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JP2011214053A - 超大入熱溶接部靭性に優れた低降伏比建築構造用厚鋼板およびその製造方法 - Google Patents

超大入熱溶接部靭性に優れた低降伏比建築構造用厚鋼板およびその製造方法 Download PDF

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JP2011214053A
JP2011214053A JP2010082401A JP2010082401A JP2011214053A JP 2011214053 A JP2011214053 A JP 2011214053A JP 2010082401 A JP2010082401 A JP 2010082401A JP 2010082401 A JP2010082401 A JP 2010082401A JP 2011214053 A JP2011214053 A JP 2011214053A
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rolling
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Yasuhiro Murota
康宏 室田
Misao Ishikawa
操 石川
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JFE Steel Corp
Original Assignee
JFE Steel Corp
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Publication date
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Abstract

【課題】耐震性と超大入熱溶接熱影響部に優れた高強度厚鋼板を提供する。
【解決手段】質量%で、C:0.03〜O.07%、Si:0.05〜0.5%、Mn:0.6〜2.0%、P:0.020%以下、S:0.0005〜0.003%、Ti:0.005〜0.03%、B:0.0003〜0.0020%、Ca:0.0005〜0.005%、N:0.0070%以下、O:0.003%以下を含み、Ceqが0.40〜0.45%、ACRが0.2〜0.8を満足する組成の鋼素材を加熱し、圧延終了温度をAr変態点以上とする圧延工程と、圧延工程終了後60s以内に冷却を開始し、表層部の温度で、冷却速度が100℃/s以上、冷却停止温度:700℃以下とする一次冷却と、一次冷却後、30〜180s間の保持と、板厚中央部の温度で、冷却停止温度:400〜200℃とする二次冷却とからなる加速冷却を施す。さらに焼戻工程を施してもよい。
【選択図】なし

Description

本発明は、建築等の溶接構造物用として好適な、高強度厚鋼板に係り、とくに建築ボックス柱の施工に際し適用されるような、入熱400 kJ/cm以上のサブマージアーク溶接あるいはエレクトロスラグ溶接のような超大入熱溶接を施されても、溶接熱影響部靭性に優れた低降伏比高強度厚鋼板に関する。ここでいう「厚鋼板」は、板厚19mm以上の鋼板をいうものとする。
近年、建築等の鋼構造物の大型化に伴い、使用する鋼材の高強度化や厚肉化が進められている。また、建築鋼構造物では、耐震性の向上が要求され、鋼材自体に、塑性変形能確保のために、降伏比YR(降伏強さYS/引張強さTS)を80%以下とする低降伏比を有することが要求されてきた。さらに、鋼構造物は溶接接合により組み立てられるため、溶接部を含めて、良好な靭性を保持することが要求されている。溶接鋼構造物では、地震時のような大きな負荷荷重を受けると、塑性変形が生じる前に、溶接部から脆性破壊が発生する場合があり、近年、とくに溶接継手部において高い靱性が要求されるようになっている。
しかも、最近では、構造物の施工能率向上と施工コストの低減という要望から、溶接効率の向上が求められ、大入熱溶接の適用範囲が拡大されている。例えば、高層建築物に用いられるボックス柱では、サブマージアーク溶接やエレクトロスラグ溶接などの溶接入熱が400kJ/cmを超えるような超大入熱溶接が適用されている。このような超大入熱溶接を適用する部位としては、例えば、角継手部のサブマージアーク溶接やダイヤフラム接合部のエレクトロスラグ溶接などが、挙げられる。
一般に、このような大入熱溶接部では、溶接熱影響部(以下、HAZともいう)の靭性劣化が問題となる。これは、大入熱溶接により融点近傍まで加熱された領域では、冷却が遅いため高温域での滞留時間が長く、オーステナイト粒が粗大化しやすいうえ、さらにその後の冷却の際に、MA(島状マルテンサイトともいう)等の硬質な脆化相が生じやすいことに起因する。このようなHAZの靭性劣化は、鋼材の強度が増加するにしたがい、顕著となり、とくに、TS590MPa級鋼材で問題となることが多い。
このような問題に対し、例えば特許文献1には、C:0.05〜0.11%、Si:0.5%以下、Mn:0.6〜1.6%を含み、P、Sを適正範囲内に調整し、さらに、Cu:0.80〜1.60%、Ni:0.30〜1.0%を含み、Nb:0.005〜0.02%、Ti:0.005〜0.025%、N:0.001〜0.004%、O:0.001〜0.006%を含む鋼を熱間圧延後、再加熱焼入れし、さらに二相域に再加熱し焼入れ、焼戻する大入熱溶接熱影響部靭性の優れた建築用低降伏比600N/mm級鋼板の製造方法が記載されている。特許文献1に記載された技術では、低Cとし、B無添加でTi酸化物を利用して大入熱溶接熱影響部靭性を向上させるとともに、二相域加熱焼入れとCuによる析出硬化を利用して、低降伏比で、600N/mm級の高強度を有する鋼板の製造が可能になるとしている。
また、特許文献2には、C:0.03〜0.15%、Si:0.05〜0.5%、Mn:0.5〜3.0%を含み、Al、P、Sを適正範囲に調整して含有し、さらに、Ti:0.004〜0.03%、B:0.0005〜0.0030%、Ca:0.0005〜0.0030%、N:0.0020〜0.0070%、O:0.0050%以下を含み、さらに、Cu:1.5%以下、Ni:2.0%以下のうちから選ばれた1種または2種を、炭素当量Ceqが0.35%以上、後述の(2)式で表わされるACRが0.3〜0.8%を満足する範囲で含む鋼素材に、熱間圧延を施し厚鋼板とし、該厚鋼板に再加熱焼入れ工程と、ついで、二相域の温度に再加熱したのち焼入れ、焼戻する、超大入熱溶接熱影響部靭性に優れる低降伏比高強度厚鋼板の製造方法が提案されている。特許文献2に記載された技術では、超大入熱溶接部靭性を向上するために、TiNを利用してHAZでのオーステナイト粒の粗大化を抑制しつつ、ACRを0.3〜0.8を満足するようにCa、O、Sを調整して、CaS上にMnSが析出した複合硫化物を析出させ、フェライト変態核として作用させ、粒内フェライトの核生成を促進させてHAZ組織の微細化を図り、超大入熱溶接部靭性を向上させるとしている。さらに、特許文献2に記載された技術では、固溶強化に有効なCu、Ni量を適正化して、二相域加熱し、焼入れる処理により、引張強さTS590MPa以上の高強度化と、80%以下の低降伏比を、超大入熱溶接HAZ靭性の劣化を招くことなく、達成できるとしている。
また、特許文献3には、C:0.05〜0.15%、Si:0.05〜0.50%、Mn:0.6〜1.6%を含み、P,S,Alを適正範囲に調整して含有し、さらに、Cu:0.1〜1.0%、Ni:0.1〜2.0%、Ti:0.005〜0.030%、B:0.0003〜0.0050%、Ca:0.0005〜0.0050%、N:0.0030〜0.0060%、O:0.0010〜0.0030%を、ACRが0.2〜0.8%、Ceqが0.47%以下となる範囲で含む鋼素材を、熱間圧延後、加速冷却を施し厚鋼板とし、さらに二相域の温度に再加熱したのち焼入れ、焼戻する、超大入熱溶接熱影響部靭性に優れる低降伏比高強度厚鋼板の製造方法が提案されている。特許文献3に記載された技術では、高温に加熱された領域におけるオーステナイト粒の粗大化抑制と、冷却時にフェライト変態を促進する変態核の微細分散が、超大入熱溶接部靭性を向上するために重要であるとして、TiNの利用と、Ca、O、Sの含有量をACRが適正範囲となるように調整して形態を最適化したCaの酸化物または硫化物を鋼中に分散して粒内フェライトの核生成を促進させてHAZ組織を微細化し、超大入熱溶接部靭性を向上させるとしている。
しかしながら、特許文献1〜3に記載された技術はいずれも、二相域熱処理を行うため、工程が複雑となり、製造期間が長期化し、生産性に問題を残している。
一方、二相域熱処理を行なうことなく、優れた超大入熱溶接部靭性と低降伏比とを両立させることができる技術が、特許文献4に記載されている。特許文献4に記載された技術は、C:0.03〜0.15%、Si:0.05〜0.50%、Mn:0.5〜2.0%を含み、P,S,Alを適正範囲に調整して含有し、さらに、Ti:0.004〜0.02%、Ca:0.0005〜0.0030%、N:0.0020〜0.0070%を、ACRが0.3〜0.8%となる範囲で含む鋼素材を、圧延終了温度をAr変態点以上とする熱間圧延を施し、1℃/s以上の冷却速度で600〜250℃の範囲まで冷却し、空冷する加速冷却を施す、超大入熱溶接熱影響部靭性に優れる低降伏比高強度厚鋼板の製造方法である。特許文献4に記載された技術では、熱間圧延条件および圧延終了後の加速冷却条件を調整して、母材厚鋼板の低降伏比化を図るとともに、Ca、O、S含有量からなる関係式であるACRを適正範囲となるように調整して、溶接時にフェライト変態核となる微細な粒子を多数生成して、HAZ組織を微細化し、超大入熱溶接熱影響部靭性を改善するとしている。
また、特許文献5には、C:0.12〜0.17%、Si:0.1〜0.5%、Mn:2%以下、Ti:0.005〜0.035%、Nb:0.005〜0.075%、N:0.002〜0.01%を含み、Ceq:0.38〜0.43%を満たすように含み、25〜500nmのTi炭窒化物を0.01〜1.0体積%と、75nm以下のNb炭窒化物を0.01〜0.8体積%とを含み、フェライト組織を2%以上を占める組織とする、引張強さ590MPa以上で大入熱溶接部靭性に優れた低降伏比高張力鋼板が記載されている。特許文献5に記載された技術では、微細なTi炭窒化物を活用して、HAZ組織を微細化しHAZ靭性を向上させ、また、微細なNb炭窒化物を活用し、Ceqを低く維持したまま母材および溶接継手部の強度を所望の値以上とし、さらにフェライト相分率を制御し、80%以下の低降伏比を確保している。
また、特許文献6には、降伏比についての言及はないが、C:0.02〜0.05%、Mn:1.0〜2.5%、Ti:0.005〜0.025%、Ni:0.2〜2.0%、Cr:0.5〜2.0%を含み、Mn、Ni、Crの特定関係式が所定の範囲内となるように調整した組成を有し、引張強さが590MPa以上で、大入熱溶接熱影響部の靭性に優れた高張力鋼板が記載されている。特許文献5に記載された技術では、焼入れ焼戻処理を施し、所定の高強度を確保するとともに、TiNを利用してHAZのγ(オーステナイト)粒を微細化し、さらにMn、Ni、Crの特定関係式を所定の範囲に調整することにより、針状MA(島状マルテンサイトともいう)の生成や、γ粒界における粗大な組織が抑制でき、さらにγ粒内の変態組織のブロックサイズを微細化して、HAZの高靭性化を達成するとしている。
特開平06-128635号公報 特開2005-68478号公報 特開2005-68519号公報 特開2003−183767号公報 特開2001−172736号公報 特開2007−126725号公報
しかしながら、特許文献4に記載された技術は、二相域熱処理を施すことはないが、引張強さTSが490MPa以上の強度を有する厚鋼板を対象としており、更なる高強度化のためには、合金元素の多量含有を必要とし、その場合、鋼板表面硬さが高くなり、表層の延性が低下し、構造体としての変形性能が低下して、耐震性が問題となる。また、特許文献5に記載された技術で製造された鋼板は、C含有量が高く、表面硬さが著しく高くなり、表層の延性が低下して、使用時の耐震性に問題を残していた。というのは、表層付近の延性が低下した鋼板では、地震等による応力負荷に際し、表層付近に亀裂が発生し、その亀裂によるノッチ効果で、鋼材(構造物)が破断に至る場合があるからである。
また、特許文献6に記載された技術では、焼入れ性を高める元素を多量含有し、焼入れ処理を施すため、表層部が高硬度化して延性が低下し、構造体としての変形性能が低下するため、また降伏比が高くなり、耐震性に問題を残していた。
本発明は、上記した従来技術の問題を解決し、二相域熱処理を用いることなく、建築構造用として好適な、引張強さTS:590MPa以上、降伏比YR:80%以下を有し、かつ表層近傍の延性低下が抑制され、構造体としての変形性能に優れ、さらに、超大入熱溶接熱影響部靭性に優れた低降伏比建築構造用厚鋼板およびその製造方法を提供することを目的とする。
なお、ここでいう「超大入熱溶接熱影響部靭性に優れた」とは、溶接入熱量が400kJ/cmを超える超大入熟溶接部のボンド部近傍の熱影響部(ボンド部から1mm)において、シャルピー衝撃試験の0℃における吸収エネルギー(vEo)が 70J以上を示す場合をいうものとする。
本発明者らは、上記した目的を達成するために、合金元素の種類とその含有量について鋭意検討した。その結果、まず、本発明では、所望の超大入熱溶接熱影響部靭性を保持させるために、Ca、O、Sを、下記式
ACR=(Ca−(0.18+130×Ca)×O)/(1.25×S)
(ここで、Ca、O、S:各元素の含有量(質量%))
で定義されるACRが0.2〜0.8の範囲内となるように調整し、さらに、Ti,Nを適量含有させ、不純物元素(?)としてNb:0.005%以下、Mo:0.01%以下と極力低減したうえで、C:0.07%以下に調整することにより、所定の熱間圧延と、熱間圧延後に途中での保持を含む二段階の加速冷却を施すことにより、二相域熱処理を施すことなく、表層硬さが280HV10以下で、引張強さTSが590MPa以上となる、超大入熱溶接熱影響部靭性に優れた低降伏比厚鋼板を安価に製造できることを知見した。
まず、本発明者らが行った、本発明の基礎となる実験結果について説明する。
質量%で、C:0.04〜0.12%を含み、さらにSi、Mn、Cu、Ni、Crを炭素当量Ceqが0.42〜0.43となるように、また、Ca、O、SをACRが0.4〜0.5となるようにそれぞれ含み、さらにTi:0.02%以下を含む組成の鋼素材に、1150℃に加熱し、圧延終了温度:850℃とする熱間圧延を施し、60mm厚の厚鋼板とし、熱間圧延終了後、60s以内に冷却を開始し、鋼板表面温度で120℃/sの冷却速度(平均)で600℃まで冷却する一次冷却と、その後、40s間保持したのち、再冷却を開始し、板厚中心部温度で8℃/sの冷却速度(平均)で、350℃となるまで、冷却する二次冷却を施した。
得られた厚鋼板について、表層の硬さ測定、表層部の引張試験、および板厚方向1/4位置の引張試験を実施した。表層の硬さ測定は、ビッカース硬さ計(荷重:10kgf(試験力:98N))を用いて、表面下0.5mm位置の硬さHVを20点測定し、その最大値をその鋼板の表層硬さHV10とした。また、表層部の引張試験は、表面下0.5〜6.5mm位置(表層)から小型丸棒引張試験片(平行部:6mmφ×24mm(GL))を採取し、引張試験を実施し、伸びElsを求め、表層の延性低下の度合を評価した。また、鋼板の板厚方向1/4位置から、JIS Z 2201の規定に準拠してJIS4号引張試験片を採取し、JIS Z 2241に準拠して引張試験を実施し、引張特性(降伏強さYS、引張強さTS)を求め、降伏比YRを算出した。
得られた結果を、C含有量との関係で図1に示す。
図1から、実験したC量範囲では、板厚方向1/4位置の引張強さTSが590MPa以上で、降伏比YRが80%以下と、所望の高強度と低降伏比が達成されている。しかし、C量が、質量%で0.07%を超えると、表層の硬さが280HV10を超えて、表層の延性Elsが30%未満と、表層の延性が低下している。図1から、表層の延性低下を抑制するためには、Cを、質量%で0.07%以下に限定する必要があることがわかる。
本発明は、かかる知見に基づき、さらに検討を加えて完成されたものである。すなわち、本発明の要旨はつぎのとおりである。
(1)質量%で、C:0.03〜O.07%、Si:0.05〜0.5%、Mn:0.6〜2.0%、P:0.020%以下、S:0.0005〜0.003%、Ti:0.005〜0.03%、B:0.0003〜0.0020%、Ca:0.0005〜0.005%、N:0.0070%以下、O:0.003%以下を含み、不純物としてMo、Nbを、Mo:0.01%以下、Nb:0.005%以下に調整し、次(1)式
Ceq=C+Mn/6+(Cu+Ni)/15+(Cr+Mo+V)/5 ‥‥(1)
(ここで、C、Mn、Cu、Ni、Cr、Mo、V:各元素の含有量(質量%))
で定義される炭素当量Ceqが0.40〜0.45%、次(2)式
ACR=(Ca−(0.18+130×Ca)×O)/(1.25×S) ‥‥(2)
(ここで、V、Ca、O、S:各元素の含有量(質量%))
で定義されるACRが0.2〜0.8を満足し、残部Feおよび不可避的不純物からなる組成と、フェライト分率が体積率で10〜40%である組織を有し、引張強さTS590MPa以上、降伏比80%以下で、表層硬さHVが280 HV10以下であることを特徴とする超大入熱溶接熱影響部靭性に優れた低降伏比建築構造用厚鋼板。
(2)(1)において、前記組成に加えてさらに、質量%で、Cu:0.5%以下、Ni:1.0%以下、Cr:0.5%以下、V:0.08%以下のうちから選ばれた1種または2種以上を含有することを特徴とする低降伏比建築構造用厚鋼板。
(3)(1)または(2)において、前記組成に加えてさらに、質量%で、Al:0.1%以下を含有することを特徴とする低降伏比建築構造用厚鋼板。
(4)(1)ないし(3)のいずれかにおいて、前記組成に加えてさらに、質量%で、Mg:0.005%以下、REM:0.02%以下のうちから選ばれた1種または2種を含有することを特徴とする低降伏比建築構造用厚鋼板。
(5)鋼素材に、加熱し熱間圧延を施す圧延工程と、該圧延工程終了後に加速冷却を施す加速冷却工程とを行う、厚鋼板の製造方法であって、前記鋼素材が、質量%で、C:0.03〜O.07%、Si:0.05〜0.5%、Mn:0.6〜2.0%、P:0.020%以下、S:0.0005〜0.003%、Ti:0.005〜0.03%、B:0.0003〜0.0020%、Ca:0.0005〜0.005%、N:0.0070%以下、O:0.003%以下を含み、不純物としてMo、Nbを、Mo:0.01%以下、Nb:0.005%以下に調整し、次(1)式
Ceq=C+Mn/6+(Cu+Ni)/15+(Cr+Mo+V)/5 ‥‥(1)
(ここで、C、Mn、Cu、Ni、Cr、Mo、V:各元素の含有量(質量%))
で定義される炭素当量Ceqが0.40〜0.45%、次(2)式
ACR=(Ca−(0.18+130×Ca)×O)/(1.25×S) ‥‥(2)
(ここで、Ca、O、S:各元素の含有量(質量%))
で定義されるACRが0.2〜0.8を満足し、残部Feおよび不可避的不純物からなる組成の鋼素材であり、前記圧延工程が、前記鋼素材を1000〜1200℃に加熱したのち、圧延終了温度をAr変態点以上とする熱間圧延を施し厚鋼板とする工程であり、前記加速冷却工程が、前記圧延工程終了後60s以内に冷却を開始する工程であり、前記冷却を、前記厚鋼板の表層部の温度で、平均冷却速度:100℃/s以上で、冷却停止温度:700℃以下まで冷却する一次冷却と、該一次冷却後、30〜180s間冷却を停止する保持と、該保持終了後、前記厚鋼板の板厚中央部の温度で、平均冷却速度が3℃/s以上で冷却停止温度:400〜200℃の範囲の温度まで冷却する二次冷却とからなる加速冷却を施す工程であり、前記加速冷却工程後、空冷することを特徴とする大入熱溶接部靭性に優れた低降伏比建築構造用厚鋼板の製造方法。
(6)鋼素材に、加熱し圧延を施す圧延工程と、該圧延工程終了後に加速冷却を施す加速冷却工程と、焼戻工程とを行う、厚鋼板の製造方法であって、前記鋼素材が、質量%で、C:0.03〜O.07%、Si:0.05〜0.5%、Mn:0.6〜2.0%、P:0.020%以下、S:0.0005〜0.003%、Ti:0.005〜0.03%、B:0.0003〜0.0020%、Ca:0.0005〜0.005%、N:0.0070%以下、O:0.003%以下を含み、不純物としてMo、Nbを、Mo:0.01%以下、Nb:0.005%以下に調整し、次(1)式
Ceq=C+Mn/6+(Cu+Ni)/15+(Cr+Mo+V)/5 ‥‥(1)
(ここで、C、Mn、Cu、Ni、Cr、Mo、V:各元素の含有量(質量%))
で定義される炭素当量Ceqが0.40〜0.45%、次(2)式
ACR=(Ca−(0.18+130×Ca)×O)/(1.25×S) ‥‥(2)
(ここで、Ca、O、S:各元素の含有量(質量%))
で定義されるACRが0.2〜0.8を満足し、残部Feおよび不可避的不純物からなる組成の鋼素材であり、前記圧延工程が、前記鋼素材を1000〜1200℃に加熱したのち、圧延終了温度をAr変態点以上とする熱間圧延を施し厚鋼板とする工程であり、前記加速冷却工程が、前記圧延工程終了後60s以内に冷却を開始する工程であり、前記冷却を、前記厚鋼板の表層部の温度で、平均冷却速度が100℃/s以上で、冷却停止温度:700℃以下となるまで冷却する一次冷却と、該一次冷却後、30〜180s間冷却を停止する保持と、該保持終了後、前記厚鋼板の板厚中央部の温度で、平均冷却速度:3℃/s以上で、冷却停止温度:400〜50℃の範囲の温度まで冷却する二次冷却とからなる加速冷却を施す工程であり、前記焼戻工程が、前記加速冷却工程を経た厚鋼板を焼戻温度:450℃以下の温度で焼戻す工程である、ことを特徴とする大入熱溶接部靭性に優れた低降伏比建築構造用厚鋼板の製造方法。
(7)(5)または(6)において、前記組成に加えてさらに、質量%で、Cu:0.5%以下、Ni:1.0%以下、Cr:0.5%以下、V:0.08%以下のうちから選ばれた1種または2種以上を含有することを特徴とする低降伏比建築構造用厚鋼板の製造方法。
(8)(5)ないし(7)のいずれかにおいて、前記組成に加えてさらに、質量%で、Al:0.1%以下を含有することを特徴とする低降伏比建築構造用厚鋼板の製造方法。
(9)(5)ないし(8)のいずれかにおいて、前記組成に加えてさらに、質量%で、Mg:0.005%以下、REM:0.02%以下のうちから選ばれた1種または2種を含有することを特徴とする低降伏比建築構造用厚鋼板の製造方法。
本発明によれば、建築構造用として好適な、引張強さTS:590MPa以上、降伏比YR:80%以下を有し、さらに表層硬さが280HV10以下で表層の延性が高く耐震性に優れ、かつ超大入熱溶接熱影響部靭性に優れた高強度厚鋼板を、安価にしかも生産性高く製造できるという、産業上格段の効果を奏する。また、本発明は、鋼構造物の大型化や、耐震性の向上、施工効率の向上などに、大きく寄与するという効果もある。
表層硬さ、表層延性、および板厚方向1/4位置の引張特性に及ぼすC量の影響を示すグラフである。
まず、本発明高強度厚鋼板の組成限定理由について説明する。以下、とくに断わらない限り、質量%は単に%と記す。
C:0.03〜O.07%
Cは、鋼の強度を増加させ、構造用鋼材として所望の高強度を確保するのに有用であり、本発明では、0.03%以上の含有を必要とする。また、Cは、表面硬さに影響する元素であり、表面硬さ(表層硬さ)の低減や表層延性の低下抑制のため、本発明では、0.07%以下に限定した。なお、好ましくは0.04〜0.07%である。
Si:0.05〜0.5%
Siは、脱酸剤として作用するとともに、母材の強度を高める元素であり、本発明では0.05%以上の含有を必要とする。一方、0.5%を超える含有は、HAZでのMAの生成が促進され、HAZ靭性の低下が著しくなる。このため、本発明ではSiは、0.05〜0.5%に限定した。なお、好ましくは0.05〜0.4%である。
Mn:0.6〜2.0%
Mnは、固溶強化により、鋼の強度を増加させる作用を有する元素であり、所望の高強度を確保するために、0.6%以上の含有を必要とする。一方、2.0%を超えて含有すると、溶接性の低下が著しくなる。このため、Mnは0.6〜2.0%の範囲に限定した。なお、好ましくは0.6〜1.6%である。
P:0.020%以下
Pは、不純物として混入する元素であり、靭性を低下させるため、本発明ではできるだけ低減することが望ましいが、0.020%程度までは許容できる。このため、Pは0.020%以下に限定した。なお、好ましくは0.015%以下である。
S:0.0005〜0.003%
Sは、Ca、Mnと結合してCaS、MnSを形成する元素である。CaSは、MnSの生成核として作用し、CaSを核として生成したMnSが、超大入熱溶接部の、旧オーステナイト粒内で粒内フェライトの生成サイトとして機能し、HAZ組織の微細化に寄与し、HAZ靱性を向上させる効果を有する。このような効果を得るためには、0.0005%以上の含有を必要とする。一方、0.003%を超える含有は、MnSの多量生成を生じ、MnS生成に起因した板厚方向(Z方向)の材質劣化を誘起させる。このため、本発明では、Sは0.0005〜0.003%に限定した。なお、好ましくは0.0010〜0.003%である。
Ti:0.005〜0.03%
Tiは、Nとの親和力が強くTiNとして析出し、HAZでのオーステナイト粒の粗大化を抑制し、あるいはフェライト変態核としてHAZの高靱化に寄与する元素である。このような効果を得るためには、0.005%以上の含有を必要とする。一方、0.03%を超える含有は、TiCが析出し、母材靭性、HAZ靭性が低下する。このため、Tiは0.005〜0.03%の範囲に限定した。なお、好ましくは、0.O08〜0.015%である。
B:0.0003〜0.0020%
Bは、少量の含有で焼入れ性を向上させ、母材強度を増加させる元素である。このような効果を得るためには、0.0003%以上の含有を必要とする。一方、0.0020%を超える含有は、溶接性を低下させる。このため、Bは0.0003〜0.0020%の範囲に限定した。なお、好ましくは0.0005〜0.0015%である。
Ca:0.0005〜0.005%
Caは、硫化物を形成し、MnSの生成核として作用する元素である。CaSを核として生成したMnSが、超大入熱溶接部の、旧オーステナイト粒内で粒内フェライトの生成サイトとして機能し、HAZ組織の微細化に寄与し、HAZ靱性を向上させる効果を有する。このような効果を得るためには、Caは0.0005%以上の含有を必要とする。一方、0.005%を超える含有は、Ca系酸化物が増加し、鋼の清浄度を低下させる。このため、Caは0.0005〜0.005%の範囲に限定した。なお、好ましくは0.0005〜0.0020%である。
N:0.0070%以下
Nは、Tiと結合しTiNを形成し、オーステナイト粒の粗大化を抑制し、あるいはフェライト変態核として、HAZの組織の微細化に有効に作用し、HAZの高靱化に寄与する。このような効果は、0.0025%以上含有することが望ましいが、0.0070%を超えると、固溶N量が増加し、HAZ靭性を低下させる。このため、Nは0.0070%以下に限定した。なお、好ましくは0.0060%以下である。
O:0.003%以下
Oは、不純物として混入する元素であり、できるだけ低減することが望ましいが、過度の低減は、溶製コストの高騰を招くため、0.0030%程度以下に限定した。0.003%を超えて含有すると、酸化物系介在物が増加し、鋼の清浄度を低下させる。なお、好ましくは0.0025%以下である。
Mo:0.01%以下、Nb:0.005%以下
Mo、Nbはいずれも、微量の含有でもHAZの焼入れ性を増大させ、HAZにおけるフェライトの生成を抑制し、HAZ組織を上部ベイナイト化し、HAZ靭性を低下させる。このため、本発明では、不可避的不純物として、できるだけ低減することが好ましく、Moは0.01%以下に、Nbは0.005%以下に調整する。
炭素当量Ceq:0.40〜0.45%
本発明では、Ceqは、次(1)式で定義されるものを使用する。なお、(1)式に記載された元素が含有されない場合には、その元素を零として計算するものとする。
Ceq=C+Mn/6+(Cu+Ni)/15+(Cr+Mo+V)/5 ‥‥(1)
(ここで、C、Mn、Cu、Ni、Cr、Mo、V:各元素の含有量(質量%))
Ceqは、所望の強度確保、超大入熱溶接HAZ靭性確保の観点から0.40〜0.45%に調整する。Ceqが、0.40未満では、所望の高強度を確保できない。一方、0.45%を超えると、HAZ靭性が低下し、所望の超大入熱溶接HAZ靭性を確保できなくなる。このため、炭素当量Ceqは0.40〜0.45%の範囲に限定した。
ACR:0.2〜0.8
ACRは、次(2)式で定義される。
ACR=(Ca−(0.18+130×Ca)×O)/(1.25×S) ‥‥(2)
(ここで、Ca、O、S:各元素の含有量(質量%))
ACRは、超大入熱溶接HAZ靭性を確保するという観点から0.2〜0.8に調整する。ACRが0.2未満では、粒内フェライトの核生成に必要なCa系硫化物の生成量が少なく、所望の超大入熱溶接HAZ靭性を確保できなくなる。一方、ACRが0.8を超えて大きくなると、Ca系硫化物が生成しても、それを核としてMnSが生成せず、粒内フェライト生成による超大入熱溶接HAZ組織の微細化が達成できないため、所望の超大入熱溶接HAZ靭性を確保できなくなる。このため、ACRは0.2〜0.8の範囲に限定した。
上記した成分が基本の成分であるが、本発明では、これら基本の組成に加えて、選択成分として、さらにCu:0.5%以下、Ni:1.0%以下、Cr:0.5%以下、V:0.08%以下のうちから選ばれた1種または2種以上、および/または、Al:0.1%以下、および/または、Mg:0.005%以下、REM:0.02%以下のうちから選ばれた1種または2種、を選択して含有してもよい。
Cu:0.5%以下、Ni:1.0%以下、Cr:0.5%以下、V:0.08%以下のうちから選ばれた1種または2種以上
Cu、Ni、Cr、Vはいずれも、鋼の強度増加に寄与する元素であり、必要に応じて選択して1種または2種以上を含有できる。
Cuは、固溶強化を介して、強度増加に有効に寄与する元素である。このような効果を得るためには、0.1%以上含有することが望ましいが、0.5%を超える含有は、熱間延性の低下、表面疵の増加など、鋼板の製造性に問題を生じる。このため、含有する場合には、Cuは0.5%以下に限定することが好ましい。
Niは、固溶強化を介して、強度増加に有効に寄与する元素である。このような効果を得るためには、0.1%以上含有することが望ましいが、高価なNiの1.0%を超える含有は、材料コストの高騰を招く。このため、含有する場合には、Niは1.0%以下に限定することが好ましい。
Crは、固溶強化を介して、強度増加に有効に寄与する元素である。このような効果を得るためには、0.1%以上含有することが望ましいが、0.5%を超える含有は、溶接性の低下を招く。このため、含有する場合には、Crは0.5%以下に限定することが好ましい。
Vは、固溶強化さらには析出強化を介して、強度増加に有効に寄与する元素である。このような効果を得るためには、0.02%以上含有することが望ましいが、0.08%を超える多量の含有は、材料コストの高騰を招く。このため、含有する場合には、Vは0.08%以下に限定することが好ましい。
Al:0.1%以下
Alは、脱酸剤として作用する元素であり、また、鋼中のNをAlNとして固定し,Nによる靭性低下や割れ発生を防止する作用も有する。このような効果を得るためには0.015%以上含有することが望ましいが、0.1%を超える多量の含有は、多量のアルミナ(介在物)を形成し鋼の清浄度を低下させる。このため、含有する場合には、Alは0.1%以下に限定することが好ましい。
Mg:0.005%以下、REM:0.02%以下のうちから選ばれた1種または2種
Mg、REMはいずれも、酸化物や硫化物を形成し、HAZの微細フェライトの生成を促進し、HAZの組織微細化に有効に寄与する元素であり、必要に応じて選択して1種または2種を含有できる。このような効果を得るためには、Mg:0.0005%以上、REM:0.0005%以上、それぞれ含有することが望ましいが、Mg:0.005%、REM:0.02%を、それぞれ超える含有は、鋼の清浄度を低下させる。このため、含有する場合には、Mg:0.005%以下、REM:0.02%以下に限定することが好ましい。
上記した成分以外の残部は、Feおよび不可避的不純物である。不可避的不純物としては、Sn:0.005%以下、Sb:0.005%以下が許容できる。
また、本発明の厚鋼板は、上記した組成を有し、フェライト分率が体積率で10〜40%である組織を有する。
フェライト分率が10%未満では、降伏比80%以下を確保できない。一方、40%を超えると、所望の高強度が確保できなくなる。このため、フェライト分率は10〜40%に限定した。なお、フェライト相以外の組織はとくに限定する必要はないが、所望の高強度を確保するという観点からは、靭性に優れた低温変態相(ベイナイト相、マルテンサイト相)とすることが好ましい。
本発明の厚鋼板は、上記した組成と上記した組織とを有し、表層硬さHVが280 HV10以下の鋼板である。表層硬さHVが280 HV10を超えると、図1に示すように表層延性が低下し、耐震性が低下するため、本発明では、表層硬さHVを280 HV10以下に限定した。なお、ビッカース硬さ計(荷重10kgf(試験力98N))を用いて、表面下0.5mm位置の硬さHVを20点測定し、その最大値をその鋼板の表層硬さHV10とする。
つぎに、本発明厚鋼板の好ましい製造方法について説明する。
本発明では、上記した組成を有する鋼素材に、加熱し熱間圧延を施す圧延工程と、該圧延工程終了後に加速冷却を施す加速冷却工程と、あるいはさらに焼戻工程を行って、所定の板厚の厚鋼板とする。
使用する鋼素材は、上記した組成を有していれば、その製造方法はとくに限定する必要はないが、上記した組成の溶鋼を、転炉、電気炉、真空溶解炉等の常用の溶製方法で溶製し、必要に応じてさらに脱酸処理や脱ガスプロセス等を経て、連続鋳造法等の鋳造法によりスラブ等の鋼素材とすることが好ましい。
圧延工程は、上記した組成の鋼素材を1000〜1200℃に加熱したのち、圧延終了温度をAr変態点以上とする熱間圧延を施し厚鋼板とする工程とする。
加熱温度:1000〜1200℃
加熱温度が1000℃未満では、圧延における変形抵抗が高くなりすぎて、厚板圧延の圧延負荷が高くなり、圧延が困難となる場合がある。一方、1200℃を超えて高温になると、組織が粗大化するため、それを引き継いだ母材(厚鋼板)の靭性が低下する。このため、加熱温度は1000〜1200℃に限定した。
圧延終了温度:Ar変態点以上
圧延終了温度がAr変態点未満では、圧延中にフェライトが生成し、微細化して、降伏比を高くする。このため、圧延終了温度はAr変態点以上に限定した。なお、好ましくは800℃以上である。
圧延工程終了後に施す、加速冷却工程は、途中に保持を含み、一次冷却と二次冷却からなる二段階冷却とする。一次冷却では、圧延工程終了後60s以内に冷却を開始し、厚鋼板の表層部の温度で、平均冷却速度が100℃/s以上で、冷却停止温度:700℃以下となるまで冷却する。
冷却開始時間:60s以内
冷却開始時間が圧延工程終了後60sを超えて遅くなると、表面近傍で粗大なフェライト相が生成し、強度が低下し、靭性の劣化が生じる。このため、冷却(一次冷却)の開始は圧延工程終了後60s以内に限定した。
一次冷却の平均冷却速度:100℃/s以上
一次冷却は、とくに表層部にフェライト相を生成させ、表層部硬さを所望の硬さ(280HV10)以下に調整することを目的とする。なお、一次冷却は、表層温度を基準として調整する。一次冷却の平均冷却速度は、得られる表層部の結晶粒径と関連し、冷却速度が速ければ速いほど、過冷オーステナイトを得やすく、得られるフェライト相の粒径も細かくなる。一次冷却の平均冷却速度が100℃/s未満では、フェライト相の粒径が5μmを超えて大きくなり、表層部の靭性が低下する。このため、一次冷却の平均冷却速度を100℃/s以上に限定した。なお、一次冷却の冷却速度の上限はとくに限定する必要はない。
一次冷却の冷却停止温度:700℃以下
一次冷却の冷却停止温度が、700℃を超えて高くなると、表層部にフェライト相の生成が見られず、所望の低い表層硬さが得られず、さらに表層の延性の改善が得られない。一次冷却の冷却停止温度を700℃以下とすることにより、その後の保持過程で表層部が復熱し、復熱過程で表層部にフェライト相が生成する。このため、一次冷却の冷却停止温度は700℃以下に限定した。
一次冷却後、本発明では30〜180s間、冷却を停止してそのまま保持し、鋼板の復熱を図る。
保持時間:30〜180s
保持時間が30s未満と短いと、復熱が不十分で、この復熱過程で表層部にフェライト相の生成が認められず、所望の低い表層硬さを確保できなくなる。一方、180sを超えて長くなると、フェライト相の成長が著しくなり、強度低下が生じる。このため、一次冷却後の保持時間は30〜180sの範囲に限定した。
一次冷却後の保持を終了したのち、二次冷却を行う。二次冷却は、所望の高強度を確保するために実施する。そのため、軟質のフェライト相の生成を所定の範囲内とし、かつ低温変態生成相の生成を促進させる冷却とする。二次冷却では、平均冷却速度:3℃/s以上で、冷却停止温度:400〜200℃または400〜50℃の範囲の温度まで冷却する。なお、二次冷却は、板厚中心部の温度で調整する。
二次冷却の平均冷却速度:3℃/s以上
二次冷却の平均冷却速度:3℃/s未満では、フェライト相の生成が促進され、しかも粗大化しやすく、所望の高強度を確保できなくなり、靭性も低下する。このため、二次冷却の平均冷却速度:3℃/s以上に限定した。
二次冷却の冷却停止温度:400〜200℃または400〜50℃
二次冷却の冷却停止温度が、400℃を超えて高温となると、所望の高強度を確保できなくなる。一方、200℃未満では、冷却時の歪等の影響で鋼板形状が乱れる場合が多い。このため、二次冷却の冷却停止温度は400〜200℃の範囲に限定した。なお、加速冷却工程後に焼戻工程を施す場合には、焼戻時に鋼板形状の矯正を行うことができるため、二次冷却の冷却停止温度はより低温まで拡大することができる。このようなことから、焼戻工程を実施する場合には、二次冷却の冷却停止温度は400〜50℃の範囲としてもよい。
加速冷却工程終了後は、空冷とする。なお、加速冷却工程終了後に、さらに焼戻工程を施しても良い。焼戻温度は450℃以下とすることが好ましい。
焼戻温度:450℃以下
焼戻温度が450℃を超えて高温となると、鋼板強度が低下し、また降伏比も上昇する。このため、焼戻温度は450℃以下に限定することが好ましい。
以下、実施例に基づいてさらに、本発明について詳細に説明する。
表1に示す組成の溶鋼を転炉、取鍋精錬で溶製し、連続鋳造法でスラブ(肉厚:250mm)とし鋼素材とした。これら鋼素材に、表2に示す条件で熱間圧延を行う圧延工程と、圧延工程後、表2に示す条件で二段階の加速冷却を行う加速冷却工程と、あるいはさらに表2に示す条件で焼戻を行う焼戻工程と、を施し、表2に示す板厚の厚鋼板とした。
得られた厚鋼板から、試験片を採取して、母材の組織観察、引張試験、硬さ試験、溶接熱影響部靭性試験を実施した。試験方法は次のとおりとした。
(1)母材の組織観察
得られた厚鋼板の板厚1/4位置から組織観察用試験片を採取し、圧延方向断面を研磨し、ナイタール液で腐食し、光学顕微鏡(倍率:400倍)または走査型電子顕微鏡(倍率:1000倍)を用いて、フェライト相等の組織を同定し、画像解析装置を用いて、各相の組織分率(体積率)を測定した。
(2)引張試験
得られた厚鋼板の板厚1/4位置から、圧延方向と直交する方向が引張方向となるように、J1S4号引張試験片を採取し、J1S Z 2241の規定に準拠して引張試験を実施し、引張特性(YS,TS)を測定し、降伏比YRを算出した。
(3)硬さ試験
得られた厚鋼板の表層部から硬さ測定用試験片を採取し、ビッカース硬さ計(荷重:10kgf(試験力:98N))を用いて、表面下0.5mm位置の硬さHVを20点測定し、その最大値をその鋼板の表層硬さHV10とした。
(4)溶接熱影響部靭性試験
得られた厚鋼板からダイヤフラム厚60mmとし、エレクトロスラグ溶接ESW(溶接入熱量:960kJ/cm)により溶接継手(ESW継手)を作製した。
得られた溶接継手から、試験片の切欠き位置をボンド部から1mm離れた位置のHAZとするVノッチ試験片を採取し,JlS Z 2242の規定に準拠して、シャルピー衝撃試験を実施し、試験温度:0℃における吸収エネルギー(vEo)を求め、超大入熱溶接HAZ靱性を評価した。なお、吸収エネルギー値は、試験片3本の平均値とした。
得られた結果を表3に示す。
Figure 2011214053
Figure 2011214053
Figure 2011214053
本発明例はいずれも、引張強さ:590 MPa以上で、降伏比:80%以下と、所望の高強度で低降伏比を有し、しかも280HV10以下の低い表層硬さを有する厚鋼板となっている。しかも、本発明例はいずれも、溶接入熱量が400kJ/cmを超える960 kJ/cmの超大入熟溶接HAZ部において、vEoが70J以上を示しており、超大入熱溶接熱影響部靭性に優れた低降伏比厚鋼板となっている。
一方、本発明の範囲を外れる比較例は、所望の強度を満足できていないか、降伏比が80%以上と高いか、表層硬さが280HV10を超えて高いか、あるいはvEoが70J未満と溶接熱影響部靭性が低下している。

Claims (9)

  1. 質量%で、
    C:0.03〜O.07%、 Si:0.05〜0.5%、
    Mn:0.6〜2.0%、 P:0.020%以下、
    S:0.0005〜0.003%、 Ti:0.005〜0.03%、
    B:0.0003〜0.0020%、 Ca:0.0005〜0.005%、
    N:0.0070%以下、 O:0.003%以下
    を含み、不純物としてMo、Nbを、Mo:0.01%以下、Nb:0.005%以下に調整し、下記(1)式で定義される炭素当量Ceqが0.40〜0.45%、下記(2)式で定義されるACRが0.2〜0.8を満足し、残部Feおよび不可避的不純物からなる組成と、フェライト分率が体積率で10〜40%である組織を有し、引張強さTS590MPa以上、降伏比80%以下で、表層硬さHVが280HV10以下であることを特徴とする超大入熱溶接熱影響部靭性に優れた低降伏比建築構造用厚鋼板。

    Ceq=C+Mn/6+(Cu+Ni)/15+(Cr+Mo+V)/5 ‥‥(1)
    ACR=(Ca−(0.18+130×Ca)×O)/(1.25×S) ‥‥(2)
    ここで、C、Mn、Cu、Ni、Cr、Mo、V、Ca、O、S:各元素の含有量(質量%)
  2. 前記組成に加えてさらに、質量%で、Cu:0.5%以下、Ni:1.0%以下、Cr:0.5%以下、V:0.08%以下のうちから選ばれた1種または2種以上を含有することを特徴とする請求項1に記載の低降伏比建築構造用厚鋼板。
  3. 前記組成に加えてさらに、質量%で、Al:0.1%以下を含有することを特徴とする請求項1または2に記載の低降伏比建築構造用厚鋼板。
  4. 前記組成に加えてさらに、質量%で、Mg:0.005%以下、REM:0.02%以下のうちから選ばれた1種または2種を含有することを特徴とする請求項1ないし3のいずれかに記載の低降伏比建築構造用厚鋼板。
  5. 鋼素材に、加熱し熱間圧延を施す圧延工程と、該圧延工程終了後に加速冷却を施す加速冷却工程とを行う、厚鋼板の製造方法であって、
    前記鋼素材が、質量%で、
    C:0.03〜O.07%、 Si:0.05〜0.5%、
    Mn:0.6〜2.0%、 P:0.020%以下、
    S:0.0005〜0.003%、 Ti:0.005〜0.03%、
    B:0.0003〜0.0020%、 Ca:0.0005〜0.005%、
    N:0.0070%以下、 O:0.003%以下
    を含み、不純物としてMo、Nbを、Mo:0.01%以下、Nb:0.005%以下に調整し、下記(1)式で定義される炭素当量Ceqが0.40〜0.45%、下記(2)式で定義されるACRが0.2〜0.8を満足し、残部Feおよび不可避的不純物からなる組成の鋼素材であり、
    前記圧延工程が、前記鋼素材を1000〜1200℃に加熱したのち、圧延終了温度をAr変態点以上とする熱間圧延を施し厚鋼板とする工程であり、
    前記加速冷却工程が、前記圧延工程終了後60s以内に冷却を開始する工程であり、前記冷却を、前記厚鋼板の表層部の温度で、平均冷却速度:100℃/s以上で、冷却停止温度:700℃以下まで冷却する一次冷却と、該一次冷却後、30〜180s間冷却を停止する保持と、該保持終了後、前記厚鋼板の板厚中央部の温度で、平均冷却速度が3℃/s以上で冷却停止温度:400〜200℃の範囲の温度まで冷却する二次冷却とからなる加速冷却を施す工程であり、前記加速冷却工程後、空冷することを特徴とする大入熱溶接部靭性に優れた低降伏比建築構造用厚鋼板の製造方法。

    Ceq=C+Mn/6+(Cu+Ni)/15+(Cr+Mo+V)/5 ‥‥(1)
    ACR=(Ca−(0.18+130×Ca)×O)/(1.25×S) ‥‥(2)
    ここで、C、Mn、Cu、Ni、Cr、Mo、V、Ca、O、S:各元素の含有量(質量%)
  6. 鋼素材に、加熱し圧延を施す圧延工程と、該圧延工程終了後に加速冷却を施す加速冷却工程と、焼戻工程とを行う、厚鋼板の製造方法であって、
    前記鋼素材が、質量%で、C:0.03〜O.07%、Si:0.05〜0.5%、Mn:0.6〜2.0%、P:0.020%以下、S:0.0005〜0.003%、Ti:0.005〜0.03%、B:0.0003〜0.0020%、Ca:0.0005〜0.005%、N:0.0070%以下、O:0.003%以下を含み、不純物としてMo、Nbを、Mo:0.01%以下、Nb:0.005%以下に調整し、下記(1)式で定義される炭素当量Ceqが0.40〜0.45%、下記(2)式で定義されるACRが0.2〜0.8を満足し、残部Feおよび不可避的不純物からなる組成の鋼素材であり、
    前記圧延工程が、前記鋼素材を1000〜1200℃に加熱したのち、圧延終了温度をAr変態点以上とする熱間圧延を施し厚鋼板とする工程であり、
    前記加速冷却工程が、前記圧延工程終了後60s以内に冷却を開始する工程であり、前記冷却を、前記厚鋼板の表層部の温度で、平均冷却速度が100℃/s以上で、冷却停止温度:700℃以下となるまで冷却する一次冷却と、該一次冷却後、30〜180s間冷却を停止する保持と、該保持終了後、前記厚鋼板の板厚中央部の温度で、平均冷却速度:3℃/s以上で、冷却停止温度:400〜50℃の範囲の温度まで冷却する二次冷却とからなる加速冷却を施す工程であり、
    前記焼戻工程が、前記加速冷却工程を経た厚鋼板を焼戻温度:450℃以下の温度で焼戻す工程である、
    ことを特徴とする大入熱溶接部靭性に優れた低降伏比建築構造用厚鋼板の製造方法。

    Ceq=C+Mn/6+(Cu+Ni)/15+(Cr+Mo+V)/5 ‥‥(1)
    ACR=(Ca−(0.18+130×Ca)×O)/(1.25×S) ‥‥(2)
    ここで、C、Mn、Cu、Ni、Cr、Mo、V、Ca、O、S:各元素の含有量(質量%)
  7. 前記組成に加えてさらに、質量%で、Cu:0.5%以下、Ni:1.0%以下、Cr:0.5%以下、V:0.08%以下のうちから選ばれた1種または2種以上を含有することを特徴とする請求項5または6に記載の低降伏比建築構造用厚鋼板の製造方法。
  8. 前記組成に加えてさらに、質量%で、Al:0.1%以下を含有することを特徴とする請求項5ないし7のいずれかに記載の低降伏比建築構造用厚鋼板の製造方法。
  9. 前記組成に加えてさらに、質量%で、Mg:0.005%以下、REM:0.02%以下のうちから選ばれた1種または2種を含有することを特徴とする請求項5ないし8のいずれかに記載の低降伏比建築構造用厚鋼板の製造方法。
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