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JP2009270012A - ジメチルスルホキシド中でのアミロース合成 - Google Patents

ジメチルスルホキシド中でのアミロース合成 Download PDF

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JP2009270012A
JP2009270012A JP2008121691A JP2008121691A JP2009270012A JP 2009270012 A JP2009270012 A JP 2009270012A JP 2008121691 A JP2008121691 A JP 2008121691A JP 2008121691 A JP2008121691 A JP 2008121691A JP 2009270012 A JP2009270012 A JP 2009270012A
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hydrogel
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aqueous solvent
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Withdrawn
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JP2008121691A
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English (en)
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Junichi Kadokawa
淳一 門川
Hironori Izawa
浩則 井澤
Takeshi Takaba
武史 鷹羽
Kayo Hosoya
佳代 細谷
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Kagoshima University NUC
Ezaki Glico Co Ltd
Original Assignee
Kagoshima University NUC
Ezaki Glico Co Ltd
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Abstract

【課題】ジメチルスルホキシドを主成分とする有機系溶媒相中に溶解した状態の合成アミロースを提供すること。
【解決手段】水を主成分とする水系溶媒相中でアミロースを合成し、そして合成されたアミロースを、ジメチルスルホキシドを主成分とする有機系溶媒相中に溶解した形態で得る方法であって、該水系溶媒相中でアミロース合成基質とアミロース合成酵素とを接触させてアミロースを合成する工程を包含し、ここで、該水系溶媒相と該有機系溶媒相とはヒドロゲル中またはその表面で接触しているが、ヒドロゲルによって該水系溶媒相中の水と該有機系溶媒相中のジメチルスルホキシドとの接触が制限されるために該有機系溶媒相から該水系溶媒相にジメチルスルホキシドが実質的に浸入しない状態にあり、該合成されたアミロースが該水系溶媒相から該有機系溶媒相に移行し、該有機系溶媒相中に溶解した形態の合成アミロースが得られる、方法。
【選択図】図1

Description

本発明は、ジメチルスルホキシド中に溶解した合成アミロースを得る方法に関する。
アミロースは、グルコース残基がα−1,4−結合で多数結合した多糖である。アミロースはヘリックス構造をとり、その内部の空洞部分にゲスト物質を取り込んで包接錯体を形成するという、特徴的な機能を有する。これまでに、多数の低分子物質が水中でアミロースと包接錯体を形成することが知られている(非特許文献1)。また高分子物質の場合には、高分子物質が存在する水中でアミロースの酵素合成を行う方法により、高分子物質:アミロース包接錯体を形成させる方法(つるまき重合法)が報告されていた(非特許文献2)。
多くの高分子物質は、水に難溶性であるため、つるまき重合法を用いても包接錯体を形成させることができない場合がある。このような場合には、高分子物質を溶解可能な有機溶媒中でつるまき重合を行うことが期待されるが、アミロース製造用酵素は有機溶媒中では活性を失うため、有機溶媒中でアミロース合成を行うことはできない。そのため、有機溶媒中に溶解した形態の合成アミロースを得ることは困難であった。
久下喬、澱粉科学、1987、34、49−57 Kadokawaら,Macromolecules 2001、34、6536−6538
本発明は、上記問題点の解決を意図するものであり、ジメチルスルホキシドを主成分とする有機系溶媒相中に溶解した状態の合成アミロースを提供することを目的とする。
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、ジメチルスルホキシド(DMSO)を主成分とする有機系溶媒相中のヒドロゲルマトリックス内の水系溶媒相中などの、DMSOから遮断された条件下でアミロースを合成させることにより、ヒドロゲルマトリックス内でアミロースが合成され、合成されたアミロースはDMSO中へと移行するために、DMSO中でアミロース分子が効率よく得られることを見出し、これに基づいて本発明を完成させた。
詳細には、以下のとおりである。α−グルカンホスホリラーゼはデンプンやグリコーゲンなどのα−(1→4)−D−グルカンを加リン酸分解しグルコース−1−リン酸(G−1−P)を生成する反応を触媒する酵素である。しかし、この反応は可逆的であり、過剰量のG−1−P存在下、プライマーであるマルトオリゴ糖を用いることで、α−グルカンホスホリラーゼは重合方向の反応も触媒し、α−(1→4)−D−グルカン(アミロース)を与えることが知られている。α−グルカンホスホリラーゼは一般の生体触媒と同様に有機溶媒耐性に乏しいので、有機溶媒中で反応を触媒することができず、反応が進行しない。そのため、反応場は水中に限られている。
アルギン酸は高い水溶性を示す一方で、DMSOとは全く相溶しない。このため、アルギン酸カルシウムヒドロゲルを用いた場合には、DMSO相から水相へのDMSOの浸入を防ぐ上で有利である(図1)。後述する実施例1〜4では、そのようなアルギン酸カルシウム内包反応場を用いるDMSO中でのアミロースの酵素合成が確認された。
特定の実施形態では、本発明は、水系溶媒相と有機系溶媒相とはヒドロゲル中またはその表面で接触しているが、ヒドロゲルによって水系溶媒相中の水と有機系溶媒相中のジメチルスルホキシドとの接触が制限されるために有機系溶媒相から水系溶媒相にジメチルスルホキシドが実質的に浸入しない状態で、水系溶媒相中でアミロース合成基質とアミロース合成酵素とを接触させてアミロースを合成する工程を包含する。合成されたアミロースは、水系溶媒相から有機系溶媒相に移行するので、本発明によれば、有機系溶媒相中に溶解した形態の合成アミロースが得られる。
理論に限定されるわけではないが、本発明は、以下の原理に基づくと考えられる。本発明においては、アミロース合成酵素(例えば、α−グルカンホスホリラーゼ)は、DMSOを主成分とする有機系溶媒相とは、ヒドロゲルによって隔てられているかまたはヒドロゲルマトリックス内部に存在している。そのため、アミロース合成酵素とDMSOとの接触が制限されている。すなわち、酵素の存在環境中への有機溶媒の浸入が少ない。そのため、酵素が有機溶媒によって変性・失活することが少なく、アミロース合成反応を触媒可能である。DMSOは生産物であるアミロースを溶解可能な溶媒である。そのため、合成されたアミロースは有機系溶媒相に移行し、蓄積される。
本発明により、例えば、以下が提供される:
(項目1)
水を主成分とする水系溶媒相中でアミロースを合成し、そして合成されたアミロースを、ジメチルスルホキシドを主成分とする有機系溶媒相中に溶解した形態で得る方法であって、
該水系溶媒相中でアミロース合成基質とアミロース合成酵素とを接触させてアミロースを合成する工程を包含し、
ここで、該水系溶媒相と該有機系溶媒相とはヒドロゲル中またはその表面で接触しているが、ヒドロゲルによって該水系溶媒相中の水と該有機系溶媒相中のジメチルスルホキシドとの接触が制限されるために該有機系溶媒相から該水系溶媒相にジメチルスルホキシドが実質的に浸入しない状態にあり、該合成されたアミロースが該水系溶媒相から該有機系溶媒相に移行し、該有機系溶媒相中に溶解した形態の合成アミロースが得られる、方法。
(項目2)
前記ヒドロゲルを形成するポリマーが、アガロース、アルギン酸イオン架橋物、ポリアクリルアミド、コラーゲンおよびこれらの組合せからなる群から選択される、項目1項に記載の方法。
(項目3)
前記ヒドロゲルを形成するポリマーが、アルギン酸カルシウムである、項目2に記載の方法。
(項目4)
前記水溶媒および前記アミロース合成酵素が、前記ヒドロゲル中に含有される、項目1〜3のいずれか1項に記載の方法。
(項目5)
前記水溶媒および前記アミロース合成酵素が、前記ヒドロゲルによって前記ジメチルスルホキシド溶媒と隔てられている、項目1〜3のいずれか1項に記載の方法。
(項目6)
前記アミロース合成酵素がα−グルカンホスホリラーゼであり、前記アミロース合成基質がプライマーおよびグルコース−1−リン酸である、項目1〜5のいずれか1項に記載の方法。
(項目7)
前記アミロース合成酵素がα−グルカンホスホリラーゼおよびスクロースホスホリラーゼであり、前記アミロース合成基質がプライマー、スクロースおよび無機リン酸またはグルコース−1−リン酸である、項目1〜5のいずれか1項に記載の方法。
(項目8)
前記アミロース合成酵素がアミロスクラーゼであり、前記アミロース合成基質がプライマーおよびスクロースである、項目1〜5のいずれか1項に記載の方法。
本発明の方法を用いることにより、溶媒交換などの煩雑な操作を行わずに、合成アミロースの有機溶媒溶液をアミロースの合成と同時に得することが可能となる。
この結果、水には溶けにくい物質(例えば、高分子物質または低分子物質)がゲスト物質としてアミロースに包接された複合体を製造することができる。本発明の方法によって合成されるアミロース溶液は、有機溶媒に溶ける毒性物質の除去などに利用可能である。
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明の方法においては、ジメチルスルホキシド(DMSO)を主成分とする有機系溶媒相と水を主成分とする水系溶媒相とを有する系中でアミロースを合成する。
(1.ジメチルスルホキシドを主成分とする有機系溶媒相)
ジメチルスルホキシドを主成分とする有機系溶媒相は、主にジメチルスルホキシドを含む。本明細書中では、用語「ジメチルスルホキシドを主成分とする」とは、この溶媒相中の50重量%(wt%)以上がジメチルスルホキシドであることをいう。DMSOは、アミロースを溶解するほぼ唯一の有機溶媒である。
この有機溶媒相中のDMSOの濃度は、好ましくは約60重量%以上であり、より好ましくは約70重量%以上であり、さらに好ましくは約80重量%以上であり、特に好ましくは約90重量%以上であり、最も好ましくは約95重量%以上である。この溶媒相中でのDMSOの量に特に上限はないが、例えば、約99重量%以下、約98重量%以下、約97重量%以下、約96重量%以下、約95重量%以下、約94重量%以下、約93重量%以下、約92重量%以下、約91重量%以下、約90重量%以下、約85重量%以下、約80重量%以下、約70重量%以下などであってもよい。好ましくは、これらのDMSOの濃度は、水を主成分とする水系溶媒相と混合する前の状態での濃度をいう。水を主成分とする水系溶媒相と混合すると、ヒドロゲルを介して、アミロースに加え、水、基質などが徐々にDMSO中に移行して、溶媒相中のDMSOの濃度が変化すると考えられるからである。
ジメチルスルホキシドを主成分とする有機系溶媒相は、水を主成分とする水系溶媒相からのアミロースの移行を妨害しない限り、他の有機溶媒を含有し得る。このような有機溶媒の例としては、エタノール、メタノールなどが挙げられる。他の有機溶媒は、アミロースを変性させない有機溶媒であることが好ましい。
アミロース合成基質がDMSO中で変性せず、ヒドロゲルを介して、水を主成分とする水系溶媒相へと移行し得るのであれば、ジメチルスルホキシドを主成分とする有機系溶媒相は、アミロース合成基質を含んでいてもよい。このようなアミロース合成基質の例としては、プライマー、スクロース、グルコース−1−リン酸、無機リン酸などが挙げられる。アミロース合成基質については、以下の「4.アミロース合成基質」の項で詳細に説明する。
(2.水を主成分とする水系溶媒相)
水を主成分とする水系溶媒相は、主に水を含む。本明細書中では、用語「水を主成分とする」とは、この水系溶媒相中の50重量%(wt%)以上が水であることをいう。この溶媒相中の水の割合は、好ましくは約60重量%以上であり、より好ましくは約70重量%以上であり、さらに好ましくは約80重量%以上であり、特に好ましくは約90重量%以上であり、最も好ましくは約95重量%以上である。この溶媒相中でのDMSOの量に特に上限はないが、例えば、約99重量%以下、約98重量%以下、約97重量%以下、約96重量%以下、約95重量%以下、約94重量%以下、約93重量%以下、約92重量%以下、約91重量%以下、約90重量%以下、約85重量%以下、約80重量%以下、約70重量%以下などであってもよい。好ましくは、これらの水の割合は、DMSOを主成分とする有機系溶媒相と混合する前の状態での濃度をいう。DMSOを主成分とする有機系溶媒相と混合すると、ヒドロゲルを介して、DMSOが徐々に水中に移行して、水系溶媒相中の水の割合が変化すると考えられるからである。
水を主成分とする水系溶媒相は、この溶媒相中でのアミロース合成を妨害しない限り、他の任意の物質を含有し得る。このような物質の例としては、塩類、pH調整剤、pH緩衝剤、安定剤、保存剤、殺菌剤などが挙げられる。このような物質は、アミロースを沈澱させないことが好ましい。
水を主成分とする水系溶媒相は、アミロース合成基質を含み得る。このようなアミロース合成基質の例としては、プライマー、スクロース、グルコース−1−リン酸、無機リン酸などが挙げられる。アミロース合成基質については、以下の「4.アミロース合成基質」の項で詳細に説明する。
アミロース合成に必要なアミロース合成基質は、DMSOを主成分とする有機系溶媒相または水を主成分とする水系溶媒相の少なくとも一方に含まれている必要がある。これらの相の両方がアミロース合成基質を含んでもよい。水を主成分とする水系溶媒相中にアミロース合成基質を含むことが好ましい。なぜなら、この場合、水を主成分とする水系溶媒相中にアミロース合成基質を含まず、DMSOを主成分とする有機系溶媒相中にのみアミロース合成基質を含む場合と比較して生成物の収率および反応効率が高いからである。
(3.ヒドロゲルを形成するポリマー)
本明細書で使用される場合、用語「ヒドロゲル」とは、水と、分散したポリマーとから形成されるゲルをいう。ゲルとは、固体と液体とからなる2相のコロイド系をいい、ヒドロゲルでは、水が分散媒である。ヒドロゲルは、好ましくは、分散相(コロイド)が連続相(水)と結合して、粘稠なゼリー状生成物を形成して流動性を失ったコロイドである。1つの実施形態では、ヒドロゲルを形成するポリマーは架橋ポリマーである。好ましくは、本発明の方法に用いるヒドロゲルの分散相(すなわち、ポリマー)は、水にもDMSOにも溶けず、マトリックスを構成するポリマーである。
ヒドロゲルを形成するポリマーはマトリックスを形成するため、「ヒドロゲルマトリックス」ともいう。ヒドロゲルを形成するポリマーは、好ましくは、アガロース、アルギン酸イオン架橋物、アガロースイオン架橋物、変性アルギン酸、セルロース、デキストラン、カラギーナン、カルボキシメチルセルロース、カルボキシメチルデキストラン、コラーゲン、ヒアルロン酸、変性ヒアルロン酸、ポリアクリルイミド、ポリエチレングリコール(PEG)、ポリビニルアルコール(PVA)およびポリメチルメタクリレート(PMMA)、ならびにこれらの組合せによるヒドロゲルから選択される。ヒドロゲルを形成するポリマーは、より好ましくは、アガロース、アルギン酸イオン架橋物、ポリアクリルアミド、コラーゲンおよびこれらの組合せからなる群から選択される。
ヒドロゲルマトリックスは、水系溶媒相と有機系溶媒相とがヒドロゲル中またはその表面で接触しているが、ヒドロゲルによって水系溶媒相中の水と有機系溶媒相中のジメチルスルホキシドとの接触が制限されるために有機系溶媒相から水系溶媒相にジメチルスルホキシドが実質的に浸入しない状態を作ることができるような構造であることが好ましい。すなわち、ヒドロゲルマトリックスは、水を主成分とする水系溶媒相中に含まれるアミロース合成酵素が有機系溶媒相中のDMSOと接触することが制限されるような構造であることが好ましい。このような構造になるように、適切なヒドロゲルを形成するポリマーが選択され、ヒドロゲルを形成するポリマーの組成が調整され得る。例えば、ヒドロゲルを形成するポリマーの架橋度が高いほどマトリックスの網目構造は細かくなり、ヒドロゲル内を物質が移動しにくくなる。架橋度が高すぎると、合成されたアミロースがDMSOへと移行しにくくなることから、架橋度は適度なものであることが好ましい。
上記の好適な種々のヒドロゲルを形成するポリマーについて好適な架橋度、濃度などを説明する。
(3.1 アガロース)
アガロースのヒドロゲルは、アガロースを高温の水に溶解し、この溶液を冷却することにより調製される。この調製の際のアガロースの濃度によって、架橋度が調節される。
アガロースの濃度は、約0.5重量%以上であることが好ましく、約0.6重量%以上であることがより好ましく、約0.7重量%以上であることがさらに好ましく、約0.8重量%以上であることが最も好ましい。アガロースの濃度は、約5.0重量%以下であることが好ましく、約4.0重量%以下であることがより好ましく、約3.5重量%以下であることがさらに好ましく、約3.0重量%以下であることが特に好ましく、約2.5重量%以下であることが最も好ましい。
アガロースは、寒天製品にみられる中性真鎖型多糖類画分であり、一般にD−ガラクトースおよびそれより変化した3,6−無水ガラクトース残基から構成される。アガロースとしては、市販の任意のアガロースを使用し得る。純粋なアガロースであってもよく、アガロペクチンなどの他の物質との混合物を使用してもよい。
アガロースは天然の海藻類の抽出物であるので、重合度は均一ではない。本発明で使用するアガロースの重量平均重合度は、約10,000以上であることが好ましく、約20,000以上であることがより好ましく、約30,000以上であることがさらに好ましく、約40,000以上であることが特に好ましく、約50,000以上であることが最も好ましい。本発明で使用するアガロースの重量平均重合度は、約1,000,000以下であることが好ましく、約900,000以下であることがより好ましく、約800,000以下であることがさらに好ましく、約700,000以下であることが特に好ましく、約600,000以下であることが最も好ましい。
(3.2 アルギン酸イオン架橋物)
アルギン酸イオン架橋物のヒドロゲルは、アルギン酸を水に溶解し、このアルギン酸溶液を、2価の陽イオン(例えば、カルシウムイオン、マグネシウムイオンなど)を含む溶液に滴下することによって調製され得る。あるいはアルギン酸溶液に、2価の陽イオンを添加することにより調製され得る。この調製の際のアルギン酸の濃度および添加されるイオンの量によって、架橋度が調節される。
アルギン酸の濃度は、イオン含有溶液と混合する前の溶液中で約0.5重量%以上であることが好ましく、約0.6重量%以上であることがより好ましく、約0.7重量%以上であることがさらに好ましく、約0.8重量%以上であることが最も好ましい。アルギン酸の濃度は、イオン含有溶液と混合する前の溶液中で約5.0重量%以下であることが好ましく、約4.0重量%以下であることがより好ましく、約3.5重量%以下であることがさらに好ましく、約3.0重量%以下であることが特に好ましく、約2.5重量%以下であることが最も好ましい。
アルギン酸溶液を滴下する2価の陽イオンを含む溶液に含有される2価の陽イオンは、好ましくは、カルシウムイオンまたはマグネシウムイオンである。アルギン酸溶液を滴下する2価の陽イオンを含む溶液中のこの2価の陽イオンの濃度は、約0.5重量%以上であることが好ましく、約1重量%以上であることがより好ましく、約1.5重量%以上であることがさらに好ましく、約2重量%以上であることが特に好ましく、約3重量%以上であることが最も好ましい。アルギン酸溶液を滴下する2価の陽イオンを含む溶液中のこの2価の陽イオンの濃度は、約15重量%以下であることが好ましく、約10重量%以下であることがより好ましく、約9重量%以下であることがさらに好ましく、約8重量%以下であることが特に好ましく、約7重量%以下であることが最も好ましい。
アルギン酸は、(C(nは任意の整数)によって表される、水に不溶なコロイド状酸である。アルギン酸は、マンヌロン酸残基とグルロン酸残基が複数重合したものである。アルギン酸は、褐色の海藻類から抽出される。アルギン酸は、乾燥時はかたく、湿時はイオン吸着性がある。アルギン酸としては、市販のアルギン酸を使用し得る。
アルギン酸は天然の海藻類の抽出物であるので、重合度は均一ではない。本発明で使用するアルギン酸の重量平均重合度は、約10,000以上であることが好ましく、約20,000以上であることがより好ましく、約30,000以上であることがさらに好ましく、約40,000以上であることが特に好ましく、約50,000以上であることが最も好ましい。本発明で使用するアルギン酸の重量平均重合度は、約1,000,000以下であることが好ましく、約900,000以下であることがより好ましく、約800,000以下であることがさらに好ましく、約700,000以下であることが特に好ましく、約600,000以下であることが最も好ましい。
(3.3 ポリアクリルアミド)
ポリアクリルアミドのヒドロゲルは、アクリルアミド(CH=CH−CO−NH)とN,N’−メチレンビスアクリルアミド(CH=CH−CO−NH−CH−NH−CO−CH=CH)を共重合させることにより調製され得る。この調製の際のポリアクリルアミドの濃度、アクリルアミドとN,N’−メチレンビスアクリルアミドとの濃度比によって、架橋度が調節される。
ポリアクリルアミドの濃度は、約0.5重量%以上であることが好ましく、約1重量%以上であることがより好ましく、約2重量%以上であることがさらに好ましく、約3重量%以上であることが特に好ましく、約4重量%以上であることが最も好ましい。ポリアクリルアミドの濃度は、約20重量%以下であることが好ましく、約18重量%以下であることがより好ましく、約16重量%以下であることがさらに好ましく、約14重量%以下であることが特に好ましく、約12重量%以下であることが最も好ましい。
N,N’−メチレンビスアクリルアミドのアクリルアミドに対する濃度比(N,N’−メチレンビスアクリルアミドの濃度/アクリルアミドの濃度)は、1/100以上であることが好ましく、1/70以上であることがより好ましく、1/50以上であることがさらに好ましい。N,N’−メチレンビスアクリルアミドのアクリルアミドに対する濃度比は、1/4以下であることが好ましく、1/6以下であることがより好ましく、1/8以下であることがさらに好ましく、1/10以下であることが特に好ましい。
(3.4 コラーゲン)
コラーゲンとは、立体構造中にコラーゲン三重らせん構造をもつタンパク質の総称である。コラーゲンは、動物組織の細胞間に存在する細胞外マトリックスの主要構成成分である。コラーゲンは、動物の結合組織中に豊富に含まれており、組織の骨格構造を構成している。例えば、コラーゲンは、結合組織軟骨および骨の白色線維にある主要なタンパク質であり、哺乳類のタンパク質の半分以上を占める。コラーゲンは水に不溶性であるが、水、希酸または希アルカリで沸騰させることにより、容易に消化される可溶性のゼラチンに変わる。コラーゲンはα鎖として知られる3本のポリペプチドのサブユニットからなる特徴的な三重らせんの立体配置をもつ。コラーゲンのマトリックスとしての性質は、コラーゲンの濃度によって調節される。
コラーゲンの濃度は、イオン含有溶液と混合する前の溶液中で約0.5重量%以上であることが好ましく、約0.6重量%以上であることがより好ましく、約0.7重量%以上であることがさらに好ましく、約0.8重量%以上であることが特に好ましく、約0.9重量%以上であることが最も好ましい。コラーゲンの濃度は、イオン含有溶液と混合する前の溶液中で約5.0重量%以下であることが好ましく、約4.0重量%以下であることがより好ましく、約3.5重量%以下であることがさらに好ましく、約3.0重量%以下であることが特に好ましく、約2.5重量%以下であることが最も好ましい。
コラーゲンは、天然物からの抽出物であってもよく、または遺伝子工学によって合成されたものであってもよい。コラーゲンとしては、市販のコラーゲンを使用し得る。
(3.11 ヒドロゲルの状態)
本発明で使用されるヒドロゲル(マトリックス)は、さらに処理されていてもよく、または処理されていなくてもよい。ヒドロゲルのさらなる処理の例としては、凍結乾燥、乾燥、遠心分離および紡糸が挙げられるがこれらに限定されない。凍結乾燥、乾燥などの処理を行った場合は、本発明において使用する前に水を充分吸収させる。
(3.12 ヒドロゲルの形状)
ヒドロゲルは、ビーズ状、膜状、管状、小胞状など任意の形状であり得る。このような形状のヒドロゲルの製造方法は、当該分野で公知である。例えば、ビーズ状のものは、溶媒中にヒドロゲル材料を滴下することによって形成され得る。
ヒドロゲルがビーズ状の場合、DMSOを主成分とする有機系溶媒相中にこのビーズを1個または複数個分散させた状態で反応を行い得る。
ヒドロゲルが膜状の場合、例えば、DMSOを主成分とする有機系溶媒相と水を主成分とする水系溶媒相との間にヒドロゲルの膜を設置してこれらの2つの相を隔てた状態で反応を行い得る。あるいは、例えば、ヒドロゲルの膜を何十にも折り畳んだ袋状の構造にし、その袋の内側にアミロース合成基質およびアミロース合成酵素を含有させ、この膜を、DMSOを主成分とする有機系溶媒相に入れた状態で反応を行い得る。あるいは、例えば、ヒドロゲルの膜を何重にも折り畳んだような構造にし、このヒドロゲル自体の中にアミロース合成基質およびアミロース合成酵素を含有させ、この膜を、DMSOを主成分とする有機系溶媒相中に入れた状態で反応を行い得る。
ヒドロゲルが管状の場合、例えば、ヒドロゲルの管の内側にアミロース合成基質およびアミロース合成酵素を含有する水系溶媒相を入れ、この管の外側に、DMSOを主成分とする有機系溶媒相を入れた状態で反応を行い得る。この場合、ヒドロゲルの管内の水溶液を交換することによってアミロース合成基質およびアミロース合成酵素を容易に再供給することができるという利点がある。あるいは、例えば、ヒドロゲルの管自体にアミロース合成基質およびアミロース合成酵素を含有させ、さらに、ヒドロゲルの管の内側にアミロース合成基質およびアミロース合成酵素を含有する水系溶媒相を入れ、この管の外側に、DMSOを主成分とする有機系溶媒相を入れた状態で反応を行い得る。あるいは、例えば、ヒドロゲルの管自体にアミロース合成基質およびアミロース合成酵素を含有させ、この管の内側および外側に、DMSOを主成分とする有機系溶媒相を入れた状態で反応を行い得る。
ヒドロゲルが小胞状の場合、例えば、ヒドロゲルの膜の内側にアミロース合成基質およびアミロース合成酵素を含有する水系溶媒相を入れ、この膜の外側に、DMSOを主成分とする有機系溶媒相を入れた状態で反応を行い得る。あるいは、例えば、ヒドロゲルの小胞膜自体にアミロース合成基質およびアミロース合成酵素を含有させ、さらにヒドロゲルの膜の内側にアミロース合成基質およびアミロース合成酵素を含有する水系溶媒相を入れ、この膜の外側に、DMSOを主成分とする有機系溶媒相を入れた状態で反応を行い得る。あるいは、例えば、ヒドロゲルの小胞膜自体にアミロース合成基質およびアミロース合成酵素を含有させ、この小胞膜の内側および外側に、DMSOを主成分とする有機系溶媒相を入れた状態で反応を行い得る。
これらはあくまで例示である。本明細書の他の箇所にも記載したが、本発明においては、反応開始時のアミロース合成基質は必ずしも水系溶媒相中に存在する必要はなく、DMSOを主成分とする有機系溶媒相中に存在してもよい。
(4.アミロース合成基質およびアミロース合成酵素)
本明細書中では、用語「アミロース合成基質」とは、酵素によって触媒作用を受け、その結果、生成物としてアミロースが合成される化合物をいう。
当該分野では、水溶液中で行われる、種々のアミロース合成反応が公知である。本発明においては、生成物としてアミロースが合成される限り、当該分野で公知の任意のアミロース合成基質が使用され得る。アミロース合成基質は、使用されるアミロース合成酵素に適切であるように選択される。
本明細書中では、用語「アミロース合成酵素」とは、アミロース合成基質からのアミロースの合成に関与する酵素をいう。
本発明で使用され得るアミロースの合成系の例としては、以下が挙げられる:
(1)α−グルカンホスホリラーゼ(Glucan phosphorylase:GP)(例えば、馬鈴薯由来)により、α−グルコース−1−リン酸(alpha−glucose−1−phosphate)のグルコシル基をプライマーであるマルトヘプタオースなどに転移することによりα−1,4−グルカン鎖を合成する方法;
(2)プライマー、スクロースおよび無機リン酸またはグルコース−1−リン酸を基質として、スクロースホスホリラーゼおよびグルカンホスホリラーゼを同時に作用させてα−1,4−グルカン鎖を合成する方法(以下、SP−GP法という)(Waldmann,H.ら,Carbohydrate Research,157(1986)c4−c7;WO2002/097107)。この方法は、他の方法よりも安価に直鎖状グルカンを合成し得るという利点を有する;
(3)プライマーおよびスクロースを基質として使用して、アミロスクラーゼを作用させることによりα−1,4−グルカン鎖を合成する方法。
従って、(1)の反応系を使用する場合、アミロース合成酵素はα−グルカンホスホリラーゼであり、アミロース合成基質はプライマーおよびグルコース−1−リン酸である。
(2)の反応系を使用する場合、アミロース合成酵素はα−グルカンホスホリラーゼおよびスクロースホスホリラーゼであり、アミロース合成基質はプライマー、スクロースおよび無機リン酸またはグルコース−1−リン酸である。
(3)の反応系を使用する場合、アミロース合成酵素はアミロスクラーゼであり、アミロース合成基質はプライマーおよびスクロースである。
(4.1 プライマー)
これらの反応系において使用されるプライマーは、アミロースの合成において出発物質として作用する分子をいう。プライマーは、α−1,4−グルコシド結合で糖単位が結合できる遊離部分を1個以上有すれば、他の部分は糖以外の部分によって形成されていてもよい。本発明の方法では、プライマーに対して糖単位がα−1,4−グルコシド結合で順次結合されて、アミロースが合成される。プライマーの例としては、グルカンホスホリラーゼによって糖単位が付加され得る任意の糖が挙げられる。プライマーは、本発明の反応の出発物質であればよく、例えば、本発明の方法によって合成された短いアミロースをプライマーとして用いて、より長いアミロースを得ることも可能である。
プライマーは、α−1,4−グルコシド結合のみを含むα−1,4−グルカンであっても、α−1,6−グルコシド結合を部分的に有してもよい。当業者は、所望のグルカンに応じて、適切なプライマーを容易に選択し得る。直鎖状のアミロースを合成する場合には、α−1,4−グルコシド結合のみを含むα−1,4−グルカンをプライマーとして用いれば、枝切り酵素などを用いずに直鎖状アミロースを合成できるので好ましい。
プライマーの例としては、マルトオリゴ糖、アミロース、アミロペクチン、グリコーゲン、デキストリン、プルラン、カップリングシュガー、澱粉およびこれらの誘導体が挙げられる。プライマーは、マルトオリゴ糖、アミロースまたはアミロペクチンであることが好ましく、マルトオリゴ糖であることがより好ましい。
マルトオリゴ糖は、本明細書中では、2〜10個のグルコースが脱水縮合して生じた物質であって、α−1,4結合によって連結された物質をいう。マルトオリゴ糖は、好ましくは4個以上の糖単位、より好ましくは5個以上の糖単位、さらに好ましくは7個以上の糖単位を有する。なお、この糖単位の数を、重合度ともいう。マルトオリゴ糖は、好ましくは10個以下の糖単位を有する。マルトオリゴ糖の糖単位数は、例えば、9個以下、8個以下、7個以下などであってもよい。マルトオリゴ糖の例としては、マルトース、マルトトリオース、マルトテトラオース、マルトペンタオース、マルトヘキサオース、マルトヘプタオース、マルトオクタオース、マルトノナオース、マルトデカオースなどのマルトオリゴ糖が挙げられる。マルトオリゴ糖は、好ましくはマルトテトラオース、マルトペンタオース、マルトヘキサオースまたはマルトヘプタオースである。マルトオリゴ糖は、単品であってもよいし、複数のマルトオリゴ糖の混合物であってもよい。マルトオリゴ糖は、直鎖状のオリゴ糖であってもよいし、分枝状のオリゴ糖であってもよい。マルトオリゴ糖は、その分子内に、環状部分を有し得る。本発明では、直鎖状のマルトオリゴ糖が好ましい。
アミロースとは、α−1,4結合によって連結されたグルコース単位から構成される直鎖分子である。アミロースは、天然の澱粉中に含まれる。本発明においてプライマーとして用いる場合、アミロースの糖単位数は、例えば、約10以上、約20以上、約30以上などであり得る。本発明においてプライマーとして用いる場合、アミロースの糖単位数は、例えば、約1000以下、約500以下、約300以下、約200以下、約100以下、約50以下、約40以下、約30以下、約20以下などであり得る。低分子アミロースを使用することが好ましい。
アミロペクチンとは、α−1,4結合によって連結されたグルコース単位に、α1,6結合でグルコース単位が連結された、分枝状分子である。アミロペクチンは天然の澱粉中に含まれる。アミロペクチンとしては、例えば、アミロペクチン100%からなるワキシーコーンスターチが用いられ得る。例えば、重合度が約1×10程度以上のアミロペクチンが原料として用いられ得る。
グリコーゲンは、グルコースから構成されるグルカンの一種であり、高頻度の枝分かれを有するグルカンである。グリコーゲンは、代表的には、グルコースのα−1,4−結合の糖鎖に対して、グルコースおよそ3単位おきに1本程度の割合で、平均重合度12〜18のグルコースのα−1,4−結合の糖鎖がα−1,6−結合で結合している。また、α−1,6−結合で結合している分枝にも同様にグルコースのα−1,4−結合の糖鎖がα−1,6−結合で結合している。そのため、グリコーゲンは網状構造を形成する。
プルランは、マルトトリオースが規則正しく、階段状にα−1,6−結合した、分子量約10万〜約30万(例えば、約20万)のグルカンである。
カップリングシュガーは、ショ糖、グルコシルスクロース、マルトシルスクロースを主成分とする混合物である。
澱粉は、アミロースとアミロペクチンとの混合物である。
プライマーは、水を主成分とする水系溶媒相またはDMSOを主成分とする有機系溶媒相のどちらに存在していてもよい。プライマーは、両方に存在していてもよい。
(4.2 無機リン酸またはグルコース−1−リン酸)
本明細書中において、無機リン酸とは、SPの反応においてリン酸基質を供与し得る物質をいう。ここでリン酸基質とは、グルコース−1−リン酸のリン酸部分(moiety)の原料となる物質をいう。スクロースホスホリラーゼによって触媒されるスクロース加リン酸分解において、無機リン酸はリン酸イオンの形態で基質として作用していると考えられる。当該分野ではこの基質を慣習的に無機リン酸というので、本明細書中でも、この基質を無機リン酸という。無機リン酸には、リン酸およびリン酸の無機塩が含まれる。通常、無機リン酸は、アルカリ金属イオンなどの陽イオンを含む水中で使用される。この場合、リン酸とリン酸塩とリン酸イオンとは平衡状態になるので、リン酸とリン酸塩とは区別をしにくい。従って、便宜上、リン酸とリン酸塩とを合わせて無機リン酸という。本発明において、無機リン酸は好ましくは、リン酸の任意の金属塩であり、より好ましくはリン酸のアルカリ金属塩である。無機リン酸の好ましい具体例としては、リン酸二水素ナトリウム、リン酸水素二ナトリウム、リン酸三ナトリウム、リン酸二水素カリウム、リン酸水素二カリウム、リン酸三カリウム、リン酸(HPO)、リン酸二水素アンモニウム、リン酸水素二アンモニウムなどが挙げられる。
無機リン酸は、1種類のみ使用してもよく、複数種類使用してもよい。
無機リン酸は、例えば、ポリリン酸(例えば、ピロリン酸、三リン酸および四リン酸)のようなリン酸縮合体またはその塩を、物理的、化学的または酵素反応などによって分解したものを反応溶液に添加することによって提供され得る。
本明細書において、グルコース−1−リン酸とは、グルコース−1−リン酸(C13P)およびその塩をいう。グルコース−1−リン酸は好ましくは、狭義のグルコース−1−リン酸(C13P)の任意の金属塩であり、より好ましくはグルコース−1−リン酸(C13P)の任意のアルカリ金属塩である。グルコース−1−リン酸の好ましい具体例としては、グルコース−1−リン酸二ナトリウム、グルコース−1−リン酸二カリウム、グルコース−1−リン酸(C13P)、などが挙げられる。本明細書において、括弧書きで化学式を書いていないグルコース−1−リン酸は、広義のグルコース−1−リン酸、すなわち狭義のグルコース−1−リン酸(C13P)およびその塩を示す。
グルコース−1−リン酸は反応開始時のSP−GP反応系において、1種類のみ使用してもよく、複数種類使用してもよい。
無機リン酸もグルコース−1−リン酸も、水を主成分とする水系溶媒相またはDMSOを主成分とする有機系溶媒相のどちらに存在していてもよい。両方に存在していてもよい。
本発明の系(好ましくは、水を主成分とする水系溶媒相)に含まれる無機リン酸のモル濃度とグルコース−1−リン酸のモル濃度との合計は、代表的には約1mM以上であり、好ましくは約10mM以上であり、より好ましくは約20mM以上である。本発明の系(好ましくは、水を主成分とする水系溶媒相)に含まれる無機リン酸のモル濃度とグルコース−1−リン酸のモル濃度との合計は、好ましくは約1000mM以下であり、好ましくは約500mM以下であり、より好ましくは約250mM以下である。無機リン酸およびグルコース−1−リン酸の量が多すぎると、グルカンの収率が低下する場合がある。使用量が少なすぎると、グルカンの合成に時間がかかる場合がある。
(4.3 スクロース)
(1)スクロース:
スクロースは、C122211で示される、分子量約342の二糖である。スクロースは、光合成能を有するあらゆる植物中に存在する。スクロースは、植物から単離されてもよいし、化学的に合成されてもよい。コストの面からみて、スクロースを植物から単離することが好ましい。スクロースを多量に含む植物の例としては、サトウキビ、サトウダイコンなどが挙げられる。サトウキビは、汁液中に約20%のスクロースを含む。サトウダイコンは、汁液中に約10〜15%のスクロースを含む。スクロースは、スクロースを含む植物の汁液から精製糖に至るいずれの精製段階のものとして提供されてもよい。
本発明の方法で使用されるスクロースは、純粋なものであることが好ましい。しかし、アミロース合成を阻害しない限り、任意の他の夾雑物を含んでいてもよい。
本発明の系中に含まれるスクロースの濃度は、好ましくは約3w/v%以上であり、より好ましくは約4w/v%以上であり、さらに好ましくは約5w/v%以上である。スクロースの濃度は、例えば、約6w/v%以上、約7w/v%以上、約8w/v%以上、約9w/v%以上、約10w/v%以上、約15w/v%以上などであってもよい。本発明の系中に含まれるスクロースの濃度は、好ましくは約80w/v%以下であり、より好ましくは約70w/v%以下であり、さらに好ましくは約60w/v%以下である。スクロースの濃度は、例えば、約50w/v%以下、約40w/v%以下、約30w/v%以下、約20w/v%以下、約15w/v%以下、約10w/v%以下などであってもよい。
なお、本明細書中でスクロースの濃度は、Weight/Volumeで、すなわち、
(スクロースの重量)×100/(溶液の容量)
で計算する。スクロースの重量が多すぎると、反応中に未反応のスクロースが析出する場合がある。スクロースの使用量が少なすぎると、高温での反応において収率が低下する場合がある。
(4.4 α−グルカンホスホリラーゼ(EC.2.4.1.1):
α−グルカンホスホリラーゼとは、α−1,4−グルカンの加リン酸分解を触媒する酵素の総称であり、グルカンホスホリラーゼ、ホスホリラーゼ、スターチホスホリラーゼ、グリコーゲンホスホリラーゼ、マルトデキストリンホスホリラーゼなどと呼ばれる場合もある。α−グルカンホスホリラーゼは、加リン酸分解の逆反応であるα−1,4−グルカン合成反応をも触媒し得る。反応がどちらの方向に進むかは、基質の量に依存する。生体内では、無機リン酸の量が多いので、α−グルカンホスホリラーゼは加リン酸分解の方向に反応が進む。本発明の方法においてSP−GP法を用いる場合、無機リン酸は、スクロースの加リン酸分解に使われ、反応溶液中に含まれる無機リン酸の量が少ないので、α−1,4−グルカンの合成の方向に反応が進む。他の系を用いる場合も、α−1,4−グルカンの合成の方向に反応が進むように基質の量が調整される。
α−グルカンホスホリラーゼは、デンプンまたはグリコーゲンを貯蔵し得る種々の植物、動物および微生物中に普遍的に存在すると考えられる。本発明においてα−グルカンホスホリラーゼを用いる場合、このα−グルカンホスホリラーゼは、植物、動物または微生物由来であってもよく、またはこれらに由来するものを遺伝子工学によって生産したものであってもよい。
α−グルカンホスホリラーゼは、藻類、ジャガイモ(馬鈴薯ともいう)、サツマイモ(甘藷ともいう)、ヤマイモ、サトイモ、キャッサバなどの芋類、キャベツ、ホウレンソウなどの野菜類、トウモロコシ、イネ、コムギ、オオムギ、ライムギ、アワなどの穀類、えんどう豆、大豆、小豆、うずら豆などの豆類などからなる群より選択される選択される植物由来であり得る。
α−グルカンホスホリラーゼは、ヒト、ウサギ、ラット、ブタなどの哺乳類などからなる群より選択される動物由来であり得る。
α−グルカンホスホリラーゼは、Thermus aquaticus、Bacillus stearothermophilus、Deinococcus radiodurans、Thermococcus litoralis、Streptomyces coelicolor、Pyrococcus horikoshi、Mycobacterium tuberculosis、Thermotoga maritima、Aquifex aeolicus、Methanococcus Jannaschii、Pseudomonas aeruginosa、Chlamydia pneumoniae、Chlorella vulgaris、Agrobacterium tumefaciens、Clostridium pasteurianum、Klebsiella pneumoniae、Synecococcus sp.、Synechocystis sp.、E.coli、Neurospora crassa、Saccharomyces cerevisiae、Chlamydomonas sp.などからなる群より選択される微生物由来であり得る。グルカンホスホリラーゼを産生する生物はこれらに限定されない。
α−グルカンホスホリラーゼは、ジャガイモ、Thermus aquaticus、Bacillus stearothermophilusに由来することが好ましく、ジャガイモに由来することがより好ましい。α−グルカンホスホリラーゼは、反応至適温度が高いことが好ましい。反応至適温度が高いα−グルカンホスホリラーゼは、例えば、高度好熱細菌に由来し得る。
(1)の反応系を使用する場合、反応開始時の系(好ましくは、水を主成分とする水系溶媒相)中に含まれるα−グルカンホスホリラーゼの量は、反応開始時の溶液中のスクロースに対して、代表的には約0.05〜1,000U/gグルコース−1−リン酸、好ましくは約0.1〜500U/gグルコース−1−リン酸、より好ましくは約0.5〜100U/gグルコース−1−リン酸である。α−グルカンホスホリラーゼの重量が多すぎると、反応中に変性した酵素が凝集しやすくなる場合がある。使用量が少なすぎると、グルカンの収率が低下する場合がある。
(2)の反応系を使用する場合、反応開始時の系(好ましくは、水を主成分とする水系溶媒相)中に含まれるα−グルカンホスホリラーゼの量は、反応開始時の溶液中のスクロースに対して、代表的には約0.05〜1,000U/gスクロース、好ましくは約0.1〜500U/gスクロース、より好ましくは約0.5〜100U/gスクロースである。α−グルカンホスホリラーゼの重量が多すぎると、反応中に変性した酵素が凝集しやすくなる場合がある。使用量が少なすぎると、グルカンの収率が低下する場合がある。
α−グルカンホスホリラーゼは、精製されていても未精製であってもよい。
(4.5 スクロースホスホリラーゼ(EC.2.4.1.7))
本明細書中では、「スクロースホスホリラーゼ」とは、スクロースのα−グリコシル基をリン酸基に転移して加リン酸分解を行う任意の酵素をいう。スクロースホスホリラーゼによって触媒される反応は、次式により示される:
スクロースホスホリラーゼは、自然界では種々の生物に含まれる。スクロースホスホリラーゼは、Streptococcus属に属する細菌(例えば、Streptococcus thermophilus、Streptococcus mutans、Streptococcus pneumoniae、およびStreptococcus mitis)、Leuconostoc mesenteroides、Pseudomonas sp.、Clostridium sp.、Pullularia pullulans、Acetobacter xylinum、Agrobacterium sp.、Synecococcus sp.、E.coli、Listeria monocytogenes、Bifidobacterium adolescentis、Aspergillus niger、Monilia sitophila、Sclerotinea escerotiorum、およびChlamydomonas sp.からなる群より選択される細菌に由来し得る。スクロースホスホリラーゼが由来する生物は、これらに限定されない。
スクロースホスホリラーゼは、スクロースホスホリラーゼを産生する任意の生物由来であり得る。スクロースホスホリラーゼは、ある程度の耐熱性を有することが好ましい。スクロースホスホリラーゼは、単独で存在する場合の耐熱性が高ければ高いほど好ましい。例えば、スクロースホスホリラーゼを4%のスクロース存在下で55℃にて30分間加熱した場合に加熱前のスクロースホスホリラーゼの活性の50%以上の活性を保持するものであることが好ましい。スクロースホスホリラーゼは、好ましくはStreptococcus属の細菌由来であり、さらに好ましくはStreptococcus mutans、Streptococcus thermophilus、Streptococcus pneumoniaeまたはStreptococcus mitis由来である。
(2)の反応系を使用する場合、反応開始時の系(好ましくは、水を主成分とする水系溶媒相)中に含まれるスクロースホスホリラーゼの量は、反応開始時の系中のスクロースに対して、代表的には約0.05〜1,000U/gスクロース、好ましくは約0.1〜500U/gスクロース、より好ましくは約0.5〜100U/gスクロースである。スクロースホスホリラーゼの重量が多すぎると、反応中に変性した酵素が凝集しやすくなる場合がある。使用量が少なすぎると、アミロースの収率が低下する場合がある。
スクロースホスホリラーゼは、精製されていても未精製であってもよい。
(4.6 枝切り酵素)
また、本発明においては、α−1,6−グルコシド結合を含有する出発材料を用いる場合などの、生成物に分岐が生じる場合には、必要に応じて、枝切り酵素を用いることができる。このような場合の枝切り酵素の使用についても、WO2002/097107に記載されている。枝切り酵素は、α−1,6−グルコシド結合を切断し得る酵素である。枝切り酵素は、アミロペクチンおよびグリコーゲンにともによく作用するイソアミラーゼ(EC 3.2.1.68)と、アミロペクチン、グリコーゲンおよびプルランに作用するα−デキストリンエンド−1,6−α−グルコシダーゼ(プルラナーゼともいう)(EC 3.2.1.41)との2つに分類される。
枝切り酵素は、微生物、細菌、および植物に存在する。枝切り酵素は、Saccharomyces cerevisiae、Chlamydomonas sp.が挙げられる。枝切り酵素を産生する細菌の例としては、Bacillus brevis、Bacillus acidopullulyticus、Bacillus macerans、Bacillus stearothermophilus、Bacillus circulans、Thermus aquaticus、Klebsiella pneumoniae、Thermoactinomyces thalpophilus、Thermoanaerobacter ethanolicus、Pseudomonas amyloderamosaなどからなる群より選択される微生物に由来し得る。枝切り酵素は、ジャガイモ、サツマイモ、トウモロコシ、イネ、コムギ、オオムギ、オートムギ、サトウダイコンなどからなる群より選択される植物に由来し得る。枝切り酵素を産生する生物はこれらに限定されない。
(2)の系を用いる場合、反応開始時の系(好ましくは、水を主成分とする水系溶媒相)中に含まれる枝切り酵素の量は、反応開始時の溶液中のスクロースに対して、代表的には約0.05〜1,000U/gスクロース、好ましくは約0.1〜500U/gスクロース、より好ましくは約0.5〜100U/gスクロースである。枝切り酵素の重量が多すぎると、反応中に変性した酵素が凝集しやすくなる場合がある。使用量が少なすぎると、グルカンの収率が低下する場合がある。
(4.7 アミロース合成酵素についての一般的説明)
上記のような本発明のアミロース合成酵素は、任意の生物に由来し得る。本明細書中では、酵素がある生物に「由来する」とは、その生物から直接単離したことのみを意味するのではなく、その生物を何らかの形で利用することによりその酵素が得られることをいう。例えば、その生物から入手したその酵素をコードする遺伝子を大腸菌に導入して、その大腸菌から酵素を単離する場合も、その酵素はその生物に「由来する」という。
本発明で用いられるアミロース合成酵素は、上記のような自然界に存在する、アミロース合成酵素を産生する動物、植物、および微生物から直接単離され得る。
本発明で用いられるアミロース合成酵素は、これらの動物、植物または微生物から単離したアミロース合成酵素をコードする遺伝子を用いて遺伝子組換えされた微生物(例えば、細菌、真菌など)から単離してもよい。アミロース合成酵素は、遺伝子組換えされた微生物から得られ得る。スクロースホスホリラーゼおよびα−グルカンホスホリラーゼの生産方法は、例えば、WO2002/097107に開示されている。他のアミロース合成酵素についても、この記載に従って同様に行われ得る。
(4.8 アミロース合成基質およびアミロース合成酵素の存在位置)
反応開始時のアミロース合成基質およびアミロース合成酵素は、水を主成分とする水系溶媒相またはヒドロゲル(マトリックス)自体に含有されていることが好ましい。アミロース合成基質がDMSO中から水系溶媒相へと移動して反応が行われ得る場合には、その一部または全てがDMSO中に含まれていてもよい。
ヒドロゲルマトリックス内部で、アミロース合成基質およびアミロース合成酵素を接触させてアミロースを合成する方法においては、反応の開示時でのこれらの存在部位の組み合わせの例としては、以下が挙げられる:
1)ヒドロゲルマトリックス自体が、アミロース合成基質およびアミロース合成酵素を含有している場合(例えば、ゲルビーズ中にアミロース合成基質およびアミロース合成酵素を含有している場合);
2)ヒドロゲルマトリックスの内部に形成される、水を主成分とする水系溶媒相が、アミロース合成基質およびアミロース合成酵素を含有している場合(例えば、中空糸の空洞部に水系溶媒相を含み、この水系溶媒相がアミロース合成基質およびアミロース合成酵素を含有する場合);
3)ヒドロゲルマトリックス自体がアミロース合成酵素を含有しており、DMSOがアミロース合成基質を含有している場合(例えば、ゲルビーズ中にアミロース合成酵素を含有しており、その外側のDMSO中にアミロース合成基質を含有している場合);
4)ヒドロゲルマトリックスの内部に形成される、水を主成分とする水系溶媒相が、アミロース合成酵素を含有しており、DMSOがアミロース合成基質を含有している場合(例えば、中空糸の空洞部分に水系溶媒相を含み、この水系溶媒相がアミロース合成酵素を含有し、中空糸の外側のDMSO中にアミロース合成基質を含有している場合);
5)ヒドロゲルマトリックス自体が、アミロース合成基質およびアミロース合成酵素を含有しており、DMSOがアミロース合成基質を含有している場合(例えば、ゲルビーズ中にアミロース合成基質およびアミロース合成酵素を含有しており、その外側のDMSO中にアミロース合成基質を含有している場合);
6)ヒドロゲルマトリックスの内部に形成される、水を主成分とする水系溶媒相が、アミロース合成基質およびアミロース合成酵素を含有しており、DMSOがアミロース合成基質を含有している場合(例えば、中空糸の空洞部分に水系溶媒相を含み、この水系溶媒相がアミロース合成基質およびアミロース合成酵素を含有し、中空氏の外側のDMSO中にアミロース合成基質を含有している場合)。
2)、4)、6)の場合には、DMSO中にアミロース合成基質を逐次添加することにより、反応を連続化させることも可能である。
1)、3)、5)の場合には、ヒドロゲルマトリックスの調製時に、ヒドロゲルマトリックスの材料中にアミロース合成酵素(およびアミロース合成基質)を添加してからヒドロゲルマトリックスを形成させ、このヒドロゲルマトリックスをDMSO中に添加することにより、系が形成され得る。
あるいは、ヒドロゲルマトリックスを調製してから、ヒドロゲルマトリックスを乾燥させ、このヒドロゲルマトリックスを、アミロース合成酵素(およびアミロース合成基質)を含有する水溶液中に浸漬してこの水溶液を吸収させ、その後、ヒドロゲルマトリックスを水溶液中から取り出し、DMSOを主成分とする有機系溶媒相中に添加することによっても、系が形成され得る。
(5.ジメチルスルホキシド(DMSO)を主成分とする有機系溶媒相と水を主成分とする水系溶媒相とを有する系中でのアミロースの合成)
本発明の方法は、水を主成分とする水系溶媒相中でアミロースを合成し、そして合成されたアミロースを、ジメチルスルホキシドを主成分とする有機系溶媒相中に溶解した形態で得る方法であって、該水系溶媒相中でアミロース合成基質とアミロース合成酵素とを接触させてアミロースを合成する工程を包含し、ここで、該水系溶媒相と該有機系溶媒相とはヒドロゲル中またはその表面で接触しているが、ヒドロゲルによって該水系溶媒相中の水と該有機系溶媒相中のジメチルスルホキシドとの接触が制限されるために該有機系溶媒相から該水系溶媒相にジメチルスルホキシドが実質的に浸入しない状態にあり、該合成されたアミロースが該水系溶媒相から該有機系溶媒相に移行し、該有機系溶媒相中に溶解した形態の合成アミロースが得られる、方法である。
1つの実施形態では、水系溶媒相、アミロース合成基質およびアミロース合成酵素は、ヒドロゲル中に含有される。この実施形態を図1に模式的に図示する。丸印によって示されるのがビーズ状のヒドロゲルである。このヒドロゲルは、水系溶媒相、アミロース合成基質およびアミロース合成酵素を含有している。なお、この図においてはアミロース合成基質がヒドロゲル中に含まれているが、DMSOを主成分とする有機系溶媒相中に含まれていてもよい。
別の実施形態では、水系溶媒相、アミロース合成基質およびアミロース合成酵素は、ヒドロゲルの小胞膜によってジメチルスルホキシドとの接触が制限されている。この実施形態を図2に模式的に図示する。丸印によって示されるのが、小胞状のヒドロゲルである。この小胞は、膜の内側に、アミロース合成基質およびアミロース合成酵素を含有する水系溶媒相を含有している。なお、この図においてはアミロース合成基質が小胞膜の内側に含まれているが、DMSOを主成分とする有機溶媒相中に含まれていてもよい。
本発明の方法においては、アミロースを合成する反応は、ヒドロゲルによって水系溶媒相中の水と有機系溶媒相中のDMSOとの接触が制限されるために有機系溶媒層から水系溶媒相にジメチルスルホキシドが実質的に浸入しない状態にあり、反応に必要な基質を系に入れ、アミロース合成基質とアミロース合成酵素とを接触させることによって合成が開始される。
好ましくは、本発明で使用される反応系は、当該分野で公知の方法によって必要に応じて加熱される。適切に加熱することにより反応が促進される。反応系の温度は、本発明の効果が得られる限り、任意の温度であり得る。反応系の温度は例えば、約30℃以上、約35℃以上、約40℃以上であり得る。反応系の温度は例えば、約70℃以下、約60℃以下、約50℃以下、約40℃以下であり得る。反応系の温度は、アミロース合成酵素の耐熱性、反応至適温度などを考慮して適度に設定され得る。
反応時間は、反応温度、反応により生産されるアミロースの分子量および酵素の残存活性、反応系の特性を考慮して、任意の時間で設定され得る。反応時間は、好ましくは約1時間以上であり、より好ましくは約2時間以上であり、さらに好ましくは約3時間以上であり、特に好ましくは約5時間以上であり、最も好ましくは約10時間以上である。反応時間は、好ましくは約100時間以下であり、より好ましくは約72時間以下であり、さらに好ましくは約36時間以下であり、特に好ましくは約24時間以下であり、最も好ましくは約15時間以下である。例えば、ヒドロゲルが管状であって、管の中に、アミロース合成基質およびアミロース合成酵素を含有する水溶液を流して反応させる場合のように、反応が連続的に行われる場合には、反応時間に特に制限はない。
加熱は、どのような手段を用いて行ってもよいが、反応系全体に均質に熱が伝わるように、例えば有機系溶媒相中で攪拌を行いながら加熱することが好ましい。溶液は、例えば、温水ジャケットと攪拌装置を備えたステンレス製反応タンクの中に入れられて攪拌される。
本発明の方法ではまた、反応がある程度進んだ段階で、アミロース合成基質またはアミロース合成酵素を水系溶媒相中に追加してもよい。
アミロースはDMSOに溶解しやすいので、合成されたアミロースは、DMSOを主成分とする有機系溶媒相へと移行する。このようにして、有機系溶媒相中に溶解した状態の合成アミロースが生産される。
反応終了後、反応系は、必要に応じて例えば、100℃にて10分間加熱することによって反応系中の酵素が失活され得る。あるいは、酵素を失活させる処理を行うことなく後の工程を行ってもよい。反応系は、そのまま保存されてもよいし、生産されたアミロースを単離するために処理されてもよい。
本発明によって、DMSOを主成分とする有機溶媒相中にアミロースが均質に溶解した溶液が得られる。本発明の方法は、水には溶けにくい物質をゲスト物質とした包接(例えば、つる巻き重合)などに利用され得る。
本発明の方法によって得られる生成物は、当業者に周知の従来の方法(例えば、薄層クロマトグラフィー(TLC)、NMR(核磁気共鳴スペクトル)、HPLC(高速液体クロマトグラフィー)、融点、質量分析(MS)、元素分析など)により、純度について分析および/または検査され得る。反応生成物の構造は、反応生成物を精製した後、NMR(核磁気共鳴スペクトル)およびMSを行うことにより、詳細に確認され得る。
以下の実施例により本発明をさらに詳細に説明する。本発明は以下の実施例のみに限定されない。
(調製例1:アルギン酸溶液の調製)
アルギン酸ナトリウム(CNa;市販の薬品グレードのもの)30.2mgを100mM酢酸緩衝液(pH=6.2)2mlに溶解させた。そこへグルコース−1−リン酸(G−1−P)56.5mg、マルトヘプタオース3.9mgを加え、溶解させた後に、氷浴で0℃に冷却した。その溶液に馬鈴薯由来α−グルカンホスホリラーゼ52Unitを加え、よく混合した。これをアルギン酸溶液とした。
(調製例2:アルギン酸カルシウムゲルの調製)
調製例1で調製したアルギン酸溶液(約0℃)をパスツールピペットで、0℃に冷却した5wt%塩化カルシウムブタノール溶液に滴下することにより、アルギン酸カルシウムゲルを調製した。
(実施例1:アルギン酸カルシウムゲル内でのアミロース合成)
調製例2で調製したアルギン酸カルシウムゲルを取り出し、ジメチルスルホキシド6ml中に投入し、ゆるやかに攪拌しながら40℃で12時間インキュベートした。このインキュベート中にアルギン酸カルシウムゲル中で酵素反応が進行した。40℃で12時間のインキュベート後(この時点を反応終了時点ともいう)、反応系のジメチルスルホキシド相部分をアセトン35mLに混合し、沈澱を形成させた。得られた沈澱をエタノール20mLで洗浄し、減圧乾燥し、乾燥物の重量を測定した。この乾燥物は酵素合成アミロースである。この結果、61.8%の収率で酵素合成アミロースが得られた。
ここで行われた反応を説明する。アルギン酸は、マンヌロン酸残基とグルロン酸残基とを構成単位としており、水中での溶解度が高いが、DMSO中では不溶性である。この実施例では、アミロース合成基質としてグルコース−1−リン酸およびプライマー(マルトオリゴ糖)を使用し、アミロース合成酵素としてα−グルカンホスホリラーゼを使用した。酵素によってアミロース合成反応が進むとアミロースはDMSO中に移行していくため、アルギン酸カルシウムゲル中ではアミロース合成の方向に反応が進行しやすくなり、反応収率が高まった。
(実施例2〜3:アルギン酸カルシウム濃度およびアミロース合成基質濃度を変更した条件下でのアミロースの合成)
調製例1で使用したアルギン酸ナトリウムの量、グルコース−1−リン酸の量およびマルトヘプタオースの量を変更してアルギン酸溶液を調製し、次いでこのアルギン酸溶液を使用してアルギン酸カルシウムゲルを調製し、実施例1と同じ条件下でアミロース合成を行った。
(分析例1:合成されたアミロースの重合度の確認)
上記実施例1〜3での反応後のDMSO有機系溶媒相、および水系溶媒相を含むヒドロゲル全体をそれぞれH NMRによって分析した。NMRの条件は、DO/DMSO−d(1:50,v/v)混合溶媒中、60℃であった。実施例2についてのH NMRの結果を図3に示す。
このようにして、実施例1〜3でのアミロースの収率、重合度、残存アミロース量、残存G−1−P量が決定された。実施例1〜3の結果のまとめを以下の表1に示す:
(実施例4:アミロース合成基質の存在箇所を変えた場合のアミロース合成収率)
アルギン酸内包反応場でのホスホリラーゼによる酵素触媒重合の可能性を確認するために、マルトヘプタオース(3.5μmol)、G−1−P(164μmol)、馬鈴薯由来α−グルカンホスホリラーゼ(52Unit)を調製例1と同様にしてアルギン酸カルシウムヒドロゲル内に内包させた後に、実施例1と同様にしてDMSO溶液中、40℃で12時間酵素反応を行った。その結果、DMSO溶液中に54.9%の収率で酵素反応生成物を得た。H−NMR測定より、得られた生成物の構造はアミロースであることが分かり、その数平均重合度は33と見積もられた。この結果から、このような特殊な反応場でホスホリラーゼによる酵素触媒重合が進行すること、並びに生成したアミロースがDMSO側に溶出することが明らかになった。
これらの実験の結果、アルギン酸カルシウムゲル内に馬鈴薯由来α−グルカンホスホリラーゼ、プライマー、グルコース−1−リン酸を内包させることにより、酵素的糖鎖伸長反応場を構築できることがわかった。また、このゲルをDMSO中に入れて反応を行なうことで、DMSO中にアミロースが得られることが分かった。今後、DMSO中でのアミロースの生成を利用した機能開拓が期待できる。
(実施例5〜8:アミロースの重合度の制御)
アルギン酸内包反応場でのα−グルカンホスホリラーゼによる酵素触媒重合において、合成されるアミロースの重合度が制御できるかどうかを確認するため、G−1−Pおよびプライマー(マルトヘプタオース)の量を変えたこと以外は調製例1および2と同じ組成および手順でアルギン酸カルシウムヒドロゲル(馬鈴薯由来α−グルカンホスホリラーゼ(52Unit)を含む)を作製し、DMSO溶液(6ml)中、40℃で12時間酵素反応を行った。ヒドロゲルを調製するために使用したアルギン酸ナトリウムの濃度は1.5重量%であった。反応後、DMSO中のアミロース量、ゲル中のアミロース量、ゲル中の残存G−1−P量を測定した。結果を表2にまとめた。
この結果から、G−1−Pおよびプライマー(ここではマルトヘプタオース)の量を変えることにより、合成されるアミロースの重合度が制御できることを確認した。さらに、生成したアミロースの大部分がDMSO側に溶出することが明らかになった。
(実施例9:DMSO中でのアミロース合成の経時変化)
アルギン酸内包反応場でのホスホリラーゼによる酵素触媒重合の経時変化を調べるため、マルトヘプタオース(0.6μmol)、G−1−P(164μmol)、馬鈴薯由来α−グルカン(52Unit)を調製例1と同様にしてアルギン酸カルシウムヒドロゲル内に内包させた後に、実施例1と同様にしてDMSO溶液中、40℃で720分間酵素反応を行った。ヒドロゲルを調製するために使用したアルギン酸ナトリウムの濃度は1.5重量%であった。5、15、60、120、240、720分後にDMSO液中のアミロースの量と数平均重合度を測定した。結果を以下の表3にまとめた。
この結果、反応時間を長くすることにより、得られるアミロースの数平均重合度が大きくなることが確認された。
以上のように、本発明の好ましい実施形態を用いて本発明を例示してきたが、本発明は、この実施形態に限定して解釈されるべきものではない。本発明は、特許請求の範囲によってのみその範囲が解釈されるべきであることが理解される。当業者は、本発明の具体的な好ましい実施形態の記載から、本発明の記載および技術常識に基づいて等価な範囲を実施することができることが理解される。本明細書において引用した特許、特許出願および文献は、その内容自体が具体的に本明細書に記載されているのと同様にその内容が本明細書に対する参考として援用されるべきであることが理解される。
本発明の方法を用いることにより、酵素合成アミロースの有機溶媒溶液(特にDMSO溶液)を容易に得ることが可能となる。この結果、水には溶けにくい物質(例えば、高分子物質または低分子物質)をゲスト物質としたアミロースの包接体を容易に得ることが可能となる。本発明の方法は、水には難溶であるがDMSOに溶ける毒性物質の除去などに利用可能である。
図1は、DMSOを主成分とする有機系溶媒相中にヒドロゲルビーズが分散しており、そのヒドロゲルビーズがアミロース合成基質およびアミロース合成酵素を含有する反応系の模式図である。 図2は、DMSOを主成分とする有機系溶媒相中にヒドロゲル小胞膜が分散しており、ヒドロゲル小胞膜によって囲まれた水系溶媒相中にアミロース合成基質およびアミロース合成酵素が含有されている反応系の模式図である。 本発明の系中の模式図と、そのDMSO相をH NMRで分析した結果、および水系溶媒も含めたヒドロゲル全体をH NMRで分析した結果を示す。

Claims (8)

  1. 水を主成分とする水系溶媒相中でアミロースを合成し、そして合成されたアミロースを、ジメチルスルホキシドを主成分とする有機系溶媒相中に溶解した形態で得る方法であって、
    該水系溶媒相中でアミロース合成基質とアミロース合成酵素とを接触させてアミロースを合成する工程を包含し、
    ここで、該水系溶媒相と該有機系溶媒相とはヒドロゲル中またはその表面で接触しているが、ヒドロゲルによって該水系溶媒相中の水と該有機系溶媒相中のジメチルスルホキシドとの接触が制限されるために該有機系溶媒相から該水系溶媒相にジメチルスルホキシドが実質的に浸入しない状態にあり、該合成されたアミロースが該水系溶媒相から該有機系溶媒相に移行し、該有機系溶媒相中に溶解した形態の合成アミロースが得られる、方法。
  2. 前記ヒドロゲルを形成するポリマーが、アガロース、アルギン酸イオン架橋物、ポリアクリルアミド、コラーゲンおよびこれらの組合せからなる群から選択される、請求項1項に記載の方法。
  3. 前記ヒドロゲルを形成するポリマーが、アルギン酸カルシウムである、請求項2に記載の方法。
  4. 前記水溶媒および前記アミロース合成酵素が、前記ヒドロゲル中に含有される、請求項1〜3のいずれか1項に記載の方法。
  5. 前記水溶媒および前記アミロース合成酵素が、前記ヒドロゲルによって前記ジメチルスルホキシド溶媒と隔てられている、請求項1〜3のいずれか1項に記載の方法。
  6. 前記アミロース合成酵素がα−グルカンホスホリラーゼであり、前記アミロース合成基質がプライマーおよびグルコース−1−リン酸である、請求項1〜5のいずれか1項に記載の方法。
  7. 前記アミロース合成酵素がα−グルカンホスホリラーゼおよびスクロースホスホリラーゼであり、前記アミロース合成基質がプライマー、スクロースおよび無機リン酸またはグルコース−1−リン酸である、請求項1〜5のいずれか1項に記載の方法。
  8. 前記アミロース合成酵素がアミロスクラーゼであり、前記アミロース合成基質がプライマーおよびスクロースである、請求項1〜5のいずれか1項に記載の方法。
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* Cited by examiner, † Cited by third party
Publication number Priority date Publication date Assignee Title
CN114517216A (zh) * 2020-11-20 2022-05-20 中国科学院天津工业生物技术研究所 一种有机溶剂在体外合成可溶性直链淀粉中延长其聚合度的用途

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