イオントフォレーシスは、薬液中においてプラス又はマイナスのイオンに解離した薬物を電圧により駆動して経皮的に生体内に移行させるものであり、患者に対する負担が少なく、薬物の投与量の制御性に優れるなどの利点を有している。
特許文献1は、上記イオントフォレーシスにおける薬物イオンの投与効率を向上させることができるイオントフォレーシス装置を開示している。
図6は、特許文献1に開示されるイオントフォレーシス装置101の構成を示す説明図である。
図示されるように、イオントフォレーシス装置101は、電極111と、プラス又はマイナスのいずれかの極性(第1極性)の薬物イオンを含む薬液を保持する電解液保持部112と、第1極性のイオン交換膜113とを有する作用側電極構造体110、電極121と、電解液を保持する電解液保持部122とを有する非作用側電極構造体120、及び電極111、121に両端を接続された電源130を備えており、イオン交換膜113及び電解液保持部122を生体皮膚に接触させた状態で電極111に第1極性の電圧を、電極121に第2極性の電圧を印加することにより、電解液保持部112の薬物イオンがイオン交換膜113を介して生体側に移行する。
このイオントフォレーシス装置101では、イオン交換膜113が、生体側への薬物イオンの移行を許容しつつ、生体皮膚から電解液保持部112への薬物対イオンの移行を遮断するために、生体対イオンの移動により消費される電流量が低減され、その結果、薬物イオンの投与効率が上昇する。
その反面、第1極性のイオン交換膜のイオン交換基には第1極性の対イオンが比較的イオン解離が容易な状態で結合しており、この対イオンは薬物イオンの競合イオンとして作用する。
従って、生体対イオンの移動を遮断することによる効果がイオン交換基の対イオンの競合により減殺されることになり、薬物イオンの種類や薬物投与の目的などによっては、薬物イオンの投与効率の上昇程度が不十分となる場合があった。
本願出願人は、特許文献1におけるイオントフォレーシス装置101を更に改良し、薬物イオンの投与効率を一層高めることができるイオントフォレーシス装置を米国特許仮出願第60/693668号(以下、「出願1」という)、特願2006−1743234号(以下、「出願2」という)として出願している。
出願1、2のイオントフォレーシス装置では、イオントフォレーシス装置101における第1極性のイオン交換膜113として、予め第1極性の薬物イオンをドープしたイオン交換膜が使用されるとともに、電解液保持部112には、通電により生体側に移行した薬物イオンを置換する第1極性のイオンを供給するための電解液が保持される。
出願1、2のイオントフォレーシス装置では、イオントフォレーシス装置101と同様に、生体対イオンの移行がイオン交換膜113により遮断されるために薬物イオンの投与効率が上昇することに加え、薬物イオンが生体皮膚に最も近接して配置される部材であるイオン交換膜113にドープされているために薬物イオンの投与効率が一層上昇するなどの効果が達成される。更に、電解液保持部112の電解液を、例えば、イオン交換膜113にドープした薬物イオンと同一の薬物イオンを含む薬液とするなどにより、薬物イオンに競合するイオンの供給源を装置内に有さない構成とすることも可能である。
しかしながら、出願1、2のイオントフォレーシス装置では、その製造過程において、薬物イオンを含む薬液にイオン交換膜を浸漬するなどの処理により、イオン交換膜に薬物イオンを予めドープすることが必要であり、そのドープを行う際の薬液を効率的に使用することが難しいという問題がある。
即ち、薬物イオンのドープは、薬液中の薬物イオンとイオン交換膜中のイオン交換基の対イオンとの置換により生じるが、ある程度置換反応が進行して系が平衡に達すると、薬液中に薬物イオンが残っていても、それ以上の置換反応は進まなくなるため、ドープすべき薬物イオンの量によっては、高濃度の薬液を使用したり、薬液を何度も取り替えて処理を行うことが必要となる。
また、薬物イオンのドープに使用した薬液には、イオン交換膜から放出されたイオン交換基の対イオン(例えば、カチオン交換膜からは多くの場合ナトリウムイオンが放出される)が混入しているため、薬液を精製、再使用することが困難な場合が多い。
このため、使用した薬液中に残った薬物が無駄となり、特に高価な薬物の場合には装置コストの上昇を招くことに加え、薬液の廃棄には手間やコストが必要であり、環境問題やコンプライアンスの問題への対処も必要になるなどの不都合を生じていた。
特開平4−297277号公報
本発明は、上記状況に鑑みてなされたものであり、下記のいずれか1以上の目的を達成するものである。
即ち、本発明の目的は、薬物イオンの投与効率に優れるイオントフォレーシス装置を提供することにある。
本発明の他の目的は、特許文献1のイオントフォレーシス装置における薬物イオンの投与効率を更に上昇させることができるイオントフォレーシス装置を提供することにある。
本発明の更に他の目的は、薬物イオンをドープされたイオン交換膜を介して薬物イオンの投与を行うイオントフォレーシス装置と同等又はそれ以上の効率をもって薬物イオンの投与を行うことができるイオントフォレーシス装置であって、装置の製造工程において、イオン交換膜に薬物イオンをドープする処理を行うことを要さないイオントフォレーシス装置を提供することにある。
本発明の更に他の目的は、薬物イオンをドープされたイオン交換膜を介して薬物イオンの投与を行うイオントフォレーシス装置と同等又はそれ以上の効率をもって薬物イオンの投与を行うことができるイオントフォレーシス装置であって、装置の製造工程における薬物の無駄を削減することができるイオントフォレーシス装置を提供することにある。
本発明は、
第1極性の薬物イオンを含む薬液を保持する薬物保持部と、
前記薬物保持部の薬液に第1極性の電圧を印加するための電極と、
前記薬物保持部の前面側において前記薬物保持部の薬液に接触して配置される第1極性のイオン交換膜と、
前記薬物保持部の薬液に接触する第2極性のイオン交換樹脂とを有するイオントフォレーシス装置であって、
前記第1極性がプラスである場合には、前記第1極性のイオン交換膜及び前記第2極性のイオン交換樹脂は、それぞれH型カチオン交換膜及びOH型アニオン交換樹脂であり、
前記第1極性がマイナスである場合には、前記第1極性のイオン交換膜及び前記第2極性のイオン交換樹脂は、それぞれOH型アニオン交換膜及びH型カチオン交換樹脂であることを特徴とするイオントフォレーシス装置(請求項1)、又は、
第1極性の薬物イオンを含む薬液を保持する薬物保持部と、
前記薬物保持部の薬液に第1極性の電圧を印加するための電極と、
前記薬物保持部の前面側において前記薬物保持部の薬液に接触して配置される第1極性のイオン交換膜と、
前記薬物保持部の薬液に接触する第2極性のイオン交換樹脂とを備えるイオントフォレーシス装置の製造方法であって、
前記第1極性がプラスである場合には、前記第1極性のイオン交換膜及び前記第2極性のイオン交換樹脂として、それぞれH型カチオン交換膜及びOH型アニオン交換樹脂を準備し、
前記第1極性がマイナスである場合には、前記第1極性のイオン交換膜及び前記第2極性のイオン交換樹脂として、それぞれOH型アニオン交換膜及びH型カチオン交換樹脂を準備する第1工程と、
第1工程の後に実施される第2工程であって、前記薬液に前記第1極性のイオン交換膜及び前記第2極性のイオン交換樹脂を接触させる第2工程とを有することを特徴とするイオントフォレーシス装置の製造方法(請求項6)により上記課題を解決したものである。
本発明におけるH型カチオン交換膜、H型カチオン交換樹脂は、カチオン交換基の対イオンの全部又は過半数が水素イオンであるカチオン交換膜、カチオン交換樹脂である。本発明のH型カチオン交換膜、H型カチオン交換樹脂における水素イオンが対イオンとして結合したカチオン交換基数の全カチオン交換基数に対する割合は50%以上であり、より好ましくは80%以上であり、特に好ましくは95%以上である。
本発明におけるOH型アニオン交換膜、OH型アニオン交換樹脂は、アニオン交換基の対イオンの全部又は過半数が水酸イオンであるアニオン交換膜、アニオン交換樹脂である。本発明のOH型アニオン交換膜、OH型アニオン交換樹脂における水酸イオンが対イオンとして結合したアニオン交換基数の全アニオン交換基数に対する割合は50%以上であり、より好ましくは80%以上であり、特に好ましくは95%以上である。
市場において入手可能なカチオン交換膜やカチオン交換樹脂は一般に、化学的な安定性を高めるなどを目的として、カチオン交換膜、カチオン交換樹脂内の全部又は過半数のカチオン交換基にナトリウムイオン等の比較的分子量の大きいイオンを結合させた状態で提供されている。即ち、カチオン交換膜やカチオン交換樹脂の製造方法によっては、カチオン交換基の導入処理が行われた段階では、全部又は過半数のカチオン交換基に水素イオンが結合している場合もあるが、そのような場合には、塩水処理などによってこの水素イオンをナトリウムイオンなどに置換する処理が行われている。
アニオン交換膜やアニオン交換樹脂においても同様に、一般には、化学的な安定性を高めることなどを目的として、アニオン交換膜、アニオン交換樹脂内の全部又は過半数のアニオン交換基に塩素イオンなどの比較的分子量の大きいイオンを結合させた状態で提供されている。
従って、特許文献1などにおいてカチオン交換膜又はアニオン交換膜を使用したイオントフォレーシス装置は知られているが、そこで使用されるカチオン交換膜、アニオン交換膜には、必然的に、イオン交換基の全部又は過半数にナトリウムイオンや塩素イオンなどを結合させたものが使用されていたのであり、少なくとも、H型のカチオン交換膜やOH型アニオン交換膜を使用することを明示した例は存在しない。
本発明のイオントフォレーシス装置は、上記のような一般的なカチオン交換膜又はアニオン交換膜ではなく、H型カチオン交換膜又はOH型アニオン交換膜を使用する点において従来に無い構成であるということができる。更には、本発明のイオントフォレーシス装置は、H型カチオン交換膜又はOH型アニオン交換膜を単独で使用するのではなく、H型カチオン交換膜とOH型アニオン交換樹脂の組み合わせ又はOH型アニオン交換膜とH型カチオン交換樹脂の組み合わせを使用する点において従来に例を見ない構成であるということができる。
本発明によれば、予め薬物イオンをドープしたイオン交換膜を使用することなく、薬物イオンの投与効率を出願1、2のイオントフォレーシス装置に匹敵する水準にまで高めることが可能である。
従って、本発明のイオントフォレーシス装置では、装置の製造過程において、イオン交換膜に薬物イオンをドープする際に生じていた薬液の無駄や、当該ドープに使用した薬液の廃棄に伴う問題を解消することができる。
上記本発明の効果が達成されるメカニズムは、必ずしも完全に解明された訳ではないが、現時点において本発明者らが推定している本発明のメカニズムを図1、2を用いて説明する。
なお、以下では、第1極性(薬物イオンの極性)がプラスである場合を例として説明するが、第1極性がマイナスであっても同様の説明が妥当することは自明である。
図1は、特許文献1に記載されるイオントフォレーシス装置における装置の組立時点における状態(図1(A))と、装置の組立からある程度時間が経過したときの状態(図1(B))を示している。
図1(A)のように、従来のイオントフォレーシス装置では、カチオン交換膜CMのカチオン交換基CGには水素イオン以外の対イオンC+が結合しており、この状態で通電を行ったとすれば、通電量の少なくとも一部は対イオンC+が生体に移行することにより消費され、特に通電初期の段階では、生体皮膚により近い位置にある対イオンC+が薬物イオンD+に優先して生体側に移行すると考えられる。
装置の組立によりイオン交換膜CMを薬液DSに接触させると、図1(B)に示すように、時間の経過とともにイオン交換膜CM中の対イオンC+の少なくとも一部が薬液DS中の薬物イオンD+に置換されると考えられるが、このような置換が進行したとしても、系内における薬物イオンD+量や対イオンC+量には変化を生じないため、対イオンC+が薬物イオンD+に代わって生体に移行することによる投与効率の低下の程度は変化しない。
図2は、本発明におけるイオントフォレーシス装置における装置の組立時点における状態(図2(A))と、装置の組立からある程度時間が経過したときの状態(図2(B))を示している。
図2(A)のように、本発明のイオントフォレーシス装置では、H型カチオン交換膜HCMのカチオン交換基CGには、対イオンとして水素イオンH+が結合しており、OH型アニオン交換樹脂OARのアニオン交換基AGには、対イオンとして水酸イオンOH−が結合している。
そして、装置の組立により薬液DSをH型カチオン交換膜HCM及びOH型アニオン交換樹脂OARに接触させると、薬液中の薬物イオンD+との置換反応によってH型カチオン交換膜HCMからは水素イオンH+が放出されるとともに、薬物対イオンD−との置換反応によってOH型アニオン交換樹脂OARからは水酸イオンOH−が放出されることになり(図2(B))、放出された水素イオンH+の全部又は少なくとも一部は、水酸イオンOH−との反応により消滅するものと考えられる(図2(C))。
このように、本発明のイオントフォレーシス装置では、装置内における薬物イオンD+の競合イオン量が減少することになるために、特許文献1のイオントフォレーシス装置と比較して、薬物イオンの投与効率を顕著に向上させることができる。
また、上記置換反応が進行しても、薬液DS中の水素イオンH+の濃度は、水酸イオンOH−との反応により上昇が抑制されるために、系が平衡に至るまでにより多くの薬物イオンD+がH型カチオン交換膜HCMにドープされることになる。
従って、本発明のイオントフォレーシス装置では、薬液DS中の薬物濃度を適切な値とし、十分な量の水酸イオンOH−がOH型アニオン交換樹脂OARから供給されるよう構成するなどにより、出願1、2に開示される薬物イオンをドープしたイオン交換膜を介して薬物イオンの投与が行われるイオントフォレーシス装置と同等又はそれ以上に薬物イオンの投与効率を高めることも可能である。
本発明におけるH型カチオン交換膜又はH型カチオン交換樹脂は、カチオン交換基の対イオンがナトリウムイオンであるカチオン交換膜又はカチオン交換樹脂(例えば、塩水処理が施されたカチオン交換膜又はカチオン交換樹脂)に酸性水溶液による処理を施すことにより得ることができる。
上記酸性水溶液による処理の具体例としては、カチオン交換基の対イオンがナトリウムイオンであるカチオン交換膜又はカチオン交換樹脂を0.5〜1Nの塩酸に10秒〜1時間程度浸漬する処理を1〜5回程度繰り返す処理を例示することができる。酸性水溶液による処理は、塩酸に代えて、硫酸や硝酸などの他の酸性水溶液を用いて行うことも可能である。
本発明におけるH型カチオン交換膜又はH型カチオン交換樹脂は、カチオン交換基を導入可能なポリマーにスルホン化処理又はクロロスルホン化処理などを施すことによっても得ることができる。
本発明におけるOH型アニオン交換膜又はOH型アニオン交換樹脂は、アニオン交換基の対イオンが塩素イオンであるアニオン交換膜又はアニオン交換樹脂(例えば、塩水処理が施されたアニオン交換膜又はアニオン交換樹脂)に塩基性水溶液による処理を施すことにより得ることができる。
上記塩基性水溶液による処理の具体例としては、アニオン交換基の対イオンが塩素イオンであるアニオン交換膜又はアニオン交換樹脂を0.5〜1Nの水酸化ナトリウム水溶液に10秒〜1時間程度浸漬する処理を1〜5回程度繰り返す処理を例示することができる。塩基性水溶液による処理は、水酸化ナトリウム水溶液に代えて、水酸化カリウムや水酸化カルシウムなどの他の塩基性水溶液を用いて行うことも可能である。
本発明におけるOH型アニオン交換膜又はOH型アニオン交換樹脂は、アニオン交換基を導入可能なポリマーにアミノ化処理又はアルキル化処理などを施すことによっても得ることができる。
本発明において使用されるH型カチオン交換樹脂及びOH型アニオン交換樹脂の形態は任意である。即ち、カチオン交換樹脂及びアニオン交換樹脂は、一般には、粒子状固体の形態である場合が多いが、本発明のH型カチオン交換樹脂及びOH型アニオン交換樹脂は、必ずしもそのような形態である必要はない。
例えば、H型カチオン交換膜にはH型カチオン交換樹脂が含有されており、OH型アニオン交換膜にはOH型アニオン交換樹脂が含有されているため、本発明のH型カチオン交換樹脂又はOH型アニオン交換樹脂として、H型カチオン交換膜又はOH型アニオン交換膜を使用することも可能である(請求項2)。
請求項2の発明においては、当該第2極性のイオン交換膜を電極と薬物保持部の間に配置し、当該第2極性のイオン交換膜により、薬物保持部の薬液を電極から非接触に保つこと(請求項3)が好ましい。
かかる発明によれば、通電の際の電極反応により、仮に水素イオンや水酸イオン、次亜塩素酸などの好ましくないイオンが生成されたとしても、これらのイオンの薬物保持部への移行を第2極性のイオン交換膜により遮断することが可能となるため、これらのイオンによる薬物イオンの投与効率の低下を防止し、或いは、生体界面におけるpH値の変化などの安全上好ましくない状態が生じることを防止することができる。
請求項3の発明においては、電極と第2極性のイオン交換膜の間に電解液を保持すること(請求項4)が好ましく、これにより、電極からの通電を良好に保ち、また、当該電解液の組成を適切に選択するなどにより、電極反応によるガスの発生を生じ難くすることが可能である。
本発明は、
溶解することにより第1極性の薬物イオンを解離する薬物を保持する薬物保持部と、
前記薬物保持部に第1極性の電圧を印加するための電極と、
前記薬物保持部の前面側に配置された第1極性のイオン交換膜と、
第2極性のイオン交換樹脂とを有するイオントフォレーシス装置であって、
前記第1極性がプラスである場合には、前記第1極性のイオン交換膜及び前記第2極性のイオン交換樹脂は、それぞれH型カチオン交換膜及びOH型アニオン交換樹脂であり、
前記第1極性がマイナスである場合には、前記第1極性のイオン交換膜及び前記第2極性のイオン交換樹脂は、それぞれOH型アニオン交換膜及びH型カチオン交換樹脂であり、
前記薬物保持部の薬物を溶媒に溶解させた際に、当該薬物を溶解させた薬液に、前記第1極性のイオン交換膜及び前記第2極性のイオン交換樹脂が接触することを特徴とするイオントフォレーシス装置(請求項5)とすることが可能である。
かかるイオントフォレーシス装置では、水などの溶媒に未溶解の状態で薬物が保持されるため、薬物の保存性を高めることが可能である。
なお、本発明における薬物を溶媒に溶解させる処理は、薬物投与に先だって、注射などの注液手段を用いて薬物保持部に溶媒を注入することにより行うことができる他、第1極性のイオン交換膜から溶媒を浸透させることによっても行うことが可能である。
本明細書における「薬物」は、調製されているか否かに関わらず、一定の薬効又は薬理作用を有し、病気の治療、回復又は予防、健康の増進又は維持、病状や健康状態などの診断、或いは美容の増進又は維持などの目的で生体に投与される物質を意味する。
本明細書における「薬物イオン」は、薬物がイオン解離することにより生じるイオンであって、薬効又は薬理作用を担うイオンを意味する。
本明細書における「薬物対イオン」は、薬物がイオン解離することにより生じるイオンであって、薬物イオンとは反対極性のイオンを意味する。
本明細書における「薬液」は、薬物イオンを含む流動物を意味し、本明細書における「薬液」には、薬物を溶媒に溶解させた溶液や薬物が液状である場合における原液などの液体状態のものだけでなく、薬物の少なくとも一部が薬物イオンに解離する限り、薬物を溶媒等に懸濁又は乳濁させたもの、軟膏状又はペースト状に調整されたものなど各種の状態のものを含む。
本発明のイオン交換膜にドープされる薬物イオンは必ずしも単一種類である必要はなく、複数種類であっても構わない。
本明細書における「皮膚」は、イオントフォレーシスによる薬物イオンの投与を行い得る生体表面を意味しており、例えば口腔内の粘膜なども含まれる。「生体」は人及び動物を含む。
本明細書における「生体対イオン」は、生体の皮膚上又は生体内に存在するイオンであって、薬物イオンと反対極性のイオンを意味する。
本明細書における「前面側」は、薬物イオンの投与に際して装置内を流れる電流の経路上における生体皮膚に近い側を意味する。
本明細書における「第1極性」は、プラス又はマイナスの電気極性を意味し、「第2極性」は第1極性と反対の電気極性(マイナス又はプラス)を意味する。
イオン交換膜としては、イオン交換樹脂を膜状に形成したものの他、イオン交換樹脂をバインダーポリマー中に分散させ、これを加熱成型などにより製膜することで得られる不均質イオン交換膜や、イオン交換基を導入可能な単量体、架橋性単量体、重合開始剤などからなる組成物、又はイオン交換基を導入可能な官能基を有する樹脂を溶媒に溶解させたものを、布や網、或いは多孔質フィルムなどの基材に含浸充填させ、重合又は溶媒除去を行った後にイオン交換基の導入処理を行うことにより得られる均質イオン交換膜など各種のイオン交換膜が知られているが、本発明のイオン交換膜には、これらのイオン交換膜を特段の制限無く使用することができる。
本明細書における「第1極性のイオン交換膜」は、第1極性のイオンの通過を許容する一方で第2極性のイオンの通過を遮断する機能を有するイオン交換膜(即ち、第1極性のイオンが、第2極性のイオンよりも通過し易いイオン交換膜)を意味する。第1極性がプラスである場合には「第1極性のイオン交換膜」はカチオン交換膜であり、第1極性がマイナスである場合には「第1極性のイオン交換膜」はアニオン交換膜である。
同様に「第2極性のイオン交換膜」は、第2極性のイオンの通過を許容する一方で第2極性のイオンの通過を遮断する機能を有するイオン交換膜(即ち、第2極性のイオンが、第1極性のイオンよりも通過し易いイオン交換膜)を意味する。第2極性がプラスである場合には「第2極性のイオン交換膜」はカチオン交換膜であり、第2極性がマイナスである場合には「第2極性のイオン交換膜」はアニオン交換膜である。
カチオン交換膜の具体例としては、(株)トクヤマ製ネオセプタCM−1、CM−2、CMX、CMS、CMBなどの陽イオン交換基が導入されたイオン交換膜を例示することができ、アニオン交換膜の具体例としては、(株)トクヤマ製ネオセプタAM−1、AM−3、AMX、AHA、ACH、ACSなどの陰イオン交換基が導入されたイオン交換膜を例示することができる。
本発明のイオン交換膜には、多孔質フィルムの孔中にイオン交換樹脂が充填されたタイプのイオン交換膜を特に好ましく使用することができる。具体的には、0.005〜5.0μm、より好ましくは0.01〜2.0μm、最も好ましくは0.02〜0.2μmの平均孔径(バブルポイント法(JIS K3832−1690)に準拠して測定される平均流孔径)の多数の孔が、20〜95%、より好ましくは30〜90%、最も好ましくは30〜60%の空隙率で形成された5〜140μm、より好ましくは10〜120μm、最も好ましくは15〜55μmの膜厚を有する多孔質フィルムを使用し、5〜95質量%、より好ましくは10〜90質量%、特に好ましくは20〜60質量%の充填率でイオン交換樹脂を充填させたイオン交換膜を使用することができる。
本明細書においてイオン選択膜又はイオン交換膜について述べる「イオンの通過の遮断」は、必ずしも一切のイオンを通過させないことを意味するのではなく、例えば、ある特定のイオンの通過速度又は通過量が他の特定のイオンよりも十分に小さいがために、当該イオン選択膜又はイオン交換膜に求められる機能が十全に発揮される場合を含む。同様に、イオン選択膜又はイオン交換膜について述べる「イオンの通過の許容」は、イオンの通過に一切の制約が生じないことを意味するのではなく、例えば、イオンの通過がある程度制約される場合であっても、当該イオン選択膜又はイオン交換膜に求められる機能が十全に発揮される程度のイオンの通過速度又は通過量が確保される場合を含む。
図3(A)は、本発明の一実施形態に係るイオントフォレーシス装置1Aの構成を示す説明図である。
図示されるように、イオントフォレーシス装置1Aは、主として作用側電極構造体10A、非作用側電極構造体20A及び電源30から構成されている。
作用側電極構造体10Aは、電源30の一方の極(第1極性の極)に給電線31を介して接続される電極11、電極11に接触する薬液を保持する薬物保持部15及び第1極性のイオン交換膜16を備えており、その全体がケース又は容器17に収容されている。
一方、非作用側電極構造体20Aは、電源30の他方の極(第2極性の極)に給電線32を介して接続される電極21、電極21に接触する電解液を保持する電解液保持部22を備えており、その全体がケース又は容器27に収容されている。
上記電極11、21には、任意の導電性材料を特段の制限無しに使用することが可能であるが、銀/塩化銀電極などの水よりも酸化還元電位の低い導電性材料を用いた活性電極を使用することで、電極反応によるガスの発生や水素イオン、水酸イオン、次亜塩素酸などの好ましくないイオンの生成、或いは薬物イオンの変質等を抑制することが可能である。
しかしながら、上記活性電極は、装置の保管中における活性電極と薬物イオンとの反応の問題や、通電時における電極のモルフォロジー変化などの問題を有するため、電極11として、本願出願人による特願2005−363085号に開示される分極性電極(単位重量当たりの静電容量が1F/g以上の導電体又は比表面積が10m2/g以上の導電体を含有する電極。電気2重層容量キャパシタ(EDLC)とも呼ばれる。)又は特願2005−229985号に開示される導電性ポリマーなどのイオンのドープ又は脱ドープにより電気化学反応を生じる物質を含有する電極を使用することが特に好ましい。分極性電極は、活性炭又は活性炭繊維で構成することができ、ノボロイド繊維(フェノール樹脂を繊維化した後、架橋処理し、分子構造を3次元化させた繊維)を炭化、賦活させた活性炭繊維を特に好ましく使用することができる。
通電量が小さいなどのために電極反応によるガスやイオンの生成などが問題とならない場合、或いは薬物保持部15や電解液保持部22の薬液や電解液が電極反応を生じさせ難い性質を有する場合などには、電極11、21に金、白金、ステンレス、カーボンなどの不活性電極を使用することも可能である。
薬物保持部15には、第1極性の薬物イオンを含む薬液が保持される。薬物保持部15は、薬液を液体状体で保持することができ、ガーゼ、濾紙、水性ゲルなどの適当な吸収性の担体に含浸させて保持することもできる。
第1極性がプラスである場合の薬物保持部15の薬液としては、塩酸リドカインや塩酸モルヒネの水溶液を例示することができ、第1極性がマイナスである場合の薬物保持部15の薬液としては、アスコルビン酸の水溶液を例示することができる。
薬物保持部15には、上記薬液に加え、第2極性のイオン交換樹脂14Aが保持されており、薬物保持部15において、薬液とイオン交換樹脂14Aは接触が保たれている。このイオン交換樹脂14Aは、第1極性がプラスである場合にはOH型アニオン交換樹脂であり、第1極性がマイナスである場合にはH型カチオン交換樹脂である。
H型カチオン交換樹脂は、カチオン交換基にナトリウムイオンなどが結合したカチオン交換樹脂に酸性水溶液による処理を施すことにより、OH型アニオン交換樹脂は、アニオン交換基に塩素イオンなどが結合したアニオン交換樹脂に塩基性水溶液による処理を施すことにより得ることができる。
なお、イオン交換樹脂は、一般には紛状又はビーズ状の固体の形態で提供される場合が多いが、イオン交換樹脂14Aの形態に特段の制限はなく、必ずしも紛状又はビーズ状の固体の形態のものを使用する必要はない。
薬物保持部15の前面側には、第1極性のイオン交換膜16が薬物保持部15の薬液と接触を保つように配置される。このイオン交換膜16は、第1極性がプラスである場合にはH型カチオン交換膜であり、第1極性がマイナスである場合にはOH型アニオン交換膜である。
H型カチオン交換膜は、カチオン交換基にナトリウムイオンなどが結合したカチオン交換膜に酸性水溶液による処理を施すことにより、OH型アニオン交換膜は、アニオン交換基に塩素イオンなどが結合したアニオン交換膜に塩基性水溶液による処理を施すことにより得ることができる。
イオン交換膜16の平面形状、面積、膜厚などは、投与すべき薬物の種類、装置の性能、デザインなどに応じて適宜設定されるものであり、必要に応じて2枚以上のイオン交換膜16を重ねて使用することも可能である。
電極21の前面側には、任意的な構成として、電極21から生体皮膚への通電性を良好なものとするため電解液を保持する電解液保持部22を備えることが好ましい。
電解液保持部22は、任意の電解質を溶解した電解液を保持することができるが、水よりも酸化還元電位の低い電解質を使用し、或いは複数種類の電解質を溶解した緩衝電解液を使用することで、通電の際における電極反応によるガスの発生や好ましくないイオンの生成、或いはこれによるpH変化を抑制することができる。
上記の目的を達成することができる電解液としては、例えば、0.5Mのフマル酸ナトリウムと0.5Mのポリアクリル酸の5:1混合液を例示することができる。
電解液保持部22は、電解液を液体状体で保持することができ、天然繊維、人工繊維の織布や不織布、多孔質膜、或いはゲルなどの適当な吸収性の担体に含浸させて保持することもできる。
作用側電極構造体10A及び非作用側電極構造体20Aの容器17、27は、薬物イオンの種類、薬物保持部15や電解液保持部22などにおける含水率、装置の使用環境などに応じて使用される場合がある任意的な部材である。
容器17、27は、内部に上述の各要素を収容できる空間が形成され、下面が開放されたプラスチックなどの任意の素材から形成することができる。容器17、27は、好ましくは内部からの水分の蒸発や外部からの異物の侵入を防ぐことができ、生体の動きや皮膚の凹凸に追随できる柔軟な素材から形成することができる。容器17、27の下面には、イオントフォレーシス装置1Aの保存中における水分の蒸発や異物の混入を防ぐことができる適宜の材料からなり、使用に際して取り外されるライナー(不図示)を貼付することができ、更には、容器17、27の下面の外周縁などに生体皮膚との密着性を向上させるための粘着剤層を設けることも可能である。
電源30としては、電池、定電圧装置、定電流装置、定電圧・定電流装置などを使用することができるが、本実施形態では、0.01〜1.0mA/cm2、好ましくは、0.01〜0.5mA/cm2の範囲で電流調整が可能であり、50V以下、好ましくは、30V以下の安全な電圧条件で動作する定電流装置が使用される。
イオントフォレーシス装置1Aでは、イオン交換膜16及び電解液保持部22を生体皮膚に当接させた状態で、電源30から電極11及び21に、それぞれ第1極性及び第2極性の電圧を印加することにより、薬物保持部15の薬物イオン乃至は装置の保管中にイオン交換膜16のイオン交換基に置換した薬物イオンが生体に投与される。
イオントフォレーシス装置1Aでは、イオン交換膜16が生体対イオンの通過を遮断するために、薬物イオンの投与効率を向上させることができる。更に、イオン交換膜16のイオン交換基には薬物イオンが結合しているため、この薬物イオンが通電開始後直ちに生体に移行することが可能であり、薬物イオンの投与速度の急峻な立ち上がりを得ることができる。
また、イオン交換膜16内のイオン交換基の対イオン(水素イオン又は水酸イオン)は、装置の保管中に薬物保持部15の薬液中に移行し、イオン交換樹脂14A内のイオン交換基の対イオン(水酸イオン又は水素イオン)との反応により消滅する(水分子になる)ために、装置内における薬物イオンの競合イオン量が減少することになる。従って、薬物イオンの投与効率の一層の向上を達成することができる。
加えて、イオントフォレーシス装置1Aでは、製造工程において予めイオン交換膜16に薬物イオンをドープする処理を行う必要がない。従って、当該ドープのために発生していた薬液の無駄が削減され、当該ドープに使用した薬液の廃棄の問題も解消することができる。
図3(B)は、本発明の他の実施形態に係るイオントフォレーシス装置1Bの構成を示す説明図である。
イオントフォレーシス装置1Bでは、イオントフォレーシス装置1Aの性能を向上させるための追加的な要素を備えている点を除いて、イオントフォレーシス装置1Aと同様の構成を有している。
即ち、イオントフォレーシス装置1Bにおける作用側電極構造体10Bは、作用側電極構造体10Aと同様の電極11、薬物保持部15及びイオン交換膜16に加え、電解液保持部12及びイオン選択膜13を備えており、非作用側電極構造体20Bは、非作用側電極構造体20と同様の電極21、電解液保持部22に加え、イオン選択膜23、25及び電解液保持部24を備える点においてのみイオントフォレーシス装置1Aと相違しており、イオントフォレーシス装置1Aについて上記したと同様の効果を達成する。
ここで、電解液保持部12、24は、電解液保持部22について上記したと同様の電解液を同様の態様で保持するものとすることができる。
イオン選択膜13には、薬物保持部15の薬物対イオンの通過を許容する一方で、電解液保持部12中の第1極性のイオンの通過を遮断する特性を有する膜状の部材を使用することが好ましく、これにより、電解液保持部12における電気分解などにより生じた水素イオンや水酸イオンなどの好ましくないイオンが薬物保持部15に移行することを防止することができる。
イオン選択膜23には、電解液保持部24中の第1極性のイオンの通過を許容する一方で、電解液保持部22中の第2極性のイオンの通過を遮断する特性を有する膜状の部材を使用することが好ましく、これにより、電解液保持部22における電気分解などにより生じた水素イオンや水酸イオンなどの好ましくないイオンが電解液保持部24に移行することを防止することができる。
イオン選択膜25には、電解液保持部24中の第2極性のイオンの通過を許容する一方で、生体対イオンの通過を遮断する特性を有する膜状の部材を使用することが好ましく、これにより、薬物イオンの投与時における皮膚面のイオンバランスを良好に保つことができる。
イオン選択膜13、23、25は、イオンの分子量やサイズ、或いは立体的形状に基づいて上記イオンの通過の許容及び遮断を行う半透膜(限外濾過膜など)の形態を採ることが可能であり、電荷に基づいて上記イオンの通過の許容及び遮断を行う電荷選択膜の形態を採ることも可能である。イオン選択膜13、23、25として、電荷選択膜の形態のイオン選択膜を使用する場合、イオン選択膜13、25には第2極性のイオン交換膜を、イオン選択膜23には第1極性のイオン交換膜を特に好ましく使用することができる。
図4(A)〜(C)は、イオントフォレーシス装置1A又は1Bにおける作用側電極構造体10A又は10Bに代えて使用することができる他の態様の作用側電極構造体10C〜10Eの構成を示す説明図である。
作用側電極構造体10Cは、第2極性のイオン交換樹脂14Aに代えて第2極性のイオン交換膜14Cが薬物保持部15に保持される点を除いて作用側電極構造体10Aと同様の構成を有している。イオン交換膜14Cは、第1極性がプラスである場合にはOH型アニオン交換膜であり、第1極性がマイナスである場合にはH型カチオン交換膜である。図ではイオン交換膜14Cが1枚の場合が示されているが、複数枚のイオン交換膜14Cを使用しても構わない。
OH型アニオン交換膜にはOH型アニオン交換樹脂が担持され、H型カチオン交換膜にはH型カチオン交換樹脂が担持されているため、作用側電極構造体10Cを備えるイオントフォレーシス装置は、イオントフォレーシス装置1A又は1Bと同様の作用効果を達成する。
作用側電極構造体10Dでは、第2極性のイオン交換樹脂14Aに代えて第2極性のイオン交換膜14Dが電極11と薬物保持部15の間に配置され、当該イオン交換膜14Dにより薬物保持部15の薬液が直接電極11に接触しない構成となっている点を除いて作用側電極構造体10Aと同様の構成を有している。
イオン交換膜14Dは、サイズや形状を他の部材(電極11や薬物保持部15)と合わせる必要はある点を除いてイオン交換膜14Cと同様の構成とすることができる。
従って、作用側電極構造体10Dを備えるイオントフォレーシス装置は、イオントフォレーシス装置1A又は1Bと同様の作用効果を達成する。
加えて、作用側電極構造体10Dでは、薬物保持部15内の薬物対イオンが電極11側に移行することで通電が確保される一方で、薬物イオンの電極11側への移行はイオン交換膜14Dにより遮断される。従って、通電の際の電極反応により薬物イオンに変質を生じることが防止され、或いは電極反応により生成された水素イオン、水酸イオン、次亜塩素酸などの好ましくないイオンが薬物保持部15に移行することによる薬物イオンの投与効率の低下や皮膚界面におけるpH値の変化などが防止されるという追加的な効果が達成される。
作用側電極構造体10Eは、電極11と第2極性のイオン交換膜14Eの間に電解液保持部12を備える点を除いて、作用側電極構造体10Dと同様の構成を有している。
電解液保持部12は、作用側電極構造体10Bにおける電解液保持部と同様の構成とすることができる。
作用側電極構造体10Eを備えるイオントフォレーシス装置は、作用側電極構造体10Dを備えるイオントフォレーシス装置と同様の作用効果を達成できるが、これに加えて、電解液保持部12の電解液組成を適切に選択することにより、電極反応によるガスの発生や水素イオン、水酸イオン、次亜塩素酸などの好ましくないイオンの発生を抑止し、電極11とイオン交換膜14Eとの通電性を向上させるなどの追加的な効果を達成することができる。
以上、好ましい実施形態に基づいて本発明を説明したが、本発明は、上記した実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲の記載内において種々の改変が可能である。
例えば、上記実施形態では、薬物保持部15に液体状態の薬液が保持されるイオントフォレーシス装置を例として説明したが、薬物を乾燥状態で薬物保持部15に保持することも可能である。この場合、薬液投与に際しては、イオン交換膜16から水を浸透させることで薬物保持部15の薬物を溶解することが可能であり、或いは、図5に示すような注液手段18を用いて薬物保持部15への水分供給を行うことも可能である。
また、上記実施形態では、単一の作用側電極構造体と単一の非作用側電極構造体とを備えるイオントフォレーシス装置を例として説明したが、電源の両極に接続される2つの電極構造体の双方に生体に投与すべき薬物が保持されるイオントフォレーシス装置や、電源のそれぞれの極に複数の作用側電極構造体及び/又は非作用側電極構造体が接続されるイオントフォレーシス装置にも本発明を適用することは可能である。この場合には、生体に投与すべき薬物が保持される少なくとも一つの電極構造体が本発明に従う構成とされたイオントフォレーシス装置は本発明の範囲に含まれる。
また、上記実施形態では、非作用側電極構造体を備えるイオントフォレーシス装置を例として説明したが、イオントフォレーシス装置そのものには非作用側電極構造体を設けずに、例えば、生体皮膚に本発明に従う作用側電極構造体を当接させ、アースとなる部材にその生体の一部を当接させた状態で作用側電極構造体に第1極性の電圧を印加して薬物の投与を行うようにすることも可能であり、本発明は、非作用側電極構造体を備えないイオントフォレーシス装置を除外するものではない。
同様に、上記実施形態では、イオントフォレーシス装置が電源を備える場合を例として説明したが、使用に際して作用側電極構造体に第1極性の電圧を印加しうる構成さえ有していれば良く、イオントフォレーシス装置自体が電源を備える必要はない。
また、上記実施形態では、電源、作用側電極構造体及び非作用側電極構造体がそれぞれ別体として構成される場合について説明したが、これらの要素を単一のケーシング中に組み込み、或いはこれらを組み込んだ装置全体をシート状又はパッチ状に形成して、その取扱性を向上させることも可能である。
上記実施形態おける各部材の形状、寸法、材質などは単なる例として記述したものであり、本発明はこれらの記述により限定されるものではない。
1A〜1E・・・イオントフォレーシス装置、11・・・電極、12・・・電解液保持部、13・・・イオン選択膜、14A・・・イオン交換樹脂、14C〜14E・・・イオン交換膜、15・・・薬物保持部、16・・・イオン交換膜、17・・・容器、18・・・注液手段、20A、20B・・・非作用側電極構造体、21・・・電極、22・・・電解液保持部、23・・・イオン選択膜、24・・・電解液保持部、25・・・イオン選択膜、27・・・容器、30・・・電源、31、32・・・給電線、32・・・給電線、101・・・イオントフォレーシス装置、110・・・作用側電極構造体、120・・・非作用側電極構造体、111、121・・・電極、112、122・・・電解液保持部、113・・・イオン交換膜、130・・・電源、DS・・・薬液、D+・・・薬物イオン、D−・・・薬物対イオン、HCM・・・H型カチオン交換膜、CM・・・カチオン交換膜、CG・・・カチオン交換基、C・・・対イオン、H+・・・水素イオン、OAR・・・OH型アニオン交換樹脂、AR・・・OH型アニオン交換樹脂、AG・・・アニオン交換基、OH−・・・水酸イオン