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JP2011098876A - 半導体性のカーボンナノチューブの濃縮方法 - Google Patents

半導体性のカーボンナノチューブの濃縮方法 Download PDF

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Abstract

【課題】半導体性のカーボンナノチューブを短時間で高純度に濃縮することができ、同時に半導体性のカーボンナノチューブの直径分布を狭小化することができ、エレクトロニクスに重要な高い化学的、電子的品質を有する半導体性のカーボンナノチューブを得ることが可能な半導体性のカーボンナノチューブの濃縮方法を提供する。
【解決手段】金属性のカーボンナノチューブと半導体性のカーボンナノチューブとが混在する原料のカーボンナノチューブを強酸水溶液に分散する工程と、強酸水溶液中に分散されたカーボンナノチューブにマイクロ波を照射することにより金属性のカーボンナノチューブを選択的に消滅させて半導体性のカーボンナノチューブを濃縮する工程とを含むことを特徴とする。
【選択図】なし

Description

本発明は、半導体性のカーボンナノチューブの濃縮方法に関するものである。
単層カーボンナノチューブ(single-walled carbon nanotubes:SWNTs)には、その合成過程において不可避的に金属性のもの(m-SWNTs)と半導体性のもの(s-SWNTs)とが混在しているが、合成工程から直接に純粋なs-SWNTsを得る方法は未だ提案されていない。
そのため、s-SWNTsのさらなる研究が著しく妨げられ、従来のシリコンデバイスを凌駕する最も有力な候補として広く信じられているs-SWNTsのエレクトロニクスへの応用を大きく制限している。
このような現状において、合成されたm-SWNTsとs-SWNTsとの混合物からs-SWNTsを選択的に得る方法が求められている。
近年では、SWNTsへの化学修飾や、物理的技術によって、m-SWNTsとs-SWNTsとの僅かな化学構造の差異に基づいてm-SWNTsまたはs-SWNTsを選択的に除去し、これらを分離することが特に検討されてきた。
しかし、これらの技術は、望まないコンタミネーションの導入、複雑な作業工程、あるいはスケールアップや工業的実施の困難性等の問題点を抱えている。そのため、完全な半導体収率で最適な直径のナノチューブを得ることができ、より簡便でスケールアップも可能なアプローチが望まれている。
最近、カーボンナノチューブを強酸水溶液中にて加熱処理あるいは超音波処理することにより、金属性の単層カーボンナノチューブを選択的に除去できることが報告された(非特許文献1参照)。
しかしながら、このような熱反応では処理に時間を要し、引用文献1に記載されている処理条件では、例えば24時間の超音波処理や、60℃、4週間の熱反応を要する。
一方、従来の化学的アプローチを超える利点も有するものとして、ナノチューブ化学にはマイクロ波誘導技術が導入されている。最近、m-SWNTsとs-SWNTsの誘電係数の相違により、ランダムネットワークのSWNTフィルムにマイクロ波を照射することによりm-SWNTsが選択的に破壊されることが報告された(非特許文献2、3参照)。
J. AM. CHEM. SOC. 127, NO. 14, 2005 5197 Current Applied Physics 2008, 8, 725-728 Journal of Physical Chemistry C 2009, 113, 7134-7138
しかしながら、非特許文献2、3の方法は、m-SWNTsの選択的な破壊を可能とするものの、m-SWNTsとs-SWNTsの両方を含むナノチューブバンドルの強い凝集により、m-SWNTsの除去が不完全で、マイクロ波照射の間に隣接するm-SWNTsによる加熱でs-SWNTsが損傷することも避けられない。そのため、化学的および電子的に高品質で、純度の高いs-SWNTsに基づくナノデバイスの製造への障壁となっている。また、スケールアップが難しいという問題点もある。
本発明は、以上の通りの事情に鑑みてなされたものであり、半導体性のカーボンナノチューブを短時間で高純度に濃縮することができ、同時に半導体性のカーボンナノチューブの直径分布を狭小化することができ、エレクトロニクスに重要な高い化学的、電子的品質を有する半導体性のカーボンナノチューブを得ることが可能な半導体性のカーボンナノチューブの濃縮方法を提供することを課題としている。
本発明は、上記の課題を解決するために、以下のことを特徴としている。
第1:金属性のカーボンナノチューブと半導体性のカーボンナノチューブとが混在する原料のカーボンナノチューブを強酸水溶液に分散する工程と、強酸水溶液中に分散されたカーボンナノチューブにマイクロ波を照射することにより金属性のカーボンナノチューブを選択的に消滅させて半導体性のカーボンナノチューブを濃縮する工程とを含むことを特徴とする半導体性のカーボンナノチューブの濃縮方法。
第2:強酸水溶液中に分散されたカーボンナノチューブにマイクロ波を照射することにより、金属性のカーボンナノチューブを選択的に消滅させて半導体性のカーボンナノチューブを濃縮すると同時に、半導体性のカーボンナノチューブのうち直径のより短いものを選択的に消滅させて直径のより長いものを選択的に残存させ、半導体性のカーボンナノチューブの直径分布を原料のカーボンナノチューブよりも狭小化することを特徴とする上記第1の半導体性のカーボンナノチューブの濃縮方法。
第3:カーボンナノチューブが単層カーボンナノチューブであることを特徴とする上記第1または2のいずれかの半導体性のカーボンナノチューブの濃縮方法。
本発明によれば、強酸水溶液中に分散することで凝集せず均一に分散されたカーボンナノチューブに対してマイクロ波を照射することで、金属性のカーボンナノチューブが選択的に破壊されて消滅し、半導体性のカーボンナノチューブを短時間で高純度に濃縮することができる。これと同時に、半導体性のカーボンナノチューブのうち直径のより短いものを選択的に消滅させて直径のより長いものを選択的に残存させ、半導体性のカーボンナノチューブの直径分布を原料のカーボンナノチューブよりも狭小化することができる。
さらに、穏和な温度条件でマイクロ波による処理を行うことができるため、マイクロ波処理時に引き起こされるカーボンナノチューブ側壁の損傷を最小化し、同時に分離効率を高めることができる。
このように、濃縮された半導体性のカーボンナノチューブは良好な化学的および電子的品質を保持し、単一の工程で半導体性のカーボンナノチューブを濃縮しかつ直径分布を狭小化する本発明の方法は、半導体性のカーボンナノチューブに基づくエレクトロニクスのためのスケールアップした応用に適している。
図1は、マイクロ波処理後およびマイクロ波未処理のサンプルのそれぞれについて得られたラマンスペクトルのRBMsであり、(a)は励起波長514.5nm、(b)は励起波長632.8nmで測定したものである。 図2は、マイクロ波未処理SWNTsおよびマイクロ波処理および熱処理後のs-SWNTsについてラマンスペクトルのRBMsを励起波長514.5nmで測定したものである。挿入図は半導体および金属領域のRBMsを拡大して示したものである。 図3は、THFに懸濁したマイクロ波未処理SWNTsおよび、マイクロ波処理および熱処理後のSWNTsの光学吸収スペクトルである。 図4は、60μm厚に標準化したSWNT膜の電流−電圧(I-V)特性を示す。 図5は、実施例における典型的なSWNT膜のFE-SEM像であり、(a)はマイクロ波処理および熱処理後のs-SWNTs、(b)は(a)に示された領域の拡大像、(c)はメタノール溶液の濾過により得られたマイクロ波未処理SWNTs、(d)は優れた機械特性を示す配向したs-SWNTsの像である。
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明において原料に用いられるカーボンナノチューブとしては、特に限定されるものではなく、例えば、単層カーボンナノチューブ、あるいは二層カーボンナノチューブ等の多層カーボンナノチューブを用いることができる。カーボンナノチューブの製法も特に限定されるものではなく、例えば、HiPco法、アーク法、レーザーアブレーション法、CVD法等によるものを用いることができる。
通常の合成法による単層カーボンナノチューブは、金属性の単層カーボンナノチューブ(m-SWNTs)の含有率が約30%であるといわれているが、本発明においては、その割合は任意であってよい。
本発明では、最初の工程として、金属性のカーボンナノチューブと半導体性のカーボンナノチューブとが混在する原料のカーボンナノチューブを強酸水溶液に分散する。強酸水溶液を用いることで、カーボンナノチューブのバンドルを剥離し、金属性のカーボンナノチューブと半導体性のカーボンナノチューブとを分離してこれらを均一に分散させることができる。
強酸としては、硫酸、硝酸、塩酸等を用いることができる。
好ましい態様の一つでは、95%以上の濃硫酸と50〜70%の濃硝酸とを0.8:1.2〜1.2:0.8の体積比で氷浴中にて混合し、温度を室温近くに維持しながら混合して強酸水溶液が調製される。
強酸水溶液中における原料のカーボンナノチューブの濃度は、特に限定されないが、例えば、0.01〜0.2mg/mlとすることができる。
強酸水溶液に原料のカーボンナノチューブを添加した後、超音波処理することが好ましい。例えば、数分程度の間室温で超音波処理することで、カーボンナノチューブの分散とバンドルの剥離を促進することができる。超音波処理の時間を長くし過ぎると、カーボンナノチューブの側壁に欠陥が導入され、その結果としてナノチューブが短く切断される場合がある。
本発明では次の工程として、カーボンナノチューブを分散した強酸水溶液にマイクロ波を照射する。
マイクロ波を照射する方法は、特に限定されないが、例えば、マイクロ波オーブン等を用いて行うことができ、工業的な実施においては、例えばフローセル型のマイクロ波照射装置の利用等も考慮される。マイクロ波の照射条件としては、特に限定されないが、例えば、好ましくは50〜1000W、より好ましくは300〜600Wの照射強度で、好ましくは300MHz〜3THz、より好ましくは300〜3000MHzの波長域のマイクロ波を照射することで行うことができる。
マイクロ波の照射時において、カーボンナノチューブを分散した強酸水溶液の温度は、好ましくは-30〜180℃、より好ましくは80〜120℃の範囲とされる。例えば、カーボンナノチューブを分散した強酸水溶液を収容した反応容器を水浴中に配置して等温に維持しながらマイクロ波照射を行うことができる。
マイクロ波の照射時間は、好ましくは1〜1440分、より好ましくは10〜60分の範囲とされる。なお、マイクロ波照射の強度、温度、時間等のそれぞれの好適な条件は、その他の条件の設定にも依存するため、本発明は上記の範囲に限定されるものではない。
本発明によれば、マイクロ波照射と酸による分散の組み合わせにより高効率でs-SWNTsの濃縮が可能とされる。生成物はほぼ100%のs-SWNTsを含み、原料に比べてより狭い直径分布をもつ。このm-SWNTsおよび小径のs-SWNTsの優先的な消滅は、穏和な条件での強酸水溶液中への分散とマイクロ波照射との組み合わせに基づいている。
すなわち、凝集が解かれたSWNTsを含む均一溶液にマイクロ波照射がされることで、m-SWNTsとs-SWNTsとが十分に分別される。そしてs-SWNTsを高効率で欠陥の少ない状態で濃縮するためには、穏和な条件は必須であり、生成物の特性に鍵となる役割を果たす。上記したような水浴等による低温制御下にてマイクロ波照射を行うことにより、反応は低温で穏和な条件にて長い処理時間の間に進行し、そのため金属および半導体の異なる型のカーボンナノチューブを強酸水溶液中で良く分散させ、十分に分別することができる。収率と得られるs-SWNTsの純度の両方を考慮すると、実施例の条件においてはマイクロ波照射は15分間程度が最適で、これによりほとんど全てのm-SWNTsは選択的に黒鉛断片に破壊されSWNT特性を示さなくなる。一方、高い化学反応性をもつ小径の細いs-SWNTsは長径の太いものに比べて優先的に攻撃される。それゆえ、残ったs-SWNTsは直径が狭められ、損傷を最小とし且つ収率を最大とすることができる。
このようにして強酸水溶液中でのマイクロ波処理を行った後、続いて簡易な濾過と熱処理を行うことにより、マイクロ波未処理のSWNTsが示すような電子的および機械的性質も保持する濃縮されたs-SWNTsが得られる。
例えば、フレキシブルなSWNTフィルムを作製する場合には、マイクロ波処理後の強酸水溶液を水で希釈した後、真空濾過し、濾過残渣の固体をメタノール等の溶媒中に再懸濁する。そして、PTFEフィルタ等を用いて吸引濾過することで、バッキーペーパー状のSWNTsフィルムを得ることができる。
SWNTsの熱処理は、残存する吸着物を除去するために行われる。熱処理は、例えば、アルゴン等の不活性ガス雰囲気にて約900℃で1時間程度の条件で行うことができる。
本発明により得られるSWNTフィルムは、この熱処理後にもSWNTsの特徴を保持し、エレクトロニクスに重要なより高い化学的、電子的品質を示す。
以下、実施例により本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれらの実施例に何ら限定されるものではない。
[強酸水溶液中でのSWNTsのマイクロ波処理およびSWNTフィルムの調製]
硫酸および硝酸(Waco Pure chemical, Ltd.)を氷浴中にて温度を室温近くに維持しながらゆっくりと混合した。典型的には、97% H2SO4および60% HNO3を1:1の体積比で混合し、強酸水溶液を調製した。
次に、3mgのSWNTs(m-SWNTsとs-SWNTsとがバンドル状に混合した単層カーボンナノチューブ:HiPcoチューブ、Carbon Nanotechnologies, Inc.製)を30mlの上記強酸水溶液を入れたフラスコに添加した。この溶液を10分間室温で超音波処理し、SWNTsを良く分散させバンドルを剥離した。
次に、このフラスコ内の溶液にマイクロ波を照射した。マイクロ波照射は改良したマイクロ波オーブン(500W、2450MHz)で行った。このマイクロ波オーブンは水冷却システムとして、反応を穏和な温度条件(100℃)にて進行させるための水浴を備えている。溶液を入れたフラスコを、予め沸点近傍まで加熱した水浴中に配置し、この状態でマイクロ波オーブンにてマイクロ波を照射した。照射時間は0〜30分の間で5分間隔の各条件で行った。
その後、溶液を大量の脱イオン水で希釈するとともに、外部の氷浴で冷却し、0.45μm HA フィルタ(Millipore Corp., Ireland)で吸引濾過した。この工程は濾液が中性になるまで数回繰り返した。
フレキシブルなSWNTフィルムを得るために、濾過残渣の固体をメタノール中に再懸濁し、0.2μm ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)フィルタで真空濾過した。徐々に吸引濾過した後、PTFEフィルタを剥がすことで、バッキーペーパー状のSWNTsを得た。
その後一晩室温で乾燥し、最後に、アルゴン雰囲気にて900℃で1時間、および空気中にて350℃で30分の間熱処理し、残った吸着物を除去した。このようにしてSWNTフィルムのサンプルを得た。
[ラマンスペクトル]
吸引濾過によりカーボンナノチューブを処理して作製したフィルムのラマンスペクトルは、ラマン分光器(LabRAM HR-800、堀場製作所)を用いてレーザ励起波長514.5nmおよび632.8nmで測定した。
混合物がm-SWNTsまたはs-SWNTsを含むことを決定するために、ラマン散乱は有力なツールであり、低周波数に位置するRadial Breathing Mode(RBM)および高周波数に位置するtangential mode(G-バンド)の両方はナノチューブ特性に関連する重要なデータを提供する。
片浦プロットとして知られるように、金属性および半導体性の両方のHipco SWNTsは514.5nmおよび632.8nmの励起によりそれぞれ探知することができる。半導体性および金属性のナノチューブは、それぞれ、514.5nm励起により150〜220cm-1、220〜300cm-1で共鳴する。対照的に、632.8nmの励起ではm-SWNTsのRBMsが低周波数側になりs-SWNTsのRBMsが高周波数側になる。
図1(a)はマイクロ波未処理およびマイクロ波処理後のラマンスペクトルのRBMsを示す(514.5nm)。短時間の超音波処理(マイクロ波未処理:0min)により明確なラマンピークが現れ、これは強酸水溶液中に良く分散したバンドル化の少ないSWNTsの存在を示している。
ところが、同図の底部に示すマイクロ波未処理のSWNTsのRBMsに比べて、マイクロ波処理の時間の増加とともに、高周波数のRBMsに位置するラマンピークは次第に減衰し、やがて完全に消滅した。一方、低周波数のピークは良く維持された。
高周波数のRBMsにおけるSWNTsに関連するピークの消滅と、低周波数でのs-SWNTsの特性の増大は、処理の間におけるm-SWNTsの優先的な除去とその結果としてのs-SWNTsの濃縮を強く示唆している。
また、s-SWNTsに由来する低周波数のピークはやや高周波数側へのシフトが観測された。これは、熱処理により吸着物を除去した後にピークシフトが回復した事実から確認されるように、カーボンナノチューブと吸着イオンとの間の電荷移動から生じると予測される(図2参照)。
さらに、s-SWNTsの濃縮は、図2に示すように、マイクロ波未処理SWNTsおよび、15分間のマイクロ波照射とアルゴン中での900℃の熱処理後のs-SWNTsのラマンスペクトルのG-バンドの線形変化からも証拠付けられる。
マイクロ波未処理SWNTsに観測される、Breit-Wigner-Fano(BWF)線形として記述されm-SWNTsに帰属するブロードで非対称なG-バンドは、対照的に、マイクロ波処理サンプルには見られなかった。その代わりに、4cm-1だけ高周波数にシフトしたより狭いG-バンドが存在するが、これはマイクロ波処理後の生成物におけるs-SWNTsの実質的な濃縮を示すさらなる証拠を提供する。
図1(b)に示すように、632.8nmで記録されたラマンスペクトルでも同様の結果が得られた。低周波数でのm-SWNTsが存在しなかった点とは別に興味深い点は、マイクロ波処理時間の増加とともに、高周波数で共鳴した小径の細いs-SWNTsは次第に特徴を失い、一方、より長径のs-SWNTsが残存した。これは、大きな曲率半径とC-C結合配置の歪みのために、マイクロ波処理の間の反応時間が長くなるとともに小径のs-SWNTsが長径のものに比べて優先的に破壊され得ることを示している。以上のラマンスペクトルの結果は、本発明の方法によりm-SWNTsおよび反応性の高い小径のs-SWNTsが破壊除去され、直径分布の狭いs-SWNTsが濃縮されたことを証拠付ける。
[吸収スペクトル]
テトラヒドロフラン(THF)に分散したSWNTsの溶液の吸収スペクトルを、分光光度計(UV-3150、(株)島津製作所製)を用いて光路長10mmのパイレックス(登録商標)セルで測定した。
濃縮されたs-SWNTsの電子状態を特定するために、マイクロ波未処理の熱処理したSWNTsの紫外-可視-近赤外吸収スペクトルを測定した(図3)。既に報告されているとおり、van Hove singularityの状態密度間のエネルギー遷移を示し、典型的には約1000〜1600nmのs-SWNTsの第一遷移(S11)、550〜1000nmの第二遷移(S22)、および450〜650nmの第一金属遷移(M11)を示した。
SWNTsを化学修飾した場合、付加による二重結合の飽和のために、特に化学修飾率が高い場合では、それらの元の電子的性質を大きく失い、吸収スペクトルに特徴を示さなくなることが知られているが、このような修飾SWNTsの場合とは異なり、本実施例においてs-SWNTsの効果的な濃縮を目的として適用された穏和なマイクロ波処理条件では、マイクロ波処理したSWNTsの固有の電子構造は、図3の明白かつ特徴的な吸収ピークにより証拠付けられるように高温での熱処理後も保持された。
一方、マイクロ波未処理のSWNTsのスペクトルと対比して、マイクロ波処理および熱処理後のs-SWNTsにはM11遷移が見られなかったが(図3)、これはマイクロ波処理の間においてm-SWNTsが大幅に除去されたことを示している。
他の興味深い点は、マイクロ波処理および熱処理後のs-SWNTsの吸収スペクトルのS11半導体遷移の弱さと高波長側への若干のシフトであり、これは小径のs-SWNTsの選択的な除去によりs-SWNTsの直径分布が狭くなったことを示している。
[SWNT膜のI-V特性]
SWNT膜のI-V特性は、パラメータアナライザ(E5270B Aglient Tecnologies Inc.)を用いて2つのタングステンプローブにより記録した。より良く結果を比較し分析するために、全てのナノチューブ膜は同じサイズの20×20mm2に切り取り、これをサンプルステージに固定した。シート抵抗(Rs)は低電流−低バイアス線形領域で見積もった。SWNTの平均厚み(t)は表面計測プロファイラ(Alpha-Step IQ KLA Tencor Corp.)を用いて測定した。
マイクロ波処理した熱処理なしおよび熱処理後のs-SWNTsと、これらに対応するマイクロ波未処理のSWNTsについて、2探針法により伝導度を測定した。図4は、これらの膜の電流-電圧(I-V)トレースである。測定された膜の厚みは、比較のために60μmに標準化した。s-SWNTsが濃縮された膜の伝導度は、マイクロ波未処理の熱処理した膜に比べて大きく減少した。熱処理後に伝導度はやや増加したが、これは吸着不純物の除去とナノチューブ構造の高品質化を示している。
マイクロ波処理および熱処理後のs-SWNTsの抵抗値は約1670Ωで、マイクロ波未処理のSWNTsの抵抗値(約195Ω)に比べて8倍大きい。幾つかの実験工程は抵抗値を増加させ得るであろうが、この伝導度の大きなロスは、マイクロ波処理の間におけるm-SWNTsの除去とs-SWNTsの濃縮を妥当化し、これは定性的にラマンおよび紫外-可視-近赤外吸収スペクトルの結果とも一致する。
[膜のSEM観察]
走査型電子顕微鏡(SEM)による観察は、フィールドエミッション走査電子顕微鏡(加速電圧5.0kV、ビーム電流10μA、S-4800:JEOL)により、標体を接着カーボンテープ(DTM 9101 JEOL Datum)でサンプルホルダに保持して行った。
図5はマイクロ波未処理(図5(c))およびマイクロ波処理および熱処理後(図5(a))のs-SWNTsの典型的なSEM像であり、比較のために同じ倍率で測定したものである。図5(a)に示すように、このような低倍率と装置の分解能レベルでは明確なナノチューブやそのバンドルはほとんど観察されなかった。
しかしながら、図5(a)の領域においてさらに倍率を拡大した像では、図5(b)に示すように非常に明確なナノチューブが観察された。ナノチューブバンドルのサイズは図5(c)のマイクロ波未処理のSWNTsよりも小さく、マイクロ波処理時の強酸水溶液においてSWNTsは均一に分散するだけでなくSWNTsの脱凝集も起こったことを示している。そしてこのサイズはm-SWNTsからの高効率での分離も示唆している。
このマイクロ波処理および熱処理後のs-SWNTsの優れた機械的性質は、s-SWNTsのバルキーな膜をピンセットで剥がすことを試みたときに証明された。図5(d)に示すように、外部からの張力によってもナノチューブは分離せずに配向し、これは本発明の方法により得られた濃縮s-SWNTsがカーボンナノチューブ本来の性質を保持し、本発明の方法の信頼性と実施可能性を示している。

Claims (3)

  1. 金属性のカーボンナノチューブと半導体性のカーボンナノチューブとが混在する原料のカーボンナノチューブを強酸水溶液中に分散する工程と、強酸水溶液中に分散されたカーボンナノチューブにマイクロ波を照射することにより金属性のカーボンナノチューブを選択的に消滅させて半導体性のカーボンナノチューブを濃縮する工程とを含むことを特徴とする半導体性のカーボンナノチューブの濃縮方法。
  2. 強酸水溶液中に分散されたカーボンナノチューブにマイクロ波を照射することにより、金属性のカーボンナノチューブを選択的に消滅させて半導体性のカーボンナノチューブを濃縮すると同時に、半導体性のカーボンナノチューブのうち直径のより短いものを選択的に消滅させて直径のより長いものを選択的に残存させ、半導体性のカーボンナノチューブの直径分布を原料のカーボンナノチューブよりも狭小化することを特徴とする請求項1に記載の半導体性のカーボンナノチューブの濃縮方法。
  3. カーボンナノチューブが単層カーボンナノチューブであることを特徴とする請求項1または2に記載の半導体性のカーボンナノチューブの濃縮方法。
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