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JP2009178915A - シート状物 - Google Patents

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JP2009178915A
JP2009178915A JP2008019343A JP2008019343A JP2009178915A JP 2009178915 A JP2009178915 A JP 2009178915A JP 2008019343 A JP2008019343 A JP 2008019343A JP 2008019343 A JP2008019343 A JP 2008019343A JP 2009178915 A JP2009178915 A JP 2009178915A
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Akio Takase
明雄 高瀬
Akira Hattori
景 服部
Noriyuki Masuda
則之 増田
Daisuke Hasegawa
大輔 長谷川
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Tokushu Paper Manufacturing Co Ltd
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Abstract

【課題】比較的安価に製造することができ、且つ分離膜支持体として使用した場合に、製膜液の裏抜けを効果的に防止し、分離膜との密着性に優れ、安価で安定した品質を有する分離膜を提供し得るシート状物、及び分離膜付きシート状物を提供する。
【解決手段】シート状物は、上層及び下層を含んで構成される多層構造を有する。上層は、合成繊維からなる主体繊維を含む不織布であって、坪量が20〜100g/m2、厚さが20〜200μm、透気抵抗度が0.1〜5秒である。下層は、製紙用パルプを含むパルプシートであって、坪量が20〜100g/m2、厚さが20〜200μm、透気抵抗度が0.1〜8秒である。シート状物の坪量が60〜140g/m2、厚さが50〜150μm、透気抵抗度が0.1〜10秒である。
【選択図】なし

Description

本発明は、不織布及びパルプシートを含んで構成される多層構造のシート状物に関し、詳しくは、限外濾過膜、精密濾過膜、逆浸透(RO)膜等の分離機能を有する分離膜の製造において、製膜のための支持体となり、分離膜を補強することを目的とした分離膜支持体として用いられるシート状物、及び該シート状物と分離膜とが接着された分離膜付きシート状物に関する。
従来、限外濾過膜、精密濾過膜、逆浸透膜といった分離機能を有する分離膜は、分離膜となる高分子材料を溶媒に溶解した製膜液を分離膜支持体の表面に塗布することで製膜され使用されている。一般的には、分離膜支持体としては乾式法、あるいは湿式法により製造された不織布を熱圧加工したものが使用されている。これらの支持体として従来使用されている不織布は、主体繊維として使用されている短繊維の合成繊維を立体的に集合させてなるため、製膜液が塗布される表面に起毛が存在し、この起毛が分離膜の製膜時に分離膜表面にピンホール等の欠陥を生じさせる主な原因となっていた。これは、分離膜支持体としての不織布に薄膜の製膜液を付着させたときに、起毛が製膜液を貫通して突出するためである。
このようなピンホール等の欠陥を補うため、さらには、支持体としての不織布自体の強度を増すことによって年々高圧化している逆圧洗浄時の負圧に耐えられるようにするため、不織布を構成する繊維として、該不織布の主体繊維(熱可塑性の合成繊維等)に加えてこれよりも低融点のバインダー繊維を用い、且つこれらの繊維を混合してなる繊維集合体を熱圧加工する技術が提案されている。斯かる技術により、支持体となる不織布の強度が向上するとともに、不織布表面の起毛を抑える効果の発現により分離膜の製膜時におけるピンホールの発生が抑制される。これは、繊維集合体を熱圧加工することにより、融点の低いバインダー繊維が溶融して短繊維からなる主体繊維どうしがそれらの交点で接合されて不織布の強度が向上すると共に、主体繊維の表面が加熱と同時にプレスされるからである。
しかし、上述した技術においては、ピンホールの発生をより有効に防止しようとすると、熱圧加工における加熱温度や加圧圧力を高くする必要があり、これらの作用が進んでくると不織布の強度が高まり、不織布表面の起毛もより抑えられる傾向はあるが、その反面、不織布の密度が高くなる傾向がある。分離膜支持体として用いられる不織布の密度が高まると、分離膜の製膜時に該不織布に製膜液を塗布したときに、該製膜液が該不織布の表面に留まってしまい、不織布の内部に浸透しにくくなる傾向が強まる。このような状況では、製膜液の不織布(分離膜支持体)に対するアンカー効果が減少して分離膜と支持体表面との間の接着力が低下し、逆圧洗浄時に支持体表面から分離膜が剥離し易くなる、という欠陥が生じやすくなる。さらには、分離膜支持体として用いられる不織布の密度が高くなることによって濾過効率が減少するという欠陥も生じてくる。
分離膜の製膜液が分離膜支持体(不織布)の内部へ浸透することを助長し、製膜液の支持体に対するアンカー効果を増すためには、不織布を構成している主体繊維の径を太くし、不織布における繊維間隔を広げることが有効である。しかし、不織布の主体繊維の太さを太くした不織布においては、繊維の絶対本数が減少するために分離膜支持体としての均一性が低下し、これにより部分的に製膜液が裏抜けしてしまうという問題が生じる。製膜液の裏抜けが発生すると、支持体の表裏面に同時に膜が形成されて、ピンホールなどの欠陥に繋がるおそれがある。
上記したような問題を解決するために、特許文献1では、分離膜支持体の膜形成面に細かい凹状のくぼみをつけることで、分離膜の膜形成面に対するアンカー効果を増すという提案がなされている。しかし、この提案では、アンカー効果が不十分で、且つ凹状のくぼみに汚染物質が堆積することにより有効濾過面積が減少したり、製膜液が裏抜けしてしまう、といった問題点があった。
特許文献2では、分離膜支持体を表面層と裏面層との2層の積層構造とし、分離膜が被着される表面層には太い繊維を使用して濾過効率とアンカー効果を高め、裏面層には細い繊維を使用して緻密な層とすることで、分離膜の製膜液の裏抜けを防止するという提案がなされている。しかし、この提案では、合成繊維からなる不織布は、それ自体が高価な材料であることから、より安価な材料への選択が困難であることと、分離膜の製膜液の裏抜け防止を行うためには異なる構成の不織布を使用する必要があり、濾過効率を向上させるという面からも対応の限界があった。
特許文献3では、特許文献2の発明をさらに推し進め、不織布の材料としてポリエステル繊維にポリアクリロニトリル繊維を加えることで分離膜との接着強度と支持体としての強度のバランスをとるという提案がなされている。しかし、この提案も上記の発明と同様に、不織布が高価格であることには変わりなく、支持体としての強度、分離膜との結合性および総合的なコストダウンの全てを解決することはできなかった。
特許文献4では、分離膜支持体を構成する不織布の裂断長を特定範囲に規定することで、不織布の製造や熱圧加工時のウエブの収縮を防止し、地合いの向上とウエブの破断を防止する、という提案がなされている。また、特許文献5では、熱圧加工してなる不織布において、フィルム化領域を含ませないことによって不織布の強度及び寸法安定性を向上させるという提案がなされている。これらの提案はいずれも合成繊維のみを使用した不織布を使用して分離膜の支持体を形成するものであり、いずれの方法を採用しても不織布の性能の範疇から逃れられるものではなかった。
特開昭61−15705号公報 特公平4−21526号公報 特開2001−79368号公報 特開平10−225630号公報 特開2004−100047号公報
本発明は、上記した従来技術の問題点を解決し、比較的安価に製造することができ、且つ分離膜支持体として使用した場合に、製膜液の裏抜けを効果的に防止し、分離膜との密着性に優れ、安価で安定した品質を有する分離膜を提供し得るシート状物、及び分離膜付きシート状物を提供することを目的とする。
本発明は、上層及び下層を含んで構成される多層構造のシート状物において、前記上層は、合成繊維からなる主体繊維を含む不織布であって、坪量が20〜100g/m2、厚さが20〜200μm、透気抵抗度が0.1〜5秒であり、前記下層は、製紙用パルプを含むパルプシートであって、坪量が20〜100g/m2、厚さが20〜200μm、透気抵抗度が0.1〜8秒であり、前記シート状物の坪量が60〜140g/m2、厚さが50〜150μm、透気抵抗度が0.1〜10秒であることを特徴とするシート状物を提供することにより前記目的を達成したものである。
また本発明は、前記シート状物の上層の表面上に、分離機能を有する分離膜を形成してなる分離膜付きシート状物を提供することにより前記目的を達成したものである。
本発明のシート状物は、パルプシート(下層)を含んでいることにより、従来の不織布層のみからなるシート状物に比して製造コストの低廉化が図られており、且つ限外濾過膜や逆浸透膜等の分離膜の支持体として使用した場合には、製膜液の裏抜けを効果的に防止し、分離膜との密着性に優れ、ろ過流量の低下や逆圧洗浄時における支持体表面からの分離膜の剥離といった不都合を生じることがなく、安価で安定した品質を有する分離膜を提供することができる。また、本発明の分離膜付きシート状物は、上記効果を奏する本発明のシート状物を用いているため、比較的安価に製造することができ、且つ分離膜として安定した品質を有する。
以下、先ず、本発明のシート状物について、その好ましい実施形態に基づき詳細に説明する。本発明のシート状物は、上層及び下層を含んで構成される多層構造のシート状物である。該上層は、シート状物の一面を構成し、該下層は、シート状物の他面を構成している。本発明のシート状物は、特に限外濾過膜、逆浸透膜、精密濾過膜等の分離膜の支持体(分離膜支持体)として有用であり、以下では、分離膜支持体としての用途を中心に本発明のシート状物を説明する。
本発明に係る上層は、合成繊維からなる主体繊維を含む不織布であり、本発明に係る下層は、製紙用パルプを含むパルプシートである。このように不織布層(上層)に加えてパルプシート層(下層)を含む多層構造のシート状物とすることにより、特許文献1〜5に記載の如き不織布層のみからなるシート状物に比して、製造コストの低廉化を図ることができる。また一般に、パルプシートは不織布に比して生分解性に優れ、廃棄による環境に対する負荷が少ないことから、パルプシート層を含む本発明のシート状物は、特許文献1〜5に記載の如き不織布層のみからなるシート状物に比して廃棄しやすいものであるといえる。
本発明に係る上層(不織布)は、坪量が20〜100g/m2、好ましくは30〜60g/m2であり、厚さが20〜200μm、好ましくは30〜120μmであり、透気抵抗度が0.1〜5秒、好ましくは0.1〜3秒である。また、本発明に係る下層(パルプシート)は、坪量が20〜100g/m2、好ましくは30〜60g/m2であり、厚さが20〜200μm、好ましくは30〜120μmであり、透気抵抗度が0.1〜8秒、好ましくは0.1〜5秒である。ここで、厚さは、各層の無荷重下における厚さを意味する。また、透気抵抗度は、JIS P 8117(1998年)に従って測定される。斯かる透気抵抗度は、紙の通気性評価としての透気抵抗度ではなく、織物の通気性評価としての透気抵抗度である。上層及び下層が一体化されているシート状物においては、透気抵抗度の測定対象となる層をカッター等を用いてシート状物から分離し、この分離された層についてJIS P 8117(1998年)に従って透気抵抗度を測定する。
上層(不織布)の坪量が20g/m2未満であると、シート状物を分離膜支持体として用いた場合に、分離膜の製膜液の裏抜けを防止するために密度を上げるにも限度があるので、製膜液の裏抜けを防止することができず、100g/m2を越えると、シート状物が分離膜と接着された状態で濾過液の濾過に用いられた場合に、濾過液の透過抵抗が増加し濾過効率の低下を招くおそれがある(この場合、上層を極端に低密度にする必要がある)。また、上層の厚さが20μm未満であると、不織布としての密度が不安定になり、分離膜との接着性や裏抜け防止性能に問題が発生するので好ましくなく、200μmを越えると、分離膜を構成する層自体の厚さが増すことにより、単位体積あたりの有効濾過面積が減少するので好ましくない。また、上層の透気抵抗度が0.1秒未満であると、製膜液の裏抜けを防止することができず、5秒を越えると、濾過液の濾過抵抗が増加してくるので好ましくない。下層(パルプシート)においても坪量、厚さ、透気抵抗度が上述した特定範囲から逸脱すると、上記したような問題が出てくるので好ましくない。
上層(不織布)の透気抵抗度を調整する方法としては、主体繊維の太さや長さを調整する、上層の厚さや坪量を調整して上層の密度を調整する、主体繊維に加えて後述するバインダー繊維を用いる場合は両繊維の混合比率を調整する等の方法があり、これらの方法は単独であるいは適宜組み合わせて行なうことができる。
下層(パルプシート)の透気抵抗度を調整する方法としては、パルプの叩解度を調整する(叩解度を大きくすると透気抵抗度が上昇する傾向がある)、パルプの種類を調整する(パルプ繊維の太さや長さによって透気抵抗度が変化する)、下層の厚さや坪量を調整して下層の密度を調整する等の方法があり、これらの方法は単独であるいは適宜組み合わせて行なうことができる。
上層と下層との坪量比(上層:下層)は、好ましくは1:5〜5:1、更に好ましくは1:3〜3:1である。また、上層と下層との厚さ比(上層:下層)は、好ましくは1:10〜10:1、更に好ましくは1:5〜5:1である。
本発明のシート状物は、坪量が60〜140g/m2、好ましくは80〜120g/m2であり、厚さが50〜150μm、好ましくは70〜120μmであり、透気抵抗度が0.1〜10秒、好ましくは0.1〜8秒である。ここで、厚さ及び透気抵抗度は上述した通りである。上層及び下層を含む多層構造全体としての坪量、厚さ及び透気抵抗度がそれぞれ斯かる範囲にあることにより、分離膜支持体として有用なシート状物が得られる。上層及び下層の坪量、厚さ及び透気抵抗度を上述した範囲に設定することにより、シート状物の坪量、厚さ及び透気抵抗度を斯かる範囲に設定することが可能となる。
本発明のシート状物は、上層及び下層からなる2層構造であっても良く、あるいは後述するように、上層及び下層に加えて他の層を有する3層以上の多層構造であっても良い。本発明のシート状物を構成する各層の間は接合されている。この層間の接合は、好ましくは、後述する熱圧加工による構成繊維どうしの熱接着によってなされる。即ち、本発明のシート状物においては、各層間は熱圧接着されていることが好ましい。
本発明に係る上層は、上述したように合成繊維からなる主体繊維を含む不織布である。上層は本発明のシート状物の一面を構成する層であり、該シート状物が分離膜支持体として用いられる場合には、該上層の表面(シート状物の一面)に、分離膜の製膜液が塗布される。つまり、上層は分離膜が被着される層である。上層における主体繊維(合成繊維)の含有量は、上層の全質量に対して好ましくは50質量%以上、更に好ましくは60〜90質量%である。
上層(不織布)の主体繊維(合成繊維)としては、例えば、ポリエステル繊維、ナイロン繊維、アラミド繊維、ポリフェニレンサルファイド繊維、ポリエチレンテレフタレート繊維、ポリアルキレンアリレート繊維等が挙げられる。これらの合成繊維は1種を単独で又は2種以上を混合して用いることができる。これらの中でも特にポリエステル繊維が、強度、価格の点で好ましい。主体繊維の融点は、好ましくは260℃以上、更に好ましくは280℃以上である。
主体繊維の平均繊維度は0.1〜8.9デシテックスで平均繊維長は3〜20mmであることが好ましい。さらに好ましくは平均繊維度が0.4〜6.7デシテックスで平均繊維長が3〜10mmである。主体繊維の平均繊維度が0.1デシテックス未満であると、主体繊維の径が細すぎて不織布としての密度が高くなりすぎる恐れがあり、シート状物を分離膜支持体として用いた場合には、濾過抵抗に問題を生じる危険があると共に、分離膜の製膜液の上層への浸透が妨げられ、分離膜の上層に対するアンカー効果が減少して分離膜と上層との間の接着強度が低下するので好ましくない。また、主体繊維の平均繊維度が8.9デシテックスを越えると、主体繊維の径が太くなりすぎて不織布の密度が不安定になり、シート状物を分離膜支持体として用いた場合には分離膜の均一性が損なわれる恐れがあるので好ましくない。また、主体繊維の平均繊維長が3mm未満であると、不織布としての密度が高くなり、さらには繊維同士の絡み合いも減少して強度低下を引き起こす可能性があるので好ましくない。また、主体繊維の平均繊維長が20mmを越えると、不織布としての繊維の絡み合いにバラツキが生じやすくなるので好ましくない。
上層には、主体繊維に加えてバインダー繊維を含有させることが好ましい。上層にバインダー繊維が含有されていることにより、上層自体の強度や上層と他の層(下層)との間の接合強度が向上する。バインダー繊維としては、このような作用効果を確実に奏させるようにする観点から、主体繊維よりも低融点である繊維を用いることが好ましい。バインダー繊維が主体繊維と同じ融点かあるいはこれよりも高融点であると、シート状物を構成する各層間を熱圧接着する際に、主体繊維がバインダー繊維よりも先に溶融してフィルム化してしまうので好ましくない。尚、上層に主体繊維が複数種含まれている場合、バインダー繊維は、これら複数種の主体繊維の中で最も融点の低いものの該融点よりも低融点であることが好ましい。主体繊維とバインダー繊維との融点の差は、好ましくは5℃以上、更に好ましくは10℃以上である。
バインダー繊維としては、例えば、ポリプロピレン繊維、ポリエチレン繊維、ポリエステル繊維、ナイロン繊維、アラミド繊維、ポリフェニレンサルファイド繊維等が挙げられる。これらのバインダー繊維は1種を単独で又は2種以上を混合して用いることができる。これらの中でも特にポリエステル繊維は、機械的強度や熱加工適性、さらにはコストの面で好ましい。特に低融点ポリエステル繊維や未延伸ポリエステル繊維が好ましい。バインダー繊維の融点は、好ましくは80〜260℃、更に好ましくは90〜240℃である。
尚、本明細書において、繊維の融点は、該繊維が例えば芯鞘型複合繊維のように2種以上の成分が融合せずに独立して存在している場合には、2種以上の成分の中で最も融点の低い成分の該融点を、当該繊維の融点とする。また、例えば未延伸繊維のように明確な融点が無い繊維の場合には、該繊維を徐々に加熱したときに熱接着性を帯び始めたときの温度(軟化点)を、当該繊維の融点とする。繊維の融点の測定方法としては、DTA(示差熱分析)やDSC(示差走査熱量計)といった熱分析測定機を使用し、1℃/分程度の割合で温度上昇させたときの温度差、あるいはエネルギー入力の差が確認された温度を、当該繊維の融点とする。
バインダー繊維の平均繊維度は0.4〜6.6デシテックスで平均繊維長は3〜20mmであることが好ましい。さらに好ましくは平均繊維度が0.4〜4.8デシテックスで平均繊維長が3〜10mmである。バインダー繊維の平均繊維度及び平均繊維長が斯かる範囲にあることにより、上層と下層との間の接合がより一層向上する。
上層に主体繊維及びバインダー繊維を含有させる場合、両繊維の含有質量比は、主体繊維:バインダー繊維=20:80〜80:20であることが好ましい。さらに好ましくは35:65〜65:35である。バインダー繊維の含有比率が上記範囲を超えて少なすぎると、バインダー繊維による効果、即ち、主体繊維どうしの交点での接合効果や上層と他の層(下層)との間を熱圧接着する効果が低減するため好ましくない。また、バインダー繊維の含有比率が上記範囲を超えて多すぎると、主体繊維が少なくなりすぎて濾過効率を低下させてしまうため好ましくない。
上層(不織布)の主体繊維(合成繊維)としては、上述したものの他に、芯鞘型複合繊維を用いることができる。芯鞘型複合繊維としては、鞘部の構成樹脂が芯部の構成樹脂よりも低融点であるものが好ましく用いられる。主体繊維としてこのような芯鞘型複合繊維を用いた場合には、上層にバインダー繊維を含有させる必要は無く、上層の繊維成分は実質的に芯鞘型複合繊維のみとすることができる。芯鞘型複合繊維の含有量は、上層の全質量に対して好ましくは5質量%以上である。鞘部の構成樹脂が芯部の構成樹脂よりも低融点である芯鞘型複合繊維において、芯部の構成樹脂の融点と鞘部の構成樹脂の融点との差は、好ましくは5℃以上、更に好ましくは10℃以上である。
芯鞘型複合繊維としては、例えば、1)芯部の構成樹脂がポリプロピレン、鞘部の構成樹脂がポリエチレン、2)芯部の構成樹脂がポリエステル、鞘部の構成樹脂が共重合ポリエステル、3)芯部の構成樹脂がナイロン、鞘部の構成樹脂がポリエステル等が挙げられる。本発明においては、これら1)〜3)の1種を単独で用いても良く、2種以上を併用しても良い。これらの中でも特に、前記2)の芯鞘型複合繊維が好ましい。また、芯部の構成樹脂の融点は、好ましくは260℃以上、更に好ましくは280℃以上であり、鞘部の構成樹脂の融点は、好ましくは80〜260℃、更に好ましくは90〜240℃である。
上層を構成する不織布は、従来公知の不織布の製造方法を利用して製造することができる。不織布の製造方法は乾式法(乾式不織布法)、湿式法(湿式不織布法)に大別されるが、本発明に係る上層はいずれの方式でも製造することができる。但し、シート状物が分離膜支持体として用いられる場合には、上層として均一な密度を有する不織布を使用しないと、均一な分離膜を形成させることが困難になるところ、湿式法は密度が均一な不織布を製造しやすいことから、上層としては、湿式法により製造された不織布を使用することが好ましい。
湿式法によって不織布を製造する際には、通常、短網抄紙機、円網抄紙機、傾斜ワイヤー抄紙機等の当該技術分野で公知の各種抄紙機が使用される。短網抄紙機(懸垂式短網抄紙機)は、薄物のシートの抄造に適している、繊維の配向性が調整しやすい、シートにおけるMD(Machine Direction)及びCD(Cross Direction)それぞれの引張強度のバランスがとりやすい等の特徴を有している。円網抄紙機は、環状に配された金網に抄紙原料を含むスラリーを通すことで、抄紙原料のみを金網上に堆積させてシートを得る抄紙機であり、一般に、抄紙速度が遅い場合には地合の良いシートが得られるが、抄紙速度が速くなると地合が悪化する傾向がある。また、円網抄紙機は、その製法上、繊維がシートの厚み方向(Z軸方向)に並びやすいため、シートにおけるCDの引張強度が出にくく、MDとCDとの引張強度バランスがとりにくい。傾斜ワイヤー抄紙機は、ワイヤーパートで用いられる金網(ワイヤー)に傾きを持たせた抄紙機であり、シートにおけるMDとCDとの引張強度バランスがとりやすい、他の抄紙機に比して繊維配向をZ軸方向にそろえやすい、地合の良いシートを得やすい、嵩高なシートを得やすい等の特徴を有している。本発明に係る上層(不織布)は、何れの抄紙機を用いて製造しても良いが、特に傾斜ワイヤー抄紙機を用いて製造することが好ましい。即ち、本発明に係る上層は、傾斜ワイヤー抄紙機を用いた湿式法によって製造された不織布であることが好ましい。上層が、傾斜ワイヤー抄紙機を用いた湿式法によって製造された不織布であることによって、地合いがよく、強度バランスもとれた、本発明における分離膜支持体に適した不織布が得られるという効果が奏される。
本発明に係る下層は、上述したように製紙用パルプを含むパルプシートである。製紙用パルプとしては、例えば、針葉樹晒クラフトパルプ(NBKP)、広葉樹晒クラフトパルプ(LBKP)、針葉樹晒サルファイトパルプ(NBSP)、広葉樹晒サルファイトパルプ(LBSP)、サーモメカニカルパルプ(TMP)等の木材パルプ;麻、竹、藁、ケナフ、楮、三椏、木綿等の非木材パルプ;カチオン化パルプ、マーセル化パルプ等の変性パルプ;ミクロフィブリル化パルプ等が挙げられる。下層における製紙用パルプの含有量は、下層の全質量に対して好ましくは5質量%以上、更に好ましくは20〜95質量%である。
製紙用パルプとしては、機械パルプ等を使用することもできるが、化学パルプが好ましい。化学パルプは、化学的な反応で木材を分解・分離することにより得られたパルプであり、クラフトパルプ(KP)やサルファイトパルプ(SP)等がある。一般に、化学パルプは、機械パルプ等の他の製法により得られたパルプに比して、樹脂分などのセルロース以外の成分が少ない。本発明で用いられる製紙用パルプ中に樹脂分が多く含まれていると、本発明のシート状物を分離膜支持体として用いた場合において、該分離膜支持体に被着した分離膜によって濾過された液(透過液)に該樹脂分が不純物として混入する危険があるので、これらを極力減少させた化学パルプ(例えば針葉樹晒クラフトパルプや広葉樹晒クラフトパルプ)を使用することが好ましい。
下層(パルプシート)には、製紙用パルプに加えてバインダー繊維を含有させることが好ましい。下層にバインダー繊維が含有されていることにより、下層と他の層(上層)との間の熱圧接着が一層効果的に行われ、層間強度が高まる。下層に使用するバインダー繊維としては、上述した上層に使用されるバインダー繊維と同様のものが挙げられるが、これに拘る必要はない。下層にバインダー繊維を含有させる場合、下層における製紙用パルプとバインダー繊維との含有質量比は、製紙用パルプ:バインダー繊維=5:95〜95:5であることが好ましい。さらに好ましくは35:65〜65:35である。
また下層には、必要に応じ、製紙用パルプ及びバインダー繊維以外の他の繊維を含有させることができる。他の繊維としては、例えば、レーヨン、ビニロン、ナイロン、アクリル、ポリエステル等の合成繊維や化学繊維等が挙げられ、これらの1種単独であるいは2種以上を混合して用いることができる。
下層には製紙用添加剤が実質的に含まれていないことが好ましい。下層に製紙用添加剤が含まれていると、シート状物を分離膜支持体として用いた場合に、分離膜支持体に被着した分離膜を通して得られた透過液中に製紙用添加剤が混入するおそれがあるためである。ここで、製紙用添加剤とは、通常、製紙用として使用される填料や製紙用薬品であり、例えば、歩留まり向上剤、乾燥紙力増強剤、湿潤紙力増強剤、染料、顔料、スライムコントロール剤等の製紙用補助薬品、ラテックスのような内添用バインダー、タルク、クレー、炭酸カルシウム、水酸化アルミニウム、酸化チタン等の填料が挙げられる。また、「実質的に含まれていない」とは、製紙用添加剤が全く含まれていない場合のみならず、ごく少量の製紙用添加剤が含まれている(好ましくは下層の全質量に対して5質量%以下)場合を含む。尚、下層以外の層(上層)においても、製紙用添加剤は実質的に含まれていないことが好ましい。
下層を構成するパルプシートは、従来公知の湿式抄紙法を利用して製造することができる。抄紙機としては、長網抄紙機、円網抄紙機、短網抄紙機、傾斜ワイヤー抄紙機等の公知の抄紙機を特に制限無く使用することができる。
上層(不織布)及び/又は下層(パルプシート)には、シート状物を分離膜支持体として用いた場合において濾液における細菌類の増殖を防止する目的で、抗菌性物質を含有させることができる。抗菌性物質としては、銀イオンや銅イオンといった抗菌性金属イオンを含有する抗菌性物質が好ましく、逆に、抗菌性の化学物質からなる薬品類(抗菌性薬品)は、濾液に該抗菌性薬品の溶解物が混入するので好ましくない。抗菌性金属イオンを含有する抗菌性物質としては、例えば、銀、銅、亜鉛等の抗菌性金属イオンを含有させたゼオライトや、該抗菌性金属イオンを合成繊維に練り込んだ抗菌性繊維等が好ましく使用できる。抗菌性物質の含有量は、シート状物を分離膜支持体として用いた場合における濾過量や濾液のレベルを考慮してその最適量を設定する。
上述したように、本発明のシート状物は3層以上の多層構造であっても良い。3層以上の多層構造のシート状物の具体例として、下記シート状物P及びQが挙げられる。下記シート状物P及びQは、何れも、上層と下層との間に中間層が配されて全体として3層構造とされており、該中間層は、加熱により接着性を帯びるものである。このような中間層を有するシート状物は層間の接合強度が強く、また、加熱により接着性を帯びる中間層の存在により、下層(パルプシート)にはバインダー繊維を含有させなくても良いという利点を有している。尚、下記シート状物P及びQについては、上述したシート状物と異なる構成部分を主として説明し、同様の構成部分は説明を省略する。特に説明しない構成部分は、上述したシート状物についての説明が適宜適用される。
シート状物P:上層と下層との間に中間層が配されて全体として3層構造とされており、該中間層は、製紙用パルプ及びバインダー繊維を含み且つ坪量が20〜100g/m2、厚さが20〜200μm、透気抵抗度が0.1〜8秒であるシート状物。中間層の坪量は好ましくは40〜80g/m2であり、厚さは好ましくは40〜120μmであり、透気抵抗度は好ましくは0.1〜5秒である。中間層には製紙用添加剤が実質的に含まれていないことが好ましい。「製紙用添加剤」及び「実質的に含まれていない」の意味は、上述した通りである。中間層における製紙用パルプの含有量は、中間層の全質量に対して好ましくは5質量%以上、更に好ましくは30〜80質量%である。中間層における製紙用パルプとバインダー繊維との含有質量比は、製紙用パルプ:バインダー繊維=5:95〜95:5であることが好ましく、35:65〜65:35であることが更に好ましい。中間層に含有される製紙用パルプとしては、下層に含有される製紙用パルプと同様のものを用いることができ、化学パルプが特に好ましい。また、中間層に含有されるバインダー繊維としては、上層に含有されるバインダー繊維と同様のものを用いることができる。
シート状物Pにおいて、上層(不織布)と中間層との坪量比(上層:中間層)は、好ましくは1:5〜5:1、更に好ましくは1:3〜3:1である。また、上層と中間層との厚さ比(上層:中間層)は、好ましくは1:10〜10:1、更に好ましくは1:5〜5:1である
シート状物Q:上層と下層との間に中間層が配されて全体として3層構造とされており、該中間層は、網目状のバインダーシートであるシート状物。バインダーシートとしては、上層(不織布)における主体繊維よりも低融点である熱可塑性の高分子物質からなるシートが使用できる。熱可塑性の高分子物質としては、例えばポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエチレン・酢酸ビニル共重合体、ポリアミド、ポリエステル等が挙げられる。網目状のバインダーシートとしては、該シートを厚み方向に貫通する開孔が該シートの全面にランダムに複数形成されたものが使用できる。網目状のバインダーシートの開孔率〔(開孔の面積の合計/シートの面積)×100〕は10〜80%であることが好ましい。開孔率が10%未満であると、シート状物を分離膜支持体として用いた場合に濾過効率が低下するおそれがあるので好ましくない。また、開孔率が80%を越えると、バインダーシートを介して接合されている上層と下層との間の接合力が弱まるおそれがあるので好ましくない。バインダーシートの坪量は好ましくは10〜40g/m2であり、厚さは好ましくは20〜80μmである。
本発明のシート状物は、好ましくは次のようにして製造される。即ち、シート状物を構成する各層(上層、下層、中間層等)をそれぞれ独立に製造した後、得られた各層を重ね合わせて積層体とし、この積層体に熱圧加工を施して各層間を熱圧接着させることにより、シート状物が製造される。
積層体の熱圧加工は、熱源を有する金属ロール等の熱ロールで積層体を加熱しながらプレスするのが好ましい。熱ロールは積層体の一面側にのみ配しても良く、両面側それぞれに配しても良い。熱圧加工時における熱ロールの表面温度は、シート状物の構成繊維の融点によって適宜設定されるが、150℃以上が好ましく、さらに好ましいのは190℃以上である。熱ロールの表面温度が150℃未満であると、バインダー繊維の溶融が不充分となりやすく、バインダー繊維としての効果が発揮できなくなるおそれがあるので好ましくない。また、熱圧加工時における熱ロールの表面温度の上限は300℃が好ましく、これ以上に加熱すると主体繊維まで溶融するおそれがあるので好ましくない。また、熱圧加工時における熱ロールの加圧力(線圧)は、好ましくは2.0〜29.4MPaであり、さらに好ましくは4.9〜24.5MPaである。加圧力が2.0MPa未満であると、各層間を熱圧接着させる力が弱くなるおそれがあるので好ましくない。加圧力が29.4MPaを越えると、各層間を熱圧接着させて得られたシート状物における各層の密度が高くなりすぎてしまい、該シート状物を分離膜支持体として用いた場合に濾過効率が低下するおそれがあるので好ましくない。また、熱圧加工時における積層体が熱ロールを通過す時間に関しては、熱ロールの表面温度と熱ロールの加圧力から、最終的に得られるシート状物の密度と透気抵抗度を考慮して決定される。
本発明のシート状物は、上述したように、特に限外濾過膜、逆浸透膜、精密濾過膜等の分離機能を有する分離膜の支持体(分離膜支持体)として有用である。本発明のシート状物を分離膜支持体として用いる場合には、通常、該シート状物の上層(不織布)の表面上に、分離膜の製膜液(高分子溶液)を塗布(流延)することによって分離膜層を形成させ、分離膜を製造する。こうして、シート状物の上層の表面上に、分離機能を有する分離膜を形成してなる分離膜付きシート状物(流体分離素子)が得られる。該分離膜は、単層構造であっても良く、組成の異なる2層以上が積層してなる多層構造(複合膜)であっても良い。この分離膜付きシート状物は、それ自体を種々の用途において分離膜として使用することができ、例えば、海水の淡水化、排水処理、食品の濃縮、バクテリア・酵母・ウイルスなどの微生物の分離、血液の濾過などの医療用途、半導体洗浄用の超純水の製造等に使用することができる。
本発明のシート状物を分離膜支持体として用いる場合、該シート状物の上層の表面上に流延される製膜液としては、分離機能を有する層が形成可能であれば特に限定されず、例えば、ポリエチレントリメスアミド[PET]、ポリ(トリメソイルピペラジン)[PTP]、ポリ(m−オフェニレントリメスアミド)[PMT]等の芳香族ポリアミドの他、アリル・アルキルポリアミド/ポリウレア、セルロースアセテート、セルローストリアセテート、ポリアクリロニトリル、ポリベンズイミダゾロン、ポリピペラジンアミド、架橋ポリエーテル、スルホン化ポリサルフォン、ポリビニルアルコール、ポリフッ化ビニリデン、ポリエチレン、ポリアクリロニトリル、ポリプロピレン、ポリカーボネート、セラミック等を、適当な溶媒に溶解・分散させた製膜液が挙げられる。
分離膜の一種である限外濾過膜は、例えば次のようにして製造することができる。即ち、スルホン化ポリサルフォンをN-Nジメチルホルムアミドに溶解して調製した製膜液を、シート状物の上層(不織布)の表面に塗布して分離膜層を形成した後、該分離膜層を水と接触させてゲル化させ、その後浸漬層を通して残留しているN-Nジメチルホルムアミドを洗浄除去して、上層の表面にスルホン化ポリサルフォンの層を設けることで、限外濾過膜(限外濾過膜付きシート状物)を製造することができる。限外濾過膜の厚さは20〜100μmが好ましく、厚さが20μm未満であると分離膜強度の低下や異物の混入といった問題があるので好ましくなく、100μmを越えると濾過流量の低下といった問題があるので好ましくない。
また、分離膜の一種である逆浸透膜(複合膜)は、例えば次のようにして製造することができる。即ち、上記のようにして得られた限外濾過膜付きシート状物における該限外濾過膜の表面に、酢酸セルロース等のセルロース系、ポリアミド系、ポリイミド系、ポリサルフォン系、ポリビニルアルコール系等の高分子材料を適当な溶媒に溶解・分散させた製膜液を塗布して新たに膜を設けることで、逆浸透膜(逆浸透膜付きシート状物)を製造することができる。このようにして得られた逆浸透膜においては、限外濾過膜が支持層(スポンジ層)として機能し、該限外濾過膜の表面に新たに形成された膜が分離機能を司るスキン層として機能する。スキン層の厚さはスポンジ層よりも薄く、0.1〜1μmの厚さで製造される。スキン層の厚さが0.1μm未満であると分離膜強度の低下といった問題があるので好ましくなく、1μm以上になると濾過流量の低下や目詰まりといった問題があるので好ましくない。
上記のような分離膜及び分離膜支持体からなる分離膜付きシート状物(流体分離素子)の好ましい使用形態としては、平膜のプレートフレーム型モジュール、スパイラル型モジュール等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
図1には、限外濾過膜(限外濾過膜付きシート状物)を用いたスパイラル型モジュールの一例が示されている。図1に示すスパイラル型モジュール10は、原液側スペーサー11と透過液側スペーサー12との間に、限外濾過膜13(限外濾過膜付きシート状物)が配置された構造を有する。原液側スペーサー11には、濾過の対象となる原液5を供給するための通過隙間が設けられており、透過液側スペーサー12には、透過液6を通過させる通過隙間が設けられている。透過液6は、原液5が限外濾過膜13を透過することによって得られるものである。限外濾過膜13は、原液側スペーサー11と透過液側スペーサー12と共に集水管14の周りにスパイラル状に巻き付けられている。このスパイラル状部分は、原液側スペーサー11と透過液側スペーサー12と限外濾過膜13とを重ね合わせて2つ折りにし、更に所定部位を接着して袋状物とし、縦一直線に切れ目を入れた集水管14で該袋状物の開口部を挟み、集水管14を芯にして該袋状物をロールケーキ状に巻回することにより得られる。このような構造のスパイラル型モジュール10においては、スパイラル状部分の軸方向(集水管14の延びる方向)に向けて原液5を加圧しつつ供給することで、透過液側スペーサー12側から濃縮水7を、集水管16から透過液6がそれぞれ得られる。
原液側スペーサー11及び透過液側スペーサー12の構造としては、両者ともに同じ構造でも構わないが、原液側スペーサー11は網目構造、透過液側スペーサー12は編地構造であることが好ましい。原液側スペーサー11を網目構造にすると、該原液側スペーサー11が原液5の乱流促進材として作用し、原液5の濃度分極がおこりにくくなることで膜面流速を均一にすることができ、原液5の汚れによる詰まりの発生が少なくなるので好ましい。原液側スペーサー11としては、厚さが0.5〜2.0mmの合成繊維製ネットが好ましく使用される。原液側スペーサー11に使用される合成繊維としては、ポリプロピレン繊維やポリエチレン繊維が使用され、必要に応じて該合成繊維に抗菌性繊維も混入される。合成繊維製ネットに使用される繊維の太さとしては20〜300μmが好ましい。20μm未満であるとスペーサーの隙間が狭くなり、空隙率が小さくなるので有効膜面積も小さくなり、濾過流量が低下するので好ましくない。300μmを越えるとモジュールの充填密度が低下して分離膜の面積が小さくなるので好ましくない。透過液側スペーサー12としては、厚さが0.2〜1.0mmの合成繊維の編地が好ましく使用され、この編地にメラミン樹脂やエポキシ樹脂等を含浸させてから熱硬化させたものが使用される。
以下、本発明を実施例に基づき更に具体的に説明するが、本発明は斯かる実施例に限定されるものではない。
〔実施例1〕
短網抄紙機を用いて湿式法により不織布(坪量30g/m2、厚さ101μm、透気抵抗度0.1秒)を製造した。該不織布は、下記主体繊維Aを60質量部、下記バインダー繊維Aを10質量部及び下記バインダー繊維Bを30質量部含み、また、該不織布における主体繊維とバインダー繊維との含有質量比は、主体繊維:バインダー繊維=60:40である。また別途、針葉樹晒クラフトパルプ(NBKP)100質量部を叩解度が500mlC.S.F.になるように調整し、これに湿潤紙力増強剤(商品名「スミレッツレジン675A」、田岡化学工業(株)製造)を1質量部加えてスラリーを得、該スラリーを用いて円網抄紙機によりパルプシート(坪量40g/m2、厚さ70μm、透気抵抗度4秒)を製造した。こうして得られた不織布(上層)とパルプシート(下層)とを重ね合わせて積層体とし、この積層体に熱ロールを用いて熱圧加工(熱ロールの表面温度225℃、加圧力8.8MPa)を施して各層間を熱圧接着させることによりシート状物を得、これを実施例1のサンプルとした。実施例1のシート状物は、坪量70g/m2、厚さ102μm、透気抵抗度5秒であった。
・主体繊維A:平均繊維度が0.6デシテックスで平均繊維長が3mmであり、且つ融点が260℃である延伸ポリエステル繊維(商品名「TA04N」、帝人ファイバー(株)製造)。
・バインダー繊維A:平均繊維度が1.2デシテックスで平均繊維長が5mmであり、且つ融点が150℃である未延伸ポリエステル繊維(商品名「TA07N」、帝人ファイバー(株)製造)。
・バインダー繊維B:平均繊維度が1.7デシテックスで平均繊維長が5mmであり、且つ融点が110℃である芯鞘型ポリエステル繊維(商品名「TJ04CN」、帝人ファイバー(株)製造、ポリエステル繊維が芯、共重合ポリエステルが鞘)。
〔実施例2〕
実施例1において不織布を製造する際に用いる抄紙機を短網抄紙機から円網抄紙機に変更した以外は実施例1と同様にしてシート状物を得、これを実施例2のサンプルとした。実施例2のシート状物は、坪量70g/m2、厚さ102μm、透気抵抗度5秒であった。
〔実施例3〕
実施例1において不織布を製造する際に用いる抄紙機を短網抄紙機から傾斜ワイヤー抄紙機に変更した以外は実施例1と同様にしてシート状物を得、これを実施例3のサンプルとした。実施例3のシート状物は、坪量70g/m2、厚さ102μm、透気抵抗度5秒であった。
〔実施例4〕
実施例1と同様の方法により、不織布(坪量20g/m2、厚さ67μm、透気抵抗度0.1秒)とした以外は実施例1と同様にしてシート状物を得、これを実施例4のサンプルとした。実施例4のシート状物は、坪量60g/m2、厚さ88μm、透気抵抗度4秒であった。
〔実施例5〕
実施例1において主体繊維Aに代えて下記主体繊維Bを用い、且つバインダー繊維Aを用いない代わりにバインダー繊維Bを40質量部とした(主体繊維Bを60質量部及びバインダー繊維Bを40質量部含有させた)以外は実施例1と同様にして不織布(坪量29g/m2、厚さ97μm、透気抵抗度0.1秒)を製造した。該不織布と別途製造した実施例1のパルプシートとを用いて実施例1と同様の方法によりシート状物を得、これを実施例5のサンプルとした。実施例5のシート状物は、坪量69g/m2、厚さ101μm、透気抵抗度4秒であった。
・主体繊維B:平均繊維度が0.7デシテックスで平均繊維長が5mmであり、且つ融点が260℃である延伸ポリエステル繊維(商品名「TA09N」、帝人ファイバー(株)製造)。
〔実施例6〕
実施例5において不織布を製造する際に用いる抄紙機を短網抄紙機から円網抄紙機に変更した以外は実施例5と同様にして不織布(坪量29g/m2、厚さ91μm、透気抵抗度0.1秒)を製造した。該不織布と別途製造した実施例1のパルプシートとを用いて実施例1と同様の方法によりシート状物を得、これを実施例6のサンプルとした。実施例6のシート状物は、坪量69g/m2、厚さ103μm、透気抵抗度4秒であった。
〔実施例7〕
実施例1において針葉樹晒クラフトパルプ(製紙用化学パルプ)と共にバインダー繊維Bを併用した以外は実施例1と同様にしてパルプシートを製造した。該パルプシートにおける製紙用パルプとバインダー繊維Bとの含有質量比は、製紙用パルプ:バインダー繊維=95:5である。該パルプシートと別途製造した実施例1の不織布とを用いて実施例1と同様の方法によりシート状物を得、これを実施例7のサンプルとした。実施例7のシート状物は、坪量70g/m2、厚さ101μm、透気抵抗度5秒であった。
〔実施例8〕
実施例7において不織布における主体繊維とバインダー繊維との含有質量比を主体繊維:バインダー繊維=80:20に変更した以外は実施例7と同様にしてシート状物を得、これを実施例8のサンプルとした。実施例8のシート状物は、坪量70g/m2、厚さ102μm、透気抵抗度6秒であった。
〔比較例1〕
短網抄紙機を用いて湿式法により不織布(坪量30g/m2、厚さ102μm、透気抵抗度0.1秒)を製造した。該不織布は、下記主体繊維Cを60質量部、前記バインダー繊維Aを35質量部及び下記バインダー繊維Bを5質量部含み、また、該不織布における主体繊維とバインダー繊維との含有質量比は、主体繊維:バインダー繊維=60:40である。該不織布と別途製造した実施例1のパルプシートとを用いて実施例1と同様の方法によりシート状物を得、これを比較例1のサンプルとした。比較例1のシート状物は、坪量70g/m2、厚さ90μm、透気抵抗度18秒であった。
・主体繊維C:平均繊維度が0.06デシテックスで平均繊維長が5mmであり、且つ融点が260℃である延伸ポリエステル繊維(商品名「TM04PN」、帝人ファイバー(株)製造)。
〔比較例2〕
針葉樹晒クラフトパルプ100質量部を叩解度が500mlC.S.F.になるように調整してスラリーを得、該スラリーを用いて長網抄紙機によりパルプシート(坪量41g/m2、厚さ52μm、透気抵抗度16秒)を製造した。該パルプシートと別途製造した比較例1の不織布とを用いて実施例1と同様の方法によりシート状物を得、これを比較例2のサンプルとした。比較例2のシート状物は、坪量71g/m2、厚さ88μm、透気抵抗度35秒であった。
〔比較例3〕
実施例1においてパルプシートに用いる製紙用パルプ(針葉樹晒クラフトパルプ)を砕木パルプ(GP)に変更した以外は実施例1と同様にしてシート状物を得、これを比較例3のサンプルとした。比較例3のシート状物は、坪量70g/m2、厚さ90μm、透気抵抗度18秒であった。
〔比較例4〕
実施例1においてパルプシートに用いる製紙用パルプに製紙用填料としてタルク(商品名「タルクLMR−100」、富士タルク工業(株)製造)を10質量部加えた以外は実施例1と同様にしてシート状物を得、これを比較例4のサンプルとした。比較例4のシート状物は、坪量70g/m2、厚さ80μm、透気抵抗度13秒であった。
〔比較例5〕
主体繊維Aを5質量部及びバインダー繊維Bを95質量部用いて実施例1と同様の方法により不織布を製造した。該不織布と別途製造した実施例1のパルプシートとを用いて実施例1と同様の方法によりシート状物を得、これを比較例6のサンプルとした。比較例6のシート状物は、坪量70g/m2、厚さ91μm、透気抵抗度11秒であった。
〔比較例6〕
実施例1のパルプシートの坪量120g/m2、厚さ180μmとした以外は同様の方法で得られたシート状物を比較例7のサンプルとした。比較例6のシート状物は坪量150g/m2、厚さ210μm、透気抵抗度28秒であった。
〔比較例7〕
坪量120g/m2、厚さ400μmとした以外は実施例1と同様の方法により不織布を製造した。また、実施例1において製紙用化学パルプとともにバインダー繊維Bを併用した以外は実施例1と同様にしてパルプシートを製造した。該パルプシートにおける製紙用パルプとバインダー繊維との含有質量比は、5:95である。こうして得られた不織布とパルプシートを用いて実施例1と同様の方法によりシート状物を得、これを比較例7とした。比較例7のシート状物は、坪量160g/m2、厚さ190μm、透気抵抗度4秒であった。
〔スパイラル型モジュールの作製〕
スルホン化ポリサルフォンをN-Nジメチルホルムアミドに溶解させて、固形分濃度17質量%の製膜液を調製した。この製膜液を、実施例及び比較例で得られたシート状物の上層(不織布)の表面に塗布した後、水と接触させて該製膜液をゲル化させ、次いで、浸漬層を通すことで残留しているN-Nジメチルホルムアミドを洗浄除去して、該上層の表面に厚さ50μmのスルホン化ポリサルフォンの層(限外濾過膜)を形成した。尚、実施例及び比較例の何れのシート状物においても、製膜液の裏抜けは見られなかった。また、実施例及び比較例の何れのシート状物を用いた場合においても、限外濾過膜にピンホール等の欠陥は見られなかった。
こうして得られた限外濾過膜(限外濾過膜付きシート状物)を用いて、図1に示す如きスパイラル型モジュールを作製した。詳細には、原液側スペーサーとして、繊維径0.7μmのポリプロピレン繊維からなり且つ開孔率40%の網目構造のネットを挿入し、また透過液側スペーサーとして、シングルトリコット編物で幅400μmの溝を有する厚さ0.4mmのポリエステルシートを挿入し、これらを重ね合わせて2つ折りにして袋状に接着した後、縦一直線に切れ目を入れた集水管で袋の口を挟み、これを芯にしてロールケーキ状に巻くことでスパイラル状部分を形成し、スパイラル型モジュールを作製した。スパイラル状部分の軸方向(集水管の延びる方向)と直交する方向の2つの断面のうちの一方から原液を加圧しつつ供給し、他方の断面から濃縮水を、集水管から透過液を得る方法を採用した。
〔性能評価〕
実施例及び比較例のシート状物それぞれについて、上述した方法〔JIS P 8117(1998年)〕に従って透気抵抗度(秒)を測定した。また、上記のようにして得られたスパイラル型モジュールについて、逆圧洗浄時の分離膜の剥離状態、濾過流量をそれぞれ下記方法により評価した。これらの結果を下記表1及び表2に示す。
<逆圧洗浄時の分離膜の剥離状態>
スパイラル型モジュールを逆圧洗浄する。その際、逆圧洗浄時の圧力を徐々に増していき、分離膜がシート状物(分離膜支持体)から完全に剥離したときの圧力(剥離圧力)を測定する。この剥離圧力が大きいほど、分離膜と支持体(シート状物)との間の接着力が強く両者が密着していることを示し、高評価となる。ここでは、剥離圧力が9.8MPa以上のものを合格と判断した。
<濾過流量>
スパイラル型モジュールに、原液側スペーサーから透過液側スペーサーに向けて0.1MPaの圧力を加えつつ純水を流し、透過液側スペーサーから流れ出てくる透過液の流量を測定する。該流量が0.5m3/m2/日以上のものを合格と判断した。
Figure 2009178915
Figure 2009178915
表1に示す通り、実施例1〜8は、何れもパルプシート(下層)を含んで構成されているものの、上層、下層及びシート状物自体の坪量、厚さ及び透気抵抗度がそれぞれ上述した特定範囲内にあるため、これらを使用したスパイラル型モジュールにおいては、逆圧s洗浄時の高圧力にも耐える分離膜の強い接着強度を示し、濾過流量も満足すべきものであった。このことから、本発明のシート状物は、製造コストの低廉化や環境に対する負荷の低減を実現し、且つ分離膜支持体として有用なものであることがわかる。
これに対して表2に示す通り、比較例1及び5はシート状物の透気抵抗度が、比較例2、3及び4は下層及びシート状物それぞれの透気抵抗度が、比較例6は下層の透気抵抗度並びにシート状物の坪量、厚さ及び透気抵抗度が、比較例7は上層及び下層それぞれの坪量及び厚さが、それぞれ上述した特定範囲内に無いため、これらを使用したスパイラル型モジュールにおいては、剥離圧力及び濾過流量の両評価を合格レベルにすることはできなかった。
図1は、本発明のシート状物を用いた分離膜付きシート状物が組み込まれたスパイラル型モジュールの一実施形態を一部展開して示す概略斜視図である。
符号の説明
5 原液
6 透過液
7 濃縮液
10 スパイラル型モジュール
11 原液側スペーサー
12 透過液側スペーサー
13 限外濾過膜(限外濾過膜付きシート状物)
14 集水管

Claims (7)

  1. 上層及び下層を含んで構成される多層構造のシート状物において、
    前記上層は、合成繊維からなる主体繊維を含む不織布であって、坪量が20〜100g/m2、厚さが20〜200μm、透気抵抗度が0.1〜5秒であり、
    前記下層は、製紙用パルプを含むパルプシートであって、坪量が20〜100g/m2、厚さが20〜200μm、透気抵抗度が0.1〜8秒であり、
    前記シート状物の坪量が60〜140g/m2、厚さが50〜150μm、透気抵抗度が0.1〜10秒であることを特徴とするシート状物。
  2. 前記下層に、前記主体繊維よりも低融点であるバインダー繊維が含まれていることを特徴とする請求項1に記載のシート状物。
  3. 前記下層には製紙用添加剤が実質的に含まれていないことを特徴とする請求項1又は2に記載のシート状物。
  4. 前記上層と前記下層との間に中間層が配されて全体として3層構造とされており、該中間層は、加熱により接着性を帯びるものであることを特徴とする請求項1〜3の何れか1項に記載のシート状物。
  5. 前記製紙用パルプが化学パルプであることを特徴とする請求項1〜4の何れか1項に記載のシート状物。
  6. 前記上層が湿式不織布法により製造されたことを特徴とする請求項1〜5の何れか1項に記載のシート状物。
  7. 請求項1〜6の何れか1項に記載のシート状物の上層の表面上に、分離機能を有する分離膜を形成してなる分離膜付きシート状物。
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