ところで、車両内には、走行状態を制御したり運転者の運転操作を補助したりする種々の車両制御装置が設けられる。こうした車両制御装置のアクチュエータとしては、電動モータが使用されることが多い。車両制御装置で使われる電動モータを駆動制御するにあたっては、安全上、冗長設計がなされる。例えば、駆動系を全て二重にする構成、つまり、電動モータ、ブリッジ回路、モータ制御回路を全て2組設けた構成や、共通の電動モータに対してブリッジ回路、モータ制御回路を2組設けた構成などが考えられる。しかし、こうした冗長構成ではコストが高い。また、回路異常を検出する電圧モニタ回路や電流センサも2組必要となってくる。
また、ブリッジ回路のスイッチング素子が故障した場合のバックアップ用として、予備のスイッチング素子を並列に追加した冗長設計を採用した場合には、バックアップが必要となったときに、その予備のスイッチング素子を確実に動作できる状態になっている必要がある。
本発明は、上記問題に対処するためになされたもので、低コストで確実性の高いバックアップ機能を有する電動モータ駆動装置の提供を目的とする。
上記目的を達成するために、本発明の特徴は、複数のスイッチング素子を並列接続したスイッチング素子群をそれぞれ有する上アームと下アームとを直列接続したアーム回路を複数並列接続して備え、上記各アーム回路の両端間に直流電源が供給されるとともに、上記各アーム回路における上アームと下アームとの間から電動モータへ電源供給するブリッジ回路と、上記ブリッジ回路の各スイッチング素子群にPWM制御信号を出力することにより上記電動モータを駆動制御するモータ制御手段とを備えたモータ駆動装置において、上記電動モータの駆動制御中に上記並列接続された複数のスイッチング素子のうちPWM制御信号を出力する対象となるスイッチング素子を選択的に切り替える切替手段を備えたことにある。
この発明においては、ブリッジ回路の各アームごとに複数のスイッチング素子が並列接続されたスイッチング素子群が設けられる。モータ制御手段は、このスイッチング素子群に対してPWM制御信号を出力する。この場合、切替手段が、並列接続された複数のスイッチング素子のうちPWM制御信号を出力する対象となるスイッチング素子を選択的に切り替える。つまり、電動モータをPWM制御するために使用するスイッチング素子を切り替える。
並列接続された複数のスイッチング素子のうちモータ制御手段からPWM制御信号を入力したスイッチング素子は、オン・オフしてデューティ比に応じた電流を電動モータに流す。一方、PWM制御信号が入力されないスイッチング素子(選択されていないスイッチング素子)は、オフ状態を維持する。このスイッチング素子の切り替えは、電動モータの通常運転中に行われる。この通常運転中とは、異常が検出された状態での運転時や異常診断用の特殊運転時とは異なり、本来の目的での電動モータの駆動制御時を意味する。
従って、並列接続したスイッチング素子を通常運転中に切り替えて使用するため、各スイッチング素子の異常を通常運転中に検出することができる。この結果、スイッチング素子を確実にバックアップ可能な状態を維持することができる。また、モータ駆動回路として低コストに冗長回路を構成することができる。
本発明の他の特徴は、上記各アームに設けられるスイッチング素子群は、主スイッチング素子と副スイッチング素子とを並列接続して構成され、上記切替手段は、上記電動モータの通常運転中において、上記PWM制御信号を出力する対象を上記主スイッチング素子と副スイッチング素子とに交互に切り替えることにある。
この発明によれば、各アームに主スイッチング素子と副スイッチング素子とが並列接続され、通常運転中において、この2つのスイッチング素子が切替手段により交互に切り替えられる。つまり、PWM制御信号の出力対象が主スイッチング素子と副スイッチング素子とに交互に切り替えられる。従って、各スイッチング素子の異常を通常運転中に検出することができる。また、モータ駆動回路として低コストに冗長回路を構成することができる。
尚、主スイッチング素子と副スイッチング素子とを同等の性能(例えば、同じ電流容量)のもので構成しても、あるいは、副スイッチング素子を主スイッチング素子に比べて低い性能のもので構成してもどちらでもかまわない。
本発明の他の特徴は、上記切替手段は、上記電動モータに流れる電流値あるいは電流制御値がゼロとなっているときに、上記PWM制御信号を出力する対象となるスイッチング素子を切り替えることにある。
この発明によれば、電動モータに流れる電流値あるいは電流制御値(モータ制御上における目標電流)がゼロになっているときに、PWM制御信号を出力する対象となるスイッチング素子、つまり、PWM制御に使うスイッチング素子を切り替えるため、切り替え時にモータ電流の変動が生じなく電動モータが異常作動するおそれがない。また、切り替えられたスイッチング素子に大電流が突然流れるといったことがなく、スイッチング素子の損傷を防止して長期にわたって使用することができる。
本発明の他の特徴は、上記モータ制御手段は、上記PWM制御信号を出力する対象となるスイッチング素子を切り替えるときには、上記並列に接続されたスイッチング素子のPWM制御におけるオン・オフタイミングを同期させることにある。
この発明によれば、PWM制御信号を出力する対象となるスイッチング素子を切り替えるとき、その切り替え前のスイッチング素子に出力されているPWM制御信号と、切り替え後のスイッチング素子に出力されるPWM制御信号とにおけるオン・オフタイミングを同期させるため、上アームと下アームとがともにオン状態(アーム短絡)になって貫通電流が流れてしまうことを防止できる。ここで「PWM制御信号におけるオン・オフタイミングを同期させる」とは、PWM制御の周期、制御周期の開始タイミングと終了タイミング、デューティ比を一致させることを意味する。
本発明の他の特徴は、上記モータ制御手段は、上記PWM制御信号を出力する対象となるスイッチング素子を切り替えるときには、所定の設定時間だけ全てのスイッチング素子にオフ指令を出力することにある。
この発明によれば、スイッチング素子の応答特性、特にオン状態からオフ状態に切り替わるときの応答遅れが生じても、所定の設定時間だけ全てのスイッチング素子にオフ指令が出力されるため、上アームと下アームとがともにオン状態になって貫通電流が流れてしまうことを防止できる。
本発明の他の特徴は、上記モータ制御手段は、上記主スイッチング素子にPWM制御信号を出力する場合と、上記副スイッチング素子にPWM制御信号を出力する場合とで、それぞれ独立したアーム短絡防止用のデットタイムを設定するとともに、上記PWM制御信号を出力する対象となるスイッチング素子を切り替えるときには、上記それぞれ独立して設定されたデットタイム以上の長さの設定時間だけ全てのスイッチング素子にオフ指令を出力することにある。
PWM制御においては、常時電流を流す通電方式が知られている。例えば、Hブリッジ回路においては、電動モータの正転駆動方向への通電と逆転駆動方向への通電とを高速周期で切り替え、その正転駆動方向の通電期間と逆転駆動方向の通電期間との比を調整することにより電動モータの回転を制御する方式、一般に常時PWM制御と呼ばれる通電方式が知られている。
こうした常時PWM制御を行う場合、駆動方向を切り替えるときのアーム短絡を防止するために、上アームのスイッチング素子と下アームのスイッチング素子との両方に対してオン信号を出力しないデットタイムが設けられる。しかし、主スイッチング素子と副スイッチング素子の応答特性が相違すると、PWM制御信号の出力対象となるスイッチング素子を切り替える時にアーム短絡が発生するおそれがある。
そこで、この発明においては、主スイッチング素子のPWM制御信号を出力する場合と副スイッチング素子にPWM制御信号を出力する場合とで、それぞれ独立したアーム短絡防止用のデットタイムを設定するとともに、PWM制御信号を出力する対象となるスイッチング素子を切り替えるときには、それらのデットタイム以上の長さの設定時間だけ全てのスイッチング素子にオフ指令を出力することによりアーム短絡を防止する。
本発明の他の特徴は、上記副スイッチング素子は、上記主スイッチング素子に比べて電流容量の小さいものが使用され、上記電動モータに流れる電流値あるいは電流制御値が基準電流値以上である場合、上記PWM制御信号の出力対象として上記副スイッチング素子が選択されることを規制する大電流時選択規制手段を備えたことにある。
本発明においては、各アームに主スイッチング素子と副スイッチング素子とが並列接続され、通常運転中において、この2つのスイッチング素子が切替手段により交互に切り替えられる。つまり、PWM制御信号の出力対象が主スイッチング素子と副スイッチング素子とに交互に切り替えられる。この場合、副スイッチング素子は、主スイッチング素子に比べて電流容量の小さいものが使用され低コスト化が図られる。そして、大電流時選択規制手段は、電動モータに流れる電流値あるいは電流制御値が基準電流値以上である場合、PWM制御信号の出力対象として副スイッチング素子が選択されることを規制する。従って、副スイッチング素子は、基準電流値以上の大電流が流れないため過電流保護される。この場合、PWM制御信号の出力対象として副スイッチング素子が選択されている状態から電流値が基準電流値以上にまで上昇したとき、副スイッチング素子の選択が解除されて主スイッチング素子が選択される。この結果、この発明によれば、低コスト化とスイッチング素子の過電流損傷防止とを両立することができる。
本発明の他の特徴は、車両走行速度が小さいほど大きな操舵アシストトルクを発生する電動パワーステアリング装置の電動モータを駆動制御するモータ駆動装置に適用され、上記副スイッチング素子は、上記主スイッチング素子に比べて電流容量の小さいものが使用され、上記車速が基準速度以下である場合に、上記PWM制御信号の出力対象として上記副スイッチング素子が選択されることを規制する低速時選択規制手段を備えたことにある。
この発明は、電動パワーステアリング装置で操舵アシストトルクを発生する電動モータの駆動装置に適用したもので、モータ制御手段は、車両走行速度を検出する車速検出手段からの検出信号を入力し、車両走行速度が小さいほど大きな操舵アシストトルクを発生するように電動モータの電流制御値(目標電流)を演算し、この電流制御値に応じたPWM制御信号を出力する。
各アームには、主スイッチング素子と副スイッチング素子とが並列接続され、通常運転中において、この2つのスイッチング素子が切替手段により交互に切り替えられる。つまり、PWM制御信号の出力対象が主スイッチング素子と副スイッチング素子とに交互に切り替えられる。この場合、副スイッチング素子は、主スイッチング素子に比べて電流容量の小さいものが使用され低コスト化が図られる。操舵アシストトルクは、操舵ハンドルが操作されたときに、その操作に対して補助力を与えるものであるが、車速が基準速度以下である場合には、大きな操舵トルクを発生する必要があり、電動モータに流す電流値も増大する。そこで、低速時選択規制手段は、車速が基準速度以下である場合には、PWM制御信号の出力対象として副スイッチング素子が選択されることを規制することにより、副スイッチング素子に大電流が流れることを防止する。この場合、PWM制御信号の出力対象として副スイッチング素子が選択されている状態から、車速が基準速度以下にまで低下したとき、副スイッチング素子の選択が解除されて主スイッチング素子が選択される。この結果、この発明によれば、低コスト化とスイッチング素子の過電流損傷防止とを両立することができる。
以下、本発明の一実施形態について図面を用いて説明する。図1は、第1実施形態としてのモータ駆動装置を備えた車両の電動パワーステアリング装置を概略的に示し、図2は、その電動パワーステアリング装置におけるモータ駆動装置を概略的に示している。
この車両の電動パワーステアリング装置1は、大別すると、操舵ハンドル11の操舵により転舵輪を操舵する操舵機構10と、操舵機構10に組み付けられ操舵アシストトルクを発生する電動モータ15と、操舵ハンドル11の操舵状態に応じて電動モータ15の作動を制御する電子制御ユニット30とから構成される。この電子制御ユニット30は、本発明のモータ駆動装置に相当する。
操舵機構10は、操舵ハンドル11の回転操作により左右前輪FW1,FW2を操舵するための機構で、操舵ハンドル11を上端に一体回転するように接続したステアリングシャフト12を備える。このステアリングシャフト12の下端には、ピニオンギヤ13が一体回転するように接続されている。ピニオンギヤ13は、ラックバー14に形成されたラック歯と噛み合ってラックアンドピニオン機構を構成する。ラックバー14の両端には、図示しないタイロッドおよびナックルアームを介して左右前輪FW1,FW2が操舵可能に接続されている。左右前輪FW1,FW2は、ステアリングシャフト12の軸線回りの回転に伴うラックバー14の軸線方向の変位に応じて左右に操舵される。従って、操舵ハンドル11、ステアリングシャフト12、ラックアンドピニオン機構13,14、タイロッド、ナックルアーム等により操舵機構10が構成される。
ラックバー14には、操舵アシスト用の電動モータ15が組み付けられている。本実施形態においては、単相のブラシ付モータが使用される。電動モータ15の回転軸は、ボールねじ機構16を介してラックバー14に動力伝達可能に接続されていて、その回転により左右前輪FW1,FW2の操舵をアシストする。ボールねじ機構16は、減速機および回転−直線変換器として機能するもので、電動モータ15の回転を減速するとともに直線運動に変換してラックバー14に伝達する。また、電動モータ15をラックバー14に組み付けるのに代えて、電動モータ15をステアリングシャフト12に組み付けて、電動モータ15の回転を減速機を介してステアリングシャフト12に伝達して同シャフト12を軸線周りに駆動するように構成してもよい。
ステアリングシャフト12には、操舵トルクセンサ21が設けられる。操舵トルクセンサ21は、操舵ハンドル11の回動操作によってステアリングシャフト12に作用する操舵トルクに応じた信号を出力する。この操舵トルクセンサ21から出力される信号により検出される操舵トルクの値を、以下、操舵トルクThと呼ぶ。操舵トルクThは、正負の値により操舵ハンドル11の操作方向が識別される。本実施形態においては、操舵ハンドル11の右方向への操舵時における操舵トルクThを正の値で、操舵ハンドル11の左方向への操舵時における操舵トルクThを負の値で示す。従って、操舵トルクThの大きさは、その絶対値の大きさとなる。
電動モータ15には、回転角センサ23が設けられる。この回転角センサ23は、電動モータ15内に組み込まれ、電動モータ15の回転子の回転角度位置に応じた検出信号を出力する。この回転角センサ23の検出信号は、電動モータ15の回転角および回転角速度の計算に利用される。一方、この電動モータ15の回転角は、操舵ハンドル11の操舵角に比例するものであるので、操舵ハンドル11の操舵角としても共通に用いられる。また、電動モータ15の回転角を時間微分した回転角速度は、操舵ハンドル11の操舵角速度に比例するものであるため、操舵ハンドル11の操舵角速度としても共通に用いられる。
以下、回転角センサ23の出力信号により検出される操舵ハンドル11の操舵角の値を操舵角θと呼び、その操舵角θを時間微分して得られる操舵角速度の値を操舵角速度ωと呼ぶ。尚、操舵角θおよび操舵角速度ωは、後述する電子制御回路40のマイコン41により演算される。
操舵角θは、正負の値により操舵ハンドル11の中立位置に対する右方向および左方向の舵角をそれぞれ表す。本実施形態においては、操舵ハンドル11の中立位置を「0」とし、中立位置に対する右方向への舵角を正の値で示し、中立位置に対する左方向への舵角を負の値で示す。
次に、電子制御ユニット30について図2を用いて説明する。
電子制御ユニット30(以下、ECU30と呼ぶ)は、電動モータ15の目標通電制御値を演算し、演算された目標通電制御値にて電動モータ15を駆動制御する電子制御回路40と、電子制御回路40からの制御指令により電動モータ15を駆動するモータ駆動回路45とを含んで構成される。電子制御回路40は本発明におけるモータ制御手段に相当し、モータ駆動回路45は本発明におけるブリッジ回路に相当する。
電子制御回路40は、CPU,ROM,RAM等からなるマイクロコンピュータ41(以下、マイコン41と呼ぶ)と、入出力インタフェース42と、マイコン41から出力されるPWM(Pulse Width Modulation)制御信号を増幅してモータ駆動回路45に供給するプリドライブ回路43とを備える。
入出力インタフェース42は、バスを介してマイコン41に接続されるとともに、操舵トルクセンサ21、車速センサ22、回転角センサ23、電流センサ46、モータ電圧検出回路47からの検出信号を入力し、マイコン41に対して読み込み可能な信号に変換する。また、入出力インタフェース42は、常開(ノーマル・オープン)型の電源リレー57に接続されていて、マイコン41からの指令に基づきこれらの導通状態を変更する信号を送出するようになっている。
車速センサ22は、車両の走行速度に応じた車速信号を出力する。この車速センサ22から出力される車速信号により検出される車速の値を、以下、車速vxと呼ぶ。電流センサ46、モータ電圧検出回路47については後述する。
ECU30は、バッテリ51と、エンジンの回転により発電するオルタネータ52とからなる電源装置50から電源供給される。バッテリ51としては、定格出力電圧が12Vの一般の車載バッテリが用いられる。
この電源装置50は、電動パワーステアリング装置1だけでなく他の車載電気負荷への電源供給も共通して行う。バッテリ51の電源端子(+端子)に接続される電源供給元ライン53には、イグニッションスイッチ60が接続される。ECU30は、このイグニッションスイッチ60の二次側から電子制御回路40に電源供給する制御電源供給ライン54と、イグニッションスイッチ60の一次側(電源側)から主にモータ駆動回路45に電源供給する駆動電源供給ライン55とを備える。
制御電源供給ライン54には、ダイオード56が設けられる。このダイオード56は、カソードを電子制御回路40側、アノードを電源装置50側に向けて設けられ、電源供給方向にのみ通電可能とする逆流防止素子である。駆動電源供給ライン55には、その途中に電源リレー57が設けられる。この電源リレー57は、電子制御回路40からの制御信号によりオンして電動モータ15への電力供給回路を形成するものである。
駆動電源供給ライン55には、この電源リレー57よりも負荷側において連結ライン58により制御電源供給ライン54と接続される。この連結ライン58は、制御電源供給ライン54におけるダイオード56と電子制御回路40との間に接続される。連結ライン58にはダイオード59が接続される。このダイオード59は、カソードを制御電源供給ライン54側、アノードを駆動電源供給ライン55側に向けて設けられ、駆動電源供給ライン55から制御電源供給ライン54に向けてのみ通電可能とする逆流防止素子である。このように構成された電源供給系においては、電源リレー57がオン状態とされたときには、イグニッションスイッチ60の状態にかかわらず、電子制御回路40およびモータ駆動回路45に電源が供給される構成となっている。
モータ駆動回路45は、第1上アームA1と第1下アームA2とを直列接続した第1アーム回路Aと、第2上アームB1と第2下アームB2とを直列接続した第2アーム回路Bとを並列に接続してHブリッジ回路を構成したものである。第1アーム回路Aおよび第2アーム回路Bの一端は駆動電源供給ライン55に接続され、他端は電流センサ46を介して接地される。また、第1アーム回路Aにおける第1上アームA1と第1下アームA2との接続部と、第2アーム回路Bにおける第2上アームB1と第2下アームB2との接続部とから電動モータ15への電源供給ライン71,72が引き出されている。
各アームA1,A2,B1,B2には、スイッチング素子が2組並列に設けられる。つまり、第1上アームA1には主スイッチング素子Qa1mと副スイッチング素子Qa1sが並列接続され、第1下アームA2には主スイッチング素子Qa2mと副スイッチング素子Qa2sが並列接続され、第2上アームB1には主スイッチング素子Qb1mと副スイッチング素子Qb1sが並列接続され、第2下アームB2には主スイッチング素子Qb2mと副スイッチング素子Qb2sが並列接続される。本実施形態においては、このスイッチング素子Qa1m,Qa1s,Qa2m,Qa2s,Qb1m,Qb1s,Qb2m,Qb2sとして、MOSFET(Metal Oxide Semi-conductor Field Effect Transistor)を使用する。尚、図中に回路記号で示すように、MOSFETには構造上ダイオードが逆並列方向に寄生している。
以下、並列接続された主副1対のスイッチング素子Qa1m,Qa1sをあわせて第1上スイッチング素子群Qa1と呼び、スイッチング素子Qa2m,Qa2sをあわせて第1下スイッチング素子群Qa2と呼び、スイッチング素子Qb1m,Qb1sをあわせて第2上スイッチング素子群Qb1と呼び、スイッチング素子Qb2m,Qb2sをあわせて第2下スイッチング素子群Qb2と呼ぶ。
また、第1上スイッチング素子群Qa1の一方のスイッチング素子であって主・副を特定しない場合には第1上スイッチング素子Qa1と呼び、第1下スイッチング素子群Qa2の一方のスイッチング素子であって主・副を特定しない場合には第1下スイッチング素子Qa2と呼び、第2上スイッチング素子群Qb1の一方のスイッチング素子であって主・副を特定しない場合には第2上スイッチング素子Qb1と呼び、第2下スイッチング素子群Qb2の一方のスイッチング素子であって主・副を特定しない場合には第2下スイッチング素子Qb2と呼ぶ。
また、これらのスイッチング素子Qa1m〜Qb2sを総称する場合には、単にスイッチング素子Qと呼ぶ。また、主スイッチング素子Qa1m,Qa2m,Qb1m,Qb2mを総称する場合には主スイッチング素子Qmと呼び、副スイッチング素子Qa1s,Qa2s,Qb1s,Qb2sを総称する場合には副スイッチング素子Qsと呼ぶ。
尚、本第1実施形態においては、これらのスイッチング素子Qとして全て同一の仕様(電気的性能)のものを使用するが、例えば、主スイッチング素子Qm(Qa1m,Qa2m,Qb1m,Qb2m)に対して副スイッチング素子Qs(Qa1s,Qa2s,Qb1s,Qb2s)の仕様を変更した構成であってもよい。
全てのスイッチング素子Qa1m〜Qb2sのゲートは、それぞれ独立してプリドライブ回路43に接続される。また、スイッチング素子Qa1m,Qa1sのドレインは、スイッチング素子Qa2m,Qa2sのソースと接続され、スイッチング素子Qb1m,Qb1sのドレインは、スイッチング素子Qb2m,Qb2sのソースと接続される。スイッチング素子Qa1m,Qa1s,Qb1m,Qb1sのソースは、駆動電源供給ライン55に接続され、スイッチング素子Qa2m,Qa2s,Qb2m,Qb2sのドレインは電流センサ46を介して接地される。電流センサ46は、電動モータ15に流れる電流を検出する電流検出手段を構成するもので、例えば、ブリッジ回路と接地部との間にシャント抵抗を設け、このシャント抵抗の両端に現れる電圧によりモータ電流値を検出してマイコン41に供給する。以下、この電流センサ46から出力される信号により検出される電流の値を、実電流Ixと呼ぶ。
電動モータ15への電源供給ライン71,72には、モータ電圧検出回路47が設けられる。このモータ電圧検出回路47は、第1上アームA1と第1下アームA2の接続部から引き出される電源供給ライン71を第1抵抗R1を介して電源(12V)と接続し、この第1抵抗R1と電源供給ライン71の接続点における電位信号V1(以下、この電圧値を第1検出電圧V1と呼ぶ)をマイコン41に供給する第1電位検出部471と、第2上アームB1と第2下アームB2の接続部から引き出される電源供給ライン72を第2抵抗R2を介して接地し、この第2抵抗R2と電源供給ライン72の接続点における電位信号V2(以下、この電圧値を第2検出電圧V2と呼ぶ)をマイコン41に供給する第2電位検出部472とを有する。この2つの抵抗R1,R2の抵抗値は、同一であり非常に高い値に設定される。このモータ電圧検出回路47は、電動モータ15の両端電圧を検出することにより、モータ駆動回路45におけるスイッチング素子Qの異常を検出する異常検出手段として機能するものである。
マイコン41は、プリドライブ回路43を介してモータ駆動回路45のスイッチング素子QにPWM制御信号を出力する。このPWM制御信号は、オン信号とオフ信号とからなるパルス信号列で、パルス信号のオン期間にスイッチング素子Qがオン状態(導通状態)となる。マイコン41は、PWM制御信号におけるオン信号の出力されるデューティ比(オン時間/全体時間)を調整することにより電動モータ15に流す電流値を制御する。
マイコン41は、PWM制御信号を出力するに際して、各アームA1〜B2に設けられる主スイッチング素子Qmあるいは副スイッチング素子Qsの何れか一方に対してPWM制御信号を出力し、そのPWM制御信号の出力対象となるスイッチング素子Qm,Qsを交互に切り替える。つまり、主スイッチング素子Qmを用いて電動モータ15を駆動制御する主駆動系統と、副スイッチング素子Qsを用いて電動モータ15を駆動制御する副駆動系統との2つの駆動系統を備え、その駆動系統を切り替える。
主駆動系統が選択されている状態においては、モータ正転駆動時に、主スイッチング素子Qa1mと主スイッチング素子Qb2mとに対してPWM制御信号が出力され、モータ逆転駆動時に、主スイッチング素子Qb1mと主スイッチング素子Qa2mとに対してPWM制御信号が出力される。
一方、副駆動系が選択されている状態においては、モータ正転駆動時に、副スイッチング素子Qa1sと副スイッチング素子Qb2sとに対してPWM制御信号が出力され、モータ逆転駆動時に、副スイッチング素子Qb1sと副スイッチング素子Qa2sとに対してPWM制御信号が出力される。
次に、ECU30の行う処理について説明する。
まず、ECU30が実行するアシスト制御処理について説明する。図3は、マイコン41により行われるアシスト制御ルーチンを表す。このアシスト制御ルーチンは、マイコン41のROM内に制御プログラムとして記憶され、イグニッションスイッチ60がオンされて所定の初期診断が完了すると起動し、短い周期で繰り返し実行される。
本制御ルーチンが起動すると、マイコン41は、まず、ステップS11において、車速センサ22によって検出された車速vxと、操舵トルクセンサ21によって検出した操舵トルクThを読み込む。
続いて、図4に示すアシストトルクテーブルを参照して、入力した車速vxおよび操舵トルクThに応じて設定される基本アシストトルクTasを計算する(S12)。アシストトルクテーブルは、マイコン41のROM内に記憶されるもので、操舵トルクThの増加にしたがって基本アシストトルクTasも増加し、しかも、車速vxが低くなるほど大きな値となるように設定される。
尚、図4の特性グラフは、正領域すなわち右方向の操舵トルクThおよび基本アシストトルクTasの関係についてのみ示しているが、負領域すなわち左方向の操舵トルクThおよび基本アシストトルクTasに関しては、図4の特性グラフを原点を中心に点対称の位置に移動した関係になる。また、本実施形態では、基本アシストトルクTasをアシストトルクテーブルを用いて算出するようにしたが、アシストトルクテーブルに代えて操舵トルクThおよび車速vxに応じて変化する基本アシストトルクTasを定義した関数を用意しておき、その関数を用いて基本アシストトルクTasを計算するようにしてもよい。
また、基本アシストトルクTasの算出に関しては、必ずしも車速vxと操舵トルクThとの組み合わせから算出する必要はなく、少なくとも操舵状態に応じた検出信号に基づいて行えばよい。
続いて、マイコン41は、ステップS13において、この基本アシストトルクTasに補償トルクを加算して目標トルクT*を算出する。この補償トルクは、必ずしも必要としないが、例えば、操舵角θに比例して大きくなるステアリングシャフト12の基本位置への復帰力と、操舵角速度ωに比例して大きくなるステアリングシャフト12の回転に対向する抵抗力に対応した戻しトルクとの和として計算する。この計算に当たっては、回転角センサ23にて検出した電動モータ15の回転角θおよび電動モータ15の角速度ωを入力して算出する。
次に、マイコン41は、ステップS14において、目標トルクT*を発生させるために必要な目標電流I*を計算する。目標電流I*は、目標トルクT*をトルク定数で除算することにより求められる。
続いて、マイコン41は、その処理をステップS15に進め、目標電流I*と実電流Ixとの偏差ΔIを算出し、この偏差ΔIに基づくPI制御(比例積分制御)により目標指令電圧V*を計算する。ステップS15の演算に用いられる実電流Ixは、電流センサ46により検出した電動モータ15に流れる電流値である。
目標指令電圧V*は、例えば、下記式により計算する。
V*=Kp・ΔI+Ki・∫ΔI dt
ここでKpは、PI制御における比例項の制御ゲイン、Kiは、PI制御における積分項の制御ゲインである。
そして、マイコン41は、ステップS16において、目標指令電圧V*に応じたPWM制御信号をプリドライブ回路43を介してモータ駆動回路45に出力する。この場合、目標指令電圧V*に応じたデューティ比のパルス列信号がPWM制御信号として出力される。例えば、正回転駆動であれば、第1上スイッチング素子Qa1と第2下スイッチング素子Qb2とが目標指令電圧V*に応じた同じデューティ比で同一タイミングでオン・オフ制御される。このとき、第1下スイッチング素子Qa2と第2上スイッチング素子Qb1とはオフ状態、つまりデューティ比0%に維持される。逆回転駆動であれば、第1下スイッチング素子Qa2と第2上スイッチング素子Qb1とが目標指令電圧V*に応じた同じデューティ比で同一タイミングでオン・オフ制御される。このとき、第1上スイッチング素子Qa1と第2下スイッチング素子Qb2とはオフ状態、つまりデューティ比0%に維持される。
続いて、マイコン41は、ステップS17において、モータ駆動回路45(スイッチング素子Q)の異常チェックを行う。この異常チェックは、モータ電圧検出回路47により検出される電動モータ15の両端の電圧に基づいて行うことができる。
例えば、電動モータ15の正転駆動時において、第1上スイッチング素子Qa1と第2下スイッチング素子Qb2がPWM制御され、それらがオンされているときには、第1検出電圧V1は電源電圧と同じ12V、第2検出電圧V2は0Vとなる。また、電動モータ15の逆転駆動時において、第1下スイッチング素子Qa2と第2上スイッチング素子Qb1がPWM制御され、それらがオンされているときには、第1検出電圧V1は0V、第2検出電圧V2は12Vとなる。また、PWM制御のオフ期間においては、第1検出電圧V1、第2検出電圧V2ともに6Vとなる。
そして、マイコン41は、出力したPWM制御信号に対して、想定される検出電圧が得られないときにスイッチング素子Qに異常が有ると判定する。例えば、電動モータ15を正転駆動する場合を考える。PWM制御信号がオフからオンに切り替わった時、第1検出電圧V1は、モータ駆動回路45が正常であれば6Vから12Vに変化するはずであるが、6Vから0Vに変化した場合には、第1上スイッチング素子Qa1がオープン故障していると判断できる。この場合、主駆動系統でモータ駆動していれば主スイッチング素子Qa1mがオープン故障、副駆動系統でモータ駆動していれば副スイッチング素子Qa1sがオープン故障していると判断できる。
また、PWM制御信号がオフからオンに切り替わった時、第2検出電圧V2は、モータ駆動回路45が正常であれば6Vから0Vに変化するはずであるが、6Vから12Vに変化した場合には、第2下スイッチング素子Qb2がオープン故障していると判断できる。この場合、主駆動系統でモータ駆動していれば主スイッチング素子Qb2mがオープン故障、副駆動系統でモータ駆動していれば副スイッチング素子Qb2sがオープン故障していると判断できる。
同様にして電動モータ15の逆回転駆動時においては、第1下スイッチング素子Qa2と第2上スイッチング素子Qb1とのオープン故障も検出できる。また、モータ電圧検出回路47の検出信号により、本来検出されるべき電圧値との相違からスイッチング素子Qa1,Qa2,Qb1,Qb2のショート故障も検出することができる。
このようにステップS17の処理は、マイコン41からPWM制御信号の出力対象として選択されているスイッチング素子Qの異常を検出する異常検出手段を構成するものといえる。
こうしてステップS17が行われると本アシスト制御ルーチンを一旦終了する。本制御ルーチンは、所定の短い周期で繰り返し実行される。従って、本制御ルーチンの実行により、モータ駆動回路45のスイッチング素子Qのデューティ比がPWM制御により制御されて、運転者の操舵操作に応じた操舵アシストトルクが得られる。
次に、ECU30が実行する駆動系統切替制御処理について説明する。本実施形態においては、主スイッチング素子Qmを使用して電動モータ15に通電する主駆動系統と、副スイッチング素子Qsを使用して電動モータ15に通電する副駆動系統からなる2つの駆動系統を備え、この駆動系統切替制御処理により、主駆動系統と副駆動系統との系統切替を行う。図5は、マイコン41により行われる駆動系統切替制御ルーチンを表す。この制御ルーチンは、マイコン41のROM内に制御プログラムとして記憶され、上述したアシスト制御ルーチンと並行して短い周期で繰り返し実行される。
本制御ルーチンが起動すると、マイコン41は、まず、ステップS21において、モータ駆動回路45の異常が検出されているか否かを判断する。このモータ駆動回路45の異常検出は、アシスト制御ルーチンのステップS17において行われており、このステップS21においては、その結果が参照される。異常が検出されている場合には、正常側の駆動系統が選択される。つまり、主駆動系統を構成する主スイッチング素子Qmの異常が検出されている場合には、PWM制御信号の出力対象が副駆動系を構成する副スイッチング素子Qsに設定される。逆に、副駆動系統を構成する副スイッチング素子Qsの異常が検出されている場合には、PWM制御信号の出力対象が主駆動系を構成する主スイッチング素子Qmに設定される。そして、PWM制御信号の出力対象が設定されると本制御ルーチンを抜ける。尚、駆動系統の選択によっても電動モータ15を駆動制御できないような異常の場合には、アシスト制御ルーチン、および、本駆動系統切替制御ルーチンが終了される。
このステップS21〜22の処理は、主駆動系統を構成する主スイッチング素子Qm、あるいは、副駆動系統を構成するスイッチング素子Qsの異常が検出された場合に、PWM制御信号の出力対象として異常が検出されていないスイッチング素子を選択する異常処理手段を構成するものである。
マイコン41は、ステップS21において、異常が検出されていないことが確認された場合には、その処理をステップS23に進め、フラグFが「1」に設定されているか否かを判断する。このフラグFは、本制御ルーチンの起動時においてはF=0に設定されている。従って、ここでは、その処理をステップS24に進めて、目標電流I*が設定電流Ia以上(I*≧Ia)か否かを判断する。目標電流I*が設定電流Ia以上でなければ、そのまま本制御ルーチンを抜ける。この目標電流I*は、アシスト制御ルーチンのステップS14において算出された電動モータ15へ通電すべき電流制御値である。また、設定電流Iaは、予め定めた電流値であって、後述する処理から分かるように駆動系統の切り替え頻度を設定するものとなる。
本制御ルーチンは、所定の短い周期で繰り返し実施される。従って、異常が検出されていれば、正常側駆動系統がPWM制御信号の出力対象として設定され、異常が検出されていない間は、目標電流I*と設定電流Iaとの比較が繰り返される。そして、電動モータ15がアシスト制御処理により駆動制御され、目標電流I*が設定電流Ia以上となると、マイコン41は、ステップS25においてフラグFをF=1に設定し、本制御ルーチンを一旦終了する。
こうして、フラグFがF=1に設定されると、その後の処理においては、ステップS24に代えてステップS26の判断処理が行われる。マイコン41は、ステップS26において、目標電流I*がゼロ(I*=0)になったか否かを判断する。I*=0でない間は(S26:NO)、本制御ルーチンをそのまま抜け、上述した処理を繰り返す。そして、目標電流I*がゼロにまで低下すると(S26:YES)、その処理がステップS27に進められる。
マイコン41は、ステップS27において、駆動系統の切替指令を出力する。この切替指令は、マイコン41内の処理指令であり、アシスト制御ルーチンのステップS16において行われるPWM制御信号の出力対象を切り替える指令である。例えば、その時点において主駆動系統の主スイッチング素子Qmを使って電動モータ15を駆動制御している状況であれば、PWM制御信号の出力対象を副駆動系統の副スイッチング素子Qsに切り替える。逆に、副駆動系統の副スイッチング素子Qsを使って電動モータ15を駆動制御している状況であれば、PWM制御信号の出力対象を主駆動系統の主スイッチング素子Qmに切り替える。マイコン41は、切替指令を出力した後、ステップS28においてフラグFをF=0に設定し、本制御ルーチンを一旦終了する。
従って、本制御ルーチンが繰り返されると、今度は、ステップS23の判断が「NO」となり、ステップS24において目標電流I*と基準電流Iとの比較が繰り返される。そして、目標電流I*が設定電流Ia以上となると(S24:YES)、上述したように、フラグFをF=1に設定し、目標電流I*がゼロになるまで待ってから電動モータ15の駆動系統を切り替える。
図6は、この駆動系統切替制御ルーチンにより切り替わる駆動系統を目標電流I*の変化と対応させて表したものである。図示するように、本制御ルーチンの起動時(時刻t0)から目標電流I*が上昇して設定電流Iaに達すると(時刻t1)、フラグFがF=1に設定され、その後、目標電流I*が低下してゼロに達すると(時刻t2)、PWM制御信号の出力対象が切り替えられる。つまり、電動モータ15の駆動系統が切り替えられる。そして、再びフラグFがF=0に設定され、目標電流I*が設定電流Iaにまで上昇するのを待って(時刻t3)、フラグFがF=1に設定され、目標電流I*が低下してゼロに達した時点で(時刻t4)、PWM制御信号の出力対象が切り替えられる。
このように、本実施形態によれば、電動モータ15の通常運転中、つまり、アシスト制御中において、PWM制御信号の出力対象を交互に切り替える。つまり、モータ駆動回路45の各アームA1,A2,B1,B2ごとに並列接続された主スイッチング素子Qmと副スイッチング素子Qsとを選択的に切り替えて使用する。このため、アシスト制御中において、主スイッチング素子Qmと副スイッチング素子Qsとの両方の異常チェックを交互に行うことができる。従って、確実にスイッチング素子Qのバックアップ可能な状態を維持することができる。また、モータ駆動回路45として低コストに冗長回路を構成することができる。
更に、目標電流I*がゼロになっているときにPWM制御信号の出力対象を切り替えるため、切替時にモータ電流の変動が生じなく電動モータ15が異常作動するおそれがない。また、切り替えられたスイッチング素子Qに大電流が突然流れるといったことがなく、スイッチング素子Qの損傷を防止する。これにより、モータ駆動回路45を長期にわたって使用することができる。
しかも、PWM制御信号の出力対象の切り替えは、目標電流I*が設定電流Ia以上流れた後においてゼロにまで低下した都度、一回だけ行うようにしている。従って、目標電流I*=0のときに駆動系統が頻繁に切り替わってしまうことが無く、駆動システムの安定性を維持することができる。また、目標電流I*が設定電流Ia以上流れているときには、モータ駆動回路45の異常チェックを精度良く行うことができる。このため、PWM制御信号の出力対象の切替を有効に行うことができる。
尚、本実施形態においては、目標電流I*に基づいて駆動系統の切替タイミングを設定しているが、これに代えて、電流センサ46により検出される実際にモータ15に流れる実電流Ixに基づいて駆動系統の切替タイミングを設定してもよい。
従って、この第1実施形態においては、電動モータ15に流れる電流値あるいは電流制御値が設定電流値以上となった後においてゼロにまで低下したときに、PWM制御信号を出力する対象となるスイッチング素子Qを切り替える切替手段を備えているものといえる。
次に、第2実施形態のモータ駆動装置について説明する。この第2実施形態においては、モータ駆動回路45における副スイッチング素子Qs(Qa1s,Qa2s,Qb1s,Qb2s)として、主スイッチング素子Qm(Qa1m,Qa2m,Qb1m,Qb2m)よりも電流容量(連続負荷電流値)の小さいものを使用する。また、この第2実施形態は、第1実施形態の駆動系統切替制御に更に副スイッチング素子Qsの過電流損傷機能を追加したものであり、他の構成については第1実施形態と同じである。従って、ここでは第1実施形態と相違する部分、つまり、駆動系統切替制御処理について説明する。
図7は、この第2実施形態においてマイコン41により行われる駆動系統切替制御ルーチンを表す。この制御ルーチンは、第1実施形態の駆動系統切替制御ルーチンにステップS31〜S33の処理を追加したもので、マイコン41のROM内に制御プログラムとして記憶され、短い周期で繰り返し実行される。
本制御ルーチンが起動されると、マイコン41は、ステップS21において、モータ駆動回路45の異常が検出されているか否かを判断し、異常が検出されている場合には、電動モータ15を駆動する駆動系統として正常側の駆動系統を選択する。一方、モータ駆動回路45の異常が検出されていない場合には(S21:NO)、ステップS31において、目標電流I*が基準電流Ib以上か否かを判断する。この基準電流Ibは、副スイッチング素子Qsの電流容量(連続通電が許容される上限電流値)以下の値に設定され、設定電流Iaよりも大きな値である。例えば、Ia=3A(アンペア)に対してIb=10A(アンペア)に設定される。そして、目標電流I*が基準電流Ib以上でなければ(S31:NO)、そのまま第1実施形態と同様の処理(S23〜S28)を行う。つまり、目標電流I*が設定電流Ia以上流れた後においてゼロにまで低下するたびに、PWM制御信号の出力対象を交互に切り替える。
アシスト制御中に必要アシストトルクが増大して目標電流I*が基準電流Ib以上になると、ステップS31の判断は「YES」となり、マイコン41は、その処理をステップS32に進める。このステップS32においては、現時点にて使用されている駆動系統が主駆動系統か否かについて判断される。PWM制御信号が主駆動系統の主スイッチング素子Qmに出力されている状況であれば、ステップS32の判断は「YES」となり、そのままステップS23からの処理が行われる。
一方、マイコン41は、ステップS32において、副駆動系統が使用されていると判断した場合には、副スイッチング素子Qsの過電流損傷を防止するために、ステップS33において、電動モータ15を駆動する駆動系統を副駆動系統から主駆動系統に切り替えるための切替指令を出力する。この切替指令は、マイコン41内の処理指令であり、これによりPWM制御信号の出力対象が副スイッチング素子Qsから主スイッチング素子Qmに切り替えられる。副駆動系統への切替処理が完了すると、上述したステップS23からの処理が行われる。従って、その後は、目標電流I*がゼロになった時点で副駆動系統に切り替えられることになる。
以上説明した第2実施形態のモータ駆動装置によれば、第1実施形態の効果に加えて、副スイッチング素子Qsとして主スイッチング素子Qmよりも電流容量の小さいものを使用しているため冗長設計の低コスト化を図ることができる。そして、目標電流I*が基準電流Ib以上となる場合には、電動モータ15を駆動する駆動系統として電流容量の大きな主駆動系統を強制的に選択するようにしているため、副スイッチング素子Qsの過電流損傷を防止することができる。従って、低コスト化と副スイッチング素子Qsの過電流保護とを両立することができる。尚、本制御ルーチンにおけるステップS31〜33の処理が、本発明の大電流時選択規制手段の行う処理に相当する。
次に、第2実施形態の変形例について説明する。この変形例は、第2実施形態における駆動系統切替制御ルーチンのステップS31に代えて、図8に示すステップS34の処理を行うものであり、他の構成については第2実施形態と同一である。
この変形例においては、ステップS34において、車速センサにより検出される車速vxが予め設定された基準車速va以下であるか否かについて判断する。操舵ハンドル11に付与する基本アシストトルクTasは、上述したように、操舵トルクThおよび車速vxにより設定される。この場合、基本アシストトルクTasの大きさ(|Tas|)は、操舵トルクThの大きさ(|Th|)が大きいほど大きな値に設定され、車速vxが小さいほど大きな値に設定される。そして、電動モータ15に流す目標電流I*は、この基本アシストトルクTasの大きさ|Tas|に比例して増大する。
従って、電動モータ15に基準電流Ib以上の電流が流れないと推定できる基準車速vaを予め設定しておくことにより、現時点の検出車速vxと基準車速vaとを比較して電動モータ15に基準電流Ib以上の電流が流れる可能性があるか否かを判断することができる。つまり、車速vxが基準車速va以上であれば、操舵トルクThの大きさにかかわらずモータ電流が基準電流Ib未満であると判断することができ、車速vxが基準車速va未満であれば、操舵トルクThの大きさによってはモータ電流が基準電流Ib以上となる可能性があると判断できる。
そこで、マイコン41は、ステップS34において、車速vxが基準速度vaを上回っていると判断したときには(S34:NO)、そのまま第1、第2実施形態と同様の処理(S23〜S28)を行う。一方、ステップS34において、車速vxが基準速度va以下であると判断したときには(S34:YES)、ステップS32において、現時点にて使用されている駆動系統が主駆動系統か否かについて判断する。そして、主駆動系統が使用されていれば、そのままステップS23からの処理に移行し、副駆動系統が使用されていれば、ステップS33の処理に移行する。ステップS33においては、第2実施例と同様に、電動モータ15を駆動する駆動系統が副駆動系統から主駆動系統に切り替えられる。
以上説明した第2実施形態の変形例においては、第2実施形態と同様に副スイッチング素子Qsに基準電流Ib以上の大電流が流れる可能性がある場合には、電動モータ15を駆動する駆動系統を副駆動系統から主駆動系統に切り替えるため副スイッチング素子Qsの過電流損傷を防止することができる。従って、低コスト化と副スイッチング素子Qsの過電流保護とを両立することができる。
尚、本制御ルーチンにおけるステップS34,S32,S33の処理が、本発明の低速時選択規制手段の行う処理に相当する。
また、第2実施形態およびその変形例においても、目標電流I*に代えて、電流センサ46により検出される実際にモータ15に流れる実電流Ixに基づいて駆動系統の切替タイミングを設定してもよい。
次に、第3実施形態のモータ駆動装置について説明する。この第3実施形態においても第2実施形態と同様に、モータ駆動回路45における副スイッチング素子Qs(Qa1s,Qa2s,Qb1s,Qb2s)として、主スイッチング素子Qm(Qa1m,Qa2m,Qb1m,Qb2m)よりも電流容量の小さいものが使用される。そして、この第3実施形態は、駆動系統切替制御処理のみが第2実施形態と相違する。従って、ここでは第2実施形態と相違する部分、つまり、駆動系統切替制御処理について説明する。
図9は、この第3実施形態においてマイコン41により行われる駆動系統切替制御ルーチンを表す。この制御ルーチンは、マイコン41のROM内に制御プログラムとして記憶され、短い周期で繰り返し実行される。
本制御ルーチンが起動されると、マイコン41は、ステップS41において、モータ駆動回路45の異常が検出されているか否かを判断し、異常が検出されている場合には(S41:YES)、ステップS42において正常側の駆動系統を選択する。一方、モータ駆動回路45の異常が検出されていない場合には(S41:NO)、ステップS43において、フラグFsが「0」であるか否かを判断する。このフラグFsは、副駆動系統が選択されているときにFs=1に設定されるもので、本制御ルーチンの起動時にはFs=0に設定されている。従って、本制御ルーチンの起動時おいては、ステップS43の判断は「YES」となり、マイコン41は、その処理をステップS44に進める。尚、本制御ルーチンの開始時においては、PWM制御信号の出力対象として主駆動系統が選択される。
マイコン41は、このステップS44においてフラグFvが「0」であるか否かを判断する。フラグFvは、車速vxが上昇して基準速度vb以上になるとFv=1に設定されるもので、本制御ルーチンの起動時にはFv=0に設定されている。従って、本制御ルーチンの起動時においては、ステップS44の判断は「YES」となり、その処理をステップS45に進める。マイコン41は、ステップS45において、車速センサ22にて検出した車速vxが基準速度vb以上か否かについて判断する。本制御ルーチンの開始時においてはvx<vbであるためそのまま本制御ルーチンを一旦抜ける。本制御ルーチンは短い周期で繰り返し実行されることから、モータ駆動回路45の異常が検知されていない状況においては、車速vxの状態が判断されることになる。尚、この基準速度vbは、第2実施形態の基準速度vaと同様に、電動モータ15に基準電流Ib以上の電流が流れないと推定できる速度に設定される。
こうした判断が繰り返され、車速vxが基準速度vb以上になると(S45:YES)、次に、ステップS46においてPWM制御信号の出力対象を主駆動系統から副駆動系統に切り替える切替指令を出力する。この切替指令は、マイコン41内の処理指令であり、これによりアシスト制御により算出されたPWM制御信号の出力対象が主スイッチング素子Qmから副スイッチング素子Qsに切り替えられる。
続いて、ステップS47においてフラグFsをFs=1に設定し、ステップS48においてフラグFvをFv=1に設定する。次に、ステップS49において、異常チェックが完了したか否かを判断する。異常チェックは、上述したアシスト制御ルーチンのステップS17において実行されるもので、ここでは、ステップS46により切り替えられた副駆動系統の異常チェックが完了したか否かを判断する。
異常チェックが完了していない場合(S49:NO)には、そのまま本制御ルーチンを抜ける。そして、本制御ルーチンが繰り返されたときには、フラグFsがFs=1に設定されているため、ステップS43の判断は「NO」となり、ステップS44〜S48の処理が飛ばされて異常チェックの完了判断が繰り返される。つまり、副駆動系統の異常チェックの完了を待つのである。こうした判断が繰り返されて、副駆動系統の異常チェックの完了が確認されると(S49:YES)、次に、ステップS50において、PWM制御信号の出力対象を副駆動系統から主駆動系統に戻す切替指令を出力する。これにより、アシスト制御により算出されたPWM制御信号の出力対象が副スイッチング素子Qsから主スイッチング素子Qmに切り替えられる。
続いて、ステップS51においてフラグFsをFs=0に戻して本制御ルーチンを一旦抜ける。従って、本制御ルーチンが繰り返されたときには、フラグFsがFs=0に設定されているため、ステップS43の判断は「YES」となり、次に、ステップS44において、フラグFvがFv=0であるか否かの判断が行われる。この場合、Fv=1に設定されているため、マイコン41は、その処理をステップS52に進める。
ステップS52においては、車速vxがゼロか否かについて判断される。vx≠0であれば、本制御ルーチンをそのまま一旦抜ける。従って、車速vxがゼロになるまでのあいだ、この状態(S41→S43→S44→S52)が継続される。この状態においては、正駆動系統を使用して電動モータ15のアシスト制御が行われ、そこでモータ駆動回路45の異常チェックも同時に行われる。
ステップS52において車速vxの判断が繰り返され、車速vxがゼロになったことが確認されると、ステップS53においてフラグFvをFv=0に戻して本ルーチンが一旦終了される。従って、車速vxがゼロになった後は、フラグFsとフラグFvとはともに「0」の初期状態に戻されることとなり、起動時における処理と同様な処理が開始されることとなる。
図10は、本駆動系統切替制御ルーチンにおける切替タイミングを表す。本制御ルーチンが起動した時刻t0においては正駆動系統が選択される。アシスト制御中においては、選択されている駆動系統の異常チェックが繰り返し行われる。そして、車速vxが上昇して基準速度vbに達すると(時刻t1)、正駆動系統から副駆動系統に切り替えられる。副駆動系統に切り替わった後、副駆動系統の異常チェックが完了した時点で正駆動系統に戻される。従って、異常チェックに必要な短い時間だけ副駆動系統が使用されることになる。そして、車速vxが一度ゼロになり(時刻t2)、その後、基準速度vbにまで上昇すると(時刻t3)、再度、正駆動系統から副駆動系統に切り替えられて副駆動系統の異常チェックが行われる。そして、副駆動系統の異常チェックが完了した時点で正駆動系統に戻される。
このように、第3実施形態においては、基本的には主駆動系統を使って電動モータ15を駆動制御し、車速vxがゼロの状態から基準速度vbにまで上昇したときにのみ副駆動系統に切り替えてその異常チェックを行い、副駆動系統の異常チェックが完了した時点で主駆動系統に戻すようにしている。従って、副駆動系統の使用頻度が極めて低くなり、電流容量の小さい副スイッチング素子Qsの発熱を防止することができる。また、副駆動系統への切り替え時においては、車速vxが基準速度vb以上となっているため、副駆動系統に大電流が流れることが無く、この点においても副スイッチング素子Qsの過電流損傷防止を図ることができる。
この第3実施形態においては、主スイッチング素子Qmの選択されている期間に対して副スイッチング素子Qsが選択されている期間を短くする使用頻度調整手段を備えているともいえる。また、その使用頻度調整手段としては、車速がゼロの状態から基準速度にまで上昇したときにPWM制御信号の出力対象として副スイッチング素子Qsを所定期間だけ選択し、所定期間経過後にPWM制御信号の出力対象を主スイッチング素子Qmに戻すようにするものでもある。この所定期間は、副スイッチング素子Qsの異常チェックの実施可能な時間に設定してもよいし、異常チェックの完了が検出されるまでの期間であってもよい。
ところで、PWM制御には、電動モータ15に常時電流を流して制御するいわゆる常時PWM制御と呼ばれる制御方式がある。この常時PWM制御方式では、通常のPWM制御のようにスイッチング素子Qのオン期間とオフ期間との比を調整してモータ電流を制御するのではなく、電動モータ15に速い周期で正転駆動方向と逆転駆動方向とに交互に電流を流し、その正転駆動方向の通電期間と逆転駆動方向の通電期間との比率調整により電動モータ15の回転を制御するものである。例えば、第1上スイッチング素子Qa1と第2下スイッチング素子Qb2とをオン、第1下スイッチング素子Qa2と第2上スイッチング素子Qb1をオフして正転駆動方向に電流を流し、次に、第1上スイッチング素子Qa1と第2下スイッチング素子Qb2をオフ、第1下スイッチング素子Qa2と第2上スイッチング素子Qb1をオンして逆転駆動方向に電流を流すといった動作を速い周期で交互に繰り返す。
この場合、駆動方向の切り替え時に、同じアーム回路側の上下のスイッチング素子(Qa1とQa2、あるいはQb1とQb2)が同時にオンしてアーム回路が短絡状態となる瞬間が存在してしまう。これは、スイッチング素子Qの応答遅れ(特に、オン状態からオフ状態になるまでの応答遅れ)によるものである。そこで、常時PWM制御においては、アーム短絡を防止するために、一方のスイッチング素子Qがオフして他方のスイッチング素子Qがオンするまでのディレイタイムが設けられている。このディレイタイムは、デットタイムと呼ばれている。
そこで、上述した各実施形態およびその変形例において、常時PWM方式を採用した場合には、デットタイムを設定する必要がある。ところが、主スイッチング素子Qmと副スイッチング素子Qsとの仕様を変えた場合、例えば、副スイッチング素子Qsを主スイッチング素子Qmよりも電流容量より小さなものを使用する場合等においては、両者の応答特性が異なるケースが生じる。図11は、応答特性の相違を表すもので、この例では、主スイッチング素子Qmの応答特性(A)に比べて副スイッチング素子Qsの応答特性(B)が劣る場合を示す。この場合、主駆動系統にて電動モータ15を駆動制御するときと副駆動系統にて電動モータ15を駆動制御するときとで共通のテッドタイムを設定してしまうと、そのテッドタイムが副駆動系統にて必要なテッドタイムtdsより短い場合にはアーム短絡が発生するおそれがある。
そこで、各実施形態およびその変形例において、常時PWM方式を採用する場合、主駆動系統にて電動モータ15を駆動制御するときには、主スイッチング素子Qmの応答特性に応じたデットタイムtdmを設定し、副駆動系統にて電動モータ15を駆動制御するときには、副スイッチング素子Qsの応答特性に応じたデットタイムtdsを設定する。
また、駆動系統を切り替えたときの最初のデットタイムtdcを、デットタイムtdm以上、かつ、テッドタイムtds以上に設定する。つまり、デットタイムtdcを2つのデットタイムtdm,tdsのうち長いほうの時間以上に設定する。例えば、副駆動系統にて電動モータ15を駆動する場合のデットタイムtdsが主駆動系統にて電動モータ15を駆動する場合のデットタイムtdmよりも長い場合には、駆動系統切り替え時のデットタイムtdcをデットタイムtds以上の長さに設定する。
また、駆動系統を切り替えるときには、主駆動系統と副駆動系統とに出力するPWM制御信号のオン・オフタイミングを同期させる。つまり、PWM制御の周期、制御周期の開始タイミングと終了タイミング、デューティ比を一致させて、PWM制御信号の出力先を切り替える。
図12は、このように設定されたPWM制御信号の出力状態を表す(図中の波形におけるハイレベル信号がスイッチング素子Qのオン信号、ローレベル信号がスイッチング素子Qのオフ信号)。図中の上4段が主駆動系統として使用される主スイッチング素子Qm(Qa1m,Qb2m,Qb1m,Qa2m)へ出力されるPWM信号であり、下4段が副駆動系統として使用される副スイッチング素子Qs(Qa1s,Qb2s,Qb1s,Qa2s)へ出力されるPWM信号である。このように、主駆動系統と副駆動系統とにおけるPWM制御信号のオン・オフタイミングを同期させてPWM制御信号の出力先を切り替えるとともに、適切なテッドタイムtdm、tds、tdcを設定することにより、駆動系統切り替え時におけるアーム短絡を防止できる。
デットタイムの切り替え制御については、例えば、図13に示すフローチャートに沿って行う。図13は、マイコン41により行われるデットタイム切替制御ルーチンを表すもので、マイコン41のROM内に制御プログラムとして記憶され、短い周期で繰り返し実行される。この制御ルーチンは、上述した第1〜第3実施形態および変形例において適用できるものである。
本制御ルーチンが起動されると、マイコン41は、ステップS61において、切替指令時であるか否かを判断する。つまり、主駆動系統から副駆動系統への切替指令時、あるいは、副駆動系統から主駆動系統への切替指令時が否かを判断する。切替指令時とは、切替指令が出力された後であって、まだ駆動系統を切り替えていない状況を意味する。切替指令時でなければ(S61:NO)、現在の使用されている駆動系統、つまり、PWM制御信号の出力対象となっている駆動系統に応じたデットタイムtdを設定する。
この場合、主駆動系統が電動モータ15の駆動制御に使用されている状況においては、デットタイムtdを主駆動系統用のテッドタイムtdmに設定する(S63)。このステップS63にて設定されるデットタイムtdmは、主スイッチング素子Qmの応答特性に応じて設定されるもので、駆動方向(正転/逆転)を切り替えたときに主スイッチング素子Qa1mと主スイッチング素子Qa2m、および、主スイッチング素子Qb1mと主スイッチング素子Qb2mとがそれぞれ同時にオンしない時間に設定される。
一方、副駆動系統が電動モータ15の駆動制御に使用されている状況においては、デットタイムtdを副駆動系統用のテッドタイムtdsに設定する(S64)。このステップS64にて設定されるデットタイムtdsは、副スイッチング素子Qsの応答特性に応じて設定されるもので、駆動方向(正転/逆転)を切り替えたときに副スイッチング素子Qa1sと副スイッチング素子Qa2s、および、副スイッチング素子Qb1sと副スイッチング素子Qb2sとが同時にオンしない時間に設定される。
主スイッチング素子Qmに比べて副スイッチング素子Qsの応答性が劣る(オン状態からオフ状態に切り替わる応答遅れ時間が長い)場合には、デットタイムtdsをデットタイムtdmよりも長く設定し、逆の場合には、デットタイムtdsをデットタイムtdmよりも短く設定する。
本制御ルーチンは、所定の速い周期で繰り返される。そして、切替指令が出力されると、ステップS61の判断は「YES」となり、ステップS65において、デットタイムtdを系統切替時用のテッドタイムtdcに設定する。切替指令を受けてデットタイムtdを系統切替時用のテッドタイムtdcに切り替えた後は、次の切替指令が出力されるまでステップS61の判断は「NO」となり、その駆動系統に応じたデットタイムtdが設定される。
この結果、本制御ルーチンによれば、駆動系統の切替時においてもアーム回路の短絡を確実に防止することができる。
以上、本実施形態のモータ駆動装置について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的を逸脱しない限りにおいて種々の変更が可能である。
例えば、本実施形態においては、ブリッジ回路としてHブリッジ回路を用いているが、アーム回路を3組並列接続して備えた3相インバータ回路にも適用できるものである。
また、本実施形態においては、各アームに2つのスイッチング素子を並列に設けたが、3つ以上のスイッチング素子を並列接続して、それらを順次切り替えるようにしてもよい。また、電流容量を補うために複数のスイッチング素子を並列接続したものを主スイッチング素子Qmあるいは副スイッチング素子Qsとして構成するようにしてもよい。
また、本実施形態においては、ハンドル操作をアシストする電動パワーステアリング装置に適用されるモータ駆動装置ついて説明したが、何らこれに限定されるものではなく、各種のアクチュエータとして使用される電動モータの駆動装置に適用できるものである。
1…電動パワーステアリング装置、15…電動モータ、21…操舵トルクセンサ、22…車速センサ、30…電子制御ユニット(ECU)、40…電子制御回路、41…マイコン、43…プリドライブ回路、45…モータ駆動回路、46…電流センサ、47…モータ電圧検出回路、50…電源装置、A…第1アーム回路、B…第2アーム回路、A1…第1上アーム、A2…第1下アーム、B1…第2上アーム、B2…第2下アーム、Qa1m,Qa2m,Qb1m,Qb2m…主スイッチング素子、Qa1s,Qa2s,Qb1s,Qb2s…副スイッチング素子。