JP2008100320A - 硬質被覆層がすぐれた耐欠損性を発揮する表面被覆切削工具 - Google Patents
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Abstract
【解決手段】超硬合金、サーメット、立方晶窒化ほう素基超高圧焼結体からなる切削工具基体表面に、組成式(Al1−X TiX )N(ただし、原子比で、Xは0.40〜0.60)を満足するAlとTiの複合窒化物層からなり、かつ、該複合窒化物層についてEBSDによる結晶方位解析を行った場合、表面研磨面の法線方向から0〜15度の範囲内に結晶方位<100>を有する結晶粒の面積割合が50%以上、また、表面研磨面の法線と直交する任意の方位に対して0〜54度の範囲内に存在する最高ピークを中心とした15度の範囲内に結晶方位<100>を有する結晶粒の面積割合が50%以上であるような、2軸結晶配向性を示す改質(Al,Ti)N層で硬質被覆層を構成する。
【選択図】 なし
Description
(a)上記の従来被覆工具は、例えば図3に概略説明図で示される物理蒸着装置の1種であるアークイオンプレーティング(AIP)装置に上記の工具基体を装着し、
装置内加熱温度:300〜500℃、
超硬基体に印加する直流バイアス電圧:−60〜−100V、
カソード電極:Al−Ti合金、
上記カソード電極とアノード電極間のアーク放電電流:60〜100A、
装置内窒素ガス圧力:1〜6Pa、
の条件(以下、通常条件という)で、硬質被覆層として上記の組成式:(Al1−X TiX )N(ただし、原子比で、Xは0.40〜0.60)を満足(Al,Ti)N層[以下、従来(Al,Ti)N層という]を形成することにより製造される。
しかし、前記(Al,Ti)N層の形成を、例えば図2に概略説明図で示される物理蒸着装置の1種である圧力勾配型Arプラズマガスを利用したイオンプレーティング装置に上記の工具基体を装着し、
工具基体温度: 350〜500 ℃、
蒸発源:Al−Ti合金、
プラズマガン放電電力: 10〜15 kW、
窒素ガス流量: 20〜40 sccm、
工具基体に印加する直流バイアス電圧: −50〜−80 V
の条件で蒸着を行うと、この結果形成された(Al,Ti)N層[以下、改質(Al,Ti)N層という]は、前記従来(Al,Ti)N層に比して、高切り込み、高送りの重切削加工条件において、すぐれた耐欠損性を示すこと。
さらに、前記表面研磨面の法線方向に対して0〜15度の範囲内に、結晶方位<100>が存在する結晶粒の面積割合、また、法線と直交する方向については最高ピークを中心とした15度の範囲内(最高ピーク傾斜角±7.5度の範囲内)に、結晶方位<100>が存在する結晶粒の面積割合、さらに、法線と直交する方向について最高ピークの現れる傾斜角区分は、基体の温度とバイアス電圧と窒素ガス流量によって変化すること。
気体の温度: 350〜500 ℃
バイアス電圧: −50〜−80 V
窒素ガス流量: 20〜40 sccm
のように調整すると、表面研磨面の法線に対して0〜15度の範囲内に結晶方位<100>が存在する結晶粒の面積割合が結晶粒全面積の50%以上を占め、また、法線と直交する方向の特定傾斜角区分に存在する最高ピークを中心とした15度の範囲内に結晶方位<100>が存在する結晶粒の面積割合が結晶粒全面積の50%以上を占めるという2軸配向性を示すようになり、このような2軸配向性を示す改質(Al,Ti)N層を硬質被覆層として形成してなる被覆工具は、重切削加工において長期に亘ってすぐれた耐欠損性、耐摩耗性を発揮するようになること。
以上(a)〜(c)に示される研究結果を得たのである。
「超硬合金、サーメットあるいは立方晶窒化ほう素基超高圧焼結体からなる切削工具基体の表面に、
組成式:(Al1−X TiX )N(ただし、原子比で、Xは0.40〜0.60)
を満足し、平均層厚1〜10μmのAlとTiの複合窒化物層を蒸着形成した表面被覆切削工具において、
上記AlとTiの複合窒化物層について、電子線後方散乱回折(EBSD)装置を用いて個々の結晶粒の結晶方位を解析した場合、
(a)表面研磨面の法線方向に対する前記結晶粒の結晶方位<100>がなす傾斜角を測定し、前記測定傾斜角のうち、法線方向に対して0〜54度の範囲内にある測定傾斜角を0.25度のピッチ毎に区分して各区分内に存在する度数を集計したとき、0〜15度の範囲内の傾斜角区分に結晶方位<100>が存在する結晶粒の面積割合が結晶粒全面積の50%以上である結晶配向を示し、
(b)前記表面研磨面の法線と直交する任意の方向に対する前記結晶粒の結晶方位<100>がなす傾斜角を測定し、前記測定傾斜角のうち、法線方向に対して0〜54度の範囲内にある測定傾斜角を0.25度のピッチ毎に区分して各区分内に存在する度数を集計したとき、特定傾斜角区分に最高ピークが存在し、その最高ピークを中心とした15度の範囲内の傾斜角区分に結晶方位<100>が存在する結晶粒の面積割合が結晶粒全面積の50%以上である結晶配向を示し、
上記(a)、(b)の2軸結晶配向性を示すAlとTiの複合窒化物層からなる硬質被覆層を蒸着形成したことを特徴とする重切削加工で硬質被覆層がすぐれた耐欠損性を発揮する被覆工具(表面被覆切削工具)」
に特徴を有するものである。
気体の温度: 350〜500 ℃
バイアス電圧: −50〜−80 V
窒素ガス流量: 20〜40 sccm
とすることによって、改質(Al,Ti)N層の表面研磨面の法線に対して0〜15度の範囲内に結晶方位<100>が存在する結晶粒の面積割合が結晶粒全面積の50%以上を占め、また、法線と直交する任意の方向の特定傾斜角区分に存在する最高ピークを中心とした15度の範囲内に結晶方位<100>が存在する結晶粒の面積割合が結晶粒全面積の50%以上を占めるという2軸配向性を示す改質(Al,Ti)N層を得られる、という結論に達したものであり、したがって、法線に対して0〜15度の範囲内に結晶方位<100>が存在する結晶粒の面積割合が50%未満、あるいは、法線と直交する任意の方向の特定傾斜角区分に存在する最高ピークを中心とした15度の範囲内に結晶方位<100>が存在する結晶粒の面積割合が結晶粒全面積の50%未満となった場合には、(Al,Ti)N層に前記2軸配向性を付与することはできず、その結果、被覆工具にすぐれた耐欠損性を期待することはできないものとなる。
被削材:JIS・SNCM439の長さ方向等間隔4本縦溝入り丸棒、
切削速度: 200 m/min.、
切り込み: 3.0 mm、
送り: 0.30 mm/rev.、
切削時間: 3 分、
の条件(切削条件A1という)での合金鋼の乾式断続重切削加工試験(通常の切り込み及び送りは、それぞれ、1.5mm、0.2mm/rev.)、
被削材:JIS・S45Cの長さ方向等間隔4本縦溝入り丸棒、
切削速度: 270 m/min.、
切り込み: 3.0 mm、
送り: 0.3 mm/rev.、
切削時間: 3 分、
の条件(切削条件A2という)での炭素鋼の乾式断続重切削加工試験(通常の切り込み及び送りは、それぞれ、1.5mm、0.2mm/rev.)、
被削材:JIS・SUS304の丸棒、
切削速度: 180 m/min.、
切り込み: 2.4 mm、
送り: 0.24 mm/rev.、
切削時間: 3 分、
の条件(切削条件A3という)でのステンレス鋼の乾式連続重切削加工試験(通常の切り込み及び送りは、それぞれ、1.2mm、0.15mm/rev.)、
を行い、いずれの切削加工試験でも切刃の逃げ面摩耗幅を測定した。この測定結果を表5に示した。
[切削条件B1]
被削材:JIS・ SCr420H(HRC60)の長さ方向等間隔4本縦溝入り丸棒、
切削速度: 220 m/min.、
切り込み: 0.32 mm、
送り: 0.20 mm/rev.、
切削時間: 5 分、
の条件でのクロム鋼の焼入れ材の乾式断続重切削加工試験(通常の切り込み及び送りは、それぞれ、0.2mm、0.12mm/rev.)、
[切削条件B2]
被削材:JIS・SUJ2の焼入れ材(HRC60)の長さ方向等間隔4本縦溝入り丸棒、
切削速度: 150 m/min.、
切り込み: 0.2 mm、
送り: 0.2 mm/rev.、
切削時間: 4 分、
の条件での軸受鋼の焼入れ材の乾式断続重切削加工試験(通常の切り込み及び送りは、それぞれ、0.1mm、0.1mm/rev.)、
[切削条件B3]
被削材:JIS・SKD61(HRC61)の長さ方向等間隔4本縦溝入り丸棒、
切削速度: 200 m/min.、
切り込み: 0.18 mm、
送り: 0.2 mm/rev.、
切削時間: 4 分、
の条件でのダイス鋼の焼入れ材の乾式断続重切削加工試験(通常の切り込み及び送りは、それぞれ、0.10mm、0.1mm/rev.)、
[切削条件C1]
被削材:JIS・SCr420H(HRC60)の丸棒、
切削速度: 220 m/min.、
切り込み: 0.3 mm、
送り: 0.3 mm/rev.、
切削時間: 10 分、
の条件でのクロム鋼の焼入れ材の乾式連続重切削加工試験(通常の切り込み及び送りは、それぞれ、0.2mm、0.2mm/rev.)、
[切削条件C2]
被削材:JIS・SUJ2の焼入れ材(HRC60)の丸棒、
切削速度: 200 m/min.、
切り込み: 0.3 mm、
送り: 0.25 mm/rev.、
切削時間: 10 分、
の条件での軸受鋼の焼入れ材の乾式連続重切削加工試験(通常の切り込み及び送りは、それぞれ、0.2mm、0.15mm/rev.)、
[切削条件C3]
被削材:JIS・SKD61(HRC61)の丸棒、
切削速度: 220 m/min.、
切り込み: 0.3 mm、
送り: 0.27 mm/rev.、
切削時間: 8 分、
の条件でのダイス鋼の焼入れ材の乾式連続重切削加工試験(通常の切り込み及び送りは、それぞれ、0.15mm、0.15mm/rev.)、
を行い、いずれの切削加工試験でも切刃の逃げ面摩耗幅(mm)を測定した。この測定結果を表9に示した。
本発明被覆エンドミル1〜3および従来被覆エンドミル1〜3については、
被削材:平面寸法:100mm×250mm、厚さ:50mmのJIS・SKD61の板材、
切削速度: 113 m/min.、
溝深さ(切り込み): 3 mm、
テーブル送り: 1250 mm/min、
の条件での工具鋼の乾式高速高送り溝切削加工試験(通常の切削速度、送りは、それぞれ、50m/min、150mm/min)、
本発明被覆エンドミル4〜6および従来被覆エンドミル4〜6については、
被削材:平面寸法:100mm×250mm、厚さ:50mmのJIS・SUS304の板材、
切削速度: 94 m/min.、
溝深さ(切り込み): 5 mm、
テーブル送り: 900 mm/min、
の条件でのステンレス鋼の乾式高速高送り溝切削加工試験(通常の切削速度、送りは、それぞれ、50m/min、300mm/min)、
本発明被覆エンドミル7,8および従来被覆エンドミル7,8については、
被削材:平面寸法:100mm×250mm、厚さ:50mmのJIS・SNCM439の板材、
切削速度: 188 m/min.、
溝深さ(切り込み): 10 mm、
テーブル送り: 900 mm/min、
の条件での合金鋼(生材)の乾式高速高送り溝切削加工試験(通常の切削速度、送りは、それぞれ、100m/min、300mm/min)、
をそれぞれ行い、いずれの溝切削加工試験でも切刃部の外周刃の逃げ面摩耗幅が使用寿命の目安とされる0.1mmに至るまでの切削溝長を測定した。この測定結果を表11にそれぞれ示した。
被削材:平面寸法:100mm×250mm、厚さ:50mmのJIS・ SKD61の板材、
切削速度: 75 m/min.、
送り: 0.28 mm/rev、
穴深さ: 10 mm
の条件での工具鋼の湿式高速高送り穴あけ切削加工試験(通常の切削速度および送りは、それぞれ、40m/min、0,12mm/rev.)、
本発明被覆ドリル4〜6および従来被覆ドリル4〜6については、
被削材:平面寸法:100mm×250mm、厚さ:50mmのJIS・FCD400の板材、
切削速度: 110 m/min.、
送り: 0.4 mm/rev、
穴深さ: 20 mm
の条件でのダクタイル鋳鉄の湿式高速高送り穴あけ切削加工試験(通常の切削速度および送りは、それぞれ、70m/min、0.25mm/rev.)、
本発明被覆ドリル7,8および従来被覆ドリル7,8については、
被削材:平面寸法:100mm×250mm、厚さ:50mmのJIS・S50Cの板材、
切削速度: 157 m/min.、
送り: 0.6 mm/rev、
穴深さ: 50 mm
の条件での炭素鋼の湿式高速高送り穴あけ切削加工試験(通常の切削速度および送りは、それぞれ、65m/min、0.30mm/rev.)、
をそれぞれ行い、いずれの湿式穴あけ切削加工試験(水溶性切削油使用)でも先端切刃面の逃げ面摩耗幅が0.3mmに至るまでの穴あけ加工数を測定した。この測定結果を表12に示した。
また、これらの本発明被覆工具および従来被覆工具の改質(Al,Ti)N層および従来(Al,Ti)N層の厚さを、走査型電子顕微鏡を用いて断面測定したところ、いずれも目標値と実質的に同じ平均層厚(5点測定の平均値)を示した。
また、図5には、従来被覆工具2の従来(Al,Ti)N層の表面研磨面の法線方向に対する結晶方位<100>の測定傾斜角分布と、表面研磨面の法線と直交する任意の方向に対する結晶方位<100>の測定傾斜角分布を示す。
上記図4と図5との比較からも明らかなように、改質(Al,Ti)N層では2軸結晶配向性を示すのに対して、従来(Al,Ti)N層では、表面研磨面の法線と直交する任意の方向に対する結晶方位<100>の測定において、特段ピークを示す測定傾斜角がないことから2軸配向していない結晶組織を有していることが明らかである。
Claims (1)
- 超硬合金、サーメットあるいは立方晶窒化ほう素基超高圧焼結体からなる切削工具基体の表面に、
組成式:(Al1−X TiX )N(ただし、原子比で、Xは0.40〜0.60)
を満足し、平均層厚1〜10μmのAlとTiの複合窒化物層を蒸着形成した表面被覆切削工具において、
上記AlとTiの複合窒化物層について、電子線後方散乱回折装置を用いて個々の結晶粒の結晶方位を解析した場合、
(a)表面研磨面の法線方向に対する前記結晶粒の結晶方位<100>がなす傾斜角を測定し、前記測定傾斜角のうち、法線方向に対して0〜54度の範囲内にある測定傾斜角を0.25度のピッチ毎に区分して各区分内に存在する度数を集計したとき、0〜15度の範囲内の傾斜角区分に結晶方位<100>が存在する結晶粒の面積割合が結晶粒全面積の50%以上である結晶配向を示し、
(b)前記表面研磨面の法線と直交する任意の方向に対する前記結晶粒の結晶方位<100>がなす傾斜角を測定し、前記測定傾斜角のうち、法線方向に対して0〜54度の範囲内にある測定傾斜角を0.25度のピッチ毎に区分して各区分内に存在する度数を集計したとき、特定傾斜角区分に最高ピークが存在し、その最高ピークを中心とした15度の範囲内の傾斜角区分に結晶方位<100>が存在する結晶粒の面積割合が結晶粒全面積の50%以上である結晶配向を示し、
上記(a)、(b)の2軸結晶配向性を示すAlとTiの複合窒化物層からなる硬質被覆層を蒸着形成したことを特徴とする重切削加工で硬質被覆層がすぐれた耐欠損性を発揮する表面被覆切削工具。
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