次に、本発明の実施の形態を図面と共に説明する。
本発明の第一の実施形態は、ガラス製品であって、
当該ガラス製品の少なくとも一部の面が処理剤によって処理されており、
該処理剤は、
一般式(1)
で表される化合物、並びに
該一般式(1)で表される化合物及び該一般式(2)で表される化合物の組み合わせ
からなる群より選択される第一の化合物、並びに
一般式(3)
で表される化合物
からなる群より選択される第二の化合物を含み、
一般式(1)において、
m1は、1以上の整数であり、
n1は、1以上4以下の整数であり、
X11、X12、及びX13は、それぞれ独立に、アルキル基、アルコキシ基、及びハロゲン原子からなる群より選択される基であると共にX11、X12、及びX13の少なくとも一つは、アルコキシ基及びハロゲン原子からなる群より選択される基であり、
一般式(2)において、
m2は、1以上の整数であり、
n2は、1以上4以下の整数であり、
X21、X22、及びX23は、それぞれ独立に、アルキル基、アルコキシ基、及びハロゲン原子からなる群より選択される基であると共にX21、X22、及びX23の少なくとも一つは、アルコキシ基及びハロゲン原子からなる群より選択される基であり、
一般式(3)において、
m3は、1以上の整数であり、
R1は、陽性基を含む基であり、
X31、X32、及びX33は、それぞれ独立に、アルキル基、アルコキシ基、及びハロゲン原子からなる群より選択される基であると共にX31、X32、及びX33の少なくとも一つは、アルコキシ基及びハロゲン原子からなる群より選択される基であり、
一般式(4)において、
m4は、1以上の整数であり、
R2は、陰性基を含む基であり、
X41、X42、及びX43は、それぞれ独立に、アルキル基、アルコキシ基、及びハロゲン原子からなる群より選択される基であると共にX41、X42、及び433の少なくとも一つは、アルコキシ基及びハロゲン原子からなる群より選択される基である、ガラス製品である。
本発明の第一の実施形態において、ガラス製品は、少なくともガラスを主材料とする部分又は部材を含む任意の物品であり、ガラス製品の全体が、ガラスを主材料とするものであってもよい。また、ガラス製品の形態は、特に制限されない。ガラス製品としては、例えば、(公知のキャピラリー電気泳動装置用の)キャピラリー(数100μm程度の内径を備えたガラス管)、及び、(公知のマイクロチップ電気泳動装置及びポンプ式泳動装置用の)マイクロチップが挙げられる。ここで、ガラスを主材料とすることは、ガラスを含む部分(全体を含む)又は部材に含まれるガラスの割合が、少なくとも50重量%以上であることを意味する。また、ガラスは、二酸化ケイ素を主成分とする非晶質の固体を意味し、二酸化ケイ素を主成分とすることは、少なくとも50重量%以上の二酸化ケイ素を含むと共に、酸化物などの副成分及び/又は不純物を含んでもよいことを意味する。ガラスとしては、例えば、石英ガラス及び溶融シリカのような二酸化ケイ素からなるガラス、並びにパイレックス(登録商標)ガラスのようなホウケイ酸ガラスが挙げられる。
本発明の第一の実施形態においては、ガラス製品の少なくとも一部の面が、処理剤によって処理されている。処理剤によって処理されるガラス製品の少なくとも一部の面は、ガラスを含む部分(全体を含む)又は部材の面である。また、処理剤によって処理されるガラス製品の少なくとも一部の面は、特に限定されず、ガラス製品の全表面であってもよい。しかしながら、処理剤によって処理されるガラス製品の少なくとも一部の面は、通常、ガラス製品の特定の単数又は複数の部分又は部材の面である。ガラス製品の少なくとも一部の面は、ガラス製品の外面の少なくとも一部であってもよく、ガラス製品の内面の少なくとも一部であってもよい。ガラス製品の少なくとも一部の面としては、例えば、(公知のキャピラリー電気泳動装置用)キャピラリーの内壁及び(公知のマイクロチップ電気泳動装置及びポンプ式泳動装置用の)マイクロチップのチャネルの内壁のような微細な流路の内面が挙げられる。ここで、微細とは、流路の断面(流路の延在する方向に対して垂直な面)における最大の径が、通常、1μm以上1mm以下、好ましくは、10μm以上1mm以下であることを意味する。また、処理剤による、ガラス製品の少なくとも一部の面の処理は、主として、ガラス製品の少なくとも一部の面に処理剤を化学結合させることを意味するが、ガラス製品の少なくとも一部の面に処理剤を吸着させることを排除するものではない。
本発明の第一の実施形態において、処理剤は、一般式(1)で表される化合物、一般式(2)で表される化合物、並びに一般式(1)で表される化合物及び一般式(2)で表される化合物の組み合わせからなる群より選択される第一の化合物、並びに一般式(3)で表される化合物及び一般式(4)で表される化合物からなる群より選択される第二の化合物を含む。第一の化合物は、言い換えれば、一般式(1)で表される化合物、一般式(2)で表される化合物、又は、一般式(1)で表される化合物及び一般式(2)で表される化合物の組み合わせである。また、第二の化合物は、言い換えれば、一般式(3)で表される化合物、又は、一般式(4)で表される化合物のいずれかである。第二の化合物が、一般式(3)で表される化合物及び一般式(4)で表される化合物の両方を含む場合には、一般式(3)で表される化合物に含まれる陽性基の正電荷及び一般式(4)で表される化合物に含まれる陰性基の負電荷が、互いに相殺し、処理剤によって処理されたガラス製品の少なくとも一部の面に正電荷又は負電荷を、良好に分布させることができないことがある。なお、処理剤は、第一の化合物及び第二の化合物以外の物質を含んでもよい。
一般式(1)において、m1は、1以上の整数であり、n1は、1以上4以下の整数であり、X11、X12、及びX13は、それぞれ独立に、アルキル基、アルコキシ基、及びハロゲン原子からなる群より選択される基であると共にX11、X12、及びX13の少なくとも一つは、アルコキシ基及びハロゲン原子からなる群より選択される基である。
一般式(2)において、m2は、1以上の整数であり、n2は、1以上4以下の整数であり、X21、X22、及びX23は、それぞれ独立に、アルキル基、アルコキシ基、及びハロゲン原子からなる群より選択される基であると共にX21、X22、及びX23の少なくとも一つは、アルコキシ基及びハロゲン原子からなる群より選択される基である。
一般式(3)において、m3は、1以上の整数であり、R1は、陽性基を含む基であり、X31、X32、及びX33は、それぞれ独立に、アルキル基、アルコキシ基、及びハロゲン原子からなる群より選択される基であると共にX31、X32、及びX33の少なくとも一つは、アルコキシ基及びハロゲン原子からなる群より選択される基である。
一般式(4)において、m4は、1以上の整数であり、R2は、陰性基を含む基であり、X41、X42、及びX43は、それぞれ独立に、アルキル基、アルコキシ基、及びハロゲン原子からなる群より選択される基であると共にX41、X42、及び433の少なくとも一つは、アルコキシ基及びハロゲン原子からなる群より選択される基である。
より詳しくは、一般式(1)で表される化合物は、両性イオン性基であるホスホリルコリン基(−OPO3 −(CH2)n1N+(CH3)3)を有する。また、一般式(1)で表される化合物は、ガラスに対する化学結合を形成することが可能な基としての−SiX11X12X13基を有する。すなわち、X11、X12、及びX13におけるアルコキシ基又はハロゲン原子の少なくとも一つが、脱離して、一般式(1)で表される化合物のSi原子が、ガラス製品の少なくとも一部の面におけるSi−O結合の酸素原子と化学結合を形成することができる。その結果、一般式(1)で表される化合物を、ガラス製品の少なくとも一部の面に化学結合させることができる。なお、X11、X12、及びX13におけるアルキル基は、一般式(1)で表される化合物を、ガラス製品の少なくとも一部の面に化学結合させたとき、一般式(1)で表される化合物のSi原子と結合している。さらに、一般式(1)で表される化合物は、ホスホリルコリン基とSi原子との間にアルキレン基(−(CH2)m1−)を有する。ホスホリルコリン基とSi原子との間に存在するアルキレン基は、その一般式(1)で表される化合物に隣接する一般式(2)、(3)又は(4)で表される化合物に含まれるアルキレン基との疎水性相互作用によって、ガラス製品の少なくとも一部の面に、その一般式(1)で表される化合物及び隣接する一般式(2)、(3)又は(4)で表される化合物を、より密に分布させることに寄与し得る。なお、一般式(1)で表される化合物においては、ホスホリルコリン基及びアルキレン基は、−NH(CH2)2−を介して結合する。加えて、一般式(1)で表される化合物において、m1は、1以上の整数である。m1が、0である場合には、一般式(1)で表される化合物が、Si−N結合を有することになるが、Si−N結合は、不安定である可能性がある。また、一般式(1)で表される化合物において、n1は、1以上4以下の整数である。n1が、0である場合には、一般式(1)で表される化合物が、ホスホリルコリン基を有さないことになる。すなわち、一般式(1)で表される化合物が、ホスホリルコリン基をするためには、n1が、1以上の整数であることが必要である。一方、n1が、4を超える整数である場合には、ホスホリルコリン基の疎水性が高すぎる場合がある。すなわち、ホスホリルコリン基の過剰な疎水性を抑制するためには、n1が、4以下の整数であることが好ましい。
同様に、一般式(2)で表される化合物は、両性イオン性基であるホスホリルコリン基(−OPO3 −(CH2)n2N+(CH3)3)を有する。また、一般式(2)で表される化合物は、ガラスに対する化学結合を形成することが可能な基としての−SiX21X22X23基を有する。すなわち、X21、X22、及びX23におけるアルコキシ基又はハロゲン原子の少なくとも一つが、脱離して、一般式(2)で表される化合物のSi原子が、ガラス製品の少なくとも一部の面におけるSi−O結合の酸素原子と化学結合を形成することができる。その結果、一般式(2)で表される化合物を、ガラス製品の少なくとも一部の面に化学結合させることができる。なお、X21、X22、及びX23におけるアルキル基は、一般式(2)で表される化合物を、ガラス製品の少なくとも一部の面に化学結合させたとき、一般式(2)で表される化合物のSi原子と結合している。さらに、一般式(2)で表される化合物は、ホスホリルコリン基とSi原子との間にアルキレン基(−(CH2)m2−)を有する。ホスホリルコリン基とSi原子との間に存在するアルキレン基は、その一般式(2)で表される化合物に隣接する一般式(1)、(3)又は(4)で表される化合物に含まれるアルキレン基との疎水性相互作用によって、ガラス製品の少なくとも一部の面に、その一般式(2)で表される化合物及び隣接する一般式(1)、(3)又は(4)で表される化合物を、より密に分布させることに寄与し得る。なお、一般式(2)で表される化合物においては、ホスホリルコリン基及びアルキレン基は、−NHCO(CH2)−を介して結合する。加えて、一般式(2)で表される化合物において、m2は、1以上の整数である。m2が、0である場合には、一般式(2)で表される化合物が、Si−N結合を有することになるが、Si−N結合は、不安定である可能性がある。また、一般式(2)で表される化合物において、n2は、1以上4以下の整数である。n2が、0である場合には、一般式(2)で表される化合物が、ホスホリルコリン基を有さないことになる。すなわち、一般式(2)で表される化合物が、ホスホリルコリン基をするためには、n1が、1以上の整数であることが必要である。一方、n2が、4を超える整数である場合には、ホスホリルコリン基の疎水性が高すぎる場合がある。すなわち、ホスホリルコリン基の過剰な疎水性を抑制するためには、n2が、4以下の整数であることが好ましい。
次に、一般式(3)で表される化合物は、陽性基を含む基である−R1基を有する。すなわち、−R1基は、単数又は複数の陽性基を含む。ここで、陽性基は、正の電荷を有する基又は正の電荷を有することができる基を意味する。よって、−R1基もまた、正の電荷を有する基であるか又は正の電荷を有することができる基である。また、一般式(3)で表される化合物は、ガラスに対する化学結合を形成することが可能な基としての−SiX31X32X33基を有する。すなわち、X31、X32、及びX33におけるアルコキシ基又はハロゲン原子の少なくとも一つが、脱離して、一般式(3)で表される化合物のSi原子が、ガラス製品の少なくとも一部の面におけるSi−O結合の酸素原子と化学結合を形成することができる。その結果、一般式(3)で表される化合物を、ガラス製品の少なくとも一部の面に化学結合させることができる。なお、X31、X32、及びX33におけるアルキル基は、一般式(3)で表される化合物を、ガラス製品の少なくとも一部の面に化学結合させたとき、一般式(3)で表される化合物のSi原子と結合している。さらに、一般式(3)で表される化合物は、−R1基とSi原子との間にアルキレン基(−(CH2)m3−)を有する。−R1基とSi原子との間に存在するアルキレン基は、その一般式(3)で表される化合物に隣接する一般式(1)、(2)又は(4)で表される化合物に含まれるアルキレン基との疎水性相互作用によって、ガラス製品の少なくとも一部の面に、その一般式(3)で表される化合物及び隣接する一般式(1)、(2)又は(4)で表される化合物を、より密に分布させることに寄与し得る。加えて、一般式(3)で表される化合物において、m3は、1以上の整数である。m3が、0である場合には、一般式(3)で表される化合物が、Si−N結合を有することになるが、Si−N結合は、不安定である可能性がある。
次に、一般式(4)で表される化合物は、陰性基を含む基である−R2基を有する。すなわち、−R2基は、単数又は複数の陰性基を含む。ここで、陰性基は、負の電荷を有する基又は負の電荷を有することができる基を意味する。よって、−R2基もまた、負の電荷を有する基であるか又は負の電荷を有することができる基である。また、一般式(4)で表される化合物は、ガラスに対する化学結合を形成することが可能な基としての−SiX41X42X43基を有する。すなわち、X41、X42、及びX43におけるアルコキシ基又はハロゲン原子の少なくとも一つが、脱離して、一般式(4)で表される化合物のSi原子が、ガラス製品の少なくとも一部の面におけるSi−O結合の酸素原子と化学結合を形成することができる。その結果、一般式(4)で表される化合物を、ガラス製品の少なくとも一部の面に化学結合させることができる。なお、X41、X42、及びX43におけるアルキル基は、一般式(4)で表される化合物を、ガラス製品の少なくとも一部の面に化学結合させたとき、一般式(4)で表される化合物のSi原子と結合している。さらに、一般式(4)で表される化合物は、−R2基とSi原子との間にアルキレン基(−(CH2)m4−)を有する。−R2基とSi原子との間に存在するアルキレン基は、その一般式(4)で表される化合物に隣接する一般式(1)、(2)又は(3)で表される化合物に含まれるアルキレン基との疎水性相互作用によって、ガラス製品の少なくとも一部の面に、その一般式(4)で表される化合物及び隣接する一般式(1)、(2)又は(3)で表される化合物を、より密に分布させることに寄与し得る。加えて、一般式(4)で表される化合物において、m4は、1以上の整数である。m4が、0である場合には、一般式(4)で表される化合物が、Si−N結合を有することになるが、Si−N結合は、不安定である可能性がある。
本発明の第一の実施形態によるガラス製品を、例えば、電気泳動法に基づいて、試料に含まれる成分を分析する分析装置(電気泳動装置)、及び、電気泳動法に基づいて、試料に含まれる成分を分析する分析方法(電気泳動方法)に適用することができる。例えば、試料に含まれる成分を電気泳動させる微細な流路を備えたガラス製品を用いて、生体試料に含まれるタンパク質及び/又はペプチドを分析する、電気泳動装置及び電気泳動方法に、本発明の第一の実施形態によるガラス製品を適用してもよい。
一般に、試料に含まれる成分を電気泳動させる微細な流路を備えたガラス製品を用いて、生体試料に含まれるタンパク質及び/又はペプチドを分析する、電気泳動装置及び電気泳動方法においては、生体試料に含まれるタンパク質及び/又はペプチドが、ガラス製品に設けられた微細な流路の内面に吸着してしまうことが考えられる。より詳しくは、ガラス製品に設けられた微細な流路の内面(表面)が、電荷を有する一方で、生体試料に含まれるタンパク質及び/又はペプチドは、タンパク質及び/又はペプチドを構成するアミノ酸の種類及び生体試料のpHに依存して、正又は負に帯電する。そして、ガラス製品に設けられた微細な流路の内面(表面)の電荷とタンパク質及び/又はペプチドの電荷との相互作用によって、生体試料に含まれるタンパク質及び/又はペプチドが、ガラス製品に設けられた微細な流路の内面に吸着することがある。その結果、生体試料に含まれるタンパク質及び/又はペプチドを、精確に分析することが困難であることがある。
本発明の第一の実施形態においては、ガラス製品の少なくとも一部の面が処理剤によって処理されており、処理剤が、一般式(1)で表される化合物、一般式(2)で表される化合物、並びに一般式(1)で表される化合物及び一般式(2)で表される化合物の組み合わせからなる群より選択される第一の化合物を含むので、ガラス製品の少なくとも一部の面が、両性イオン性基であるホスホリルコリン基を有する一般式(1)で表される化合物及び/又は一般式(2)で表される化合物で処理される。
上述した電気泳動装置及び電気泳動方法においては、ガラス製品に設けられた微細な流路の内面(表面)が、両性イオン性基であるホスホリルコリン基を有する一般式(1)で表される化合物及び/又は一般式(2)で表される化合物で処理されることになる。両性イオン性基であるホスホリルコリン基は、全体として、電気的に中性であるので、ガラス製品に設けられた微細な流路の内面(表面)に提供されるホスホリルコリン基は、正又は負に帯電したタンパク質及び/又はペプチドとのより弱い相互作用を有し、生体試料に含まれるタンパク質及び/又はペプチドが、ガラス製品に設けられた微細な流路の内面に吸着することを抑制する(防止する又は低減する)ことができる。その結果、生体試料に含まれるタンパク質及び/又はペプチドを、より精確に分析することが可能となる。
さらに、一般式(1)で表される化合物におけるn1及び/又は一般式(2)で表される化合物におけるn2が、4を超える整数である場合には、一般式(1)で表される化合物における及び/又は一般式(2)で表される化合物におけるホスホリルコリン基の疎水性が高すぎて、疎水性のタンパク質及び/又はペプチドに対する一般式(1)で表される化合物における及び/又は一般式(2)で表される化合物の相互作用が、より強くなること考えられる。その結果、疎水性のタンパク質及び/又はペプチドが、ガラス製品に設けられた微細な流路の内面(表面)に提供されるホスホリルコリン基に吸着され、精確に分析されないことがあると考えられる。
本発明の第一の実施形態においては、一般式(1)で表される化合物におけるn1及び/又は一般式(2)で表される化合物におけるn2が、4以下の整数であるので、一般式(1)で表される化合物における及び/又は一般式(2)で表される化合物におけるホスホリルコリン基の疎水性を抑制することができる。よって、生体試料に含まれるタンパク質及び/又はペプチドが、ガラス製品に設けられた微細な流路の内面(表面)に提供されるホスホリルコリン基に吸着することを抑制する(防止する又は低減する)ことができる。その結果、生体試料に含まれるタンパク質及び/又はペプチドを、より精確に分析することが可能となる。
また、試料に含まれる成分を電気泳動させる微細な流路を備えたガラス製品を用いる、電気泳動装置及び電気泳動方法においては、試料に含まれる成分をより精確に分析するために、試料及び電解質を含む泳動溶液に生じる電気浸透流を制御することが重要であることがある。ガラス製品に設けられた微細な流路の内面(表面)は、ガラスのSi−O結合によって(負に)帯電しており、試料及び電解質を含む泳動溶液における、微細な流路の内面(表面)のものと反対符号の(正の)電荷を備えた電解質イオンが、微細な流路の内面(表面)に引き寄せられる。この状態で、試料及び電解質を含む泳動溶液に一定の電圧を印加すると、その電解質イオンが、泳動溶液中で移動し、試料及び電解質を含む泳動溶液の流動(電気浸透流)が発生する。このような電気浸透流は、試料に含まれる成分の分離などに影響を及ぼすため、電気浸透流を制御することも、重要である。
ここで、仮にガラス製品に設けられた微細な流路の内面(表面)を、一般式(1)で表される化合物及び/又は一般式(2)で表される化合物のみで処理すると、一般式(1)で表される化合物及び/又は一般式(2)で表される化合物は、両性イオン性基であると共に全体として電気的に中性であるホスホリルコリン基を有するので、ガラス製品に設けられた微細な流路の内面(表面)は、全体として、電気的に中性になる傾向がある。よって、試料及び電解質を含む泳動溶液に電気浸透流が、発生しない又は低減されることになる。
特に、試料及び電解質を含む泳動溶液に電気浸透流が、ほとんど又は全く発生しない場合には、生体試料に含まれるタンパク質及び/又はペプチドの全てを分析することができないこともある。例えば、試料及び電解質を含む泳動溶液のpHが(約)7であった場合には、試料に含まれるタンパク質及び/又はペプチドは、正又は負に帯電したタンパク質及び/又はペプチド及び帯電してないタンパク質及び/又はペプチドを含み得る。このため、試料及び電解質を含む泳動溶液のpHが(約)7であると共に試料及び電解質を含む泳動溶液に電気浸透流が発生しない場合には、正に帯電したタンパク質及び/又はペプチドは、負に帯電したタンパク質及び/又はペプチドとは逆向きに電気泳動することになり、また、正又は負に帯電したタンパク質及び/又はペプチドの互いに逆向きの電気泳動の流れによって、帯電してないタンパク質及び/又はペプチドは、両向きに電気泳動することになる。従って、試料及び電解質を含む泳動溶液の一方の側でタンパク質及び/又はペプチドを検出するとすれば、試料に含まれるタンパク質及び/又はペプチドの一部を検出することができない場合がある。
そこで、試料に含まれるタンパク質及び/又はペプチドを、試料及び電解質を含む泳動溶液の一方の側へ電気泳動させるために、試料及び電解質を含む泳動溶液のpHを調節することによって、試料に含まれるタンパク質及び/又はペプチドを、正又は負の電荷の一方に帯電させることも考えられる。しかしながら、タンパク質及び/又はペプチドの多くは、pH=約7で安定であり、試料及び電解質を含む泳動溶液のpHを調節した場合には、試料に含まれた状態におけるタンパク質及び/又はペプチドを正確に分析することができないことがある。
本発明の第一の実施形態においては、ガラス製品の少なくとも一部の面が処理剤によって処理されており、処理剤が、一般式(3)で表される化合物及び一般式(4)で表される化合物からなる群より選択される第二の化合物を含むので、ガラス製品の少なくとも一部の面が、陽性基を含む基である−R1基を有する一般式(3)で表される化合物又は陰性基を含む基である−R2基を有する一般式(4)で表される化合物で処理される。
上述した電気泳動装置及び電気泳動方法においては、ガラス製品に設けられた微細な流路の内面(表面)が、陽性基を含む基である−R1基を有する一般式(3)で表される化合物又は陰性基を含む基である−R2基を有する一般式(4)で表される化合物で処理されることになる。
陽性基を含む基である−R1基は、正の電荷を有する基であるか又は正の電荷を有することができる基であるので、ガラス製品に設けられた微細な流路の内面(表面)に提供される−R1基は、ガラス製品に設けられた微細な流路の内面(表面)に正の電荷を提供することができる。その結果、陽性基を含む基である−R1基によって正の電荷が提供された微細な流路の内面(表面)に、泳動溶液に含まれる負の電解質イオンが、引き寄せられる。ここで、陽極及び陰極を用いて試料及び電解質を含む泳動溶液に一定の電圧を印加すると、微細な流路の内面(表面)に引き寄せられた負の電解質イオンが、陰極側から陽極側の向きに移動し、試料及び電解質を含む泳動溶液に陰極側から陽極側の向きの電気浸透流を発生させることができる。このとき、試料及び電解質を含む泳動溶液に発生する陰極側から陽極側の向きの電気浸透流が、試料に含まれるタンパク質及び/又はペプチドの電気泳動の流れよりも大きいので、試料に含まれるタンパク質及び/又はペプチドもまた、試料に含まれるタンパク質及び/又はペプチドの電荷にかかわらず、発生した電気浸透流に従って陰極側から陽極側へ移動する。よって、一つの検出器を陽極側に配置することによって、(例えば、試料及び電解質を含む泳動溶液のpHが約7であっても、)試料に含まれる様々なタンパク質及び/又はペプチドを検出することができる。
陰性基を含む基である−R2基は、負の電荷を有する基であるか又は負の電荷を有することができる基であるので、ガラス製品に設けられた微細な流路の内面(表面)に提供される−R2基は、ガラス製品に設けられた微細な流路の内面(表面)に負の電荷を提供することができる。その結果、陰性基を含む基である−R2基によって負の電荷が提供された微細な流路の内面(表面)に、泳動溶液に含まれる正の電解質イオンが、引き寄せられる。ここで、陽極及び陰極を用いて試料及び電解質を含む泳動溶液に一定の電圧を印加すると、微細な流路の内面(表面)に引き寄せられた正の電解質イオンが、陽極側から陰極側の向きに移動し、試料及び電解質を含む泳動溶液に陽極側から陰極側の向きの電気浸透流を発生させることができる。このとき、試料及び電解質を含む泳動溶液に発生する陽極側から陰極側の向きの電気浸透流が、試料に含まれるタンパク質及び/又はペプチドの電気泳動の流れよりも大きいので、試料に含まれるタンパク質及び/又はペプチドもまた、試料に含まれるタンパク質及び/又はペプチドの電荷にかかわらず、発生した電気浸透流に従って陽極側から陰極側へ移動する。よって、一つの検出器を陰極側に配置することによって、(例えば、試料及び電解質を含む泳動溶液のpHが約7であっても、)試料に含まれる様々なタンパク質及び/又はペプチドを検出することができる。
このようにして、一般式(3)で表される化合物及び一般式(4)で表される化合物からなる群より選択される第二の化合物を用いることによって、ガラス製品に設けられた微細な流路の内面(表面)の電荷を制御することが可能となる。また、その結果として、試料及び電解質を含む泳動溶液に発生する電気浸透流を制御することができる。このようにして、生体試料に含まれるタンパク質及び/又はペプチドを、より精確に分析することが可能となる。
特に、本発明の第一の実施形態においては、ガラス製品の少なくとも一部の面を処理するための処理剤に含まれる第二の化合物として、一般式(3)で表される化合物又は一般式(4)で表される化合物のいずれかを選択することによって、試料及び電解質を含む泳動溶液に発生する電気浸透流の向きを制御することができる。例えば、試料及び電解質を含む泳動溶液に発生する電気浸透流の向きが、試料に含まれる様々なタンパク質及び/又はペプチドを検出するための検出器の配置に対応するように、第二の化合物を、一般式(3)で表される化合物又は一般式(4)で表される化合物から選択することができる。
以上説明してきたように、試料に含まれる成分を電気泳動させる微細な流路を備えたガラス製品を用いて、生体試料に含まれるタンパク質及び/又はペプチドを分析する、電気泳動装置及び電気泳動方法においては、本発明の第一の実施形態によるガラス製品によれば、生体試料に含まれるタンパク質及び/又はペプチドが、ガラス製品に設けられた微細な流路の内面に吸着することを抑制する(防止する又は低減する)と共に試料及び電解質を含む泳動溶液に発生する電気浸透流を制御することができる。その結果、生体試料に含まれるタンパク質及び/又はペプチドを、より精確に分析することが可能となる。
なお、生体試料に含まれるタンパク質及び/又はペプチドが、ガラス製品に設けられた微細な流路の内面に吸着することを抑制する(防止する又は低減する)程度と共に試料及び電解質を含む泳動溶液に発生する電気浸透流を制御する程度のバランスは、ガラス製品の少なくとも一部の面を処理する処理剤に含まれる第一の化合物及び第二の化合物の割合に依存する。言い換えれば、ガラス製品の少なくとも一部の面を処理する処理剤に含まれる第一の化合物及び第二の化合物の割合を調整することによって、生体試料に含まれるタンパク質及び/又はペプチドが、ガラス製品に設けられた微細な流路の内面に吸着することを抑制する(防止する又は低減する)程度と共に試料及び電解質を含む泳動溶液に発生する電気浸透流を制御する程度のバランスを調整することができる。すなわち、ガラス製品の少なくとも一部の面を処理する処理剤に含まれる第一の化合物の割合を増加させると、生体試料に含まれるタンパク質及び/又はペプチドが、ガラス製品に設けられた微細な流路の内面に吸着することを抑制する(防止する又は低減する)程度は、増加し、試料及び電解質を含む泳動溶液に発生する電気浸透流を制御する程度は、減少する。逆に、ガラス製品の少なくとも一部の面を処理する処理剤に含まれる第二の化合物の割合を増加させると、体試料に含まれるタンパク質及び/又はペプチドが、ガラス製品に設けられた微細な流路の内面に吸着することを抑制する(防止する又は低減する)程度は、減少し、試料及び電解質を含む泳動溶液に発生する電気浸透流を制御する程度は、増加する。
本発明の第一の実施形態によるガラス製品において、好ましくは、前記第一の化合物の物質量及び前記第二の化合物の物質量の総量に対する、前記第一の化合物の物質量の総量の比は、0.80以上である。第一の化合物の物質量及び第二の化合物の物質量の総量に対する、第一の化合物の物質量の総量の比は、好ましくは、80モル%以上である。第一の化合物の物質量及び第二の化合物の物質量の総量に対する、第一の化合物の物質量の総量の比が、0.80以上である場合には、試料に含まれる成分を電気泳動させる微細な流路を備えたガラス製品を用いて、生体試料に含まれるタンパク質及び/又はペプチドを分析する、電気泳動装置及び電気泳動方法において、生体試料に含まれるタンパク質及び/又はペプチドが、ガラス製品に設けられた微細な流路の内面に吸着することを、良好に抑制する(防止する又は低減する)ことが可能となる。
本発明の第一の実施形態によるガラス製品において、好ましくは、前記第一の化合物の物質量及び前記第二の化合物の物質量の総量に対する、前記第二の化合物の物質量の比は、0.05以上である。すなわち、第一の化合物の物質量及び第二の化合物の物質量の総量に対する、第二の化合物の物質量の比は、好ましくは、5モル%以上である。第一の化合物の物質量及び第二の化合物の物質量の総量に対する、第二の化合物の物質量の比が、0.05以上である場合には、試料に含まれる成分を電気泳動させる微細な流路を備えたガラス製品を用いて、生体試料に含まれるタンパク質及び/又はペプチドを分析する、電気泳動装置及び電気泳動方法において、試料及び電解質を含む泳動溶液に発生する電気浸透流を、良好に制御することが可能となる。
なお、本発明の第一の実施形態によるガラス製品において、好ましくは、前記第一の化合物の物質量及び前記第二の化合物の物質量の総量に対する、前記第二の化合物の物質量の比は、0.20未満である。すなわち、第一の化合物の物質量及び第二の化合物の物質量の総量に対する、第二の化合物の物質量の比は、好ましくは、20モル%未満である。第一の化合物の物質量及び第二の化合物の物質量の総量に対する、第二の化合物の物質量の比が、0.20以上である場合には、試料に含まれる成分を電気泳動させる微細な流路を備えたガラス製品を用いて、生体試料に含まれるタンパク質及び/又はペプチドを分析する、電気泳動装置及び電気泳動方法において、第二の化合物の電荷の符号と反対の符号の電荷を有するタンパク質及び/又はペプチドが、第二の化合物に吸着される傾向が高くなることがある。逆に、第一の化合物の物質量及び第二の化合物の物質量の総量に対する、第二の化合物の物質量の比は、0.20未満である場合には、第二の化合物の電荷の符号と反対の符号の電荷を有するタンパク質及び/又はペプチドが、第二の化合物に吸着されることを抑制することが可能となる。
このようにして、例えば、本発明の第一の実施形態によるガラス製品において、処理剤が、第一の化合物及び第二の化合物からなる場合には、第一の化合物の物質量及び前記第二の化合物の物質量の比(第一の化合物の物質量:前記第二の化合物の物質量)は、好ましくは、80:20〜95:5である。
本発明の第一の実施形態によるガラス製品において、好ましくは、m1、m2、m3、及びm4の少なくとも一つは、2以上の整数である。m1、m2、m3、及びm4の少なくとも一つが、1である場合には、対応する一般式(1)、(2)、(3)、及び(4)で表される化合物の少なくとも一つの親水性が、高過ぎることがある。その結果、対応する一般式(1)、(2)、(3)、又は(4)で表される化合物とその化合物に隣接する一般式(1)、(2)、(3)、又は(4)で表される化合物との間の電気的反発が大きくなり、対応する一般式(1)、(2)、(3)、又は(4)で表される化合物及びその化合物に隣接する一般式(1)、(2)、(3)、又は(4)で表される化合物を密に分布させることが困難であることがある。一方、m1、m2、m3、及びm4の少なくとも一つは、2以上の整数である場合には、対応する一般式(1)、(2)、(3)、及び(4)で表される化合物の少なくとも一つの疎水性が、高められ、疎水性相互作用によって、対応する一般式(1)、(2)、(3)、又は(4)で表される化合物及びその化合物に隣接する一般式(1)、(2)、(3)、又は(4)で表される化合物を密に分布させることが可能となる。
本発明の第一の実施形態によるガラス製品において、好ましくは、m1、m2、m3、及びm4の少なくとも一つは、6以下の整数である。m1、m2、m3、及びm4の少なくとも一つが、6を超える整数である場合には、対応する一般式(1)、(2)、(3)、及び(4)で表される化合物の少なくとも一つの疎水性が、高過すぎて、対応する一般式(1)、(2)、(3)、及び(4)で表される化合物の少なくとも一つに、タンパク質及び/又はペプチドのような、試料に含まれる成分が、吸着することがある。一方、m1、m2、m3、及びm4の少なくとも一つが、6以下の整数である場合には、対応する一般式(1)、(2)、(3)、及び(4)で表される化合物の少なくとも一つに、タンパク質及び/又はペプチドのような、試料に含まれる成分が、吸着することを抑制することが可能となる。
本発明の第一の実施形態によるガラス製品において、好ましくは、X11、X12、X13、X21、X22、X23、X31、X32、X33、X41、X42、及びX43の少なくとも一つは、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、及びイソブチル基からなる群より選択されるアルキル基である。この場合には、X11、X12、X13、X21、X22、X23、X31、X32、X33、X41、X42、及びX43の少なくとも一つにおけるアルキル基の炭素鎖の長さが、比較的短い。その結果、X11、X12、X13、X21、X22、X23、X31、X32、X33、X41、X42、及びX43における少なくとも一つのアルコキシ基又はハロゲン原子が、脱離して、対応する一般式(1)、(2)、(3)、又は(4)で表される化合物のSi原子が、ガラス製品の少なくとも一部の面における有極性のSi−O結合の酸素原子と化学結合を形成する反応を、アルキル基に起因する立体障害及びアルキル基の疎水性によって、阻害する可能性が、比較的低い。
本発明の第一の実施形態によるガラス製品において、好ましくは、X11、X12、X13、X21、X22、X23、X31、X32、X33、X41、X42、及びX43の少なくとも一つは、メトキシ基及びエトキシ基からなる群より選択されるアルコキシ基である。この場合には、対応する一般式(1)、(2)、(3)、又は(4)で表される化合物を、より容易に得ることができる。
本発明の第一の実施形態によるガラス製品において、好ましくは、前記陽性基は、アミノ基、第一のアルキル基で置換されたアミノ基、アンモニウム基、第二のアルキル基で置換されたアンモニウム基からなる群より選択される基を含む。すなわち、陽性基は、−NR11R12及び−N+R13R14R15からなる群より選択される基を含み、R11、R12、R13、R14、及びR15は、それぞれ独立に、水素原子又はアルキル基である。なお、R11及びR12の両方が、水素原子である場合には、−NR11R12は、−NH2である。また、R13、R14、及びR15の全てが、水素原子である場合には、−N+R13R14R15は、−NH3 +である。
陽性基が、アミノ基、第一のアルキル基で置換されたアミノ基、アンモニウム基、第二のアルキル基で置換されたアンモニウム基からなる群より選択される基を含む場合には、陽性基によって提供される正の電荷、すなわち、一般式(3)で表される化合物によって提供される正の電荷を、芳香族性のアミノ基又は芳香族性のアンモニウム基の場合と比較的して、高めることができる。また、陽性基の疎水性、すなわち、一般式(3)で表される化合物の疎水性を、芳香族性のアミノ基又は芳香族性のアンモニウム基の場合と比較的して、抑制することができる。
本発明の第一の実施形態によるガラス製品において、好ましくは、前記第一のアルキル基及び前記第二のアルキル基の少なくとも一つは、メチル基、エチル基、プロピル基、及びイソプロピル基からなる群より選択されるアルキル基である。この場合には、陽性基の疎水性、すなわち、一般式(3)で表される化合物の疎水性を、より抑制することができる。
本発明の第一の実施形態によるガラス製品において、好ましくは、前記陰性基は、カルボキシル基、カルボン酸塩の基、スルホン酸基、スルホン酸塩の基、リン酸基、リン酸塩の基からなる群より選択される基を含む。すなわち、陰性基は、−COOH、−COO−、−SO3H、−SO3 −、−PO4H2、−PO4 2−からなる群より選択される基を含む。陰性基が、カルボキシル基、カルボン酸塩の基、スルホン酸基、スルホン酸塩の基、リン酸基、リン酸塩の基からなる群より選択される基を含む場合には、一般式(4)で表される化合物を、より容易に得ることができる。
本発明の第一の実施形態によるガラス製品において、好ましくは、前記第一の化合物は、前記一般式(2)で表される化合物である。
一般式(1)で表される化合物は、−NH−基を有する。−NH−基は、水溶液中では、水素イオンを受容し、−NH2 +−を形成する。すなわち、一般式(1)で表される化合物は、水溶液中で、正の電荷を有する。このため、試料に含まれる成分を電気泳動させる微細な流路を備えたガラス製品を用いて、生体試料に含まれるタンパク質及び/又はペプチドを分析する、電気泳動装置及び電気泳動方法においては、負に帯電したタンパク質及び/又はペプチドが、一般式(1)で表される化合物に吸着される可能性がある。また、水溶液中で正の電荷を有する一般式(1)で表される化合物を、陽性基を含む一般式(3)で表される化合物又は陰性基を含む一般式(4)で表される化合物と組み合わせて、ガラス製品に設けられた微細な流路の内面(表面)の電荷を制御すること、従って、試料及び電解質を含む泳動溶液に発生する電気浸透流を制御することが、比較的容易ではない。
一方、第一の化合物が、一般式(2)で表される化合物である場合には、一般式(2)で表される化合物は、水溶液中で、全体として電気的に中性である。このため、試料に含まれる成分を電気泳動させる微細な流路を備えたガラス製品を用いて、生体試料に含まれるタンパク質及び/又はペプチドを分析する、電気泳動装置及び電気泳動方法においては、正又は負に帯電したタンパク質及び/又はペプチドが、一般式(2)で表される化合物に吸着される可能性は、低い。また、水溶液中で全体として電気的に中性である一般式(2)で表される化合物を、陽性基を含む一般式(3)で表される化合物又は陰性基を含む一般式(4)で表される化合物と組み合わせて、ガラス製品に設けられた微細な流路の内面(表面)の電荷を制御すること、従って、試料及び電解質を含む泳動溶液に発生する電気浸透流を制御することが、比較的容易である。
一般式(1)で表される化合物は、特開2005−187456号公報に記載される方法に従って、製造される。すなわち、商業的に入手可能な一般式(5)
で表される化合物(α−グリセロホスホリルコリン)の水溶液を氷水浴中で冷却し、その水溶液に過ヨウ素酸ナトリウムを添加し、その水溶液を5時間攪拌する。得られた反応液を、減圧濃縮及び減圧乾燥し、メタノール中に、一般式(6)
で表される化合物(ホスホリルコリン基を有するアルデヒド)を抽出する。このアルデヒドのメタノール溶液に、0.5当量の商業的に入手可能な一般式(7)
で表される化合物(アミノアルキルトリアルコキシシランなど)を添加し、その溶液を20時間攪拌する。攪拌の後、その溶液にシアノトリヒドロホウ酸ナトリウムを添加し、5時間反応を行う。このようにして、一般式(1)で表される化合物のメタノール溶液を得ることができる。
一般式(2)で表される化合物は、特開2005−187456号公報に記載される方法に従って、製造される。すなわち、商業的に入手可能な一般式(8)
で表される化合物(α−グリセロホスホリルコリン)、過ヨウ素酸ナトリウム、三塩化ルテニウム・水和物を、アセトニトリル水溶液に添加する。その水溶液を、室温で攪拌し、濾過し、得られた濾液から溶媒を除去する。得られた固形物からメタノール中へ、一般式(9)
で表される化合物(ホスホリルコリン基を有するカルボン酸)を抽出する。このカルボン酸のメタノール溶液に、0.5当量の商業的に入手可能な一般式(10)
で表される化合物(アミノアルキルトリアルコキシシランなど)、1当量のN−ヒドロキシスクシンイミド(NHS)、及び、1当量のN−エチル−N’−3−ジアミノプロピルカルボジイミド(EDC)を添加し、その溶液を3時間攪拌する。このようにして、一般式(2)で表される化合物のメタノール溶液を得ることができる。
一般式(3)で表される化合物は、商業的に入手可能である。
一般式(4)で表される化合物は、商業的に入手可能であるか、又は、トリアルコキシアルキルカルボン酸無水物などをN,N−ジメチルアミノピリジンの存在下でアルカリ加水分解することによって、得られる。
本発明の第二の実施形態は、試料に含まれる成分を分析する分析装置であって、本発明の第一の実施形態によるガラス製品を含む、分析装置である。試料及び試料に含まれる成分は、特に限定されない。試料としては、例えば、生体試料のような有機物であってもよく、試料に含まれる成分としては、生体試料に含まれるタンパク質及び/又はペプチドであってもよい。本発明の第二の実施形態における分析装置は、本発明の第一の実施形態によるガラス製品を含むことを除いて、特に限定されない。分析装置としては、例えば、本発明の第一の実施形態によるガラス製品であるキャピラリーを含むキャピラリー電気泳動装置、本発明の第一の実施形態によるガラス製品であるマイクロチップを含むマイクロチップ電気泳動装置、及び本発明の第一の実施形態によるガラス製品であるマイクロチップを含むポンプ式泳動装置が挙げられる。本発明の第二の実施形態における分析装置は、好ましくは、(キャピラリー及びマイクロチップのような)本発明の第一の実施形態によるガラス製品を含む(キャピラリー電気泳動装置及びマイクロチップ電気泳動装置のような)電気泳動装置である。このような電気泳動装置においては、(キャピラリー及びマイクロチップのような)本発明の第一の実施形態によるガラス製品に試料を適用し、試料の両端に一定の電圧を印加する。その結果、試料に含まれる成分が、試料に印加された電場によって、電気泳動すると共に分離及び分析される。
本発明の第三の実施形態は、試料に含まれる成分を分析する分析方法であって、本発明の第一の実施形態によるガラス製品を用いて、試料に含まれる成分を分析する、分析方法である。試料及び試料に含まれる成分は、特に限定されない。試料としては、例えば、生体試料のような有機物であってもよく、試料に含まれる成分としては、生体試料に含まれるタンパク質及び/又はペプチドであってもよい。本発明の第三の実施形態における分析方法は、本発明の第一の実施形態によるガラス製品を用いて、試料に含まれる成分を分析することを除いて、特に限定されない。分析方法としては、例えば、本発明の第一の実施形態によるガラス製品であるキャピラリーを用いるキャピラリー電気泳動方法、本発明の第一の実施形態によるガラス製品であるマイクロチップを用いるマイクロチップ電気泳動方法、及び本発明の第一の実施形態によるガラス製品であるマイクロチップを用いるポンプ式泳動方法が挙げられる。本発明の第三の実施形態における分析方法は、好ましくは、(キャピラリー及びマイクロチップのような)本発明の第一の実施形態によるガラス製品を用いる(キャピラリー電気泳動方法及びマイクロチップ電気泳動方法のような)電気泳動方法である。このような電気泳動方法においては、(キャピラリー及びマイクロチップのような)本発明の第一の実施形態によるガラス製品に試料を適用し、試料の両端に一定の電圧を印加する。その結果、試料に含まれる成分が、試料に印加された電場によって、電気泳動すると共に分離及び分析される。
図1は、本発明による分析装置の例としてのキャピラリー電気泳動装置を説明する図である。
図1に示すキャピラリー電気泳動装置10は、電源11、電源11の一方の端子(例えば、+端子)に接続された第一の電極12a(例えば、陽極)、電源11の他方の端子(例えば、−端子)に接続された第二の電極12b(陰極)、電解溶液13を保持するための二つのセル14a、14b、検出器16及び、本発明によるガラス製品の例としてのガラスキャピラリー15を含む。なお、検出器16は、例えば、公知の吸光光度法による検出器であってもよい。
ここで、二つのセル14a、14bには、電解溶液13が保持され、ガラスキャピラリー15の流路は、毛管現象によって自発的に電解溶液13で満たされる。また、第一の電極12aは、セル14aに保持された電界溶液13に浸され、第二の電極12bは、セル14bに保持された電界溶液13に浸される。なお、電解溶液は、電解質、及び電解質を溶解させる溶媒を含む。また、ガラスキャピラリー15の流路の内壁は、一般式(1)で表される化合物及び/又は一般式(2)で表される化合物である第一の化合物、並びに一般式(3)で表される化合物又は一般式(4)で表される化合物である第二の化合物を含む処理剤で処理されている。
次に、試料をキャピラリーに注入後、キャピラリーの両端を電解溶液13に浸漬し、電源11のスイッチをオンにすると、第一の電極12aと第二の電極12bとの間に印加される電場によって、キャピラリー内に満たされた電解溶液13に電気浸透流が発生する。これにより、キャピラリー内の試料の成分は、第一の電極12aから第二の電極12bへ向かって移動する。電解溶液13に含まれる試料の成分の移動速度は、試料の成分に依存しており、検出部まで泳動した試料を検出器16によって分析することができる。
図2は、本発明による分析装置の例としてのマイクロチップ電気泳動装置を説明する図である。
図2に示すマイクロチップ電気泳動装置20は、本発明によるガラス製品の例としてのマイクロチップ21、電源22、検出器23を含む。マイクロチップ21には、マイクロチャネル24が設けられており、マイクロチャネル24は、図2においては、十字形の流路である。マイクロチャネル24の一方の方向における流路の両端には、試料注入口25a1、25a2が設けられており、マイクロチャネル24の他方の方向における流路の両端には、試料注入口25b1、25b2が設けられている。そして、それぞれの試料注入口は、図示してない微小電極を有する。また、電源22の端子は、試料注入口25a2の微小電極に接続されており、試料注入口25a1、25b1の微小電極は接地されている。また、泳動溶液は、試料注入口25a1、25a2、25b1、25b2のいずれかを通じて、マイクロチャネル24内に注入され、マイクロチャネル24は、毛管現象によって自発的に泳動溶液で満たされる。なお、検出器23は、泳動した成分を検出するものであり、検出器23は、例えば、公知の吸光光度法による検出器であってもよい。なお、電解溶液は、電解質、及び電解質を溶解させる溶媒を含む。また、マイクロチャネル24の内壁は、一般式(1)で表される化合物及び/又は一般式(2)で表される化合物である第一の化合物、並びに一般式(3)で表される化合物又は一般式(4)で表される化合物である第二の化合物を含む処理剤で処理されている。
次に、電源22のスイッチをオンにすると、試料注入口25a1と試料注入口25a2、試料注入口25b1と試料注入口25a2との間に印加される電場によって、マイクロチャネル24内の電解溶液に試料注入口25a2から試料注入口25a1への及び試料注入口25a2から試料注入口25b1への方向に電気浸透流が発生する。このとき、電気浸透流の大きさは電場の大きさに比例するので、試料注入口25a2から試料注入口25a1への方向の電気浸透流の方が、試料注入口25a2から試料注入口25b1への方向の電気浸透流よりも大きい。この状態で試料注入口25b2よりポンプ等で試料溶液を注入すると、試料注入口25a2から試料注入口25a1への電気浸透流の方が大きいため、試料溶液は、試料注入口25b2から試料注入口25a1へ向かって移動する。ここで、電源22のスイッチを瞬間的にオフにすると、電気浸透流がなくなるため、試料溶液は、試料注入口25b2からすべての試料注入口へ向かって移動する。その後すぐにスイッチをオンにすると、試料注入口25b1側に移動した試料溶液だけが区切られて、試料注入口25b1に向かって泳動する。この試料溶液に含まれる成分の移動速度は、試料の成分に依存しており、泳動した試料の成分を、ある一定の時間にわたって検出器23によって検出し、試料に含まれる成分の種類及び含有量を分析することができる。
図3は、本発明による分析方法の例としてのキャピラリー又はマイクロチップ電気泳動方法の第一の例を説明する図である。
図3は、キャピラリー又はマイクロチップ電気泳動装置に含まれる、本発明によるガラス製品の例としてのキャピラリー31又は本発明によるガラス製品の例としてのマイクロチップのマイクロチャネル31の一部を模式的に示している。キャピラリー又はマイクロチャネル31の壁面は、第一の化合物32及び第二の化合物33で処理されている。すなわち、第一の化合物32及び第二の化合物33が、一定の割合でキャピラリー又はマイクロチャネル31の壁面に結合している。第一の化合物32は、一般式(1)で表される化合物及び/又は一般式(2)で表される化合物であり、両性イオン性基であるホスホリルコリン基(PC)を有する。第二の化合物33は、一般式(3)で表される化合物であり、正の電荷を有する(ことができる)陽性基を有する。
次に、キャピラリー又はマイクロチャネル31を、試料及び電解質を含む泳動溶液で満たす。試料は、正に帯電した成分34、電気的に中性の成分35、負に帯電した成分36を含み得る。また、電解質は、泳動溶液中で陽イオン及び陰イオン37に電離する。ここで、キャピラリー又はマイクロチャネル31の壁面に対する、試料に含まれる、正に帯電した成分34、電気的に中性の成分35、負に帯電した成分36の吸着は、キャピラリー又はマイクロチャネル31の壁面に結合する、両性イオン性基であるホスホリルコリン基を有する第一の化合物32によって、抑制される。
一方、電解質から電離した陰イオン37は、キャピラリー又はマイクロチャネル31の壁面に結合する、正の電荷を有する(ことができる)陽性基を有する第二の化合物33に、引き寄せられる。この状態で、キャピラリー又はマイクロチャネル31の両端に設けられた陽極38及び陰極39の間に電圧を印加すると、陰イオン37は、陰極39側から陽極38側へ移動し、電気浸透流を発生させる。一方、電気泳動によって、正に帯電した成分34には、陰極39側へ移動する力が働き、負に帯電した成分36には、陽極38側へ移動する力が働く。しかしながら、通常、電気浸透流によって移動する力は、電気泳動によって移動する力よりもはるかに大きい。よって、正に帯電した成分34は、電気浸透流の流れと電気泳動によって移動する流れとの差の流れと共に陽極38側へ移動する。また、電気的に中性の成分35には、電気泳動によって移動する力が働かないので、電気的に中性の成分35は、電気浸透流の流れと共に陽極38側へ移動する。さらに、負に帯電した成分36は、電気浸透流の流れと電気泳動によって移動する流れとの和の流れと共に陽極38側へ移動する。このようにして、正に帯電した成分34、電気的に中性の成分35、負に帯電した成分36は、異なる泳動時間でキャピラリー又はマイクロチャネル31を移動し、異なる泳動時間で検出される。
図4は、本発明による分析方法の例としてのキャピラリー又はマイクロチップ電気泳動方法の第二の例を説明する図である。
図4は、キャピラリー又はマイクロチップ電気泳動装置に含まれる、本発明によるガラス製品の例としてのキャピラリー41又は本発明によるガラス製品の例としてのマイクロチップのマイクロチャネル41の一部を模式的に示している。キャピラリー又はマイクロチャネル41の壁面は、第一の化合物42及び第二の化合物43で処理されている。すなわち、第一の化合物42及び第二の化合物43が、一定の割合でキャピラリー又はマイクロチャネル41の壁面に結合している。第一の化合物42は、一般式(1)で表される化合物及び/又は一般式(2)で表される化合物であり、両性イオン性基であるホスホリルコリン基(PC)を有する。第二の化合物43は、一般式(4)で表される化合物であり、負の電荷を有する(ことができる)陰性基を有する。
次に、キャピラリー又はマイクロチャネル41を、試料及び電解質を含む泳動溶液で満たす。試料は、正に帯電した成分44、電気的に中性の成分45、負に帯電した成分46を含み得る。また、電解質は、泳動溶液中で陽イオン47及び陰イオンに電離する。ここで、キャピラリー又はマイクロチャネル41の壁面に対する、試料に含まれる、正に帯電した成分44、電気的に中性の成分45、負に帯電した成分46の吸着は、キャピラリー又はマイクロチャネル41の壁面に結合する、両性イオン性基であるホスホリルコリン基を有する第一の化合物42によって、抑制される。
一方、電解質から電離した陽イオン47は、キャピラリー又はマイクロチャネル41の壁面に結合する、負の電荷を有する(ことができる)陰性基を有する第二の化合物43に、引き寄せられる。この状態で、キャピラリー又はマイクロチャネル41の両端に設けられた陽極48及び陰極49の間に電圧を印加すると、陽イオン47は、陽極48側から陰極49側へ移動し、電気浸透流を発生させる。一方、電気泳動によって、正に帯電した成分44には、陰極49側へ移動する力が働き、負に帯電した成分46には、陽極48側へ移動する力が働く。しかしながら、通常、電気浸透流によって移動する力は、電気泳動によって移動する力よりもはるかに大きい。よって、正に帯電した成分44は、電気浸透流の流れと電気泳動によって移動する流れとの和の流れと共に陰極49側へ移動する。また、電気的に中性の成分45には、電気泳動によって移動する力が働かないので、電気的に中性の成分45は、電気浸透流の流れと共に陰極49側へ移動する。さらに、負に帯電した成分46は、電気浸透流の流れと電気泳動によって移動する流れとの差の流れと共に陰極49側へ移動する。このようにして、正に帯電した成分44、電気的に中性の成分45、負に帯電した成分46は、異なる泳動時間でキャピラリー又はマイクロチャネル41を移動し、異なる泳動時間で検出される。
[実施例]
次に、本発明の実施例を図面と共に説明する。
[製造例1]
(化合物(1)の製造)
450mgのL−α−グリセロホスホリルコリン(日本精化)を15mLの蒸留水に溶解し、得られた水溶液を氷水浴中で冷却した。その水溶液に750mgの過ヨウ素酸ナトリウム(和光純薬工業株式会社)を添加し、その水溶液を5時間攪拌した。得られた反応液を減圧濃縮及び減圧乾燥し、アルデヒド基を有するホスホリルコリン誘導体をメタノール中へ抽出した。7.5gの得られたホスホリルコリン誘導体を、30mLのメタノールに溶解させ、そのメタノール溶液に3.6gの3−アミノプロピルトリメトキシシラン(信越化学工業株式会社)を添加した。この混合溶液を、室温で5時間攪拌した後、氷冷し、その溶液に2.5gのシアノトリヒドロホウ酸ナトリウム(和光純薬工業株式会社)を添加し、その溶液を室温で16時間攪拌した。得られた沈殿をろ過し、化合物(1)(一般式(1)で表される化合物であって、m1=3、n1=2、X11、X12、X13の全て=CH3Oである化合物)のメタノール溶液(化合物(1)の濃度=4重量%)を得た。
[製造例2]
(化合物(2)の製造)
5gのL−α−グリセロホスホリルコリン(日本精化)、17gの過ヨウ素酸ナトリウム(和光純薬工業株式会社)、81mgの三塩化ルテニウム水和物(和光純薬工業株式会社)を、70gのイオン交換水及び30gのアセトニトリルの混合液に溶解した。得られた溶液を、室温で2時間攪拌した後、ろ過し、その濾液から溶媒を除去した。得られた固形物からメタノール中へカルボキシル基を有するホスホリルコリン誘導体を抽出し、その抽出物を減圧濃縮及び減圧乾燥した。3gの得られたホスホリルコリン誘導体を100mLのメタノールに溶解し、得られたメタノール溶液に、1.1gの3−アミノプロピルトリメトキシシラン(信越化学工業株式会社)、1.4gのN−ヒドロキシスクシンイミド(和光純薬工業株式会社)、及び、2.4gのN−エチル−N’−3−ジメチルアミノプロピルカルボジイミド(シグマアルドリッチ)を添加し、−10℃で16時間反応を行い、化合物(2)(一般式(2)で表される化合物であって、m2=3、n2=2、X21、X22、X23の全て=CH3Oである化合物)のメタノール溶液(化合物(2)の濃度=4重量%)を得た。
[実施例1]
(電気泳動装置用ガラスキャピラリー1)
製造例1で製造した化合物(1)のメタノール溶液と3−アミノプロピルトリメトキシシラン(信越化学工業株式会社)(一般式(3)で表される化合物であって、m3=3、X31、X32、X33の全て=CH3O、R1=NH2である化合物)の1重量%水溶液を95:5の体積比で混合させることによって得た溶液(処理剤、化合物(1)の物質量:3−アミノプロピルトリメトキシシランの物質量=34:1)を、50μmの内径及び30cmの長さを備えたフューズドシリカ製キャピラリー(Agilent Technology)内に通液し、そのキャピラリーを80℃で2時間加熱して、電気泳動装置用ガラスキャピラリー1を得た。
この電気泳動装置用ガラスキャピラリー1を市販のキャピラリー電気泳動装置(3DCE、HEWLETT PACKARD)に取り付けた。そして、電気泳動装置用ガラスキャピラリー1を備えたキャピラリー電気泳動装置を用いて、50mM、pH=7に調製したリン酸塩緩衝水溶液を泳動溶媒とし、試料としてリゾチーム、アルブミン、γ−グロブリンのキャピラリー電気泳動(泳動溶液に印加した電圧=15kV)を行った。図5は、実施例1におけるキャピラリー電気泳動によって得られた試料の電気泳動図を示す。ここで、図5の横軸は、キャピラリー電気泳動の泳動時間(分)を表し、図5の縦軸は、試料成分の検出信号強度(任意単位)である。なお、検出信号のピークの帰属は、リゾチーム、アルブミン、γ−グロブリンの各々を別個に電気泳動することによって得た電気泳動図に基づいて行った。
電気泳動装置用ガラスキャピラリー1を用いて試料の電気泳動を行った場合には、図5に示すように、中性(pH=7)の泳動溶液を用いても、試料に含まれるタンパク質の全て(リゾチーム、アルブミン、γ−グロブリン)を、高い分離度で分離すると共に10分以内の短い時間で検出することができた。
[実施例2]
(電気泳動装置用ガラスキャピラリー2)
製造例2で製造した化合物(2)のメタノール溶液と3−アミノプロピルトリメトキシシラン(信越化学工業株式会社)(一般式(3)で表される化合物であって、m3=3、X31、X32、X33の全て=CH3O、R1=NH2である化合物)の1重量%)水溶液を90:10の体積比で混合させることによって得た溶液(処理剤、化合物(2)の物質量:3−アミノプロピルトリメトキシシランの物質量=16:1)を、50μmの内径及び30cmの長さを備えたフューズドシリカ製キャピラリー(Agilent Technology)内に通液し、そのキャピラリーを80℃で2時間加熱して、電気泳動装置用ガラスキャピラリー2を得た。
この電気泳動装置用ガラスキャピラリー2を市販のキャピラリー電気泳動装置(3DCE、HEWLETT PACKARD)に取り付けた。そして、電気泳動装置用ガラスキャピラリー2を備えたキャピラリー電気泳動装置を用いて、50mM、pH=7に調製したリン酸塩緩衝水溶液を泳動溶媒とし、試料としてリゾチーム、アルブミン、γ−グロブリンのキャピラリー電気泳動(泳動溶液に印加した電圧=15kV)を行った。図6は、実施例2におけるキャピラリー電気泳動によって得られた試料の電気泳動図を示す。ここで、図6の横軸は、キャピラリー電気泳動の泳動時間(分)を表し、図6の縦軸は、試料成分の検出信号強度(任意単位)である。なお、検出信号のピークの帰属は、リゾチーム、アルブミン、γ−グロブリンの各々を別個に電気泳動することによって得た電気泳動図に基づいて行った。
電気泳動装置用ガラスキャピラリー2を用いて試料の電気泳動を行った場合には、図6に示すように、中性(pH=7)の泳動溶液を用いても、試料に含まれるタンパク質の全て(リゾチーム、アルブミン、γ−グロブリン)を、高い分離度で分離すると共に10分以内の短い時間で検出することができた。
[比較例1]
(PVAコーティングキャピラリー)
市販品である、50μmの内径及び30cmの長さを備えたポリビニルアルコール(PVA)コーティングキャピラリー(Agilent Technology)を市販のキャピラリー電気泳動装置(3DCE、HEWLETT PACKARD)に取り付けた。そして、PVAコーティングキャピラリーを備えたキャピラリー電気泳動装置を用いて、
PVAコーティングキャピラリーの添付規格書を参照して50mM、pH=3に調製したリン酸塩緩衝水溶液を泳動溶媒とし、試料としてリゾチーム、アルブミン、γ−グロブリンのキャピラリー電気泳動(泳動溶液に印加した電圧=15kV)を行った。図7は、比較例1におけるキャピラリー電気泳動によって得られた試料の電気泳動図を示す。ここで、図7の横軸は、キャピラリー電気泳動の泳動時間(分)を表し、図7の縦軸は、試料成分の検出信号強度(任意単位)である。なお、検出信号のピークの帰属は、リゾチーム、アルブミン、γ−グロブリンの各々を別個に電気泳動することによって得た電気泳動図に基づいて行った。
PVAコーティングキャピラリーを用いて試料の電気泳動を行った場合には、酸性(pH=3)の泳動溶液を用いる必要があり、図7に示すように、試料に含まれるタンパク質(リゾチーム、アルブミン、γ−グロブリン)のうちリゾチーム及びアルブミンを分離して検出することができなかった。
[比較例2]
(化合物(2)コーティングキャピラリー)
製造例2で製造した化合物(2)のメタノール溶液のみを、50μmの内径及び30cmの長さを備えたフューズドシリカ製キャピラリー(Agilent Technology)内に通液し、そのキャピラリーを80℃で2時間加熱して、化合物(2)コーティングキャピラリーを得た。
この化合物(2)コーティングキャピラリーを市販のキャピラリー電気泳動装置(3DCE、HEWLETT PACKARD)に取り付けた。そして、化合物(2)コーティングキャピラリーを備えたキャピラリー電気泳動装置を用いて、50mM、pH=7に調製したリン酸塩緩衝水溶液を泳動溶媒とし、試料としてリゾチーム、アルブミン、γ−グロブリンのキャピラリー電気泳動(泳動溶液に印加した電圧=15kV)を行った。図8は、比較例2におけるキャピラリー電気泳動によって得られた試料の電気泳動図を示す。ここで、図8の横軸は、キャピラリー電気泳動の泳動時間(分)を表し、図8の縦軸は、試料成分の検出信号強度(任意単位)である。なお、検出信号のピークの帰属は、リゾチーム、アルブミン、γ−グロブリンの各々を別個に電気泳動することによって得た電気泳動図に基づいて行った。
化合物(2)コーティングキャピラリーを用いて試料の電気泳動を行った場合には、図8に示すように、20分の泳動時間の経過後であっても、試料に含まれるタンパク質(リゾチーム、アルブミン、γ−グロブリン)のうちアルブミンを検出することができなかった。
実施例1及び実施例2の結果から、化合物(1)又は化合物(2)及び3−アミノプロピルトリメトキシシランを含む処理剤で処理した内壁を備えた電気泳動装置用ガラスキャピラリー1又は2においては、試料に含まれるタンパク質(リゾチーム、アルブミン、γ−グロブリン)が電気泳動装置用ガラスキャピラリー1又は2の内壁に吸着することを抑制すると共に泳動溶液に電気浸透流を発生させることによって、試料に含まれる各々のタンパク質を高い分離度で且つ短時間に分離することができるものと考えられる。また、処理剤に含まれる化合物(1)又は化合物(2)及び3−アミノプロピルトリメトキシシランの割合を変化させることによって、泳動溶液に発生する電気浸透流を制御することができ、試料に含まれる各々のタンパク質の泳動時間を制御することができるものと考えられる。
比較例1の結果から、親水性重合体のPVAで処理した内壁を備えたPVAコーティングキャピラリーにおいては、キャピラリーの内壁を被覆するPVAによって、泳動溶液に含まれるリン酸塩のイオンがキャピラリーの内壁付近に引き寄せられることを阻害され、電気浸透流の発生が抑制されると考えられる。その結果、試料に含まれる各タンパク質は、各タンパク質の電気泳動のみによって、分離されることになり、キャピラリーの流路の長さが短い場合には、試料に含まれる各タンパク質の分離度が低下するものと考えられる。また、試料に含まれる各タンパク質を、各タンパク質の電気泳動のみによって分離するために、試料に含まれる全てのタンパク質(リゾチーム、アルブミン、γ−グロブリン)を、正に帯電させる必要があり、分析に用いられる泳動溶液は、酸性の泳動溶液に限定される。
比較例2の結果から、化合物(2)のみで処理した内壁を備えた化合物(2)コーティングキャピラリーにおいては、キャピラリーの内壁を被覆する電気的に中性な化合物(2)によって、泳動溶液に含まれるリン酸塩のイオンがキャピラリーの内壁付近に引き寄せられることを阻害され、電気浸透流の発生が必要以上に抑制されると考えられる。その結果、試料に含まれる各タンパク質は、各タンパク質の電気泳動のみによって、分離されることになり、キャピラリーの流路の長さが短い場合には、試料に含まれる各タンパク質の分離度が低下するものと考えられる。
以上、本発明の実施の形態及び実施例を具体的に説明してきたが、本発明は、これらの実施の形態及び実施例に限定されるものではなく、これら本発明の実施の形態及び実施例を、本発明の主旨及び範囲を逸脱することなく、変更又は変形することができる。