子c/aの制御は成膜後の熱処理温度を変化させることで可能になることがわかる。大気中で750℃、1時間の熱処理を行うことによって、結晶格子c/a=0.9935のKNN圧電薄膜を作製することが可能であることがわかった。
このように成膜後の熱処理温度を高くすることにより、Pt下部電極の引張応力状態を顕著に実現しているが、前記熱処理温度に加えて、スパッタリング投入電力を低めに設定することやスパッタリング動作ガス圧(例えば、Arガス圧など)を低めに設定することにより、Pt下部電極の引張応力状態をより顕著に実現することができる。
以下に、本実施形態に係る好ましい態様を付記する。
[付記]
本発明の一態様によれば、基板と、該基板面内に下部電極層と圧電薄膜と上部電極層とをこれらの順で有し、前記圧電薄膜がスパッタリング法によって成膜され、前記圧電薄膜が素子の製作条件によって制御される圧電体素子において、
前記圧電薄膜は、(NaLi)NbO(0≦x≦1、0≦y≦1、0≦z≦0.2、x+y+z=1)で表されるペロブスカイト型酸化物を主相とし、
前記圧電薄膜が、擬立方晶、立方晶、正方晶、斜方晶、六方晶、単斜晶、三斜晶、もしくは斜方面体の結晶構造、または前記結晶の少なくとも一つの結晶構造が共存した状態を有しており、それら結晶軸のうち2軸以下のある特定の軸に優先的に配向しており、
前記圧電薄膜の基板面内の格子面間隔aと基板面外の基板法線方向の格子面間隔cとの格子面間隔比である結晶格子歪量c/a、及び前記結晶格子歪量によって制御される圧電定数、比誘電率、誘電損失のうち少なくとも一つの物理量において、
前記基板面内における前記物理量の分布指標である相対標準偏差が、
前記物理量が、前記c/aであるときは0.2%未満、
前記圧電定数であるときは4.3%以下、
前記比誘電率であるときは3.2%以下、
あるいは前記誘電損失であるときは10.1%以下
である圧電体素子が提供される。
この場合、結晶格子歪量c/aが、1.005以下であること好ましい。
また、前記(001)成分と前記(111)成分とが共存した構造であることが好ましい。
また、前記圧電薄膜が前記基板に対して垂直方向に(001)優先配向であることが好ましい。
また、前記基板と前記圧電薄膜との間に下地層を有することが好ましい。
前記下地層は、Pt薄膜もしくはPtを主成分とする合金薄膜、またはこれらPtを主成分とする電極層を含む積層構造の電極層であることが好ましい。
また、前記圧電薄膜が柱状構造の粒子で構成された集合組織を有していることが好ましい。
また、前記基板は、Si基板、MgO基板、ZnO基板、SrTiO、SrRuO、ガラス基板、石英ガラス基板、GaAs基板、GaN基板、サファイア基板、Ge基板、ステンレス基板のいずれかに選定されることが好ましい。特に、前記基板はSi基板であることがより好ましい。
また、前記圧電薄膜の結晶格子歪量の標準偏差や最大値と最小値の差などである「ばらつき」が、前記基板の選定によって制御されることが好ましい。
本発明の他の態様によれば、上述した圧電体素子と、電圧印加手段又は電圧検出手段とを備えた圧電体デバイスが提供される。
また、本発明の他の実施の形態によれば、上記圧電体素子を製造する方法において、前記圧電薄膜の内部応力は、前記圧電薄膜の成膜時におけるスパッタリング投入電力が40Wから120Wの範囲内で制御される圧電体素子の製造方法が提供される。この場合、スパッタリング投入電力密度が0.010W/mmから0.040W/mmの範囲内で制御されることが好ましい。
また、前記圧電薄膜の圧電定数の標準偏差や最大値と最小値の差などである「ばらつき」が、前記圧電薄膜の成膜後に実施する加熱処理の熱処理温度によって制御されることが好ましい。
また、前記圧電薄膜の比誘電率の標準偏差や最大値と最小値の差などである「ばらつき」が、前記圧電薄膜の成膜後に実施する熱処理の熱処理温度によって制御されることが好ましい。
また、上記圧電薄膜の誘電損失(tanδ)の標準偏差や最大値と最小値の差などである「ばらつき」が、前記圧電薄膜の成膜後に実施する熱処理の熱処理温度によって制御されることが好ましい。
また、前記圧電薄膜のc/aは、前記圧電薄膜の成膜後に実施される熱処理の温度が800℃以下の範囲内で制御されることが好ましい。
また、前記圧電薄膜のc/aは、前記圧電薄膜の成膜後に実施される熱処理の温度が900℃以下で制御されることが好ましく、600℃以上800℃以下の範囲内で制御され
ることがより好ましい。
また、前記圧電薄膜の結晶格子歪量c/aが、1.005以下となるよう制御されることが好ましい。この場合、c/aが1付近の0.992以上1.004以下の範囲で制御されることがより好ましい。
また、本発明の他の態様によれば、前記圧電薄膜の圧電定数が60以上で制御され、70以上で制御されることが好ましく、90以上の範囲で制御されることがより好ましい。
また、本発明の他の態様によれば、前記圧電薄膜の比誘電率が600以上の範囲で制御されることが好ましい。
また、本発明の他の態様によれば、前記圧電薄膜の誘電損失であるtanδの値が0.15以下で制御されることが好ましく、0.1以下の範囲で制御されることがより好ましい。
また、下部電極層は、PtもしくはPtを主成分とする合金、またはこれらPtを主成分とする電極層を含む積層構造の電極層において、該電極層が(111)優先配向であって、基板面内またはウェハ上において当該の(111)優先配向分布が均一であることが好ましい。
また、下部電極層は、Ru、Ir、Sn、In乃至同酸化物や圧電薄膜中に含む元素との化合物の層を含む積層構造の電極層であってもよい。
また、上部電極層は、PtもしくはPtを主成分とする合金、またはこれらPtを主成分とする電極層を含む積層構造の電極層であることが好ましい。
また、上部電極層はRu、Ir、Sn、In乃至同酸化物や圧電薄膜中に含む元素との化合物の電極層を含む積層構造の電極層であってもよい。
また、上記圧電体素子を製造する圧電体素子の製造方法において、基板上に、一般式(NaLi)NbO(0≦x≦1、0≦y≦1、0≦z≦0.2、x+y+z=1)で表される圧電薄膜有する圧電体素子の製造方法であって、前記圧電膜形成後にその結晶格子歪量を、基板面内において、微小部X線入射が可能なX線回折法を用いて、基板面内における圧電薄膜の結晶格子歪量の分布について、マッピング測定し、解析して管理する工程を含む圧電体素子の製造方法が提供される。
1・・・Si基板
2・・・密着層
3・・・下部電極層
4・・・圧電薄膜
5・・・上部電極層
20・・・圧電体素子
21・・クランプ
22・・レーザードップラ変位計
31・・・焼結体ターゲット

Claims (9)

  1. 基板上に、一般式(NaLi)NbO(0≦x≦1、0≦y≦1、0≦z≦0.2、x+y+z=1)で表される圧電薄膜を有する圧電体素子であって、
    前記圧電薄膜が、擬立方晶、立方晶、正方晶、斜方晶、六方晶、単斜晶、三斜晶、もしくは斜方面体の結晶構造、または前記結晶の少なくとも一つの結晶構造が共存した状態を有しており、それら結晶軸のうち2軸以下のある特定の軸に優先的に配向しており、
    前記圧電薄膜の基板面内の格子面間隔aと基板面外の基板法線方向の格子面間隔cとの格子面間隔比である結晶格子歪量c/a、及び前記結晶格子歪量によって制御される圧電定数、比誘電率、誘電損失のうち少なくとも一つの物理量において、
    前記基板面内における前記物理量の分布指標である相対標準偏差が、
    前記物理量が、前記c/aであるときは0.2%未満、
    前記圧電定数であるときは4.3%以下、
    前記比誘電率であるときは3.2%以下、
    あるいは前記誘電損失であるときは10.1%以下
    である圧電体素子。
  2. 請求項1に記載の圧電体素子において、前記結晶格子歪量c/aが、1.005以下である圧電体素子。
  3. 請求項1または2に記載の圧電体素子において、前記圧電薄膜が前記基板に対して垂直方向に(001)優先配向である圧電体素子。
  4. 請求項1ないし3のいずれかに記載の圧電体素子において、前記基板と前記圧電薄膜との間には下部電極が形成され、前記圧電薄膜上には上部電極が形成されている圧電体素子。
  5. 請求項4に記載の圧電体素子において、前記下部電極が柱状構造の粒子で構成された集合組織を有している圧電体素子。
  6. 請求項4または5に記載の圧電薄膜素子において、前記下部電極は、PtもしくはPtを主成分とする合金、またはこれらPtを主成分とする電極層を含む積層構造の電極層である圧電体素子。
  7. 請求項1ないし6のいずれかに記載の圧電体素子を製造する方法において、
    前記圧電薄膜の結晶格子歪量c/aは、前記圧電薄膜の成膜時におけるスパッタリング投入電力が40W以上120W以下の範囲内で制御される圧電体素子の製造方法。
  8. 請求項1ないし6のいずれかに記載の圧電体素子を製造する方法において、
    前記圧電薄膜の結晶格子歪量c/aは、前記圧電薄膜の成膜後に実施される熱処理の温度が800℃以下の範囲内で制御される圧電体素子の製造方法。
  9. 請求項1ないし6のいずれかに記載の圧電体素子と、電圧印加手段又は電圧検出手段とを備えた圧電体デバイス。
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