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JP2011089042A - 無機有機ハイブリッド水性コーティング組成物 - Google Patents

無機有機ハイブリッド水性コーティング組成物 Download PDF

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JP2011089042A JP2009244096A JP2009244096A JP2011089042A JP 2011089042 A JP2011089042 A JP 2011089042A JP 2009244096 A JP2009244096 A JP 2009244096A JP 2009244096 A JP2009244096 A JP 2009244096A JP 2011089042 A JP2011089042 A JP 2011089042A
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inorganic
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JP2009244096A
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Hiroyuki Honda
博幸 本多
Rie Tomita
理会 冨田
Hiroto Yoneda
宏人 米田
Satoru Urano
哲 浦野
Noburo Tomita
伸朗 冨田
Toshitaka Kawanami
俊孝 川浪
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Nippon Paint Co Ltd
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Abstract

【課題】耐電圧性および放熱性に優れたコーティング膜を得ることができる水性コーティング組成物を得る。
【解決手段】本発明の無機有機ハイブリッド水性コーティング組成物は、原料アルコキシシランを加水分解および縮合して得られるポリシラノール化合物(a)、ならびに、スルホニウム基、プロパルギル基および炭素数が8〜24である長鎖炭化水素基を有するエポキシ変性樹脂(b)を含む、水を媒体としたコーティング組成物であって、上記エポキシ変性樹脂(b)は、樹脂固形分100gあたりのスルホニウム基の量が70〜180mmol、プロパルギル基の量が80〜300mmolおよび長鎖炭化水素基の量が5〜120mmolである。
【選択図】なし

Description

本発明は、無機有機ハイブリッド水性コーティング組成物、このコーティング組成物を用いたコーティング膜の形成方法およびこれにより得られるコーティング膜に関するものである。
電気・電子機器においては、導体上に保護および絶縁のための絶縁皮膜が形成された構造を含むモジュールが一般的に用いられている。また、導体上に上記絶縁皮膜を形成する方法の一つとして、電着塗装が知られている。
電気・電子機器におけるモジュールは、実使用で発熱すると、モジュールに熱が蓄積され、機器内部の温度が上昇することによって、故障や誤作動等のトラブルが発生するおそれがある。このため、絶縁皮膜には高い絶縁性だけでなく、発生した熱を速やかに放散させる性能、すなわち、放熱性が要求されてきた。
放熱性を付与するための方法としては、窒化アルミニウム、窒化ホウ素等の無機フィラーを配合する方法が一般的に知られている。その窒化ホウ素粒子と不飽和炭化水素基を有するスルフィド変性エポキシ樹脂とを含むカチオン電着塗料組成物が、絶縁性および放熱性に優れた電着塗膜を形成することができることが知られている(例えば、特許文献1参照)。しかし、近年のモジュールの高性能化および高性能化によって、さらなる放熱性の向上が求められている。
一方、ポリイミドの主鎖中に無機成分であるシロキサン結合を導入したアニオン性電着塗料組成物から得られる塗膜が、耐熱性と耐電圧性とを有することが知られている(例えば、特許文献2参照)。しかしながら、一般的に耐電圧性と放熱性とは相反する関係であり、耐熱性と耐電圧性を有する材料に、放熱性を付与することは困難であった。
特開2006−265658号公報 特開2005−228984号公報
本発明の目的は、耐電圧性および放熱性に優れたコーティング膜を得ることができる水性コーティング組成物を得ることにある。
本発明の無機有機ハイブリッド水性コーティング組成物は、原料アルコキシシランを加水分解および縮合して得られるポリシラノール化合物(a)、ならびに、スルホニウム基、プロパルギル基および炭素数が8〜24である長鎖炭化水素基を有するエポキシ変性樹脂(b)を含む、水を媒体としたコーティング組成物であって、上記エポキシ変性樹脂(b)は、樹脂固形分100gあたりのスルホニウム基の量が70〜180mmol、プロパルギル基の量が80〜300mmolおよび長鎖炭化水素基の量が5〜120mmolである。ここで、上記ポリシラノール化合物(a)が、上記エポキシ変性樹脂(b)によって水媒体中に分散されていてよい。また、上記エポキシ変性樹脂(b)は、ノボラッククレゾール型骨格またはノボラックフェノール型骨格を有し、数平均分子量が700〜5000であってよく、上記長鎖炭化水素基および上記プロパルギル基の合計量が、樹脂固形分100gあたり180mmol以上であってよく、上記スルホニウム基、上記長鎖炭化水素基および上記プロパルギル基の合計量が、樹脂固形分100gあたり400mmol以下であってよい。
さらに、上記原料アルコキシシランは、トリアルコキシシランモノマーを含んでいてもよく、上記トリアルコキシシランモノマーは、珪素原子に直接炭素原子が結合した有機基を有しており、上記有機基は、炭素数6〜12のアルキル基、ビニル基、フェニル基、およびグリシドキシプロピル基からなる群から選ばれるものであってよい。
本発明の無機有機ハイブリッド水性コーティング組成物においては、上記ポリシラノール化合物(a)と上記エポキシ変性樹脂(b)との樹脂固形分質量比が15/85〜90/10の範囲内であってよい。
本発明の無機有機ハイブリッド水性コーティング組成物の製造方法は、原料アルコキシシランを加水分解および縮合して得られるポリシラノール化合物(a)を、スルホニウム基、プロパルギル基および炭素数が8〜24である長鎖炭化水素基を有するエポキシ変性樹脂(b)によって、水媒体中に分散させるものであり、上記エポキシ変性樹脂(b)は、樹脂固形分100gあたりの上記スルホニウム基の量が70〜180mmol、上記プロパルギル基の量が80〜300mmolおよび上記長鎖炭化水素基の量が5〜120mmolである。
本発明のコーティング膜の形成方法は、先の無機有機ハイブリッド水性コーティング組成物を用いてコーティング膜を形成するものである。ここで、上記コーティング膜の形成が、電着塗装によって行われてもよい。
本発明のコーティング膜は、先の形成方法によって得られる。
本発明の無機有機ハイブリッド水性コーティング組成物は、原料アルコキシシランを加水分解および縮合して得られるポリシラノール化合物(a)、ならびに、スルホニウム基、プロパルギル基および炭素数が8〜24である長鎖炭化水素基を有するエポキシ変性樹脂(b)を含んでおり、耐電圧性および放熱性に優れたコーティング膜を得ることができる。
これは、上記エポキシ変性樹脂(b)に上記ポリシラノール化合物(a)を組み込むことによって、上記エポキシ変性樹脂(b)が有する優れた耐電圧性を維持したまま、上記ポリシラノール化合物(a)によって放熱性を付与することができているためであると考えられる。本発明のコーティング組成物において上記エポキシ変性樹脂(b)は、スルホニウム基が親水性基として水分散性を付与するとともに、長鎖炭化水素基およびプロパルギル基が疎水性基として機能し、ポリシラノール化合物(a)の水中での安定化に寄与しているものと考えられる。これら3種類の官能基の量を適切に設定することにより、安定性が良好なコーティング組成物が得られていると考えられる。
本発明の無機有機ハイブリッド水性コーティング組成物は、無機フィラーを含有していないので、これらを分散させる必要がなく、安定性および塗装作業性に優れている。
また、本発明の無機有機ハイブリッド水性コーティング組成物は、電着塗装することによって、様々な形状の基材に対して、均一にコーティングを行うことができる。
本発明の無機有機ハイブリッド水性コーティング組成物から得られるコーティング膜は、理由は不明だが、接着性を有しているので、基材と、基材上に設置される物品、例えば、プリント配線板等とを接着剤層を介することなく接着することができる。
通常、絶縁皮膜を有する基材とプリント配線板等とを接着することによって複合体を形成するためには、絶縁皮膜上に接着剤層を形成して、接着剤層を介することが不可欠であった。このような接着剤層は放熱性が乏しいために、絶縁皮膜に放熱性を付与してもその効果が抑制され、熱を速やかに放散させることが困難になるという問題があった。しかしながら、本発明のコーティング組成物から得られるコーティング膜は放熱性を損なうことがないため、基材からの熱放散を効率的に行うことが可能となる。
(I)ポリシラノール化合物(a)
本発明の無機有機ハイブリッド水性コーティング組成物に含まれるポリシラノール化合物(a)は、原料アルコキシシランを加水分解および縮合して得られるものである。アルコキシシリル基は、加水分解反応によってシラノール基となり、このシラノール基同士およびシラノール基と別のアルコキシシリル基との間でそれぞれ縮合反応が生じる。上記加水分解反応および縮合反応が連続的に進行することによって、上記原料アルコキシシランからポリシラノール化合物(a)が得られる。
上記原料アルコキシシランとしては、1〜4個のアルコキシ基を有する4種類のアルコキシシランモノマーおよびこれらを縮合したオリゴマーが挙げられ、4種類のアルコキシシランモノマーとして具体的には、テトラアルコキシシランモノマー、トリアルコキシシランモノマー、ジアルコキシシランモノマーおよびモノアルコキシシランモノマーが挙げられる。
上記テトラアルコキシシランモノマーとして、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、テトラプロポキシシラン、テトライソプロポキシシラン、テトラブトキシシラン等が挙げられる。
上記トリアルコキシシランモノマーとしては、メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、メチルトリプロポキシシラン、メチルトリブトキシシラン、メチルトリフェノキシシラン、エチルトリメトキシシラン、エチルトリエトキシシラン、プロピルトリメトキシシラン、ブチルトリメトキシシラン、ブチルトリエトキシシラン、ヘキシルトリメトキシシラン、ヘキシルトリエトキシシラン、オクチルトリメトキシシラン、オクチルトリエトキシシラン、デシルトリメトキシシラン、デシルトリエトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、フェニルトリエトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリス(2−メトキシエトキシ)シラン、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、3,4−エポキシシクロヘキシルエチルトリメトキシシラン、3,4−エポキシシクロヘキシルエチルトリメトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン、3−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、3−メルカプトプロピルトリエトキシシラン等を挙げることができる。
上記ジアルコキシシランモノマーとしては、ジメチルジメトキシシラン、ジメチルジエトキシシラン、ジメチルジプロポキシシラン、ジプロピルジメトキシシラン、ジブチルジメトキシシラン、フェニルメチルジメトキシシラン、フェニルメチルジエトキシシラン、ジフェニルジメトキシシラン、ジフェニルジエトキシシラン、シクロヘキシルメチルジメトキシシラン、ビニルメチルジメトキシシラン等が挙げられる。
上記モノアルコキシシランモノマーとしては、トリメチルメトキシシラン、トリエチルメトキシシラン、トリフェニルメトキシシラン、ジエチルビニルメトキシシラン、ジメチルプロピルメトキシシラン、ジメチルフェニルメトキシシラン、ジフェニルメチルメトキシシラン、トリメチルエトキシシラン、トリエチルエトキシシラン、トリフェニルエトキシシラン、ジメチルビニルエトキシシラン、ジメチルプロピルエトキシシラン、ジメチルフェニルエトキシシラン等が挙げられる。
上記原料アルコキシシランは、上記加水分解および縮合して得られるポリシラノール化合物(a)の性質を制御するために、2種類以上のアルコキシシランモノマーを組み合わせて用いることが好ましい。
また、上記加水分解および縮合して得られるポリシラノール化合物(a)の、後述するエポキシ変性樹脂(b)との相溶性およびポリシラノール化合物の硬化反応性を合わせて考慮すると、上記原料アルコキシシランはトリアルコキシシランモノマーを含んでいることが好ましい。上記原料アルコキシシランがトリアルコキシシランモノマーを含む場合、その割合は、原料アルコキシシランの80〜100モル%であることが好ましい。
上記トリアルコキシシランモノマーが有している、珪素原子に直接炭素原子が結合している有機基は、後述するエポキシ変性樹脂(b)との相溶性をさらに考慮すると、炭素数6〜12のアルキル基、ビニル基、フェニル基、グリシドキシプロピル基であることが好ましい。このようなトリアルコキシシランモノマーを使用する場合、その量は特に限定されないが、例えば、トリアルコキシシランモノマーのうち50〜100モル%とすることができる。
上記原料アルコキシシランの加水分解および縮合は、一般的には、上記原料アルコキシシランを極性有機溶媒に溶解し、水および触媒を加えて行われる。
上記極性有機溶媒としては、上記原料アルコキシシラン、水およびその加水分解および縮合した物を溶解することができるものを用いることが好ましい。
上記極性有機溶媒として、親水性有機溶媒を用いることができる。有機溶媒としてはアルコール、グリコール、グリコールのエーテルまたはエステル、ならびにケトン等が挙げられる。具体的には、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロピルアルコール、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノプロピルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、トリエチレングリコールモノメチルエーテル、トリエチレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノプロピルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノエチルエーテル、ジプロピレングリコールブチルエーテル、トリプロピレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、トリエチレングリコールジメチルエーテル、アセトン、メチルエチルケトン、ジアセトンアルコール、3−メトキシ−3−メチル−1−ブタノール等が好ましく用いられる。
上記親水性有機溶媒に対して、親水性有機溶媒ではない有機溶媒を併用して、溶解性を制御することができる。上記親水性有機溶媒ではない有機溶媒としては、メチルイソブチルケトン、イソブタノール、トルエン、キシレン、ジエチレングリコールジブチルエーテル等が挙げられる他、塗料に添加される成膜助剤として知られている、2,2,4−トリメチル−1,3−ペンタンジオールモノイソブチレート(チッソ社製の製品名「CS−12」)を使用することもできる。なお、上記親水性有機溶媒の水への溶解度(20℃)としては、好ましくは5g/100gHO以上、より好ましくは20g/100gHO以上、さらに好ましくは100g/100gHO以上である。
上記極性有機溶媒の量は、原料アルコキシシランの質量に対して、0.5〜5倍の量であることが好ましく、上限の量が2倍であることがさらに好ましい。
上記原料アルコキシシランの加水分解および縮合に用いられる水の量は、原料アルコキシシラン化合物が有するアルコキシシリル基のモル数の50〜100%の量とすることが好ましい。
上記原料アルコキシシランの加水分解および縮合反応には、触媒が用いられる。触媒としては、縮合が適切な度合いで進行するため、酸触媒を用いることが好ましい。酸触媒としては、アルコキシシリル基の加水分解反応に対して触媒作用を有するプロトン酸類やルイス酸類であれば、任意の適切なものを使用することができる。具体的には、プロトン酸として、例えば、塩酸、硝酸、硫酸等の無機酸や酢酸、乳酸、p−トルエンスルホン酸等の有機酸が、ルイス酸として、例えば、チタン、アルミニウム、ジルコニウム等の金属アルコキシドまたはキレート化合物等が挙げられる。上記キレート化合物の具体例として、アルミニウムトリスアセチルアセトネート、アルミニウムモノアセチルアセトネートビス(エチルアセトアセテート)、エチルアセトアセテートアルミニウムジイソプロピレート、アルミニウムトリス(n−プロピルアセトアセテート)、アルミニウムトリス(n−ブチルアセテート)、アルミニウムモノエチルアセトアセテートビス(アセチルアセトネート)、アルミニウムトリス(アセチルアセトネート)、トリス(プロピオニルアセトネート)アルミニウム、アルミニウムモノアセチルアセトネートビス(プロピオニルアセトネート)、アルミニウムトリス(プロピオナート)等のアルミニウム系のもの、チタニウムトリス(エチルアセトアセテート、チタニウムトリス(アセチルアセトネート)等のチタン系のもの、ジルコニウムテトラキス(n−プロピルアセトアセテート)、ジルコニウムテトラキス(アセチルアセトネート)、ジルコニウムテトラキス(エチルアセトアセテート)等のジルコニウム系のものを挙げることができる。
上記原料アルコキシシランが、エポキシ基を有するアルコキシシランモノマーを含む場合、塩酸、硝酸、硫酸等の無機酸を用いることによって、加水分解および縮合の工程においてエポキシ基を残存させることができる。また、アルミニウム系触媒を用いることで縮合反応を制御することができる。
上記触媒の使用量としては、原料アルコキシシランが有するアルコキシシリル基の加水分解反応に対して触媒作用を発現する量以上であればよい。具体的には、上記原料アルコキシシランの質量に対して、0.1ppm〜10%であることが好ましい。より好ましい上限値は5%である。
上記原料アルコキシシランの加水分解反応および縮合反応の温度は、室温〜約150℃の範囲で行うことが好ましい。室温で加水分解反応を先に進めた後に加温して、縮合反応を進めたり、最初から加熱して加水分解反応と縮合反応とを同時に進めたりすることが可能である。また、必要に応じて、加水分解および縮合で生じたアルコールや水を系外に留去することも可能である。また、上記留去は、反応終了後、濃縮を行うことによっても行われる。
上記原料アルコキシシランの加水分解および縮合は、赤外スペクトル(IR)または核磁気共鳴分析(H−NMR)で、アルコキシシリル基に基づくピークが観察されなくなるまで行われることが好ましい。時間はその条件によって異なり、特に限定されるものではないが、例えば、約1〜10時間で行うことが可能である。
このようにして、本発明の無機有機ハイブリッド水性コーティング組成物に用いられるポリシラノール化合物(a)が得られる。
上記ポリシラノール化合物(a)は、上記原料アルコキシシランが加水分解および縮合したものであり、SiO結合で構成され、複数のシラノール基を有している。アルコキシシラン化合物として、3個以上のアルコキシ基を有する、テトラアルコキシシランモノマーおよびトリアルコキシシランモノマーを用いた場合、上記ポリシラノール化合物(a)は分岐部を有するものになる。この分岐部が存在することによって、上記ポリシラノール化合物(a)は直鎖状の構造以外に、分岐状、環状、梯子状、籠状等の構造を取り得る。さらに上記ポリシラノール化合物(a)は、これらの構造をそれぞれ構造単位として、複数個の構造単位が組み合わさった構造を取り得る。
また、上記ポリシラノール化合物(a)は、上記原料アルコキシシランとして用いたアルコキシシランモノマーが有していた、珪素原子に直接炭素原子が結合している有機基を有している。上記有機基として、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ヘキシル基、オクチル基、デシル基、フェニル基、ビニル基、グリシドキシプロピル基および水と開環付加したもの、エポキシシクロヘキシルエチル基、メタクリロキシプロピル基、メルカプトプロピル基等が挙げられる。
上記原料アルコキシシランが有していたアルコキシシリル基は、加水分解反応と縮合反応とによって消失するため、上記ポリシラノール化合物(a)はアルコキシシリル基を基本的に有していない。しかし、反応条件等によって、アルコキシシリル基が残存した場合、その個数は、加水分解および縮合に用いた原料アルコキシシランが有するアルコキシシリル基数の10%以内であることが好ましい。
上記ポリシラノール化合物の数平均分子量は、上記原料アルコキシシランに含まれるアルコキシシランモノマーが有している、珪素原子に直接炭素原子が結合している有機基の種類によって異なるが、200〜100000であることが好ましい。
数平均分子量は、ゲル・パーミエーション・クロマトグラフィー(GPC)によるポリスチレン換算の分子量等を用いて求めることができる。また、分子量測定の結果と用いたアルコキシシランモノマーの種類とから、ポリシラノール化合物(a)の縮合度を求めることができる。ポリシラノール化合物(a)の縮合度は、平均で3〜2000であることが好ましい。3未満だと塗膜の形成が困難であり、2000を超えると粘度が高く取り扱いにくくなる。
上記ポリシラノール化合物(a)は、有機溶媒の溶液として用いられる。上記有機溶媒としては、先の加水分解および縮合で使用した溶媒であってよいし、加水分解および縮合後に、必要に応じて濃縮を行った後に、別の種類の有機溶媒を加えてもよい。なお、上記ポリシラノール化合物の固形分を直接求めることは困難である。このため、本明細書では、原料アルコキシシランが有していたアルコキシシリル基が全てシラノール基に加水分解し、かつ、縮合は起こらないものとした際に得られる構造を基にして固形分を算出し、これを適用することとする。このようにして計算で得られる上記ポリシラノール化合物(a)の固形分は、20〜90質量%であることが好ましい。
(II)エポキシ変性樹脂(b)
本発明の無機有機ハイブリッド水性コーティング組成物に含まれるエポキシ変性樹脂(b)は、スルホニウム基、プロパルギル基および炭素数が8〜24である長鎖炭化水素基を有している。
上記エポキシ変性樹脂(b)には、上記骨格を形成しているエポキシ樹脂のエポキシ基を介して、スルホニウム基、長鎖炭化水素基およびプロパルギル基が結合している。言い換えれば、エポキシ基に、スルホニウム基、長鎖炭化水素基およびプロパルギル基を有する各化合物がそれぞれ付加反応することによって、エポキシ変性樹脂(b)にスルホニウム基、長鎖炭化水素基およびプロパルギル基が結合している状態にある。上記エポキシ変性樹脂(b)は、一分子中に上記スルホニウム基、上記長鎖炭化水素基および上記プロパルギル基を全て含有していてもよいが、必ずしもその必要はなく、例えば、一分子中に上記3種類の官能基のうちいずれか一つまたは二つを含有していてもよい。この後者の場合にあっては、エポキシ変性樹脂(b)を構成する樹脂分子全体として、これらの官能基の全てを含有している。すなわち、上記エポキシ変性樹脂(b)は、エポキシ樹脂を骨格とし、スルホニウム基、長鎖炭化水素基およびプロパルギル基のうち、いずれか一つ、二つまたは三つを含有する複数の樹脂分子からなるものであってよい。本明細書中、上記エポキシ変性樹脂(b)は、上述の意味においてスルホニウム基、長鎖炭化水素基およびプロパルギル基を含有する。
従って、骨格を形成する上記エポキシ樹脂は、硬化性の観点から、一分子中に少なくとも二つのエポキシ基を有するポリエポキシ樹脂であることが好ましい。ノボラッククレゾール型骨格またはノボラックフェノール型骨格を有するものがエポキシ基を多く有するため好ましい。上記エポキシ樹脂における、ノボラッククレゾール型骨格またはノボラックフェノール型骨格を有するものの含有割合は、50〜99.5質量%であることが好ましい。
上記エポキシ変性樹脂(b)がノボラッククレゾール型骨格またはノボラックフェノール型骨格を有する場合、その数平均分子量は、700〜5000であることが好ましい。これ以外の範囲では、目的とするコーティング膜が得られないおそれがある。好ましい下限値は3000であり、好ましい上限値は4500である。
上記スルホニウム基は、上記エポキシ変性樹脂(b)の水和官能基である。スルホニウム基は、電着塗装過程で一定以上の電圧又は電流を与えられると、電極上で電解還元反応をうけてイオン性基が消失し、不可逆的に不導体化することが知られている。本発明の無機有機ハイブリッド水性コーティング組成物をカチオン電着塗装に用いた場合、高度のつきまわり性を発揮することができるのはこのためであると考えられる。
また、上記電着塗装工程においては、電極反応が引き起こされ、生じた水酸化物イオンをスルホニウム基が保持することにより電解発生塩基がカチオン電着塗料中に発生すると考えられる。この電解発生塩基は、カチオン電着塗料中に存在する、加熱による反応性の低いプロパルギル基を、加熱による反応性の高いアレン結合に変換することができる。
上記スルホニウム基の含有量は、後述する長鎖炭化水素基およびプロパルギル基の含有量の条件を充たした上で、樹脂固形分100gあたり、70〜180mmolである。これらの範囲外では、水分散性を十分に付与できないおそれがある。ノボラッククレゾール型骨格またはノボラックフェノール型骨格を有する場合、好ましい下限値は90mmolであり、好ましい上限値は160mmolである。
なお、本明細書における官能基の含有量は、エポキシ変性樹脂(b)を製造する際の各原料の仕込み量から計算した値を意味する。
上記エポキシ変性樹脂(b)に含有される、上記長鎖炭化水素基は、後述するプロパルギル基とともに、本発明のコーティング組成物の安定性に寄与していると考えられる。具体的には、上記ポリシラノール化合物(a)に対する、上記エポキシ変性樹脂(b)の相溶性を制御しているものと思われる。上記長鎖炭化水素基は、直鎖状、分枝状、環状等の構造を有しており、その炭素数は8〜24である。また、硬化性を付与するため、不飽和二重結合を鎖中に含んでいることが好ましい。
上記長鎖炭化水素基は、エポキシ基に由来する酸素原子を介して導入された基であって、炭素数は、上記酸素原子に結合する炭素原子から数えたものである。上記長鎖炭化水素基は、これらの基を含む脂肪族炭化水素化合物から由来することができる。このような脂肪族炭化水素基を有する化合物の具体例は、後に詳述する。
上記エポキシ変性樹脂(b)における、上記長鎖炭化水素基の含有量は、上記スルホニウム基および後述するプロパルギル基の含有量の条件を充たした上で、樹脂固形分100gあたり、5〜120mmolである。これらの範囲外では、得られるコーティング膜の性能に劣る場合がある。好ましい下限値は30mmolであり、好ましい上限値は110mmolである。
上記エポキシ変性樹脂(b)に含有される上記プロパルギル基は、硬化性を有する官能基として作用するとともに、上記長鎖炭化水素基とともに、本発明のコーティング組成物の安定性に寄与していると考えられる。また、本発明の無機有機ハイブリッド水性コーティング組成物をカチオン電着塗装に用いた場合、上記スルホニウム基と併存することにより、樹脂組成物のつきまわり性を一層向上させることができる。
上記プロパルギル基の含有量は、上記スルホニウム基および上記長鎖炭化水素基の含有量の条件を充たした上で、樹脂固形分100gあたり80〜300mmolである。これらの範囲外では、得られるコーティング膜の性能に劣る場合がある。好ましい下限値は、90mmolであり、好ましい上限値は275mmolである。
上記エポキシ変性樹脂(b)中のプロパルギル基の一部は、アセチリド化されていてもよい。アセチリドは、塩類似の金属アセチレン化物である。上記エポキシ樹脂中のアセチリド化されるプロパルギル基の含有量は、エポキシ変性樹脂(b)の樹脂固形分100gあたり、0.1〜40mmolであることが好ましい。この範囲内であれば、アセチリド化による触媒効果が発揮されるとともに、アセチリド化を安定に行うことができる。なお、この含有量は、使用する金属に応じてより好ましい範囲を設定することが可能である。
上記アセチリド化されたプロパルギル基に含まれる金属としては、触媒作用を発揮する金属であれば特に限定されず、例えば、銅、銀、バリウム等の遷移金属が挙げられる。これらの中では、環境適合性を考慮するならば、銅、銀が好ましく、入手容易性から、銅がより好ましい。
銅を使用する場合、上記エポキシ変性樹脂(b)中のアセチリド化されるプロパルギル基の含有量は、エポキシ変性樹脂(b)の樹脂固形分100gあたり0.1〜20mmolであることがより好ましい。
上記エポキシ変性樹脂(b)中のプロパルギル基の一部をアセチリド化することにより、硬化触媒を樹脂中に導入することができる。このようにすれば、一般に、有機溶媒や水に溶解又は分散しにくい有機遷移金属錯体を使用する必要がなく、遷移金属であっても容易にアセチリド化して導入可能であるため、難溶性の遷移金属化合物であっても自由に使用可能である。また、遷移金属有機酸塩を使用する場合のように、有機酸塩がアニオンとして電着浴中に存在することを回避でき、さらに、金属イオンが限外濾過によって除去されることはなく、浴管理や電着塗膜の設計が容易となる。
上記エポキシ変性樹脂(b)における、上記長鎖炭化水素基と上記プロパルギル基との合計含有量は、樹脂固形分100gあたり180mmol以上であることが好ましい。180mmol未満だと、水分散性に劣るおそれがある。上限値は特に設定されるものではないが、もう一つの官能基であるスルホニウム基との関係で以下のように設定されうる。
すなわち、上記スルホニウム基、上記長鎖炭化水素基および上記プロパルギル基の合計含有量は、樹脂固形分100gあたり400mmol以下であることが好ましい。400mmolを超えると、上記エポキシ変性樹脂(b)を安定に製造することができないおそれがある。
上記エポキシ変性樹脂(b)は硬化性を高めるため、さらに、炭素数3〜7の、不飽和二重結合を末端に有し、エステル結合およびエーテル結合を含んでいてもよい炭化水素基を有していてもよい。上記末端不飽和二重結合を有する炭化水素基は、これらの基を含む化合物から由来することができる。このような化合物の具体例としては、2−ヒドロキシエチルアクリレート、2−ヒドロキシエチルメタクリレート、ヒドロキシプロピルアクリレート、ヒドロキシプロピルメタクリレート、ヒドロキシブチルアクリレート、ヒドロキシブチルメタクリレート、アリルアルコール、メタクリルアルコール等のビニル基と水酸基とを有する化合物、アクリル酸、メタクリル酸、エタクリル酸等のビニル基とカルボキシル基とを有する化合物等を挙げることができる。
上記末端不飽和二重結合を有する炭化水素基は、原料として用いるエポキシ樹脂のエポキシ基の総量から、上記スルホニウム基、上記長鎖炭化水素基および上記プロパルギル基の所定量を除した量を含有しうる。
上記エポキシ変性樹脂(b)は、例えば、特表2005−538872号公報に記載されている方法に準じて製造することができる。具体的には、一分子中に少なくとも2つのエポキシ基を有するエポキシ樹脂に、エポキシ基と反応する官能基およびプロパルギル基を有する化合物(A)、ならびにエポキシ基と反応する官能基および長鎖炭化水素基を有する化合物(B)を反応させて、プロパルギル基および長鎖炭化水素基を含有するエポキシ樹脂組成物を得る工程(1)、工程(1)で得られたエポキシ樹脂組成物中の残存エポキシ基にスルフィド/酸混合物を反応させて、スルホニウム基を導入する工程(2)により製造することができる。
上記エポキシ基と反応する官能基およびプロパルギル基を有する化合物(以下、「化合物(A)」と称する)としては、例えば、水酸基やカルボキシル基等のエポキシ基と反応する官能基とプロパルギル基とをともに含有する化合物が挙げられ、具体的には、プロパルギルアルコール、プロパルギル酸等が挙げられる。これらの中では、入手の容易性および反応の容易性から、プロパルギルアルコールが好ましい。
一方、上記エポキシ基と反応する官能基および長鎖炭化水素基を有する化合物(以下、「化合物(B)」と称する)としては、例えば、水酸基やカルボキシル基等のエポキシ基と反応する官能基と炭素数8〜24の、不飽和二重結合を鎖中に含んでいてもよい脂肪族炭化水素基とをともに有する化合物であってよい。
水酸基と脂肪族炭化水素基とを有するものとして、例えば、オクタノール、ノナノール、デシルアルコール、ウンデカノール、ドデカノール、トリデカノール、テトラデカノール、ペンタデカノール、ヘキサデカノール、ヘプタデカノール、オクタデカノール、ノナデカノール、エイコサノール、ドコサノール、2−プロピル−1−ペンタノール、2,4,4−トリメチル−1−ペンタノール、2−エチル−1−ヘキサノール、3,3,5−トリメチル−1−ヘキサノール、3,7−ジメチル−1−オクタノール、2−オクタノール、3−オクタノール、2−ノナノール、2−デカノール、4−デカノール、2−ウンデカノール、2−ドデカノール、2−テトラデカノール、2−ヘキサデカノール、6−メチル−2−ヘプノール、4−メチル−3−ヘプタノール、2,6−ジメチル−4−ヘプタノール、3−エチル−2,2−ジメチル−3−ペンタノール、3,7−ジメチル−3−オクタノール等の長鎖脂肪族アルコール;1−オクテン−3−オール、β−シトロネロール、3−ノネン−1−オール、5−デセン−1−オール、9−デセン−1−オール、ω−ウンデシレニルアルコール、7−ドデシル−1−オール、7−テトラデセン−1−オール、9−テトラデセン−1−オール、11−テトラデセン−1−オール、11−ヘキサデセン−1−オール、オレイルアルコール、2,4−ジメチル−2,6−ヘプタジエン−1−オール、フィトール、ネロール、ゲラニオール、8,10−ドデカジエン−1−オール、ファルネソール、6−メチル−5−ヘプテン−2−オール等の不飽和二重結合含有長鎖脂肪族アルコール等を挙げることができる。
また、カルボキシル基と脂肪族炭化水素基とを有するものとして、例えば、オクタン酸、ノナン酸、デカン酸、ウンデカン酸、ラウリル酸、トリデカン酸、ミリスチン酸、ペンタデカン酸、パルミチン酸、ヘプタデカン酸、ステアリン酸、ノナデカン酸、エイコサン酸、ヘネイコサン酸、ドコサン酸、トリコサン酸、テトラコサン酸等の長鎖脂肪酸;2−エチルヘキセン酸、2−オクタン酸、シトロネル酸、ウンデシレン酸、ミリストレイ酸、パルミトレイ酸、オレイン酸、リノール酸、リシノール酸、エライジン酸、11−エイコセン酸、エルカ酸、ネルボン酸、リノレン酸、11,14−エイコサトリエン酸、アラキドン酸、5,8,11,14,17−エイコサペンタエン酸、4,7,10,13,16,19−ドコサヘキサエン酸、2−プロピルペンタン酸、2−エチルヘキサン酸、アマニ油、大豆油等の合成または天然の不飽和脂肪酸等を挙げることができる。
上記化合物(B)としては、反応性を考慮するならばカルボキシル基を有するものが好ましく、硬化性の観点から、不飽和脂肪酸がより好ましい。
上記工程(1)においては、上記一分子中に少なくとも二つのエポキシ基を有するエポキシ樹脂に、上記化合物(A)および上記化合物(B)を反応させて、目的のエポキシ樹脂組成物を得る。この場合、上記化合物(A)と上記化合物(B)とは、両者を予め混合して反応に供してもよく、又は、上記化合物(A)と上記化合物(B)とを別々に反応に供してもよい。なお、上記化合物(A)が有するエポキシ基と反応する官能基と、上記化合物(B)が有するエポキシ基と反応する官能基とは同一であってもよく異なっていてもよい。また、この際、上記末端不飽和二重結合を有する炭化水素基を含む化合物を、化合物(A)および/または上記化合物(B)と併用することができる。
上記工程(1)において、上記化合物(A)と上記化合物(B)とを反応させる場合の両者の配合比率は、上述したプロパルギル基および長鎖炭化水素基の含有量となるように設定すればよい。
上記工程(1)の反応条件は、通常、室温または80〜140℃にて数時間である。また、必要に応じて触媒や溶媒等の反応を進行させるために必要な公知の成分を使用することができる。反応の終了は、エポキシ当量の測定により確認することができ、得られた樹脂組成物の不揮発分測定や機器分析により、導入された官能基を確認することも可能である。かくして得られる反応生成物は、一般には、プロパルギル基および長鎖炭化水素基を、一つまたは複数含有する部分的に変性されたエポキシ樹脂の混合物である。この意味で、工程(1)により、プロパルギル基および長鎖炭化水素基を含有する樹脂組成物が得られる。
なお、上記エポキシ樹脂の有するプロパルギル基の一部をアセチリド化する場合は、上記工程(1)で得られたプロパルギル基を有するエポキシ樹脂に、金属化合物を反応させて、上記エポキシ樹脂中の一部のプロパルギル基をアセチリド化する工程を上記工程(2)の前に行うことができる。
上記金属化合物としては、アセチリド化が可能な遷移金属化合物であることが好ましく、例えば、銅、銀またはバリウム等の遷移金属の錯体又は塩が挙げられる。具体的には、例えば、アセチルアセトン銅、酢酸銅、アセチルアセトン銀、酢酸銀、硝酸銀、アセチルアセトンバリウム、酢酸バリウム等が挙げられる。これらの中では、環境適合性の観点から、銅または銀の化合物が好ましく、入手容易性の観点から、銅の化合物がより好ましく、例えば、アセチルアセトン銅が、浴管理の容易性に鑑み好適である。
プロパルギル基の一部をアセチリド化する反応条件は、通常、40〜70℃にて数時間である。反応の進行は、得られたカチオン性樹脂組成物が着色することや、核磁気共鳴スペクトルによるメチンプロトンの消失等により確認することができる。このようにして、エポキシ樹脂中のプロパルギル基が所望の割合でアセチリド化する反応時点を確認して、反応を終了させる。
このようにして得られる反応生成物は、一般には、プロパルギル基の一つまたは複数がアセチリド化されたエポキシ樹脂の混合物である。このようにして得られたプロパルギル基の一部をアセチリド化したエポキシ樹脂に対して、上記工程(2)によってスルホニウム基を導入することができる。なお、エポキシ樹脂の有するプロパルギル基の一部をアセチリド化する工程と後述する工程(2)とは、反応条件を共通に設定可能であるので、両工程を同時に行うことも可能である。両工程を同時に行う方法は、製造プロセスを簡素化することができるので有利である。
上記工程(2)においては、上記工程(1)で得られたプロパルギル基および長鎖炭化水素基を有するエポキシ樹脂中の残存エポキシ基に、スルフィド/酸混合物を反応させて、スルホニウム基を導入する。
スルホニウム基の導入は、スルフィド/酸混合物とエポキシ基とを反応させてスルフィドの導入およびスルホニウム化を行う方法や、スルフィドを導入した後、さらに、酸又はフッ化メチル、塩化メチル、臭化メチル等のアルキルハライド等により、導入したスルフィドのスルホニウム化反応を行い、必要によりアニオン交換を行う方法等により行うことができる。反応原料の入手容易性の観点からは、スルフィド/酸混合物を使用する方法が好ましい。上記スルフィド/酸混合物における上記スルフィドと上記酸との混合比率は、通常、モル比率でスルフィド/酸=100/60〜100/100程度が好ましい。
上記スルフィドとしては特に限定されず、例えば、脂肪族スルフィド、脂肪族−芳香族混合スルフィド、アラルキルスルフィド、環状スルフィド等が挙げられる。具体的には、例えば、ジエチルスルフィド、ジプロピルスルフィド、ジブチルスルフィド、ジヘキシルスルフィド、ジフェニルスルフィド、エチルフェニルスルフィド、テトラメチレンスルフィド、ペンタメチレンスルフィド、チオジエタノール、チオジプロパノール、チオジブタノール、1−(2−ヒドロキシエチルチオ)−2−プロパノール、1−(2−ヒドロキシエチルチオ)−2−ブタノール、1−(2−ヒドロキシエチルチオ)−3−ブトキシ−1−プロパノール等が挙げられる。
上記酸としては特に限定されず、例えば、ギ酸、酢酸、乳酸、プロピオン酸、ホウ酸、酪酸、ジメチロールプロピオン酸、塩酸、硫酸、リン酸、N−アセチルグリシン、N−アセチル−β−アラニン等が挙げられる。
上記工程(2)の反応は、例えば、上記工程(1)で得られたプロパルギル基および長鎖炭化水素基を有するエポキシ樹脂と、例えば、上述のスルホニウム基含有量になるように設定された所定量の上記スルフィドおよび上記酸との混合物とを、使用するスルフィドの5〜10倍モルの水と混合し、通常、50〜90℃で数時間攪拌して行うことができる。反応の終了点は、残存酸価が5以下となることを目安とすればよい。得られた樹脂中のスルホニウム基導入の確認は、電位差滴定法により行うことができる。
スルフィドの導入後にスルホニウム化反応を行う場合も、上記に準じて行うことができる。上述のように、スルホニウム基の導入を、プロパルギル基の導入の後に行うことにより、加熱によるスルホニウム基の分解を防止することができる。このようにして、上記エポキシ変性樹脂(b)を得ることができる。
また、上記工程(2)は、上記ポリシラノール化合物(a)を共存させた状態で行うことができる。これについては、後の無機有機ハイブリッド水性コーティング組成物の製造についてのところで説明を行う。
(III)無機有機ハイブリッド水性コーティング組成物
本発明の無機有機ハイブリッド水性コーティング組成物は、原料アルコキシシランを加水分解および縮合して得られるポリシラノール化合物(a)とスルホニウム基、プロパルギル基、および、長鎖炭化水素基を有するエポキシ変性樹脂(b)とを含有している。これらのポリシラノール化合物(a)およびエポキシ変性樹脂(b)については、先に説明を行ったものである。
本発明の無機有機ハイブリッド水性コーティング組成物は、水媒体中に樹脂成分が分散した形態を取っている。上記ポリシラノール化合物(a)は、水に対する親和性は極めて低い。このポリシラノール化合物(a)が水媒体中で安定に存在していることから、上記ポリシラノール化合物(a)が、上記エポキシ変性樹脂(b)によって分散されている状態になっている。
上記分散した樹脂成分の体積平均粒子径は、分散安定性の観点から、50〜1000nmであることが好ましく、50〜500nmの範囲内であることがより好ましく、70〜200nmの範囲内であることが特に好ましい。体積平均粒子径は、各粒子径の範囲に沿った測定方法、具体的には光散乱法又は光回折法によって求めることができる。
本発明の無機有機ハイブリッド水性コーティング組成物における、上記ポリシラノール化合物(a)と上記エポキシ変性樹脂(b)との比率は、樹脂固形分の質量比で、15/85〜90/10であることが好ましい。15/85未満だと、ポリシラノール化合物(a)の添加効果が得られず、90/10を超えると、コーティング組成物の安定性が十分でない。
本発明の無機有機ハイブリッド水性コーティング組成物の樹脂固形分濃度は、通常、30〜80質量%であることが好ましい。この範囲外では、塗装作業性が低下するおそれがある。
本発明の無機有機ハイブリッド水性コーティング組成物の製造は、上記ポリシラノール化合物(a)と上記エポキシ変性樹脂(b)とを別々に製造し、これらを混合することによって行われる。具体的には、上記ポリシラノール化合物(a)を、上記エポキシ変性樹脂(b)によって、水媒体中に分散させることによって行うことができる。具体的には、上記エポキシ変性樹脂(b)に上記ポリシラノール化合物(a)を加えて分散を行ってもよいし、上記ポリシラノール化合物(a)に上記エポキシ変性樹脂(b)を加えて、分散を行ってもよい。その後、水で適切な濃度に希釈を行う。なお、希釈に用いる水の一部または全部の量を、分散を行う際に加えてもよい。
また、上記ポリシラノール化合物(a)と上記エポキシ変性樹脂(b)とを混合する方法以外に、上記エポキシ変性樹脂(b)を製造する際に上記ポリシラノール化合物(a)を共存させた状態で、スルホニウム基を導入する工程(2)を行うことも可能である。
この場合、具体的には、上記エポキシ変性樹脂(b)の製造において、上記工程(1)を実施して、上記プロパルギル基および長鎖炭化水素基を有する樹脂組成物をまず得る。ここに所定量のポリシラノール化合物(a)を加えて攪拌を行った後に、所定量のスルフィド/酸混合物を加えて、スルホニウム基導入工程(2)を行うことにより行われる。なお、上記二つの方法においては、必要に応じて、いずれかの段階で溶剤を留去してもよい。
本発明の無機有機ハイブリッド水性コーティング組成物は、上記ポリシラノール化合物(a)および上記エポキシ変性樹脂(b)のそれぞれが硬化性を有しているため、コーティング組成物自体が硬化性を有する。このため、本発明のコーティング組成物において、硬化剤の使用は必ずしも必要ないが、硬化性のさらなる向上のために使用してもよい。
このような硬化剤としては、例えば、プロパルギル基および炭素−炭素二重結合のうち少なくとも1種を複数個有する化合物、例えば、ノボラックフェノール等のポリエポキシドやペンタエリスリットテトラグリシジルエーテル等に、プロパルギルアルコール等のプロパルギル基を有する化合物やアクリル酸等の炭素−炭素二重結合を有する化合物を付加反応させて得た化合物等が挙げられる。
また、硬化触媒については、必ずしも使用する必要はない。しかし、必要に応じて、通常用いられる遷移金属化合物等を適宜添加してもよい。
このような硬化触媒として用いることができる化合物としては特に限定されず、例えば、ニッケル、コバルト、マンガン、パラジウム、ロジウム等の遷移金属に対して、シクロペンタジエンやアセチルアセトン等の配位子や酢酸等のカルボン酸等が結合したもの等が挙げられる。上記硬化触媒の配合量は、コーティング組成物中の樹脂固形分100gあたり、下限0.1mmol、上限20mmolであることが好ましい。
本発明の無機有機ハイブリッド水性コーティング組成物には、アミンを配合することができる。本発明のコーティング組成物をカチオン電着塗装する場合、上記アミンの配合により、電着過程における電解還元によるスルホニウム基のスルフィドへの変換率が増大する。上記アミンとしては特に限定されず、例えば、1級〜3級の単官能および多官能の脂肪族アミン、脂環族アミン、芳香族アミン等のアミン化合物が挙げられる。
これらの中で水溶性又は水分散性のアミン化合物が好ましく、例えば、モノメチルアミン、ジメチルアミン、トリメチルアミン、トリエチルアミン、プロピルアミン、ジイソプロピルアミン、トリブチルアミン等の炭素数1〜12のアルキルアミン;モノエタノールアミン、ジメタノールアミン、メチルエタノールアミン、ジメチルエタノールアミン、シクロヘキシルアミン、モルホリン、N−メチルモルホリン、ピリジン、ピラジン、ピペリジン、イミダゾリン、イミダゾール等が挙げられる。これらは単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。これらの中でも、水分散安定性が優れているため、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、ジメチルエタノールアミン等のヒドロキシアミンが好ましい。
上記アミンの配合量は、コーティング組成物中の樹脂固形分100gあたり、下限0.3meq、上限25meqが好ましい。0.3meq/100g以上であれば、つきまわり性に対して充分な効果が得られ、25meq/100g以下であれば、添加量に応じた効果を得ることができ、経済的である。上記下限は、1meq/100gであることがより好ましく、上記上限は、15meq/100gであることがより好ましい。なお、上記アミンは、直接、上記コーティング組成物中に配合することができる。
本発明の無機有機ハイブリッド水性コーティング組成物が、上記ポリシラノール化合物(a)および上記エポキシ変性樹脂(b)以外の上述の成分を含む場合、例えば、上記ポリシラノール化合物(a)および上記エポキシ変性樹脂(b)を水分散した後に、必要に応じて、上述の各成分を混合し、水に溶解または分散すること等により得ることができる。
(IV)無機有機ハイブリッドコーティング膜の形成方法
本発明の無機有機ハイブリッド水性コーティング組成物は、種々の基材に対して、コーティングすることが可能である。本発明のコーティング組成物から得られるコーティング膜が放熱性に優れていることを考慮すると、コーティングを行う基材は、金属素材であることが好ましい。特に放熱性に優れた銅やアルミニウム素材であることが特に好ましい。
コーティング膜の形成は、刷毛、スプレー、ローラー、各種コーター等の一般的なコーティング手段を用いて行いうる。
コーティング条件は特に限定されないが、例えば、乾燥膜厚1〜30μmになるように塗装を行い、100〜240℃、好ましくは140〜200℃で、5〜60分間、好ましくは10〜30分間加熱することで行うことができる。
また、本発明の無機有機ハイブリッド水性コーティング組成物は、カチオン電着塗装によりコーティングを行うことも可能である。この場合、国際公開第98/03595号パンフレットに記載の方法に準じて得ることができる。
上記カチオン電着によって行われるコーティング膜の形成方法は、上述の無機有機ハイブリッド水性コーティング組成物中に浸漬した被塗物を陰極とし、対極との間に電圧を印加して上記被塗物の表面にコーティング組成物からなる被膜を形成する電着工程と、上記電着工程において得られた上記被膜を加熱することにより硬化膜を得る加熱工程とからなる。
上記被塗物としては、導電性を示す基材であればよく、一般的に板状又はフィルム状のものが使用される。上記導電性を示す基材として、例えば、鉄、銅、アルミニウム、金、銀、ニッケル、スズ、亜鉛、チタン、タングステン等およびこれらの金属を含む合金が挙げられる。先に挙げたように、上記導電性を示す基材は、放熱性に優れた銅やアルミニウム素材であることが特に好ましい。
上記カチオン電着塗装を行う場合、良好に電着塗装を行う観点から、コーティング組成物の不揮発分を10〜30%となるように調製することが好ましい。
上記電着工程において印加される電圧の大きさは、通常印加される被膜の電気抵抗値により決定され、一般に5〜500V、より好ましくは20〜350Vの直流電圧が印加される。
上記電圧を印加する際の浴液温度は、0〜100℃の範囲内で適宜設定することができる。コーティング組成物の機械的安定性や熱安定性、硬化官能基の反応性を考慮して、5〜50℃がより好ましく、15〜35℃がさらに好ましい。
上記電着工程の処理時間は、一般に所定印加電圧まで昇圧させるまでの時間と上記所定電圧で保持させる時間との合計である総電圧印加時間が0.5〜30分間となるように設定されることが好ましく、より好ましくは1〜10分間である。0.5分以上の時間であれば、電極反応によって活性化される化学種が十分な量発生し、被膜の硬化性を高めることができる。一方、30分以下の時間であれば消費電力を抑制することができる。
上記被塗物は、上記電着工程を経た後、そのまま加熱工程に送られてもよく、表面を水洗して、不要な水溶性物質を除去した後に加熱工程に送ってもよい。上記水洗は純水で行うことが好ましく、洗浄後は上記被塗物を約10分間室温で放置することが好ましい。
上記加熱工程は、電気乾燥炉、ガス乾燥炉等の加熱炉において行われる。上記被塗物の焼付けは先の場合と同じく、100〜240℃、好ましくは140〜200℃で、5〜60分間、好ましくは10〜30分間行うことができる。
このようにして、耐電圧性および放熱性に優れたコーティング膜を得ることができる。
また、本発明の無機有機ハイブリッド水性コーティング組成物を用いて、基材と基材上に設置される物品、例えば、プリント配線板等とを接着することができる。このような場合、本発明のコーティング組成物を基材上にコーティングし、仮乾燥、例えば、70〜105℃ で加熱を行った後に、プリント配線板等を接着することができる。その後、必要に応じて、さらに加熱を行うことも可能である。
なお、本明細書では、範囲を示す「A〜B」は、A以上B以下であることを意味している。また、本明細書で挙げられている各種物性は、特に断りのない限り、後述する実施例に記載の方法により測定した値を意味する。
以下、実施例に基づいて本発明をより詳細に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
〔製造例1 ポリシラノール化合物(a)の製造 その1〕
フェニルトリメトキシシラン148.5質量部およびグリシドキシプロピルトリメトキシシラン59.1質量部を、イソプロピルアルコールとメチルイソブチルケトンとを質量比2:1で混合した混合液675質量部に溶解した。ここに系内のメトキシシリル基の等モルに相当する水54.0質量部と、酸触媒として塩酸1.9質量部とを添加して、40℃で2時間攪拌した。その後、さらに80℃で3時間、攪拌しながら溶剤の一部を留出させて濃縮し、フェニルトリアルコキシシランとグリシドキシプロピルトリメトキシシランとを加水分解および縮合したポリシラノール化合物(a)を得た。このポリシラノール化合物(a)の数平均分子量は、1600であった。
赤外線吸収分析の結果、メトキシシリル基に基づくC−Hの吸収は確認されなかった。また、加水分解および縮合の前後における水素原子の核磁気共鳴スペクトル分析の結果、グリシドキシプロピルトリメトキシシラン由来のエポキシ基が98%残存していることを確認した。フェニルトリメトキシシランおよびグリシドキシプロピルトリメトキシシランのメトキシシリル基が全て加水分解し、縮合およびエポキシ基の開環は進行しなかったものとして計算される固形分は50質量%であった。また、総Si原子に占めるフェニルトリメトキシシラン化合物由来のSi原子の割合は75モル%と計算された。
〔製造例2 ポリシラノール化合物(a)の製造 その2〕
製造例1において、フェニルトリメトキシシランの量を158.4質量部に変更し、グリシドキシプロピルトリメトキシシランに代えて、デシルトリメトキシシラン52.5質量部を用いたこと以外は同様にして、フェニルトリメトキシシランとデシルトリメトキシシランとを加水分解および縮合したポリシラノール化合物(a)を得た。このポリシラノール化合物(a)の数平均分子量は、1200であった。
赤外線吸収分析の結果、メトキシシリル基に基づくC−Hの吸収は確認されなかった。フェニルトリメトキシシランおよびデシルトリメトキシシランのメトキシシリル基が全て加水分解したものとして計算される固形分は50質量%であった。また、総Si原子に占めるフェニルトリメトキシシラン化合物由来のSi原子の割合は80モル%と計算された。
〔製造例3 ポリシラノール化合物(a)の製造 その3〕
メチルトリメトキシシラン47.7質量部およびグリシドキシプロピルトリメトキシシラン79.8質量部を、イソプロピルアルコールとメチルイソブチルケトンとを質量比2:1で混合した混合液154質量部に溶解した。ここに、系内のメトキシシリル基の等モルに相当する水37.2質量部と、酸触媒として塩酸1.9質量部とを添加して、40℃で2時間攪拌した。その後、さらに80℃で3時間、攪拌しながら溶剤の一部を留出させて濃縮し、メチルトリアルコキシシランとグリシドキシプロピルトリアルコキシシランとを加水分解および縮合したポリシラノール化合物(a)を得た。このポリシラノール化合物(a)の数平均分子量は、800であった。
赤外線吸収分析の結果、メトキシシリル基に基づくC−Hの吸収は確認されなかった。また、加水分解縮合反応の前後における水素原子の核磁気共鳴スペクトル分析の結果、グリシドキシプロピルトリメトキシシラン由来のエポキシ基が97%残存していることを確認した。メチルトリメトキシシランおよびグリシドキシプロピルトリメトキシシランのメトキシシリル基が全て加水分解し、縮合およびエポキシ基の開環は進行しなかったものとして計算される固形分は50質量%であった。また、総Si原子に占めるメチルトリメトキシシラン化合物由来のSi原子の割合は50モル%と計算された。
Figure 2011089042
〔実施例1 無機有機ハイブリッド水性コーティング組成物 その1〕
エポキシ当量202.8のノボラッククレゾール型エポキシ樹脂(商品名:エポトートYDCN−701、東都化成社製)100gに、プロパルギルアルコール12.7g、ジメチルベンジルアミン0.2gを、撹拌機、温度計、窒素導入管および還流冷却管を備えたセパラフラスコに加え、105℃に昇温し、1時間反応させて、プロパルギル基を含有する、エポキシ当量が422のエポキシ樹脂を得た。
これに、リノール酸17.3g、追加のジメチルベンジルアミン0.1gを加え、さらに同温度にて3時間反応を継続し、プロパルギル基と長鎖炭化水素基とを含有する、エポキシ当量が633であるエポキシ樹脂組成物を得た。
次いで、1−(2−ヒドロキシエチルチオ)−2,3−プロパンジオール27.9g、氷酢酸12.4g、脱イオン水11.4gを入れ、75℃で保温しつつ6時間反応させた。残存酸価が5以下であることを確認して、変性エポキシ樹脂(b)を得た。
得られた変性エポキシ樹脂(b)のゲルパーミエーションクロマトグラフィ(GPC)で測定(ポリスチレン換算)した数平均分子量は3400、スルホニウム基量は146mmol/100g、プロパルギル基量は160mmol/100gおよび長鎖炭化水素基量は44mmol/100gであった。
得られた変性エポキシ樹脂(b)に製造例1で得られたポリシラノール化合物(a)を、充分に攪拌を行いながら、徐々に加えることで分散を行った。加えたポリシラノール化合物(a)の総量は、樹脂固形分の質量比で(a)/(b)=70/30となる量であった。分散終了後、脱イオン水1920.0gを加え、脱溶剤して、無機有機ハイブリッド水性コーティング組成物を得た。
得られた無機有機ハイブリッド水性コーティング組成物の固形分濃度は25.0質量%であった。
〔実施例2 無機有機ハイブリッド水性コーティング組成物 その2〕
エポキシ当量202.8のノボラッククレゾール型エポキシ樹脂(商品名:エポトートYDCN−701、東都化成社製)100gに、プロパルギルアルコール9.2g、ジメチルベンジルアミン0.2gを、撹拌機、温度計、窒素導入管および還流冷却管を備えたセパラフラスコに加え、105℃に昇温し、1時間反応させて、プロパルギル基を含有する、エポキシ当量が332のエポキシ樹脂を得た。
これに、リノール酸46.1g、追加のジメチルベンジルアミン0.1gを加え、さらに同温度にて3時間反応を継続し、プロパルギル基と長鎖炭化水素基とを含有する、エポキシ当量が945であるエポキシ樹脂組成物を得た。
次いで、1−(2−ヒドロキシエチルチオ)−2,3−プロパンジオール22.4g、氷酢酸9.9g、脱イオン水9.2gを入れ、75℃で保温しつつ6時間反応させた。残存酸価が5以下であることを確認して、変性エポキシ樹脂(b)を得た。
得られた変性エポキシ樹脂(b)のゲルパーミエーションクロマトグラフィ(GPC)で測定(ポリスチレン換算)した数平均分子量は4000であり、スルホニウム基量、プロパルギル基量および長鎖炭化水素基量は全て100mmol/100gであった。
得られた変性エポキシ樹脂(b)に製造例2で得られたポリシラノール化合物(a)を、充分に攪拌を行いながら、徐々に加えることで分散を行った。加えたポリシラノール化合物(a)の総量は、樹脂固形分の質量比で(a)/(b)=85/15となる量であった。分散終了後、脱イオン水3840.0gを加え、脱溶剤して、無機有機ハイブリッド水性コーティング組成物を得た。
得られた無機有機ハイブリッド水性コーティング組成物の固形分濃度は25.0質量%であった。
〔実施例3 無機有機ハイブリッド水性コーティング組成物 その3〕
エポキシ当量202.8のノボラッククレゾール型エポキシ樹脂(商品名:エポトートYDCN−701、東都化成社製)100gに、プロパルギルアルコール19.6g、ジメチルベンジルアミン0.2gを、撹拌機、温度計、窒素導入管および還流冷却管を備えたセパラフラスコに加え、105℃に昇温し、1時間反応させて、プロパルギル基を含有する、エポキシ当量が832のエポキシ樹脂を得た。
これに、リノール酸5.8g、追加のジメチルベンジルアミン0.1gを加え、さらに同温度にて3時間反応を継続し、プロパルギル基と長鎖炭化水素基とを含有する、エポキシ当量が1020であるエポキシ樹脂組成物を得た。
次いで、1−(2−ヒドロキシエチルチオ)−2,3−プロパンジオール16.8g、氷酢酸7.4g、脱イオン水7.0gを入れ、75℃で保温しつつ6時間反応させた。残存酸価が5以下であることを確認して、変性エポキシ樹脂(b)を得た。
得られた変性エポキシ樹脂(b)のゲルパーミエーションクロマトグラフィ(GPC)で測定(ポリスチレン換算)した数平均分子量は3200、スルホニウム基量は93mmol/100g、プロパルギル基量は264mmol/100gおよび長鎖炭化水素基量は16mmol/100gであった。
得られた変性エポキシ樹脂(b)に製造例1で得られたポリシラノール化合物(a)を、充分に攪拌を行いながら、徐々に加えることで分散を行った。加えたポリシラノール化合物(a)の総量は、樹脂固形分の質量比で(a)/(b)=20/80となる量であった。分散終了後、脱イオン水700.0gを加え、脱溶剤して、無機有機ハイブリッド水性コーティング組成物を得た。
得られた無機有機ハイブリッド水性コーティング組成物の固形分濃度は25.0質量%であった。
〔比較例1 無機成分を含有しない水性コーティング組成物〕
実施例2において製造した、変性エポキシ樹脂(b)をそのまま、水性コーティング組成物とした。
〔比較例2 シリコーンオイルを含有する水性コーティング組成物〕
実施例1において、製造例1で得られたポリシラノール化合物(a)の代わりに、シリコーンオイルとして、メチルハイドロジェンシリコーン(商品名:「KF−99」、信越化学社製)を、スルホニウム基を導入した変性エポキシ樹脂(b)との樹脂固形分の質量比が、シリコーンオイル/変性エポキシ樹脂(b)が70/30となるように加えた以外は同様にして、シリコーンオイルを含有する水性コーティング組成物を得た。
〔比較例3 比較用水性コーティング組成物 その1〕
エポキシ当量202.8のノボラッククレゾール型エポキシ樹脂(商品名:エポトートYDCN−701、東都化成社製)100gに、プロパルギルアルコール20.1g、ジメチルベンジルアミン0.2gを、撹拌機、温度計、窒素導入管および還流冷却管を備えたセパラフラスコに加え、105℃に昇温し、1時間反応させて、プロパルギル基を含有する、エポキシ当量が885のエポキシ樹脂を得た。
これに、リノール酸17.3g、追加のジメチルベンジルアミン0.1gを加え、さらに同温度にて3時間反応を継続し、プロパルギル基と長鎖炭化水素基とを含有する、エポキシ当量が1860であるエポキシ樹脂組成物を得た。
次いで、1−(2−ヒドロキシエチルチオ)−2,3−プロパンジオール10.6g、氷酢酸4.6g、脱イオン水4.4gを入れ、75℃で保温しつつ6時間反応させた。残存酸価が5以下であることを確認して、比較用変性エポキシ樹脂を得た。
得られた比較用変性エポキシ樹脂のゲルパーミエーションクロマトグラフィ(GPC)で測定(ポリスチレン換算)した数平均分子量は3400、スルホニウム基量は55mmol/100g、プロパルギル基量は252mmol/100gおよび長鎖炭化水素基量は44mmol/100gであった。
得られた比較用変性エポキシ樹脂に製造例1で得られたポリシラノール化合物(a)を、充分に攪拌を行いながら、徐々に加えることで分散を行った。加えたポリシラノール化合物(a)の総量は、樹脂固形分の質量比でポリシラノール化合物/比較用変性エポキシ樹脂=70/30となる量であった。分散終了後、脱イオン水2231.0gを加え、脱溶剤して、比較用水性コーティング組成物を得た。
得られた水性コーティング組成物の固形分濃度は25.0質量%であった。
〔比較例4 比較用水性コーティング組成物 その2〕
エポキシ当量202.8のノボラッククレゾール型エポキシ樹脂(商品名:エポトートYDCN−701、東都化成社製)100gに、リノール酸69.1g、ジメチルベンジルアミン0.2gを、撹拌機、温度計、窒素導入管および還流冷却管を備えたセパラフラスコに加え、105℃に昇温し、1時間反応させて、長鎖炭化水素基を含有する、エポキシ当量が445のエポキシ樹脂を得た。
次いで、1−(2−ヒドロキシエチルチオ)−2,3−プロパンジオール33.5g、氷酢酸15.0g、脱イオン水13.6gを入れ、75℃で保温しつつ6時間反応させた。残存酸価が5以下であることを確認して、比較用変性エポキシ樹脂を得た。
得られた比較用変性エポキシ樹脂のゲルパーミエーションクロマトグラフィ(GPC)で測定(ポリスチレン換算)した数平均分子量は4400、スルホニウム基量および長鎖炭化水素基量はともに135mmol/100gであった。
得られた比較用変性エポキシ樹脂に製造例2で得られたポリシラノール化合物(a)を、充分に攪拌を行いながら、徐々に加えることで分散を行った。加えたポリシラノール化合物(a)の総量は、樹脂固形分の質量比でポリシラノール化合物/比較用変性エポキシ樹脂=70/30となる量であった。分散終了後、脱イオン水2900.0gを加え、脱溶剤して、比較用水性コーティング組成物を得た。
得られた水性コーティング組成物の固形分濃度は25.0質量%であった。
〔比較例5 比較用水性コーティング組成物 その3〕
エポキシ当量202.8のノボラッククレゾール型エポキシ樹脂(商品名:エポトートYDCN−701、東都化成社製)100gに、プロパルギルアルコール10.4g、ジメチルベンジルアミン0.2gを、撹拌機、温度計、窒素導入管および還流冷却管を備えたセパラフラスコに加え、105℃に昇温し、1時間反応させて、プロパルギル基を含有する、エポキシ当量が445のエポキシ樹脂を得た。
これに、リノール酸5.8g、追加のジメチルベンジルアミン0.1gを加え、さらに同温度にて3時間反応を継続し、プロパルギル基と長鎖炭化水素基とを含有する、エポキシ当量が405であるエポキシ樹脂組成物を得た。
次いで、1−(2−ヒドロキシエチルチオ)−2,3−プロパンジオール39.1g、氷酢酸17.3g、脱イオン水16.0gを入れ、75℃で保温しつつ6時間反応させた。残存酸価が5以下であることを確認して、比較用変性エポキシ樹脂を得た。
得られた比較用変性エポキシ樹脂のゲルパーミエーションクロマトグラフィ(GPC)で測定(ポリスチレン換算)した数平均分子量は3200、スルホニウム基量は218mmol/100g、プロパルギル基量は140mmol/100gおよび長鎖炭化水素基量は16mmol/100gであった。
得られた比較用変性エポキシ樹脂に製造例1で得られたポリシラノール化合物(a)を、充分に攪拌を行いながら、徐々に加えることで分散を行った。加えたポリシラノール化合物(a)の総量は、樹脂固形分の質量比でポリシラノール化合物/比較用変性エポキシ樹脂=70/30となる量であった。分散終了後、脱イオン水2130.0gを加え、脱溶剤して、比較用水性コーティング組成物を得た。
得られた水性コーティング組成物の固形分濃度は25.0質量%であった。
<評価>
(分散安定性)
実施例および比較例で得られたコーティング組成物について、製造直後の体積平均粒子径をレーザー回折式粒度分布測定装置(製品名:マイクロトラックUPA、日機装社製、溶媒として純水を使用)で測定した。24時間室温で静置し、前後の状態変化を目視で判断した。
○:変化なし
×:分離および沈降を確認
(耐電圧性)
上記分散安定性の評価で、分離および沈降が確認されなかったコーティング組成物について、脱脂処理したアルミニウム板(70mm×150mm×1.0mm)を陰極となるよう設定して、浴温度30℃、印加電圧100Vの条件で、5秒間浸漬し電着塗装を行った。被塗物を電着浴から引き上げ水洗し、190℃の温度で25分間加熱硬化を行い、コーティング膜が形成された試験板を得た。
得られた試験板について、耐電圧絶縁試験器 MODEL 8525(鶴賀電機社製)を用いて、JIS C3003に従って耐電圧を測定した。2kV以上のものが優れており、3kV以上が特に優れている。
(放熱性)
耐電圧性の評価のために作成した試験板と同じものを作製し、これらを105℃の乾燥機に入れ、表面に熱電対を貼り合わせて温度測定を行い、100℃に達する時間を測定した。300秒以下のものが優れており、200秒以下のものが特に優れている。
また、実施例1および比較例1のコーティング組成物について、試験板を作製する際の加熱を190℃から90℃で行った後に、プリント配線板を接着して複合体化したものについて、同じ試験を行った。
以上の評価結果をまとめて表2に示す。
Figure 2011089042
本発明の要件を満たす、実施例1〜3では、耐電圧性および放熱性に優れたコーティング膜を得ることができた。特に放熱性に関しては、特開2006−265658号公報に記載されている評価結果よりも優れた結果が得られた。
一方、本発明の要件であるポリシラノール化合物(a)を含まない比較例1および比較例2では、エポキシ変性樹脂(b)に基づくと思われる耐電圧性は優れていたが、放熱性に劣っていた。また、ポリシラノール化合物(a)およびエポキシ変性樹脂(b)を含有するものの、本発明で規定する数値範囲を満たさない比較例3〜5では、分散安定性に劣り、コーティング組成物を得ることができなかった。
これらの結果から、放熱性を得るためにポリシラノール化合物(a)が必要であるが、エポキシ変性樹脂(b)におけるスルホニウム基の量、プロパルギル基の量、および長鎖炭化水素基の量を所定の範囲に設定しないと、ポリシラノール化合物(a)を安定に分散させることは困難であることが明らかになった。
本発明の無機有機ハイブリッド水性コーティング組成物は、耐電圧性および放熱性に優れたコーティング膜を形成することができる。このため、電気・電子部品等の絶縁膜等の用途に好適に適用することができる。

Claims (12)

  1. 原料アルコキシシランを加水分解および縮合して得られるポリシラノール化合物(a)、ならびに、スルホニウム基、プロパルギル基および炭素数が8〜24である長鎖炭化水素基を有するエポキシ変性樹脂(b)を含む、水を媒体としたコーティング組成物であって、
    上記エポキシ変性樹脂(b)は、樹脂固形分100gあたりのスルホニウム基の量が70〜180mmol、プロパルギル基の量が80〜300mmolおよび長鎖炭化水素基の量が5〜120mmolである、無機有機ハイブリッド水性コーティング組成物。
  2. 上記ポリシラノール化合物(a)が、上記エポキシ変性樹脂(b)によって水媒体中に分散されている、請求項1に記載の無機有機ハイブリッド水性コーティング組成物。
  3. 上記エポキシ変性樹脂(b)は、ノボラッククレゾール型骨格またはノボラックフェノール型骨格を有し、数平均分子量が700〜5000である請求項1または2に記載の無機有機ハイブリッド水性コーティング組成物。
  4. 上記エポキシ変性樹脂(b)は、上記長鎖炭化水素基および上記プロパルギル基の合計量が、樹脂固形分100gあたり180mmol以上である請求項1〜3のいずれか1項に記載の無機有機ハイブリッド水性コーティング組成物。
  5. 上記エポキシ変性樹脂(b)は、上記スルホニウム基、上記長鎖炭化水素基および上記プロパルギル基の合計量が、樹脂固形分100gあたり400mmol以下である請求項1〜4のいずれか1項に記載の無機有機ハイブリッド水性コーティング組成物。
  6. 上記原料アルコキシシランは、トリアルコキシシランモノマーを含むものである、請求項1〜5のいずれか1項に記載の無機有機ハイブリッド水性コーティング組成物。
  7. 上記トリアルコキシシランモノマーは、珪素原子に直接炭素原子が結合した有機基を有しており、
    上記有機基は、炭素数6〜12のアルキル基、ビニル基、フェニル基、およびグリシドキシプロピル基からなる群から選ばれるものである、請求項6に記載の無機有機ハイブリッド水性コーティング組成物。
  8. 上記ポリシラノール化合物(a)と上記エポキシ変性樹脂(b)との樹脂固形分質量比が15/85〜90/10の範囲内である請求項1〜7のいずれか1項に記載の無機有機ハイブリッド水性コーティング組成物。
  9. 原料アルコキシシランを加水分解および縮合して得られるポリシラノール化合物(a)を、スルホニウム基、プロパルギル基および炭素数が8〜24である長鎖炭化水素基を有するエポキシ変性樹脂(b)によって、水媒体中に分散させる水性コーティング組成物の製造方法であって、
    上記エポキシ変性樹脂(b)は、樹脂固形分100gあたりの上記スルホニウム基の量が70〜180mmol、上記プロパルギル基の量が80〜300mmolおよび上記長鎖炭化水素基の量が5〜120mmolである、無機有機ハイブリッド水性コーティング組成物の製造方法。
  10. 請求項1〜8のいずれか1項に記載の無機有機ハイブリッド水性コーティング組成物を用いてコーティング膜を形成する、コーティング膜の形成方法。
  11. 上記コーティング膜の形成が、電着塗装によって行われる、請求項10に記載のコーティング膜の形成方法。
  12. 請求項10または11に記載の方法により得られるコーティング膜。
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