しかしながら、上記特許文献1では、スーパーストレート型太陽電池における基材側に位置する透明導電膜についてのみ湿式成膜法を使用しており、裏面反射電極側に位置する透明導電膜については、従来から用いられてきた真空プロセスであるスパッタ法により形成されている。また、上記特許文献1に記載の透明導電膜を、裏面反射電極側に位置する透明導電膜に適用した場合、接触抵抗の上昇に伴う変換効率の低下などの不具合を生じていた。
本発明の目的は、膜に対して縦方向の接触抵抗を大幅に低減し、その結果として、太陽電池セルを構成した際に、変換効率を決める因子の一つであるフィルファクターを増大し得る、スーパーストレート型太陽電池の透明導電膜、複合膜及びその製造方法を提供することにある。
本発明の別の目的は、裏面反射率を低下させることなく、湿式塗工法を用いて形成される透明導電膜及び導電性反射膜により構成されるスーパーストレート型太陽電池の複合膜を提供することにある。
本発明の更に別の目的は、真空蒸着法やスパッタ法などの真空プロセスを可能な限り排除し、湿式塗工法を使用することでより安価にスーパーストレート型太陽電池用の透明導電膜、複合膜を製造できる方法を提供することにある。
本発明者らは、スーパーストレート型薄膜太陽電池において、塗布プロセスで得られる透明導電膜の性質を鋭意検討した結果、導電性酸化物微粒子の分散液を塗布して導電性酸化物微粒子の塗膜を形成した後、この酸化物微粒子の塗膜上にバインダ分散液を湿式塗工法を用いて含浸し焼成することにより、バインダ成分を含む第1層とこの第1層の体積の1〜30%が第1層上に形成されるバインダ成分を含まない第2層とにより透明導電膜を形成する方法では、透明導電膜と導電性反射膜の間の接触抵抗が高くなり、これが原因で太陽電池の変換効率を決める要素であるフィルファクターの低下を招くことを見出した。
そのため、本発明者らは、上記方法を改良し、透明導電膜をバインダ成分を含む第1層と、この第1層上に形成され第1層に比べバインダ成分の含有量が少ない第2層とにより構成することで、バインダ成分による導電性の阻害が抑制され、膜に対して縦方向の接触抵抗が大幅に低減することを見出し、本発明を完成した。
本発明の第1の観点は、スーパーストレート型太陽電池の光電変換層上に、導電性酸化物微粒子分散液を湿式塗工法を用いて塗布することにより、導電性酸化物微粒子の塗膜を形成した後、この導電性酸化物微粒子の塗膜上にバインダ分散液を湿式塗工法を用いて塗布することにより、バインダ成分を含浸し焼成することで形成する透明導電膜であって、光電変換層上にバインダ成分を含む第1層と、この第1層上に形成され第1層に比べバインダ成分の含有量が少ない第2層とにより構成されていることを特徴とする。
本発明の第2の観点は、第1の観点に基づく発明であって、更に導電性酸化物微粒子分散液が導電性酸化物微粒子を分散媒に分散させることで調製され、導電性酸化物微粒子の全粒子の個数基準粒度分布における頻度を100%とするとき、粒径が50nm以上の粒子の頻度が70〜100%であり、かつ粒径が200nm以上の粒子の頻度が10%以下であることを特徴とする。
本発明の第3の観点は、第1又は第2の観点に基づく発明であって、更に第2層の形成面積が第1層の面積の30〜90%であることを特徴とする。
本発明の第4の観点は、第1ないし第3の観点に基づく発明であって、更に第2層の最大膜厚が第1層の膜厚の10〜500%の範囲にあることを特徴とする。
本発明の第5の観点は、第1ないし第4の観点に基づく発明であって、更に光電変換層からの高さが50nm以上になる光電変換層と接触した導電性酸化物微粒子、若しくはそれらの凝集体のうち、第1層の上にバインダ層から抜け出した粒子で第2層が形成されることを特徴とする。
本発明の第6の観点は、第1ないし第5の観点に基づく発明であって、更に第1層と第2層を合わせた厚さが0.01〜0.5μmの範囲内となることを特徴とする。
本発明の第7の観点は、第1又は第2の観点に基づく発明であって、更に導電性酸化物微粒子分散液がシランカップリング剤、アルミカップリング剤及びチタンカップリング剤からなる群より選ばれた1種又は2種以上カップリング剤を含むことを特徴とする。
本発明の第8の観点は、第1の観点に基づく発明であって、更にバインダ分散液が加熱により硬化するポリマー型バインダ又はノンポリマー型バインダのいずれか一方又は双方を含むことを特徴とする。
本発明の第9の観点は、第8の観点に基づく発明であって、更にポリマー型バインダがアクリル樹脂、ポリカーボネート、ポリエステル、アルキッド樹脂、ポリウレタン、アクリルウレタン、ポリスチレン、ポリアセタール、ポリアミド、ポリビニルアルコール、ポリ酢酸ビニル、セルロース及びシロキサンポリマからなる群より選ばれた1種又は2種以上であることを特徴とする。
本発明の第10の観点は、第8の観点に基づく発明であって、更にポリマー型バインダがアルミニウム、シリコン、チタン、クロム、マンガン、鉄、コバルト、ニッケル、銀、銅、亜鉛、モリブデン又は錫の金属石鹸、金属錯体或いは金属アルコキシドの加水分解体を1種又は2種以上含むことを特徴とする。
本発明の第11の観点は、第8の観点に基づく発明であって、更にノンポリマー型バインダがアルコキシシラン、ハロシラン類、2−アルコキシエタノール、β−ジケトン及びアルキルアセテートからなる群より選ばれた1種又は2種以上であることを特徴とする。
本発明の第12の観点は、スーパーストレート型太陽電池の光電変換層上に第1ないし第11の観点に基づく透明導電膜が形成され、この透明導電膜上に金属ナノ粒子を含む導電性反射膜用組成物を湿式塗工法を用いて塗布し焼成することにより導電性反射膜が形成されたことを特徴とするスーパーストレート型太陽電池用の複合膜である。
本発明の第13の観点は、第12の観点に基づく発明であって、更に導電性反射膜がポリビニルピロリドン、ポリビニルピロリドンの共重合体及び水溶性セルロースからなる群より選ばれた1種又は2種以上の物質を含むことを特徴とする。
本発明の第14の観点は、第12又は第13の観点に基づく発明であって、更に導電性反射膜が膜中に含まれる金属元素中の銀の割合が75質量%以上であることを特徴とする。
本発明の第15の観点は、第12ないし第14の観点に基づく発明であって、更に導電性反射膜の厚さが0.05〜2.0μmの範囲内となることを特徴とする。
本発明の第16の観点は、第12ないし第15の観点に基づく発明であって、更に導電性反射膜が膜中に含まれる金属ナノ粒子について、粒径10〜50nmの範囲の粒子が、数平均で70%以上であることを特徴とする。
本発明の第17の観点は、第12ないし第16の観点に基づく発明であって、更に導電性反射膜が金属ナノ粒子として75質量%以上の銀ナノ粒子を含み、金属ナノ粒子は炭素骨格が炭素数1〜3の有機分子主鎖の保護剤で化学修飾され、金属ナノ粒子が一次粒径10〜100nmの範囲内の金属ナノ粒子を数平均で70%以上含有する導電性反射膜用組成物により形成されたことを特徴とする。
本発明の第18の観点は、第12ないし第17の観点に基づく発明であって、更に導電性反射膜が金、白金、パラジウム、ルテニウム、ニッケル、銅、錫、インジウム、亜鉛、鉄、クロム及びマンガンからなる群より選ばれた1種又は2種以上の混合組成又は合金組成からなる金属ナノ粒子を0.02質量%以上かつ25質量%未満含有する導電性反射膜用組成物により形成されたことを特徴とする。
本発明の第19の観点は、第12ないし第18の観点に基づく発明であって、更に導電性反射膜が分散媒として1質量%以上の水と2質量%以上のアルコール類とを含む導電性反射膜用組成物により形成されたことを特徴とする。
本発明の第20の観点は、第12ないし第18の観点に基づく発明であって、更に導電性反射膜が有機高分子、金属酸化物、金属水酸化物、有機金属化合物及びシリコーンオイルからなる群より選ばれた1種又は2種以上の添加物を含む導電性反射膜用組成物により形成されたことを特徴とする。
本発明の第21の観点は、第20の観点に基づく発明であって、更に有機高分子がポリビニルピロリドン、ポリビニルピロリドンの共重合体及び水溶性セルロースからなる群より選ばれた1種又は2種以上であることを特徴とする。
本発明の第22の観点は、第20の観点に基づく発明であって、更に金属酸化物がアルミニウム、シリコン、チタン、クロム、マンガン、鉄、コバルト、ニッケル、銀、銅、亜鉛、モリブデン、錫、インジウム及びアンチモンからなる群より選ばれた少なくとも1種を含む酸化物或いは複合酸化物であることを特徴とする。
本発明の第23の観点は、第20の観点に基づく発明であって、更に金属水酸化物がアルミニウム、シリコン、チタン、クロム、マンガン、鉄、コバルト、ニッケル、銀、銅、亜鉛、モリブデン、錫、インジウム及びアンチモンからなる群より選ばれた少なくとも1種を含む水酸化物であることを特徴とする。
本発明の第24の観点は、第20の観点に基づく発明であって、更に有機金属化合物がシリコン、チタン、クロム、マンガン、鉄、コバルト、ニッケル、銀、銅、亜鉛、モリブデン及び錫からなる群より選ばれた少なくとも1種の金属石鹸、金属錯体或いは金属アルコキシドであることを特徴とする。
本発明の第25の観点は、基材上に透明導電膜を介して積層されたスーパーストレート型太陽電池の光電変換層上に導電性酸化物微粒子分散液とバインダ分散液とを湿式塗工法により塗布して透明導電塗膜を形成した後、透明導電塗膜を有する基材を130〜400℃で焼成することにより、透明導電膜を製造する方法であって、透明導電塗膜は酸化物微粒子分散液を塗布して導電性酸化物微粒子の塗膜を形成した後、この導電性酸化物微粒子の塗膜にバインダ分散液を湿式塗工法を用いて塗布することにより、バインダ成分を含浸させて形成され、焼成により得られる透明導電膜は光電変換層上にバインダ成分を含む第1層と、この第1層上に形成され第1層に比べこのバインダ成分の含有量が少ない第2層とにより構成されたことを特徴とする。
本発明の第26の観点は、基材上に透明導電膜を介して積層されたスーパーストレート型太陽電池の光電変換層上に導電性酸化物微粒子分散液とバインダ分散液とを湿式塗工法により塗布して透明導電塗膜を形成し、この透明導電塗膜上に導電性反射膜用組成物を湿式塗工法により塗布して導電性反射塗膜を形成した後、透明導電塗膜及び導電性反射塗膜を有する基材を130〜400℃で焼成することにより、透明導電膜と導電性反射膜とからなる複合膜を製造する方法であって、透明導電塗膜は酸化物微粒子分散液を塗布して導電性酸化物微粒子の塗膜を形成した後、この導電性酸化物微粒子の塗膜にバインダ分散液を湿式塗工法を用いて塗布することにより、バインダ成分を含浸させて形成され、焼成により得られる透明導電膜は光電変換層上にバインダ成分を含む第1層と、この第1層上に形成され第1層に比べこのバインダ成分の含有量が少ない第2層とにより構成されたことを特徴とする。
本発明の第27の観点は、第25又は第26の観点に基づく発明であって、更に湿式塗工法がスプレーコーティング法、ディスペンサコーティング法、スピンコーティング法、ナイフコーティング法、スリットコーティング法、インクジェットコーティング法、スクリーン印刷法、オフセット印刷法又はダイコーティング法のいずれかであることを特徴とする。
以上述べたように、本発明によれば、スーパーストレート型太陽電池の光電変換層上に透明導電膜が形成され、透明導電膜上に導電性反射膜が形成された複合膜において、透明導電膜が導電性酸化物微粒子分散液を湿式塗工法を用いて塗布することにより、導電性酸化物微粒子の塗膜を形成した後、導電性酸化物微粒子の塗膜上にバインダ分散液を湿式塗工法を用いて塗布することにより、バインダ成分を含浸し焼成することにより、光電変換層上にバインダ成分を含む第1層と、この第1層上に形成され第1層に比べバインダ成分の含有量が少ない第2層とにより構成されるため、バインダ成分による導電性の阻害が抑制され、膜に対して縦方向の接触抵抗が大幅に低減することから、導電性酸化物微粒子とバインダ成分とを一緒に含有する組成物を塗布し焼成して形成された単一の透明導電膜を持つ複合膜に比べ、太陽電池セルを構成した際に、変換効率を決める因子の一つであるフィルファクターが増大する。
更に、真空蒸着法やスパッタ法などの真空プロセスを可能な限り排除し、湿式塗工法を使用することにより安価に複合膜を製造することができる。
次に本発明を実施するための形態を図面に基づいて説明する。
スーパーストレート型薄膜太陽電池は、一般的に、基材上に透明導電膜、光電変換層がこの順で積層され、更に光電変換層上に透明導電膜が形成され、この透明導電膜上に導電性反射膜が形成された構造を持つ。
本発明は、スーパーストレート型太陽電池の光電変換層上に、導電性酸化物微粒子分散液を湿式塗工法を用いて塗布することにより、導電性酸化物微粒子の塗膜を形成した後、この導電性酸化物微粒子の塗膜上にバインダ分散液を湿式塗工法を用いて塗布することにより、バインダ成分を含浸し焼成することで形成された透明導電膜と、透明導電膜及びこの透明導電膜上に形成された導電性反射膜の2層からなるスーパーストレート型太陽電池用の複合膜に関するものである。
図1は、本発明の透明導電膜、複合膜の断面を模式的に表した図である。本発明の透明導電膜、複合膜の特徴ある構成は、図1に示すように、透明導電膜14が光電変換層13上にバインダ成分を含む第1層14aと、この第1層14a上に形成され第1層14aに比べバインダ成分の含有量が少ない第2層14bとにより構成されているところにある。
透明導電膜がスパッタ法等の真空成膜法により形成される場合、この透明導電膜の膜の屈折率は、ターゲット材料の材質によって決まるため、スパッタ法等の真空成膜法により形成される透明導電膜では、所望の屈折率が得られ難い。
一方、湿式塗工法を用いて形成される透明導電膜の場合、一般に導電性酸化物微粒子や他の成分を混合した組成物を塗布することにより形成されるため、湿式塗工法を用いて形成される膜は組成物の成分調整により所望の低い屈折率が得られる。この透明導電膜が持つ屈折率は、1.5〜2である。低い屈折率を持つ透明導電膜は、接合する導電性反射膜に対して光学設計上の増反射効果を与えるため、湿式塗工法を用いて形成される透明導電膜と接合する導電性反射膜は、従来のスパッタ法等の真空成膜法により形成された高い屈折率の透明導電膜と接合する導電性反射膜よりも高い反射率が得られる。
湿式塗工法を用いて形成される従来の透明導電膜には、例えば、導電性酸化物微粒子とバインダ成分とを一緒に含有させて調製した組成物を塗布し、その後焼成して形成した単一の透明導電膜が挙げられる。
一方、本発明の透明導電膜は次の方法で形成される。
先ず、光電変換層上にバインダ成分を含まない導電性酸化物微粒子分散液を湿式塗工法を用いて塗布・乾燥することにより、導電性酸化物微粒子の塗膜を形成する。後述するが、本発明で使用する導電性酸化物微粒子分散液は、分散液中に含まれる全粒子の個数基準粒度分布における頻度を100%とするとき、粒径が50nm以上の粒子の頻度が70〜100%、かつ粒径が200nm以上の粒子の頻度が10%以下となるように調製された液を用いるため、形成される導電性酸化物微粒子の塗膜は、その表面に粒径の大きな粒子を起因とする凹凸が形成される。
続いて、この導電性酸化物微粒子の塗膜上に導電性酸化物微粒子を含まないバインダ分散液を湿式塗工法を用いて塗布・乾燥する。このバインダ分散液の塗布では、焼成後にバインダ成分の含有量が少ない第2層が形成されるように、塗布するバインダ分散液中のバインダ成分の質量が、塗布した導電性酸化物微粒子の塗膜中に含まれる微粒子の総質量に対し、0.05〜0.5の質量比(塗布するバインダ分散液中のバインダ成分の質量/導電性酸化物微粒子の質量)となるように塗布量を調整して行われる。バインダ分散液の塗布量を調整することで、導電性酸化物微粒子の塗膜のうち、所定の深さまでがバインダ分散液に浸かる。そして、バインダ分散液を乾燥した後では、導電性酸化物微粒子の塗膜のうち、バインダ分散液に浸かった領域がバインダ成分によって含浸された領域となり、焼成後は第1層を構成する。また、導電性酸化物微粒子の塗膜の上方に位置する、バインダ分散液に浸からなかった領域は、乾燥後、含浸された領域に比べてバインダ成分の含有量が少ない領域となり、焼成後は第1層に比べてバインダ成分の少ない第2層を構成する。
そして、この状態で焼成することにより本発明の透明導電膜が形成される。即ち、本発明の透明導電膜14は、図1に示すように、下層が、バインダ成分を含む導電性酸化物微粒子層である第1層14aで構成される。またこの第1層の上に形成される上層が、第1層14aに比べてバインダ成分の含有量が少ない導電性酸化物微粒子層である第2層14bで構成される。第1層14aに含まれるバインダ成分を100とするとき、第2層14bに含まれるバインダ成分は質量比で1〜50である。なお、各層におけるバインダ成分含有量の測定方法は、以下の手法により求めるものである。先ず、透明導電膜を有する試料に対し、イオンビーム加工法などを用いて、厚さ数十nm程度の薄片を作製する。次に、作製した薄片サンプルをTEM(Transmission Electron Microscope、透過型電子顕微鏡)により撮影し、得られた断面の画像を評価する。更に、エネルギー分散型X線分析装置(EDX)を用いて、場所毎の元素組成を測定する。そして、その値に基づき、導電性酸化物微粒子とバインダ成分の重量比を算出する。
本発明の複合膜16では、透明導電膜14が上述のように、バインダ成分を含む第1層14a及びバインダの含有量が少ない第2層14bから構成されることによって、バインダ成分による導電性の阻害が抑制され、膜に対して縦方向の接触抵抗が大幅に低減することから、従来の導電性酸化物微粒子とバインダ成分とを一緒に含有する組成物を塗布し焼成して形成された単一の透明導電膜を持つ複合膜に比べ、太陽電池セルを構成した際に、変換効率を決める因子の一つであるフィルファクターが増大する。第2層14bの形成面積は第1層14aの面積の30〜90%となるように形成される。また、第2層14bの最大膜厚は第1層14aの膜厚の10〜500%の範囲となるように形成される。
透明導電膜14の第1層14aと第2層14bを合わせた厚さは0.01〜0.5μmであり、また導電性反射膜15の厚さは0.05〜2.0μmである。透明導電膜の厚さが下限値未満では太陽電池セルの短縮電流が低下し、上限値を越えるとフィルファクターが著しく減少する。このうち、透明導電膜の厚さは、0.05〜0.1μmが好ましい。導電性反射膜の厚さが下限値未満では、太陽電池セルの短縮電流が低下し、上限値を越えると材料の使用量が必要以上に多くなって材料が無駄になる。
透明導電膜14の形成には、ITO(Indium Tin Oxide:インジウム錫酸化物)、ATO(Antimony Tin Oxide:アンチモンドープ酸化錫)の酸化錫粉末やAl、Co、Fe、In、Sn及びTiからなる群より選ばれた1種又は2種以上の金属を含有する酸化亜鉛粉末などの導電性酸化物微粒子が好ましく用いられ、このうち、ITO、ATO、AZO(Aluminum Zinc Oxide:アルミドープ酸化亜鉛)、IZO(Indium Zinc Oxide:インジウムドープ酸化亜鉛)、TZO(Tin Zinc Oxide:スズドープ酸化亜鉛)が特に好ましい。
導電性酸化物微粒子の塗膜は、上記導電性酸化物微粒子を分散媒に分散させた分散液を調製し、この分散液を湿式塗工法を用いて塗布して形成する。この導電性酸化物微粒子の分散液の調製において、分散時間などの分散条件を調整して、分散液中に二次粒子径の大きな粒子が含まれる構成とする。具体的には、分散液中に含まれる全粒子の個数基準粒度分布における頻度を100%とするとき、粒径が50nm以上の粒子の頻度が70〜100%、かつ粒径が200nm以上の粒子の頻度が10%以下となるように調整する。分散液中の粒径が50nm以上の粒子の頻度を70〜100%としたのは、70%未満だと導電性酸化物微粒子の塗膜表面に形成される凹凸が十分とは言えず、焼成後、第2層14bの形成が不十分となり、膜に対して縦方向の接触抵抗を低減することができないためである。また、粒径が200nm以上の粒子の頻度を10%以下としたのは、10%を越えると粒子が沈降し易くなるため、導電性酸化物微粒子分散液の取扱い並びに使用が困難となるためである。
この分散媒には、水の他、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、ブタノールなどのアルコール類、アセトン、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン、イソホロンなどのケトン類、トルエン、キシレン、ヘキサン、シクロヘキサンなどの炭化水素類、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミドなどのアミド類、ジメチルスルホキシドなどのスルホキシド類やエチレングリコールなどのグリコール類、エチルセロソルブなどのグリコールエーテル類などが挙げられる。導電性酸化物微粒子分散液中の分散媒の含有割合は良好な成膜性を得るために、50〜99.99質量%の範囲内であることが好ましい。導電性酸化物微粒子分散液中の導電性酸化物微粒子の含有割合は、0.01〜50質量%の範囲内であることが好ましい。導電性酸化物微粒子の含有割合を上記範囲内としたのは、下限値未満では均一な膜を形成し難いため好ましくなく、上限値を越えると厚さが500nm以下の透明導電膜を形成するのが困難になるため好ましくないからである。
導電性酸化物微粒子分散液には、使用する他の成分に応じてカップリング剤を加えるのが好ましい。それは、導電性微粒子とバインダの結合性や、透明導電膜と光電変換層或いは導電性反射膜との密着性向上のためである。カップリング剤としては、シランカップリング剤、アルミカップリング剤及びチタンカップリング剤などが挙げられる。
シランカップリング剤としては、ビニルトリエトキシキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシランなどが挙げられる。アルミカップリング剤としては、次の式(1)で示されるアセトアルコキシ基を含有するアルミカップリング剤が挙げられる。また、チタンカップリング剤としては、次の式(2)〜(4)で示されるジアルキルパイロホスファイト基を有するチタンカップリング剤、また、次の式(5)で示されるジアルキルホスファイト基を有するチタンカップリング剤が挙げられる。
バインダ分散液は、バインダ成分として、加熱により硬化するポリマー型バインダ又はノンポリマー型バインダのいずれか一方又は双方を含む。ポリマー型バインダとしては、アクリル樹脂、ポリカーボネート、ポリエステル、アルキッド樹脂、ポリウレタン、アクリルウレタン、ポリスチレン、ポリアセタール、ポリアミド、ポリビニルアルコール、ポリ酢酸ビニル、セルロース及びシロキサンポリマなどが挙げられる。またポリマー型バインダには、アルミニウム、シリコン、チタン、クロム、マンガン、鉄、コバルト、ニッケル、銀、銅、亜鉛、モリブデン又は錫の金属石鹸、金属錯体或いは金属アルコキシドの加水分解体が含まれることが好ましい。ノンポリマー型バインダとしては、金属石鹸、金属錯体、金属アルコキシド、ハロシラン類、2−アルコキシエタノール、β−ジケトン及びアルキルアセテートなどが挙げられる。また金属石鹸、金属錯体又は金属アルコキシドに含まれる金属は、アルミニウム、シリコン、チタン、クロム、マンガン、鉄、コバルト、ニッケル、銀、銅、亜鉛、モリブデン、錫、インジウム又はアンチモンである。これらポリマー型バインダ、ノンポリマー型バインダが、加熱により硬化することで、低温での低いヘイズ率及び体積抵抗率の透明導電膜の形成を可能とする。バインダ分散液中のこれらバインダの含有割合は、0.01〜50質量%の範囲内が好ましく、0.5〜20質量%の範囲内が特に好ましい。
バインダ分散液の調製には、導電性酸化物微粒子分散液の調製で用いた分散媒と同種の分散媒を使用するのが好ましい。分散媒の含有割合は均一な膜を形成するために、50〜99.99質量%の範囲内であることが好ましい。
また、使用する成分に応じて、低抵抗化剤や水溶性セルロース誘導体などを加えることが好ましい。低抵抗化剤としては、コバルト、鉄、インジウム、ニッケル、鉛、錫、チタン及び亜鉛の鉱酸塩及び有機酸塩からなる群より選ばれた1種又は2種以上が好ましい。例えば、酢酸ニッケルと塩化第二鉄の混合物、ナフテン酸亜鉛、オクチル酸錫と塩化アンチモンの混合物、硝酸インジウムと酢酸鉛の混合物、アセチル酢酸チタンとオクチル酸コバルトの混合物などが挙げられる。これら低抵抗化剤の含有割合は0.1〜10質量%が好ましい。また、水溶性セルロース誘導体の添加により、形成される透明導電膜における透明性も向上する。水溶性セルロース誘導体としては、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロースなどが挙げられる。水溶性セルロース誘導体の添加量は、0.1〜10質量%の範囲内が好ましい。
また、導電性反射膜15は、上記透明導電膜14上に、金属ナノ粒子を含む導電性反射膜用組成物を湿式塗工法を用いて塗布することにより形成される。そのため、形成される導電性反射膜は良好な成膜性及び高い拡散反射率が得られることを特徴とする。ガラス等の基材上に成膜する場合には、スパッタ法等の真空蒸着法で成膜した場合でも、良好な成膜性及び高い拡散反射率は得られるが、湿式塗工法を用いて形成された透明導電膜上にスパッタ法等の真空蒸着法で成膜すると、透明導電膜中に残留した溶剤が、成膜された導電性反射膜に悪影響を与えるため、高い反射率を持つ導電性反射膜を成膜することが困難である。
このように、本発明の複合膜では、湿式塗工法を用いて形成された低い屈折率を持つ透明導電膜が与える光学設計上の増反射効果と、導電性反射膜が持つ良好な成膜性及び高い拡散反射率により、高い反射率が得られる。
また、導電性反射膜15の光電変換層13側の接触面に出現する気孔の平均直径が100nm以下、気孔が位置する平均深さが100nm以下、気孔の数密度が30個/μm2以下であることを特徴とする。透過率が98%以上の透光性基材を用いた際に、波長500〜1200nmの範囲において、理論反射率の80%以上の高い拡散反射率を達成できる導電性反射膜となる。この波長500〜1200nmの範囲は、多結晶シリコンを光電変換層とした場合の、変換可能な波長をほぼ網羅する。気孔の平均直径を100nm以下としたのは、一般に反射スペクトルは長波長側で反射率が高く、短波長側で低い項目を示すが、気孔の平均直径が100nmを越えると反射率が低下しはじめる変曲点が、より長波長側へシフトすることにより、良好な反射率が得られないからである。また気孔の平均深さを100nm以下としたのは、気孔の平均深さが100nmを越えると、反射スペクトルの勾配(傾き)が大きくなり、良好な反射率が得られないからである。気孔の数密度を30個/μm2以下としたのは、気孔の数密度が30個/μm2を越えると、長波長側の反射率が低下し、良好な反射率が得られないからである。
なお、上記気孔の平均直径、気孔が位置する平均深さ及び気孔の数密度は次のようにして求める。
透明導電膜から導電性反射膜を引き剥がすことができる場合、透明導電膜から引き剥がして露出した導電性反射膜の透明導電膜との接触面だった面に対し、原子間力顕微鏡(AFM)を用いて、この面の凹凸像を観察する。そして、観察した凹凸像を解析し、膜表面に現れる空孔の平均直径、平均深さ及び数密度を評価する。なお、平均直径は、各開口部の最長の径と最短の径をそれぞれ測定し、平均値を算出することで求める。また、平均深さは各開口部の最大深さを測定し、その平均値を算出することで求める。更に数密度は観察像内の対象となる空孔数を全て数え、これを観察像の面積で除することで求める。
また、導電性反射膜を引き剥がすことができない場合、収束イオンビーム(FIB)法で加工して断面を露出させ、この断面を走査型電子顕微鏡(SEM)で観察することで、金属膜/基材側の界面の形状を観察する。そして、この界面像について、開口部の直径、平均深さ及び数密度を評価することにより行う。
また、複合膜を構成する導電性反射膜が、ポリビニルピロリドン、ポリビニルピロリドンの共重合体及び水溶性セルロースからなる群より選ばれた1種又は2種以上の物質を含んでいるため、導電性反射膜の透明導電膜側の接触面に出現する気孔の平均直径を100nm以下、平均深さを100nm以下、また数密度を30個/μm2以下に容易にすることができる。また、この複合膜を構成する導電性反射膜において、膜中に含まれる金属元素中の銀の割合が75質量%以上であるため、高い反射率が得られる。75質量%未満ではこの組成物を用いて形成された導電性反射膜の反射率が低下する傾向にある。また、複合膜を構成する導電性反射膜の厚さが0.05〜2.0μmであるため、太陽電池に必要な電極の表面抵抗値が得られる。更に、複合膜を構成する導電性反射膜が膜中に含まれる金属ナノ粒子について、粒径10〜50nmの範囲の粒子が、数平均で70%以上であるため、良好な導電性及び高い反射率が得られる。
本発明の複合膜における導電性反射膜を形成する際に用いられる導電性反射膜用組成物は、金属ナノ粒子が分散媒に分散した組成物である。上記金属ナノ粒子は75質量%以上、好ましくは80質量%以上の銀ナノ粒子を含有する。銀ナノ粒子の含有量を全ての金属ナノ粒子100質量%に対して75質量%以上の範囲に限定したのは、75質量%未満ではこの組成物を用いて形成される導電性反射膜の反射率が低下してしまうからである。また銀ナノ粒子は炭素骨格が炭素数1〜3の有機分子主鎖の保護剤で化学修飾される。
金属ナノ粒子を化学修飾する保護剤の有機分子主鎖の炭素骨格の炭素数を1〜3の範囲に限定したのは、炭素数が4以上であると焼成時の熱により保護剤が脱離或いは分解(分離・燃焼)し難く、上記膜内に有機残渣が多く残り、変質又は劣化して導電性反射膜の導電性及び反射率が低下してしまうからである。
銀ナノ粒子は一次粒径10〜50nmの範囲内の銀ナノ粒子を数平均で70%以上、好ましくは75%以上含有する。一次粒径10〜50nmの範囲内の金属ナノ粒子の含有量を、数平均で全ての金属ナノ粒子100%に対して70%以上の範囲に限定したのは、70%未満では金属ナノ粒子の比表面積が増大して有機物の占める割合が大きくなり、焼成時の熱により脱離或いは分解(分離・燃焼)し易い有機分子であっても、この有機分子の占める割合が多いため、膜内に有機残渣が多く残り、この残渣が変質又は劣化して導電性反射膜の導電性及び反射率が低下したり、或いは金属ナノ粒子の粒度分布が広くなり導電性反射膜の密度が低下し易くなって、導電性反射膜の導電性及び反射率が低下してしまうからである。更に上記金属ナノ粒子の一次粒径を10〜50nmの範囲内したのは、統計的手法より一次粒径が10〜50nmの範囲内にある金属ナノ粒子が経時安定性(経年安定性)と相関しているからである。なお、本発明で金属ナノ粒子の一次粒径及び数平均の測定方法は、以下の手法により求めるものである。先ず、得られた金属ナノ粒子をTEMにより約50万倍程度の倍率で撮影する。次いで、得られた画像から金属ナノ粒子200個について一次粒径を測定し、この測定結果をもとに粒径分布を作成する。次に、作成した粒径分布から、一次粒径10〜50nmの範囲内の金属ナノ粒子が全金属ナノ粒子で占める個数割合を求める。
一方、銀ナノ粒子以外の金属ナノ粒子は、金、白金、パラジウム、ルテニウム、ニッケル、銅、錫、インジウム、亜鉛、鉄、クロム及びマンガンからなる群より選ばれた1種又は2種以上の混合組成又は合金組成からなる金属ナノ粒子であり、この銀ナノ粒子以外の金属ナノ粒子は全ての金属ナノ粒子100質量%に対して0.02質量%以上かつ25質量%未満、好ましくは0.03質量%〜20質量%含有する。銀ナノ粒子以外の金属ナノ粒子の含有量を全ての金属ナノ粒子100質量%に対して0.02質量%以上かつ25質量%未満の範囲に限定したのは、0.02質量%未満では特に大きな問題はないけれども、0.02〜25質量%の範囲内においては、耐候性試験(温度100℃かつ湿度50%の恒温恒湿槽に1000時間保持する試験)後の導電性反射膜の導電性及び反射率が耐候性試験前と比べて悪化しないという特徴があり、25質量%以上では焼成直後の導電性反射膜の導電性及び反射率が低下し、しかも耐候性試験後の導電性反射膜が耐候性試験前の導電性反射膜より導電性及び反射率が低下してしまうからである。
また、導電性反射膜用組成物は、有機高分子、金属酸化物、金属水酸化物、有機金属化合物及びシリコーンオイルからなる群より選ばれた1種又は2種以上の添加物を含む。添加物として組成物中に含まれる金属酸化物、金属水酸化物、有機金属化合物又はシリコーンオイルにより、透明導電膜との化学的な結合又はアンカー効果の増大、或いは焼成工程における金属ナノ粒子と透明導電膜との濡れ性の改善により、導電性を損なうことなく、透明導電膜との密着性を向上させることができる。
上記金属酸化物等が含まれない組成物を用いて導電性反射膜を形成すると、形成した導電性反射膜の表面粗さが大きくなるが、導電性反射膜表面の凹凸形状には光電変換効率を最適化する条件があるとされており、単に表面粗さが大きいだけでは、光電変換効率に優れた導電性反射膜表面を形成することはできない。本発明の組成物のように、金属酸化物等の種類、濃度等を調整することで、最適化された表面粗さの表面を形成することが可能となる。
添加物の含有量は金属ナノ粒子を構成する銀ナノ粒子の質量の0.1〜20%、好ましくは0.2〜10%である。添加物の含有量が0.1%未満では平均直径の大きな気孔が出現したり、気孔の密度が高くなるおそれがある。添加物の含有量が20%を越えると形成した導電性反射膜の導電性に悪影響を及ぼし、体積抵抗率が2×10-5Ω・cmを越える不具合を生じる。
添加物として使用する有機高分子としては、ポリビニルピロリドン(Polyvinylpyrrolidone;以下、PVPという。)、PVPの共重合体及び水溶性セルロースからなる群より選ばれた1種又は2種以上が使用される。具体的には、PVPの共重合体としては、PVP−メタクリレート共重合体、PVP−スチレン共重合体、PVP−酢酸ビニル共重合体等が挙げられる。また水溶性セルロースとしては、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、メチルセルロース、ヒドロキシエチルメチルセルロース等のセルロースエーテルが挙げられる。
添加物として使用する金属酸化物としては、アルミニウム、シリコン、チタン、クロム、マンガン、鉄、コバルト、ニッケル、銀、銅、亜鉛、モリブデン、錫、インジウム及びアンチモンからなる群より選ばれた少なくとも1種を含む酸化物或いは複合酸化物が挙げられる。複合酸化物とは具体的にはITO、ATO、IZO等である。
添加物として使用する金属水酸化物としては、アルミニウム、シリコン、チタン、クロム、マンガン、鉄、コバルト、ニッケル、銀、銅、亜鉛、モリブデン、錫、インジウム及びアンチモンからなる群より選ばれた少なくとも1種を含む水酸化物が挙げられる。
添加物として使用する有機金属化合物としては、シリコン、チタン、アルミニウム、アンチモン、インジウム、クロム、マンガン、鉄、コバルト、ニッケル、銀、銅、亜鉛、モリブデン及び錫からなる群より選ばれた少なくとも1種の金属石鹸、金属錯体或いは金属アルコキシドが挙げられる。例えば、金属石鹸は、酢酸クロム、ギ酸マンガン、クエン酸鉄、ギ酸コバルト、酢酸ニッケル、クエン酸銀、酢酸銅、クエン酸銅、酢酸錫、酢酸亜鉛、シュウ酸亜鉛、酢酸モリブデン等が挙げられる。また金属錯体はアセチルアセトン亜鉛錯体、アセチルアセトンクロム錯体、アセチルアセトンニッケル錯体等が挙げられる。また金属アルコキシドはチタニウムイソプロポキシド、メチルシリケート、イソアナトプロピルトリメトキシシラン、アミノプロピルトリメトキシシラン等が挙げられる。
添加物として使用するシリコーンオイルとしてはストレートシリコーンオイル並びに変性シリコーンオイルの双方を用いることができる。変性シリコーンオイルは更にポリシロキサンの側鎖の一部に有機基を導入したもの(側鎖型)、ポリシロキサンの両末端に有機基を導入したもの(両末端型)、ポリシロキサンの両末端のうちのどちらか一方に有機基を導入したもの(片末端型)並びにポリシロキサンの側鎖の一部と両末端に有機基を導入したもの(側鎖両末端型)を用いることができる。変性シリコーンオイルには反応性シリコーンオイルと非反応性シリコーンオイルとがあるが、その双方の種類ともに本発明の添加物として使用することができる。なお、反応性シリコーンオイルとは、アミノ変性、エポキシ変性、カルボキシ変性、カルビノール変性、メルカプト変性、並びに異種官能基変性(エポキシ基、アミノ基、ポリエーテル基)を示し、非反応性シリコーンオイルとは、ポリエーテル変性、メチルスチリル基変性、アルキル変性、高級脂肪酸エステル変性、フッ素変性、並びに親水特殊変性を示す。
導電性反射膜用組成物を構成する分散媒は、アルコール類、或いはアルコール類含有水溶液からなることが好適である。分散媒として使用するアルコール類としては、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、エチレングリコール、プロピレングリコール、ジエチレングリコール、グリセロール、イソボニルヘキサノール及びエリトリトールからなる群より選ばれた1種又は2種以上が挙げられる。アルコール類含有水溶液は、全ての分散媒100質量%に対して、1質量%以上、好ましくは2質量%以上の水と、2質量%以上、好ましくは3質量%以上のアルコール類とを含有することが好適である。例えば、分散媒が水及びアルコール類のみからなる場合、水を2質量%含有するときはアルコール類を98質量%含有し、アルコール類を2質量%含有するときは水を98質量%含有する。水の含有量を全ての分散媒100質量%に対して1質量%以上の範囲にしたのは、1質量%未満では、導電性反射膜用組成物を湿式塗工法により塗工して得られた膜を低温で焼結し難く、また焼成後の膜の導電性と反射率が低下してしまい、アルコール類の含有量を全ての分散媒100質量%に対して2質量%以上の範囲にしたのは、2質量%未満では、上記と同様に組成物を湿式塗工法により塗工して得られた膜を低温で焼結し難く、また焼成後の電極の導電性と反射率が低下してしまうからである。
更に分散媒、即ち金属ナノ粒子表面に化学修飾している保護分子は、水酸基(−OH)又はカルボニル基(−C=O)のいずれか一方又は双方を含有することが好ましい。水酸基(−OH)が銀ナノ粒子等の金属ナノ粒子を化学修飾する保護剤に含有されると、組成物の分散安定性に優れ、塗膜の低温焼結にも効果的な作用があり、カルボニル基(−C=O)が銀ナノ粒子等の金属ナノ粒子を化学修飾する保護剤に含有されると、上記と同様に組成物の分散安定性に優れ、塗膜の低温焼結にも効果的な作用がある。
使用する導電性反射膜用組成物を製造する方法は以下の通りである。
(a) 銀ナノ粒子を化学修飾する保護剤の有機分子主鎖の炭素骨格の炭素数を3とする場合
先ず硝酸銀を脱イオン水等の水に溶解して金属塩水溶液を調製する。一方、クエン酸ナトリウムを脱イオン水等の水に溶解させて得られた濃度10〜40%のクエン酸ナトリウム水溶液に、窒素ガス等の不活性ガスの気流中で粒状又は粉状の硫酸第一鉄を直接加えて溶解させ、クエン酸イオンと第一鉄イオンを3:2のモル比で含有する還元剤水溶液を調製する。次に上記不活性ガス気流中で上記還元剤水溶液を撹拌しながら、この還元剤水溶液に上記金属塩水溶液を滴下して混合する。ここで、金属塩水溶液の添加量は還元剤水溶液の量の1/10以下になるように、各溶液の濃度を調整することで、室温の金属塩水溶液を滴下しても反応温度が30〜60℃に保持されるようにすることが好ましい。また上記両水溶液の混合比は、還元剤として加えられる第一鉄イオンの当量が、金属イオンの当量の3倍となるように、すなわち、(金属塩水溶液中の金属イオンのモル数)×(金属イオンの価数)=3×(還元剤水溶液中の第一鉄イオン)の式を満たすように調製する。金属塩水溶液の滴下が終了した後、混合液の撹拌を更に10〜300分間続けて金属コロイドからなる分散液を調製する。この分散液を室温で放置し、沈降した金属ナノ粒子の凝集物をデカンテーションや遠心分離法等により分離した後、この分離物に脱イオン水等の水を加えて分散体とし、限外ろ過により脱塩処理し、更に引き続いてアルコール類で置換洗浄して、金属(銀)の含有量を2.5〜50質量%にする。その後、遠心分離機を用いこの遠心分離機の遠心力を調整して粗粒子を分離することにより、銀ナノ粒子が一次粒径10〜50nmの範囲内の銀ナノ粒子を数平均で70%以上含有するように調製する、即ち数平均で全ての銀ナノ粒子100%に対する一次粒径10〜50nmの範囲内の銀ナノ粒子の占める割合が70%以上になるように調整する。これにより銀ナノ粒子を化学修飾する保護剤の有機分子主鎖の炭素骨格の炭素数が3である分散体が得られる。
続いて、得られた分散体を分散体100質量%に対する最終的な金属含有量(銀含有量)が2.5〜95質量%の範囲内となるように調整する。また、分散媒をアルコール類含有水溶液とする場合には、溶媒の水及びアルコール類をそれぞれ1%以上及び2%以上にそれぞれ調整することが好ましい。また、組成物中に添加物を更に含ませる場合には、分散体に有機高分子、金属酸化物、金属水酸化物、有機金属化合物及びシリコーンオイルからなる群より選ばれた1種又は2種以上の添加物を所望の割合で添加することにより行われる。添加物の含有量は、得られる組成物100質量%に対して0.1〜20質量%の範囲内となるように調整する。これにより炭素骨格の炭素数が3である有機分子主鎖の保護剤で化学修飾された銀ナノ粒子が分散媒に分散した組成物が得られる。
(b) 銀ナノ粒子を化学修飾する保護剤の有機分子主鎖の炭素骨格の炭素数を2とする場合
還元剤水溶液を調製するときに用いたクエン酸ナトリウムをりんご酸ナトリウムに替えること以外は上記(a)と同様にして分散体を調製する。これにより銀ナノ粒子を化学修飾する有機分子主鎖の炭素骨格の炭素数が2である分散体が得られる。
(c) 銀ナノ粒子を化学修飾する保護剤の有機分子主鎖の炭素骨格の炭素数を1とする場合
還元剤水溶液を調製するときに用いたクエン酸ナトリウムをグリコール酸ナトリウムに替えること以外は上記(a)と同様にして分散体を調製する。これにより銀ナノ粒子を化学修飾する有機分子主鎖の炭素骨格の炭素数が1である分散体が得られる。
(d) 銀ナノ粒子以外の金属ナノ粒子を化学修飾する保護剤の有機分子主鎖の炭素骨格の炭素数を3とする場合
銀ナノ粒子以外の金属ナノ粒子を構成する金属としては、金、白金、パラジウム、ルテニウム、ニッケル、銅、錫、インジウム、亜鉛、鉄、クロム及びマンガンが挙げられる。金属塩水溶液を調製するときに用いた硝酸銀を、塩化金酸、塩化白金酸、硝酸パラジウム、三塩化ルテニウム、塩化ニッケル、硝酸第一銅、二塩化錫、硝酸インジウム、塩化亜鉛、硫酸鉄、硫酸クロム又は硫酸マンガンに替えること以外は上記(a)と同様にして分散体を調製する。これにより銀ナノ粒子以外の金属ナノ粒子を化学修飾する保護剤の有機分子主鎖の炭素骨格の炭素数が3である分散体が得られる。
なお、銀ナノ粒子以外の金属ナノ粒子を化学修飾する保護剤の有機分子主鎖の炭素骨格の炭素数を1や2とする場合、金属塩水溶液を調製するときに用いた硝酸銀を、上記種類の金属塩に替えること以外は上記(b)や上記(c)と同様にして分散体を調製する。これにより、銀ナノ粒子以外の金属ナノ粒子を化学修飾する保護剤の有機分子主鎖の炭素骨格の炭素数が1や2である分散体が得られる。
金属ナノ粒子として、銀ナノ粒子とともに、銀ナノ粒子以外の金属ナノ粒子を含有させる場合には、例えば、上記(a)の方法で製造した銀ナノ粒子を含む分散体を第1分散体とし、上記(d)の方法で製造した銀ナノ粒子以外の金属ナノ粒子を含む分散体を第2分散体とすると、75質量%以上の第1分散体と25質量%未満の第2分散体とを第1及び第2分散体の合計含有量が100質量%となるように混合する。なお、第1分散体は、上記(a)の方法で製造した銀ナノ粒子を含む分散体に留まらず、上記(b)の方法で製造した銀ナノ粒子を含む分散体や上記(c)の方法で製造した銀ナノ粒子を含む分散体を使用しても良い。
次に、本発明の複合膜の製造方法について説明する。
本発明の製造方法では、図2に示すように、先ず、基材上に透明導電膜を介して積層されたスーパーストレート型太陽電池の光電変換層13上に、導電性酸化物微粒子を分散媒に分散させ、液中の粒子の粒度分布を調整した上記導電性酸化物微粒子分散液を湿式塗工法により塗布・乾燥して導電性酸化物微粒子の塗膜24aを形成する。ここでの塗布は焼成後の第1層及び第2層を合わせた厚さが0.01〜0.5μm、好ましくは0.05〜0.1μmの厚さとなるように塗布する。この塗膜24aの乾燥は、温度20〜120℃、好ましくは25〜60℃で1〜30分間、好ましくは2〜10分間保持することにより行われる。形成した導電性酸化物微粒子の塗膜24aは、その表面に粒径の大きな粒子を起因とする凹凸が形成される。
次に、導電性酸化物微粒子の塗膜24a上に、上記バインダ分散液を湿式塗工法を用いて塗布・乾燥することにより、バインダ成分を導電性酸化物微粒子の塗膜に含浸させて透明導電塗膜24を形成する。ここでの塗布は、焼成後にバインダ成分の含有量が少ない第2層が形成されるように、塗布するバインダ分散液中のバインダ成分の質量が、塗布した導電性酸化物微粒子の塗膜中に含まれる微粒子の総質量に対し、0.05〜0.5の質量比(塗布するバインダ分散液中のバインダ成分の質量/導電性酸化物微粒子の質量)となるように塗布量を調整して行われる。なお、質量比を上記範囲としたのは、下限値未満では十分な密着性が得られ難く、上限値を越えると表面抵抗が増大し易いためである。
このようにバインダ分散液の塗布量を調整することで、導電性酸化物微粒子の塗膜24aのうち、所定の深さまでがバインダ分散液に浸かる。そして、バインダ分散液を乾燥した後では、導電性酸化物微粒子の塗膜24aのうち、バインダ分散液に浸かった領域がバインダ成分によって含浸された領域24bとなり、焼成後は第1層を構成する。また、導電性酸化物微粒子の塗膜24aの上方に位置する、バインダ分散液に浸からなかった領域は、乾燥後、含浸された領域24bに比べてバインダ成分の含有量が少ない領域24cとなり、焼成後は第1層に比べてバインダ成分の少ない第2層を構成する。このバインダ分散液の乾燥は、温度20〜120℃、好ましくは25〜60℃で1〜30分間、好ましくは2〜10分間保持することにより行われる。
次いで、上記導電性反射膜用組成物を透明導電塗膜24上に湿式塗工法により塗布・乾燥して導電性反射塗膜25を形成する。ここでの塗布は焼成後の厚さが0.05〜2.0μm、好ましくは0.1〜1.5μmの厚さとなるようにする。この塗膜の乾燥は、温度20〜120℃、好ましくは25〜60℃で1〜30分間、好ましくは2〜10分間保持することにより行われる。
本発明により行われる湿式塗工法は、スプレーコーティング法、ディスペンサコーティング法、スピンコーティング法、ナイフコーティング法、スリットコーティング法、インクジェットコーティング法、スクリーン印刷法、オフセット印刷法又はダイコーティング法のいずれかであることが特に好ましいが、これに限られるものではなく、あらゆる方法を利用できる。
スプレーコーティング法は分散体を圧縮エアにより霧状にして基材に塗布したり、或いは分散体自体を加圧し霧状にして基材に塗布する方法であり、ディスペンサコーティング法は例えば分散体を注射器に入れこの注射器のピストンを押すことにより注射器先端の微細ノズルから分散体を吐出させて基材に塗布する方法である。スピンコーティング法は分散体を回転している基材上に滴下し、この滴下した分散体をその遠心力により基材周縁に拡げる方法であり、ナイフコーティング法はナイフの先端と所定の隙間をあけた基材を水平方向に移動可能に設け、このナイフより上流側の基材上に分散体を供給して基材を下流側に向って水平移動させる方法である。スリットコーティング法は分散体を狭いスリットから流出させて基材上に塗布する方法であり、インクジェットコーティング法は市販のインクジェットプリンタのインクカートリッジに分散体を充填し、基材上にインクジェット印刷する方法である。スクリーン印刷法は、パターン指示材として紗を用い、その上に作られた版画像を通して分散体を基材に転移させる方法である。オフセット印刷法は、版に付けた分散体を直接基材に付着させず、版から一度ゴムシートに転写させ、ゴムシートから改めて基材に転移させる、インクの撥水性を利用した印刷方法である。ダイコーティング法は、ダイ内に供給された分散体をマニホールドで分配させてスリットより薄膜上に押し出し、走行する基材の表面を塗工する方法である。ダイコーティング法には、スロットコート方式やスライドコート方式、カーテンコート方式がある。
最後に、透明導電塗膜24及び導電性反射塗膜25の2層からなる複合塗膜26を有する基材を大気中若しくは窒素やアルゴンなどの不活性ガス雰囲気中で130〜400℃、好ましくは150〜350℃の温度に、5〜60分間、好ましくは15〜40分間保持して焼成する。ここで、焼成後の透明導電膜の厚さが0.01〜0.5μmとなるように導電性酸化物微粒子の分散液を塗布する理由は、0.01μm未満では太陽電池セルの短縮電流が低下し、0.5μmを越えるとフィルファクターが著しく減少するからである。また、焼成後の導電性反射膜の厚さが0.05〜2.0μmとなるように導電性反射膜用組成物を塗布する理由は、0.05μm未満では表面抵抗値が高くなりすぎて、太陽電池の電極として必要な導電性が十分に得られず、2.0μmを越えると特性上の不具合はないけれども、材料の使用量が必要以上に多くなって材料が無駄になるからである。
焼成温度を130〜400℃の範囲としたのは、130℃未満では、複合膜における透明導電膜の表面抵抗値が高くなりすぎる不具合が生じるからである。また、導電性反射膜において金属ナノ粒子同士の焼結が不十分になるとともに保護剤の焼成時の熱により脱離或いは分解(分離・燃焼)し難いため、焼成後の導電性反射膜内に有機残渣が多く残り、この残渣が変質又は劣化して導電性反射膜の導電性及び反射率が低下してしまうからである。また、400℃を越えると、低温プロセスという生産上のメリットを生かせない、即ち製造コストが増大し生産性が低下してしまう。また、特にアモルファスシリコン、微結晶シリコン、或いはこれらを用いたハイブリッド型シリコン太陽電池は比較的熱に弱く、焼成工程によって変換効率が低下するからである。
塗膜を有する基材の焼成時間を5〜60分間の範囲としたのは、焼成時間が下限値未満では、複合膜における透明導電膜の表面抵抗値が高くなりすぎる不具合が生じるからである。また、導電性反射膜において金属ナノ粒子同士の焼結が不十分になるとともに保護剤の焼成時の熱により脱離或いは分解(分離・燃焼)し難いため、焼成後の導電性反射膜内に有機残渣が多く残り、この残渣が変質又は劣化して導電性反射膜の導電性及び反射率が低下してしまうからである。焼成時間が上限値を越えると、特性には影響しないけれども、必要以上に製造コストが増大して生産性が低下してしまうからである。更に、太陽電池セルの変換効率が低下する不具合を生じるためである。
以上により、本発明の透明導電膜と導電性反射膜の2層からなる複合膜を形成することができる。このように、本発明の製造方法は、湿式塗工法を使用するため、真空蒸着法やスパッタ法などの真空プロセスを可能な限り排除でき、より安価に透明導電膜、複合膜を製造できる。また、光電変換層上にバインダ成分を含む第1層と、この第1層上に形成され第1層に比べバインダ成分の含有量が少ない第2層とにより構成されるため、バインダ成分による導電性の阻害が抑制され、膜に対して縦方向の接触抵抗が大幅に低減することから、導電性酸化物微粒子とバインダ成分とを一緒に含有する組成物を塗布し焼成して形成された単一の透明導電膜を持つ複合膜に比べ、太陽電池セルを構成した際に、変換効率を決める因子の一つであるフィルファクターが増大する。
次に本発明の実施例を比較例とともに詳しく説明する。
<実施例1〜37>
以下の表1に示す分類1〜8の成分、含有割合で導電性酸化物微粒子の分散液及びバインダ分散液を調製した。各実施例で使用した上記分散液の表1における分類番号を表2〜4に示す。
分類1では、以下の表1に示すように、導電性酸化物微粒子として平均粒径0.025μmのIZO粉末を20質量%、分散媒としてイソプロパノールを80質量%の割合で、合計量を60gとして100ccのガラス瓶中に入れ、直径0.3mmのジルコニアビーズ(ミクロハイカ、昭和シェル石油社製)100gを用いてペイントシェーカーで6時間分散することにより、導電性酸化物微粒子の分散液を調製した。調製した導電性酸化物微粒子の分散液を粒度分布測定装置(堀場製作所社製:製品名LB−550)により測定したところ、個数基準粒度分布は次の表2に示す通りとなった。また、バインダとしてノンポリマー型バインダの2−n−ブトキシエタノールと3−イソプロピル−2,4ペンタンジオンの混合液を10質量%、分散媒としてイソプロパノールを88.2質量%、低抵抗剤として硝酸インジウムと酢酸鉛の混合物(質量比1:1)を1.8質量%の割合で混合し、室温で1時間、回転速度200rpmで攪拌することにより、バインダ分散液を調製した。
分類2では、以下の表1に示すように、導電性酸化物微粒子として平均粒径0.025μmのITO粉末を7.5質量%、カップリング剤として上記式(4)に示すチタンカップリング剤を0.2質量%、分散媒としてイソプロパノール、エタノール及びN,N−ジメチルホルムアミドの混合液(質量比4:2:1)を第1混合液とし、これを92.3質量%の割合で、分類1と同様の方法により、導電性酸化物微粒子の分散液を調製した。調製した導電性酸化物微粒子の分散液を分類1と同様の方法により測定したところ、個数基準粒度分布は次の表2に示す通りとなった。また、バインダとしてノンポリマー型バインダの2,4−ペンタンジオンを10質量%、分散媒として上記第1混合液を90質量%の割合で、分類1と同様の方法により、バインダ分散液を調製した。
分類3では、以下の表1に示すように、導電性酸化物微粒子として平均粒径0.025μmのATO粉末を10質量%、カップリング剤として上記式(4)に示すチタンカップリング剤を0.02質量%、分散媒として上記第1混合液を89.98質量%の割合で、分類1と同様の方法により、導電性酸化物微粒子の分散液を調製した。調製した導電性酸化物微粒子の分散液を分類1と同様の方法により測定したところ、個数基準粒度分布は次の表2に示す通りとなった。また、バインダとしてノンポリマー型バインダの2−n−プロポキシエタノールを10質量%、分散媒として上記第1混合液を90質量%の割合で、分類1と同様の方法により、バインダ分散液を調製した。
分類4では、以下の表1に示すように、導電性酸化物微粒子として平均粒径0.025μmのAZO粉末を10質量%、カップリング剤として上記式(3)に示すチタンカップリング剤を1質量%、分散媒として上記第1混合液を89質量%の割合で、分類1と同様の方法により、導電性酸化物微粒子の分散液を調製した。調製した導電性酸化物微粒子の分散液を分類1と同様の方法により測定したところ、個数基準粒度分布は次の表2に示す通りとなった。また、バインダとして2,2−ジメチル−3,5−ヘキサンジオンとイソプロピルアセテートの混合液(質量比1:1)を10質量%、分散媒として上記第1混合液を90質量%の割合で、分類1と同様の方法により、バインダ分散液を調製した。
分類5では、以下の表1に示すように、導電性酸化物微粒子として平均粒径0.025μmのTZO粉末を5質量%、カップリング剤として上記式(5)に示すチタンカップリング剤を0.5質量%、分散媒として上記第1混合液を94.5質量%の割合で、分類1と同様の方法により、導電性酸化物微粒子の分散液を調製した。調製した導電性酸化物微粒子の分散液を分類1と同様の方法により測定したところ、個数基準粒度分布は次の表2に示す通りとなった。また、バインダとして2−イソブトキシエタノールと2−ヘキシルオキシエタノールとn−プロピルアセテートの混合液(質量比4:1:1)を10質量%、分散媒として上記第1混合液を90質量%の割合で、分類1と同様の方法により、バインダ分散液を調製した。
分類6では、先ず、平均粒径0.010μmのATO粉末を水に懸濁させてpHを7に調製し、ビーズミルで30分間処理した。この処理液に、分散媒として上記第1混合液を混合し、固形分濃度18.5%の濃度に調製して導電性酸化物微粒子の分散液を得た。調製した導電性酸化物微粒子の分散液を分類1と同様の方法により測定したところ、個数基準粒度分布は次の表2に示す通りとなった。また、バインダとしてゼラチンを5質量%、水溶性セルロース誘導体としてヒドロキシプロピルセルロースを1質量%、分散媒として水を94質量%の割合で混合し、30℃の温度で1時間、回転速度200rpmで攪拌することにより、バインダ分散液を調製した。
分類7では、以下の表1に示すように、導電性酸化物微粒子として平均粒径0.025μmのATO粉末を6質量%、分散媒としてエタノールとブタノールの混合液(質量比98:2)を第2混合液とし、カップリング剤として上記式(3)に示すチタンカップリング剤9.0質量%、これを85質量%の割合で、分類1と同様の方法により、導電性酸化物微粒子の分散液を調製した。調製した導電性酸化物微粒子の分散液を分類1と同様の方法により測定したところ、個数基準粒度分布は次の表2に示す通りとなった。また、バインダとしてSiO2結合剤10質量%、分散媒として上記第2混合液を90質量%の割合で混合することにより、バインダ分散液を調製した。なお、バインダとして用いたSiO2結合剤は500mlのガラス製の4ツ口フラスコを用い、テトラエトキシシランを140g、エチルアルコール240gを加え、攪拌しながら12N−HC11.0gを25gの純粋に溶解して一度に加え、その後80℃で6時間反応させることにより製造した。
分類8では、以下の表1に示すように、導電性酸化物微粒子として平均粒径0.025μmのITO粉末を8質量%、カップリング剤として上記式(2)に示すチタンカップリング剤を2.0質量%、分散媒として上記第2混合液を90質量%の割合で、分類1と同様の方法により、導電性酸化物微粒子の分散液を調製した。調製した導電性酸化物微粒子の分散液を分類1と同様の方法により測定したところ、個数基準粒度分布は次の表2に示す通りとなった。また、バインダとしてSiO2結合剤を10質量%、分散媒として上記第2混合液を90質量%の割合で混合することにより、バインダ分散液を調製した。
次に、以下の手順により、導電性反射膜用組成物を調製した。
先ず、硝酸銀を脱イオン水に溶解して金属塩水溶液を調製した。また、クエン酸ナトリウムを脱イオン水に溶解して濃度が26質量%のクエン酸ナトリウム水溶液を調製した。このクエン酸ナトリウム水溶液に、35℃に保持された窒素ガス気流中で粒状の硫酸第1鉄を直接加えて溶解させ、クエン酸イオンと第1鉄イオンを3:2のモル比で含有する還元剤水溶液を調製した。
次いで、上記窒素ガス気流を35℃に保持した状態で、マグネチックスターラーの攪拌子を還元剤水溶液中に入れ、攪拌子を100rpmの回転速度で回転させて、上記還元剤水溶液を攪拌しながら、この還元剤水溶液に上記金属塩水溶液を滴下して混合した。ここで、還元剤水溶液への金属塩水溶液の添加量は、還元剤水溶液の量の1/10以下になるように、各溶液の濃度を調整することで、室温の金属塩水溶液を滴下しても反応温度が40℃に保持されるようにした。また上記還元剤水溶液と金属塩水溶液との混合比は、金属塩水溶液中の金属イオンの総原子価数に対する、還元剤水溶液のクエン酸イオンと第1鉄イオンのモル比がいずれも3倍モルとなるようにした。還元剤水溶液への金属塩水溶液の滴下が終了した後、混合液の攪拌を更に15分間続けることにより、混合液内部に金属粒子を生じさせ、金属粒子が分散した金属粒子分散液を得た。金属粒子分散液のpHは5.5であり、分散液中の金属粒子の化学量論的生成量は5g/リットルであった。
得られた分散液は室温で放置することにより、分散液中の金属粒子を沈降させ、沈降した金属粒子の凝集物をデカンテーションにより分離した。分離した金属凝集物に脱イオン水を加えて分散体とし、限外濾過により脱塩処理した後、更にメタノールで置換洗浄することにより、金属(銀)の含有量を50質量%にした。その後、遠心分離機を用いこの遠心分離機の遠心力を調整して、粒径が100nmを越える比較的大きな銀粒子を分離することにより、一次粒径10〜50nmの範囲内の銀ナノ粒子を数平均で71%含有するように調整した。即ち、数平均で全ての銀ナノ粒子100%に対する一次粒径10〜50nmの範囲内の銀ナノ粒子の占める割合が71%になるように調整した。得られた銀ナノ粒子は、炭素骨格が炭素数3の有機分子主鎖の保護剤が化学修飾されていた。
次に、得られた金属ナノ粒子10質量部を水、エタノール及びメタノールを含む混合溶液90質量部に添加混合することにより分散させ、更にこの分散液に次の表3〜表5に示す添加物を表3〜表5に示す割合となるように加えることで、導電性反射膜用組成物をそれぞれ得た。なお、導電性反射膜用組成物を構成する金属ナノ粒子は、75質量%以上の銀ナノ粒子を含有している。
なお、金属ナノ粒子として、銀ナノ粒子とともに、銀ナノ粒子以外の金属ナノ粒子を含有させる場合は、上記方法により得られた銀ナノ粒子の分散液を第1分散液とし、硝酸銀に代えて、次の表3〜表5に示す銀ナノ粒子以外の金属ナノ粒子を形成する種類の金属塩を用いた以外は、上記銀ナノ粒子の製造方法と同様にして、銀ナノ粒子以外の金属ナノ粒子の分散液を調製し、この金属ナノ粒子の分散液を第2分散液とし、添加物を加える前に、次の表3〜表5に示す割合となるように、第1分散液と第2分散液を混合することで、導電性反射膜用組成物を得た。
最後に、上記調製した導電性酸化物微粒子の分散液、バインダ分散液及び導電性反射膜用組成物を用いて、スーパーストレート型太陽電池の光電変換層上に本発明の複合膜を形成し、薄膜太陽電池を形成した。具体的には、先ず、図3に示すように、テクスチャー構造を持つSnO2膜32を持つガラス基板31上に、プラズマCVD法により、光電変換層33である厚さ1.7μmのマイクロクリスタルシリコン層を成膜した。次いで、この光電変換層33上に、焼成後の厚さが0.01〜0.5μmとなるように様々な成膜方法で、上記調製した導電性酸化物微粒子の分散液を塗布した後、温度25℃で5分間乾燥して導電性酸化物微粒子の塗膜を形成した。次に、この導電性酸化物微粒子の塗膜上に、様々な成膜方法で上記調製したバインダ分散液を、導電性酸化物微粒子の塗膜の所定の深さまで含浸させ、温度25℃で5分間乾燥して透明導電塗膜を形成した。なお、バインダ分散液は、バインダ分散液中のバインダ成分の質量が、塗布した導電性酸化物微粒子の塗膜中に含まれる微粒子の総質量に対し、次の表3〜表5に示す質量比(塗布するバインダ分散液中のバインダ成分の質量/導電性酸化物微粒子の質量)となるように塗布した。続いて、この透明導電塗膜上に、上記調製した導電性反射膜用組成物を、焼成後の厚さが0.05〜2.0μmとなるように様々な成膜方法で塗布した後、温度25℃で5分間乾燥して導電性反射塗膜を形成した。そして、次の表3〜表5に示す熱処理条件で焼成することにより、光電変換層33上に透明導電膜34及び導電性反射膜35からなる複合膜を形成した。
更に、導電性反射膜35の表面にマスクパターンをおいて、マグネトロンスパッタリング法により、ITO膜36を厚さ200nmで成膜した後、レーザーパターニング法を用いて、ITO膜36が成膜されていない部分を除去し、図4の上面図に示すような薄膜太陽電池を得た。図4において、符号51が示す各領域は、薄膜太陽電池50の各セルとして機能する。なお、表3〜表5中、PVPとあるのは、Mwが360,000のポリビニルピロリドンを表す。
<比較例1>
バインダ分散液を、塗布した導電性酸化物微粒子の塗膜中に含まれる酸化物微粒子の総質量に対し、250%の質量比(塗布するバインダ液の質量/導電性酸化物微粒子の質量)で塗布した以外は実施例1と同様に、光電変換層33上に透明導電膜34及び導電性反射膜35からなる複合膜を形成し、薄膜太陽電池を得た。
<比較例2>
バインダ分散液を、塗布した導電性酸化物微粒子の塗膜中に含まれる酸化物微粒子の総質量に対し、300%の質量比(塗布するバインダ液の質量/導電性酸化物微粒子の質量)で塗布した以外は実施例1と同様に、光電変換層33上に透明導電膜34及び導電性反射膜35からなる複合膜を形成し、薄膜太陽電池を得た。
<比較例3>
バインダ分散液を、塗布した導電性酸化物微粒子の塗膜中に含まれる酸化物微粒子の総質量に対し、350%の質量比(塗布するバインダ液の質量/導電性酸化物微粒子の質量)で塗布した以外は実施例1と同様に、光電変換層33上に透明導電膜34及び導電性反射膜35からなる複合膜を形成し、薄膜太陽電池を得た。
<比較試験1>
実施例1〜37及び比較例1〜3で得られた薄膜太陽電池における透明導電膜34の膜厚を評価した。焼成後の透明導電膜の厚さをSEM(日立製作所社製の電子顕微鏡:S800)を用いて膜断面から3視野以上撮影し、その像から求められる膜厚の平均若しくは最大値から第1層に対する第2層の面積比、第1層に対する第2層の最大膜厚における膜厚比、第1層の平均膜厚、第1層と第2層の合計膜厚をそれぞれ求めた。評価結果を次の表6及び表7にそれぞれ示す。
<比較試験2>
実施例1〜37及び比較例1〜3で得られた薄膜太陽電池における直列抵抗を以下のように評価した。先ず太陽電池モジュールのライン加工後の基板にリード線を配線し、ソーラシミュレータとデジタルソースメータを用いて、AM1.5、100mW/cm2の光を照射した時のI−V(電流−電圧)特性を測定し、得られたI−V曲線について、セル面積で電流量を除することで電流密度(J)−V曲線を作成し、開放電圧(電流量0のときの電圧)近辺の傾きの逆数を直列抵抗として求めた。その結果を次の表6及び表7にそれぞれ示す。
表6及び表7から明らかなように、比較例1〜3では直列抵抗が50〜120Ω/cm
2と高い抵抗値になる結果が得られた。このような高い抵抗値では、太陽電池の変換効率を決める因子の一つであるフィルファクターの低下を招くことになる。一方、実施例1〜37では直列抵抗が9〜20Ω/cm
2と抑制した結果が得られた。この結果から、本発明のような構成とすることで、フィルファクターが増大することが確認された。