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JP2009185001A - 歯科用陶材組成物 - Google Patents

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JP2009185001A JP2008029388A JP2008029388A JP2009185001A JP 2009185001 A JP2009185001 A JP 2009185001A JP 2008029388 A JP2008029388 A JP 2008029388A JP 2008029388 A JP2008029388 A JP 2008029388A JP 2009185001 A JP2009185001 A JP 2009185001A
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Masahito Sekino
雅人 関野
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Tokuyama Dental Corp
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Abstract

【課題】耐熱衝撃性に優れ、層間剥離が生じにくく、かつ陶材層中にクラックが入りにくいセラミックス補綴物を製造するための歯科用陶材組成物を提供する。
【解決手段】酸化ケイ素、酸化アルミニウム、酸化ホウ素、酸化亜鉛及び酸化ナトリウムを主成分として含有するガラス質粒子を含む歯科用陶材組成物であって、ガラス質粒子は、第1のガラス質粒子と第2のガラス質粒子とを含み、第1のガラス質粒子は、主成分のプラズマ発光分光分析により求められる含有割合が、主成分の各成分をそれぞれSiO、Al、B、ZnO及びNaOに換算したときの合計質量を100質量%とした場合に、SiO:59〜70質量%、Al:6〜16質量%、B:15〜25質量%、ZnO:0.1〜5質量%及びNaO:1〜4質量%であり、第2のガラス質粒子は、第1のガラス質粒子の軟化点より20〜80℃以上高い軟化点を有するものとする。
【選択図】なし

Description

本発明は、歯科用陶材組成物に関し、特に、セラミックス製のフレームを用いた補綴物の製造において好適に使用できる歯科用陶材組成物に関する。
歯科で使用される陶材組成物には、人工歯として市販されている陶歯及びポーセレンインレーやジャケットクラウン、オールセラミックス等の製作に使用されるものがある。これらの陶材組成物として最も汎用なものは、メタルボンドポーセレンと称する正長石(KAlSi38)と曹長石(NaAlSi38)等を結晶成分として含むガラスセラミックス材である。
従来から、審美的なクラウンまたはインレーの修復には、上記のメタルボンドポーセレンを金属フレームに焼き付けた材料が用いられてきた。しかし、このような補綴物では金属イオンの溶出により歯肉が変色するという問題がある。さらには、フレームを構成する金属が光を遮断するため天然歯と同様の透明感を再現できないという問題がある。
これに対し、フレームもセラミックスで形成したオールセラミックス補綴物を用いると、金属イオンの溶出による歯肉の変色がない。また、フレーム自体に天然歯に近い透明感を有する材料が用いられるため、自然な透明感を実現でき、陶材組成物の積層によってより天然歯に近い色感を得易い。
一般に、補綴物の製作にあたっては、天然歯に近い外観を得るために、天然歯の各構成部分に相当する部分毎に色調の異なる陶材組成物が使われている。具体的には、象牙色を再現するためのボディー陶材、歯頸部色を再現するためのサービカル陶材、切端色を再現するためのインサイザル陶材、透明感を出すためのトランスルーセント陶材を、フレームの上に層状に焼き付けるのが一般的である。これら各種の陶材組成物は、一般的に、セラミックス粉末に、必要に応じて、各陶材組成物の用途に応じた顔料が配合されている。
また、上記各陶材組成物を重ねて焼き付けるだけでは、天然歯の微妙な色調や個人に特有の模様等を再現するのは難しいため、顔料を比較的多く含むステインパウダーとよばれる陶材組成物を用いて彩色を施したり、顔料をほとんど含まないグレーズパウダーとよばれる陶材組成物を焼き付けて表面を滑らかにしたり透明性を付与したりすることが行われている。
上述のオールセラミックス補綴物のフレームには、通常、スピネル、アルミナ、ジルコニア等が用いられる。特に、機械的強度、靭性を必要とする部分(例えば、臼歯)には、ジルコニアが用いられる。ジルコニアは、色調の面でも天然歯に近似しており、多用されている。
オールセラミックス補綴物の製造工程では、陶材組成物を水と練和して作製した練和物をセラミックス製のフレームの表面に築盛し、当該フレームを焼成炉に入れ、その後に冷却する。当該冷却工程では、練和物の硬化により形成された陶材層とフレームとの間の熱膨張率の違いに起因して、陶材層がフレームから剥離し、あるいは陶材層中にクラックが発生することがある。これを有効に防止するため、例えば、フレームの表面に、フレームと同程度の熱膨張係数を有する少なくとも二層の陶材層を形成する方法が知られている(特許文献1を参照。)。
特開2005−187436号公報(特許請求の範囲)
しかし、上述の従来技術には、次のような問題がある。フレームと同程度の熱膨張係数を有する陶材層を複数層形成した場合、フレームと陶材層との間、あるいは2つの陶材層の間における層間剥離をある程度低減できるものの、未だ十分に防止できない。さらに、製造工程において急速に焼成あるいは冷却したときに陶材層中にクラックが生じるという問題がある。
本発明は、かかる問題に鑑みてなされたものであり、耐熱衝撃性に優れ、層間剥離が生じず、かつ陶材層中にクラックが入りにくいセラミックス補綴物を製造するための歯科用陶材組成物を提供することを目的とする。
上記目的を達成するために、本発明者は、鋭意努力を重ねた結果、セラミックス製のフレームに軟化点が異なる2種類のガラス質粒子を混合した陶材組成物を用いることにより、焼成および冷却工程において、フレーム上に形成された陶材層とフレームとの剥離や陶材層中にクラックのないセラミックス補綴物を製造することができた。
具体的には、酸化ケイ素、酸化アルミニウム、酸化ホウ素、酸化亜鉛および酸化ナトリウムを主成分として含有するガラス質粒子を含んでなる歯科用陶材組成物であって、ガラス質粒子は、第1のガラス質粒子と第2のガラス質粒子とを含み、第1のガラス質粒子は、主成分のプラズマ発光分光分析により求められる含有割合が、上記主成分の各成分をそれぞれSiO、Al、B、ZnOおよびNaOに換算したときの合計質量を100質量%とした場合に、SiO:59〜70質量%、Al:6〜16質量%、B:15〜25質量%、ZnO:0.1〜5質量%のおよびNaO:1〜4質量%であり、第2のガラス質粒子は、第1のガラス質粒子の軟化点より20〜80℃高い軟化点を有する歯科用陶材組成物を水と練和し、得られた練和泥をセラミックス製のフレームに築盛した後に焼成炉に入れ、第1のガラス質粒子のみが焼結する温度(第2のガラス質粒子の焼結は生じない温度)で焼成し、その後に冷却したところ、練和泥が硬化して形成された陶材層とフレームとの剥離や陶材層中にクラックのないセラミックス補綴物を得られることがわかった。
すなわち、一般に陶材を構成するガラス質粒子は、その軟化点よりも20℃以上高い温度で十分な焼結性を呈するようになるところ、上記2種類の陶材組成物の混和物では、第2のガラス質粒子の軟化点が第1のガラス質粒子の軟化点より20℃以上高いため、その焼成温度を、該第1のガラス質粒子は焼結するものの、第2のガラス質粒子は焼結しない温度(第1のガラス質粒子の軟化点より20℃以上高く、且つ、第2のガラス質粒子の軟化点より20℃高い温度未満の範囲の温度)に設定することが可能である。したがって、かかる焼成温度で焼成することにより、上記陶材組成物の混和物では、該第1のガラス質粒子のみが焼結してマトリックスを形成し、そのマトリックス中に第2のガラス質粒子からなるフリットがフィラーのように散在する微細な海島状の構造の陶材層が得られる。しかして、かかる構造の陶材層では、第2のガラス質粒子の体積分、全体の収縮が抑えられ熱衝撃に起因するクラックの発生を良好に抑制することができる。このクラック抑制効果は、第2のガラス質粒子の表層と、前記第1のガラス質粒子から形成されるマトリックス部分とが融着、或いはできるだけそれに近い状態であるほど効果が高く、この観点から、上記焼成温度を、該第2のガラス質粒子の軟化点以上、より好適には該第2のガラス質粒子の軟化点よりも5℃〜10℃高い温度にすることにより、得られる陶材層を一層に上記効果に優れたものにできる。なお、第2のガラス質粒子の軟化点が第1のガラス質粒子の軟化点より22℃以上高いのがより好ましい。なお、第1のガラス質粒子と第2のガラス質粒子の軟化点の差が80℃以上になると、第1のガラス質粒子からなるマトリックス部分と第2のガラス質粒子からなるフリットとの融着性が低下して、微細な気泡を含有し失透したような焼成となり好ましくない。よって、第1のガラス質粒子と第2のガラス質粒子の差は大きくても80℃、より好ましくは60℃以下とすることにより、第1のガラス質粒子から形成されるマトリックス部分と第2のガラス質粒子からなるフリットとの一体性を良くして、焼成後において透明性を確保できる。
また、本発明に係る歯科用陶材組成物は、第1のガラス質粒子の熱膨張係数と第2のガラス質粒子の熱膨張係数の比を、1より大きく2以下の範囲、より好ましくは1.2より大きく1.6以下の範囲、若しくは0.5以上で1より小さい範囲、より好ましくは0.6以上で0.8より小さい範囲とした。このような範囲の両熱膨張係数の比とすることによって、焼成から冷却を経ることで、第1のガラス質粒子が焼結してできたマトリックス中に、上記熱膨張係数の差がある第2のガラス質粒子からなるフリットが分散した形態の微細構造を実現でき、当該フリットとマトリックスとの間において、クラックを生じることなく残留応力場が形成される。フリットの熱膨張係数をα1、マトリックスの熱膨張係数をα2とすると、α2>α1の場合には、マトリックスのフリットとの界面近傍において、その界面と接する接線の方向に引張応力が生じる。一方、α1>α2の場合には、マトリックスのフリットとの界面近傍において、フリットの径方向に引張応力が生じる。このような応力が、クラックの進展を抑制する作用を奏するため、本発明の前記効果がより顕著に達成される。特に、α1/α2が1より大きく2以下の範囲、若しくは0.5以上で1より小さい範囲とすることにより、フリットとマトリックス間に剥離を生じることなく、適度な残留応力場を実現できる。
さらに、本発明に係る歯科用陶材組成物は、第2のガラス質粒子として、上記主成分のプラズマ発光分光分析により求められる含有割合が、上記主成分の各成分をそれぞれSiO、Al、B、ZnOおよびNaOに換算したときの合計質量を100質量%とした場合に、SiO:55〜75質量%、Al:3〜16質量%、B:3〜10質量%、ZnO:0.1〜5質量%のおよびNaO:1〜4質量%であるものを用いるようにした。これにより、上記作用・効果に加えて、第1のガラス質粒子と第2のガラス質粒子のそれぞれの屈折率を極めて近似させることができ、透明性のある乳白色の歯科用陶材組成物を実現することができる。
また、本発明に係る歯科用陶材組成物は、ジルコニアを主成分とするセラミックスフレームを用いた歯冠の製造に使用するものとした。このため、高強度、高靭性を要する部位に使用するジルコニア補綴物にも適用可能である。
本発明によれば、耐熱衝撃性に優れ、層間剥離が生じず、かつ陶材層中にクラックが入りにくいセラミックス補綴物を製造することができる。
以下、本発明に係る歯科用陶材組成物の好適な実施の形態について説明する。
A.歯科用陶材組成物
本発明の実施の形態に係る歯科用陶材組成物は、組成の異なる2種類のガラス質粒子(第1のガラス質粒子、第2のガラス質粒子)から主に構成される。これら2種類のガラス質粒子以外に、必要に応じて、結晶化ガラス組成物(ガラスセラミックス)、顔料、酸化剤のような添加剤の少なくとも1種類を含めることができる。また、歯科用陶材組成物は、前記のボディー陶材、サービカル陶材、インサイザル陶材、トランスルーセント陶材、ステインパウダー、及びグレーズパウダー等を含む。
1.ガラス質粒子
ガラス質粒子は、組成の異なる、第1のガラス質粒子および第2のガラス質粒子を混合した混合粒子である。第1のガラス質粒子は、酸化ケイ素、酸化アルミニウム、酸化ホウ素、酸化亜鉛および酸化ナトリウムを少なくともその主成分として含み、かつ第1のガラス質粒子はこれら各成分のプラズマ発光分光分析により求められる含有割合が、各成分をそれぞれSiO2、Al23、B23、ZnOおよびNa2Oに換算したときのこれら各成分の合計質量(以下、基準質量ともいう。)に対する質量%で表して以下に示すような範囲となるものであり、第2のガラス質粒子は、この第1のガラス質粒子の軟化点より20〜80℃高い軟化点を有するものが使用される。この第2のガラス質粒子は、かかる第1のガラス質粒子に対する軟化点の要件が満足されていれば、その組成は特に制限されるものではないが、層間剥離やクラックを生じさせない効果をより良好に発揮させ、さらに、第1のガラス質粒子との屈折率を近似させ、透明性の高い陶材組成物にできることから、第1のガラス質粒子と同じ、酸化ケイ素、酸化アルミニウム、酸化ホウ素、酸化亜鉛および酸化ナトリウムを少なくともその主成分とする、後述のものが好適に使用される。
(1.a)第1のガラス質粒子
第1のガラス質粒子における酸化ケイ素の含有量は、SiO2換算で59〜70質量%であり、より好ましくは62〜67質量%である。酸化ケイ素の含有量が70質量%以下の場合には、ガラスの軟化点を過度に高くしないようにできる。一方、酸化ケイ素の含有量が59質量%以上の場合には、歯科用陶材組成物として用いたときの化学的耐久性を高めることができる。
第1のガラス質粒子における酸化アルミニウムの含有量は、Al23換算で6〜16質量%であり、より好ましくは8〜14質量%である。酸化アルミニウムの含有量が16質量%以下の場合には、ガラスの高温での粘性を抑制し、ガラスの軟化点が高くなり過ぎるのを防止できる。一方、酸化アルミニウムの含有量が6質量%以上の場合には、歯科用陶材組成物として用いたときの化学的耐久性を高めることができる。
第1のガラス質粒子における酸化ホウ素の含有量は、B23換算で15〜25質量%であり、より好ましくは15〜20質量%である。酸化ホウ素の含有量が25質量%以下の場合には、歯科用陶材組成物として用いたときの化学的耐久性を高めることができる。一方、酸化ホウ素の含有量が15質量%以上の場合には、ガラスの軟化点を低くすることができる。
第1のガラス質粒子における酸化亜鉛の含有量は、ZnO換算で0.1〜5質量%であり、より好ましくは0.2〜0.5質量%である。酸化亜鉛は、ガラスにおいて融剤の働きをする。その含有量が5質量%以内の場合には、歯科用陶材組成物として用いたときの化学的耐久性を高めることができる。一方、酸化亜鉛の含有量が0.1質量%以上の場合には、融剤として有効に機能する。
第1のガラス質粒子における酸化ナトリウムの含有量は、Na2O換算で1〜4質量%であり、より好ましくは3〜4質量%である。酸化ナトリウムは、ガラスにおいて融剤の働きをする。その含有量が4質量%以下の場合には、歯科用陶材組成物として用いたときの熱膨張係数が過度に大きくならず、それをセラミックス製のフレームに焼き付けた場合に剥離等が起きにくくなり、それと共に化学的耐久性が高まる。一方、酸化ナトリウムの含有量が1質量%以上の場合には、ガラスの軟化点を低く抑えることができる。
第1のガラス質粒子の必須の成分は、上記の酸化ケイ素、酸化アルミニウム、酸化ホウ素、酸化亜鉛および酸化ナトリウムであるが、さらに、酸化リチウムを加えるのが好ましい。また、酸化カリウム、酸化カルシウム、酸化マグネシウムおよび酸化バリウムからなる群より選ばれた少なくとも一種の酸化物を加えるのも好適である。前記各必須成分からなる第1のガラス質粒子の軟化点は、通常650〜900℃の範囲にあり、組成によっては1000℃を超える高温の場合もあり得る。このように軟化点が高温であると、通常の陶材用の焼成炉(最大980℃程度のものが多い)での焼成が困難になるため、該軟化点は第2のガラス質粒子の混合も勘案すると900℃以下に抑えるのが好ましい。特に、前記ガラス質粒子の各必須成分の調整で軟化点を低下させようとすると、相反して熱膨張係数が大きくなる傾向がある。これに対して、酸化リチウムは、軟化点の低下に有効であるだけでなく、熱膨張係数を大きくしない効果があるので、ガラス質粒子の成分に加えるのが好ましい。その好適な含有量は、LiO換算で5質量%以下であり、上記軟化点の低下効果を良好に発揮させるためには0.1質量%以上は含有させるのが望ましい。
また、酸化カリウム、酸化カルシウム、酸化マグネシウムおよび酸化バリウムからなる群より選ばれた少なくとも一種の酸化物を加えることにより、軟化点の低下の他、ガラスの粘度特性を緩やかに変化させることができ、歯科用陶材組成物中の気泡の減少等を図ることができる。当該効果を有効に発揮するには、当該少なくとも一種の酸化物の含有量は、当該酸化物を、それぞれKO、CaO、MgO及びBaOに換算したときに、前記基準質量にこれら酸化物の質量を加えた質量を基準として5質量%以下であるのが好ましく、さらには4質量%以下とするのが好ましい。また、第1のガラス質粒子に、NaOと、KOおよび/またはLiOとを含有させると、化学的耐久性をより高めることができる。
さらに、第1のガラスには、前記必須成分以外に各種金属酸化物を配合することが可能である。これらの金属酸化物を例示すれば、酸化ストロンチウム;酸化リン;酸化錫;酸化バナジウム、酸化クロム、酸化マンガン、酸化鉄、酸化コバルト、酸化ニッケル、酸化銅、酸化チタン、酸化ジルコニウム等の遷移金属酸化物;および酸化ランタン、酸化イットリウム、酸化タンタル等のランタノイド酸化物等を挙げることができる。
上記の各成分より成る第1のガラス質粒子の熱膨張係数は、通常、5.0×10-6〜14.0×10-6(1/℃)である。
(1.b)第2のガラス質粒子
第2のガラス質粒子の好適なものは、以下のものである。酸化ケイ素の含有量は、SiO2換算で60〜75質量%であり、より好ましくは62〜70質量%である。酸化ケイ素の含有量が75質量%以下の場合には、ガラスの軟化点を過度に高くしないようにできる。一方、酸化ケイ素の含有量が55質量%以上の場合には、歯科用陶材組成物として用いたときの化学的耐久性を高めることができる。第2のガラス質粒子中の酸化ケイ素の含有量は、同粒子中のその他成分の含有量によっても異なるが、第1のガラス質粒子中の酸化ケイ素の含有量よりも多いのが好ましい。第2のガラス質粒子の軟化点を、第1のガラス質粒子の軟化点よりも高くし易くなるからである。この酸化ケイ素の含有量による調整で、第2のガラス質粒子の軟化点を第1のガラス質粒子の軟化点より20〜80℃高くする要件を主に満足させようとするのであれば、この第2のガラス質粒子中の酸化ケイ素の含有量は、第1のガラス質粒子中の酸化ケイ素の含有量よりも2質量%以上多くするのが好ましい。
酸化アルミニウムの含有量は、Al23換算で3〜18質量%であり、より好ましくは8〜16質量%である。酸化アルミニウムの含有量が18質量%以下の場合には、ガラスの高温での粘性を抑制し、ガラスの軟化点が高くなり過ぎるのを防止できる。一方、酸化アルミニウムの含有量が3質量%以上の場合には、歯科用陶材組成物として用いたときの化学的耐久性を高めることができる。第2のガラス質粒子中の酸化アルミニウムの含有量は、同粒子中のその他成分の含有量によっても異なるが、第1のガラス質粒子中の酸化アルミニウムの含有量よりも多いのが好ましい。第2のガラス質粒子の軟化点を、第1のガラス質粒子の軟化点よりも高くし易くなるからである。この酸化アルミニウムの含有量による調整で、第2のガラス質粒子の軟化点を第1のガラス質粒子の軟化点より20〜80℃高くする要件を主に満足させようとするのであれば、この第2のガラス質粒子中の酸化アルミニウムの含有量を、第1のガラス質粒子中の酸化アルミニウムの含有量よりも2質量%以上多くして、第1のガラス質粒子の軟化点よりも20〜80℃高い軟化点とするのが好ましい。
酸化ホウ素の含有量は、B23換算で3〜10質量%であり、より好ましくは6〜9質量%である。酸化ホウ素の含有量が10質量%以下の場合には、歯科用陶材組成物として用いたときの化学的耐久性を高めることができる。一方、酸化ホウ素の含有量が3質量%以上の場合には、ガラスの軟化点を有意に低くすることができる。この酸化ホウ素の含有量は、第1のガラス質粒子中の酸化アルミニウムの含有量よりも多いのが好ましい。第2のガラス質粒子の軟化点を、第1のガラス質粒子の軟化点よりも高くすることができるからである。この酸化ホウ素の含有量による調整により、第2のガラス質粒子の軟化点を第1のガラス質粒子の軟化点より20〜80℃高くする要件を主に満足させようとするのであれば、該第2のガラス質粒子中の酸化ホウ素の含有量は、第1のガラス質粒子中の酸化ホウ素の含有量よりも5質量%以上少なくするのが好ましい。
第2のガラス質粒子の軟化点を第1のガラス質粒子のそれよりも20〜80℃の範囲、より好適には20〜60℃の範囲で高くすると、フレーム上に陶材組成物の練和泥を盛り付けて焼成・冷却する過程において、練和泥が硬化して形成された陶材層中にクラックが入りにくい。すなわち、極めて熱衝撃性の高い陶材層を形成することができる。第2のガラス質粒子の軟化点を20〜80℃高くするには、既述のように、第1のガラス質粒子に含まれる酸化ケイ素を2質量%以上多くする(好適には)、第1のガラス質粒子に含まれる酸化アルミニウムを2質量%以上多くする、あるいは第1のガラス質粒子に含まれる酸化ホウ素よりも5質量%以上少なくすると良い。これらの要件を一つ以上満たす場合において、第1のガラス質粒子の軟化点よりも20〜60℃高くすることができる。また、その個々の含有量の要件は、上記規定値を下回る場合であっても、これらを組合わせたり、さらには、軟化点に影響する他の成分(例えば、酸化リチウムの含有量)を適宜調整することにより、この第2のガラス質粒子における軟化点の要件を満足させても良い。
第2のガラス質粒子における酸化亜鉛および酸化ナトリウムの各含有量は、第1のガラス質粒子における酸化亜鉛および酸化ナトリウムの各含有量と同じである。
第2のガラス質粒子の必須の成分は、上記の酸化ケイ素、酸化アルミニウム、酸化ホウ素、酸化亜鉛および酸化ナトリウムであるが、第1のガラス質粒子と同様、酸化リチウムを加え、あるいは酸化カリウム、酸化カルシウム、酸化マグネシウムおよび酸化バリウムからなる群より選ばれた少なくとも一種の酸化物を加えても良い。酸化リチウムの好適な含有量および酸化カリウム、酸化カルシウム、酸化マグネシウムおよび酸化バリウムからなる群より選ばれた少なくとも一種の酸化物の好適な含有量についても、第1のガラス質粒子の場合と同様である。また、第2のガラス質粒子にも、第1のガラス質粒子と同様、前記必須成分以外に既述の各種金属酸化物を配合することが可能である。
上記の各成分より成る第2のガラス質粒子の熱膨張係数は、第1のガラス質粒子と同様に5.0×10-6〜14×10-6(1/℃)であり、第1のガラス質粒子の熱膨張を勘案して組成を調整すれば良い。すなわち、前記したように第1のガラス質粒子の熱膨張係数と第2のガラス質粒子の熱膨張係数の比は、1より大きく2以下の範囲、若しくは0.5以上で1より小さい範囲が好適であるので、該要件が満足されるように調整するのが好ましい。
上述の2種類のガラス質粒子の好適な平均粒子径は、歯科用陶材組成物の用途によって異なる。具体的には、歯科用陶材組成物を、グレーズパウダーとして使用する場合には、2種のガラス質粒子を、平均粒子径が1〜15μmとなるように粒度調節するのが好ましい。また、歯科用陶材組成物を、ボディー陶材、インサイザル陶材、サービカル陶材として使用する場合は、2種のガラス質粒子を、平均粒子径が15〜100μmとなるように粒度調節するのが好ましい。さらに、歯科用陶材組成物を、トランスルーセント陶材として使用する場合には、2種のガラス質粒子を、平均粒子径が5〜100μmとなるように粒度調節するのが好ましい。また、歯科用陶材組成物を、ステイン陶材として使用する場合には、2種のガラス質粒子を、平均粒子径が1〜15μmとなるように粒度調節するのが好ましい。
第1のガラス質粒子(a)と第2のガラス質粒子(b)は、重量比でa:bを30:70〜70:30となるように混合されるのが好ましく、特に、60:40もしくは40:60の比で混合されるのがより好ましい。
耐熱衝撃性に優れたクラックが生じにくい陶材層を製造するためにはα1/α2が1より大きく2以下、より好ましくは1.2より大きく1.6以下の範囲、若しくは0.5以上で1より小さい範囲、より好ましくは0.6以上で0.8より小さくするのが好ましい。このような条件を満足するように、フレーム、第1のガラス質粒子、第2のガラス質粒子の組成を決めると、フレームに歯科用陶材組成物の練和泥を築盛し、焼成、冷却を経ても、歯科用陶材組成物が硬化した陶材層とフレームとが剥離せず、かつ陶材層中にクラックが入りにくくなる。このように調整された陶材組成物を焼結させて得た陶材層の熱膨張係数は、一般に5.0×10-6〜12×10-6(1/℃)の範囲である。このうち、9.0×10-6〜11×10-6(1/℃)のものが、ジルコニアを主成分としているフレーム用に好適である。なお、アルミナを主成分としているフレーム用に用いる場合には、6.0×10-6〜8.5×10-6(1/℃)のものがより好ましい。
2.顔料
この実施の形態にかかる歯科用陶材組成物をグレーズパウダーとして使用する場合には、当該歯科用陶材組成物を上述のガラス質粒子のみからなるものとし、顔料を加えない。しかし、歯科用陶材組成物をグレーズパウダー以外の用途で使用する場合には、顔料を加えるのが好ましい。
顔料は、焼き付け後の陶材層に色を付与したり透明性を制御したりするために添加されるものであるが、当該陶材組成物が高温で焼成されるため、顔料としては、一般に、無機顔料が好適に使用される。無機顔料として好適に使用できる代表的なものを例示すれば、バナジウム黄、コバルト青、クロムピンク、鉄クロム茶、チタン白、ジルコニア白等が挙げられる。歯科用陶材組成物を、ボディー陶材、インサイザル陶材、サービカル陶材として使用する場合は、ガラス質粒子100質量部に対して、顔料を0.01〜3質量部配合するのが好ましい。また、歯科用陶材組成物をトランスルーセント陶材として使用する場合には、ガラス質粒子(第1のガラス質粒子+第2のガラス質粒子)100質量部に対して、白色系の顔料を0.01〜3質量部配合するのが好ましい。また、歯科用陶材組成物をステイン陶材として使用する場合には、ガラス質粒子(第1のガラス質粒子+第2のガラス質粒子)100質量部に対して、顔料を1〜15質量部配合するのが好ましい。
3.酸化剤
酸化剤は、必要に応じて歯科用陶材組成物中に配合され、不純物として含まれる有機物が焼成中に完全に分解することなく陶材組成物中に取り込まれ、陶材組成物の色調不良を引き起こすのを防止するために添加される。該酸化剤は、酸素供給源となるものであれば特に制限されないが、中でも穏和な酸化作用があり、それ自体は焼成温度以下で昇華し焼成体中に残留しない硫酸塩、特に硫酸アンモニウム{(NH42SO4}が好適に用いられる。酸化剤の添加量は、特に限定されないが、一般的にはガラス質粒子(第1のガラス質粒子+第2のガラス質粒子)100質量部に対して0.1〜3質量部である。
4.その他
この実施の形態にかかる歯科用陶材組成物は、ガラス質粒子、顔料、酸化剤以外に、例えば、結晶化ガラス粉末、分散剤を含んでも良い。
B.歯科用陶材組成物の製造方法
次に、この実施の形態にかかる歯科用陶材組成物の製造方法について説明する。
ガラス質粒子は、どのような方法で製造しても良いが、例えば次のような方法により好適に製造することが出来る。
前記の各必須成分及び前記任意成分の供給源となるガラス原料をそれぞれ所定量混合し、得られた混合物を溶融した後、冷却することにより製造することが出来る。
上記各成分の原料となる物質は、特に限定されず、各成分そのものおよび/又は酸素共存下で加熱したときに各成分に変化するものであれば、特に限定されない。以下に、ガラスの原料に好適に使用できる物質を具体的に例示する。
必須成分の原料として、酸化ケイ素の原料として珪砂(SiO2)が一般に用いられる。酸化アルミニウムの原料として、アルミナ(Al23)、水酸化アルミニウム(Al(OH)3)等が用いられる。酸化ホウ素の原料として、無水ホウ酸(B23)、無水ホウ砂(Na247)等が用いられる。酸化亜鉛の原料として、主に酸化亜鉛(ZnO)が用いられる。酸化ナトリウムの原料として、ソーダ灰(Na2CO3)、水酸化ナトリウム(NaOH)、硫酸ナトリウム(Na2SO4)、硝酸ナトリウム(Na2NO3)等が用いられる。酸化リチウムの原料として、炭酸リチウム(Li2CO3)、水酸化リチウム(LiOH)、硫酸リチウム(Li2SO4)、硝酸リチウム(Li2NO3)等が用いられる。酸化カルシウムの原料として、炭酸カルシウム(CaCO3)、水酸化カルシウム{Ca(OH)2}、硫酸カルシウム(CaSO4)、硝酸カルシウム(CaNO3)等が用いられる。酸化マグネシウムの原料として、炭酸マグネシウム(MgCO3)、水酸化マグネシウム{Mg(OH)2}が一般に用いられるが、硫酸マグネシウム(CaSO4)、硝酸マグネシウム(MgNO3)等を、清澄作用を目的に添加しても良い。上記の原料は、上記成分毎に1種類のみを用いても複数種類混合して用いても良い。
上記各原料は、最終的に得られるガラス組成を勘案して予め計算によりその使用量を決定して混合される。混合方法は、各原料が均一に分散する方法であれば特に限定されず、V型混合機、ボールミル等の公知の混合機を用いて行うことが出来る。また、上記混合物の溶融方法は特に限定されないが、混合物をるつぼに充填し、電気炉を用いて加熱溶融すればよい。溶融条件は、原料混合物の全てが溶融し、成分の昇華等が起こらない条件であれば特に限定されないが、一般的には約1300℃に加熱すればよい。溶融後の冷却条件も特に限定されず、空気中で徐冷または水中で急冷することにより行うことが出来る。
上記方法により得られたガラス塊は、一般に粉砕、分級し、粒度調整された粉末とされ、必要に応じて顔料、及び酸化剤等を添加して、歯科用陶材組成物とされる。この実施の形態では、第1のガラス質粒子と第2のガラス質粒子とを混合する必要から、第1のガラス質粒子用のガラス塊と、第2のガラス質粒子用のガラス塊とを用意し、一緒に粉砕、分級、粒度調整を行う。ただし、各ガラス塊を別々に粉砕、分級、粒度調整して第1のガラス質粒子と第2のガラス質粒子を用意した後、これらガラス質粒子を混合しても良い。また、各ガラス塊を別々に粉砕した後、分級の前あるいは粒度調整の前に、混合しても良い。
ガラス塊の粉砕方法は特に限定されず、公知の粉砕方法が採用され得る。一般的な粉砕装置を例示すれば、ジョークラッシャー、コーンクラッシャー等の圧縮粉砕機、振動ボールミル、遊星ミル等のボールミル類、塔式粉砕機、撹拌槽型粉砕機、アニュラー型粉砕機等の媒体撹拌型粉砕機、ピンミル、ディスクミル等の高速回転式衝撃粉砕機、その他ロールミル、ジェット粉砕機、自生粉砕機等が挙げられる。また分級方法も特に限定される事はなく、公知の分級方法が採用され得る。一般的な分級装置を例示すれば、振動ふるい、シフター等のふるい分級機、サイクロン等の遠心式分級機、沈降分級機等の湿式分級機等が挙げられる。なお、これら粉砕機や分級機に於いては、金属不純物の混入を避けるため、セラミックス製のものや樹脂やガラスでコーティングされたものを用いるのが好適である。
C.セラミックス補綴物の製造方法
この実施の形態にかかる歯科用陶材組成物は、例えば、セラミックスフレーム上に盛り付けた後に焼成、冷却される。この結果、フレームと本発明の陶材組成物が焼結された陶材層から構成されるオールセラミックス補綴物が得られる。
フレームは、セラミックス材料であれば特に限定されず、マイカ系、アパタイト系、リン酸カルシウム系、アルミナ等が制限無く使用できるが、強度と靭性に優れ、臼歯のブリッジに適するジルコニアを主成分とするものが好ましく、このものにはイットリヤ、カルシア、セリア等によって安定化されたものを含む、現在歯科では、主にイットリヤが3質量%程度含有されて安定化されたジルコニア(熱膨張係数:10×10−6(1/℃)程度)が主に用いられており、本発明の歯科用陶材組成物は、こうしたジルコニア系のものに特に好適に適用できる。ジルコニアフレームは、例えば、ジルコニア成形体をCAD/CAMシステムを使って精巧に加工することによって製造される。上記の盛り付け方法及び焼成方法は、特に限定されず、一般的な陶材組成物において使用されている公知の方法が制限無く採用され得る。例えば、粉末状の陶材組成物を水で練和し、セラミックスフレーム上に築盛し、その後に焼成する。
練和工程において、陶材組成物に近似した屈折率を有する練和液を水の代わりに用いると、練和泥が半透明となり、焼成後の色調予測が容易となる点で好ましい。また、築盛に際しては、各種陶材組成物を複数層に築盛しても良い。さらに、自然観の良好な色調を再現するために、有機溶剤で練和したステイン陶材を用いて彩色を施したり、同じく有機溶剤で練和したグレージング陶材を塗布したりするのが好適である。また、焼成温度は陶材の軟化点に依存して変化する。前記したように陶材は、通常、これを構成するガラス質粒子の軟化点よりも20℃以上高い温度、好適には20℃〜50℃高い温度で加熱されると十分に焼結するため、本発明においては陶材組成物の焼成は、第1のガラス質粒子の軟化点より20℃以上高く、且つ、第2のガラス質粒子の軟化点より20℃高い温度未満の範囲の温度、好ましくは第2のガラス質粒子の軟化点以上の温度、より好ましくは該第2のガラス質粒子の軟化点よりも5℃〜10℃高い温度にすることがよい。一般には、焼成温度は、使用する前記2種類のガラス質粒子の軟化点との関係から、670℃以上1000℃未満の範囲から採択される。また、焼成温度は用いられる部位によって異なり、最も焼成温度が高いのがオペーク陶材となり、ボディー陶材、インサイザル陶材、サービカル陶材、およびトランスルーセント陶材はオペーク陶材より10〜20℃程度低い温度で焼成できるように調整すればよく、ステイン陶材に及びグレージングパウダーは更に10〜20℃低い温度で焼成するのが好適である。
なお、陶材組成物を焼成して得られた陶材層の熱膨張係数および酸溶解量等の物性は、焼成前の陶材組成物の主要成分であるガラス質粒子の物性に比較的近い。陶材層の熱膨張係数は、9〜11×10−6(1/℃)であり、フレームとの層間剥離を低減する上では、当該陶材層は、ジルコニアフレームの上に形成されるのが好ましい。しかし、陶材層を複数形成する等によって有効に層間剥離を低減できる場合には、当該陶材層を、ジルコニア以外の別のセラミックスから成るフレーム上に形成することができる。
次に、本発明を具体的に説明するために実施例を挙げるが、本発明は、以下の実施例により何等制限されるものではない。実施例における軟化点の測定方法、ならびに熱膨張係数の評価方法は、以下の通りである。
1.軟化点の測定方法
溶融により得られたガラス塊(以後、フリットという。)を成形し、JIS−R3104に基づき直径0.55〜0.75mm、長さ23.5cmの試料片を得た。この試料片を、硝子自動軟化点・歪点測定装置(SSPM−31、有限会社オプト製)を用いて、室温から800℃まで10℃/minの昇温速度にて加熱し、軟化点を測定した。なお、自重によって毎分0.1cmの速度で伸びる温度を軟化点とした。
2.熱膨張係数の評価方法
陶材試料を直径12mm、高さ150mmに成形し、ガラス転移点より200℃高い温度にて3分間保持することによって、棒状の測定試料を得た。これを熱分析装置TMA120(セイコー電子工業株式会社製)にて室温から500℃まで加熱し、熱膨張係数を測定した。
以下、各実施例および各比較例について、表1および表2を参照しながら説明する。表1は、各種ガラス質粒子の組成および特性をまとめたものである。表2は、表1に示す各組成のガラス質粒子を混合して得た各種陶材粉を、水と練和し、その練和泥をジルコニアまたはアルミナの平板に築盛し、745〜895℃の温度にて焼成した後の特性をまとめたものである。
Figure 2009185001
Figure 2009185001
(実施例1)
二酸化ケイ素(試薬特級、和光純薬工業株式会社製)29.9g、水酸化アルミニウム(試薬特級、関東化学株式会社製)9.5g、酸化ホウ素(試薬特級、和光純薬工業株式会社製)8.5g、炭酸ナトリウム(試薬特級、和光純薬工業株式会社製)5.2g、酸化亜鉛(試薬特級、和光純薬工業株式会社製)0.1gを秤量、混合した後、混合物を1300℃にて2時間溶融後、ステンレス板上に流し出して冷却し、均一な組成(組成1)を有するフリットを得た。次に、得られたフリットをアルミナ製ボールミルにより粉砕した後、100メッシュの篩いにて分級し、平均粒子径30μmのガラス質粒子を製造した。このフリットの酸化ホウ素の含有量をICP分析により求めると、18.6質量%であった。同様に、このフリットのその他の主成分となる金属酸化物の含有量をICP分析により求めると、酸化ケイ素はSiO換算で65.9質量%、酸化アルミニウムはAl換算で12.2質量%、酸化ナトリウムはNaO換算で3.0質量%、酸化亜鉛はZnO換算で0.3質量%であった。組成1のフリットの軟化点は759℃であり、熱膨張係数は7.8×10−6(1/℃)であった。
同様の手法を用い、ICP分析における組成割合が組成2となるように調整し、フリットを得た。得られたフリットをアルミナ製ボールミルにより粉砕した後、100メッシュの篩いにて分級し、平均粒子径30μmのガラス質粒子を製造した。このフリットの軟化点は782℃であり、熱膨張係数は12.0×10−6(1/℃)であった。
これらの組成1と組成2の各ガラス質粒子を50重量%ずつ混合し、陶材粉とした。この陶材粉の熱膨張係数は9.9×10−6(1/℃)であった。また、陶材粉を構成する2種類のガラス質粒子の軟化点の差は23℃であり、当該2種類のガラス質粒子の熱膨張係数の比は、0.65であった。この陶材粉を水と練和した後に、ジルコニアの平板に築盛し、790℃の温度にて焼成した。得られた焼成体について、クラックの発生状態を下記の基準で評価したところ、◎であった。また、該焼成体とジルコニアとの剥離等も観察されず、透明性も非常に高くて良好な焼き付き性を示した。
◎:クラックは全く発生していない
○:クラックは僅かに発生しているが、実用上問題ないレベルである
×:一部においてかなりのクラックが発生している。
(実施例2)
実施例1と同様に調整した組成3と組成2の各ガラス質粒子を製造し、組成3のガラス質粒子が40重量%、組成2のガラス質粒子が60重量%となるように混合し、陶材粉を作製した。この陶材粉の熱膨張係数は10.2×10−6(1/℃)であった。また、陶材粉を構成する2種類のガラス質粒子の軟化点の差は46℃であり、当該2種類のガラス質粒子の熱膨張係数の比は、0.68であった。この陶材粉を水と練和した後に、ジルコニアの平板に築盛し、790℃の温度にて焼成した。得られた焼成体について、クラックの発生状態を前記の基準で評価したところ◎であった。また、該焼成体とジルコニアとの剥離等も観察されず、透明性も高くて良好な焼き付き性を示した。
(実施例3)
実施例1と同様に調整した組成1と組成3の各ガラス質粒子を用い、組成1のガラス質粒子が60重量%、組成3のガラス質粒子が40重量%となるように混合し、陶材粉を作製した。この陶材粉の熱膨張係数は7.8×10−6(1/℃)であった。また、陶材粉を構成する2種類のガラス質粒子の軟化点の差は23℃であり、当該2種類のガラス質粒子の熱膨張係数の比は、1.00であった。この陶材粉を水と練和した後に、アルミナの平板に築盛し、790℃の温度にて焼成した。得られた焼成体について、クラックの発生状態を前記の基準で評価したところ○であった。また、該焼成体とアルミナとの剥離等も観察されず、透明性も高く、良好な焼き付き性を示した。
(実施例4)
実施例1と同様に調整した組成6と組成8の各ガラス質粒子を用い、組成6のガラス質粒子が70重量%、組成8のガラス質粒子が30重量%となるように混合し、陶材粉を作製した。この陶材粉の熱膨張係数は7.8×10−6(1/℃)であった。また、陶材粉を構成する2種類のガラス質粒子の軟化点の差は70℃であり、当該2種類のガラス質粒子の熱膨張係数の比は、1.73であった。この陶材粉を水と練和した後に、アルミナの平板に築盛し、895℃の温度にて焼成した。得られた焼成体について、クラックの発生状態を前記の基準で評価したところ○であった。また、該焼成体とアルミナとの剥離等も観察されず、透明性も高く、良好な焼き付き性を示した。
(実施例5)
実施例1と同様に、組成9と組成8の各ガラス質粒子を用い、組成9のガラス質粒子が40重量%、組成8のガラス質粒子が60重量%となるように混合し、陶材粉を作製した。この陶材粉の熱膨張係数は8.2×10−6(1/℃)であった。また、陶材粉を構成する2種類のガラス質粒子の軟化点の差は67℃であり、当該2種類のガラス質粒子の熱膨張係数の比は、2.15であった。この陶材粉を水と練和した後にアルミナの平板に築盛し、895℃の温度にて焼成した。その結果、陶材のクラックは実用上問題のない範囲であり、陶材とアルミナとの剥離等は観察されず、良好な焼き付き性を示した。また、透明性も高かった。
(比較例1)
実施例1と同様に調整した組成4と組成2の各ガラス質粒子を用い、組成4のガラス質粒子が60重量%、組成2のガラス質粒子が40重量%となるように混合し、陶材粉を作製した。この陶材粉の熱膨張係数は10.2×10−6(1/℃)であった。また、陶材粉を構成する2種類のガラス質粒子の軟化点の差は2℃であり、当該2種類のガラス質粒子の熱膨張係数の比は、0.70であった。この陶材粉を水と練和した後に、ジルコニアの平板に築盛し、790℃の温度にて焼成した。得られた焼成体について、クラックの発生状態を前記の基準で評価したところ、熱衝撃によって発生したと思われるクラックがかなり観察され、×であった。なお、該焼成体とジルコニアとの剥離等は観察されず、透明性も高いものであった。
(比較例2)
比較例1と同様に、組成7と組成3の各ガラス質粒子を用い、組成7のガラス質粒子と組成3のガラス質粒子を50重量%ずつ混合し、陶材粉を作製した。この陶材粉の熱膨張係数は10.0×10−6(1/℃)であった。また、陶材粉を構成する2種類のガラス質粒子の軟化点の差は8℃であり、当該2種類のガラス質粒子の熱膨張係数の比は、1.46であった。この陶材粉を水と練和した後に、ジルコニアの平板に築盛し、745℃の温度にて焼成した。得られた陶材層について、クラックの発生状態を前記の基準で評価したところ、熱衝撃によって発生したと思われるクラックがかなり観察され、×であった。なお、該焼成体とジルコニアとの剥離等は観察されず、透明性も高いものであった。
(比較例3)
実施例1と同様に、組成3と組成6の各ガラス質粒子を用い、組成3のガラス質粒子が60重量%、組成6のガラス質粒子が40重量%となるように混合し、陶材粉を作製した。この陶材粉の熱膨張係数は8.3×10−6(1/℃)であった。また、陶材粉を構成する2種類のガラス質粒子の軟化点の差は84℃であり、当該2種類のガラス質粒子の熱膨張係数の比は、0.91であった。この陶材粉を水と練和した後に、アルミナの平板に築盛し、825℃の温度にて焼成した。その結果、焼成体は激しく白濁し、光沢のある焼成体は得られなかった。このため、陶材のクラックを確認することはできなかった。これは、軟化点の差が大きいことに起因すると考えられた。
本発明の歯科用陶材組成物は、歯科の分野において、セラミックス補綴物を製造および使用する産業において利用可能である。

Claims (4)

  1. 酸化ケイ素、酸化アルミニウム、酸化ホウ素、酸化亜鉛および酸化ナトリウムを主成分として含有するガラス質粒子を含んでなる歯科用陶材組成物であって、
    上記ガラス質粒子は、第1のガラス質粒子と第2のガラス質粒子とを含み、
    上記第1のガラス質粒子は、
    上記主成分のプラズマ発光分光分析により求められる含有割合が、上記主成分の各成分をそれぞれSiO、Al、B、ZnOおよびNaOに換算したときの合計質量を100質量%とした場合に、SiO:59〜70質量%、Al:6〜16質量%、B:15〜25質量%、ZnO:0.1〜5質量%のおよびNaO:1〜4質量%であり、
    上記第2のガラス質粒子は、
    上記第1のガラス質粒子の軟化点より20〜80℃高い軟化点を有する、
    ことを特徴とする歯科用陶材組成物。
  2. 前記第1のガラス質粒子の熱膨張係数と前記第2のガラス質粒子の熱膨張係数の比は、1より大きく2以下の範囲、若しくは0.5以上で1より小さい範囲であることを特徴とする請求項1に記載の歯科用陶材組成物。
  3. 前記第2のガラス質粒子は、
    上記主成分のプラズマ発光分光分析により求められる含有割合が、上記主成分の各成分をそれぞれSiO、Al、B、ZnOおよびNaOに換算したときの合計質量を100質量%とした場合に、SiO:55〜75質量%、Al:3〜16質量%、B:3〜10質量%、ZnO:0.1〜5質量%のおよびNaO:1〜4質量%であることを特徴とする請求項1または2に記載の歯科用陶材組成物。
  4. ジルコニアを主成分とするセラミックスフレームを用いた歯冠の製造に使用する歯冠用の陶材組成物であることを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載の歯科用陶材組成物。
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