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JP2011084761A - 回転子用無方向性電磁鋼板およびその製造方法 - Google Patents

回転子用無方向性電磁鋼板およびその製造方法 Download PDF

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JP2011084761A
JP2011084761A JP2009236533A JP2009236533A JP2011084761A JP 2011084761 A JP2011084761 A JP 2011084761A JP 2009236533 A JP2009236533 A JP 2009236533A JP 2009236533 A JP2009236533 A JP 2009236533A JP 2011084761 A JP2011084761 A JP 2011084761A
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Ichiro Tanaka
一郎 田中
Kaoru Fujita
薫 藤田
Hiroyoshi Yashiki
裕義 屋鋪
Hiroki Takamaru
広毅 高丸
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Nippon Steel Corp
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Sumitomo Metal Industries Ltd
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Abstract

【課題】本発明は、時効熱処理を必要とせず、高速回転する回転機の回転子として必要な優れた機械特性と磁気特性とを兼備する無方向性電磁鋼板およびその製造方法を提供することを主目的とする。
【解決手段】本発明は、質量%で、C:0.06%以下、Si:1.6%超4.0%以下、Mn:0.05%以上3.0%以下、Al:2.5%以下、P:0.30%以下、S:0.04%以下、N:0.02%以下を含有し、残部がFeおよび不純物からなり、平均結晶粒径が50μm以下であり、板厚が0.15mm以上0.80mm以下であり、式(1):TS(max)−TS(min)≦60MPaおよび式(2):TS(min)≧550MPaを満足する機械特性を有することを特徴とする回転子用無方向性電磁鋼板を提供することにより、上記目的を達成する。
【選択図】図2

Description

本発明は、発電機、電動機(モータ)等の回転機の回転子、特に電気自動車、ハイブリッド自動車、燃料電池車の駆動モータ、ロボット、工作機械などのサーボモータといった高い効率が要求される回転機の回転子に用いられる無方向性電磁鋼板およびその製造方法に関する。とりわけ、高速回転する永久磁石埋め込み式モータの回転子として好適な優れた機械特性と磁気特性とを兼ね備えた無方向性電磁鋼板およびその製造方法に関し、時効熱処理による高強度化を必要としない無方向性電磁鋼板に関する。
近年の地球環境問題の高まりから、多くの分野において省エネルギー、環境対策技術が進展している。自動車分野も例外ではなく、排ガス低減、燃費向上技術が急速に進歩している。電気自動車、ハイブリッド自動車および燃料電池車はこれらの技術の集大成といっても過言ではなく、自動車駆動モータ(以下、単に「駆動モータ」ともいう。)の性能が自動車性能を大きく左右する。
駆動モータの多くは永久磁石を用いており、巻き線を施した固定子(ステータ)部分と永久磁石を配置した回転子(ロータ)部分とから構成される。最近では、永久磁石を回転子内部に埋め込んだ形状(永久磁石埋め込み型モータ;IPMモータ)が主流となっている。また、パワーエレクトロニクス技術の進展により回転数は任意に制御可能であり、高速化傾向にある。したがって、鉄心素材は商用周波数(50〜60Hz)以上の高周波数域で励磁される割合が高まっており、商用周波数での磁気特性のみでなく、400Hz〜数kHzでの磁気特性改善が要求されるようになってきた。また、回転子は高速回転時の遠心力のみならず回転数変動にともなう応力変動を常時うけることから、回転子の鉄心素材には機械特性も要求されている。特に、IPMモータの場合には複雑な回転子形状を有することから、回転子用の鉄心材料には応力集中を考慮して遠心力ならびに応力変動に耐えうるだけの機械特性が必要となる。また、ロボット、工作機械用のサーボモータ分野でも、駆動モータと同様に回転数の高速化が今後進行していくと予測される。
従来、駆動モータの固定子は主に打ち抜き加工した無方向性電磁鋼板の積層により製造されていたが、回転子はロストワックス鋳造法あるいは焼結法などにより製造されることもあった。これは固定子には優れた磁気特性が、回転子には堅牢な機械特性が要求されることによる。しかしながら、モータ性能は回転子−固定子間のエアギャップに大きく影響されるため、上述の回転子では精密加工の必要性が生じ鉄心製造コストが大幅に増加するという問題があった。コスト削減の観点からは、打ち抜き加工した電磁鋼板を使用すればよいが、回転子に必要な磁気特性と機械特性とを兼備した無方向性電磁鋼板は見出されていないのが現状であった。
優れた機械特性を有する電磁鋼板としては、例えば特許文献1に、3.5〜7%のSiに加えて、Ti、W、Mo、Mn、Ni、CoおよびAlのうちの1種または2種以上を20%を超えない範囲で含有する鋼板が提案されている。この方法では、鋼の強化機構として固溶強化を利用している。しかしながら、固溶強化の場合には冷間圧延母材も同時に高強度化されるため冷間圧延が困難であり、またこの方法においては温間圧延という特殊工程が必須であることから、生産性向上や歩留まり向上など改善の余地がある。
特許文献2には、2.0〜3.5%のSi、0.1〜6.0%のMnに加えてBおよび多量のNiを含有し、結晶粒径が30μm以下である鋼板が提案されている。この方法では、鋼の強化機構として、固溶強化と結晶粒径微細化による強化とを利用している。しかしながら、特許文献2の実施例に示されるように、Siを3.0%程度含有させた上に高価なNiを多量に含有させることが必須であり、冷間圧延時に割れが多発するという問題や、合金コスト増加という課題が残っている。
特許文献3および特許文献4には、2.0〜4.0%のSiに加えてNb、Zr、B、TiまたはVなどを含有する鋼板が提案されている。これらの方法では、Siによる固溶強化に加えてNb、Zr、TiまたはVの析出物による析出強化を利用しているが、析出物は磁気特性を劣化させるという欠点がある。また、特許文献3の実施例に示されるように、Siを3.0%程度含有させた上で高価なNiを多量に含有させることも必要となるため、冷間圧延時に割れが多発するという問題や、合金コスト増加という課題が残っている。
特許文献5および特許文献6には、SiおよびAlを0.03〜0.5%と制限した上でTi、NbおよびV、あるいはPおよびNiを含有する鋼板がそれぞれ提案されている。これらの方法では、Siによる固溶強化よりも炭化物の析出強化およびPの固溶強化を利用している。しかしながら、これらの方法では、後述する駆動モータの回転子として必要な強度レベルを確保することができないという問題や、特許文献5および特許文献6の実施例に示されているように、2.0%以上のNi含有が必須であり、合金コストが高いという問題がある。
特許文献7には、Si:1.6〜2.8%であって、結晶粒径、内部酸化層厚み、および降伏点を限定した永久磁石埋め込み型モータ用無方向性電磁鋼板が提案されている。しかしながら、この方法による鋼板の降伏点では、高速回転する駆動モータの回転子としては強度不足である。
特許文献8には、磁気特性の優れた高強度電磁鋼板が提案されている。しかしながら、Ti、Nbの含有量を不可避的不純物レベルとする、あるいは低減することを基本としているため、熱処理工程における再結晶の制御が困難であり、高い強度を安定的に得ることはできない。
特許文献9には、微細なCu析出物による時効硬化を活用した高強度無方向性電磁鋼板が提案されている。しかしながら、強度向上のためには時効熱処理が必須であるため、鉄心製造工程の増加が懸念される。
また、JIS C 2552に規定の無方向性電磁鋼板としては、いわゆる高グレード無方向性電磁鋼板(35A210、35A230など)が最も合金含有量が高く高強度であるが、機械特性レベルは上述の高張力電磁鋼板を下回っており高速回転する駆動モータの回転子としては強度不足である。
特開昭60-238421号公報 特開平1−162748号公報 特開平2−8346号公報 特開平6−330255号公報 特開2001−234302号公報 特開2002−146493号公報 特開2001−172752号公報 特開2005−113185号公報 特開2004−300535号公報
上述したように、無方向性電磁鋼板の高強度化手法として従来から提案されている固溶強化および析出強化では、冷間圧延の母材も強化されてしまうことから、冷間圧延時に割れが多発する。また、析出物は磁気特性を劣化させるという欠点もある。Cuの時効析出により高強度化する技術もあるが、時効熱処理工程の追加が必須となり工程数の増加を招く。また、本発明者らは変態強化についても検討を行ったが、変態強化ではマルテンサイト等の変態組織が鉄損を著しく増大させてしまい、回転子用途として実用に耐える磁気特性を実現することができないことが判明した。
ところで、回転子の強度設計は、用いられる鉄心材料の機械特性の面内異方性、すなわち面内において最も低い引張強さ(以下、「最小引張強さ」という。)を考慮して行われるが、上述の従来技術においては、機械特性の面内異方性に着目した検討はなされていなかった。
本発明は、上記問題点に鑑みてなされたものであり、時効熱処理を必要とせず、高速回転する電動機(モータ)、発電機等の回転機の回転子として必要な優れた機械特性と磁気特性とを兼備する無方向性電磁鋼板およびその製造方法を提供することを主目的とする。
本発明者らは、時効熱処理を必要とせず、回転子に適した磁気特性と機械特性とを兼ね備えた無方向性電磁鋼板を提供すべく、機械特性の面内異方性に着目して詳細に検討を行った。その結果、均熱処理工程における再結晶完了直後以降の極限られた範囲において、回転子の強度設計を決定づける最小引張強さの低下が抑制されつつも磁気特性が改善される領域が存在することが判明した。すなわち、再結晶完了前の転位強化状態から再結晶および再結晶後の粒成長が進行する過程において、鋼組織、磁気特性、機械特性の変化を詳細に調査したところ、下記(a)〜(d)の新たな知見を得たのである。
(a)再結晶完了前の転位強化状態では特定の方向(具体的には、圧延方向から45°の方向)における引張強さが常に最も低い。
(b)再結晶および粒成長の進行に伴って鉄損および引張強さはともに低下する。
(c)しかしながら、再結晶完了直前から再結晶完了直後および粒成長開始初期段階の極限られた範囲においては、上記特定の方向以外の方向の引張強さは低下するものの、上記特定の方向の引張強さはほとんど変化しない。すなわち、当該範囲においては、回転子の強度設計を決定づける最小引張強さの低下が抑制されつつも磁気特性が改善されるので、高い最小引張強さを維持しつつ可能な限り鉄損を低減させた最も特性バランスの良好な状態が実現される。
(d)さらに粒成長が進行すると上記特定の方向以外の方向における引張強さの低下が著しくなり、鉄損は低下するものの回転子の強度設計を決定づける最小引張強さも低下してしまう。
このように、再結晶完了直後以降の極限られた範囲における状態を実現することにより、回転子の強度設計を決定づける最小引張強さを高く維持したままで鉄損を低減することが可能なのである。そして、上記再結晶完了直後以降の極限られた範囲における状態とは、上記特定の方向以外の方向の引張強さは低下しつつも上記特定の方向の引張強さがほとんど変化しない状態、すなわち、引張強さの面内異方性が著しく小さい状態のことであり、当該状態が実現されている無方向性電磁鋼板は、高い最小引張強さを維持しつつ可能な限り鉄損を低減した最も特性バランスの良好な状態にあることに他ならない。
このような再結晶および粒成長の制御には析出物の微細分散が有効であるが、析出物により磁壁移動が阻害されるために磁気特性が劣化するという大きな欠点がある。そこで、析出物の微細分散に代わる手法を種々検討した。その結果、Nb、Zr、TiおよびVの含有量を所定の範囲とする、具体的にはCおよびNの含有量を超える量のNb、Zr、TiおよびVを含有させることで、磁気特性を劣化させる析出物の微細分散によらずとも再結晶および粒成長の制御が容易に達成できるとの新たな知見を得た。
上記状態が実現されている無方向性電磁鋼板を実製造ラインで製造するには、最終製品について鋼組織の解析や引張試験に代表される機械特性の調査を行って、その調査結果を製造条件にフィードバックする手法によればよい。ただし、前述のとおり、上記状態は再結晶完了直後以降の極限られた範囲において限定的に実現されるものであるので、上記状態の実現をより高い精度で制御するには、タイムラグの長い上記手法に代替するタイムラグの短い別の手法が求められる。そこで、タイムラグの短い別の手法について鋭意検討を行った結果、X線回折で得られる鋼板面の特定方位のピークの半価幅を指標とする手法が好適であることを見出した。当該手法によれば、オンラインでの測定が可能であり、その測定結果を即時に製造条件へフィードバックできるので、非常に高い精度での制御が可能となる。また、オンラインでの測定を行わない場合であっても、簡便な加工で試験片を採取することができるので、製造条件へのフィードバックのタイムラグが非常に短い。
これらの新知見は、機械特性を圧延方向のみ、あるいは板面内の平均特性で評価する従来の評価方法では把握し得なかったものであり、また、回転子の実用性能向上に確実に寄与できるものである。これらの新知見を得て本発明を完成させた。なお、上述の従来技術は、機械特性を圧延方向のみ、あるいは圧延方向と圧延方向に対して90°方向との平均特性で評価するものであり、そのような評価では上記新知見を得ることはできない。
すなわち、本発明は、質量%で、C:0.06%以下、Si:1.6%超4.0%以下、Mn:0.05%以上3.0%以下、Al:2.5%以下、P:0.30%以下、S:0.04%以下、N:0.02%以下を含有し、残部がFeおよび不純物からなり、平均結晶粒径が50μm以下であり、板厚が0.15mm以上0.80mm以下であり、下記式(1)および(2)を満足する機械特性を有することを特徴とする回転子用無方向性電磁鋼板を提供する。
TS(max)−TS(min)≦60MPa (1)
TS(min)≧550MPa (2)
(ここで、TS(max)は、圧延方向、圧延方向に対して45°方向および圧延方向に対して90°方向において最も高い引張強さであり、TS(min)は、圧延方向、圧延方向に対して45°方向および圧延方向に対して90°方向において最も低い引張強さを示す。)
本発明によれば、引張強さの面内異方性が小さいので、前述のごとく、高い最小引張強さを維持しつつ可能な限り鉄損を低減した最も特性バランスの良好な状態を得ることができ、回転子用途に必要な優れた磁気特性と機械特性を兼備した無方向性電磁鋼板とすることができる。
また、本発明の回転子用無方向性電磁鋼板は、Nb、Ti、ZrおよびVからなる群から選択される少なくとも1種の元素を、下記式(3)を満足する範囲で含有することが好ましい。
0<Nb/93+Zr/91+Ti/48+V/51−(C/12+N/14)≦0.04 (3)
(ここで、式(3)中、Nb、Zr、Ti、V、CおよびNはそれぞれの元素の含有量(質量%)を示す。)
本発明によれば、上記式(3)によってNb、Ti、ZrおよびVの含有量を規定することにより、後述するように、固溶Nb、Ti、ZrおよびVによって再結晶を制御することができるので、再結晶完了直後以降の極限られた範囲にて得られる所望の状態を安定的に確保することができ、磁気特性および機械特性に優れた無方向性電磁鋼板とすることがより容易にできる。また、析出物ではなく固溶Nb、Ti、ZrおよびVを活用しているため、析出物の微細分散による再結晶の制御のように顕著な磁気特性劣化が生じることもない。
また、本発明の回転子用無方向性電磁鋼板は、質量%で、Nb:0.02%超0.5%以下を含有することが好ましい。再結晶完了直後以降の極限られた範囲にて得られる所望の状態に制御するためには、Nb、Zr、Ti、Vのなかでも特にNbを中心に含有させることが最も効果的であるからである。すなわち、Nb、Zr、Ti、Vのなかでも特にNbの再結晶および結晶粒成長遅延効果が大きいため、再結晶完了直後以降の極限られた所望の状態に安定的に制御できるからである。
さらに、本発明の回転子用無方向性電磁鋼板は、Cu、Ni、Cr、Mo、CoおよびWからなる群から選択される少なくとも1種の元素を下記の質量%で含有していてもよい。
Cu:0.01%以上1.5%以下 Ni:0.01%以上1.0%以下
Cr:0.01%以上15.0%以下 Mo:0.005%以上4.0%以下
Co:0.01%以上4.0%以下 W:0.01%以上4.0%以下
上記元素の高強度化作用により、鋼板の強度をより高めることが可能となるからである。
また、本発明の回転子用無方向性電磁鋼板は、Sn、Sb、Se、Bi、Ge、TeおよびBからなる群から選択される少なくとも1種の元素を下記の質量%で含有していてもよい。
Sn:0.001%以上0.5%以下 Sb:0.0005%以上0.5%以下
Se:0.0005%以上0.3%以下 Bi:0.0005%以上0.2%以下
Ge:0.001%以上0.5%以下 Te:0.0005%以上0.3%以下
B:0.0002%以上0.01%以下
上記元素の粒界偏析により、効果的に粒成長を遅延させることができるからである。
さらに、本発明の回転子用無方向性電磁鋼板は、Ca、MgおよびREMからなる群から選択される少なくとも1種の元素を下記の質量%で含有していてもよい。
Ca:0.0001%以上0.03%以下 Mg:0.0001%以上0.02%以下
REM:0.0001%以上0.1%以下
上記元素の硫化物形態制御作用により、磁気特性をさらに改善することができるからである。
また、本発明は、上述した鋼組成を備える鋼塊または鋼片に熱間圧延を施す熱間圧延工程と、上記熱間圧延工程により得られた熱間圧延鋼板に一回または中間焼鈍をはさむ二回以上の冷間圧延を施すことにより板厚を0.15mm以上0.80mm以下とする冷間圧延工程と、上記冷間圧延工程により得られた冷間圧延鋼板に均熱処理を施す均熱処理工程とを有する製造方法であって、上記均熱処理工程において、鋼板面のX線回折によって得られる回折パターンの{211}面を示すピークの半価幅:β(deg)を0.20以下とすることを特徴とする回転子用無方向性電磁鋼板の製造方法を提供する。
半価幅βはオンラインでの測定が可能であるので、その測定結果を即時に製造条件へフィードバックすることができる。また、オンラインでの測定を行わない場合であっても、簡便な加工で試験片を採取することができるので、製造条件へのフィードバックのタイムラグが非常に短い。このため、本発明によれば、均熱処理工程において再結晶完了直後以降の極限られた範囲でのみ得られる引張強さの面内異方性が著しく小さい状態へ非常に高い精度で制御することが可能である。これにより磁気特性と機械特性のバランスが良好な無方向性電磁鋼板を安定的に製造することが可能である。このように本発明によれば、従来のようにNi、W、Mo等の高価な鋼成分を多量に含有させることも、温間圧延等の特殊な工程を経ることも、さらには時効熱処理を実施することも必須とせずに、例えば駆動モータの回転子として必要な磁気特性および機械特性を満足した無方向性電磁鋼板を安定して製造することができる。
さらに、本発明の回転子用無方向性電磁鋼板の製造方法は、上記式(3)を満足する鋼組成を備える上記冷間圧延鋼板を上記均熱処理工程において均熱温度820℃超950℃以下、均熱時間10秒以下で均熱するものであることが好ましい。固溶Nb、Ti、ZrおよびVの活用により、磁気特性劣化を引き起こす析出物を微細に分散させずとも十分に再結晶、粒成長を制御可能であるため、再結晶完了直後以降の極限られた範囲でのみ得られる上記所望の状態へ、さらに安定的に制御することが可能となるためである。
さらに、本発明の回転子用無方向性電磁鋼板の製造方法は、上記熱間圧延鋼板に熱延板焼鈍を施す熱延板焼鈍工程を有していてもよい。熱延板焼鈍を施すことにより、鋼板の延性が向上し冷間圧延工程での破断を抑制できるからである。
本発明においては、温間圧延、時効熱処理等の特殊な工程を経ることなく、また、析出物を微細分散させた場合に生じる顕著な磁気特性の劣化を被ることもなく、高速回転する回転機の回転子として必要な優れた機械特性と磁気特性とを兼備する無方向性電磁鋼板を安定に製造することが可能である。そのため、電気自動車、ハイブリッド自動車、燃料電池車の駆動モータ分野などにおける回転数の高速化に十分対応でき、その工業的価値は極めて高い。また、本発明の無方向性電磁鋼板をIPMモータの回転子に用いれば、耐熱温度の低い安価な永久磁石へのグレードダウンも可能と考えられ、近年のハイブリッド車の低価格化を背景とした素材コスト低減の要請に十分に応えることができる。
再結晶完了前の状態における、引張強さの面内異方性を示す図である。 圧延方向、圧延45°方向、圧延90°方向の引張強さと均熱温度との関係を示す図である。 750℃で20秒間保持の均熱処理を行った鋼板についての、Nb(=Nb/93−C/12−N/14)およびTi(=Ti/48−C/12−N/14)と引張強さとの関係を示す図である。 半価幅β測定の模式図である。
本発明で言及する回転子に用いる電磁鋼板として必要な特性とは、第一に機械特性であり、引張強さを指す。これは高速回転時の回転子の変形抑制のみならず、応力変動に起因する疲労破壊抑制を目的としている。近年の電気自動車、ハイブリッド自動車、燃料電池車の駆動モータでは疲労破壊を抑制する観点から引張強さは550MPa以上、安全率を考慮すると600MPa以上必要である。もちろん、鋼板の面内異方性を考慮して、最も強度の低い方向にてこの強度レベルを達成している必要がある。
また、回転子に用いる電磁鋼板として必要な第二の特性は磁束密度である。IPMモータのようにリラクタンストルクを活用するモータでは回転子に用いられる材質の磁束密度もトルクに影響を及ぼし、磁束密度が低いと所望のトルクを得られない。
さらに、回転子に用いる電磁鋼板として必要な第三の特性は鉄損である。回転子で発生する鉄損はモータ効率そのものを支配するものではないが、回転子の鉄損すなわち発熱により永久磁石が減磁するため、間接的にモータ性能を劣化させる。したがって、回転子に使用される材質の鉄損値の上限は永久磁石の耐熱温度の観点から決定され、固定子に使用される材質よりも鉄損値が高くとも許容される。近年のハイブリッド車の低価格化を背景とした素材コスト低減の要請に鑑みれば、耐熱温度の低い安価な永久磁石へのグレードダウンが可能なレベルまで鉄損を低減することが求められる。
本発明者らはこれらの特性を満足する無方向性電磁鋼板について鋭意検討を行った。
以下、本発明を完成させるに至った知見について説明する。
まず、本発明者らは、回転子の強度設計に重要な影響を及ぼす鋼板の機械特性の面内異方性の変化を明らかにするため、主要成分を、質量%で、C:0.002%、Si:3.0%、Mn:0.2%、Al:1.0%、S:0.002%、N:0.002%、P:0.01%とし、Nbの含有量をトレース、0.08%と変化させた鋼に熱間圧延を施して厚さ2.3mmとした後、800℃で10時間の熱延板焼鈍を行い、一回の冷間圧延にて0.35mmまで仕上げ、種々の温度で5秒間保持する均熱処理を施し、鋼組織および引張強さの面内異方性を調査した。なお、均熱処理後は500℃まで30℃/sで冷却した。
図1に、再結晶完了前の転位強化状態における引張強さの面内異方性を示す。供試材は0.08%のNbを含有させた鋼である。再結晶完了前では圧延方向に対して45°方向の引張強さが最も低く、V字型の面内異方性を有していることが判明した。この結果から、V字の両端である圧延方向と圧延方向に対して90°方向、および引張強さが最も低い圧延方向に対して45°方向の3方向に着目して検討を進めた。
図2に、圧延方向、圧延方向に対して45°方向(圧延45°方向と称する場合がある。)、圧延方向に対して90°方向(圧延90°方向と称する場合がある。)の引張強さと均熱温度との関係を示す。供試材は0.08%のNbを含有させた鋼である。均熱温度の高温化による再結晶、粒成長の進行にともない引張強さは減少するが、再結晶完了直前から再結晶完了直後以降の極限られた範囲では転位強化状態にて最も強度の低い方向であった圧延45°方向の引張強さはほとんど変化していないことが明らかとなった。また、この範囲では、引張強さの面内異方性が極めて小さくなることも明らかとなった。
磁気特性を調査した結果、均熱温度の高温化による再結晶、粒成長の進行にともない鉄損の減少が確認された。このため、上述の引張強さの面内異方性が極めて小さい範囲では、回転子の強度設計を決定づける最小引張強さを実質的に維持したまま、鉄損が低減されていることが判明した。
また、引張強さの面内異方性の変化を詳細に調査した結果、面内異方性は上述の3方向(圧延方向、圧延45°方向、圧延90°方向)で評価すれば十分であることを確認した。
また、同一温度で均熱処理を実施した場合、Nbをトレースとした鋼よりも0.08%のNbを含有させた鋼の方が再結晶および粒成長が遅延して高い引張強さを示すが、再結晶部分の面積率が同一の条件で比較すれば、Nbをトレースとした鋼と0.08%のNbを含有させた鋼とは同様の引張強さを示すことが判明した。すなわち、磁気特性と機械特性を高次元で両立するためには、Nbの含有量によらず、再結晶完了直後以降の極限られた範囲で得られる引張強さの面内異方性の著しく小さい状態へ制御することが重要との新知見を得た。
さらに、Nbをトレースとした鋼では上記の機械特性の面内異方性が著しく小さくなる範囲が極めて狭いので、安定的にこの範囲へ制御するにはNbを含有させることが重要との新知見も得た。
次に、Nbを積極的に含有させることによる再結晶および粒成長の遅延が、Nbの析出物に起因するのか固溶Nbに起因するのかを確認するため、また、Nbと同様に析出物を形成しやすい元素であるTiの効果をNbと比較するために、下記の実験を行った。すなわち、主要成分を、質量%で、Si:2.0%、Mn:0.2%、Al:0.3%、N:0.002%、P:0.01%とし、C、SおよびNbの含有量をそれぞれC:0.001〜0.04%、S:0.0002〜0.03%、Nb:0.001〜0.6%と変化させた鋼と、主要成分を、質量%で、Si:2.1%、Mn:0.2%、Al:0.3%、N:0.002%、P:0.01%とし、C、SおよびTiの含有量をそれぞれC:0.001〜0.04%、S:0.0002〜0.03%、Ti:0.001〜0.3%と変化させた鋼とに熱間圧延を施して2.3mmとした後、800℃で10時間の熱延板焼鈍を行い、さらに一回の冷間圧延にて0.35mmまで仕上げ、750℃で20秒間保持の条件で均熱処理を施した。このようにして得られた鋼板の圧延方向の引張強さを測定した。ここで、均熱温度および均熱時間を750℃で20秒間と比較的低温で比較的長時間保持する条件で実施したのは、粒成長に先立つ回復および再結晶過程に及ぼすNb、Tiの影響の差異を明確にするためである。圧延方向の引張強さで整理したのは、前述の試験により、機械特性の面内異方性の変化は把握済みであるためである。
図3に、750℃で20秒間保持の均熱処理を施したそれぞれの鋼板について、Nb、C、Nの含有量、およびTi、C、Nの含有量により規定される下記式(A)および(B)で示されるNbおよびTiと、鋼板の引張強さとの関係を示す。
Nb=Nb/93−C/12−N/14 (A)
Ti=Ti/48−C/12−N/14 (B)
(ここで、式(A)および(B)中、Nb、Ti、CおよびNはそれぞれの元素の含有量(質量%)を示す。)
図3より、Nb>0、Ti>0の場合にのみ優れた機械特性が得られることがわかった。Nb、Tiは、CおよびNの含有量を超える量の余剰のNb、Ti量であり、CおよびNと析出物を形成することなく固溶状態で鋼中に存在する固溶Nb、固溶Ti含有量と対応する。したがって、回復および再結晶を抑制し、ひいては粒成長も抑制するには、固溶Nb、固溶Ti含有量の確保が重要であると判明した。
さらに、NbとTiを比較すると、Nbの回復および再結晶抑制効果の方がTiのそれよりも大きいため、粒成長を抑制する効果もNbの方が大きくなり、上記の再結晶完了直後以降の極限られた範囲への制御には、Nbを積極的に含有させ、固溶Nbを確保することが有効であることも判明した。
また、ZrおよびVについても、上記と同様の検討を行い、それらの知見を合わせて、上記の再結晶完了直後以降の極限られた範囲への制御には下記式(3)を満足させる必要があると判明した。
0<Nb/93+Zr/91+Ti/48+V/51−(C/12+N/14)≦0.04 (3)
(ここで、式(3)中、Nb、Zr、Ti、V、CおよびNはそれぞれの元素の含有量(質量%)を示す。)
さらに本発明者らは、上記の再結晶完了直後以降の極限られた範囲への制御をより安定的に得る手段について検討した。その結果、試料の樹脂への埋め込みおよびエッチングを必要とする鋼組織の調査や、試験片の切削加工を必要とする引張試験などよりも、オンラインでの測定や簡便な加工で採取した試験片により測定が可能な、X線回折を用いる評価の方が好適であるとの知見を得た。具体的には、鋼板の歪み状態を鋼板面のX線回折で得られる回折パターンの半価幅で評価し、製造へフィードバックするという手法である。これによれば、Nb、Zr、TiおよびVの含有量などの鋼組成にかかわらず、回復、再結晶の進行度が把握でき、再結晶完了直後以降の極限られた範囲へ安定的に制御可能である。
以上の新知見により、本発明を完成させたのである。
以下、本発明の回転子用無方向性電磁鋼板およびその製造方法について詳細に説明する。
A.回転子用無方向性電磁鋼板
本発明の回転子用無方向性電磁鋼板は、質量%で、C:0.06%以下、Si:1.6%超4.0%以下、Mn:0.05%以上3.0%以下、Al:2.5%以下、P:0.30%以下、S:0.04%以下、N:0.02%以下を含有し、残部がFeおよび不純物からなり、平均結晶粒径が50μm以下であり、板厚が0.15mm以上0.80mm以下であり、下記式(1)および(2)を満足する機械特性を有することを特徴とするものである。
TS(max)−TS(min)≦60MPa (1)
TS(min)≧550MPa (2)
(ここで、TS(max)は、圧延方向、圧延方向に対して45°方向および圧延方向に対して90°方向において最も高い引張強さであり、TS(min)は、圧延方向、圧延方向に対して45°方向および圧延方向に対して90°方向において最も低い引張強さを示す。)
なお、各元素の含有量を示す「%」は、特に断りのない限り「質量%」を意味するものである。以下、本発明の回転子用無方向性電磁鋼板における鋼組成、平均結晶粒径、板厚および機械特性について説明する。
1.鋼組成
(1)C
CはNb、Zr、TiまたはVと結びついて析出物を形成するため、固溶Nb、Zr、TiおよびVの含有量の減少に繋がる。したがって、固溶Nb、Zr、TiおよびVにより冷間圧延後の均熱処理において進行する再結晶、粒成長を抑制し、再結晶完了直後以降の極限られた範囲にて限定的に得られる状態へ制御する場合には、C含有量を低減することが好ましい。しかしながら、過度のC含有量の低減は製鋼コストが増加する点や、C含有量が多くてもNb、Zr、TiおよびVの含有量をそれに応じて増加させれば固溶Nb、Zr、TiおよびVの含有量は確保される点を鑑み、C含有量は0.06%以下とする。好ましくは0.04%以下、さらに好ましくは0.02%以下である。特に、C含有量が0.01%以下であれば、Nb/93+Zr/91+Ti/48+V/51−(C/12+N/14)>0なる条件を満たすのに必要なNb、Zr、TiおよびVの含有量が少なくてすむので製造コストの観点から望ましい。
(2)Si
Siは電気抵抗を高め、渦電流損失を低減する効果を有する元素である。また、固溶強化により鋼板の強度を向上させる効果も有する。この観点から、Si含有量は1.6%超であり、好ましくは2.0%超である。しかしながら、多量のSiを含有させた場合には冷間圧延時の割れを誘発し、鋼板の歩留まり低下により製造コストが増加する。そのため、Si含有量は4.0%以下とする。また、割れ抑制の観点から好ましい上限は3.5%である。
(3)Mn
MnはSiと同様に電気抵抗を高め、渦電流損失を低減する効果がある。しかしながら、Mnを多量に含有させると合金コストが増加するため、Mn含有量の上限は3.0%とする。一方、Mn含有量の下限はSを固定する観点から定められるものであり、0.05%とする。
(4)Al
Alは電気抵抗を高めるためSiと同様に渦電流損失を低減する。しかしながら、多量にAlを含有させると合金コストが増加するとともに、飽和磁束密度低下により磁束の漏れが発生するためモータ効率が低下する。これらの観点からAl含有量の上限は2.5%とする。下限は特に限定しないが、固溶強化による鋼板の高強度化という観点からは、望ましい下限値は0.1%である。
(5)P
Pは固溶強化により鋼板の強度を高める効果があるが、多量にPを含有する場合には冷間圧延時の割れを誘発する。そのためP含有量は0.30%以下とする。
(6)S
Sは鋼中に不可避的に混入する不純物であるが、製鋼段階で低減するにはコストが増加するため、S含有量としては0.04%を上限とする。
(7)N
NはNb、Zr、TiまたはVと結びついて析出物を形成するため、固溶Nb、Zr、TiおよびVの含有量の減少に繋がる。したがって、固溶Nb、Zr、TiおよびVにより冷間圧延後の均熱処理において進行する再結晶、粒成長を抑制し、再結晶完了直後以降の極限られた範囲にて限定的に得られる状態へ制御する場合には、N含有量を低減することが好ましい。しかしながら、N含有量が多くてもNb、Zr、TiおよびVの含有量をそれに応じて増加させれば固溶Nb、Zr、TiおよびVの含有量は確保できる点を鑑み、N含有量は0.02%以下とする。好ましくは0.01%以下、さらに好ましくは0.005%以下である。N含有量が0.005%以下であれば、Nb/93+Zr/91+Ti/48+V/51−(C/12+N/14)>0なる条件を満たすのに必要なNb、Zr、TiおよびVの含有量が少なくてすむので製造コストの観点から望ましい。
(8)Nb、Zr、TiおよびV
均熱処理において進行する再結晶、粒成長を抑制して、再結晶完了直後以降の極限られた範囲にて限定的に得られる状態へ制御し、回転子に必要な機械特性と磁気特性とを高い次元で得るためには、析出物を形成していない固溶した状態のNb、Zr、TiまたはVを含有させることが有効であり、好ましい。したがって、Nb、Zr、TiおよびVからなる群から選択される少なくとも1種の元素を、下記式(4)を満足する範囲で含有させることが好ましい。
0<Nb/93+Zr/91+Ti/48+V/51−(C/12+N/14) (4)
(ここで、式(4)中、Nb、Zr、Ti、V、CおよびNはそれぞれの元素の含有量(質量%)を示す。)
上記式(4)の右辺は、Nb、Zr、TiおよびVの含有量とCおよびNの含有量との差を表しており、この値が正であることは炭化物、窒化物または炭窒化物といった析出物を形成していない固溶した状態のNb、Zr、TiまたはVを含有していることに対応する。
これらの元素のなかでも、再結晶および粒成長遅延効果は固溶Nbと固溶Tiが大きいため、NbあるいはTiを積極的に含有させることが好ましい。特に、固溶Nbの寄与が大きいため、Nbを積極的に含有させることが好ましい。Nb含有量は0.02%を超えることが好ましく、より好ましくは0.03%以上、さらに好ましくは0.04%以上、再結晶完了直後以降の極限られた範囲にて限定的に得られる状態へ安定的に制御する観点からは0.05%以上が好ましい。Tiを積極的に含有させる場合は、Ti含有量は0.01%を超えることが好ましく、さらに好ましくは0.02%以上である。
一方、Nb、Zr、TiおよびVを過剰に含有する場合には、リジングと呼ばれる表面欠陥が生じる場合があり、鉄心に積層した場合の占積率が低下してモータ効率が低下するため好ましくない。また、冷間圧延時に割れが生じる場合もある。Nb、Zr、TiおよびVの含有量の上限値はこのような表面性状劣化の抑制と冷間圧延時の割れ抑制の観点から定められ、Nb含有量は0.5%以下であることが好ましい。Ti含有量は0.5%以下、Zr含有量は1%以下、V含有量は1%以下であることがそれぞれ好ましい。
また、固溶Nb、Zr、TiおよびVの含有量の上限値も同様の観点から定められる。本発明においては、再結晶完了以降の温度域を前提としていることから、Nb/93+Zr/91+Ti/48+V/51−(C/12+N/14)の上限値は比較的高くても許容され、Nb、Zr、TiおよびVは下記式(3)で示される範囲が好適である。
0<Nb/93+Zr/91+Ti/48+V/51−(C/12+N/14)≦0.04 (3)
(ここで、式(3)中、Nb、Zr、Ti、V、CおよびNはそれぞれの元素の含有量(質量%)を示す。)
ところで、硫化物を考慮すると固溶状態のNb、Zr、TiおよびVの含有量はS含有量にも影響される。しかしながら、上述したS含有量の範囲内では再結晶抑制効果に及ぼすSによる影響は認められなかったため、本発明においてはSの項を省略した上記式(3)を採用した。Sの影響が認められなかった理由は明確でないが、凝固末期のSが濃化した領域からMnSとなって晶出するなどしてMnによりSが固定されたためと考えられる。
(9)Cu、Ni、Cr、Mo、CoおよびW
本発明においては、鋼板を高強度化する作用を有するCu、Ni、Cr、Mo、CoおよびWからなる群から選択される少なくとも1種の元素を含有させることができる。
Cuは鋼板の固有抵抗を増加し、鉄損を低減する効果もある。しかしながら、過度にCuを含有させると表面疵や冷間圧延時の割れの発生につながるため、Cu含有量は0.01%以上1.5%以下とすることが好ましい。表面疵を抑制する観点からは、1.0%以下とすることが好ましい。また、上述の特許文献9に示されるようなCuを積極的に含有させた鋼を時効熱処理により高強度化する従来技術と本発明との差異を明確化することもCu含有量上限値の設定理由である。
NiおよびMoは過度に含有させると冷間圧延時の割れの発生やコスト増加につながるため、Ni含有量は0.01%以上1.0%以下、Mo含有量は0.005%以上4.0%以下とすることが好ましい。
Crは鋼板の固有抵抗を増加し、鉄損を低減する効果もある。また耐食性を改善する効果も有する。しかしながら、過度にCrを含有させるとコストが増加するため、Cr含有量は0.01%以上15.0%以下とすることが好ましい。
CoおよびWは、過度に含有させるとコストが増加するため、Co含有量は0.01%以上4.0%以下、W含有量は0.01%以上4.0%以下とすることが好ましい。
(10)Sn、Sb、Se、Bi、Ge、TeおよびB
本発明においては、粒界偏析により粒成長を抑制する効果を有するSn、Sb、Se、Bi、Ge、TeおよびBからなる群から選択される少なくとも1種の元素を含有させることができる。これらの元素を含有させる場合には、熱間圧延工程での割れの発生およびコスト増加を抑制する観点から、各元素の含有量をSn:0.5%以下、Sb:0.5%以下、Se:0.3%以下、Bi:0.2%以下、Ge:0.5%以下、Te:0.3%以下、B:0.01%以下とすることが好ましい。これらの元素による粒成長抑制効果を確実に得るには、各元素の含有量をSn:0.001%以上、Sb:0.0005%以上、Se:0.0005%以上、Bi:0.0005%以上、Ge:0.001%以上、Te:0.0005%以上、B:0.0002%以上とすることが好ましい。
(11)Ca、MgおよびREM
本発明で規定するS含有量の範囲内では固溶Nb、Ti、ZrおよびV含有量に及ぼすSの影響は認められなかったため、本発明においては硫化物の形態制御による磁気特性改善を目的としてCa、MgおよびREMからなる群から選択される少なくとも1種を含有させることができる。
ここでREMとは、原子番号57〜71の15元素、ならびに、ScおよびYの2元素の合計17元素をさす。
これらの元素を含有させる場合には、各元素の含有量はCa:0.03%以下、Mg:0.02%以下、REM:0.1%以下が好ましい。上記効果を確実に得るためには、各元素の含有量をCa:0.0001%以上、Mg:0.0001%以上、REM:0.0001%以上とすることが好ましい。
2.平均結晶粒径
本発明は、再結晶完了直後以降の極限られた範囲で限定的に得られる状態へ制御することにより、磁気特性と機械特性を高次元で両立することに立脚している。したがって、過度に結晶粒が粗大化した場合は上記の状態から外れるため、平均結晶粒径は50μm以下とする。好ましくは45μm以下である。結晶粒径が微細化すれば磁気特性は劣化するが、本発明では微細な析出物が分散していない状態で再結晶部分の面積比率を100%とすることを前提としており、この範囲では従来の転位強化型の回転子用無方向性電磁鋼板よりも鉄損が低くなり、耐熱温度の低い安価な永久磁石へのグレードダウンも可能な程度にまで磁気特性が改善される。そのため結晶粒径の下限値は特に規定する必要はないが、通常は15μm以上である。
ここで、平均結晶粒径とは、縦断面組織写真において、板厚方向および圧延方向について切断法により測定した結晶粒径の平均値を用いればよい。この縦断面組織写真としては光学顕微鏡写真を用いることができ、例えば100倍の倍率で撮影した写真を用いればよい。また、上述の縦断面組織写真において視野中に占める再結晶粒の割合を示す再結晶部分の面積比率は、この縦断面組織写真をもとに測定することができる。
3.板厚
本発明の回転子用無方向性電磁鋼板の板厚は、0.15mm以上0.80mm以下である。板厚が上記範囲未満では、過度の加工が必要となって冷間圧延時に破断するおそれがある。また、占積率やカシメ強度が低下する可能性もある。一方、板厚が上記範囲を超えると、渦電流損失が増加するため、モータ効率が低下するおそれがある。このような観点から、好ましい板厚は0.20mm以上0.70mm以下、さらに好ましくは0.20mm以上0.50mm以下である。板厚が0.20mm以上0.40mm以下であれば、鉄損低減の観点からはさらに好ましい。これらの範囲で所望の鉄損レベルに応じて板厚を適宜選定すればよい。
4.引張強さ
本発明では、再結晶完了直後以降の極限られた範囲で限定的に得られる、引張強さの面内異方性が極めて小さい状態へ制御することにより、磁気特性と機械特性を高次元で両立させている。再結晶完了以前の転位強化された状態から再結晶完了後の粒成長過程までの広い範囲で引張強さの面内異方性を調査した結果、前述のとおり引張強さの面内異方性は圧延方向、圧延方向に対して45°方向および圧延方向に対して90°方向の3方向で評価すれば十分であるとの知見が得られており、引張強さの面内異方性が小さいことの指標として下記式(1)を満たす必要がある。
TS(max)−TS(min)≦60MPa (1)
(ここで、TS(max)は、圧延方向、圧延方向に対して45°方向および圧延方向に対して90°方向において最も高い引張強さであり、TS(min)は、圧延方向、圧延方向に対して45°方向および圧延方向に対して90°方向において最も低い引張強さを示す。)
式(1)の左辺の好ましい上限は50MPa、さらに好ましくは40MPaである。引張強さを維持したまま鉄損を低減することにより、優れた磁気特性と機械特性を両立する観点からは、35MPa以下が好ましい。
また、近年の電気自動車、ハイブリッド自動車、燃料電池車の駆動モータでは、回転子形状の複雑化、回転子径の大型化、埋め込まれた永久磁石の大型化などにより、疲労破壊抑制の観点から引張強さは550MPa以上必要である。そのため、機械特性は下記式(2)を満たす必要がある。
TS(min)≧550MPa (2)
(ここで、TS(min)は、圧延方向、圧延方向に対して45°方向および圧延方向に対して90°方向において最も低い引張強さを示す。)
TS(min)は600MPa以上であることが好ましい。
B.回転子用無方向性電磁鋼板の製造方法
次に、本発明の回転子用無方向性電磁鋼板の製造方法について説明する。
本発明の回転子用無方向性電磁鋼板の製造方法は、上述した鋼組成を備える鋼塊または鋼片に熱間圧延を施す熱間圧延工程と、上記熱間圧延工程により得られた熱間圧延鋼板に一回または中間焼鈍をはさむ二回以上の冷間圧延を施すことにより、板厚を0.15mm以上0.80mm以下とする冷間圧延工程と、上記冷間圧延工程により得られた冷間圧延鋼板に均熱処理を施す均熱処理工程とを有する製造方法であって、上記均熱処理工程において、鋼板面のX線回折によって得られる回折パターンの{211}面を示すピークの半価幅:β(deg)を0.20以下とすることを特徴とするものである。
半価幅βは、オンラインでの測定が可能であるので、その測定結果を即時に製造条件へフィードバックすることができる。また、オンラインでの測定を行わない場合であっても、打抜加工や切断加工などの簡便な加工で試験片を採取することができるので、製造条件へのフィードバックのタイムラグが非常に短い。このため、本発明によれば、再結晶完了直後以降の極限られた範囲でのみ得られる引張強さの面内異方性が著しく小さい状態へ非常に高い精度で制御することが可能である。これにより磁気特性と機械特性のバランスが良好な無方向性電磁鋼板を安定的に製造することが可能となる。
以下、このような無方向性電磁鋼板の製造方法における各工程について説明する。
1.熱間圧延工程
本発明における熱間圧延工程は、上述した鋼組成を備える鋼塊または鋼片(以下、「スラブ」ともいう。)に熱間圧延を施す工程である。なお、鋼塊または鋼片の鋼組成については、上述した「A.回転子用無方向性電磁鋼板」の項に記載したものと同様であるので、ここでの説明は省略する。
本工程においては、上述した組成を有する鋼を、連続鋳造法あるいは鋼塊を分塊圧延する方法など一般的な方法によりスラブとし、加熱炉に装入して熱間圧延を施す。この際、スラブ温度が高い場合には加熱炉に装入しないで熱間圧延を行ってもよい。スラブ加熱温度は特に限定されるものではないが、コストおよび熱間圧延性の観点から1000℃以上1300℃以下とすることが好ましい。より好ましくは1050℃以上1250℃以下である。熱間圧延の各種条件は特に限定されるものではないが、仕上げ温度は700℃以上950℃以下、巻き取り温度は750℃以下が好ましい。
2.冷間圧延工程
本発明における冷間圧延工程は、上記熱間圧延工程により得られた熱間圧延鋼板に一回または中間焼鈍をはさむ二回以上の冷間圧延を施すことにより、板厚が0.15mm以上0.80mm以下の冷間圧延鋼板を作製する工程である。
本工程においては、鋼板を0.15mm以上0.80mm以下の所望の板厚に仕上げる。この際、一回の冷間圧延で所定の板厚まで仕上げてもよいし、中間焼鈍を含む二回以上の冷間圧延によって仕上げてもよい。ここで一回の冷間圧延とは、中間焼鈍を施すことなく所望の板厚まで冷間圧延にて仕上げることをいう。
上述の「A.回転子用無方向性電磁鋼板」の項に記載したように、冷間圧延鋼板の好ましい板厚は0.20mm以上0.70mm以下、さらに好ましくは0.20mm以上0.50mm以下である。板厚が0.20mm以上0.40mm以下であれば、鉄損低減の観点からはさらに好ましい。これらの範囲で所望の鉄損レベルに応じて板厚を適宜選定すればよい。
冷間圧延時の鋼板温度、圧下率、圧延ロール径など、冷間圧延の各種条件は特に限定されるものではなく、被圧延材の鋼組成、目的とする鋼板の板厚などにより適宜選択するものとする。
上記熱間圧延工程により得られた熱間圧延鋼板は、通常、熱間圧延の際に鋼板表面に生成したスケールを酸洗により除去してから冷間圧延に供される。熱間圧延鋼板に後述する熱延板焼鈍を施す場合には、熱延板焼鈍前あるいは熱延板焼鈍後のいずれかにおいて酸洗すればよい。
3.均熱処理工程
本発明では、均熱処理工程にて進行する回復、再結晶、粒成長を制御し、再結晶完了直後の極限られた範囲へ制御することが必要である。そのためには均熱温度への昇温速度、均熱温度、均熱保持時間、均熱後の冷却速度を総合的に制御することが重要であるが、同一の温度に制御した炉内に同一時間保持しても、均熱処理工程時の材料温度は板厚、放射率にも大きく影響を受けるため、上記の極限られた好ましい状態へ制御するのは容易ではない。そこで、本発明における均熱処理工程は、上記冷間圧延鋼板を均熱し、半価幅βを0.20以下とする工程とする。ここで、βは鋼板面のX線回折によって得られる{211}面の回折パターンから、バックグラウンドおよびKα2のピークを除去したKα1のピークの半価幅(deg)である。半価幅β測定の模式図を図4に示す。
半価幅βが過大である場合には、鋼板中に転位が多量に残存した未再結晶状態であり、再結晶完了直後以降の極限られた範囲で得られる好ましい状態にはなり得ない。均熱処理工程において、この極限られた状態に到達させる基準が0.20以下である。好ましくは0.18以下である。半価幅βは非破壊で測定することが可能であるため、オンラインで測定することにより鋼板全長にわたり再結晶完了直後以降の極限られた範囲に制御することが可能となる。また、半価幅βは打抜加工、切断加工などの簡便な加工で採取した試験片の表面で測定が可能であるため、オンラインでの測定が不可能な場合であっても、均熱処理工程ラインの出側で試験片を採取し、製造条件へ即時にフィードバックすることができる。そのため、再結晶完了直後以降の極限られた範囲でのみ得られる引張強さの面内異方性が著しく小さい状態へ安定的に制御することが十分可能である。これらより、磁気特性と機械特性のバランスが良好な無方向性電磁鋼板を安定的に製造することが可能となる。
本発明では、上記式(3)を満足する鋼組成を備える冷間圧延鋼板を均熱温度820℃超950℃以下、均熱時間10秒以下で均熱する均熱処理工程にて、半価幅βを0.20以下、好ましくは0.18以下とすることが好適である。再結晶および粒成長を遅延させる効果の大きい鋼組成を有しているため、比較的高温かつ広い温度範囲で引張強さの面内異方性が小さい所望の状態へ制御することが可能となり、より安定的に所望の特性の鋼板を製造可能なためである。
強度レベルを実質的に維持したまま鉄損を低減することにより優れた磁気特性と機械特性を両立する観点から、均熱温度は840℃以上が好ましい。より好ましくは860℃以上である。
引張強さの面内異方性が著しく小さい状態は、再結晶完了直後以降の極限られた状態にてのみ得られるため、均熱時間が長いと粒成長の進行に起因して所望の状態を得られない。本発明では粒成長抑制効果の大きい析出物を微細に分散させていないため、上記の所望の状態を得るためには均熱時間は短い方が好ましく、10秒以下とする。より好ましくは8秒以下、さらに好ましくは5秒以下である。
均熱保持後は、粒成長が進行しない500℃まで15℃/s以上の冷却速度で冷却することが好ましい。過度に冷却速度が速い場合には歪みの導入により磁気特性が劣化するため、冷却速度の上限は40℃/sが好ましい。
なお、本発明は生産性の観点から均熱処理は連続焼鈍ラインにて実施する。箱焼鈍では、コイル状態で焼鈍に供されることに起因してコイルの巻きぐせ(コイルセットともいう)により鋼板の平坦度が低下したり、形状が劣化したりすることがあるため、均熱処理後に平坦度や形状を矯正する矯正工程が必要な場合があり、生産性が大幅に劣化するためである。また、半価幅βを測定後に製造条件へフィードバックすることも困難なためである。
4.熱延板焼鈍工程
本発明においては、上記熱間圧延工程により得られた熱間圧延鋼板に熱延板焼鈍を施す熱延板焼鈍工程を行ってもよい。この熱延板焼鈍工程は、熱間圧延工程と冷間圧延工程との間に行われる工程である。
熱延板焼鈍工程は必ずしも必須の工程ではないが、熱延板焼鈍工程を行うことにより、鋼板の延性が向上し冷間圧延工程での破断を抑制できる。熱延板焼鈍は、箱焼鈍および連続焼鈍のいずれの方法で実施してもよい。また、熱延板焼鈍の各種条件は特に限定されるものではなく、熱間圧延鋼板の鋼組成などにより適宜選択するものとする。
5.その他の工程
本発明においては、上記均熱処理工程後に、一般的な方法に従って、有機成分のみ、無機成分のみ、あるいは有機無機複合物からなる絶縁皮膜を鋼板表面に塗布するコーティング工程を行うことが好ましい。環境負荷軽減の観点から、クロムを含有しない絶縁皮膜を塗布しても構わない。また、コーティング工程は、加熱・加圧することにより接着能を発揮する絶縁コーティングを施す工程であってもよい。接着能を発揮するコーティング材料としては、アクリル樹脂、フェノール樹脂、エポキシ樹脂またはメラミン樹脂などを用いることができる。
なお、本発明により製造される回転子用無方向性電磁鋼板については、上述した「A.回転子用無方向性電磁鋼板」の項に記載したものと同様であるので、ここでの説明は省略する。
なお、本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。上記実施形態は例示であり、本発明の特許請求の範囲に記載された技術的思想と実質的に同一な構成を有し、同様な作用効果を奏するものは、いかなるものであっても本発明の技術的範囲に包含される。
以下、実施例および比較例を例示して、本発明を具体的に説明する。
[実施例1]
下記の表1に示す鋼組成を有するスラブを1150℃に加熱し、仕上げ温度820℃で熱間圧延を行い580℃で巻き取り、厚さが2.0mmの熱間圧延鋼板を得た。これらの熱間圧延鋼板のうち一部を除いて水素雰囲気中にて10時間保持する箱焼鈍、あるいは1000℃で60秒間保持する連続焼鈍による熱延板焼鈍を施し、一回の冷間圧延にて種々の板厚に仕上げた。また、一部の熱間圧延鋼板については、上記の熱延板焼鈍後、中間板厚まで冷間圧延した後、水素雰囲気中にて750℃または800℃で10時間保持する箱焼鈍、あるいは1000℃で60秒間保持する連続焼鈍による中間焼鈍を実施し、二回目の冷間圧延で0.35mmに仕上げた。さらに、一部の熱間圧延鋼板については熱延板焼鈍を施すことなく、一回あるいは中間焼鈍を含む二回の冷間圧延にて0.35mmに仕上げた。その後、種々の温度で5秒間保持する連続焼鈍による均熱処理を施した。均熱後は、20℃/sの冷却速度で500℃まで冷却した。
[比較例1]
上記表1に示す鋼組成を有する鋼を用いて、実施例1と同様にして鋼板を作製した。
[評価]
実施例1-1〜1-27および比較例1-1〜1-7の鋼板について、均熱処理後の再結晶部分の面積比率、平均結晶粒径、機械特性、磁気特性および半価幅を評価した。
再結晶部分の面積比率および平均結晶粒径は、ともに100倍の倍率で撮影した鋼板の縦断面の光学顕微鏡写真を用い、視野中に占める再結晶粒の割合を再結晶部分の面積比率として算出するとともに、再結晶部分の面積比率が100%の鋼板について切断法により結晶粒径を測定し、その結晶粒径を平均した。
機械特性は、圧延方向、圧延方向に対して45°方向、圧延方向に対して90°方向のそれぞれを長手方向としたJIS5号試験片を用いた引張試験を行い、引張強さ:TSにて評価した。
磁気特性については、55mm角の単板試験片にて、最大磁束密度:1.0T、励磁周波数:400Hzでの鉄損W10/400と、磁化力5000A/mでの磁束密度B50とを測定した。測定は圧延方向と圧延直角方向について実施し、それらの平均値を採用した。
半価幅βは、X線回折パターンによる{211}面の回折線のうち、Kα1のピーク半価幅(deg)により評価した。
表2に、実施例1-1〜1-27および比較例1-1〜1-7の鋼板についての熱延板焼鈍条件、冷間圧延条件(中間板厚および中間焼鈍条件)、均熱処理条件、評価結果をそれぞれ示す。
比較例1-1の鋼板はSi含有量が高いために冷間圧延時に破断した。また、比較例1-2の鋼板は板厚が本発明で限定する上限を上回っているため鉄損が高く、Al含有量が高いために磁束密度が低かった。比較例1-3の鋼板はP含有量が高いために冷間圧延時に破断した。さらに、比較例1-4の鋼板はCおよびMnの含有量が高く、鋼組織がマルテンサイト組織であるために鉄損が著しく増大し、磁束密度も低かった。また、変態に起因して鋼板の平坦度が劣化したため、半価幅βを測定することができなかった。比較例1-5の鋼板はNb、Zr、TiおよびVの含有量が本発明の好適範囲外であり、さらに均熱温度も高いために粒成長が抑制されず、結晶粒径が粗大化し、引張強さに劣っていた。比較例1-6の鋼板はNb、Zr、TiおよびVの含有量は本発明の好適範囲であるものの、均熱温度が高すぎたために結晶粒径が粗大化し、引張強さに劣っていた。比較例1-7の鋼板はNb、Zr、TiおよびVの含有量は本発明の好適範囲であるものの、均熱温度が低すぎたために再結晶が完了しておらず、引張強さの面内異方性も大きく、鉄損も大きかった。
これに対して本発明で規定する要件を満足する実施例1-1〜1-27の鋼板では、熱延板焼鈍の方法、冷間圧延の回数にかかわらず、また、Niなどの高価な元素を多量に含有させることもなく、時効熱処理を実施することもなく、優れた磁気特性・機械特性を示していた。
実施例1-14および1-15を比較することにより、S含有量が変化しても機械特性は変化しないことがわかった。また、実施例1-18〜1-26に示されるように、Cu、Ni、Cr、Mo、Co、W、Sn、Sb、Se、Bi、Ge、Te、B、Ca、MgおよびREMを適正量含有させても本発明の効果が得られることがわかった。
[実施例2]
下記の表3に示す鋼組成を有するスラブを1150℃に加熱し、仕上げ温度800℃で熱間圧延を行い550℃で巻き取り、厚さ2.3mmの熱間圧延鋼板とした後、水素雰囲気中にて800℃で10時間保持する箱焼鈍による熱延板焼鈍を施し、一回の冷間圧延にて0.35mmに仕上げた。その後、種々の温度で均熱処理を施した。均熱後は30℃/sの冷却速度で500℃まで冷却した。
得られた鋼板について、均熱処理後の再結晶部分の面積比率、平均結晶粒径、機械特性、磁気特性および半価幅を評価した。
再結晶部分の面積比率および平均結晶粒径は、ともに100倍の倍率で撮影した鋼板の縦断面の光学顕微鏡写真を用い、視野中に占める再結晶粒の割合を再結晶部分の面積比率として算出するとともに、再結晶部分の面積比率が100%の鋼板について切断法により結晶粒径を測定し、その結晶粒径を平均した。
機械特性は、圧延方向、圧延方向に対して45°方向、圧延方向に対して90°方向のそれぞれを長手方向としたJIS5号試験片を用いた引張試験を行い、引張強さ:TSにて評価した。
磁気特性については、55mm角の単板試験片にて、最大磁束密度:1.0T、励磁周波数:400Hzでの鉄損W10/400と、磁化力5000A/mでの磁束密度B50とを測定した。測定は圧延方向と圧延直角方向について実施し、それらの平均値を採用した。
半価幅βは、X線回折パターンによる{211}面の回折線のうち、Kα1のピーク半価幅(deg)により評価した。
表4に、均熱処理条件、評価結果をそれぞれ示す。
鋼組成が本発明の好適範囲を外れる鋼bでは、均熱温度が高温化した場合や、均熱時間が長くなった場合(No.2-19〜2-21)には、結晶粒径が粗大化し引張強さに劣るものとなった。鋼組成が本発明の好適範囲の鋼aでは、均熱温度および均熱時間が本発明の好適範囲を外れる場合(No.2-1〜2-7、2-14、2-17)、半価幅βが好適範囲から外れ、引張強さの面内異方性が大きくかつ鉄損に劣る、あるいは結晶粒径が粗大化し引張強さに劣るものとなった。
一方、鋼組成が本発明の好適範囲内であり、均熱温度および均熱時間が本発明の好適範囲であるNo.2-8〜2-13、2-15、2-16の鋼板は、半価幅βが好適範囲内となり、引張強さの面内異方性が小さく、磁気特性と機械特性の双方に優れていた。
これらの結果より、鋼組成が本発明の好適範囲内であれば、所望の特性を達成できる均熱処理条件が拡がり、安定的に磁気特性と機械特性の双方に優れる無方向性電磁鋼板を製造し得ることが判明した。

Claims (9)

  1. 質量%で、C:0.06%以下、Si:1.6%超4.0%以下、Mn:0.05%以上3.0%以下、Al:2.5%以下、P:0.30%以下、S:0.04%以下、N:0.02%以下を含有し、残部がFeおよび不純物からなり、平均結晶粒径が50μm以下であり、板厚が0.15mm以上0.80mm以下であり、下記式(1)および(2)を満足する機械特性を有することを特徴とする回転子用無方向性電磁鋼板。
    TS(max)−TS(min)≦60MPa (1)
    TS(min)≧550MPa (2)
    (ここで、TS(max)は、圧延方向、圧延方向に対して45°方向および圧延方向に対して90°方向において最も高い引張強さであり、TS(min)は、圧延方向、圧延方向に対して45°方向および圧延方向に対して90°方向において最も低い引張強さを示す。)
  2. 前記Feの一部に代えて、Nb、Ti、ZrおよびVからなる群から選択される少なくとも1種の元素を、下記式(3)を満足する範囲で含有することを特徴とする請求項1に記載の回転子用無方向性電磁鋼板。
    0<Nb/93+Zr/91+Ti/48+V/51−(C/12+N/14)≦0.04 (3)
    (ここで、式(3)中、Nb、Zr、Ti、V、CおよびNはそれぞれの元素の含有量(質量%)を示す。)
  3. 前記Feの一部に代えて、質量%で、Nb:0.02%超0.5%以下を含有することを特徴とする請求項1または請求項2に記載の回転子用無方向性電磁鋼板。
  4. 前記Feの一部に代えて、Cu、Ni、Cr、Mo、CoおよびWからなる群から選択される少なくとも1種の元素を下記の質量%で含有することを特徴とする請求項1から請求項3までのいずれかに記載の回転子用無方向性電磁鋼板。
    Cu:0.01%以上1.5%以下 Ni:0.01%以上1.0%以下
    Cr:0.01%以上15.0%以下 Mo:0.005%以上4.0%以下
    Co:0.01%以上4.0%以下 W:0.01%以上4.0%以下
  5. 前記Feの一部に代えて、Sn、Sb、Se、Bi、Ge、TeおよびBからなる群から選択される少なくとも1種の元素を下記の質量%で含有することを特徴とする請求項1から請求項4までのいずれかの請求項に記載の回転子用無方向性電磁鋼板。
    Sn:0.001%以上0.5%以下 Sb:0.0005%以上0.5%以下
    Se:0.0005%以上0.3%以下 Bi:0.0005%以上0.2%以下
    Ge:0.001%以上0.5%以下 Te:0.0005%以上0.3%以下
    B:0.0002%以上0.01%以下
  6. 前記Feの一部に代えて、Ca、MgおよびREMからなる群から選択される少なくとも1種の元素を下記の質量%で含有することを特徴とする請求項1から請求項5までのいずれかの請求項に記載の回転子用無方向性電磁鋼板。
    Ca:0.0001%以上0.03%以下 Mg:0.0001%以上0.02%以下
    REM:0.0001%以上0.1%以下
  7. 請求項1から請求項6までのいずれかの請求項に記載の鋼組成を備える鋼塊または鋼片に熱間圧延を施す熱間圧延工程と、前記熱間圧延工程により得られた熱間圧延鋼板に一回または中間焼鈍をはさむ二回以上の冷間圧延を施すことにより板厚を0.15mm以上0.80mm以下とする冷間圧延工程と、前記冷間圧延工程により得られた冷間圧延鋼板に均熱処理を施す均熱処理工程とを有する製造方法であって、
    前記均熱処理工程において、鋼板面のX線回折によって得られる回折パターンの{211}面を示すピークの半価幅:β(deg)を0.20以下とすることを特徴とする回転子用無方向性電磁鋼板の製造方法。
  8. 前記冷間圧延鋼板が下記式(3)を満足する鋼組成を備えるものであり、前記均熱処理工程において均熱温度820℃超950℃以下、均熱時間10秒以下で均熱することを特徴とする請求項7に記載の回転子用無方向性電磁鋼板の製造方法。
    0<Nb/93+Zr/91+Ti/48+V/51−(C/12+N/14)≦0.04 (3)
    (ここで、式(3)中、Nb、Zr、Ti、V、CおよびNはそれぞれの元素の含有量(質量%)を示す。)
  9. 前記熱間圧延鋼板に熱延板焼鈍を施す熱延板焼鈍工程を有することを特徴とする請求項7または請求項8に記載の回転子用無方向性電磁鋼板の製造方法。
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