(実施の形態1)
図1から図21を参照して、実施の形態1における内燃機関の制御装置について説明する。
図1は、本実施の形態における内燃機関の概略図である。本実施の形態においては、機関本体1が、筒内噴射型火花点火式である内燃機関を示す。しかしながら、本発明をポート噴射型火花点火式の内燃機関等の別の火花点火式の内燃機関や、圧縮自着火式の内燃機関に適用することができる。
本実施の形態における内燃機関は、機関本体1を備える。機関本体1は、シリンダブロック2と、シリンダブロック2内で往復動するピストン3と、シリンダブロック2上に固定されたシリンダヘッド4とを具備する。ピストン3とシリンダヘッド4との間には燃焼室5が形成される。シリンダヘッド4には、各気筒毎に吸気弁6と、吸気ポート7と、排気弁8と、排気ポート9とが配置される。さらに、図1に示したようにシリンダヘッド4の内壁面の中央部には点火プラグ10が配置され、シリンダヘッド4の内壁面周辺部には、燃料噴射弁11が配置される。また、ピストン3の頂面には燃料噴射弁11の下方から点火プラグ10の下方まで延びるキャビティ12が形成されている。さらに、シリンダヘッド4には、吸気弁6の位相角およびバルブリフト量を連続的に変更可能な吸気弁制御装置13が設けられている。
各気筒の吸気ポート7は、吸気枝管14を介してサージタンク15に連結されている。サージタンク15は吸気管16を介してエアクリーナ17に連結される。吸気管16内にはステップモータ18によって駆動されるスロットル弁19が配置される。一方、各気筒の排気ポート9は排気管20に連結され、この排気管20は排気浄化触媒21を内蔵したケーシング22に連結される。なお、以下の説明では、スロットル弁19から吸気弁6までの吸気枝管14、サージタンク15、吸気管16等の部分を吸気管部分23と称す。
電子制御ユニット(ECU)31は、ディジタルコンピュータからなり、双方向性バス32を介して相互に接続されたRAM(ランダムアクセスメモリ)33、ROM(リードオンリメモリ)34、CPU(マイクロプロセッサ)35、入力ポート36および出力ポート37を具備する。
スロットル弁19の上流側の吸気管16には吸気管16内を通過して流れる吸入空気流量を検出するエアフロメータ41が設けられている。さらに、エアクリーナ17近傍には吸気温度を検出する吸気温度センサ42と、気圧を検出する気圧センサ43とが設けられる。スロットル弁19にはスロットル弁19の開度を検出するスロットル弁開度センサ44が設けられており、スロットル弁開度センサ44はスロットル弁開度に対応する出力信号を発生させる。これらエアフロメータ41、吸気温度センサ42、気圧センサ43およびスロットル弁開度センサ44はそれぞれ吸入空気流量(質量流量)、吸気温度(大気温度)、気圧およびスロットル弁の開度に対応する出力信号を発生し、この出力信号が対応するAD変換器38を介して入力ポート36に入力される。
また、アクセルペダル45にはアクセルペダル45の踏込み量に比例した出力電圧を発生する踏込み量センサ46が接続され、踏込み量センサ46の出力電圧は対応するAD変換器38を介して入力ポート36に入力される。また、クランク角センサ47は例えばクランクシャフトが15度回転する毎に出力パルスを発生し、この出力パルスが入力ポート36に入力される。CPU35ではこのクランク角センサ47の出力パルスから機関回転数が計算される。
一方、出力ポート37は対応する駆動回路39を介して点火プラグ10、燃料噴射弁11、吸気弁制御装置13およびステップモータ18に接続される。
図2は、本実施の形態におけるエアフロメータの概略斜視図であり、図3は、本実施の形態におけるエアフロメータの熱線計量部の拡大斜視図である。本実施の形態のエアフロメータ41は、熱線式流量計であり、流体により奪われる熱量に基づいて流体の流量を算出する流量計である。エアフロメータ41は、図2に示したように吸気管16内を流れる空気の一部をバイパスさせるバイパス通路と、このバイパス通路にバイパスされた吸入空気の質量流量を計測する熱線計量部41aと、計測された質量流量に応じた電圧を出力する信号処理部41bとを有する。
図3に示すように、熱線計量部41aは白金熱線から成る吸気温度計測用抵抗41a1と、この吸気温度計測用抵抗41a1を信号処理部41bに連結して保持するサポート部41a2と、加熱用抵抗(ボビン部)41a3と、この加熱用抵抗41a3を信号処理部41bに連結して保持するサポート部41a4とを備える。信号処理部41bは、吸気温度計測用抵抗41a1と加熱用抵抗41a3とで構成されるブリッジ回路を有し、このブリッジ回路により吸気温度計測用抵抗41a1と加熱用抵抗41a3との温度差を常に一定に維持するように加熱用抵抗41a3に供給する電力を調整すると共に、この供給する電力を電圧に変換して出力するようになっている。
図4に、エアフロメータの出力電圧とエアフロメータが配置された吸気管内を通過する空気流量との関係を示す。吸気管内を通過する空気の流量(以下、「エアフロ通過空気流量」と称す)が多くなるほど、出力電圧Vgが大きくなる。
本実施の形態における内燃機関の制御装置では、内燃機関の燃焼室5において燃焼される混合気の空燃比を目標空燃比にするために、吸気弁6が閉じたときに燃焼室5内に充填されている空気の量(以下、「筒内充填空気量Mc」と称す)を推定し、推定された筒内充填空気量Mcに基づいて混合気の空燃比が目標空燃比となるように燃料噴射弁11により燃焼室5(または、ポート噴射の内燃機関等では機関吸気通路)に噴射する燃料の量(以下、「燃料噴射量」と称す)を定めている。したがって、内燃機関の燃焼室5において燃焼される混合気の空燃比を正確に目標空燃比とするためには、筒内充填空気量Mcを正確に推定する必要がある。本実施の形態においては、スロットル弁のモデル、吸気管のモデル、および吸気弁のモデルを用いて数値計算により筒内充填空気量Mcを算出する。
図5に、本実施の形態における第1のエアモデルの概略図を示す。第1のエアモデルとしてのエアモデルM1は内燃機関に適用されるモデルのうち、単純なモデルである。以下、このエアモデルM1について説明する。
エアモデルM1は、スロットルモデルM10、吸気管モデルM20、吸気弁モデルM30を備える。スロットルモデルM10には、スロットル弁開度センサ44によって検出されたスロットル弁19の開度(スロットル弁開度)θtと、気圧センサ43によって検出された内燃機関の周囲の大気圧(または、吸気管16に吸入される空気の圧力)Paと、吸気温度センサ42によって検出された内燃機関周囲の大気温度(または、吸気管16に吸入される空気の温度)Taと、後述する吸気管モデルM20において前回に算出された吸気管部分23内の圧力(以下、「吸気管内圧力Pm」と称す)とが入力され、これら入力された各パラメータの値を後述するスロットルモデルM10のモデル計算式に代入することで、単位時間当たりにスロットル弁19を通過する空気の流量(以下、「スロットル通過空気流量mt」と称す)が算出される。スロットルモデルM10において算出されたスロットル通過空気流量mtは、吸気管モデルM20へ入力される。
吸気管モデルM20には、スロットルモデルM10において算出されたスロットル通過空気流量mtと、前回の計算において算出された単位時間当たりに燃焼室5内に流入する空気の流量(以下、「筒内吸入空気流量mc」と称す。)とが入力され、これら入力された各パラメータの値を後述する吸気管モデルM20のモデル計算式に代入することで、吸気管部分23内に存在する空気の圧力(吸気管内圧力Pm)と吸気管部分23内に存在する空気の温度(以下、「吸気管内温度Tm」と称す)とが算出される。吸気管モデルM20において算出された吸気管内圧力Pmと吸気管内温度Tmは共に吸気弁モデルM30へ入力され、さらに吸気管内圧力PmはスロットルモデルM10にも入力される。
吸気弁モデルM30には、吸気管モデルM20において算出された吸気管内圧力Pmおよび吸気管内温度Tmの他に大気温度Taが入力され、これら入力された各パラメータの値を後述する吸気弁モデルM30のモデル計算式に代入することで、今回の筒内吸入空気流量mcが算出される。今回の筒内吸入空気流量mcを用いて筒内充填空気量Mcが算出される。この筒内充填空気量Mcに基づいて燃料噴射弁からの燃料噴射量が決定される。また、吸気弁モデルM30において算出された今回の筒内吸入空気流量mcは吸気管モデルM20に入力され、次回の計算に用いられる。
図5に示すように、エアモデルM1では或るモデルにおいて算出されたパラメータの値が別のモデルへの入力値として利用されるので、エアモデルM1全体では、実際に入力される値はスロットル弁開度θt、気圧Pa、および大気温度Taの三つのパラメータのみであり、これら三つのパラメータから筒内充填空気量Mcが算出される。
次に、エアモデルM1に含まれる各モデルM10〜M30について説明する。スロットルモデルM10では、気圧Pa、大気温度Ta、吸気管内圧力Pm、スロットル弁開度θtから、下記式(1)に基づいてスロットル通過空気流量mtが算出される。ここで、式(1)における係数μtはスロットル弁における流量係数で、スロットル弁開度θtの関数である。スロットル弁における流量係数μtは、たとえば図6に示すグラフに基づいて、スロットル弁開度θtを関数にした流量係数μtのマップを予めECU31のROM34に記憶させておき、このマップから算出することができる。また、係数Atはスロットル弁の開口断面積を示し、スロットル弁開度θtの関数である。係数Atは、たとえば、図7に示すグラフに基づいて、スロットル弁開度θtを関数にした開口断面積Atのマップを予めECU31に記憶させておき、このマップにより算出することができる。また、定数Rは気体定数であり、実際には気体定数を1mol当たりの気体(空気)の質量Mlmolで除算した値である。
また、Φ(Pm/Pa)は下記式(2)に示した関数であり、この式(2)におけるκは比熱比(一定値とする)である。この関数Φ(Pm/Pa)は、図8に示したようなグラフに表すことができるので、このようなグラフをマップとしてECU31のROM34に保存し、実際には式(2)を用いて計算するのではなくマップからΦ(Pm/Pa)の値を求めるようにしてもよい。
これらスロットルモデルM10の式(1)および式(2)は、スロットル弁19上流の気体の圧力を気圧Pa、スロットル弁19上流の気体の温度を大気温度Ta、スロットル弁19の下流の気体の圧力を吸気管内圧力Pmとして、図9に示したようなスロットル弁19のモデルに対して、質量保存則、エネルギ保存則および運動量保存則を適用し、さらに気体の状態方程式、比熱比の定義式、およびマイヤーの関係式を利用することによって得られる。
図5を参照して、次に吸気管モデルM20では、スロットル通過空気流量mt、筒内吸入空気流量mc、および大気温度Taから、下記式(3)および式(4)に基づいて吸気管内圧力Pmおよび吸気管内温度Tmが算出される。なお、式(3)および式(4)におけるVmはスロットル弁19から吸気弁6までの吸気枝管14、サージタンク15、吸気管16等の部分(吸気管部分23)の容積に等しい定数である。
ここで、吸気管モデルM20について図10を参照して説明する。吸気管部分23の総気体量(総空気量)をMとすると、総気体量Mの時間的変化は、吸気管部分23に流入する気体の流量、すなわちスロットル通過空気流量mtと、吸気管部分23から流出する気体の流量、すなわち筒内吸入空気流量mcとの差に等しいため、質量保存則により下記式(5)が得られ、この式(5)および吸気管部分23における気体の状態方程式(Pm・Vm=M・R・Tm)より、式(3)が得られる。
また、吸気管部分23の気体のエネルギM・Cv・Tmの時間的変化量は、吸気管部分23に流入する気体のエネルギと吸気管部分23から流出する気体のエネルギとの差に等しい。このため、吸気管部分23に流入する気体の温度を大気温度Ta、吸気管部分23から流出する気体の温度を吸気管内温度Tmとすると、エネルギ保存則により下記式(6)が得られ、この式(6)および上記気体の状態方程式より、式(4)が得られる。
図5を参照して、次に吸気弁モデルM30では、吸気管内圧力Pm、吸気管内温度Tm、および大気温度Taから、下記式(7)に基づいて、筒内吸入空気流量mcが算出される。なお、式(7)における定数aおよび定数bは、機関回転数Neから、さらに吸気弁6の位相角(バルブタイミング)および作用角を変更できる可変動弁機構を備えた内燃機関の場合には、吸気弁6の位相角、作用角から定まる値である。
上述した吸気弁モデルM30について図11を参照して説明する。一般に、吸気弁6が閉じたときに燃焼室5内に充填されている空気の量である筒内充填空気量Mcは、吸気弁6が閉弁するとき(吸気弁閉弁時)に確定し、吸気弁6の閉弁時の燃焼室5内の圧力に比例する。また、吸気弁6の閉弁時の燃焼室5内の圧力は、吸気弁6上流の気体の圧力、すなわち吸気管内圧力Pmと等しいとみなすことができる。したがって、筒内充填空気量Mcは、吸気管内圧力Pmに比例すると近似することができる。
ここで、一定時間(例えば、クランク角720°分)当たりに吸気管部分23から流出する全空気流量を平均化したもの、または一定時間(例えば、クランク角720°分)当たりに吸気管部分23から全ての気筒の燃焼室5に吸入される空気量を上記一定時間で除算したものを筒内吸入空気流量mcとすると、筒内充填空気量Mcが吸気管内圧力Pmに比例することから、筒内吸入空気流量mcも吸気管内圧力Pmに比例すると考えられる。このことから、理論および経験則に基づいて、上記式(7)が得られる。なお、式(7)における定数aは比例係数であり、定数bは燃焼室5内に残存していた既燃ガスを表す値(排気弁8閉弁時に燃焼室5内に残る既燃ガス量を後述する時間ΔT180°で除算したものに相当)である。また、実際の運転では過渡運転時に吸気管内温度Tmが大きく変化する場合があるため、これに対する補正として理論および経験則に基づいて導かれた係数(Ta/Tm)が乗算されている。
図12に、筒内吸入空気流量および筒内充填空気量の説明図を示す。図12では、内燃機関が4気筒である場合を例示している。横軸は、クランクシャフトの回転角度であり、縦軸は、単位時間当たりに吸気管部分23から燃焼室5に実際に流入する空気流量である。ここでは筒内吸入空気流量mcについて説明する。4気筒の内燃機関では、吸気弁6が例えば1番気筒、3番気筒、4番気筒、2番気筒の順に開弁し、各気筒に対応する吸気弁6の開弁量に応じて吸気管部分23から各気筒の燃焼室5内へ空気が流入する。例えば、吸気管部分23から各気筒の燃焼室5内に流入する空気の流量の変位は図12に破線で示した通りであり、これを総和して吸気管部分23から全気筒の燃焼室5に流入する空気の流量は図12に実線で示した通りである。また、例えば1番気筒への筒内充填空気量Mcは図12に斜線で示した通りである。
これに対して、実線で示した吸気管部分23から全ての気筒の燃焼室5に流入する空気の流量を平均化したものが筒内吸入空気流量mcであり、図中に一点鎖線で示す。そして、この一点鎖線で示した筒内吸入空気流量mcに、4気筒の場合にはクランクシャフトが180°(すなわち、4ストローク式内燃機関において1サイクル中にクランクシャフトが回転する角度720°を気筒数で割った角度)回転するのにかかる時間ΔT180°を乗算したものが筒内充填空気量Mcとなる。したがって、吸気弁モデルM30で算出された筒内吸入空気流量mcにΔT180°を乗算することで、筒内充填空気量Mcが算出される(Mc=mc・ΔT180°)。より詳細には、筒内充填空気量Mcが吸気弁閉弁時の圧力に比例することを考慮して、吸気弁閉弁時の筒内吸入空気流量mcにΔT180°を乗算したものが筒内充填空気量Mcとされる。
次に、上記エアモデルM1を内燃機関の制御装置に実装して、実際に筒内充填空気量Mcを算出する場合について説明する。筒内充填空気量Mcは、エアモデルM1を用いて、上記式(1)、式(3)、式(4)、および式(7)を解くことにより表される。この場合、ECU31で処理するために、これらの式を離散化する必要がある。時刻t、計算間隔Δtを用いて式(1)、式(3)、式(4)、および式(7)を離散化すると、それぞれ下記式(8)、式(9)、式(10)、および式(11)が得られる。なお、吸気管内温度Tm(t+Δt)は、式(9)および式(10)によってそれぞれ算出されたPm/Tm(t+Δt)およびPm(t+Δt)から、式(12)によって算出される。
このようにして実装されたエアモデルM1では、スロットルモデルM10の式(8)で算出された時刻tにおけるスロットル通過空気流量mt(t)と、吸気弁モデルM30の式(11)で算出された時刻tにおける筒内吸入空気流量mc(t)とが、吸気管モデルM20の式(9)および式(10)に代入され、これにより時刻t+Δtにおける吸気管内圧力Pm(t+Δt)および吸気管内温度Tm(t+Δt)が算出される。次いで、算出されたPm(t+Δt)およびTm(t+Δt)は、スロットルモデルM10および吸気弁モデルM30の式(8)および式(11)に代入され、これにより時刻t+Δtにおけるスロットル通過空気流量mt(t+Δt)および筒内吸入空気流量mc(t+Δt)が算出される。そして、このような計算を繰り返すことによって、スロットル弁開度θt、気圧Pa、および大気温度Taから、任意の時刻tにおける筒内吸入空気流量mcが算出され、算出された筒内吸入空気流量mcに上記時間ΔT180°を乗算することで、任意の時刻tにおける筒内充填空気量Mcが算出される。
なお、内燃機関の始動時には、すなわち時刻t=0においては、吸気管内圧力Pmは大気圧と等しい(Pm(0)=大気圧)とされ、吸気管内温度Tmは大気温度と等しい(Tm(0)=Ta)とされて、各モデルM10〜M30における計算を開始することができる。
なお、上記エアモデルM1では、大気温度Taおよび気圧Paが一定であるとしているが、時刻によって変化する値としてもよく、例えば、大気温度を検出するための吸気温度センサによって時刻tにおいて検出された値を大気温度Ta(t)、気圧を検出するための気圧センサによって時刻tにおいて検出された値を気圧Pa(t)として上記式(8)、式(10)、および式(11)に代入するようにしてもよい。
または、スロットル弁19の上流側に配置されているエアクリーナ17における圧損を考慮するために、エアクリーナモデルがさらに追加されていても構わない。エアクリーナモデルは、たとえば、ベルヌーイの定理に基づいたモデル式等により、エアクリーナ17の入口の大気圧に対して、エアクリーナ17の出口の気圧を算出することができる。この場合には、スロットルモデルに入力される気圧は、エアクリーナモデルにより算出されるエアクリーナ出口の気圧を用いることができる。
ところで、上述したように上記のエアモデルM1は内燃機関に適用される単純なモデルであり、上記エアモデルM1によって算出される筒内充填空気量Mcは実際の筒内充填空気量に対して誤差が生じ易い。そこで、本実施の形態においては、それぞれのモデルの誤差を修正するエアモデルを用いる。
図13に、本実施の形態における第2のエアモデルの概略図を示す。第2のエアモデルとしてのエアモデルM2では、上記スロットル弁開度θt、気圧Pa、および大気温度Taの三つのパラメータに加えて、エアフロメータ41の出力値AFMに基づいて筒内充填空気量Mcを算出する。以下、このエアモデルM2について説明する。なお、エアモデルM2の説明において、第1のエアモデルとしてのエアモデルM1と同様の部分については、詳細な説明を繰り返さない。
エアモデルM2は、上記スロットルモデルM10、吸気管モデルM20、および吸気弁モデルM30に加えて、電子制御スロットルモデルM40、およびエアフロメータモデル(AFMモデル)M50を備える。電子制御スロットルモデルM40には、アクセルペダル45の踏込み量に比例した出力電圧を発生する踏込み量センサ46の出力値Accpが入力され、これに基づいて現時刻から所定時間T0先の時刻においてスロットル弁19が到達すると予想されるスロットル弁開度(以下、「所定時間後のスロットル弁開度」と称す)θtfが算出される。
また、AFMモデルM50には、スロットルモデルM10によって算出されたスロットル通過空気流量mtが入力され、この入力された値を後述するAFMモデルM50のモデル計算式に代入することで、実際にスロットル弁19の配置された吸気管16内を上記スロットル通過空気流量mtだけ空気が流れていると仮定した場合にエアフロメータ41が出力すると予想される出力値(以下、「予想出力値」と称す)AFMmtが算出される。
すなわち、エアフロメータ41の出力は、実際のエアフロ通過空気流量(エアフロ通過空気流量とスロットル通過空気流量はほぼ同一であると考えられるため、以下ではスロットル通過空気流量として説明する)に対して固有の応答特性に基づく応答遅れを有している。AFMモデルM50は、この応答特性をシュミレートしたモデルであり、上記エアフロメータ41の応答遅れを考慮した上で、予想出力値を算出する。
ここで、エアモデルM2は、三つのモデルブロックM2'、M2''、M2'''に分けて考えることができる。モデルブロックM2'は、吸気管内圧力を推定する主モデルブロックである。モデルブロックM2'の部分は、スロットル弁の開度に基づいて、スロットル弁を通過するスロットル通過空気流量を算出し、算出したスロットル通過空気流量に基づいて吸気管内圧力を算出する吸気管内圧力推定手段に対応する。
モデルブロックM2''およびモデルブロックM2'''は、主モデルブロックにより算出された吸気管内圧力に含まれる誤差を修正する誤差修正ブロックである。モデルブロックM2''は、スロットル弁の実際の開度を検出し、検出した実際の開度に基づいてスロットル弁を通過するスロットル通過空気流量を算出し、算出したスロットル通過空気流量に基づいて、エアフロメータによって出力されると予想される予想出力値を算出し、この予想出力値に基づいて吸気管内圧力を算出する。
モデルブロックM2'''は、実際のエアフロメータの出力値に基づいて吸気管内圧力を算出する。モデルブロックM2''により算出される吸気管内圧力と、モデルブロックM2'''により算出される吸気管内圧力との差が、モデルブロックM2'により算出された吸気管内圧力に含まれる誤差圧力に相当する。エアモデルM2では、この誤差圧力をモデルブロックM2'により算出された吸気管内圧力から減算して、吸気管内圧力を修正することができる。
モデルブロックM2'では、踏込み量センサ46の出力値Accpに基づいて電子制御スロットルモデルM40によりスロットル弁開度θtfが算出される。本実施の形態においては、現在の時刻のスロットル弁開度θtfに基づいて、モデルブロックM2'の計算を行なう一方で、スロットル弁に目標スロットル弁開度を送信する時刻を所定時間遅らせる。すなわち、実際のスロットル弁の開度が、電子制御スロットルモデルM40により算出される開度になるのは所定時間後になる。このため、現在の時刻に出力される電子制御スロットルモデルM40のスロットル弁開度は、実質的に所定時間後の実際のスロットル弁の開度を予想していることになる。
算出されたスロットル弁開度θtfに基づいてスロットルモデルM10'によりスロットル通過空気流量mtfが算出される。そして、算出されたスロットル通過空気流量mtfに基づいて吸気弁モデルM20'により吸気管内圧力Pmfが算出される。算出された吸気管内圧力Pmfは、スロットルモデルM10'及び吸気弁モデルM30'に入力される。吸気弁モデルM30'では、吸気管内圧力Pmfに基づいて筒内吸入空気流量mcfが算出され、吸気管モデルM20'に入力される。
したがって、エアモデルM2のモデルブロックM2'全体では、所定時間後のスロットル弁開度θtfを入力することにより、所定時間後の筒内吸入空気流量mcfおよび所定時間後の吸気管内圧力Pmfが算出される。このように、所定時間後の筒内吸入空気流量mcf等を算出することにより、実際の空燃比を目標空燃比に近づけることができる。内燃機関の過渡運転時には筒内吸入空気流量は刻々と変化しており、よって現在の筒内吸入空気流量(或いは、現在の筒内吸入空気流量から算出された筒内充填空気量)に基づいて燃料噴射量を算出しても、実際に噴射するときには既に筒内吸入空気流量が変化してしまっている場合がある。この結果、実際の空燃比が目標空燃比と異なったものとなってしまうことがある。これに対して、所定時間後の筒内吸入空気流量に基づいて燃料噴射量を算出すれば、実際に燃料を噴射するときには、エアモデルにより算出された筒内吸入空気流量になっており、よって実際の空燃比を目標空燃比に近づけることができる。
なお、本実施の形態における第2のエアモデルでは、モデルブロックM2'において、電子制御スロットルモデルM40の出力がスロットルモデルM10'に入力されているが、この形態に限られず、その他の推定値または実際のスロットル弁の開度がスロットルモデルM10'に入力されていても構わない。たとえば、モデルブロックM2'は、本実施の形態における第1のエアモデル(図5参照)と同様に、スロットル弁開度センサの出力値がスロットルモデルM10'に入力されていても構わない。
次に、エアモデルM2では、エアフロメータ41の出力に基づいて、モデルブロックM2'において算出された吸気管内圧力Pmfを修正し、修正した吸気管内圧力に基づいて筒内充填空気量Mcを算出することができる。
モデルブロックM2''において、スロットル弁開度センサ44によって検出された現在のスロットル弁開度θtcに基づいて上記エアモデルM1と同様な計算が行われる。すなわち、スロットルモデルM10''には現在のスロットル弁開度θtcが入力されると共に現在のスロットル通過空気流量mtcが出力される。吸気管モデルM20''には現在のスロットル通過空気流量mtcが入力されると共に現在の吸気管内圧力Pmcが出力される。この吸気管内圧力PmcがスロットルモデルM10''及び吸気弁モデルM30''に入力される。吸気弁モデルM30''では現在の筒内吸入空気流量mccが算出され、吸気管モデルM20''に入力される。
そして、上記計算において算出された現在のスロットル通過空気流量mtcに基づいてAFMモデルM50によりエアフロメータ41の応答遅れを考慮した予想出力値AFMmtが算出される。算出された予想出力値AFMmtがスロットル通過空気流量として吸気管モデルM20'''に入力される。そして、吸気管モデルM20'''および吸気弁モデルM30'''により、上述したのと同様な方法で吸気管内圧力Pmmdlが算出される。このようにして算出された吸気管内圧力Pmmdlは、現在のスロットル弁開度θtcに基づいて、エアフロメータ41によって出力されるであろう出力値にスロットル通過空気流量が等しいと仮定した場合における吸気管内圧力を示している。
一方、モデルブロックM2'''では、実際のエアフロメータ41の出力値AFMがスロットル通過空気流量として吸気管モデルM20''''に入力される。吸気管モデルM20''''により吸気管内圧力Pmafmが算出される。吸気弁モデルM30''''には吸気管内圧力Pmafmが入力され、筒内吸入空気流量mcafmが算出され、吸気管モデルM20''''に再び入力される。このようにして算出された吸気管内圧力Pmafmは、スロットル通過空気流量がエアフロメータ41の出力値に等しいと仮定した場合における吸気管内圧力を示している。
AFMモデルを用いた吸気管内圧力Pmmdlとエアフロメータの出力に基づく吸気管内圧力Pmafmとの差分(Pmmdl−Pmafm)は、エアモデルによって算出された現在の吸気管内圧力とエアフロメータ41に基づいて算出された吸気管内圧力との誤差を表している。この誤差圧力(Pmmdl−Pmafm)をモデルブロックM2'により算出された吸気管内圧力Pmfから減算することにより、誤差圧力を修正した吸気管内圧力(Pmf−Pmmdl+Pmafm)を算出することができる。
なお、図13を参照して、本実施の形態においては、誤差圧力(Pmmdl−Pmafm)を出力する部分にスイッチ51が配置されている。内燃機関の通常の運転時には、スイッチ51は接続状態であり、主モデルブロックにより算出された吸気管内圧力Pmfから誤差圧力(Pmmdl−Pmafm)が減算されて、吸気弁モデルM30に入力される吸気管内圧力Pmfinが算出される。そして、吸気管内圧力Pmfinが吸気管モデルM30に入力され、吸気管モデルM30によって算出された筒内吸入空気流量mcfinに基づいて筒内充填空気量Mcが算出される。この筒内充填空気量Mcに基づいて燃料噴射量が算出される。
次に、電子制御スロットルモデルM40およびAFMモデルM50について説明する。
電子制御スロットルモデルM40は、アクセルペダル45の踏込み量に基づいて現時刻から所定時間T0後のスロットル弁開度θtfを算出するモデルである。本実施の形態においては、踏込み量センサ46によって検出されたアクセルペダル踏込み量Accpと、図14に示したグラフから作成されたマップとに基づいて暫定的な目標スロットル弁開度θr1が求められる。この暫定的な目標スロットル弁開度θr1を所定時間T(例えば、64msec)だけ遅延させた値が、スロットル弁の最終的な目標スロットル弁開度θrになる。そして、ECU31は、目標スロットル弁開度θrとなるようにステップモータ18に対して駆動信号を送出する。
このように、現時刻のスロットル弁の目標スロットル弁開度θrは、現時刻から所定時間Tだけ前の時刻におけるアクセルペダル踏込み量Accpに応じて決定された暫定的な目標スロットル弁開度θr1と等しい。また、ステップモータ18の作動遅れ時間を無視すれば、ステップモータ18に入力される目標スロットル弁開度θrは実際のスロットル弁開度と等しい。このような考えに基づき、電子制御スロットルモデルM40では、現時刻から時間(T−T0)前(但し、0≦T0≦T)における暫定的な目標スロットル弁開度θr1を現時刻から所定時間T0だけ後の時刻tにおけるスロットル弁開度(所定時間後のスロットル弁開度)θtfとして推定する。なお、ステップモータ18の作動遅れ時間を考慮に加えて、所定時間後のスロットル弁開度θtfを設定してもよい。
次に、AFMモデルM50について具体的に説明する。図2および図3を参照して、エアフロメータ41では、上述したように吸気温度計測用抵抗41a1と加熱用抵抗(ボビン部)41a3との温度差を常に一定に維持するように加熱用抵抗41a3に供給する電力を調整する。その時の供給電力に基づいてエアフロ通過空気流量を算出するようにしている。ここで、この供給電力はボビン部41a3およびサポート部41a4から吸気管16内を通過する空気への放熱量を示すことから、エアフロメータ41はボビン部41a3およびサポート部41a4からの放熱量に基づいてエアフロ通過空気流量を算出すると言い換えることができる。
ここで、ボビン部41a3は、より詳細には円筒状のセラミックスボビンに白金熱線を巻回し、その外周にガラスをコーティングすることにより形成される。このため、白金熱線から周囲の空気への放熱は白金熱線と周囲の空気との間にガラス層が介在することにより遅れてしまう。したがって、吸気管16内を通過する空気の流量が急激に増大したような場合であっても、ボビン部41a3からの単位時間当たりの放熱量(以下、単に「放熱量」と称す)は直ぐには増大せず、或る程度の遅れをもって増大することになる。換言すると、ボビン部41a3からの放熱量は実際のエアフロ通過空気流量に対して応答遅れが存在する。また、同様なことがサポート部41a4からの放熱量についても言え、サポート部41a4からの放熱量は実際のエアフロ通過空気流量に対して応答遅れが存在する。
この応答遅れは、一次遅れに近似することができることがわかっており、ボビン部41a3の放熱量の応答遅れは次式(13)で表される。ここで、式(13)におけるωbはエアフロメータ41の出力値から換算したボビン部41a3の放熱量、すなわち放熱遅れが生じた結果ボビン部41a3の白金熱線から実際に放熱される放熱量(以下、「遅れ放熱量」と称す)を示している。また、式(13)におけるWbは、応答遅れを補償した放熱量、すなわち放熱遅れが生じないと仮定した場合におけるボビン部41a3の白金熱線から放熱される放熱量(以下、「完全放熱量」と称す)を示している。すなわち、完全放熱量Wbは、内燃機関が定常運転を行っているときにおける放熱量に等しく、基本的にエアフロメータ41近傍の吸気管16内を通過する空気流量のみの関数である。エアフロメータ41近傍の吸気管16内を通過する空気流量はスロットル通過空気流とほぼ等しいため、完全放熱量Wbはスロットル通過空気流量の関数と考えることができ、スロットル通過空気流量とボビン部41a3からの完全放熱量Wbとの関係は図15のように表すことができる。さらに、式(13)におけるτbは、ボビン部41a3からの放熱における一次遅れの時定数であり、その算出方法については後述する。
同様に、サポート部41a4の放熱量の応答遅れは次式(14)で表される。サポート部41a4からの完全放熱量Wbもスロットル通過空気流量の関数と考えることができ、スロットル通過空気流量とサポート部41a4からの完全放熱量Wsとの関係は、図15に示すグラフのように表すことができる。また、式(14)におけるτsは、サポート部41a4からの放熱における一次遅れの時定数である。
式(13)および式(14)によりボビン部41a3およびサポート部41a4からの遅れ放熱量ωb、ωsが算出される。エアフロメータ41では、放熱遅れが生じた結果ボビン部41a3およびサポート部41a4から実際に放熱される放熱量、すなわち遅れ放熱量に応じて出力電圧が変化するため、式(13)および式(14)によって算出された遅れ放熱量の和(ωb+ωs)に基づいてエアフロメータ41が出力するであろう出力値(予想出力値)AFMmtが算出される。本実施の形態では、エアフロメータ41における遅れ放熱量の和(ωb+ωs)とエアフロメータ41の予想出力値AFMmtとの関係を予め実験的にまたは計算によって求め、図16に示したようなグラフに基づくマップをECU31のROM34に記憶させておく。そして、式(13)および式(14)から算出された遅れ放熱量の和ωb+ωsに基づいて上記マップを用いてエアフロメータ41の予想出力値AFMmtが算出される。なお、上記マップを用いた遅れ放熱量の和ωb+ωsに基づくエアフロメータ41の予想出力値AFMmtの算出は下記式(15)のように表すことができる。
なお、ボビン部41a3の一次遅れの時定数τbは下記式(16)によって、またサポート部41a4の一次遅れの時定数τsは下記式(17)によって算出される。式(16)および式(17)において、uは、エアフロメータ41の検出部における流路、すなわちエアフロメータ41のバイパス通路における単位断面積当たりの空気流量である。単位断面積当たりの空気流量uはエアフロメータ41の出力値AFMに基づいてマップによりまたは所定の計算式により算出される。また、kb、ks、mb、msは予め実験または計算によって求められる定数であり、kb、mbがボビン部41a3についての定数、ks、msがサポート部41a4についての定数をそれぞれ示している。ボビン部41a3とサポート部41a4とでは応答遅れの度合いが異なるので、ボビン部41a3とサポート部41a4とを分離して時定数を設定することによってスロットル通過空気流量から予想出力値を算出するための算出精度を向上させることとしている。
次に、上記AFMモデルM50を内燃機関の制御装置に実装して、実際にスロットルモデルM10によって算出されたスロットル通過空気流量mtからエアフロメータ41の予想出力値AFMmtを算出する場合について説明する。エアフロメータ41の予想出力値AFMmtはAFMモデルM50を用いて、上記式(13)、式(14)を解くことにより表される。この場合、ECU31で処理するために、これらの式を離散化する必要がある。時刻t、計算間隔Δtを用いて式(13)、式(14)を離散化すると、それぞれ下記式(18)、式(19)が得られる。
このようにして実装されたAFMモデルM50では、時刻tにおけるボビン部41a3からの遅れ放熱量ωb(t)、サポート部41a4からの遅れ放熱量ωs(t)およびスロットルモデルM10の式(8)で算出された時刻tにおけるスロットル通過空気流量mt(t)が式(18)および式(19)に代入され、これにより時刻t+Δtにおけるボビン部41a3からの遅れ放熱量ωb(t+Δt)およびサポート部41a4からの遅れ放熱量ωs(t+Δt)が算出される。そして、これら遅れ放熱量ωb(t+Δt)およびωs(t+Δt)を用いて式(15)により時刻t+Δtにおけるエアフロメータ41の予想出力値AFMmt(t+Δt)が算出される。
このようなエアモデルM2を用いることにより、エアモデルに含まれる誤差圧力を考慮して筒内吸入空気流量を算出することができる。
ところで、本実施の形態の内燃機関では、機関減速運転時に気筒への燃料の供給を停止する燃料カット制御を実行している。燃料カット制御を実行している期間中に気筒内に空気を流通させると、すなわち吸気弁6を介して空気を気筒内に流入させると共に排気弁8を介して空気を気筒内から流出させると、排気浄化触媒21には多量の空気が流入する。
排気浄化触媒21に空気、特に酸素が流入すると、酸素は排気浄化触媒21の表面上に吸着する。また、排気浄化触媒21に担持されている貴金属は高温になると互いに結合して大粒となり、表面積の総和が小さくなる。この結合反応は排気浄化触媒21の表面上に吸着されている酸素によって促進される。このため、排気浄化触媒21に多量の空気が流入して、排気浄化触媒20の表面上に保持される酸素の量が増大すると、貴金属の酸化能力等が低下する(酸素被毒)場合がある。したがって、燃料カット制御中には、排気浄化触媒21に酸素が流入しないようにすることが好ましい。
本実施の形態の内燃機関では、燃料カット制御を実行している期間中には、吸気弁6を閉止状態で停止させる吸気弁停止制御を行っている。これにより、燃料カット制御中であっても排気浄化触媒21に酸素が流入することが抑制され、その結果、排気浄化触媒21の酸素被毒が抑制される。
図17に、燃料カット制御を行うときのタイムチャートを示す。時刻tsまでは、通常の運転を継続している。時刻tsまでは、連続的または間欠的に、いずれかの気筒の吸気弁が開状態になって筒内に空気が吸入される。時刻tsにおいて、燃料カット制御を開始している。燃料カット制御の期間中には、吸気弁を閉止状態で停止させる吸気弁停止制御を行っている。時刻tsにおいて、筒内吸入空気流量が零になる。実際の吸気管内圧力は、時刻tsまでは大気圧よりも低くなる。吸気弁停止制御の期間では、吸気管部分における空気の流れが停止する。スロットル弁19は、完全には閉止せずに空気が流通する。このために、吸気管部分23の圧力が徐々に上昇し、大気圧でほぼ一定の値になる。
時刻teにおいて、燃料カット制御を終了すると共に吸気弁停止制御を終了している。時刻teにおいて、吸気弁を再駆動している。吸気弁が再駆動するために実際の吸気管内圧力は再び減少する。
図18に、吸気弁停止制御中の第2のエアモデルのブロック図を示す。吸気弁停止制御が行なわれているときには、吸気管部分23から気筒内に空気は流入しない。エアモデルM2では、それぞれのモデルブロックM2',M2'',M2'''において、吸気弁モデルM30',M30'',M30''',M30''''により算出される前回の筒内吸入空気流量を用いずに、それぞれの吸気管モデルM20',M20'',M20''',M20''''に入力する前回の筒内吸入空気流量mcを零にする。すなわち、モデルブロックM2'においては筒内吸入空気流量mcfを零にし、モデルブロックM2''においては筒内吸入空気流量mccを零にし、筒内吸入空気流量mcmdlを零にする。モデルブロックM2'''においては、筒内吸入空気流量mcafmを零にする。このように、吸気弁停止制御中には、それぞれの吸気管モデルに入力する前回の筒内吸入空気流量を零に切り替える。
それぞれの吸気管モデルM20',M20'',M20''',M20''''において、式(3)および式(4)にmc=0を代入することにより、次の式(20)および式(21)を導出できる。式(20)および式(21)に基づいた吸気管モデルにより、それぞれのモデルブロックにおける吸気管内圧力Pmおよび吸気管内温度Tmを算出することができる。
このように、吸気弁停止制御中においても、吸気管内圧力Pmf,Pmc,Pmmdl,Pmafmを算出することができる。主モデルブロックとしてのモデルブロックM2'からは、吸気管内圧力Pmfが算出される。誤差修正ブロックとしてのモデルブロックM2''およびモデルブロックM2'''からは、吸気管内圧力Pmmdlおよび吸気管内圧力Pmafmが算出される。さらに、吸気弁停止制御中においても、モデルブロックM2'から算出された吸気管内圧力Pmfから、誤差圧力(Pmmdl−Pmafm)を減算した吸気管内圧力を算出することができる。
ところで、本実施の形態における内燃機関の制御装置に用いられているエアフロメータは、熱線式流量計である。前述したように、このエアフロメータは、吸気温度計測用抵抗41a1と加熱用抵抗41a3との温度差が常に一定に維持されるように、加熱用抵抗41a3に供給する電力を調整し、この時の電圧を出力するようになっている。ところが、エアフロメータを流れる空気流量が零になった場合においても、加熱用抵抗等からは僅かな放熱が継続される。このために、本実施の形態におけるエアフロメータは、流量が零になった場合においても出力される流量値が正になる特性を有する。
図4を参照して、本実施の形態におけるエアフロメータは、実際の機関吸気通路における空気流量が零になった場合においても出力電圧が正になっている。実際の空気流量が零になった時に出力電圧が電圧Vg0になる。このように、本実施の形態におけるエアフロメータは、実際の空気流量が零であっても空気流量が正である信号が出力される。
図18を参照して、モデルブロックM2'''においては、エアフロメータの出力値AFMが、吸気管モデルM20''''に入力されている。吸気弁停止制御の期間中においても、エアフロメータの出力値AFMは正になる。このため、吸気管モデルM20''''により算出される吸気管内圧力Pmafmは、時間とともに増加する。
前述の吸気管モデルの式(4)を参照して、吸気管部分から流出する気体の流量mcafmが零である一方で、吸気管に流入する気体の流量mt(エアフローメータの出力値AFM)は正になる。このため、変数(dPm/dt)は正になり、時間とともに吸気管内圧力Pmafmが上昇することが分かる。モデルブロックM2''およびモデルブロックM2'''から算出される誤差圧力を修正した吸気管内圧力(Pmf−Pmmdl+Pmafm)は、時間とともに増加する。
図19に、本実施の形態における第2のエアモデルにおいて、主モデルブロックから算出される吸気管内圧力と、誤差圧力を修正した吸気管内圧力のグラフを示す。横軸が時刻であり、縦軸が吸気管内圧力の推定値である。実線が主モデルブロックとしてのモデルブロックM2'から算出される吸気管内圧力Pmfを示し、破線が誤差圧力を修正した吸気管内圧力(Pmf−Pmmdl+Pmafm)を示している。
時刻tsまでは、通常の運転を行なっている。時刻tsから時刻teまでは、吸気弁停止制御を行っている。時刻teにおいて吸気弁が再駆動されている。時刻tsまでは、誤差圧力を修正した吸気管内圧力(Pmf−Pmmdl+Pmafm)が吸気弁モデルM30に入力される吸気管内圧力Pmfinとして採用されている。時刻tsにおいて、吸気弁が閉止状態で停止することにより、モデルブロックM2'から算出される吸気管内圧力PmfおよびモデルブロックM2',M2'',M2'''から算出される誤差圧力を修正した吸気管内圧力(Pmf−Pmmdl+Pmafm)が上昇する。
時刻ts1において、実際の吸気管内圧力が、ほぼ大気圧になる。時刻ts1から時刻teまでの期間では、モデルブロックM2'により算出される吸気管内圧力Pmfは、ほぼ一定になる。ところが、誤差圧力を修正した吸気管内圧力(Pmf−Pmmdl+Pmafm)は徐々に増加する。圧力の増加は、吸気弁停止制御が終了して、吸気弁が再駆動されるまで継続される。
時刻teにおいて、吸気弁の駆動を再開したときには、誤差圧力を修正した吸気管内圧力(Pmf−Pmmdl+Pmafm)は、実際の吸気管内圧力よりも大きな値になっている。すなわち、ほぼ大気圧よりも高い圧力になっている。このため、吸気弁の駆動を再開したときに、誤差圧力を修正した吸気管内圧力(Pmf−Pmmdl+Pmafm)を吸気弁モデルM30に入力した場合には、筒内吸入空気流量mcfinが、実際の空気流量よりも大きく算出される。このため、燃料噴射弁から噴射される燃料も多くなってしまい、気筒内における空燃比が目標の空燃比よりもリッチ側にずれる。
本実施の形態の内燃機関の制御装置においては、吸気弁停止制御の期間のうち少なくとも一部の期間中に吸気弁を再駆動すべき場合には、吸気弁の駆動を再開する時に使用する吸気管内圧力として、主モデルブロックとしてのモデルブロックM2'から算出される吸気管内圧力Pmfを、吸気弁モデルM30に入力する吸気管内圧力Pmfinに採用している。モデルブロックM2'から算出される吸気管内圧力Pmfに基づいて今回の筒内吸入空気流量mcを算出している。この制御により、吸気弁が閉止状態で停止している状態から吸気弁を再駆動したときに、気筒に流入する空気量を精度良く推定することができる。この結果、気筒において燃焼時の空燃比を目標空燃比に近づけることができる。本実施の形態においては、図18に示すように、スイッチ51を非接続にすることにより、吸気弁モデルM30に入力する吸気管内圧力Pmfinを、モデルブロックM2'により算出される吸気管内圧力Pmfとしている。
図19を参照して、本実施の形態においては、時刻ts1から時刻teまでの期間を、モデルブロックM2'から算出された吸気管内圧力Pmfを吸気弁モデルM30に入力する吸気管内圧力Pmfinとして採用する期間としている。
図20に、本実施の形態の内燃機関の制御装置において、吸気弁を再駆動すべき時の制御のフローチャートを示す。図20は、吸気弁の駆動が再開したときの1回目の計算において吸気弁モデルM30に入力する吸気管内圧力Pmfinを選定するフローチャートである。
ステップ101において、吸気弁の駆動を再開する信号が発信されたか否かが判別される。すなわち、吸気弁停止制御が終了したか否かが判別される。ステップ101において、吸気弁の駆動を再開する信号が発信されていない場合には、この制御を終了する。ステップ101において、吸気弁の駆動を再開する信号が発信された場合には、ステップ102に移行する。
ステップ102においては、モデルブロックM2'から算出される吸気管内圧力Pmfの上昇率が、予め定められた判定値よりも大きいか否かが判別される。すなわち、吸気管内圧力Pmfが、所定の傾きよりも大きい傾きで上昇しているか否かが判別される。ステップ102では、図19に示す時刻tsから時刻ts1までの期間内であるか否かが判別される。ステップ102において、吸気管内圧力Pmfの上昇率が予め定められた判定値よりも大きい場合には、ステップ103に移行する。ステップ103においては、吸気弁モデルM30に入力する吸気管内圧力Pmfinとして、誤差圧力を修正した吸気管内圧力(Pmf−Pmmdl+Pmafm)を選択する。
ステップ102において、算出された吸気管内圧力Pmfの上昇率が予め定められた判定値以下である場合には、ステップ104に移行する。すなわち、図19に示す時刻ts1以降の期間であり、吸気管内圧力Pmfが、ほぼ一定になっている場合には、ステップ104に移行する。ステップ104においては、吸気弁モデルM30に入力する吸気管内圧力Pmfinとして、モデルブロックM2'により算出された吸気管内圧力Pmfを選択する。
次に、ステップ105に移行する。ステップ105においては、ステップ103またはステップ104にて選定された吸気管内圧力Pmfinを用いて、吸気弁モデルM30により、今回の気筒内吸入空気流量mcfinが算出される。
図19を参照して、本実施の形態においては、時刻tsから時刻ts1までの期間において吸気弁を再駆動した場合には、通常運転と同様に、誤差圧力を修正した吸気管内圧力(Pmf−Pmmdl+Pmafm)を選定して、今回の筒内吸入空気流量mcfinを算出している。時刻ts1以降の期間において吸気弁を再駆動した場合には、モデルブロックM2'により算出された吸気管内圧力Pmfを選定して、今回の筒内吸入空気流量mcfinを算出している。
吸気弁停止制御が開始されてから吸気管内圧力が、ほぼ一定になるまでの期間(時刻tsから時刻ts1までの期間)においては、吸気管部分に空気が流入する。このために、この期間に吸気弁を再駆動する場合には、通常運転時と同様に、誤差圧力を修正した吸気管内圧力(Pmf−Pmmdl+Pmafm)を採用した方が、モデルブロックM2'により算出された吸気管内圧力Pmfを採用するよりも精度が高くなる。吸気弁を閉止状態で停止した後において、吸気管内圧力が、ほぼ一定になるまでの期間に吸気弁を再駆動する場合に、誤差圧力を修正した吸気管内圧力を選択することにより、精度よく筒内吸入空気流量を算出することができる。算出された筒内吸入空気流量から精度よく筒内充填空気量を算出することができる。この後の制御では、通常運転と同様の制御を行うことができる。
本実施の形態においては、吸気管内の圧力がほぼ一定になった時に、筒内吸入空気流量を算出するために採用する吸気管内圧力を、誤差圧力を修正した吸気管内圧力からモデルブロックM2'により算出された吸気管内圧力に切り替えているが、この形態に限られず、吸気弁停止制御の期間中の任意の時期に切り替えることができる。例えば、吸気管内の圧力がほぼ一定になった時から所定の時間の経過後に切り替えても構わない。
次に、吸気管内圧力がほぼ一定になっている時刻ts以降の期間に吸気弁を再駆動し、再駆動した後に筒内吸入空気流量を算出する制御について説明する。図19を参照して、時刻teにおいて吸気弁の駆動を再開した直後においては、誤差圧力を修正した吸気管内圧力(Pmf−Pmmdl+Pmafm)は、実際の吸気管内圧力から逸脱している。このため、吸気弁の駆動を再開した直後においては、モデルブロックM2'により算出された吸気管内圧力Pmfを選定して筒内吸入空気流量を算出する。吸気管内圧力が減少して、ほぼ定常状態になった時に、誤差圧力を修正した吸気管内圧力(Pmf−Pmmdl+Pmafm)に切り替えて筒内吸入空気流量を算出する。
図21に、吸気弁の駆動を再開した後の期間において、吸気弁モデルに入力する吸気管内圧力を選定するフローチャートを示す。本実施の形態においては、吸気管内圧力がほぼ一定になっている期間に吸気弁を再駆動したときの1回目の吸気管内圧力の選定は、図20に示すフローチャートにより選定する。吸気弁が再駆動したときの2回目以降の計算において、図21に示すフローチャートにより吸気管内圧力が選定される。
ステップ111において、モデルブロックM2'により算出された吸気管内圧力Pmfの変化率が予め定められた判定値未満であるか否かが判別される。ステップ111においては、図19に示す時刻teから時刻te1の間の期間か否かが判別される。すなわち、吸気管内圧力Pmfが、ほぼ定常状態にならずに下降しているか否かが判別される。
図21を参照して、ステップ111において、モデルブロックM2'により算出された吸気管内圧力Pmfの変化率が予め定められた判定値未満である場合には、ステップ112に移行する。すなわち、図19に示す時刻teから時刻te1までの期間である場合には、ステップ112に移行する。ステップ112においては、吸気弁モデルM30に入力する吸気管内圧力Pmfinとして、モデルブロックM2'により算出された吸気管内圧力Pmfを選定する。
ステップ111において、モデルブロックM2'により算出された吸気管内圧力Pmfの変化率が予め定められた判定値以上である場合には、ステップ113に移行する。吸気管内圧力が、ほぼ定常状態になった場合には、ステップ113に移行する。すなわち、図19に示す時刻te1以降の期間である場合には、ステップ113に移行する。ステップ113においては、吸気弁モデルM30に入力する吸気管内圧力Pmfinとして、誤差圧力を修正した吸気管内圧力(Pmf−Pmmdl+Pmafm)を選定する。
次に、ステップ114に移行する。ステップ114においては、ステップ112またはステップ113にて選定された吸気管内圧力Pmfinを用いて、吸気弁モデルM30により、今回の筒内吸入空気流量mcfinが算出される。算出された筒内吸入空気流量から筒内充填空気量が算出される。
図21に示す制御は、吸気管内圧力がほぼ定常になるまで繰り返し行なうことができる。たとえば、ステップ111において、吸気管内圧力Pmfの変化率が予め定められた判定値以上になるまで、繰り返し計算を行なうことができる。このように、吸気管内圧力がほぼ一定になっている期間に吸気弁を再駆動した後に、吸気弁モデルに入力する吸気管内圧力の推定値を選択することにより、吸気弁を再駆動した後に気筒に流入する空気量を精度良く算出することができる。
本実施の形態においては、モデルブロックM2'により算出された吸気管内圧力Pmfの変化率に基づいて、吸気管内圧力の推定値を切り替えているが、この形態に限られず、吸気管内が定常状態になっているかが判別可能な任意の制御により、吸気管内圧力の推定値を切り替えることができる。たとえば、吸気弁が閉止状態で停止した場合に、モデルブロックM2'におけるスロットルモデルM10'から算出されるスロットル通過空気流量mtfが予め定められた予め定められた判定値未満になったときに、吸気管内圧力を切り替えても構わない。または、モデルブロックM2'において算出された吸気管内圧力Pmfと気圧Paとの差が予め定められた判定値未満になったときに、吸気管内圧力の推定値を切り替えても構わない。
本実施の形態におけるエアフロメータは熱線式の流量計であるが、この形態に限られず、実際の空気流量が零になった場合においても正の流量値を出力するエアフロメータを用いる場合に、本発明を適用することができる。また、エアモデルに含まれる計算モデルは、適宜変更を加えることができる。例えば、それぞれの計算モデルに他の補正項が加えられていても構わない。
(実施の形態2)
図22から図24を参照して、実施の形態2における内燃機関の制御装置について説明する。本実施の形態における内燃機関は、実施の形態1における内燃機関と同様である(図1参照)。また、気筒内に流入する空気量を推定するモデルとして、エアフロメータの出力値を用いて誤差圧力を修正するエアモデルM2を用いることも実施の形態1と同様である。また、吸気弁を閉止状態で停止させる吸気弁停止制御を行うことも実施の形態1と同様である(図13,図18参照)。
図18を参照して、吸気弁を閉止状態で停止している期間には、実施の形態1と同様に、それぞれのモデルブロックM2',M2'',M2'''において、吸気管モデルM20',M20'',M20''',M20''''に入力される前回の筒内吸入空気流量mcf,mcc,mcmdl,mcafmを零とする。本実施の形態における内燃機関の制御装置は、吸気弁を閉止状態で停止している期間にもスイッチ51を接続状態にする。すなわち、誤差圧力(Pmmdl−Pmafm)を吸気管内圧力Pmfから減算している。
図22に、本実施の形態における吸気弁停止制御を行っているときの吸気管内圧力の推定値のグラフを示す。本実施の形態においては、誤差圧力を修正した吸気管内圧力(Pmf−Pmmdl+Pmafm)が、所定の値以上にならないように、予め定められた最大値としてのガード値でガードする。ガード値としては、たとえば、ほぼ大気圧の値を採用することができる。本実施の形態にいては、スロットル弁が全開で定常状態になっている時の吸気管内圧力PmWOTを算出してガード値を更新する。この吸気管内圧力PmWOTの算出方法については後述する。スロットル弁が全開のときの吸気管内圧力は、ほぼ大気圧である。
時刻tsにおいて吸気弁停止制御を開始している。時刻ts1において、吸気管内圧力がほぼ定常状態に達している。ところが、実施の形態1と同様に、機関吸気経路における実際の空気流量が零であっても、エアフロメータは正の流量を出力するために、誤差圧力を修正した吸気管内圧力(Pmf−Pmmdl+Pmafm)は増加する。時刻txにおいて、誤差圧力を修正した吸気管内圧力が、ガード値としての吸気管内圧力PmWOTに達している。
時刻teにて、吸気弁停止制御が終了している。時刻teにおいて、吸気弁が再駆動することにより、誤差圧力を修正した吸気管内圧力(Pmf−Pmmdl+Pmafm)が減少する。時刻tyにおいて、誤差圧力を修正した吸気管内圧力が、ガード値PmWOTに達している。吸気管内圧力は、時刻te1まで減少を続け、時刻te1以降においては、ほぼ定常状態になっている。
本実施の形態においては、時刻tsから時刻txまでの期間に吸気弁が再駆動した場合には、吸気弁モデルM30に入力される吸気管内圧力Pmfinとして、誤差圧力を修正した吸気管内圧力(Pmf−Pmmdl+Pmafm)を選定する。時刻tx以降の期間に吸気弁が再駆動した場合には、吸気弁モデルM30に入力される吸気管内圧力Pmfinとして、ガード値PmWOTを選定する。時刻teから時刻tyまでの期間においても、ガード値として吸気管内圧力PmWOTを選定する。更に、時刻ty以降の期間には、誤差圧力を修正した吸気管内圧力(Pmf−Pmmdl+Pmafm)を選定する。
このように、本実施の形態においては、誤差を考慮した吸気管内圧力を算出し、この吸気管内圧力が予め定められた最大値よりも大きいときに吸気弁を再駆動すべき場合には、予め定められた最大圧力値に基づいて今回の筒内吸入空気流量を算出する。この制御により、吸気弁が閉止状態で停止している状態から吸気弁を再駆動したときに、精度良く吸気管内圧力を推定することができる。この結果、筒内吸入空気流量を精度良く算出することができる。
図23に、本実施の形態におけるガード値を算出するフローチャートを示す。本実施の形態におけるガード値は、スロットル弁開度が全開であって、更に定常状態になっているときの吸気管内圧力の推定値が採用される。本実施の形態においては、スロットル弁開度が全開にて定常状態になっている運転時を選定し、その運転時に吸気管内圧力の推定値を算出する。算出した吸気管内圧力のガード値は、適宜更新する。初期のガード値は、たとえば、大気圧近傍の所定の値がECUに記憶されている。
ステップ121においては、スロットル弁の開度TAが、全開(WOT;Wide Open Throttle)であるか否かが判別される。ステップ121において、スロットル弁の開度が全開でない場合には、この制御を終了する。スロットル弁の開度TAが、全開である場合には、ステップ122に移行する。
ステップ122においては、内燃機関の運転状態がほぼ定常であるか否かが判別される。本実施の形態においては、エアフロメータの出力値AFMの変化率の絶対値が、所定の予め定められた判定値未満であるか否かが判明される。エアフロメータの出力値AFMの変化率の絶対値が予め定められた判定値以上である場合には、内燃機関の運転状態が定常でないと判別され、この制御を終了する。エアフロメータの出力値AFMの変化率の絶対値が予め定められた判定値未満である場合には、ステップ123に移行する。
ステップ123においては、ガード値としての吸気管内圧力PmWOTを算出する。内燃機関の運転状態が定常の場合には、エアフロメータの出力値AFMが筒内吸入空気流量とほぼ等しくなる。このために、本実施の形態においては、エアフロメータの出力値AFMを筒内吸入空気流量としている。この筒内吸入空気流量からガード値として用いる吸気管内圧力PmWOTを算出する。本実施の形態においては、上述の吸気弁モデルの式(7)を用いて、筒内吸入空気流量mcWOTから吸気管内圧力PmWOTを逆算している。
このように、本実施の形態においては、スロットル弁の開度が全開で、更に定常状態の時のエアフロメータの出力値を筒内吸入空気流量として算出した吸気管内圧力を、ガード値に採用している。この制御により、それぞれの内燃機関の機差ばらつきを含んだガード値を算出することができる。すなわち、それぞれの内燃機関の構成部品には、製造誤差等に起因する機差ばらつきを有する。吸気管内圧力がほぼ大気圧のときに、実際のエアフロメータの出力値から算出した吸気管内圧力PmWOTをガード値として採用し、吸気弁が再駆動したときにこの吸気管内圧力PmWOTを用いて筒内吸入空気流量を算出することにより、精度良く筒内吸入空気流量を算出することができる。
たとえば、エアモデルにおいて筒内吸入空気流量を算出する場合には、前述の式(7)に吸気管内圧力Pmを入力する。ところが、式(7)における定数aおよび定数bには、機差ばらつきによる誤差が存在する。このために、吸気管内圧力Pmに大気圧を入力して、式(7)により筒内吸入空気流量を算出すると、この機差ばらつきの影響が残ってしまう。
本実施の形態においては、吸気管内圧力が大気圧の状況下で実際の筒内吸入空気流量mcWOTから、吸気管内圧力PmWOTを逆算している。この値は、式(7)において、たとえばECU31に記憶されている定数aおよび定数bを用いて算出されるために、それぞれの内燃機関の個体差の影響が考慮される。したがって、吸気弁停止制御中にガード値として吸気管内圧力PmWOTを採用することにより、吸気弁を再駆動したときに、より正確な筒内吸入空気流量を算出することができる。
図24に、吸気管内圧力と筒内吸入空気流量との関係を示すグラフを示す。上記の説明においては、式(7)に基づく計算によりガード値を算出しているが、この形態に限られず、エアフロメータの出力値に基づいて吸気管内圧力を算出できれば構わない。例えば、図24に示すグラフからアクセル開度が全開の時のエアフロメータの出力値AFMWOTを筒内吸入空気流量として、このときの吸気管内圧力PmWOTを算出することができる。図24に示すグラフをマップにしたものをECU31に記憶させておき、エアフロメータの出力値AFMWOTから吸気管内圧力PmWOTを算出しても構わない。
また、本実施の形態においては、算出したガード値を前回に算出したガード値と置き換えている。内燃機関は、使用を継続すると経年劣化が発現する。このため、機差ばらつきの大きさは、内燃機関を使用するとともに変化する。ガード値として採用する吸気管内圧力PmWOTを更新することにより、機差ばらつきの影響の他に、経年変化の影響も含めたガード値を算出することができる。
本実施の形態においては、ガード値としてエアフロメータの出力値から算出される吸気管内圧力を採用しているが、この形態に限られず、エアモデルにより算出される吸気管内圧力PmWOTを採用しても構わない。たとえば、図13を参照して、スロットル弁が全開で内燃機関が定常状態になったときに、モデルブロックM2'''におけるエアフロメータの出力値AFMから算出される吸気管内圧力Pmafmが、ガード値として採用されても構わない。
その他の構成、作用および効果については、実施の形態1と同様であるので、ここでは説明を繰り返さない。
上記の実施の形態は、適宜組み合わせることができる。たとえば、実施の形態1において、吸気弁停止制御の期間のうち、一部の期間中において吸気管内圧力の推定値を切替え、その他の期間中に吸気管内圧力の推定値をガード値でガードしても構わない。
上述のそれぞれの図において、同一または相当する部分には同一の符号を付している。なお、上記の実施の形態は例示であり発明を限定するものではない。また、実施の形態においては、特許請求の範囲に含まれる変更が意図されている。