JP2011052289A - チタン合金製インプラントの製造方法 - Google Patents
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Abstract
【課題】耐食性に優れるとともに安全性の高いチタン合金粉末を用いて、所望の形状の積層造形物からなるチタン合金製インプラントの製造方法を提供する。
【解決手段】チタン合金粉末を用いた積層造形法によるチタン合金製インプラントの製造方法であって、下記(a)〜(h)で示される工程を含むことを特徴とするチタン合金製インプラントの製造方法である。
(a)造形室内に設けられた造形テーブル上にベースプレートを設置する工程
(b)造形室内を減圧する工程
(c)ベースプレートを予熱する工程
(d)ベースプレート上にチタン合金粉末からなる粉末層を形成する工程
(e)電子ビームの照射により該粉末層の表面温度を420〜680℃に予熱する工程
(f)3次元CADデータに基づいた走査経路に沿って電子ビームを照射して該粉末層を溶融固化させる工程
(g)造形テーブルを下降させて新たにチタン合金粉末からなる粉末層を形成する工程
(h)前記(e)〜(g)を繰り返す工程
【選択図】図8
【解決手段】チタン合金粉末を用いた積層造形法によるチタン合金製インプラントの製造方法であって、下記(a)〜(h)で示される工程を含むことを特徴とするチタン合金製インプラントの製造方法である。
(a)造形室内に設けられた造形テーブル上にベースプレートを設置する工程
(b)造形室内を減圧する工程
(c)ベースプレートを予熱する工程
(d)ベースプレート上にチタン合金粉末からなる粉末層を形成する工程
(e)電子ビームの照射により該粉末層の表面温度を420〜680℃に予熱する工程
(f)3次元CADデータに基づいた走査経路に沿って電子ビームを照射して該粉末層を溶融固化させる工程
(g)造形テーブルを下降させて新たにチタン合金粉末からなる粉末層を形成する工程
(h)前記(e)〜(g)を繰り返す工程
【選択図】図8
Description
本発明は、チタン合金粉末を用いた積層造形法によるチタン合金製インプラントの製造方法に関する。
複雑な形状を有する3次元製品等を作製する方法として、粉末を用いた積層造形法が知られている。当該積層造形法は、有機材料又は無機材料からなる粉末を用いて粉末層を形成した後に、3次元CADデータに基づいた走査経路に沿ってレーザーや電子ビームを照射することにより該粉末層を溶融固化させて硬化層を形成し、これらの操作を繰り返すことにより硬化層が積層され一体化された積層造形物を製造する方法である。
例えば、特許文献1には、単位造形層をレーザー照射により順次形成しながら積層させる積層造形法であって、レーザー光の照射パターン内を高精度処理部と高強度処理部に区分けし、所定の照射量にてレーザー光を均一に照射した後に、高強度処理部にのみレーザー光を更に照射することで、高精度処理部と高強度処理部それぞれに対するレーザー光の照射量を異なるようにした積層造形法について記載されている。これによれば、求められる造形精度を確保するとともに、得られる積層造形物に取扱いの容易性を与えるのに必要な強度も確保することができるとされている。しかしながら、レーザー光を用いた積層造形法では、電子ビームと比較してレーザー光の照射エネルギーが低く、積層造形する際に形成される硬化層の積層ピッチを厚くすることが困難であるため、積層造形に要する時間がかかるという問題があり、改善が望まれていた。
また、特許文献2には、電子ビームの溶融によって金属間化合物製の三次元製品を大量生産する方法であって、最終製品を構成する金属間化合物と同じ化学組成を有するチタン及びアルミニウムを基材とする金属間化合物の粉末を準備し、溶融チャンバー内において粉末を敷設して均一な厚さの粉末層を形成する工程;該粉末層を予熱する工程;コントロールユニットに保存された三次元モデルに従って、前記製品の断面部分に相当する区域において集束電子ビームにて走査することによって溶融する工程等を含む積層造形法について記載されている。この方法によれば、製造コストの低減が可能であり、金属間化合物製の複雑な形状を有する三次元製品の大量生産法を提供できるとされている。予熱工程に関して、粉末の弱い焼結を生ずるのに充分な高温、具体的には少なくとも700℃で行うことが記載されている。一方、予熱工程を行わなかった場合には、得られた部材においてき裂が発生したり、製造過程で形成される層の変形が生じるとされている。しかしながら、予熱工程を680℃以下の低温で行うことについての記載はなかった。また、Ti−15Zr−4Nb−4Ta−0.2Pdに代表される生体用チタン合金を積層造形することについての記載もなかった。
ここで、上記Ti−15Zr−4Nb−4Ta−0.2Pdに代表される生体用チタン合金として、例えば、特許文献3に、Nb:4〜8重量%、Ta:2〜4重量%、及び(Zr+Sn):5〜20重量%を含み、残部Ti及び不可避的不純物より成ることを特徴とする生体用チタン合金について記載されている。これによれば、耐食性に優れるとともに、生体中で腐食が発生しても有害金属を含まないため安全(生体為害性がない)であり、更に高強度、高延性である生体用チタン合金を提供することができるとされている。しかしながら、このようなチタン合金を用いた積層造形法によるチタン合金製インプラントの製造方法については記載されていない。
本発明は上記課題を解決するためになされたものであり、耐食性に優れるとともに安全性の高いチタン合金粉末を用いて、所望の形状の積層造形物からなるチタン合金製インプラントの製造方法を提供することを目的とするものである。
上記課題は、チタン合金粉末を用いた積層造形法によるチタン合金製インプラントの製造方法であって、下記(a)〜(h)で示される工程を含むことを特徴とするチタン合金製インプラントの製造方法を提供することによって解決される。
(a)造形室内に設けられた造形テーブル上にベースプレートを設置する工程
(b)造形室内を減圧する工程
(c)ベースプレートを予熱する工程
(d)ベースプレート上にチタン合金粉末からなる粉末層を形成する工程
(e)電子ビームの照射により該粉末層の表面温度を420〜680℃に予熱する工程
(f)3次元CADデータに基づいた走査経路に沿って電子ビームを照射して該粉末層を溶融固化させる工程
(g)造形テーブルを下降させて新たにチタン合金粉末からなる粉末層を形成する工程
(h)前記(e)〜(g)を繰り返す工程
(a)造形室内に設けられた造形テーブル上にベースプレートを設置する工程
(b)造形室内を減圧する工程
(c)ベースプレートを予熱する工程
(d)ベースプレート上にチタン合金粉末からなる粉末層を形成する工程
(e)電子ビームの照射により該粉末層の表面温度を420〜680℃に予熱する工程
(f)3次元CADデータに基づいた走査経路に沿って電子ビームを照射して該粉末層を溶融固化させる工程
(g)造形テーブルを下降させて新たにチタン合金粉末からなる粉末層を形成する工程
(h)前記(e)〜(g)を繰り返す工程
このとき、チタン合金粉末が、ジルコニウム(Zr)を1〜20重量%、ニオブ(Nb)を1〜50重量%、タンタル(Ta)を1〜30重量%、及びパラジウム(Pd)を1重量%以下含有することが好ましい。
また、このとき、上記(a)が、造形室内に設けられた造形テーブル上にチタン合金粉末を敷設し、その上にベースプレートを設置する工程であることが好適であり、上記(c)が、電子ビームの照射によりベースプレートを予熱する工程であることが好適である。また、チタン合金粉末の平均粒径が40〜200μmであることが好適である。また、上記(f)における3次元CADデータが、患者の骨の形状に応じて構成された3次元CADデータであることも本発明の好適な実施態様である。
本発明により、耐食性に優れるとともに安全性の高いチタン合金粉末を用いて、所望の形状の積層造形物からなるチタン合金製インプラントを得ることができる。こうして得られたチタン合金製インプラントは、硬度が高いとともに、耐食性に優れ、更に安全性も高いため、医療用に適しており、特にオーダーメイド用のインプラントとして適している。
本発明は、チタン合金粉末11を用いた積層造形法によるチタン合金製インプラント15の製造方法を提供するものである。
本発明で用いられるチタン合金粉末11は、420〜680℃の予熱工程によってチタン合金粉末11同士が弱く焼結されるものであれば特に限定されず、ジルコニウム(Zr)を1〜20重量%、ニオブ(Nb)を1〜50重量%、タンタル(Ta)を1〜30重量%、及びパラジウム(Pd)を1重量%以下含有するものであることが好ましい。すなわち、本発明で用いられるチタン合金粉末11は、前記合金組成からなる金属を含有し、かつ残部チタン(Ti)を含有するものであり、不可避的不純物が含まれていても構わない。このような合金組成を有するチタン合金粉末11を用いることにより、得られるチタン合金製インプラント15の生体に対する安全性が高く耐食性に優れる利点を有する。中でも、本発明で用いられるチタン合金粉末11が、ジルコニウム(Zr)を5〜20重量%、ニオブ(Nb)を3.5〜8.5重量%、タンタル(Ta)を1〜4.5重量%、及びパラジウム(Pd)を1重量%以下含有するものであることがより好ましい。
本発明で用いられるチタン合金粉末11におけるジルコニウムの含有量は、1〜20重量%であることが好ましい。ジルコニウムの含有量が1重量%未満の場合、得られるチタン合金製インプラント15の強度や延性が不十分となるおそれがあり、5重量%以上であることがより好ましく、10重量%以上であることが更に好ましく、12重量%以上であることが特に好ましい。一方、ジルコニウムの含有量が20重量%を超える場合、得られるチタン合金製インプラント15の延性に悪影響を与えるおそれがあり、18重量%以下であることがより好ましい。
本発明で用いられるチタン合金粉末11におけるニオブの含有量は、1〜50重量%であることが好ましい。ニオブの含有量が1重量%未満の場合、得られるチタン合金製インプラント15の耐食性を向上させる効果が得られないおそれがあり、3.5重量%以上であることが好ましい。一方、ニオブの含有量が50重量%を超える場合、チタン合金粉末11の融点が高くなるため、チタン合金粉末11を溶融固化させてチタン合金製インプラント15を得る際の生産効率が低下するおそれがあり、8.5重量%以下であることがより好ましい。
本発明で用いられるチタン合金粉末11におけるタンタルの含有量は、1〜30重量%であることが好ましい。タンタルの含有量が1重量%未満の場合、得られるチタン合金製インプラント15の耐食性を向上させる効果が得られないおそれがあり、2重量%以上であることがより好ましい。一方、タンタルの含有量が30重量%を超える場合、チタン合金粉末11の融点が高くなるため、チタン合金粉末11を溶融固化させてチタン合金製インプラント15を得る際の生産効率が低下するおそれがあり、4.5重量%以下であることがより好ましい。
本発明で用いられるチタン合金粉末11におけるパラジウムの含有量としては、1重量%以下となるように調製されるのであれば特に限定されず、パラジウムを含有していなくても構わない。得られるチタン合金製インプラント15の耐食性を向上させる観点から、パラジウムの含有量は0.05重量%以上であることが好ましく、0.1重量%以上であることがより好ましい。一方、パラジウムの含有量が1重量%を超える場合は、得られるチタン合金製インプラント15の強度が低下するおそれがある。
本発明で用いられるチタン合金粉末11の平均粒径としては特に限定されず、40〜200μmであることが好ましい。平均粒径が40μm未満の場合、チタン合金粉末の流動性が低下するおそれがあり、50μm以上であることがより好ましく、60μm以上であることが更に好ましい。一方、平均粒径が200μmを超える場合、チタン合金粉末の溶融が不十分になるおそれがあり、160μm以下であることがより好ましく、120μm以下であることが更に好ましい。
以上、本発明で用いられるチタン合金粉末11について説明した。以下、チタン合金粉末11を用いたチタン合金製インプラント15の製造方法ついて、図1で示される積層造形処理装置1、及びチタン合金製インプラント15の製造プロセスの一部を示す図2〜7を参照しながら具体的に説明する。
本発明のチタン合金製インプラント15の製造方法は、下記(a)〜(h)で示される工程を含むことを特徴とする。
(a)造形室8内に設けられた造形テーブル9上にベースプレート12を設置する工程
(b)造形室8内を減圧する工程
(c)ベースプレート12を予熱する工程
(d)ベースプレート12上にチタン合金粉末11からなる粉末層を形成する工程
(e)電子ビーム13の照射により該粉末層の表面温度を420〜680℃に予熱する工程
(f)3次元CADデータに基づいた走査経路に沿って電子ビーム13を照射して該粉末層を溶融固化させる工程
(g)造形テーブル9を下降させて新たにチタン合金粉末からなる粉末層を形成する工程
(h)前記(e)〜(g)を繰り返す工程
(a)造形室8内に設けられた造形テーブル9上にベースプレート12を設置する工程
(b)造形室8内を減圧する工程
(c)ベースプレート12を予熱する工程
(d)ベースプレート12上にチタン合金粉末11からなる粉末層を形成する工程
(e)電子ビーム13の照射により該粉末層の表面温度を420〜680℃に予熱する工程
(f)3次元CADデータに基づいた走査経路に沿って電子ビーム13を照射して該粉末層を溶融固化させる工程
(g)造形テーブル9を下降させて新たにチタン合金粉末からなる粉末層を形成する工程
(h)前記(e)〜(g)を繰り返す工程
上記(a)で示される工程は、造形室8内に設けられた造形テーブル9上にベースプレート12を設置する工程である。ベースプレート12を設置する方法としては、造形テーブル9上に直接ベースプレート12を設置してもよいし、造形テーブル9上にまずチタン合金粉末11を敷設し、その上にベースプレート12を設置する方法であってもよい。しかしながら、造形テーブル9上に直接ベースプレート12を設置した場合には、後述する(c)で示される工程においてベースプレート12を予熱した際に、ベースプレート12が造形テーブル9にくっついてしまい、ベースプレート12上に形成されたチタン合金製インプラント15を取り出すことが困難となるおそれがある。かかる観点から、造形テーブル9上にチタン合金粉末11を敷設し、その上にベースプレート12を設置する方法が(a)で示される工程として好適に採用される。
上記(b)で示される工程は、造形室8内を減圧する工程である。減圧することにより電子ビーム13による照射が可能となる。具体的には、造形室8を閉じた後に真空ポンプを用いて造形室8内を減圧する。減圧は好適には10−2Pa以下に維持される。ここで、後述する(c)で示される工程においてベースプレート12を予熱する際に、電子ビーム13ではなくヒーター等を用いて予熱する場合には、ベースプレート12を予熱してから減圧する工程を行っても構わない。
上記(c)で示される工程は、ベースプレート12を予熱する工程である。予めベースプレート12を予熱することにより、ベースプレート12上にチタン合金粉末11からなる粉末層を形成する工程(d)を行った際に、該粉末層を構成するチタン合金粉末11をベースプレート12の表面に接着させることが可能となる。これは、後述する工程(e)において、電子ビーム13を照射した際に、マイナス電荷が蓄積された該粉末層と照射された電子ビーム13のマイナス電荷とが反発してチタン合金粉末11が飛散する現象(以下、「Smoke現象」と略記することがある)を生じさせないようにするためである。ベースプレート12を予熱する方法としては特に限定されず、電子ビーム13を照射することにより予熱してもよいし、ヒーター等を用いて予熱してもよい。装置の簡素化の観点から、電子ビーム13の照射によりベースプレート12を予熱する方法が(c)で示される工程として好適に採用される。また、ベースプレート12を予熱する際の予熱温度としては特に限定されず、450〜750℃であることが好ましい。予熱温度としては、積層造形装置1におけるベースプレート12に接続された熱電対16により好適に測定される。予熱温度が450℃未満の場合、チタン合金粉末11からなる粉末層をベースプレート12上に形成する工程(d)を行った際に、該粉末層とベースプレート12との接着が不十分となるおそれがあり、500℃以上であることがより好ましい。一方、予熱温度が750℃を超える場合、チタン合金粉末が溶融固化するおそれがあり、700℃以下であることがより好ましく、650℃以下であることが更に好ましい。
上記(d)で示される工程は、ベースプレート12上にチタン合金粉末11からなる粉末層を形成する工程である。具体的には、ホッパー10内にあるチタン合金粉末11を任意の量取り出し、レーキ14をベースプレート12と並行に移動させてベースプレート12上にチタン合金粉末11からなる粉末層が形成される。図2は、このようにして該粉末層が形成された状態を示している。
次いで、本発明は、電子ビーム13の照射により該粉末層の表面温度を420〜680℃に予熱する工程(e)を行う。このように、該粉末層を一定温度に予熱する工程(e)を行うことにより、該粉末層を構成するチタン合金粉末11同士が弱く焼結されるため、後述する3次元CADデータに基づいた走査経路に沿って電子ビーム13を照射して該粉末層を溶融固化させる工程(f)を行った際に、Smoke現象によりチタン合金粉末11が飛散するのを防止することができる。更に、後述する実施例におけるビッカース硬さを比較したグラフからも分かるように、得られるチタン合金製インプラント15の硬度が高くなる利点も有する。このように、該粉末層を一定温度に予熱する工程(e)を行うことにより、得られるチタン合金製インプラント15の硬度が高くなる理由については必ずしも明らかではないが、後述する実施例1及び2で得られるチタン合金製インプラント15の光学顕微鏡写真(図8及び図9)から分かるように、チタン合金組織が一定以上大きくならないように制御されて、残留応力の発生を減少させることができるようである。このことにより、チタン合金製インプラント15における所定の形状が変形等するのを防止することが可能となる。
また、上記(e)で示される予熱工程は、該粉末層の表面温度を均一に保つ観点から、該粉末層に対して電子ビーム13を連続的に均一に照射することが好ましい。ここで、該粉末層の表面温度とは、該粉末層を構成するチタン合金粉末11が有する温度のことを表しているが、図1で示される積層造形装置1のようにベースプレート12が熱電対16を備えている場合には、熱電対16により計測される温度のことをいう。該粉末層の表面温度が420℃未満の場合、電子ビーム13を照射して該粉末層を溶融固化させる工程(f)を行った際にSmoke現象によりチタン合金粉末11が飛散してしまうおそれがあり、450℃以上であることが好ましく、480℃以上であることがより好ましい。一方、該粉末層の表面温度が680℃を超える場合、得られるチタン合金製インプラント15の硬度が低下するおそれがある。このことは、後述する比較例1で得られたチタン合金製積層造形物15の光学顕微鏡写真(図10)からも分かるように、該粉末層の表面温度が700℃の場合には、チタン合金組織が大きくなって硬度が低下してしまう。該粉末層の表面温度は、650℃以下であることが好ましく、600℃以下であることがより好ましい。また、上記(e)で示される予熱工程において、該粉末層の表面温度を一定範囲に保つことにより、後述する工程(f)において電子ビーム13が照射されなかったチタン合金粉末11の再利用が可能となる利点も有する。
本発明は、上記(e)で示される予熱工程に続いて、図3で示されるように、上記(f)で示される3次元CADデータに基づいた走査経路に沿って電子ビーム13を照射して該粉末層を溶融固化させる工程を行う。この工程(f)により、図4で示されるように電子ビーム13の照射により該粉末層が溶融されてから固化されることにより硬化層が形成される。形成された硬化層の厚さ(積層1ピッチ分の厚さ)としては特に限定されないが、0.05mm以上であることが好ましく、0.08mm以上であることがより好ましい。一方、硬化層の厚さは、通常0.1mm以下である。また、該粉末層を溶融固化させる際の電子ビーム13の照射量については特に限定されず、上記(e)で示される予熱工程における電子ビーム13の照射量の2倍以上であることが好ましく、5倍以上であることがより好ましい。
次いで、造形テーブル9を下降させて新たにチタン合金粉末11からなる粉末層を形成する工程(g)を行う。工程(g)の好適な具体例としては、図5で示されるように、造形テーブル9を上記工程(f)で形成された硬化層の厚さである積層1ピッチ分だけ下降させ、続いて図6で示されるように、ホッパー10内にあるチタン合金粉末11を任意の量取り出し、レーキ14をベースプレート12と並行に移動させて新たにチタン合金粉末11からなる粉末層を形成する。
こうして、新たに形成されたチタン合金粉末11からなる粉末層に対して、再度、該粉末層を一定温度に予熱する工程(e)、図7で示されるように、該粉末層を溶融固化させる工程(f)、及び造形テーブル9を下降させて新たにチタン合金粉末11からなる粉末層を形成する工程(g)を繰り返す(h)で示される工程を行うことにより、チタン合金製インプラント15を得ることができる。また、得られたチタン合金製インプラント15に対して、必要に応じて熱間等方加圧(Hot Isostatic Pressing:HIP)処理を行ってもよい。
このように、本発明は、耐食性に優れるとともに安全性の高いチタン合金粉末11を用いて、所望の形状のチタン合金製インプラント15を得ることができる。こうして得られたチタン合金製インプラント15は、硬度が高いとともに、耐食性に優れ、更に安全性も高いため、医療用に適しており、特に患者の骨の形状に応じて構成された3次元CADデータに基づいてチタン合金製インプラント15を得ることができるため、オーダーメイド用のインプラントとして適している。
以下、図面に基づいて本発明の実施例を説明する。
実施例1
図1で示される積層造形装置1(Arcam社製「EBM S12」)の造形室8内に設けられた造形テーブル9上に、チタン合金粉末11(Ti−15Zr−4Nb−4Ta−0.2Pd、平均粒径65μm)を敷設し、その中央に積層造形の基板となるステンレス鋼板からなるベースプレート12を設置した。造形室8を閉じて真空ポンプにより造形室8内を10−2Pa以下に減圧した。ベースプレート12の上面に対して電子ビーム13を連続的に照射してベースプレート12の温度を600℃まで加熱した。次いで、粉末ホッパー10からチタン合金粉末11を任意の量取り出し、レーキ14にてベースプレート12上にチタン合金粉末11を敷設して厚み約0.1mmのチタン合金粉末11からなる粉末層を形成した。続いて、粉末層の表面温度が500℃となるように粉末層に対して電子ビーム13を照射(10mA、15000mm/sec)して予熱した。次いで、3次元CADデータに基づいた走査経路に沿って、電子ビーム13を照射(5mA、200mm/sec)して粉末層を溶融させてから固化させた。その後、積層1ピッチ(約0.1mm)分だけ造形テーブル9を下降させた。粉末ホッパー10からチタン合金粉末11を任意の量取り出し、レーキ14にてベースプレート12上にチタン合金粉末11を敷設して新たにチタン合金粉末11からなる粉末層を形成した。
図1で示される積層造形装置1(Arcam社製「EBM S12」)の造形室8内に設けられた造形テーブル9上に、チタン合金粉末11(Ti−15Zr−4Nb−4Ta−0.2Pd、平均粒径65μm)を敷設し、その中央に積層造形の基板となるステンレス鋼板からなるベースプレート12を設置した。造形室8を閉じて真空ポンプにより造形室8内を10−2Pa以下に減圧した。ベースプレート12の上面に対して電子ビーム13を連続的に照射してベースプレート12の温度を600℃まで加熱した。次いで、粉末ホッパー10からチタン合金粉末11を任意の量取り出し、レーキ14にてベースプレート12上にチタン合金粉末11を敷設して厚み約0.1mmのチタン合金粉末11からなる粉末層を形成した。続いて、粉末層の表面温度が500℃となるように粉末層に対して電子ビーム13を照射(10mA、15000mm/sec)して予熱した。次いで、3次元CADデータに基づいた走査経路に沿って、電子ビーム13を照射(5mA、200mm/sec)して粉末層を溶融させてから固化させた。その後、積層1ピッチ(約0.1mm)分だけ造形テーブル9を下降させた。粉末ホッパー10からチタン合金粉末11を任意の量取り出し、レーキ14にてベースプレート12上にチタン合金粉末11を敷設して新たにチタン合金粉末11からなる粉末層を形成した。
こうして新たに形成された粉末層に対して、前記と同様に粉末層の表面温度が500℃となるように粉末層に対して電子ビーム13を照射(10mA、15000mm/sec)して予熱した。次いで、3次元CADデータに基づいた走査経路に沿って、電子ビーム13を照射(5mA、200mm/sec)して粉末層を溶融させてから固化させた。その後、積層1ピッチ(約0.1mm)分だけ造形テーブル9を下降させた。粉末ホッパー10からチタン合金粉末11を任意の量取り出し、レーキ14にてベースプレート12上にチタン合金粉末11を敷設して新たにチタン合金粉末11からなる粉末層を形成した。
このように、上記粉末層を予熱する工程、上記粉末層を溶融固化させる工程、及び新たに粉末層を形成する工程を繰り返す積層造形法により、チタン合金製インプラント15を得た。得られたチタン合金製インプラント15に対して、ビッカース硬さをJIS Z2244に準じて測定したところ、302(HV)であった。また、光学顕微鏡を用いて得られたチタン合金製インプラント15の光学顕微鏡写真を図8に示す。
実施例2
実施例1において、粉末層の表面温度が500℃となるように粉末層に対して電子ビーム13を照射(10mA、15000mm/sec)して予熱する代わりに、粉末層の表面温度が600℃となるように粉末層に対して電子ビーム13を照射(30mA、15000mm/sec)した以外は、実施例1と同様にしてチタン合金製インプラント15を得た。得られたチタン合金製インプラント15に対して、実施例1と同様にビッカース硬さを測定したところ、294(HV)であった。また、光学顕微鏡を用いて得られたチタン合金製インプラント15の光学顕微鏡写真を図9に示す。
実施例1において、粉末層の表面温度が500℃となるように粉末層に対して電子ビーム13を照射(10mA、15000mm/sec)して予熱する代わりに、粉末層の表面温度が600℃となるように粉末層に対して電子ビーム13を照射(30mA、15000mm/sec)した以外は、実施例1と同様にしてチタン合金製インプラント15を得た。得られたチタン合金製インプラント15に対して、実施例1と同様にビッカース硬さを測定したところ、294(HV)であった。また、光学顕微鏡を用いて得られたチタン合金製インプラント15の光学顕微鏡写真を図9に示す。
比較例1
実施例1において、粉末層の表面温度が500℃となるように粉末層に対して電子ビーム13を照射(10mA、15000mm/sec)して予熱する代わりに、粉末層の表面温度が700℃となるように粉末層に対して電子ビーム13を照射(50mA、15000mm/sec)した以外は、実施例1と同様にしてチタン合金製積層造形物15を得た。得られたチタン合金製積層造形物15に対して、ビッカース硬さを実施例1と同様に測定したところ、291(HV)であった。また、光学顕微鏡を用いて得られたチタン合金製積層造形物15の光学顕微鏡写真を図10に示す。
実施例1において、粉末層の表面温度が500℃となるように粉末層に対して電子ビーム13を照射(10mA、15000mm/sec)して予熱する代わりに、粉末層の表面温度が700℃となるように粉末層に対して電子ビーム13を照射(50mA、15000mm/sec)した以外は、実施例1と同様にしてチタン合金製積層造形物15を得た。得られたチタン合金製積層造形物15に対して、ビッカース硬さを実施例1と同様に測定したところ、291(HV)であった。また、光学顕微鏡を用いて得られたチタン合金製積層造形物15の光学顕微鏡写真を図10に示す。
比較例2
実施例1において、粉末層の表面温度が500℃となるように粉末層に対して電子ビーム13を照射(10mA、15000mm/sec)して予熱する代わりに、粉末層の表面温度が400℃となるように粉末層に対して電子ビーム13を照射(5mA、15000mm/sec)して予熱し、次いで、3次元CADデータに基づいた走査経路に沿って電子ビーム13を照射(5mA、200mm/sec)したところ、Smoke現象によりチタン合金粉末11が飛散してしまったため、チタン合金製インプラント15を得ることができなかった。
実施例1において、粉末層の表面温度が500℃となるように粉末層に対して電子ビーム13を照射(10mA、15000mm/sec)して予熱する代わりに、粉末層の表面温度が400℃となるように粉末層に対して電子ビーム13を照射(5mA、15000mm/sec)して予熱し、次いで、3次元CADデータに基づいた走査経路に沿って電子ビーム13を照射(5mA、200mm/sec)したところ、Smoke現象によりチタン合金粉末11が飛散してしまったため、チタン合金製インプラント15を得ることができなかった。
1 積層造形装置
2 フィラメント
3 グリットカップ
4 アノード
5 非点収差コイル
6 集点コイル
7 偏向コイル
8 造形室
9 造形テーブル
10 ホッパー
11 チタン合金粉末
12 ベースプレート
13 電子ビーム
14 レーキ
15 チタン合金製積層造形物(チタン合金製インプラント)
16 熱電対
2 フィラメント
3 グリットカップ
4 アノード
5 非点収差コイル
6 集点コイル
7 偏向コイル
8 造形室
9 造形テーブル
10 ホッパー
11 チタン合金粉末
12 ベースプレート
13 電子ビーム
14 レーキ
15 チタン合金製積層造形物(チタン合金製インプラント)
16 熱電対
Claims (6)
- チタン合金粉末を用いた積層造形法によるチタン合金製インプラントの製造方法であって、
下記(a)〜(h)で示される工程を含むことを特徴とするチタン合金製インプラントの製造方法。
(a)造形室内に設けられた造形テーブル上にベースプレートを設置する工程
(b)造形室内を減圧する工程
(c)ベースプレートを予熱する工程
(d)ベースプレート上にチタン合金粉末からなる粉末層を形成する工程
(e)電子ビームの照射により該粉末層の表面温度を420〜680℃に予熱する工程
(f)3次元CADデータに基づいた走査経路に沿って電子ビームを照射して該粉末層を溶融固化させる工程
(g)造形テーブルを下降させて新たにチタン合金粉末からなる粉末層を形成する工程
(h)前記(e)〜(g)を繰り返す工程 - チタン合金粉末が、ジルコニウム(Zr)を1〜20重量%、ニオブ(Nb)を1〜50重量%、タンタル(Ta)を1〜30重量%、及びパラジウム(Pd)を1重量%以下含有する請求項1記載のチタン合金製インプラントの製造方法。
- 上記(a)が、造形室内に設けられた造形テーブル上にチタン合金粉末を敷設し、その上にベースプレートを設置する工程である請求項1又は2記載のチタン合金製インプラントの製造方法。
- 上記(c)が、電子ビームの照射によりベースプレートを予熱する工程である請求項1〜3のいずれか記載のチタン合金製インプラントの製造方法。
- チタン合金粉末の平均粒径が40〜200μmである請求項1〜4のいずれか記載のチタン合金製インプラントの製造方法。
- 上記(f)における3次元CADデータが、患者の骨の形状に応じて構成された3次元CADデータである請求項1〜5のいずれか記載のチタン合金製インプラントの製造方法。
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