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JP2010166936A - ステント - Google Patents

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JP2010166936A JP2007279718A JP2007279718A JP2010166936A JP 2010166936 A JP2010166936 A JP 2010166936A JP 2007279718 A JP2007279718 A JP 2007279718A JP 2007279718 A JP2007279718 A JP 2007279718A JP 2010166936 A JP2010166936 A JP 2010166936A
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拓司 西出
Kohei Fukaya
浩平 深谷
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良二 中野
Masashi Kawazu
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Abstract

【課題】ステント留置術によって狭窄部分に生じた物理的な損傷の修復反応を抑制するだけでなく、ステントに用いられる生分解性高分子の分解による炎症反応を最小限に抑制することで、慢性期においても再狭窄を抑制可能で且つステント血栓症などの重篤な副作用を生じないステントを容易に提供することである。
【解決手段】生体内で実質的に非分解性の材料をステント基材とするステントであって、前記ステントは、前記ステント基材表面の少なくとも一部に薬剤と生分解性高分子を含むコーティング層を有しており、前記ステントを血管内に留置した場合に、(a)少なくとも90日以上にわたって薬剤がコーティング層中に存在する、(b)少なくとも270日後には生分解性高分子がコーティング層中に存在しない、ことを特徴とする。
【選択図】なし

Description

本発明は血管の狭窄部分を拡張し、その状態を維持することを目的として留置されるステントに関する。
体内で血液が循環するための流路である血管に狭窄が生じ、血液の循環が滞ることにより、様々な疾患が発生することが知られている。特に血液の循環の源である心臓自身に血液を供給する冠状動脈に狭窄が生じると、狭心症、心筋梗塞等の重篤な疾病をもたらし、死に至る危険性が極めて高いことが知られている。このような血管の狭窄部分を治療する方法のひとつとして、バルーンカテーテルを用いて狭窄部分を拡張させる血管形成術(PTA、PTCA)があり、バイパス手術のような開胸術を必要としない低侵襲療法であることから広く行われている。しかし、血管形成術の場合、約40%の頻度で拡張した狭窄部分に再狭窄が生じ、大きな問題として指摘されている。再狭窄が発生する頻度(再狭窄率)を低減する治療法として、血管形成術に代わってステント留置術が広く行われている。
ステントは、血管、胆管、尿道などの生体内管腔が狭窄した場合に、狭窄部位を拡張し、その状態を維持することを目的として留置される医療用具である。一般的に、ステントは金属や高分子、あるいはそれらの複合体から構成され、最も一般的には、SUS316鋼、Co−Cr系合金、Ni−Ti系合金などの金属から構成される。
ステントの拡張機構は、ステント自体の形状記憶性や超弾性により拡張する自己拡張型とバルーンカテーテルにより拡張されるバルーン拡張型に大別される。冠状動脈狭窄部の治療には主にバルーン拡張型が使用される。
バルーン拡張型ステントにより冠状動脈の狭窄部分を治療する場合、ステントはバルーンカテーテルに保持された状態で挿入され、拡張される。ステント留置術後の再狭窄率は約20%から30%程度である。バルーンカテーテルのみによる血管形成術後と比べて有意に低減されているものの、依然として再狭窄は高い頻度で生じている。
ステントの留置により狭窄部分には物理的な損傷が生じる。この損傷の修復反応として生じる過度の新生内膜の肥厚がステント留置術後の再狭窄の原因とされている。新生内膜の肥厚は、血管中膜における平滑筋細胞の増殖、増殖した平滑筋細胞の内膜への遊走、T細胞やマクロファージの内膜への遊走等により生じる。
近年、特許文献1に示すようにステント留置術後の再狭窄率低減を目的として、各種の高分子を用いてステントに薬剤を被覆する技術が開示されている。薬剤を被覆したステントは薬剤コーティングステントと称され、抗凝固薬、抗血小板薬、抗菌薬、抗腫瘍薬、抗微生物薬、抗炎症薬、抗物質代謝薬、免疫抑制剤等の多数の適応が検討されている。免疫抑制剤に関して例を挙げると、シクロスポリン、タクロリムス(FK506)、シロリムス(ラパマイシン)、マイコフェノレートモフェチル、およびそれらのアナログ(エバロリムス、ABT−578、CCI−779、AP23573等)をステントに被覆し、再狭窄を低減する試みが提案されている。これらの薬剤コーティングステントを冠状動脈の狭窄部分に留置することで、ステントが隣接する冠状動脈組織中の薬剤量が高まり、結果として再狭窄が抑制される。
例えば特許文献2では免疫抑制剤で知られるシロリムス(ラパマイシン)を被覆したステントが開示され、例えば特許文献3では抗腫瘍薬であるタキソール(パクリタキセル)を被覆したステントが開示されている。さらに、例えばまた、特許文献4および特許文献5ではタクロリムス(FK506)を被覆したステントが開示されている。
タクロリムス(FK506)はCAS番号104987−11−3の化合物であり、例えば特許文献6で開示されている。タクロリムス(FK506)は細胞内のFK506結合蛋白(FKBP)と複合体を形成して、主として分化・増殖因子であるIL−2やINF−γなどのサイトカインのT細胞からの産生を阻害することが示されている。従って、臓器移植時の拒絶反応や自己免疫疾患の予防薬または治療薬として使用されている。また、非特許文献1には、タクロリムス(FK506)はヒト血管平滑筋細胞に対する抗増殖活性を有することが確認されている(非特許文献1)。
ステントに薬剤を保持する方法として、特許文献1では高分子を用いて薬剤を担持することが開示されており、生分解性高分子を用いることも開示されている。特許文献7にも生分解性高分子を用いることが開示され、ポリ乳酸等の高分子が具体的に例示されている。
非特許文献2において、生体内で分解しない高分子を用いてシロリムスやパクリタキセルを被覆したステントをこれらの高分子に対する過敏性を有する患者に留置した場合、慢性期においてステント血栓症のような重篤な副作用が生じることが報告されている。
非特許文献3において、新生内膜の肥厚は、薬剤コーティングステントの留置後3ヶ月程度から顕著になり、6ヶ月程度までは少なくとも継続することが示唆されている。
特表平5−502179号公報 特開平6−009390号公報 特表平9−503488号公報 国際公報第WO02/065947号公報 欧州特許出願公開第EP1254674号公報 特開昭61−148181号公報 特表2002−531183号公報 Paul J. Mohacsi MD, et al. The Journal of Heart and Lung Transplantation May 1997 Vol.16, No.5, 484-491 Jonathan R. Nebeker, et al. J Am Coll Cardiol. 2006年47巻175-181 R Virmani, et al. Heart. 2003年89巻133-138
生体内で分解しない高分子を用いてシロリムスやパクリタキセル被覆したステントを留置した患者において、特に留置後の慢性期においてステント血栓症などの重篤な副作用が生じ得るため、生分解性高分子を使用したステントが提案されてきている。一方で、生分解性高分子を医療用途に使用する場合、分解生成物によって炎症反応が惹起され得るとの報告もある。しかしながら、生分解性高分子をステントに使用する場合、生分解性高分子の分解特性と薬物の放出特性、さらには炎症反応レベルの関連性は明らかにされていない。
これらの状況を鑑み本発明が解決しようとするところは、ステント留置術によって狭窄部分に生じた物理的な損傷の修復反応を抑制するだけでなく、ステントに用いられる生分解性高分子の分解による炎症反応を最小限に抑制することで、慢性期においても再狭窄を抑制可能で且つステント血栓症などの重篤な副作用を生じないステントを容易に提供することである。
上記の課題の解決のために本発明者らが鋭意検討した結果、以下の複数の特徴を有する本発明を完成するに至った。
(1)本発明は、生体内で実質的に非分解性の材料をステント基材とするステントであって、前記ステントは、前記ステント基材表面の少なくとも一部に薬剤と生分解性高分子を含むコーティング層を有しており、前記ステントを血管内に留置した場合に、(a)少なくとも90日以上にわたって前記薬剤が前記コーティング層中に存在する、(b)少なくとも270日後には前記生分解性高分子が前記コーティング層中に存在しない、ことを特徴とする。
本発明は、上記の特徴に加えて以下の各特性を有する。
(2)本発明は、前記ステントを血管内に留置した場合に、(c)少なくとも180日後には前記生分解性高分子の重量が少なくとも10%にまで低減する、という特性を有する。
(3)本発明は、前記ステントを血管内に留置した場合に、(d)少なくとも180日後まで前記薬剤が前記ステントに隣接する血管組織中に存在する、という特性を有する。
(4)本発明の別な特徴は、前記生分解性高分子が、乳酸、グリコール酸、γ−ブチロラクトン、δ−バレロラクトン、ε−カプロラクトン、テトラメチレンカーボネート、ジオキサノンのうち、少なくとも1種類以上からなる重合体である。
(5)本発明の別の特徴は、前記重合体が乳酸−グリコール酸共重合体である。
(6)本発明の別の特徴は、ゲル浸透クロマトグラフィーにより測定した前記乳酸−グリコール酸共重合体の標準ポリスチレン換算重量平均分子量が80,000以上、100,000以下であり、前記乳酸−グリコール酸共重合体に乳酸が85mol%、グリコール酸が15mol%含まれる。
(7)本発明の別な特徴は、前記薬剤が平滑筋細胞の増殖を抑制する特性を有する。
(8)本発明の別の特徴は、前記薬剤が免疫抑制剤である。
(9)本発明の別の特徴は、前記免疫抑制剤が、タクロリムス(FK506)、シクロスポリン、シロリムス、アザチオプリン、マイコフェノレートモフェチルもしくはこれらのアナログのいずれかである。
(10)本発明の別の特徴は、前記免疫抑制剤がタクロリムス(FK506)である。
(11)本発明の別の特徴は、前記コーティング層が前記ステント基材表面の全面を被覆する。
(12)本発明の別の特徴は、前記コーティング層が単層構造である。
(13)本発明の別の特徴は、前記コーティング層が内層および外層から構成される二層構造であり、前記内層および前記外層の両方に前記薬剤を含むとともに、前記内層の薬剤/生分解性高分子重量比が、前記外層の薬剤/生分解性高分子重量比よりも高い。
本発明の各特徴およびそれらの利点は、以下の実施形態の記載によって明らかにされる。
本発明に係るステントにより、狭窄部分に生じる物理的な損傷の修復反応を抑制するだけでなく、ステントに用いられる高分子の影響による炎症反応を抑制することが可能な薬剤量が当該ステントに隣接する冠状動脈組織中で実現され、再狭窄率を低減可能なステントが容易に提供される。
以下、本発明に係る「ステント」を、実施形態に基づいて説明する。実施形態の「ステント」は、ほぼ管状体に形成され、その管状体の半径方向外方に伸長可能である。
1.コーティング層中の薬剤量および生分解性高分子量
実施形態としてのステントは、そのステントを血管内に留置した場合に、少なくとも90日以上にわたって前記薬剤が前記コーティング層中に存在すること、少なくとも270日後には前記生分解性高分子が前記コーティング層中に存在しないことを特徴とする。
前記薬剤が前記コーティング層中に存在する期間が90日よりも短い場合、ステントの留置により生じる過度の新生内膜の肥厚を薬剤によって抑制することが困難となるため好ましくない。また、270日よりも長い期間にわたって前記コーティング層中に薬剤を存在させるような分解特性、すなわち極めてゆっくりとした分解特性を有する生分解性高分子の場合、ステント留置直後の薬剤放出量が極めて少なくなり、急性期の炎症反応を効果的に抑制することができず好ましくない。
実施形態としてのステントは、そのステントを血管内に留置した場合に、少なくとも180日後には前記生分解性高分子の重量が少なくとも10%にまで低減することを特徴とする。10%まで低減しないような分解特性を有する生分解性高分子の場合、ステント留置直後の薬剤放出量が極めて少なくなり、急性期の炎症反応を効果的に抑制することができず好ましくない。
コーティング層中の薬剤および生分解性高分子を定量する方法は本発明の効果を何ら制限しない。一例を以下に示す。薬剤および生分解性高分子の両方を溶解させ得る溶媒を準備する。あらかじめ風袋重量を測定しておいた容器に溶媒を入れ、ステントを浸漬させる。一定時間後にステントを除去し、残った溶液を乾固させる。続いて薬剤のみを選択的に溶解させる溶媒を容器内に加え、薬剤のみが溶解された溶液を得る。当該溶液中の薬剤を任意の方法で定量することで薬剤量が算出される。薬剤を定量する方法として様々な分析方法が使用可能であり、酵素免疫測定法(ELISA法)、高速液体クロマトグラフィー法(HPLC法)等が好適に使用される。一方、当該溶液を除去した容器を乾固させ、重量を測定する。予め測定しておいた風袋重量を差引くことで生分解性高分子の重量が得られる。
2.血管組織中の薬剤濃度
実施形態としてのステントは、そのステントを血管内に留置した場合に、少なくとも180日後まで前記薬剤が前記ステントに隣接する血管組織中に存在することを特徴とする。少なくとも180日後まで前記薬剤が前記ステントに隣接する血管組織中に存在しない場合、狭窄部分に生じる物理的な損傷の修復反応やステントに用いられる高分子の影響による炎症反応を抑制することが困難となり、再狭窄を起こしやすいため好ましくない。
前記血管組織中に存在する前記薬剤を定量する方法は本発明の効果を何ら制限しない。一例を以下に示す。ステントを留置後所定の期間飼育した動物を麻酔下で屠殺し、ステントが留置された血管を切り出す。当該血管を長手方向に切開して展開し、ステントが隣接する血管組織とステントとを分離する。前記血管組織の湿重量を秤量後、当該ステントに使用されている薬剤の特性に応じた溶媒および条件を用いて前記血管組織を抽出する。抽出液中に含まれる薬剤を任意の方法で定量することで、薬剤量が算出される。薬剤を定量する方法として様々な分析方法が使用可能であり、酵素免疫測定法(ELISA法)、高速液体クロマトグラフィー法(HPLC法)等が好適に使用される。前記血管組織中の薬剤量は、予め秤量しておいた湿重量を用いて単位重量あたりの薬剤重量として表記しても良く、ステントが隣接する血管組織あたりの薬剤重量として表記しても良い。
3.ステント基材
実施形態としての「ステント基材」は、例えば、筒状の材料チューブをレーザーカット等によりステントデザインにカットすることで作製可能である。
「ステント基材」は生体内で実質的に非分解性の材料から構成される。本発明で用いる「生体内で実質的に非分解性の材料」とは生分解性がないことを意味するが、生体内で全く分解しないことを要求するものではない。すなわち、5年から10年程度の長期間にわたり形状と機能を維持することが可能であれば足りるものであり、これらを含めて「生体内で実質的に非分解性の材料」と呼ぶ。
実施形態における「生体内で実質的に非分解性の材料」としては、ステンレススチール、Ni−Ti合金、Cu−Al−Mn合金、タンタリウム、Co−Cr合金、イリジウム、イリジウムオキサイド、ニオブ等の金属材料、セラミックス、ハイドロキシアパタイト等の無機材料が好適に使用される。
ステント基材の作製は、当業者が通常作製する方法が採用可能であり、例えば、前述したとおり、筒状の材料チューブをレーザーカット等によりステントデザインにカットすることで作製できる。レーザーカット後に電解研磨を施しても良い。また、シート状に加工したステント基材をレーザーカット等によりステントデザインにカットした後、筒状に丸め、溶接等により接合しても良い。丸線、角線、平線形状に加工したステント基材からステントデザイン形状を形成させた後、必要に応じて任意箇所を溶接等により接合しても良い。いずれの作製方法においても、バフ研磨や電解研磨などの研磨処理、酸洗浄、熱処理等を組み合わせることができる。
また、実施形態における「生体で実質的に非分解性の材料」は、金属材料あるいは無機材料に限定されず、ポリオレフィン、ポリオレフィンエラストマー、ポリアミド、ポリアミドエラストマー、ポリウレタン、ポリウレタンエラストマー、ポリエステル、ポリエステルエラストマー、ポリイミド、ポリアミドイミド、ポリエーテルエーテルケトン等の高分子材料も使用され得る。これらの高分子材料を用いたステント基材の作製方法は、本発明の効果を制限するものではなく、それぞれの材料に適した加工方法を任意に選択することができる。尚、本願発明のステント基材は生体内で実質的に非分解性の材料から構成されるため、ステント基材が生分解性の材料から構成されるステントと比較した場合、十分なステント強度が長期間にわたって維持され、狭窄部分の拡張維持効果は極めて高いものとなる。
4.コーティング層
実施形態のステントは、前記ステント基材表面の少なくとも一部に薬剤と生分解性高分子を含むコーティング層を有していればよいが、前記ステント基材の全面に前記コーティング層を有することが好ましい。このようにステント基材の全面にコーティング層を有する場合には、ステント留置術後に前記ステントの表面に血小板が付着しにくくなる。このような血小板の付着の抑制により、ステント留置術後の急性期における過度の血栓形成や血管の閉塞が生じる危険性を著しく低減させることができる。
実施形態のコーティング層に含まれる生分解性高分子の特性やコーティング層中の生分解性高分子重量と薬剤重量の比率を変化させることで、コーティング層からの薬剤の放出挙動を当該ステントが目的とする治療部位の性状に合わせて容易に調整できる。ステント留置後の慢性期には前記生分解性高分子はすべて生分解により消失し、ステント基材のみが体内に残留することになる。ステント基材として実績のある金属材料、例えばSUS316LやCo−Cr合金、Ni−Ti合金を使用することにより、慢性期においても安全性や信頼性の高いステントを容易に実現可能である。
5.生分解性高分子
生分解性高分子の種類は多岐にわたるが、本発明にかかる生分解性高分子は、生分解性高分子自体の生体適合性、分解産物の安全性を考慮すると、乳酸、グリコール酸、γ−ブチロラクトン、δ−バレロラクトン、ε−カプロラクトン、テトラメチレンカーボネート、ジオキサノンの少なくとも1種類以上からなる重合体であることが好ましい。
ステントを拡張した際のコーティング層の割れや剥がれを防止する観点を考慮すると、前記重合体は乳酸−グリコール酸共重合体であることが好ましい。前記乳酸−グリコール酸共重合体に含まれる乳酸は、D−体の乳酸のみの場合、L−体の乳酸のみの場合、D−体の乳酸とL−体の乳酸の両方を含む場合があるが、本発明の目的を達成するにはいずれの乳酸を含む共重合体であってもよい。
一般的に高分子の分子量は単分散ではなく分布を有するため、分子量を表す指標として数平均分子量、重量平均分子量、Z−平均分子量、粘度平均分子量など複数の指標が存在し、複数の測定法が存在する。一例を挙げると、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)で測定される分子量分布から標準ポリマー換算値として数平均分子量、重量平均分子量、Z−平均分子量が求められる。希薄溶液の粘度測定からは粘度平均分子量が求められる。また、光散乱法、沈降速度法(超遠心法)では重量平均分子量が求められる。
前記乳酸−グリコール酸共重合体の重量平均分子量はゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)で測定する場合、標準ポリスチレン換算値として80,000以上、100,000以下であることが好ましく、且つ、前記乳酸−グリコール酸共重合体に乳酸が85mol%、グリコール酸が15mol%含まれることが好ましい。このような乳酸−グリコール酸共重合体を使用することで、上記の各特性となるようにステントの性能を調整可能である。
乳酸−グリコール酸共重合体の生分解挙動は、重量平均分子量と乳酸及びグリコール酸のモル比率によって決定される。重量平均分子量が一定の場合、乳酸が50mol%、グリコール酸が50mol%含まれる場合に最も分解速度が速くなり、乳酸が増加するほど、あるいはグリコール酸が増加するほど分解速度は遅くなる。また、乳酸及びグリコール酸のモル比が一定の場合、重量平均分子量が大きいほど分解速度は遅くなる。
乳酸−グリコール酸共重合体の重量平均分子量がゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)で測定する場合、標準ポリスチレン換算値として80,000以上、100,000以下であっても、乳酸が85mol%よりも多く、グリコール酸が15mol%より少ない場合には分解速度が比較的遅くなり、上記特性として例示した生分解性高分子の分解特性よりも分解が遅くなり好ましくない。また、ステント留置直後の薬剤放出量が極めて少なくなり、急性期の炎症反応を効果的に抑制することができず好ましくない。
さらに、乳酸が85mol%より少なく、グリコール酸が15mol%より多い場合には分解速度が比較的速くなり、上記特性として例示した生分解性高分子の分解特性よりも分解が速くなり好ましくない。加えて、上記特性として例示した薬剤の放出特性よりも放出が早くなること、血管組織中の薬剤濃度が180日後まで持続しないことからも好ましくない。
また、乳酸−グリコール酸共重合体に含まれる乳酸が85mol%、グリコール酸が15mol%であっても、重量平均分子量がゲル浸透クロマトグラフィーで測定する場合、標準ポリスチレン換算値として80,000未満の場合には分解速度が比較的速くなり、上記特性として例示した薬剤の放出特性よりも放出が早くなること、血管組織中の薬剤濃度が180日後まで持続しないことから好ましくない。
標準ポリスチレン換算値として100,000を超える場合には、分解速度が比較的遅くなり、上記特性として例示した生分解性高分子の分解特性よりも分解が遅くなり好ましくない。また、ステント留置直後の薬剤放出量が極めて少なくなり、急性期の炎症反応を効果的に抑制することができず好ましくない。
6.薬剤
前記薬剤は平滑筋細胞の増殖を抑制する特性を有することが好ましい。さらに、免疫抑制剤であることが好ましく、タクロリムス(FK506)、シクロスポリン、シロリムス(ラパマイシン)、アザチオプリン、マイコフェノレートモフェチルもしくはこれらのアナログであることがより好ましく、タクロリムス(FK506)であることが特に好ましい。
7.コーティング層(単層構造の例)
前記コーティング層は単層構造であってよい。単層構造の場合、前記コーティング層に含まれる薬剤の重量を前記コーティング層に含まれる生分解性高分子の重量で割った値として定義される薬剤/生分解性高分子重量比は0.10以上、0.40以下であることが好ましい。0.10を下回る場合、ステントへの薬剤保持量を高くするために必要なコーティング層の厚さが厚くなり、ステントの柔軟性が大きく低下するため好ましくない。また、0.40を超える場合、ステント拡張時にコーティング層の割れや剥がれが生じやすくなるため好ましくない。
8.コーティング層(多層構造の例)
前記コーティング層は内層および外層から構成される二層構造であってよく、前記内層および前記外層の両方に薬剤を含むとともに、前記内層および前記外層のそれぞれにおいて定義される薬剤/生分解性高分子重量比が前記内層の方が高いことが好ましい。
薬剤/生分解性高分子重量比の低い外層のはたらきにより、ステント拡張時のコーティング層の割れや剥がれの発生は効果的に低減される。前記内層と比較して前記外層の薬剤/生分解性高分子重量比が低いため、ステント留置初期には薬剤の溶出が徐放化される。外層の薬剤が溶出し終わった後に内層の薬剤が溶出するため、外層に含まれる生分解性高分子がバリア層の役割を果たし、薬剤/生分解性高分子重量比が比較的高い内層の薬剤に関しても溶出の徐放化が実現される。また、内層の薬剤/生分解性高分子重量比が高いため、ステント全体としての薬剤保持量を高くすることが可能である。
前記内層と前記外層の重量比は目的とするステントの仕様に応じて任意に決定される。例えば、薬剤保持量を高くすることに主眼を置いた仕様の場合は、前記内層の重量を前記外層に比べて高めに設定することが好ましく、薬剤溶出の徐放性付与に主眼を置いた仕様の場合は、前記外層の重量を前記内層に比べて高めに設定することが好ましい。
前記内層における薬剤/生分解性高分子重量比は0.50以上1.60以下であることが好ましい。0.50未満の場合、薬剤保持量を効率よく高めることが困難であり好ましくない。一方、1.60より大きい場合、ステントの拡張に伴う前記内層および前記外層の割れや剥離を生じる可能性が高くなるため好ましくない。
前記外層における薬剤/高分子重量比は0.10以上0.40以下であることが好ましい。0.10未満の場合、前記外層における薬剤保持量が低く、再狭窄の予防に有効な薬剤溶出量を実現することが困難となり好ましくない。一方、0.40より大きい場合、ステントの拡張に伴う前記外層の割れや剥離を生じる可能性が高くなるばかりか、薬剤の溶出徐放性が十分に獲得できないため好ましくない。より好ましい実施形態としては、前記内層における薬剤/高分子重量比が0.50以上1.60以下であり、かつ前記外層における薬剤/高分子重量比が0.10以上0.40以下である生体留置用ステントが挙げられる。
さらなる薬剤保持量の増加、薬剤溶出の徐放性付与、ステント拡張時のコーティング層の割れや剥がれの抑制等を目的として、前記内層および前記外層以外の層を設けてもよい。一例をあげると、ステント拡張時のコーティング層の割れや剥がれを抑制するために前記内層とステント表面の間に中間層を設けてもよい。
9.コーティング層の形成方法
前記コーティング層が単層構造である場合、および前記コーティング層が内層および外層から構成される二層構造である場合のいずれであっても、各層を形成する方法は特に制限されない。
以下、前記コーティング層が内層および外層をから構成される二層構造の場合を例示して詳細に説明する。
コーティング層を形成する方法の好適な例として、前記内層を構成する薬剤および生分解性高分子を任意の溶媒に溶解し、溶液状態で前記ステント基材表面に付着させ溶媒を除去した後、前記外層を構成する薬剤および生分解性高分子を任意の溶媒に溶解し、溶液状態で前記内層の外面に付着させ溶媒を除去する方法が挙げられる。
また、前記内層を構成する薬剤および生分解性高分子からなるフィルムを別途作製しステント基材に貼り付けた後、前記外層を構成する薬剤および生分解性高分子からなるフィルムを別途作製し前記内層の外面に貼り付けてもよい。
もちろん、前記内層を構成する薬剤および生分解性高分子を任意の溶媒に溶解し、溶液状態で前記ステント基材表面に付着させ溶媒を除去した後、前記外層を構成する薬剤および生分解性高分子からなるフィルムを別途作製し前記内層の外面に貼り付けることで形成してもよく、前記内層を構成する薬剤および生分解性高分子からなるフィルムを別途作製しステント基材に貼り付けた後、前記外層を構成する薬剤および生分解性高分子を任意の溶媒に溶解し、溶液状態で前記内層の外面に付着させ溶媒を除去することで形成してもよい。前記内層および前記外層を形成する方法によって本発明の効果は制限されるものではなく、各種の方法が好適に使用できる。
前記内層および前記外層を構成する生分解性高分子および薬剤を任意の溶媒に溶解し溶液状態で付着させる場合、その方法は本発明の効果を制限するものではない。つまり、各溶液にステント基材をディッピングする方法、各溶液をスプレーによりステント基材に噴霧する方法、ノズルから生じさせた液滴をステント基材に塗布する方法等の各種の方法が使用可能である。使用する溶媒の種類は特に限定されない。所望の溶解度を有する溶媒が好適に使用可能であり、揮発性等を調整するために2種類以上の溶媒を用いた混合溶媒としてもよい。また、溶質である薬剤や生分解性高分子の濃度も特に制限を受けず、前記内層および前記外層の表面性等を勘案して任意の濃度とすることができる。
前記表面性を調整するために、前記内層を構成する薬剤および生分解性高分子を任意の溶媒に溶解し溶液状態で付着させる途中または/および付着させた後、あるいは前記外層を構成する薬剤および生分解性高分子を任意の溶媒に溶解し溶液状態で付着させる途中または/および付着させた後に余剰な溶液を除去してもよい。除去する手段としては、振動、回転、減圧等が挙げられ、これらを複数組み合わせてもよい。
以下の各実施例および各比較例では、薬剤としてタクロリムスを例示して説明する。ただし、タクロリムス以外の上述の薬剤、または免疫抑制剤を使用してもよい。
(実施例1)
(生分解性高分子:乳酸−グリコール酸共重合体(製品番号:85DG065、標準ポリスチレン換算重量平均分子量85,000)、コーティング層:多層)
ステント基材は、当業者が通常作製する方法と同様に、ステンレス鋼(SUS316L)の内径1.50mm、外径1.80mmの筒状チューブをレーザーカットによりステントデザインにカットし、電解研磨を施すことで作製した。ステント長さが13mm、厚みが120μm、拡張後の公称径が3.5mmとなるデザインとした。ステント基材の内表面、外表面、側表面を合わせた全表面積は88.5mm2である。
生分解性高分子として乳酸−グリコール酸共重合体(製品番号:85DG065、Absorbable Polymers International社、乳酸/グリコール酸=85mol%/15mol%、標準ポリスチレン換算重量平均分子量85,000)、薬剤としてタクロリムス(アステラス製薬株式会社)をクロロホルム(和光純薬株式会社)に溶解させ、薬剤濃度/生分解性高分子濃度=0.50wt%/0.50wt%である溶液を作製した。直径100μmのステンレス製ワイヤをステントの一端に固定し、他端を直径2mmのステンレス棒に固定した。ステントを接続していない側のステンレス棒端部をモーター攪拌機に接続することでステントを長さ方向に鉛直に保持した。モーター攪拌機を用いてステントを100rpmで回転させながら、ノズル径0.3mmのスプレーガンを用いて作製した溶液をステントに吹き付け、溶液をステントに付着させた。スプレーガンのノズルからステントまでの距離は75mm、吹き付け時のエアー圧力は0.15MPaとした。吹き付け後に室温で1時間真空乾燥した。スプレー時間を調整し、ステント1個あたりの生分解性高分子の平均重量が160μg、薬剤の平均重量が160μgの内層(薬剤/生分解性高分子重量比=1.00)を形成させた。
生分解性高分子として乳酸−グリコール酸共重合体(製品番号:85DG065、Absorbable Polymers International社、乳酸/グリコール酸=85mol%/15mol%、標準ポリスチレン換算重量平均分子量85,000)、薬剤としてタクロリムス(アステラス製薬株式会社)をクロロホルム(和光純薬株式会社)に溶解させ、薬剤濃度/高分子濃度=0.13wt%/0.50wt%である溶液を作製した。内層を形成させたステントの一端に直径100μmのステンレス製ワイヤを固定し、他端を直径2mmのステンレス棒に固定した。ステントを接続していない側のステンレス棒端部をモーター攪拌機に接続することでステントを長さ方向に鉛直に保持した。モーター攪拌機を用いてステントを100rpmで回転させながら、ノズル径0.3mmのスプレーガンを用いて作製した溶液をステントに吹き付け、溶液をステントに付着させた。スプレーガンのノズルからステントまでの距離は75mm、吹き付け時のエアー圧力は0.15MPaとした。吹き付け後に室温で1時間真空乾燥した。スプレー時間を調整し、ステント1個あたりの生分解性高分子の平均重量が139μg、薬剤の平均重量が36μgの外層(薬剤/生分解性高分子重量比=0.26)を形成させた。
得られたステント1個あたりの内層と外層を合わせた全体の生分解性高分子の平均重量は299μg、薬剤の平均重量は196μg(薬剤/生分解性高分子重量比=0.66)である。ステントは計21個作製した。
(実施例2)
(生分解性高分子:乳酸−グリコール酸共重合体(製品番号:85DG065、標準ポリスチレン換算重量平均分子量85,000)、コーティング層:単層)
ステント基材は、実施例1と同様に作製した。
生分解性高分子として乳酸−グリコール酸共重合体(製品番号:85DG065、Absorbable Polymers International社、乳酸/グリコール酸=85mol%/15mol%、標準ポリスチレン換算重量平均分子量85,000)、薬剤としてタクロリムス(アステラス製薬株式会社)をクロロホルム(和光純薬株式会社)に溶解させ、薬剤濃度/生分解性高分子濃度=0.13wt%/0.50wt%である溶液を作製した。直径100μmのステンレス製ワイヤをステントの一端に固定し、他端を直径2mmのステンレス棒に固定した。ステントを接続していない側のステンレス棒端部をモーター攪拌機に接続することでステントを長さ方向に鉛直に保持した。モーター攪拌機を用いてステントを100rpmで回転させながら、ノズル径0.3mmのスプレーガンを用いて作製した溶液をステントに吹き付け、溶液をステントに付着させた。スプレーガンのノズルからステントまでの距離は75mm、吹き付け時のエアー圧力は0.15MPaとした。吹き付け後に室温で1時間真空乾燥した。スプレー時間を調整し、ステント1個あたりの生分解性高分子の平均重量が325μg、薬剤の平均重量が85μgのコーティング層(薬剤/生分解性高分子重量比=0.26)を形成させた。ステントは計21個作製した。
(実施例3)
(生分解性高分子:乳酸−グリコール酸共重合体(製品番号:B6006−1P、標準ポリスチレン換算重量平均分子量93,000)、コーティング層:単層
ステント基材としてCo−Cr合金(登録商標:Elgiloy)を使用した以外は実施例1と同様に作製した。
生分解性高分子として乳酸−グリコール酸共重合体(製品番号:B6006−1P、DURECT社、乳酸/グリコール酸=85mol%/15mol%、標準ポリスチレン換算重量平均分子量93,000)を使用した以外は実施例2と同様に作製した。スプレー時間を調整し、ステント1個あたりの生分解性高分子の平均重量が350μg、薬剤の平均重量が91μgのコーティング層(薬剤/生分解性高分子重量比=0.26)を形成させた。ステントは計21個作製した。
(比較例1)
(生分解性高分子:乳酸−グリコール酸共重合体(製品番号:RG502H、標準ポリスチレン換算重量平均分子量11,000)、コーティング層:単層)
生分解性高分子として乳酸−グリコール酸共重合体(製品番号:RG502H、Boehringer Ingelheim社、乳酸/グリコール酸=50mol%/50mol%、標準ポリスチレン換算重量平均分子量11,000)を使用した以外は実施例2と同様に作製し、ステント1個あたりの生分解性高分子の平均重量が313μg、薬剤の平均重量が82μgのコーティング層(薬剤/生分解性高分子重量比=0.26)を形成させた。ステントは計18個作製した。
(比較例2)
(生分解性高分子:乳酸−グリコール酸共重合体(製品番号:PLGA7520、標準ポリスチレン換算重量平均分子量18,000)、コーティング層:単層)
生分解性高分子として乳酸−グリコール酸共重合体(製品番号:PLGA7520、和光純薬株式会社、乳酸/グリコール酸=75mol%/25mol%、標準ポリスチレン換算重量平均分子量18,000)を使用した以外は実施例2と同様に作製し、ステント1個あたりの生分解性高分子の平均重量が321μg、薬剤の平均重量が84μgのコーティング層(薬剤/生分解性高分子重量比=0.26)を形成させた。ステントは計18個作製した。
(比較例3)
(ステント基材のみ)
実施例1で使用したステント基材のみからステントを計18個作製した。
(ミニブタへの留置実験1)
実施例1から実施例3のステントを18個ずつ、合計54個を用いて18頭のミニブタ(クラウン、雌、月齢8から12ヶ月)へのステント留置実験を実施し、評価を行った。なお、評価期間は留置3日後、14日後、30日後、90日後、180日後、270日後とし、評価頭数はいずれの期間においても3頭とした。全てのステントはあらかじめバルーンサイズが3.5×15mmのバルーンカテーテルのバルーン部分に保持させた状態でEOG(エチレンオキサイドガス)滅菌を行った。
麻酔下でミニブタの右大腿動脈に6Frのシースイントロデューサーを挿入し、シースから挿入した6Frのガイディングカテーテルの先端を左冠状動脈入口部にエンゲージさせた。ガイディングカテーテル経由で左冠状動脈前下行枝、左冠状動脈回旋枝、右冠動脈へとステントをデリバリーした後、拡張・留置した。ガイディングカテーテルおよびシースを抜去した後、右大腿動脈を結紮し止血した。ステントを留置する部分は血管径が約2.80mmの部位とし、ステント拡張径を3.50mmとすることで留置部分におけるステント径/血管径の比を約1.25とした。血管径2.80mmの部位が選定できない場合には、ステントを拡張・留置する際のバルーンの拡張圧力を変化させ、ステント径/血管径の比を約1.25とするように調整した。本実験においては、ステントの内径をステント拡張径と定義した。1頭あたりの最大ステント留置数は3個とし、左冠状動脈前下降枝、左冠状動脈回旋枝、右冠状動脈のそれぞれに対する最大ステント留置数は1個とした。
留置実験を実施する前日より剖検日まで、アスピリン330mg/day、チクロピジン250mg/dayを混餌投与した。評価期間経過後にミニブタを安楽死させ心臓を摘出後、ステントが留置された冠状動脈を心臓から取り出した。取り出した冠状動脈を長手方向に切開して展開し、ステントが隣接する冠状動脈組織とステントを分離した。
得られた冠状動脈組織のうちの約20mgを正確に秤量後、0.02%EDTAを含むリン酸緩衝液2mL中でホモジナイズした。ここに抽出溶媒(ヘキサンと酢酸エチルを体積比で7:3で混合)10mLを加え、15分間室温で振盪抽出した。4℃・760×gで10分間遠心分離して得られた上層を分取し、さらに上記抽出溶媒10mLを加え、15分間室温で振盪抽出した。4℃・760×gで10分間遠心分離して得られた上層を分取後、濃縮遠心器にて乾固させた。乾固後、1%ウシ血清アルブミン、0.05%Tween20を含むリン酸緩衝液2mLで再溶解後、300倍に希釈したものを検体とした。得られた検体中のタクロリムス濃度を市販のELISAキットを用いて測定した。得られた濃度値から冠状動脈組織1mgあたりに含まれるタクロリムス量を算出した。測定値は、3つのステントから得られたデータの平均値±標準偏差値とし、表1に結果を示した。
得られたステントに付着した組織をできるだけ除去した後、ステント1個あたりアセトン3mL中に浸漬させ、ステントに残存する乳酸−グリコール酸共重合体とタクロリムスを溶解させた。風袋重量をあらかじめ秤量しておいた軽量アルミ容器に得られたアセトン溶液の全量を移し、乾固させた。乾固後、ヘキサン1mLを軽量アルミ容器に入れ、タクロリムスのみを選択的に溶解・抽出させた。得られたタクロリムスのヘキサン溶液を別な軽量アルミ容器に移し、乾固させた。ヘキサンによるタクロリムスの抽出は3回繰り返した。乳酸−グリコール酸共重合体のみが残存した軽量アルミ容器を真空乾燥させた後秤量し、風袋重量を差引くことで乳酸−グリコール酸共重合体の残存量を算出した。留置実験を実施する前の乳酸−グリコール酸共重合体重量と比較して、残存率を算出した。3つのステントから得られたデータの平均値±標準偏差値を測定値とし、表2に結果を示した。
得られたタクロリムスのヘキサン溶液を乾固させた軽量アルミ容器に1%ウシ血清アルブミン、0.05%Tween20を含むリン酸緩衝液2mLを加えて再溶解させた。さらに、300倍に希釈したものを検体とし、検体中のタクロリムス濃度を市販のELISAキットを用いて測定した。得られた濃度値からタクロリムスの残存量を算出した。留置実験を実施する前のタクロリムス重量と比較して、残存率を算出した。3つのステントから得られたデータの平均値±標準偏差値を測定値とし、表3に結果を示した。
(ミニブタへの留置実験2)
比較例1から比較例3のステントを15個ずつ、合計45個を用いて15頭のミニブタ(クラウン、雌、月齢8から12ヶ月)へのステント留置実験を実施し、評価を行った。なお、評価期間を留置1日後、3日後、7日後、14日後、30日後とした以外はミニブタへの留置実験1と同様に実施した。
(ミニブタへの留置実験3)
実施例1から実施例3および比較例1から比較例3のステントを3個ずつ、合計18個を用いて、6頭のミニブタ(クラウン、雌、月齢8から12ヶ月)へのステント留置実験を実施し、評価を行った。全てのステントはあらかじめバルーンサイズが3.5×15mmのバルーンカテーテルのバルーン部分に保持させた状態でEOG(エチレンオキサイドガス)滅菌を行った。
ミニブタへのステント留置は(ミニブタへの留置実験1)と同様に実施した。留置30日後にミニブタを安楽死させ心臓を摘出した。ステントを留置した冠状動脈を心臓より摘出し、10%中性緩衝ホルマリン溶液中で浸漬固定した。樹脂包埋後、各ステントの中央部の切片を作製し、H.E.染色(ヘマトキシリン・エオジン染色)、およびE.V.G.染色(エラスチカ・ワン・ギーソン染色)を行い、拡大観察を実施した。各ステント断面の血管内腔面積(LA:Lumen Area)、血管内弾性板内側面積(IELA:Area within the Internal Elastic Lamina)を測定した。血管内腔面積(LA)および血管内弾性板内側面積(IELA)を用いて各サンプルの血管閉塞率を次式に従い算出した。
血管閉塞率(%)=[1−(LA/IELA)]×100
実施例および比較例のいずれも3つのステントから得られたデータの平均値±標準偏差値を測定値とし、表4に結果を示した。
表1から表4に示すように本発明にかかる実施例1から実施例3では、少なくとも90日以上にわたって薬剤がコーティング層中に存在すること、少なくとも270日後には生分解性高分子がコーティング層中に存在しないこと、少なくとも180日後には生分解性高分子の重量が少なくとも10%にまで低減すること、少なくとも180日後まで薬剤が隣接する血管組織中に存在することを達成しており、これらの効果により血管閉塞率がおよそ30%程度と優れた狭窄抑制効果を示した。狭窄抑制効果は比較例3として示したステント基材のみから構成されるステントよりも極めて高く、臨床上有用と判断された。
一方、比較例1から比較例3では血管閉塞率が高く、狭窄が生じていると判断された。特に比較例1および比較例2では肥厚した新生内膜中にマクロファージのような炎症性細胞の浸潤が顕著に認められたことから、ステント留置に伴う物理的な損傷の修復反応や生分解性高分子の分解による炎症反応がタクロリムスにより効果的に抑制されていないことが示唆された。

Claims (13)

  1. 生体内で実質的に非分解性の材料をステント基材とするステントであって、
    前記ステントは、
    前記ステント基材表面の少なくとも一部に薬剤と生分解性高分子を含むコーティング層を有しており、前記ステントを血管内に留置した場合に、
    (a)少なくとも90日以上にわたって前記薬剤が前記コーティング層中に存在する、
    (b)少なくとも270日後には前記生分解性高分子が前記コーティング層中に存在しない、
    という特性を有することを特徴とするステント。
  2. 前記ステントを血管内に留置した場合に、
    (c)少なくとも180日後には前記生分解性高分子の重量が少なくとも10%にまで低減する、
    という特性を有することを特徴とする請求項1記載のステント。
  3. 前記ステントを血管内に留置した場合に、
    (d)少なくとも180日後まで前記薬剤が前記ステントに隣接する血管組織中に存在する、
    という特性を有することを特徴とする請求項1または2のいずれかに記載のステント。
  4. 前記生分解性高分子が、乳酸、グリコール酸、γ−ブチロラクトン、δ−バレロラクトン、ε−カプロラクトン、テトラメチレンカーボネート、ジオキサノンのうち、少なくとも1種類以上からなる重合体であることを特徴とする請求項1または3のいずれかに記載のステント。
  5. 前記生分解性高分子が乳酸−グリコール酸共重合体であることを特徴とする請求項4記載のステント。
  6. ゲル浸透クロマトグラフィーにより測定した前記乳酸−グリコール酸共重合体の標準ポリスチレン換算重量平均分子量が80,000以上、100,000以下であり、前記乳酸−グリコール酸共重合体に乳酸が85mol%、グリコール酸が15mol%含まれることを特徴とする請求項5記載のステント。
  7. 前記薬剤が平滑筋細胞の増殖を抑制する特性を有することを特徴とする請求項1から6のいずれかに記載のステント。
  8. 前記薬剤が免疫抑制剤であることを特徴とする請求項7に記載のステント。
  9. 前記免疫抑制剤が、タクロリムス(FK506)、シクロスポリン、シロリムス、アザチオプリン、マイコフェノレートモフェチルもしくはこれらのアナログのいずれかであることを特徴とする請求項8記載のステント。
  10. 前記免疫抑制剤がタクロリムス(FK506)であることを特徴とする請求項9記載のステント。
  11. 前記コーティング層が前記ステント基材表面の全面を被覆することを特徴とする請求項1から10のいずれかに記載のステント。
  12. 前記コーティング層が単層構造であることを特徴とする請求項11に記載のステント。
  13. 前記コーティング層が内層および外層から構成される二層構造であり、前記内層および前記外層の両方に前記薬剤を含むとともに、前記内層の薬剤/生分解性高分子重量比が、前記外層の薬剤/生分解性高分子重量比よりも高いことを特徴とする請求項11に記載のステント。
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