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JP2010209062A - 半翅目害虫、アザミウマ目害虫、またはダニ目害虫に対する防除剤 - Google Patents

半翅目害虫、アザミウマ目害虫、またはダニ目害虫に対する防除剤 Download PDF

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Abstract

【課題】コナジラミ類やカメムシ類などの半翅目害虫、アザミウマ目害虫、またはダニ目害虫に対して有用な防除剤を提供する。
【解決手段】本発明の害虫防除剤は、スクアレンまたはビタミンEを有効成分として含有する。本発明には、上記の防除剤、および基材を含有する防除剤組成物も包含される。
【選択図】なし

Description

本発明は、スクアレンまたはビタミンEを有効成分として含有する半翅目害虫、アザミウマ目害虫、またはダニ目害虫に対する防除剤に関するものである。
コナジラミ類やカメムシ類などの半翅目害虫による作物被害が深刻化している。
例えば、コナジラミ類は、半翅目コナジラミ科の昆虫で、世界的に広く分布し、トマト、イチゴ、キュウリなどの作物に寄生する吸汁性の有害な害虫である。コナジラミ類としては、例えば、オンシツコナジラミ(Trialeurodes vaporariorum)、シルバーリーフコナジラミ(Bemisia argentifolii)、タバココナジラミ(Bemisia tabaci)、イチゴコナジラミなどが挙げられる。ただし、コナジラミ種の命名法は一律でなく、上記のほか、シルバーリーフコナジラミとタバココナジラミを同種として扱い、シルバーリーフコナジラミをタバココナジラミ・バイオタイプB(Bemisia tabaci B−biotype)と呼び、タバココナジラミをタバココナジラミ・バイオタイプQ(Bemisia tabaci Q−biotype)と呼ぶ場合もあるが、本明細書では、前者の命名法に沿って説明する。
オンシツコナジラミは典型的な広食性昆虫であり、キク科、ウリ科、ナス科、アオイ科など宿主植物の範囲が非常に広いため、分布の拡大や発生の増加をもたらすと考えられている。オンシツコナジラミの成虫・幼虫は、吸汁や、甘露と呼ばれる排泄物などによるすす病発生、ウイルス病の伝播などにより、作物の生育を阻害する。一方、シルバーリーフコナジラミは、形態、生態ともにオンシツコナジラミに似ており、オンシツコナジラミと同様の弊害を作物にもたらす。また、シルバーリーフコナジラミ特有の弊害として、トマトにおける着色異常果実の発生や多くの緑黄色野菜などにみられる白化症(シルバーリング)が挙げられる。この症状は幼虫の寄生によって起こり、これが、シルバーリーフの名前の由来である。
上述した作物被害のほか、最近では、既存の殺虫剤に対して抵抗性を獲得した薬剤耐性のものが出現するなどし、コナジラミ類による被害が深刻化している。上記と同じ問題は、コナジラミ類のほか、カメムシ類、アブラムシ類、カイガラムシ類など、コナジラミ類以外の半翅目害虫、更にはアザミウマ目害虫においても見られる。
そこで、半翅目害虫用の殺虫剤・防除剤として、種々の化合物を有効成分として含有する技術が提案されている(例えば特許文献1〜3)。また、特許文献4には、アカマツの特定抽出成分を含むホソヘリカメムシの防除剤が開示されている。
また、植物寄生性のハダニ科、フシダニ科、ホコリダニ科、コナダニ科などダニ目害虫による作物被害も知られている。ダニの体長は非常に小さく、例えばハダニ類の体長は約0.5mm程度、ホコリダニ類の体長は更に小さく約0.2mm程度であるが、繁殖力が非常に高いため、様々な植物に対して被害をもたらす。ダニ目害虫に対する防除法としては、太陽光や風雨などに弱いという性質を利用して巨大な換気扇やミスト等を用いる方法のほか、上述したアザミウマ類などの天敵昆虫による駆除が行なわれている。また、特許文献5には、新規なキノリン誘導体を有効成分として含む防除剤が開示されている。
特開2007−70334号公報 特開2007−211015号公報 特開平6−41086号公報 特開平8−53318号公報 特開2009−155340号公報
本発明の目的は、コナジラミ類やカメムシ類などの半翅目害虫、アザミウマ目害虫、またはダニ目害虫に対する有用な防除剤を提供することにある。半翅目害虫について言えば、半翅目害虫の産卵行動を強く抑制することによって優れた防除効果を発揮し得る半翅目害虫防除剤を提供することにある。
上記課題を解決し得た本発明の半翅目害虫、アザミウマ目害虫、またはダニ目害虫に対する防除剤は、スクアレンまたはビタミンEを有効成分として含有するところに要旨を有するものである。
好ましい実施形態において、上記半翅目害虫はコナジラミ類、カメムシ類、またはアブラムシ類である。
本発明には、上記の防除剤、および基材を含有する防除剤組成物も包含される。
本発明によれば、コナジラミ類やカメムシ類などの半翅目害虫、アザミウマ目害虫、およびダニ目害虫の全てに対して、著しい駆除作用を発揮し得る防除剤を提供することができた。本発明に用いられるスクアレンおよびビタミンEは、半翅目害虫産卵阻害剤として極めて有用であり、しかも、いずれも人体に対する影響が非常に少ない。そのため、本発明の防除剤は、害虫駆除に一般に用いられる有害な物質とは異なって、農作物や土壌などに悪影響をもたらすことがなく、環境破壊を招かない点でも有用である。また、本発明の防除剤は、殺虫作用によって防除効果を発揮するものではないため、近年、導入されている天敵昆虫を利用した防除技術、すなわち、天敵として利用されているテントウムシ、寄生蜂、捕食性カメムシ、クサカゲロウなどの昆虫を利用した防除技術との併用も可能である。更に、本発明防除剤の使用により殺虫剤の使用を減らすことができるため、減農薬・無農薬作物の栽培も可能になるなどの利点もある。
図1は、実施例1において、コナジラミ類の生物試験(産卵阻害試験)に用いた装置の概略図である。 図2は、実施例1において、供試植物の抽出・分画法の手順を示すフロー図である。 図3は、実施例1において、メタノール粗抽出液の分画画分を用いた生物試験の結果を示すグラフである。なお図3では「水画分」等を「水」等と略称する。 図4は、実施例1において、シリカゲルオープンカラムによる分画画分を用いた生物試験の結果を示すグラフである。なお図4では「ヘキサン画分」等を「ヘキサン」等と、「エーテル/ヘキサン」を「E/H」と略称する。 図5は、実施例1において、シリカゲルオープンカラムによるヘキサン画分(シリカゲル−ヘキサン画分)をHPLC分析して得られたクロマトグラムである。 図6は、実施例1において、シリカゲル−ヘキサン画分のHPLC画分を用いた生物試験の結果を示すグラフである。 図7は、実施例1において、シリカゲル−ヘキサン画分の画分B(上)及びスクアレン(下)の13C−NMRスペクトルである。 図8は、実施例1において、シリカゲル−ヘキサン画分の画分B(上)及びスクアレン(下)の1H−NMRスペクトルである。 図9は、実施例1において、スクアレンの濃度変化による活性(産卵阻害率)を示すグラフである。 図10は、実施例1において、シリカゲルオープンカラムによる5%エーテル/ヘキサン画分(シリカゲル−5%エーテル/ヘキサン画分)をHPLC分析して得られたクロマトグラムである。 図11は、実施例1において、シリカゲル−5%エーテル/ヘキサン画分中、化合物Cの生物試験結果を示すグラフである。 図12は、実施例1において、シリカゲル−5%エーテル/ヘキサン画分中、化合物Cの13C−NMRスペクトルである。 図13は、実施例1において、シリカゲル−5%エーテル/ヘキサン画分中、化合物Cの1H−NMRスペクトルである。 図14は、実施例2において、カメムシ類の生物試験(産卵阻害試験)に用いた装置の概略図である。 図15は、実施例2における生物試験の結果を示すグラフである。 図16は、実施例3において、コナジラミ類の防除効果を示すグラフである。 図17は、実施例3において、ミナミキイロアザミウマ類の防除効果を示すグラフである。 図18は、実施例3において、ホコリダニ類の防除効果を示すグラフである。 図19は、実施例3において、ワタアブラムシ類の防除効果を示すグラフである。 図20は、実施例4において、キクヒメヒゲナガアブラムシ類の防除効果を示すグラフである。 図21は、実施例5において、スクアレンによるナミハダニの防除効果を示すグラフである。
本発明者らは、コナジラミ類やカメムシ類などの半翅目害虫、アザミウマ目害虫、またはダニ目害虫に対する防除剤を提供するため、検討を重ねてきた。その結果、非環式トリテルペン類のスクアレン、およびビタミンE(α−トコフェロール)が、コナジラミ類やカメムシ類などの半翅目害虫に対して強い産卵阻害作用を有しており、半翅目害虫に対する防除剤として極めて有用であること;更に、上記のスクアレンおよびビタミンEは、ダニ目害虫に対する防除剤としても極めて有用であることを見出し、本発明を完成した。
ここで、産卵阻害作用によって半翅目害虫を防除(駆除)できた点は、非常に有用である。害虫防除剤のなかには、例えば殺虫剤のように、害虫を殺して防除作用を発揮するものもあるが、殺虫剤では、殺虫効果を奏する前の害虫による作物被害を充分防止することができない。また、殺虫剤の殆どは、昆虫を非選択的に殺してしまうなど、毒性が非常に強いものが多いため、天敵昆虫を利用した防除技術と併用することができない、といった問題もある。一方、害虫防除剤のなかには、例えば忌避剤のように、害虫を作物から遠ざけることによって害虫を防除するものもあるが、忌避剤では、例えば、害虫が忌避剤と接触する前に、ビニール栽培などに侵入した害虫による産卵行動を有効に防止することはできず、次世代の防除効果が充分でないといった問題がある。これに対し、本発明のように半翅目害虫の産卵行動を強く阻害することによって害虫を防除できれば、上記の問題を解消できる点で、極めて有用である。
まず、本発明に用いられる有効成分(スクアレンまたはビタミンE)について説明する。
スクアレンは、イソプレン残基6個からなる非環式トリテルペン(炭素数30)の一つであり、下式で表される。スクアレンは、サメ類の肝油などに多く含まれており、これまでは、例えば、香粧料、表面活性剤などの原料として用いられていたが、半翅目害虫、アザミウマ目害虫、ダニ目害虫に対する防除作用は知られていない。
スクアレンは市販されており、本発明では、市販のスクアレンを用いても良い。
あるいは、スクアレンは、サメ類の肝油などに多く含まれる他、植物にも含まれていることから、公知の抽出方法によって抽出されたスクアレンを用いることもできる。スクアレンの抽出方法は、例えば、Siti Zullaikahらの文献(Bioresource Technology 100, 2009, 299-302)、Setiyo Gumawanらの文献(Industrial & Engineering Chemistry Research, 2008, 47, 7013-7018)などの文献に詳しく記載されており、詳細はこれらを参照すれば良い。後記する実施例では、ベトナム由来ウコギ科ヤツデ属(Schefflera heptaphylla)の植物から抽出して得られたスクアレンを用いて実験を行なった。
また、ビタミンEは、トコールのメチル誘導体(トコフェロール)であり、メチル基の位置によって、α、β、γ、δの4種類が知られている。ビタミンEは、酸化剤などによって容易に酸化されてキノンに変化するという性質を有するため、脂肪その他の酸化防止剤として、食品や医薬品などに用いられているが、半翅目害虫、アザミウマ目害虫、ダニ目害虫に対する防除作用は知られていない。以下に、自然界に広く分布し、最大の生物学的効力を有するα−トコフェロールの構造を示す。
ビタミンEは、市販品を用いても良いし、あるいは、植物などを原料とし、公知の抽出方法によって抽出されたものを用いることもできる。ビタミンEの抽出方法は、例えば、上述した文献に詳しく記載されており、詳細はこれらを参照すれば良い。後記する実施例では、ベトナム由来ウコギ科ヤツデ属(Schefflera heptaphylla)の植物から抽出して得られたビタミンEを用いて実験を行なった。
本発明の防除剤は、上記有効成分のほか、防除剤に通常用いられる添加剤を更に含有しても良い。上記添加剤としては、製剤に通常用いられる補助剤などが挙げられ、本発明の作用を損なわない範囲で、適宜選択して用いることができる。具体的には、例えば、非イオン界面活性剤、陰イオン界面活性剤などの界面活性剤;カゼイン、ゼラチン、多糖類などの分散剤:キサンタンガム、カルボキシメチルセルロースなどの増粘剤;安息香酸ナトリウム、パラヒドロキシ安息香酸などの防腐剤;酸性リン酸イソプロピルなどの安定剤;大豆油などのアジュバントなどが挙げられる。また、農薬の分野で汎用される添加剤として、例えば、展着剤(非イオン界面活性剤、非イオン界面活性剤+陰イオン界面活性剤など)、乳化剤、分散剤、湿潤剤などを添加しても良い。
本発明に係る防除剤の剤型は特に限定されず、例えば、農薬に通常用いられる剤型(例えば、粉剤、粒剤、ベート剤など)としても良い。また、半翅目害虫への散布のし易さなどを考慮すると、溶媒に溶解した液剤とすることが好ましい。具体的には、水和剤、乳剤、フロアブル剤などのような溶液とすることが好ましい。使用可能な溶媒としては、有効成分であるスクアレンまたはビタミンEを溶解し得、且つ、人畜無害で環境汚染の弊害が少ないものを選択して用いることが好ましい。このような溶媒として、例えば、食品添加物や食品加工などに汎用されるエタノール、ヘキサンなどが好適に用いられる。
スクアレンを液剤として用いる場合、優れた防除効果を得るためのスクアレンの好ましい濃度は、おおむね、0.001質量%以上であり、より好ましくは0.002質量%以上である。防除効果の観点からすればスクアレン濃度は高いほど良いが、経済性などとのバランスを考慮すると、おおむね、10質量%以下とすることが好ましく、0.1質量%以下がより好ましい。具体的には、スクアレンの精製度、使用環境などによってスクアレンの濃度を適宜適切に制御することができる。
また、ビタミンEを液剤として用いる場合、優れた防除効果を得るためのビタミンEの好ましい濃度は、おおむね、0.01質量%以上であり、より好ましくは0.02質量%以上である。防除効果の観点からすればビタミンEの濃度は高いほど良いが、経済性などとのバランスを考慮すると、おおむね、10質量%以下とすることが好ましく、0.1質量%以下がより好ましい。具体的には、ビタミンEの精製度、使用環境などによってビタミンEの濃度を適宜適切に制御することができる。
本発明では、上記の防除剤を基材に担持させた成形物(製品)を用いても良い。例えば、有効成分であるスクアレンまたはビタミンEを直接、基材に担持させても良いし、有効成分を溶媒に溶解した液剤の形態で基材に担持させても良い。あるいは、有効成分と添加剤を含む防除剤を基材に担持させても良い。上記基材としては、防除剤として通常用いられるものであれば特に限定されず、例えば、紙、繊維、布帛、フィルターなどの紙・繊維製品類;木材、石膏ボードなどの建材製品;フィルム、プラスチック、金属、ガラスなどの素材が挙げられる。
基材に担持させる方法は特に限定されず、基材の種類に応じて、通常用いられる方法を適宜採用すれば良い。例えば、基材を製品に加工した後、スクアレンまたはビタミンEの溶液を当該製品の表面に被覆したり、当該製品に浸漬するなどの方法が挙げられる。あるいは、製品に加工する前に、基材とスクアレンを混合するなどの方法を採用しても良い。
基材に担持する有効成分の配合量は、使用する基材の種類や用途などに応じ、適宜適切に制御すればよい。例えば、紙類や布帛類などの基材に対する、スクアレンの好ましい濃度は概ね、0.001〜50質量%であり、ビタミンEの好ましい濃度は概ね、0.01〜50質量%である。勿論、これに限定する趣旨では決してない。
本発明の防除対象である半翅目(セミ目)害虫としては、例えば、シルバーフリーコナジラミ、タバココナジラミ、イチゴコナジラミ、オンシツコナジラミなどのコナジラミ科;ワタアブラムシ、キクヒメヒゲナガアブラムシ、エンドウヒゲナガアブラムシ、リンゴアブラムシ、ダイコンアブラムシなどのアブラムシ科;ヒメトビウンカなどのウンカ科;イネマダラヨコバイ、リンゴマダラヨコバイなどのヨコバイ科;ヒメヨコバイ科;ホソヘリカメムシ、アオクサカメムシ、イネカメムシなどのカメムシ科;ツチカメムシ科;マルカメムシ科;ツノカメムシ科;ヘリカメムシ科;ナガカメムシ科;メクラカメムシ科;イネネコナカイガラムシ、ミカンコナカイガラムシなどのコナカイガラムシ科;カタカイガラムシ科;マルカイガラムシ科;リンゴキジラミ、ナシキジラミなどのキジラミ科などが挙げられる。
また、本発明の防除対象であるアザミウマ目(総翅目)害虫としては、例えば、ミナミキイロアザミウマ、ミカンキイロアザミウマ、ネギアザミウマ、ハナアザミウマ、チャノキイロアザミウマ、ヒラズハナアザミウマ、カキクダアザミウマなどが挙げられる。
また、本発明の防除対象であるダニ目害虫としては、例えば、ナミハダニ、ミカンハダニ、カンザワハダニ、ニセナミハダニ、オウトウハダニ、アシノワハダニ、リンゴハダニなどのハダニ類;ミカンサビダニ、トマトサビダニ、カキサビダニ、モモサビダニ、ニセナシサビダニなどのフシダニ類;チャノホコリダニ、シクラメンホコリダニなどのホコリダニ類;ネダニなどのコナダニ類;ヒメハダニ類;ハシリダニ類などが挙げられる。
本発明に係る防除剤の使用方法は特に限定されず、通常用いられる方法を採用すれば良い。具体的には、例えば、使用時に所定の濃度に調製した溶剤を、上記の半翅目害虫や農作物に対し、散布、噴霧、含浸などする方法が挙げられる。あるいは、上記のようにして防除剤を基材に担持させた成形品を設置しても良い。
本発明の防除剤を用いれば、半翅目害虫については、後記する実施例に示すように、コナジラミ類などの半翅目害虫の産卵が効果的に阻害される結果、所望の防除効果が有効に発揮される。また、アザミウマ目害虫やダニ目害虫については、公知の気門封鎖剤であるヒドロキシプロピルデンプン液剤などと同様、気門封鎖によって防除作用が発揮されると推察される。
以下、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明は下記実施例によって制限されず、前・後記の趣旨に適合し得る範囲で適宜変更を加えて実施することも可能であり、それらはいずれも本発明の技術的範囲に包含される。
実施例1
本実施例では、ウコギ科ヤツデ属の生葉を用い、図2に示す公知の抽出手順で得られたスクアレンおよびビタミンEが、代表的な園芸害虫であるコナジラミに対する強い産卵阻害活性を示すことを調べた。この抽出手順に従えば、シリカゲルオープンカラムによるヘキサン画分中にスクアレンが抽出され、シリカゲルオープンカラムによる5%エーテル/ヘキサン画分中にビタミンEが抽出されるようになる。以下、詳細に説明する。
1.供試虫
高知大学農学部内のハウス内において採取したシルバーリーフコナジラミ(Bemisia argentifolii)を用いた。
2.生物試験(産卵阻害試験)
下記4の方法で抽出・分画した植物1g相当量(植物体1gから得られた抽出物のこと)を溶媒1mlに溶解した溶液を用い、以下の産卵阻害試験を行った。
まず、上記溶液の中に、直径15mmのキュウリの葉(リーフディスク)を浸漬してすぐに取り出し、風乾させたものを用意する。次に、市販の50mlバイアルビンにコナジラミを10匹入れ、直径10mmの穴の開いた内蓋と外蓋との間に、上記のリーフディスクと、脱イオン水で湿らしたろ紙(直径90mmの濾紙を1/4にカットした扇方のもの)とを入れ、約27℃で24時間飼育した(図1を参照)。
試験後、リーフディスクの葉の裏を顕微鏡下で観察し、産卵の数を調べた。1つの試料につき6反復行い、実験結果をT−testで検定した。危険率pがp<0.01のとき、産卵阻害活性ありと判断した。
比較のため、生物試験を行なう毎に、試料を塗布しないコントロール群を設け、試料を塗布した実験群との比較検討を行なった。生物試験コントロール群、各実験群ともに、n=6とした。なお、生物試験を行なう度にコントロール群を設けたのは、コナジラミの採取時期などによって産卵数が相違するためであり、これにより、同一実験系内での平均産卵数の対比が容易になる。
3.供試植物
高知大学農学部内のハウス内で栽培された、ベトナム由来ウコギ科ヤツデ属(Schefflera heptaphylla)の生葉を用いた。
4.供試植物の抽出・分画法
図2に示す手順で、上記供試植物を抽出・分画した。
4−1.抽出法
上記供試植物の生葉900gに100%メタノールを1500mL加えて3日間浸漬した後、抽出液と抽出残渣(生葉)をろ別した。この抽出残渣に対し、更にメタノールを1500mL加えて3日間浸漬し、抽出液と抽出残渣(生葉)をろ別した。このようにして得られた抽出液をエバポレーターで減圧濃縮し、メタノール粗抽出物を得た後、メタノールを加えて5g/mLの濃度に調整した。
4−2.メタノール粗抽出液の分画
上記供試植物の生葉800g当量の粗抽出液(植物体800gから得られた抽出液)をエバポレーターで乾固した後、水360mlに懸濁させ、これをヘキサン250mlで3回、ジエチルエーテル250mlで3回、酢酸エチル250mlで3回、水飽和ブタノール(ブタノールに最大限溶ける量の水を溶解させたものであり、ここでは7.7%の水をブタノールに溶解させた)250mlで3回分配し、それぞれの画分を得た。
4−3.シリカゲルオープンカラムによるヘキサン画分の分画
上記メタノール粗抽出液の分画によって得られた上記供試植物の生葉700gに相当するヘキサン画分を、シリカゲルオープンカラム(100g、40mmφ×1000mm)にチャージした後、ヘキサン、5体積%エーテル/ヘキサン、10体積%エーテル/ヘキサン、50体積%エーテル/ヘキサン、エーテル、メタノールで順次溶出し、それぞれの画分を得た。
5.上記供試植物の分画画分の活性
5−1.メタノール粗抽出液の分画画分の活性
メタノール粗抽出液から得られた各画分の試料を用い、上記の生物試験を行った。詳細には、各画分の植物1g相当量1gをそれぞれの溶媒1mlに溶解した溶液を、生物試験用の試料として用いた。例えば、ヘキサン画分の試料を溶解する溶媒としては、ヘキサンを用いた。
その結果を図3に示す。各画分の産卵数の平均およびT−test値を表1に示す。図3及び表1に示されるように、ヘキサン画分は最も高い産卵阻害活性を示すが(p=0.0020)、他の画分では阻害活性は殆ど見られなかった。
5−2.シリカゲルオープンカラムによる分画画分の活性
上記4−3.に記載するように、メタノール粗抽出液のヘキサン画分からシリカゲルオープンカラムを用いて得られたヘキサン画分、5%エーテル/ヘキサン画分、10%エーテル/ヘキサン画分、50%エーテル/ヘキサン画分、エーテル画分およびメタノール画分の各試料を用い、上記の生物試験を行った。詳細には、各画分の植物1g相当量をそれぞれの溶媒1mlに溶解した溶液を、生物試験用の試料として用いた。例えば、ヘキサン画分の試料を溶解する溶媒としては、ヘキサンを用いた。
その結果を図4及び表2に示す。これらの結果から、ヘキサン画分は最も高い産卵阻害活性を示し(p=0.00027)、次いで、5%エーテル/ヘキサン画分が高い活性を示した(p=0.0020)。
6.シリカゲルオープンカラムによるヘキサン画分(以下「シリカゲル−ヘキサン画分」と略称する)に含まれる成分の分析
活性が最も高かったシリカゲル−ヘキサン画分に含まれる成分を、以下のように分析した。
6−1.使用機器
(1)HPLC
ポンプ:HITACHI L-7100 Pump
検出器:HITACHI L-7490 RI Detecter
(2)NMR
JEOL JNM-LA400
13C−NMR:100MHz
1H−NMR:400MHz
6−2.HPLC分析
シリカゲル−ヘキサン画分をHPLC分析した結果、図5に示すクロマトグラムが得られた。HPLCの分析条件は図5に併記したとおりである。
6−3.HPLC画分の活性
上記クロマトグラムの画分A〜画分D(図5で「Fr.A」〜「Fr.D」と記載)を単離精製した試料を用意し、上記の生物試験を行った。これらの結果を図6に示す。図6中、「MIX」は、画分A、B、C、Dの混合物である。図6に示すように画分Bが最も優れた産卵阻害活性を示した。
6−4.画分Bの構造解析
最も優れた産卵阻害活性を示す画分Bの構造解析を行った。13C−NMR、及び1H−NMRの分析結果から、画分Bはスクアレンであると同定した。画分Bの13C−NMR、および1H−NMRを図7、および図8に示す。
6−5.スクアレン濃度による活性変化
上記のように、産卵阻害活性が最も高い画分Bはスクアレンであることが判明したので、次に、溶媒としてメタノールを用い、スクアレン濃度を変えて生物試験を行い、各濃度による活性変化を調べた。詳細には、各スクアレン濃度の実験群の平均産卵数(A)、およびスクアレンを塗布しないコントロール群の平均産卵数(B)を算出し、下式に基づいて産卵阻害率(%)を算出した。
産卵阻害率(%)={(B−A)/B}×100
その結果を図9に示す。図9に示すように、スクアレンの濃度が高くなるにつれて産卵阻害率も上昇する傾向が見られた。詳細には、植物体に含まれていた濃度と同等の濃度である20ppmでは約90%程度の高い阻害活性が見られ、100ppmで略100%程度の阻害活性が見られた。この実験結果をT−testで検定したところ、スクアレン濃度が20ppm以上のとき、p<0.01の結果が得られた。よって、有意な産卵阻害活性が得られるスクアレンの限界活性濃度は概ね20ppmであると推認される。
7.シリカゲルオープンカラムによる5%エーテル/ヘキサン画分(以下「シリカゲル−5%エーテル/ヘキサン画分」と略称する)に含まれる成分の分析
上記シリカゲル−ヘキサン画分の次に高い活性が認められたシリカゲル−5%エーテル/ヘキサン画分に含まれる成分を、以下のようにして分析した。なお分析機器は上記と同じものを使用した。
7−1.HPLC分析
シリカゲル−5%エーテル/ヘキサン画分をHPLC分析した結果、図10に示すクロマトグラムが得られた。HPLCの詳細な分析条件は図10に併記している。
7−2.HPLC画分の活性
次に、上記クロマトグラムにおいて、リテンションタイムRt=30〜35minの画分に含まれる化合物(化合物Cと命名)について、生物試験を行った。これらの結果を図11及び表3に示すこれらの結果から、化合物Cに強い産卵阻害活性が認められた(p=0.0046)。
7−3.化合物Cの構造解析
単一ピークであり、活性が認められた化合物Cの構造解析を行った。化合物Cの13C−NMR、および1H−NMRを図12、および図13に示す。また化合物Cの13C−NMR及び1H−NMRのケミカルシフトの実測値を、α−トコフェロールの文献値と対比して表4及び5に示す。これらの分析結果より、化合物Cはα−トコフェロールであると同定した。
実施例2
本実施例では、スクアレンおよびビタミンEが、豆類の主要害虫であるホソヘリカメムシ(Riptortus clavatus)に対する強い産卵阻害活性を示すことを調べた。
詳細には、スクアレン(和光純薬製のスクアレン)およびビタミンE(ナカライテスク製のα−トコフェロール)をヘキサンで希釈し、それぞれ、100ppmの濃度に調整した。この各溶液を、1cm程度の脱脂綿に0.2mLずつ含ませ、充分乾燥させたものを、カメムシの産卵基質として用いた。比較のため、溶媒であるヘキサンのみを0.2mL脱脂綿に含ませたものも用意した。
次に、図14に示すアクリル製昆虫飼育容器(30cm×30cm×25cm)にホソヘリカメムシ10匹、および上記の各脱脂綿を6個ずつ合計18個入れた。12時間後に、それぞれの脱脂綿に産卵された卵の数を数え、平均産卵数を算出した。この結果を図15に示す。
図15に示すように、溶媒のみを用いたコントロール群の平均産卵数は36個であったのに対し、スクアレンおよびビタミンEを塗布した群の平均産卵数はそれぞれ、6個および5個と、平均産卵数が著しく抑制された。よって、スクアレンおよびビタミンEは、コナジラミ以外の半翅目害虫にも強い産卵阻害活性を奏することが確認された。
実施例3(野外実験その1)
本実施例では、スクアレンおよびビタミンEによるハウス園芸作物(ナス)の害虫防除効果を調べた。詳細には、前述した実施例2と同様、スクアレン(和光純薬製)およびビタミンE(ナカライテスク製のα−トコフェロール)をヘキサンで希釈し、それぞれ、100ppmの濃度に調整した水溶液(被験物質)を用意し、ビニールハウス内で生育させたナスに対して定期的に上記の被験物質を散布した。以下の対象害虫のうち、タバココナジラミ、ミナミキイロアザミウマ、ワタアブラムシはナス1個につき5葉に自然発生により寄生する寄生数を計測した。一方、ホコリダニは、1試験区あたり30個のリーフディスク(直径8mm)を作製し、実態顕微鏡下でホコリダニの寄生数を計測した。詳細な試験方法は、以下のとおりである。
対象作物:ナス
栽培方法:ビニールハウス栽培(高知大学)
品種:千両2号
被験物質の散布時期:草丈約60cm・生育期
被験物質の散布濃度・量:100ppm、100mL/株
散布回数:約5日間隔で合計5回
対象害虫:タバココナジラミ(Bemisia tabaci)
ミナミキイロアザミウマ(Thrips palmi)
ホコリダニ(Polyphagotarsonemus latus)
ワタアブラムシ(Aphis gossypii)
これらの結果を図16〜図19に示す。各図中、成分Aはスクアレンを、成分BはビタミンEを示す。比較のため、被験物質を全く散布しなかった無処理群の結果を併記する。
図16は、ナスに寄生するコナジラミ成虫の寄生数の推移を示すグラフである。無処理群では、試験開始約2週間後にコナジラミ成虫の寄生数が10頭/5葉まで増加したのに対し、スクアレン(成分A)およびビタミンE(成分B)を散布した群はいずれも、試験開始時とほぼ同様の寄生状態で推移しており、コナジラミの寄生数は5頭/5葉以下に抑制されていた。これらの化合物は、コナジラミに対して強い産卵阻害活性を示すことから、産卵できない被験物質処理群から無処理群へとコナジラミ成虫が移動し、結果として忌避的な効果が観察されたものと思われる。なお、上記の実験と同時に行ったコナジラミ類の卵・幼虫の寄生数調査においても同様の傾向が観察された。
図17は、ナスに寄生するミナミキイロアザミウマの寄生数の推移を示すグラフである。無処理群において、ミナミキイロアザミウマの発生が漸増していったのに対し、スクアレン(成分A)およびビタミンE(成分B)を散布した群はいずれも、被験物質を3回散布した以降は、寄生数を2頭/5葉以下と、低く抑えることができた。
図18は、ナスに寄生するホコリダニ成虫の寄生数の推移を示すグラフである。無処理群ではホコリダニの発生が漸増していったのに対し、ビタミンE(成分B)を散布した群は、3回散布した以降は、寄生数を1頭/5葉以下に抑えることができた。また、スクアレン(成分A)の防除効果はビタミンE(成分B)に比べて顕著であり、全期間中1頭/5葉以下に抑えることができた。
図19は、ナスに寄生するワタアブラムシ成虫の寄生数の推移を示すグラフである。試験後半において、無処理群ではワタアブラムシの寄生数が急増したのに対し、ビタミンE(成分B)およびスクアレン(成分A)を散布した群では、その増加傾向を抑えることができた。ビタミンEに比べてスクアレンの抑制効果が高いことから、スクアレンの防除効果が高いことが判明した。
実施例4(野外実験その2)
本実施例では、スクアレンおよびビタミンEによるハウス園芸作物(キク)の害虫防除効果を調べた。詳細には、前述した実施例3と同様にしてスクアレンおよびビタミンEの水溶液(被験物質)を用意し、ビニールハウス内で生育させたキクに対して定期的に上記の被験物質を散布し、キク1本につき5茎に自然発生により寄生する害虫を計測した。キク6本(合計30茎)について同様の試験を行い、キク5茎に寄生する害虫の平均を算出した。詳細な試験方法は、以下のとおりである。
対象作物:キク
栽培方法:ビニールハウス栽培(高知大学)
品種:小菊
被験物質の散布時期:草丈約30cm・生育期
被験物質の散布濃度・量:100ppm、24mL/株
散布回数:約7日間隔で合計3回
対象薬剤:市販のデンプン原料液剤(気門封鎖剤)
対象害虫:キクヒメヒゲナガアブラムシ
(Macrosiphoniella sanborni)
これらの結果を図20に示す。各図中、成分Aはスクアレンを、成分BはビタミンEを示す。比較のため、被験物質を全く散布しなかった無処理群、および市販のデンプン原料液剤(気門封鎖剤)を用いた対照群の結果を併記する。
図20より、無処理群では、試験開始後キクヒメヒゲナガアブラムシ成虫の寄生数が経日的に増加していったのに対し、スクアレン(成分A)およびビタミンE(成分B)を散布した群はいずれも、対照群と同様、試験開始時とほぼ同様の寄生状態で推移しており、キクヒメヒゲナガアブラムシの寄生数は約5頭以下(スクアレン:成分A)および約20頭以下(成分B:ビタミンE)/5茎以下に抑制されていた。特にビタミンEに比べ、スクアレンを用いた場合は、高い防除効果が得られた。
実施例5(野外実験その3)
本実施例では、スクアレンによるハウス園芸作物(キュウリ)の害虫防除効果を調べた。詳細には、前述した実施例3と同様にしてスクアレンの水溶液(被験物質)を用意し、ビニールハウス内で生育させたキュウリに対して定期的に上記の被験物質を散布し、キュウリ1本につき2葉に自然発生により寄生する害虫を計測した。キュウリ6本(合計12葉)について同様の試験を行い、キュウリ6葉に寄生する害虫の平均を算出した。詳細な試験方法は、以下のとおりである。
対象作物:キュウリ
栽培方法:ビニールハウス栽培(高知大学)
品種:青山キュウリ
被験物質の散布時期:草丈約20cm・生育期
被験物質の散布濃度・量:100ppm、50mL/株
散布回数:約7日間隔で合計2回
対象害虫:ナミハダニ(Tetranychus urticae)
比較のため、被験物質を全く散布しなかった無処理群についても、同様の実験を行なった。これらの結果を図21に示す。図21には、被験物質の各散布時期(0日、7日後、14日後)において、無処理群の結果を100としたときの処理群の比率(対無処理比)を示している。
図21より、スクアレンは、ナミハダニ雌成虫に対する防除効果を示すことが分かった。
上記実施例3〜5の結果より、スクアレンおよびビタミンEは、いずれも、コナジラミ、ワタアブラムシ、キクヒメヒゲナガアブラムシなどの半翅目害虫、ミナミキイロアザミウマなどのアザミウマ目害虫、およびホコリダニ、ナヒマダニなどのダニ目害虫の両方に対して高い防除効果を示すことが確認された。スクアレンやビタミンEは生体の必須成分であり毒性は考えられず、また、これらの構造的特徴から、タバココナジラミ以外の害虫に対する防除作用は、気門封鎖によると推察される。

Claims (3)

  1. スクアレンまたはビタミンEを有効成分として含有することを特徴とする半翅目害虫、アザミウマ目害虫、またはダニ目害虫に対する防除剤。
  2. 前記半翅目害虫は、コナジラミ類、カメムシ類、またはアブラムシ類である請求項1に記載の防除剤。
  3. 請求項1または2に記載の防除剤、および基材を含有する防除剤組成物。
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