マルチメディア時代の進展とともに、液晶表示装置は、プロジェクタ装置や携帯電話等に用いられている小型のものから、ノートPC、モニタ、テレビ等に用いられている大型のものまで、急速に普及が進んできている。また、ビューワやPDA等の電子機器、更には携帯ゲーム機やパチンコ等の遊戯道具でも中型の液晶表示装置が必須となっている。更に、冷蔵庫や電子レンジ等の家電に至るまで、あらゆる所で液晶表示装置が使用されている。
現在、液晶表示素子はその殆どがツイスティッドネマチック(TN)型表示方式のものである。このTN型表示方式の液晶表示素子は、ネマチック液晶組成物を利用しており、液晶の駆動方式は大きく2つに分けられる。そのうちの1つは、単純マトリクス駆動方式である。他の1つは、各画素にスイッチング素子を設けたアクティブマトリクス方式であり、例えばTN型表示方式に薄膜トランジスタ(TFT:Thin Film Transistor)を用いたTN−TFT方式が一般的に使われている。
TN型表示方式に対し、STN(Super Twisted Nematic)方式がある。このSTN方式は、従来のTN型を用いた単純マトリクス方式に比べてコントラストおよび視角依存性については改良されているものの、応答速度が遅いので動画像表示には適していない。また、TFTを用いたアクティブマトリクス方式に比べて表示品位が低いという欠点がある。このような結果、現在では、TN−TFT方式が市場の主流となっている。
一方、更なる高画質化の要求により、視野角を改善した方法が研究開発され実用化に至っている。その結果、現在の高性能液晶ディスプレイの主流は、TNモードに補償フィルムを使用した方式、あるいはイン・プレーン・スイッチング(IPS:In Plane Switching)モード、あるいはマルチドメイン・バーティカル・アライン(MVA:Multi Domain Vertical Aligned)モードのTFT方式アクティブマトリクス液晶表示装置の3種類が主流となっている。
これらのアクティブマトリクス液晶表示装置では通常、画像信号が30Hzで正負の書込みをするため60Hzで書き換えられ、1フィールドの時間は約16.7ms(ミリ秒)である(正負双方のフィールドの合計時間は1フレームと呼ばれ約33.3msである)。これに対し、現状の液晶の応答速度は、最も早い状態でもこのフレーム時間程度である。
液晶表示装置に対する要求は大きく2つあり、画素の高精細化と画像に対する応答速度の向上である。
画像に対する応答速度は、液晶で表示する画面が、従来の静止画像だけでなく動画像を表示する機会が増えてきていることによる。動画像の中でも特に高速な画像変化が生じるスポーツ、ゲームにおけるコンピュータ画像(CG)等では、現在のフレーム時間より早い応答速度が必要となっている。
一方、画素は現在の主流は100ppi(pixel per inch)であるが高精細化には2種類の方法がある。1つの方法は加工精度を上げ画素子のサイズを小さくする方法で、もう1つの方法は、表示装置の照明光であるバックライトを、赤・緑・青と時間的に切り替え、1画素子でカラー表示を行う方法である。この方法は、フィールドシーケンシャル(時分割)方式といわれ、カラー液晶表示装置も検討されている。この方式では、画素を3分割しカラーフィルタを空間的に配置する必要が無いため、従来の3倍の高精細化が可能であると同時に開口率が高くなり光の利用効率が上がるといわれている。一方、フィールドシーケンシャル液晶表示装置では、1フィールドの1/3の時間で1色を表示する必要があるので、表示に使用できる時間は約5ms程度となる。従って、液晶の応答速度は、5msより早くなければならない。
このような高速な画像に応答できる液晶表示装置の必要性から様々な技術が検討され、高速な液晶表示モード技術が開発されている。これらの高速な液晶表示モード技術は、大きく二つの潮流に分かれている。一つは主流となっている上述のようなねじれネマチック液晶の応答速度を高速化する技術であり、もう一つは高速な応答が可能な液晶を使用する技術である。
高速な応答が可能な液晶として、自発分極型のスメクティック液晶を使用する技術もあるが、ネマチック液晶を用い表示モードを別のモードとすることで高速化する方法もある。しかし、製造における精度や均一性の要求レベルが高くなり、歩留まりが低下することが問題である。その理由は、液晶層の厚みの要求精度が高くなったり、補償板・位相差板等の光学素子が必要となり、その均一性が要求されたりするためである。
たとえば、複屈折性を利用するECB(電界制御型複屈折:Electrically Controlled Birefringence)モードの場合、コントラスト100を実現するのに液晶層の厚み精度に対する要求は、液晶層の厚みの3%程度となる。その場合、厚みが3ミクロン以下であると、厚みのバラツキを90ナノメートル以下にする必要がある。要求されるコントラスト等の表示条件が高い場合、この厚みに対する要求精度は更に厳しくなる。
同様に、OCB(Optically compensated birefringence)モードがある。
OCBモードは、広視野角モードの一つの方式である。セルの構造は、プレチルト角を持たせた反平行セルに位相差補償板(2軸性位相差板)も持たせた構造である。ホモジニアス配向にバイアス電圧を印加しベンド配向とし、電圧を印加しスイッチングを行う。OCB方式は視野角が広く、応答時間が早いと言う特徴を持っている。しかし均一で安定したベンド配向を得ることが難しく、更にセルギャップ(液晶の厚さ)や補償板の特性の均一性を要求されるために製造工程での多大の安定性が要求されると言う問題点をもっている。
どちらの場合も、コントラスト100を実現するのに液晶層の厚み精度に対する要求は、液晶層の厚みの3%程度となる。その場合、厚みが3ミクロン以下であると、厚みのバラツキを90ナノメートル以下にする必要がある。要求されるコントラスト等の表示条件が高い場合、この厚みに対する要求精度は更に厳しくなる。
更に、広範囲の温度で安定した表示を得ることが困難であることである。その理由は、液晶の応答速度の温度に対する依存性が大きいためである。その結果、低温では粘度の低下に伴い応答速度が極めて遅くなりコントラストの確保や明確な階調表示が困難となる。
第1の潮流であるネマチック液晶の応答速度の高速化は、主に次のような手段によっている。
(1)セルギャップを薄くし同じ電圧で電界強度を増大する。
(2)高い電圧を印加し電界強度を増大し状態変化を促進する(オーバードライブ法)。
(3)誘電率異方性を上げ電界への応答を敏感にする。
(4)粘性を下げる。
(5)液晶材料やセル設計の最適化により高速化する。
このようなネマチック液晶の応答速度を高速化した場合、次のような問題が生じる。ネマチック液晶の応答速度を高速化した場合、液晶は誘電率の異方性により液晶の配向方向の違いにより容量が大幅に異なる(商品名DLC−43002の場合、ε平行=11.8、ε垂直=3.7)。このために、応答速度を高速化すると容量変化が極めて大きくなるため、液晶層に書き込み保持されるべき保持電圧が低下する。このような保持電圧の低下、すなわち、実効印加電圧が低下すると、書き込み不足が生じ液晶が所望の位置まで変化しないために、コントラストを低下させる。また、静止画のように同じ信号が繰り返される場合、保持電圧が低下しなくなるまで輝度が変化を続け、安定した輝度を得るのに数フレームを要してしまう。
このような数フレームを要する応答を防ぐには、印加する信号電圧と得られる透過率間に1対1の対応が取れていることが必要である。アクティブマトリクス駆動では液晶応答後の透過率は印加した信号電圧ではなく、液晶応答後の液晶容量に蓄えられた電荷量によって決まる。アクティブ駆動では保持された電荷で液晶を応答させる定電荷駆動であるためである。
アクティブ素子から供給される電荷量は、微小なリーク等を無視すると、所定の信号書き込み以前の蓄積電荷と新規に書き込んだ書き込み電荷によって決定される。また、液晶が応答した後の蓄積電荷は、液晶の物性定数及び電気的パラメータ及び蓄積容量等の画素設計値によっても変化する。
このため、信号電圧と透過率の対応を取るには、
(1)信号電圧と書き込み電荷の対応
(2)書き込み以前の蓄積電荷
(3)応答後の蓄積電荷の計算を行うための情報と該情報にもとづく実際の計算等が必要となる。この結果、(2)を全画面に渡って記憶するためのフレームメモリや、(1)や(3)の計算部が必要となる。これは、システムの部品数の増大を招き、好ましくない。
これらの問題を解決する方法として、新規データ書き込みの前に所定の液晶状態に揃えるようなリセット電圧を印加するリセットパルス法が、しばしば用いられる。一例として、アイ・ディー・アール・シー1997のL−66頁からL−69頁に記載の技術について述べる。
この文献では、ネマチック液晶の配向をパイ型の配向とし補償フィルムを付加した前述のOCB(Optically compensated birefringence:オプティカリ・コンペンセイテッド・バイリフリジェンス)モードを使用している。この液晶モードの応答速度は約2ミリ秒から5ミリ秒とされ、従来のTN−TFT方式より格段に速いので、1フレーム内で応答が終了するはずである。しかしながら、前述のように、液晶の応答による誘電率の変化により保持電圧の大幅な低下が起こり安定な透過率が得られるまで従来と同様に数フレームを要する。そこで、1フレーム内で白表示の書込み後必ず黒表示を書き込む方法が示されている。
図17を用いて説明する。
横軸は時間であり、縦軸は輝度である。点線が通常の駆動の場合の輝度変化であり、3フレーム目で安定な輝度に到達している。このリセットパルス法によれば、新規データ書き込み時には必ず所定の状態となっているため、書き込んだ一定信号電圧に対し一定透過率という1対1の対応が見られる。この1対1対応により、駆動用の信号の発生は非常に簡便となると同時に、前回の書き込み情報を記憶しておくフレームメモリ等の手段がいらなくなる。
次に、アクティブマトリクス型液晶表示装置の画素の構成を説明する。図14は、従来のアクティブマトリクス型液晶表示装置の1画素分の画素回路の例を示したものである。同図に示すように、アクティブマトリクス型液晶表示装置の画素は、n型MOSトランジスタ(以下n型トランジスタ(Qn)と記す)904はゲート電極が走査線901に接続され、一方の電極が信号線902に接続され、他方の電極が画素電極903に接続され、画素電極903と蓄積容量電極905との間に形成された蓄積容量906と、画素電極903と対向電極Vcom907との間に挟まれた液晶908とで構成されている。
現在、液晶表示装置の大きな応用市場を形成しているノートPCや携帯電話用の液晶表示装置は、通常、トランジスタ(Qn)904として、アモルファスシリコン薄膜トランジスタ(以下、a−SiTFTと記す。)又はポリシリコン薄膜トランジスタ(以下、p−SiTFTと記す。)が用いられている。また、液晶材料としては、ツイスティドネマティック液晶(以下、TN液晶と記す。)が用いられている。
図15は、TN液晶の等価回路を示したものである。図に示すように、TN液晶の等価回路は、液晶の容量成分C3(その静電容量Cpix)と、抵抗R1の値Rr及び容量C1(その静電容量Cr)とを並列に接続した回路で表すことができる。ここで、抵抗値Rr及び静電容量Crは液晶の応答時定数を決定する成分である。
このようなTN液晶を、図14に示した画素回路により駆動した場合の、ゲート走査電圧Vg、データ信号電圧Vd、画素電極903の電圧(以下画素電圧と記す。)Vpixのタイミングチャートを図16に示す。図16に示すように、ゲート走査電圧Vgが水平走査の期間、ハイレベルVgHとなることによって、n型MOSトランジスタ(Qn)904はオン状態となり、信号線902に入力されているデータ信号電圧Vdがn型トランジスタ(Qn)904を経由して画素電極903に転送される。TN液晶は、通常、電圧無印加時に光が透過するモード、いわゆるノーマリー・ホワイトモードで動作する。
ここでは、データ信号電圧Vdとして、TN液晶を通した光透過率が高くなる電圧を数フィールドに渡って印加している。水平走査期間が終了し、ゲート走査電圧Vgがローレベルとなると、n型トランジスタ(Qn)904はオフ状態となり、画素電極903に転送されたデータ信号電圧は蓄積容量906、及び液晶の容量Cpixにより保持される。この際、画素電圧Vpixは、n型トランジスタ(Qn)904がオフ状態になる時刻において、n型トランジスタ(Qn)904のゲート−ソース間容量を経由してフィードスルー電圧と呼ばれる電圧シフトを起こす。この電圧シフトは、図16には、Vf1、Vf2、Vf3で示されており、この電圧シフトVf1〜Vf3の量は、蓄積容量906の値を大きく設計することにより小さくすることができる。
画素電圧Vpixは、次のフィールド期間において、再びゲート走査電圧Vgがハイレベルとなり、トランジスタ(Qn)904が選択されるまで保持される。保持された画素電圧Vpixに応じて、TN液晶がスイッチングし、光透過率T1で示したように、液晶の透過光は暗い状態から明るい状態へ遷移する。この際、図16に示すように、保持期間において、画素電圧Vpixは、各フィールドで、それぞれ△V1、△V2、△V3だけ変動する。これは、液晶の応答に従って、液晶の容量が変化することに起因している。通常、この変動をできるだけ小さくなるように、蓄積容量906を画素容量Cpixに対し、2〜3倍以上の大きな値で設計される。以上説明したようにして、図14に示した画素回路によってTN液晶を駆動することができる。
また、オーバードライブ法とリセット法を混合したような効果を有する技術として、特表2001−506376号公報に示される画素電極と対向して配置される共通電極の電圧であるコモン電圧(共通電極(例えば対向電極)の電圧)を変調する技術がある。この技術を図18を用いて説明する。
従来、コモン電圧は1フレーム周期の間一定値に保たれる駆動をするか(図18のt0からt2(並びにt2からt4)を1フレーム周期とする)、1フレーム周期を2分し、二つの電圧値間を変化するコモン反転駆動を行っていた。
これに対しコモン電圧を変調する技術は、図18に示されるように、画素電極と対向して配置される共通電極の電圧であるコモン電圧を変調する。図18の上の図はコモン電圧(VCG)の時間的な変化を示し、下の図は液晶応答による光透過率(I)の変化の時間的な変化を示している。すなわち、電圧波形151は共通電極に印加される電圧波形、光強度波形152は波形151と対応した時間における対応する光強度波形、また、153から156は画素光強度曲線である。
1フレーム周期の中が2分され、t1からt2(並びにt3からt4)の期間は、従来のコモン反転駆動とほぼ同じ振幅の電圧が印加される。一方、1フレーム周期中のt0からt1(並びにt2からt3)の期間は、コモン反転の振幅より高い電圧(例えば、コモン反転の振幅より黒表示時の電圧分だけ高い電圧)が印加される。この技術では、共通電極に高い電圧が印加されたt0からt1の期間に、画素電極と共通電極の電圧差が大きくなる効果により、表示領域全体を高速に黒表示に変えることができる。すなわち、リセット駆動に相当する駆動が行われる。更に、このt0からt1の期間中に、画素電極側に画像データを書き込んでも、共通電極との電位差は十分に大きい(例えば、黒表示電圧以上)ため、表示上は観察されない。表示領域全体に画像データの書き込みを終えた後にt1のタイミングで共通電極の電圧をコモン反転の振幅に戻す。この結果、液晶層は、画素電極にメモリされた電圧にしたがって、各々の階調レベルに応じた透過率へと応答を開始する。すなわち、応答開始時には、常に高電圧差の状態から各階調電圧値に応じた電圧差に変化する。この点で、t0からt1の期間に、一種のオーバードライブをしていることになる。
ここで、液晶の応答時間は一般に次の二つの式で与えられることに着目する(培風館「液晶辞典」日本学術振興会 情報科学用有機材料第142委員会 液晶部会編、24−25頁参照)。すなわち、しきい値電圧より高い電圧を印加しON状態にする立ち上がり応答では、
一方、しきい値以上の印加されていた電圧を急に0にする立下り応答では、
ここで、dは液晶層の厚み、ηは回転粘度、Δは誘電異方性、Vは印加電圧、Vcはしきい値電圧、Kはフランクの弾性定数による定数、であり、TNモードでは、
で与えられる。
ここで、K11は広がりの弾性定数、K22はねじれの弾性定数、K33は曲がりの弾性定数である。式(1)から分かるように、立ち上がり応答では、液晶の応答時間は、印加する電圧の大きさの2乗の逆数で依存する。すなわち、階調レベル毎に異なる電圧値に応じ2乗の逆数で依存する。そのため、階調レベルによって応答時間が大きく異なり、10倍の電圧差がある場合、100倍の応答時間の違いが生じる。一方、立下り応答でも階調レベルによる応答時間の違いは存在するが、それは2倍程度の範囲に収まるものである。
上記の内容から、立ち上がり応答時には非常に高い電圧を印加するオーバードライブ効果によって高速化する。また、実際の画像表示に使用する応答は、全て立ち下がり応答となるため、階調レベルに対する依存性が極めて小さい。その結果、全階調に渡って、ほぼ同等の応答時間が得られる。
特表2001−506376号公報
特開平04‐186227号公報
アイ・ディー・アール・シー1997、L−66−69頁
日本学術振興会 情報科学用有機材料第142委員会 A部会(液晶材料) 第91回研究会資料 2003年、28−30頁
従来技術により、TN型表示装置の応答速度の改善はなされている。しかしながら、図17から分かるように、本来の輝度が得られていない状態での表示画面しか得られていないのが現状である。この結果、光利用効率が低く十分な光透過率が得られないという問題が依然として残っている。
その理由は、通常のネマチック液晶の応答速度が遅いためであり、特に最も広く用いられているTN液晶の応答速度は遅い。反応速度が遅いために、リセット時の黒表示から画像表示モードへの立ち上がる際、必要とされる期間内に十分に立ち上がりきれないために必要とされる光透過率が得られない。すなわち、例えば、黒表示から白表示に切り替える場合に、完全な白表示になりきらずグレー表示になる。一方、白表示から黒表示に切り替える場合も同様に完全な黒表示にならずグレー表示となる。更に、中間調表示では前述のように応答速度が更に遅く、動画表示等では期待される階調が表示できない。
更に、リセット方式においてもこの応答速度が遅いことにより問題が発生する。
例えば、リセット時に完全に黒表示モードまで液晶が応答していない場合がある。この場合、複数回同じデータを書き込んでも同じ透過率が得られないことがある。その原因は、リセットが不十分な場合、リセット時に完全に所定の配向状態になることがないため、リセット後の応答は前のフレームの履歴に応じた透過率を示してしまう。その結果、印加電圧と透過率の間に1対1の対応が見られなくなる。
更に、リセット後の液晶の光学応答の始まりが遅かったり、正常な光学応答が始まる前に異常な光学応答が観察されたりする問題がある。その理由は、リセットにより実現された所定の配向状態から通常の応答に移行する時点で、応答時に動作する方向が明確でなく不均一・不安定な応答をするためである。
TN液晶の応答時間は、通常、立ち上がり応答時間と立ち下がり応答時間の合計が数十ミリ秒程度、中間調間の応答は更に遅く百ミリ秒以上になるといわれている。
通常、立ち上がり時の応答時間は、式1のように厚みの2乗に比例するため、透過型では反射型の4倍の応答時間となる。この結果、透過型表示装置では光利用効率が極めて悪くなってしまう。
応答速度の遅さを改善するには、式1並びに式2から分かるように、(1)液晶層の厚みdを薄くする、(2)粘度ηを小さくする、(3)誘電異方性Δεを大きくする(立ち上がり応答のみ)、(4)印加電圧を大きくする(立ち上がり応答のみ)、(5)弾性定数のうちK11とK33を小さくし、K22を大きくする(立ち下がり応答のみ)等の工夫が有効である。しかしながら、(1)の液晶層の厚みは、十分な光学的効果を得るために屈折率異方性Δnと一定の関係の範囲内でしか変えられない。更に、(2)、(3)、(5)の粘度、誘電異方性、弾性定数も全て物性値であるため、材料に大きく依存し、一定条件以上にすることは困難である。また、各々の物性値単体のみを大きく変化させることはきわめて困難であり数式から想定される高速化の効果を実現するのは困難である。例えば、K11とK22とK33は独立な弾性定数であるが、実際の材料の測定結果(メルク社による口頭発表)によると、
K11:K22:K33=10:5:14 (5)
という関係がほぼ成立し、必ずしも独立な定数として扱えない(この関係と式(3)から、たとえば、
K=11・K22/5
となりK22のみが独立となる)。
一方、(4)の印加電圧値を大きくする手法も消費電力の観点や高電圧用駆動回路が高コストである観点から大きな制約を受ける。同時に表示装置内に薄膜トランジスタ等のアクティブ素子を設けて駆動する場合、その素子の耐圧によって制約を受ける。このように、従来の工夫によって、応答速度を高速化することには大きな限界が生じている。
高速な応答が可能な自発分極型のスメクティック液晶を使用する技術もあるが、自発分極型のスメクティック液晶は、製造における精度や均一性の要求レベルが高くなり、歩留まりが低下することである。その理由は、応答の高速化のためにTNモード以外のネマチック液晶モードを使用した場合、液晶層の厚みの要求精度が高くなったり、補償板・位相差板等の光学素子が必要となり、その均一性が要求されたりするためである。また、自発分極型のスメクティック液晶は、基板表面に対する平坦性の要求レベルがTN型等のネマチック液晶より格段に高く、透明電極であるITO電極表面の微小な凹凸が問題となるほどである。一方、複屈折性を利用するECB(電界制御型複屈折:Electrically Controlled Birefringence)モードの場合、コントラスト100を実現するのに液晶層の厚み精度に対する要求は、液晶層の厚みの3%程度となる。その場合、厚みが3ミクロン以下であると、厚みのバラツキを90ナノメートル以下にする必要がある。要求されるコントラスト等の表示条件が高い場合、この厚みに対する要求精度は更に厳しくなる。
更に、液晶は、広範囲の温度で安定した表示を得ることが困難であることである。その理由は、液晶は、低温では固体化するために応答速度の温度に対する依存性が大きいためである。その結果、低温では粘度の上昇に伴い応答速度が極めて遅くなりコントラストの確保や明確な階調表示が困難であり、また、高温では応答速度が速くなり十分な応答が可能となる。一方、室温では応答速度が十分速くなく、中間調表示に十分な応答ができないために、所定の階調での透過率が大きく異なってきてしまう。
TN表示方式の場合、応答速度を高速にするためにカイラル(ねじれ)ピッチが短い液晶を使用すると、電圧印加時の応答すなわちON状態への応答が遅くなることである。その原因は、カイラルピッチの短い液晶は電圧無印加の状態のねじれた液晶配向を安定させるためである。この安定化の結果、ON状態へ移行するために必要な電圧であるしきい値電圧が高くなり、印加電圧としきい値電圧の差の二乗に反比例する応答時間は長くなる。また、この問題を画素電極への高電圧の印加によって解決しようとした場合、消費電力の増大を招いてしまう。
更に、電圧無印加の状態で高分子安定化された液晶表示装置では、電圧印加時の応答すなわちON状態への応答が遅くなることである。この問題も、前記のカイラルピッチにかかわる問題と同じ原因、すなわち、電圧無印加の状態のねじれた液晶配向を安定させるために生じる。そのため、消費電力の増大も発生する。このように、電圧無印加時の配向を安定化すると、遅い応答という問題と、消費電力の増大という問題が生じる。
一方、アクティブマトリックス型の液晶素子はTFT素子をスイッチング素子として用いている。このために液晶素子内に半導体層、絶縁膜、配線層および画素電極を備えている。この結果、基板表面に凹凸が形成されている。
基板表面に凹凸があると液晶の配向性が乱れる。液晶の配向が乱れると液晶のプレチルト角の逆方向に傾斜するリバースチルトが発生し、更に液晶がプレチルトの逆方向に傾斜するリバースツイストが発生する。
このような配向不良が発生すると液晶層の正常配向部分と異常配向部分との間に境界(ディスクリネーション)が形成される。
TN−TFT型液晶表示装置でこの現象を防止し、安定な配向を得る技術として、特開平4−186227号公報には、カイラルピッチ(ねじれピッチ。液晶分子が外部の影響なしに360°捻られるのに必要とする距離)が約70乃至150μmである液晶を使用すると共に、配向膜のプレチルト角を約1°にする。これにより、リバースツイストおよびリバースチルト等の配向不良の発生を防止し、表示画素に低電圧が印加されているOFF状態のときは配向不良が発生しないとされている。一方、表示画素に高電圧が印加されているON状態に発生する配向不良を防ぐために、この文献では次の技術を使用している。すなわち、カイラルピッチが86μm以下である液晶と、ガラス基板に対して2乃至10°のプレチルト角で傾斜して配向させる配向膜である。
また、液晶配向を安定化する技術として、「日本学術振興会 情報科学用有機材料第142委員会 A部会(液晶材料) 第91回研究会資料」の28頁から30頁に示される技術がある。この技術では、ねじれネマチック液晶に光硬化性モノマーを添加し光照射することで高分子安定化している。この状態でねじれネマチック液晶は、高分子安定化される前のねじれ構造を維持している。
特に、光硬化性モノマーとして、液晶骨格を有する液晶性モノマーを用いることで、表示用液晶材料の液晶性・配向性を失わないようにしている。この文献の効果の一例として、文献内でMonomer Aと表記されるジアクリレートによる光硬化性モノマーをねじれネマチック液晶ホスト中に数%の濃度で添加した後、電圧無印加の状態で光照射して作製した高分子安定型液晶素子の例を示す。本文献のFigure 2を図19として参照する。この図は、高分子安定型液晶素子の電圧と誘電率特性を示すものである。高分子安定化素子は、液晶ホストとして平行方向の誘電率が11.8、垂直方向の誘電率が3.7であるDLC−43002を用い、液晶モノマーを添加した後、これをアンチパラレル方向にラビング処理した6μmギャップのガラスセルに注入し、1mW/cm2の紫外線を600秒照射することにより作製している。すなわち、電圧無印加時には基板面にほぼ平行なホモジニアス配向の液晶配向が得られ、電圧印加時に基板面から立ち上がる動作をする素子である。図19の点線は液晶性モノマーを印加していない素子での電圧−誘電率特性であり、それ以外に液晶性モノマーを2%、3%、4%、5%を変えた時の電圧−誘電率特性が示されている。図から顕著に分かるように、液晶性モノマーの添加率の増大に伴って、電圧に対する誘電率の応答が制限され、急峻性が悪化する傾向がある。
本発明は、少なくとも画素電極と画素電極を駆動する薄膜トランジスタが形成されたトランジスタアレイ基板と、画素電極に対向して液晶を駆動する共通電極が形成された対向基板とトランジスタアレイ基板上の画素電極と対向基板上の共通電極とを間隙を置いて対向して配置し、トランジスタ基板と対向基板との間隙に狭持されたねじれネマチック液晶とを有し、ねじれネマチック液晶のねじれピッチpと該ねじれネマチック液晶層の厚みとなる間隙dとの間に、p/d<20の関係を有することを特徴とする液晶パネルである。
ねじれネマチック液晶のねじれピッチp(ミクロン)と該ねじれネマチック液晶層の厚みとなる間隙d(ミクロン)との間に、p/d<8の関係を有することがより好ましい。
ねじれネマチック液晶層が高分子安定化されていることが好ましく、高分子安定化は、ねじれネマチック液晶中に光硬化性モノマーを添加し、光照射することによって達成できる。
ここで、光硬化性モノマーが液晶骨格を有する液晶性モノマーであることが好ましく、該液晶性モノマーとしてジアクリレートを使うことができる。
また、液晶性モノマーは重合性官能基と液晶骨格がメチレンスペーサーを介することなく結合したモノアクリレートであることがこのましい。
更に、液晶パネルは、ねじれネマチック液晶を駆動する駆動回路を有し、駆動回路は、トランジスタアレイ基板上に形成されていても良い。
この際、駆動回路は、オーバードライブ駆動であることが好ましく、コモン電圧を変調することで電源電圧を高くすることなく液晶に高電圧を印加することができる。
画素電極と共通電極との間の電界以外の最大電界の基板面への射影の方向が、ねじれネマチック液晶の電圧無印加時の液晶層中央での液晶配向の基板面の射影の方向とほぼ平行であることが好ましい。
ねじれネマチック液晶の基板面とのプレチルト角度がリバースツイスト配向を安定化する角度以下であると液晶の立下り時にノーマルツイスト配向に戻るトルクが働く。この際のプレチルト角度は16度以下であることが好ましい。
ねじれネマチック液晶の基板面とのプレチルト角度がねじれネマチック液晶の電界が印加されないときのエネルギーと電界を印加した時のエネルギーとの差が大きいことが好ましく、この際のプレチルト角度は5度以下であることが好ましい。
ねじれネマチック液晶のプレチルト角方向のアンカリング強度がノーマルツイスト配向を不安定にしないアンカリング強度であることが好ましく、この際のアンカリング強度は10−5[J/m2]以上であることが好ましい。
液晶パネルを液晶表示装置に搭載でき、この液晶表示装置は、裏面に複数の色を発光する裏面発光光源を有し、画像データを裏面発光光源の複数の色と対応する複数の色の色画像データに分割する分割手段と、複数の色を発光する裏面発光光源の複数の色と対応する複数の色の色画像データとを同期する同期手段と、複数色画像データを時間的に順次表示する順次表示手段とを備えるフィールドシーケンシャル駆動方式の液晶表示装置にすることができる。
更に、これらの液晶表示装置は、電子機器に搭載することができる。
本発明は、ねじれネマチック液晶において、ねじれピッチpと該ねじれネマチック液晶層の厚み(基板間の間隙)dとの間に、p/d<20の関係が成立することにより、液晶の立下り時の応答速度を速めるものである。
液晶の立下り時の応答速度を速めることで、バウンス等の不安定な配向状態が生じないために、1フレーム内に画像を安定でき、履歴の影響による画像の劣化(階調のばらつきや、フリッカ)のない表示画像を得ることができる。更に、動画ボケが生じない表示画像を得ることができると同時に環境温度が変化しても従来問題であった低温で良好な画像表示が可能となる。
更に、液晶の立下りの応答速度が高速化され安定した透過率に速く到達するため光利用効率が高くなるので、低消費電力な液晶表示装置を得ることができる。
本発明の実施の形態を、図面を用いて詳細に説明する前に本発明で用いられるTFTアレイについて説明する。
アモルファスシリコンをポリシリコンに変性するポリシリコンTFTアレイの単位構造を模式図である図1を用いて説明する。
図1のポリシリコンTFTは、ガラス基板29上に酸化シリコン膜28を形成した後、アモルファスシリコンを成長させた。次にエキシマレーザを用いアニールしアモルファスシリコンをポリシリコン27化させ、更に10nmの酸化シリコン膜28を成長させた。パターニングした後、フォトレジストをゲート形状より若干大きく(後にLDD領域23、24を形成するため)パターニングしリンイオンをドーピングすることによりソース領域(電極)26とドレイン領域(電極)25を形成した。その後、ゲート酸化膜となる酸化シリコン膜28を成長させた後、ゲート電極となるアモルファスシリコンとタングステンシリサイド(WSi)を成長させた後、フォトレジストをパターニングし、フォトレジストをマスクとしてアモルファスシリコンとタングステンシリサイド(WSi)をゲート電極形状にパターニングした。更に、パターニングしたフォトレジストをマスクとして必要領域にのみリンイオンをドーピングすることによりLDD領域23、24を形成した。その後、酸化シリコン膜28と窒化シリコン膜21を連続成長させた後、コンタクト用の穴をあけ、アルミニウムとチタンをスパッタで形成しパターニングしソース電極26、ドレイン電極25を形成した。その後、全面に窒化シリコン膜21を形成し、コンタクト用の穴をあけ、全面にITO膜を形成し、パターニングすることで透明な画素電極22を形成した。このようにして図1に示すようなプレーナ型のTFT画素スイッチを作成しTFTアレイを形成することで、ガラス基板上にTFTスイッチによる画素アレイ並びに走査回路を設けた。
図1では、アモルファスシリコンをポリシリコン化したTFTを形成しているが、ポリシリコンを成長後、レーザ照射によりポリシリコンの粒径を改善する方法でTFTを形成しても良い。また、レーザはエキシマレーザ以外にも連続発振(CW)レーザを用いても良い。
更に、レーザ照射によるアモルファスシリコンのポリシリコン化の工程を省くことで、アモルファスシリコンTFTアレイが形成できる。
図12から図13はポリシリコンTFT(プレーナ構造)アレイの製造方法を示す工程断面図である。図12から図13を用いて、ポリシリコンTFTアレイの製造方法を詳細に説明する。
ガラス基板10上に、酸化シリコン膜11を形成した後、アモルファスシリコン12を成長させた。次に、エキシマレーザを用いアニールし、アモルファスシリコンをポリシリコン化させた(図12(a))。
更に、膜厚10nmの酸化シリコン膜13を成長させ、パターニングした後(図12(b))、フォトレジスト14を塗布してパターニングし(pチャネル領域をマスクする)、リン(P)イオンをドーピングすることにより、nチャネルのソースとドレイン領域を形成した(図12(c))。
更に、ゲート絶縁膜となる膜厚90nmの酸化シリコン膜15を成長させた後、ゲート電極を構成するための、アモルファスシリコン16とタングステンシリサイド(WSi)17を成長させ、ゲート形状にパターニングした(図12(d))。
フォトレジスト18を塗布してパターニングし(nチャネル領域をマスクする)、ボロン(B)をドーピングし、nチャネルのソースとドレイン領域を形成した(図13(e))。
酸化シリコン膜と窒化シリコン膜19を連続成長させた後、コンタクト用の穴をあけ(図13(f))、アルミニウムとチタン20をスパッタリング法で形成し、パターニングを行った(図13(g))。このパターニングで周辺回路のCMOSのソース・ドレインの電極と、画素スイッチTFTのドレインに接続するデータ線配線、画素電極へのコンタクトが形成される。
つづいて絶縁膜の窒化シリコン膜21を形成し、コンタクト用の穴をあけ、画素電極用に透明電極であるITO(indium tin oxide)22を形成し、パターニングした(図13(h))。
このようにしてプレーナ構造のTFT画素スイッチを作成し、TFTアレイを形成した。
このようにして作製したTFTアレイ基板と、対向電極が形成された対向基板間に液晶を狭持して液晶パネルが形成される。
対向電極は、対向基板となるガラス基板上にITO膜を全面に形成しパターニングした後、遮光用のクロムのパターニング層を形成する。遮光用のクロムパターニング層は、ITO膜を全面に形成する前に形成してもかまわない。
更に、対向基板側に2μmのパターニングされた柱を作製した。この柱は、セルギャップを保つためのスペーサとして使用されると同時に耐衝撃力を有するようにした。
この柱は、セルギャップを保つためのもので、柱の高さは液晶パネルの設計により適宜変えることができる。
TFTアレイ基板と対向基板との互いに対向する面に配向膜を印刷し、ラビングすることによって、組み立て後に90度の角度をなす配向方向が得られるようにした。その後、対向基板の画素領域外部に紫外線硬化用のシール材を塗布した。TFTアレイ基板と対向基板とを対向させ接着した後、液晶を注入し液晶パネルが形成される。
遮光膜となるクロムによるパターンニング層は対向基板側に設けたが、TFTアレイ基板側に設けることもできる。遮光膜はクロム以外であっても光を遮蔽できる材料であれば使用できることは言うまでもなく、例えば、WSi(タングステンシリサイド)、アルミニウム等が使用できる。
TFTアレイ基板上に遮光用のクロムのパターニング層を形成する場合、2種類の構造がある。第1の構造は、ガラス基板上に遮光用のクロムのパターニング層を形成したものである。遮光用のパターニング層を形成した後は、第1の実施の形態を同様に製造することができる。第2の構造は、第1の実施の形態と同様にTFTアレイ基板を製造後、最後に遮光用のクロムのパターニング層を設けたものである。
遮光用のクロムによるパターニング層をTFTアレイ基板側に形成した場合は、対向基板に遮光用のクロムによるパターニング層を形成しなくとも良い。対向基板は、ITO膜を全面に形成後、パターニングすることで形成できる。
次に、本発明の第1の実施の形態の詳細を説明する。
上記の方法で製造されたTFT基板と対向基板との間隙に液晶材料として、ねじれピッチの異なる液晶を用意し、それぞれに対して液晶パネルを作製した。更に、1対の偏光板をパネル外部に配置し、ノーマリーホワイト表示が得られるようにした。
基板の間隙(液晶層の厚さ)を2μmにし、ねじれピッチが6μm、20μm、60μmの液晶を用いた。
液晶層の厚さは応答速度に2乗で利いてくる。例えば、液晶層の厚さを6μm(3倍の厚さ)にすると応答速度は1/9になってしまう。このために、液晶層の厚さは4μm以下であることが好ましく、3μm以下であることがより好ましい。薄さに対しての制限はないが、液晶のねじれピッチの制限や基板の間隙の製造上の困難性を考えると0.5μm以上が好ましく、1μm以上であることがより好ましい。
更に、外部にオーバードライブ用駆動回路を設け、高い電圧を必要とする立ち上がり駆動時にはオーバードライブ駆動を行い、印加電圧が低くなる立下り駆動時にはオーバードライブ駆動を行わなかった。
この状態で立下り時(液晶の立下り時の光学応答(すなわち、ノーマリーホワイト配置では暗い状態から明るい状態への応答))の液晶の時間−透過率特性を観測した。黒表示状態から完全透過の白表示状態にし、観測された時間−透過率特性から、透過率が50%近辺での透過率変化の傾きを求めた。透過率50%近辺を選択したのは、この付近での透過率変化が最も大きいためである。求められた傾き(%/ms)を縦軸とし、横軸を(p(ねじれピッチ)/d(液晶層の厚さ))としプロットした図を図2に示す。尚、液晶層の厚さは、基板間の間隙の距離と等価であることは言うまでもない。
図2から、(ねじれピッチ/液晶層の厚さ)が小さくなると傾きが増大し、液晶の立下り時の応答が高速化されることが分かる。特に、第1の実施の形態では、(ねじれピッチ/厚さ)が15程度から傾きの急激な上昇が見られ、(ねじれピッチ/厚さ)が3程度になると傾きは50(%/ms)を超える。すなわち、理想的には2ミリ秒以内での応答も可能となる。この図でねじれピッチ/厚みが30の場合と3の場合を比べると、3では30のほぼ倍の傾きが得られており、液晶の立下り時の光学応答時間を半分にできる可能性があることが分かる。また、30に対し10の条件でも15%以上の高速化が可能である。
この効果は、一言で言えば、電圧等が印加されていない初期配向状態(すなわち、基板間でほぼ均一にねじれた配向状態)に戻るトルクが大きいことによって達成される。本発明のこの作用は、応答時間の式である式1並びに式2から直接得られるものではない。しかし、エネルギーを考察することによって理解することができる。液晶材料自身の物理効果による(すなわち、電界等外部の効果を含まない)自由エネルギー密度の式を式4として示す。
ここで、第1項、第2項、第3項は、それぞれ、広がり変形に関する項、ねじれ変形に関する項、曲がり変形に関する項である。このエネルギーの数式から分かるように、ねじれピッチpは弾性定数K22に係わる項の値を変化させる効果がある。具体的には、ねじれピッチが短くなると、K22に係わる項は増大する。立下り時の応答時間の式2に当てはめると、K22が増大することに相当し、応答時間が短くなる。
これらの効果により、本発明では材料の物性値に制限されて限界に到達している液晶の立ち下がりの応答速度を高速化することができる。
尚、第1の実施の形態ではオーバードライブ駆動を用いているが、液晶の立下りの応答時間はオーバードライブ駆動を行わずとも高速化されることは言うまでもない。
次に、液晶パネルを構成するTFTアレイ基板は、単純マトリックス駆動に用いる基板に比べ、基板上にTFT(薄膜トランジスタ)を作りこむために表面に凹凸が生じる。基板表面に凹凸があると液晶の配向性を乱すので、基板の凹凸に対し液晶の配向性を安定化するものを第2の実施の形態として説明する。
本発明の第2の実施の形態は、基板表面に凹凸による液晶の配向性の乱れを防止する、液晶に配向安定化を施したものである。本実施の形態ではTFTアレイ基板の構造に凹凸がある構造でも液晶の配向が安定化する。
第1の実施の形態と同様にTFT基板と対向基板との間に液晶を狭持した。
本第2の実施の形態においても、第1の実施の形態で用いたものと同じピッチを持った同一材料のねじれネマチック液晶を用いた。
液晶は、図3に示す構造式を有する光硬化性のジアクリレート液晶性モノマーを2%添加したねじれネマチック液晶を注入し、電圧無印加の状態で光照射{紫外線(1mW/cm 2 ×600sec.)}して重合させ、ノーマリーホワイト表示のTN型表示装置を得た。
また、この構成に対し、図4に示す構造式を有する重合性官能基と液晶骨格がメチレンスペーサーを介することなく結合した光硬化性のモノアクリレートの液晶性モノマーを2%添加したねじれネマチック液晶を注入し、電圧無印加の状態で光照射して重合させた場合もジアクリレート液晶モノマーの場合と同様の結果が得られた。
ここでメチレンスペーサーを介していないモノマーを用いた方が、モノマーの添加に対し液晶の電圧に対する応答性の制限を受けることが少ないからである。モノマーの添加量を調節することでこれ以外の液晶性モノマーを用いることができることは言うまでもない。
基板の凹凸に対し液晶の配向性を安定化するには、モノマーの添加量は液晶に対して0.5%以上であれば良いが、1%以上であることがより好ましい。5%以下であれば液晶の応答性を阻害することがないが、3%以下であるほうがより好ましい。
第2の実施の形態の場合、遮光膜はTFT基板側に形成されていることが好ましい。
光照射により重合させる場合、対向基板側から光を照射する。TFTアレイ基板側にはTFT、画素電極、配線等が形成されているので光の損失が大きく、かつ、モノマーに均等に光照射されにくいため、TFTアレイ基板側からの光照射は行わない。
光照射時に対向基板側に遮光膜が形成されていると、遮光膜の陰になった部分に未反応のモノマーが残る。未反応のモノマー残っていると、未反応のモノマーが外光により高分子化する際に液晶の配向状態が不明であるために液晶の配向性がそろわなくなる等の問題が発生し信頼性上の問題が発生するからである。
対向基板側に光を遮光する遮光用のクロムパターニング層が形成されていない場合、液晶性モノマーを光硬化する時に、照射された光は遮光されずに重合性モノマーに照射されるので未反応のモノマーが残ることはない。
本実施の形態においても、第1の実施の形態と同様に高速な応答が実現された。
高分子安定化は高分子安定化による自由エネルギー密度fstabを追加することになり、ねじれた配向で安定化を行うことによりfstabは式4におけるK22を増大させるのと同じ効果を生じる。特に、光硬化性モノマーが液晶骨格を有する液晶性モノマーを添加する場合、液晶の液晶性・配向性を損なうことが無く安定化することが可能である。
液晶性モノマーとして、ジアクリレートを用いることによって、3次元の架橋構造の密度を高くすることができ、良好な高分子安定化効果が得られる。また、液晶性モノマーとして、重合性官能基と液晶骨格がメチレンスペーサーを介することなく結合したモノアクリレートを用いることによって、高分子化した後に液晶骨格が高分子主鎖に直接結合した状態となり液晶骨格の運動が制限され、結果として液晶骨格が配向安定化に寄与する。これらの作用により、電圧等が印加されていない初期配向状態に戻るトルクが大きくなり、たち下がり応答時に高速な応答が得られると考えられる。
第2の実施の形態においても、液晶の立下り時の光学応答は、第1の実施の形態と同様に、ねじれピッチ/厚みが15程度から傾きの急激な上昇が見られ、ねじれピッチ/厚みが3程度になると傾きは50を超えた。
第2の実施の形態の変形例として、遮光膜をクロムからアルミニウムに変更し、第1の実施の形態と同様にねじれピッチを変えた液晶材を注入した場合と、第2の実施の形態のように高分子安定化した液晶パネルを用いて液晶の応答速度の検討を行った。その結果、第1の実施の形態および第2の実施の形態で得られる液晶の応答性の向上以外に、良好なコントラストが得られることが分かった。理由はアルミニウムによる遮光膜はクロムに比べて反射率が高く、光リーク電流を大きく低減することができるためである。
第1の実施の形態と第2の実施の形態とでは液晶の光学応答速度、特に液晶の立下り時の光学応答速度の向上が図れた。第1と第2の実施の形態でリセット駆動を行うと、従来技術で問題となった、複数回同じデータを書き込んでも同じ透過率が得られないことがあるという問題がなくなった。
これは、液晶の立下り時の応答速度が改善され、液晶の配向状態がリセットのたびに所定の状態になるからである。これにより、応答時間はリセット状態から所望の階調状態への時間で定義される。特に、リセット状態として黒表示状態を選択した場合、液晶独特のホールド形表示素子による尾引きを生じる動画特性を改善できる。すなわち、黒いリセットがシャッタ効果を示し、ホールド形応答をインパルス形応答に近づけることが可能である。この黒リセットを行った場合、階調表示時の応答が液晶の立ち下がり応答で規定される。このとき、本発明による液晶の立下り応答の高速化が大きな効力を発揮する。
第2の実施の形態は、第1の実施の形態よりも液晶パネル全面の輝度ムラが減少し、基板の凹凸の影響を受けにくくなっていることが分かる。
本発明は、オーバードライブ駆動とリセット駆動をあわせたような駆動をするコモン電圧を変調する駆動回路を使用した場合に電源電圧を高く設定する必要がなく特に有効である。
本発明の第3の実施の形態を説明する。
本実施の形態も第1の実施の形態と同様の液晶パネルを用いた。
図5に示す構成により、フィールドシーケンシャル表示システムを構成した。具体的には、通常の画像データ110をコントローラ105、パルスジェネレータ104、高速フレームメモリ106を内蔵するコントローラIC(3)で処理することによって、赤・青・緑の各色毎の画像データに変換する。この画像データをデジタル・アナログ・コンバータ(以下、DAC:Digital Analog Converter)102を介して、液晶パネル(LCD)100に入力する。LCD内の走査回路は、コントローラICのパルスジェネレータからの駆動パルスにて制御される。また、光源として3色のLED101を使用している。このLED101はコントローラICからのLED制御信号108によって制御される。
本実施の形態においては、図18のコモン電圧を変調する駆動を行った。このとき、1サブフレーム(すなわち、図18のt0からt2の期間)を5.56msとした。リセット並びにオーバードライブに相当するコモン電圧を高い電圧に変化させるt0からt1の期間の長さは0.8msとした。この状態での透過率の時間変化を測定した結果を図6に示す。ここでは、第1の実施の形態と同じp/dが30、10、3の3条件の結果を示している。p/dが30並びに10の条件では、リセット後に一旦透過率が上昇している。この透過率の上昇(以下、バウンスと呼ぶ)が発生すると応答時間が長くなる。p/d=3の条件ではバウンスがほとんど観察されない。さらに、透過率の変化する傾きは、p/d=30では急峻でなく、p/d=3で最も急峻となっている。サブフレームが終了する時点で、p/d=30では透過率が90%に至らず、p/d=10で90%強、p/d=3ではほぼ100%になっている。
図6の結果から透過率が90%並びに、50%になるまでの時間を求め、横軸をp/d、縦軸を時間としてプロットした図を図7に示す。図7から分かるように、p/dが20未満では、サブフレーム5.56msの間に透過率が90%の応答に達することができる。また、p/dが20未満の場合、サブフレームの半分の時間である2.78msで透過率が50%の応答に達することができる。これによりp/d<20の条件で、十分な透過率が達成できることが分かる。
また、図6からリセット後に光学応答の立ち上がりが生じ始めるまでの経過時間を求めた。すなわち、リセット後の各グラフを透過率10%の点での傾きに沿って透過率0%に外挿した。そして、外挿したグラフと透過率0%との交点の時間とリセット終了時(ここでは、0.8ms)との差を求めた。その結果を図8に示す。図8から、p/dが8未満の条件において、リセット後に応答が始まるまでの時間が1msを切る。1msを切る事によって、サブフレーム中の時間を有効に活用する事が出来る。更に、図6のリセット後から図8で求めた光学応答の立ち上がり期間までの間で発生しているバウンスの平均透過率を求めた。すなわち、バウンス時の透過率の積分を、図8の応答が始まるまでの時間で割って平均透過率とした。その結果を図9に示す。この図から分かるように、バウンス中の平均透過率は、p/d=8の点で傾きが変化し急激に平均透過率が下がる折れ曲がりを見せる傾向がある。p/d<8という条件によって、急激なバウンスの低下が得られる。このバウンスが低下するという事は、前のサブフレームのデータとの関連がなくなり1対1の対応が得られる事、並びに、不安定な配向状態が生じず良好な表示が長期にわたって得られる事を示す。
このコモン電圧を変調する駆動においては、すでに公知であるが、通常のコモン反転駆動に相当する駆動が適用できる。その結果、例えば、従来のデータ信号がコモン電圧に対し±4.5Vであった場合、振幅幅9Vの駆動が必要であったが、コモン反転駆動によって振幅幅は半分の4.5Vとすることが可能である。更には、このコモン電圧を変調する構成では、常に黒表示状態にリセットされ、実際の階調表示に必要な電圧は黒表示電圧からの差だけとなる。すなわち、液晶のしきい値が1.5Vの場合、黒表示時の電圧4.5Vとの差である3Vが実際に必要な電圧となる。そのため、コモン電圧の変調の仕方を工夫することによって、必要なデータ振幅は3Vとなり、従来の1/3ですむ。この結果、従来のオーバードライブ法やリセット法と異なり、非常に低消費電力な駆動で、高速な応答が得られる。特に本発明によって、応答速度が50%近く加速され、TN液晶を用いても、低消費電力で高輝度なフィールドシーケンシャル表示が得られる。このフィールドシーケンシャル駆動では、色再現性が非常に良いことに加えて、常にリセットがされるため動画表示性能も非常に良好であった。
オーバードライブ駆動とリセットパルス駆動とコモン変調駆動の組み合わせ、と本発明とを組み合わせることにより低消費電力で応答速度を速めることが可能となる。
このようにTN液晶でフィールドシーケンシャル駆動が良好に実現できるために、OCB方式のようにセルギャップ均一性や補償板の均一性に多大な注意を配る必要がない。また、強誘電性液晶のような特殊な材料を用いず、一般的な材料が使用できるために、長期信頼性に富む。
更に、温度条件を変えて測定した結果を示す。ここでは、p/d=30とp/d=3の二つの液晶を使用した。温度条件として、常温(25℃)と低温(3℃)の条件を選んだ。また、常温の条件で、白表示、黒表示、グレイ表示の3条件を選んだ。結果を図10に示す。図で横軸は温度、縦軸は透過率である。p/d=30の条件では、温度が3℃になると白表示の透過率がほとんど得られない。一方、p/d=3の条件では、3℃の温度でも60%以上の透過率が得られている。このことから、本発明は、液晶応答の温度依存性をも改善することが可能であることが分かる。
この温度依存性の改善は、次の二つの効果によると考えられる。まず1点は、液晶の応答が高速化されることである。これによって低温でも十分な応答速度が得られる。また、第2点は、バウンスが生じないことである。これによって不安定な配向状態を防ぐと共に前のフレームの影響を受けないため、環境温度を変化させても階調表示が良好に行われると考えられる。
更に、温度依存性はねじれネマチック液晶の材料の構造にも関係することがわっかっている。どの様な材料を用いれば良いかは当業者であれば自明である。 特に、組成物のねじれピッチの温度依存性が小さく常温でのピッチとほぼ同等のピッチが広い温度範囲で得られるか、もしくは、低温で短いピッチになるような温度依存を示すように組成を構成することが効果的である。
バウンスが生じない理由は次のように考えられる。
従来の手法では、高い電圧が印加されると液晶配向が十分に立ち上がる。この状態から電圧を切ると、液晶は寝た配向に動こうとするが、十分に立ち上がった状態ではどの方向に倒れるかが規定されない。これによって、配向が不安定になりバウンスが生じる。また、十分に立ち上がらなかった場合は、履歴として記憶され、不安定な表示が生じる。一方、本発明では、高い電圧を印加すると、本発明による電圧無印加時を安定化する効果と高電圧による立ち上がり効果が一定のバランスで均衡する。これによって、液晶が立ち上がりすぎることがないので、電圧を切ったときには常に一定の方向に倒れる。また、このバランス関係が大きなトルク同士でなされるため、常にほぼ同じ状態で安定する。このため、履歴の記憶がなされずに常に良好なリセット効果が得られる。
前述のように、ねじれた配向状態には、ねじれピッチに沿ったねじれをするノーマルツイスト配向と、ねじれピッチによるねじれの向きと実際の配向のねじれの向きが異なるリバースツイスト配向が存在する。(ねじれのピッチ/液晶層の厚さ)<8にすることでノーマルツイスト配向に戻すトルクを大きくすることができるので、リバースツイスト配向による欠陥を防ぐことができると共に、本発明の高速化が図られる。
更に、液晶には画素電極と共通電極間の電界以外に画素の外縁に配置された配線(例えば走査線)との間に電界が発生する。画素電極と共通電極との間に発生する電界以外の最大電界の基板面への射影の方向が、該ねじれネマチック液晶の電圧無印加時の液晶層中央での液晶配向の基板面の射影の方向とほぼ平行であることにより、(電圧無印加時に実現される)ノーマルツイスト配向の液晶配向に戻るトルクを強めることができる。逆にこれらの射影が直交する関係にあると、リバースツイスト配向を発生させやすい。
更には、基板表面における液晶配向の角度(立ち上がり角度、プレチルト角)が一定の条件において、ノーマルツイスト配向を安定化できる。図11は、プレチルト角を変えた時の、リバースツイスト配向とノーマルツイスト配向のエネルギー差をシミュレーションによって求めた結果を示す図である。プレチルト角16度程度までは、プレチルト角の上昇に伴い、エネルギー差が増加している。すなわち、その範囲内ではプレチルト角が高いほどノーマルツイスト配向が安定である。しかし、16度を超えるとエネルギー差が減少しリバースツイスト配向が安定となる。また、電圧を印加して液晶配向が立った状態と電圧無印加時の液晶配向のエネルギー差によって、立下り応答のトルクの差が得られる。このシミュレーション結果によれば、プレチルト角が小さいほどエネルギー差が大きい。特に、プレチルト角が5度以下で顕著なエネルギー差が得られた。
一方、基板表面における基板と液晶との間の相互作用の大きさを示すアンカリング強度も液晶のチルト角にの違いによるエネルギー差が生じ、トルクの大きさに差が出る。シミュレーションからアンカリング強度が10−5[J/m2]より小さくなるとノーマルツイスト配向が急激に不安定になることが判明した。
本発明の液晶表示装置を光源と同期してフィールドシーケンシャル駆動することによって、従来TNーTFT型では困難であると考えられていたフィールドシーケンシャル型表示装置が実現できる。
本発明において、ねじれ角(ツイスト角)は必ずしも90度前後でなくてもよく、ねじれを有する構造であればよく、角度に規定はない。
本発明は、透過型の表示装置の応答性が改善でき、画像に動きが多い、テレビジョンやゲーム用の電子機器に搭載すると効果的である。本発明において、ねじれ角(ツイスト角)は必ずしも90度前後でなくてもよく、ねじれを有する構造であればよく、角度に規定はない。