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JP2008133358A - 油性ゲル化剤、それを用いて得られたゲル組成物及びそれらの用途 - Google Patents

油性ゲル化剤、それを用いて得られたゲル組成物及びそれらの用途 Download PDF

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JP2008133358A JP2006320082A JP2006320082A JP2008133358A JP 2008133358 A JP2008133358 A JP 2008133358A JP 2006320082 A JP2006320082 A JP 2006320082A JP 2006320082 A JP2006320082 A JP 2006320082A JP 2008133358 A JP2008133358 A JP 2008133358A
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Abstract

【課題】各種の油脂類やシリコーンオイルなどを効果的にゲル化させる油性ゲル化剤、この油性ゲル化剤を用いて得られたゲル組成物及びそれらの用途を提供する。
【解決手段】質量比30:70〜70:30のパルミチン酸とベヘン酸を構成脂肪酸とすると共に、好ましくはベヘン酸の60%以上がsn−2位置に存在するトリグリセリド70質量%以上を含み、かつヨウ素価が10以下である油脂からなる油性ゲル化剤、該油性ゲル化剤0.1〜50質量%を含有するゲル組成物、前記ゲル化剤を含む油中水型又は水中油型乳化組成物、及び非水型の起泡性組成物である。
【選択図】なし

Description

本発明は、油性ゲル化剤、それを用いて得られたゲル組成物及びそれらの用途に関する。さらに詳しくは、本発明は、特定の高級飽和脂肪酸を構成脂肪酸とするトリグリセリドを70質量%以上含む油脂からなる油性ゲル化剤、この油性ゲル化剤を用いて得られたゲル組成物、該油性ゲル化剤を含み、乳化剤を用いなくてもよい油中水型又は水中油型乳化組成物、該ゲル組成物を含む非水型の起泡性油脂組成物、及び前記油性ゲル化剤を含む食品用基材や化粧品用基材に関するものである。
従来、含油ゲル状組成物は、食品、機能性食品、化粧品、医薬品などの様々な分野において利用されている。例えば、化粧品分野においては、油性ゲル化化粧料として、口紅、頬紅、アイカラーなどのメーク品をはじめ、ポマード、リップクリーム、アイクリーム、さらにはゲル状のスキンローション、アストリンゼット、マッサージクリーム、栄養クリーム、マスクパックなどがある。また、食品分野においては、マーガリン、バタークリーム、ホイップクリーム、アイスクリームなどがあり、医薬品分野においては、皮膚科用の軟膏剤などが知られている。
このような含油ゲル状組成物の形成には、一般に油性ゲル化剤が用いられる。例えば炭素数20以上の脂肪酸のエステルを含有する油脂固化剤が開示されている(例えば、特許文献1参照)。この公報においては、炭素数20以上の脂肪酸のエステルとして、アラキン酸、ベヘン酸等とプロピレングリコール、グリセリン、ソルビタン、ペンタエリスリトール、ジグリセリン等とのエステル、具体的には、グリセリンモノベヘン酸エステル、ソルビタンジアラキン酸エステル等が例示されている。
一方、消費者のニーズとして天然物を好む傾向があり、そのため天然由来の油脂を水素添加することによりゲル化剤として使用される物質も存在する。天然由来の油脂でゲル化を発現する物質は希で、ハイエルシン菜種硬化油や魚油硬化油が挙げられるが、ゲルとしての保形性は非常に弱い。
ところで、油中水型エマルション(例えば、各種マーガリン、バタークリーム等)の製造には、乳化剤が必須とされており、通常グリセリン脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、レシチン、プロピレングリコール脂肪酸エステル、シュガーエステル等の乳化剤が単独又は混合して用いられている。
また、ケーキのデコレーション、トッピング、パンや菓子のフィリング用など、製菓、製パンの分野においては、油脂を乳化した水中油型エマルションが多く用いられている。この水中油型エマルションに対しては、保存中の乳化安定性が求められる一方、ホイップ時には乳化が破壊されやすい(解乳化が生じやすい)という相反する物性が要求され、このような物性を満たすために、従来前記乳化剤の使用が必須とされていた。
しかしながら、一般にこのような乳化剤を用いた場合には、乳化剤に起因する異味、異臭の問題がある上、近年、消費者の食品の安全性に関する意識の高まりとともに、乳化剤を使用しない製品の開発が望まれるようになっている。
そこで、乳化剤を使用しない油中水型エマルションとして、油相部に微細な結晶を維持する高融点油脂5〜100重量%を含有することを特徴とする乳化剤無添加油中水型エマルション(例えば、特許文献2参照)が開示されており、また、トリグリセリド成分として、オレオイルジパルミトイルグリセリンとパルミトイルジオレオイルグリセリンとを合計で40重量%以上、トリパルミトイルグリセリンを1重量%以下含有し、オレオイルジパルミトイルグリセリンとパルミトイルジオレオイルグリセリンとの割合が、重量比でオレオイルジパルミトイルグリセリン:パルミトイルジオレオイルグリセリン=2:1〜1:1.5である油脂を、融点30〜38℃に硬化した硬化油を20〜80重量%含有する油相と水相が水中油型に乳化されていることを特徴とする水中油型乳化物(例えば、特許文献3参照)が開示されている。
しかしながら、このような乳化剤を使用しない方法では、目的のエマルションやホイップを形成するのに、油脂に対して多くの添加剤(ゲル化剤)を必要とするなどの問題がある。
さらに、常温で液体状態の非水型の起泡性油脂組成物もポリグリセリン脂肪酸エステル、グリセリン脂肪酸有機酸エステル等を使用して検討されているが(例えば、特許文献4参照)、未だに起泡性の高い組成物を形成するための添加剤は見いだされていないのが実状である。
特開2000−119687号公報 特開平10−295271号公報 特開2005−204543号公報 特開2003−333988号公報
本発明は、このような事情のもとで、各種の油脂類やシリコーンオイルなどを効果的にゲル化させる油性ゲル化剤、この油性ゲル化剤を用いて得られたゲル組成物、該油性ゲル化剤を含み、乳化剤を用いなくてもよい油中水型又は水中油型乳化組成物、該ゲル組成物を含む非水型の起泡性油脂組成物、及び前記油性ゲル化剤を含む食品用基材や化粧品用基材を提供することを目的としてなされたものである。
本発明者らは、前記目的を達成するために鋭意研究を重ねた結果、下記の知見を得た。
(1)パルミチン酸トリグリセリド単独又はベヘン酸トリグリセリド単独では、ゲル化能に著しく劣るが、特定の割合のパルミチン酸とベヘン酸とを構成脂肪酸とし、かつ好ましくは特定の分子構造を有するトリグリセリドを70質量%以上含む、ヨウ素価が10以下の油脂は、予想外にゲル化能が高く、油性ゲル化剤として、その目的に適合し得ること、
(2)ドコサヘキサエン酸を産生するスラウストキトリウム(Thraustochytrium)属、好ましくはKH105菌株又はCB15−5菌株の菌体から得られる油脂を水素添加することにより、天然由来の油性ゲル化剤が得られること、
(3)前記油性ゲル化剤を、被ゲル化油に特定量含有させることにより、所望のゲル組成物が得られること、
(4)前記油性ゲル化剤を用いることにより、乳化剤を使用しなくとも、油中水型又は水中油型乳化組成物、あるいはそれらの起泡性組成物が容易に得られること、
(5)前記ゲル組成物を用いることにより、非水型の起泡性油脂組成物が容易に得られること、
(6)前記油性ゲル化剤を用いることにより、各種の食品用基材や化粧品用基材が得られること、
を見出した。
本発明は、かかる知見に基づいて完成したものである。
すなわち、本発明は、
[1]質量比30:70〜70:30のパルミチン酸とベヘン酸を構成脂肪酸とするトリグリセリド70質量%以上を含み、かつヨウ素価が10以下である油脂からなる油性ゲル化剤、
[2]トリグリセリドが、ベヘン酸の60%以上がsn−2位置に存在するものである上記[1]項に記載の油性ゲル化剤、
[3]油脂が、ドコサヘキサエン酸を産生するスラウストキトリウム(Thraustochytrium)属の菌体から得られる油脂を水素添加してなる硬化油である上記[1]又は[2]項に記載の油性ゲル化剤、
[4]スラウストキトリウム属の菌体が、KH105菌株又はCB15−5菌株の菌体である上記[3]項に記載の油性ゲル化剤、
[5]上記[1]〜[4]項のいずれかに記載の油性ゲル化剤0.1〜50質量%を含有することを特徴とするゲル組成物、
[6]上記[1]〜[4]項のいずれかに記載のゲル化剤を含むことを特徴とする油中水型又は水中油型乳化組成物、
[7]起泡性を有する上記[6]項に記載の油中水型又は水中油型乳化組成物、
[8]上記[5]項に記載のゲル組成物を含むことを特徴とする非水型の起泡性油脂組成物、
[9]上記[1]〜[4]項のいずれかに記載の油性ゲル化剤を含むことを特徴とする食品用基材、及び
[10]上記[1]〜[4]項のいずれかに記載の油性ゲル化剤を含むことを特徴とする化粧品用基材、
を提供するものである。
本発明によれば、特定の組成を有し、好ましくは特定の分子構造を有する高級飽和脂肪酸トリグリセリドを含む油脂からなる油性ゲル化剤、この油性ゲル化剤を用いて得られたゲル組成物、該油性ゲル化剤を含み、乳化剤を用いなくてもよい油中水型又は水中油型乳化組成物、該ゲル組成物を含む非水型の起泡性油脂組成物、及び前記油性ゲル化剤を含む食品用基材や化粧品用基材を提供することができる。
本発明の油性ゲル化剤は、質量比30:70〜70:30のパルミチン酸とベヘン酸を構成脂肪酸とすると共に、好ましくはベヘン酸の60%以上がsn−2位置に存在するトリグリセリド70質量%以上を含み、かつヨウ素価が10以下である油脂からなることを特徴とする。
なお、「油性ゲル化剤」とは、油溶性ないし油分散性であって、油相に溶解ないし分散して、該油相をゲル化する作用を有する物質のことである。
本発明の油性ゲル化剤においては、油脂中のトリグリセリドは、質量比30:70〜70:30のパルミチン酸とベヘン酸を構成脂肪酸とし、好ましくはベヘン酸の60%以上がsn−2位置に存在する。このような分子構造のトリグリセリドは優れたゲル化能を有しており、ゲル化能の観点から、構成脂肪酸におけるパルミチン酸とベヘン酸との割合は、質量比で35:65〜65:35が好ましく、また、ベヘン酸の65%以上がsn−2位置に存在することがより好ましい。なお、sn−2位置とは、トリグリセリドにおけるグリセリン部分の2級炭素に結合したエステル結合の位置を指す。
また、油脂における前記トリグリセリドの含有量は70質量%以上であることを要す。この含有量が70質量%未満であれば、十分なゲル化能が発揮されず、本発明の目的が達せられない。
さらに、当該油脂は、ヨウ素価が10以下であることを要す。このヨウ素価が10を超えると不飽和結合を有する脂肪酸グリセリドの含有量が多くなって、十分なゲル化能が発揮されず、本発明の目的が達せられない。好ましいヨウ素価は5以下である。
なお、前記ヨウ素価は、基準油脂分析試験法に従い、測定した値である。
本発明の油性ゲル化剤の融点は、該ゲル化剤を構成する油脂中のトリグリセリドの分子構造により異なるが、通常45〜70℃程度、好ましくは50〜60℃である。
本発明の油性ゲル化剤が適用される被ゲル化油については、常温で液状であればよく特に制限されず、例えば植物油、動物油、炭化水素油、エステル油、シリコーン油などが挙げられる。
植物油としては、例えば大豆油、菜種油、カカオ脂、綿実油、パーム油、ひまし油、ごま油、ホホバ油、オリーブ油、サフラワー油、アーモンド油、アボカド油、椿油などが挙げられ、動物油としては、例えば牛脂、ラード、魚油、スクワレン、ミンク油、タートル油、卵黄油などが挙げられる。
炭化水素油としては、例えば流動パラフィン、スクワラン、スクワレン、ワセリンなどが挙げられ、エステル油としては、例えばオクチルデシルミリステート、イソプロピルパルミテート、ブチルステアレート、セチルイソオクタノエート、ネオペンチルグリコールジイソオクチレート、グリセリルトリイソオクチレートなどが挙げられ、シリコーン油としては、例えばジメチルポリシロキサン、メチルフェニルポリシロキサン、メチルハイドロジェンポリシロキサンなどが挙げられる。
また、本発明の油性ゲル化剤は、前記被ゲル化油を混合、分別、エステル交換、水素添加したものにも適用可能である。
本発明の油性ゲル化剤の使用量は、前記の被ゲル化油との合計量に対して、通常0.1〜50質量%程度である。この量が0.1質量%未満ではゲル化が生じにくく、50質量%を超えると硬く固化して使用しにくくなる場合がある。好ましい使用量は0.5〜10質量%である。
本発明の油性ゲル化剤は、合成品であってもよく、天然由来品であってもよい。合成品のゲル化剤の場合には、例えばパルミチン酸とベヘン酸とグリセリンを用い、これらを従来公知の方法で反応させて、所定の分子構造を有するトリグリセリドを形成させることにより、所望のゲル化剤を製造することができる。
一方、天然由来品の場合には、例えばドコサヘキサエン酸を産生するスラウストキトリウム(Thraustochytrium)属、好ましくはKH105菌株又はCB15−5菌株を、従来公知の方法により培養したのち、培養液中の菌体からドコサヘキサエン酸含有油脂を、従来公知の方法により抽出し、次いで水素添加して、ヨウ素価が10以下の硬化油とすることにより、所望の天然由来のゲル化剤を得ることができる。
前記のスラウストキトリウム属の中で、KH105菌株及びCB15−5菌株が、工業的な面から、特に有利である。
[ドコサヘキサエン酸含有油脂の製造]
スラウストキトリウム属菌株の増殖は、当該菌株を天然海水又は人工海水で調製した適当な培地に接種して、常法にしたがって培養することにより行うことができる。培地に接種する種菌の量は特に限定されないが、好ましくは培養培地1リットル当り80g以上であり、さらに好ましくは培養培地1リットル当り100g以上である。このような条件で培養を行うことにより、油脂の生産量を増大させることができる。
培地としては、公知のものをいずれも使用できる。例えば、炭素源としてはグルコース、フルクトース、サッカロース、デンプンなどの炭水化物の他、オレイン酸、大豆油などの油脂類や、グリセロール、酢酸ナトリウムなどが例示できる。これらの炭素源は、例えば、培地1リットル当たり20〜300gの濃度で使用することができる。特に好ましい態様によれば、炭素源濃度の異なる2種類の培地を用いて培養を行うことができ、例えば、炭素源濃度が4〜7質量%の培地で培養した後、炭素源濃度が13〜20質量%の培地で引き続き培養を行うことができる。このような条件で培養を行うことにより、油脂の生産量を増大させることができる。
また、窒素源としては、酵母エキス、コーンスティープリッカー、ポリペプトン、グルタミン酸ナトリウム、尿素等の有機窒素、又は酢酸アンモニウム、硫酸アンモニウム、塩化アンモニウム、硝酸ナトリウム、硝酸アンモニウム等の無機窒素を使用することができる。無機塩としては、リン酸カリウム等を適宜組み合わせて使用できる。
また、ドコサヘキサエン酸の産生を促進するため、ドコサヘキサエン酸の前駆体を培地に添加することができる。前駆体としては、テトラデカン、ヘキサデカン、オクタデカンなどの炭化水素、テトラデカン酸、ヘキサデカン酸、オクタデカン酸、オレイン酸などの脂肪酸、またはその塩(例えば、ナトリウム塩またはカリウム塩)、脂肪酸エステル、または脂肪酸を構成成分として含む油脂(例えば、オリーブ油、大豆油、綿実油、ヤシ油)などを挙げることができるが、これらに限られるものではない。
上記の培地は、調製後、適当な酸又は塩基を加えることによりpHを4.0〜9.5程度に調整した後、オートクレーブにより殺菌して使用することが好ましい。
菌の培養温度は一般的には10〜45℃であり、好ましくは20〜37℃である。培養温度は、目的油脂組成を生産しうる培養温度に制御することが好ましい。培養時のpHは一般的には3.5〜9.5であり、好ましくはpH4.5〜9.5である。
培養期間は、例えば3〜7日間とすることができ、通気撹拌培養、振とう培養又は静置培養で培養を行うことができる。
このようにして、培養物中にドコサヘキサエン酸含有油脂を高濃度に蓄積した菌体が、培地1リットル当たり乾燥菌体重量で、一般的には4〜60g程度と、高い濃度で生産される。培養物から培養液と菌体とを分離する方法は、当業者に公知の常法により行うことができ、例えば、遠心分離法やろ過などにより行うことができ、特に遠心分離法が好適である。
上記の培養物から分離した菌体を、例えば、超音波やダイノミルなどによって破砕した後、例えば、クロロホルム、ヘキサン、ブタノール等による溶媒抽出を行うことにより、ドコサヘキサエン酸含有油脂を得ることができる。
乾燥菌体100g当たりのドコサヘキサエン酸含有油脂の含有量は、10〜80g程度であり、培地1リットル当たりのドコサヘキサエン酸含有油脂の生産量は、0.4〜48g程度に達する。
このようにして得られたドコサヘキサエン酸含有油脂を、水素添加して、ヨウ素価が10以下の硬化油とする。この水素添加方法としては、従来魚油を水素添加して硬化油とする方法を適用することができる。例えば、ケイソウ土に担持された還元ニッケル触媒を用い、水素圧力0.05〜1MPa(ゲージ圧)程度、温度140〜200℃の条件で1〜3時間程度水素添加する方法を採用することができる。
スラウストキトリウム属のCB15−5菌株を用いて得られたドコサヘキサエン酸含有油脂の硬化油の1例(飽和脂肪酸トリグリセリド、ヨウ素価:4.6、融点56.2℃)における飽和脂肪酸組成を示すと次のとおりである。
炭素数14の脂肪酸:2.2質量%、炭素数15の脂肪酸:6.0質量%、炭素数16の脂肪酸:45.0質量%、炭素数17の脂肪酸:2.7質量%、炭素数18の脂肪酸:2.3質量%、炭素数20の脂肪酸:2.0質量%、炭素数22の脂肪酸:39.9質量%
なお、炭素数22の脂肪酸(ベヘン酸)の67%がsn−2位置に存在する。
次に、本発明のゲル組成物について説明する。
本発明のゲル組成物は、前述の被ゲル化油に対し、本発明の油性ゲル化剤を、該被ゲル化剤との合計量に基づき、0.1〜50質量%、好ましくは0.5〜10質量%添加し、被ゲル化油に完全に溶解させたのち、急冷固化し、溶解した油全体の融点より10℃、好ましくは、5℃低い状態でテンパリングをすることでゲルが発現する。これは、ゲル化剤が急冷固化することで、微細結晶α型を形成し、テンパリングすることにより結晶がβ型に転移することにより、ゲル化剤が油中でネットワークを構築するためである。したがって、溶解後の油を固化する冷却速度が徐冷の場合や、テンパリング温度が低い場合、もしくはテンパリング温度がゲル化剤の融点以上の場合は、ゲルは発現しない。
このようにして、本発明のゲル組成物を得ることができる。
本発明のゲル組成物は、様々な分野で用いることができ、例えば化粧品分野においては、口紅、リップクリーム、ファンデーション、頬紅、アイシャドウ、コンシーラー、整髪料、芳香剤などに好適である。
本発明のゲル組成物には、その用途に応じて各種成分、例えば溶剤、多価アルコール、殺菌剤、防腐剤、紫外線吸収剤、色素、香料、薬効成分、光沢剤などを適宜添加することができる。
本発明の油中水型又は水中油型乳化組成物は、前記本発明のゲル化剤を含むことを特徴とする。
本発明の油中水型乳化組成物は、例えば、以下に示す方法により製造することができる。
まず、所定の割合の被ゲル化油と本発明のゲル化剤を適当な温度で加熱混合し、油相部を調製したのち、油相部100質量部に対し、水0.5〜100質量部程度を加え、例えばホモゲナイザーなどにより乳化処理し、次いで冷却、捏和することにより、乳化剤無添加の油中水型乳化組成物が得られる。このようにして得られた油中水型乳化組成物には、容易に起泡性を付与することができる。
本発明の油中水型乳化組成物は、例えばマーガリン、バタークリーム、ショートニングなどの作製に好適である。この場合、被ゲル化油としては、例えば、ナタネ油、大豆油、トウモロコシ油、綿実油、サフラワー油、ヒマワリ油、パーム油、パーム核油、オリーブ油、米糠油、カポック油、ヤシ油、魚油、卵黄油等又はこれらを原料として分別、水添等をおこなった油脂、あるいはこれらの混合油が使用できる。またこれらの油脂を含み、他の油脂等とエステル交換を行って得られた油脂についても使用することができる。
さらに、必要に応じ、水相及び油相にキサンタンガム、カラギーナン、ファーセラン、アルギン酸塩、寒天、ペクチン、グアーガム、カラヤガム、タマリンドガム、タラガム、カゼインソーダ、カルボキシメチルセルロース、ローカストビーンガム、アラビアガム、ガムエレミ、ガムカナダ、ガムダマール等の増粘剤を添加、併用しても良いし、更に呈味剤として各種の香料、乳関連物質、例えば全脂粉乳、脱脂粉乳、発酵乳、各種塩類、乳脂肪等を添加、併用しても良い。また、上記以外の原材料としては、通常の油中水型エマルションに使用される酸化防止剤、着色料等を用いることができる。
一方、本発明の水中油型乳化組成物は、例えば以下に示す方法により製造することができる。
この水中油型乳化組成物は、前述の油中水型乳化組成物の製造において、油相と水相の量を、質量比で0.5:99.5〜50:50程度になるように変更する以外は、同様な処理を行い、乳化剤無添加水中油型乳化組成物を製造することができる。この水中油型乳化組成物には、容易に起泡性を付与することができる。
本発明の水中油型乳化組成物は、例えばホイップクリームとして、ケーキ等洋菓子のデコレーションやトッピング、シュークリーム、菓子パン等でのフィリング素材として使用されることが主な目的となるが、コーヒー用のホワイトナーやパンの練り込み用やホワイトソースに天然の生クリームのように乳化物の状態で利用することも可能である。
次に、本発明の非水型の起泡性油脂組成物は、被ゲル化油に、本発明のゲル化剤を所定量加え、急冷、テンパリング操作を行い、ゲル組成物を得たのち、起泡処理することにより、製造することができる。起泡処理の方法に特に制限はなく、例えばハンドミキサーや縦型ミキサーなどの混合撹拌機により、容易に起泡させることができる。また、窒素ガス、炭酸ガス等を充填したエアゾールによっても容易に起泡させることができる。
このようにして得られた非水型の起泡性油脂組成物としては、例えば食品分野における調味油起泡組成物などとして好適である。具体的には、調味油、天板油、トッピング用クリーム、ショートニングなどである。この場合、当該起泡性油脂組成物には、必要に応じ、各種添加成分、例えばグリセリン脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、プロピレングリコール脂肪酸エスエル、ポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル等の乳化剤、水あめ、ショ糖等の糖類、小麦粉等の穀類、全粉乳、脱脂粉乳等の乳成分、食品素材、食品添加物、香辛料、調味料、防腐剤、着色剤、酸化防止剤、香料などを添加することができる。
本発明はまた、前述した本発明の油性ゲル化剤を含むことを特徴とする食品用基材及び化粧品用基材をも提供する。
本発明の食品用基材や化粧品用基材を用いて得られる食品及び化粧品については、前述で説明したとおりである。
次に、本発明を実施例により、さらに詳細に説明するが、本発明は、これらの例によってなんら限定されるものではない。
なお、各例におけるゲル化能は、以下に示す方法に従って求めた。
<ゲル化能>
ゲル化能力の試験を下記の方法により、オリーブ油、ホホバ油、流動パラフィン、スクワラン、シリコーン油、イソステアリン酸イソプロピル、2−オクチルドデカノール、オレイン酸に対して行なった。試験管に各被ゲル化油を入れ、合計量に基づき1、2、3、4、5質量%の濃度になるように、試験用サンプルを秤量して加え、70℃まで加熱混合溶解後10℃まで急冷固化し60分保持する。その後、35℃にて60分間のテンパリングを行い、室温に24時間静置後、目視で観察し、下記の判定基準でゲル化能を評価した。
GS:試験管を90度に傾けた場合、ゲル化して流動性がない。
GL:ゲル化するが流動性がある。
×:ゲル化を起こさず、液体状態である。
なお、使用した被ゲル化油の由来を以下に示す。
オリーブ油:横関油脂工業株式会社「精製オリーブ油」
ホホバ油:横関油脂工業株式会社「精製ホホバ油」
流動パラフィン:和光純薬工業株式会社「流動パラフィン」
スクワラン:日光ケミカルズ株式会社「NIKKOL スクワラン」
シリコーン油:信越化学工業株式会社「KF−96ADK−100CS」
イソステアリン酸イソプロピル:ユニケマ「PRISORINE 2021」
2−オクチルドデカノール:花王株式会社「カルコール200GD」
オレイン酸:和光純薬工業株式会社「オレイン酸」
実施例1
スラウストキトリウム属のCB15−5菌株を用い、下記に示す培養、培養菌体からのドコサヘキサエン酸含有油脂の抽出及び該油脂の水素添加の操作を行い、天然由来の油性ゲル化剤を製造した。
(1)CB15−5菌株の培養
培地7L(12質量%グルコース、0.5質量%ポリペプトン、0.25質量%酵母エキス、1.8質量%人工海水塩)を入れた10L容ジャーファーメンター(エイブル株式会社、バイオマスターD型)において、CB15−5前培養物の植菌量5質量%、温度28℃、撹拌翼回転数210rpm、pH6.0維持、溶存酸素量10ppmの条件下、5〜8日間培養した。
(2)培養菌体からのドコサヘキサエン酸含有油脂の抽出
培養液から菌体を遠心分離(2,800×g)で回収し、蒸留水で洗浄した後、クロロホルム−メタノール(質量比2:1)混液あるいはヘキサンを加えて、激しく振盪あるいはガラスビーズ存在下でブレンダーにより菌体を破砕し、全脂質を抽出した。吸引ろ過によって固形分を除去した後、分液ロートに入れ、少量の飽和食塩水を加えて激しく振盪した。静置して分液した後、有機相を回収して、脱水のために適量の無水硫酸ナトリウムを加えて撹拌し、ろ紙でろ過して固形分を除去した。溶媒をロータリーエバポレーターによって蒸発させて除去し、原料油とした。
(3)ドコサヘキサエン酸含有油脂の水素添加
500mLの密閉反応容器に、前記(2)で得たドコサヘキサエン酸含有油脂(ヨウ素価180.4)300g、及びニッケル触媒「SO−850」[堺化学(株)製]を1.5g投入し、反応温度140〜200℃、水素圧0.8MPa(ゲージ圧)で2時間反応を行なった。反応後、活性白土により触媒を除去し、さらに180〜260℃で減圧にて水蒸気を吹き込むことにより脱臭を行い、ヨウ素価4.6、融点56.2℃の硬化油からなるゲル化剤を得た。
この硬化油の構成飽和脂肪酸組成は、以下のとおりである。なお、組成は基準油脂分析試験法により測定した。
炭素数 脂肪酸含有量(質量%)
14 2.2
15 6.0
16 45.0
17 2.7
18 2.3
20 2.0
22 39.9
また、ベヘン酸の67%がsn−2位置に存在していた。この硬化油のゲル化能を測定した。その結果を第1表に示す。
実施例2
常法に従って合成したα,α'−ジパルミチン酸−β−ベヘン酸トリグリセリド(ベヘン酸の70%がsn−2位置(β−位)に存在、ヨウ素価0.7)のゲル化能を測定した。その結果を第1表に示す。
比較例1〜3
下記の飽和脂肪酸組成(基準油脂分析試験法により測定)を有するハイエルシン菜種極度硬化油[横関油脂工業(株)製、ヨウ素価0.7、融点60.8℃]、トリパルミチン酸トリグリセリド[ナカライテクス(株)製、ヨウ素価0.3、融点57.7℃]及びトリベヘン酸トリグリセリド[GATTEFOSSE社製、ヨウ素価1.0、融点73.0℃]について、ゲル化能を測定した。その結果を第2表に示す。
<ハイエルシン菜種極度硬化油の飽和脂肪酸組成>
炭素数 脂肪酸含有量(質量%)
16 3.0
18 38.4
20 7.0
22 50.3
24 1.0
Figure 2008133358
Figure 2008133358
第1表及び第2表から分かるように、本発明のCB15−5菌株から得られた硬化油及び合成品のα,α'−ジパルミチン酸−β−ベヘン酸トリグリセリドは、比較例のものに比べてゲル化能に優れている。
実施例3
オリーブ油に対し、実施例1で得た油性ゲル化剤を、オリーブ油との合計量に基づき4質量%添加し、70℃にて加熱混合溶解後、10℃まで急冷固化し、35℃にて60分間テンパリングを行い、ゲル組成物を得た。
実施例4
実施例3で得たゲル組成物500gを、混合撹拌機により、室温(25℃)にて5分間撹拌することにより、後述の式で算出したオーバーラン140%の水を含まない起泡性油脂組成物を調製した。
<水中油型乳化組成物>
実施例5
実施例1で得られたゲル化剤1.2gを70℃に加温したオリーブ油30gに溶解し、その後、水70gに徐々に添加し、ホモミキサー[特殊機化工業(株)製]で10000rpm×5分、70℃で乳化し水中油型乳化組成物を得た。
比較例4
乳化物として酵素分解レシチンである「サンレシチンA」[太陽化学(株)製、HLB12]を実施例5と同様な操作を行い水中油型乳化組成物を得た。
比較例5
乳化物としてシュガーエステルである「リョートーシュガーエステルS−1570」[三菱化学フーズ(株)製、HLB15]を用い、実施例5と同様な操作にて水中油型乳化組成物を得た。
試験例1
実施例5及び比較例4、5で得られた水中油型乳化組成物を30℃で180日保存した後の状態を比較した結果を第3表に示す。
なお、判定基準は下記のとおりである。
◎:直後と比較して形状が保たれている。
○:わずかにヘタリがある。
△:形が崩れている。
×:完全に崩れている。
Figure 2008133358
<油中水型乳化組成物>
実施例6
実施例1で得られたゲル化剤3.2gを70℃に加温したオリーブ油80gに溶解し、その後、水20gを徐々に添加し、ホモミキサー[特殊機化工業(株)製]で10000rpm×5分、70℃で乳化し水中油型乳化組成物を得た。
比較例6
乳化物としてシュガーエステルである「DKエステルF−10」[第一工業製薬(株)製、HLB1]を実施例6と同様な操作により水中油型乳化組成物を得た。
比較例7
乳化物としてポリグリセリンである、「ポエムPR−300」[理研ビタミン(株)製、HLB1.7]を用い、実施例6と同様な操作にて水中油型乳化組成物を得た。
試験例2
実施例6及び比較例6、7で得られた水中油型乳化組成物を30℃で180日保存した後の状態を比較した結果を第4表に示す。なお、判定基準は、前記試験例1と同様である。
Figure 2008133358
<起泡を有する水中油型乳化組成物>
実施例7及び比較例8、9
実施例5及び比較例4、5で得られた水中油型乳化組成物を縦型ミキサー[関東ミキサー社製]により起泡させ、起泡性水中油型乳化組成物を得た。
試験例3
実施例7及び比較例8、9で得られた起泡性水中油型乳化組成物のオーバーラン、30℃で180日保存した後の保形性、保水性の状態を比較した結果を第5表に示す。
なお、保形性、保水性の判定基準は下記のとおりである。
保形性
◎:直後と比較して、形が変化していない
○:若干形が崩れている
△:かなり形が崩れている
×:完全に形が崩れている
保水性
◎:離水が認められない。
○:若干の離水が認められる。
△:かなり離水している。
×:離水が激しい。
なお、オーバーランは、下記の式により求めた。
オーバーラン(%)={[(一定容積の起泡前の組成物質量)−(一定容積の起泡後の組成物質量)]/(一定容積の起泡後の組成物質量)}×100
Figure 2008133358
<起泡を有する油中水型乳化組成物>
実施例8及び比較例10、11
実施例6及び比較例6、7で得られた油中水型乳化組成物を縦型ミキサー[関東ミキサー社製]により起泡させ、起泡性油中水型乳化組成物を得た。
試験例4
実施例8及び比較例10、11で得られた起泡性油中水型乳化組成物のオーバーラン、30℃で180日保存した後の保形性、保水性の状態を比較した結果を第6表に示す。
なお、保形性、保水性の判定基準は、前記試験例3と同様である。
Figure 2008133358
<非水型起泡性油脂組成物>
実施例9
実施例3で得られたゲル組成物500gを縦型ミキサー[関東ミキサー社製]により起泡させ、非水型起泡性油脂組成物を得た。
比較例12
オリーブ油に対し、ヘキサステアリン酸ヘキサグリセリンである「サンファットPS−66」[太陽化学(株)製、HLB4]をオリーブ油との合計量に基づき4質量%添加し、70℃にて加熱混合溶解後、室温に調整した物を縦型ミキサー[関東ミキサー社製]により起泡させた。
比較例13
モノステアリン酸プロピレングリコールである「サンソフトNO.25CD」[太陽化学(株)製、HLB3.9]を用い比較例12と同様な操作を行なった。
比較例14
シュガーエステルである「DKエステルF−10」[第一工業製薬(株)製、HLB1]を用い比較例12と同様な操作を行なった。
試験例5
実施例9及び比較例12〜14で得られた油脂組成物のオーバーラン、30℃で180日保存した後の保形成の状態を比較した結果を第7表に示す。
なお、保形性の判定基準は、前記試験例3と同様である。
Figure 2008133358
本発明の油性ゲル化剤は、特定の分子構造を有する高級飽和脂肪酸トリグリセリドを含み、各種油脂類やシリコーン油などの被ゲル化油を効果的にゲル化することができる。
また、本発明の油性ゲル化剤を用いることにより、乳化剤を用いなくても、油中水型乳化組成物や水中油型乳化組成物、あるいはそれらの起泡性組成物を容易に製造することができ、さらに非水型の起泡性油脂組成物を容易に製造することができる。
本発明の油性ゲル化剤は、食品、機能性食品、化粧品、医薬品などの様々な分野において利用することができる。

Claims (10)

  1. 質量比30:70〜70:30のパルミチン酸とベヘン酸を構成脂肪酸とするトリグリセリド70質量%以上を含み、かつヨウ素価が10以下である油脂からなる油性ゲル化剤。
  2. トリグリセリドが、ベヘン酸の60%以上がsn−2位置に存在するものである請求項1に記載の油性ゲル化剤。
  3. 油脂が、ドコサヘキサエン酸を産生するスラウストキトリウム(Thraustochytrium)属の菌体から得られる油脂を水素添加してなる硬化油である請求項1又は2に記載の油性ゲル化剤。
  4. スラウストキトリウム属の菌体が、KH105菌株又はCB15−5菌株の菌体である請求項3に記載の油性ゲル化剤。
  5. 請求項1〜4のいずれかに記載の油性ゲル化剤0.1〜50質量%を含有することを特徴とするゲル組成物。
  6. 請求項1〜4のいずれかに記載のゲル化剤を含むことを特徴とする油中水型又は水中油型乳化組成物。
  7. 起泡性を有する請求項6に記載の油中水型又は水中油型乳化組成物。
  8. 請求項5に記載のゲル組成物を含むことを特徴とする非水型の起泡性油脂組成物。
  9. 請求項1〜4のいずれかに記載の油性ゲル化剤を含むことを特徴とする食品用基材。
  10. 請求項1〜4のいずれかに記載の油性ゲル化剤を含むことを特徴とする化粧品用基材。
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