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JP2011065787A - 正極体、及びその製造方法 - Google Patents

正極体、及びその製造方法 Download PDF

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良子 神田
Yukihiro Ota
進啓 太田
Taku Kamimura
卓 上村
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Abstract

【課題】放電容量が高く、サイクル特性に優れる非水電解質電池を作製するための正極体を提供する。
【解決手段】高結晶性の正極活物質粒子と、正極活物質粒子の隙間を埋める低結晶性の正極活物質からなるマトリックスとを備える正極体とする。このような正極体を非水電解質電池に用いれば、高結晶性の正極活物質粒子により放電容量を十分に確保できる。また、この正極体は、高結晶性の正極活物質粒子と低結晶性のマトリックスとからなる、不均質な結晶構造を有するため、非水電解質電池のサイクル特性を向上させることができる。正極体の結晶構造が不均質であると、高結晶性の正極活物質粒子からのLiイオンの一部が、マトリックスの欠陥部分に分散するので、充放電時の正極活物質層の厚み方向におけるLiイオンの濃度差を、放電容量を低下させない範囲で適度に緩和することができる。
【選択図】なし

Description

本発明は、非水電解質電池に利用される正極体、およびその製造方法に関するものである。特に、本発明は、放電容量が高く、繰り返しの充放電にも放電容量が低下し難い非水電解質電池とすることができる正極体、およびその製造方法に関するものである。
携帯機器といった比較的小型の電気機器の電源に、正極集電体と正極活物質層を有する正極層、負極集電体と負極活物質層を有する負極層、および、これら電極層の間に配される電解質層を備える非水電解質電池が利用されている。非水電解質電池のなかでも特に、正・負極層間のLiイオンの移動により充放電を行うLiイオン電池は、小型でありながら高い放電容量を備える。
近年、このような非水電解質電池の正極活物質層として、正極活物質を焼結した正極体を利用することが提案されている。例えば、特許文献1には、金属アルコキシドまたは金属水酸化物を原料として生成したゾルを、集電体となる基板上に塗工・焼成し、金属酸化物でできた焼結体からなる正極活物質層を形成することが開示されている。
特開2001−143688号公報
しかし、上記特許文献1の電池では、以下に示すような不具合があった。
まず、一点目として、ゾル−ゲル法で形成した正極活物質層は低結晶性であるため、放電容量が小さくなるという問題が挙げられる。正極活物質層が低結晶性になるのは、ゾルを塗工する基板の耐熱性の問題から、焼結温度を高く設定することができないためである。ここで、結晶性の高低は、組成式から推定される結晶構造とは異なる構造となっている部分が多いか少ないか、即ち、結晶構造に原子の欠損などの欠陥が多いか少ないかを表すものである。つまり、低結晶性の正極活物質層は、微細で欠陥の多い結晶構造を有するものである。
二点目として、充放電時のLiイオンの移動に伴い正極活物質層が膨張・収縮するため、充放電を繰り返すうちに、正極活物質層が破損する虞があるという問題を挙げることができる。正極活物質層が破損すると、電池の放電容量が大幅に低下してしまう。これは、ゾル−ゲル法で形成した正極活物質層の結晶構造がほぼ均質であり、充放電時の正極活物質層の膨張・収縮を緩和する部分が正極活物質層にないためであると推察される。
三点目として、同文献の段落0023に記載のように、1回のゾルの塗工で10μmを超える正極活物質層を形成すると、正極活物質層にひび割れなどが生じるという問題である。特に、近年では電池の高容量化を目的として正極活物質層を厚く形成したいというニーズがあるが、特許文献1の技術ではそのニーズに応える厚さの正極活物質層を1回のゾルの塗工で形成できなかった。そのような厚さの正極活物質層を形成しようとすれば、ゾルを塗工して焼結した正極活物質層の上に、さらにゾルを重ね塗りして焼結する必要がある。これでは、正極活物質層の形成が煩雑である上、重ね塗りした層間のLiイオン伝導性の低下が懸念される。
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、その目的の一つは、放電容量が高く、繰り返しの充放電にも放電容量が低下し難い非水電解質電池を製造するための正極体を提供することにある。また、本発明の別の目的は、本発明正極体を容易に製造することができる正極体の製造方法を提供することにある。
(1)本発明正極体は、非水電解質電池に用いられる焼結体からなる正極体に係る。そして、本発明正極体は、高結晶性の正極活物質粒子と、前記正極活物質粒子の隙間を埋める低結晶性の正極活物質からなるマトリックスと、を備えることを特徴とする。
ここで、既に説明したように、結晶性の高低は、結晶構造において、原子の欠損などの欠陥が多いか少ないかを表すものである。つまり、本発明正極体における低結晶性のマトリックスは、アモルファスではなく結晶構造を有するものの、高結晶性の正極活物質粒子よりも結晶構造に欠陥が多い。この結晶性の高低は、例えば、X線回折を行ったときの半値幅で判断することができる。
上記本発明正極体を正極層として利用した非水電解質電池は、高い放電容量と優れたサイクル特性を備えた電池となる。本発明正極体を用いた電池が高い放電容量を有する理由は、正極体に、高結晶性の正極活物質粒子を含有するためである。また、本発明正極体を用いた電池が優れたサイクル特性を有する理由は、正極体が、高結晶性の正極活物質粒子と低結晶性のマトリックスとからなる不均質な結晶構造を有するためと推察される。正極体の結晶構造が不均質であると、高結晶性の正極活物質粒子からのLiイオンの一部が、マトリックスの欠陥部分に分散するので、充放電時の正極活物質層の厚み方向におけるLiイオンの濃度差を、放電容量を低下させない範囲で適度に緩和することができるからである。
(2)本発明正極体の一形態として、正極活物質粒子とマトリックスの組成はいずれも、Liαβ(1−X)とすることができる。
αは、Co,Ni,Mnから選択される1種以上
βは、Fe,Alから選択される1種以上
Xは、0.5以上、1.0以下
上記組成式で表される化合物の具体例を以下に列挙する。
LiCoO(α=Co、X=1)
LiNiO(α=Ni、X=1)
LiMnO(α=Mn、X=1)
LiNi1/3Co1/3Mn1/3(α=Co+Ni+Mn、X=1)
LiNi1/2Mn1/2(α=Ni+Mn、X=1)
LiNi0.8Co0.15Al0.05(α=Co+Ni、β=Al、X=0.95)
本発明正極体における正極活物質粒子とマトリックスは必ずしも同一組成である必要はないが、上記したような共通の組成式で表される化合物で両相を構成しても良い。例えば、正極活物質粒子をLiCoO(α=Co、X=1)とし、マトリックスを正極活物質粒子と同じLiCoOとすることが挙げられる。但し、正極活物質粒子とマトリックスを同じLiCoOとするにしても、両者の結晶性に差を設けておくことは言うまでも無い。その他、正極活物質粒子をLiCoOとし、マトリックスをLiNi1/3Co1/3Mn1/3(α=Co+Ni+Mn、X=1)などとしても良い。このように、共通の組成式で表される正極活物質で正極活物質粒子とマトリックスを形成すると、当該粒子とマトリックスとの境界部分で原子の相互拡散が生じ易く、粒子とマトリックスとのなじみが良い。
(3)本発明正極体の一形態として、正極活物質粒子とマトリックスの合計体積に占める正極活物質粒子の体積の割合は、90%以上であることが好ましい。
上記構成によれば、正極体において、放電容量を高くすることに寄与する高結晶性の正極活物質粒子の量を十分に確保できる。
(4)本発明正極体の一形態として、正極活物質粒子の平均結晶粒径は、5〜20μmであることが好ましい。
上記構成によれば、各正極活物質粒子間の隙間に、適度な厚さのマトリックスを形成することができる。
(5)本発明正極体の製造方法は、非水電解質電池に利用される正極体の製造方法であって、以下の工程を備えることを特徴とする。
正極活物質の前駆物質を溶解した溶液を用意する工程。
高結晶性の正極活物質粒子を用意する工程。
前記溶液と前記正極活物質粒子とを混合する混合工程。
前記混合工程で得られた混合溶液を基板表面に塗工する塗工工程。
前記混合溶液を焼結する焼結工程。
本発明正極体の製造方法において用意する前駆物質は、溶液に溶解した段階で正極活物質となり始めるものであっても良いし、後述するように混合工程で加熱するか、あるいは焼結工程で焼結することで初めて正極活物質となるものであっても良い。前者の前駆物質を使用した方法は、いわゆる溶液法と呼ばれるものであり、後者の前駆物質を使用した方法は、いわゆるゾル−ゲル法と呼ばれるものである。また、塗工工程で用いる基板は、本発明正極体を非水電解質電池としたときに正極集電体となる金属板を利用することが好ましい。
本発明正極体の製造方法によれば、本発明正極体を製造することができる。特に、本発明正極体の製造方法によれば、塗工される混合溶液中に正極活物質粒子が含有され、混合溶液中の溶液成分が相対的に少なくなっているため、1回の塗工で厚い塗工膜を形成することができる。また、塗工膜中の溶液成分が少ないため、厚い塗工膜を形成しても、塗工膜を焼結して得られる正極体にひび割れなどが生じ難い。
(6)本発明正極体の製造方法の一形態として、焼結工程における焼結温度は、450〜650℃であることが好ましい。
焼結温度が450〜650℃であると、マトリックスの結晶性が低くなりすぎたり、あるいは高くなりすぎたりすることがなく、電池としたときに優れた充放電特性を発揮する正極体を製造することができる。
(7)本発明正極体の製造方法の一形態として、混合工程は、焼結温度よりも低い温度で加熱しながら行なうことが好ましい。
上記構成のように、混合工程において加熱を行なうことで、溶液法であれば、正極活物質の生成を促進できるし、溶液の粘度を調節することで基板への混合溶液の塗工を容易にできる。また、ゾル−ゲル法であれば、混合の段階で正極活物質の生成を開始できるし、その生成量を調節することで基板への混合溶液の塗工を容易にできる。
本発明正極体を用いて非水電解質電池を作製すれば、高い放電容量を有する電池とすることができる。また、この電池は、充放電を繰り返しても正極体に劣化が生じ難いため、初期の放電容量を長期にわたって維持することができる。
実施形態に係る非水電解質電池の概略構成図である。
以下、図1を参照しつつ本発明の実施形態を説明する。なお、参照する図1に示す非水電解質電池100は、あくまで本発明正極体を用いた非水電解質電池の一形態に過ぎない。
[全体構成]
図1に示すように、非水電解質電池(Liイオン電池)100は、正極層1と、負極層2と、これら電極層1,2の間に配される電解質層3とを有する。この電池100は、正極層1と負極層2との間でLiイオンの遣り取りをすることで電池として機能する。そして、この電池100の最も特徴とするところは、正極層1として、本発明正極体を用いたことにある。以下、電池100に備わる正極体1について説明し、その後、電池100に備わる他の構成について簡単に説明する。
<正極層>
≪正極層の構成≫
正極層1は、集電機能を有する正極集電体11と、その一面側に形成される正極活物質層12と、を備える本発明正極体である。
正極層1(正極体)に備わる正極集電体11としては、例えば、AlやCu、Niなどの単体金属や、ステンレスなどの合金を利用できる。
一方、正極活物質層12は、焼結体であって、高結晶性の正極活物質粒子と、各正極活物質粒子の隙間を埋める低結晶性の正極活物質からなるマトリックスと、を備える。このように、焼結体の結晶性を不均質にすることによって、電池100の充放電時に正極活物質層12の厚み方向におけるLiイオンの濃度差を緩和することができる。その結果、電池100の充放電を繰り返しても、正極活物質層12に割れや欠けなどの欠損が生じ難い電池100、即ち、サイクル特性に優れた電池100とすることができる。しかも、正極活物質層12には高結晶性の正極活物質粒子が含有されているため、電池100の放電容量を確保することができる。
正極活物質粒子とマトリックスは、正極活物質であれば特に限定されない。例えば、正極活物質として、Liαβ(1−X)(αはCo,Ni,Mnから選択される1種以上、βはFe,Alから選択される1種以上、Xは0.5以上、1.0以下)を用いることが好ましい。具体的には、正極活物質として、LiCoOやLiNiO、LiMnO、LiCo0.5Fe0.5、LiCo1/2Al1/2などを利用できる。また、正極活物質粒子とマトリックスは、同一の組成であっても良いし、異なる組成であっても良い。同一組成であれば、粒子とマトリックスとの境界部分で原子の相互拡散が生じ易く、粒子とマトリックスとのなじみが良い。そのため、このような正極活物質層12を利用すれば、放電容量が高く、サイクル特性に優れた非水電解質電池100とすることができる。
また、正極活物質粒子とマトリックスの結晶性は、例えば、XRD(X−ray diffraction)の回折ピークの半値幅により特定することができる。測定する物質の結晶構造に欠陥が多いほど、即ち、測定する物質の結晶性が低いほど、半値幅はブロードになる傾向があるからである。ここで、正極活物質層12における結晶性の高低は、あくまで、正極活物質粒子とマトリックスとを比較したときの相対的な高低であって、当該粒子とマトリックスとが実質的に同一と見なせるような結晶性でなければ良い。正極活物質粒子とマトリックスのそれぞれの結晶性について定量的に規定すると、例えば、正極活物質粒子をXRD法で評価した結果、例えば、(003)面の半値幅W1で規定するのであれば、0.10≦W1≦0.30であることが好ましく、(104)面の半値幅W2で規定するのであれば、0.10≦W2≦0.27であることが好ましい。また、マトリックスを同様にXRD法で評価した結果、(003)面の半値幅W1で規定するのであれば、0.35≦W1≦0.66とすることが好ましく、(104)面の半値幅W2で規定するのであれば、0.29≦W2≦0.40であることが好ましい。正極活物質粒子の結晶性が高いほど、電池の放電容量を向上させることができる。一方、マトリックスの結晶性が低すぎると、マトリックスを設けた効果が低くなる虞がある。
また、正極活物質粒子とマトリックスの合計体積に占める正極活物質粒子の体積割合は、90%以上であることが好ましい。このような体積割合であれば、電池100の放電容量を向上させることができるし、サイクル特性も向上させることができる。マトリックスが少なすぎると、マトリックスを設けた効果が損なわれるため、上記体積割合の上限は、95%以下である。
その他、正極活物質粒子の平均結晶粒径は、5〜20μmとすることが好ましい。このような平均結晶粒径の正極活物質粒子を利用すれば、当該粒子間のマトリックスの厚さを適度な厚さとすることができる。その結果、電池100の放電容量とサイクル特性を向上させることができる。より好ましい平均結晶粒径は、8〜12μmである。
≪正極層の製造方法≫
上述した正極層1(正極体)を製造するには、大きく分けて溶液法とゾル−ゲル法を用いることができる。いずれの方法も、以下の5工程を有する点で共通する。
正極活物質の前駆物質を溶解した溶液を用意する工程。
高結晶性の正極活物質粒子を用意する工程。
前記溶液と前記正極活物質粒子とを混合する混合工程。
前記混合工程で得られた混合溶液を基板表面に塗工する塗工工程。
前記混合溶液を焼結する焼結工程。
(溶液法)
まず、正極活物質の前駆物質を溶解した溶液を用意する。溶液法では、溶液を作製した時点で前駆物質が正極活物質になり始める。例えば、作製する正極活物質がLiCoOであれば、前駆物質として酢酸リチウムや酢酸コバルトを挙げることができ、これら前駆物質を溶媒に溶かした時点でLiCoOが生成し始める。
次に、高結晶性の正極活物質粒子を用意する。このような正極活物質粒子は、市販品であっても良いし、正極活物質の焼結体を作製して、その焼結体を粉砕するなどして得たものであっても良い。市販されている正極活物質粒子は概ね、本明細書中に規定する高結晶性の正極活物質粒子である。この正極活物質粒子の平均粒径は、作製する正極体における粒子の平均粒径と同じものとすれば良い。その理由は、後工程の焼結工程における温度が低いため、正極活物質粒子の粒成長が殆ど生じないからである。
上述のようにして用意した前駆物質を溶解した溶液と、正極活物質粉末とを混合して混合溶液を作製し、その混合溶液を正極集電体11となる基板に塗工する。ここで、混合溶液の作製は加熱しながら行なっても良く、その場合、前駆物質の正極活物質への変化を促進できる。また、加熱により溶液の粘度を調節でき、その結果として、基板への混合溶液の塗工を容易にできる。加熱温度は、溶液の溶媒の種類や、前駆物質の種類などによって適宜選択すれば良いが、概ね40〜100℃とすると良い。
最後に、混合溶液を塗工した基板を焼結することで、正極活物質粒子同士の隙間に、前駆物質を起源とする正極活物質のマトリックスが形成された本発明正極体を完成する。焼結工程は、乾燥→仮焼成→本焼成というように段階を踏むことが好ましい。各段階の好ましい範囲は、以下の通りである。
乾燥 :90〜150℃×30〜300min
仮焼成:300〜400℃×10〜300min
本焼成:450〜650℃×10〜300min
ここで、本焼成の温度を450℃未満とすると、マトリックスの結晶性が低くなりすぎたり、マトリックスが低温相(スピネル構造)となったりする虞がある。一方、焼結温度を650℃超とすると、マトリックスの結晶性が高くなりすぎる虞がある。
(ゾル−ゲル法)
ゾル−ゲル法では、溶液法とは用意する前駆物質が異なる。以下、溶液法との相違点を中心に説明する。
ゾル−ゲル法で使用する前駆物質は、加熱に伴い加水分解・縮重合することで正極活物質となる金属アルコキシドである。つまり、ゾル−ゲル法における前駆物質は、溶媒に溶解させた時点では反応せず、熱を加えることによって始めて正極活物質となるものである。
金属アルコキシドを前駆物質とする場合も焼結工程は、溶液法と同じ条件とすることができる。即ち、乾燥→仮焼成→本焼成というように段階を踏んで行うことが好ましい。
以上の工程を備えるゾルーゲル法によっても、高結晶性の正極活物質粒子の隙間に低結晶性のマトリックスを形成した本発明正極体を作製することができる。
<負極層>
図1の負極層2は、集電体を兼ねる負極活物質層からなる。もちろん、負極層2は、負極集電体を別個に備えていても良い。この負極層2に含まれる負極活物質としては、金属Liなどを挙げることができる。その他、負極活物質としては、SiやCのようにLiと化合物を形成することができる元素や、NbなどのLiと化合物を形成することができる化合物を利用することができる。
<電解質層>
電解質層3は、正極層1と負極層2との間のLiイオンの遣り取りを媒介する層である。電解質層3に要求される特性は、低電子伝導性で、高Liイオン伝導性であることである。この電解質層3は、液体であっても固体であっても良い。例えば、前者の場合、正極層1と負極層2との間を絶縁するセパレータと、高Liイオン伝導性の有機電解液とで電解質層3を構成することができる。一方、後者の場合、低電子伝導性で高Liイオン伝導性の固体状の硫化物や酸化物で電解質層3を構成することができる。硫化物としては、LiS−Pなど、酸化物としては、LiPONなどを挙げることができる。
<緩衝層>
非水電解質電池100は、正極層1、負極層2、電解質層3を基本とするが、正極層1と電解質層3との間に緩衝層4を備えていても良い。緩衝層4は、電解質層3に固体状の硫化物を用いた場合に必要となるものであり、正極層1と電解質層3との界面近傍におけるLiイオンの偏りを緩和するためのものである。当該界面近傍においてLiイオンの偏りが生じると、その偏りに起因して電解質層3の正極層1側の領域においてLiイオンが欠乏した空乏層が形成され、電池100の放電容量を低下させる。そのため、緩衝層4を設けて、緩衝層4で当該界面でのLiイオンの偏りを緩和することで、充放電に伴う電池100の放電容量の低下を抑制できる。このような緩衝層4の材料としては、例えば、LiNbOや、LiTaOなどを利用することができる。
図1に示す非水電解質電池100を実際に作製し、そのサイクル特性を評価した。また、本発明とは異なる構造を有する正極体を利用した比較例の非水電解質電池を作製し、同様にサイクル特性を評価した。
[実施例1の非水電解質電池]
<作製手順>
まず、電池100の作製にあたり、直径16mmのSUS基板を用意した。このSUS基板は、電池100の正極集電体11を構成するものである。
また、イソプロパノール(i−COH)と酢酸との混合液に、ポリビニルピロリドンと酢酸リチウム(CHCOOLi)を溶解させた混合液Aを作製すると共に、水に酢酸コバルト(Co(C)・4HO)を溶解させた混合液Bを作製した。そして、混合液Aと混合液Bとを混合した混合液Cに、平均結晶粒径10μmのLiCoO粉末(正極活物質粉末)を投入して、80℃×4h、スターラーを用いて混合した。
次に、用意したSUS基板の一面に、上記混合液C(正極活物質粉末を含む)をスキージで塗布し、液成分を蒸発させて、直径16mm×厚さ20μmの塗工膜を形成した。そして、塗工膜を備えるSUS基板を焼結炉に導入し、100℃×2hの乾燥、300℃×3hの仮焼成、500℃×3hの本焼成を経て正極活物質層12を作製した。
作製した正極活物質層12の断面をSEMで観察したところ、正極活物質粒子の隙間に微細な結晶構造を有するマトリックスが形成されていた。また、SEM写真における粒子とマトリックスとの面積割合を測定したところ、粒子が90%以上を占めていた。この面積割合は、正極活物質層12に占める粒子の体積割合と見なすことができる。さらに、正極活物質粒子とマトリックスをXRD法で測定したところ、粒子とマトリックスは同じ組成を有するものの、マトリックスの回折ピークの半値幅((003)面の半値幅=0.50、(104)面の半値幅=0.38)は、粒子の回折ピークの半値幅((003)面の半値幅=0.27、(104)面の半値幅=0.25)よりもブロードであった。半値幅がブロードであるということは、結晶構造に欠陥があり、結晶性が低いことを意味するので、粒子の方がマトリックスよりも高結晶性であることがわかる。
次に、正極活物質層12の上にエキシマレーザーアブレーション法により緩衝層4を形成した。緩衝層4は、LiNbOからなり、直径16mm×平均厚さ20nmであった。この緩衝層4は、既に述べたように、正極活物質層12と後述する硫化物系の電解質層3との境界近傍でLiイオンの偏りを緩衝するためのものである。
次に、緩衝層4の上にエキシマレーザーアブレーション法により固体の電解質層3を形成した。電解質層3は、LiS−Pからなり、直径16mm×平均厚さは10μmであった。
電解質層3の形成が終了したら、次に負極層2の形成を行う。まず、電解質層3の中心部分が直径10mmの大きさで露出するように電解質層3の上にマスクを施し、この露出した部分に真空蒸着法を用いて厚さ1μmの金属Liからなる負極層2を形成した。この負極層2は、負極集電体を兼ねる。
最後に、負極層2の形成が終了した積層体をアルミラミネートパックに封止して、正極集電体11と負極層2(集電体を兼ねる)からタブリードを引き出して電池100を完成した。
[実施例2の非水電解質電池]
本焼成の温度を450℃とした点以外は、実施例1と同じ製造方法により正極体を作製し、その正極体を使用して非水電解質電池(実施例2)を作製した。つまり、この実施例2の正極体は、実施例1の正極体よりも低い温度で焼結されたものである。そのため、実施例2の正極体に備わるマトリックスの結晶性は、実施例1の正極体よりもさらに低くなる。具体的なマトリックスの(003)面の半値幅は0.66、(104)面の半値幅は0.40であった。また、正極活物質粒子の半値幅は実施例1と同じであった。
[比較例1の非水電解質電池]
本焼成の温度を800℃とした点以外は、実施例1と同じ製造方法により焼結体を作製し、その正極体を使用して非水電解質電池(比較例1)を作製した。つまり、この比較例1の正極体は、実施例1の正極体よりも高い温度で焼結されたものである。そのため、比較例1の正極体に備わるマトリックスの結晶性は、実施例1よりも高くなる。具体的なマトリックスの(003)面の半値幅は0.30、(104)面の半値幅は0.27であり、正極活物質粒子の半値幅とほぼ同じであった。つまり、比較例1の正極体は、正極活物質粒子もマトリックスも実質的に均質な結晶性を有する正極体であると言える。
[比較例2の非水電解質電池]
正極活物質の前駆物質を溶解させた溶解液にLiCoO粉末を混合しなかった点以外は、実施例1と同じ製造方法により焼結体を作製した。つまり、溶液法による合成によってLiCoOからなる正極体を形成する方法であり、出来上がる正極体は、低結晶性((003)面の半値幅=0.51、(104)面の半値幅=0.39)で、かつ、均質的である。また、この方法では、厚さ10μm以上の正極体を形成することが困難であるので、厚さ20μmの正極体を得るために重ね塗りを行う必要があった。
[充放電試験とその結果]
上述のようにして作製した実施例1,2および比較例1,2の非水電解質電池について、50μAの定電流で4.2Vまで充電し、3Vまで放電する操作を1サイクルとする充放電を500サイクル繰り返す充放電試験を行った。そして、500サイクル目の放電容量を1サイクル目の放電容量で除し、100をかけることで容量維持率(%)を求めた。容量維持率が高いほど、充放電を開始した当初の放電容量を維持できる非水電解質電池、即ち、サイクル特性に優れた電池と言える。この充放電試験の結果を表1に示す。
Figure 2011065787
表1の結果から、高結晶性の正極活物質粒子と低結晶性のマトリックスとからなる正極体を備える実施例1,2の非水電解質電池は、高い放電容量を備え、かつ、容量維持率が高かった。
一方、使用した正極体が正極活物質粒子とマトリックスとからなるものの、正極体を作製する際の焼結温度が実施例1,2の電池よりも高かった比較例2の電池は、インピーダンス値が極めて高く、充放電試験を行うことすらできなかった。これは、焼結時の温度が高かったために、マトリックスも高結晶性の結晶組織になったからではないかと推察される。
また、正極活物質粒子を含まない正極体、つまり、マトリックスのみで形成された正極体を使用した比較例2の電池は、初期放電容量(1サイクル目の放電容量)が低い上、500サイクル後の容量維持率も50%と低かった。
なお、本発明の実施形態は、上述した実施形態に限定されるわけではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲で適宜変更等可能である。
本発明正極体を用いた非水電解質電池は、放電容量が高く、サイクル特性に優れるので、例えば携帯電話やモバイルパソコンなどの携帯機器の電源として好適に利用可能である。
100 非水電解質電池
1 正極層 11 正極集電体 12 正極活物質層
2 負極層
3 電解質層
4 緩衝層

Claims (7)

  1. 非水電解質電池に用いられる焼結体からなる正極体であって、
    高結晶性の正極活物質粒子と、
    前記正極活物質粒子の間隙を埋める低結晶性の正極活物質からなるマトリックスと、
    を備えることを特徴とする正極体。
  2. 前記正極活物質粒子とマトリックスの組成はいずれも、Liαβ(1−X)であることを特徴とする請求項1に記載の正極体。
    αは、Co,Ni,Mnから選択される1種以上
    βは、Fe,Alから選択される1種以上
    Xは、0.5以上、1.0以下
  3. 前記正極活物質粒子と前記マトリックスの合計体積に占める前記正極活物質粒子の体積の割合は、90%以上であることを特徴とする請求項1または2に記載の正極体。
  4. 前記正極活物質粒子の平均粒径は、5〜20μmであることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の正極体。
  5. 非水電解質電池に利用される正極体の製造方法であって、
    正極活物質の前駆物質を溶解した溶液を用意する工程と、
    高結晶性の正極活物質粒子を用意する工程と、
    前記溶液と前記正極活物質粒子とを混合する混合工程と、
    前記混合工程で得られた混合溶液を基板表面に塗工する塗工工程と、
    前記混合溶液を焼結する焼結工程と、
    を備えることを特徴とする正極体の製造方法。
  6. 前記焼結工程における焼結温度は、450〜650℃であることを特徴とする請求項5に記載の正極体の製造方法。
  7. 前記混合工程は、焼結温度よりも低い温度で加熱しながら行なうことを特徴とする請求項5または6に記載の正極体の製造方法。
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