本発明の有機−無機ハイブリッド接合型光電変換素子では、上記課題を克服するために、大きく分類して、二つの新規な手法を採用している。
その一つは、従来のSiなどによる信号利得Gを持つフォトトランジスタ動作、あるいはそれに類似した増倍機能を有する受光素子を有機−無機ハイブリッド接合で構成する手法である。このため、従来の有機−無機ハイブリッド構成での受光素子における有機半導体薄膜の役割、すなわち、低抵抗窓層、有機ショットキー接合、素子保護層などを変更する必要がある。
特に、本発明では、有機半導体薄膜の機能を、その下部に構成する無機半導体の活性層、あるいはコレクタ層へのキャリア・エミッタとして機能させる接合構造を形成した。そのための接合構造は対称型のp*-i-p構造あるいはn*-i-n構造とし、従来のp-n-p構造における中間のベース層であるn層、あるいはn-p-n構造における中間のベース層であるp層を、極めて高抵抗のi層で構成している。
ここで、p-n-p構造におけるn層に相当するi層は、n-型の伝導型の真性半導体層で構成することによりキャリア濃度を1x1016/cm3以下の低濃度とし、高抵抗化している。同様に、n-p-n構造におけるp層に相当するi層は、p-型の伝導型の真性半導体層で構成することによりキャリア濃度を1x1016/cm3以下の低濃度とし、高抵抗化している。
これらのp*-i-p構造あるいはn*-i-n構造のような有機−無機ハイブリッドの対称接合構造は、従来の無機半導体のフォトトランジスタの特徴である信号利得Gを発生し、さらに、従来のフォトトランジスタの問題であった高速応答性を可能にする接合構造であることが検証された。
このような有機−無機ハイブリッド構成によるp*-i-p構造あるいはn*-i-n構造が高速応答性を発現する理由は、ベース層を高抵抗のi層で構成することによる。この高抵抗のi層は、光活性層となるベース層に対応し、素子外部からの数V−数10Vのバイアス電圧により光活性層内に高電界を印加することが可能になり、光によって励起されることにより生成されたキャリアを、拡散ではなく、電界で加速して高速移動させることが可能となる。
実験例で詳述するが、光活性層となるi層を構成する無機半導体として、Si,ZnSSe,GaN,ZnOなどのワイドギャップ化化合物半導体を選択し、有機半導体薄膜に可視−紫外で透明な正孔輸送型のp*型半導体となるPEDOT(商品名)を用いたp*-i-p接合構造の受光素子において、以下の優れた受光特性が実証された。
(1)数V−数10Vの直流あるいは交流のバイアス条件で、擬似バイポーラトランジスタ機能することにより、1桁―3桁におよぶ大きな光電流の信号利得Gを発生し、直流または交流のバイアスで高速で動作する。
有機−無機ハイブリッド接合型トランジスタにおける信号増倍機能は、無機半導体のそれと類似していると考えられるが、正確な信号増倍のメカニズムの解明には、さらに有機−無機ハイブリッド接合素子の基礎研究が必要と思われる。
(2)受光素子の暗電流は、数V−数10Vの領域で数pA/mm2〜数10nA/mm2であった。
(3)素子容量を10pF以下に低減した受光素子において、直流あるいは交流のバイアスにより数100MHz以上の応答速度を検証できた。
前にも述べたが、本発明の有機−無機ハイブリッド接合型光電変換素子における素子構成での注意点は、実際のp*-i-p接合構造では、無機半導体で構成する高抵抗のi層はキャリア濃度が1016/cm3以下の低キャリア濃度となっているn-層で構成し、n*-i-n接合構造では、i層はキャリア濃度1016/cm3以下の低キャリア濃度となっているp-層で構成することが必要となる。本説明では、これらのn-層およびp-層を、半導体の慣例に従いi層と記述している。
本発明における、もう一つの信号利得Gを発生する有機−無機ハイブリッド接合型光電変換素子は、青−紫外光波帯で高感度で動作する雪崩増倍型の短波長APD受光素子である。APD素子は、Si、Geなどの無機半導体では近赤外や可視光波帯で実用的な受光素子が開発されているが、350nm以下の紫外域では実用可能な受光素子は不在である。また、有機−無機半導体複合素子によるAPD素子もまだ開発されていない。
本発明では、有機半導体と無機・ワイドギャップ化合物半導体の、p*-i-n構造およびn*-i-p構造の非対称接合により、初めて青−紫外光波帯における有機−無機ハイブリッド接合型APD素子の動作と、極めて高い信号利得Gを達成した。これらの有機−無機ハイブリッド接合型雪崩増倍素子は、単純な有機−無機半導体の接触では逆バイアスでのリーク電流が大きく、安定なAPD動作は困難であるが、Ptなどの金属によるガードリング構造、SiO2膜などの絶縁膜、素子表面の保護膜などのプロセス技術を応用することで実現した。
以上、信号利得Gを発生する有機−無機半導体ハイブリッド素子の基本接合構造、特性と作製プロセスの概略を説明したが、これらの素子のもう一つの特徴は、受光素子の集積化が容易なことである。集積化の容易さは、本発明を大面積のSi結晶、GaAsなどの大きなウエハー上に形成する際に威力を発揮する。
すなわち、所定のウエハー上に無機半導体によってi層を形成しておき、有機半導体薄膜は、i層の半導体結晶表面にスピンコート法や真空蒸着法、あるいは直接の重合手法などの単純なプロセスで形成した。リーク電流などを防止するためのPtなどのガードリングを形成するときは、有機半導体薄膜の形成の前に、i層の無機半導体表面上にリングパターンなどの形状で形成している。また、この金属ガードリングを利用して高密度の集積化が可能となる。
本発明の特徴となる信号利得G、高速性、集積性により、従来にない新規な応用分野を開拓できるが、その一つは、後述するように、集積型受光素子とシンチレーション材料による深紫外線、およびX線の検出装置である
本発明の有機−無機ハイブリッド接合型光電変換素子では、無機・ワイドギャップ半導体表面に有機半導体薄膜をスピンコート法、真空蒸着法、あるいは直接の重合手法などで製膜するだけで、優れたキャリア・エミッタとして機能するヘテロ接合界面が得られるが、このことは驚きに値する。なぜならば、無機半導体どうしによるヘテロ接合界面においてp-n-p構造などのヘテロ・バイポーラトランジスタからなるフォトトランジスタを形成すると、高濃度の界面欠陥がキャリアの消滅などに寄与し、効率の高いエミッタ作用が阻害されることが良く知られているからである。
後述するように、無機半導体がZnSe,ZnOなどのワイドギャップ半導体に限らず、バンドギャップ値が小さいSiにおいても、効率的な有機−無機ハイブリッド接合が実現されうることは、有機−無機複合界面の有利な特徴ということができる。
しかし、有機−無機複合界面で注意すべき点は、有機−無機接合界面にキャリアが蓄積する性質があることである。これは、有機半導体薄膜が電子や正孔のキャリア・ブロック層として機能することによるが、この蓄積効果は、有機半導体薄膜と接合される無機半導体との界面特性に依存するが、ZnSSeなどのワイドギャップ半導体などでは発生する。この蓄積効果は、受光素子の応答速度の低下や信号利得Gの低減につながるので、このような場合には、直流バイアスにさらにパルスなどの交流バイアスを重畳することによりに高感度と高速応答が可能となる。
なお、有機−無機の清浄な界面形成には、無機半導体表面の清浄化、酸化層の除去、さらにはZnOなどの酸化物半導体では表面の酸素による反応を防止する適切な表面処理が必要であるが、それらは全て洗浄やエッチングを含む単純なウエットプロセスやドライプロセスで行うことが出来る。
以上、本発明と従来技術との関係、本発明の基本的な動作原理および実際に素子を作成する際のプロセスなどを説明してきたが、以下に具体的な実施形態に基づいて、本発明の効果を説明していく。
<有機半導体薄膜の種類について>
本実験では数種類の有機半導体薄膜を試みた。今までに有機EL開発で多くの有機半導体薄膜が開拓されており、その中で実用商品となっている電子輸送型有機半導体薄膜としては、2-(4-tert-ブチルファエニル)-5-(4-ビフェニリ)-1,3,4-オキサジアゾールが知られており、正孔輸送型有機半導体薄膜としては、PEDT/PSS(3,4エチレンジオキシチオフェンとポリスチレンスルフォン酸との重合体)あるいはp*型CuPcなどが知られている。
特に、高分子系有機半導体薄膜として用いたPEDT/PSSはすでに商品として開拓され、有機EL素子などに活発に応用されており、スピンコート法と適正な熱処理で多くの無機半導体上に形成できる利点を有している。また、低分子系の有機半導体薄膜では、CuPc系材料を真空蒸着で形成した。この有機材料は有機EL素子で使用されている実績のある材料だが、本発明での有機−無機ハイブリッド接合型の受光素子に用いた場合、紫外域での透過性が劣るためPEDT/PSSより低い感度を示した。
本発明の光電変換素子における受光機能または発光機能を最大に発揮するための好適な有機半導体薄膜材料の選択は、この有機半導体薄膜と接合界面を形成する無機半導体の種類で異なる可能性があるが、p*型有機半導体薄膜を形成する場合には、PEDT/PSSが、種族の異なる多くの半導体との接合界面が良好で、且つスピンコート法と熱アニールなどの簡単なプロセスで形成でき、しかも可視−紫外で透明性が優れていた。
<基本構造の説明>
図1は、本発明の基本的な有機−無機ハイブリッド接合型光電変換素子の断面模式図である。
この有機−無機ハイブリッド接合型光電変換素子は、裏面に下部電極1が設けられた無機半導体基板2の上面に、無機半導体層3と、無機半導体層からなる光電変換層4と、有機半導体薄膜5とを順次積層させて形成し、有機半導体薄膜5に上部電極6を接続させて設けて構成している。下部電極1と上部電極6は、適宜のバイアス電圧を印加するためバイアス印加手段7に接続している。
ここで、有機半導体薄膜5がエミッタ層兼窓層となっており、無機半導体層3がコレクタ層となっている。以下においては、エミッタ層兼窓層は単に有機半導体薄膜5と称し、コレクタ層は単に無機半導体層3と称する。
なお、無機半導体基板2がp型である場合には、無機半導体層3はp型、光電変換層4はn-型、有機半導体薄膜5はp*型としてp*-i-p対称接合構造とし、無機半導体基板2がn型である場合には、無機半導体層3はn型、光電変換層4はp-型、有機半導体薄膜5はn*型としてn*-i-n対称接合構造としている。
特に、無機半導体層3及び有機半導体薄膜5はキャリア濃度を1×1017/cm3以上とする一方、光電変換層4はキャリア濃度を1×1016/cm3以下として高抵抗のi層としている。
図1の基本構造から判るように、無機半導体層3上にi層となる光電変換層4を無機半導体で形成し、その上に有機半導体薄膜をスピンコートや真空蒸着、あるいは化学的な重合法などで形成して有機半導体薄膜5としている。
図1では、本発明の有機−無機ハイブリッド接合型光電変換素子の基本構造のみを示したが、実際にII-VI系、III-V系のワイドギャップ半導体やSiなどで、実用レベルの素子作製においては、安定動作のための付加的な絶縁膜、素子のパッシベーション膜、金属ガードリングおよび超音波ボンディングを可能にするための上部金属電極の配置の工夫が必要である。
<第1実施形態>
図2は、より具体的な第1実施形態の光電変換素子であって、ワイドギャップを有する半導体であるZnSSeを用いて構成したp*-i-p構造の受光素子の断面模式図である。
本実施形態の光電変換素子は、裏面に下部電極1が設けられた無機半導体基板2の上面に、障壁解消用のバッファ層Bと、無機半導体層3と、無機半導体層からなる光電変換層4と、有機半導体薄膜5とを順次積層させて形成し、有機半導体薄膜5に上部電極6を接続させて設けて構成している。下部電極1と上部電極6は、適宜のバイアス電圧を印加するためバイアス印加手段7に接続している。
さらに、本実施形態の光電変換素子では、光電変換層4と有機半導体薄膜5との間に、リング状とすることにより光が入射する開口が形成されているガードリングRを設けている。
無機半導体基板2は、(100)面でカットされたp−GaAs基板であり、厚みは0.3mm程度とし、キャリア濃度は1×1018/cm3程度としている。
バッファ層Bは、無機半導体基板2の上面に形成したZnTe-ZnSe超格子層であって、無機半導体基板2のp−GaAsと無機半導体層3を構成するp−Zn1-xSxSe層とを接合させた際に界面に流れる正孔流に起因した約1.0eV程度の障壁を解消させるためのものであり、バッファ層Bの界面超格子によって共鳴トンネル効果を生じさせて、正孔を通過させている。
無機半導体層3は、バッファ層Bの上面にエピタキシャル成長法によって形成したp−Zn1-xSxSe層であって、活性窒素を添加することによりキャリア濃度を5×1017/cm3程度としている。
光電変換層4は、無機半導体層3の上面にエピタキシャル成長法によって無添加で形成したi−Zn1-xSxSe層であり、厚みは約0.4μm程度とし、電子濃度を2×1015/cm3程度としている。
有機半導体薄膜5を形成する前に、光電変換層4の上面にはスパッタリングなどによってPt金属膜を形成し、このPt金属膜をパターンニングしてガードリングRを形成している。このガードリングRは、光電変換層4のi−Zn1-xSxSe層にショットキー接合させており、暗電流の発生を防止できる。
ガードリングRの形成後、光電変換層4の上面に液体状のPEDT/PSSをスピンコート法によって塗布し、180℃に加熱して硬化させることにより有機半導体薄膜5を形成している。有機半導体薄膜5の形成は、スピンコート法に限定するものではなく、真空蒸着法などの適宜の方法としてもよい。。本実施形態では、有機半導体薄膜5の厚みは、約250nm程度としている。
有機半導体薄膜5の形成後、有機半導体薄膜5の上面には、電子ガンによる真空蒸着でAl2O3からなる絶縁保護膜や、SiO2からなる反射防止膜を形成して絶縁保護層8を設けている。絶縁保護層8の厚みは約0.06μm程度としている。
さらに、絶縁保護層8には、有機半導体薄膜5の一部を露出させる開口部を形成し、この開口部にAgを真空蒸着させて上部電極6を形成している。
図2に示したp*-i-p型の光電変換素子は、バイアス電圧の方向を変えてもどちらかの接合が逆方向となるため暗電流は、例えば5Vバイアス条件で数pA〜数10pA/mm2程度の極めて低い値であり、しかもバイアス方向において異なる受光特性を示す。
すなわち、本実施形態の受光素子では、素子上部の有機半導体薄膜5を正にバイアスしたときに信号利得Gが発生する。また、有機半導体薄膜5を負バイアスする条件では、信号利得は発生せず、高速・低暗電流のPIN型素子として動作する。
ここで、有機半導体薄膜5を負にバイアスして、信号利得Gが発生しないときの受光特性を説明する。このバイアス条件では、入射光の波長が450−300nm領域で外部量子効率ηex=85%−75%が得られ、受光感度Sは、S=0.15−0.1A/Wの素子として高速・安定動作が検証された。このp-i-n型に類似した受光モードでは、信号利得Gが不在であるが、外部量子効率と感度において既存のSi紫外フォトダイオードのそれを凌駕する良好な特性が得られる。
一方、有機半導体薄膜5を正とするバイアスでは、受光感度は極めて大きな変化を示す。すなわち、有機半導体薄膜5を1V以上の正に交流バイアスした条件では、上記のp-i-n動作での光電流信号と比較して、5−120倍に増加する。信号利得Gは、一定の交流バイアス値以上で発現し、そのバイアス値を満たせば、交流バイアスの値に依存せず一定の信号利得Gを維持する。なお交流バイアスは方形型でも正弦波でもよい。この交流バイアスは、有機−無機半導体界面に蓄積する微弱な電荷を吐き出す役割をするものであり、そのバイアス周波数は、数Hzから数100MHzが望ましい。
このように、バイアス印加手段7から出力するバイアス電圧の出力を選択的に切り替えることにより、光電流の信号利得を発生する信号増倍型の受光特性モードと、信号利得を発生しない通常のPIN型の受光特性モードとを切り替えることができる。
信号利得Gが発生するモードにおいて高速応答を実現するには、交流バイアスの最適化とバイアス周波数を高く設定することが必要である。一方、有機−無機半導体界面にキャリア蓄積が生じない場合や、有機半導体薄膜がキャリア・ブロック層として機能しない場合には、通常の直流バイアス条件で高速に動作させることができる。
受光素子の有機半導体薄膜5に0−5Vで正弦波の交流バイアスを印加した状態で、青色(450nm)−紫外領域(300nm)の光を照射した際の感度(A/W)スペクトルを図3に示す。交流バイアスの周波数は100MHzとしている。図3中、三角印が本実施形態の受光素子である。
比較のため、図3では、現在、実用的に用いられているSiによるp-i-n構造のフォトダイオードの感度を四角印で示し、ZnSSeによるpin構造のフォトダイオードの感度を黒丸印で示しており、信号利得Gが発現するため、本実施形態の受光素子では極めて高い外部量子効率が達成されていることが判る。特に波長300−350nmの紫外領域で現在、実用化されている紫外受光素子として最高感度のSiを用いたp-i-n型受光素子を大幅に上回っていることが判る。
このように、p*-i-p構造の受光素子は、従来の高感度なp-i-n型受光素子に比較して1−2桁以上の青−紫外感度を示す。なお、この信号利得を有する受光素子では、反射防止膜などの最適化はなされておらず、最適化をはかることによりさらに高感度化も可能であり、極めて優れた紫外受光感度を有していることが判る。
なお、本実施形態の受光素子の高速応答性を、受光領域を直径30μmの円形とした受光素子で調べたところ、400MHz程度の高速応答が確認された。受光素子の応答は、i層が完全に高電界領域で覆われるので、キャリア走行時間制限は受けず、CR時定数による制限となる。応答速度は素子容量を低減することでさらに向上させることが可能である。この高速応答は、従来のSiなどによる信号利得Gを有するフォトトランジスタの欠点である低い応答速度の課題が、大幅に改良されていることが判る。
本実施形態のp*-i-p型の光電変換素子が顕著な信号利得Gを発生する条件は、有機半導体薄膜5側を正としてバイアス電圧を設定するケースである。このバイアス条件では、有機半導体薄膜がキャリアのエミッタとして動作する条件に対応し、有機半導体薄膜5がp型半導体としての機能を発現し、Siなどによるp-n-pバイポーラトランジスタで知られている電流増倍効果が発生していると考えられる。本実施形態のp*-i-p型の光電変換素子が、Siなどによるp-n-pバイポーラトランジスタと異なる点は、ベース層がi型であることで高抵抗となっており、外部のバイアスがこのi層に印加されてキャリアが高速に移動可能となり、高速駆動が可能となっている。
<第2実施形態>
図4は、第2実施形態の光電変換素子であって、ZnSSeよりも大きなバンドギャップを有するGaNを用いたp*-i-p構造の受光素子の断面模式図である。
本実施形態の光電変換素子は、無機半導体基板2の上面に、障壁解消用のバッファ層Bと、無機半導体層3と、無機半導体層からなる光電変換層4と、有機半導体薄膜5とを順次積層させて形成し、光電変換層4と有機半導体薄膜5との間に、中間絶縁層9を介して上部電極6を設けている。さらに、有機半導体薄膜5の上面には、有機半導体薄膜5を被覆する絶縁保護層8を設けている。
特に、上部電極6と有機半導体薄膜5とは、光電変換層4上に面方向に沿って設けており、有機半導体薄膜5の上面に厚い保護膜が形成されることを抑制して、保護膜による光の吸収を抑制しやすくしている。
さらに、上部電極6は、有機半導体薄膜5を取り囲む枠状に設けて光が入射する開口部を形成しており、上部電極6自体が遮光体となることによって、遮光体を別途設ける必要がなく、受光領域以外での光励起による電流の発生を防止できる。
下部電極1は、光電変換層4及び無機半導体層3をエッチバックして露出させた無機半導体層3の露出面に設けており、上部電極6及び下部電極1にはバイアス印加手段7を接続して、このバイアス印加手段7で受光素子に所定のバイアス電圧を印加している。
無機半導体基板2はサファイヤ基板で構成し、この無機半導体基板2の上面には、MOCVD(Metal Organic Chemical Vapor Deposition)法によってGaN層からなるバッファ層Bを形成している。
無機半導体層3は、バッファ層Bの上面にMOCVD法でMgをアクセプタとして添加しながら形成したp−GaN層であり、厚みを2μm程度とし、キャリア濃度を7×1017/cm3程度としている。
光電変換層4は、無機半導体層3の上面にMgを微量添加しながらMOCVD法で形成したi−GaN層であり、厚みを約0.4μm程度とし、電子濃度を8×1015/cm3程度としている。
有機半導体薄膜5を形成する前に、光電変換層4の上面には電子ガン蒸着によってAl2O3膜とSiO2膜とを順次形成して中間絶縁層9とし、さらに、この中間絶縁層9の上面には真空蒸着によりTi金属膜とPt/Au金属膜を順次形成しており、これらをパターンニングすることにより中間絶縁層9を介して光電変換層4上に設けたリング状の上部電極6を形成している。
また、真空蒸着によりTi金属膜とPt/Au金属膜を形成する前に、ドライエッチングによって光電変換層4をエッチングして無機半導体層3を露出させるとともに、さらに無機半導体層3をエッチングして、下部電極1を形成するための凹部を設け、Ti金属膜とPt/Au金属膜を形成することにより、上部電極6ともに下部電極1を形成している。
なお、前記凹部の形成にともなって露出状態となった光電変換層4及び無機半導体層3の断面は、メサ状に加工することによって暗電流の発生を抑制している。
有機半導体薄膜5は、上部電極6の形成後、光電変換層4の上面に液体状のPEDT/PSSをスピンコート法によって塗布し、180℃に加熱して硬化させて形成している。有機半導体薄膜5の形成は、スピンコート法に限定するものではなく、真空蒸着法などの適宜の方法としてもよい。。本実施形態では、有機半導体薄膜5の厚みは、約800nm程度としている。
有機半導体薄膜5の形成後、有機半導体薄膜5の上面には、全面的にAl2O3からなる絶縁保護膜や、SiO2からなる反射防止膜を形成して絶縁保護層8を設けている。
本実施形態の受光素子は、第1実施形態の受光素子と同様に、有機半導体薄膜5を負にバイアスした条件では、光電流の信号利得Gは発生せず、利得のない通常のショットキー型か、p-i-n型の受光素子に類似した受光特性を示した。このバイアス条件では、波長360nm−250nmで外部量子効率ηex=60%−50%であった。この紫外域での外部量子効率は、論文などで報告されているGaNのp-i-n型の受光素子におけるηex=55%−45%より若干優れている。
有機半導体薄膜5を正にバイアスした条件では、0−12Vの交流バイアスで印加すると、波長360nm近傍から感度スペクトルが立ち上がり、信号利得Gは5−45程度となった。このバイアス条件では、波長域が360nmから280nmの紫外領域で感度S=1A/W―2A/Wの高い値を示す。感度の長波長端である360nmはGaNの基礎吸収端に相当し、また感度の短波長限界(270nm)は、有機半導体薄膜(PEDT/PSS)窓層の紫外吸収によって制限されている。
本実施形態の受光素子における暗電流Idは、5Vのバイアス条件下で数nA/mm2であり、第1実施形態の受光素子より約1桁高い暗電流となっていた。この原因は、有機―GaN界面の欠陥から生じている成分と転位などのマクロ欠陥を高密度で有するGaN自身から発生している成分が考えられる。受光感度と暗電流制御に関しては、第1実施形態の受光素子より劣るが、GaN結晶膜の欠陥制御と、光電変換層4と有機半導体薄膜5の界面の改善でさらに大幅な紫外感度の向上が期待できる。
<第3実施形態>
図5は、第3実施形態の光電変換素子であって、GaNと同等のバンドギャップを有するZnOを用いたn*-i-n構造の受光素子の断面模式図である。
本実施形態の光電変換素子は、裏面に下部電極1が設けられた無機半導体基板2の上面に、無機半導体層3と、無機半導体層からなる光電変換層4と、有機半導体薄膜5とを順次積層させて形成し、有機半導体薄膜5に上部電極6を接続させて設けて構成している。下部電極1と上部電極6は、適宜のバイアス電圧を印加するためバイアス印加手段7に接続している。
さらに、本実施形態の光電変換素子では、光電変換層4と有機半導体薄膜5との間に、光が入射する開口部が形成された中間絶縁層9を設けている。
無機半導体基板2は、c面でカットされたn−ZnO基板としている。
無機半導体層3は、無機半導体基板2の上面にGaをドナーとして添加しながらホモ・エピタキシャル成長法(MBE法)によって形成したn−ZnO層であって、厚みを約2μm程度とし、キャリア濃度を8×1017/cm3程度としている。
光電変換層4は、無機半導体層3の上面にN及びAsのアクセプタを低濃度で添加しながら形成したp-型のi−ZnO層であり、厚みを約0.3μm程度とし、ホール濃度を2×1015/cm3程度としている。
有機半導体薄膜5を形成する前に、光電変換層4の上面にはCVD法などによってAl2O3膜とSiO2膜とを順次形成して中間絶縁層9とし、さらに、この中間絶縁層9をパターンニングすることにより、光が入射する開口部を形成している。
さらに、有機半導体薄膜5を形成する前には、光電変換層4の上面に対して、シランカップリング剤を用いた表面処理を行っている。
有機半導体薄膜5は、シランカップリング剤による表面処理後、光電変換層4の上面に液体状の2-(4-tert-ブチルファエニル)-5-(4-ビフェニリ)-1,3,4-オキサジアゾールをスピンコート法によって塗布し、150℃に加熱して硬化させることにより形成している。有有機半導体薄膜5の形成は、スピンコート法に限定するものではなく、真空蒸着法などの適宜の方法としてもよい。。本実施形態では、有機半導体薄膜5の厚みは、約200nm程度としている。
有機半導体薄膜5の形成後、有機半導体薄膜5の上面には、全面的にAl2O3からなる絶縁保護膜や、SiO2からなる反射防止膜を形成して絶縁保護層8を設けている。
さらに、絶縁保護層8には、有機半導体薄膜5の一部を露出させる開口部を形成し、この開口部にAgを真空蒸着させて上部電極6を形成している。
本実施形態の受光素子は、酸化物半導体であるZnOを用いているため、有機半導体薄膜5をZnO表面に直接形成した際に界面が顕著に荒れる問題が生じた。そこで、それを低減するためにZnO表面をシランカップリング剤などで短時間処理してから有機半導体薄膜5を形成している。
また、本実施形態の受光素子では、光電変換層4を構成しているp-型のキャリアを有するi-ZnO層が極めて高い抵抗層となっており、受光素子における暗電流が数pA/mm2であって、第2実施形態のGaN系の受光素子と比較して二桁低い値を示した。この値は、バイアス方向によらず、0−10Vのバイアス条件でほぼ一定である。この低い暗電流はZnO結晶のマクロ欠陥密度がGaNより低いこと、および有機―ZnO界面が優れていることを示唆している。
さらに、本実施形態の受光素子では、紫外波長365nm以下で感度を発生し、200nm程度の深い紫外波長まで動作した。紫外光波帯での受光特性は、第1実施形態及び第2実施形態の受光素子と同様に、バイアス方向の選択で、信号利得Gのないn-i-p型と、信号利得Gを発生する利得モードを選ぶことができる。
信号利得Gがない場合では、10Vの直流バイアス電圧において、360nm−250nmの波長域である紫外域で、外部量子効率ηex=90−85%の高い効率が得られた。この外部量子効率は、すでに報告されているnZnO−有機薄膜のショットキー型の受光素子の特性と類似している。
紫外感度の大幅な向上は、信号利得の発生させるバイアス電圧を印加した条件下において検証された。すなわち、18Vの直流および交流バイアスにおいて、信号利得Gは50以上が発現した。外部量子効率に換算すると5000%以上の極めて高い効率が得られた。本発明の特徴である有機半導体薄膜をショットキー金属ではなく、有効なキャリア・エミッタとして活用する場合には、本実施形態の受光素子は、200nmまでの紫外光波域において感度S=2A/W−5A/Wの高い紫外感度を有していることが判明した。
本実施形態のようにZnOを用いた場合には、NとAsアクセプタによるp型化がデバイス水準まで達しておらず、p−ZnO層のキャリア濃度が2×1015/cm3と低濃度であり、また、キャリア濃度の均一性も劣っているため、本発明の信号増倍機能はまだ十分発揮されていない。
ZnO結晶の完全なp型制御が実現すれば、紫外域で優れた透明性を有するPEDT/PSSとの結合により、p*-i-p構造が可能となり、現在の光電子増倍管に匹敵する信号増倍型の高感度・固体受光素子が可能となるものと思われる。
<第4実施形態>
図6は、第4実施形態の光電変換素子であって、p*-i-n構造のAPD素子である受光素子の断面模式図である。
本実施形態の光電変換素子は、裏面に下部電極1が設けられた無機半導体基板2の上面に、障壁解消用のバッファ層Bと、無機半導体層3と、無機半導体層からなる光電変換層4と、有機半導体薄膜5とを順次積層させて形成し、有機半導体薄膜5に上部電極6を接続させて設けて構成している。下部電極1と上部電極6は、適宜のバイアス電圧を印加するためバイアス印加手段7に接続している。
さらに、本実施形態の光電変換素子では、光電変換層4と有機半導体薄膜5との間に、リング状とすることにより光が入射する開口が形成されているガードリングRを設けている。
無機半導体基板2は、(100)面でカットされたn−GaAs結晶基板であり、厚みは0.3mm程度とし、キャリア濃度は3×1018/cm3程度としている。
バッファ層Bは、無機半導体基板2の上面に2チャンバーMBE成長装置を用いて形成したn−GaAsエピ層である。このバッファ層Bを設けることによって、このバッファ層B上に設けた第1半導体層62の転位を105/cm2以下に低減させることができ、高電界で使用する本実施形態の受光素子において暗電流が発生することを低減できる。
無機半導体層3は、バッファ層Bの上面に塩素をドナーとして添加しながら形成したn−Zn1-xSxSe層である。
光電変換層4は、無機半導体層3の上面に無添加で形成したi−Zn1-xSxSe層であり、厚みを約0.25μm程度とし、電子濃度を2×1015/cm3程度としている。
有機半導体薄膜5を形成する前に、光電変換層4の上面にはスパッタリングなどによってPt金属膜を形成し、このPt金属膜をパターンニングしてガードリングRを形成している。このガードリングRは、パターンニングによってリング状としており、光電変換層4のi−Zn1-xSxSeにショットキー接合させている。このガードリングRを設けることにより、暗電流の発生を防止できる。
有機半導体薄膜5は、ガードリングRの形成後、光電変換層4の上面に液体状のPEDT/PSSをスピンコート法によって塗布し、180℃に加熱して硬化させることにより形成している。有機半導体薄膜5の形成は、スピンコート法に限定するものではなく、真空蒸着法などの適宜の方法としてもよい。。本実施形態では、有機半導体薄膜5の厚みは、約350nm程度としている。
有機半導体薄膜5の形成後、有機半導体薄膜5の上面には、CVD法などによって全面的にAl2O3からなる絶縁保護膜や、SiO2からなる反射防止膜を形成して絶縁保護層8を設けている。
さらに、絶縁保護層8には、有機半導体薄膜5の一部を露出させる開口部を形成し、この開口部にAgを真空蒸着させて上部電極6を形成している。
本実施形態の受光素子の基本原理を図7に示す。本実施形態の受光素子はp*-i-n接合を有するAPD素子となっており、バイアス印加手段7によって印加された直流バイアスは、全てn-型の光電変換層4に印加され、図7に示すようにバンドを大きく傾け、電界強度が〜106/cmの領域になることによって雪崩増倍現象が発現する。本実施形態の受光素子におけるAPD動作電圧は、25−40V程度と低いことが特徴である。このAPD動作電圧はSi系のAPD素子が200V程度を要するのに対し、1/5程度であり、APD素子の高密度集積も可能となる。
また、図7のバンド図から判るように、i層の光電変換層4で増倍された電子は無機半導体層3へ、ホールは有機半導体薄膜5へ吸収されるので、接合界面でのキャリア蓄積効果は発生しない。このため、APD素子へのバイアスは通常の直流バイアスでよく、応答速度も数百MHz以上になる。
有機−無機ハイアブリッド接合型APD素子の問題は、APD動作電圧での暗電流の制御であり、暗電流特性を図8に示す。
従来、APD型素子では大きい逆バイアスが要求され、有機−無機半導体界面にリーク電流が発生し、暗電流を増加させ、真正のアバランシェ増倍に支障をきたすという問題があったが、金属のショットキー・ガードリング構造を開発することにより、この問題を回避することができる。すなわち、本実施形態のように、光電変換層4と有機半導体薄膜5との間に、光電変換層4にショットキー接合させたガードリングRを設けるものである。図9は、ガードリングRを付与した有機−無機ハイアブリッド接合型APDにおいて、雪崩増倍が生じているAPD動作時での暗電流が約10pA/mm2に低減している様子を示す。このようにガードリングRを設けることによって、有機−無機ハイブリッドAPD素子を高感度かつに安定に動作させることが可能になる。
また、本実施形態のZnSSeを用いた有機−無機ハイブリッド接合型APDの感度のスペクトルを図9に示す。本実施形態の受光素子は、5Vバイアス時で、450−300nm波長帯で外部量子効率ηex=60−30%を有している。37V以上のAPD動作では、それより20倍大きい、ηex=1500%(青)−1000%(紫外)が検証されている。このAPD素子の感度は、青色領域で5A/W、300nm紫外では3A/Wが容易に実現できている。これらの感度はAPD動作電圧を40Vまで増大するとさらにこの1.5倍の感度まで上昇するが、暗電流も増加してくる。
さらに、本実施形態の有機−無機ハイブリッドAPD素子のもう一つの特徴は、高速応答であり、直径25μmの円形状とした受光面積のAPD素子で、〜550MHzの高速応答が確認されている。
<第5実施形態>
図10は、第5実施形態の光電変換素子であって、第4実施形態の光電変換素子よりも深い紫外域での感度を向上させたp*-i-n構造のAPD素子からなる受光素子の断面模式図である。
本実施形態の光電変換素子は、裏面に下部電極1が設けられた無機半導体基板2の上面に、無機半導体層3と、無機半導体層からなる光電変換層4と、有機半導体薄膜5とを順次積層させて形成し、有機半導体薄膜5に上部電極6を接続させて設けて構成している。下部電極1と上部電極6は、適宜のバイアス電圧を印加するためバイアス印加手段7に接続している。
さらに、本実施形態の光電変換素子では、光電変換層4と有機半導体薄膜5との間に、リング状とすることにより光が入射する開口が形成されているガードリングRを設けている。
無機半導体基板2は、c面でカットされたn−ZnO基板としている。
無機半導体層3は、無機半導体基板2の上面にGaをドナーとして添加しながらMBE法またはMOCVD法で形成したn−ZnO層であって、キャリア濃度を5×1017/cm3程度としている。
光電変換層4は、無機半導体層3の上面にMBE法またはMOCVD法で無添加で形成したi−ZnO層であり、厚みを約0.2μm程度とし、キャリア濃度を1×1015/cm3程度としている。
有機半導体薄膜5を形成する前に、光電変換層4の上面にはSiO2膜を形成し、このSiO2膜をパターンニングしてガードリングRを形成している。このガードリングRを設けることにより、暗電流の発生を防止できる。
有機半導体薄膜5は、ガードリングRの形成後、光電変換層4の上面に液体状のPEDT/PSSをスピンコート法によって塗布し、200℃に加熱して硬化させることにより形成している。有機半導体薄膜5の形成は、スピンコート法に限定するものではなく、真空蒸着法などの適宜の方法としてもよい。。本実施形態では、有機半導体薄膜5の厚みは、約200nm程度としている。
有機半導体薄膜5の形成後、有機半導体薄膜5の上面には、全面的にAl2O3からなる絶縁保護膜や、SiO2からなる反射防止膜を形成して絶縁保護層8を設けている。
さらに、絶縁保護層8には、有機半導体薄膜5の一部を露出させる開口部を形成し、この開口部にAgを真空蒸着させて上部電極6を形成している。
本実施形態の受光素子の上部には、ウエットプロセスでメサ加工を施し、側面リーク電流を制御している。本実施形態の受光素子の動作電圧は、光電変換層4の厚さで大きく変化するが、65−90V程度であり、第4実施形態の受光素子が35−40Vであることと比べて、大きい動作電圧が必要となっている。
APD領域での逆方向暗電流は、数100pA/mm2から50nA/mm2であったが、これらの暗電流は、光電変換層4と有機半導体薄膜5との間に設けたガードリングRにより、1−2桁低減させることができた。このガードリング構造と適正な有機半導体薄膜の加工プロセスにより、安定動作の有機―ZnOハイブリッド接合型APD素子が可能となる。
本実施形態の受光素子の外部量子効率ηexは、数Vの直流バイアス条件で、紫外波長360−250nmの範囲で85%〜65%と極めて高い効率を示した。
APD動作条件では、信号利得Gは、波長350nmでG=45、波長250nmでは、G=15−30の値を示した。これらの信号利得は電界強度が〜5×106/cmでの利得であり、今後、さらなる暗電流制御により、さらに向上させることができる。
このように、ZnSSe,ZnOなどのワイドギャップ半導体と有機半導体薄膜とのハイブリッド接合による短波長帯のAPD素子の基本構造と特性を説明してきたが、これらの素子の特徴は、素子作製工程がシンプルで、APDの高密度集積が容易なことである。
この特徴は、Si,Ge単体のAPDでは複雑な工程とそれによる暗電流制御の困難から集積化が容易でないことを考えると、今後の微弱な紫外光検出において、集積型APD素子は極めて有用な光検出素子となる。
特に、これらのAPD素子をシンチレーション材料との組み合わせにより、全固体型・X線検出装置が実現できる。
従来、深紫外や放射線の高感度受光素子は、Si−VLSI、液晶などの紫外露光プロセスや紫外照射による殺菌装置、医療分野での各種X線診断装置など多くの分野使用されており、現在、X線など高エネルギー放射線検出において、実用に供されているシンチレーション材料と光電子増倍管の装置の組み合わせ型であるが、光電子増倍管を高感度な半導体受光素子で置き換える利点は、小型化あるいは、低コストの面からも極めて大きいものがある。
深紫外や放射線領域の高感度検出素子の全固体化において、本発明の顕著な信号利得を発現する有機−無機半導体ハイブリッド構造の高感度受光素子は、光電子増倍管に代わりうる能力をもっている。特に、放射線を紫外域へ変換するシンチレーション材料とのコンビネーションにより、新しい全固体型放射線検出システムの開拓が期待される。
図11は、上述した受光素子を用いて構成した放射線検出装置の概略模式図であり、特に、受光素子は、第4実施形態のp*-i-n構造のAPD素子としている。なお、受光素子の代わりに、複数の受光素子を集積化した集積型受光素子を用いてもよく、集積型受光素子を用いることによりさらなる高感度化が期待できる。
本実施形態の放射線検出装置は、検出器本体11と、この検出器本体11と適宜の配線12を介して接続した解析装置13とで構成している。なお、検出器本体11と解析装置13とを一体的に構成してもよい。
検出器本体11は、一般的なX線回折分光装置に組まれているシンチレーション結晶と光電子増倍管において、光電子増倍管のみを取り外し、その代替として第4実施形態のp*-i-n構造のAPD素子を装着しており、具体的には、底部を有する筒状のハウジング11aで構成し、このハウジング11a内には、可視−紫外域の光をカットするフィルタ11bと、X線シンチレーション板11cと、スリット板11dと、受光素子11eを、ハウジング11aの開口側から順番に設けている。
ハウジング11aはシールド管となっており、フィルタ11bを通って入射された光以外の放射線を遮蔽している。
X線シンチレーション板11bには、本実施形態では、X線から青―紫外線域へ高い変換効率を持つバルク・シンチレーション結晶を用いている。
受光素子11eは、ハウジング11a内に設けた保持台11f上の所定位置に載設している。また、受光素子11eは配線12を介して解析装置13に接続し、受光素子11eに所定のバイアス電圧を印加するとともに、受光素子11eの出力信号を解析装置13に入力している。
本実施形態の放射線検出装置を用いて、X線回折分光で評価した半導体結晶膜は、GaAs上にMBE成長で形成したZnSSe結晶薄膜で、X線ロッキングカーブの測定モードで行っている。そのX線分光スペクトルを図12に示す。
この実験では、シンチレーション材料や装置構成の最適化ができていないが、X線シンチレーション結晶からの微弱な青―近紫外光を明確に検出していることがわかる。本発明の高感度受光素子とX線などのシンチレーションの結合により、光電子増倍管などの真空管を使用しない、全固体型の低コスト且つ高性能のX線あるいはさらに高エネルギーの放射線検出装置を実現しうることが判る。
現在はまだ実験中であるが、有機−ZnOのハイブリッド構造APD素子のX線および高エネルギー放射線検出装置への応用は、2次元・高密度集積化が可能であり、且つ紫外感度がさらに優れているために、有効な放射線検出装置が実現できる。本実施形態の放射線検出装置は、今後、短波長光波帯での紫外CCD装置、X線などの放射線強度の正確な2次元分布測定装置を光電子増倍管を使用せず、軽量・低コストの全固体型で実現可能なことを示している。
また、有機−無機ハイブリッド構造の受光素子は、有機薄膜の選択と素子下部の無機半導体の選択により、可視―紫外線の広範囲で高速・高感度の素子が実現できる利点があり、且つ、受光素子の集積化が容易であるため、放射線医療分野、科学計測分野、などや多くの産業分野への応用が可能である。
<第6実施形態>
上述した実施形態では、1つの受光素子に対して説明したが、これらの受光素子は、適宜の素子分離手段を設けながら並設可能であって、容易に集積化できる。図13は、受光素子を集積化して形成した集積型受光素子の断面模式図であり、具体的には、p*-i-p構造の受光素子を集積化して形成した集積型受光素子の断面模式図である。
本実施形態の集積型受光素子は、裏面に下部電極1が設けられた無機半導体基板2の上面に、無機半導体層3と、無機半導体層からなる光電変換層4と、有機半導体薄膜5とを順次積層させて形成し、光電変換層4と有機半導体薄膜5との間に、中間絶縁層9を介して上部電極6を設けている。下部電極1と上部電極6は、適宜のバイアス電圧を印加するためバイアス印加手段7に接続している。さらに、有機半導体薄膜5の上面には、有機半導体薄膜5を被覆する絶縁保護層8を設けている。
無機半導体基板2は、100面でカットされたp−Si基板であって、厚みを0.3mm程度としており、Bを添加することによってキャリア濃度を2×1018/cm3程度としている。
無機半導体層3は、無機半導体基板2の上面にCVD法によってBを添加しながら形成したp−Siエピ層であって、厚みを2μm程度とし、キャリア濃度を5×1017/cm3程度としている。
光電変換層4は、無機半導体層3の上面に無添加でCVD成長法によって形成したi−Si層であり、厚みを約0.7μm程度とし、電子濃度を5×1014/cm3程度としている。
有機半導体薄膜5を形成する前に、光電変換層4の上面には熱酸化によってSiO2膜からなる中間絶縁層9を形成し、さらに、この中間絶縁層9の上面には真空蒸着によりAl金属膜とAg金属膜を順次形成して上部電極層を形成し、この上部電極層をパターンニングすることにより所定位置に上部電極6を形成し、さらに中間絶縁層9をパターンニングすることにより有機半導体薄膜5が接合される接合領域を形成している。この接合領域は、光が入射される開口となっている。本実施形態では、接合領域は、直径0.3mmの円形状とした。
有機半導体薄膜5は、光電変換層4の上面に液体状のPEDT/PSSをスピンコート法によって塗布し、180℃に加熱して硬化させることにより形成している。有機半導体薄膜5の形成は、スピンコート法に限定するものではなく、真空蒸着法などの適宜の方法としてもよい。。本実施形態では、有機半導体薄膜5の厚みは、100−200nm程度としている。
有機半導体薄膜5を形成する場合には、隣り合った受光素子の上部電極6に接触しないようにする必要があり、スピンコート法による有機半導体薄膜の形成前に、あらかじめ適宜のマスク(図示せず)を設けて、有機半導体薄膜を選択的に形成するようにしている。
有機半導体薄膜5の形成後、有機半導体薄膜5の上面には、全面的にAl2O3からなる絶縁保護膜や、SiO2からなる反射防止膜を形成して絶縁保護層8を設けている。
このようにして、受光素子を多数設けた集積型受光素子とすることができる。特に、有機半導体薄膜5を用いることにより、製造プロセスを簡便化して低コスト化がはかれるとともに、より高密度に集積させることができる。
本実施形態の集積型受光素子では、直線上に10個の受光素子を並べて形成しており、1個の受光素子には、直径0.3mmの円形の受光面を形成している。
10個の受光素子を集積した集積型受光素子の受光特性は、単体の受光素子の特性に類似しているが、暗電流Idは〜300pA/mm2であって、単体の受光素子における暗電流に比較して2−3倍大きい値となった。この暗電流の増加は、フォトリソグラフィの工程が完全でなく、SiO2に設けた受光面用の開口の形状にむらができていること、また有機半導体薄膜の均一な形成が制御できていないことが原因している。
本実施形態の集積型受光素子における光電流の信号利得は、有機半導体薄膜5を正とするバイアス条件で動作したときに発生し、10V程度のバイアス条件で、有機半導体薄膜5を負とするバイアス電圧を印加したときの光電流値の5-50倍に増倍されている。感度波長は可視−紫色光波までに達しており、可視域感度は1.3A/W(紫光波)〜3AA/W(赤色光波)であり、400-350nmの近紫外紫光波では0.8A/Wの高い紫外感度を示した。
本実施形態の集積型受光素子の応答速度は、交流バイアス方式で光電変換層4におけるキャリアの走行速度は十分早く、素子の応答速度は、ダイオードのCR時定数で制限されている。特に、受光面を直径0.1mmの円形状とした場合には200MHzの高速応答が確認できた。この応答速度は、有効受光面積を低減した集積により向上させることが可能である。
図13に示す集積構造から判るように、本実施形態の集積型受光素子における受光素子は、有機半導体薄膜5の形成過程がスピンコートや真空蒸着法だけで容易に実現でき、集積化のプロセスもシンプルなので、より高密度の2次元集積化も可能である。
特に、Si−有機半導体ハイブリッド接合型光検出素子の集積化は、PEDT/PSSの他に、p*型CuPcでも試みた。この場合、有機半導体薄膜は低分子有機材料であって、真空蒸着法で均一な膜厚で構成できる利点がある。Si−有機半導体ハイブリッド接合型光検出素子の単体あるいは集積型受光素子は、紫外域までの高感度CCD素子への応用が可能である。Si−有機半導体ハイブリッド接合型光検出素子は、単体あるいは集積型においても、Si-有機界面特性が優れた有機半導体薄膜の選択と、有機膜の精密加工プロセスを確立することで、可視―紫外までの高感度CCDが実現される。