本発明は従来より広く世の中に普及しているいわゆるシリアルプリンタ型のインクジェット記録装置ではなく、印写部分を長尺化し、記録媒体の被印写幅をカバーする数のインク噴射ノズルを有するような液体噴射記録ヘッドユニットを固定し、その印写部分に記録媒体を搬送して印写を行ういわゆるページプリンタ型のインクジェット記録装置である。その代表例としてここでは、連続流型マルチノズルインクジェット記録装置の例を挙げて説明する。以下、図面を参照して本発明の好ましい実施形態について説明する。
図1は本発明における連続流型マルチノズルインクジェット記録装置構成の1例を模式的に示している。図中、10は連続流型液体噴射プリントヘッド、250は印写後記録媒体搬送ローラ、252は印写前記録媒体搬送ローラ、300は記録媒体、400はコントローラ、410はインプットされるデータ、412はプリントヘッドドライブ回路、414は記録媒体搬送制御回路、416はインク回収/再利用ユニット、418はインク供給ユニット、420は気体流加圧ユニット、422は気体流加圧制御回路、424はインク供給制御回路を示している。
この例では、連続流型液体噴射プリントヘッド10は記録媒体300の被記録幅をカバーする印写能力を有するように被記録幅方向に多数のノズルを有するものとし、連続流型液体噴射プリントヘッド10は固定し、記録媒体300をVpで示した矢印方向に搬送移動させることによって高速の印写を行うようにしたものである。
図2は、本発明の連続流型マルチノズルインクジェット記録装置の原理を説明するためにプリントヘッドの断面図を示したものである。図中、10は連続流型液体噴射プリントヘッド、11はプリントヘッドバックプレート、12はプリントヘッド液室マニホールド、14はノズルプレート、24はプリントヘッド支持体、42はインク流入口、50はノズル開口、60は加圧インク、87は回収インク、90は加圧気体流、91は気体供給マニホールド、92は気体供給路、93は気体噴射ノズルプレート、94は気体噴射ノズル開口、95は加圧気体流入口、96は気体流、97は気体供給マニホールドカバー、98は気体流供給ユニット、126は気体流によってさらにガター方向に偏向させられるインク滴、200はインク回収手段、202はインク回収路、204は多孔質部材、206はガター、208はインク回収吸引部、210は吸引された空気流、212はインク及び気体流吸引スロット、220はインク吸引マニホールド、300は記録媒体を示している。この図は断面図であるため、実際の構成においては、ノズル開口50がこの図の奥行き方向(紙面に対して垂直方向)に複数個配列されている。
この例では、インク流入口42からプリントヘッド液室マニホールド12内に導入された加圧インク60は、ノズル開口50より噴出し、後述する手段によりインク滴に分裂し、Vdの速度で飛翔する。このインク滴は、そのまま直進すると前方にある記録媒体300に衝突し、印写画像となる。
一方、直進しないで後述する手段によって、図の垂直方向(ノズル開口50が複数個配列されている方向)に偏向させられたインク滴は、気体噴射ノズル開口94からVgの速度で噴出される気体流96により、図の下方にさらに方向を変えるように作用を受け、インク及び気体流吸引スロット212、あるいはその先のガター206に捕獲、回収され、それが溜まったものが図の回収インク87である。
ここで、印写に使用されない偏向させられたインク滴は、気体噴射ノズル開口94からVgの速度で噴出される気体流96によりさらに方向を変えて、インク及び気体流吸引スロット212、あるいはその先のガター206の方向に向かうが、本発明のインク回収吸引部208では、吸引された空気流210を流す(吸引する)ことによって、より確実にインク回収を行うようにしている。
ここでインク液滴噴射のための条件を示す。本発明に好適に適用される連続流型インクジェット記録装置においては、加圧インク60は、0.2MPa〜1MPaの圧力でノズル開口50より噴出し、飛翔時のインク液滴の速度は、Vd=10m/s〜20m/sとされる。この圧力ならびに速度は、後述する熱パルスを加える周波数および1滴のインク液滴の直径Dにも関連し、一般にλd/D=4〜6となるように定めることによって良好な均一インク液滴が得られる。
図3は、本発明の1つのノズル開口50およびその周辺を正面(図2の右側)から見た図であり、図中、28はノズル右側ヒータ下アドレス電極、29はノズル左側ヒータ下アドレス電極、30はノズル左側ヒータ、36はノズル左側ヒータ上アドレス電極、37はノズル右側ヒータ上アドレス電極、38はノズル右側ヒータ、50はノズル開口である。図4はこのノズル開口50がSdnの間隔で複数個配列した例である。間隔Sdnは、最終的な印写密度に関連し、例えば、42.3μm〜10.6μm(印写密度600dpi〜2400dpi相当に対応)とされ、それに対応した開口サイズDdは、φ23μm〜φ5μmとされる。なおこの部分の奥行き(ノズル部厚さ)は、20μm〜5μmとされる。
このようなノズル開口50が複数個配列されたいわゆるマルチノズルプレートは、インク流入部となる共通のスロットから個別のノズル先端部分までSi基板等を利用し、異方性エッチング、等方性エッチング、湿式エッチング、ドライエッチング等の半導体プロセス技術を組み合わせて製作することができる。
また、ノズル開口出口部分の周辺に形成される上記ヒータやそれに接続されるアドレス電極も、蒸着、スパッタリング等の薄膜形成技術ならびにフォトリソ、エッチング技術を組み合わせて、窒化Ta、硼化Hf等の発熱材料による薄膜構造のヒータ/Al等の電極パターンとして形成できる。なお、最終的に形成されたノズル開口のインクの通り道や、ヒータ/電極表面は、インクに腐食されないようにするため、Si酸化物やSi窒化物の薄膜によって保護される。
図5は本発明に好適に適用される連続流型インクジェット記録装置の噴射ヘッドによってインク液滴を形成する原理を示したものであり、(a)は自然粒子化の状態、(b)は熱刺激を与えて粒子化を行った場合を示している。図中、14はノズルプレート、30はノズル左側ヒータ、38はノズル右側ヒータ、50はノズル開口、60は加圧インク、62はインク柱、64はインク柱の自然表面波、66は自然粒子化による不均一インク滴、70はインク柱の熱刺激後の表面波、76は熱刺激を受けたインク柱切断位置(BOLoはその時のインク柱切断長さ)、77は自然粒子化時のインク柱切断位置(BOLnはその時のインク柱切断長さ)、80は熱刺激を受けて粒子化された均一インク滴である。
図6はノズル開口50近傍のノズル左側ヒータ30およびノズル右側ヒータ38への駆動電圧パルスを加える方法を模式的に示したものである。図中POWERと示しているものは、便宜的に駆動電圧と理解されたい。図7はそれに対応したインク柱ならびにインク滴の偏向の様子を示したものであり、図中、120は直進インク、122はノズル左側ヒータ30側に偏向させられるインク滴、124はノズル右側ヒータ38側に偏向させられるインク滴を示している。
図6(a)は左右のヒータ30、38それぞれに同じ駆動パルスを与えたものであり、左右でインク柱の対称性はくずれることなく、熱刺激によって図5(b)の状態を作り出す。すなわち、図5(a)の自然粒子化のような不安定な状態ではなく、インク柱表面に定在波ができ、均一インク滴80が形成される。そしてそのインク柱ならびにインク滴は、左右の対称性がくずれず直進する。
この時の駆動パルスは、100kHz〜300kHz程度の頻度で加えられ、1パルスあたりの加熱エネルギーは0.1μJ〜10μJとされ、この熱駆動パルスの頻度に対応してインク液滴が形成される。つまり1ノズルあたり、1秒間に1×105〜3×105個のインク液滴が形成できる。
図6(b)はノズル右側ヒータ38に通常のエネルギーパルスPsより高いエネルギーパルスPdを加えている。これによりインク柱ならびにインク滴は、左右の対称性がくずれ、図7(a)に示すように、ノズル左側ヒータ30側に偏向させられる(122)。
図6(c)はノズル左側ヒータ30に通常のエネルギーパルスPsより高いエネルギーパルスPdを加えている。これによりインク柱ならびにインク滴は、左右の対称性がくずれ、図7(b)に示すように、ノズル右側ヒータ38側に偏向させられる(124)。
本発明においては上記のように、選択的に直進インク滴、偏向インク滴を形成できるが、次にこの直進インク滴および偏向インク滴を、印写滴および非印写滴とする手段について説明する。
図8は、図2を右側から見た状態の複数のノズル開口およびヒータならびに、気体噴射ノズル開口94から気体流96が噴出している様子を示している。なおインク柱及びインク滴は省略して示していない。
図のノズル開口から噴射されたインク柱は、上記説明のように熱刺激により、直進インク滴となったり、偏向インク滴となったりする。今ここで、偏向インク滴は飛行中に図8に示す気体流96の中を通る。それにより、偏向インク滴はさらに、図8のVg方向に方向を曲げられ、図2に示したインク及び気体流吸引スロット212、あるいはその先のガター206の方向に向かい、非印写滴、すなわち回収インクとなる。
一方、直進インク滴は、気体流96から外れたところを直進するので、気体流96の作用を受けることなくそのまま直進し、図2に示したガター206の上方を、ガター部材に接触しないように飛翔し、記録媒体300に衝突し、印写滴として使用され、印写が行われる。
以上の様子を図2を上から見下ろす状態で示したものが図9である。図中、82(黒丸)は直進インク滴(印写滴)、84(白抜け丸)は熱効果によって偏向させられたインク滴、86は熱効果によって偏向させられた後気体流によってさらにガター方向に偏向させられるインク滴を示している。なおこの例は、非印写滴は全て左側へ偏向させ(84)、それを気体流96によってガター206へ落として回収する場合を示している。
図10は本発明に好適に適用される連続流型インクジェット記録装置の他の例である。図8の場合は、ノズル開口50に対して気体噴射ノズル開口94を1対1に対応して設けていたが、図10の例は、気体噴射ノズル開口94は、ノズル開口50に対して1個おきに配置している。
前述のように本発明においては、左右のヒータにより、インク柱の対称性をどちらにもくずし、そして偏向させることができるため、この例のように例えば、ノズル開口50jのインク柱およびインク滴をノズル右側ヒータ38j側に偏向させ、ノズル開口50j+1のインク柱およびインク滴をノズル左側ヒータ38j+1側に偏向させれば、両者のインク滴は両インク滴列の間に作用させることのできる共通の気体噴射ノズル開口94(図10の中央の気体噴射ノズル開口)から噴出される気体流96(図10の中央の気体流)によって、ガター206へ落として回収することができる。
この場合の様子を図9にならって図2を上から見下ろす状態で示したものが図11である。図中、82(黒丸)は直進インク滴(印写滴)、84(白抜け丸)は熱効果によって偏向させられたインク滴、86は熱効果によって偏向させられた後気体流によってさらにガター方向に偏向させられるインク滴を示している。なおこの例は、図9の場合と違って、非印写滴は左側あるいは右側へ偏向させられ(84)、それを2本のインク滴列に共通に対応する1つの気体流96によってガター206へ落として回収するようにしている。
図12に示すのはさらに別の例である。この場合、ノズル開口50に対して気体噴射ノズル開口94を1対1に対応して設けるとともに、図8と違って、各ノズル(50j−1、50j、50j+1、50j+2、50j+3等)から直進するインク滴列の真上に対応する位置に、気体噴射ノズル開口94が配置されている(図8の場合は、各直進するインク滴列から半ピッチずれて、熱刺激によって偏向させられたインク滴の通り道の真上に対応する位置に、気体噴射ノズル開口94が配置されている)。
この場合は、直進インク滴が、気体流96によってガター方向に偏向させられ、回収されるとともに、熱刺激によって偏向させられるインク滴が気体流96の作用を受けることなく飛翔し、ガター206を飛び越えて記録媒体300に衝突し、印写滴として使用され、印写が行われる。
さらに他の例を説明する。以上の3例はいずれも、図6におけるヒータ駆動波形のパルス幅を一定にして図5(b)のように、熱刺激を受けて粒子化された均一インク滴80を形成して、その均一インク滴80を印写滴として使用したり、ガター206へ回収したりする例である。
これらの例とは違って、例えば図6のヒータ駆動波形のパルス幅あるいはそのパルス間隔を変えることにより、インク柱からインク液滴に切断されるインクの質量を変える、すなわちインク液滴の大きさ(質量)が異なるようにした複数のインク液滴を形成し、この大小、大きさの異なるインク液滴に気体流を当てることによってインク液滴を偏向させ、印写を行うことも可能である。すなわち、質量の小さいインク液滴は、気体流の影響を受けて大きく偏向し、質量の大きいインク液滴は、気体流の影響を受けにくく、あまり大きく偏向することなくほぼ直進状態を保つことができる。よって、小さいインク液滴は偏向させてガターへ回収するとともに、大きいインク液滴を被記録体300に衝突させて記録を行うことができる。
なおここで、質量の大きいインク液滴がほぼ直進状態を保つことができると記載したが、インク柱それ自身も、気体流の影響を少しは受けるので、微視的には偏向させられている。つまりこの例では、熱刺激によってインク柱は偏向させないが、気体流によって、インク柱は微視的には偏向させられている。
この場合、流す気体流は前述の3例の場合と同様に、ノズル開口50に対応した気体噴射ノズル開口94から流すことができる。一方で、この例の場合は、インク液滴の質量の大小で、気体流から受ける偏向量を変えるので、全てのインク液滴に共通の気体流を当てても、インク液滴の質量の大小で偏向量制御ができ、大きいインク液滴はほぼ直進させて印写に使用し、小さいインク液滴は大きく偏向させてガター回収させるという使い分けができる。よって、独立した気体噴射ノズル開口94としなくても、共通のスリット状の開口から、全てのインク滴に共通の気体流を当てるようにしてもよい。
以上、本発明による新規な連続流型マルチノズルインクジェット記録装置の印写の原理を4つの例を挙げて説明したが、次に本発明にさらに特徴的な構成について説明する。
本発明では上記いずれの原理であっても、印写滴/非印写滴(回収インク滴)を決定付ける重要な要素は、インク柱の対称性をくずすヒータによる加熱と、あるいは半ば強制的にガター206方向にインク滴を落とすように作用させる気体流96である。
とりわけ気体流96は、高精度に流れるようにし、印写に使用するインク滴の飛翔を妨げることなく、かつ非印写滴に確実に当たるように流す必要がある。
よって本発明で使用される気体噴射ノズル開口94は、インクを噴射するノズル開口50と同等なサイズで、かつ同等な精度で加工されたノズル形状とされる。よってこのような気体噴射ノズル開口94も、前述のようなインク噴射ノズルのノズル開口50をアレイ化したいわゆるマルチノズルプレートと製作と同様の技術によってSi基板等で製作することができる。そしてその大きさも前述の印写密度600dpi〜2400dpi相当を考慮した場合、開口サイズDgは、φ25μm〜φ8μmとされる。なおこの部分の奥行き(ノズル部厚さ)は、30μm〜5μmとされる。このような気体噴射ノズル開口94は、インク噴射ノズルのノズル開口50を複数個アレイ化して配列されているのと同様に、ノズル開口50のアレイ列と平行となる方向に複数個配列された構成をとる。
さらに重要なことは、高精度な形状を形成した後、安定して非印写滴に確実に当たるように気体を流すようにすることである。前述のように本発明の連続流型のインクジェット記録装置は、インク滴形成頻度が高く、高速印写、高速スループット、大量印刷に適した方式であるため、紙等に代表される記録媒体が高速に搬送され、紙のセルロース、コート材である炭酸カルシウム等の微粒子紛等の紙紛が絶えず舞っている状況において使用される。また、これら紙等の記録媒体から発生するセルロース、微粒子紛等の紙紛の他に、空気中には繊維状の異物や、粒子状の異物等が浮遊していて、本発明のような微細気体噴射ノズル開口94の周辺に付着しては、気体流の良好な噴射を乱す原因になる。
またこの領域は、微小なインク滴が常時飛翔している領域であり、インク中の水分が周囲の環境湿度を高めていることもあり、これらの異物がより凝集して大きくなりやすく、また気体噴射ノズル開口94の周辺に付着し易い状況を作り出している。
図13は、図2に示した気体噴射ノズル開口の近傍を拡大表示したものである。図中、94は気体噴射ノズル開口、100はセルロース、101は微粒子紛、102は繊維状の異物、103は粒子状の異物を模式的に示している。なおこれらは単独で浮遊していたり、互いに凝集して浮遊していたり、あるいは気体噴射ノズル開口94の周辺に付着していたりする。
このように気体噴射ノズル開口94の周辺に異物が付着して気体流の良好な噴射を乱した場合、気体流が的確にインク液滴に当たらず、非印写滴(回収インク)とすることができない場合、その不要なインク滴が記録媒体300に衝突、付着して、画質低下を引き起こす。
あるいは気体流の流れる方向が乱れ、その気体流が印写滴が良好に飛翔するのを妨げるように作用し、画質低下を引き起こすこともある。
さらには気体噴射ノズル開口94の開口そのものを完全閉塞にいたらしめ、気体流を噴射することすらできない状態を引き起こすこともある。そのような場合当然ではあるが、劣悪な画質になる。
このような気体噴射ノズル開口94は、常時そこから気体流が噴出していれば、このような異物が付着して、閉塞にいたらしめることは少ないと考えられるが、印写作業を停止して、気体流の噴出も停止している場合には、気体噴射ノズル開口94の開口部に異物が容易に付着する。
本発明はこのような状況を克服すべく、非印写時に気体噴射ノズル開口94を記録媒体の周辺雰囲気から遮蔽するようにしている。なお、独立した気体噴射ノズル開口94ではなく、前述のように共通のスリット状の開口の場合であっても、程度の差はあれ、異物付着の問題は発生するので、以下に説明する気体噴射ノズルキャップ手段110は同様に適用され、またその効果もある。
図14はその1例である。この例では複数個配列された気体噴射ノズル開口94と、同様に複数個配列されたインク噴射ノズルのノズル開口50とを同時に、耐薬品性の強いフッ素ゴム等よりなる気密維持弾性部材115を介して気体噴射ノズル/インク噴射ノズル共通キャップ手段114によって、セルロース、微粒子紛等の紙紛や、繊維状あるいは粒子状の異物等が浮遊している記録媒体の周辺雰囲気から遮蔽するようにしたものである。
図15はさらに別の例であり、この例は図14の構成に加えて、インク噴射ノズルキャップ手段112をさらに設けて、インク噴射ノズルのノズル開口50の目詰まり防止をより完全にしようというものである。
以上、気体噴射ノズル開口94の近傍を、記録媒体の周辺雰囲気から遮蔽するようにして、気体流96が高精度に流れるようにするための構成を説明したが、次に本発明に好適に適用される連続流型インクジェット記録装置に使用されるインクについて簡単に補足する。本発明に使用されるインクは、従来より知られている各種インクジェット用インクをそのまま使用することができる。
インクは通常、液媒体と印写像を形成する記録剤及び所望の特性を得るために添加される添加剤より構成され、液媒体及び添加剤の種類及び組成比を適宜選択しながら、その粘度が5×10―4〜3×10-2Pa・s(20℃)、表面張力が1×10-2〜6×10-2N/m(20℃)となるようなものとすれば、本発明のインク液滴形成の条件がほぼ満たされる。
本発明の連続流型のインクジェット記録装置は、従来の静電帯電装置(electrostatic charging devices)を用いる連続流型のインクジェット記録装置とはそのインク液滴形成の原理、あるいは偏向飛翔させる原理が異なるため、水溶性であったり、インクの導電性が必要であったりという制約はない。つまり、前述の粘度、あるいは表面張力を満たすものであれば、水性、非水性、溶解性、導電性、絶縁性のいずれのインクも好適に使用できる。
また紫外線硬化反応開始剤を入れた、いわゆるUVインク(紫外線硬化型インク)として知られるインクも好適に使用できる。このインクの場合、後述するような紫外線(UV)照射により、インクを瞬時に硬化させることができるので、本発明のように高速スループット能力を有する装置にとっては、好ましいインクである。
また、記録剤も所望の記録濃度が得られるように、インク中において、0.2wt%〜10wt%の範囲内とすれば、染料、顔料いずれも使用することができる。
なお以上は、高速に印写出力を行うページプリンタ型の記録装置の代表例として連続流型マルチノズルインクジェット記録装置を挙げて説明したが、本発明は必ずしもこの方式に限定されるものではない。先に特許文献1、2、3、4としてあげたドロップオンデマンド型のインクジェット記録装置においても同様に、記録媒体の被印写幅をカバーする数のインク噴射ノズルを配した液体噴射記録ヘッドユニットを構成することができ、そのヘッドユニットを固定し、その印写部分に記録媒体を搬送して印写を行うページプリンタ型のインクジェット記録装置も、連続流型ほど高速ではないが、やはり高速に印写出力を行うことが可能であり、本発明に好適に適用されるものである。
次に本発明のより特徴的な点について説明する。図16、図17は前述のような高速に印写出力を行うページプリンタ型の記録装置を利用して実際に印写するシステムの1例を示したものである。
図中、301は印写手段、302は搬送手段、310は印写後記録媒体保管手段を示している。印写手段301は、例えば図2に示した連続流型液体噴射プリントヘッド10のような原理の噴射ヘッドで記録媒体300の印写幅をカバーするように2000〜12000個のノズル配列を行ったり、あるいは小型の連続流型液体噴射プリントヘッド10を複数個配列して、記録媒体300の印写幅をカバーするようにしてそのような数のノズル数が得られるようにし、印写ヘッドユニットは固定し、記録媒体を移動させて印写を行うようにしたものである。
通常そのような印写ヘッドユニットは、イエロー、マゼンタ、シアンならびにブラックの4色を噴射するように、4セット設けられる。あるいはより高画質印写を狙って、マゼンタやシアンの濃いインクあるいは淡いインクを追加したり、必要に応じて他の色のインクを噴射するように印写ヘッドユニットは増やすことも行われ、インクの数に応じて6セット〜10セットとすることもある。
印写された記録媒体300(図17の一点差線で示す)は、切断前搬送ローラ304および切断後搬送ローラ305で駆動され、図中の矢印方向に移動する搬送ベルト303によって搬送される帯状の連続体の状態で搬送される。途中、乾燥手段306によって乾燥させられたり、カット手段309によって、帯状の連続体の状態から1枚ずつのカットされた状態となる。
なおここでは、記録媒体300は印写前に印写手段301の内部あるいは外部にロール状に保管されており、帯状の連続体の状態で搬送され、印写後にカットされる例を挙げたが、必ずしもこのように、ロール状保管、帯状の連続体の記録媒体300に限定されるものではない。
例えば印写前からカット紙状態でカセットに保管され、1枚ずつピックアップローラによって取り出され、印写部分に搬送するという形態であってもよく、その場合は、記録媒体300の搬送がやや遅くなり、高速印写(高速スループット)という面からは不利になる。しかしカット手段309は不要となり、構成が簡単になるという利点もある。
本発明のように高速印写(高速スループット)が可能であるという特徴を最大限に利用するには、帯状の連続体の記録媒体300の方が、カット紙を1枚ずつピックアップローラによって取り出して搬送するより高速に搬送できるため、記録媒体300の印写幅をカバーするようにしてそのような数のノズル数が得られるようにし、印写ヘッドユニットは固定し、記録媒体を移動させて印写を行うという本発明の印写手段301の印写能力(高速スループット能力)を最大限に活かすには、記録媒体300をロール状保管、帯状の連続体の状態で印写部分に搬送するという形態に分がある。
なお、乾燥手段306としてヒータ307とファン308の組み合わせによる温風を印写されたインク表面に送風する例を示したが、必ずしもこの手段に限定されるものではなく、熱輻射を利用したり、誘電加熱を利用するものであってもよい。また乾燥手段306の配置位置も図のようにカット手段309によって切断される前の位置に限定されるものではなく、切断の前後に置いてもよい。あるいはカット手段309も含めた搬送手段302全体を覆うようなカバー構成とし、このカバー内全体に高温空気を流し、高温雰囲気とした乾燥手段としてもよい。
さらに、前述のようにUVインク(紫外線硬化型インク)を使用する場合には、乾燥手段306として、発光波長ピークが350〜420nmであり、かつ、前記被記録媒体表面での最高照度が10〜1,000mW/cm2となる紫外線を発生する発光ダイオード(LED)あるいはレーザーダイオード(LD)等の紫外線(UV)照射光源を使用して、インクを瞬時に硬化させることができる。また、紫外LED及び紫外LDを使用することもできる。
さらに他の活性エネルギー源としては、水銀ランプやメタルハライドランプ、ガス・固体レーザー等を用いてもよい。
これらの乾燥手段、硬化手段は単独で使用するのみならず、複数個あるいは複数種類の手段を組み合わせて、より効果的に、すばやくインク乾燥させることが望ましい。
また搬送手段302は、図のような一方向に搬送される構成に限定されるものではなく、乾燥が充分に行えるように、搬送時間あるいは搬送距離を長くして搬送経路を折り返したり、曲げたりしてもよい。
カット手段309は図では矢印方向(上下)にカッターが移動する例で示したが、これも必ずしもこのようにして切断しなければならないということではなく、記録媒体300の進行方向を横切るようにナイフ状のカッターを走査させて切断してもよい。
図18、図19に切断前後の記録媒体300を示した。印写手段301から図18に示したような例えば幅297mmの連続帯状で印刷されて出てきて、搬送ベルト303によって搬送される途中で、カット手段309によって図19に示すように、A4サイズ(210mm×297mm)の印刷物にカットされる様子を模式的に示したものである。
図20(a)、(b)は、印写後記録媒体保管手段310の構造を示している。搬送手段302から搬送されてきた1枚ずつにカットされた印写後の記録媒体300が、印写後記録媒体保管手段310に搬送されたことを検出する、例えば、フォトインタ−ラプタから構成される入ロセンサ311と、記録媒体300を収容トレイ317方向へ搬送する保管手段搬送ローラ312と、記録媒体300を収容トレイ317方向へ或いは割込みトレイ313方向へ切り換えて排出する切換ガイド板314と、該切換ガイド板314近傍に設けられた出口センサ(発光)315a、トレイセンサ(発光)316aと、該センサ315a、316aに対向して印写後記録媒体保管手段310の上部に設けられた出口センサ(受光)315b、トレイセンサ(受光)316bと、収容トレイ317の数(ここでは10)に対応した数だけ設置され、各収容トレイ317の入口まで従動ガイド板318に沿って記録媒体300を把持した状態で搬送する従動コロ319と、排出ロ−ラ320とから構成されている。さらに図20(b)に示すように、矢印で示した記録媒体進行方向、即ち下方向から搬送されてきた記録媒体300を所望の収容トレイ317に対して排出するために変移する偏向爪321とを有する。
図21および図22は、印写後記録媒体保管手段310の収容トレイ317の動作を説明するための図である。図21(a)は、上記説明のように、1枚ずつカットされた印写後の記録媒体300が収容トレイ317に保管された状態を上から見下ろした状態の図である。この例では収容トレイ317が10段として説明しているので、印写後の記録媒体300も、10枚である。
収容トレイ317は、図21(b)に示すように、記録媒体300を積層、保持する支持するアームが必要に応じて矢印方向に移動させることができるようになっている。図21(a)、(b)の状態は、両アームの間隔が狭く、記録媒体300を支持できる状態である。図21(c)の状態は、両アームの間隔を広くし、記録媒体300の保持をはずした状態であり、この場合、支持されていた10枚の記録媒体300は、下にある割込みトレイ313に落ちるようになっている。
図22でより詳しく説明する。偏向爪321で各収容トレイ317のそれぞれに振り分けられて保管されたカットされた印写後の記録媒体300は、図22(a)に示すように、各収容トレイ317によって、互いに接触しないように保管される。つまり、各印写後の記録媒体300の間には空気層間隙が存在する状態で各収容トレイ317に保管される。図22は、図21に示した収容トレイ317を左側からみた図を模式的に示したものであり、図を描く都合上、寸法(縮尺)は一致していない(ただし、段数は図20と同じ10段である)。
前述の乾燥手段306、あるいは後述するこの印写後記録媒体保管手段310に設けられた乾燥手段等によって、印写後の記録媒体300の印写面のインクが乾き、互いに接触させても、裏写りなどが起きない状態になった場合、図22(b)に示すように、収容トレイ317の両アームの間隔を広げ、10枚の記録媒体300は、下にある割込みトレイ313に落ち、互いに接触して(空気層がない状態で)積層保管できるようになる。
次に本発明のより特徴的な点について説明する。前述のように本発明は高速に印写出力を行うページプリンタ型の記録装置である。
例えば、本発明に適用される液体噴射記録ヘッドユニットは、前述のような連続流型マルチノズルインクジェット記録装置にしろ、ドロップオンデマンド型のインクジェット記録装置にしろ、インク噴射ノズルを記録媒体の被印写幅をカバーする数だけ配置し、液体噴射記録ヘッドユニットを固定し、記録媒体を搬送させて印写するといった構成をとる場合、A4サイズ換算で、少なく見積もっても1分間に50枚程度、多く見積もった場合最大1分間に3000枚程度印写することが可能である。言い換えるならば、その程度の枚数の記録媒体をインク滴で埋め尽くすインク滴形成能力(1個のノズルのインク滴形成頻度×ノズル数)があるということである。
なおここでいう枚数は、A4サイズ換算ということであり、実際にA4サイズのカット紙状態の枚数がA4サイズで最大3000枚得られるということではなく、図18のようなカット前の帯状記録媒体でそれだけの印写能力を有するという意味であり、実際にカット紙状態になった場合、カット手段309で切断するプロセスがあるため、1分間あたり得られる印写枚数はそれより少なくなる。
ここで解決しなければならない問題として挙げられるのは、印写後のインク乾燥が充分ではない状態で次の印写物が重なって、未乾燥インク部分の画質劣化が生じる点ならびに未乾燥インクが次の印写物の裏面を汚す点である。これらは充分に乾燥がすんでから次の印写が行われ、乾燥した印写物を重ね合せるのであれば何ら問題として挙がらない。しかしながら本発明は前述のように高速に印写出力を行う能力を有するページプリンタ型の記録装置であり、この高速印写出力の能力を犠牲にして、未乾燥インクが乾燥するのを待って、次の印写を行う、つまり低速印写出力を行うのはもったいない話である。
本発明ではこの点に鑑み、図16、図17に示した本発明は、印写手段301によって印写された印写後の記録媒体300その搬送手段302で搬送される間に乾燥手段306によって充分に乾燥させることができるようにその搬送経路を長くしている。また、印写後記録媒体保管手段310に設けられた収容トレイ317の段数を多くし、印写物を重ね合せた場合に未乾燥インクによって裏面に未乾燥インクが付着したりしないようにしている。
つまり本発明に適用される液体噴射記録ヘッドユニットは、記録媒体の1枚分を印写する(記録媒体をインク滴で埋め尽くす)時間が速い液滴形成能力を持つものであり、その能力がややもすると、印写後の記録媒体の1枚分のインク乾燥時間より速い場合があるため、図16、図17に示したようなシステム全体を考えた場合、印写物を重ね合せた場合に未乾燥インクによって裏面に未乾燥インクが付着したりしないようにする必要がある。
本発明ではこの点に鑑み、1枚分を印写する時間が印写後の乾燥時間より速い能力をもつ液滴形成、噴射、印写能力を有するような、高速に印写出力を行うページプリンタ型の記録装置において、印写後記録媒体保管手段310の収容トレイ317の数(段数)を、単位時間あたりに印写できる枚数と、印写後の被印写面の乾燥時間を考慮して決めている。ここで、印写後の被印写面の乾燥時間は、搬送経路の長さや、その間に乾燥させるための乾燥手段306の乾燥能力も考慮して複数個の収容トレイ317の段数を決めて、各印写後の記録媒体300の間に空気層間隙が存在する状態で各収容トレイ317に保管するようにしている。
具体的には、例えば今、収容トレイ317の段数をN、カット前の記録媒体300のカット後の1枚分に相当する領域を印写する時間をtp(s)、その1枚分の印写後の乾燥時間をtd(s)とする時、印写後記録媒体保管手段310の収容トレイ317の段数Nを、N>td/tpの関係を満たすように積層保持できるようにすればよい。ここでNは2以上の自然数である。なおその上限は、これは図16、図17に示したようなシステム全体の構成レイアウトにも依存するが、最大1000程度である。
言い換えるならば、連続して印写動作を行う場合に、最初の1枚目が印写され、インクが付着しない程度に乾燥がすむまで、2枚目以降は最初の1枚目の印写面に接触しないように、収容トレイ317によって次から次へと分離積層した状態で積み上げられるような段数に収容トレイ317の段数を決めているのである。
1例を挙げる。今、1分間に1000枚印写できる前述のような連続流型マルチノズルインクジェット記録装置を液体噴射記録ヘッドユニットとして使用した場合、1枚印写するのに要する時間tp(s)は、0.06sである。そしてこの1枚の印写終了後の乾燥時間td(s)を5sとすると、N>td/tp=5/0.06≒83.3となり、最初の1枚目が乾燥するまでに83.3枚の印写が行われるため、収容トレイ317の段数Nを84段以上としておけば、偏向爪321で収容トレイ317の最初に1枚目に85枚目の印写物が重なるように振り分けても、最初の1枚目の未乾燥インクによって、85枚目の裏面が汚れることはない。
本発明では、印写スピード(印写物スループット)が速いため、収容トレイ317の段数Nも、50段〜1000段となるため、収容トレイ317を構成する部材はできるだけ薄く形成する必要がある。しかしながら本発明においては前述のように、印写後の記録媒体300は、図22(a)に示すように、各印写後の記録媒体300の間には空気層間隙が存在する状態で各収容トレイ317に保管される。そしてその間隙には後述するように、乾燥をより効率的に行えるように空気流を流すようにしている。よって一般的には、この空気層間隙も含めて収容トレイ317の1段分の厚さは10mm〜30mm程度とされる。
なお、図16、図17、図20、図22に示した印写後記録媒体保管手段310は、1個で収容トレイ317の積層段数をN段(最大1000段)とした構成で説明したが、Nの数が大きくなると、高さ方向に高くなり、人間の身長を超えた高さになったりして、扱いが不便になることがある。
よって、この印写後記録媒体保管手段310を、2個あるいはそれ以上の複数個の分割された印写後記録媒体保管手段310とし、その複数個の印写後記録媒体保管手段310を平面的に配列形成、配置してもよい。その場合、印写後の記録媒体300を、それぞれ複数個の印写後記録媒体保管手段310に振り分ける機構を、別途、設ける必要があるが、収容トレイ317の積層段数を少なくし、人間工学的に扱いやすい適度な高さ(例えば床から1.5mくらいまでの高さ)とすることができるため、そのメリットは大きい。
この場合も2個あるいは複数個に分割する場合、最大でも10個程度にとどめておくのがよい。なぜならあまりに数を増やしすぎると、印写後の記録媒体300を、各印写後記録媒体保管手段310への振り分け機構が大がかりになったり、複数個の印写後記録媒体保管手段310が床面積を多くとりすぎ、別の意味で、扱いが不便になったり、装置構成上の不経済性が出てくるからである。
本発明では図22に示すように、印写後の記録媒体300は、水平方向にほぼ平らな状態で「積層」されるが、必ずしも水平方向にほぼ平らな状態で「積層」される必要はない。図16、図17、図20、図22に示した印写後記録媒体保管手段310のように、収容トレイ317が傾斜した状態で「積層」される場合もある。
また図示しないが、印写後の記録媒体300を垂直方向に立てた状態で、空気層を介して複数枚配列するような仕切り部材を収容トレイ317に代わって配置する構成の印写後記録媒体保管手段としてもよい。この場合は、「積層」、つまり「積む」という概念はないが、そのような構成であっても、本発明では「積層」と表現する。
次に、本発明の他の特徴について説明する。本発明に使用する記録媒体の代表例は例えば紙である。オーソドックスな紙の定義では“紙とは植物繊維を水中に懸濁させた後、水を漉して、薄く平らに絡み合わせたもの”であるが、要は、草、木、竹等に代表される植物を分解して得られる繊維の集合体である。そして、洋紙・和紙を問わず紙の原料はセルロース繊維という特徴的な性質を有する素材であり、これを製紙技術という独特の手法で処理し薄層化することで紙が得られる。
ここで用いるセルロース繊維は、洋紙の場合、長さ1mm〜3mm、幅20μm〜40μm、厚さ3μm〜6μmの木材繊維で、一般の紙では、これが10〜100本程度層状に重なって出来上がっている。このような構成をとることによって、紙は極めて多孔性で、セルロース繊維の持つ高い親和性を持った平滑な材料という特質が得られる。和紙は同じセルロース繊維を用いた紙であるが、木材繊維と違って靭皮繊維と称する木材繊維より比較的細長い繊維(幅5μm〜20μm、長さ3mm〜7mm)で、分子構造的にもやや違った特徴を持っており、手抄きまたは機械抄き和紙とに区別される。紙はこのようにセルロース繊維が重なり合ってなり、また各繊維が重なり合ってできる間隙が存在する。
紙の定義は前述の通りであるが、単にセルロース繊維が重なり合ってなる紙は、いわば原紙であり、実際に使用されるものは、不透明度、白色度、平滑度、透気度などを高めるために、これらの繊維の間に、タルク、クレー、炭酸カルシウム、二酸化チタンなど粒子径0.2μm〜10μm程度のてん料粒子を繊維間の間隙に充てんしたものである。
本発明で使用する記録媒体は、この原紙、あるいは繊維の間に、タルク、クレー、炭酸カルシウム、二酸化チタンなどを充填してなる基材の記録液体付着面(紙表面)にカオリン(Al2O3・2SiO2・2H2O)、炭酸カルシウム(CaCO3)、サチンホワイト(3CaO・Al2O3・3CaSO4・31〜32H2O)などの粒子径が0.5μm〜1μm程度の微粒子材料をラテックス、デンプンなどのバインダーとともに分散させた塗工液でコートした記録媒体である。本発明でいう微粒子材料とはこれらの材料をさし、基材である原紙の表面に付与され、インク吸収性能を持つようにしている。
以上は記録媒体の1つであるオーソドックスな紙の説明であるが、OHPシートのように、ポリエチレンフィルム等の樹脂シートを基材として、上記のようなカオリン(Al2O3・2SiO2・2H2O)、炭酸カルシウム(CaCO3)、サチンホワイト(3CaO・Al2O3・3CaSO4・31〜32H2O)などの粒子径が0.5μm〜1μm程度の粒子をラテックス、デンプンなどのバインダーとともに分散させた塗工液をコートしたものを、記録媒体としたものも好適に使用される。
また、いわゆる合成紙と呼ばれる合成樹脂を主原料として製造された紙を基材とし、その表面に上記のようなカオリン(Al2O3・2SiO2・2H2O)、炭酸カルシウム(CaCO3)、サチンホワイト(3CaO・Al2O3・3CaSO4・31〜32H2O)などの粒子径が0.5μm〜1μm程度の粒子をラテックス、デンプンなどのバインダーとともに分散させた塗工液をコートしたものを、記録媒体としたものも好適に使用される。
いずれにしろこのような記録媒体は、本発明のように高速に印写出力を行う能力を有するページプリンタ型の記録装置に好適に使用できるように、インク吸収性ならびに乾燥を速めるために上記のような微粒子材料を記録液体付着面にコートしてなるものである。
次に、本発明のさらに他の特徴について説明する。本発明の特徴である高速印写出力能力を有するページプリンタ型の記録装置には、上記のような記録媒体は大変有効ではあるが、この能力をより効果的に活用するためには、記録媒体上におけるインクのさらなる高速乾燥が望まれる。
本発明ではこの点に鑑み、記録媒体上におけるインク色材の浸透、乾燥に加えて、インクが付着後、インク中の染料あるいは顔料の色材が記録媒体上ですぐに不溶化、固化して、インク画素がにじんだり広がったりしないようにし、インクの乾燥を促進できる技術を検討した。
具体的には、例えば塩基性ポリマーを有する液体を記録媒体上に付与したり、あるいは1分子あたり2個以上のカチオン性基を有する有機化合物を含有する液体を記録媒体上に付与したりした後、アニオン性染料等を含有するインクによって記録を行うようにすることによって実現できる。他にコハク酸を含有した酸性液体を付着させたり、ノニオン性物質を含有する液体組成物を事前に付与しても同様に、インク中の色材を不溶化し、記録媒体上で画素が必要以上に広がったり、にじんだりしないようにするのに効果的である。
このような記録液体(インク)固化材料(処理液)は、上記のような基材ならびに記録液体付着面よりなる記録媒体にあらかじめ塗布(コート)された記録媒体として準備しておいて使用してもよいし、あるいは印写直前に、ローラコート部材等の記録液体固化材料付与手段によって、印写される面に塗布してもよい。またこの付与手段として、本発明のインクジェット原理を利用するのもよい方法である。つまり、このような処理液を噴射付与するヘッドユニットをインク噴射ヘッドユニットの隣に配置し、インクで印写する前にこの処理液を噴射付与するようにすればよい。
いずれにしろ本発明においては、このような記録液体固化材料をコートした記録媒体を使用することにより、記録媒体上で画素が必要以上に広がったり、にじんだりしないようにするとともにインクの乾燥を促進でき、本発明の記録装置の高速印写能力をより効果的に引き出すことが可能となる。
次に本発明のさらに他の特徴について説明する。前述のように本発明では、印写後記録媒体保管手段310の収容トレイ317の段数Nを、本発明の液体噴射記録ヘッドユニットが単位時間あたりに印写できる枚数と、印写後の被印写面の乾燥時間を考慮して決めている。そして1例としてこの段数Nが84段の例を説明したが、装置をコンパクトにするためには、この段数Nが少ないほど好ましい。それには前述のように、N>td/tpの関係から、1枚の印写終了後の乾燥時間td(s)をできるかぎり短くすればよい。
そのような観点から本発明では前述のように記録媒体に工夫を施したり、印写後搬送時に乾燥される時間を長く取るために搬送経路を長くしたりしているが、ここではさらに別の手段について説明する。
前述のように本発明の印写後記録媒体保管手段310においては、印写後の記録媒体300は、図22(a)に示すように、各印写後の記録媒体300の間には空気層間隙が存在する状態で各収容トレイ317に保管される。それはその間隙に印写面のインクの乾燥をより効率的に行えるように空気流を流すためである。
好ましくは、印写後記録媒体保管手段310全体はハウジング構造で覆われ、流す空気流がこの各印写後の記録媒体300の間の間隙に流れ、他に逃げて効率低下が生じないようにされる。
さらにより好ましくは、印写後の記録媒体の温度より高い温度の空気流とされる。具体的には、図16、図17に示した乾燥手段306のように、ヒータとファンの組み合わせによって作られる50℃〜100℃の温風を、各印写後の記録媒体300の間の間隙に流すようにする。
なおこの場合においても、インク水分の内部から加熱できる誘電加熱手段を併用するとさらに効率よく乾燥を行うことが可能である。