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JP2010196801A - 玉軸受用保持器 - Google Patents

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JP2010196801A JP2009042533A JP2009042533A JP2010196801A JP 2010196801 A JP2010196801 A JP 2010196801A JP 2009042533 A JP2009042533 A JP 2009042533A JP 2009042533 A JP2009042533 A JP 2009042533A JP 2010196801 A JP2010196801 A JP 2010196801A
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Masahiro Kita
昌大 喜多
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NSK Ltd
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Abstract

【課題】ポケット内周面と転動体(玉)の表面との間に作用する油膜の剪断抵抗を減少させると共に、軸受回転時における低トルク化による効果を長期に亘って一定に維持し続けることが可能な玉軸受用保持器を提供する。
【解決手段】軸受内部において複数の転動体を回転自在に保持しながら、これら複数の転動体と共に軸受内部に沿って公転する玉軸受用保持器8であって、保持器は、複数の転動体を1つずつ回転自在に保持する複数のポケット8pを有する保持器本体8aと、各ポケットの内面Psを一部突出させて形成された複数の突起8tとを備えており、保持器本体の表面には、少なくとも各ポケットの内面に形成された複数の突起を覆うように、撥水撥油膜8bが形成されている。この場合、撥水撥油膜は、保持器本体の表面に金属酸化物層を形成し、この金属酸化物層の表面に撥水撥油層を形成して構成されている。
【選択図】図1

Description

本発明は、玉軸受に用いられる保持器であって、その表面に撥水撥油膜が形成された玉軸受用保持器に関する。
各種装置の回転部分(例えば、回転軸)を回転自在に支持するために、例えば図2(a)に示すような玉軸受が多用されている。玉軸受は、相対回転可能に対向配置された軌道輪(例えば、内輪2、外輪4)と、内外輪2,4間に転動自在に組み込まれた複数の転動体6(即ち、玉)と、これら複数の転動体(玉)6を1つずつ回転自在に保持する保持器8とを備えている。ここで、玉軸受には、軸受内部に封入された潤滑剤(例えば、グリース、油)の漏洩や、軸受内部への異物(例えば、水、塵埃)の浸入を防止するために、例えばシールやシールドなどの密封板10が設けられる場合がある。図面には一例として、基端側が外輪4に固定され、先端側が内輪2に摺接した状態に位置決めされたシールが示されている。
このような玉軸受に組み込まれる保持器8として、例えば波形プレス保持器やアンギュラ玉保持器など種々のタイプのものが知られているが、ここでは一例として、例えば図2(b)に示すような冠形保持器を想定する。冠形保持器(以下、保持器8という)には、周方向に沿って等間隔に複数のポケット8pが形成されており、各々のポケット8pは、その一方側が開口Pkし、その他方側が閉塞されている。また、各開口Pkの周方向両側からは、当該開口Pkを一部覆うように一対の爪部8rが立ち上げられており、これら爪部8rによって開口Pkの寸法(即ち、開口径)が狭められている。
この場合、例えば一対の爪部8rに転動体(玉)6を位置付けた状態から開口Pkへ向けて転動体(玉)6を押し込むと、その押込力により一対の爪部8rが外側に弾性変形し、開口Pkが広がる(拡径する)ことにより、当該開口Pkからポケット8p内へ転動体(玉)6を挿入することができる。そして、ポケット8p内へ転動体(玉)6が挿入されたとき、一対の爪部8rが元の形状に弾性的に復元することで、開口Pkの寸法(開口径)が再び狭められる。このとき、転動体(玉)6は、一対の爪部8rによってポケット8p内に挟持された状態となる。この状態において、各転動体(玉)6は、各ポケット8pから脱落すること無く、当該ポケット8p内に回転自在に保持される。
このような保持器8は、複数の転動体(玉)6を保持した状態で玉軸受の内輪2と外輪4との間に組み付けられ(図2(a))、軸受回転中に各転動体(玉)6の公転速度の約半分の速度で公転する。ここで、内外輪2,4間を公転する保持器8を案内する方式としては、例えば転動体案内、外輪案内、内輪案内があるが、特に転動体の直径が小さな軸受(例えば、小径軸受、ミニアチュア軸受)には、内輪案内方式が適用される。
ところで、上記した保持器8には、軸受回転時における低トルク化を図るために、種々の仕様が図られている。その一例として特許文献1には、各ポケットの内面(例えば図2(b)に示すポケット内周面Ps)に多数の突起が形成された保持器が示されている。これによれば、多数の突起により、ポケット内周面と転動体(玉)の表面との間に薄い油膜が形成される範囲を狭くして、双方の面同士の間に作用する油膜の剪断抵抗を小さくすることにより、軸受回転時における低トルク化(動トルクの低減)が図られている。
しかしながら、特許文献1の保持器については、ポケット内周面と転動体(玉)の表面との非接触部(例えば、ポケット内周面のうち突起が形成されていない部位と転動体(玉)の表面との間)において、その油膜の剪断抵抗を更に小さくし、軸受回転時における低トルク化(動トルクの低減)を更に向上させることが要望されている。
また、他の一例として特許文献2には、その外面(ポケット内周面を含めた表面全体)に撥油剤による膜が形成された保持器が示されている。これによれば、軸受回転時に保持器が公転する際に、潤滑剤(オイル)が保持器と共につれまわるのを抑制し、攪拌抵抗を低減することにより、軸受回転時における低トルク化(回転トルクの低減)が図られている。
しかしながら、特許文献2の保持器では、ポケット内周面と転動体(玉)の表面との接触部において、撥油剤による膜が剥れ易いため、当該膜が剥れたような場合には、軸受回転時における回転トルクが大きくなり、その結果、低トルク化による効果を長期に亘って一定に維持し続けることが困難な状態となってしまう。
そこで、ポケット内周面と転動体(玉)の表面との間に作用する油膜の剪断抵抗を減少させると共に、軸受回転時における低トルク化による効果を長期に亘って一定に維持し続けることが可能な保持器の開発が望まれているが、現在、そのような保持器は知られていない。
特開2001−241448号公報 特開2007−32806号公報
本発明は、このような問題を解決するためになされており、その目的は、ポケット内周面と転動体(玉)の表面との間に作用する油膜の剪断抵抗を減少させると共に、軸受回転時における低トルク化による効果を長期に亘って一定に維持し続けることが可能な玉軸受用保持器を提供することにある。
このような目的を達成するために、本発明は、軸受内部において複数の転動体を回転自在に保持しながら、これら複数の転動体と共に軸受内部に沿って公転する玉軸受用保持器であって、保持器は、複数の転動体を1つずつ回転自在に保持する複数のポケットを有する保持器本体と、各ポケットの内面を一部突出させて形成された複数の突起とを備えており、保持器本体の表面には、少なくとも各ポケットの内面に形成された複数の突起を覆うように、撥水撥油膜が形成されている。
本発明において、前記撥水撥油膜は、保持器本体の表面に金属酸化物層を形成し、この金属酸化物層の表面に撥水撥油層を形成して構成されている。この場合、前記複数の突起は、各ポケットに転動体が保持された状態において、当該突起に対して転動体の表面が接触することにより、当該ポケットの内面と転動体の表面との接触面積を限定する。
本発明によれば、ポケット内周面と転動体(玉)の表面との間に作用する油膜の剪断抵抗を減少させると共に、軸受回転時における低トルク化による効果を長期に亘って一定に維持し続けることが可能な玉軸受用保持器を実現することができる。
(a)は、本発明の一実施の形態に係る玉軸受用保持器の構成を示す斜視図、(b)は、同図(a)に示された保持器のポケット周りの構成を一部拡大して示す図、(c)は、本発明の変形例に係る保持器のポケット周り構成を一部拡大して示す図、(d)は、保持器本体の表面に撥水撥油膜が形成された保持器において、ポケット周り構成を一部拡大して示す断面図。 (a)は、玉軸受の構成を一部拡大して示す断面図、(b)は、従来の玉軸受用保持器の構成を示す斜視図。
以下、本発明の一実施の形態に係る玉軸受用保持器について、添付図面を参照して説明する。
なお、本実施の形態は、図2(a),(b)に示された保持器8の改良であるため、以下では、改良部分の説明にとどめる。この場合、上記した保持器8(図2(a),(b))と同一の構成については、その構成に付された参照符号と同一の符号を本実施の形態に用いた図面上に付すことで、その説明を省略する。
図1(a),(b),(d)に示すように、本実施の形態に係る保持器8は、複数の転動体(玉)6(図2(a))を1つずつ回転自在に保持する複数のポケット8pを有する保持器本体8aと、各ポケット8pの内面Ps(ポケット内周面)を一部突出させて形成した複数の突起8tとを備えており、保持器本体8aの表面には、その全体に亘って撥水撥油膜8bが形成されている。
ここで、複数の突起8tは、ポケット内周面Psの複数箇所に所定間隔で点在させて構成されている。この場合、点在させる箇所や間隔については、例えばポケット内周面Psの面積や形状に応じて任意に設定されるため、ここでは特に限定しない。また、それぞれの突起8tの大きさや突出量については、例えばポケット内周面Psの広さと転動体(玉)6の大きさとの関係や、ポケット内周面Psと転動体(玉)6との隙間の程度により任意に設定されるため、ここでは特に限定しない。また、各突起8tの形状については、例えば断面矩形状、断面三角形状、断面円弧状など各種の形状に設定することができる。
要するに、複数の突起8tは、各ポケット8pに転動体(玉)6が保持された状態において、当該突起8tに対して転動体(玉)6の表面が接触することにより、当該ポケット内周面Psと転動体(玉)6の表面との接触面積を限定するように設定すればよい。即ち、これら複数の突起8tによれば、ポケット8pに保持された転動体(玉)6の表面が当該突起8tと接触することにより、ポケット内周面Psと転動体(玉)6の表面とが直接接触した場合に比べて、接触面積を少なくすることができる。
なお、保持器本体8aの材料としては、例えば市販されている一般的な合成樹脂材料や金属材料を適用することができる。
ここで、合成樹脂材料としては、例えばポリアミド系合成繊維や、ポリアミド系合成繊維を母材として繊維強化した合成樹脂材料を適用することができる。なお、ポリアミド系合成繊維としては、例えばアジピン酸とヘキサメチレンジアミンを重縮合させて作られるポリアミド系樹脂(PA66)や、当該PA66よりも耐熱性、耐摩耗性、耐衝撃性、耐油性に優れたポリアミド系樹脂(PA46)などを適用することができる。
一方、金属材料としては、例えば高炭素クロム鋼(SUJ2)、ステンレス鋼板(SUS304)などを適用することができる。
本実施の形態に係る保持器8は、上記したような合成樹脂材料や金属材料によって保持器本体8aを形成し、その保持器本体8aの表面に撥水撥油膜8bを形成して構成されている。ここで、撥水撥油膜8bは、保持器本体8aの表面に金属酸化物層を形成し、この金属酸化物層の表面に撥水撥油層を形成して構成されている。この場合、保持器本体8aの表面に撥水撥油膜8bを形成する方法としては、下記の成膜方法を適用すればよい。
かかる成膜方法では、水と少なくとも1種のアルコキシ金属塩とを必須成分とする第1の溶液と、pH11〜13のアルカリ性溶液である第2の溶液と、フッ素含有有機化合物を含む溶液である第3の溶液と、pH9〜14のアルカリ性溶液である第4の溶液とを用意する。そして、これら4つの溶液に対して、上記したような合成樹脂材料によって形成された保持器本体8aを順に接触させる。なお、pHとは、水素イオン指数又は水素イオン濃度指数を意味し、物質の酸性やアルカリ性の度合いを示す数値である。
即ち、保持器本体8aを第1の溶液に接触させた後、第2の溶液に接触させることにより、当該保持器本体8aの表面に金属酸化物層を形成する(第1の工程)。続いて、表面に金属酸化物層が形成された保持器本体8aを第3の溶液に接触させた後、第4の溶液に接触させることにより、金属酸化物層の表面に撥水撥油層を形成する(第2の工程)。
これにより、保持器本体8aの表面が撥水撥油膜8bによって被覆された保持器8(図1(a),(b),(d))を実現することができる。この場合、撥水撥油膜8bは、その耐熱性や耐油性に優れた特性を有しているため、かかる撥水撥油膜8bを保持器本体8aの表面に成膜して構成された保持器8では、ポケット内周面Psと転動体(玉)6の表面との間に作用する油膜の剪断抵抗を減少させることができると共に、これにより、軸受回転時における低トルク化による効果を長期に亘って一定に維持し続けることができる。
そして、上記した効果に加えて、ポケット内周面Psに複数の突起8tを形成したことにより、各ポケット8pに転動体(玉)6が保持された状態において、当該突起8tに対して転動体(玉)6の表面が接触することで、当該ポケット内周面Psと転動体(玉)6の表面との接触面積を限定することができる。即ち、これら複数の突起8tによれば、ポケット8pに保持された転動体(玉)6の表面が当該突起8tと接触することで、ポケット内周面Psと転動体(玉)6の表面とが直接接触した場合に比べて、接触面積を少なくすることができる。これにより、ポケット内周面Psと転動体(玉)6の表面と非接触部(即ち、ポケット内周面Psのうち突起8tが形成されていない部位と転動体(玉)6の表面との間)における撥水撥油膜8bが剥れ難くなり、その結果、軸受回転時における低トルク化による効果を長期に亘って一定に維持し続けることができる。
ここで、上記した4つの第1〜第4の溶液について、その具体的な内容について補足説明する。
上記した第1の溶液は、アルコキシ金属塩として、金属種がシリコン、チタン、若しくは、アルミニウムで、アルキル部分の炭素数が1〜6の低級アルキルであるテトラ(若しくは、トリ)アルキルアルコキシ金属塩、又は、テトラ(若しくは、トリ)ハロゲンアルコキシ金属塩を含有することが好ましい。
ハロゲンアルコキシ金属塩の場合は、ハロゲンとして塩素が好ましく、アルキル部分がメチル、エチル、プロピル、ブチル基であることが好ましく、アルコキシ金属塩の金属種としては、シリコン、チタン、アルミニウムが好ましい。
上記した第1及び第3の溶液は、炭素数1〜6の低級アルコールを更に含むことが好ましい。これにより、低級アルキル若しくはハロゲンを有するアルコキシ金属塩の溶解度を高め、より安定した溶液とすることが可能である。炭素数1〜6の低級アルコールとしては、メタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、ブタノール、ヘキサノール、シクロヘキサノール等が好適に使用することができる。より好ましくは、エタノールを用いればよい。
この場合、上記した第1及び第3の溶液のpHは、6以下であることが好ましい。このようにpHを6以下とすることで、アルコキシ金属塩の加水分解反応が促進され、被成膜部材表面(例えば、保持器本体8aの表面)に金属酸化物層が形成され易くなる。なお、好ましくはpH1〜6、より好ましくはpH1〜5、最も好ましくはpH2〜4とする。また、第1の溶液のpHの調整は、塩酸、硝酸、硫酸等の無機酸を用いて行うことが好ましい。特に、塩酸を用いることが好ましい。また、各種のpH緩衝液を用いてpHの安定化を図ることも好ましい。
また、上記した第1の溶液は、平均粒径が1nm以上200nm以下である金属酸化物微粒子を0.1以上5.0重量%以下の割合で含有することが好ましい。金属酸化物の金属種としては、シリコン、チタン、アルミニウムが使用できる。即ち、上記した第1の溶液は、平均粒径が1nm以上200nm以下であるシリカ、チタニア、又は、アルミナからなる微粒子を0.1以上5.0重量%以下の割合で含有することが好ましい。
また、金属酸化物微粒子を成す金属酸化物の金属種と、アルコキシ金属塩の金属種とは同じであることが特に好ましい。金属酸化物微粒子を上記した第1の溶液に添加しておくと、アルコキシ金属塩の酸化物が被成膜部材表面(例えば、保持器本体8aの表面)に生成すると共に、その被成膜部材表面に金属酸化物粒子が結合することで、金属酸化物層が密になる。また、形成された金属酸化物層の表面に微粒子に起因する凹凸が形成されて、表面積率が増大する。金属酸化物層の表面積率が増大すると、その上の層である撥水撥油層の表面積率も増大し、密な撥水撥油層が形成されることになるため、撥水撥油膜の撥水撥油性能が向上すると共に、撥水撥油膜が被成膜部材表面に対して強固に結合される。
ここで、金属酸化物微粒子の平均一次粒径は、好ましくは2nm以上100nm以下、より好ましくは2nm以上80nm以下、さらに好ましくは10nm以上50nm以下である。また、平均一次粒径が異なる金属酸化物微粒子を混合して使用することも可能である。平均一次粒径が1nm未満では、表面積率の増大効果が少なく、200nmを超えると、被成膜部材表面から脱落し易くなる。
また、金属酸化物微粒子の溶液中の含有率は、0.1以上3質量%以下とすることが好ましく、0.2質量%以上〜2.5質量%以下がさらに好ましい。金属酸化物微粒子の溶液中の含有率が0.1質量%未満では、金属酸化物層を密にする効果が少なく、5質量%を超えると、被成膜部材表面に金属酸化物の微粒子が重なった状態で堆積することになり、これに伴って微粒子が脱落することで撥水撥油膜に欠陥が生じ易くなる。
なお、金属酸化物微粒子の形状は、特に限定はなく、球形、矩形、扁平形、繊維状、ウイスカー状のもの等を使用できる。例えば、繊維状のものであれば、繊維の長さを1nm以上200nm以下とすることができる。また、異なる形状のものを混合して使用してもよい。また、平均一次粒径が1nm以上200nm以下であれば、多孔質のもの等を使用することも可能である。
また、金属酸化物の微粒子の表面は、各種の疎水化処理、親水化処理が施してあってもよいが、好ましくは、親水性表面であること、若しくは、化学的な表面処理がなされていないことが望ましい。
上記した第1の溶液の組成の一例を具体的に述べると、アルコキシ金属塩が1質量%以上10質量%以下、水が1質量%以上20質量%以下、アルコールが30質量%以上95質量%以下、金属酸化物の微粒子が0.1質量%以上5質量%以下であって、塩酸によりpHが6以下に調整されているものである。
この組成の第1の溶液は、特に、金属酸化物微粒子を含有させた場合には、塩酸以外の成分を予め混合し、金属酸化物微粒子が均一になるよう数十分〜数時間攪拌した後、最後に塩酸を用いてpH調整を行うことが好ましい。使用する水、塩酸とも純度の高いものが好ましい。
上記した第2及び第4の溶液は、アルカリ金属塩(水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等)の水溶液であることが好ましく、特に、水酸化ナトリウム水溶液であることが好ましい。また、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸水素ナトリウム等のアルカリ金属の炭酸塩等も使用できる。また、各種のpH緩衝剤を併用してもよい。また、必要に応じ、炭素数1〜6の低級アルキルアルコールと水との混合溶媒で作成してもよい。水及びこれらの成分は、純度が高いことが望ましい。
この場合、上記した第2及び第4の溶液のpHは、pH11以上pH13以下であることが好ましい。pHが11未満では、金属酸化物層の被成膜部材表面への結合、撥水撥油層の金属酸化物層への結合強度効果が少なく、pHが13以上であると、逆に結合を弱めてしまう虞がある。
上記した第3の溶液に含まれるフッ素含有有機化合物は、フッ素系界面活性剤、フッ素系カップリング剤、及び、フッ素系ポリマーのいずれか、若しくは、これらの混合物であることが好ましい。
また、上記した第3の溶液に含まれるフッ素含有有機化合物は、シリコン、チタン、又は、アルミニウムを含有するフッ素系カップリング剤であることが好ましい。更に、上記した第1の溶液で使用する金属酸化物の金属種、或いは、上記した第1の溶液で使用するアルコキシ金属塩の金属種と同じ金属種を有するものであることが好ましい。
具体的には、1H,1H,2H,2H,−パーフルオロデシルトリエトキシシラン、1H,1H,2H,2H,−パーフルオロデシルトリメトキシシラン、1H,1H,2H,2H,−パーフルオロデシルトリクロロシラン−3−ヘプタフルオロイソプロポキシプロピルトリクロロシラン、1H,1H,2H,2H,−パーフルオロドデシルトリエトキシシラン、3−トリフルオロアセトキシプロピルトリメトキシシラン等が使用できる。
また、本実施の形態の転がり軸受用保持器8において、被成膜部材表面(例えば、保持器本体8aの表面)に撥水撥油膜8bを形成する方法には、当該被成膜部材(保持器本体8a)を、シリコン、チタン、又はアルミニウムを含有するフッ素系カップリング剤と、水と、炭素数1〜6の低級アルコールとを含有し、pHが6以下である液体に接触させる工程と、この工程の後に、アルカリ金属塩を含有し、pHが11〜13である溶液に接触させる工程とが含まれる。
なお、かかる成膜方法が適用可能な被成膜部材としては、樹脂や金属を含む固体であれば特に制限はないが、被成膜部材表面が酸化物系の物質で覆われていることが好ましい。具体的には、無機系物質(金属含む)である。無機系材料の中でも、ガラス、セラミックスが好ましい。ガラスは、主成分がシリカであり、セラミックス、金属は、微視的に見れば最表面層酸化物層である。この中でも、ガラス、金属であることが好ましい。金属の中では、鉄系の金属が好ましい。中でも、軸受鋼、ステンレス鋼等の鉄鋼であることが好ましい。特に、不動態化処理を施されたステンレス鋼であることが好ましい。
また、上記した成膜方法では、平均表面粗さ(Ra)が0.001μm以上4μm以下である被成膜部材表面に対して上記した第1の工程を行うことが好ましい。また、表面積率が1.1以上の被成膜部材表面に対して上記した第1の工程を行うことが好ましい。これにより、平均表面粗さ(Ra)が0.001μm未満の場合、及び、表面積率が1.1未満の場合と比較して、形成された撥水撥油膜の撥水撥油性能を向上させることができる。また、上記した第1の溶液に金属の微粒子を含有させた場合は、上記したような表面性状の効果との相乗作用により、撥水撥油性能のより一層の向上が期待できる。なお、平均表面粗さ(Ra)が4μmRaを超えると、各種用途の部材としての適用範囲が限られる。
通常は、被成膜部材表面を上記した範囲とするために、機械加工、化学的加工、光学的加工等の各種加工方法を行うが、機械加工としては、研削、切削、プレス、バレル、ショットブラスト等が挙げられる。化学的加工としては、電解研磨、化学研磨、各種めっき、各種表面化処理などが挙げられる。光学的加工としては、フェムト秒レーザー等を使用することが可能である。また、これら加工を組み合わせてもよい。
また、表面積率は、幾何学的に求められる表面積と、表面の粗さ、うねりも含めて測定した表面積の比であり、いわゆる鏡面に近くなるほど1に近づき、表面に無数の微小な凹凸等がある場合は1を超える。なお、表面積率は、被成膜部材表面を走査型プローブ顕微鏡(SPM)や、SPMの一種である原子間力顕微鏡(AFM)で測定することにより求めることが可能である。
また、上記した成膜方法において、第1の工程で被成膜部材(保持器本体8a)を第1の溶液に接触させるが、その前に予め被成膜部材を洗浄すること等により、被成膜部材表面に付着している異物を除去しておくことが好ましい。
この場合、被成膜部材を第1の溶液に接触させる方法としては、浸漬法、スプレー法、スピンコート法等の一般的な手法が使用できる。浸漬法においては、被成膜部材表面の粗さの奥まで第1の溶液が行き渡るように、超音波を使用したり、溶液中で被成膜部材を動かしたり、或いは、大気圧よりも減圧する等の方法を併用することができる。また、特に第1の溶液に金属の微粒子が含まれている場合は、微粒子が溶液中に均一に分散するように、第1の溶液を攪拌しながら被成膜部材を浸漬することが好ましい。
第1の溶液と被成膜部材とを接触させている時間については、被成膜部材の形状、表面積等により適宜調整できる。また、第1の溶液と被成膜部材とを接触させる際の、第1の溶液の温度は、0℃以上100℃以下であって、接触処理中の変化が少ないことが好ましい。0℃を下回ると、第1の溶液の粘度が高くなり、被成膜部材表面の粗さの奥まで第1の溶液が行き渡り難くなる。100℃を超えると、第1の溶液の成分の蒸発が多くなり、成分比率が変化する虞がある。
被成膜部材(保持器本体8a)が金属である場合には、第1の溶液の温度を60℃とすることが好ましい。60℃を超えると、第1の溶液の化学的活性が高くなりすぎ、金属表面を腐食する虞がある。より好ましくは40℃以下である。また、被成膜部材が金属である場合には、第1の溶液との接触時間は、2時間以下とすることが好ましい。接触時間が2時間を超えると、金属表面が腐食される虞がある。接触時間の下限は特に規定されないが、第1の溶液を被成膜部材全面に行き渡らせるためには、少なくとも1秒以上であることが好ましい。
なお、被成膜部材表面の一部に撥水撥油膜を形成する場合には、成膜しない部分に予めマスクをしてから上記した成膜方法を実施すればよい。その場合のマスクとしては、各種のレジストが使用できる。
また、上記した成膜方法において、被成膜部材を第1の溶液に所定方法で所定時間接触させた後、速やかに、被成膜部材を第2の溶液に接触させることが好ましい。ここで、被成膜部材を第2の溶液に接触させる前に、被成膜部材表面に付着した液を取り除く工程を設けてもよい。付着した液を取り除く方法としては、遠心力を用いて液切りする方法、清浄エアーや不活性ガスを使用して液切りする方法等が使用できる。なお、被成膜部材表面に固形物を直接接触させる清拭等の方法は好ましくない。
また、被成膜部材を第2の溶液に接触させる方法、温度、時間等の接触条件は、上記した第1の溶液との接触の場合と同様である。
ここで、第2の溶液と接触させた後の被成膜部材を、速やかに、上記した第2の工程の最初の工程である第3の溶液と接触させてもよいが、第2の溶液との接触後に乾燥工程を設けることが好ましい。第2の溶液との接触により、被成膜部材表面に強固な金属酸化物層が形成されているため、一旦乾燥させることで、被成膜部材表面に金属酸化物層をより一層強固に固着させることができる。ただし、乾燥する前に、被成膜部材表面に付着した第2の溶液を取り除くことが好ましい。なお、付着した液を取り除く方法としては、アルコール等による洗浄、或いは、遠心力を用いて液切りする方法、清浄エアーや不活性ガスを使用して液切りする方法等が使用できる。また、これらの方法で、付着した液を取り除いた後、乾燥させるため、加熱することも可能である。好ましくは、50〜100℃程度の温度で数分から数時間保持する。
なお、被成膜部材は、上記した第2の溶液と接触させた後に、上記した第3の溶液と接触させる。この場合、第3の溶液との接触方法、温度、時間等の接触条件は、上記した第1の溶液との接触の場合と同様である。
また、被成膜部材は、上記した第3の溶液と接触させた後に、上記した第4の溶液と接触させる。この場合、第2の工程における第3の溶液及び第4の溶液との接触方法と、第3の溶液との接触から第4の溶液との接触への移行方法、温度、時間等の条件は、上記した第1の溶液との接触から上記した第2の溶液との接触への移行方法及び条件と同様である。
そして、被成膜部材を上記した第4の溶液と接触させることで、保持器本体8a上において金属酸化物層の表面に撥水撥油層が強固に形成された撥水撥油膜8bを有する保持器8(図1(a),(b),(d))を実現することができる。この後、液切り若しくは洗浄工程と、乾燥工程を行うことが好ましい。なお、これらの工程の具体的な方法、温度、時間等の条件は、第2の溶液との接触から第3の溶液との接触への移行方法及び条件と同様である。
なお、上記した実施の形態では、保持器本体8aの表面全体に亘って撥水撥油膜8bを形成する場合を想定して説明したが、これに代えて、各ポケット8pの内面Psにのみ撥水撥油膜8bを形成し、これにより当該ポケット内周面Psに形成された複数の突起8tを覆うようにしてもよい。少なくとも各ポケット内周面Psに形成された複数の突起8tを覆うように撥水撥油膜8bを形成することにより、上記した実施の形態と同様の効果を実現することができる。
また、上記した実施の形態では、例えば図1(b)に示すような一般的な冠形保持器8のポケット8pの形状を想定して説明したが、その変形例として、図1(c)に示すような形状のポケット8pを有する保持器8にも、上記した実施の形態の構成を適用することが可能である。図1(c)のポケット8pは、ポケット内周面Psに、開口Pkに向けて互いに平行に立ち上げられた平面部8hが形成されており、それぞれの平面部8hには、当該平面部8hを一部突出させて形成された複数の突起(図示しない)が設けられている。これにより、上記した実施の形態と同様の効果を実現することができるが、特に、本変形例では、ポケット内周面Psと転動体(玉)6の表面との間に作用する油膜の剪断抵抗を、上記した実施の形態に比して“より”減少させることができる。
また、上述した実施の形態では、冠形保持器8を想定したが、これに代えて、例えば波形プレス保持器やアンギュラ玉保持器など種々のタイプのものにも、上記した実施の形態の構成を適用することが可能であり、これにより、同様の効果を実現することができることは言うまでもない。
また、上述した実施の形態とは異なる成膜方法を採用してもよい。例えば、保持器本体8aの各部位のゴミや切削油等の不純物を十分に取り除いて清浄した後、図2(a)の玉軸受に封入される潤滑剤や軸受内部の雰囲気に対して揮発或いは溶解しない撥水撥油剤(例えば、上記した第1〜第4の溶液)を、当該保持器本体8aの各部位に塗布して十分に乾燥させる。なお、ここで使用する撥水撥油剤としては、玉軸受に封入される潤滑剤がフッ素系潤滑剤でない場合には、フッ素系撥水撥油剤を適用すればよい。
8 保持器
8a 保持器本体
8b 撥水撥油膜
8p ポケット
8t 突起
Ps ポケットの内面(ポケット内周面)

Claims (3)

  1. 軸受内部において複数の転動体を回転自在に保持しながら、これら複数の転動体と共に軸受内部に沿って公転する玉軸受用保持器であって、
    保持器は、複数の転動体を1つずつ回転自在に保持する複数のポケットを有する保持器本体と、各ポケットの内面を一部突出させて形成された複数の突起とを備えており、
    保持器本体の表面には、少なくとも各ポケットの内面に形成された複数の突起を覆うように、撥水撥油膜が形成されていることを特徴とする玉軸受用保持器。
  2. 前記撥水撥油膜は、保持器本体の表面に金属酸化物層を形成し、この金属酸化物層の表面に撥水撥油層を形成して構成されていることを特徴とする請求項1に記載の玉軸受用保持器。
  3. 前記複数の突起は、各ポケットに転動体が保持された状態において、当該突起に対して転動体の表面が接触することにより、当該ポケットの内面と転動体の表面との接触面積を限定することを特徴とする請求項1又は2に記載の玉軸受用保持器。
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