図1は、本発明の実施例に係る自動車両制動装置が設けられた車両の概略図である。なお、以下の説明では、車両1の通常の走行時における進行方向を前方とし、進行方向の反対方向を後方として説明する。実施例に係る自動車両制動装置2を備える車両1は、内燃機関であるエンジン10が動力発生手段として車両1の進行方向における前側部分に搭載されている。このエンジン10が発生した動力は、自動変速機15で走行状態に適した変速比で変速可能になっており、自動変速機15で変速した動力はプロペラシャフト16、デファレンシャルギヤ17、ドライブシャフト18を介して、車両1が有する車輪5のうち駆動輪として設けられる後輪7へ伝達されることにより、車両1は走行可能になっている。
このように、実施例に係る自動車両制動装置2を備える車両1は、エンジン10が車両1の進行方向における前側部分に搭載され、後輪7が駆動輪として設けられた、いわゆるFR(Front engine Rear drive)の駆動形式となっているが、車両1の駆動形式はFR以外でもよい。また、実施例において、エンジン10はガソリンを燃料とするレシプロ式の火花点火式エンジンであるが、エンジン10はこれに限定されるものではない。エンジン10は、例えば、LPG(Liquefied Petroleum Gas:液化石油ガス)やアルコールを燃料とする火花点火式エンジンであってもよいし、いわゆるロータリー式の火花点火式エンジンであってもよいし、ディーゼル機関であってもよい。また、エンジン10の回転を変速する変速機は自動変速機15以外のものでもよく、例えば、手動で変速をする手動変速機でもよい。さらに、実施例に係る自動車両制動装置2を備える車両1は、ハイブリッド車(HV:Hybrid Vehicle)や電気自動車(EV:Electric Vehicle)、燃料電池車など、動力発生手段として内燃機関であるエンジン10以外を用いる車両であってもよい。
車両1が有する車輪5のうち後輪7は駆動輪として設けられるのに対し、前輪6は車両1の操舵輪として設けられている。操舵輪である前輪6は、車両1の運転席に配設されるハンドル20によって操舵可能に設けられている。
また、各車輪5の近傍には車輪5に制動力を作用させることができる制動手段であるブレーキ30が設けられており、前輪6の近傍には前輪6に制動力を作用させることができるブレーキ30であるディスクブレーキ31が設けられている。このディスクブレーキ31は、回転しないように設けられたホイールシリンダ32及びブレーキパッド33と、車輪5と共に回転可能に設けられたブレーキディスク34とにより構成されている。また、後輪7の近傍には後輪7に制動力を作用させることができるブレーキ30であるドラムブレーキ35が設けられている。このドラムブレーキ35は、回転しないように設けられたホイールシリンダ36及びブレーキシュー37と、車輪5と共に回転可能に設けられたブレーキドラム38とにより構成されている。これらのため、前輪6はディスクブレーキ31により制動可能なディスク側車輪となっており、後輪7はドラムブレーキ35により制動可能なドラム側車輪となっている。
また、これらのディスクブレーキ31とドラムブレーキ35とは、共に車両1の制動時に当該ディスクブレーキ31やドラムブレーキ35に作用させる油圧の経路である油圧経路50に接続されている。詳しくは、油圧経路50には、ディスクブレーキ31のホイールシリンダ32と、ドラムブレーキ35のホイールシリンダ36とが接続されている。この油圧経路50には、車両1の制動時に油圧経路50内の油圧を制御可能なブレーキアクチュエータ60が設けられており、ブレーキアクチュエータ60は、ディスクブレーキ31及びドラムブレーキ35に付与する付与力として用いられる油圧を、各車輪5の近傍に設けられるディスクブレーキ31とドラムブレーキ35とで、それぞれ独立して付与することができる。これにより、複数の車輪5の制動力は、それぞれ独立して発生させることができる。
また、車両1には、車両1の運転席に運転者が座った状態における運転者の足元付近に、エンジン10の出力を調整する際に操作するアクセルペダル21と、走行中の車両1を制動する際に操作するブレーキペダル22とが併設されている。このうち、アクセルペダル21の近傍には、アクセルペダル21の開度を検出可能なアクセル開度検出手段であるアクセル開度センサ71が設けられている。また、ブレーキペダル22の近傍には、ブレーキペダル22のストロークを検出可能なブレーキストローク検出手段であるブレーキストロークセンサ72が設けられている。また、この車両1には、少なくとも車両1の前後方向の加速度を検出可能な減速度検出手段であるGセンサ73が設けられている。
また、車両1の進行方向における前端には、進行方向状態検出手段として、前方に向けて設けられたレーダー75が配設されている。このレーダー75は、車両1の進行に向けて電磁波を放射する放射部(図示省略)と、放射部から放射した電磁波が車両1の進行方向に位置する障害物で反射した場合において、その反射した電磁波を検出する検出部(図示省略)とを有している。レーダー75は、このように放射部から放射し、障害物で反射した電磁波を検出部で検出することにより、車両1の進行方向の状態を検出可能に設けられている。
なお、進行方向状態検出手段はレーダー75以外のものでもよく、例えば、撮像した画像情報により車両1の進行方向の状態を検出可能なCCD(Charge Coupled Device)カメラでもよい。進行方向状態検出手段は、車両1の進行方向状態を検出可能なものであれば、その手段は問わない。
これらのエンジン10、自動変速機15、ブレーキアクチュエータ60、アクセル開度センサ71、ブレーキストロークセンサ72、Gセンサ73、レーダー75は、車両1に搭載されると共に車両1の各部を制御するECU(Electronic Control Unit)80に接続されている。
図2は、図1に示した制動手段の制御系統を示す構成概略図である。車両1(図1参照)の制動時に操作をするブレーキペダル22は、エンジン10(図1参照)の吸気通路(図示省略)に接続されることにより、エンジン10の運転時に発生する負圧の伝達が可能な負圧経路43が接続されたブレーキブースタ42に接続されている。このようにブレーキブースタ42に接続される負圧経路43には、吸気通路側からブレーキブースタ42の方向への空気の流れを遮断する逆止弁である負圧経路逆止弁44と、負圧経路43内の負圧を検出可能な負圧検出手段である負圧センサ45とが設けられている。
また、ブレーキブースタ42は、油圧を発生させることができるマスタシリンダ41に接続されており、油圧経路50は、このマスタシリンダ41に接続されている。このようにマスタシリンダ41に接続されている油圧経路50は、作動油として用いられるブレーキフルード(図示省略)が満たされている。また、この油圧経路50は、2系統に分かれて構成されており、2系統の油圧経路50である第1油圧経路51と第2油圧経路52とが、それぞれ独立してマスタシリンダ41に接続されている。
ブレーキペダル22は、これらのようにブレーキブースタ42とマスタシリンダ41とを介して油圧経路50に接続されており、このうちブレーキブースタ42は、公知の真空式倍力装置となっており、ブレーキペダル22に入力された踏力を、負圧経路43から伝達された負圧と大気圧との差を利用することにより増大してマスタシリンダ41に伝達可能に設けられている。また、マスタシリンダ41は、ブレーキブースタ42から伝達された力によって油圧を発生させ、発生させた油圧を油圧経路50に伝達可能に設けられている。
また、マスタシリンダ41に接続される油圧経路50には、その端部にブレーキ30が接続されており、第1油圧経路51と第2油圧経路52とで、車両1における互い違いの位置に配設されている車輪5の近傍に設けられるブレーキ30が接続されている。つまり、第1油圧経路51には、左右の前輪6のうち左側に位置する前輪6に設けられるディスクブレーキ31のホイールシリンダ32と、左右の後輪7のうち右側に位置する後輪7に設けられるドラムブレーキ35のホイールシリンダ36とが接続されている。また、第2油圧経路52には、左右の前輪6のうち右側に位置する前輪6に設けられるディスクブレーキ31のホイールシリンダ32と、左右の後輪7のうち左側に位置する後輪7に設けられるドラムブレーキ35のホイールシリンダ36とが接続されている。
また、油圧経路50には、ブレーキアクチュエータ60である複数のソレノイドバルブが設けられており、常開のソレノイドバルブであるマスタカットソレノイドバルブ61と保持ソレノイドバルブ62、及び常閉のソレノイドバルブである減圧ソレノイドバルブ63が設けられている。これらのマスタカットソレノイドバルブ61と保持ソレノイドバルブ62と減圧ソレノイドバルブ63とは、ディスクブレーキ31やドラムブレーキ35に付与する油圧の配分を制御可能な付与力配分制御手段として設けられている。このうち、マスタカットソレノイドバルブ61は、第1油圧経路51と第2油圧経路52とにそれぞれ1つずつ配設されている。
また、保持ソレノイドバルブ62は、油圧経路50において、マスタシリンダ41からマスタカットソレノイドバルブ61を経てディスクブレーキ31やドラムブレーキ35に向かう経路に設けられており、4つのブレーキ30に対応して保持ソレノイドバルブ62も4つ設けられている。
また、減圧ソレノイドバルブ63は、保持ソレノイドバルブ62からブレーキ30に向かう経路から分岐し、マスタカットソレノイドバルブ61と保持ソレノイドバルブ62との間の経路に接続される経路であるリターン経路55に設けられている。このように、減圧ソレノイドバルブ63が設けられるリターン経路55は、4つの保持ソレノイドバルブ62とブレーキ30との間の経路からそれぞれ分岐しており、減圧ソレノイドバルブ63は、分岐した各経路に設けられているため、減圧ソレノイドバルブ63は油圧経路50に4つ設けられている。即ち、減圧ソレノイドバルブ63は、保持ソレノイドバルブ62と同様に4つのブレーキ30に対応して4つ設けられている。
また、リターン経路55は、減圧ソレノイドバルブ63の下流側、つまりリターン経路55における、減圧ソレノイドバルブ63よりもマスタカットソレノイドバルブ61と保持ソレノイドバルブ62との間の経路に接続される側の部分が、第1油圧経路51における2つのリターン経路55同士、及び第2油圧経路52における2つのリターン経路55同士で接続されて、それぞれ1つの経路になっている。このように、リターン経路55における1つの経路になった部分には、ブレーキアクチュエータ60である加圧ポンプ64と、リターン経路55に設けられる逆止弁であるリターン経路逆止弁65とが配設されており、リターン経路逆止弁65は、リターン経路55における、加圧ポンプ64よりもマスタカットソレノイドバルブ61と保持ソレノイドバルブ62との間の経路に接続される側に配設されている。
このうち、加圧ポンプ64には駆動用モータ66が接続されており、加圧ポンプ64は、駆動用モータ66によって作動させることにより、リターン経路55内のブレーキフルードを減圧ソレノイドバルブ63側からマスタカットソレノイドバルブ61或いは保持ソレノイドバルブ62側に供給可能に設けられている。また、リターン経路逆止弁65は、加圧ポンプ64からマスタカットソレノイドバルブ61或いは保持ソレノイドバルブ62方向へのブレーキフルードのみ流し、反対方向のブレーキフルードの流れを遮断する。加圧ポンプ64とリターン経路逆止弁65とは、これらのように設けられているため、第1油圧経路51と第2油圧経路52とにそれぞれ1つずつ設けられており、全部でそれぞれ2つずつ設けられている。
また、油圧経路50におけるマスタカットソレノイドバルブ61の上流側、即ち、油圧経路50におけるマスタシリンダ41とマスタカットソレノイドバルブ61との間の部分からは、リターン経路55に接続される経路である供給経路56が分岐しており、供給経路56はリターン経路55に接続されている。また、この供給経路56にはリザーバ67と、供給経路56に設けられる逆止弁である供給経路逆止弁68とが配設されており、供給経路逆止弁68は、供給経路56における、リザーバ67よりもマスタシリンダ41とマスタカットソレノイドバルブ61との間の経路に接続される側に配設されている。
このうち、リザーバ67は、供給経路56を流れるブレーキフルードを所定量貯留可能に設けられており、供給経路逆止弁68は、マスタカットソレノイドバルブ61或いは保持ソレノイドバルブ62側からリターン経路55の方向へのブレーキフルードのみ流し、反対方向のブレーキフルードの流れを遮断する。リザーバ67と供給経路逆止弁68とは、これらのように設けられているため、第1油圧経路51と第2油圧経路52とにそれぞれ1つずつ設けられており、全部でそれぞれ2つずつ設けられている。
また、第1油圧経路51におけるマスタシリンダ41とマスタカットソレノイドバルブ61との間には、操作圧力検出手段であるマスタシリンダ圧センサ69が設けられている。このマスタシリンダ圧センサ69は、第1油圧経路51におけるマスタシリンダ41とマスタカットソレノイドバルブ61との間の油圧を、運転者がブレーキ操作をしてブレーキペダル22を踏んだ場合に発生する操作圧力として検出可能に設けられている。
これらのように設けられる負圧センサ45、マスタシリンダ圧センサ69、マスタカットソレノイドバルブ61、保持ソレノイドバルブ62、減圧ソレノイドバルブ63、駆動用モータ66は、ECU80に接続されており、ECU80によって制御可能に設けられている。
図3は、図1に示す自動車両制動装置の要部構成図である。ECU80には、処理部81、記憶部100及び入出力部101が設けられており、これらは互いに接続され、互いに信号の受け渡しが可能になっている。また、ECU80に接続されているエンジン10、自動変速機15、アクセル開度センサ71、ブレーキストロークセンサ72、Gセンサ73、レーダー75、負圧センサ45、マスタシリンダ圧センサ69、マスタカットソレノイドバルブ61、保持ソレノイドバルブ62、減圧ソレノイドバルブ63、駆動用モータ66は、入出力部101に接続されており、入出力部101は、これらのセンサ類等との間で信号の入出力を行う。また、記憶部100には、自動車両制動装置2を制御するコンピュータプログラムが格納されている。この記憶部100は、ハードディスク装置や光磁気ディスク装置、またはフラッシュメモリ等の不揮発性のメモリ(CD−ROM等のような読み出しのみが可能な記憶媒体)や、RAM(Random Access Memory)のような揮発性のメモリ、或いはこれらの組み合わせにより構成することができる。
また、処理部81は、メモリ及びCPU(Central Processing Unit)により構成されており、少なくとも、アクセル開度センサ71での検出結果よりアクセル開度を取得可能なアクセル操作取得手段であるアクセル開度取得部82と、ブレーキストロークセンサ72での検出結果よりブレーキペダル22のストローク量を取得可能な制動操作取得手段であるブレーキストローク量取得部83と、Gセンサ73での検出結果より車両1の減速度を取得可能な減速度取得手段である減速度取得部84と、を有している。
また、処理部81は、エンジン10の運転状態を制御可能なエンジン制御手段であるエンジン制御部85と、レーダー75での検出結果に基づいて自車の前方を走行する車両との車間距離を適切な車間距離にする制御を行うと共に、前方を走行する車両との車間距離を適切な車間距離にするための目標となる制動力である目標制動力を導出することが可能な車間距離制御手段である車間距離制御部86と、を有している。
また、処理部81は、ディスクブレーキ31及びドラムブレーキ35によって車輪5を制動する際にディスクブレーキ31及びドラムブレーキ35に付与する油圧を車両1の運転者による制動操作とは独立して制御する自動制動制御を行うと共に、自動制動制御時には、車両1の減速度を調整する際におけるディスクブレーキ31に付与する付与力を調整することによる減速度の調整に対する寄与度を、ドラムブレーキ35に付与する付与力を調整することによる減速度の調整に対する寄与度より大きくする自動制動制御手段である自動制動制御部87と、自動制動制御部87で自動制動制御を行っているか否かを判定する自動制動制御判定手段である自動制動制御判定部94と、を有している。
さらに、処理部81が有する自動制動制御部87は、車間距離制御部86で導出した目標制動力を減速度取得部84で取得した車両1の減速度に基づいて補正する制動力補正手段である制動力補正部88と、ディスクブレーキ31及びドラムブレーキ35で目標制動力を発生させるのに必要となる付与力である油圧を導出する目標付与力導出手段である目標油圧導出部89と、ディスクブレーキ31及びドラムブレーキ35に付与する付与力である油圧を制御する付与力制御手段である油圧制御部90と、自動制動制御部87で自動制動制御を開始した後、所定の期間が経過したか否かを判定する経過期間判定手段である経過時間判定部91と、運転者が制動操作を行っているか否かを判定する制動操作判定手段である制動操作判定部92と、ドラムブレーキ35に付与する油圧を所定の大きさの油圧で保持している状態で運転者が制動操作を行った場合に、ドラムブレーキ35に付与している油圧を、徐々に制動操作に基づく油圧に近付ける制御であるドラムブレーキ付与力開放特定制御を行うドラムブレーキ付与力開放特定制御手段である後輪油圧開放特定制御部93と、を有している。
ECU80によって制御される自動車両制動装置2の制御は、例えば、レーダー75等による検出結果に基づいて、処理部81が上記コンピュータプログラムを当該処理部81に組み込まれたメモリに読み込んで演算し、演算の結果に応じてブレーキアクチュエータ60等を作動させることにより制御する。その際に処理部81は、適宜記憶部100へ演算途中の数値を格納し、また格納した数値を取り出して演算を実行する。なお、このように自動車両制動装置2を制御する場合には、上記コンピュータプログラムの代わりに、ECU80とは異なる専用のハードウェアによって制御してもよい。
この実施例に係る自動車両制動装置2は、以上のごとき構成からなり、以下、その作用について説明する。車両1の走行時には、エンジン10を運転させてエンジン10の動力を駆動輪である後輪7に伝達することにより走行する。詳しくは、エンジン10の運転中は、エンジン10が有するクランクシャフト(図示省略)の回転が自動変速機15に伝達され、自動変速機15で車両1の走行状態に適した変速比で変速される。自動変速機15で変速された回転は、プロペラシャフト16、デファレンシャルギヤ17、ドライブシャフト18を介して後輪7に伝達される。これにより、駆動輪である後輪7は回転し、車両1は走行する。
また、エンジン10の回転が後輪7に伝達されることにより走行をする車両1の車速は、アクセルペダル21を足で操作し、エンジン10の回転数や出力を調整することにより調整する。アクセルペダル21を操作した場合には、アクセルペダル21のストローク量、即ちアクセル開度が、アクセルペダル21の近傍に設けられるアクセル開度センサ71によって検出される。アクセル開度センサ71による検出結果は、ECU80の処理部81が有するアクセル開度取得部82に伝達されてアクセル開度取得部82で取得し、さらに、取得したアクセル開度が、ECU80の処理部81が有するエンジン制御部85に伝達される。エンジン制御部85は、アクセル開度取得部82で取得したアクセル開度や、その他のセンサによる検出結果に基づいて、エンジン10を制御する。
また、車両1の走行中に、アクセルペダル21を戻すことによる速度の低下以上の低下速度で車速を低下させる場合には、ブレーキペダル22を踏むことによって車両1を制動する。このように、ブレーキペダル22を踏み込むことによって制動操作をした場合、その踏力がブレーキブースタ42に伝達される。ここで、このブレーキブースタ42には負圧経路43が接続されており、ブレーキブースタ42にはエンジン10の運転時における吸気行程で発生する負圧が負圧経路43を介して伝達可能に設けられている。このため、踏力がブレーキブースタ42に入力された場合、ブレーキブースタ42はこの負圧と大気圧との差圧により、踏力を増力させてマスタシリンダ41に入力する。踏力に対して増力した力が入力されたマスタシリンダ41は、入力された力に応じてブレーキフルードに対して圧力を与え、マスタシリンダ油圧を上昇させる。
マスタシリンダ油圧が上昇した場合、油圧経路50内のブレーキフルードの圧力も上昇し、油圧経路50内の油圧はマスタシリンダ油圧と同じ圧力になる。さらに、このように油圧経路50内の油圧が上昇した場合、この油圧は常開のソレノイドバルブであるマスタカットソレノイドバルブ61と保持ソレノイドバルブ62とを介してブレーキ30にも伝達される。この場合、減圧ソレノイドバルブ63は常閉であるため、油圧経路50内のブレーキフルードは保持ソレノイドバルブ62側から減圧ソレノイドバルブ63を通ってリターン経路55には流れないため、保持ソレノイドバルブ62からブレーキ30に伝達される油圧は低下しない。
このように、上昇した油圧がブレーキ30に伝達されて油圧が付与された場合、ブレーキ30は付与された油圧により作動する。詳しくは、ブレーキ30は、ディスクブレーキ31のホイールシリンダ32及びドラムブレーキ35のホイールシリンダ36が、マスタシリンダ油圧で作動する。これらのホイールシリンダ32、36が作動した場合、ホイールシリンダ32、36は、当該ホイールシリンダ32、36と組みになって設けられ、且つ、車輪5の回転時に車輪5と一体となって回転するブレーキディスク34やブレーキドラム38の回転速度を低下させる。
つまり、ディスクブレーキ31のホイールシリンダ32は、油圧が付与されて作動することによりブレーキパッド33に対してブレーキディスク34の両側からブレーキディスク34を挟み込む押圧力を付与する。これにより、ブレーキディスク34は、ブレーキパッド33との摩擦抵抗により回転速度が低下する。また、ドラムブレーキ35のホイールシリンダ36は、油圧が付与されて作動することによりブレーキシュー37に対してブレーキドラム38の内側からブレーキドラム38を押え付ける押圧力を付与する。これにより、ブレーキドラム38は、ブレーキシュー37との摩擦抵抗により回転速度が低下する。
これらのように、ディスクブレーキ31のホイールシリンダ32及びドラムブレーキ35のホイールシリンダ36が、マスタシリンダ油圧によって作動した場合は、ブレーキディスク34やブレーキドラム38の回転速度が低下するため、車輪5の回転速度も低下する。即ち、ブレーキディスク34の回転速度が低下することにより、ブレーキディスク34と一体となって回転をする前輪6の回転速度も低下し、ブレーキドラム38の回転速度が低下することにより、ブレーキドラム38と一体となって回転をする後輪7の回転速度も低下する。これにより、車両1は減速し、車両1には減速度が発生する。
このように、車両1の制動時には、ブレーキペダル22を操作することにより、ブレーキ30にはブレーキディスク34やブレーキドラム38の回転速度を低下させる力である制動力が発生するため、これらの回転速度の低下を介して車輪5の回転速度を低下させることができ、走行中の車両1を制動することができる。
また、このようにブレーキペダル22を操作する場合には、ブレーキペダル22のストローク量が、ブレーキペダル22の近傍に設けられるブレーキストロークセンサ72によって検出される。ブレーキストロークセンサ72による検出結果は、ECU80の処理部81が有するブレーキストローク量取得部83で取得する。ECU80の処理部81が有する油圧制御部90は、ブレーキストローク量取得部83で取得したブレーキペダル22のストローク量や車両1に設けられる他のセンサでの検出結果に応じてブレーキアクチュエータ60を制御することにより、ブレーキ30に付与する油圧を制御する。
また、実施例に係る自動車両制動装置2を備える車両1は、ACC(Adaptive Cruise Control)制御が可能になっており、例えば、自車の前方を走行する車両1に対して一定の車間距離で追従したり、前方の車両1との距離が近い場合には、自動的に制動する自動制動制御を行ったりする。ACC制御を行う場合には、車両1の前端に設けられるレーダー75によって自車の前方の車両との車間距離を検出し、検出した距離に基づいて制御する。
図4は、図1に示す自動車両制動装置の要部を示すブロック図であり、自動制動制御による自動制動制御の説明図である。車両1の走行中に運転者の制動操作により制動する場合には、上述したようにブレーキペダル22を操作することにより制動するが、ACC制御時における自動制動制御は、レーダー75による検出結果に基づいて、ECU80の処理部81が有する自動制動制御部87で行う。自動制動制御部87で自動制動制御を行う際には、まず、レーダー75によって自車の先方を走行する車両1との車間距離を検出する。レーダー75で検出した車間距離は、ECU80の処理部81が有する車間距離制御部86に伝達される。車間距離制御部86では、レーダー75により検出された車間距離より、車間距離に応じた目標制動力を導出する。即ち、レーダー75から伝達された車間距離が、所定の車間距離以下の場合には、車間距離を大きくするために必要となる減速度を導出し、この減速度で車両1を減速させるために必要となる制動力である目標制動力を導出する。
なお、この判断に用いる所定の車間距離は、車速ごとに予め設定されてECU80の記憶部100に記憶されている。また、減速度も同様に、車間距離と車速とに対する減速度がマップとして予め設定され、記憶部100に記憶されている。
車間距離制御部86で導出した目標制動力はECU80の処理部81が有する自動制動制御部87に伝達される。詳しくは、目標制動力は、自動制動制御部87が有する制動力補正部88に伝達される。制動力補正部88は、車間距離制御部86から伝達された目標制動力を、減速度取得部84で取得した減速度に基づいて補正する。つまり、車両1の走行中には、車両1に作用する加速度をGセンサ73で検出し、検出結果をECU80の処理部81が有する減速度取得部84で取得しており、減速度取得部84は、車両1の後方に向かう加速度を、車両1に作用する減速度として取得しているが、制動力補正部88は、この減速度取得部84で取得した減速度に基づいて、車間距離制御部86から伝達された目標制動力を補正する。制動力補正部88で補正した目標制動力は、自動制動制御部87が有する目標油圧導出部89に伝達する。
目標制動力が伝達された目標油圧導出部89は、ディスクブレーキ31やドラムブレーキ35によって目標制動力を発生させるのに必要となる油圧、即ち、ディスクブレーキ31やドラムブレーキ35に付与することにより目標制動力を発生させることのできる油圧である目標油圧を導出する。目標油圧導出部89による目標油圧の導出は、制動力と油圧との関係からなるブレーキ逆モデル(図示省略)が予めECU80の記憶部100に記憶されており、制動力補正部88から伝達された目標制動力と記憶部100に記憶されたブレーキ逆モデルとより、目標制動力に対する油圧を導出する。これが目標油圧になる。目標油圧導出部89で導出した目標油圧は、自動制動制御部87が有する油圧制御部90に伝達する。
目標油圧が伝達された油圧制御部90は、目標油圧を発生させることのできる作動量でブレーキアクチュエータ60を作動させることのできる大きさの電流を導出し、ブレーキアクチュエータ60に与える。油圧制御部90から電流が与えられたブレーキアクチュエータ60は、この電流によって作動する。ここで、自動制動制御部87で自動制動制御を行う場合は、駆動用モータ66を作動させることにより加圧ポンプ64を作動させる。この加圧ポンプ64の作動により、リターン経路55内のブレーキフルードは、マスタカットソレノイドバルブ61と保持ソレノイドバルブ62との間の経路の方向に流れる。これにより、運転者による制動操作が行われていない状態でも、保持ソレノイドバルブ62の方向に流れるブレーキフルードを加圧し、ディスクブレーキ31やドラムブレーキ35に付与する油圧を上昇させることができる。従って、ブレーキアクチュエータ60が作動した場合、ブレーキアクチュエータ60は、ディスクブレーキ31やドラムブレーキ35に対して、作動量に応じた油圧を付与することができる。この場合における油圧は、目標油圧とほぼ同じ大きさの油圧となっている。
ブレーキアクチュエータ60で調整された油圧は、油圧経路50を介してディスクブレーキ31やドラムブレーキ35に伝達されてこれらに付与される。ディスクブレーキ31やドラムブレーキ35は、この油圧により作動し、制動力を発生する。このうち、ディスクブレーキ31で発生した制動力は、前輪6の制動力として用いられ、ドラムブレーキ35で発生した制動力は、後輪7の制動力として用いられる。これらの制動力により、車輪5の回転速度は低下し、車両1には制動力に応じた減速度が生じる。
自動制動制御部87で制動制御を行う場合は、このように車間距離制御部86で導出した減速度を得ることができるように、ディスクブレーキ31とドラムブレーキ35とで発生する制動力を調整するが、ドラムブレーキ35に付与する油圧は、所定の大きさの油圧で保持する。このため、自動制動制御時には、ディスクブレーキ31に付与する油圧の調整のみで車両1の減速度を調整する。即ち、自動制動制御時には、車両1の減速度を調整する際におけるディスクブレーキ31に付与する付与力を調整することによる減速度の調整に対する寄与度を、ドラムブレーキ35に付与する付与力を調整することによる減速度の調整に対する寄与度より大きくし、ディスクブレーキ31で発生する制動力の調整のみで、車両1の減速度が車間距離制御部86で導出した減速度になるように制御する。このように、自動制動制御部87は、自動制動制御時にはドラムブレーキ35に付与する油圧を所定の大きさの油圧で保持し、ディスクブレーキ31に付与する油圧を調整することにより自動制動制御時における車両1全体の制動力に対するディスクブレーキ31の制動力の寄与度を大きくするのみでなく、自動制動制御時には、減速度の調整量に対する寄与度も、ドラムブレーキ35に付与する付与力の調整による寄与度よりも、ディスクブレーキ31に付与する付与力の調整による寄与度の方を大きくする。
また、自動制動制御部87は、自動制動制御中に運転者による制動操作が行われた場合には、ドラムブレーキ35に付与している油圧を、徐々に制動操作に基づく油圧に近付ける制御を行う。つまり、自動制動制御中は、ドラムブレーキ35に付与する油圧を所定の大きさの油圧に保持するが、運転者による制動操作が行われた場合には、ドラムブレーキ35に付与する油圧を、この保持している油圧から、制動操作に基づく油圧に徐々に近付ける。
図5は、実施例に係る自動車両制動装置の処理手順を示すフロー図である。次に、実施例に係る自動車両制動装置2の制御方法、即ち、当該自動車両制動装置2の処理手順について説明する。なお、以下の処理は、車両1の走行中に各部を制御する際に、所定の期間ごとに呼び出されて実行する。実施例に係る自動車両制動装置2の処理手順では、まず、自動制動制御中であるか否かを判定する(ステップST101)。この判定は、ECU80の処理部81が有する自動制動制御判定部94で行う。自動制動制御判定部94で、自動制動制御中であるか否かの判定をする場合は、ECU80の処理部81が有する自動制動制御部87による制御でブレーキ30を作動させているか否かにより判定をする。自動制動制御判定部94は、自動制動制御部87による制御でブレーキ30を作動させている場合には自動制動制御中であると判定し、自動制動制御部87による制御でブレーキ30を作動させていない場合には自動制動制御中ではないと判定する。この判定により、自動制動制御中ではないと判定した場合には、この処理手順から抜け出る。
自動制動制御判定部での判定(ステップST101)により、自動制動制御中であると判定した場合には、次に、ブレーキ油圧加圧開始後T_hold秒が経過したか否かを判定する(ステップST102)。この判定は、自動制動制御部87が有する経過時間判定部91で行う。ここで、自動制動制御部87で自動制動制御を行う場合には、自動制動制御の開始時に油圧制御部90によって駆動用モータ66を作動させ、加圧ポンプ64によってブレーキ30に付与する油圧の加圧を開始した際に、ECU80が備えるタイマ(図示省略)を作動させる。経過時間判定部91で、ブレーキ油圧加圧開始後T_hold秒が経過したか否かを判定する場合には、このタイマがT_hold秒を経過しているか否かを判定する。このT_holdは、ブレーキ油圧加圧開始後、ドラムブレーキ35のホイールシリンダ36に付与する油圧を所定の油圧まで上昇させることができる所定の期間として、予めECU80の記憶部100に記憶されている。経過時間判定部91での判定により、ブレーキ油圧加圧開始後T_hold秒が経過していないと判定した場合には、この処理手順から抜け出る。
なお、この経過時間判定部91による判定で用いるT_holdは、一定の時間として設定して予めECU80の記憶部100に記憶させておいてもよく、または、車間距離制御部86で導出した目標制動力に応じた期間にしてもよい。T_holdを、目標制動力に応じた期間にする場合には、目標制動力とT_holdとの関係を示すマップを予め作成してECU80の記憶部100に記憶させておき、車間距離制御部86で目標制動力を導出した際に、このマップを参照することにより、T_holdを導出する。
経過時間判定部91での判定(ステップST102)により、ブレーキ油圧加圧開始後T_hold秒が経過したと判定した場合には、次に、ドラムブレーキ35に付与する油圧を保持する(ステップST103)。つまり、後輪7に設けられるドラムブレーキ35のホイールシリンダ36に付与する油圧を、所定の大きさの油圧である保持油圧で保持する。この保持油圧は、ドラムブレーキ35に付与する所定の大きさの付与力である保持付与力となっている。ドラムブレーキ35のホイールシリンダ36に付与する油圧を保持する場合には、自動制動制御部87が有する油圧制御部90で、マスタカットソレノイドバルブ61とドラムブレーキ35のホイールシリンダ36との間の油圧経路50に設けられる保持ソレノイドバルブ62を作動させることにより保持する。
保持ソレノイドバルブ62は常開のソレノイドバルブであるが、保持ソレノイドバルブ62を作動させて閉じた場合には、保持ソレノイドバルブ62とドラムブレーキ35のホイールシリンダ36との間の油圧経路50内のブレーキフルードは、この部分の油圧経路50から流出することができなくなる。このため、この部分の油圧経路50内の油圧は、保持ソレノイドバルブ62を閉じる前の油圧から変化しなくなり、油圧が保持される。これにより、後輪7に設けられるドラムブレーキ35のホイールシリンダ36に付与する油圧を保持する。
自動制動制御部87による自動制動制御時には、自動制動制御部87は、このようにドラムブレーキ35に付与する油圧を保持油圧で保持した後は、ディスクブレーキ31に付与する油圧の調整のみで車両1の減速度の調整を行う。即ち、油圧制御部90でブレーキアクチュエータ60を制御し、ディスクブレーキ31のホイールシリンダ32に付与する油圧を調整することにより、車両1の減速度が所望の減速度になるように調整する。
なお、保持ソレノイドバルブ62は第1油圧経路51と第2油圧経路52との双方の油圧経路50に設けられ、ドラムブレーキ35のホイールシリンダ36は、双方の油圧経路50に接続されているが、保持ソレノイドバルブ62を閉じる際には、双方の油圧経路50のマスタカットソレノイドバルブ61とドラムブレーキ35のホイールシリンダ36との間の油圧経路50に設けられる保持ソレノイドバルブ62を閉じる。
次に、運転者によるブレーキオーバーライドがあるか否かを判定する(ステップST104)。この判定は、自動制動制御部87が有する制動操作判定部92で行う。制動操作判定部92で制動をしているか否かの判定は、車両1の後端に設けられているストップランプ(図示省略)がONの状態、即ち、点灯している状態になっているか否かにより判定をする。つまり、ストップランプは、車両1の運転者が制動操作を行うことによってブレーキペダル22を踏んだ場合にONになり点灯するため、制動操作判定部92はストップランプの状態を取得し、ストップランプがONの状態の場合には、自動制動制御中における車両1の運転者による制動操作であるブレーキオーバーライドがあると判定する。また、ストップランプがOFFの場合には、ブレーキオーバーライドはないと判定する。この判定により、制動中ではないと判定した場合には、この処理手順から抜け出る。
なお、ブレーキオーバーライドがあるか否かを制動操作判定部92で判定する際には、自動制動制御中におけるブレーキペダル22のストローク量をブレーキストロークセンサ72での検出結果よりECU80の処理部81が有するブレーキストローク量取得部83で取得し、取得したブレーキストローク量が0の場合には自動制動制御中における制動操作は行われておらず、ブレーキオーバーライドはないと判定し、0以外の場合にはブレーキオーバーライドはあると判定してもよい。制動操作判定部92での判定により、運転者によるブレーキオーバーライドはないと判定した場合には、この処理手順から抜け出る。
制動操作判定部92での判定(ステップST104)により、運転者によるブレーキオーバーライドがあると判定した場合には、次に、後輪油圧開放特定制御を行う(ステップST105)。この後輪油圧開放特定制御は、自動制動制御部87が有する後輪油圧開放特定制御部93で行う。後輪油圧開放特定制御部93で後輪油圧開放特定制御を行う場合には、閉じた状態の保持ソレノイドバルブ62を徐々に開かせるように油圧制御部90に対して信号を送信する。これにより、油圧制御部90は、マスタカットソレノイドバルブ61とドラムブレーキ35のホイールシリンダ36との間の油圧経路50に設けられる保持ソレノイドバルブ62を、徐々に開く。具体的には、保持ソレノイドバルブ62の開閉を制御する際のデューティー比を徐々に変化させ、完全に閉じた状態から、開弁の割合を徐々に増加させる。これにより、ドラムブレーキ35のホイールシリンダ36に付与される油圧は、保持ソレノイドバルブ62を閉じる前の油圧、即ち、加圧ポンプ64により加圧した状態で保持した油圧である保持油圧から、運転者の制動操作により発生する油圧に徐々に変化する。
以上の自動車両制動装置2は、自動制動制御時には、車両1の減速度を調整する際におけるディスクブレーキ31に付与する付与力を調整することによる減速度の調整に対する寄与度を、ドラムブレーキ35に付与する付与力を調整することによる減速度の調整に対する寄与度よりも大きくしている。これにより、自動制動制御を行う場合には、車両1の減速度に対するドラムブレーキ35の制動力の影響が小さくなるので、制動力の制御が難しいドラムブレーキ35の制動力を調整することに起因して車両1の減速度が安定しなくなることを抑制できる。この結果、自動制動時における制動の安定性を図ることができる。
また、自動制動制御を行う際には、ドラムブレーキ35に付与する油圧の調整は行わず、ディスクブレーキ31に付与する付与力の調整のみで車両1の減速度の調整をするので、制動力の制御が難しいドラムブレーキ35の制動力を調整することに起因して車両1の減速度が安定しなくなることを、より確実に抑制することができる。この結果、より確実に自動制動時における制動の安定性を図ることができる。
また、自動制動制御時に車両1の減速度を用いて制動力のフィードバック制御をする際に、油量剛性の高いドラムブレーキ35の制動力の制御を制御対象から外し、ディスクブレーキ31の制動力のみをフィードバック制御することにより、制動力のコントロール精度を上げることができる。この結果、自動制動時に所望の制動力を確保しつつ、制動の安定性を図ることができる。
また、自動制動制御を行う際には、ドラムブレーキ35に付与する油圧は保持油圧で保持するため、ドラムブレーキ35は保持油圧が付与されることにより、保持油圧に応じた制動力を発生し続ける。これにより、自動制動制御時には、ドラムブレーキ35によって一定の制動力を確保しつつ、ディスクブレーキ31によって車両1の減速度を調整することができる。この結果、自動制動時に所望の制動力を確保しつつ、制動の安定性を図ることができる。
また、自動制動制御を行う際に、ドラムブレーキ35に付与する油圧を保持油圧で保持して制動力を発生させ続けることにより、ディスクブレーキ31で発生させる制動力を低減させることができる。この結果、ディスクブレーキ31のブレーキパッド33の摩耗を抑えることができる。
また、自動制動制御を開始した後のT_hold秒の経過後にドラムブレーキ35に付与する油圧を保持することによりドラムブレーキ35を保持油圧で保持しているので、より確実にドラムブレーキ35の制動力を所望の制動力にすることができる。つまり、ドラムブレーキ35の制動力は、油圧の増減に対する制動力の変化が油圧の領域によって異なるが、油圧を大きくした場合には、制動力の変化の度合いに関わらず制動力は大きくなる。このため、自動制動制御開始後、時間の経過と共に油圧を増加させ、T_hold秒の経過後にドラムブレーキ35に付与する油圧を保持することにより、この油圧を、より確実に、ドラムブレーキ35に一定の制動力を発生させることのできる油圧である保持油圧にすることができる。これにより、自動制動制御時には、より確実にドラムブレーキ35によって一定の制動力を確保することができる。この結果、より確実に自動制動時に所望の制動力を確保しつつ、制動の安定性を図ることができる。
また、自動制動制御を開始した後のT_hold秒の経過後にドラムブレーキ35に付与する油圧を保持することによってドラムブレーキ35を保持油圧で保持することにより、ドラムブレーキ35の無効ストローク分を、ドラムブレーキ35に付与する油圧を昇圧させる際の初期段階でなくすことができる。この結果、より確実にドラムブレーキ35に制動力を発生させ、自動制動時に所望の制動力を確保することができる。
また、自動制動制御中に運転者が制動操作を行った場合、即ち、ブレーキオーバーライドを行った場合、後輪油圧開放特定制御を行うことにより、ドラムブレーキ35に付与している油圧を、保持油圧から徐々に制動操作に基づく油圧に近付けるので、ドラムブレーキ35の制動力が急激に制動操作に基づく制動力になることを抑制することができる。つまり、運転者がブレーキオーバーライドを行うのは、主に、自動制動制御による車両1の減速度が、運転者が所望する減速度より低い場合であるため、運転者の制動操作に基づく油圧は、保持油圧よりも高くなっている。このため、ドラムブレーキ35に付与する油圧を、保持油圧から急激に制動操作に基づく油圧にした場合、ドラムブレーキ35には急激に高い油圧が付与されるため、急激に制動力が高くなることにより減速度が急変したり、ドラムブレーキ35により制動される後輪7が路面に対してスリップしたりする場合がある。
これに対し、ドラムブレーキ35に付与している油圧を保持油圧から徐々に制動操作に基づく油圧に近付けた場合には、保持油圧と制動操作に基づく油圧とに大きな差がある場合でも、ドラムブレーキ35に急激に高い油圧が付与されることを抑制できる。これにより、保持油圧と制動操作に基づく油圧とに大きな差がある場合でも、ドラムブレーキ35の制動力が急激に制動操作に基づく制動力になることを抑制することができる。この結果、自動制動時における制動の安定性を図ることができると共に、自動制動から制動操作に基づいて制動を行う際の急激な減速度変化を抑制することができる。
また、保持油圧と制動操作に基づく油圧とに大きな差がある場合において、閉じている保持ソレノイドバルブ62を急激に開くことによりドラムブレーキ35に付与する油圧を保持油圧から急激に制動操作に基づく油圧にした場合、マスタシリンダ41と保持ソレノイドバルブ62との間に位置する油圧経路50内のブレーキフルードは、急激に保持ソレノイドバルブ62とドラムブレーキ35のホイールシリンダ36との間に位置する油圧経路50に流れる。このため、マスタシリンダ41内のブレーキフルードの量が急激に減少するため、運転者の操作力が付与されているブレーキペダル22は、この操作力により大きく入り込む場合がある。
これに対し、実施例に係る自動車両制動装置2では、自動制動制御中に運転者が制動操作を行った場合には、保持ソレノイドバルブ62のデューティー比を徐々に変化させ、完全に閉じた状態から開弁の割合を徐々に増加させている。これにより、閉じた状態の保持ソレノイドバルブ62を開弁した場合でも、マスタシリンダ41と保持ソレノイドバルブ62との間に位置する油圧経路50内のブレーキフルードが、保持ソレノイドバルブ62とドラムブレーキ35のホイールシリンダ36との間に位置する油圧経路50に急激に流れることを抑制できる。従って、マスタシリンダ41内のブレーキフルードの量が急激に減少することを抑制でき、ブレーキペダル22の入り込みを抑制することができる。この結果、自動制動制御中にブレーキペダル22を操作する場合におけるブレーキペダル22の入り込みを抑制することができ、運転者が違和感を覚えることを抑制することができる。
また、ディスクブレーキ31により制動される車輪5であるディスク側車輪は前輪6として用いられており、ドラムブレーキ35により制動される車輪5であるドラム側車輪は後輪7として用いられているため、容易に車両1の減速度を所望の減速度に近付けることができる。つまり、車両1の制動時には後輪7よりも前輪6に大きな荷重が作用するため、前輪6の制動力は後輪7の制動力よりも大きくすることができる。このため、車両1全体の制動力における後輪7の制動力の割合は、前輪6の制動力の割合と比較して小さくなっている。従って、後輪7の制動力は車両1全体の制動力に対する影響が小さいので、自動制動時にはドラム側車輪である後輪7の制動力は一定にし、ディスク側車輪である前輪6の制動力のみで車両1の減速度を調整する場合でも、容易に車両1の減速度を所望の減速度に近付けることができる。この結果、自動制動時における制動の安定性を図りつつ、車両1の減速度を、より所望の減速度に近い減速度にすることができる。
図6は、変形例に係る自動車両制動装置が設けられた車両の概略図である。図7は、図6に示す自動車両制動装置の要部構成図である。なお、自動制動制御時にドラムブレーキ35を保持油圧で保持する際に、上述した自動車両制動装置2では、ブレーキ油圧加圧開始後T_hold秒が経過した場合に保持ソレノイドバルブ62を閉じることにより保持油圧で保持しているが、ドラムブレーキ35を保持油圧で保持する場合には、これ以外の手法で行ってもよい。例えば、ドラムブレーキ35のホイールシリンダ36に付与する油圧を検出し、検出した油圧が保持油圧になったら保持ソレノイドバルブ62を閉じることにより保持油圧で保持してもよい。
この場合、図6に示すように、ブレーキアクチュエータ60からドラムブレーキ35に向かう油圧経路50に、ドラムブレーキ35に付与する油圧を検出するドラム側付与力検出手段であるドラムブレーキ油圧センサ110を設ける。このドラムブレーキ油圧センサ110は、ECU80に接続される。また、ECU80の処理部81には、図7に示すように、ドラムブレーキ油圧センサ110の検出結果より、ドラムブレーキ35のホイールシリンダ36に付与する油圧であるドラムブレーキ油圧を取得するドラム側付与力取得手段であるドラムブレーキ油圧取得部115を設ける。さらに、ECU80の処理部81が有する自動制動制御部87には、経過時間判定部91(図3参照)に代えて、ドラムブレーキ油圧取得部115で取得したドラムブレーキ油圧が保持油圧に到達したか否かを判定する油圧判定手段である油圧判定部116を設ける。
また、ECU80の記憶部100には、ドラムブレーキ油圧を保持するか否かの基準となる保持油圧P_Rr MPaを予め設定して記憶しておく。なお、この保持油圧P_Rr MPaは、一定の圧力でもよく、または、T_holdと同様に、車間距離制御部86で導出した目標制動力に応じた圧力にしてもよい。保持油圧P_Rr MPaを目標制動力に応じた圧力にする場合は、目標制動力と保持油圧P_Rr MPaとの関係を示すマップを予め作成してECU80の記憶部100に記憶させておき、車間距離制御部86で目標制動力を導出した際に、このマップを参照することにより、保持油圧P_Rr MPaを導出する。
この自動車両制動装置2で自動制動制御を行う場合には、自動制動制御の開始後、ドラムブレーキ油圧センサ110でドラムブレーキ油圧を検出してドラムブレーキ油圧取得部115で取得し、取得したドラムブレーキ油圧が保持油圧P_Rr MPaに到達したか否かを、油圧判定部116で判定する。この判定により、ドラムブレーキ油圧は保持油圧P_Rr MPaに到達したと判定された場合には、マスタカットソレノイドバルブ61(図2参照)からドラムブレーキ35のホイールシリンダ36に向かう油圧経路50に設けられる保持ソレノイドバルブ62(図2参照)を閉じることにより、ドラムブレーキ35に付与する油圧を保持する。
このように、ドラムブレーキ油圧センサ110で検出したドラムブレーキ35に付与する油圧が保持油圧P_Rr MPaになった場合にドラムブレーキ35に付与する油圧を保持することによって、ドラムブレーキ35を保持油圧P_Rr MPaで保持することにより、より確実にドラムブレーキ35の制動力を所望の制動力にすることができる。つまり、ドラムブレーキ35に付与する油圧を検出するドラムブレーキ油圧センサ110を設け、このドラムブレーキ油圧センサ110による検出結果が保持油圧になった場合に、ドラムブレーキ35に付与する油圧を保持することにより、この油圧を、より確実にドラムブレーキ35に一定の制動力を発生させることのできる油圧である保持油圧にすることができる。これにより、自動制動制御時には、より確実にドラムブレーキ35によって一定の制動力を確保することができる。この結果、より確実に自動制動時に所望の制動力を確保しつつ、制動の安定性を図ることができる。