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JP2010248593A - 電気・電子部品用銅合金材およびその製造方法 - Google Patents

電気・電子部品用銅合金材およびその製造方法 Download PDF

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JP2010248593A JP2009101355A JP2009101355A JP2010248593A JP 2010248593 A JP2010248593 A JP 2010248593A JP 2009101355 A JP2009101355 A JP 2009101355A JP 2009101355 A JP2009101355 A JP 2009101355A JP 2010248593 A JP2010248593 A JP 2010248593A
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Noriyuki Nomoto
詞之 野本
Koichi Furutoku
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Abstract

【課題】 圧延加工後の材料の伸びの回復および歪み除去が十分に成されていると共に良好なめっき性を備えた電気・電子部品用銅合金材、およびその製造方法を提供する。
【解決手段】 銅(Cu)を母材とし、当該母材中にニッケル(Ni)を1.0質量%以上4.0質量%以下含有すると共にシリコン(Si)を0.2質量%以上1.2質量%以下含有する、もしくはさらに副成分として燐(P)、亜鉛(Zn)、錫(Sn)、マグネシウム(Mg)、鉄(Fe)、コバルト(Co)、マンガン(Mn)、ジルコニウム(Zr)、チタン(Ti)、クロム(Cr)、銀(Ag)のうちの1種類以上の元素を総量で2.0質量%未満含有する銅基合金に圧延加工を施してなる電気・電子部品用銅合金材であって、当該電気・電子部品用銅合金材の少なくとも片面における表面から深さ10nm以内の表層領域に、銅(Cu)よりも酸化物生成自由エネルギの低い元素の酸化物が存在しないようにした。
【選択図】 図1

Description

本発明は、例えばコネクタやスイッチ部品のような各種電気・電子部品における接点や擦動部などの材料として用いられる電気・電子部品用銅合金材に関する。
リードフレーム、コネクタ等をはじめとした電気・電子部品用銅合金材には、高い機械的強度、高い熱伝導率、そしてそれが用いられる電気電子部品の製造工程における加熱に対しても容易には軟化することのないような高い耐熱性が要求される。また、このような特性(1次特性)以外にも、めっき性、はんだ濡れ性、エッチング性、プレス性、耐食性、加熱伸縮特性、曲げ加工性、耐応力緩和性等が求められる。
近年、電気・電子部品のさらなる小型化・高集積化が進むにつれて、上記の各種特性向上への要求は、ますます厳しいものとなってきている。
斯様な要求を満たす合金として、Cu−Ni−Si系合金(コルソン合金)が開発され、各種添加元素を加えたものが使用されるようになってきた。
Cu−Ni−Si系合金の製造方法は、他の銅合金条とほぼ同様であり、連続鋳造により矩形断面のインゴットを鋳造した後、それを熱間圧延して、厚さ10〜20mmの銅板を形成し、さらにそれに時効熱処理、冷間圧延、必要に応じて連続焼鈍、酸洗浄、研熔等を繰り返し施して、最終製品である銅合金条に仕上げるようにしている。
特にリードフレーム用の銅合金条の場合、圧延加工を行った後、歪み除去のための焼鈍を施して、材料の伸びの回復や歪みの除去・機械的特性の均一化等を行うことが一般的である。
このようなCu−Ni−Si系合金の性能向上に関する技術が、従来から提案されている。それらのうち、強度および導電性を向上させることを企図し、その合金における銅(Cu)とニッケル(Ni)とシリコン(Si)との成分比率を規定したものとして、例えば特許文献1にて開示された技術(発明)がある。
このような技術によって製造された銅合金条は、各種めっきが施され、また所定のパターン加工等が施されて、リードフレームやコネクタのような電気・電子部品に使用される。
リードフレームの製造工程においては、プレス加工法やエッチング法などによって銅合金状をリードフレームの形状に加工した後、所定のマスキングを行って部分銀(Ag)めっきを施すが、その下地として、銅(Cu)ストライクめっきを施すことが一般的である。めっき膜の品質は、めっき前処理条件と共に銅合金材の化学組成や表面品質が顕著に影響を与えることとなる。
そこで、そのようなCu−Ni−Si系合金からなる銅合金条における、優れためっき性を確保するための技術として、例えば特許文献2、特許文献3、特許文献4、特許文献5、特許文献6にて提案された技術等がある。
特許文献2、特許文献3では、介在物の個数を規定することで、銅合金材の表面のめっき性を向上させる、という技術が提案されている。
また、特許文献4、特許文献5では、銅合金材の表面の加工変質層の厚さを規定することで、銅合金材の表面のめっき性を向上させる、という技術が提案されている。
また、特許文献6では、適量のアルミニウム(Al)を添加して、銅合金材の表面にアルミニウム(Al)の濃化層を形成することで、銅合金材の表面におけるめっき膜の密着性を向上させ、その結果、銅合金材の表面のめっき性を向上させる、という技術が提案されている。
特許第2572042号公報 特許第3383615号公報 特開昭58−123846号公報 特開平2−100355号公報 特開2007−39804号公報 特開2007−314850号公報
Cu−Ni−Si系合金の一般的なニッケル(Ni)とシリコン(Si)との含有量は、ニッケル(Ni):1.0〜4.0質量%、シリコン(Si):0.2〜1.2質量%である。また必要に応じて、さらに、マグネシウム(Mg)、錫(Sn)、鉄(Fe)、コバルト(Co)等の元素が副成分として添加される場合もある。
リードフレーム用の銅合金条の製造工程においては、一般に、歪み除去のための焼鈍が最終工程となるが、その歪み除去焼鈍の際に、銅合金条の表面が酸化する虞がある。そこで、そのような表面の酸化を防止するために、光輝焼鈍炉における還元雰囲気中で、歪み除去焼鈍を行うことが多い。
しかしながら、従来の技術では、そのように表面の酸化を防止するために還元雰囲気中で最終工程の歪み除去焼鈍を行っているにも関わらず、最終的に得られた銅合金材(銅合金材)の表面は、荒れた不均一な状態で、光沢も低い(鈍い)ものとなりやすい傾向にあり、従って、その表面にめっき膜を形成すると、そのめっき膜が粒状やコブ状のような荒れた状態となってしまうことが多いという問題があった。
また、このようなめっき膜や材料表面の荒れの発生を回避するためには、焼鈍温度を低く設定することも考えられるが、そのようにすると、歪み除去焼鈍の本来の目的である材料の伸びの回復や歪みの除去の十分な効果を得ることが困難になってしまう。
本発明は、このような問題に鑑みて成されたもので、その目的は、圧延加工後の材料の伸びの回復および歪み除去が十分に成されていると共に良好なめっき性を備えた電気・電子部品用銅合金材、およびその製造方法を提供することにある。
本発明の発明者達は、上記目的を達成するために、まず、Cu−Ni−Si系の銅合金材に還元雰囲気中で歪み除去焼鈍のような最終加熱を施した後の、めっき性の低劣化の発生要因について、種々の調査・検討を行った。その結果、Cu−Ni−Si系の銅合金材に還元雰囲気中で加熱処理を施すと、銅(Cu)は酸化せずにシリコン(Si)やその他の易酸化元素が表層領域へと拡散して来て、それが優先的に酸化するので、このようなシリコン(Si)等の酸化膜を有する状態の銅合金条に銅ストライクめっき等のめっきを施した場合、得られるめっき膜は粒状やコブ状等の荒れが多発して極めて不均一な状態になりやすい、ということを確認した。
そして、この知見に基づいて、さらに、Cu−Ni−Si系の銅合金材についての歪み除去焼鈍のような最終加熱工程における、加熱処埋温度およびその時間ならびにその加熱雰囲気を種々変更し、最終的に得られる銅合金材の表面の化学的状態や銅ストライクめっき膜の形態がどのような様相を呈するか、つまりどのようにすれば歪み除去焼鈍後に易酸化元素が表層領域には存在しないようにすることができ、延いては良好なめっき性を確保することができるかを、鋭意調査・考察した。
その結果、酸化雰囲気中で加熱した後、引き続いて還元雰囲気で加熱することにより、銅合金材の表層領域における、銅(Cu)以外の、ニッケル(Ni)やシリコン(Si)
などの易酸化元素(銅(Cu)よりも酸化物生成自由エネルギの低い元素)の酸化膜が表面から深さ10nm程度までの表層領域に生成することを極めて効果的に防止することができることを見出した。
そして、上記のような新知見に基づいて、本発明を成すに到ったのであった。
すなわち、本発明の電気・電子部品用銅合金材は、銅(Cu)を母材とし、当該母材中にニッケル(Ni)を1.0質量%以上4.0質量%以下含有すると共にシリコン(Si)を0.2質量%以上1.2質量%以下含有する、もしくはさらに副成分として燐(P)、亜鉛(Zn)、錫(Sn)、マグネシウム(Mg)、鉄(Fe)、コバルト(Co)、マンガン(Mn)、ジルコニウム(Zr)、チタン(Ti)、クロム(Cr)、銀(Ag)のうちの1種類以上の元素を総量で2.0質量%未満含有する銅基合金に圧延加工を施してなる電気・電子部品用銅合金材であって、当該電気・電子部品用銅合金材の少なくとも片面における表面から深さ10nm以内の表層領域に、銅(Cu)よりも酸化物生成自由エネルギの低い元素の酸化物が存在しないことを特徴としている。
また、本発明の電気・電子部品用銅合金材の製造方法は、銅(Cu)を母材とし、当該母材中にニッケル(Ni)を1.0質量%以上4.0質量%以下含有すると共にシリコン(Si)を0.2質量%以上1.2質量%以下含有する、もしくはさらに副成分として燐(P)、亜鉛(Zn)、錫(Sn)、マグネシウム(Mg)、鉄(Fe)、コバルト(Co)、マンガン(Mn)、ジルコニウム(Zr)、チタン(Ti)、クロム(Cr)、銀(Ag)のうちの1種類以上の元素を総量で2.0質量%未満含有する銅基合金に少なくとも圧延加工を施す工程を含む電気・電子部品用銅合金材の製造方法であって、前記圧延加工を施した後、最終加熱処理として、酸化雰囲気中で加熱処理を施す工程と、その後、引き続いて還元雰囲気中で加熱処理を施す工程とを含むことを特徴としている。
本発明によれば、電気・電子部品用銅合金材の表面における良好なめっき性を確保することが可能となると共に、当該電気・電子部品用銅合金材の伸びの回復および歪みの除去を効果的に行うことが可能となる。その結果、圧延加工後の材料の伸びの回復および歪み除去が十分に成されていると共に良好なめっき性を備えた電気・電子部品用銅合金材が実現される。
本発明の実施例に係る(試料No.2の)電気・電子部品用銅合金材の表面のXPS分析結果を示す図である。 比較例に係る(試料No.4の)電気・電子部品用銅合金材の表面のXPS分析結果を示す図である。 従来例に係る(試料No.8の)電気・電子部品用銅合金材の表面のXPS分析結果を示す図である。 他の従来例に係る(試料No.9の)電気・電子部品用銅合金材の表面のXPS分析結果を示す図である。 本発明の実施例に係る(試料No.2の)電気・電子部品用銅合金材のストライクめっき後の表面のSEM像を示す図である。 比較例に係る(試料No.4の)電気・電子部品用銅合金材のストライクめっき後の表面のSEM像を示す図である。 従来例に係る(試料No.8の)電気・電子部品用銅合金材のストライクめっき後の表面のSEM像を示す図である。 他の従来例に係る(試料No.9の)電気・電子部品用銅合金材のストライクめっき後の表面のSEM像を示す図である。
以下、本発明の実施の形態に係る電気・電子部品用銅合金材およびその製造方法について詳細に説明する。
この電気・電子部品用銅合金材は、銅(Cu)を母材とし、その母材中にニッケル(Ni)を1.0質量%以上4.0質量%以下含有すると共にシリコン(Si)を0.2質量%以上1.2質量%以下含有する、もしくはさらに副成分として燐(P)、亜鉛(Zn)、錫(Sn)、マグネシウム(Mg)、鉄(Fe)、コバルト(Co)、マンガン(Mn)、ジルコニウム(Zr)、チタン(Ti)、クロム(Cr)、銀(Ag)のうちの1種類以上の元素を総量で2.0質量%未満含有する銅基合金に圧延加工を施して、いわゆる銅合金条材や銅合金薄板のような形態とした電気・電子部品用銅合金材であって、この電気・電子部品用銅合金材自体の少なくとも片面(例えばストライクめっきのようなめっき膜が形成される面や、その他の理由から良好な表面粗さが要求される面。あるいは、例えば両面にめっき膜が形成される場合などには、その両面)における、表面から深さ10nm以内の表層領域には、銅(Cu)よりも酸化物生成自由エネルギの低いシリコン(Si)のような易酸化元素の酸化物が存在しないようにしたものである。
さらに詳細には、この電気・電子部品用銅合金材を製造するために用いられる銅基合金としては、その合金成分が、ニッケル(Ni):1.0質量%以上4.0質量%以下を含有し、かつシリコン(Si):0.2質量%以上1.2質量%以下を含有し、あるいはさらにそれらに加えて、副成分として燐(P)、亜鉛(Zn)、錫(Sn)、マグネシウム(Mg)、鉄(Fe)、コバルト(Co)、マンガン(Mn)、ジルコニウム(Zr)、チタン(Ti)、クロム(Cr)、銀(Ag)のうちの少なくともいずれか1種類以上を総量で2.0質量%未満含有し、残部が銅(Cu)および不可避的不純物からなるものとする。
そのインゴットの鋳造後、熱間圧延、時効熱処理、冷間圧延等を繰り返して、所定の厚さに圧延加工して行くが、上記のような成分構成とすることにより、時効処理によって金属間化合物であるNiSiを析出させることで高強度を得ることができる。しかし、これとは対照的に、ニッケル(Ni)が1.0質量%未満、またはシリコン(Si)が0.1質量%未満では、十分な強度を得ることができなくなる虞が極めて高くなる。また、ニッケル(Ni)が4.0質量%超、またはシリコン(Si)が1.2質量%超であると、導電性の低下、加工性の悪化が顕著になる。特に、中間温度脆性が顕著になり、高温加熱時や熱間加工時の粒界割れが発生する虞が極めて高いものとなる。また、NiSi等の析出量が過多になるので、酸洗時などにこれらが表面に残渣となって、めっき不良を誘発する要因となる。またさらに、ニッケル(Ni)が4.0質量%超になると、溶解時に溶湯中に吸収される水素(H)の量が増大し、鋳塊中に固溶水素となって残存する。これらの水素は中間温度脆性の一因となり、冷間圧延後の焼鈍時に膨れ状の欠陥等の発生要因となりやすい。
合金成分の数値的態様は、さらに望ましくは、ニッケル(Ni):1.5質量%以上3.0質量%以下、かつシリコン(Si):0.3質量%以上0.7質量%以下とする。ニッケル(Ni)とシリコン(Si)との成分混合比は、金属間化合物であるNiSiの組成に近い方が、効率よく強度と導電性との両方を向上させることが可能と考えられることから、その成分比率は、ニッケル(Ni):シリコン(Si)=4:1とすることが望ましい。
ここで、上記の成分が基本であるが、さらに、副成分として、燐(P)、亜鉛(Zn)、錫(Sn)、マグネシウム(Mg)、鉄(Fe)、コバルト(Co)、マンガン(Mn)、ジルコニウム(Zr)、チタン(Ti)、クロム(Cr)、銀(Ag)のうちの1種類以上の元素を総量で2.0質量%未満含有するようにしても、上記同様の特性を確保しつつ、さらに下記にそれぞれ述べるような特性を副次的に得ることができる。但し、2.0質量%以上含有するようにした場合、導電性の低下および上記の特性の低下が生じる虞
が顕著になる。
上記の副成分のうち、燐(P)は、溶解時の脱酸剤としての効果と共に、若干の機械的強度向上の効果がある。
亜鉛(Zn)は、はんだ濡れ性の向上、およびその表面にはんだ層が形成されると、その界面に銅(Cu)と錫(Sn)との合金層が成長してしまうことを抑制することができるという効果がある。また、溶解時の脱ガス作用および銅(Cu)のマイグレーション抑制の効果がある。
錫(Sn)は、母材の銅(Cu)中に固溶して、その材料全体としての耐熱性、およびばね性、曲げ加工性、耐応力緩和性などの機械的特性を向上させる効果がある。このことから、コネクタとして使用される電気・電子部品用銅合金材の場合には、錫(Sn)は添加することが望ましい副添加物(副成分)であると云える。但し、その添加量が上記の2.0質量%以上のように多くなると、導電性の低下を招き、またそれと共に、表面にはんだ層を形成する場合にはそのはんだ層との界面に銅(Cu)と錫(Sn)との合金層の生成を助長してしまうこととなり、また錫(Sn)等のウィスカの発生を助長してしまうこととなる。よって、この錫(Sn)についても、上記のように、添加量は2.0質量%未満とすることが望ましいのである。
マグネシウム(Mg)は、実用上の不都合が生じるほどの導電性の低下を招くことなく、材料全体としての機械的強度、耐熱性、耐応力緩和性を向上させる効果がある。また、硫黄(S)は中間温度脆性を助長させる元素であるが、マグネシウム(Mg)はその硫黄(S)と化合物を生成して、粒界の硫黄(S)を固定し、熱間加工性を向上させる効果がある。但し、このマグネシウム(Mg)は、0.5質量%以上を添加すると、酸化物の巻き込み等の鋳造性の低下を招く虞が高くなる。このため、添加量はそれ未満とすることが望ましい。
鉄(Fe)は、高温では主に固溶し、高温熱処理時の再結晶を遅らせ、結晶粒の過大な成長を抑制する効果がある。但し、0.1質量%以上の添加量では、導電性の低下を招く虞が高くなり、また上記の効果も飽和する。よって、鉄(Fe)については、0.1質量%未満の添加が望ましい。
コバルト(Co)は、マグネシウム(Mg)と同様に、硫黄(S)と化合物を生成して粒界の硫黄(S)を固定し、熱間加工性を向上させる効果がある。また、マグネシウム(Mg)と比べて、導電性の低下は少なくて済む傾向にある。
マンガン(Mn)も、マグネシウム(Mg)と同様に、硫黄(S)と化合物を生成して粒界の硫黄(S)を固定し、熱間加工性を向上させる効果があるが、導電性の低下を招きやすい。
ジルコニウム(Zr)、チタン(Ti)、クロム(Cr)は、材料としての機械的強度および耐熱性を向上させる効果があるが、酸化物の巻き込み等の鋳造性の低下を招く虞がある。
このような合金成分を有する銅基合金を用いて、それに圧延加工および歪み除去焼鈍処理等の各種処理を施すことにより(それらの詳細は後述する)、本発明の実施の形態に係る電気・電子部品用銅合金材では、表面から深さ10nm以内の表層領域に、銅(Cu)よりも酸化物生成自由エネルギの低いシリコン(Si)のような元素の酸化物が存在しないようにしている。そして、このようにしたことにより、本発明の実施の形態に係る電気・電子部品用銅合金材は、圧延加工後の材料の伸びの回復および歪み除去が十分に成されていると共に、表面に粒状やコブ上などの荒れがなく、良好なめっき性を備えたものとなっている。
次に、本発明の実施の形態に係る電気・電子部品用銅合金材の製造方法について説明する。
坩堝式溶解炉やチャネル式溶解炉等の電気炉で、上記のような所定の成分を溶解した後
、連続鋳造により、例えば厚さ150〜250mm、幅400〜1000mm程度の矩形断面鋳塊(ケーク)を鋳造する。そしてそのケークを、800〜950℃の温度で30分間以上保持した後、熱間圧延機により、厚さ10〜20mm程度に圧延する。このときの熱間圧延の加熱温度が800℃よりも低いと、熱間圧延時に粒界に割れが生じる虞が極めて高くなる。また、鋳造の冷却過程で析出した粗大なNiSi化合物が十分に固溶しない。これらは最終製品にまで残存し、通常の酸洗液では溶解しないために残渣となり、表面に残存した場合は、めっき性に悪影響を及ぼすこととなる。他方、950℃よりも高温であると、再結晶した結晶が粗大化しやすく、また酸化膜が厚くなってしまう。従って、熱間圧延の加熱温度は800〜950℃とすることが望ましい。また、保持時間は30分より短いと析出物が十分に固溶しない。このため、保持時間は30分以上とすることが望ましい。
リードフレーム用の電気・電子部品用銅合金材の場合には、熱間圧延の後に引き続いて時効処理を突施する。あるいは面削により酸化膜を除去して冷間圧延後に時効処理を実施する。時効処理は350〜600℃の温度で0.5〜24時間保持する。時効処理温度が350℃未満では、析出速度が遅く、24時間以上加熱しても十分析出しない。また、時効処理温度が600℃を超えると、微細な析出物を得ることができなくなると共に固溶限が増加し、熱力学的平衡状態に到達しても導電率の低下が顕著になる。また、析出物が粗大化し、めっき性に悪影響を及ぼすこととなる。強度を重視する場合は350〜450℃の温度で時効、加工性を重視する場合は500〜600℃の温度で時効、導電性を重視する場合は500〜550℃の温度で時効しさらにその後に350〜450℃の温度で時効する、といったプロセス条件設定等の工夫が必要である。また、時効前の冷間圧延の加工率が低過ぎると、析出速度が遅くなると共に十分な機械的強度が得難くなる。時効処理後には、冷間圧延と焼鈍とを繰り返し、必要に応じて酸洗浄、バフ研磨等を行った後、最終圧延を行う。また、必要に応じてテンション・レベリングで板形状を整えた後、下記に述べるような表層領域の成分調整を兼ねた歪み除去焼鈍を実施して、伸びの回復、歪みの除去・均一化を図ると共に、表面から深さ10nmまでの表層領域における成分中に銅(Cu)よりも酸化物生成自由エネルギの低いシリコン(Si)のような元素の酸化物が存在しないようにする。
すなわち、本発明の実施の形態に係る電気・電子部品用銅合金材の製造方法では、最終段階での歪み除去焼鈍としては、下記のような2通りの方法があり、そのうちのいずれか1つを用いる。
第1の方法は、酸化雰囲気中で加熱し、その後、引き続いて還元雰囲気中で加熱する、というものである。
それらの加熱工程における温度や時間等の具体的なプロセス条件の設定は、焼鈍前の材料の機械的強度、伸び、耐熱性等の諸条件に大きく依存するが、300℃超450℃未満の範囲内の温度、より望ましくは325℃以上425℃以下の温度で、合計1〜5分間程度の加熱が好適である。
使用する加熱炉は、バッチ式でも連続焼鈍炉でもよいが、雰囲気制御が可能なものが必要であり、この点では、連続焼鈍炉が望ましい。また、酸化炉、還元炉を直列したタイプで1回の迎続焼鈍で実施してもよく、もしくは個別に酸化雰囲気、還元雰囲気でそれぞれ1回ずつ焼鈍するようにしてもよい。また、酸化雰囲気中で425℃よりも高い温度で加熱すると酸化膜が剥離しやすくなり、325℃未満の温度で加熱すると十分な効果が得られないので、酸化雰囲気中では325℃以上425℃以下の温度で加熱することが望ましい。
この酸化雰囲気中での加熱処理プロセスでは、加工対象の電気・電子部品用銅合金材の表層領域における母材(基相)の銅(Cu)のマトリクス全体を酸化させて、銅(Cu)の酸化膜を形成し、その銅の酸化膜(マトリクス)の存在によって、銅(Cu)以外の例
えばシリコン(Si)のような酸化物生成自由エネルギの低い元素が厚さ方向に深い領域から浅い表層領域へと拡散(移動)して来てその表層領域内に濃化することを、阻止する。
但し、この表層領域における銅(Cu)の酸化膜の厚さが厚すぎると、その酸化膜がいわゆる表層剥離を起こす虞や、次段の還元雰囲気中での加熱を施した後に著しくポーラスな表面状態になる虞が、極めて高くなる。このため、このとき形成する銅(Cu)の酸化膜の厚さの上限値は、1μm以下、さらに望ましくは500nm以下とする。なお、下限値については、例えばリードフレーム用のめっき加工に適した良好なめっき性を備えた表面状態を最終的に得るためには、10nm以上とすることが望ましい。このようにすることにより、少なくとも表面から深さ10nm以内の表層領域には、表面の荒れの要因となるシリコン(Si)のような易酸化元素の酸化物が存在しないようにすることができる。
上記のような酸化雰囲気中での加熱処理を行った後、引き続いて、還元雰囲気中での加熱処理を実施する。この還元雰囲気中での加熱プロセスでは、表層領域における酸化した銅(Cu)のマトリクスに還元反応を施して、元の銅(Cu)に戻す。但し、このとき過大な熱を与えるなどして還元反応が強過ぎるようになると、シリコン(Si)やその他の易酸化元素が表層領域付近に拡散して来て膿化してしまう。従って、酸化雰囲気中での加熱温度および酸素分圧で酸化膜の厚さを設定した後、それに対応して、この還元雰囲気中での加熱処理では、易酸化元素が表層領域付近に拡散して来ることのないように、加熱温度および還元ガス分圧等のプロセス条件を設定することが望ましい。
以上のような、第1の歪み除去焼鈍の方法を含んだ製造方法によれば、まず酸化雰囲気中で適切なプロセス条件で加熱することにより、加工対象である電気・電子部品用銅合金材における、表面から10nm〜1μm程度の深さまでの表層領域の銅(Cu)のマトリクスを酸化させて銅(Cu)の酸化膜を形成し、その酸化膜の存在によって、シリコン(Si)のような易酸化元素が表層領域へと拡散して来て濃化することを、阻止することができる。そして、それに引き続いて、還元雰囲気中で適切なプロセス条件で加熱することにより、表層領域に形成されていた銅(Cu)の酸化膜を還元反応で元の銅(Cu)へと戻すことができる。また、それらの加熱によって、材料としての伸びの回復および歪み除去等、本来の歪み除去焼鈍の目的についても、十分効果的に達成される。
このようにして、圧延加工後の材料の伸びの回復および歪み除去が十分に成されていると共に、表面に粒状やコブ状などの荒れが生じることのない良好なめっき性を備えた電気・電子部品用銅合金材を製造することができる。
第2の方法は、まず、加工対象の電気・電子部品用銅合金材に、還元雰囲気中で加熱処理を施す。その後、その加工対象の電気・電子部品用銅合金材の表層における、銅(Cu)よりも酸化物生成自由エネルギの低い元素やその酸化物が濃化した領域を、化学研磨や機械研磨等によって除去する。その後、酸化雰囲気中での加熱処理を施す。その後、さらに引き続いて、還元雰囲気中での加熱処理を施す、というものである。このような第2の方法によれば、化学研磨や機械研磨等を行う工程や、最初の還元雰囲気中での加熱処理を行う工程が追加されるという点では上記の第1の方法よりも手間が掛かることとなるが、得られる効果はさらに高いものとなる。
この第2の方法では、まず、最初の還元雰囲気中での加熱処理を行う。これにより、加工対象の電気・電子部品用銅合金材の表面付近に、易酸化元素の濃縮層を形成する。これにより、その表面付近よりも深い領域には、易酸化元素の欠乏層が生じることとなる。つまり、敢えて最初に還元雰囲気中で加熱することで、故意に易酸化元素を表面付近へと集合させることにより、その表面付近よりも下の(例えばその表面付近よりも10nm程度以上深い)所定の領域内には、易酸化元素の存在を希薄化させる、もしくは易酸化元素が存在しないようにする。
そして、易酸化元素が集合してその濃縮層となった表面付近の領域を、化学研磨または機械研磨もしくはその両方(いわゆるダマシン加工等)によって除去する。そうすると、その表面付近の領域が除去された跡に、新たに表れる表面およびその下に連なる新たな表層領域は、易酸化元素が存在しない、もしくは極めて希薄な表面およびそれに連なる表層領域なのであるから、この段階で、この加工対象の電気・電子部品用銅合金材における表面から少なくとも深さ10nm程度以上までの表層領域には、銅(Cu)よりも酸化物生成自由エネルギの低いシリコン(Si)のような易酸化元素が存在しない、もしくは存在が極めて希薄な状態となっている。
続いて、その易酸化元素が存在しない表層領域が露出した状態の電気・電子部品用銅合金材に、第1の方法と同様に、酸化雰囲気中での加熱処理を施すことにより、その表層領域の銅(Cu)のマトリクスを酸化させて酸化膜を形成する。
そして引き続き、第1の方法と同様に、還元雰囲気中での加熱処理を実施することにより、表層領域における酸化した銅(Cu)のマトリクスに還元反応を施して、元の銅(Cu)に戻す。
以上のような、第2の歪み除去焼鈍の方法を含んだ製造方法によれば、最初の還元雰囲気中での加熱処理を施すことにより、加工対象の電気・電子部品用銅合金材の表面付近に易酸化元素が拡散して来て濃化し、その領域が濃縮層となることを、むしろ逆手に取って利用して、表面付近に易酸化元素の濃縮層を積極的に形成する。そしてその易酸化元素の濃縮層を化学研磨や機械研磨によって除去する。これにより、この加工対象の電気・電子部品用銅合金材における表面から深さ10nm程度以上までの表層領域に銅(Cu)よりも酸化物生成自由エネルギの低いシリコン(Si)のような、めっき性の低下の要因となる易酸化元素が表層領域には存在しない状態とすることが可能となる。そして、そのように易酸化元素を表層領域からほぼ完全に(但し、実際上不可避的に存在する、あるいはこの処理の後に何らかの外乱的要因等で発生するような酸化物等の存在については、誤差的なものと見做して、本発明では考察の対象外とする)駆逐した状態とした後、第1の方法と同様に、酸化雰囲気中での加熱処理を施し、引き続いて還元雰囲気中での加熱処理を施すことにより、第1の方法の場合によりもさらに確実で効果的に、表面に粒状やコブ状などの荒れが生じることのない良好なめっき性を備えた電気・電子部品用銅合金材を製造することができる。また、このような3段階の加熱処理によって、材料としての伸びの回復および歪み除去等、本来の歪み除去焼鈍の目的についても、十分効果的に達成される。
このようにして、圧延加工後の材料の伸びの回復および歪み除去が十分に成されていると共に、表面に粒状やコブ状などの荒れが生じることのない良好なめっき性を備えた電気・電子部品用銅合金材を製造することができる。
以上説明したように、本発明の実施の形態に係る電気・電子部品用銅合金材およびその製造方法によれば、表面から深さ10nm以内の表層領域に、銅(Cu)よりも酸化物生成自由エネルギの低い易酸化元素の酸化物が存在しないようにする、もしくはそのような易酸化元素の酸化物の発生を抑制してその存在を極めて希薄化なものとするようにしたので、この電気・電子部品用銅合金材の表面における良好なめっき性を確保することが可能となると共に、この電気・電子部品用銅合金材の伸びの回復および歪みの除去を効果的に行うことが可能となる。その結果、圧延加工後の材料の伸びの回復および歪み除去が十分に成されていると共に良好なめっき性を備えた電気・電子部品用銅合金材を実現することができる。また、めっき性のみならず、はんだ濡れ性についても良好なものとすることが可能となる。
これとは対照的に、従来の技術では、歪み除去焼鈍を施した後に得られる電気・電子部
品用銅合金材におけるめっき性が低劣化する場合が多かった。すなわち、Cu−Ni−Si系合金には、銅(Cu)よりも酸化物の生成自由エネルギが著しく低いシリコン(Si)や、その他の微量成分が含まれている。活性ガスや還元ガスのような酸素分圧の低い雰囲気中での加熱処理では、銅(Cu)は酸化せずにシリコン(Si)やその他の易酸化元素が表層領域へと拡散して来て、優先的に酸化することとなる。このようなシリコン(Si)等の酸化膜を有する状態の銅合金条に銅ストライクめっき等のめっきを施した場合、得られるめっき膜は粒状やコブ状等の荒れが多発して極めて不均一な状態になりやすい。具体的には表面粗さが荒く、光沢の少ない外観になりやすい。このような要因から、従来の歪み除去焼鈍工程を含んだ電気・電子部品用銅合金材の製造技術では、その歪み除去焼鈍を施した後に得られる電気・電子部品用銅合金材におけるめっき性が低劣化していた。
これを改善するためには、めっきの前処理で、銅合金材の表面におけるシリコン(Si)等の酸化層を除去することや、めっき液およびその他のめっきプロセス条件設定の工夫が必要になる。しかし、めっきを行うリードフレーム・メーカーでは、前処理およびめっき液ならびにめっき条件等の調整に煩雑な手間や時間が掛かることを嫌うため、銅合金条メーカーで何らかの対策を行うことが必要になる。例えば不活性雰囲気や還元雰囲気で焼鈍する場合の有効な対策としては、ガスの水蒸気露点を充分に、例えば−40℃以下に低くすることや、材料表面に残存した水分や油分を十分に除去・乾燥してから焼鈍を施すことなどが挙げられるが、実際のリードフレームの製造においては、左様な工程の管理が極めて煩雑で困難を伴うものとなる傾向にあり、また十分な効果が得られない場合も多かった。
しかし、本発明の実施の形態に係る電気・電子部品用銅合金材およびその製造方法によれば、以上説明したように第1の歪み除去焼鈍の方法を含んだ製造方法または第2の歪み除去焼鈍の方法を含んだ製造方法によって、工程の管理の煩雑化や困難化を伴うことなく、電気・電子部品用銅合金材の表面における良好なめっき性を確保することが可能となり、かつその材料としての伸びの回復および歪みの除去を効果的に行うことが可能となる。
上記の実施の形態で説明した製造方法によって、実施例に係る電気・電子部品用銅合金材の試料(試料1、2、3)を作製した。試料1、2は、第1の歪み除去焼鈍を含んだ製造方法によって作製し、また試料3は、第2の歪み除去焼鈍を含んだ製造方法によって作製した。
また、それとの比較のために、上記の実施の形態にて規定したプロセス条件等とは敢えて異なった設定で、比較例に係る電気・電子部品用銅合金材の試料(試料4、5、6、7)、および従来例に係る電気・電子部品用銅合金材の試料(試料8、9、10)を作製した。そして、それらの試料のそれぞれの表面に、銅(Cu)のストライクめっきを施した。
それらの試料について、めっき膜の表面のSEM像の撮影、および歪み除去焼鈍後の表層領域のXPS分析を行った。図1は、本発明の実施例に係る試料No.2(以降、試料2と呼ぶ)の電気・電子部品用銅合金材の表面のXPS分析結果を示す図であり、図2は、比較例に係る試料No.4(以降、試料4と呼ぶ)の電気・電子部品用銅合金材の表面のXPS分析結果を示す図であり、図3は、従来例に係る試料No.8(以降、試料8と呼ぶ)の電気・電子部品用銅合金材の表面のXPS分析結果を示す図であり、図4は、他の従来例に係る試料No.9(以降、試料9と呼ぶ)の電気・電子部品用銅合金材の表面のXPS分析結果を示す図である。
ここで、図1、図2、図3、図4グラフの横軸にはスパッタ時間(単位:分)をプロットしてあるが、これはSiO換算で、1分間が1.4nmの深さに相当する。例えば、スパッタ時間が10分間ならば、それは深さ14nmに相当するものであると換算することができる。
図5は、本発明の実施例に係る試料2の電気・電子部品用銅合金材のストライクめっき
後の表面のSEM像を示す図であり、図6は、比較例に係る試料4の電気・電子部品用銅合金材のストライクめっき後の表面のSEM像を示す図であり、図7は、従来例に係る試料8の電気・電子部品用銅合金材のストライクめっき後の表面のSEM像を示す図であり、図8は図7とは別の従来例に係る試料9の電気・電子部品用銅合金材のストライクめっき後の表面のSEM像を示す図である。
なお、図5、図6、図7、図8では、上段はめっきの均一性を比較するためのSEM像を、下段は上段のSEM像を3.5倍に拡大してめっき粒の粗度を比較するためのSEM像を、それぞれ示している。
まず、中周波誘導型坩堝炉で、Cu−2.4wt%Ni−0.6wt%Si−0.1wt%Mgの組成の銅基合金を溶解・調製後、銅製鋳型で半連続鋳造し、断面サイズ180mm×150mm、長さ4500mmの矩形断面鋳塊(ケーク)を鋳造した。そしてそのケークを、900℃において3時間加熱した後、熱間圧延して厚さ15mmとし、直ちに水冷した。
続いて、その表面を面削して酸化スケールを除去した後、時効処埋、冷間圧延、中間焼鈍、酸洗浄、バフ研磨を組み合わせて実施し、最終圧延により、厚さ0.15mmの、歪み除去焼鈍未加工の銅合金条を得た。時効処理、中間焼鈍の雰囲気は、窒素雰囲気とした。
この銅合金条を供試材として、表1に纏めて示した加熱雰囲気および加熱条件で、歪み除去焼鈍を実施した。なお、表1において、「加熱1」とは、最初の還元雰囲気中での加熱処理であり、「加熱2」とは、酸化雰囲気中での加熱処理であり、「加熱3」とは、最後の還元雰囲気中での加熱処理である。また、「研磨」は、最初の還元雰囲気中での加熱処理の直後に引き続いて行った化学研磨による研磨処理(表層の易酸化元素の濃縮層の除去工程)である。
銅(Cu)のストライクめっきとしては、電流密度5A/dmで30秒間の電解脱脂を施した後、希硫酸で30秒間酸洗し、引き続いて硫酸銅めっき液(HSO+CuSO)を用いて電流密度5A/dmで10秒間電解めっきを行った。その後、BTAで防錆した。
そして、そのめっき膜の表面の状態を、SEM像によって調べた。また、各試料の材料表面領域における成分分布をXPS分析によって調べた。そしてそれらの結果に基づいて、各試料の表面状態(表層領域におけるシリコン(Si)の酸化物の存在の有無)およびめっき性の良否(銅(Cu)めっき粒子の均一度ならびに一次特性(材料としての機械的な伸びの回復等の効果)について評価・検討した。
その結果を纏めて表2に示す。ここで、表2では、酸化膜の厚さが3nm以下でありかつシリコン(Si)酸化物が存在していないことを、易酸化元素の存在に関しての評価の合格の条件とし、合格のものについては丸印を付して示した(表2の注1)。また、銅(Cu)めっき均一性については、めっき膜面の不均一さの要因である粗大めっき粒が存在しないことを、めっき性に関しての評価の合格の条件とし、合格のものについては丸印を付して示した(表2の注2)。また、1次特性については、歪み除去焼鈍後における材料(試料)の伸びの回復等、一般的な評価基準を合格条件とし、合格のものには○印を付し、焼鈍の効果がやや不足気味のものには△印を付し、焼鈍の効果が明らかに不十分のものには×印を付して示してある。
本発明の実施例に係る試料1、2、3では、表2、図1、図5から明らかなように、歪み除去焼鈍後の表層領域における、銅(Cu)よりも酸化物生成自由エネルギの低い易酸化元素の酸化膜の生成は、実質的に全くなかった(不可避的に残存するような極めて若干量の酸化物の存在を除いて)。そしてその結果、粗大なめっき粒のない均一なストライクめっき膜が得られることが確認された。また、1次特性も満足したものとなることが確認
された。
また、比較例に係る試料4では、表2、図2、図6から明らかなように、酸化雰囲気中での加熱(加熱2)の温度が300℃と低かったため、表層領域内にシリコン(Si)の酸化膜が発生し、それが要因となって、ストライクめっき膜に粗大なめっき粒が発生して不均一な膜面となった。
比較例に係る試料5では、表2から明らかなように、酸化雰囲気中での加熱(加熱2)の温度を450℃と高くし過ぎたため、銅(Cu)の酸化膜剥離が生じ、また過焼鈍となった。この試料5の結果から、酸化雰囲気中での加熱(加熱2)の温度は、450℃未満、より望ましくは425℃以下とすることが適切であるものと考えられる。また、その下限値については、試料4の結果からすると、300℃超、より望ましくは325℃以上とすることが適切であるものと考えられる。
比較例に係る試料6では、表2から明らかなように、最後の還元雰囲気中での加熱(加熱3)の温度が300℃と低かったため、銅(Cu)の酸化膜が十分には還元できず、仕上った材料の表面に銅(Cu)の酸化膜が残ってめっき性が低下し、得られためっき膜は不均一なものとなった。また、焼鈍もやや不足した結果となった。
比較例に係る試料7では、表2から明らかなように、最後の還元雰囲気中での加熱(加熱3)の温度を500℃と高くし過ぎたため、仕上った材料の表面に銅(Cu)の酸化膜が若干残り、これが要因となって、めっき膜がやや不均一なものとなった。また、過焼鈍となり、仕上った材料の機械的強度が低下した。
従来例に係る試料8では、従来技術による、H25%+N75%の還元雰囲気中での450℃・1分間の加熱による歪み除去焼鈍のみを施した結果、表2、図3、図7から明らかなように、仕上った材料の表層領域付近にはシリコン(Si)の酸化膜が顕著に発生し、その表面に形成しためっき膜は極めて不均一なものとなった。
従来例に係る試料9では、従来技術による、N100%の還元雰囲気中での450℃・1分間の加熱による歪み除去焼鈍のみを施したところ、その結果は、表2、図4、図8から明らかなように、試料8の場合ほど顕著ではなかったが、試料8とほぼ同様の傾向を示し、仕上った材料の表層領域付近にはシリコン(Si)の酸化膜が発生して、めっき膜は極めて不均一なものとなった。
従来例に係る試料10では、従来技術による、N100%の還元雰囲気中での300℃・1分間の加熱による歪み除去焼鈍のみを施した。その結果、表2から明らかなように、温度が300度と低かったため、表層領域にシリコン(Si)の酸化膜は発生しなかったが、本来の目的である歪み除去焼鈍の効果は十分なものが得られなかった。
以上の結果から、本発明の実施例に係る電気・電子部品用銅合金材およびその製造方法によれば、比較例や従来例に係る試料では不可能であった、歪み除去焼鈍後に粗大なめっき粒のない均一なストライクめっき膜を得ることと、歪み除去焼鈍本来の目的である1次特性も十分なものを得ることとの、両立を達成できることが確認された。
なお、上記の実施の形態および実施例では、仕上った電気・電子部品用銅合金材の表面の品質の良否を判断するための具体的な一態様として、銅(Cu)ストライクめっき膜を形成する場合の、めっき性(粗大めっき粒等が存在してめっき膜面が不均一になるか否か)について考察し、そのようなめっき性について、本発明によれば良好な品質を得ることができることを確証したが、この他にも、例えば、はんだ濡れ性などについても、本発明によれば向上せしめることが可能である。すなわち、本発明によれば、電気・電子部品用銅合金材における、めっき性のみならず、はんだ濡れ性についても、極めて良好なものとすることが可能である。

Claims (6)

  1. 銅(Cu)を母材とし、当該母材中にニッケル(Ni)を1.0質量%以上4.0質量%以下含有すると共にシリコン(Si)を0.2質量%以上1.2質量%以下含有する、もしくはさらに副成分として燐(P)、亜鉛(Zn)、錫(Sn)、マグネシウム(Mg)、鉄(Fe)、コバルト(Co)、マンガン(Mn)、ジルコニウム(Zr)、チタン(Ti)、クロム(Cr)、銀(Ag)のうちの1種類以上の元素を総量で2.0質量%未満含有する銅基合金に圧延加工を施してなる電気・電子部品用銅合金材であって、
    当該電気・電子部品用銅合金材の少なくとも片面における表面から深さ10nm以内の表層領域に、銅(Cu)よりも酸化物生成自由エネルギの低い元素の酸化物が存在しないことを特徴とする電気・電子部品用銅合金材。
  2. 銅(Cu)を母材とし、当該母材中にニッケル(Ni)を1.0質量%以上4.0質量%以下含有すると共にシリコン(Si)を0.2質量%以上1.2質量%以下含有する、もしくはさらに副成分として燐(P)、亜鉛(Zn)、錫(Sn)、マグネシウム(Mg)、鉄(Fe)、コバルト(Co)、マンガン(Mn)、ジルコニウム(Zr)、チタン(Ti)、クロム(Cr)、銀(Ag)のうちの1種類以上の元素を総量で2.0質量%未満含有する銅基合金に少なくとも圧延加工を施す工程を含む電気・電子部品用銅合金材の製造方法であって、
    前記圧延加工を施した後、最終加熱処理として、酸化雰囲気中で加熱処理を施す工程と、その後、引き続いて還元雰囲気中で加熱処理を施す工程とを含む
    ことを特徴とする電気・電子部品用銅合金材の製造方法。
  3. 請求項2記載の電気・電子部品用銅合金材の製造方法において、
    前記最終加熱処理を施して、当該電気・電子部品用銅合金材の少なくとも片面における表面から深さ10nm以内の表層領域に、銅(Cu)よりも酸化物生成自由エネルギの低い元素の酸化物が存在しないようにする
    ことを特徴とする電気・電子部品用銅合金材の製造方法。
  4. 請求項2または3記載の電気・電子部品用銅合金材の製造方法において、
    前記還元雰囲気中での加熱処理とは別段に、前記酸化雰囲気中での加熱処理の前に還元雰囲気中での加熱処理を施す工程を、さらに備えた
    ことを特徴とする電気・電子部品用銅合金材の製造方法。
  5. 請求項4記載の電気・電子部品用銅合金材の製造方法において、
    前記酸化雰囲気中での加熱処理の前に行われる最初の還元雰囲気中での加熱処理を施した後、当該電気・電子部品用銅合金材の表層における、銅(Cu)よりも酸化物生成自由エネルギの低い元素および/またはその酸化物が濃化した領域を、化学研磨および/または機械研磨によって除去する工程を、さらに備えた
    ことを特徴とする電気・電子部品用銅合金材の製造方法。
  6. 請求項2ないし5のうちいずれか1つの項に記載の電気・電子部品用銅合金材の製造方法において、
    前記酸化雰囲気中での加熱処理における、当該酸化雰囲気の温度を、325℃以上425℃以下とする
    ことを特徴とする電気・電子部品用銅合金材の製造方法。
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