ところで、この種の二段圧縮機では、その運転中に、低段側圧縮機構が吸入する流体の流量、低段側圧縮機構が吐出する流体の流量、高段側圧縮機構が吸入する流体の流量、および高段側圧縮機構が吐出する流体の流量が、それぞれ変動する。このため、低段側圧縮機構や高段側圧縮機構に接続する配管では、流体の流量変動に伴って、圧力脈動が生じる。特に、低段側圧縮機構の吐出側と高段側圧縮機構の吸入側との間を配管(以下、「中間配管」という。)で接続する場合には、その中間配管では、低段側圧縮機構が吐出する流体の流量変動と、高段側圧縮機構が吸入する流体の流量変動との両方の影響を受けるので、圧力脈動が生じやすい。このため、中間配管にマフラーを設けて、圧力脈動を低減させることが考えられる。
しかし、中間配管に低段側圧縮機構から高段側圧縮機構へ向かう流体を冷却する中間冷却器を設ける場合には、マフラーを1つ設けるだけでは、中間配管における圧力脈動を十分に低減させることができない。つまり、中間冷却器の上流側と中間冷却器の下流側のうち片方では、圧力脈動をほとんど低減させることができない。従って、中間冷却器や、中間配管のうち圧力脈動が低減されない領域では、圧力脈動による振動が比較的大きくなってしまう。
さらに、中間冷却器の上流側の圧力脈動をほとんど低減させることができない場合には、低段側圧縮機構が流体を吐出するのに従って、低段側圧縮機構と中間冷却器との間の圧力が一時的に増加して、低段側圧縮機構が流体を吐出するときの吐出抵抗が大きくなってしまう。また、中間冷却器の下流側の圧力脈動をほとんど低減させることができない場合には、高段側圧縮機構が流体を吸入するのに従って、高段側圧縮機構と中間冷却器との間の圧力が一時的に低下して、高段側圧縮機構が流体を吸入するときの吸入抵抗が大きくなってしまう。つまり、中間冷却器の上流側と中間冷却器の下流側のうち片方において圧力脈動をほとんど低減させることができない場合には、低段側圧縮機構の吐出抵抗と高段側圧縮機構の吸入抵抗の何れかが大きくなってしまい、運転効率が低下してしまう。
本発明は、斯かる点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、低段側圧縮機構で圧縮した流体を高段側圧縮機構で更に圧縮する二段圧縮機において、低段側圧縮機構の吐出側と高段側圧縮機構の吸入側との間における圧力脈動及び振動を低減させ、圧力脈動による運転効率の低下を抑制することにある。
第1の発明は、共に容積型流体機械で構成された低段側圧縮機構(16)及び高段側圧縮機構(17)を備え、上記低段側圧縮機構(16)で圧縮した流体を上記高段側圧縮機構(17)で更に圧縮する二段圧縮機(10)を対象とする。そして、この二段圧縮機(10)は、上記低段側圧縮機構(16)の吐出側を中間冷却器(61)に接続するための上流側中間配管(11)と、上記高段側圧縮機構(17)の吸入側を上記中間冷却器(61)に接続するための下流側中間配管(12)と、上記上流側中間配管(11)に接続された第1のマフラー(21)と、上記下流側中間配管(12)に接続された第2のマフラー(22)とを備えている。
第1の発明では、低段側圧縮機構(16)の吐出側と中間冷却器(61)とを接続するための上流側中間配管(11)に、第1のマフラー(21)が接続されている。このため、低段側圧縮機構(16)が吐出する流体の流量変動に伴う圧力脈動が、第1のマフラー(21)によって低減される。また、高段側圧縮機構(17)の吸入側と中間冷却器(61)とを接続するための下流側中間配管(12)に、第2のマフラー(22)が接続されている。このため、高段側圧縮機構(17)が吸入する流体の流量変動に伴う圧力脈動が、第2のマフラー(22)によって低減される。この第1の発明では、中間冷却器(61)の上流側の圧力脈動に対しては第1のマフラー(21)が設けられ、中間冷却器(61)の下流側の圧力脈動に対しては第2のマフラー(22)が設けられている。
第2の発明は、上記第1の発明において、上記低段側圧縮機構(16)の吸入側に接続する吸入配管(13)と、上記吸入配管(13)に接続された第3のマフラー(23)とを備えている。
第2の発明では、吸入配管(13)に第3のマフラー(23)が接続されている。つまり、低段側圧縮機構(16)が吸入する流体流量の変動によって生じる圧力脈動に対して、第3のマフラー(23)が設けられている。
第3の発明は、上記第1又は第2の発明において、上記低段側圧縮機構(16)及び高段側圧縮機構(17)を収容するケーシング(15)を備える一方、上記各マフラー(21,22,23)は、何れも上記ケーシング(15)の外面に固定されている。
第3の発明では、各マフラー(21,22,23)が、何れもケーシング(15)の外面に固定されている。このため、マフラー(21,22,23)とそのマフラー(21,22,23)に対応する圧縮機構(16,17)との間の流路距離を短くすることが可能である。ここで、マフラー(21,22,23)は配管における圧力脈動を低減させることができるが、圧力脈動によってマフラー(21,22,23)自身が振動してしまう。このため、マフラー(21,22,23)の振動がケーシング(15)に伝わらないように、マフラー(21,22,23)をケーシング(15)から離した位置に設置することが考えられる。しかし、この場合は、マフラー(21,22,23)とそのマフラー(21,22,23)に対応する圧縮機構(16,17)との間の流路距離が長くなり、その間における圧力脈動がそれほど大きくは低減されない。このため、圧力脈動によって各圧縮機構(16,17)の吐出抵抗又は吸入抵抗が大きくなることをそれほど大きく抑制することができない。このため、第3の発明では、マフラー(21,22,23)とそのマフラー(21,22,23)に対応する圧縮機構(16,17)との間の流路距離を短くして、その間における圧力脈動を大きく低減することができるように、各マフラー(21,22,23)をケーシング(15)の外面に固定している。
第4の発明は、上記第2の発明において、上記低段側圧縮機構(16)及び高段側圧縮機構(17)を収容する密閉円筒状のケーシング(15)を備える一方、上記3つのマフラー(21,22,23)は、上記ケーシング(15)の外周面を周方向に3等分して形成される3つの領域の別々の領域に固定されている。
第4の発明では、3つのマフラー(21,22,23)が、上記第3の発明と同様に、何れもケーシング(15)の外面に固定されている。ケーシング(15)は、各圧縮機構(16,17)の駆動に伴うトルク変動によって振動する。このため、3つのマフラー(21,22,23)は、ケーシング(15)と一体で振動する。ここで、円筒状のケーシング(15)では、トルク変動によってケーシング(15)の周方向の振動が生じる。このような周方向の振動が生じる物体では、振動の中心軸に対して、振動する物体の重心がずれている場合には、振れ回りが生じて、振動が大きくなってしまう。このため、振動の中心軸上に、振動する物体の重心があることが望ましい。この第4の発明では、振動する物体である二段圧縮機(10)の重心が、振動の中心軸であるケーシング(15)の軸心上から大きくずれないように、ケーシング(15)の外周面を周方向に3等分して形成される3つの領域の別々の領域に3つのマフラー(21,22,23)を固定している。
第5の発明は、上記第2の発明において、上記低段側圧縮機構(16)及び高段側圧縮機構(17)を収容する密閉円筒状のケーシング(15)を備える一方、上記3つのマフラー(21,22,23)は、上記ケーシング(15)の軸方向から見て、該3つのマフラー(21,22,23)を合わせたものの重心が上記低段側圧縮機構(16)及び高段側圧縮機構(17)を含むケーシング(15)内の構成部品と該ケーシング(15)とからなる圧縮機本体の重心に一致するように、該ケーシング(15)の外周面に固定されている。
第5の発明では、ケーシング(15)の軸方向から見て、3つのマフラー(21,22,23)を合わせたものの重心が圧縮機本体の重心に一致するように、3つのマフラー(21,22,23)がケーシング(15)の外周面に固定されている。このため、3つのマフラー(21,22,23)をケーシング(15)の外周面に固定しても、ケーシング(15)の軸方向から見た場合の二段圧縮機(10)の重心位置は、圧縮機本体の重心位置のままである。ところで、圧縮機本体の重心は、通常は、振動の中心軸であるケーシング(15)の軸心上、又はそのケーシング(15)の軸心に近い位置に存在している。このため、第5の発明では、3つのマフラー(21,22,23)をケーシング(15)の外周面に固定しても、二段圧縮機(10)の重心がケーシング(15)の軸心上、又はそのケーシング(15)の軸心に近い位置に保たれる。
第6の発明は、上記第2の発明において、上記低段側圧縮機構(16)及び高段側圧縮機構(17)を収容する密閉円筒状のケーシング(15)を備える一方、上記3つのマフラー(21,22,23)は、該3つのマフラー(21,22,23)を合わせたものの重心が上記ケーシング(15)の軸心上に位置するように、該ケーシング(15)の外周面に固定されている。
第6の発明では、3つのマフラー(21,22,23)を合わせたものの重心がケーシング(15)の軸心上に位置するように、3つのマフラー(21,22,23)がケーシング(15)の外周面に固定されている。このため、3つのマフラー(21,22,23)を取り付けていない状態の二段圧縮機(10)の重心がケーシング(15)の軸心上にある場合は、3つのマフラー(21,22,23)を取り付けても二段圧縮機(10)の重心はケーシング(15)の軸心に保たれる。また、3つのマフラー(21,22,23)を取り付けていない状態の二段圧縮機(10)の重心がケーシング(15)の軸心上から少しだけずれている場合は、3つのマフラー(21,22,23)を取り付けても二段圧縮機(10)の重心はケーシング(15)の軸心に近い位置に保たれる。
第7の発明は、上記第2の発明において、上記低段側圧縮機構(16)及び高段側圧縮機構(17)を収容する密閉円筒状のケーシング(15)を備え、上記各マフラー(21,22,23)は、密閉円筒状に形成される一方、上記3つのマフラー(21,22,23)は、上記ケーシング(15)の軸方向から見て、該3つのマフラー(21,22,23)の軸心を頂点とする三角形の重心が該ケーシング(15)の軸心上に位置するように、該ケーシング(15)の外周面に固定されている。
第7の発明では、ケーシング(15)の軸方向から見て、3つのマフラー(21,22,23)の軸心を頂点とする三角形の重心がケーシング(15)の軸心上に位置するように、3つのマフラー(21,22,23)がケーシング(15)の外周面に固定されている。このため、3つのマフラー(21,22,23)を取り付けた状態の二段圧縮機(10)の重心は、ケーシング(15)の軸心に近い位置になる。
本発明では、中間冷却器(61)の上流側の圧力脈動に対しては第1のマフラー(21)が設けられ、中間冷却器(61)の下流側の圧力脈動に対しては第2のマフラー(22)が設けられている。このため、中間冷却器(61)の上流側と中間冷却器(61)の下流側の両方で圧力脈動が低減されるので、低段側圧縮機構(16)の吐出側と高段側圧縮機構(17)の吸入側との間における圧力脈動、及び圧力脈動によって生じる振動を低減させることができる。さらに、中間冷却器(61)の上流側の圧力脈動と中間冷却器(61)の下流側の圧力脈動の両方が低減されるので、低段側圧縮機構(16)の吐出抵抗や、高段側圧縮機構(17)の吸入抵抗が圧力脈動によって大きくなることが抑制される。従って、圧力脈動による運転効率の低下を抑制することができる。
また、上記第2の発明では、低段側圧縮機構(16)が吸入する流体の流量変動によって生じる圧力脈動に対して、第3のマフラー(23)が設けられている。ここで、2つの圧縮機構を備える圧縮機には、二段圧縮を行わずに、各圧縮機構がそれぞれ単段圧縮を行うものがある。このような圧縮機では、吸入配管が各圧縮機構に接続されているので、一方の圧縮機構が吸入する流体の流量変動の位相と、他方の圧縮機構が吸入する流体の流量変動の位相とをずらすことで、吸入配管における流体の流量変動を緩和させ、その吸入配管における圧力脈動の低減を図ることができる。しかし、2つの圧縮機構を備える圧縮機のうち二段圧縮を行うものは、吸入配管(13)が接続する圧縮機構(16,17)が1つだけである。このため、各圧縮機構(16,17)がそれぞれ単段圧縮を行うものに比べて、吸入配管(13)における圧力脈動が大きくなってしまう。この第2の発明では、吸入配管(13)にマフラー(23)がなければ吸入配管(13)における圧力脈動が大きくなる二段圧縮機(10)において、吸入配管(13)に第3のマフラー(23)が設けられているので、第3のマフラー(23)を設ける効果が大きくなる。つまり、吸入配管(13)における圧力脈動を大きく低減させることができる。さらに、低段側圧縮機構(16)の吸入抵抗が圧力脈動によって大きくなることが抑制されるので、圧力脈動による運転効率の低下をさらに抑制することができる。
また、上記第3の発明では、マフラー(21,22,23)とそのマフラー(21,22,23)に対応する圧縮機構(16,17)との間の流路距離を短くして、その間における圧力脈動を大きく低減することができるように、各マフラー(21,22,23)をケーシング(15)の外面に固定している。このため、圧力脈動によって各圧縮機構(16,17)の吐出抵抗又は吸入抵抗が大きくなることを大きく抑制することが可能になり、運転効率の低下を大きく抑制することが可能になる。
また、上記第4の発明では、振動の中心軸であるケーシング(15)の軸心上に、振動する物体である二段圧縮機(10)の重心が近づくように、ケーシング(15)の外周面を周方向に3等分して形成される3つの領域の別々の領域に3つのマフラー(21,22,23)を固定している。このため、3つのマフラー(21,22,23)をケーシング(15)の外周面に設けることによる振れ回りを抑制することができる。そして、二段圧縮機(10)の振動を抑制することができる。
ところで、振動の面から見ると、マフラー(21,22,23)がケーシング(15)と一体で振動しないように、マフラー(21,22,23)をケーシング(15)に固定しない方が望ましい。しかし、上述したように、マフラー(21,22,23)をケーシング(15)の外面に固定すると、マフラー(21,22,23)とケーシング(15)との距離を短くでき、圧力脈動による運転効率の低下を抑制することが可能である。この第4の発明では、運転効率を優先してマフラー(21,22,23)をケーシング(15)の外面に固定した上で、マフラー(21,22,23)をケーシング(15)に固定することによって生じる振れ回りが大きくならないようにしている。従って、運転効率が高く、低振動の二段圧縮機(10)を構成することができる。この点は、第5の発明、第6の発明でも同じである。
また、上記第5、第6、第7の各発明では、3つのマフラー(21,22,23)を取り付けた状態の二段圧縮機(10)の重心が、ケーシング(15)の軸心に近い位置になるようにしている。このため、3つのマフラー(21,22,23)をケーシング(15)の外周面に設けることによる振れ回りを抑制することができる。そして、二段圧縮機(10)の振動を抑制することができる。
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。
本実施形態は、本発明に係る二段圧縮機(10)である。この二段圧縮機(10)は、高圧ドーム型の圧縮機であり、図1に示すように、ケーシング(15)と低段側圧縮機構(16)と高段側圧縮機構(17)と電動機(25)とを備えている。低段側圧縮機構(16)と高段側圧縮機構(17)は、共に容積型の流体機械の一種であるロータリ式の流体機械により構成されている。この二段圧縮機(10)は、低段側圧縮機構(16)で圧縮した流体を高段側圧縮機構(17)で更に圧縮する二段圧縮を行うように構成されている。
ケーシング(15)は、縦長で円筒状の密閉容器により構成されている。ケーシング(15)は、その軸心が鉛直方向に延びるように縦置きに設置される。ケーシング(15)内では、低段側圧縮機構(16)及び高段側圧縮機構(17)が、電動機(25)の下側に配置されている。また、電動機(25)側から順番に、フロントヘッド、高段側圧縮機構(17)、ミドルプレート、低段側圧縮機構(16)、及びリアヘッドが積層されている(図示省略)。フロントヘッド及びリアヘッドは、駆動軸(26)の軸受けになる部材である。
ケーシング(15)には、吸入配管(13)と上流側中間配管(11)と下流側中間配管(12)と吐出配管(14)とが設けられている。吸入配管(13)は、ケーシング(15)の胴部を貫通して、低段側圧縮機構(16)の吸入側に接続されている。上流側中間配管(11)は、ケーシング(15)の胴部を貫通して、低段側圧縮機構(16)の吐出側に接続されている。下流側中間配管(12)は、ケーシング(15)の胴部を貫通して、高段側圧縮機構(17)の吸入側に接続されている。吐出配管(14)は、ケーシング(15)の頂部を貫通して、電動機(25)の上方に開口している。
ケーシング(15)の下部には、図2及び図3に示すように、4つの脚部(20)が等角度間隔で設けられている。ケーシング(15)は、4つの脚部(20)によって、例えば室外機の底面板に固定される。
電動機(25)は、図示しないが、ステータとロータとにより構成されている。ステータは、ケーシングの内周面に固定されている。ロータは、ステータの内側に配置されている。ロータの中央部には、上下方向に延びる駆動軸(26)の主軸部(26a)が連結されている。主軸部(26a)の軸心は、ケーシング(15)の軸心と一致している。
低段側圧縮機構(16)は、図4に示すように、共に円環状に形成されたシリンダ(41)及びロータリピストン(42)を備えている。なお、図4において括弧付きの符号が併記されている部材は、括弧がない符号が低段側圧縮機構(16)の符号を表し、括弧内の符号が高段側圧縮機構(17)の符号を表している。
シリンダ(41)及びロータリピストン(42)は、下側のリアヘッドと上側のミドルプレートとによって挟み込まれている。シリンダ(41)の内径は、ロータリピストン(42)の外径よりも大きくなっている。シリンダ(41)の内周面とロータリピストン(42)の外周面との間には、シリンダ室(43)が形成されている。
ロータリピストン(42)の外周面には、平板状のブレード(44)が突設されている。ブレード(44)は、シリンダ(41)に対して揺動可能に設けられた一対の揺動ブッシュ(45)に対して、摺動自在に挟み込まれている。ロータリピストン(42)は、ブレード(44)と共に、シリンダ(41)に対して揺動可能になっている。ブレード(44)は、シリンダ室(43)を2つに区画している。
ロータリピストン(42)の内側には、駆動軸(26)の第1偏心部(26b)が回転自在に嵌め込まれている。第1偏心部(26b)は、主軸部(26a)よりも大径で且つ主軸部(26a)に対して偏心している。低段側圧縮機構(16)では、駆動軸(26)が回転すると、ロータリピストン(42)の内周面が第1偏心部(26b)の外周面と摺接し、ロータリピストン(42)の外周面がシリンダ(41)の内周面と摺接しながら、ロータリピストン(42)が偏心回転する。
シリンダ(41)には、吸入配管(13)とシリンダ室(43)とを連通させる吸入ポート(46)が形成されている。吸入ポート(46)は、一方の揺動ブッシュ(45)(図2における右側の揺動ブッシュ)の近傍に開口している。シリンダ室(43)では、吸入ポート(46)が開口する側が低圧側になる。
また、低段側圧縮機構(16)では、リアヘッドに、上流側中間配管(11)とシリンダ室(43)とを連通させる吐出ポート(47)が形成されている。吐出ポート(47)は、他方の揺動ブッシュ(45)(図2における左側の揺動ブッシュ)の近傍に開口している。シリンダ室(43)では、吐出ポート(47)が開口する側が高圧側になる。
高段側圧縮機構(17)は、低段側圧縮機構(16)と同様の構成になっている。高段側圧縮機構(17)は、共に円環状に形成されたシリンダ(51)及びロータリピストン(52)を備えている。シリンダ(51)及びロータリピストン(52)は、上側のフロントヘッドと下側のミドルプレートとによって挟み込まれている。シリンダ(51)の内径は、ロータリピストン(52)の外径よりも大きくなっている。シリンダ(51)の内周面とロータリピストン(52)の外周面との間には、シリンダ室(53)が形成されている。
ロータリピストン(52)の外周面には、平板状のブレード(54)が突設されている。ブレード(54)は、シリンダ(51)に対して揺動可能に設けられた一対の揺動ブッシュ(55)に対して、摺動自在に挟み込まれている。ロータリピストン(52)は、ブレード(54)と共に、シリンダ(51)に対して揺動可能になっている。ブレード(54)は、シリンダ室(53)を2つに区画している。
ロータリピストン(52)の内側には、駆動軸(26)の第2偏心部(26c)が回転自在に嵌め込まれている。第2偏心部(26c)は、主軸部(26a)よりも大径で且つ主軸部(26a)に対して偏心している。高段側圧縮機構(17)では、駆動軸(26)が回転すると、ロータリピストン(52)の内周面が第2偏心部(26c)の外周面と摺接し、ロータリピストン(52)の外周面がシリンダ(51)の内周面と摺接しながら、ロータリピストン(52)が偏心回転する。
シリンダ(51)には、下流側中間配管(12)とシリンダ室(53)とを連通させる吸入ポート(56)が形成されている。吸入ポート(56)は、一方の揺動ブッシュ(55)(図2における右側の揺動ブッシュ)の近傍に開口している。シリンダ室(53)では、吸入ポート(56)が開口する側が低圧側になる。
また、高段側圧縮機構(17)では、フロントヘッドに、吐出配管(14)とシリンダ室(53)とを連通させる吐出ポート(57)が形成されている。吐出ポート(57)の一端側は、他方の揺動ブッシュ(55)(図2における左側の揺動ブッシュ)の近傍に開口している。シリンダ室(53)では、吐出ポート(57)が開口する側が高圧側になる。吐出ポート(57)の他端側は、電動機(25)の下側に開口している。
ケーシング(15)の底部には、潤滑油が貯留された油溜りが形成されている。駆動軸(26)の下端部には、油溜りに浸漬された遠心式の油ポンプが設けられている(図示省略)。油ポンプは、駆動軸(26)の内部を上下方向に延びる給油通路に接続されている。油ポンプは、低段側圧縮機構(16)及び高段側圧縮機構(17)の摺動部や、駆動軸(26)の軸受部に、給油通路を通じて潤滑油を供給する。
本実施形態では、二段圧縮機(10)が、図1,2,3に示すように、密閉円筒状に形成されたマフラー(21,22,23)を3つ備えている。第1のマフラー(21)は上流側中間配管(11)の下流端に接続され、第2のマフラー(22)は下流側中間配管(12)の上流端に接続され、第3のマフラー(23)は吸入配管(13)の上流端に接続されている。3つのマフラー(21,22,23)は、何れもケーシング(15)の外周面に、固定部材(40)を介して固定されている。
ところで、ケーシング(15)は、各圧縮機構(16,17)の駆動に伴うトルク変動によって振動するので、マフラー(21,22,23)をケーシング(15)に固定すると、振れ回りが生じて振動が大きくなるおそれがある。また、マフラー(21,22,23)は配管における圧力脈動を低減させることができるが、圧力脈動によってマフラー(21,22,23)自身が振動してしまう。このため、マフラー(21,22,23)をケーシング(15)に固定すると、マフラー(21,22,23)の振動がケーシング(15)に伝達される。従って、振動面から見ると、マフラー(21,22,23)をケーシング(15)から離した位置に設置することが望ましい。
しかし、マフラー(21,22,23)をケーシング(15)から離した位置に設置すると、上述したように、マフラー(21,22,23)とそのマフラー(21,22,23)に対応する圧縮機構(16,17)との間の流路距離が長くなり、その間における圧力脈動がそれほど大きくは低減されない。このため、圧力脈動によって各圧縮機構(16,17)の吐出抵抗又は吸入抵抗が大きくなることをそれほど大きく抑制することができず、運転効率が低下してしまう。
そこで、本実施形態では、運転効率を優先して、マフラー(21,22,23)とそのマフラー(21,22,23)に対応する圧縮機構(16,17)との間の流路距離を短くできるように、3つのマフラー(21,22,23)をケーシング(15)の外周面に固定して、マフラー(21,22,23)とそのマフラー(21,22,23)に対応する圧縮機構(16,17)との間における圧力脈動が大きく低減されるようにしている。
ただ、何も考慮せずにマフラー(21,22,23)をケーシング(15)に固定するだけでは、振動面から好ましくない。従って、本実施形態では、マフラー(21,22,23)をケーシング(15)に固定することによって生じる振れ回りを抑制する対策が講じられている。
具体的に、3つのマフラー(21,22,23)は、トルク変動による周方向の振動の中心軸であるケーシング(15)の軸心上に、振動する物体である二段圧縮機(10)の重心が近づくように、ケーシング(15)の外周面を周方向に3等分して形成される3つの領域の別々の領域に固定されている。さらに、3つのマフラー(21,22,23)は、3つのマフラー(21,22,23)を合わせたものの重心がケーシング(15)の軸心上に位置するように、ケーシング(15)の外周面に配置されている。
なお、3つのマフラー(21,22,23)を合わせたものの重心とは、3つのマフラー(21,22,23)の合計質量の中心である。具体的に、第1のマフラー(21)の重心の平面位置をA(X1,Y1)、第2のマフラー(22)の重心の平面位置をB(X2,Y2)、第3のマフラー(23)の重心の平面位置をC(X3,Y3)、第1のマフラー(21)の質量をW1、第2のマフラー(22)の質量をW2、第3のマフラー(23)の質量をW3とすると、3つのマフラー(21,22,23)を合わせたものの重心G(X,Y)は以下の式で表される。重心G(X,Y)は、平面視でケーシング(15)の軸心上に位置している。
X=(X1×W1+X2×W2+X3×W3)/(W1+W2+W3)
Y=(Y1×W1+Y2×W2+Y3×W3)/(W1+W2+W3)
本実施形態によれば、3つのマフラー(21,22,23)を取り付けていない状態の二段圧縮機(10)の重心がケーシング(15)の軸心上にある場合は、3つのマフラー(21,22,23)を取り付けても二段圧縮機(10)の重心はケーシング(15)の軸心に保たれる。また、3つのマフラー(21,22,23)を取り付けていない状態の二段圧縮機(10)の重心がケーシング(15)の軸心上から少しだけずれている場合は、3つのマフラー(21,22,23)を取り付けても二段圧縮機(10)の重心はケーシング(15)の軸心に近い位置に保たれる。
なお、3つのマフラー(21,22,23)は、ケーシング(15)の軸方向から見て、3つのマフラー(21,22,23)を合わせたものの重心がケーシング(15)内の全構成部品とケーシング(15)とからなる圧縮機本体の重心に一致するように、ケーシング(15)の外周面に配置されていてもよい。すわなち、平面視で、3つのマフラー(21,22,23)を合わせたものの重心が圧縮機本体の重心に一致するようにしてもよい。さらに、高さ方向においても、3つのマフラー(21,22,23)を合わせたものの重心が圧縮機本体の重心に一致するようにしてもよい。
また、3つのマフラー(21,22,23)は、ケーシング(15)の軸方向から見て、3つのマフラー(21,22,23)の軸心を頂点とする三角形の重心がケーシング(15)の軸心上に位置するように、ケーシング(15)の外周面に配置されていてもよい。
第1のマフラー(21)は、その内部空間の下部に上流側中間配管(11)の出口端が開口するように、上流側中間配管(11)が接続されている。上流側中間配管(11)は、入口から出口まで真っ直ぐ延びている。本実施形態では、第1のマフラー(21)とケーシング(15)との距離が短くなるように第1のマフラー(21)がケーシング(15)の外周面に固定されているので、第1のマフラー(21)と低段側圧縮機構(16)の吐出側との間の流路距離が短くなる。このため、第1のマフラー(21)と低段側圧縮機構(16)の吐出側との間における圧力脈動を第1のマフラー(21)によって大きく低減することができる。また、第1のマフラー(21)には、流体を冷却するための中間冷却器(61)の入口に接続する第1中間ガス配管(67)が接続されている。第1中間ガス配管(67)は、第1のマフラー(21)の内部空間の上部に開口している。
第2のマフラー(22)は、その内部空間の下部に下流側中間配管(12)の入口端が開口するように、下流側中間配管(12)が接続されている。下流側中間配管(12)は、入口から出口まで真っ直ぐ延びている。本実施形態では、第2のマフラー(22)とケーシング(15)との距離が短くなるように第2のマフラー(22)がケーシング(15)の外周面に固定されているので、第2のマフラー(22)と高段側圧縮機構(17)の吸入側との間の流路距離が短くなる。このため、第2のマフラー(22)と高段側圧縮機構(17)の吸入側との間における圧力脈動を第2のマフラー(22)によって大きく低減することができる。また、第2のマフラー(22)には、中間冷却器(61)の出口に接続するする第2中間ガス配管(68)が接続されている。第2中間ガス配管(68)は、第2のマフラー(22)の内部空間の上部に開口している。
第3のマフラー(23)は、その内部空間の下部に吸入配管(13)の入口端が開口するように、吸入配管(13)が接続されている。吸入配管(13)は、入口から出口まで真っ直ぐ延びている。本実施形態では、第3のマフラー(23)とケーシング(15)との距離が短くなるように第3のマフラー(23)がケーシング(15)の外周面に固定されているので、第3のマフラー(23)と低段側圧縮機構(16)の吸入側との間の流路距離が短くなる。このため、第3のマフラー(23)と低段側圧縮機構(16)の吸入側との間における圧力脈動を第3のマフラー(23)によって大きく低減することができる。また、第3のマフラー(23)には、蒸発器(63)の出口に接続するする低圧ガス配管(69)が接続されている。低圧ガス配管(69)は、第3のマフラー(23)の内部空間の上部に開口している。
本実施形態の二段圧縮機(10)は、例えば図5に示すような、蒸気圧縮式の冷凍サイクルを行う冷媒回路(60)に接続される。なお、冷媒回路(60)の構成は単なる一例である。
この冷媒回路(60)には、凝縮器(放熱器)(62)と、蒸発器(63)と、電子膨張弁により構成された第1減圧弁(64)と、密閉容器状の気液分離器(65)と、空気によって冷媒を冷却する中間冷却器(61)とが設けられている。また、気液分離器(65)には、第2減圧弁(67)が設けられたインジェクション通路(66)が接続されている。インジェクション通路(66)は、中間冷却器(61)と第2のマフラー(22)との間に接続されている。この冷媒回路(60)では、図5の矢印の向きに冷媒が流通する。なお、凝縮器(62)及び蒸発器(63)の近傍には送風機が設けられているが、図5では省略する。
−二段圧縮機の動作−
二段圧縮機(10)の動作について説明する。二段圧縮機(10)では、電動機(25)の運転が行われると、駆動軸(26)の回転によって低段側圧縮機構(16)及び高段側圧縮機構(17)が駆動し、低段側圧縮機構(16)及び高段側圧縮機構(17)で冷媒の圧縮が行われる。なお、低段側圧縮機構(16)及び高段側圧縮機構(17)の動作はほとんど同じであるため、以下では、低段側圧縮機構(16)の動作についてのみ説明し、高段側圧縮機構(17)の動作の説明は省略する。
低段側圧縮機構(16)へ冷媒が流入する過程について、図6を参照しながら説明する。駆動軸(26)が回転角が0°の状態から僅かに回転して、ロータリピストン(42)とシリンダ(41)の接触位置が吸入ポート(46)の開口部を通過すると、吸入ポート(46)からシリンダ室(43)へ冷媒が流入し始める。そして、シリンダ室(43)へは、駆動軸(26)の回転角が90°,180°,270°と大きくなるのに伴い冷媒が流入し、回転角が360°になるまで冷媒が流入し続ける。
続いて、低段側圧縮機構(16)で冷媒を圧縮する過程について説明する。シリンダ室(43)への冷媒の流入が終了した状態(駆動軸(26)の回転角360°)において、駆動軸(26)が回転角が再び0°の状態から僅かに回転すると、ロータリピストン(42)とシリンダ(41)の接触位置が吸入ポート(46)の開口部を通過する。低段側圧縮機構(16)では、この接触位置が吸入ポート(46)の開口部を通過した時点で、低段側圧縮機構(16)における冷媒の閉じ込みが完了する。そして、この状態から駆動軸(26)がさらに回転すると冷媒の圧縮が開始され、シリンダ室(43)内の冷媒の圧力が吐出ポート(47)の外側の冷媒の圧力を上回ると、吐出弁が開状態になり冷媒が吐出ポート(47)から上流側中間配管(11)へ吐出される。冷媒の吐出は、駆動軸(26)の回転角が360°になるまで続く。
−実施形態の効果−
上記実施形態では、中間冷却器(61)の上流側の圧力脈動に対しては第1のマフラー(21)が設けられ、中間冷却器(61)の下流側の圧力脈動に対しては第2のマフラー(22)が設けられている。このため、中間冷却器(61)の上流側と中間冷却器(61)の下流側の両方で圧力脈動が低減されるので、低段側圧縮機構(16)の吐出側と高段側圧縮機構(17)の吸入側との間における圧力脈動、及び圧力脈動によって生じる振動を低減させることができる。さらに、中間冷却器(61)の上流側の圧力脈動と中間冷却器(61)の下流側の圧力脈動の両方が低減されるので、低段側圧縮機構(16)の吐出抵抗や、高段側圧縮機構(17)の吸入抵抗が圧力脈動によって大きくなることが抑制される。従って、圧力脈動による運転効率の低下を抑制することができる。
また、上記実施形態では、低段側圧縮機構(16)が吸入する流体の流量変動によって生じる圧力脈動に対して、第3のマフラー(23)が設けられている。上記実施形態では、上述したように、吸入配管(13)にマフラー(23)がなければ吸入配管(13)における圧力脈動が大きくなる二段圧縮機(10)において、吸入配管(13)に第3のマフラー(23)が設けられている。このため、第3のマフラー(23)を設ける効果が大きくなる。つまり、吸入配管(13)における圧力脈動を大きく低減させることができる。さらに、低段側圧縮機構(16)の吸入抵抗が圧力脈動によって大きくなることが抑制されるので、圧力脈動による運転効率の低下をさらに抑制することができる。
また、上記実施形態では、マフラー(21,22,23)とそのマフラー(21,22,23)に対応する圧縮機構(16,17)との間の流路距離を短くして、その間における圧力脈動を大きく低減することができるように、各マフラー(21,22,23)をケーシング(15)の外面に固定している。このため、圧力脈動によって各圧縮機構(16,17)の吐出抵抗又は吸入抵抗が大きくなることを大きく抑制することが可能になり、運転効率の低下を大きく抑制することが可能になる。
また、上記実施形態では、振動の中心軸であるケーシング(15)の軸心上に、振動する物体である二段圧縮機(10)の重心が近づくように、ケーシング(15)の外周面を周方向に3等分して形成される3つの領域の別々の領域に3つのマフラー(21,22,23)を固定している。このため、3つのマフラー(21,22,23)をケーシング(15)の外周面に設けることによる振れ回りを抑制することができる。そして、二段圧縮機(10)の振動を抑制することができる。
ところで、振動の面から見ると、マフラー(21,22,23)がケーシング(15)と一体で振動しないように、マフラー(21,22,23)をケーシング(15)に固定しない方が望ましい。しかし、上述したように、マフラー(21,22,23)をケーシング(15)の外面に固定すると、マフラー(21,22,23)とケーシング(15)との距離を短くでき、圧力脈動による運転効率の低下を抑制することが可能である。上記実施形態では、運転効率を優先してマフラー(21,22,23)をケーシング(15)の外面に固定した上で、マフラー(21,22,23)をケーシング(15)に固定することによって生じる振れ回りが大きくならないようにしている。従って、運転効率が高く、低振動の二段圧縮機(10)を構成することができる。
《その他の実施形態》
上記実施形態については、以下のような構成としてもよい。
上記実施形態について、二段圧縮機(10)が備えるマフラーが、第1のマフラー(21)と第2のマフラー(22)の2つであってもよい。
また、上記実施形態について、第3のマフラー(23)がいわゆるアキュームレータとして設けられていてもよい。
また、上記実施形態について、二段圧縮機(10)を低圧ドーム型に構成して、吐出配管(14)にマフラーを設け、そのマフラーをケーシング(15)の外面に固定してもよい。この場合、マフラーは、油分離器として設けられていてもよい。
なお、以上の実施形態は、本質的に好ましい例示であって、本発明、その適用物、あるいはその用途の範囲を制限することを意図するものではない。