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JP2011150866A - リチウムイオン二次電池 - Google Patents

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JP2011150866A JP2010010580A JP2010010580A JP2011150866A JP 2011150866 A JP2011150866 A JP 2011150866A JP 2010010580 A JP2010010580 A JP 2010010580A JP 2010010580 A JP2010010580 A JP 2010010580A JP 2011150866 A JP2011150866 A JP 2011150866A
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Abstract

【課題】 初回充放電時の不可逆容量が小さく、充放電サイクル特性が良好で、高温での安全性に優れたリチウムイオン二次電池を提供する。
【解決手段】 正極、負極、セパレータおよび非水電解液を有するリチウムイオン二次電池であって、前記負極は、水に対する濡れ性が固液面接触角(θ)で0〜50°である黒鉛と、前記黒鉛の表面を被覆する天然多糖類またはその誘導体とを有する負極材料を含有しており、前記セパレータが、融点が120〜140℃の樹脂を含む多孔質層(I)と、耐熱温度が150℃以上のフィラーを主体として含む多孔質層(II)とを有する積層体からなることを特徴とするリチウムイオン二次電池により、前記課題を解決する。
【選択図】 なし

Description

本発明は、初回充放電時の不可逆容量が小さく、充放電サイクル特性が良好で、高温での安全性に優れたリチウムイオン二次電池に関するものである。
リチウムイオン二次電池は、エネルギー密度が高いという特徴から、携帯電話、ノート型パーソナルコンピューターなどの携帯機器や、電動式の工具、電動自転車などの電源として広く用いられている。最近では、これら機器類の高性能化が目覚しく、これに伴い、電源として利用されるリチウムイオン二次電池において、例えば、負荷特性、容量、充放電サイクル特性(寿命特性)に高い水準が求められている。これら諸特性を満足させるために、負極材料、正極材料、セパレータ、非水電解液といった各種電池構成部材の改善が進められている。また、前記電池の諸特性向上に伴い、高い信頼性や安全性も確保していく必要がある。
負極活物質として利用される負極材料の改善も種々提案されている。例えば特許文献1には、負極材料として使用するリン状またはリン片状の黒鉛粒子の表面を、デンプンの誘導体などの有機物で被覆することで、不可逆容量の低減や放電効率の改善を図る技術が提案されている。
特開2003−168433号公報
ところが、特許文献1に記載の負極材料は、その母材となる黒鉛粒子が、アスペクト比の大きなリン状またはリン片状であるため、電池の充放電時におけるリチウムイオンの挿入・脱離に伴う黒鉛層間の膨張、収縮によるダメージが懸念される。すなわち、電池の充放電を繰り返すことで、黒鉛粒子の表面を被覆した有機物において、剥離や亀裂が生じるなどして、黒鉛粒子の表面が露出する場合があり、これによって充放電のサイクル毎に不可逆容量が発生して、電池の充放電サイクル劣化が引き起こされる虞がある。
こうしたことから、電池の初回充放電時における不可逆容量が小さくすることに加えて、充放電を繰り返しても不可逆容量の発生を抑え得る技術の開発が求められる。
また、充電および放電のいずれもが大電流で行われるパワーツールなどの用途に適用されるリチウムイオン二次電池においては、電極での反応が不均一化しやすく、使用を繰り返すうちに、充放電時に生じる大きな発熱によって電極内での局所的な劣化が生じる場合があり、携帯電話のようにさほど大電流を要求されない用途での使用の場合に比較して、特性低下が大きくなることが問題となることもある。
そして、前記充放電時の発熱が、電極以外の電池部材にも影響を与え、問題を生じる虞もある。リチウムイオン二次電池は、数本の単電池をパック化して用いられることが多々あるため、充放電により単電池内部の温度が上昇すると、パック内部に熱がこもり単電池の温度は更に上昇する。その結果、セパレータの融点付近まで電池の内部温度が上昇し、セパレータが徐々に目詰まりを生じて大電流で充放電できなくなるという問題もある。よって、前記のような問題を回避して、充放電を繰り返しても良好な特性を維持することのできるリチウムイオン二次電池が必要とされている。
本発明は、前記事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、初回充放電時の不可逆容量が小さく、充放電サイクル特性が良好で、高温での安全性に優れたリチウムイオン二次電池を提供することにある。
前記目的を達成し得た本発明のリチウムイオン二次電池は、正極、負極、セパレータおよび非水電解液を有しており、前記負極は、水に対する濡れ性が固液面接触角(θ)で0〜50°である黒鉛と、前記黒鉛の表面を被覆する天然多糖類またはその誘導体とを有する負極材料を含有しており、前記セパレータが、融点が120〜140℃の樹脂を含む多孔質層(I)と、耐熱温度が150℃以上のフィラーを主体として含む多孔質層(II)とを有する積層体からなることを特徴とするものである。
本発明によれば、初回充放電時の不可逆容量が小さく、充放電サイクル特性が良好で、高温での安全性に優れたリチウムイオン二次電池を提供することができる。
本発明のリチウムイオン二次電池に係る負極に用いる負極材料は、黒鉛と、その表面を被覆する天然多糖類またはその誘導体とを有している。
すなわち、前記負極材料では、母材となる黒鉛の表面に、天然多糖類またはその誘導体によって被覆層が形成されており、これにより、本発明の電池において、初回充放電時の不可逆容量を小さくすることができる。
しかも、前記負極材料は、母材となる黒鉛に、水に対する濡れ性が、固液面接触角(θ)で0〜50°のものを使用するため、母材となる黒鉛の表面と、これを被覆する天然多糖類またはその誘導体との密着性が良好で、例えば、電池の充放電時において、黒鉛の表面に形成された天然多糖類またはその誘導体による被覆層の剥離や亀裂などが生じ難い。そのため、本発明のリチウムイオン二次電池では、充放電を繰り返しても、それに伴う新たな不可逆容量の発生が抑えられ、天然多糖類またはその誘導体による被覆層の効果が持続することから、充放電サイクル特性も良好なものとなる。
黒鉛における前記の濡れ性は、JIS R 3257−6の規定に準拠した静滴法により、水の接触角を測定することで求められる。具体的には、例えば、アルバック理工社製の「WET−1200」を用いて、25℃の大気雰囲気中で測定する手法が挙げられる。
前記負極材料において、母材となる黒鉛は、2500℃以上の熱処理(黒鉛化処理)を施した炭素材料であれば特に制限はなく、例えば、鱗片状または鱗状の天然黒鉛;鱗片状、鱗状または球状の人造黒鉛;繊維状または円筒状の黒鉛化炭素;が挙げられる。また、前記黒鉛の表面を低結晶性の炭素材で被覆させた炭素材料であってもよい。これらは1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
なお、前記負極材料に使用する黒鉛には、その濡れ性を前記好適値に調整するために、各種の表面処理を施しても構わない。特に酸素やフッ素を用いて処理した場合には、黒鉛表面の極性が高くなり、濡れ性が向上する効果が期待できる。具体的な黒鉛の表面処理方法としては、例えば、炭酸ガスや水蒸気雰囲気下で500〜1200℃に加熱するガス処理;硝酸などの酸性水溶液中で処理する酸化処理;各種フッ化物で処理するフッ素処理;などが挙げられる。
前記負極材料において、黒鉛の被覆には、天然多糖類またはその誘導体を使用する。前記負極材料を製造するには、例えば、黒鉛を被覆するための材料を水に溶解させた溶液(スラリーなど)に黒鉛を分散させるなどして浸漬し、その後黒鉛を取り出して乾燥する方法や、前記溶液を黒鉛に吹き付け、乾燥する方法などが採用できる。このとき、黒鉛を被覆するための材料を溶解させた溶液の粘度が低いと、黒鉛表面に付着させた溶液が乾燥前に垂れるなどして、黒鉛表面を良好に被覆できない虞がある。よって、黒鉛を被覆するための材料を溶解させた溶液は、ある程度粘度が高いことが望ましいが、そのために、溶液に溶解させる材料の量を多くすると、黒鉛表面に薄い被覆層を形成できなくなり、例えば、電池の負荷特性を低下させる虞がある。しかし、天然多糖類またはその誘導体であれば、比較的少ない溶解量で粘度の高い溶液を調製できるため、黒鉛表面の被覆層を薄く形成することが容易であり、被覆層の形成による電池の負荷特性の低下を抑制できる。
天然多糖類またはその誘導体としては、例えば、キサンタンガム、ウェランガム、ジェランガム、グアーガム、カラギーナン、デキストリン、アルファー化でんぷんなどのでんぷん類などの天然多糖類;セルロース誘導体(カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロースなど)などの天然多糖類の誘導体;が好ましい。前記負極材料を製造するにあたり、黒鉛の被覆に使用する天然多糖類またはその誘導体の溶液の溶媒には、環境保護などの観点から水を使用することが好ましいが、前記例示の天然多糖類またはその誘導体は、水溶性があり、かつ少量を水に溶解するだけで溶液の粘度を比較的高くすることができる。なかでも、前記の天然多糖類は、水への増粘効果がより高く、より少量で粘度の高い溶液を調製できることから、特に好ましい。なお、天然多糖類またはその誘導体には、前記例示のものを1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
負極材料において、天然多糖類または誘導体の黒鉛表面における被覆厚みは、その被覆による効果をより良好に確保する観点から、1nm以上であることが好ましく、3nm以上であることがより好ましい。ただし、黒鉛表面における天然多糖類またはその誘導体の被覆厚みが大きすぎると、これを用いた電池において、天然多糖類またはその誘導体を用いたことによる負荷特性の低下抑制効果が小さくなる虞がある。よって、天然多糖類または誘導体の黒鉛表面における被覆厚みは、20nm以下であることが好ましく、10nm以下であることがより好ましい。
前記負極材料は、例えば、天然多糖類またはその誘導体を溶媒に溶解させた溶液(スラリーなど)を調製し、この溶液に母材となる黒鉛を浸漬し、その後に溶液から黒鉛を取り出して乾燥する方法や、前記溶液を黒鉛に吹き付けて乾燥するなどの方法により製造することができる。なお、天然多糖類またはその誘導体を溶解させる溶媒としては、前記の通り、水が好ましい。
天然多糖類またはその誘導体を溶媒に溶解させた溶液は、25℃における表面張力が4〜40mN/mであることが好ましい。このような溶液を使用することで、母材である黒鉛と、その表面を被覆する天然多糖類またはその誘導体との密着性が、より良好となり、天然多糖類またはその誘導体による前記の効果の持続性がより向上する。また、黒鉛表面の被覆層の厚みを、前記好適値に調整することが容易となる。なお、ここでいう「天然多糖類またはその誘導体の25℃における表面張力」は、市販の装置(例えば、協和界面科学社製「CBVP−Z」)を使用して、Wilhelmy法によって測定される値である。
また、前記の天然多糖類またはその誘導体を溶媒に溶解させた溶液は、25℃における粘度(振動式粘度計を用いて測定される粘度)が、5〜50mPa・sであることが好ましく、このような粘度の溶液を使用することで、黒鉛表面の被覆層の厚みを、前記好適値に調整することが容易となる。
前記溶液の粘度は、溶解させる天然多糖類またはその誘導体の濃度を調節することで調整できるが、ポリエーテルやウレタン変性ポリエーテルなどの市販の粘度調整剤(例えばサンノプコ社製「SNシックナーシリーズ」など)を適量添加して調整してもよい。
また、天然多糖類またはその誘導体を溶媒に溶解させた溶液において、特に溶媒に水を使用する場合には、黒鉛との濡れ性を改善するなどの目的で界面活性剤などの添加剤を添加することができる。このような添加剤としては、例えば、各種アルコールやアセトンなどの有機溶剤、変性シリコーンや変性ポリエーテルなどの市販の表面調整剤(例えば、サンノプコ社製の「SNウエットシリーズ」、「SNクリーンアクトシリーズ」、「SNデフォーマーシリーズ」など)が挙げられる。前記溶液において、前記例示の添加剤は、例えば、0.01〜5質量%程度の濃度となるように添加することが好ましく、これにより、天然多糖類またはその誘導体を水に溶解させた溶液の表面張力を、前記好適値に調整することができる。
本発明の電池に係る負極には、例えば、前記負極材料やバインダなどを含有する負極合剤層を、集電体の片面または両面に形成したものが使用できる。なお、前記負極では、前記負極材料に係る黒鉛が負極活物質として作用する。
なお、負極活物質には、前記負極材料とともに他の負極活物質を併用することもできる。前記他の負極活物質としては、例えば、表面を多糖類またはその誘導体で被覆していない黒鉛や、熱分解炭素類、コークス類、ガラス状炭素類、有機高分子化合物の焼成体、メソカーボンマイクロビーズ(MCMB)、炭素繊維などの、リチウムを吸蔵、放出可能な炭素系材料などが挙げられる。
ただし、前記負極材料とともに他の負極活物質を併用する場合には、前記負極材料の使用による効果を良好に確保する観点から、前記負極材料と他の負極活物質との総量中における前記負極材料の量を、70質量%以上とすることが好ましく、80質量%以上とすることがより好ましい。
負極は、例えば、前記負極材料や、その他の負極活物質、バインダおよび必要に応じて使用される導電助剤などを含む負極合剤を溶剤に分散させたスラリー状やペースト状の負極合剤含有組成物を、集電体の片面または両面に塗布し、乾燥した後、必要に応じてプレス処理を施して負極合剤層の厚みを調整する工程を経て作製できる。なお、本発明に係る負極は、前記以外の方法により作製してもよい。
負極のバインダとしては、例えば、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)などのフッ素樹脂や、セルロースエーテル化合物、ゴム系バインダなどが挙げられるが、これらに限定されるものではない。セルロースエーテル化合物の具体例としては、例えば、カルボキシメチルセルロース(CMC)、カルボキシエチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、それらのリチウム塩、ナトリウム塩、カリウム塩などのアルカリ金属塩、アンモニウム塩などが挙げられる。ゴム系バインダの具体例としては、例えば、スチレン・ブタジエン共重合体ゴム(SBR)などのスチレン・共役ジエン共重合体;ニトリル・ブタジエン共重合体ゴム(NBR)などのニトリル・共役ジエン共重合体ゴム;ポリオルガノシロキサンなどのシリコーンゴム;アクリル酸アルキルエステルの重合体;アクリル酸アルキルエステルと、エチレン性不飽和カルボン酸および/またはその他のエチレン性不飽和単量体との共重合により得られるアクリルゴム;ビニリデンフルオライド共重合体ゴムなどのフッ素ゴムなどが挙げられる。
また、負極の導電助剤としては、アセチレンブラックなどの各種カーボンブラックやカーボンナノチューブなどが挙げられる。
負極合剤層の厚みは、例えば、集電体の片面あたり10〜100μmであることが好ましい。また、負極合剤層の組成としては、負極活物質の量(前記負極材料のみを使用する場合には、その量。他の負極活物質を併用する場合には、前記負極材料と他の負極活物質との総量。)が60〜95質量%であることが好ましく、バインダの量が1〜15質量%であることが好ましい。また、導電助剤を使用する場合には、負極合剤層における導電助剤の量が0.5〜5質量%であることが好ましい。
負極の集電体としては、銅製やニッケル製の箔、パンチングメタル、網、エキスパンドメタルなどを用い得るが、通常、銅箔が用いられる。この負極集電体は、高エネルギー密度の電池を得るために負極全体の厚みを薄くする場合、厚みの上限は30μmであることが好ましく、下限は5μmであることが望ましい。
負極側のリード部は、通常、負極作製時に、集電体の一部に負極合剤層を形成せずに集電体の露出部を残し、そこをリード部とすることによって設けられる。ただし、リード部は必ずしも当初から集電体と一体化されたものであることは要求されず、集電体に銅製の箔などを後から接続することによって設けてもよい。
次に、本発明のリチウムイオン二次電池に使用するセパレータについて説明する。一般に、リチウムイオン二次電池に使用されているポリオレフィン製の単一の多孔質フィルムは、ある程度の耐熱性を持たせながら、135℃付近でシャットダウンを生じるように、シャットダウン温度付近に融点を持つ樹脂が用いられている。しかし、前記フィルムの持つ大きなひずみのため、使用条件によっては、シャットダウンにまで至らないものの、電池の発熱によりフィルムの収縮や目詰まりを生じやすくなり、短絡や特性低下を招く場合がある。また、耐熱性を考慮して樹脂の融点を高くすると、シャットダウンを生じにくくなり、安全性の点で問題を生じる虞がある。
一方、本発明でセパレータとして用いる積層体では、シャットダウンを生じる融点が120℃以上140℃以下の樹脂を含有する多孔質層(I)のほかに、耐熱温度が150℃以上のフィラーを主体として含む多孔質層(II)を有しているので、例えば電動工具などのように電池の内部温度が上昇しやすい用途に用いられる場合であっても、セパレータの熱収縮が抑制され、目詰まりを生じにくく、セパレータの特性が安定して維持される。このため、前述した負極材料や、後述する正極材料(正極活物質)の持つ特性を効果的に発揮させることができ、大電流での充放電による特性劣化が少なく、比較的高温の環境下においても信頼性の高い電池とすることができる。なお、前記セパレータは、多孔質層(I)と多孔質層(II)とを有する積層体であれば、よく、その積層構成については特に制限はないが、例えば、多孔質層(I)と多孔質層(II)との二層からなる積層体や、多孔質層(I)の両面に多孔質層(II)を配置した三層以上の積層体などが前記の目的に適しており、より好適に用いられる。
本明細書でいうセパレータの各層に含有される樹脂の融点は、日本工業規格(JIS)K 7121の規定に準じて、示差走査熱量計(DSC)を用いて測定される融解温度を意味している。
多孔質層(I)を構成する樹脂は、融点が120〜140℃の樹脂であるが、具体的には、例えば、ポリエチレン(PE)、ポリブテン、エチレン−プロピレン共重合体などのポリオレフィンなどが挙げられ、密度が0.94g/cm以上0.97g/cm以下の高密度ポリエチレンが特に好ましい。また、多孔質層(I)は、前記例示の樹脂で形成された多孔質フィルム(リチウムイオン二次電池のセパレータに汎用されている所謂微多孔膜)が好ましく使用される。
セパレータの耐熱性を高めるための多孔質層(II)はフィラーを主体として含むものであるが、かかるフィラーは、耐熱温度が150℃以上、すなわち少なくとも150℃において軟化などの変形が見られない耐熱性を有する無機または樹脂粒子であり、電気絶縁性を有しており、電池の作動電圧範囲において酸化還元されにくい電気化学的に安定な粒子であれば無機粒子でも有機粒子でもよいが、分散などの点から微粒子であることが好ましく、安定性(特に耐酸化性)などの点から無機微粒子がより好ましく用いられる。
無機微粒子としては、酸化鉄、SiO、Al、TiO、BaTiO、ZrOなどの無機酸化物;窒化アルミニウム、窒化ケイ素などの無機窒化物;フッ化カルシウム、フッ化バリウム、硫酸バリウムなどの難溶性のイオン結合性化合物;シリコーン、ダイヤモンドなどの共有結合性化合物;モンモリロナイトなどの粘土;などが挙げられる。ここで、前記無機酸化物は、ベーマイト、ゼオライト、アパタイト、カオリン、ムライト、スピネル、オリビン、マイカなどの鉱物資源由来物質またはこれらの人造物などであってもよい。前記無機粒子の中でも、Al、SiOおよびベーマイトが特に好ましく用いられる。
また、有機粒子(有機粉末)としては、架橋ポリメタクリル酸メチル、架橋ポリスチレン、架橋ポリジビニルベンゼン、スチレン−ジビニルベンゼン共重合体架橋物、ポリイミド、メラミン樹脂、フェノール樹脂、ベンゾグアナミン−ホルムアルデヒド縮合物などの各種架橋高分子粒子や、ポリスルフォン、ポリアクリロニトリル、ポリアラミド、ポリアセタール、熱可塑性ポリイミドなどの耐熱性高分子粒子などが例示できる。また、これらの有機粒子を構成する有機樹脂(高分子)は、前記例示の材料の混合物、変性体、誘導体、共重合体(ランダム共重合体、交互共重合体、ブロック共重合体、グラフト共重合体)、架橋体(前記の耐熱性高分子の場合)であってもよい。
耐熱温度が150℃以上のフィラーの形状としては、例えば、球状に近い形状であってもよく、板状であってもよいが、短絡防止の点からは、板状粒子であることが好ましい。板状粒子の代表的なものとしては、板状のAlや板状のベーマイトなどが挙げられる。また、一次粒子が凝集した二次粒子構造のものを用いることもできる。二次粒子構造の粒子を用いることで、粒子同士の密着をある程度防止することができ、粒子同士の空隙を適度に保つことが可能である。これにより、イオンの透過する経路を確保でき、高いイオン透過性を維持し、大電流での充放電により適した構成とすることができる。
耐熱温度が150℃以上のフィラーの粒径は、平均粒径で、好ましくは0.01μm以上、より好ましくは0.1μm以上であって、好ましくは15μm以下、より好ましくは5μm以下である。なお、本明細書でいうフィラーの平均粒径は、例えば、レーザー散乱粒度分布計(例えば、堀場製作所社製「LA−920」)を用い、フィラーを溶解しない媒体(例えば水)に、フィラーを分散させて測定される体積基準の積算分率50%における粒子直径(D50%)である。
多孔質層(II)は、耐熱温度が150℃以上のフィラーを、バインダなどによって相互に結着することにより形成できる。多孔質層(II)における耐熱温度が150℃以上のフィラーの割合は、フィラーが主体として含まれるように、多孔質層(II)の構成成分の全体積中(空孔部分を除く全体積中)、50体積%以上となるようにすればよい。また、バインダなどによる結着性を良好にするために、多孔質層(II)における耐熱温度が150℃以上のフィラーの割合は、多孔質層(II)の構成成分の全体積中、99体積%以下とすることが好ましい。
多孔質層(II)に使用し得るバインダとしては、エチレン−酢酸ビニル共重合体、エチレン−アクリル酸共重合体、フッ素系ゴム、スチレン−ブタジエンゴムなどの柔軟性の高い樹脂のほか、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ポリビニルアルコール、ポリビニルブチラール、ポリビニルピロリドン、架橋アクリル樹脂、ポリウレタン、エポキシ樹脂などが用いられる。特に、150℃以上の温度においても優れた結着性を維持し、多孔質層(II)の形状を保つことのできる耐熱性のバインダが好ましく用いられる。
多孔質層(II)は、例えば、耐熱温度が150℃以上のフィラーおよびバインダなどを、溶媒に分散させて形成したスラリーを、多孔質層(I)の表面に塗布し、乾燥するなどの方法によって形成することができる。
本発明の電池に係るセパレータにおいて、多孔質層(II)の厚み[セパレータが多孔質層(II)を複数有する場合には、それらの合計厚み]は、セパレータの熱収縮抑制の観点から、1μm以上であることが好ましく、3μm以上であることがより好ましく、また、セパレータ全体の厚みの増大を抑える観点から、15μm以下であることが好ましく、10μm以下であることがより好ましい。
更に、本発明の電池に係るセパレータにおいて、多孔質層(I)の厚み[セパレータが多孔質層(I)を複数有する場合には、それらの合計厚み]は、シャットダウン特性をより良好に確保する観点から、3μm以上であることが好ましく、5μm以上であることがより好ましく、また、セパレータ全体の厚みの増大を抑える観点から、20μm以下であることが好ましく、15μm以下であることがより好ましい。
本発明のリチウムイオン二次電池は、前記の負極および前記のセパレータを備えていればよく、その他の構成および構造については特に制限はなく、従来から知られているリチウムイオン二次電池で採用されている各種構成および構造を適用することができる。
本発明の電池に係る正極は、従来から知られているリチウムイオン二次電池に用いられている正極、すなわち、Liイオンを吸蔵放出可能な活物質を含有する正極であれば特に制限はない。例えば、活物質として、Li1+xMO(−0.1<x<0.1、M:Co、Ni、Mn、Al、Mgなど。なお、元素MはLi以外の他の金属元素で10原子%まで置換されていてもよい。)で表される層状構造のリチウム含有遷移金属酸化物、LiMnやその元素の一部を他元素で置換したスピネル構造のリチウムマンガン酸化物、LiMPO(M:Co、Ni、Mn、Feなど)で表されるオリビン型化合物などを用いることが可能である。前記層状構造のリチウム含有遷移金属酸化物の具体例としては、LiCoOやLiNi1−xCox−yAl(0.1≦x≦0.3、0.01≦y≦0.2)などのほか、少なくともCo、NiおよびMnを含む酸化物(LiMn1/3Ni1/3Co1/3、LiMn5/12Ni5/12Co1/6、LiNi3/5Mn1/5Co1/5など)などを例示することができる。特に、Niを40%以上含む活物質の場合には、電池が高容量となるので好ましく、また、O(酸素原子)はフッ素、イオウ原子で1原子%まで置換されていてもよい。
特に、下記一般式(1)で表されるリチウムニッケル酸化物を正極活物質に使用することが好ましい。
LiNi(1−x) (1)
なお、前記一般式(1)中、MはAl、Mn、Co、Cr、Mg、Fe、ZrおよびTiよりなる群から選択される少なくとも1種の金属元素である。また、xは、前記金属元素Mの化学量論数であり、0≦x<1で選択される。すなわち、前記リチウムニッケル酸化物は、xが0のときはニッケル酸リチウム(LiNiO)であり、xが0を超える場合には、Niの一部を金属元素Mで置換した複合酸化物である。
なお、前記一般式(1)で表されるリチウムニッケル酸化物のうち、LiNiOは、高容量である一方で、初期の充電特性に難があり、利用率が低くなるという欠点を抱えており、また、熱的安定性にも難があるが、Niの一部を前記金属元素Mで置換することで、熱的安定性を高め得るなど、容量を高く維持しつつ、LiNiOの抱える欠点を解消することができる。
このようなリチウムニッケル酸化物の具体例としては、例えば、金属元素MがCoであり、xが0.2であるニッケル−コバルト酸リチウム(LiNi0.8Co0.2)などが挙げられる。また、金属元素Mは2種以上であってもよく、例えば、LiNi0.8Co0.1Ti0.1などが例示できる。
前記一般式(1)で表されるリチウムニッケル酸化物を正極活物質に使用する場合、全正極活物質中における前記一般式(1)で表されるリチウムニッケル酸化物の含有量は、70質量%以上であることが好ましく、80質量%以上であることがより好ましく、100質量%であることが更に好ましい。ここでいう正極活物質は、正極材料としてLiイオンの可逆的な挿入および脱離反応に直接寄与する部材のことであり、後述するバインダや導電助剤などは含まれない。正極に使用する全正極活物質中における前記一般式(1)で表されるリチウムニッケル酸化物の含有量を前記のようにすることで、電池の高容量化がより良好に達成できる。
なお、本発明の電池で使用する正極活物質の大きさは、耐熱温度が150℃以上のフィラーと同じ方法で測定される平均粒径(D50%)で、0.1μm以上であることが好ましく、1μm以上であることがより好ましく、また、30μm以下であることが好ましく、15μm以下であることがより好ましい。
正極は、前述した負極の作製方法と同様に、前記の正極活物質、バインダおよび導電助剤を含む正極合剤を溶剤に分散させたスラリー状やペースト状の正極合剤含有組成物を、集電体の片面または両面に塗布し、乾燥した後、必要に応じてプレス処理を施して正極合剤層の厚みを調整する工程を経て作製できる。なお、本発明に係る正極は、前記以外の方法により作製してもよい。
正極のバインダには、負極用のバインダやセパレータ用のバインダとして先に例示した各種材料を用いることができる。なかでも、PVDFは安価で電気化学的にも安定であり、また、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)などのように、正極合剤含有組成物用の溶媒として好適な有機溶剤に可溶であり、均一な正極合剤含有組成物の調製を容易にすることから、好ましく使用される。
なお、PVDFはアルカリの下では脱フッ素化をしやすく、例えば正極合剤含有組成物の溶媒に好適なNMPに溶解させると、NMP中の微量のアルカリ成分と反応してオレフィン化する傾向がある。更に、正極活物質として使用される前記一般式(1)で表されるリチウムニッケル酸化物などのリチウム含有複合酸化物の一部は、一般に強アルカリ性を示すものであり、これをPVDFのNMP溶液に混ぜると、PVDFの脱フッ素化が更に進行して、正極合剤含有組成物がゲル化する虞がある。
よって、前記一般式(1)で表されるリチウムニッケル酸化物などのリチウム含有複合酸化物を正極活物質とし、PVDFを正極用のバインダとして用いる場合には、例えば、あらかじめ蒸留精製などによりアルカリ成分を除去したNMPを溶媒として正極合剤含有組成物を調製することが好ましく、精製後のNMPを10質量%の水溶液とした場合に、そのpHが5〜7であることが特に好ましい。
正極に係る導電助剤としては、前記負極の場合と同様に、天然または人造の黒鉛や、カーボンブラック、炭素繊維、カーボンナノチューブなどの炭素材料が好適に用いられる。
正極合剤層の厚みは、例えば、集電体の片面あたり10〜100μmであることが好ましい。また、正極合剤層の組成としては、正極活物質の量が60〜95質量%であることが好ましく、バインダの量が1〜15質量%であることが好ましく、導電助剤の量が3〜20質量%であることが好ましい。
正極の集電体としては、アルミニウムなどの金属の箔、パンチングメタル、網、エキスパンドメタルなどを用い得るが、通常、厚みが10〜30μmのアルミニウム箔が好適に用いられる。
正極側のリード部は、通常、正極作製時に、集電体の一部に正極合剤層を形成せずに集電体の露出部を残し、そこをリード部とすることによって設けられる。ただし、リード部は必ずしも当初から集電体と一体化されたものであることは要求されず、集電体にアルミニウム製の箔などを後から接続することによって設けてもよい。
前記の負極および正極は、前記セパレータを介して積層した積層電極体や、更にこれを巻回した巻回電極体の形態で用いることができる。
本発明の電池に係る非水電解液には、リチウム塩を有機溶媒に溶解した溶液が用いられる。リチウム塩としては、溶媒中で解離してLiイオンを形成し、電池として使用される電圧範囲で分解などの副反応を起こさないものであれば特に制限はない。例えば、LiClO、LiPF、LiBF、LiAsF 、LiSbF などの無機リチウム塩;LiCFSO、LiCFCO、Li(SO、LiN(CFSO、LiC(CFSO、LiC2n+1SO(n≧2)、LiN(RfOSO[ここでRfはフルオロアルキル基]などの有機リチウム塩;などを用いることができる。
前記リチウム塩の非水電解液中の濃度としては、0.5〜1.5mol/lとすることが好ましく、0.9〜1.25mol/lとすることがより好ましい。
非水電解液に用いる有機溶媒としては、前記のリチウム塩を溶解し、電池として使用される電圧範囲で分解などの副反応を起こさないものであれば特に限定されない。例えば、エチレンカーボネート(EC)、プロピレンカーボネート(PC)、ブチレンカーボネート、ビニレンカーボネートなどの環状カーボネート;ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、メチルエチルカーボネートなどの鎖状カーボネート;プロピオン酸メチルなどの鎖状エステル;γ−ブチロラクトンといった環状エステル;ジメトキシエタン、ジエチルエーテル、1,3−ジオキソラン、ジグライム、トリグライム、テトラグライムなどの鎖状エーテル;ジオキサン、テトラヒドロフラン、2−メチルテトラヒドロフランなどの環状エーテル;アセトニトリル、プロピオニトリル、メトキシプロピオニトリルといったニトリル類;エチレングリコールサルファイトなどの亜硫酸エステル類;などが挙げられ、これらを1種単独で用いてもよいし、2種以上を併用しても構わない。
なお、より良好な特性の電池とするためには、前記環状カーボネートと鎖状カーボネートの混合溶媒を使用することが好ましく、これにより、高いイオン導電率が得られるなど、各溶媒の持つ特長を良好に引き出すことができる。
負極活物質として黒鉛を用いる場合は、PCとの反応性の問題があり、環状カーボネートとしては、通常、ECが使用されることが多い。しかし、本発明の電池では、負極活物質として使用する黒鉛は、その表面を天然多糖類またはその誘導体で被覆しているため、耐PC性が良好であることから、PCを溶媒に含む非水電解液を使用しても、それによる問題の発生を抑えることができる。例えば、非水電解液溶媒において、常温で固体であるECの少なくとも一部をPCで代替することにより、非水電解液の低粘度化が可能となり、より高いイオン伝導率を示す非水電解液とすることができ、これを用いることで、負荷特性により優れたリチウムイオン二次電池とすることができる。また、非水電解液を電池の外装体内に注液する際のノズルの目詰まりを抑制するなど、電池製造工程上のメリットもある。
また、これらの非水電解液に安全性や充放電サイクル性、高温貯蔵性といった特性を向上させる目的で、ビニレンカーボネート類、1,3−プロパンサルトン、ジフェニルジスルフィド、シクロヘキシルベンゼン、ビフェニル、フルオロベンゼン、t−ブチルベンゼン、無水酸、硫黄化エステル、ビニルエチレンカーボネートおよびこれらの誘導体などを添加剤として適宜加えることもできる。添加量は使用する前記添加剤や使用目的などでそれぞれ異なり、例えば0.1〜5質量%の範囲で選択される。これらの添加剤は1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用しても構わない。
また、前記の有機溶媒の代わりに、エチル−メチルイミダゾリウムトリフルオロメチルスルホニウムイミド、へプチル−トリメチルアンモニウムトリフルオロメチルスルホニウムイミド、ピリジニウムトリフルオロメチルスルホニウムイミド、グアジニウムトリフルオロメチルスルホニウムイミドといった常温溶融塩を用いることもできる。
更に、前記の非水電解液を含有してゲル化するような高分子材料を添加して、有機電解液をゲル状にして電池に用いてもよい。有機電解液をゲル状とするための高分子材料としては、PVDF、フッ化ビニリデン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体(PVDF−HFP)、ポリアクリロニトリル、ポリエチレンオキシド、ポリプロピレンオキシド、エチレンオキシド−プロピレンオキシド共重合体、主鎖または側鎖にエチレンオキシド鎖を有する架橋ポリマー、架橋したポリ(メタ)アクリル酸エステルなど、公知のゲル状電解質形成可能なホストポリマーが挙げられる。
本発明のリチウムイオン二次電池は、前述の負極、セパレータおよび正極を積層した積層電極体、またはこれらを巻回した巻回電極体を、スチール缶やアルミニウム缶などを外装缶として使用した筒形缶(角筒形や円筒形など)、金属を蒸着したラミネートフィルムを外装体としたソフトパッケージなどに装填し、これに前記非水電解液を注入して製造することができる。
なお、電池内においては、前記セパレータの多孔質層(II)を正極に対面させることが好ましい。非水電解液中に、例えばベンゼン環にアルキル基が結合した化合物(シクロヘキシルベンゼンなど)を添加すると、リチウムイオン二次電池が過充電状態となった場合には、非水電解液中の前記化合物が重合してセパレータの孔内に導電路を形成し、これによりソフトショートを生じるため、電池の温度上昇が抑えられる効果を示す。しかし過充電時には、正極によってセパレータが酸化されやすく、これによりセパレータが劣化すると、前記のソフトショートを安定に起こさせることができず、過充電時の安全性が良好に確保できない虞がある。しかし、耐熱温度が150℃以上のフィラーを主体として含み、耐酸化性がより良好な多孔質層(II)を正極に面するようにセパレータを配置することで、過充電時におけるセパレータの酸化劣化を抑制できるため、前記のソフトショートをより安定に生じさせることができる。
更に、前記セパレータの多孔質層(I)を負極に対面するように配置することがより好ましい。詳細な理由は不明であるが、多孔質層(I)が少なくとも負極に面するようにセパレータを配置した場合には、正極側に配置した場合よりも、シャットダウンを生じた場合に、多孔質層(I)から溶融した樹脂が、電極合剤層に吸収される割合が少なくなり、溶融した樹脂がセパレータの孔を閉塞するのに、より有効に利用されるため、シャットダウンによる効果がより良好となる。
本発明のリチウムイオン二次電池は、従来から知られているリチウムイオン二次電池と同様の用途に適用することができる。
以下、実施例に基づいて本発明を詳細に述べる。ただし、下記実施例は、本発明を制限するものではない。
<負極材料Aの作製>
平均粒径D50%が16μm、d002が0.3360nm、比表面積が3.4m/gである黒鉛を賦活炉に入れ、炭酸ガス気流下で、1000℃で4時間表面処理を行った(以下、この表面処理後の黒鉛を「黒鉛A」という)。表面処理後の黒鉛Aについて、前記の方法によって水に対する濡れ性[固液面接触角(θ)]を求めた。
天然多糖類であるキサンタンガム:100gを50Lの水に溶解し、更に疎水性シリカの水系張力調整剤を適量加えて、25℃における表面張力が表1に示す値の溶液を調製し、この溶液に黒鉛A:5kgを投入した後、溶液から取り出し、乾燥して、前記黒鉛の表面がキサンタンガムで被覆された負極材料Aを作製した。この負極材料Aにおけるキサンタンガムの被覆厚みを透過型電子顕微鏡(TEM)により測定した。
<負極材料Bの作製>
負極材料Aの作製に使用したものと同じ黒鉛(表面処理を施す前の黒鉛)について、炭酸ガス気流下で、1000℃で3時間表面処理を行った(以下、この表面処理後の黒鉛を「黒鉛B」という)。表面処理後の黒鉛Bについて、前記の方法によって水に対する濡れ性[固液面接触角(θ)]を求めた。
天然多糖類であるキサンタンガム:70gを50Lの水に溶解し、更に疎水性シリカの水系張力調整剤を適量加えて、25℃における表面張力が表1に示す値の溶液を調製し、この溶液に黒鉛B:5kgを投入した後、溶液から取り出し、乾燥して、前記黒鉛の表面がキサンタンガムで被覆された負極材料Bを作製した。この負極材料Bにおけるキサンタンガムの被覆厚みを透過型電子顕微鏡(TEM)により測定した。
<負極材料Cの作製>
負極材料Aの作製に使用したものと同じ黒鉛(表面処理を施す前の黒鉛)について、炭酸ガス気流下で、1000℃で2時間表面処理を行った(以下、この表面処理後の黒鉛を「黒鉛C」という)。表面処理後の黒鉛Cについて、前記の方法によって水に対する濡れ性[固液面接触角(θ)]を求めた。
天然多糖類であるキサンタンガム:150gを50Lの水に溶解し、更に疎水性シリカの水系張力調整剤を適量加えて、25℃における表面張力が表1に示す値の溶液を調製し、この溶液に黒鉛C:5kgを投入した後、溶液から取り出し、乾燥して、前記黒鉛の表面がキサンタンガムで被覆された負極材料Cを作製した。この負極材料Cにおけるキサンタンガムの被覆厚みを透過型電子顕微鏡(TEM)により測定した。
<負極材料Dの作製>
負極材料Aの作製に使用したものと同じ黒鉛(表面処理を施す前の黒鉛)について、炭酸ガス気流下で、1000℃で1時間表面処理を行った(以下、この表面処理後の黒鉛を「黒鉛D」という)。表面処理後の黒鉛Dについて、前記の方法によって水に対する濡れ性[固液面接触角(θ)]を求めた。
天然多糖類であるキサンタンガム:180gを50Lの水に溶解し、更に疎水性シリカの水系張力調整剤を適量加えて、25℃における表面張力が表1に示す値の溶液を調製し、この溶液に黒鉛D:5kgを投入した後、溶液から取り出し、乾燥して、前記黒鉛の表面がキサンタンガムで被覆された負極材料Dを作製した。この負極材料Dにおけるキサンタンガムの被覆厚みを透過型電子顕微鏡(TEM)により測定した。
<負極材料E>
負極材料Aの作製に使用したものと同じ黒鉛(表面処理を施す前の黒鉛)を、炭酸ガスによる表面処理およびキサンタンガムによる被覆処理を行わずに、負極材料Eとして用いた。
前記の負極材料A〜Eについて、単極評価セルによる充放電試験を行った。
<単極評価セル用負極の作製>
前記の負極材料:90質量部と、バインダであるPVDF:10質量部とを混合した負極合剤を、0.1質量部のシュウ酸をあらかじめ溶解したNMPに分散させて負極合剤含有スラリーを調製した。このスラリーを、銅箔からなる厚みが10μmの集電体の片面に塗布し、乾燥した後、カレンダー処理を行って全厚が70μmになるように負極合剤層の厚みを調整して、負極材料A〜Eのいずれかを含有する単極評価セル用負極を作製した。
<単極評価セルの作製>
前記の各単極評価セル用負極を用いて単極評価セルを作製した。単極評価セルは、前記負極(負極合剤層塗布面を2×2cm角に切り出したもの)を作用極とし、対極および参照極にLi金属箔を、非水電解液に、EC、PCおよびメチルエチルカーボネートを3:2:5の割合(体積比)で混合した混合液にLiPFを1.2mol/Lの濃度で溶解させた溶液を用い、セパレータにポリエチレン製の微多孔性フィルム(厚さ12μm)を用いて構成した。
<単極評価セルによる充放電試験>
各単極評価セルについて、参照極に対して0.03Vの電位になるまで4mAの定電流充電を行い、更に全充電時間が3時間となるまで0.03Vでの定電圧充電をした。充電後の単極評価セルを、4mAの定電流で2.5Vの電圧となるまで放電をして、初期の充電容量と放電容量を測定し、充放電効率(100×放電容量÷充電容量、単位%)を算出した。
負極材料A〜Eに使用した黒鉛の濡れ性(固液面接触角)、キサンタンガムを水に溶解させた溶液(キサンタンガム水溶液)の特性(25℃の表面張力および粘度)、黒鉛表面のキサンタンガムの被覆厚み、および単極評価セルにより求めた初期充放電効率を表1に示す。
Figure 2011150866
表1から明らかなように、特定の、水に対する濡れ性を有する黒鉛の表面を、天然多糖類で被覆して構成した負極材料A〜Dは、天然多糖類で被覆していない負極材料Eに比べて、初期充放電効率が高く、初回充放電時の不可逆容量が低減されている。
実施例1
<電池用負極Aの作製>
負極材料A:98質量部、CMC:1質量部およびSBR:1質量部を、水の存在下で混合して負極合剤含有スラリーを調製した。このスラリーを、銅箔からなる厚みが10μmの集電体の両面に間欠塗布し、乾燥した後、カレンダー処理を行って負極合剤層の密度が1.54g/cmになるように負極合剤層の厚みを調整した。その後、幅57mmおよび長さ1025mmなるように切断して、電池用負極Aを得た。更にこの電池用負極Aの銅箔の露出部にタブを溶接してリード部を形成した。
<電池用正極Aの作製>
NMP(蒸留精製品、10質量%水溶液とした場合のpHは7)に、バインダであるPVDFを溶解させ、更に正極活物質である平均粒径D50%が10μmのLiNi0.8Co0.2と、導電助剤であるアセチレンブラックとを加え、均一になるように混合して正極合剤含有ペーストを調製した。なお、混合比率は正極活物質:バインダ:導電助剤=85:10:5(質量部)とした。このペーストを、集電体となる厚みが15μmのアルミニウム箔の両面に間欠塗布し、乾燥した後、カレンダー処理を行って、正極合剤層を厚みが84μmになるまで加圧成形した後、幅55mmおよび長さ886mmになるよう切断して、電池用正極Aを作製した。更にこの電池用正極Aのアルミニウム箔の露出部にタブを溶接してリード部を形成した。
<セパレータAの作製>
平均粒径D50%が1μmのベーマイト5kgに、イオン交換水5kgと分散剤(水系ポリカルボン酸アンモニウム塩、固形分濃度40質量%)0.5kgとを加え、内容積20L、転回数40回/分のボールミルで1時間分散処理をして分散液を調製した。調製後の分散液を120℃で真空乾燥し、走査型電子顕微鏡(SEM)で観察したところ、ベーマイトの形状は、ほぼ板状であった。
前記分散液500gに、増粘剤としてキサンタンガムを0.5g、バインダとして樹脂バインダーディスパージョン(変性ポリブチルアクリレート、固形分含量45質量%)を17g加え、スリーワンモーターで3時間攪拌して均一なスラリー[多孔質層(II)形成用スラリー、固形分比率50質量%]を調製した。
電池用PE製微多孔質セパレータ[多孔質層(I):厚み16μm、空孔率40%、平均孔径0.08μm、PEの融点135℃]の片面にコロナ放電処理(放電量40W・min/m)を施し、このコロナ放電処理面に前記のスラリーをマイクログラビアコーターによって塗布し、乾燥して多孔質層(II)を形成して、セパレータAを得た。このセパレータAにおける多孔質層(II)の単位面積あたりの質量は、3.4g/mであり、多孔質層(II)の構成成分の全体積中におけるベーマイトの量は、90体積%であった。
<電池の組み立て>
電池用負極Aと電池用正極Aとを、セパレータAを介して重ね合わせ、渦巻状に巻回して巻回電極体とした。なお、巻回電極体においては、セパレータAの多孔質層(II)が電池用正極Aと対面するようにした。この巻回電極体を、直径18mm、高さ65mmの円筒缶にそれぞれ装填し、非水電解液[EC、PCおよびメチルエチルカーボネートを3:2:5の割合(体積比)で混合した溶媒に、LiPFを濃度1.2mol/lで溶解し、更にシクロヘキシルベンゼンを溶媒100質量部に対して1.0質量部の割合で添加した溶液]を注入後、封止を行ってリチウムイオン二次電池を作製した。なお、この電池は、缶の上部に内圧が上昇した場合に圧力を下げるための開裂ベントを備えている。
実施例2
正極活物質を、平均粒径D50%が10μmのLiCoOに変更した以外は、実施例1における電池用正極Aと同様にして電池用正極Bを作製した。そして、電池用正極Aに代えて、この電池用正極Bを用いた以外は、実施例1と同様にしてリチウムイオン二次電池を作製した。
実施例3
正極活物質を、電池用正極Aに用いたものと同じLiNi0.8Co0.2:70質量%と、電池用正極Bに用いたものと同じLiCoO:30質量%との混合物に変更した以外は、実施例1における電池用正極Aと同様にして電池用正極Cを作製した。そして、電池用正極Aに代えて、この電池用正極Cを用いた以外は、実施例1と同様にしてリチウムイオン二次電池を作製した。
実施例4
負極材料Aに代えて負極材料Bを用いた以外は、実施例1における電池用負極Aと同様にして電池用負極Bを作製した。そして、電池用負極Aに代えて、この電池用負極Bを用いた以外は、実施例1と同様にしてリチウムイオン二次電池を作製した。
実施例5
負極材料Aに代えて負極材料Cを用いた以外は、実施例1における電池用負極Aと同様にして電池用負極Cを作製した。そして、電池用負極Aに代えて、この電池用負極Cを用いた以外は、実施例1と同様にしてリチウムイオン二次電池を作製した。
実施例6
負極材料Aに代えて負極材料Dを用いた以外は、実施例1における電池用負極Aと同様にして電池用負極Dを作製した。そして、電池用負極Aに代えて、この電池用負極Dを用いた以外は、実施例1と同様にしてリチウムイオン二次電池を作製した。
実施例7
巻回電極体において、セパレータの多孔質層(I)が正極と対面するようにした以外は、実施例1と同様にしてリチウムイオン二次電池を作製した。
比較例1
負極材料Aに代えて負極材料Eを用いた以外は、実施例1における電池用負極Aと同様にして電池用負極Eを作製した。
電池用負極Aに代えて前記の電池用負極Eを使用し、また、セパレータAに代えて、セパレータAの作製に使用した電池用PE製微多孔質セパレータ(セパレータB)を、多孔質層(II)を形成することなく使用した以外は、実施例1と同様にしてリチウムイオン二次電池を作製した。
比較例2
セパレータAに代えてセパレータBを使用した以外は、実施例1と同様にしてリチウムイオン二次電池を作製した。
比較例3
電池用負極Aに代えて電池用負極Eを使用し、巻回電極体において、セパレータの多孔質層(I)が正極と対面するようにした以外は、実施例1と同様にしてリチウムイオン二次電池を作製した。
実施例1〜7および比較例1〜3のリチウムイオン二次電池の構成を表2に纏めて示す。なお、比較例1および比較例2は、セパレータに、多孔質層(II)を持たないセパレータB[すなわち、多孔質層(I)のみからなるセパレータ]を使用しているため、表2のセパレータにおける「正極と対面する層」の欄では、比較例1および比較例2については「多孔質層(I)」と記載している。
Figure 2011150866
実施例1〜7および比較例1〜3のリチウムイオン二次電池について、下記の各評価を行った。
<初期放電容量測定>
実施例1〜7および比較例1〜3のリチウムイオン二次電池について、常温(25℃)で、0.75Aの定電流および電圧4.2Vの定電圧による定電流−定電圧充電(総充電時間:2.5時間)を行った後、1.5A(1C相当)で定電流放電(放電終止電圧:2.5V)を行い、初期放電容量を測定した。
<1Cサイクル試験>
実施例1〜7および比較例1〜3のリチウムイオン二次電池について、常温(25℃)で、1.5Aの定電流および電圧4.2Vの定電圧による定電流−定電圧充電(総充電時間:2.5時間)を行った後、1.5A(1C相当)で定電流放電(放電終止電圧:2.5V)を行った。これを1サイクルとして、前記条件で500サイクル充放電を繰り返し、これらにより得られた1サイクル目の容量(放電容量)と500サイクル目の容量(放電容量)とから、容量保持率(100×500サイクル目容量/1サイクル目容量、単位%)を算出した。
<2Cサイクル試験>
実施例1〜7および比較例1〜3のリチウムイオン二次電池について、常温(25℃)で、4Aの定電流および電圧4.2Vの定電圧による定電流−定電圧充電(総充電時間:2.5時間)を行った後、3A(2C相当)で定電流放電(放電終止電圧:2.0V)を行った。これを1サイクルとして、前記条件で500サイクル充放電を繰り返し、これらにより得られた1サイクル目の容量(放電容量)と500サイクル目の容量(放電容量)とから、容量保持率(100×500サイクル目容量/1サイクル目容量、単位%)を算出した。
<加熱試験>
実施例1〜7および比較例1〜3のリチウムイオン二次電池について、常温(25℃)で、0.75Aの定電流および電圧4.2Vの定電圧による定電流−定電圧充電(総充電時間:2.5時間)を行った後、各電池を恒温槽に入れ、30℃から150℃まで、毎分5℃の割合で昇温し、その後引き続き150℃で3時間放置し、電池の表面温度を測定した。そして、前記の電池表面温度が、160℃以上にまで上昇した電池の有無を調べた。
<過充電試験>
実施例1〜7および比較例1〜3のリチウムイオン二次電池について、0.75Aで3.0Vまで電池を放電させた後、常温(25℃)で、上限電圧を15Vとして0.75Aの充電を行い、そのときの各電池の表面温度を測定した。そして、前記の電池表面温度が、130℃以上にまで上昇した電池の有無を調べた。
前記の各評価結果を表3に示す。なお、表3に示す各データのうち、初期放電容量、1Cサイクル容量保持率、および2Cサイクル容量保持率は、いずれも10個の電池の測定結果の平均値である。また、加熱試験および過充電試験については、各10個の電池について評価を行い、加熱試験では160℃以上にまで表面温度が上昇した電池が1個でも生じた場合に「あり」とし、過充電試験では130℃以上にまで表面温度が上昇した電池が1個でも生じた場合に「あり」としている。
Figure 2011150866
表3から明らかなように、水に対する濡れ性が特定値にある黒鉛の表面を、天然多糖類で被覆した負極材料を含有する負極と、多孔質層(I)および多孔質層(II)を有する積層体からなるセパレータとを使用した実施例1〜7のリチウムイオン二次電池は、初期放電容量が大きく、初回充放電時における不可逆容量が小さくなっており、かつ1Cサイクル試験および2Cサイクル試験における容量保持率が高く、充放電を繰り返しても不可逆容量の発生が抑えられていて、充放電サイクル特性が良好である。また、実施例1〜7のリチウムイオン二次電池は、加熱試験および過充電試験における異常な温度上昇も抑えられており、安全性および信頼性が良好である。しかも、実施例1〜7の電池では、2Cサイクル試験における容量保持率が高いことから、大電流での充放電特性、すなわち負荷特性も優れているといえる。更に、正極活物質に、特定組成のリチウムニッケル酸化物を使用した実施例1、3〜7の電池は、LiCoOのみを使用した実施例2の電池に比べて、初期放電容量が大きくなっている。
これに対し、表面を天然多糖類などで被覆していない黒鉛を使用した負極と、多孔質層(II)を持たないセパレータとを使用した比較例1の電池は、初期放電容量、並びに1Cサイクル試験および2Cサイクル試験での容量保持率が劣っており、加熱試験および過充電試験時に温度上昇が生じている。また、多孔質層(II)を持たないセパレータを使用した比較例2の電池は、加熱試験および過充電試験時に温度上昇が生じている。更に、表面を天然多糖類などで被覆していない黒鉛を使用した負極を用いた比較例3の電池は、初期放電容量、並びに1Cサイクル試験および2Cサイクル試験での容量保持率が劣っている。

Claims (4)

  1. 正極、負極、セパレータおよび非水電解液を有するリチウムイオン二次電池であって、
    前記負極は、水に対する濡れ性が固液面接触角(θ)で0〜50°である黒鉛と、前記黒鉛の表面を被覆する天然多糖類またはその誘導体とを有する負極材料を含有しており、
    前記セパレータが、融点が120〜140℃の樹脂を含む多孔質層(I)と、耐熱温度が150℃以上のフィラーを主体として含む多孔質層(II)とを有する積層体からなることを特徴とするリチウムイオン二次電池。
  2. 負極の含有する負極材料は、黒鉛表面を被覆する天然多糖類またはその誘導体の厚みが1〜20nmである請求項1に記載のリチウムイオン二次電池。
  3. セパレータの多孔質層(II)が、少なくとも正極に対面している請求項1または2に記載のリチウムイオン二次電池。
  4. 正極は、正極活物質として、一般式LiNi(1−x)(ただし、0≦x<1であり、Mは、Al、Mn、Co、Cr、Mg、Fe、ZrおよびTiよりなる群から選択される少なくとも1種の金属元素である)で表されるリチウムニッケル酸化物を、全正極活物質中、70質量%以上の量で含有している請求項1〜3のいずれかに記載のリチウムイオン二次電池。
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