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JP2009144215A - 耐熱マグネシウム合金材およびその製造方法 - Google Patents

耐熱マグネシウム合金材およびその製造方法 Download PDF

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JP2009144215A JP2007324373A JP2007324373A JP2009144215A JP 2009144215 A JP2009144215 A JP 2009144215A JP 2007324373 A JP2007324373 A JP 2007324373A JP 2007324373 A JP2007324373 A JP 2007324373A JP 2009144215 A JP2009144215 A JP 2009144215A
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Takeshi Yamaguchi
毅 山口
Hideki Fukuhara
秀樹 福原
Ken Saito
研 斉藤
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Abstract

【課題】高温強度に優れた耐熱マグネシウム合金材を提供する。
【解決手段】Zn0.5〜4原子%とY0.5〜4原子%とを含み、残部がマグネシウムと不可避の不純物からなる組成を有し、α相Mg結晶粒径が50μm以下であって、その粒界にネットワーク状にMg−Zn−Y系化合物が生成されている。該マグネシウム合金材は、高圧鋳造法によって10℃/秒〜1000℃/秒の冷却速度で凝固させることで得られる。粒界にネットワーク状に生成されているMg−Zn−Y系化合物によって粒界すべりが抑制され高温クリープ特性を向上させ、耐熱性を高めることができる。エンジン周りの自動車部品など高温環境下での使用に適用でき、自動車部品の一層の軽量化を可能にする
【選択図】図4

Description

この発明は、エンジン周りの自動車部品など高温環境下での使用に適し、高温クリープ特性に優れた耐熱マグネシウム合金材とその製造方法に関するものである。
構造用金属材料中で最も比重が軽いマグネシウム合金は、その特性を利用して携帯電話やノートパソコンなどの携帯電子機器あるいは家電製品の筐体などに使われている。該合金例として強度と耐食性、鋳造性に優れたAZ91D合金が用いられている。また、省エネや運動性能の向上、衝撃吸収などを目的として、ステアリングホイールやホイールなどの自動車部品にもAM60B、AM50A、AZ80Aといったマグネシウム合金が使われている。
マグネシウム合金の更なる高強度化を目指して、組成と加工方法の最適化に関する研究が活発に行われている。その結果、例えばMg97Zn合金の急冷凝固材では600MPa以上の降伏強度を示し、Mg−Zn−Y合金インゴットの押出材では400MPa以上の降伏強度を示すことが報告されている。
特許文献1では、強度と弾性率を向上させるため、イットリウムを5〜12原子%、Znを1〜12原子%含むマグネシウム合金が提案されている。
特許文献2では、Zn1〜4原子%と、Y1〜4.5原子%とを含み、ZnとYとの組成比Zn/Yが0.6〜1.3の範囲にある組成を備えるMg合金を鋳造後、塑性加工することにより、金属間化合物MgZnと、長周期構造を示すMg12Znとを含む合金組織とすることを特徴とするマグネシウム合金の製造方法が提案されている。
さらに、マグネシウム合金は、アルミニウム合金などに比べて結晶粒微細化による高強度化への効果が大きいことが知られている。そのため、急冷凝固法や塑性加工を用いると、結晶粒の微細化によって高強度化されるので高強度マグネシウム合金の製造方法として数多くの研究が実施されている(ただし、過飽和固溶+析出強化、集合組織制御などの効果もある)。
例えば、特許文献3では、Mg−Zn−X(ただしXはY、Ce、La、Nd、Pr、Sm、Mmからなる群から選ばれた1種または2種以上の元素)合金の急冷凝固材が提案されている。
特開2005−213535号公報 特開2006−97037号公報 特開平7−3375号公報
ところで、自動車部品の中でボディに次いで重量割合の多いエンジン周りの部品を軽量なマグネシウム合金に代替することができれば、軽量化効果が大きく省エネにも大きく貢献するため、高温特性がアルミニウム合金と同等以上となるマグネシウム合金の開発が強く望まれている。
しかし、AZ91D、AM60B、AM50A、AZ80Aといったマグネシウム合金は、Alを合金元素として含んでおり、比較的低温で強度低下を引き起こすMg17Al12化合物を形成するため、高温特性でアルミニウム合金に比べて劣り、エンジン周りなどの高温特性が要求される部品では使い難いという欠点がある。耐熱性を改善するために、AE42、AS41合金などの高温特性を改善したマグネシウム合金が開発されているが、アルミニウム合金と比較すると性能が劣るため、広く実用化されるまでには至っていない。
また、特許文献1に示されるマグネシウム合金は、多量のイットリウムやZnを含有しており、このように合金元素を多く添加して鋳造すると化合物層の生成量が多くなり、粗大な化合物が生成するなどして強度や弾性率が上がっても延性が低下してしまう。また、高価なイットリウムを多く含有するため、大量生産するような部材には適用し難い。なお、冷却速度が50℃/s以下と通常の射出成形やダイカストなどよりも遅い冷却速度で鋳造しているが、そのような冷却速度ではα相Mgの粒径も大きくなり、化合物層も粗大になってしまうため、高温クリープ抵抗が低いという問題がある。
金属組織は細かいほど粒界すべりがおきやすくなる。また、マグネシウム合金の高温変形では粒界すべりの寄与が大きいため、粒界すべりを抑制するような組織制御がマグネシウム合金における高温特性の向上に必要である。すなわち、急冷凝固や塑性加工によって結晶粒微細化すると、常温強度は高くなっても、粒界すべりが寄与する高温特性は常温ほど改善されない。
特許文献2に示される製造方法では、金属間化合物MgZnと長周期構造を示すMg12YZnとを含む合金を塑性加工することで高強度マグネシウムを作製しており、これらの化合物は高温安定性に優れ、α相Mgとの整合性にも優れるため高強度・高延性化が可能である。しかし、特許文献2で具体的に示されている製造工程に従って、押出加工などの塑性加工を実施すると、鋳造時の組織が破壊されることで化合物相が分断されるとともに、塑性加工前の粗大なα相Mgが再結晶することで微細なα相Mgの集合組織が形成され、結果としてα相Mg同士が隣接した粒界が形成される。そのため、粒界に高温安定性に優れた化合物が存在しなくなり、粒界すべりが起きやすくなり、高温クリープ特性が劣ったものになってしまう。
特許文献3では、急冷凝固材が提案されているが、ロールに溶湯を噴出し急冷凝固させる単ロール法に代表される急冷凝固法は、マグネシウムの燃焼・酸化・爆発などの防止のために不活性ガス雰囲気下で実施する必要があり、装置が大掛かりで、生産性にも劣るため高コストになってしまう。また、特許文献3で開示されている製法では、最終的に製品へと加工するためには、得られた薄体を粉砕し、同金属あるいはアルミニウムなどの缶に詰め、押出加工などの塑性加工によって固化を実施し、さらにそれを鍛造あるいは機械加工などにより形状付与するという複数の工程が必要となるため、コストと生産性の面で量産には適さない。また、特許文献3で示される急冷凝固材は、Mg母相とMg−Zn系およびMg−X(ただしXはY、Ce、La、Nd、Pr、Sm、Mmからなる群から選ばれた1種または2種以上の元素)系金属間化合物の分散相とから構成されており、サブミクロンのMg母相内に微細な金属間化合物が分散している。Mg−Zn系化合物はMg−Zn−Y系化合物に比べて融点が低いため耐熱性において不利である。また、母相内に化合物が分散していると常温強度の向上は期待できるが、高温強度を高める作用は殆ど得られない。
本発明は、上記事情を背景としてなされたものであり、高温強度に優れた耐熱マグネシウム合金材およびその製造方法を提供することを目的とする。
すなわち、本発明の耐熱マグネシウム合金材のうち、第1の本発明は、Zn0.5〜4原子%とY0.5〜4原子%とを含み、残部がマグネシウムと不可避の不純物からなる組成を有し、α相Mg結晶粒径が50μm以下であって、その粒界にネットワーク状にMg−Zn−Y系化合物が生成されていることを特徴とする。
第2の本発明の耐熱マグネシウム合金材は、前記第1の本発明において、前記ZnおよびYの原子%において、Y/Zn比が0.5〜2であることを特徴とする。
第3の本発明の耐熱マグネシウム合金材は、前記第1または第2の本発明において、前記組成中に、Zrを0.5原子%以下含有することを特徴とする。
第4の本発明の耐熱マグネシウム合金材の製造方法は、前記第1〜第3のいずれかの本発明に記載の組成を有するマグネシウム合金を、高圧鋳造法によって10℃/秒〜1000℃/秒の冷却速度で凝固させて、マグネシウム合金材を得ることを特徴とする。
第5の本発明の耐熱マグネシウム合金材の製造方法は、前記第4の本発明において、前記高圧鋳造法が、射出成型法、ダイキャスト法、スクイーズキャスト法のいずれかであることを特徴とする。
本発明のマグネシウム合金材は、最終製品形状を有するもの、またはその後、機械加工などの二次加工を経て最終製品形状とされるものであり、その後、押出加工などの塑性加工などが施されるものは含まれない。
次に、本発明で規定される成分、製造条件の限定理由について述べる。
Zn:0.5〜4原子%
Y:0.5〜4原子%
高い強度と延性を得るために、Zn、Yを含有する。ただし、含有量が少ないとα相Mg中に固溶してしまい、化合物相の生成がない、あるいは量が少なくなってしまい、ネットワーク状に化合物相が生成されない。一方、含有量が多すぎると、化合物相が多すぎて延性が低下してしまうおそれがある。また、高価なYを大量に使用するとコストが高くなる他、耐食性も悪化する。よって、Zn、Yの含有量を上記に定める。
Y/Zn:0.5〜2
高温での粒界すべりに対するピン止め効果が得られるMg−Zn−Y系化合物が生成されるためには、図1に示すように、Y/Zn比を0.5〜2とする必要がある。ただし、Y/Zn比が1より大きいと、Mg−Zn−Y系化合物として、Mg12YZn相が多く生成され、Y/Zn比が1以下であると、MgZn相が多く生成される。粒状に化合物相が生成するMgZnの方が粒界すべりに対するピン止め効果が大きいため、Y/Zn比が1以下の方が、より高温クリープ特性に優れている。
Zr:0.5原子%以下
Zrは微細化効果があり、強度を高める効果があり、所望により含有させる。ただし、多すぎると、化合物相の生成を阻害することがあるため、上限を0.5原子%とする。
α相Mg結晶粒径:50μm以下
α相Mg結晶粒径を50μm以下にすることで、優れた強度を示す。
Mg−Zn−Y系化合物
Mg−Zn−Y系化合物がα相Mg結晶粒を囲んでネットワーク状に粒界に生成されることで粒界のすべりを抑制して高温クリープ特性を向上させ、高温強度を高める。Mg−Zn−Y系化合物は、結晶粒界にあってα相Mg結晶粒を隙間なく被覆するのが望ましいが、粒界の大部分に存在することでネットワーク状に生成されていてもすべり防止効果を発揮する。Mg−Zn−Y系化合物としては、上記のようにMg12YZn相、MgZn相が挙げられる。
凝固速度:10〜1000℃/秒
凝固速度を大きくすることでα相Mg結晶粒径を小さくすることができ、10℃/秒以上の冷却速度で50μm以下の粒径とすることができる。一方、1000℃/秒を超える冷却速度で溶湯を凝固させると、Mg−Zn−Y系化合物が固溶してしまい化合物相が生成されにくくなる。固溶したものを熱処理して化合物相を析出させても、微細に析出してしまい本発明のようにネットワーク状に化合物相が存在する組織は得られない。
高圧鋳造法
本発明の製造方法において高圧鋳造法を採用することで、最終製品形状またはこれに近い形状のマグネシウム合金材を得ることができ、それ以降に、粒界に生成されているMg−Zn−Y系化合物の存在を損なうことなく最終製品を得ることができる。高圧鋳造法としては、射出成形、ダイキャスト、スクイーズキャストなどが挙げられる。
すなわち、本発明によれば、Zn0.5〜4原子%とY0.5〜4原子%とを含み、残部がマグネシウムと不可避の不純物からなる組成を有し、α相Mg結晶粒径が50μm以下であって、その粒界にネットワーク状にMg−Zn−Y系化合物が生成されているので、粒界すべりを抑制して高温クリープ特性を向上させ、耐熱性を高めることができる。これによりエンジン周りの自動車部品など高温環境下での使用にも適用することができ、自動車部品の一層の軽量化を可能にする。
以下に、本発明の一実施形態を説明する。この実施形態では、高圧鋳造法として射出成形によるチクソモールディング法を採用している。
以下、この発明の一実施形態を図に基づいて説明する。
図2はマグネシウム合金用射出成形機1を示すものであり、シリンダ2内部にスクリュ3が設けられている。スクリュ3は、モーター4による回転、油圧による射出装置によって前後進可能であり、これらシリンダ2、スクリュ3によって成形材料である金属材料5の溶融・計量.射出が行われる。金属材料5は、ホッパ6に納められ、フィーダ7によってシリンダ2内に供給される。
シリンダ2の先端にはノズル10が設けられており、ノズル10を金型15にタッチさせて溶融した成形材料が射出される。ノズル10およびシリンダ2の外周には各々加熱手段であるノズルヒーター11およびシリンダヒーター8が設けられ、ノズル10およびシリンダ2が加熱される。シリンダ2内部先端の貯留部2aとノズル10内には、ノズルヒーター11、シリンダヒーター8によって加熱された成形材料が溶融もしくは半溶融の溶湯となって保持され、金型15のキャビティ内に射出される。
次に作用について射出成形を代表例にして説明する。チクソモールディングでは、樹脂成形で使われるペレットの代わりに軽金属のチップが使われる。原料チップはホッパ6から投入され、設定温度に加熱されたシリンダ2からの熱によって暖められながらスクリュ3の回転によってシリンダ2先端へと運ばれる。やがてスクリュ3によるせん断力とシリンダ2からの加熱によりチクソトロビー性をもった半溶融状態あるいは完全溶融状態になり、シリンダ2先端のスクリュ3前方に一時的に貯留された後、高速で金型15内へと溶湯が注入される。シリンダ2が600℃近くの高温に加熱されることや樹脂成形と比べると格段に速い射出速度など成形条件は大きく異なるが、成形工程としては樹脂の射出成形とほぼ同じである。そのため、生産性に優れており、押出加工などの塑性加工と異なり、ほぼ1工程で三次元複雑形状品がニアネットシェイプ成形可能である。Mg96Zn合金の場合には液相線温度近傍である610〜630℃で成形可能であることを確認している。630℃の溶湯が、スクリュ速度2m/s、溶湯の流入速度で100〜200m/sで金型内に高速充填される。金型は150〜250℃に温調されているため、金型に熱を奪われた溶湯はただちに凝固する。成型品20は、冷却速度が高いほど結晶粒は微細となり、冷却速度10〜1000℃/秒でその粒界にネットワーク状に化合物相が生成される。
(比較例1)
冷却速度の影響を調べるため、Mg96Zn合金インゴット170gを内径34mm、高さ120mmのSUS304製ルツボで溶解し、695℃から水冷(冷却速度7.5℃/s)、空冷(冷却速度0.7℃/s)した。図3に示すように、冷却速度が高くなるほど結晶粒は微細化した。また、冷却速度が低いと隣り合った結晶粒が化合相で分断されることなく、デンドライトや花弁状の形体を示しており、化合物相も粗大であった。ある程度冷却速度が高くなると、結晶粒が微細で、その粒界を薄い化合物相が被覆するようになることから、本特許の効果を得るには冷却速度10℃/秒以上必要である。このような冷却速度は射出成形やダイカストなどの金型鋳造で溶湯を冷却・凝固させる方法で作製可能である。
(実施例1)
図4にMg96Zn合金のインゴットと実施形態の射出成型機によって得た射出成形体(成形温度:630℃、凝固速度:数100℃/秒)のミクロ組織を示す。
インゴットは、100μmくらいの結晶粒組織であるのに対し、射出成形体では、数μmの粒径の微細な組織を有しており、その粒界に主としてMgZn相からなる化合物相が存在している。
(実施例2)
次に、図5にいずれも射出成形した従来のマグネシウム合金と上記実施例1のMg96Zn合金のクリープ曲線を示す。なお、クリープ試験は試験温度200℃、負荷90MPaで実施した。図から分かるように従来のマグネシウム合金は、本発明材のMg96Zn合金に比べてクリープ変形抵抗が小さく、短時間でクリープ変形してしまうことが分かった。すなわち、射出成形品でも本合金系は高温安定性に優れているため、高温クリープ特性に優れている。
(実施例3)
図6に各種加工法で作製したMg96Zn合金のクリープ曲線を示す。なお、クリープ試験は試験温度225℃、負荷90MPaで実施した。
図中、
THX:Mg96Zn合金チップの射出成形体(成形温度:620℃、冷却速度:数100℃/秒)
EXT:Mg96Zn合金インゴットの押出材(押出温度400℃,押出比10)
CHEXT:Mg96Zn合金チップをプレス固化したものの押出材
(室温プレス固化+押出温度400℃,押出比10)
THX+CHEXT:Mg96Zn合金チップの射出成形体(成形温度630℃)をチッピングし,そのチップをプレス固化したものの押出材(押出温度400℃,押出比10)
ADC12:ADC12アルミダイカスト材 THX材は、Mg96Zn合金の射出成形体である。
図から分かるように従来高強度化が可能であると言われているインゴットの押出材、チップの押出材に比べて本発明材である射出成形品のクリープ変形抵抗が大きいことが明らかとなった。
図7にMg96Zn合金射出成形体(成形温度:630℃、冷却速度:数100℃/秒)、Mg96Zn合金インゴットの押出材(押出温度350℃、押出比10)とMg96Zn合金射出成形体(成形温度630℃)を押出加工(押出温度400℃、押出比10)したもののミクロ組織を示す。
押出材の場合には加工の作用で組織が微細化すると共に、化合物相が微細に分散されてしまうのに対し、本発明材である射出成形体では粒界にネットワーク上に化合物相が存在している。これにより粒界すべりを抑制し、高温でクリープ変形しにくくなっている。ネットワーク状に化合物相が存在する射出成形品を押出加工すると、押出材と同じように化合物相が分散化され、クリープ変形しやすくなっていることからもネットワーク状に化合物相が存在することが重要である。
(実施例4)
また、粒径が100μm以上と粗大な実施例1の上記インゴットと粒径が数μmと微細な実施例1の上記射出成形体の機械的性質を比較すると、常温引張試験においてインゴットの0.2%耐力が125MPaであったのに対し、射出成形体の0.2%耐力は209MPaと高かった。これは高圧鋳造することによって引け巣などの欠陥が少なくなったこともあるが、一般的に知られている結晶粒微細化による高強度化の効果が大きいと考えられる。すなわち、優れた機械的性質のマグネシウム合金を作製するためには、結晶粒を微細化することによって高強度化することと、その粒界に高温安定性に優れた化合物相をネットワーク状に生成させることによって高温までその強度を維持させることが必要である。
(実施例5)
図8に、射出成形したMg97Zn合金とMg96Zn合金(それぞれ成形温度:630℃、凝固速度:数100℃/秒)のクリープ曲線を示す。Y/Zn比が1よりも大きい場合(Mg97Zn合金)にはMg12YZn相が生成し、Y/Zn比が1以下(Mg96Zn合金)ではMgZn相が多く生成する。粒状に化合物相が生成するMgZnの方が粒界すべりに対するピン止め効果が大きいため、本特許においてY/Zn比が1以下の方が、より高温クリープ特性に優れていると考えられる。
(実施例6)
Mg96Zn合金チップを使ってシリンダ温度630℃、金型温度160℃、射出速度:2m/s、凝固速度:数100℃/秒の条件で平行部直径φ3mmの本発明材となる引張試験片を成形した。また、比較材としてADC12アルミニウム合金ダイカスト材と、熱処理された耐熱マグネシウム合金WE54−T6からなる同形状の引張試験片を用意した。
これらの引張試験片を使い高温引張試験を実施した。その結果を図9に示す。
図9から明らかなように、本発明材は、ADC12アルミニウム合金ダイカスト材よりも高強度を示すことが分かった。また、熱処理をしない成形ままで、熱処理された耐熱マグネシウム合金WE54−T6とほぼ同等の強度を示すことが分かった。
(実施例7)
次にMg96Zn合金チップを使ってシリンダ温度620℃、金型温度160℃、射出速度:2m/s、凝固速度:数100℃/秒の条件で平行部直径φ6mmの本発明材となるクリープ試験片を成形した。また、比較材として、AM60B、AE42、ADC12アルミニウム合金ダイカスト材からなる同形状のクリープ試験片を用意した。
試験温度200℃、試験負荷90MPaでクリープ試験を実施したところ、本発明材は、図5に示すように他のマグネシウム合金射出成形体に比べて優れたクリープ特性を示すことが分かった。また、試験温度200℃、225℃、250℃、試験負荷90MPaでクリープ試験を実施したところ、図10に示すようにADC12アルミダイカスト材に比べていずれの温度でも高いクリープ変形抵抗を示すことが分かった。これまでマグネシウム合金は高温特性、特に高温クリープ特性に劣ることから、アルミニウム合金が使われているエンジン周りの自動車部品へ使われることが少なかったが、本発明材によってアルミニウム合金以上の高温クリープ特性を示すことができるため、そのような部位への適用が期待される。本マグネシウム合金の比重は1.82であり、アルミニウム合金(ADC12で2.7)の2/3であるため、従来アルミニウム合金が使われていた部品を本マグネシウム合金によって作製すれば、軽量化によって省エネルギー、運動性能の向上などの効果が得られる。
なお、射出成形法と同じような冷却速度が得られる高圧鋳造法(ダイカスト)などを実施しても同じような組織が得られるため、その効果は本実施例と同等である。
Mg−Zn−Y合金の状態図である。 この発明の一実施形態の製造方法に用いるマグネシウム合金の射出成形装置を示す断面側面図である。 実施例における冷却速度10℃/秒以下で製造したMg96Zn合金インゴットのミクロ組織を示す図面代用写真である。 同じくMg96Zn合金のインゴットと射出成形体のミクロ組織を示す図面代用写真である。 同じくMg96Zn合金射出成形体と、従来材であるAM60BおよびAE42マグネシウム合金射出成形体の試験温度200℃、負荷応力90MPaでの高温クリープ試験結果を示すグラフである。 同じく各種加工法で作製したMg96Zn合金の試験温度225℃、負荷応力90MPaでの高温クリープ試験結果を示すグラフである。 同じくMg96Zn合金射出成形体、Mg96Zn合金インゴットの押出材とMg96Zn合金射出成形体を押出加工したもののミクロ組織を示す図面代用写真である。 同じく射出成形したMg97Zn合金とMg96Zn合金のクリープ曲線を示すグラフである。 同じくMg96Zn合金射出成形体の試験温度と0.2%耐力の関係をWE54−T6材(カタログ値)、ADC12アルミニウム合金ダイカスト材(実測値)と比較したグラフである。 同じくMg96Zn合金射出成形体とADC12アルミニウム合金ダイカスト材の試験温度200℃、225℃、250℃、負荷応力90MPaでの高温クリープ試験結果を示すグラフである。
符号の説明
1 射出成型機
2 シリンダ
3 スクリュ
15 金型

Claims (5)

  1. Zn0.5〜4原子%とY0.5〜4原子%とを含み、残部がマグネシウムと不可避の不純物からなる組成を有し、α相Mg結晶粒径が50μm以下であって、その粒界にネットワーク状にMg−Zn−Y系化合物が生成されていることを特徴とする耐熱マグネシウム合金材。
  2. 前記ZnおよびYの原子%において、Y/Zn比が0.5〜2であることを特徴とする請求項1記載の耐熱マグネシウム合金材。
  3. 前記組成中に、Zrを0.5原子%以下含有することを特徴とする請求項1または2に記載の耐熱マグネシウム合金材。
  4. 請求項1〜3のいずれかに記載の組成を有するマグネシウム合金を、高圧鋳造法によって10℃/秒〜1000℃/秒の冷却速度で凝固させて、マグネシウム合金材を得ることを特徴とする耐熱マグネシウム合金材の製造方法。
  5. 前記高圧鋳造法が、射出成型法、ダイキャスト法、スクイーズキャスト法のいずれかであることを特徴とする請求項4記載の耐熱マグネシウム合金材の製造方法。
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