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JP2008505716A - ヒドロキシフェニル架橋高分子ネットワーク及びその用途 - Google Patents

ヒドロキシフェニル架橋高分子ネットワーク及びその用途 Download PDF

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JP2008505716A JP2007520568A JP2007520568A JP2008505716A JP 2008505716 A JP2008505716 A JP 2008505716A JP 2007520568 A JP2007520568 A JP 2007520568A JP 2007520568 A JP2007520568 A JP 2007520568A JP 2008505716 A JP2008505716 A JP 2008505716A
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Abstract

人工組織及び組織工学用途において有用であり、特に、多種多様なタイプの組織のための移植可能な合成組織マトリックス材料を提供するジヒドロキシフェニル架橋高分子ネットワークが提供される。特に、人工又は合成軟骨、声帯材料、硝子体材料、軟部組織材料及び僧帽弁材料が開示されている。実施態様においては、ネットワークは、チラミン置換及び架橋ヒアルロナン分子からなり、ここで、架橋は、インビボで実施することができる、ペルオキシダーゼが媒介するジチラミン結合によって達成される。ジチラミン結合は、所望の物理的性質を有する、安定な、コヒーレントなヒアルロナンをベースとするハイドロゲルを提供する。

Description

本出願は、2004年7月9日に出願された、米国仮特許出願第60/586,585号に基づく優先権を主張し、両者の内容は両方とも、その全体を本願明細書に引用したものとする。
関節軟骨は、健康な関節において必須の機能を果たしている。それは、骨から負荷をそらして骨を損傷から保護するために、衝撃及び摩擦負荷を吸収し放散させることを担う。軟骨は、負荷力をそれ自身が関節空間中に拘束されるアグリカン分子の三次元ネットワーク中の液相に移動させることにより(次節で説明する)、その機能を行っている。アグリカン分子は、コア蛋白質に結合した100個程度のコンドロイチン硫酸(CS)鎖を有し、各コンドロイチン硫酸鎖はその長さ方向に沿って多数の負に荷電した硫酸基を有している。これらのすべての硫酸基の効果は、1つのアグリカン分子中のコンドロイチン硫酸鎖のそれぞれが互いに反発するようにすること(このためアグリカン分子は静止時に最大可能な体積を有する)、及び軟骨凝集体中の隣接するアグリカン分子が互いに反発するようにすることである。
健康な軟骨においては、アグリカン分子は長いヒアルロナン鎖に結合しており、一方、これは、細胞外コラーゲン原線維マトリクスにより関節空間中では大きい軟骨凝集体中に拘束されている。すなわち、各アグリカン分子中の隣接するコンドロイチン硫酸鎖(及び同じ又は異なるヒアルロナン鎖に結合している隣接するアグリカン分子)は互いに反発しても、これらはそれでもなおコラーゲンマトリクス中に拘束されている。正常な健康な軟骨を示す図1を参照。コンドロイチン硫酸鎖は非常に反発性であるため、休息時ではヒアルロナン−アグリカンネットワーク(又は高分子ネットワーク)はコラーゲンマトリクスの拘束の中で可能な限り大きく拡張して、可能な限り低いエネルギー状態を達成する。すなわち、隣接する負に荷電した硫酸基の間には可能な限りの最大の空間が可能となる。結果として、ネットワーク分子は、隣接するネットワーク分子に接近することを回避するために、転位又は転置に対して非常に抵抗性がある。これらの大きい軟骨凝集体は、その自由溶液体積の5分の1でコラーゲン線維の網の中にトラップされており、これは、さらに膨潤することに抵抗する。高い負の電荷密度を有する軟骨凝集体は、大きい溶媒ドメインを結合し、軟骨が負荷を吸収し変形に抵抗する能力に寄与している。圧縮されると、プロテオグリカン上の固定された負電荷基の間の距離が減少し、これは電荷対電荷反発力ならびに自由に浮遊する正のカウンターイオン(例えばCa2+及びNa+)の濃度を増加させる。両方の効果が軟骨の粘弾性的性質及び変形に抵抗し圧縮負荷を吸収する能力に寄与する。このことは以下にさらに説明する。
高分子ネットワーク中には、実質的に連続する液相を提供する水分子が存在している。高分子ネットワークは、以下のようにして、衝撃及び摩擦負荷を連続液体(水)相に伝達することにより、衝撃及び摩擦負荷を骨からそらしている。関節に負荷がかかると、力は、まず高分子ネットワークにより吸収され、ここで力はネットワークに作用してこれを変形させるか圧縮する傾向を示す。力は負荷により生じたネットワークの変形又は圧縮に適応するように液体流れを誘導するために、液相中で圧力勾配を形成する。しかし、液体は、ネットワーク分子を転位又は転置することなしには、反発性のコンドロイチン硫酸鎖で充填された密な高分子ネットワークを大量の水の流れに十分に適応するようには通り抜けることができない。それ故、個々の水分子はネットワーク中で拡散し得るが、大量の液体相がネットワークを通って流れることは、ネットワーク分子の転置に対する耐性のため、著しく遅い速度の場合を除いては実質的に制約がある。水分子は圧力勾配があっても容易に流れることができないので、衝撃又は摩擦負荷からのエネルギーは液相に伝達され、ここで吸収され、液相は水がネットワークコンフォメーションに適応するよう十分転置して圧力勾配が安定してしまうまで、液体の水を圧縮することに寄与する。全体的な結果は、有害である可能性のある負荷を軟骨が吸収し、このことによりこれを骨からそらすことである。
この優雅なメカニズムにより、正常な軟骨は、高分子ネットワーク中に拘束されている液相に大部分の負荷力を伝達することによって、大きな負荷を吸収することができる。この組み合わせは、今まで従来技術の人工又は合成手段によっては適切に複製されていない。結果的に、アグリカン分子がそのヒアルロナン鎖から分離され、消化されるか、又は軟骨凝集体から運び出されるような関節炎等の軟骨変性性疾患についての適切な治療法は存在していない。
変形性関節症及びリウマチ様関節炎は、それぞれ2070万人及び210万人のアメリカ人に影響していると見積もられる。変形性関節症だけでも、1年間に約700万人が医師を訪れている。重症の身体障害関節炎に対しては、現在の治療は総関節置換を含み、米国だけで平均で1年間に168,000件の総股置換及び267,000件の総膝置換が行われている。軟骨細胞が軟骨を修復する能力が限定されているため、関節軟骨の欠損は、複雑な治療問題を示す。これまでの治療戦略は、培養により増殖させた自己軟骨細胞の使用、又は走化性又は有糸分裂の促進剤によるインビボでの間葉性幹細胞のリクルートに焦点をあててきた。これらの戦略の意図は、正常で健康な関節軟骨表面を再合成するために、軟骨細胞集団を増加及び/又は活性化させることである。これらの戦略に伴う1つの主要な困難性は、これらの薬剤を欠損の部分に維持することができないということである。ヒアルロナンは、その独特の特性、例えば、優れた生体適合性、分解性、及びレオロジー特性及び物理化学的特性のため、軟骨細胞又は生物学的に活性な薬剤の局所送達用の生体材料の開発の候補として提唱されてきた。しかし、組織培養ヒアルロナンマトリクス中に懸濁させた軟骨細胞が、正常で健康な関節軟骨に匹敵する機械的特性を有する新たな軟骨マトリクスを合成することができるか否かはわかっていない。これは、ヒアルロナンから製造された慣用の生物材料が、細胞の生存性の維持と適合しない化学により形成されるためである。マトリクス形成の後にマトリクス中に軟骨細胞を導入する必要があるが、その結果は様々であって、通常はあまりよくない。
従って、当該技術分野においては、効果的な様式で骨から負荷力を有効にそらすことができる人工又は合成のマトリクスが求められている。好ましくは、そのようなマトリクスをインサイチュー又はインビボで提供して、整形外科手術の際に関節軟骨を修復又は置換することができる。最も好ましくは、人工又は合成のマトリクスを、液体又は複数の液体としてインサイチュー又はインビボで標的部位に提供して、その場で患者の現存する軟骨組織及び/又は身体組織と実質的に継ぎ目のない一体化を構築することができる。
また、種々の代替組織を合成するために用い、応用することの出来る、人工又は合成マトリックスを提供することが好ましい。
以下の構造
Figure 2008505716
(式中、R1及びR2は、それぞれ、ポリカルボキシレート、ポリアミン、ポリヒドロキシフェニル分子、及びこれらのコポリマーからなる群より選択される構造であり、ここで、R1及びR2は同じ構造であっても異なる構造であってもよい)を含む高分子ネットワークを含む、移植可能な合成組織マトリクス材が提供される。
また、移植可能な合成軟骨材;移植可能な合成声帯材;移植可能な合成硝子体材料;移植可能な合成軟組織材;及び移植可能な合成僧帽弁材料を含む、前のパラグラフに記載された組織マトリクス材を含むか、又はそれからなる、種々の、移植可能な合成組織材料が提供される。
図面の簡単な説明
図1は、正常な健康なヒト軟骨の概略図である。
図2は、本発明のジヒドロキシフェニル架橋された高分子ネットワークの概略図である。
図3は、ヒアルロナン分子の構造式である。
図4は、関節軟骨プラグについて公表されている結果に対する、本発明のT−HA(図4a)、T−アグリカン(図4b)及び50%T−HA/50%T−アグリカン複合体(図4c)ハイドロゲルの制限圧縮試験における機械的試験(適用した歪みに対する平衡応力)についての比較結果を示すグラフである。グリコサミノグリカン(GAG)濃度と材料圧縮強度間の関係を図4dに示す。
図5は、培養プラスチック(コントロール)上で培養された組織と比較した、T−HAハイドロゲル(1.7%及び4.7%T−HA)中に包埋された軟骨細胞のグルコース利用の比較データを示すグラフである。
図6は、実施例6に記載された本発明の一態様の関節軟骨欠損へT−HAハイドロゲルを移植するための手術手順を図示する4枚の写真のシリーズである。
図7は、対向する膝蓋骨面と同様に、実施例6で記載したように、T−HAハイドロゲル移植片のユカタンブタの中間の滑車面への移植1ヶ月後の2枚の写真のシリーズである。
図8は、実施例7に記載したように、合成声帯材料としてT−HAハイドロゲルを用いた、声帯修復手順に続く、移植3ヶ月後の、イヌの声帯のコントロール側(未充填)及び実験側(TB−HAハイドロゲルを充填)の組織学的試験の結果を示す写真のシリーズである。
図9は、実施例7に記載したように、合成声帯材料としてT−HAハイドロゲルを用いた、ウサギモデルにおける、外科的拡張声帯の組織学的試験の結果を示す写真のシリーズである。
図10は、実施例8に記載したように、合成硝子体材料としてT−HAハイドロゲルを用いた硝子体置換手順に続く、手術1ヶ月後のコントロール(手術なし)及び実験的(外科的置換)目の写真のシリーズである。
図11は、実施例8に記載したように、ウサギモデルにおける光のフラッシュに応答する、コントロール及び硝子体置換された目について記録された、比較網膜電図(ERG)を示す。
図12は、実施例8に記載したように、合成硝子体材料としてT−HAハイドロゲルを用いた、硝子体置換手順に続く、手術1ヶ月後のコントロール(手術なし)及び実験的(外科的置換した)目の4つの部分からの網膜の電子顕微鏡写真のシリーズである。
図13は、実施例9に記載したように、手術後1ヶ月における免疫適格性ラットへの100mg/mlのT−HAハイドロゲルプラグの皮下的な移植についての組織学的試験結果の代表的結果を示す写真のシリーズである。
図14は、実施例10に記載したように、僧帽弁修復のためのT−HAハイドロゲル材料を特定するために用いた死体のイヌの心臓の写真である。
本明細書において用いられるように、ポリカルボキシレートとの用語は、少なくとも2つの官能基又は単位の鎖長を有する分子、構造又は種を意味し、ここで、鎖の少なくとも2つのそのような基又は単位は、本明細書に記載されるように求核置換反応に立体的にアクセス可能であるカルボン酸基であるか又はこれを含む。本明細書において用いられるように、ポリアミンとの用語は、少なくとも2つの官能基又はユニットの鎖長を有する分子、構造又は種を意味し、ここで、鎖の少なくとも2つのそのような基又はユニットは、求核置換反応に利用可能な第1アミン基であるか又はこれを含む。また、本明細書において用いられるように、ポリヒドロキシフェニル分子は、少なくとも2つの官能基又はユニットの鎖長を有する分子を意味し、ここで、鎖の少なくとも2つのそのような基又はユニットは、別のヒドロキシフェニル基とC−C結合により連結することができるヒドロキシフェニル基であるか又はこれを含む。また、本明細書において用いられるように、ハイドロゲルは、組織置換又は工学用途において、例えば、人工関節として、手術機器をコーティングして組織の刺激炎症を防止する材料として、又は人工腎臓等で用いるための半透膜を提供するための材料として用いられるか又は有用である高分子ネットワークを含むよう製造される材料である。
本発明は、隣接する長鎖高分子に結合したヒドロキシフェニル基を連結させ、その結果、高分子を効率的に架橋させて大きなネットワークを得ることにより形成される高分子ネットワークの新規な構造を含む。ネットワークの基本的な架橋構造は以下に示される。
Figure 2008505716
(式中、R1及びR2はそれぞれ長鎖高分子である)。R1及びR2は同じ分子であっても、異なる分子であってもよいが、適当なネットワークを提供するためには、本発明のネットワーク中のジヒドロキシフェニル結合の少なくとも一部については、R1及びR2が異なる分子であることが理解されるであろう。R1及びR2は同じ種の分子であることが好ましいが、必要ではない。
隣接している高分子間に複数のこれらのジヒドロキシフェニル結合を提供することにより、図2にその概略図が示されるように、ジヒドロキシフェニル架橋高分子のネットワークが得られる。図面においては、高分子は、好ましくはその長さ方向に沿って少なくとも2つのヒドロキシフェニル基が結合している円柱状の鎖により図解的に示されている。全てのヒドロキシフェニル基が他のヒドロキシフェニル基と連結していなければならないわけではないことに注意すべきである。
簡単には、本明細書に開示される発明は、カルボジイミドにより媒介される反応によって、ヒドロキシフェニル含有化合物(限定されないが、例えばチラミン)を、その第1アミン(又はカルボキシル)基を介して、種々の高分子足場材料、例えば、限定されないが、ヒアルロナン又は硫酸コンドロイチン(例えば、アグリカンの形態で)のカルボキシル(又は第1アミン)基と共有結合させることを含む。ヒドロキシフェニルで置換された高分子の足場を単離し精製した後、非常に希薄な過酸化水素の存在下で西洋ワサビペルオキシダーゼ(HRP)によりヒドロキシフェニル残基を選択的に架橋して、ハイドロゲルを形成する。以下に明らかになるように、本明細書に記載されたように製造されるハイドロゲルは、本明細書に記載されるように、種々の目的のために身体に移植することのできる、完全に移植可能であり、非免疫原性の合成組織マトリクス材であるか、そのように用いることができる。本明細書で用いられるように、「移植可能な」は、外科的切開によるハイドロゲルの外科的移植、及び例えば注射器を用いた注射により身体内へのハイドロゲルの供給の両方を意味する。外科的移植であるか注射であるかいずれにせよ、移植可能なハイドロゲルは、既に架橋された身体中に供給され得るか、そうでなければ、更に記載されるように、身体中の移植部位でインサイチューで架橋され得る。
高分子ネットワークの提供における最初の工程は、ヒドロキシフェニル基が周期的に結合した長鎖高分子を製造又は供給することである。1つの実施態様においては、高分子は、多数の又は周期的なヒドロキシフェニル基を既に有するポリヒドロキシフェニル分子、例えばポリフェノールである。適当なポリフェノールは、ポリアミノ酸(例えば、ポリチロシン)、エピガロカテキン(EGC)、及び緑茶から単離される没食子酸エピガロカテキン(EGCG)、及びあまり好ましくないが他のポリフェノールを含む。
さらなる実施態様においては、化学反応により、高分子にヒドロキシフェニル基をその長さに沿って周期的に又はランダムに付加することができる。高分子にヒドロキシフェニル基を付加する好ましい方法は、カルボジイミドにより媒介される置換反応経路を利用して、ヒドロキシフェニル基を有する第1アミンと高分子に結合したカルボン酸基との間にアミド結合を形成させることである。この方法においては、長鎖高分子は、好ましくはその長さに沿って周期的なカルボン酸基を有するポリカルボキシレート分子である。ヒドロキシフェニル基は、カルボジイミド経路を介して長鎖高分子上のカルボン酸基のカルボキシル炭素原子に結合させることができる第1アミン基を有するより小さい分子の一部として与えられる。反応は以下のように進行する:
Figure 2008505716
[式中、
構造Aはカルボジイミドであり;
構造Bはポリカルボキシレートであり(ただし1つのCO2H基のみが示されている);
構造Cは反応Aの生成物である、活性化O−アシルイソウレアであり;
構造Dは、ヒドロキシフェニル基を有する第1アミンであり;
構造Eは、ヒドロキシフェニル置換ポリカルボキシレートであり;及び
構造Fは、アシルウレア副生成物であり;
ここで、個々のRは、独立して、直鎖又は分枝鎖のアルカン又はアシル基、又は上述の構造Eで示される、NH2とCO2H基との間のアミド結合を与えるカルボジイミド反応経路を妨害しない他の任意の構造であるように選択することができ、相互に同じでも異なっていてもよい]。
上で図解した経路においては、反応Aは、活性化O−アシルイソウレア中間体を与える、カルボキシル基のカルボジイミド活性を表わす。この中間体の電気的に陽性の炭素原子は、ヒドロキシフェニル基が結合した隣接する第1アミン分子の窒素原子上の孤立電子対による求核攻撃を受けることができる。この求核置換反応(反応B)の生成物は、ヒドロキシフェニル置換ポリカルボキシレート及びアシルウレア副生成物であり、これを透析により除いて、実質的に純粋なヒドロキシフェニル置換ポリカルボキシレート生成物を得ることができる。
上述のカルボジイミド反応経路の化学においてある種の副反応が可能であり、当業者はこれを考慮しなければならない。第1に、カルボジイミドは、所望のO−アシルイソウレア(反応A)を形成するために必要なポリカルボキシレート分子のカルボキシレート酸素原子以外の求核基と反応することができる。そのような求核基には、上で図解した構造Dのアミン及び/又はヒドロキシフェニル基が含まれる。特に、反応Aについては、カルボジイミド及びヒドロキシフェニル基を有する第1アミン(構造A及びD)の有効濃度を低下させ、ポリカルボキシレート(構造B)上に望ましくない負荷物を形成することにつながる可能性のある3つの可能な副反応がある:
Figure 2008505716
カルボジイミドとのアミン反応(反応C)の生成物は、O−アシルイソウレアとの反応に利用可能なチラミンの量を有効に低下させる遊離アミン基を有しないであろう。この反応は、また、所望のO−アシルイソウレアを形成するために利用可能なカルボジイミドの量を低下させる。ヒドロキシフェニル反応(反応D)の生成物はUV吸収剤ではなく、最終的なヒドロキシフェニル置換ポリカルボキシレート生成物中でUV分光分析により検出することがより困難である(以下に説明する)。しかし、これらの生成物は、なお遊離のアミン基を含むため、反応Bによりポリカルボキシレート分子とアミド結合を形成することができる。このことから、2つの非生産的なヒアルロナン置換構造が生じ、フリーラジカルを生成するのに必要な引き抜き可能なフェノール性ヒドロキシル水素原子がないため(以下に説明する)、これらはいずれも架橋ネットワークの製造の第2工程においてペルオキシダーゼ架橋反応に関与することができない(これも以下に説明する)。最後に、カルボジイミドは水と非生産的に反応して(反応E)、反応Bの副生成物として上に示したものと同じアシルウレアを生成するが、所望の生成物である構造Eは生じない。
反応Aにおいて、一旦所望のO−アシルイソウレア生成物が形成されると、再び、ある種の追加の副反応の可能性がある:
Figure 2008505716
O−アシルイソウレア(構造C)は、反応Fに示されるように加水分解して、元の修飾されていないポリカルボキシレート(構造B)及びカルボジイミドのアシルウレア(構造F)を放出する。これは反応Eと同様の非生産的な反応であり、カルボジイミドの有効濃度を低下させる。O−アシルイソウレアはまた、分子内再配置(反応G)を起こして、2つの非反応性N−アシルウレアを生成する。これらの構造は、カルボキシレート分子上に非生産的な付加物を形成し、これは本発明のネットワークを製造するためのペルオキシダーゼ触媒架橋反応に寄与しない(上述した工程2)。O−アシルイソウレアは、また、同一の又は別のポリカルボキシレート分子上の第2のカルボキシル基と反応して、酸無水物を形成し得る(反応H)。次いで、この分子は構造Dと反応して、所望のアミドを形成し、第2のカルボキシル基を再生することができる。すなわち、O−アシルイソウレアについては2つの可能な副反応があり、これらはカルボジイミドの有効濃度を低下させることができ(反応F及びG)、及びポリカルボキシレート分子上に望ましくない付加物を形成することにつながる可能性がある。
これらの副反応の負の効果は、過度の実験をすることなく慣用の手法により解決することができる。
高分子(構造B)がポリカルボキシレートである上述した経路とは別に、高分子はその長さ方向に沿って多数の又は周期的なアミン基を有するポリアミンであってもよい。この場合には、ヒドロキシフェニル基をより小さいカルボン酸分子の一部として提供する。適当なポリアミンとしては、キトサン(ポリグルコサミン)等のポリヘキソースアミン;ポリリジン等のポリアミノ酸;ポリ(dA)(ポリデオキシアデニル酸)、ポリ(dC)(ポリデオキシシチジル酸)、及びポリ(dG)(ポリデオキシグアニル酸)等のポリデオキシリボヌクレオチド;及びポリ(A)(ポリアデニル酸)、ポリ(C)(ポリシチジル酸)、及びポリ(G)(ポリグアニル酸)等のポリリボヌクレオチドが挙げられる。カルボジイミドにより媒介される反応経路は、上で説明したものと全く同じく進行して、アミン基とカルボン酸基との間にアミド結合が形成されるが、ただし、当業者には理解されるように、得られる生成物は、ポリカルボキシレートではなく、ヒドロキシフェニル置換ポリアミンである。その長さに沿って配置されたヒドロキシフェニル基を有するか、又は、本明細書に記載される置換反応によりその上にヒドロキシフェニル基を提供することができる他のペプチド及び/又は蛋白質も、本発明において高分子として用いることができる。例えば、既に本明細書に開示されているペプチドに加えて、ポリアルギニンを高分子として用いることができる。
ポリカルボキシレート分子上で置換する場合には、本発明において用いるのに適当なヒドロキシフェニル含有化合物は、多数の又は周期的なCO2H基を有する足場材料を修飾するために用いることができる遊離第1アミンを有するもの、例えば、チロシン(2−アミノ−3−(4−ヒドロキシフェニル)プロピオン酸)及びチラミン(チロサミン又は2−(4−ヒドロキシフェニル)エチルアミン)を含む。ポリアミン上で置換する場合には、適当なヒドロキシフェニル含有化合物は、多数の又は周期的な1級NH2基を有する足場材料を修飾するために用いることができる遊離CO2H基を有するもの、例えば、チロシン、3−(4−ヒドロキシフェニル)プロピオン酸及び4−ヒドロキシフェニル酢酸を含む。
本発明の架橋された高分子ネットワークを製造するための第2工程は、得られた高分子、すなわち1又はそれ以上のヒドロキシフェニル基が結合している高分子をジヒドロキシフェニル結合構造を介して連結させることである。この工程においては、異なる高分子に結合しているヒドロキシフェニル基を、ペルオキシダーゼの存在下に過酸化物試薬を用いて、以下に示される反応メカニズムにより連結させる:
Figure 2008505716
(同じ分子上の異なるヒドロキシフェニル基の間にも、ある程度のジヒドロキシフェニル結合が生じ得ることに注意すべきである)。ペルオキシダーゼは、希薄な過酸化物(好ましくはH22)の存在下で、ヒドロキシフェニル含有化合物(例えばチラミン)からフェノール性ヒドロキシル水素原子を引き抜いて、1つの非共有電子を有するフェノール性ヒドロキシル酸素、すなわち非常に反応性の高いフリーラジカルを離脱することができる。フリーラジカルは、オルト位置の2つの同等の炭素の一方に異性化し、次に2つのそのような構造が二量体化し、構造を効果的に架橋する共有結合を形成し、これはエノール化の後に、ジヒドロキシフェニル二量体を生成する(以下に説明されるジチラミン結合等のジヒドロキシフェニル結合)。
上記においては、明確化のため1つのジヒドロキシフェニル結合反応のみが示されているが、ヒドロキシフェニル基が結合している高分子をこの反応条件(過酸化物及びペルオキシダーゼ)に供したときには、いくつかの又は多数のそのような結合が生成することが理解されるであろう。上述のメカニズムでは過酸化水素が示されているが、他の適当な過酸化物を用いることができる。また、ペルオキシダーゼは、好ましくは西洋ワサビペルオキシダーゼ(HRP)である。又は、ヒドロキシフェニル基を含む足場材料を架橋するために、フリーラジカルを生成しうる他の任意の適当な酵素(又は他の試薬)を、好ましくは以下に記載される通常の代謝条件下で用いることができる。
我々は、西洋ワサビペルオキシダーゼ(タイプII)と過酸化水素(H22)との相互作用が、架橋した高分子ネットワークの製造に適していることを示した。メカニズムは、4つの異なる工程:(a)過酸化物を、ペルオキシダーゼのヘム鉄(III)複合体と結合させて不安定な過酸化物複合体“化合物I”を形成する、(b)鉄を酸化し、ヘムポルフィリン環中にπカチオンラジカルを有するフェリル種(ferryl species)“化合物II”を形成する、(c)1つの基質分子(すなわち、ヒドロキシフェニル又は水)によって化合物IIを還元し、生成物(すなわち、ヒドロキシフェニル又はスーパーオキシド)ラジカル及び他のフェリル種“化合物III”を生産する、(d)第二の基質(すなわち、ヒドロキシフェニル又は水)分子によって化合物IIIを還元し、第二の生成物(すなわち、ヒドロキシフェニル又はスーパーオキシド)ラジカルを遊離し、天然の酵素を再生する工程を含む。従って、ペルオキシダーゼ酵素は、所望のラジカルを直接作成するための酵素の活性部位においてヒドロキシフェニル基の相互作用を通じて、又は、酵素から拡散し、所望のラジカルを形成するためのヒドロキシフェニル基と相互作用するスーパーオキシドラジカルの最初の生成を通じて、ラジカル架橋に必要なヒドロキシフェニルラジカルを形成することができる。同じ効果を生じる可能性を有する他の化合物としては、ペルオキシダーゼファミリー、ホモプロテイン又は構造的に関連するクロリン化合物を含む化合物を含有する任意のポルフィリン(すなわち、以下のフォトフリン)が挙げられる。
他の多くの遊離基開始剤が、本明細書に開示される、ヒドロキシフェニル修飾高分子を架橋するために用いられる。大部分は、過酸化水素、次亜塩素酸塩のイオン、ヒドロキシラジカル、及びイオン及びラジカルであるスーパーオキシドアニオン等のラジカルを含むが、これらに限定されない、反応性酸素種(ROS)の形成又は包含に基づいている。合成重合に必要とされる反応性窒素種、又は反応性硫黄種、又はそれらのフリーラジカル種等の付加的な反応性分子は、ヒドロキシフェニル架橋に用いられる可能性を有している。
ROSは、一般に、酵素及び基質を用いることによって自然に製造される。スーパーオキシドラジカル生産の結果として架橋工程に用いられる可能性を有する、追加の酵素システムは、キサンチン−キサンチンオキシダーゼ及びNADPH−NADPHオキシダーゼを含むが、これらに限定されない。
用いることのできる、他のクラスのROSフリーラジカル開始剤は、金属カチオンを必要とする。1つの具体例は、過酸化水素及びFe2+等の二価カチオンの間で生じるフェントン反応に基づく。この工程は、触媒が過酸化水素と反応する際に強力なフリーラジカルを発生する。フェントン反応に関連する主要な化学反応は以下の通りである;
22+Fe2+ → OH・+OH-+Fe3+
ここで、Fe2+は第一鉄イオンであり、Fe3+は第二鉄イオンであり、OH・はヒドロキシラジカルである。
ヒドロキシルラジカルを生成する上述した開始反応とは別に、フェントン工程は、また、後述する追加の連鎖成長反応によってスーパーオキシドラジカル及びヒドロペルオキシドアニオンを生成することができる。
22+OH・→HO2・+H2
HO2・→H++O2-
HO2・+O2-=HO2 -+O2
ここで、O2-はスーパーオキシドラジカルアニオンであり、HO2 -はヒドロペルオキシドアニオンであり、HO2・はペルヒドロキシルラジカルである。
我々は、過酸化水素と共に硫酸第一鉄を用いて、研究室において、チラミン置換ヒアルロナンを架橋するためのこの反応の能力を証明した。二価の銅陽イオン、クロム、バナジウム及びコバルト(これらに限定されない)を含むが、化合物は同様の方法で用いることができる。ヒドロキシルフリーラジカルは、ジチラミン架橋を形成するために用いることができるが、これはHA鎖を切断することも示されており、従って、最終的には理想的なハイドロゲルの形成に好ましくないかもしれないことに注意すべきである。
ROSを生成することのできる、追加の分子又は方法は、以下を含む。
・ルビジウム又はセシウムイオン 酸素存在下においてけるスーパーオキシドラジカルを形成する
・三価のカチオン 以下に示すように、過酸化水素と共にフリーラジカル及び二価のカチオンを形成し、これは引き続いてフェントンプロセスに関与する反応にしたがう
Fe+3+H22 = Fe+2+・OOH+H+
・細胞毒性及び抗腫瘍療法ホトフリン(Photofrin) 630nmの波長のレーザー光を照射すると、ラジカル生成反応の伝達を引き起こし、スーパーオキシド及びヒドロキシラジカルを生産する。光の非存在下、しかし過酸化水素の存在下で、ホトフリン中のポルホリン環は、上述のペルオキシダーゼ酵素と同じ反応によって作動するはずである。
・ヒドロキシル及びスーパーオキシドフリーラジカルを形成するためのUV光及び過酸化水素。
・TEMEDと組み合わせた過硫酸塩ファミリー。
上述したように、このようなフリーラジカルを生成するための1つの代替法は、代替の非酵素的光活性架橋試薬としてホトフリンを用いて、本明細書で開示される高分子ネットワーク、例えば、チラミン架橋ヒアルロナンハイドロゲルを形成するためのチラミン置換ヒアルロナンを架橋させることである。当業界で公知のホトフリン(登録商標)は、前述したペルオキシダーゼのH22のメカニズムと同様の方法で、本明細書に開示されるように架橋反応を開始することのできるフリーラジカルを生成する。ホトフリン(登録商標)は、Wyeth-Ayerst Lederle Parenteralsによって粉末又はケーキ状で製造されるポルフィマーナトリウムである。
好適な架橋反応が酵素(ペルオキシダーゼ)により推進されるため、ジヒドロキシフェニル架橋高分子ネットワークは、少くともインサイチューでの架橋手順を行う能力に関しては通常の軟骨又は他の組織の補充又は置換の方法及び製品より優れている。これは、架橋反応が通常のインビボ又は代謝条件の温度、例えば35〜39℃(例えば約37℃)、pH6〜7の範囲(例えば約6.5)、試薬(架橋反応に必要な試薬は過酸化水素等の過酸化物のみである)で行われることを意味する。更に、ホトフリンは既に、バレット食道の除去処理等のインビボの応用に用いられており、鉄をベースとする架橋メカニズムも、インビボ性能について最適化することができる。従って、架橋反応をインビボで行って、架橋されたハイドロゲルを手術の現場、例えば、整形外科の手術の現場で提供し、ハイドロゲル及び天然の組織、例えば骨及び軟骨の組織の間に継ぎ目のない最大限の一体化を促進することができる。ヒドロキシフェニル置換高分子足場は、架橋の前に現存する軟骨マトリクス中に急速に浸透し、他のヒドロキシフェニル置換高分子足場材料とのみならず、現存する軟骨マトリクス中に存在する蛋白質のチロシン残基とも架橋し得るため、新たなハイドロゲル足場と天然の軟骨マトリクスとの一体化はただちに起こるであろう。これは、予め形成されたマトリクスのプラグにおいて見いだされる、天然の軟骨組織とよく一体化しないという典型的な問題を排除することができる。関節表面上で直接ハイドロゲルを架橋することができることは、その化学が毒性を有するか又は患者の内部でこれを形成することができないハイドロゲルの場合に必要とされるような、予め成形されたプラグを適合させるために欠損を外科的に広げるという必要性を排除する。関節炎の結果として生ずるほとんどの軟骨の障害は、関節表面の様々な菲薄化として存在するものであり、輪郭をもつ形状の穴として存在するのではないことに注意すべきである。
架橋反応は過酸化物及びペルオキシダーゼ(好ましくは西洋ワサビペルオキシダーゼ)の両方を必要とするため、手術部位に適用するのに便利なように、これらの成分の1つではなく全てを含む溶液を調製することができる。例えば、チラミン(又は他のヒドロキシフェニル含有種)で置換されたポリカルボキシレート(例えば、チラミン置換ヒアルロナン等)及びペルオキシダーゼを含む溶液を調製し、過酸化物を含む第2の溶液を調製することができる。又は、過酸化物及びペルオキシダーゼを第1の溶液及び第2の溶液で入れ替えてもよく、ここで重要なことは、架橋反応を行うまで過酸化物とペルオキシダーゼとを別々にしておくことである(すなわち別々の溶液中で)。次に、第1の溶液を適用し(例えば、インビボの手術現場に)、第2の溶液を第1の溶液にインビボで適用するか又はスプレーして、チラミン残基のインサイチュー架橋を引き起こす。架橋反応は、インビボで生ずる。本発明の開示から明らかな他の組み合わせも当業者の通常の能力の範囲内であろう。
更に、架橋反応は通常の代謝条件下で生ずるので、追加の生きた細胞、例えば軟骨細胞、先祖細胞、幹細胞等を、架橋されていないヒドロキシフェニル置換ポリカルボキシレート又はポリアミン(又はポリフェノール)を含む培地、すなわち上の段落に記載される第1の溶液又は第2の溶液に直接入れることができる。ここで、細胞を含有する培地を高分子と共にインビボの部位に適用し、次にペルオキシダーゼ及び過酸化物を加えることにより分子を架橋させることができる。その結果として、その中に所望の細胞が分散している架橋高分子ネットワークが生じる。そのような細胞含有ネットワークは、通常の組織置換マトリクスではこれらを製造する温度及びpHの条件が過酷であるために不可能である。更に、以下の実施例5に記載されるように、上述のようにしてネットワーク中に入れた細胞は、チラミン置換ヒアルロナンを架橋した後でも生存可能なままであることが示された(これも以下に説明する)。
合成軟骨、及び他の合成もしくは人工組織を製造するのに特に適した好ましい実施態様においては、ネットワークを製造するために用いられる高分子はヒアルロナン又はヒアルロン酸(HA)であり、ヒドロキシフェニル基はチラミンの形で供給される。ヒアルロナン(HA)は、軟骨、声帯、硝子体、関節液、へその緒及び皮膚等の特定の組織中に最も濃縮されている偏在性の分子である。これらの組織において、その機能は多種多様であり、組織の粘度、緩衝作用、創傷治癒及び空間充填に影響を与える。HAは、マトリックス集合、細胞増殖、細胞移動及び胚/組織発生などが存在する、天然の組織中の細胞外基質(ECM)中の多くの処理に影響を与えることが示されている。
HAは、図3に示されるように、β1,3グリコシド結合により連結したグルクロン酸残基(glcA)とN−アセチルグルコサミン(glcNAc)との繰り返し対から構成される。グルクロン酸残基は、この糖が、ヒドロキシフェニルすなわちチラミン置換について有用であるHAの繰り返し二糖構造に沿って、利用できるカルボキシル基を周期的に供給するので、本明細書に開示されるように、高分子ネットワークの生産と特に関係する。各ヒアルロナン鎖について、この簡単な二糖は10,000回以上繰り返されて1000万ダルトン(10メガダルトン)のオーダーの分子量を有することのできる高分子を生じる。図3においても示されるように、HAの隣接した二糖単位は、β1,4グリコシド結合によって結合している。各glcA残基は、グルコース環の5位の炭素原子に結合したカルボン酸基(CO2H)を有する。生物学的条件下では、HAは負に荷電しており、分子量及び組成のみに基づいて予想されるよりも、1,000倍以上の容積を満たすランダムコイル状のポリマーである。上記で述べたように、強力な負の荷電は、カチオン及び水を誘引し、HAをインビボにおける強力な水和ゲルの形態とする役割を持ち、ユニークな粘弾性及び緩衝作用性能を与える。HAは、非免疫原性、非毒性及び非炎症性であるため、容易に利用でき、組織工学の応用のための好ましい足場材料である。またこれは、自然に発生する細胞外基質(ECM)分子として、細胞レセプターによって認識される他のECM分子と相互に作用し、通常の生理的経路によって代謝されるという利点を提供する。
チラミンは、ベンゼン環のOH基のパラ位に結合したエチルアミン基を有するフェノール性分子である。これらの分子種を用いると、HA上のCO2H基の単結合酸素原子へのチラミン置換のメカニズムは、上述のカルボジイミド媒介性反応メカニズムにより進行し、これを以下に説明する。好ましいカルボジイミド種は、以下に示される1−エチル−3−(3−ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド(EDC)である:
Figure 2008505716
[式中、構造AはEDCであり;
構造Bはヒアルロナン(ただし1つのCO2H基しか示していない)であり;
構造Cは反応Aの生成物である1−エチル−3−(3−ジメチルアミノプロピル)イソウレアであり;
構造Dはチラミンであり;
構造Eはチラミン置換ヒアルロナンであり;及び
構造Fは1−エチル−3−(3−ジメチルアミノプロピル)ウレア(EDU)である]。
上記経路において、ヒアルロナン分子のカルボキシル基の負に荷電した酸素原子は、求核反応メカニズムにより、カルボジイミド分子(EDC)上の電子不足ジイミド炭素原子を攻撃して、活性化されたO−アシルイソウレアを形成する(反応A)。その結果、HAカルボキシレート基の炭素原子は十分に電子不足となり、チラミン分子のアミン基上の非共有電子対による求核攻撃を受けやすくなる(反応B)。反応Aは、好ましくは、反応Aの間に活性エステルを形成し、それ故、反応を実質的に中性のpH(例えばpH=6.5)で行うことができる適当な触媒により触媒される。適当な触媒としては、より高いpHにおけるカルボジイミドの非生産的な加水分解を最小にするために、N−ヒドロキシスクシンイミド(NHS)が挙げられ、より劣るが好ましくは1−ヒドロキシベンゾトリアゾール(HOBt)又はN−ヒドロキシスルホスクシンイミド(NHSS)、より劣るが好ましくは活性エステルの形成によりカルボジイミド反応を促進するのに有効な別の適当な触媒又はこれらの組み合わせが挙げられる。より劣るが好ましくはEDC以外の他のカルボジイミド、例えば、1−シクロへキシル−3−[2−(4−メチルモルホリノ)エチル]カルボジイミド(CMC)、及びジシクロヘキシルカルボジイミド(DCC)を用いることができる。
上述の反応Aの結果はO−アシルイソウレアで置換されたヒアルロナンである。本質的に、EDC分子はHA分子からのglcA残基のカルボン酸基上に一時的に置換され、カルボン酸基の炭素原子をわずかに正に荷電させる。次に、チラミン分子の末端アミン基からの電子対が、上の段落で説明したように求核置換反応により炭素原子上に置換される(反応B)。反応Bの結果はチラミン置換HA分子(T−HA)及び副生成物であるアシルウレアである。ここでは、簡潔さと明瞭さのために1つの置換が示されているが、反応A及びBによりHA分子の周期的なglcA残基上で複数のチラミン置換が生ずることが理解されるであろう。
T−HAを形成した後、上記において説明し図解したように、複数のT−HA分子を過酸化物及びペルオキシダーゼ酵素により反応させて、T−HA分子を架橋させる。すなわち、HA分子に結合しているチラミン残基上のヒドロキシフェニル基を、ペルオキシダーゼの存在下で過酸化物(好ましくはH22)と反応させ、フェノール性水素原子を除去し、フェノール性酸素原子に附随した不対電子を有するチラミンフリーラジカルを得る。このフリーラジカル種は異性体化又は共鳴して、フェノール環上のオルト炭素原子に附随している不対電子との共鳴構造(又はフリーラジカル異性体)が得られる。この位置においては、不対電子は別のチラミンフリーラジカル上の同様な状況の不対電子と速やかに反応して、これらの間に共有結合が形成される。その結果、同一の又は異なるHA分子の異なるglcAsに結合している別々のチラミンフリーラジカル残基の間にフリーラジカル推進性の二量体化反応が生ずる。この二量体化された種は、更にエノール化して現在結合しているチラミン残基をもとに戻し、ジチラミン結合構造が生成する。本明細書に記載されているような複数の反応が隣接するチラミン残基の間に生じて、以下の架橋構造:
Figure 2008505716
を有するT−HA分子の架橋された高分子ネットワークが得られることが理解されるであろう。
架橋されたT−HAネットワークには、従来の方法で、例えば結合蛋白質を介してアグリカン分子が提供されて、HA鎖に結合したアグリカン分子を有する架橋T−HAネットワークを得ることができる。すなわち、正常な軟骨凝集体に見いだされるものと類似したネットワークを提供し、ジチラミン結合がネットワークを一緒に保持し、このことにより正常な軟骨におけるコラーゲン原線維ではなく、含有されるアグリカンネットワークを拘束することができる。
本発明から、本明細書に記載される架橋されたネットワークを生成するための高分子として他のグルコサミノグリカン(GAGs)、多糖類及びポリカルボン酸を用いることができることが理解されるであろう。例えば、HAの他に適当なGAGsは、コンドロイチン、硫酸コンドロイチン、デルマタン硫酸、ヘパラン硫酸及びヘパリンを含む。他の適当なポリカルボキシレートは、ベルシカン、アグリカン等のプロテオグリカン、及びアグリカン、ヒアルロナン及び連結蛋白質から構成される軟骨凝集体;ポリウロン酸、例えば、ポリペクチン酸(ポリガラクツロン酸)、ポリグルクロン酸、ペクチン(ポリガラクツロン酸メチルエステル)、コロミン酸(ポリ[2,8−(N−アセチルノイラミン酸)])、及びアルギン酸塩(ポリ[アルギン酸−co−グルクロン酸]);及び上述のポリカルボキシレートの定義に合致するアミノ酸(少なくとも2アミノ酸ユニットを有する)、例えば、ポリアスパラギン酸及びポリグルタミン酸が挙げられる。これらはすべて、当業者であれば、本明細書に開示されるカルボジイミド媒介性反応経路を用いて過度の実験なしに1又は複数のヒドロキシフェニル基で置換することができる。
上述したように、本明細書に記載される酵素触媒化学を用いて架橋することができる、2以上のヒドロキシフェニル基を既に有する天然のポリフェノール化合物を、化学反応により付加されたヒドロキシフェニル基を有していなければならない上述のポリカルボキシレート及びポリアミンの代わりに用いることができることも理解されるであろう。
他の好ましい実施態様においては、正常な軟骨を、模倣するか又は置き換えるために、チラミンで架橋された硫酸コンドロイチン分子(単独で又ははアグリカンの一部として与えられる)のネットワークが提供される。硫酸コンドロイチンは以下の点を除いてヒアルロナンと同一である:1)反復二糖構造はglcNAcではなくN−アセチルガラクトサミン(galNAc)を含み、これは4位の炭素(図3において丸で囲まれる)に結合したヒドロキシル基の位置のみが異なる;2)galNAc残基の4位及び/又は6位及び/又はglcA残基の2位のヒドロキシル基上のO−硫酸化の存在(図3);及び3)硫酸コンドロイチン鎖のサイズはヒアルロナンより小さく、20〜100個の反復二糖類単位を含む。(アグリカン分子は、各鎖の還元末端に位置する連結糖を介してコア蛋白質に結合している多数の(約100個の)硫酸コンドロイチン鎖から構成される)。この態様においては、隣接する(架橋した)硫酸コンドロイチン分子の負に荷電したSO4 2-基が、ネットワーク凝集体の圧縮耐性に寄与する主要な反発力を提供し、一方でチラミン架橋は硫酸コンドロイチンネットワークが破壊又は崩壊することを抑える。その結果は、正常な軟骨と同様に非転置性である(同時に水不浸透性である)が、正常な軟骨に見いだされる細胞外コラーゲン原線維マトリクス又はHA鎖を有しない硫酸コンドロイチンネットワークである。実際、硫酸コンドロイチン分子を直接架橋させることにより(上述した態様におけるようなそのコアHA分子ではなく)、隣接する硫酸コンドロイチン分子間の反発力を強くすることができ、正常な軟骨と比較してさらに強い液体流動耐性を得ることができる。このことにより、間質の液相が流動からさらに拘束されるため、正常な軟骨より強い負荷力吸収及び放散能力を得ることができる。硫酸コンドロイチン分子が直接架橋しているこの態様においては、ある種の軟骨変形条件、例えば、正常な軟骨において硫酸コンドロイチン分子が通常結合しているコア蛋白質がHA結合ドメイン(G1)と第2の球状のドメイン(G2)との間で切断され、従って硫酸コンドロイチンに富む領域が軟骨凝集体から拡散して外に出ることが可能となる条件を完全に回避することができる。この実施態様においては、硫酸コンドロイチン分子はアグリカン又は他のプロテオグリカン分子と結合せずに互いに直接架橋しているため、これらは正常な軟骨におけるように切断されるか又は外に運ばれることができない。
それにもかかわらず、チラミン架橋T−HAネットワーク(結合したアグリカン分子を有するHA主鎖を有し、この分子は硫酸コンドロイチン鎖を含む)はHAの利用可能性が高いため好ましい。これは、移植されたチラミン架橋T−HAネットワーク上に軟骨を生成する身体の正常な代謝経路を直接構築することができるため、本発明を用いる軟骨置換又は修復の場合に有益であろう。これは以下に説明される。
本発明の架橋ネットワークが実質的な有用性を有するであろう1つの特別の用途は、人工腎臓の製造である。腎臓は2つのメカニズムにより血液を濾過する:一つはサイズ排除であり、第2は電荷排除によるものである。MEMS装置は、人工腎臓装置中で用いるために設計されており、これは腎臓に特徴的なサイズ排除のみを有効に模倣することができる、精密に規定されたミクロ多孔を含む。健康な腎臓においては、電荷排除に関連する濾過は、他の腎臓関連機能に重要な2つの異なるタイプの細胞を分離する基底膜に存在するヘパラン硫酸プロテオグリカンの結果である。MEMS工学による人工腎臓においてこの荷電バリアを模倣するためには、ハイドロゲルを、本明細書に記載されるジヒドロキシフェニル(ジチラミン)結合により架橋されているヘパラン硫酸又はヘパリンから構成されるように製造し、これをMEMSデバイスの孔の中に入れることができる。次に、このヘパリン/ヘパラン硫酸ハイドロゲルを、本明細書に記載される2つのヒアルロナン誘導ハイドロゲル(例えば、上述したT−HA)の間にサンドイッチし、正常に機能している腎臓に通常見いだされるそれぞれの細胞タイプの1つを含ませることができる。中心のヘパリン/ヘパラン硫酸ハイドロゲルはデバイスの荷電排除特性を与える。外側の2つのヒアルロナンハイドロゲル層は、免疫系及び通常の細胞及び分子の残骸による付着物からの保護を与える。濾過バリアの反対側に2つの細胞タイプを含めることにより、正常な生理学的な方向で細胞成分を提供することができる。
他の有望な用途においては、本明細書に記載されたハイドロゲルは、人工膵臓の開発に応用することができる。人工膵臓の開発における問題点は、検出器電極のインビボでの付着物のため、MEMS工学によるグルコースセンサーの半減期が短いことである。これらの検出器の表面を本明細書に記載されるヒアルロナンハイドロゲル(例えばT−HA)でコーティングすると、センサーがこれを検出するよう設計されている低分子量のグルコース分子の拡散を許容し、一方、免疫系及び通常の細胞及び分子の残骸による付着物からの保護を与えることができる。
要約すると、上の記載から、ハイドロゲルを形成するための足場材料として有用な高分子には、限定されないが、ポリカルボキシレート(遊離カルボキシレート基を含む)、ポリアミン(遊離第1アミン基を含む)、ポリフェノール(遊離ヒドロキシフェニル基を含む)およびこれらのコポリマーが含まれることが明らかであろう。これらの例は上に記載されている。ポリフェノールを用いる場合には、ポリフェノールは多数の又は周期的なヒドロキシフェニル基を既に含んでいるため、上述の本発明のネットワークを製造する第1工程を省略することができる。それ以外の場合には、ポリカルボキシレート及びポリアミンの両方は、好ましくは上述したカルボジイミド反応経路により、その長さ方向に沿って付加又は置換されたヒドロキシフェニル基を有しなくてはならない。ネットワークを製造する第2工程は、架橋された構造を提供するために、隣接する高分子(ポリカルボキシレート、ポリアミン又はポリフェノールのいずれか)に結合している2つのヒドロキシフェニル基の間で酵素により推進される二量体化反応を行うことである。この工程は、過酸化物試薬(好ましくは過酸化水素)を用いて、適当な酵素(好ましくはHRP)の存在下で、代謝条件の温度及びpHで行う。
好ましいジチラミン架橋T−HAネットワークの場合には、第1工程において高分子ヒアルロナン(HA)上のカルボキシル基をチラミンで置換し、反応性ヒドロキシフェニル基をHA分子中に導入する。このチラミン置換反応は、好ましくは、カルボジイミド、1−エチル−3−(3−ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド(EDC)により媒介され、HA上のチラミン置換の程度は、反応混合物中で用いられるチラミン、EDC及びHAのモル比及び絶対濃度により制御される。次に、過剰な試薬、例えば、利用されなかったチラミン及びEDCを透析により除去することにより、高分子量のチラミン置換HA(T−HA)を単離し回収する。各T−HA調製物中のチラミン置換の割合は、以下を測定することにより容易に計算することができる:1)調製物中に存在するチラミンの濃度、これはチラミンの275nmにおける一意的なUV吸収特性に基づいて分光光学的に定量する(以下の実施例2を参照);及び2)標準的なヘキスロン酸アッセイにより分光光学的に定量することができるHA調製物中の総カルボキシル基の濃度。この手法によって、わずか4〜6%のチラミン置換割合を含むT−HA調製物を実験室で日常的に合成した。このレベルのチラミン置換では、HA分子のほとんど(好ましくは少なくとも60、70、80、90、又は95パーセント)は化学的に変更されないまま残り、従って生物学的に機能性である。このプロセスの第2工程において用いられるT−HAの濃度を単に変化させることにより、T−HAのこの処方(すなわち4−6%チラミン置換)から、種々の物理学的特性を有する多様な生体材料を製造することができる。
架橋反応においては、隣接するHA分子上の2つのチラミン付加物の間に共有結合を形成して単一のジチラミン架橋を生成させることを触媒する酵素(ペルオキシダーゼ)により推進される反応によって、T−HAの溶液を架橋させてハイドロゲルを形成する。これらのジチラミン架橋がHA分子1つあたり多数、例えば数百個形成されるため、安定な3次元の足場もしくはハイドロゲルが形成される。ペルオキシダーゼ酵素の実際の基質は−HAではなく過酸化物であるため、架橋反応を開始させるためには、非常に希薄な過酸化物(好ましくはH22)を加えることが必要である。ペルオキシダーゼ酵素の過酸化物に対する反応の生成物はフリーラジカルであり、これはチラミンのヒドロキシフェニル環により優先的に捕獲されて、その結果ジチラミン架橋が形成される。ジチラミンにより連結された構造は、青色蛍光を生じ(実施例2を参照)、その特性をハイドロゲルのイメージング及びハイドロゲル中の架橋の程度の定量の両方に用いる。架橋反応は酵素により推進されるので、ハイドロゲルは生理学的条件下で形成することができ、従って、ハイドロゲルは含まれる細胞又は生物学的に活性な薬剤の存在下で形成することができ、又は細胞及び組織の生存性を維持しながら生きている組織に直接隣接させて形成することができる。
得られるハイドロゲルは、任意に透明であってもよく、初期T−HA濃度に依存して広範な範囲の物理学的特性を有する。例えば、6.25、12.5、25、50及び100mg/mlのT−HAのT−HA溶液から形成されるハイドロゲルは、それぞれ、ゼリー、ゼラチン、パン生地、弾力性ゴム様の組成物(ゴムボールと類似)、及び関節と同様の材料の物理学的特性(剛性、レオロジーおよびテクスチャー)を有することが実験的に示されている(実施例3を参照)。これらの材料は、広範な範囲の臨床設定、例えば、整形外科的組織(すなわち、軟骨、骨、腱、半月、椎間円板等)及び非整形外科的組織(腎臓、肝臓、膵臓等)の両方の組織工学、遺伝子及び薬剤のデリバリー、インビボ移植用の非生物学的デバイスのコーティング(すなわち、グルコースセンサー、人工心臓等)、創傷修復、バイオセンサー設計、及び声帯再構築において潜在的な用途を有する。
本明細書に記載されるハイドロゲルの有利な特徴には以下のものが含まれる:1)特性決定と質の管理が容易である;2)現存する組織マトリクスと一体化することができる;3)新たに形成されるマトリクスに直接取り込まれることができる;4)細胞及び生物活性因子を直接含むことができる;5)生体適合性を維持することができる;6)生体吸収を制御することができる;7)複雑な解剖学的形状に容易に成形することができる(以下の実施例4を参照);および8)天然の組織、例えば関節軟骨の機械的特性を示すことができる。
軟骨修復のための、最新の生物学的基礎を有する外科手術は、自家軟骨細胞移植、穿孔、摩耗軟骨形成術、微小破壊、及びモザイク軟骨形成術を含む。これらの全ての処置は、限局性の関節軟骨の損傷のみ治療し、重症の変形性関節症及びリウマチ様関節炎において見られるような、関節面が露出した軟骨を治療することはできない。また、軟骨の欠損を充填するために、患者から集めた軟骨組織プラグ又は膨張した軟骨細胞のいずれかを用いる。これらの組織又は軟骨細胞は、全く新規の材料、例えば新たに合成されたガラス質の軟骨(既存の軟骨マトリックスに統合されて正常な軟骨のバイオメカニカル特性を有している)を合成することによって欠損を充填すると期待される。しかし、このような処置は全て、真の硝子軟骨ではなく修復組織(繊維軟骨)の形成を推進して、関節の変形性関節症にかかりやすくさせると考えられる繊維軟骨への更なる力学的損傷を与える。更に、修復材料としての内因性軟骨の利用可能性は極めて制限されており、その獲得には患者にそれ自体のリスク及び病的状態が伴う。前述の議論から明らかなように、そして以下の実施例に基づいて更に明らかになるように、本明細書に開示される、合成高分子ネットワーク及び得られるハイドロゲルは、軟骨変性疾患を患っている患者における有望な新規な治療のための実用的な材料である。この材料は、市販されている生体外の試薬から完全に合成され、したがって、従来は内因性材料を集めるために必要された患者の病的状態を伴わない。更に、ハイドロゲル(特にT−HA)は、それらが正常かつ健康な軟骨の挙動を模倣するように合成されているので、軟骨変性疾患を患っている患者のための直接介入として、軟骨が露出した関節における効果的な軟骨代替物として移植することができる。
移植可能なデノボ合成軟骨様細胞外基質(ECM)を生成するために、合成又は天然材料もしくは軟骨細胞に頼るよりもむしろ、本発明者らは、最初に、軟骨にその形態及び構造上の特徴を与える分子を精製することに焦点を合わせ、次いで、生分解に耐性のある材料を製造するために、これらの分子を最小限に修飾した。高分子(例えば、T−HA)ネットワークポスト移植(例えば、軟骨細胞は、前述したように、ハイドロゲル材料中に埋め込まれ得る)によって提供される合成ECMを維持するために軟骨細胞にはなお依存するが、デノボ合成はこれらに依存しない。そうではなく、本明細書に開示される合成材料の基本的な構造は、その生存を確実にするため、ジヒドロキシフェニル、好ましくはジチラミン結合化学による架橋で修飾される。更なる開発及び実験によって、以下の実施例に示されるように、ハイドロゲルを、試薬濃度及び架橋条件の適切かつ賢明な選択によって調節することができる豊富な粘弾性及び他の物理的性質を有する材料から製造して合成の移植可能な代替物を与えることが望ましいかまたは望ましいかも知れない他の天然の組織の特性に近づけるか模倣できることが発見された。
以下の実施例に示されるように、本発明のハイドロゲルは、多くの合成組織移植又は増強ならびに他の臨床応用に適している、広い様々な性質を有するように製造することができる。既に記載したように、本発明の材料は、傷害又は疾病のいずれかの結果として生成された軟骨の欠損を修復するために用いることができる。そのように修復され得る傷害による欠損は、運動又は事故に関連しており、表層の軟骨層のみに関係しているかもしれず、又は、潜在的な軟骨下骨を含んでいるかもしれない。本明細書に記載される組成物を用いて修復することのできる疾患による欠損は、変性性関節症及びリウマチ様関節炎から生じるものを含む。傷害からであろうが、疾患からであろうが、このような欠損は、成熟又は成長軟骨板のいずれかであってもよい。合成成長軟骨板のためのハイドロゲルの製剤は、増殖の間に生物材料の生物学的吸収の制御が可能となるように、置換されていない足場材料を含むことが必要である。
損傷された、又は関節炎患者の関節の治療のための他の可能な臨床的応用は、関節液の置換である。従来は粘度補充(viscosupplementation)療法と称され、これは一般に架橋していないHAの溶液を、損傷された、又は関節炎患者の関節に注入し、HAが1〜2日間で関節から消えるとはいえ、数週間、痛みの軽減の維持を供給する。本明細書に開示されるT−HAハイドロゲルの使用は、架橋されていないHAと対比し、より長いインビボにおける持続のためにより大きな利点を供給するはずである。
本明細書に記載されたハイドロゲルが有用であろう他の領域は、軟骨ならびに頭頸部の軟部組織の修復、再構築又は増強である。軟部組織増強及び頭頸部の再構築のための生体材料の入手可能性には、可塑的及び再生手術の領域において基礎的な課題を残している。多くの研究及び投資により、適切な生物学的適合性及び寿命を有する材料の開発が行われた。この研究の成果は有望ではなかった。現在提案されている材料は、免疫応答動物中に配置されると、骨組みが吸収されるにつれて構造上の完全性が不足することが示された。更に、従来の合成材料は優れた寿命を提供するが、それらは特定の不可避な落とし穴を示す。例えば、シリコーンは、安全で長期の免疫に関連する効果については問題をはらんでいる。合成ポリマーPTFE(gortex)及びシラスティックは、より少ない組織反応性を提供するが、組織統合を提供せず、異物感染及び追放の長期危険性を示す。本出願に開示される材料は、頭頸部の軟部組織欠損症の増強又は修復のための合成軟部組織足場材料を製造するのに有用であろう。特に、非炎症性、非免疫原性であり、適当な粘弾性の程度を有するように調製された、架橋されたチラミン置換ヒアルロナン(T−HA)ハイドロゲル(後述の実施例参照)は、効果的な移植可能な足場材料として用いることができる。更に、細胞の生存力を維持することができるという好ましい酵素駆動型架橋化学のユニークな能力により、欠損部位でインサイチューに行われることのできる形成の間、軟骨細胞等の細胞がハイドロゲル中に直接的に取り込まれることを可能にする。従って、特定の欠損部位に適合させるために、解剖学的に適合性のある移植片形状を彫刻するか、又は鋳造する必要性はなくなる。
本明細書に記載されるジチラミン架橋T−HAネットワークは、人工もしくは合成の軟骨を製造するのに特に有用である。例えば、本発明のハイドロゲル材料は、外傷又は先天性異常による二次的な軟骨及び骨の欠損を修復するための頭頸部の再構築手段において頻繁に用いられる軟骨移植片を製造するための、新規な生体適合性及び生体協力的な材料として用いることができる。耳に特異的な用途には、耳形成術及び耳介再構成が含まれ、これらは、外傷、腫瘍(すなわち、扁平上皮癌、基底細胞癌、及びメラノーマ)、及び先天性欠損、例えば小耳症による軟骨の欠損を修復するためにしばしば行われる。鼻に特異的な用途には、鼻及び鼻中隔の美容外科及び再構成方法が含まれる。背隆起増大、先端、シールドおよびスプレッダー移植はしばしば美容鼻形成術において用いられる。外傷、腫瘍、自己免疫疾患、例えば、ヴェーゲナー肉芽腫症の後、又は先天性欠損の鼻再構成においては、修復のための軟骨が必要である。中隔穿孔は管理が困難であり、しばしば治療に失敗する。これらの用途には軟骨移植が理想的であるが、自己移植又はドナーの軟骨はしばしば利用できない。咽喉に特異的な用途には、喉頭気管再構成が含まれ、これは小児では通常肋軟骨を回収することを必要としているが、これは病原性でないわけではない。耳介軟骨および鼻中隔軟骨はしばしばこの目的には不適当である。本明細書に開示されるハイドロゲルから製造された合成軟骨材料は、以下の実施例から明らかなように、試薬の濃度、置換及び架橋速度等のハイドロゲル合成のパラメータの調整に基づいて、前述の用途に適するように合成することができる。喉頭気管再構成は、通常は声門下あるいは気管の狭窄による軌道の狭小化について行われる。原因は、外傷(すなわち、挿管外傷、又は気管切開)又は突発性であり得る。他の可能性は、多くの脳顔面頭蓋用途に加えて、顎及び頬の拡大、及び下眼瞼の外反修復における使用を含む。これらの用途は関節軟骨の厳密な機械的特性を有する軟骨を必要としないことに注意すべきである。細胞集団または生物学的に活性な薬剤を含ませることも望ましい。
本明細書に開示されるハイドロゲル材料は、また鼻腔の修復及び狭小化に用いることができ、通常はその後積極的に外科的切除を行って感染症及び外被に至る鼻腔中の液体を慢性的にためることを予防する。他の有望な用途は、例えば、心欠損の手術等の外科的処置の間の挿管による喉頭気管の損傷の後での子供及び成人の両方における喉頭気管の再構成である。気管リングの前部及び後部位置における損傷された気管軟骨は、例えば、実施例4で後述する方法によって、細長くブロックされた“T”、又は逆カヌーの形状に形成された、予め形成されたハイドロゲルで置換され得る。本明細書で開示されるハイドロゲルは、また、以下のように用いることができる。
・輪状軟骨代替物を提供する。
・癌に対する頸部切除後に頸動脈を保護する。−ハイドロゲルは、皮膚バリアの損失に対する頸動脈についての保護バリアとして頸動脈及び皮膚の間に位置することができる。
・切除された神経の神経細胞の再増殖の間の保護コーティングとして−線維組織は神経細胞の再増殖よりも早く形成されてしまうので神経細胞再増殖を妨害する。ハイドロゲルの予め形成された管中への神経終末の配置は、再増殖の部位からの線維組織の形成を排除することができる。
・通常耳感染の結果として、耳の切除に続く乳様突起腔の再構成のため。
・内耳の再構成のため;特に、きぬた骨/あぶみ骨置換のための人工シラスティック移植片に代えて。ハイドロゲルは、これらのグラフのトップの部分として、天然の軟骨を置換するために、また、ハイドロゲルグラフ構築物をこれらのグラフと完全に置換するために用いることができる。
・顎及び頬の拡大を含む軟部組織欠損の修復のため、及びより下眼瞼の眼瞼外反修復における使用、更に多くの頭蓋顔面の用途。
・頭頸部以外の部位における美容及び再構成の目的のため、例えば、豊胸のための胸部移植源としての使用。
・創傷封止剤として、例えば、胸部又は頸部におけるリンパ節除去(がんによる等)後の空間の充填、リンパ管を塞いで感染及び他の合併症を導くかもしれない切除部位への制御されていない体液排出を軽減する。
前述したような合成軟骨組織に加え、本明細書で開示される高分子ネットワーク材料及びそれらから製造されるハイドロゲルは、また、軟骨の人工的形態の合成について前述したのと同様な戦略及び方法を用いて、骨、腱、靱帯、半月、椎間円板を含むが、これらに限定されない、他の合成整形外科的組織を製造するための他の組織工学用途において用いることができる。以下の実施例において証明されるように、材料は、また、軟骨の人工的形態について前述したのと同じ戦略及び方法を用いて、声帯、硝子体、心臓弁、肝臓、膵臓等を含むが限定的でない非成形外科的組織を製造するために用いることができる。
本明細書に開示されるハイドロゲル材料が有望な有用性を示す他の領域は、腹部又は胃腸組織における瘢痕組織又は狭窄の形成の治療又は予防を必要とする、特定の消化管の用途である。既に、臨床試験及びFDAの承認の種々の段階にある多くの製品が存在し、これらは一般に「ハイドロゲル」と称され、瘢痕組織及び/又は狭窄の形成の治療又は予防において有用であるように設計又は意図される。本発明のハイドロゲルは、本明細書に開示されている他のハイドロゲルよりも、シリコン又は他の合成ポリマー等の外因性の材料に対して、非免疫原性の材料から完全に製造することができる点および、それらは患者の中で、インサイチューで架橋され得るという点で優れている。本明細書で開示されるハイドロゲル組成物は、ハイドロゲルが以下を含むように用いられるか又は用いることを意図していることが既に知られているように、同じ用途において用いることができる。
・消化管の狭窄又は瘢痕の治療のため。治療は、瘢痕を予防するために予測される狭窄の部位、又は再発からの狭窄を予防するための狭小化した消化管を拡張する治療後に既存の狭窄の部位へのハイドロゲル材料の注射を必要とする。
・食道の狭窄の治療のため。食道の狭窄は、逆流性食道炎(GERD)の一般的な合併症である。GERDは、食道内に逆流し、食道上皮細胞を損傷する、酸、胆汁及び他の有害な胃内容物によって引き起こされる。GERD患者の約7〜23%は、食道狭窄症、又は食道の繊維性瘢痕化を発現する。食道の瘢痕化は、バレット食道を治療するために用いられる切除療法によっても引き起こされる。このような切除療法の主要な合併症は、切除損傷が食道壁中に非常に深くにまで広がり、食道瘢痕又は狭窄をもたらす。食道狭窄症は、正常な嚥下を妨げ、患者の病的状態の主要な原因である。本明細書に開示されるハイドロゲル材料は、GERD、バレット食道、及び食道切除療法から発生する食道狭窄症の治療及び予防に用いることができる。
・クローン病の治療のため。クローン病は、管腔を遮蔽するか狭くし、正常な管腔の機能を妨げる狭窄又は瘢痕を引き起こす。本発明のハイドロゲルは、このような狭窄の治療又は予防に有用である。
・一次硬化性胆管炎(PSC)の治療のため。PSCは、肝臓の胆管の奇病である。胆管は、肝臓中で枝分かれしたネットワークを形成し、共通の胆管に混合される2つの主要な枝分かれによって肝臓を出て行き、肝臓及び胆嚢から十二指腸に胆汁を排出する。胆管は、直径が非常に小さく、最も大きい最も遠位で通常2mmまでしか達せず、通常、肝臓から十二指腸に毎日数リットルの胆汁を排出する。これらの胆管の遮蔽は、多くの毒物、特に、ヘモグロビンの破壊生成物を身体に蓄積する黄疸として知られる重篤な健康状態を引き起こし得る。PSCは、肝臓中、及び肝臓と小腸とを連結する上述の肝外の胆管中の瘢痕又は狭窄疾患である。PSCの胆管狭窄は、本発明のハイドロゲルを用いて治療又は予防し得る。
・慢性膵炎の治療のため。慢性膵炎は、膵管の瘢痕又は狭窄によって悪化し得る、膵臓の慢性炎症性疾患である。これらの狭窄は通常は、管のシステム、又は排水管を通じて膵臓から小腸へ排出されなければならない、膵液の排出を遮断する。膵液は、多くの消化酵素、及び他の正常な消化及び養分吸収にとって重要な成分を含んでいる。慢性膵炎による膵管の遮断又は狭小化は、膵臓が自己消化し、命にかかわる腹部感染及び/又は膿瘍を形成するという重篤な合併症を引き起こし得る。慢性膵炎の膵臓狭窄は、本発明のハイドロゲルを用いて治療又は予防し得る。
・胆石に誘導される胆管及び膵管狭窄の治療のため。胆石は非常に一般的な疾患であり、その重要な合併症は、胆管及び膵管狭窄の形成であり、それは、ハイドロゲルを用いて治療又は予防し得る。
・虚血性腸疾患の治療のため。腸は、血液の供給が損なわれた時に、瘢痕又は狭窄を形成する傾向にある。損なわれた血流は虚血と呼ばれ、循環器病、アテローム性動脈硬化症、低血圧、血液量不足症、腎臓又は肝臓病誘発性低アルブミン血症、血管炎、薬物誘発性疾患等を含む、多くの病理によって引き起こされ得る。これらの原因の全ての末期には、腸管を遮断し、その正常な機能を妨げる、腸の狭窄を引き起こす。本発明のハイドロゲルは、腸管狭窄を治療又は予防するために用い得る。
・放射線誘発性腸狭窄の治療のため。癌の放射線療法は、多くの疾患と関連し、中でも重要なのは、腸狭窄形成である。本発明のハイドロゲルは、放射線誘発性腸狭窄を治療又は予防するために用い得る。
合成組織を製造することに加え、本明細書に開示されるハイドロゲルは、また、手術又は別のインビボ移植において用いられる非生物学的構造又は装置、例えば、手術機材、又はセラミック又は金属の人工器官のコーティングを提供するために用いることができる。このようなコーティングは、非生物学的装置材料と生きている組織との間にバリアを提供する。非生物学的装置のためのバリアとしてのハイドロゲルの役割は、以下を含むがこれらに限定されない。1)装置表面でのタンパク質の付着又は血栓症を誘導する高分子及び/又は細胞の、非生物学的装置の表面上への吸着の防止;2)他の非生物学的適合性材料で製造された装置のための非毒性、非炎症性、非免疫原性、生物学的適合性表面の提示;3)グルコースセンサー用グルコースの拡散、圧力センサー用機械力の伝達、人工血管又はステントの内皮化(endothelization)等の装置機能との適合性;4)MEMSをベースとする人工ネフロン中の既存のサイズバリアに対して電荷バリアを提供する等の、装置機能の向上;5)水性の生理学的に適合性の環境中に取り込まれた生細胞集団の非生物学的装置の取り込み;6)薬剤、又は成長因子、抗ウイルス剤、抗生物質又は装置の血管新生、上皮化又は内皮化を助成するために設計された接着分子等の生理活性因子の封入。
前記記載に基づき、本発明のハイドロゲルは、糖尿病の管理のための移植可能なグルコースセンサー等の種々の移植可能な装置のための非アレルギー性コーティングを提供するために用いられる。更に、ハイドロゲルは、MEMSをベースとする人工ネフロンの開発のための電荷バリア; MEMSをベースとする人工ネフロンデザイン中に有足細胞等の埋め込み腎臓細胞が取り込まれ得る水性の生理学的に適合性の環境;及び種々の目的(薬物送達、機械的センシング及び生物検出システムを含むが、これらに限定されない)のために設計された移植可能なMEMS装置のコーティングを提供するために用いられる。
開示されるハイドロゲル、及び特にヒアルロナンをベースとするハイドロゲルは、また、シリコンをベースとする装置に、例えば、ヒドロキシフェニルでコーティングされた表面化学を提供するためのチラミンの一級アミンのシリコン表面への第一の共有結合によって、共有結合する。これは、シリコン表面へのフリーのアミンによって修飾されたDNAを結合するために用いられるのと同じ化学を用いることができる。ついで、HAをベースとするハイドロゲルは、上述した好ましい架橋モードを用いた同一のペルオキシダーゼ促進化学によってヒドロキシフェニルコーティングされた表面に共有結合される。
ハイドロゲルは、また、カテーテル、ステント及び人工血管等の非生物学的心血管をコーティングするために用いることができる。これらは、生物学的不適合のために、慣用的には用いられていない材料から製造される装置を含み、それらは、現在使用中のそれらの装置に優れたデザインの特性を持っている。生理活性因子は、ハイドロゲル中に取り込まれてハイドロゲルの、従って得られた移植装置の内皮化又は上皮化を促進できるであろう。
上述した特定の有望な用途は、治療および管理のための移植可能な人工グルコースセンサーの設計及び完成にある。効果的な血糖コントロールは、現在血液試料を得るためのピン痛覚(又は“指穿刺”)を必要とする、血液グルコース濃度の頻繁な測定を必要とする。信頼でき、費用効果がある、血液グルコースの測定方法、及び最も重篤な命にかかわる現象の原因である、低血糖症の予防に非常に大きな臨床の興味がある。技術的な観点から、マイクロセンサーは、多種多様の用途において過去10年間にわたって成功した。生物学的適合性の長期移植可能なグルコースセンサー開発に成功したことは、糖尿病の個人によるブドウ糖濃度のルーチン・モニタリングに有意に影響を与えて、バイオ人工膵臓の更なる開発において、主な有力な役割を果たす。
心血管手術の際に用いられるセンサーのデザインは、Clark LC, Lyons C, 「心血管の手術における連続モニタリングのための電極システム」 Annals of New York Academy of Science, 102:29-45 (1962)に公開されている。次いで、効果は自然のグルコース/インスリン制御システムに擬態することができる移植可能な装置を開発して、試験する方向を目指した。バイオ人工膵臓の一部として役立つ明らかな利点の他に、このようなシステムは、遠隔測定法ハードウェアに連結することができ、それによって患者に低血糖症の事前警告をすることができる。
移植可能なグルコースセンサーに関する従来の研究は、一般に2つのアプローチのうちの1つから生じている。第一は、センサーを、大静脈又は頸動脈等の血管に入れることを含む。第二は、皮下にセンサーを配置することを含む。これらのセンサーは、微小透析プローブを含み、又は更に一般には、電流測定酵素をベースとするトランスデューサを含む。心血管センサーの長期使用に対する血栓症及び感染の血行性拡張のリスクが緩和すると思われている。血液及び皮下のグルコース濃度との正確な関係がさらに調査されると共に、最近の研究により質量転送モデリング方法が皮下のデータに基づく血液グルコース濃度の評価を有意に改良することができることを示唆する。さらに、皮下のセンサーと関連する重要な利点がある:臨床的安全性、挿入及び除去の容易さ、これらのセンサーを遠隔測定法システムに連結することの容易さおよびコスト。グルコースセンサーの皮下への設置の効果により、それが直接血液を接触させる場合よりは、はるかに長いセンサーの寿命につながるという実質的な証拠がある。
しかし、臨床使用のためのいかなる連続グルコースセンサーの設計における主要な課題は、ヒトの組織に曝された時に電極が汚れるか、又は酵素活性のゆるやかな損失により、通常引き起こされる、センサーの長期ドリフトにある。グルコース又は過酸化水素バリアとして作用する種々の膜の導入は、一般に、センサー性能を向上させるが、それは長期安定性に結果としてならなかった。この目的のための大々的に発表された、Nafionは身体に移植される時急速に悪化する。皮下の組織への移植組織の導入は、急性及び慢性の炎症性反応を誘発する。一緒に、これらは最終的に異物カプセル(FBC)を有する移植片を包囲する新規な組織が複雑に組織化されて成長することとなる。短期的には、炎症性細胞がグルコースを代謝し、それによってグルコース測定値において人為現象が起こることがありそうである。皮下センサーの長期使用に関する課題を議論する場合、専門家は、インビボにおける減弱した応答が、グルコースの大量輸送を妨げるセンサー周辺のタンパク質又は細胞性コーティングによるものであると主張する。センサーのための適切な被覆膜が、干渉物質を排除しタンパク質及び細胞でのコーティング、又はカプセル化を制御するために提供される場合、インビトロにおける優れた性能がインビボにおいて一致することができる。本明細書に開示される、HAをベースとするハイドロゲルの、FBCを最小化し、センサー膜から離して位置するように維持するためのコーティング剤としての使用によって、有用な溶液を示すはずである。
目的は、センサー膜上のHA−コーティングを用いている移植可能なグルコースセンサーへの組織応答を制御することである。HAをベースとするハイドロゲルの鞘は、タンパク質及び細胞がグルコース及び酸素のセンサー内への拡散を妨げないようにすることによって、センサー膜「余裕」を与える。従来の経験は、HA及びその誘導剤が極めて生物学的適合性で、その結果として宿主組織応答を最小化する(例えば、目移植手術)ことを必要とする状態において使われることが示されている。したがって、HAをベースとするハイドロゲルをセンサー膜周辺で成型すると、センサー性能は長期的に強化されるはずである。これは、この種のセンサーが、改良された血液グルコースモニタリングおよび最終的には糖尿病患者集団にとっての改良された生活の質をもたらすという長期的な展望をもって、移植可能なブドウ糖センサーを開発することに関係するためである。更に、本明細書において開示されるHAをベースとするハイドロゲルの新規な架橋した構造は、皮下に移植されたグルコース糖センサーに重要な長命を提供するこの種のコーティングの長期の維持を確実にする。
更なる有望な用途は、末期腎臓疾患(ESRD)の治療のためのバイオ人工腎臓の製造においてである。現在のESRD患者のための唯一の治療選択肢は、腎臓置換療法(透析の全ての形態)及び移植である。移植は、移植用提供臓器の不足によって制限されており、また高価な免疫抑制剤の必要性及び生涯にわたる使用のため複雑である。または、透析がESRD患者の人生を長くすることができるにもかかわらず、透析上の平均寿命は50%減っており、残留する生活の質は決して理想的でない。繰り返された脈管のアクセス、及び患者の血液の取扱いは、頻繁で時々命に関わる感染を導く。
腎臓の機能単位は、ネフロンである。ネフロンはフィルタ構造、糸球体で始まり、それは上皮細胞(有足細胞)に囲まれていて、間充織細胞(糸球体間質)で支えられる毛細管の束である。糸球体は直接ネフロンの細管に接続しており、長い管が分極化する細胞の単一の層上皮によって内側を覆われている。細管細胞は、体液、電解質及び栄養分を、濾液から(細胞内の輸送及び細胞周囲の移動の両方によって)、濾液を濃縮して尿中に排出するように機能する。全てのネフロンは捕集システム、上皮線管のネットワークに接続し、それは、追加的の再吸収特性をいくらか有するが、主に膀胱に尿を向けるように機能する。ネフロンの濾過体単位、糸球体は、毛管の細動脈壁の内皮細胞、毛細管の外側を囲んでいる有足細胞及び2つの細胞タイプにはさまれる糸球基底膜(GBM)からなる。糸球毛細管は体のある種の最も小さい血管床であり、糸球内皮細胞は窓状の小孔のあることによってそれらの機能のために特殊化されていて濾過バリアに血漿の直接の接触ができる。これらの窓状の小孔のある内皮が濾過水に白血球および非常に大きい分子が移動することを制限するにもかかわらず、濾過バリアの選択透過は有足細胞及びGBMによって定義される。
GBMは、プロトタイプの分子、タイプIVコラーゲン(α3、α4、α5ヘテロ三量体)、ラミニン(ラミニン−11、α5、β2、γl ヘテロ三量体)、HSプロテオグリカン(パーレカン及びアグリン)及びニドゲン(ニドゲン−1及び−2)、及びコラーゲンV、フィブロネクチン、CSプロテオグリカン(バマカン)及び小さいロイシンの豊富ないくつかのプロテオグリカン(ビグリカン、デコリン、ポドカン)を含む、いくつかの追加のECM分子からなる古典的な基底膜構造である。GBMは、内皮細胞及び有足細胞によって合成される。各細胞は、唯一の、2倍の厚みの基底膜を形成するための発現の間、その後溶ける完全な基底膜を生産する。GBMは、適当な微小環境及び基層を、有足細胞及び内皮細胞に提供する際の重要な機能を有する。通常のGBMなしで、両方のタイプの細胞、それらの通常の形態及び細胞分化特性を失い、その後糸球体機能を無効にする。また、GBMは、水の動きを制限することによる濾過法で機能し、サイズ及び電荷選択性に対するいくらかの貢献を有し、選択透過性の大部分は、有足細胞によって決定される。
有足細胞は、非常に特殊化された上皮細胞であって、糸球体中でユニークな機能を有する。有足細胞は、毛細管周辺で巻きつく膜状仮足を延ばし、他の有足細胞を有する非常に微細な嵌合に分岐する。横断面で、これらの互いに嵌合された細胞拡張は足突起(FP)と呼ばれており、濾過が起こるFPsの間のすき間はスリットと呼ばれている。有足細胞は、スリットにかかる高分子構造、隣接する2つのFPsの間の橋を形成するスリット横隔膜(SD)を合成する。SDの分子組成及び構造は完全には理解されていない。SDは、追加の有足細胞特異的タンパク質(最も有名なものはネフリンである)を含んだ、修飾された付着性接合部であるように思われる。ネフリンは、1つのFPの原形質膜から伸びて、隣接するFPから伸びた他のネフリン分子とホモ二量体の相互作用を形成し、電子顕微鏡検査法による横断面を観察した時に、ジッパーのような構造を形成する。SD及びネフリンが、選択的透過性バリアとしてどのように機能するかは知られていないが、現在は研究の非常に活性な領域である。
生物学的微小電気機械システム(バイオMEMS)は、次世代バイオ人工腎臓の開発のための探査の有望な領域である。薬物送達システム、イムノアイソレータ、及び毛細管ネットワーク、ならびに細胞分化及び成長の正確な制御が、バイオMEMSに関して示されてきた。腎臓は、慢性の変換療法が受け入れられた最初の器官であり、ESRDの治療のためのバイオMEMSツールキットの応用は、最終生成物における技術及び進化の両方において進化している。1〜100nmのオーダーにおける特徴サイズを有する構造が、確実に多量に生産することができるように、シリコンマイクロマシン技術が進化してきた。これらの寸法は、糸球体スリット横隔膜についてのオーダーにある。標準のシリコンバルク及び表面微小機械技術により、微小流体制御、細胞及び細胞外マトリクスタンパク質、及び細胞の免疫分離のパターン化された蒸着が可能となる設備は、人工臓器の組織工学となる。ナノスケールの半導体濾過膜の技術は、非依存的制御、及びバイオ人工糸球体の組織工学、及び最終的な完全なネフロンの単位を導く可能性を有する、電荷のサイズ選択性の研究を可能にすることができる。
バイオ人工腎臓の小型化の第1の構成要素のうちの1つは、バイオMEMS構成要素からのナノ加工された血液濾過膜(NHM)の開発である。NHMは、バイオ人工腎臓のネフロン様装置における糸球体の血液濾過機能を供給することを意図する。NHMアレイは、ほぼ糸球体スリット横隔膜の寸法のスリット孔を含んで、標準のシリコン・ミクロ機械加工技術を使用して製造することができ、糸球体基底膜のそれらと同様のそのサイズ・バリア特性を証明するために実験を行った。この特許出願に開示されている化学及びハイドロゲルは、糸球体機能のために必要であるHMNの濾過特性に、2つの追加的かつ必要な構成要素を提供するために用いることができる。第一は、糸球体基底膜のそれらと同様の電荷バリア成分である。これは、ヘパラン硫酸(HS)をベースとするハイドロゲルの層の応用によって提供される。HSは、HA及びCSと同様のタイプのGAGである。第二の追加は、スリット横隔膜を通じた糸球体の大部分の濾過機能の原因である有足細胞の封入である。有足細胞は、生体適合性の層を供給する役割を果すHAをベースとするハイドロゲル層中のHSをベースとするハイドロゲル層の表面に適用される。HS層の存在は、適当なマトリックス-細胞相互作用を促進し、適当な基底膜の蒸着を刺激するはずである。
チラミンをベースとするヒアルロナンハイドロゲルを含むが、これに限定されない、本明細書に開示されるハイドロゲルは、研究及び臨床試薬として用いることができる。1つの有望な用途は、制御されるか又は延長された薬物送達である。この用途においては、薬剤は、高分子の相対的に高濃度(従って、最も低い空隙率)において製剤化されるハイドロゲルの中心球状又は他の形態のコアからなる球又は他の適当な形態のハイドロゲル材料中に捕捉され、この材料上にハイドロゲルの同軸の球状層がコーティングされ、それぞれの連続的にコーティングされた層は、連続的に低くなる濃度の高分子の中で製剤化される(従って、より高い空隙率)。次いで、薬剤の放出は、もし、薬剤がハイドロゲル足場に結合し、足場細孔を通じて薬剤が拡散するように設計されるなら、ハイドロゲルの分解速度によって制御される。次いで、ハイドロゲル球は、患者内の、薬剤の放出が効果的に延長されるよう適当な場所に移植される。
標的化された薬剤送達は、また、薬剤を封入したハイドロゲル粒子の、特定のタイプの組織及び細胞に対する設計された親和性に基づいた、親和性に基づく戦略によって達成することができる。この目的のため、ハイドロゲルは、選択的結合のための親和性に基づく媒体として用いることができ、したがって、架橋の間、又は架橋前にハイドロゲル中に標的細胞結合分子を取り込ませることによって、特定の細胞集団の精製に用いることができる。選択された細胞集団が、ハイドロゲル親和性に基づく媒体に一旦結合すると、更なる調査のために放出されるか、またはハイドロゲル親和性に基づく媒体に結合したまま他の組織工学又は臨床用途のためのハイドロゲルの他の製剤中に直接封入することができる。
このような、親和性に基づく媒体はまた、タンパク質を結合しているヒアルロナンの選択的な結合及び精製のために用いることができる。媒体全体が、他の支持材料なしで、単にヒアルロナンのみで製造されているので、バックグラウンドの結合はかなり低いはずである。足場材料(例えばアグリカン)として、他の材料を用いることにより、他の親和性に基づく媒体は、選択的にそれらの足場材料と結合する分子の精製のために製造することができる。
このような、親和性に基づく媒体はまた、架橋の間に、ハイドロゲル中プロテインAを取り込ませることによって、特異的な高分子又は細胞集団の選択的結合及び精製のために用いることができる。次いで、興味のある高分子又は細胞集団に特異的な抗体を用いて、プロテインAを注入したハイドロゲルを、最適には、それらの抗原結合(Fab)アームが外向きに配向された、それらの定常(Fc)ドメインがプロテインAと結合する抗体でコーティングすることができる。選択された細胞集団又は高分子がプロテインAハイドロゲルに一旦結合すると、それは更なる調査のために放出されるか、プロテインAハイドロゲルに密接に結合したまま、他の組織工学又は臨床的用途のためのハイドロゲルの他の製剤中に直接封入することができる。あるいは、抗体をハイドロゲル中に直接取り込ませてもよい。
開示される、ヒアルロナンをベースとするハイドロゲル材料はまた、特定の癌の転移の可能性を予測することができるヒアルロニダーゼの存在のための診断としての有用性を有する。これは例えば、生検スライドをヒアルロナンハイドロゲルでコーティングし、ハイドロゲルが内因性ヒアルロニダーゼによって消化される時に、そのジチラミン架橋のためにハイドロゲル材料の固有の蛍光の損失の範囲及び所在を測定することによって行うことができる。足場材料(例えばアグリカン)として他の材料を用いることによって、メタロプロテイナーゼ等の他の分解酵素が検出可能である。
本発明の更なる実施態様は、以下の実施例の一つ以上とともに理解され、それは実例として提供される。
実施例1
実験に用いる量の、本発明のジチラミン架橋を有するチラミン置換ヒアルロナンハイドロゲルは、以下のようにして製造した。HAを、HAのカルボキシル基のモル濃度に対して10倍モル過剰のチラミンを含む、250mM 2−(N−モルホリノ)エタンスルホン酸(MES)、150mM NaCl、75mM NaOH、pH6.5中に、ヘキスロン酸に基づいて1mg/mlで溶解した。次いで、HAのカルボキシル基のモル濃度に対して10倍モル過剰のEDCを加えることにより、カルボキシル基のチラミン置換を開始する。EDCのモル量に対して1/10のモル比のN−ヒドロキシスクシンイミド(NHS)を反応液に加えて、活性エステルの形成により、EDCにより触媒されるアミド化反応を助ける。反応は、室温で24時間行い、その後、150mM NaCl、続いて超純水に対して徹底的に透析し、次いで凍結乾燥することにより、未反応低分子量反応物、例えば、チラミン、EDC、NHS、及びMESから高分子画分を回収する。凍結乾燥の後、チラミン置換HA(T−HA)生成物を、5〜100mg/mlの作業濃度でPBS(細胞懸濁液、インビボ組織接触及び架橋反応に適合性の緩衝液)に溶解して、最終的なハイドロゲルの所望の剛性によって種々の濃度の調製物を得る。又は、溶媒は、実質的に酵素活性に負に影響せず、酵素によって生成したフリーラジカルの選択的取り込みにより架橋反応を妨害しないであろう、PBS以外の他の任意の適当な溶媒であってもよい。他の適当な溶媒は、水、慣用の生物学的組織培養用培地、及び細胞凍結溶液(一般に約90%の血清および約10%のジメチルスルホキシドから構成される)を含む。細胞を懸濁するか(実施例5を参照)、又はインビボで組織と接触させる前に、T−HAを0.2μmのフィルターを通して濾過すべきである。次いで、10U/mlのタイプII西洋ワサビペルオキシダーゼ(HRP)を各T−HA調製物に加えることにより、チラミン−チラミン架橋を行う。架橋は、少量の(1〜5μl)希釈過酸化水素溶液(0.012%〜0.00012%最終濃度)を加えることにより開始させ、所望の剛性を有する最終的なハイドロゲルを得る。より大量の、又は大きな体積の所望のハイドロゲルを調製するためには、当業者はこの節で提供される試薬の量を適宜スケールアップすることができる。
実施例2
本発明のT−HA高分子ネットワークのチラミン置換(及びその結果としてのジチラミン架橋)の程度を決定するために実験を行った。最初に、(未架橋)チラミン置換ヒアルロナン(T−HA)の、0X、1X又は10Xと称される3つの処方を上述のようにして調製した。0X処方は、EDCなしで調製した(すなわち、カルボジイミドを含まない)。これは、チラミン上のNH2基とHA分子上のCO2H基との間にアミド結合を形成するための反応を媒介するカルボジイミドが存在しないことを意味する。すなわち、0X処方は、対照と考えることができる。1X処方は、反応混合物中のHA分子上に存在するCO2H基の量に基づいて1:1の化学量論比のEDCを含むものであった。10X処方は、反応混合物中のHA分子上に存在するCO2H基の量に基づき、10:1の化学量論比(又は10倍過剰)のEDCを含む。3つすべての処方において、HA上のCO2H基の量に対して化学量論的過剰量のチラミンを用いた。3つすべての処方(0X,1X及び10X)において、処方用の反応物と適量のEDCをバイアル中で混合し、撹拌してチラミン置換反応を促進させた。3つすべての処方は、室温で24時間反応させ、その後に、バイアルの内容物を透析し、未反応チラミン分子、EDC及び反応の副生成物であるアシルウレア(EDU)を除去した。チラミン、EDC及びEDUのサイズが高分子HAより比較的小さいため、これらの分子は、透析によってHA及び形成されたT−HA分子から容易に分離された。未反応チラミンおよびEDCを除去した後、各処方についての残りの内容物を分析して、HA分子上に存在する利用可能なCO2H部位の総数に対するチラミン置換の比率を決定した。
チラミンは、275nmにUV吸収ピークを示すため、チラミンの滴定曲線を用いてチラミン置換の程度を容易に検出することができる。上述の3つのT−HA処方のUV分光光度分析に基づいて、EDCの非存在下(処方0X)で行ったHA−チラミン置換反応では、HA分子上へのチラミン置換は実質的にゼロであったことが見いだされた。このことから、チラミン置換反応においてカルボジイミド反応経路を用いることの重要性が確認される。しかし、チラミン置換反応において1:1のEDC:CO2H化学量論比を用いて調製したT−HA処方(処方1X)のチラミン吸収は、HA鎖上の全ての利用可能なCO2H基に対して約1.7%のチラミン置換率を示した。10X処方(10:1EDC:CO2H比)では、約4.7%の置換率が得られた。
次いで、3つの透析したHA/T−HA処方(0X,1X及び10X)のそれぞれに過酸化水素及び西洋ワサビペルオキシダーゼ(HRP)を5mg/mLで加え、得られた処方の反応を完了させた。過酸化物及びHRPの存在下で反応させた後、0X処方は完全に液体のままであり、強いメニスカスを有し、ゲル形成は認められなかった。このことから、チラミン置換反応においてEDCを用いなかった場合には、チラミン置換が全くまたは実質的に全く起こらなかったことが確認された。1X処方については、非常に弱いメニスカスのみが認められ、バイアルの内容物はゲル化し、チラミン置換および架橋の両方が起こったことが確認された。10X処方については、比較的堅いゲルが形成し、実際には容器中の液体の最初の体積と比較して収縮し、若干の液体(メニスカスを有する)が上部に残った。10X処方(4.7%チラミン置換率を有する)から製造したゲルは、1.7%チラミン置換率を有する1X処方から製造したゲルよりも堅く、より剛性が高かった。
ジチラミン構造は、UV光に曝露されると青色蛍光を示す。上述の処方のそれぞれの生成物をUV光に曝露し、ジチラミン架橋の存在を検出した。予測されたように、1X及び10Xハイドロゲルは両方とも青色蛍光を示したが(10Xハイドロゲルの蛍光は1Xハイドロゲルの蛍光より強かった)、0X処方は青色蛍光を全く示さなかった。このことから、両方のハイドロゲルにおいてジチラミン架橋が存在すること、及びより剛性の高いハイドロゲル(10X)におけるジチラミンの出現率はより剛性の低いハイドロゲル(1X)におけるより高いことが確認された。
全体的な結果は、カルボジイミド媒介性反応経路の重要性が示されたこと、及び架橋されたT−HAネットワークから形成されたハイドロゲルの相対的剛性はジチラミン架橋の程度に比例すること、更にこれはHA上へのチラミン置換の程度に比例することが確認されたことである。本発明に従って、1.7%のチラミン置換率(及び続いてジチラミン結合を形成する架橋比)でさえ、適切に堅いT−HAゲル(またはハイドロゲル)を与えたことは、非常に驚くべきかつ予測されなかったことである。4.7%置換(及び架橋)比率からはさらに堅いT−HAゲルが得られた。さらに驚くべきことには、反応混合物中に存在するカルボン酸基の量に対して10倍の化学量論的過剰量のカルボジイミド(EDC)(処方10X)から、わずか約4.5〜4.7%のチラミン置換率しか得られなかったが、それでもなお、安定かつ凝集性のチラミン架橋T−HAネットワークが達成された。
このことは、HA分子上のカルボン酸基の大部分は置換されず、チラミン架橋されず、本質的に天然のHA分子におけるものと同じままであるが、得られるネットワークは凝集性かつ安定なハイドロゲルであることを意味する。従って、本発明のT−HAネットワーク又はゲル中のHA分子の大部分は正常な軟骨中のHAと比較して本質的に変更されていないため、インビボで軟骨代替物として用いる場合、身体の天然の代謝経路(T−HAネットワーク中で提供される細胞により助けられるかまたは助けられずに)は、本発明のネットワークを天然の生物学的材料として認識し、これに対して通常の合成及び代謝機能を行うことができるであろうと考えられる。更に、HAは身体中に非常に普遍的に存在する物質であり、ヒトにおいて免疫原性がないことに注目すべきである。その結果として、変更されていない天然のHAの大部分を含む本発明の架橋高分子ネットワークは、ヒト身体において合成組織を提供するのに望ましいか、又はこれが必要である広範な範囲の組織工学用途において実質的な用途を有するであろうと考えられる。この点は、従来技術と比較して顕著な利点である。従って、非常に驚くべきことに、高い程度の、例えば、約10〜20%より高いチラミン置換は望ましくないかもしれない。上述の実験は、適切なT−HAネットワークを提供するためには、そのような高い程度の置換は必要ではないことを示した。好ましくは、本発明のジヒドロキシフェニル(例えば、ジチラミン)で架橋されたポリカルボキシレート(例えば、HA)ネットワークは、ポリカルボキシレート(HA)分子上に存在するCO2H基の総量に基づく割合として、50未満、好ましくは40未満、好ましくは30未満、好ましくは20未満、好ましくは15未満、好ましくは10未満、好ましくは9未満、好ましくは8未満、好ましくは7未満、好ましくは6未満、好ましくは5未満のヒドロキシフェニル(チラミン)置換率を有する。
実施例3
従来は、天然の軟骨は、アグリカンマトリクス中に存在する、隣接する硫酸コンドロイチン鎖の上の負に荷電したSO4 2-基の間の反発力の結果として、その粘弾性的特性および変形に抵抗しかつ圧縮負荷を吸収するその能力を示すと考えられてきた。本発明の範囲内の種々の高分子ネットワークが、天然の軟骨と比較して変形に抵抗し、圧力を吸収する効果を有するかを判定するために実験を行った。特に、それぞれ、下記からなる、このような3種のネットワークが製造された:1)ジチラミン架橋HA分子(T−HA);2)アグリカン(T−アグリカン)の形のジチラミン架橋硫酸コンドロイチン分子;3)50%T−HA及び50%T−アグリカンからなる複合材料。約5%のチラミン置換率を有する、未架橋T−HA及びT−アグリカンの製剤が製造され、実施例1のように精製された。これらのT−HA及びT−アグリカン製剤から、T−HAのみ、T−アグリカンのみ、及びT−HA及びT−アグリカンの50:50混合物の5つの異なる濃度を調製した。
濃度1:6.25mg全T−GAG/mL水
濃度2:12.5mg全T−GAG/mL水
濃度3:25mg全T−GAG/mL水
濃度4:50mg全T−GAG/mL水
濃度5:100mg全T−GAG/mL水
T−GAGの表記は、本明細書において、T−HA及びT−アグリカンを含むために用いられる。アグリカンが技術的にグリコサミノグリカン(GAG)でないにもかかわらず、この実施例のために、それでもなおT−GAGは、T−HA及びT−アグリカンハイドロゲルの両方を含むために定義される。次いで、T−GAG分子間のジチラミン架橋を形成して、それぞれのハイドロゲル1、2、3、4及び5を各3つの材料組成物に提供するために、上記の各調製は、実施例1においても示されるように、過酸化水素及び西洋ワサビペルオキシダーゼの存在下で反応する。各15個のハイドロゲル(3種の材料組成物についての5種の濃度)は、それが製造された製剤におけるT−GAGの濃度と関連して変化する各ハイドロゲルの物理的特性を有する、安定で凝集性の物質であることがわかった。例えば、質的にT−HA濃度1は、ワセリン又はゼリーと比較して剛性及びレオロジー特性を有するT−HAをもたらす。ハイドロゲルは、安定でコヒーレントであるが、例えばスパチュラ又は他の慣用の道具からの外力を適用したときになお流れ又は広がりを引き起こすことができた。T−HAハイドロゲル1は非常に優れた接着特性を示し、このため、眼科手術などの手術の間の手術装置のアレルゲン性のないコーティング材料として理想的な候補である。T−HAハイドロゲル2は、これを製造した調製物中のT−HAの濃度がより高かったため、T−HAハイドロゲル1より剛性が高かった。この結果は、T−HA濃度の増加に伴う分子内架橋の減少及び分子間架橋の増加の結果であると予測される。T−HAハイドロゲル2は、ゼラチンの特性を有するレオロジーおよび剛性特性を示し、外部負荷に対してある程度の粘弾性的反発性を有していた。負荷を高くすると、T−HAハイドロゲル2は流れるのではなく破断してより小さい片になることが認められ、これもゼラチン性材料の特性である。T−HAハイドロゲル3は、パン生地または延ばすことができるパスタの特性および粘稠度を有しており、これもまた、外部負荷力を適用しても流動しなかった。この材料は、また、ハイドロゲル1および2と比較して実質的により高い粘弾性的特性を示した。T−HAハイドロゲル4は非常に剛性が高く、コヒーレントのゲルであり、外部負荷力を適用したときに、破断に対して強く抵抗した。T−HAハイドロゲル4は非常に弾力性のゴム様の組成物であり、実際に突然の圧縮(例えば床に落下)に対して実質的なバネ力を生じた。T−HAハイドロゲル4は、突然の圧縮に応答してそのようなバネ力を生ずる能力のため、この材料は関節に繰り返しの周期的な圧縮負荷がかかるある種の関節置換/修復用途(例えば足関節)に理想的である。T−HAハイドロゲル5は、T−HAハイドロゲル4について記載した特性に加えて、関節と同様の特性を有しており、関節軟骨の外観及び手術用ナイフで切断したときに軟骨の特性を有していた。
制限圧縮試験を実施して、上述の15個の異なるハイドロゲルについて、圧縮の機械的特性を定量的に測定した。特注のポリカーボネート制限チャンバ及び多孔質ポリプロピレンフィルター板(孔径20μm、多孔度20%)を用いて、制限圧縮試験を行った。制限チャンバ及び以下の実施例4に記載される凍結融解手法を用いて、3つの材料組成について各ハイドロゲル濃度の5つの円筒形のプラグ(直径7.1mm、厚さ約3mm)を作成した。制限圧縮における一連の応力緩和試験のために以下の試験プロトコルを実施した。全ての試験はInstron5543装置を用いてコンピュータ制御下で行い、10Hzの周波数で時間−変位−負荷データを記録した。±5N又は±50N負荷セル(Sensotec)を用いて、各試験全体の負荷をモニターした。1%の歪を示す30μm(30μm/sec)のステップをサンプルが平衡に達するまで与えた。これは、10mNmin-1より低い値まで示した緩和速度として定義し、このとき、自動的に次のステップを開始し、これを20サイクル(約20%の歪)が完了するまで行った。制限圧縮において試験した各サンプルの厚さは、圧縮応答を開始したときのチャンバの底に対する転位をInstron5543装置で測定することにより機械的に決定した。測定した厚さを用いて、各ステップについての歪の割合を計算した。
15種類のハイドロゲルの圧縮機械的特性を先の節に記載されるようにして判定した。負荷データはサンプル断面積(39.6mm2)により標準化して、応力を計算した。各材料処方について、平衡応力を適用した歪に対してプロットした。各工程における凝集係数は、平衡応力を適用した歪で割った値として定義した。各材料について、凝縮係数は、最も直線的な範囲における平衡応力−歪データの傾きとして定義した。図4a、4b及び4cは、それぞれ、5つの濃度のT−HA、T−アグリカン及び50:50T−HA/T−アグリカン複合性ハイドロゲルの平衡圧縮挙動を示す。15個全てのハイドロゲルは制限圧縮において試験することが可能であり、二相性材料(例えば軟骨)に典型的な特徴的な応力緩和応答を示した。6.25mg/ml及び12.5mg/mlのT−GAGハイドロゲルの凝集係数は関節軟骨より1〜2桁低かった。25mg/mlのT−GAGハイドロゲルは、50mg/mlのT−HAと同様、同じ桁の凝集係数を示したが、関節軟骨よりも少なくとも30%低かった。全ての100mg/mlのT−GAGハイドロゲルは、50mg/mlのT−HA及び全ての複合性ハイドロゲルと同様、関節軟骨について報告されている直線値と等しいか超える凝集係数を示した。これらのデータは、標準的な機械的アッセイを用いてハイドロゲルを特徴づけすることができること、及びハイドロゲル足場材料として種々のグリコサミノグリカンを用いることにより、関節軟骨の組織を含む、多種多様の組織に対して同じ機械的特性を有するハイドロゲルを生成することができることを証明する。
T−HA、T−アグリカン、及び50%T−HA及び50%T−アグリカンからなる複合性材料の5つの濃度についての凝集係数を表1に要約する。
Figure 2008505716
図4dは、T−HA、T−アグリカン及び複合性ハイドロゲルについて濃度の関数としての測定した凝集係数を示す。T−アグリカンハイドロゲルが直線関係を示すが、T−HAハイドロゲルの濃度が上昇すると、凝集係数はプラトーに達する。興味深いことに、複合性ハイドロゲルは、濃度が上昇するにつれ、圧縮性において指数関数的上昇を示す関係を示す。これは、他のハイドロゲル材料の係数は、これらの関係を更に調査し、モデル化することによって予測されることができることを示している。
上記の実験に基づいて、ジチラミン架橋GAGネットワーク(HA又はアグリカン)が、コヒーレントハイドロゲル材料を製造し、それらの剛性及び他の物理的特性(レオロジー)は、特定の用途に適合するようにチラミン基の架橋前にT−GAG濃度を変化することによって調製されることが、驚くべきことに、及び予想外に発見された。材料の組成物抵抗性及び弾性を生成するためのネットワーク内の電荷−電荷反発力を供給するためのSO4 2-基が全く(実質的に全く)存在しなくとも、ハイドロゲルの接着及び弾性特性は観察された。組織工学用途において実質的な陽性の結果を有する非常に驚くべき予想外の結果であった。ヒアルロナンは、ヒトで見出される、非常に偏在する非免疫性分子である。従って、ジチラミン架橋ヒアルロナンネットワークからなるハイドロゲルは、人体の範囲内で、植設されることができる適切な組織置換材料を提供するために用いることができて、その剛性はこの実施例によって証明されたように、用途に基づいて調整されることができる。これらの材料が非免疫原性である主に変更のないヒアルロナンからなることができるか又はなるので、ハイドロゲルはゼロまたは実質的にゼロ免疫反応に結果としてなるはずである。これは、形成化学が厳しい反応状況又は試薬のためにインビボにおけるその適用を妨げ、最終化学構造が、免疫応答を誘発しそうな多くの従来の組織設計された材料に勝る重要な利点である。
実施例4
実施例3に記載されるもの等のハイドロゲルを製造して、ハイドロゲルを予め決定された三次元形状に成形または形成するための多くの方法が開発されている。このことは、患者の天然の組織の欠損または空隙に充填するための人工組織材料を提供することが必要である、多くの組織工学用途において重要である。
第1の方法は、ハイドロゲルをその場で、すなわち、その最終的な適用の位置及び構造の形状で形成するインサイチュー形成手法を用いる。以下のようにしてインサイチュー形成方法を実験的に行った。本明細書に記載されるカルボジイミド媒介性経路によりチラミン置換ヒアルロナン(T−HA)を調製した。透析して、未反応チラミン、EDC、NHS等を除去し、所望の濃度でPBSに溶解した後(上記実施例1を参照)、T−HA液体調製物に少量の西洋ワサビペルオキシダーゼ酵素を加え、第1の溶液を形成した。この第1の溶液を特定の内部幾何学を有する実験室容器(インビボの現場を模倣するために)に入れた。次いで非常に希薄な過酸化水素(0.012%〜0.00012%の最終濃度)を含有する第2の溶液を調製した。次いで、第1の溶液に対して少量のこの第2の溶液を、既に第1の溶液を含む容器に注入して、ジチラミン架橋反応を開始させ、ハイドロゲルを得た。この手法により調製されたハイドロゲルを、実施例3において上述したように、種々の剛性及びレオロジー特性を有するように、これらを形成する容器の内部表面輪郭とよく適合するように製造した。主な試薬(H22、ヒアルロナン及びペルオキシダーゼ)はアレルゲン性がないか、拡散可能な分子であるため、及び架橋反応は代謝条件の温度及びpHで進行するため、この手法は、手術の手順としてインビボで患者の手術場所で実施して、欠損に適合した形のハイドロゲルを製造することができる。この方法は、架橋されていないT−HA調製物(ペルオキシダーゼを含む)を注入し、外科医が皮下で操作して所望の顔輪郭を生成し、次に少量の過酸化水素溶液を注入することによりハイドロゲルを架橋させる、顔の再建手術に特に魅力的である。
第2の方法は、多孔質金型手法であり、ハイドロゲルをより複雑な三次元構造に形成するのに適している。この手法においては、最初に多孔質の中空の金型を、意図する最終的な構造の形状および輪郭に適合するように成形する。例として、立方形の形状のハイドロゲルが望まれる場合には、立方形の形状の内部表面を有する金型を用意することができる。金型は、例えば、パリプラスター、多孔質又は焼結したプラスチックまたは金属等の慣用の多孔質材料から慣用の手法により製造または成形することができる。特に好ましい実施態様においては、金型は、セルロースの透析膜を用いて製造する。第1の溶液及び第2の溶液を上述のようにして調製し、第1の溶液を多孔質金型の中空の金型キャビティー中に入れる。次いで、充填された金型を非常に希薄な過酸化物の浴に浸漬する。高分子T−HAおよびペルオキシダーゼ分子はそのサイズのため多孔質金型から外に拡散することができないが、非常に小さい過酸化物分子(H22)は内部に拡散することができ、ペルオキシダーゼ酵素の存在下で反応して、ジチラミン架橋が得られる。この方法に特有のことは、架橋が外側から内側に向かって起こって、完成したハイドロゲル形状が生成すること、及び過酸化物浴での最適な又は十分な浸漬時間を決定するためにはある程度の試行錯誤が必要であることである。これらの時間の決定は当業者の通常の能力の範囲内である。この多孔質金型手法により実験台上で首尾よく完成した三次元ハイドロゲル形状を製造した。
第3の方法は、凍結乾燥手法であり、これは本発明のハイドロゲルを非常に複雑な所定の三次元形状、例えばヒトの耳などの内部のひだを有するものに成形するのに適している。この手法においては、金型を柔軟な柔らかい材料、例えば、低いガラス転移温度、例えば−80℃より低い温度を有する高分子材料から製造する。好ましい金型材料は、低いガラス転移温度を有するシリコーン、例えば、約−127℃のガラス転移温度を有するポリジメチルシロキサンであるが、他の適当に低いガラス転移温度(例えば−80℃より低い)のシリコーン、ならびに他のポリマーを用いることができる。まず、任意の慣用の又は適当な手法(すなわち、プレス成形、彫刻等)により、シリコーン(好ましい材料)を、所望のハイドロゲルの部分の表面形状、輪郭及び体積に適合する内部金型キャビティーを有するように製造する。第1の溶液及び第2の溶液を上述のようにして調製し、第1の溶液をシリコーン金型の内部金型キャビティーの中に入れる。次いで、充填されたシリコーン金型を固体CO2(ドライアイス)と接触させることにより約−80℃に冷却する。第1の溶液は主として水であるため、これは凍結して、内部金型表面の形状および輪郭に適合した形の固形状の氷となる。しかし、−80℃より低いガラス転移温度を有するシリコーン金型は柔らかく柔軟なままであり、第1の溶液の固形状の氷を容易に取り出すことができる。第1の溶液は凍結するにつれて膨張するため、適当な機械的ハードウエアを用いて、溶液が凍結するにつれてシリコーン金型が変形又は膨張しないことを確実にしなければならない。好ましくは、金型にポート口を設けて、凍結プロセスの間に第1の溶液が膨張するにつれてこれが膨張し排出されるようにする。
第1の溶液の固形状氷を取り出した後、適当な道具で彫刻することにより三次元構造中の微細な欠損またはきずを修復し、更に液体の第1の溶液を加えて表面の空隙を充填する。この液体は固形状氷と接触して直ちに凍結する。また、所望の場合には加えられた第1の溶液材料について均一な温度及び凍結を確実にするために、氷形をドライアイス表面に戻すことができる。氷形の三次元形状がいったん完成したら、これを液体過酸化物溶液中に浸漬して、外側から内側に凍結した水の融解およびジチラミン架橋を開始させる。架橋反応の早い速度論のため、これが可能である。形成されつつあるハイドロゲル形の中心で最後の残存した凍結水が融解したとき、架橋が完了したと判定する。形成されつつあるハイドロゲルは実質的に透明であるため、これは容易に観察することができる。
実験は、この凍結乾燥手法に従って非常に首尾良く行うことができ、本発明の固体のハイドロゲルをヒトの耳の形状で製造することができた。当業者には他の構造、例えば、椎間円板、半月等をこの方法により形成することができることが明らかであろう。この凍結乾燥手法においては、第1の溶液が凍結して固形状の氷が生成するときに金型材料がもろくならないことを確実にするために、金型材料について、固体CO2(ドライアイス)の表面温度にほぼ対応するように、金型材料が−80℃の閾値ガラス転移温度をもつように選択することに注意すべきである。しかし、CO2以外の別の冷却材料を用いる場合には、適当な金型材料についての閾値ガラス転移温度はそれに従って調節することができる。
上述したハイドロゲル形成の3つの方法について、第1の溶液はペルオキシダーゼ及びT−HAの両方を含み、一方、第2の溶液は過酸化物を含むものであった。それぞれ第1の溶液と第2の溶液中のペルオキシダーゼと過酸化物を交換することは可能であるが、過酸化物を第1の溶液中でT−HAとともに提供することはあまり好ましくない。これは、過酸化物、ペルオキシダーゼ及びT−HAが一旦混合されると、T−HAは急速に架橋された高分子ネットワークを形成し始めるためである。ペルオキシダーゼ(これは高分子である)がT−HAとともに既に均一に分布していなければ、これは形成されつつあるハイドロゲルの孔構造を通って拡散して、T−HA/過酸化物溶液全体にわたって均一な架橋を形成することができないか実質的に妨げられる。その結果得られるものは、均一でないか、及び/又はT−HAの不完全な架橋および不均一なハイドロゲルであろう。逆に、比較的小さい過酸化物分子(過酸化水素は水より1つの酸素原子が多いだけである)は、比較的容易にハイドロゲルの構造を通って拡散することができ、均一なハイドロゲル構造が得られる。
更に、高分子サイズのペルオキシダーゼは、T−HAと同様に、多孔質金型中に残留するであろう。この金型は、金型及び新たに形成されつつある高分子ネットワーク(すなわちハイドロゲル)の両方を通って容易にかつ均一に拡散する低分子量の過酸化物に対してのみ多孔質である。これらの理由のために、第1の溶液中にT−HAとともに均一に分布したペルオキシダーゼを用いて出発し、別に過酸化物を第2の溶液で提供することが好ましい。
第4の方法は、交互のスプレー又はブラシ重層手法である。第1の溶液は上述したように用意し、ペルオキシダーゼ及びT−HAの両方を含む。しかし、第2の溶液は、上述したように過酸化物を含むのみならず、T−HAを第1の溶液と同じ濃度で含む。次に、第1の溶液の薄膜を所望の位置に塗布し(インサイチュー)、次に第2の溶液の薄膜を重層する。欠損または適用場所が完成するまで第1の溶液と第2の溶液の交互の層が連続的に塗布されるように、この手順を繰り返す。第1の溶液と第2の溶液の非常に薄い交互の層は、事実上完全なジチラミン架橋を促進し、高度にコヒーレントな最終的なハイドロゲルが2つの溶液の最初のT−HA濃度に基づいて所望のレオロジー特性を有することを確実にする。層が薄いという特性は、第1の溶液層中のペルオキシダーゼにより生成されるフリーラジカルが隣接する第2の溶液層に完全に浸透し得ること、及び第2の溶液層へのペルオキシダーゼの拡散とは無関係に完全な架橋が形成されることを確実にするために望ましい(上を参照)。T−HAを両方の溶液中に含ませることにより、最終的なハイドロゲル全体で均一なT−HA濃度を確実にする。この手法を実験室の実験台で実施して、輪郭に従いかつ体積の充填したコヒーレントなハイドロゲルを得た。この手法は、患者の移植部位に天然の健康な軟骨があったとしてもわずかに残っている変形性関節症の露出した関節の表面などの、薄いがチラミン架橋HAの可変の層を提供することが望まれる場合に非常に適用可能である。
上述の4つの手法は、全てジチラミン架橋ヒアルロナンに関して記述してきたが、本発明の範囲内の他の組み合わせ(他のジヒドロキシフェニル架橋高分子、例えば、ポリカルボキシレート、ポリアミン、ポリヒドロキシフェニル分子およびこれらのコポリマー)を上述の手法により成形することができることが理解されるであろう。
実施例5
ラット軟骨細胞を(架橋)T−HAハイドロゲル中に包埋して、これらが架橋反応に耐える能力を測定した。これらの生きた細胞を第1の溶液に入れてT−HA及びペルオキシダーゼとともに分散させ、次いで過酸化物を含有する第2の溶液を導入してジチラミン架橋を開始させることにより、実施例2に記載される1.7%および4.7%T−HAハイドロゲル中に単離された軟骨細胞を懸濁した。軟骨細胞を包埋した1.7%及び4.7%のT−HAハイドロゲルは、均一に分布した軟骨細胞を示し、ゲルは光学的に透明であり、ゲル全体を見ることができた。軟骨細胞はグルコース消費が旺盛であり、24時間以内に培地のグルコースを涸渇させるため、架橋してハイドロゲルを形成した後に細胞生存性を指示するものとしてグルコース利用を用いた。結果は、T−HAハイドロゲル中に包埋された軟骨細胞が24時間にわたり単層で培養した同じ軟骨細胞と本質的に同じグルコース消費プロファイルを示すことを示した(図5)。これは7日間まで続き、これは細胞が生きており代謝的に活性であることを示す。培地のグルコースは標準的なヘキソキナーゼアッセイにより測定した。
軟骨細胞及び軟骨組織の両方を含むT−HAハイドロゲルの凍結切片の蛍光画像も作成した。ハイドロゲル足場および軟骨マトリクスの両方からのHAサンプルをビオチン化HA結合蛋白質(b−HABP)試薬で蛍光染色することにより可視化し、細胞の核は標準的なDAPI染色により可視化した。b−HABP試薬は、精製した軟骨アグリカン(G1ドメインのみ)及び結合蛋白質から調製し、これは、通常は軟骨においてアグリカン及び結合蛋白質により結合しているストレッチと同等の天然のHAのストレッチを認識しこれに不可逆的に結合する。結果は、軟骨よりT−HAハイドロゲルでb−HABPによるより強い染色を示した。これは、組織中のヒアルロナンが既に天然のアグリカンおよび結合蛋白質により占められているためである。ハイドロゲルのT−HA足場と懸濁した軟骨組織のマトリクスとの間に目に見える区別はなく、このことは継ぎ目のない一体化を示唆する。これらの結果は、ハイドロゲル架橋反応の間に軟骨細胞の生存性を維持することの実用可能性、及びハイドロゲルが現存する軟骨マトリクス中に継ぎ目なく一体化しうることを示した。これらはいずれも、軟骨修復への適用に有利である。この結果はまた、T−HAの十分なストレッチが化学的に変化しないまま残っておりインサイチューで新たに合成されたアグリカンおよび結合蛋白質との結合に利用可能であることを示す。この結果はまた、酸素、二酸化炭素、グルコース及びインスリンが軟骨細胞の代謝を制限しない速度で本発明のT−HAハイドロゲルを通って拡散可能であることを示す。このことは、軟骨代替物の開発のみならず、他の用途、例えば、グルコースセンサーの設計及び人工腎臓の開発においても重要である。
実施例4に記載される凍結/乾燥手法を用いて軟骨細胞等の細胞を複雑な解剖学的形状に成形されたハイドロゲル中に含有させるためには、酵素により推進される架橋反応が、標準的な細胞凍結溶液、例えば、10%ジメチルスルホキシド(DMSO)/90%ウシ胎児血清(FBS)を含む溶液の存在下で進行することが望ましい。実施例3に記載される全てのT−HAハイドロゲル処方について、実験室でこのことが示された。90%FBSを含む溶液を直接取り込むことができることはまた、生物活性因子、例えば成長因子、ホルモン及び細胞分化を制御する因子を取り込むことができることを示す。これらはFBSの通常の成分であるためである。
実施例6
関節軟骨欠損を修復するためにユカタンミニブタに本明細書に記載のT−HAハイドロゲルを移植する実験を行った。以下は、この用途についての背景の簡単な議論の後に、実験法及び得られた結果を含む、実験の記述である。
背景
組織の説明
人工関節の構造及び機能−前述したように、関節軟骨は、可動関節の関節でつながった表面を形成する弾性のある耐力組織である。それは機械的衝撃を吸収し、かけられた加重を軟骨のより大きな表面積を覆ってそらすか又は広げる。それは、主に組織の全体にわたって分布した非常に特殊化された細胞(軟骨細胞)の低密度な分布を有する大きい細胞外マトリックス(ECM)からなる。ECMの主な構成成分は、水、軟骨凝集体及びタイプIIコラーゲンである。軟骨凝集体は、ヒアルロナン(HA)、アグリカン(大きな軟骨特異的プロテオグリカン)、及び小さい糖タンパク質、リンクタンパク質(LP)からなる。アグリカンは、100個の硫酸コンドロイチン(CS)鎖が結合した中心コアタンパク質を含む。中心コアタンパク質は、HP及びLPの両方に対する結合部位を有するN−末端球状1(G1)ドメインを有する、3個の球状ドメインを有する。LPは、アグリカンのG1ドメインに対して配列相同性を有し、アグリカンのHA及びG1ドメインの両方に対する結合部位を含む。各軟骨凝集体は、何百のアグリカン/LP二重鎖が結合した、単一のHA鎖からなる。これらの大きな軟骨凝集体は、タイプIIコラーゲン繊維の堅い網目構造の範囲内で、それらを含まない溶液の5分の1で捕捉され、更なる膨張に抵抗する。この分子の構造は、以下に記載するように、組織機械特性及び機能に寄与する。
膨張圧−軟骨凝集体中のHA及びCS鎖は、繰り返しのカルボキシル及び/又は硫酸基を含む。溶液中で、これらの基はイオン化し(COO-及びSO3 -)、生理的環境で、全体的な電気的中性を維持するためにNa+等の正の対イオンを必要とする。間質性の水の中のこれらの自由に浮遊するイオンは、浸透圧(ドナン圧)を上昇させる周囲の液体(すなわち、滑液)中に見られるよりも高い濃度で存在する。軟骨中で、イオンはそれらの負の対イオン(すなわち、HA及び/又はCS鎖上のCOO-及びSO3 -基)の固定された性質および電気的中性を維持する必要により濃度交配に沿って組織から流出することが防止され、濃度交配を平衡化するための組織への水流は、濃度勾配を平衡させようとして組織へ入る水流は、コラーゲン網目構造の非拡張性によって抵抗をうけ更なる膨張が予防される。
あるいは、堅く密集している軟骨凝集体は、一定の負に荷電した基に、ほんの10〜15オングストロームだけ離れて間隔をあけさせ、強い、電荷−電荷反発力(電気的反発力)を結果としてもたらす。ドナン効果と同様に、これらの反発力を少なくするために膨張する傾向は、コラーゲン網目構造の非拡張性によって抵抗される。圧縮されるときに、電荷基の間の距離は減少し、従って、電荷−電荷反発力を増大させて、自由に動く正の対イオン濃度を増加させる。従って、ドナン及び電気的反発効果は圧縮によって強められる。両方の効果は、関節軟骨の膨張圧力、及びその変形に耐え、圧縮荷重を吸収する能力に貢献する。
応力遮蔽効果−関節軟骨は、しばしば粘弾性、固相(軟骨凝集体、コラーゲン等)及び液相(水及び溶解したイオン)からなる2相性物質として記述される。関節軟骨のECMの高分子構造は、荷重の間に組織の摩耗されやすい固相から摩耗に抵抗力のある液相又は水へと、加えた力をそらす機能を有する。この応力遮蔽は、間質性液体が流れる間に抵抗を形成する非常に低い透過性を有する材料を製造する、軟骨ECMの的確なデザインのため生じる。間質性液体圧は、圧縮荷重、動荷重の間生成され、マイナーな要因である、マトリックス圧により、荷重を支持する原因となる第一の力である。圧縮の間、空隙率は更に減少し、それは既に高くなった高い摩擦の流体抵抗を上昇させる。負荷サポートは、液相(液圧分散として)から固相に徐々に移動する。通常は、正常な軟骨については、この平衡処理は、達成されるのに2.5〜6.0時間かかる。従って、液体加圧を通じた負荷サポートは組織内で優勢である。
合成材料の必要性
水含有量の増加及びプロテオグリカン含有量の減少は、骨関節炎軟骨中における最も明らかな初期変化である。これらの変化は、組織透過性の上昇を示す。増加する透過性は軟骨の負荷サポートの液体加圧メカニズムを減弱させ(ストレスシールド)、コラーゲン−アグリカン固体マトリックスに大きな負荷を負わせる必要が生じ軟骨退化発現および進行における重大な寄与要素であるかも知れない。通常の、健康な関節の軟骨の低い透過性を模倣しない、バイオ人工軟骨代替物は、類似した機構によって退化する傾向がある。
整形外科医が経験する最も困難な課題のうちの1つは、焦点性軟骨病変の患者で、関節の完全置換には若すぎるか活動的すぎる患者の治療についてである。これらの局所化された軟骨欠損は、非常に衰弱させる。関節の完全な置換なしにこれらの局所化された領域を復元することは、外科的要求の減少、より短い回復時間、より安いコスト、負荷のかかる面の更なる劣化の遅延または中止を含む重要な利点を有する好適な方法である。
この実施例は、局在化型の軟骨欠損の修復のためのチラミン置換HA(T−HA)ハイドロゲル用途を証明する。
実験の記述
所望の特性を有する細胞該マトリックス材料のデザイン
天然の関節軟骨は、弾性、及び前述した物理的及び化学的性質を有する。この特性は機械的荷重を吸収し、軟骨下骨から離れた所に衝撃荷重をそらせるユニークな能力を与える。本明細書に開示されるように、T−HAハイドロゲルから製造される、適切な合成軟骨材料を製造するためには、他の分子と同様に、試薬濃度、架橋条件、取り込まれる生細胞を慎重に選択することでできるだけ近い性質を模倣するように、ハイドロゲルのための高分子ネットワークを設計することが重要であった。
T−HAハイドロゲル(前記実施例3を参照)の制限圧縮試験からの結果は、正常な関節軟骨について測定した性質に対応する性質を有する、適当な合成T−HA材料の合成のための最初の基礎を提供した。また、それらは、T−HAの単一の組成物から製造することのできる材料の性質のスペクトルを説明した。それらのデータに基づいて、とりわけ、ジチラミン架橋ヒアルロナン分子の高分子ネットワークからなるT−HAハイドロゲルが、移植可能な合成軟骨材料を製造するために、下記基準に基づいて選択された。
アグリカンのタンパク質成分が足場材料として用いられる場合、それに対する可能な宿主反応を避けると共に、軟骨の圧縮特性を有するハイドロゲル組成物は、足場材料としてHAのみを用いて形成することができるので(実施例3)、HAのみからなる材料が選択された。大部分の天然HA構造を維持すると共に、軟骨の圧縮特性を有する材料を製造するための十分な架橋を提供するとして(実施例3)、5%のチラミンの置換割合を得るために、反応条件(チラミン/EDC比)が選択された(実施例2)。試薬を節約するために、1mg/mlではなく5mg/mlでHAを溶解した以外は、実施例1に記載したように、HAは〜5%のチラミンで置換された。チラミン及びEDCが、HAカルボキシル基のモル濃度に基づき、10倍モル過剰ではなく2倍であるように、全ての他の試薬の絶対濃度はそのままであった。食塩中のこの濃度が、圧縮凝集係数が関節軟骨のものに最も近いとして、滅菌食塩水中の125mg/mlのHA濃度が選択された(食塩のデータは示されていない)。それは、また、我々の臨床医協力者の経験に基づいて最も適切であると考えられる濃度であった。ペルオキシダーゼは、後述するように、インサイチューの架橋プロトコールにおける応用の前に、10U/mlで加えられた。周囲の軟骨マトリックスとの統合についての最高の機会を提供するとして、インサイチュー架橋プロトコールが選択された。それはまた、欠損の正確な寸法を知るか、又は測定する必要なく、外科的に作られた軟骨欠損の容易かつ完全な充填を可能にした。プレキャスト(インビトロ架橋)プラグは、欠損に適合するための予め形成された形態の正確な寸法又は彫刻のいずれかを必要とする。この試みとして、この実験に加えられる細胞又は生物活性因子は、細胞又は生物活性因子の包含から由来する複雑化する因子に非依存的なハイドロゲルを評価するためではない。しかし、細胞又は生物活性因子は、所望の効果を得るために、前述したように含まれ得る。
外科手術の手順
手術前−生物資源単位における出現後に、ユカタンミニブタ(〜7〜8ヶ月齢、〜30〜35kg)を、完全な環境純化を確実にするために、最低7日維持した。麻酔としてのケタミン(20mg/kg、筋肉注射)及び予防抗生物質としてのアンビペン(40,000U/kg、筋肉注射)の前投薬の後、動物の後ろ足を剪毛し、両方の膝の同時手術としてのベタジン中の塗布が行われた。挿管に続き、O2中のイソフルレン(1〜2.5容積%)による吸入によって、一般的な麻酔を維持した。必要に応じてチオペンタールが用いられた(効果を発揮するために25mg/L、ml、点滴)。手術中、動物の心拍、呼吸数、体温をモニターした。
開始−縦方向の正中線皮膚切開が行われ、膝蓋の滑液包を通して敏速に行われた。電気焼灼が、止血のために用いられた。膝蓋骨の横方向の境界は識別され、横方向のパラ膝蓋骨関節切開が行われた。横方向の粘着体および筋肉組織は、#1 ビクリル縫合糸を用いてタグが付けられた。膝蓋骨は、大腿骨滑車神経をさらすために中央に移動させられた。
軟骨修復−図6に示すように、2つの円形の完全な厚みの軟骨欠損(〜4.5mm直径、図6のパネルB)が、大腿軟骨(図6のパネルA)の中間の滑車面で、できる限り骨軟骨性プレートを崩壊できないように注意してAcufex4.5mmのモザイク形成刀、及び鋭いカーブされたキュレットを用いて生成された。欠損は、前述の通りに天然の軟骨の試験管内の測定された圧縮特性を再生するために、前述した組成物を有するハイドロゲル移植片を生産するために次のようにインサイチュー架橋されたT−HAハイドロゲル(無菌食塩水の125mg/ml)で満たされた。最初に、各欠損を0.6%過酸化水素0.01ccで洗浄し、次いで無菌ガーゼを用いて拭き取った。次いで、前述したような組成を有し、調製された、未架橋ハイドロゲルペースト(図6のパネルC)0.15ccを含むプラグを挿入し、各欠損を充填するために用いる。この時外科医は関節軟骨の外形にマッチするように指先でハイドロゲル移植片を滑らかにする。0.6%過酸化水素に浸したろ紙(Whatman50)の無菌片を、ハイドロゲル移植片表面に対して5分間圧迫し、欠損中でハイドロゲルを架橋させた。5分間、フィルターは、ろ紙との一体化を防止し、移植片表面を効果的に磨くために、ろ紙は移植片表面を横切って往復してこすられた。5分後、ろ紙は取り除かれ、部位から過剰のハイドロゲルを取り除き、次いで、各移植片プラグ(図6のパネルD)の表面に、〜0.01cc(1滴)の0.6%過酸化水素を加えた。膝蓋骨は、大腿骨の滑車形にわたって解剖学的に縮小した。膝蓋骨は移動し、ハイドロゲルの主たる安定性を確実にするために再び縮小した。
終了−関節は、無菌食塩水によって洗浄された。損傷は、ビクリル(vicryl)縫合線によって層中で塞がれた。具体的には、関節切開は、断続的な#1ビクリル縫合によって塞がれ、皮下の組織は、断続的な2−0ビクリル縫合によって塞がれ、表面薄層は断続的な3−0ビクリル縫合によって塞がれた。手術後に、移動の制限は必要なかった。
手術後−動物は、手術の後、直ちに完全な体重負荷に戻った。鎮痛は、24時間のブプレノルフィン(0.02mg/kg、筋肉注射)、及び手術後3日のフェンタニルパッチ(50mcg/時)によって与えられた。手術後の1日2回の500mgセファラキシンの形態の予防抗生物質が7日間与えられた。動物は、従来の動物の状態に維持された。
移植後データ−移植の1ヶ月後、過量のバルビツール酸塩、Beuthanasia D Special(1ml/10kgB.W. 点滴)を用いて、一般的な麻酔の下、安楽死させた。安楽死の後、全ての膝関節が慎重に解剖され、巨視的に評価され、写真文書化された。図7に示すように、1ヶ月における膝の巨視的観察は、有意な滲出液、及び炎症反応の証拠を示さなかった。病変は、白い物質(移植されたT−HAハイドロゲル、及び術後のハイドロゲルに移動したかもしれない他の因子又は細胞)及び周囲の関節軟骨で部分的に満たされ、対向する関節の表層(膝蓋骨)は、図7のパネルBに示すように、その対向する関節の表層に現れている軽い擦過傷を除いて、外観において正常であった。この擦過傷は、特に、関節の正常な動きの中で移植片に対して擦傷されたようには見えない膝蓋骨の位置であるとすれば、移植片に対する擦傷の結果であるということは明らかでない。
結果は、ハイドロゲルの中でインサイチュー架橋するために用いられる過酸化水素又はペルオキシダーゼ反応の結果として、関節の健康上では明らかな負の効果を示さず、本明細書に開示される、インビボにおける軟骨代替物又は移植材料の合成として用いられる、移植可能な合成細胞外マトリックスとしての、ジチラミン架橋ヒアルロナン高分子ネットワークを含むハイドロゲルの有用性を証明した。
実施例7
前述したようなT−HAハイドロゲルを、声帯の欠損を修復し、声帯を補強するために、イヌ及びウサギに移植した。下記は、この用途についての背景の簡単な議論の後に、実験方法及び得られた結果を含む、実験の記述である。
背景
組織の記述
声帯は、非常に微細な神経筋制御の下における複雑な多層構造である。覆われた粘膜はケラチン化されず層状になったうろこ状の上皮細胞からなり、上皮細胞は角質化されていない深い基底膜がある。基底膜は、披裂軟骨前方に挿入され、披裂軟骨の声帯突起後方に挿入される甲状披裂筋肉からなる筋肉層である。甲状披裂筋の筋肉はこわばるか、又は弛緩することができ、基底膜上の緊張を変えて、それによって、高品質の会話構成の原因である微細な調製された振動を生成する上皮細胞の振動性動力学を変化させる。
ヒトの声生成のバイオメカニクスは、基底膜の細胞外マトリックス(ECM)中で自然に見出される、特定の生物学的高分子の作用に起因する。ヒアルロナン(HA)は、声帯、滑液、へその緒、真皮及び軟骨等の特定の組織中で最も濃縮されていて至る所に存在する分子である。これらの組織中で、その機能は、多種多様であり、組織の粘度、緩衝作用、創傷治癒及び空間充填に影響を及ぼす。
HAのユニークな構造は、その多様な機能を明らかにする。それは、10メガダルトン以上の質量を有する、30,000もの二糖の繰り返し単位を含む、繰り返す二糖鎖中に配置されたD−グルクロン酸及びN−アセチルグルコサミンからなる。HAはタンパク質でなく多糖であり、それは非抗原性である。生物学的条件下で、それは負に荷電した、ランダムに巻き付いたポリマーであり、分子量及び組成のみに基づくと予想するよりも1,000倍以上大きな容積を満たす。強い負電荷は、陽イオン及び水を引きつけ、強固に水和したゲルの形態をとることができ、HAに、そのユニークな粘弾性及び緩衝特性を与える。
声帯の粘弾性が、発声の開始及び維持、及び声帯基本周波数の制御に直接的に影響を及ぼすので、上質の発声にとって必須である。ヒトの声門のHAは基底膜に集中しており、その重要性は、屍体の声帯の生体機械的特性をHAを有する場合と有しない場合で比較することによって定量化された。ヒアルロニダーゼを用いた声帯の治療は、声帯の硬直において35%の平均減少、及び高周波数声帯粘度における70%の平均減少となり、従って、これらの組織におけるHAの重要性を示す。
合成材料の必要性
声帯の修復−声帯における欠損は、発声に劇的な影響を及ぼす。デノボで生じるか、外科的介入によって引き起こされて、声帯における異種の塊は、上質の発声についての原因となる繊細な調和した振動を崩壊させる。デノボにおける病巣を有する患者は、通常、持続性の嗄声を呈するために疾患の初期で分る。初期悪性経過(T1−T2、ノード、メタスタシスステージングシステム)にある患者は、外部ビーム放射線療法又は内視鏡的外科療法のいずれかからなる迅速な治療を受ける。このような患者は、治療後の劣った音声品質が、効果的な腫瘍の根絶の副作用として予期されると忠告される。推定される良性の経過を示す時、患者は難問に直面する。というのは、外科的療法はしばしば、病変それ自身によって生じるのと同じくらい劣った音声品質を作り出すからである。残念なことに、現在の標準的な咽頭の手術の技術は、声帯の傷に続いて発声の質を落すことのなく、良性又は悪性のいずれかの病変を効果的に除去することができない。これは、咽頭のユニークな生体構造における創傷治癒の機構による。声帯の表面的な振動面は、治療後の傷跡によってより深い層に拘束されており、生理学的発声振動を妨げる。
ヒトの声門中のHAは基底膜に集中しており、組織学的な層が、覆われた上皮から声帯筋を切り離す。基底膜は、上皮が、池中に広がる波のように、緊張した声帯筋中で振動することを可能にする。この「粘膜波」は、効果的な音声生成の必須条件である。声帯に良性又は悪性の病変が存在する場合に、粘膜波は崩壊する。治癒の通常の方法でさえ、傷跡のバンド及び組織が破壊したコラーゲンは、声帯のより深い層の表層の粘膜を束縛し、正常な粘膜波を崩壊し、声の生成を損なう。HAの緩衝吸収特性は、それが組織ダンパーとしての役割を果たすことを可能にし、粘膜表層を発声の間に経験する振動外傷から保護する。HAは、また、繊維化及び瘢痕化を最小化することによって創傷修復を促進し、それによって、外傷から引き起こされる永久損傷から声帯を保護する。
レーザー又は冷却外科的療法を受けている声帯上の完全な振動性発声表面の修復を可能にする技術の開発によって、良性及び悪性の療法中にある患者の多数が、先例のない手術後の発声の結果を予想しながら、腫瘍の治療を受けるようになる。
声帯の拡大−種々の傷害及び疾患は、逆に、声門機能、声の品質及び伝達する能力に影響を及ぼす。米国の約700万人の人々が発声傷害又は音声傷害を患っており、声帯不全麻痺/麻痺により影響を受ける人は、この集団の重要な小集団である。米国の全ての心臓及び甲状腺の手術の1〜4%が、手術中の迷走神経又は再発性咽頭神経の不注意な傷害のために声帯不全麻痺又は完全な麻痺となると推定されている。
声帯機能に影響を及ぼす他の条件は、片側性声帯麻痺(UVP)である。UVPにおいて、問題は無感覚の声帯の位置異常である。メディアリゼーションは、喉頭部の内転筋と誘拐者の対向的緊張による以下の神経傷害を直ちに招き、麻痺した声帯は、正中線に対して急速に側方化される。披裂筋軟骨は、喉頭の再発性神経損傷の後喉頭に脱出し、減少したダイナミックな緊張と同様に、声帯の垂直高さの変化を引き起こし、多くの場合声帯が湾曲する。甲状披裂筋が神経刺激の不足のため退化するのに従って、結果として起こる声帯の短縮とたわみを伴う萎縮は後で起こる。萎縮及び側方化の結果、反対側の声帯は完全には麻痺している声帯と接触することができず、UVPの発現に至る。
このような症状は、気息音の混じる嗄声、弱い咳、バルサルバ(気道の保護)、及び嚥下困難を含み;合併症は誤嚥(固体及び液体)及び反復性肺炎を含む。これは、反復性肺疾患の発生率が増加するので、致命的な状態に結果としてなり得る。
たった1つの機能的な声帯が、通常の発声のために必要であるので、成功した治療は、麻痺した声帯の「メディアリゼーション」からなり、それによって、反対側の移動可能な声帯と接触することを可能にする。これは、発声を正常化し、誤嚥を防止し、嚥下性肺炎の危険性を最小化する。声帯の麻痺は、現在2つの方法で治療される。トランス−頚部方法又はトランス−蛍光内視鏡的声帯注入(注入喉頭形成術療法(ILT)として知られる)である。Ishiki−タイプI甲状軟骨形成術は、「ウィンドウ」が甲状軟骨において作成されてより中間の位置に押し込んでいるために萎縮して麻痺している声帯に、シラスティックな移植片の配置を可能にする最も一般的に実施されるトランス頸部アプローチである。この手順は永続的な効果を有するが、合併症は植設の移動、押出または感染を含む。
ILTにおいて、麻痺している声帯は、外因性基質の内視鏡的注入によってメディアライズされる。ゲルフォーム、ヒドロキシアパタイト、自家脂肪又は筋膜、無細胞死体の皮膚(Cymetra(登録商標))、コラーゲン又はTeflon(登録商標)/Gortex(登録商標)を含む、多種多様な合成及び生物学的材料が、現在、UVPの治療のための注入物質として利用することができる。残念なことに、全ては、いずれも理想的なものではなく長期の声帯拡大のための理想的材料に望まれる基準を成し遂げていないことが判明した。このような限界は、再注入か過剰注入のいずれかが必要となり容積が損失されることが予想される。
本明細書に開示されるT−HAハイドロゲル等の生物学的適合性の注射液は、天然の声帯組織のレオロジー特性を模倣し、移動することなくインビボで無制限に存続するように設計することができる。本明細書に開示されるT−HAハイドロゲルの設計、化学、及び材料特性は、成分濃度、及び前述のような架橋方法の思慮深い選択によるILT等の耳鼻咽喉科の治療に適しているユニークな注射用バイオインプラントを製造するために、調製されることができる。
適切な生物学的適合性の、長命の合成材料は、また、既存の溝、又は外傷又は高齢化により自然に発生する瘢痕を処理するのに好ましい。また、これらの材料は、声帯手術の前に、診断の及び外科的な援助として、食塩水の代わりに有利に用いることができる。通常は、食塩水は、外科的に取り除かれる病変と下にある靱帯との間の声帯基底膜のHAマトリックス内に注入される。これは、a)病変が、下にある靱帯を含むかどうかを決定し、及びb)病変及び靱帯(冷えた器具)の間の距離を増やすか、又はヒートシンク(レーザー)を提供することによって、より容易な手術をするためになされる。靱帯の関与によって、可能であれば靱帯の浸透を回避すべきであるので手術が困難となる。この手順は、基底膜中のHA生産を上昇させ、瘢痕に関連するコラーゲン生産を減少させるために用いられる、ハイドロゲル中への肝細胞増殖因子の取り込みによって利益を得ることができた。
実験の記述
所望の特性を有する細胞外マトリックス材料の設計
声帯拡大のための理想的な合成マトリックス又は声帯材料は、以下の特性を有する:1)都合の悪い免疫応答のないような生体適合性;2)外科医が、小さい針での注射の正確な量及び位置を制御することを容易にする注射;3)最適時間効率及び外来患者用治療設備への適用についての最小の準備で容易に利用可能;4)増やされている声帯の構成要素と同じであるか類似した生体力学的特性を有してその増大構造のもつ自然的機能に最低限の変化を起こす;5)初期拡大効果を維持するような、再吸収又は移動に対する抵抗性:及び6)修正手術の場合には、容易に着脱可能。
本明細書に開示されるT−HAハイドロゲルは、これらの基準のうちの全ての6つを満たす。最も重要であることは反応体/合成パラメータ及びGAG(例えば、HA)濃度の賢明な選択によって調整して、その生体力学的特性は所望の粘弾性及び生体力学的特性を有するハイドロゲルを生産するために必要な高分子ネットワークを生産することができることである。具体的には、インビトロ及びインビボの両方の予備的研究の結果によって、有利な比較が上記の基準に対して示された。第一に、ラット、ウサギ、イヌ及びブタを含む、種々の動物種へのT−HAハイドロゲルの移植は宿主免疫応答をわずかあるいは全く示さなかった。第二に、基底膜又は筋肉のレベルでの声帯拡大に必要な濃度における未架橋T−HAハイドロゲルが、21ゲージの針を容易に通過した。第三に、医用グレードのHAが容易に入手可能であり、Healon及びRestylane等のFDAが承認する製剤中で長い間用いられた。更に、未架橋のT−HA及び過酸化水素(架橋剤)溶液が、手術医によって用意する必要のない在庫品の製剤中で、容易に前もって製造される。第四に、本明細書に開示されるT−HAハイドロゲルは、基底膜、甲状披裂筋、及び披裂軟骨の甲状軟骨を含む、声門の種々の組織の機械的特性に適合するように製剤化することができる。第五に、T−HAハイドロゲルのユニークな、架橋及び非タンパク質性の特性は、インビボ実験において再吸収に抵抗性があることが示された。これは、初期の拡大効果が維持されることを意味する。最後に、本明細書に開示される、非免疫原性の酵素由来の架橋の構築によって製造可能な、新規なインサイチュー架橋プロトコールによる固体の連続的な移植片の形成は、移動を防止するはずであり、修正手術に必要とされる場合にはハイドロゲル移植片の容易な位置づけ及び除去を可能にする。
上記の第四のポイントに関して、T−HAハイドロゲルの制限圧縮試験から得られる結果(上記実施例3参照)は、正常な声帯組織のものに適合する特性を有する、適切な合成T−HA材料の合成についての初期基準を提供した。それらのデータに基づいて、中でも、ジチラミン架橋ヒアルロナン分子の高分子ネットワークから構成されるT−HAハイドロゲルが、移植可能な合成声帯修復又は拡大材料を製造するための以下の基準に基づいて選択された。
足場材料(HAのみ)、チラミン置換割合(〜5%)、HAのチラミン置換のためのプロトコール(実施例1からの修飾)、及び細胞及び生物学的に活性な因子の非取り込みの選択は、実施例6に記載された。無菌食塩水中の2.5〜10mg/mlの範囲の濃度のT−HAハイドロゲルは、声帯基底膜のレオロジー及び振動特性に最も適合している。2.5mg/mlの濃度のT−HAハイドロゲルは、我々の臨床医の協力者の広範囲な臨床経験に基づいて最も適切であると判断された。この場合声帯修復及び拡大のためには声帯組織及び他の注入可能な物質を用いた。インビトロの架橋ハイドロゲルは、我々の臨床医の協力者の経験に基づくと、インサイチューの架橋プロトコールよりも用いられる。この場合声帯修復及び拡大のための他の注入可能な物質を用いた。インビトロ架橋は、実施例1に記載された。後述するウサギ及びイヌの実験に基づいて、発明者によって想像されたような、本明細書に開示されるハイドロゲル材料を用いた、声帯拡大についての好ましい実施態様は、声帯のより深い筋肉層への注入により密接に適合するためのインサイチューの架橋プロトコール、及びT−HA濃度を用いる。
手術手順
手術前−生物学的資源ユニット、雑種犬又はニュージーランド白色ウサギ(後述の実験によって決まる)を、到着後完全な環境純化のため、7日間維持した。LACUCに承認されたプロトコールによる、投薬前及び一般の麻酔の後、各動物をインキュベートし、外科的麻酔の第III段階に維持した。動物を仰臥位に位置した。しっかりつかみ、舌を上方に引っ込めた後、咽頭の良好な露出を提供するように、経口的にデド咽頭鏡を位置づけた。咽頭鏡の先端部を、真声帯の上方表面に数センチメートルに近づくよう位置させた。次いで咽頭鏡を一時停止させた。硬い、ビデオストロボ望遠鏡が、真声帯の上部に位置し、咽頭の検査及び画像処理を達成することを可能にする。
声帯修復−声帯修復について、側面のマイクロフラップは、イヌの両方の声帯中で上昇し、次いで、軟部組織の欠損は、基底膜及び下にある筋肉を含む、声帯質量の50%等量製造された。一方は、T−HAハイドロゲルを用いた軟部組織再構築(充填)を受け、反対側は、修復されていない(満たされていない)コントロールとして供給された。次いで、上皮が完全に連続となるように、マイクロフラップがハイドロゲルの上で再び覆われた。この研究は、基底層のレオロジー特性に近似させる、上述したように製造された食塩水(5%チラミン置換)中のエキソビボにおける、2.5mg/mlの架橋T−HAを用いた。手術後に、イヌを麻酔から引き離し、回復室に移動させた。動物は、IACUCに承認されたプロトコールにつき、1〜2日間鎮痛を受けた。
注射咽頭形成術療法−麻酔後、27ゲージの喉頭針を用いて、2.5mg/mlのエキソビボにおける架橋T−HAハイドロゲルの食塩水溶液(5%チラミン置換)約0.25mlを、ウサギの前部及び後部膜状声帯の左側に注射した。注射は、基底膜の表面層で行われた。
イヌ(声帯修復)及びウサギ(ILT)を用いた上記実験から得られた結果に基づき、開示されるハイドロゲル材料を用いた、声帯拡大についての以下の好ましい実施態様が発明者によって想像された。ILTについて、側方化され、萎縮した声帯が、食塩水中の未架橋T−HAハイドロゲルの50mg/ml溶液(5%チラミン置換)を、甲状披裂筋のレベルでペルオキシダーゼと共に注射された。好ましくは、ハイドロゲルの1つの塊が、所望のメディアリゼーションを得るために用いられたが2つを超えては用いられなかった。21ゲージの喉頭針が、ハイドロゲルを注射するために用いられた。架橋は、配向性の目的のために、21ゲージの針を用いて(回収されていない)移植されたハイドロゲルの塊の中心に、希釈した過酸化水素の少量を27ゲージの針を用いて注入することによって開始される。硬い移植片へのハイドロゲルの架橋は、数分以内に達成され、感触によって検査される。手術後に、動物を麻酔から引き離し、回復室に移動させた。動物は、IACUCに承認されたプロトコールにつき、1〜2日間鎮痛を受けた。安楽死の時に、各動物の声帯が慎重に解剖され、肉眼的に評価され、写真文書化された。
移植後データ
声帯修復−安楽死の時に、イヌの声帯が慎重に解剖され、肉眼的に評価され、写真文書化された。創傷治癒の程度は、炎症性浸透物、HA染色(正常なマトリックス生産)、ハイドロゲル染色及びコラーゲン染色(瘢痕)に特定の注意を払いながら、顧問病理学者によって組織学的に評価された。図8は、手術の3ヶ月後の1頭のイヌについてアルシアンブルーで染色した、コントロールの側(満たされていない)及び実験の側(T−HAハイドロゲル充填)の声帯の代表的な組織学的試験の結果を示す。全体の観察は、T−HAハイドロゲル処理した声帯についての、未処理コントロールと比較してより正常な外観及び振動特性を示す。組織学的試験の結果は、GAG(すなわちHA)の沈着の欠如によって示される傷跡に沿って、未処理のコントロールの声帯中に有意な瘢痕を示し、実験的に修復された声帯のT−HAを充填した傷跡と比較したときコラーゲン沈着が上昇した。
T−HAハイドロゲルの小さい焦点のみは、12週で実験的な声帯において見出すことができ、観察される周囲の肥満細胞の層と最小の異物反応を示す。これは、正常なHA含有組織マトリックスが同時に沈着をしたT−HAハイドロゲルの劣化を示す。しかし、低濃度(2.5ml/ml)、及び従って本研究で用いられるハイドロゲルの非常流体的な特性を考えると、上皮マイクロフラップが反対側の下にある組織を接合するとして、ハイドロゲルの多くが、部位の閉塞前に傷の部位から消失すると思われる。マイクロフラップと反対側の下にある組織との間のハイドロゲルは、実際は、傷の部位からのハイドロゲルの損失に寄与する接合工程を阻害すると予測される。従って、積極的な損傷治癒効果が見られるのは、ハイドロゲルの初期移植の容量充填塊ではなく、傷の部位において保持されるハイドロゲルの薄層のみによると信じられている。これらの結果は、瘢痕を防止し、基底膜のレオロジー特性に適合するためのハイドロゲルの能力を示している。
注射喉頭形成術療法(声帯拡大)−安楽死の時に、ウサギの声帯が慎重に解剖され、肉眼的に評価され、写真文書化された。顧問病理学者による組織学的評価は、炎症性の反応及びヒドロゲルの保持を評価するために用いた。手術後2週に拡大手順を受けたウサギの1匹についての、ハイドロゲル、及び通常の形態学のためのヘマトキシリン及びエオシン(H&E)を検出するためのアルシアンブルー染色を用いた、代表的な組織学的試験の結果を、図9に示す。図に示すように、T−HAハイドロゲルのポケットは、2週に注射された声帯において見出すことができ、観察される周囲の肥満細胞の層と最小の異物反応を示す。
実施例8
前述したように、網膜剥離等の硝子体網膜疾患の予防又は治療のために、目の硝子体腔を充填するため、T−HAハイドロゲルが、ウサギモデルに移植して実験を行った。以下は、この用途についての背景の簡単な議論の後に、実験方法及び得られた結果を含む、実験の記述である。
背景
組織の説明および合成材料の必要性
硝子体網膜疾患、例えば、網膜剥離、糖尿病性網膜症及びその他は、盲目の最も一般的な原因の1つである。目の硝子体腔は、通常、ゲル様基質で満たされている。網膜剥離の手術においては、硝子体は外科的に除去され(硝子体茎切除術と称される)、網膜は、目の後壁に対して再接着し、置換物質は硝子体腔に入される。硝子体材料は、目の硝子体腔中で多くの異なる目的のために用いられる。これらは、(1)網膜を目の後壁に並べておくために網膜の再付着手術後の長期のタンポナーデを達成する;(2)網膜裂孔の変性、網膜下の流体の除去、及び位置外れした眼内レンズ成分の浮揚及び除去を含む、術中手段;(3)長期間にわたって、目の後区における治療薬レベルを維持することができる徐放システムの開発を含む。
網膜再接着手術の後、硝子体代用品として、多くの種々の化合物が用いられる。これらの化合物は、成功した網膜の再接着を可能にする物理的特性を有するが、他の重要な外科的目標を欠いている。それらが目にある間、目に注入されたガスによって急速に短期の網膜タンポナーデを提供するが、急速に再吸収を提供し、重要な光学的歪みが生じる。パーフルオロカーボン液体は、剥離した網膜を平らにするための術中の道具であるが、長い期間、目の中に残されるとき、受け入れられない毒性が生じる。シリコーン油は、中期の網膜のタンポナーデとして用いられるが、毒性の危険性を保有し、重大な光の歪みが引き起こされる。
あるいは、硝子体代用品化合物は、目における、安全な、長期の又は徐放性薬剤送達媒体として好ましく用いられる。多くの目の慢性炎症性及び感染性状態、例えば、サルコイドーシス、特発性後部ブドウ膜炎、及びサイトメガロウィルス網膜炎は、薬物の眼内注射を必要とする。繰り返す眼内注射は、出血、網膜分離及び感染のような危険を引き起こす。安定した、非毒性媒体は、徐放性の硝子体内の薬物送達のために必要とされる。
ヒアルロナン(HA)は、ヒト及び他のほ乳類において、天然の硝子体の必須成分である、無細胞物質である。ヒアルロナンの製剤は、目の外科的手技において、既に一般に使用されている。例えば、ヒアルロン酸ナトリウムは、最も一般に用いられている、前区及び白内障の手術のための粘弾性の外科的装置である。残念なことに、ヒアルロン酸ナトリウム及び他の既に試験されたヒアルロナン置換体は、ヒトの組織において、比較的急速に溶解される。これらの物質は、長期のタンポナーデを提供できないために硝子体の手術に効果的であるとは判明しなかった。
実験の記述
所望の特性を有する、細胞外マトリックス材料の設計
硝子体代用品についての最も一般的な必要性は、網膜剥離手術にある。重要な課題は、手術後の長期間の目の壁に対する網膜平面の維持である。理想的な硝子体代用品は、回復期の間に最大の視力リハビリテーションが可能なように光学的に透明とすべきである。最後に、眼内で下方に生じる網膜剥離には特定の課題がある。手術後に、網膜が平坦なままであるために、硝子体代用品は、網膜裂孔の領域に、直接並べて配置しなければならない。下方の中断をタンポナーデするために、患者は手術の後の何週間もうつぶせで横たわらなければならないことが多い。使用中の硝子体代用品のいずれもが、今日、現在の臨床ニーズの全てを満たすというわけではない。
網膜剥離の手術を受けた患者において改良された手術の結果及び手術後の視力のリハビリテーションをもたらす、非毒性の光学的に透明な硝子体代用品の必要がある。
本明細書に開示されるような、チラミン置換及び架橋ヒアルロナン(T−HA)高分子ネットワークから製造されたハイドロゲルは、合成硝子体材料についての理想的な選択を示す。具体的には、上述した、ペルオキシダーゼ及びH22を用いた、チラミン置換ヒアルロナン高分子を架橋するための、新規な酵素駆動架橋化学は、得られたハイドロゲルをエキソビボで架橋し、動物組織中で安定を維持することを可能にする。例えば、ラットにおける研究は、この材料が、皮下注射された時、数ヶ月以上分解しないことを証明した(実施例9参照)。低濃度では、ハイドロゲルは光学的に透明であり、注射器又は硝子体切除ポートを通じて容易に注射され、水よりも高い比重を有する。これらの物理的特性は、T−HAゲルを硝子体置換のための理想的な基板とする。
上記実施例3で報告された制限圧縮試験のデータの一部分に基づいて、とりわけ、移植可能な合成硝子体材料を製造するために、天然の硝子体材料に適合する弾性及び他の物理的特性を有するジチラミン架橋ヒアルロナン分子の高分子ネットワークからなるT−HAハイドロゲルを設計することが可能である。
足場材料(HAのみ)、チラミン置換割合(〜5%)、HAのチラミン置換のためのプロトコール(実施例1からの修飾)、及び細胞及び生物学的に活性な因子の排除の選択は、実施例6に記載された。無菌食塩水中の2.5〜10mg/mlの範囲の濃度のT−HAハイドロゲルは、目の硝子体のレオロジー、光学(透明性、屈折率)及び重量(密度)特性に最も適合している。10mg/mlの濃度のT−HAハイドロゲルは、我々の臨床医の協力者の広範囲な臨床経験に基づいて最も適切であると判断された。インビトロの架橋ハイドロゲルは、我々の臨床医の協力者の経験に基づいて、インサイチューの架橋プロトコールよりも用いられる。この場合薄い、高度に特殊化された網膜における細胞層の潜在的な感受性を用いたインビトロ架橋は、実施例1に記載された。ハイドロゲル材料自身が光学的に透明で無色であるので、不溶性のステロイドが、手術工程の間、外科医による視覚化を許容するために、架橋T−HAに加えられた。
手術手順
硝子体代用品としてのハイドロゲル材料を評価するために、目の天然硝子体を上述したT−HAハイドロゲルで置換する、標準硝子体外科手術手技を用いてウサギに片側硝子体網膜手術(左目のみ)を受けさせた。全身麻酔(ケタミン:50mg/kg、キシラジン:5mg/kg)に続いて、ウサギを前処理して無菌法で覆った。左目を、ミドリアシル及びフェニレフリンで拡張させた。2滴の局所的なシロキサンを、ケースの前後に目に滴下した。局所的なプロパラカインを滴下した。顕微鏡操作の下、ウェスコットはさみを用いて、270°の結膜隔膜周囲切開術を実施した。注入ポートは、角膜輪部に対して2.5mm後部に形成され、注入カニューレは、7−0ビクリル縫合糸を用いて、強膜に固定された。レンズリングは、7−0ビクリル縫合糸を用いて、強膜に縫合された。30°プリズム硝子体切除レンズを、レンズリングの上に置いた。第二のポートを形成し、硝子体切除器具を硝子体腔中に挿入した。完全なコア及び周辺硝子体切除が実施された。このポイントで、ポートの1つが7−0ビクリル縫合糸を用いて縫合された。BSSボトルを患者レベルまで低下させ、BSS中の1.2ccの3mg/mlの保存剤を含まないトリアムノシノロンアセトニド(ステロイド)及びT−HAハイドロゲル(10mg/ml、5%チラミン置換)を、18ゲージ注射器を通して硝子体腔に注射した。ステロイドは、通常、可視化を可能にするため乳白色の外観を有して硝子体切除手術後に投与されるものと同じであるが、これは、そうでなければ光学的に透明なハイドロゲル材料を視認するためである。乳白色の溶液が注射されるにつれ、硝子体腔を充満状態にするのが直接に可視化された。注射は、50%充填、又はT−HA材料が洗浄カニューレを通って逆流した時に(100%充填)停止した。硝子体腔が充填された後、7−0ビクリル縫合糸を用いて、残留するポートを塞いだ。結膜を閉じるために、8−0ビクリル縫合線を用いた。閉じた後の目に、局所バシトラシン軟膏を配意した。局所抗生物質/抗菌軟膏を1週間目に塗布し、ウサギを回復ケージに置いた。ウサギが、胸骨の横臥位を回復した後、それは飼育用ケージに戻された。
移植後のデータ
移植の1ヶ月後、ウサギを、ケタミン(50mg/kg;その後、10mg/kg/時)及びキシラジン(5mg/kg、その後0.5mg/kg/時)を用いて麻酔し、点眼(1トロピカミド;2.5%フェニレフリン)により瞳孔を拡張し、角膜表層を点眼(0.5%プロパラカイン)を用いて麻酔した。完全な瞳孔拡張の後、網膜及び目の状態を間接検眼鏡、その後基底部写真によって調べた。更に、臨床的に用いられ、角膜表層と最小接触する装置、トノペンを用いて、眼圧(IOP)を測定した。最後に、ウサギは、1時間暗やみの中のあんかに置かれ、コントロール及び硝子体置換の両方の目に関して光のフラッシュへの反応が網膜電図(ERGs)により記録された。ERG電極は、角膜コンタクトレンズ、及び2個の白金の0.5インチガラス針電極からなり、頬及び躯幹中に配置される。麻酔を受けて静かな間、ウサギは、Beuthanasia D Special(1 ml/5 kg)の静脈の投与を用いることにより、安楽死させられた。次いで、コントロール及び硝子体置換された目は、細胞核を除去され、組織学的評価のために、24時間10%緩衝ホルマリンに固定された。
移植1ヶ月後の結果は、正常なIOPを有する外科的処置を受けた目の最小の術後炎症を示した。1週までに、手術していない目、及び実験的な目の後部分の制限的な視覚を形成するBSSコントロール手術の目に対して、硝子体置換された目の中に白内障が形成された。切断された目の全体の観察は、硝子体置換された目の前部分に白内障を示した(図10)。目の前部分の残部及び完全な後部分は、全体の観察により、同じように見られた(図10)。移植後1ヶ月において実験的目からハイドロゲルを回収したが、そのプレ注射形態と同様の透明のゲル様物質であった(図10)。硝子体置換された目のERGは、手術していないコントロールの目と比較して正常であり、網膜細胞が生存しており、機能が残っている事を示した(図11)。最後に、網膜4つの部分からの電子顕微鏡写真は、通常の手術していない目と比較して、硝子体置換した目からの網膜について正常な形態を示す(図12)。これらのデータは、T−HAハイドロゲルが目の感染や炎症を引き起こすことのなく、網膜に損傷を与えることなく硝子体置換体として用いることができて、T−HAハイドロゲルが、分離した網膜の再付着のための網膜タンポナーデとして用いることができる方法を例示することができることを示す。
関連の眼科学的用途
網膜再付着手術に続く、前述の網膜タンポナーデ用途に加え、本実施例に開示されるT−HAハイドロゲルは、以下の関連用途に用いることができよう。
・網膜裂孔の変性、網膜下液体の除去及び浮遊、及び移動した眼内レンズ成分の除去等の、術中処置のための硝子体置換として、
・サルコイドーシス、特発性後部ブドウ膜炎およびサイトメガロウィルス網膜炎等の、目の慢性炎症及び感染状態を治療するために治療薬(ステロイド、抗生物質、抗ウィル薬等)のレベルを維持するための徐放性薬物送達システムを、眼の後部に長期間、挿入する硝子体置換として、
・プラスチックポリマー挿入物の代用品としてなど、角膜屈折手術における前区手術用。外科的に角膜に移植された挿入物は、角膜の形態を変え、軽度の近眼を直すために用いられる。ヒトの組織を有するT−HAハイドロゲルの光学的透明性及び生体適合性により、挿入物はこの用途によく適するようになる。
・角膜の部分的又は全厚みの移植手順の置換として、例えば、感染、結膜炎又は他の原因による角膜の瘢痕の結果として必要とされる前区手術用。ハイドロゲルの光学的及び物理的特性により、それらは角膜組織置換としての用途と互換性を有するようになる。
・前部分および白内障手術の間の粘弾性装置として。低い濃度で、外科医が眼構造を明確に視覚化することを可能にすると共に、ハイドロゲルは前室形状および圧力を維持することができる。
・顔中のしわを滑らかにするための皮下注射を含む、目の美容整形手術のため。
・眼球除去又は免責手術を受けた患者における目の移植としての目の美容整形手術のため。ヒトの目の寸法に製造されたハイドロゲルは、眼窩を満たし、眼球除去後の人の美容的外観を向上させるための移植片として用いることができる。
・硝子体網膜手術に用いるMEMS装置を被覆するため。
・体積が正しい視力へ移動するよりもむしろ、角膜に加えられることを必要とするケースを含む、レーザーによる視力矯正手術(LASIK)の有用性を拡張するため。矯正レーザー手術は、ハイドロゲルの意図的に大きなプラグの移植後の最適な視覚結果に必要な正確な寸法を得るために用いる。
・典型的なガスの代わりとして、パーフルオロカーボン液及びシリコーン油は、目の手術におけるタンポナーデとして通常用いられる。これらの用途は以下のものを含むが、これらに限定されない:巨大網膜裂孔、増殖性硝子体網膜症(PVR)、「魚口」現象を伴う大きな破損、後部破損又は黄斑円孔、網膜下液体の排水後の眼内容積の修復、多発性破損を伴う全網膜剥離及び大きな経線しわ、眼球損傷、又はPVRを伴う又は脈絡膜欠損によって引き起こされる網膜剥離、レンズの移動、脈絡及び反転のある出血、PVRを伴わない裂孔原性網膜剥離、増殖性糖尿病性網膜症、深部低浸透圧慢性ブドウ膜炎、及び感染性網膜炎。
実施例9
インビボにおける持続性及び寿命を調査、証明及び宿主免疫応答を測定するために実験が行われ、上述したようなT−HAハイドロゲルのプラグが免疫適格性ラットに皮下的に移植された。上記に詳細に記載したように、架橋高分子ネットワークを含むハイドロゲル(チラミン置換及び架橋ヒアルロナンネットワークなど)は、物理的及び粘弾性特性の範囲を有して製造することができる。例えば、これらの材料は、天然の軟部組織を模倣するように調製することができ、整形外科又は再建手術等における軟部組織欠損の修復又は拡大のために用いることができる。特に、上の実施例3及び4において詳述するように、粘弾性、剛性および材料の他の物理的な特性は、多種多様な天然の軟部組織の類似特性を模倣すべく広範囲にわたり調整することができ、材料を様々な複合の解剖学的形状に鋳造するか形成して、それを代替物の鋳造又は再建した組織構成要素;例えば、顔の再構築のための耳又は鼻の形態として理想的にする。
既に、これらの材料が適当な形状に鋳造することができて、適当な物理的特性を与えることができたことは、記述した実施例から明白であるので、この実験はインビボで合成組織マトリックス又は置換材料としてT−HAハイドロゲルを使用することの実現可能性を示す。下記は、この用途についての背景の簡単な議論の後に、実験方法及び得られた結果を含む、実験の記述である。
背景
組織の説明および合成材料の必要性
軟部組織拡大、及び頭部及び頸部の再構築のための生体適合物質の入手可能性は、整形外科及び再建手術の分野の基本的な挑戦のままだった。適当な生物適合性及び寿命を有する材料の開発のために、重要な調査及び投資が行われた。組織工学における現在の焦点を、内在性軟骨をつくる方法および移植に役立つ構造を有するコラーゲンとして線維芽細胞及び軟骨細胞培養組織に対する試みにあてた。調査のこの通りの原型的な標準は、その後部上の新軟骨耳を有するヌードマウスであった。これは、ポリ−乳酸又はポリグリコール酸の骨組み上の軟骨細胞培養の概念に基づく。その仮定は、軟骨細胞が軟骨の生成のための細胞外マトリックス(ECM)を生産することができ、完全な互換性を有する新規な機能的生物学的充填薬剤を製造することができるということである。この調査の結果は、それらの臨床用途に対して保証がなかった。免疫適格動物において配置される場合に、骨組みが吸収されるにつれて、新軟骨の構造的完全性が損なわれることが示された。基本的に、軟骨細胞はうまく培養され、繁殖されるものの、それらは明らかに、宿主防衛機構によってその加水分解の前に骨組み上の軟骨を生成させることができない。
従来は、臨床医は、シリコーン、シラスティック及びハイドロキシアパタイト等の合成材料と同様に、ウシコラーゲン及び修飾されていないヒアルロナン(HA)等の異種材料の使用によって制限された。生物学的物質が、時間とともに崩壊する傾向がある場合、合成材料は異物反応及び感染の傾向がある。更に、合成PTFE(gortex)重合体及びシラスティックは、より少ない組織反応性を提供するが、組織統合を提供せず、更に異物感染及び押出の長期危険性を示し得る。
軟骨細胞が軟骨ECMを生産するために必要とする組織工学モデルの代わりに、本明細書において開示されるハイドロゲルは、軟骨にその機能性及び感触を提供する(HA)、同じ材料に基づくかまたは基づくことができる。本発明において、天然のHAが豊富な軟部組織に置き換えるための安定な組織工学材料生成のための物質として、ヒアルロナンが直接用いられる。本質的には、本明細書において用いられるHAをベースとするハイドロゲルは、軟骨にその形態及び構造上の特徴を与える同じ材料を組み込むが、材料を生物学的分解に抵抗するようにするために修飾される(チラミン置換及び架橋)。従って、インビボにおける移植に適した長寿の、理想的な合成細胞外マトリックス材料が達成される。
実験の記述
所望の特性を有する細胞外マトリックス材料の設計
開示されるHA材料に基づいて頭部及び頸部再建に用いられる合成軟部組織及び軟骨を提供するために、以下の点を考慮する:1)足場材料としてヒアルロナンを用いる酵素選択的架橋ハイドロゲルの最適化;及び2)軟骨代用品及び軟部組織フィラーとしてのT−HAハイドロゲルの用途。これらは、インビボにおける架橋ハイドロゲルの効果の特徴付けを含む。
また、実施例3において報告された制限圧縮試験のデータの一部に基づいて、とりわけ、免疫原性及び長寿特性を決定するインビボにおけるラット移植に適した、天然の軟部組織に適合する弾性及び他の物理的特性を有する、ジチラミン架橋ヒアルロナン分子の高分子ネットワークからなるT−HAハイドロゲルの設計が可能であった。
足場材料(HAのみ)、チラミン置換割合(〜5%)、HAのチラミン置換のためのプロトコールの選択(実施例1からの修飾)、及び細胞及び生物学的に活性な因子の排除は、実施例6に記載された。T−HAハイドロゲルの6.25〜100mg/mlの濃度範囲は、顔の再建のための材料に必要な広い範囲の物理的特性を包含する。従って、実施例3で用いた5つの濃度は、我々の臨床医の協力者の広範囲な臨床経験に基づいて皮下のラットモデルにおける試験について適切であると判断された。インビトロの架橋ハイドロゲルは、保形や、我々の臨床医協力者によって重要であると考えられた特性の解析のために定義された形態のハイドロゲルを製造すべく用いられた。インビトロ架橋は、実施例1に記載された。
外科手術の手順
定義された形態、質量及び容積(直径7mm及び厚み3mm)、及びHA濃度に基づく定義された機械的特性のT−HAハイドロゲルプラグを、免疫適格性ラットの背中に皮下的に外科的に移植し、コラーゲン及び他のHAをベースとするハイドロゲルの評価についての以前に出版されたプロトコールに基づいて、インビボの持続性及び宿主免疫応答を評価した。ケタミン(100mg/kg)及びキシラジン(5mg/kg)の腹腔内注射による麻酔の後、ラットは、感染予防のための60,000単位のプロカインペニシリンの1回の筋肉内注射を受けた。ラットのより低い木材領域において、#11の手術用の刃を用いて、1cmの刺切を製造した。14gの針が、ポケットをつくるために皮下の平面において精査する外套針として用いられた。試験されるHA濃度の1つのうちの3本の予め形成されたハイドロゲルプラグ(〜7.1mmの直径×3mm厚み)は、外科的なポケットに挿入された。1つの吸収性の縫い目(3−0クロム)を、皮膚端に再び近づけるために配置した。移植後、1週、1ヶ月、3ヶ月及び6ヶ月で、ラットをCO2で窒息させることによって犠牲にし、組織を囲むT−HAハイドロゲルプラグを切り取り、組織学的評価まで4°でホルマリン中で保存した。
移植後データ
試験されるハイドロゲル組成物は、6.25、12.5、25、50及び100mg/mlのHA濃度から製造されるプラグを含み、ゴム様材料に対してゲルからペーストまで変動する物理的性質を有するハイドロキシゲルプラグを生成した。移植されたT−HAハイドロゲルプラグは、移植後1週、1ヶ月、3ヶ月及び6ヶ月に集められた。切り取られたプラグは、インビボ持続性及び宿主免疫応答について評価された。
図13は、1ヶ月の時間ポイントからの100mg/mlのハイドロゲルプラグについての、H&E、アルシアンブルー、MC/ギムザ、モバット、レティキュラー、及びトリクロム染色に関する組織学的染色の代表的な結果を示す。明らかに、表層の毛包、表面的な筋肉層、ハイドロゲルプラグ、及び最小の異物反応の結果として、ハイドロゲルプラグを囲んでいる薄い繊維のカプセルは、図13において定義される。凍結切片を用いることにより回避することができる、パラフィン包埋処理からのハイドロゲルの収縮の結果として、混交産物が存在する。これらの結果は、プラグの周囲の肥満細胞の薄層のみに、ほんの少しの免疫応答を示し、宿主細胞がプラグ中へ浸潤した証拠はない。測定した場合、組織学的処理の間のプラグによって残される空間の容積は3mm(本来のプラグの厚み)であり、これは、ハイドロゲルマトリックスの生物分解又は変形がほとんどないか全くないことを示す。染色は、プラグが、ほとんどタンパク質、例えば、コラーゲン又はエラスチンを有しないことを示し、それらの範囲内で沈殿し、おもにHAハイドロゲルからなるままであった。これらの結果は、広い範囲を超えた5つの濃度のハイドロゲルプラグが、分解、宿主免疫応答、及び軟部組織再建に用いられ、広い範囲に注射可能な材料を提供する細胞浸潤の証拠が殆どないまま6ヶ月間持続したことを示す。
実施例10
本明細書に記載されたような、適切なジヒドロキシフェニル架橋化学によって架橋した、ヒアルロナン分子の架橋した(インサイチュー又はエキスビボ)高分子ネットワークからなる、本明細書に開示されるハイドロゲルが、種々の組織工学及び修復用途ための移植可能な合成細胞外マトリックス組織材料として適切であることは、先の議論及び実施例から明らかであろう。開示されるハイドロゲル材料が特定の有用性を有することについての特定のこのような用途は、心臓の僧帽弁の修復又は拡大である。
僧帽弁は、体内の最も複雑な結合組織構造のうちの1つである。それは、2枚の小葉及び多数の腱索からなる。これらの腱は、弾性繊維及び内皮細胞の高度に整列配置された膠原核及び薄い外殻を有する。両方の小葉は、心室側上に濃密な膠原層、心房側の優勢な弾性層、及び豊富なプロテオグリカン(PGs)及びヒアルロナン(HA)を含む内部海綿層を含んでいる積層組織である。これらの層の相対的な厚みは、2枚の小葉の間、更に、各小葉の範囲内で、その端からその自由端までの間で変化する。
異なる小葉の可変性は階層化しており、それゆえに、僧帽弁中の構成要素は、小葉及び腱の特定的な機能的役割によって決定される。閉じた弁は、張力及び圧縮加重のバランスを維持しており、前側小葉の腱及び平らな中心領域は伸張されているが、前側小葉のフリーの端及び後ろ側小葉の大部分は同格の圧縮である。従って、僧帽弁装置のほとんどの膠原性成分は、腱及び上部の同格の境界の間の前側小葉の部分である。後側小葉中で、及び前側小葉のフリーの端で、膠原層は、相対的に薄いが、PGが豊富な海綿は実質的に、より厚い。グリコサミノグリカン(GAGs)の広い多様性、及び親PGsは、細胞外マトリックスの物理的特性を超える、相当な可変性の制御を発揮する。
機能的僧帽弁閉鎖不全症(MR)は、左心室(LV)機能障害の結果としての構造的に正常な弁と共に発生する弁閉鎖不全であり、結果として、LV機能障害を患っている患者のほとんど半数が少なくとも中程度のMRを有する。機能的MRは、心臓病的状態及び死亡率の主要な原因である、うっ血性心不全(CHF)の病態生理学において中心的な役割を演じる。いくつかの研究は、CHFを患っている患者において機能的MRの存在が不良転帰と関連することを示す。この観察は、MRが、単にCHF重症度の指標であることを示唆するが、MRの発展がCHFの進行を促進することも、ますます明らかである。機能的MRの正確なメカニズムは議論の余地を残しており、進行性心室再構築に伴う、中隔−側部(S−L)軸又は小葉の範囲中の僧帽状環拡張に関連し得る。MRは、問題を悪化させる「悪循環」を作成して、漸進性僧帽状環膨張を有するLV及び増加するMRの容量負荷を導く。MRは、一般に、疾患の進行の進行中の推進力と同様に、CHFの発動因子のうちの1つであると考えられている。
外科的環状形成は、僧帽弁修復のために広く使われている方法であって、長期の利点を提供することができる。しかし、外科的手技は心房切開を経たアクセス及び弁環の操作を必要とする。加えて、手順は患者が心肺バイパス(CPB)に配置されることを必要とする。長引くCPB時間は、術後LV機能不全だけでなく主な臓器機能不全の原因として提案された。CPBの間のヘパリンの使用は、苦しい複雑化の増加する危険度を引き起こす。増加する病的状態および死亡率の側面は、多くの介添え人を、心不全患者の初期段階におけるMRの非治療的オプションに直接導く。
最近、僧帽弁修復の最小限の侵入方法が、いくつか開発された。例えば、数人の研究者は、胸の切開によるオフポンプ僧帽弁修復手順の事前の方法論を報告した。他は、僧帽状環のS−L寸法を減少するための、経皮的に冠状静脈洞及び大きな心臓静脈に挿入することのできる新規な装置を報告した。しかし、冠状静脈洞の装置の長期的な設置によって、冠状動脈循環の閉塞又は妨害のような副作用の可能性がある。
環状形成された環及び人工弁を用いた置換による僧帽弁修復を含む、機能的MRのための外科的治療は、CPBの効果による相対的に高い手術死亡率による厳しいCHFを患った患者において制限される。従って、冠循環を危うくせず、機能的MRと同様、MRの他の形態を減少するための僧帽状環のS−L寸法の減少を可能にする、最小の侵襲的手順が必要である。僧帽弁組織のミクソイド変化は、小葉脱出および僧帽状逆流につながることがあり得る。
本明細書に開示されるT−HAハイドロゲル材料は、この目的、すなわち、心外膜アプローチを用いた、後側僧帽状環への非吸収性物質の注射から引き起こされた僧帽状環再構築(すなわち、必要な粘弾性及び他の物理的特性を有するように設計されたT−HAハイドロゲル材料)に適していよう。この手順は、CPBを用いることなく、又は冠状静脈洞に装置を移植することなく、S−L寸法が効率的に減少すること、従ってMRの減少を可能にする。この僧帽状環を改造する手順を変更し、冠状静脈洞による物質の経皮的な注入を可能にした。
本明細書に開示されるようなT−HAハイドロゲルについてのこの用途は、通常の僧帽弁手術を受けることのできない、機能的MRを患っている重症のCHF患者に対し、冠状静脈洞を通して非吸収性の物質を経皮的に注射することができる。この最小限侵襲アプローチは、CPB及び胸骨切開の必要性を除去すると同時に、通常の手術療法からの主要な副作用、例えば手術後のLV機能障害及び結果としての乏しい器管潅流等といった危険性を減少する。加えて、このような手順は、患者に僧帽弁能力を早めに復元させるオプションを有する、軽度から中程度のCHFを提供し、破壊的な心不全の開始及び進行を抑える。
特に、本明細書に開示されるような架橋高分子ネットワークからなるハイドロゲル、特に、HAは、本出願にとって好ましいと考えられる、以下の特徴の全てを有するハイドロゲル材料を製造するために、上記実施例3において説明される原理に基づいて設計することができた。
・注射可能及び非吸収性
・低い程度の炎症反応
・異物移動の低い証拠
・移動を防止するために寄与するコラーゲン封入の容易性
・特に可鍛性がなく、特に硬くない。
拍動している心臓の僧帽弁を拡大するためのT−HAハイドロゲル材料の注射のためにひとつのプロトコールが設定された。そのプロトコールには以下のように記載されている。
注射手順−LV拡張終期及び収縮末期容量(EDV及びESV)、心拍出量(SV)、駆出率(EF)、僧帽状環のS−L寸法、及びMRの程度を評価するために、二次元の心外膜心エコー検査法(2DEE)及び経食道的心エコー検査(2DTEE)を実施する。LVP、LAP、中心静脈圧(CVP)、肺動脈圧(PAP)、肺毛細管せつ入圧(PCWP)、CO、LADフロー、及びLCXフロー等の血行力学的データが得られる筈である。LV拡張終期及び収縮末期圧力−容積関係は、LC収縮性及びコンプライアンスを評価するための閉塞カテーテルを用いて、一時的なIVC閉塞によって得ることができる(注射前のベースライン)。
オフポンプ冠状動脈バイパス移植のために用いられる市販の心臓スタビライザは、目標領域を安定させるために用いることができる。心臓が拍動している間、2DTEEガイダンスの下、未架橋のT−HAハイドロゲル組成物(食塩水中、50mg/ml)を、心臓の外側から後側の僧帽状環に注射する。注射の間、注射のための針先の位置、後側の僧帽状環中の物質によって占領される範囲を評価するために、2Dを用いることができる。一旦、僧帽弁の適切な充填及び再配置が達成されると、0.6%過酸化水素0.2ccの注射によって架橋が開始する。ハイドロゲル移植片の架橋の完了の後、血行力学、冠血流、LV圧力−容積ループ(LV P−Vループ)、2DEE、及び2D TEEが集められる筈である(注射後のデータ)。
前述の注射方法論は、開発されて、モデルとして死体のイヌおよびブタの心臓を使用して評価した。図14は、T−HAハイドロゲル材料が注射され、前述の注射法によってインサイチューで架橋される、死体のイヌの心臓を示す。この実験のためのT−HAハイドロゲル材料を製造するために、足場材料(HAのみ)、チラミン置換割合(〜5%)、HAのチラミン置換のためのプロトコール(実施例1からの修飾)、及び細胞及び生物学的に活性な因子の非取り込みは、実施例6に記載された。食塩水中の25、50及び100mg/mlの濃度のT−HAハイドロゲルは、僧帽弁閉鎖に必要な心臓(心臓)組織に最も適している。50mg/mlの濃度のT−HAハイドロゲルは、我々の臨床医の協力者の広範囲な臨床経験に基づいて、経皮的注射による僧帽弁再構築手順に最適であると判断された。ペルオキシダーゼは、後述するものとして、インサイチューの架橋プロトコールにおける応用の前に、10U/mlで加えられる。未架橋のT−HAが適切に大きさを設定された針を通過することができるにつれて、架橋されたハイドロゲルはそうではないが、インサイチュー架橋プロトコールは好ましい。更に、インサイチュー架橋プロトコールは、外科医が、先ず、未架橋ハイドロゲルを注射することによって、僧帽弁を適切に位置づけ(閉鎖)、次いで、僧帽弁が適切に別の場所に移されたことの視覚による確認後にはじめて、固い移植片にハイドロゲルを架橋することが可能となる。
図14において、移植されたハイドロゲルは、心臓の中への配置を評価するため、インサイチュー架橋に続いて、その固体、粘弾性特性を証明するための移植後に二分された。特に、これらのモデルが、1)両方とも架橋した後の心筋の整合性を模倣するが、架橋する前に注射ポートを通過することを必要とするヒドロゲルの適切な濃度を評価するため;2)必要な容積(〜2ml)でインビボで完全に架橋するためのインビボ架橋プロトコールのための再生産性を評価するため;及び適切な注射技術を開発するために用いられた。これらの目的は全て満たされ、注射手順が適切なT−HAハイドロゲルと同様に正確に僧帽状環への解剖学的制約を収めることができるという確信を得た。
上述の態様は好ましい態様を構成するが、特許請求の範囲に記載される本発明の精神および範囲から逸脱することなく、これに種々の変更または改変をなすことができることが理解されるであろう。
正常な健康なヒト軟骨の概略図である。 本発明のジヒドロキシフェニル架橋された高分子ネットワークの概略図である。 ヒアルロナン分子の構造式である。 関節軟骨プラグについて公表されている結果に対する、本発明のハイドロゲルの制限圧縮試験における機械的試験の比較結果を示すグラフである。 関節軟骨プラグについて公表されている結果に対する、本発明のハイドロゲルの制限圧縮試験における機械的試験の比較結果を示すグラフである。 関節軟骨プラグについて公表されている結果に対する、本発明のハイドロゲルの制限圧縮試験における機械的試験の比較結果を示すグラフである。 関節軟骨プラグについて公表されている結果に対する、本発明のハイドロゲルの制限圧縮試験における機械的試験の比較結果を示すグラフである。 T−HAハイドロゲル中に包埋された軟骨細胞のグルコース利用の比較データを示すグラフである。 関節軟骨欠損へT−HAハイドロゲルを移植するための手術手順を図示する写真である。 T−HAハイドロゲル移植片のユカタンブタの中間の滑車面への移植1ヶ月後の写真である。 合成声帯材料としてT−HAハイドロゲルを用いた移植3ヶ月後の、イヌの声帯の組織学的試験の結果を示す写真である。 合成声帯材料としてT−HAハイドロゲルを用いた、ウサギモデルにおける外科的拡張声帯の組織学的試験の結果を示す写真である。 合成硝子体材料としてT−HAハイドロゲルを用いた硝子体置換手術1ヶ月後の写真である。 ウサギモデルにおける光のフラッシュに応答する比較網膜電図(ERG)を示す。 合成硝子体材料としてT−HAハイドロゲルを用いた、硝子体置換手術1ヶ月後の網膜の電子顕微鏡写真である。 T−HAハイドロゲルプラグの皮下的な移植の組織学的試験結果の写真である。 僧帽弁修復のためのT−HAハイドロゲル材料を特定するために用いた死体のイヌの心臓の写真である。

Claims (37)

  1. 以下の式
    Figure 2008505716
    [式中、R1及びR2は、それぞれ、ポリカルボキシレート、ポリアミン、ポリヒドロキシフェニル分子、及びこれらのコポリマーからなる群より選択される構造を含み、ここで、R1及びR2は同じ構造であっても異なる構造であってもよい]
    を含む高分子ネットワークを含む、移植可能な合成組織マトリクス材。
  2. 1がポリカルボキシレートである、請求項1記載の移植可能な合成組織マトリクス材。
  3. 1がポリアミンである、請求項1記載の移植可能な合成組織マトリクス材。
  4. 1がポリフェノールである、請求項1記載の移植可能な合成組織マトリクス材。
  5. 1が、グリコサミノグリカンからなる群から選択される構造を含む、請求項1記載の移植可能な合成組織マトリクス材。
  6. 1がヒアルロナンを含む、請求項1記載の移植可能な合成組織マトリクス材。
  7. 1がコンドロイチン硫酸を含む、請求項1記載の移植可能な合成組織マトリクス材。
  8. 前記コンドロイチン硫酸が、アグリカンの形態である、請求項7記載の移植可能な合成組織マトリクス材。
  9. 高分子ネットワーク中に、更に生存可能な生細胞の集団を含む、請求項1記載の移植可能な合成組織マトリクス材。
  10. 高分子ネットワーク中に、更に生物活性因子を含む、請求項1記載の移植可能な合成組織マトリクス材。
  11. 請求項1記載の移植可能な合成組織マトリクス材を含む、移植可能な合成軟骨材料。
  12. 請求項1記載の移植可能な合成組織マトリクス材を含む、移植可能な合成声帯材料。
  13. 請求項1記載の移植可能な合成組織マトリクス材を含む、移植可能な合成硝子体材料。
  14. 請求項1記載の移植可能な合成組織マトリクス材を含む、移植可能な合成軟組織材料。
  15. 請求項1記載の移植可能な合成組織マトリクス材を含む、移植可能な合成僧帽弁材料。
  16. 前記ネットワークが、ヒドロキシフェニル化合物で置換されているポリカルボキシレート分子を含み、ここで、隣接するポリカルボキシレート分子にそれぞれ結合している2つのヒドロキシフェニル基の間に少なくとも1つのジヒドロキシフェニル結合が形成されている、請求項1記載の移植可能な合成組織マトリクス材。
  17. 前記ネットワークが、ヒドロキシフェニル化合物で置換されているポリアミン分子を含み、ここで、隣接するポリカルボキシレート分子にそれぞれ結合している2つのヒドロキシフェニル基の間に少なくとも1つのジヒドロキシフェニル結合が形成されている、請求項1記載の移植可能な合成組織マトリクス材。
  18. 前記ポリカルボキシレート分子が、前記ポリカルボキシレート分子上に存在するCO2H部位のモル量に基づいて10パーセント未満のヒドロキシフェニル化合物置換率を有する、請求項16記載の移植可能な合成組織マトリクス材。
  19. 前記高分子ネットワークが、複数のチラミン置換ヒアルロナン分子を含み、少なくとも2つの隣接するヒアルロナン分子がジチラミン結合により結合している、請求項1記載の移植可能な合成組織マトリクス材。
  20. 請求項19記載の移植可能な合成組織マトリクス材を含む、移植可能な合成軟骨材料。
  21. 請求項19記載の移植可能な合成組織マトリクス材を含む、移植可能な合成声帯材料。
  22. 請求項19記載の移植可能な合成組織マトリクス材を含む、移植可能な合成硝子体材料。
  23. 請求項19記載の移植可能な合成組織マトリクス材を含む、移植可能な合成軟組織材料。
  24. 請求項19記載の移植可能な合成組織マトリクス材を含む、移植可能な合成僧帽弁材料。
  25. 前記ヒアルロナン分子上のチラミン置換比率が、前記ヒアルロナン分子上に存在するCO2H部位のモル量に基づいて約10%以下である、請求項19記載の移植可能な合成組織マトリクス材。
  26. 前記ヒアルロナン分子上のチラミン置換比率が、前記ヒアルロナン分子上に存在するCO2H部位のモル量に基づいて約5%以下である、請求項19記載の移植可能な合成組織マトリクス材。
  27. 1及びR2が、それぞれ、ヒドロキシルフェニル置換ヒアルロナンを含む、請求項1記載の移植可能な合成組織マトリクス材。
  28. 1及びR2のそれぞれについてのヒアルロナン分子が、それに結合したアグリカンを有する、請求項27記載の移植可能な合成組織マトリクス材。
  29. 前記ヒドロキシフェニル−置換ヒアルロナンが、10%未満のヒドロキシフェニル置換率を有する、請求項27記載の移植可能な合成組織マトリクス材。
  30. 前記ヒドロキシフェニル−置換ヒアルロナンが、5%未満のヒドロキシフェニル置換率を有する、請求項27記載の移植可能な合成組織マトリクス材。
  31. 前記ヒドロキシフェニル−置換ヒアルロナンが、チラミン置換ヒアルロナンである、請求項27記載の移植可能な合成組織マトリクス材。
  32. 前記チラミン置換ヒアルロナンが、10%未満のチラミン置換率を有する、請求項31記載の移植可能な合成組織マトリクス材。
  33. 前記チラミン置換ヒアルロナンが、5%未満のチラミン置換率を有する、請求項31記載の移植可能な合成組織マトリクス材。
  34. 1及びR2が、それぞれ、ヒドロキシルフェニル−置換コンドロイチン硫酸を含む、請求項1記載の移植可能な合成組織マトリクス材。
  35. 1及びR2のそれぞれのコンドロイチン硫酸硫酸が、アグリカンの形態である、請求項34記載の移植可能な合成組織マトリクス材。
  36. 前記ヒドロキシルフェニル−置換コンドロイチン硫酸が、チラミン−置換コンドロイチン硫酸である、請求項34記載の移植可能な合成組織マトリクス材。
  37. 前記チラミン置換コンドロイチン硫酸が、10%未満のチラミン置換率を有する、請求項36記載の移植可能な合成組織マトリクス材。
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