以下、図面を参照して、本発明の実施形態について詳細に説明する。なお、図面において、同一または類似の構成要素には共通の参照番号を付す。
図1は本発明を筒内噴射型火花点火式内燃機関に適用した場合の一例を示す概略図である。なお、本発明は別の火花点火式内燃機関や圧縮自着火式内燃機関に適用してもよい。
図1において、1は内燃機関本体、2は吸気弁、3は吸気ポート、4は排気弁、5は排気ポート、6はシリンダ(気筒)7内に形成された燃焼室をそれぞれ示す。各気筒の吸気ポート3は下流側の吸気管8を介してサージタンク9に連結され、サージタンク9は上流側の吸気管10を介してエアクリーナ11へ連結される。上記吸気管10内にはスロットル弁12が配置される。一方、各気筒の排気ポート5は排気管13に連結される。
また、14はバルブリフト量を変更するためのバルブリフト量変更装置を示している。つまり、本実施形態ではバルブリフト量変更装置14を作動させることにより、吸気弁2のバルブリフト量を制御することができる。
バルブリフト量変更装置14を作動させることによって吸気弁2のバルブリフト量が変更されると、それに伴って吸気弁2の開口面積が変更されることになる。本実施形態の吸気弁2では、バルブリフト量が増加されるに従って吸気弁2の開口面積が増加する。また後述するように本実施形態ではバルブリフト量変更装置14によって吸気弁2のバルブリフト量が変更されると、それに伴って吸気弁2の作用角も変更される。
一方、15は吸気弁2のバルブリフト量及び作用角を変更することなく開閉タイミングをシフトさせるための開閉タイミングシフト装置を示している。つまり、開閉タイミングシフト装置15を作動することにより、吸気弁2の開閉タイミングを進角側にシフトさせたり、遅角側にシフトさせたりすることができ、これによってバルブオーバーラップ量の調整等を行うことができる。
16は燃料噴射弁、17は点火栓、18は吸気弁2のバルブリフト量及び作用角、並びに開閉タイミングシフト量を検出するための開弁特性センサ、19は機関回転数を検出するための機関回転数センサである。20は内燃機関の周囲の大気の圧力を計測するための大気圧センサ、21は内燃機関冷却水の温度を計測するための冷却水温センサ、22は内燃機関の周囲の大気の温度を計測するための大気温センサである。23はスロットル弁12の開度を計測するためのスロットル開度センサ、24はエアフローメータ、25はスロットル弁12よりも下流側の吸気管内の圧力を計測するための吸気管内圧力センサである。26はアクセルペダル27に接続された負荷センサであり、アクセルペダル27の踏込み量(すなわち、アクセル踏込み量)に比例した出力を発生する。28はECU(電子制御装置)であり、図1に示されているように上述の各センサの出力はここへ入力される。
本実施形態において、燃料噴射弁16はECU28に接続されており、ECU28からの信号によって噴射される燃料量や噴射時期を制御することができる。同様に、点火栓17もECU28に接続されており、ECU28からの信号によって点火時期を制御することができる。また、スロットル弁12の開度はアクセル踏込み量とは無関係に変更することができ、スロットル開度を調整することでスロットル弁下流側の吸気管内の圧力を制御することができる。
図2は、バルブリフト量変更装置14が作動されるのに伴って吸気弁2のバルブリフト量が変化する様子を示した図である。図2に示すように、バルブリフト量変更装置14によって吸気弁2のバルブリフト量が連続的に変更せしめられる。また、上述したように本実施形態においては、バルブリフト量の変化に伴って、吸気弁2の開弁期間に対応する作用角についても変化する。詳細には、吸気弁2のバルブリフト量が増加せしめられるのに伴って、吸気弁2の作用角が増加せしめられる(実線→破線→一点鎖線)。
また、本実施形態では、バルブリフト量変更装置14が作動されるのに伴って、吸気弁2のバルブリフト量がピークとなるタイミングも変更せしめられる。より詳細には、図2に示されているように、吸気弁2のバルブリフト量が増加せしめられるのに伴って、吸気弁2のバルブリフト量がピークとなるタイミングが遅角せしめられる。
図3は、開閉タイミングシフト装置15が作動されるのに伴って吸気弁2の開閉タイミングがシフトする様子を示した図である。図3に示すように、開閉タイミングシフト装置15によって吸気弁2の開閉タイミングが連続的に変更せしめられる。この時、吸気弁2の作用角は変更されない。
本実施形態では、各気筒の燃焼室6内に吸入される空気量を、吸気弁2の開弁特性(リフト量、作用角、バルブタイミング)とスロットル弁12の開度(より詳細には、スロットル弁下流側の吸気管内圧力)とを協調制御することによって制御することができる。つまり、内燃機関の吸気量を、吸気弁2の開弁特性とスロットル弁12の開度とを協調制御することによって制御することができる。また、他の実施形態では、これらに加え、アイドルスピードコントロールバルブ(図示なし)の開度を制御することによって吸気量を制御するようにしてもよい。
ところで、近年、内燃機関の吸気系を流体力学等に基づいてモデル化し、そのモデルを用いて算出した制御パラメータに基づいて内燃機関の制御を行うことが検討されている。すなわち、例えば、内燃機関の吸気系について、スロットルモデル、吸気管モデル、吸気弁モデル等を構築して吸気系を通過する空気について表したモデル式を求め、これら各モデル式を用いることにより各種の制御に必要なパラメータを算出して、これらに基づいて内燃機関の制御を行うようにする。
そして、本実施形態においても、図1に示したような構成において、その吸気系がスロットルモデル、吸気管モデル、吸気弁モデルの各モデルにモデル化され、以下で説明するような各モデル式が具備されている。以下、上記の各モデル及びそのモデル式について説明する。
まずスロットルモデルについて説明する。スロットルモデルはスロットル弁をモデル化したものであり、これによるとスロットル弁通過空気流量mt(g/s)が下記(1)式によって表される。ここで、Pac(kPa)はスロットル弁12の上流側の吸気管内圧力(以下、「上流側吸気管内圧力」と称す)であり、少なくともエアクリーナ11の圧力損失を考慮して求められた値である。また、Ta(K)は大気温度、Pm(kPa)はスロットル弁12より下流側の吸気管内圧力(以下、「下流側吸気管内圧力」と称す)、Rは気体定数である。更に、μはスロットル弁12における流量係数で、スロットル開度θtの関数であり、図4に示したようなマップから定まる。また、At(m2)はスロットル弁の開口断面積(以下、「スロットル開口面積」と称す)を示し、スロットル開度θtの関数である。なお、これら流量係数μ及びスロットル開口面積Atをまとめたμ・Atをスロットル開度θtだけを変数とする関数F(θt)とすると、(1)式は(2)式のように書き換えることができる。そしてこの関数F(θt)の値を実験またはシミュレーション等によって求めてθtを引数とするマップを事前に作成しておけば、そのマップに基づいてスロットル開度θtからF(θt)の値を求めることができる。
Φ(Pm/Pac)は下記(3)式に示した関数であり、この(3)式におけるκは比熱比(κ=Cp(等圧比熱)/Cv(等容比熱)であり、一定値とする)である。この関数Φ(Pm/Pac)は図5に示したようなグラフに表すことができるので、このようなグラフをマップとしてECU28に保存し、実際には(3)式を用いて計算するのではなくマップからΦ(Pm/Pac)の値を求めるようにしてもよい。
これらスロットルモデルのモデル式である(1)式から(3)式は、スロットル弁12上流の気体の圧力を上流側吸気管内圧力Pac、スロットル弁12上流の気体の温度を大気温度Ta、スロットル弁12を通過する気体の圧力を下流側吸気管内圧力Pmとして、図6に示したようなスロットル弁12のモデルに対して、質量保存則、エネルギ保存則及び運動量保存則を適用し、更に気体の状態方程式、比熱比の定義式、及びマイヤーの関係式を利用することによって得られる。
なお、ここでスロットル弁12上流の気体の圧力として大気圧Paではなく、上記上流側吸気管内圧力Pacを用いたのは、実際のスロットル弁12上流側の圧力は、機関吸気系におけるスロットル弁上流側の圧力損失があるために、通常、機関運転中においては大気圧Paより低い圧力となっているからである。そして特に図1に示した構成においては、機関吸気系の最上流部にエアクリーナ11が設けられているので、より正確にスロットル弁通過空気流量mtを算出するためには、少なくともエアクリーナ11の圧力損失を考慮して求めた上記上流側吸気管内圧力Pacを用いることがより好ましいと考えられる。
ところで、上記上流側吸気管内圧力Pacは、スロットル弁12の直上流に圧力センサを設けて計測するようにしてもよいが、圧力センサを使用しないで算出することも可能である。すなわち、大気圧Paと上流側吸気管内圧力Pacとの差は、ベルヌーイの定理により、下記(4)式のように表すことができる。
ここで、ρは大気密度であり、vはエアクリーナ11を通過する空気の流速であり、Gaはエアクリーナ11を通過する空気の流量であり、kはvとGaの比例係数である。標準大気密度ρ0と、標準大気密度ρ0を現在の大気密度ρへ変換するための圧力補正係数ekpa及び温度補正係数ekthaとを使用すれば、(4)式は下記(5)式のように書き換えることができる。更に、(5)式は、流量Gaだけを変数とする関数f(Ga)を使用して下記(6)式のように書き換えることができる。そして、この関数f(Ga)の値を実験またはシミュレーション等によって求めてGaを引数とするマップを事前に作成しておけば、そのマップに基づいて流量Gaからf(Ga)の値を求めることができる。
(6)式は、上記上流側吸気管内圧力Pacを表す下記(7)式のように変形することができる。(7)式において、流量Gaは、エアクリーナ11の下流側のエアフローメータ24により計測することができる。そして、その流量Gaを用いて上述したf(Ga)のマップからf(Ga)の値を求めることができる。また、圧力補正係数ekpaは、計測される大気圧Paにより設定可能であり、温度補正係数ekthaは、計測される大気温度Taにより設定可能である。
また、(7)式において、エアクリーナ11を通過する空気の流量Gaは、スロットル弁通過空気流量mtと考えることができ、(7)式は下記(8)式のように変形することができる。
更に、上記流量Gaは機関回転数NE及び後述する筒内空気充填率Klに比例することから、jを比例係数とすると上記(7)式は下記(9)式のように変形することもできる。
次に吸気管モデルについて説明する。吸気管モデルは、スロットル弁12から吸気弁2までの吸気管8等の部分(以下、「吸気管部分」と称す)8´をモデル化したものであり、これによると下流側吸気管内圧力Pm(kPa)及び下流側吸気管内温度Tm(K)について下記(10)式及び(11)式のようなモデル式が得られる。ここで、mc(g/s)は筒内吸入空気流量であり、Vm(m3)は上記吸気管部分8´の容積に等しい定数である。
ここで、吸気管モデルについて図7を参照して説明する。吸気管部分8´の総気体量をMとすると、総気体量Mの時間的変化は、吸気管部分8´に流入する気体の流量、すなわちスロットル弁通過空気流量mtと、吸気管部分8´から流出する気体の流量、すなわち筒内吸入空気流量mcとの差に等しいため、質量保存則により下記(12)式が得られ、この(12)式及び気体の状態方程式(Pm・Vm=M・R・Tm)より、(10)式が得られる。
また、吸気管部分8´の気体のエネルギM・Cv・Tmの時間的変化量は、吸気管部分8´に流入する気体のエネルギと吸気管部分8´から流出する気体のエネルギとの差に等しい。このため、吸気管部分8´に流入する気体の温度を大気温度Ta、吸気管部分8´から流出する気体の温度を下流側吸気管内温度Tmとすると、エネルギ保存則により下記(13)式が得られ、この(13)式及び上記気体の状態方程式より、(11)式が得られる。
最後に吸気弁モデルについて説明する。吸気弁モデルは吸気弁をモデル化したものであり、これによると筒内吸入空気流量mcが下記(14)式のようなモデル式で表される。(14)式におけるA、Bは、少なくとも機関回転数NEに基づいて定められる適合パラメータであり、予めマップを作成しておき、必要に応じてマップを検索して求めるようにする。なお、本実施形態においては、上述したように吸気弁2に対してバルブリフト量変更装置14及び開閉タイミングシフト装置15が設けられており、吸気弁2のバルブリフト量及び開閉タイミング等の開弁特性を変更できるので、上記適合パラメータA、Bは、吸気弁2の開弁特性の設定状態にも基づいて定められる。
上述した吸気弁モデルについて図8を参照して説明する。一般に、吸気弁2が閉じた時に燃焼室6内に充填されている空気の量である筒内充填空気量Mcは、吸気弁2が閉弁する時(吸気弁閉弁時)に確定し、吸気弁閉弁時の燃焼室6内の圧力に比例する。また、吸気弁閉弁時の燃焼室6内の圧力は吸気弁上流の気体の圧力、すなわち下流側吸気管内圧力Pmと等しいとみなすことができる。したがって、筒内充填空気量Mcは、下流側吸気管内圧力Pmに比例すると近似することができる。
ここで、単位時間当たりに吸気管部分8´から流出する全空気の量を平均化したもの、または単位時間当たりに吸気管部分8´から全ての燃焼室6に吸入される空気の量を一つの気筒の吸気行程に亘って平均化したものを筒内吸入空気流量mc(以下で詳述する)とすると、筒内充填空気量Mcが下流側吸気管内圧力Pmに比例することから、筒内吸入空気流量mcも下流側吸気管内圧力Pmに比例すると考えられる。このことから、理論及び経験則に基づいて、上記(14)式が得られる。なお、上記(14)式における適合パラメータAは比例係数であり、適合パラメータBは排気弁閉弁時において燃焼室6内に残存している既燃ガス量に関連する値である。
なお、適合パラメータA、Bについて、機関回転数等が同じであっても下流側吸気管内圧力Pmが大きい場合と小さい場合とでそれぞれ異なる二つの値(例えば、A1、B1及びA2、B2)をとるようにすることによって、すなわち、筒内吸入空気流量mcを二つの上記(14)式のような式(つまり、下流側吸気管内圧力Pmの一次式)で示すようにすることによって、筒内吸入空気流量mcをより正確に求めることが可能な場合があることがわかっている。これは、特に吸気弁2と排気弁4とが共に開いている期間(すなわち、バルブオーバーラップ)がある場合等において既燃ガスが吸気ポート3に逆流することに関連するものと考えられる。すなわち、バルブオーバーラップがある場合において、下流側吸気管内圧力Pmが所定圧力以上である時には、下流側吸気管内圧力Pmが高いほど既燃ガスの逆流が顕著に減少するために、上記所定圧力以下である時に比較して、Aの値は大きくされると共にBの値は小さくされる。
ここで、筒内吸入空気流量mcについて、図9を参照して内燃機関が4気筒である場合について説明する。なお、図9は横軸がクランクシャフトの回転角度、縦軸が単位時間当たりに吸気管部分8´から燃焼室6に実際に流入する空気の量である。図9に示したように、4気筒の内燃機関では、吸気弁2が例えば1番気筒、3番気筒、4番気筒、2番気筒の順に開弁し、各気筒に対応する吸気弁2の開弁量に応じて吸気管部分8´から各気筒の燃焼室6内へ空気が流入する。吸気管部分8´から各気筒の燃焼室6内に流入する空気の流量の変位は図9に破線で示した通りであり、これらを総合した吸気管部分8´から全気筒の燃焼室6に流入する空気の流量は図9に実線で示した通りである。また、例えば1番気筒への筒内充填空気量Mcは図9に斜線で示した部分に相当する。
これに対して、実線で示した吸気管部分8´から全ての気筒の燃焼室6に流入する空気の量を平均化したものが筒内吸入空気流量mcであり、図中に一点鎖線で示されている。そして、この一点鎖線で示した筒内吸入空気流量mcに、4気筒の場合にはクランクシャフトが180°(すなわち、4ストローク式内燃機関において1サイクル中にクランクシャフトが回転する角度720°を気筒数で割った角度)回転するのにかかる時間ΔT180°を乗算したものが筒内充填空気量Mcとなる。したがって、吸気弁モデルで算出された筒内吸入空気流量mcにΔT180°を乗算することで、筒内充填空気量Mcを算出することができる(Mc=mc・ΔT180°)。更に、この筒内充填空気量Mcを、1気圧、25℃の状態において一気筒当たりの排気量に相当する容積を占める空気の質量で除算することによって筒内空気充填率Klを算出することができる。このように筒内充填空気量Mc、筒内吸入空気流量mc、筒内空気充填率Klは互いに比例関係にあり、何れか一つの値を求めれば他の値を求めることができる。すなわち、これらの値は相互に換算することが可能である。
なお、本明細書において、内燃機関の吸気量とは、内燃機関の(稼動中の)全気筒の燃焼室内に吸入される空気の量のことであり、これは上記の筒内充填空気量Mc、筒内吸入空気流量mc、筒内空気充填率Klの何れを用いても表現することができる。
ところで、本実施形態においては、上述したように、バルブリフト量変更装置14や開閉タイミングシフト装置15によって吸気弁2の開弁特性(リフト量、作用角、バルブタイミング)を制御することができ、スロットル弁12によって下流側吸気管内圧力を制御することができる。そして、この開弁特性とスロットル弁12の開度(より詳細には、スロットル弁下流側の吸気管内圧力)とを協調制御することによって吸気量が制御される。すなわち、スロットル弁と、開弁特性制御手段であるバルブリフト量変更装置14及び開閉タイミングシフト装置15とが協働して吸気量を制御する。そして、本実施形態ではこのような吸気量制御の際に、上述した各モデル式を利用した制御がなされる。以下ではその具体的な方法について図10のフローチャートを参照しつつ説明する。
図10は、本実施形態において実施されている吸気量制御の制御ルーチンを示すフローチャートである。本制御ルーチンはECU28により予め定めた時間、すなわち制御周期Ts毎の割込みによって実施される。
本制御ルーチンがスタートすると、まずステップ101において、制御周期Tsに相当する時間経過後に実現すべき目標吸気量mctaが求められる。なお、上述したように吸気量は、上記の筒内充填空気量Mc、筒内吸入空気流量mc、筒内空気充填率Klの何れを用いても表現することができるが、以下の説明では筒内吸入空気流量mcを用いて表現する。したがって、上記目標吸気量mctaは、より詳細には、制御周期Tsに相当する時間経過後に実現すべき筒内吸入空気流量mcのことである。
この目標吸気量mctaは、運転者の要求を表すアクセル踏込み量L及び機関回転数NEに要求トルクTQrを対応させたマップと、要求トルクTQrに目標吸気量mctaを対応させたマップとを事前に作成しておき、これらのマップに基づいて求めるようにしてもよいが、本実施形態においては以下のようにして求められる。
すなわち、本実施形態においては、アクセル踏込み量Lと機関回転数NEとから、開弁特性が予め定めた基準状態に設定されているとした場合のスロットル開度、すなわち、開弁特性が予め定めた基準状態に設定されているとした場合にアクセルを踏込むことによって車両の運転者が要求しているスロットル開度(要求スロットル開度)θtbを求めるマップが事前に作成され、ECU28に記憶されている。ここで上記基準状態は、例えば、バルブリフト量変更装置14や開閉タイミングシフト装置15を有していない通常エンジンにおける標準的なバルブリフト量及び作用角、並びに開閉タイミングとされ得る。
そして、まず上記要求スロットル開度θtbを求めるマップに基づいて、アクセル踏込み量Lと機関回転数NEとから要求スロットル開度θtbが求められる。そして、この要求スロットル開度θtbにより、上述したスロットルモデルのモデル式((2)式)が定められる(下記(15)式)。
一方、開弁特性が予め定めた基準状態に設定されているとすると、機関回転数NE等から上述した吸気弁モデルのモデル式((14)式)の適合パラメータA、Bが定められ、そのモデル式が定められる。適合パラメータA、BがAb、Bbに定められたとすると下記(16)式のようになる。
そして吸気量が目標吸気量になる状態は、すなわち収束状態であり、その時スロットル弁通過空気流量mtと筒内吸入空気流量mcは等しくなる。したがって、上記のように定められたスロットルモデルのモデル式((15)式)から得られるスロットル弁通過空気流量mtbと、上記のように定められた吸気弁モデルのモデル式((16)式)から得られる筒内吸入空気流量mcbとが、同一の下流側吸気管内圧力Pmに対して等しくなる時の上記筒内吸入空気流量mcbを求めれば、それが目標吸気量mctaということになる。
そして、以上のようにして上記目標吸気量mctaを求めることは、図11に例示したように、上記のように定められたスロットルモデルのモデル式((15)式)によって表される曲線mtbと上記のように定められた吸気弁モデルのモデル式((16)式)によって表される直線mcbとの交点EPbを求め、その縦軸の座標を求めることと同義である。ここで、上記交点EPbを求める場合、曲線mtbを表す式((15)式)をそのまま用いて上記交点EPbを求めようとすると計算が非常に複雑になる。そこで、計算を簡単にするために、上記曲線mtbを表す式((15)式)を複数の下流側吸気管内圧力Pmの一次式で近似するようにしてもよい。すなわち、上記曲線mtbを複数の直線で近似するようにする。具体的には、例えば下流側吸気管内圧力Pmの一定間隔毎に上記曲線mtbを表す式((15)式)に基づいてスロットル弁通過空気流量mtbを算出して下流側吸気管内圧力Pmの一定間隔毎の上記曲線mtb上の点を求め、これらの隣り合う2点を結ぶ各直線を上記曲線mtbの近似直線として求めるようにする。そして、これらの各近似直線を表す一次式が上記曲線mtbを表す式((15)式)の近似一次式となる。
ところで、上記曲線mtbを表す式の一次式への近似は、上記交点EPbを容易に求めるためであるので、ここで必要となるのは上記交点EPbの近傍における近似一次式である。したがって、この近似一次式のみを求めるようにしてもよい。この場合、下流側吸気管内圧力Pmの一定間隔毎に上記直線mcbを表す式((16)式)に基づいて筒内吸入空気流量mcbも求めておき、スロットル弁通過空気流量mtbと筒内吸入空気流量mcbとの大きさが逆転するところを求めることで上記交点EPbの位置が特定できる。
すなわち、上記交点EPb近傍(すなわち、スロットル弁通過空気流量mtbと筒内吸入空気流量mcbとの大きさが逆転する部分)における近似一次式は、例えば曲線mtb上の2点であってスロットル弁通過空気流量mtbと筒内吸入空気流量mcbとの大きさが逆転する前後の2点を結んだ直線を表す一次式とされる。
なお、以上の説明から理解されると思われるが、上記基準状態をバルブリフト量変更装置14や開閉タイミングシフト装置15を有していない通常エンジンにおける標準的なバルブリフト量及び作用角、開閉タイミングとして上記の方法により目標吸気量mctaを求めると、通常エンジンの場合において運転者があるアクセル踏込み量Lc及び機関回転数NEcで意図するもしくは要求する吸気量と同じ吸気量を、本実施形態における同じアクセル踏込み量Lc及び機関回転数NEcに対する目標吸気量mctaとして求めることができる。
ステップ101で目標吸気量mctaが求められると、続くステップ103において、吸気弁2の目標開弁特性Cvta、すなわち、目標リフト量Ltta及び目標作用角Sata、並びに目標開閉タイミングシフト量(すなわち、基準となる開閉タイミングからの遅角または進角量であって開閉タイミングシフト装置による変位角)Vttaが決定される。なお、上述の説明から明らかなように、本実施形態においてはリフト量Ltと作用角Saには一定の関係があり、作用角Saが決まればリフト量Ltも決まるので、目標リフト量Ltta及び目標作用角Sataを決定する場合、実際には目標作用角Sataがマップを用いて決定される。
より詳細には、ステップ103においては、上記目標作用角Sata及び目標開閉タイミングシフト量Vttaが、機関回転数NE、目標吸気量mcta等に対して、燃費、エミッション、トルク変動等の条件が複合的に最適となる作用角Sa及び開閉タイミングシフト量Vtが得られるように作成されたマップに基づいて決定される。このようなマップは事前に実験等によって求められ、ECU28に記憶させておく。
ステップ103において目標開弁特性Cvtaが決定されると、続くステップ105において、目標吸気管内圧力Pmtaが求められる。この目標吸気管内圧力Pmtaは吸気弁2の開弁特性Cvが上記目標開弁特性Cvtaに設定されている場合に上記目標吸気量mctaを実現するスロットル弁下流側の吸気管内圧力Pmである。
そして、本実施形態において、この目標吸気管内圧力Pmtaは、上述した吸気弁モデルのモデル式((14)式)を用いて以下のように求められる。すなわち、まず開弁特性Cvが上記目標開弁特性Cvtaに設定されているとして、機関回転数NE等から上述した吸気弁モデルのモデル式((14)式)の適合パラメータA、Bを定め、そのモデル式を定める。つまり、適合パラメータA、BがAf、Bfに定められたとすると下記(17)式のようになる。
そして、上記目標吸気管内圧力Pmtaは、この(17)式において目標吸気量mctaを実現する下流側吸気管内圧力Pmであるので、(17)式に基づいて下記(18)式のように表すことができる。
上記開弁特性Cvが上記目標開弁特性Cvtaに設定されている場合の吸気弁モデルのモデル式((17)式)で表される直線mcfと上記目標吸気管内圧力Pmtaとを図示すると、例えば図12のようになる。
ステップ105において目標吸気管内圧力Pmtaが求められると、続くステップ107において、目標スロットル開度θttaが求められる。この目標スロットル開度θttaは下流側吸気管内圧力Pmを上記目標吸気管内圧力Pmtaとするスロットル開度θtである。本実施形態において、この目標スロットル開度θttaは、上述したスロットルモデルのモデル式((2)式)を用いて以下のようにして求められる。
すなわち、スロットル開度θtを目標スロットル開度θttaとした場合には、下流側吸気管内圧力Pmが上記目標吸気管内圧力Pmtaに収束すると共に、スロットル弁通過空気流量mtが目標吸気量mctaに収束するはずであるので、下記(19)式が成立する。
そして、(19)式は、下記(20)式のように変形することができる。
そしてここで、(20)式の左辺はスロットル開度θtのみの関数であるので、(20)式の右辺の値を計算することで、(20)式に基づいて目標スロットル開度θttaを求めることができる。すなわち、例えば、上述したスロットル開度θtからF(θt)の値を求めるマップを逆に用いることで、算出された(20)式の右辺の値を用いて目標スロットル開度θttaを求めることができる。
なお、上記(20)式は、上記(8)式及び(18)式を用いると、下記(21)式のように書き換えることができる。
また、上記のようにして求められた目標スロットル開度θttaを上記(2)式に代入すると下記(22)式が得られる。そしてこの(22)式で表されるスロットル通過空気流量mtfの曲線を図示すると図13のように点EPf(Pmta,mcta)を通る曲線となる。
ステップ107において目標スロットル開度θttaが求められると、続くステップ109において、吸気弁2の開弁特性Cvが上記目標開弁特性Cvtaになるようにバルブリフト量変更装置14及び開閉タイミングシフト装置15が制御されると共に、スロットル開度θtが上記目標スロットル開度θttaになるようにスロットル弁12が制御される。これによって、吸気量が目標吸気量mctaになるように制御される。そしてステップ109を終了するとステップ101に戻り同様の制御が繰り返される。
以上の説明から、本実施形態では、目標吸気量mctaに基づいて最終的に目標スロットル開度θttaが決定され、スロットル弁開度θtがその目標スロットル開度θttaになるようにスロットル弁12が制御されて吸気量が制御されるようになっていると言える。そしてこのような場合においては、上記目標スロットル開度θttaの決定やスロットル弁の制御の過程における制御異常を検出することが好ましい。
そしてこのような制御異常を検出する方法としては、一般には運転者の要求を表すアクセル踏込み量と機関回転数とから決定され得る要求スロットル開度と、スロットル開度センサにより計測された実際のスロットル開度とを比較して行う方法が考えられるのであるが、実際にはこれら二つのスロットル開度は制御が正常であっても一致しない場合があり、この方法では制御異常の有無を判別できない、すなわち制御異常が正確に検出できない場合がある。
すなわち、本実施形態のようにスロットル開度と吸気弁の開弁特性とを制御して吸気量を制御する場合には、吸気弁の開弁特性によって同じ目標吸気量を実現するスロットル開度が異なることになるため、上述したように上記要求スロットル開度θtbと上記目標スロットル開度θttaとは一致しない場合があり、制御が正常であっても上記要求スロットル開度θtbと実際のスロットル開度とが一致しない場合が生じ得るため、上記の方法では、制御異常を正確に検出することができないのである。
また、その他の場合としては、例えば、電子制御式トランスミッションが搭載されている場合や横滑り等を防止して車両を安定させるために機関の出力を制御するシステムが搭載されている場合等が考えられる。すなわち、これらの場合には、上記目標吸気量が運転者の要求を表すアクセル踏込み量及び機関回転数の他、車両や機関の運転状態にも基づいて決定されるため、上記要求スロットル開度と上記目標スロットル開度とが必ずしも一致せず、その結果として制御が正常であっても上記要求スロットル開度と実際のスロットル開度とが一致しない場合がある。
本実施形態では、以上のような点に鑑み、以下で説明するような方法で上記制御異常を検出するようにしている。すなわち、本実施形態では、上記制御異常を検出するために、図14の制御ルーチンで示される制御が、図10を参照しつつ先に説明した吸気量制御と並行して実施されている。
図14の制御ルーチンは、図10を参照しつつ説明した吸気量制御のステップ101において目標吸気量mctaが求められるとスタートし、最初のステップであるステップ201においては、その目標吸気量mctaの取込みが行われる。そして、ステップ201において目標吸気量mctaが取り込まれると、続くステップ203において、スロットル弁12の開度θtの制御が実施されたか否かが判定される。
この判定は、すなわち、図10を参照しつつ説明した吸気量制御のステップ109における制御が実施されたか否かを判定するものであり、例えば、今回の開度制御のための信号が発信されたか否か、もしくは同信号が発信されてから予め定めた時間が経過したか否か等によって判定される。
ステップ203において、スロットル弁12の開度θtの制御が実施されたと判定された場合にはステップ205に進み、スロットル弁12の開度θtの制御がまだ実施されていないと判定された場合には、再度ステップ203の制御が実施される。すなわち、ここでは、スロットル弁12の開度制御が実施されてからステップ205に進むようになっている。
続くステップ205においては、エアフローメータ24によって吸気量(すなわち、計測吸気量)mcfmが計測される。そして、ステップ205において計測吸気量mcfmが求められると、ステップ207に進み、上記目標吸気量mctaと上記計測吸気量mcfmとが比較される。より具体的には、本実施形態においてはステップ207において、上記目標吸気量mctaと上記計測吸気量mcfmとの差の大きさ(|mcta−mcfm|)が予め定めた許容差α以下であるか否かが判定される(つまり、ここでは上記目標吸気量mctaと上記計測吸気量mcfmとが比較され、これらの一致の度合が判定されていると言える)。
そして、ステップ207において、上記吸気量差の大きさ(|mcta−mcfm|)が上記許容差α以下であると判定された場合には、ステップ209に進んで正常判定がなされ、今回の制御が終了する。一方、上記吸気量差の大きさ(|mcta−mcfm|)が上記許容差αより大きいと判定された場合には、ステップ211に進んで異常判定がなされ、今回の制御が終了することになる。
以上のように、本実施形態では、上記目標吸気量mctaとエアフローメータ24で計測した吸気量mcfmとを比較して制御異常を検出するようになっている。そして、このようにすることによって、上記目標スロットル開度θttaの決定やスロットル弁の制御の過程における制御異常を簡易な方法でより確実に検出することが可能となる。
次に本発明の他の実施形態について説明する。この実施形態は、図1に示した構成で実施され得るものであって上述の実施形態と共通する部分を多く有しており、これら共通する部分については原則として説明を省略する。
本実施形態では、上記制御異常を検出するために、図15の制御ルーチンで示される制御が、図10を参照しつつ説明した吸気量制御と並行して実施されている。図15の制御ルーチンは、図14の制御ルーチンと同様、図10を参照しつつ説明した吸気量制御のステップ101において目標吸気量mctaが求められるとスタートする。この制御ルーチンの最初のステップであるステップ301及びそれに続くステップ303における制御は、図14の制御ルーチンのステップ201及びステップ203における制御とそれぞれ同様であるので、ここでは説明を省略する。
制御がステップ305に進むと、そこでは吸気管内圧力センサ24によってスロットル弁下流側の吸気管内圧力(すなわち、計測吸気管内圧力)Pmthが計測される。そして、ステップ305において計測吸気管内圧力Pmthが求められると、ステップ306に進み、上記計測吸気管内圧力Pmthを用いて上述した吸気弁モデルのモデル式に基づいて吸気量(すなわち、算出吸気量)mcthが算出される。
この場合、吸気弁2の開弁特性Cvは上記目標開弁特性Cvtaに設定されていると考えられるので、上記適合パラメータA、Bとしては、上述したAf、Bf(上記(17)式において使用)とされる。つまり、ここで上記算出吸気量mcthは、下記(23)式により算出される。
そして、ステップ306において算出吸気量mcthが求められると、ステップ307に進み、上記目標吸気量mctaと上記算出吸気量mcthとが比較される。より具体的には、本実施形態においてはステップ307において、上記目標吸気量mctaと上記算出吸気量mcthとの差の大きさ(|mcta−mcth|)が予め定めた許容差β以下であるか否かが判定される(つまり、ここでは上記目標吸気量mctaと上記算出吸気量mcthとが比較され、これらの一致の度合が判定されていると言える)。
そして、ステップ307において、上記吸気量差の大きさ(|mcta−mcth|)が上記許容差β以下であると判定された場合には、ステップ309に進んで正常判定がなされ、今回の制御が終了する。一方、上記吸気量差の大きさ(|mcta−mcth|)が上記許容差βより大きいと判定された場合には、ステップ311に進んで異常判定がなされ、今回の制御が終了することになる。
以上のように、本実施形態では、上記目標吸気量mctaと、吸気管内圧力センサ25によって計測された上記吸気管内圧力Pmthを用いて算出した吸気量mcthとを比較して制御異常を検出するようになっている。そしてこのようにすることによっても、上記目標スロットル開度θttaの決定やスロットル弁の制御の過程における制御異常を簡易に且つより確実に検出することが可能となる。
なお、以上では、バルブリフト量変更装置14及び開閉タイミングシフト装置15によって吸気弁2の開弁特性のみが変更され、排気弁4の開弁特性は変更されない場合を例にとって説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、排気弁用のバルブリフト量変更装置及び開閉タイミングシフト装置を設けることによって排気弁4の開弁特性を変更できるようにされた場合に適用しても、上述の実施形態の場合と同様にして制御異常を検出することができる。
また、以上では、スロットル弁12と、バルブリフト量変更装置14及び開閉タイミングシフト装置15という可変動弁機構との協調制御によって吸気量を制御する場合を例にとって説明したが、本発明はこれに限定されるものではない。すなわち本発明は、スロットル弁と、可変動弁機構以外の吸気量可変手段、例えば気筒数可変機構や排気量可変機構等とが協働して吸気量を制御する場合にも適用可能であり、このような場合においても上述の実施形態の場合と同様にして制御異常を検出することができる。
更に、これまでの説明から明らかであるように、目標吸気量に基づいて目標スロットル開度を決定する制御が実施される場合であって、上述した電子制御式トランスミッションが搭載されている場合や横滑り等を防止して車両を安定させるために機関の出力を制御するシステムが搭載されている場合に本発明を適用すれば、上述の実施形態の場合と同様、上記目標スロットル開度θttaの決定やスロットル弁の制御の過程における制御異常を簡易に且つより確実に検出することができる。