上述の如き操舵アシストによる従来の走行制御装置によれば、車両が横方向に傾斜した走行路を走行する際に、車両に横力が作用することに起因して車両が運転者の意図しない方向(下り方向)へ移動しょうとする場合に、運転者が車両の意図しない移動を抑制するために上り方向へ転舵し保舵するに必要な操舵トルクを低減することはできるが、走行路の傾斜に起因する車体の傾斜を低減することはできない。
また上述の如き操舵アシストによる従来の走行制御装置に於いては、運転者の意図しない横方向への車両の移動を抑制する方向の操舵アシストを行うための操舵アシスト装置が必須であり、また運転者の意図しない横方向への車両の移動が発生しその移動が検出されない限り車両の不必要な横方向への移動を抑制する操舵アシストが行われないため、運転者の意図しない横方向への車両の移動を未然に効果的に抑制することができないという問題がある。
また一般に、操舵アシストにより運転者の操舵フィーリングを最適化しようとすると、ステアリング系の摩擦を考慮する必要がある。しかしステアリング系の摩擦特性はステアリング系の経時変化によって変化すると共に、路面の凹凸やタイヤのノンユニフォーミティに起因して操舵輪側より入力される高周波の外乱によっても変化するため、運転者の意図しない横方向への車両の移動を抑制するために必要な操舵トルク(転舵トルク及び保舵トルク)の低減を安定的に達成することは困難である。
本発明は、操舵アシストによる従来の走行制御装置に於ける上述の如き問題に鑑みてなされたものであり、本発明の主要な課題は、操舵輪と車体との間に作用する上下力を増減させることによって車高を変化させると共にキングピン軸周りのモーメントを発生させ、該モーメントによって運転者の意図しない横方向への車両の移動を抑制する方向へ操舵輪を転舵させることにより、車両が横方向に傾斜した走行路を走行する場合に於ける車体の傾斜を低減すると共に、運転者の意図しない横方向への車両の移動を抑制し、操舵輪の転舵に必要な操舵トルクを低減することである。
〔課題を解決するための手段及び発明の効果〕
上述の主要な課題は、本発明によれば、請求項1の構成、即ち操舵輪である左右の前輪と車体との間に作用する上下力を増減する上下力可変手段と、前記上下力可変手段を制御する制御手段とを有する車両の走行制御装置に於いて、前記上下力可変手段は前記前輪のキングピン軸に対しねじれの位置関係をなす作用線に沿って可変力を作用させることにより前記上下力を増減し、前記前輪と前記車体とを離間させる方向に前記可変力を作用させることにより前記前輪をトーイン方向へ転舵する方向の前記キングピン軸周りのモーメントを発生するよう構成され、前記制御手段は路面の横方向の傾斜角を推定し、前記横方向の傾斜角に基づいて路面の横方向の傾斜に起因する前記車体の横方向の傾斜を低減するよう前記上下力可変手段による前記可変力を制御することを特徴とする車両の走行制御装置によって達成される。
一般に、車両が横方向に傾斜した走行路を走行する場合には、車両には路面傾斜の下り方向の横力が作用するため、車体が路面傾斜の下り方向に傾斜すると共に車両は路面傾斜の下り方向に移動しようとする。そのため車体の傾斜を低減するためには、路面傾斜の下り側の車高を増大させ若しくは路面傾斜の上り側の車高を減少させる必要がある。また車両の不必要な横方向への移動を抑制するためには、操舵輪である前輪を路面傾斜の上り方向へ転舵する必要があり、従って路面傾斜の下り側の前輪をトーイン方向へ転舵し路面傾斜の上り側の前輪をトーアウト方向へ転舵する必要がある。
上記請求項1の構成によれば、路面の横方向の傾斜角が推定され、路面の横方向の傾斜角に基づいて路面の横方向の傾斜に起因する車体の横方向の傾斜を低減するよう上下力可変手段により可変力が制御されるので、路面傾斜の下り側に於いては前輪と車体とを離間させる方向に可変力が作用せしめられることによって車高が増大されると共に前輪をトーイン方向へ転舵する方向のキングピン軸周りのモーメントが発生され、路面傾斜の上り側に於いては前輪と車体とを接近させる方向に可変力が作用せしめられることによって車高が低減されると共に前輪をトーアウト方向へ転舵する方向のキングピン軸周りのモーメントが発生され、従って車体の傾斜を確実に低減することができると共に、左右の前輪を路面傾斜の上り方向へ転舵して運転者の意図しない路面傾斜の下り方向への車両の移動を確実に抑制することができ、また車両の移動を抑制するために前輪を路面傾斜の上り方向へ転舵するに必要な操舵トルクを確実に低減することができる。
また上記請求項1の構成によれば、操舵アシスト装置は必須ではないので、車両に操舵アシスト装置が搭載されているか否かに拘わらず、車体の傾斜を確実に低減することができると共に、運転者の意図しない横方向への車両の移動を抑制するために必要な操舵トルクを確実に低減することができ、また路面の横方向の傾斜角が推定され、路面の横方向の傾斜角に基づいて路面の横方向の傾斜に起因する車体の横方向の傾斜を低減するよう上下力可変手段による可変力が制御され、運転者の意図しない横方向への車両の移動の検出は不要であるので、運転者の意図しない横方向への車両の移動の検出が必須である場合に比して、運転者の意図しない横方向への車両の移動を未然に且つ効果的に抑制することができる。
また本発明によれば、上述の主要な課題を効果的に達成すべく、上記請求項1の構成に於いて、前記上下力可変手段は前記前輪の位置に於いて前記車体のロールを抑制する力を前記可変力として発生するアクティブスタビライザ装置であるよう構成される(請求項2の構成)。
上記請求項2の構成によれば、上下力可変手段は前輪の位置に於いて車体のロールを抑制する力を可変力として発生するアクティブスタビライザ装置であるので、アクティブスタビライザ装置を制御することにより路面傾斜の下り側に於いては前輪と車体とを離間させる方向に可変力を作用させて上下力を増大させると共に、路面傾斜の上り側に於いては前輪と車体とを接近させる方向に可変力を作用させて上下力を低減することができ、これにより車体の傾斜を確実に低減することができると共に、左右の前輪を路面傾斜の上り方向へ転舵して運転者の意図しない横方向への車両の移動を確実に抑制し、前輪の転舵に必要な操舵トルクを確実に低減することができる。
また本発明によれば、上述の主要な課題を効果的に達成すべく、上記請求項1の構成に於いて、前記上下力可変手段は前記前輪とそれより上方の車体部分との間に配設され前記前輪の車体支持荷重を増減する力を前記可変力として発生するアクティブサスペンション装置であるよう構成される(請求項3の構成)。
上記請求項3の構成によれば、上下力可変手段は前輪とそれより上方の車体部分との間に配設され前輪の車体支持荷重を増減する力を可変力として発生するアクティブサスペンション装置であるので、路面傾斜の下り側に於いては前輪と車体とを離間させる方向に可変力を作用させて上下力を増大させると共に、路面傾斜の上り側に於いては前輪と車体とを接近させる方向に可変力を作用させて上下力を低減するよう左右のアクティブサスペンション装置を個別に制御することができ、これにより車体の傾斜を確実に低減することができると共に、左右の前輪を路面傾斜の上り方向へ転舵して運転者の意図しない横方向への車両の移動を確実に抑制し、前輪の転舵に必要な操舵トルクを確実に低減することができる。
また本発明によれば、上記請求項1の構成に於いて、前記上下力可変手段は前記前輪の位置に於いて前記車体のロールを抑制する力を前記可変力として発生するアクティブスタビライザ装置と、前記前輪とそれより上方の車体部分との間に配設され前記前輪の車体支持荷重を増減する力を前記可変力として発生するアクティブサスペンション装置とを含んでいるよう構成される(請求項4の構成)。
上記請求項4の構成によれば、上下力可変手段はアクティブスタビライザ装置とアクティブサスペンション装置とを含んでいるので、アクティブスタビライザ装置及びアクティブサスペンション装置の両者を制御することにより路面傾斜の下り側に於いては前輪と車体とを離間させる方向に可変力を作用させて上下力を増大させると共に、路面傾斜の上り側に於いては前輪と車体とを接近させる方向に可変力を作用させて上下力を低減することができ、これにより車体の傾斜を確実に低減することができると共に、運転者の意図しない横方向への車両の移動を確実に抑制し、それに必要な操舵トルクを確実に低減することができ、また上下力可変手段としてアクティブスタビライザ装置及びアクティブサスペンション装置の一方しか設けられていない場合に比して、アクティブスタビライザ装置及びアクティブサスペンション装置の可変力の増減負荷を低減することができる。
また本発明によれば、上記請求項1乃至4の何れかの構成に於いて、車輌は後輪舵角可変手段を有し、前記制御手段は前記可変力の制御に伴う前記前輪の転舵方向とは左右逆方向へ後輪を転舵するよう前記後輪舵角可変手段を制御するよう構成される(請求項5の構成)。
上述の請求項1乃至4の構成の場合には、可変力の制御により前輪が路面傾斜の上り方向へ転舵されるので、その前輪の転舵に伴い車両が路面傾斜の上り方向へ旋回する方向へステアリングホイールが不必要に回転されることが避けられず、この点は上述の特許文献1に記載された走行制御装置の場合も同様である。
上記請求項5の構成によれば、可変力の制御に伴う前輪の転舵方向とは左右逆方向へ後輪が転舵されるので、後輪により運転者の意図しない横方向への車両の移動を抑制する横力を発生させることができ、従って運転者が可変力の制御による前輪の転舵に伴うステアリングホイールの不必要な回転をキャンセルするよう、即ちステアリングホイールの回転位置が運転者が希望する車両の進行方向と一致するようステアリングホイールを回転操作しても、運転者の意図しない横方向への車両の移動を確実に抑制することができ、これにより運転者が車両の進行方向とステアリングホイールの回転位置との不一致に起因して感じる違和感を確実に低減することができる。
また本発明によれば、上記請求項5の構成に於いて、前記後輪舵角可変手段による後輪の転舵量は前記横方向の傾斜角に基づいて制御されるよう構成される(請求項6の構成)。
上記請求項6の構成によれば、後輪舵角可変手段による後輪の転舵量は路面の横方向の傾斜角に基づいて制御されるので、後輪の転舵量が上下力可変手段の制御量や可変力の増減変化量に基づいて制御される場合に比して、後輪の転舵量の制御を簡便に行うことができる。
〔課題解決手段の好ましい態様〕
図19に示されている如く、一般に、前輪100は車輪支持部材102により回転軸線104の周りに回転可能に支持され、車輪支持部材102がキングピン軸106の周りに枢動することにより前輪100は転舵される。車輪支持部材102は図19には示されていないサスペンションアームを介して車体108より懸架され、車輪支持部材102又はこれに連結された部材と車体108との間にサスペンションスプリング110が弾装されている。
上下力可変手段112が上端にて車体108に対し力を及ぼし、下端にて前輪100と共にキングピン軸106の周りに枢動可能な部材(例えば車輪支持部材102)に対し力を及ぼし、これにより作用線114に沿って可変力Fを発生するとする。可変力Fはサスペンションスプリング110のばね力と共働して車体108の重量を支持するので、可変力Fが変化すると前輪100と車体108との上下方向の距離、即ち前輪100の位置に於ける車高が増減する。
車両が横方向に傾斜した走行路を走行する場合に於ける車体108の傾斜を低減するためには、可変力Fが路面傾斜の下り側に於いては前輪100と車体108とを離間させる方向の力として発生されることにより車高が増大され、路面傾斜の上り側に於いては前輪100と車体108とを接近させる方向の力として発生されることにより車高が低減されればよい。
また作用線114はキングピン軸106に対しねじれの関係をなすので、可変力Fはキングピン軸106の周りのモーメントMを発生し、該モーメントMは前輪100と共にキングピン軸106の周りに枢動可能な部材を枢動させようとする作用をなす。作用線114とキングピン軸106とのなす角度をαkとし、作用線114とキングピン軸106との間の最短距離をLminとすると、モーメントMは下記の式1にて表される。
M=F・sinαk・Lmin …(1)
角度αkが小さい値であるときには、sinαkはαkと等しいとみなしてよいので、上記式1を下記の式2の通り変形することができ、よって角度αkと最短距離Lminとの積を可変力Fのモーメントアーム長と定義すれば、モーメントMは下記の式2の通り可変力Fとモーメントアーム長との積となる。
M=F・αk・Lmin …(2)
またキングピン軸106の周りの前輪100のトートン方向Dの回転で見て、上下力可変手段112の車体側がトートン方向の回転の進み側に位置し、上下力可変手段112の車輪側がトートン方向の回転の遅れ側に位置すれば、可変力Fが前輪100と車体108とを離間させる方向の力(圧縮応力)であるときのモーメントMはトーイン方向のモーメントになり、逆に可変力Fが前輪100と車体108とを接近させる方向の力(引張り応力)であるときのモーメントMはトーアウト方向のモーメントになり、よって運転者の意図しない下り方向への車両の移動を抑制することができると共にその移動の抑制に必要な操舵トルクを低減することができる。
尚、上下力可変手段がアクティブスタビライザ装置である場合の如く、可変力Fが引張り応力であるときに前輪100と車体108とを離間させる方向の力となり、可変力Fが圧縮応力であるときに前輪100と車体108とを接近させる方向の力となるよう上下力可変手段が構成される場合には、上下力可変手段の車体側がトートン方向の回転の進み側に位置し、上下力可変手段の車輪側がトートン方向の回転の遅れ側に位置すれば、可変力Fが前輪と車体とを離間させる方向の力(引張り応力)であるときのモーメントMはトーイン方向のモーメントになり、逆に可変力Fが前輪と車体とを接近させる方向の力(圧縮応力)であるときのモーメントMはトーアウト方向のモーメントになる。
従って本発明の一つの好ましい態様によれば、上記請求項1乃至6の何れかの構成に於いて、上下力可変手段は前輪と共にキングピン軸の周りに枢動可能な部材と車体との間にて作用線に沿う力を発生することにより可変力を作用させるよう構成される(好ましい態様1)。
また本発明の他の一つの好ましい態様によれば、上記請求項1乃至6の何れか又は上記好ましい態様1の構成に於いて、上下力可変手段は前輪と車体とを離間させる方向の力として圧縮応力を発生すると共に前輪と車体とを接近させる方向の力として引張り応力を発生するよう構成され、キングピン軸の周りの前輪のトートン方向の回転で見て、上下力可変手段の作用線の車体側はその車輪側に対し回転方向遅れ側に位置するよう構成される(好ましい態様2)。
また本発明の他の一つの好ましい態様によれば、上記請求項1乃至6の何れか又は上記好ましい態様1の構成に於いて、上下力可変手段は前輪と車体とを離間させる方向の力として引張り応力を発生すると共に前輪と車体とを接近させる方向の力として圧縮応力を発生するよう構成され、キングピン軸の周りの前輪のトートン方向の回転で見て、上下力可変手段の作用線の車体側はその車輪側に対し回転方向進み側に位置するよう構成される(好ましい態様3)。
また本発明の他の一つの好ましい態様によれば、上記請求項1乃至6の何れか又は上記好ましい態様1乃至3の何れかの構成に於いて、制御手段は路面傾斜の下り側に於いては可変力が前輪と車体とを離間させる方向の力として発生され、路面傾斜の上り側に於いては可変力が前輪と車体とを接近させる方向の力として発生されるよう、上下力可変手段による可変力を制御するよう構成される(好ましい態様4)。
本発明の他の一つの好ましい態様によれば、上記請求項1乃至6の何れか又は上記好ましい態様1乃至4の何れかの構成に於いて、制御手段は車速及び車両のヨーレートに基づく車両の推定横加速度と車両の実際の横加速度との偏差に基づいて路面の横方向の傾斜角を推定するよう構成される(好ましい態様5)。
本発明の他の一つの好ましい態様によれば、上記請求項1乃至6の何れか又は上記好ましい態様1乃至4の何れかの構成に於いて、制御手段は車両の実際のヨーレートと車速及び車両の横加速度に基づく車両の推定ヨーレートとの偏差に基づいて路面の横方向の傾斜角を推定するよう構成される(好ましい態様6)。
本発明の他の一つの好ましい態様によれば、上記請求項2又は請求項4乃至6の何れか又は上記好ましい態様1乃至6の何れかの構成に於いて、アクティブスタビライザ装置は二分割のスタビライザと該スタビライザのトーションバーを相対回転させるアクチュエータと、一端にて各スタビライザの先端に枢着され、他端にて前輪と共にキングピン軸の周りに枢動可能な部材に枢着され一対の連結部材とを有し、連結部材の一端及び他端の枢着部が作用線を郭定しているよう構成される(好ましい態様7)。
本発明の他の一つの好ましい態様によれば、上記好ましい態様7の構成に於いて、連結部材の一端はその他端に対し下方に位置し、キングピン軸の周りの前輪のトートン方向の回転で見て、連結部材の一端はその他端に対し回転方向進み側に位置するよう構成される(好ましい態様8)。
本発明の他の一つの好ましい態様によれば、上記請求項3乃至6の何れか又は上記好ましい態様1乃至6の何れかの構成に於いて、アクティブサスペンション装置は上端にて車体に枢着され下端にて前輪と共にキングピン軸の周りに枢動可能な部材に連結された軸力発生装置を有し、軸力発生装置が作用線を郭定しているよう構成される(好ましい態様9)。
本発明の他の一つの好ましい態様によれば、上記好ましい態様9の構成に於いて、軸力発生装置の上端はその下端に対し上方に位置し、キングピン軸の周りの前輪のトートン方向の回転で見て、軸力発生装置の上端はその下端に対し回転方向遅れ側に位置するよう構成される(好ましい態様10)。
また図20に示されている如く、路面116の横方向の傾斜角(路面カント)をβとし、路面116の横方向の傾斜に起因する車体108の傾斜角をβsとし、図20には示されていない上下力可変手段の可変力による左前輪100L及び右前輪100Rに於ける対地車高変化量をDiとする。また車両の重心と前輪車軸及び後輪車軸との間の車両前後方向の距離をそれぞれLf及びLrとし、前輪及び後輪の接地荷重をそれぞれWf及びWrとし、前輪及び後輪の正規化コーナリングパワーをそれぞれCf及びCrとし、操舵輪である前輪のキャスタートレール及びニューマチックトレールをそれぞれLcp及びLpとし、車両のトレッドを2Lwとする。
また図21に示されている如く、後輪118の舵角(トー角)の制御が可能であるとして後輪の舵角をθwrとし、上下力可変手段の可変力による前輪のキングピン軸周りのモーメントをMkpとする。更に車体のスリップ角をαとし、前輪の実舵角をθwfとし、前輪のキングピン軸周りの保舵トルク(運転者の保舵トルクとステアリングギヤ比との積)をMtとすると、車両の前後軸周り、車両の上下軸周り、キングピン軸周りのモーメントの釣り合いより下記の式3乃至5が成立し、また車両の前後軸周りの変位の関係から下記の式6が成立する。
また図22に示されている如く、上下力可変手段として前輪側にアクティブスタビライザ装置120とアクティブサスペンション装置122が設けられ、前輪のサスペンションスプリングと後輪のサスペンションスプリングと後輪のスタビライザとよりなる等価なばね124のばね定数をKcとし、前輪のストロークに対するばね定数に換算した場合のアクティブスタビライザ装置120のばね定数をKsとし、前輪のストロークに換算した場合のアクティブスタビライザ装置120及びアクティブサスペンション装置122の制御量をそれぞれDs、Diとし、車体108と前輪100とを離間させる方向を正としてアクティブサスペンション装置122が発生する可変力をFaとする。
また図には示されていないが、アクティブスタビライザ装置120が発生する可変力の作用線と前輪のキングピン軸とのなす角度αsと、アクティブスタビライザ装置120が発生する可変力の作用線とキングピン軸との間の最短距離Lsとの積αsLsをアクティブスタビライザ装置120が発生する可変力によるキングピン軸周りのモーメントのアーム長εsとし、アクティブサスペンション装置122が発生する可変力の作用線と前輪のキングピン軸とのなす角度αaと、アクティブサスペンション装置122が発生する可変力の作用線とキングピン軸との間の最短距離Laとの積αaLaをアクティブサスペンション装置122が発生する可変力によるキングピン軸周りのモーメントのアーム長εaとすると、車両の上下方向の力の釣り合い及びキングピン軸周りのモーメントの釣り合いよりそれぞれ下記の式7及び8が成立する。
尚角度αs及びαaはそれぞれ対応する作用線を最短距離の線に沿ってキングピン軸まで並行移動させたときの作用線とキングピン軸との交差角である。またモーメントのアーム長εs及びεaは前輪のバウンド、リバウンドに応じて変化するが、その変化量は一般に小さいので、モーメントのアーム長εs及びεaは前輪がバウンド、リバウンド方向の中立位置にあるときの値とする。
(1)上下力可変手段がアクティブスタビライザ装置のみよりなり、後輪の舵角が制御されない場合
上下力可変手段がアクティブスタビライザ装置のみよりなり、後輪の舵角が制御されない場合には、上記式1乃至6に於いて後輪の舵角θwr及びアクティブサスペンション装置が発生する上下力Faがそれぞれ0であるので、車体の傾斜角βsを0にすると共に保舵トルクMtを0にするためには、上記式3乃至6より下記の式9及び10が成立すればよく、また上記式7及び8より下記の式11及び12が成立すればよいことが解る。
上記式9乃至12より下記の式13及び14が成立し、よってアクティブスタビライザ装置120が発生する可変力によるモーメントのアーム長εsが下記の式13にて表される値に設定され、アクティブスタビライザ装置の制御量Dsが下記の式14にて表される値に制御されれば、車両が横方向に傾斜した路面を走行する際の車体の傾斜角βsを0にすることができ、また路面傾斜に起因する運転者の意図しない下り方向への車両の移動を防止することができると共に、その移動防止に必要な運転者の操舵トルクを0にすることができる。
(2)上下力可変手段がアクティブスタビライザ装置とアクティブサスペンション装置とよりなり、後輪の舵角が制御されない場合
上下力可変手段がアクティブスタビライザ装置とアクティブサスペンション装置とよりなり、後輪の舵角が制御されない場合には、上記式3乃至8に於いて後輪の舵角θwrが0であるので、車体の傾斜角βsを0にすると共に保舵トルクMtを0にするためには、上記式3乃至6より下記の式15及び16が成立すればよく、また上記式7及び8より下記の式17が成立すればよいことが解る。
上記式15乃至17より下記の式18が成立し、よってアクティブスタビライザ装置の制御量Ds及びアクティブサスペンション装置が発生する可変力Faが下記の式18にて表される値に制御されれば、車両が横方向に傾斜した路面を走行する際の車体の傾斜角βsを0にすることができ、また路面傾斜に起因する運転者の意図しない下り方向への車両の移動を防止することができると共に、その移動防止に必要な運転者の操舵トルクを0にすることができる。
(3)上下力可変手段がアクティブスタビライザ装置とアクティブサスペンション装置とよりなり、後輪の舵角が制御される場合
上下力可変手段がアクティブスタビライザ装置とアクティブサスペンション装置とよりなり、後輪の舵角が制御される場合に於いて、車体の傾斜角βs及び保舵トルクMtを0にすると共に車両の走行方向と操舵角θとのずれを0にするためには、上記式3乃至6及びβs=Mt=θ=0より下記の式19及び上記式15、16が成立し、また上記式7及び8より上記式17が成立すればよいことが解る。
上記式13乃至15より下記の式16が成立し、よってアクティブスタビライザ装置の制御量Ds及びアクティブサスペンション装置が発生する可変力Faが下記の式18にて表される値に制御されれば、車両が横方向に傾斜した路面を走行する際の車体の傾斜角βsを0にすることができ、また路面傾斜に起因する運転者の意図しない下り方向への車両の移動を防止することができると共に、その移動防止に必要な運転者の操舵トルクを0にすることができ、また後輪の舵角θwrが上記式19にて表される値に制御されれば、車両の走行方向と操舵角θとのずれをなくすことができる。
(4)上下力可変手段がアクティブスタビライザ装置のみよりなり、後輪の舵角が制御される場合
上下力可変手段がアクティブスタビライザ装置のみよりなり、後輪の舵角が制御される場合には、上記式17に於いてアクティブサスペンション装置が発生する可変力Faが0であるので、アクティブスタビライザ装置の制御量Dsが下記の式20にて表される値に制御されれば、車両が横方向に傾斜した路面を走行する際の車体の傾斜角βsを0にすることができ、また路面傾斜に起因する運転者の意図しない下り方向への車両の移動を防止することができると共に、その移動防止に必要な運転者の操舵トルクを0にすることができ、また後輪の舵角θwrが上記式19にて表される値に制御されれば、車両の走行方向と操舵角θとのずれをなくすことができる。
従って本発明の他の一つの好ましい態様によれば、上記請求項2の構成に於いて、上下力可変手段はアクティブスタビライザ装置であり、後輪舵角可変手段は設けられておらず、路面の横方向の傾斜角をβとし、前輪のサスペンションスプリングと後輪のサスペンションスプリングと後輪のスタビライザとよりなる等価なばねのばね定数をKcとし、前輪のストロークに対するばね定数に換算した場合のアクティブスタビライザ装置のばね定数をKsとし、車両のトレッドを2Lwとして、アクティブスタビライザ装置は前輪のストロークに換算した場合のアクティブスタビライザ装置の制御量Dsが上記14にて表される値になるよう制御されるよう構成される(好ましい態様11)。
本発明の他の一つの好ましい態様によれば、上記好ましい態様11の構成に於いて、前輪の接地荷重をWfとし、前輪のキャスタートレール及びニューマチックトレールをそれぞれLcp及びLpとして、アクティブスタビライザ装置が発生する可変力によるモーメントのアーム長εsが上記13にて表される値であるよう、前輪のキングピン軸に対するアクティブサスペンション装置が発生する可変力の作用線の関係が設定されているよう構成される(好ましい態様12)。
本発明の他の一つの好ましい態様によれば、上記請求項4の構成に於いて、上下力可変手段はアクティブスタビライザ装置とアクティブサスペンション装置とを含み、後輪舵角可変手段は設けられておらず、路面の横方向の傾斜角をβとし、前輪のサスペンションスプリングと後輪のサスペンションスプリングと後輪のスタビライザとよりなる等価なばねのばね定数をKcとし、前輪のストロークに対するばね定数に換算した場合のアクティブスタビライザ装置のばね定数をKsとし、車両のトレッドを2Lwとし、前輪の接地荷重をWfとし、前輪のキャスタートレール及びニューマチックトレールをそれぞれLcp及びLpとし、アクティブスタビライザ装置が発生する可変力によるモーメントのアーム長をεsとし、アクティブサスペンション装置が発生する可変力によるモーメントのアーム長をεaとして、アクティブスタビライザ装置及びアクティブサスペンション装置は前輪のストロークに換算した場合のアクティブスタビライザ装置の制御量Dsが上記18にて表される値になり且つアクティブサスペンション装置が発生する可変力Faが上記18にて表される値になるよう制御されるよう構成される(好ましい態様13)。
本発明の他の一つの好ましい態様によれば、上記請求項6の構成に於いて、路面の横方向の傾斜角をβとし、前輪及び後輪の正規化コーナリングパワーをそれぞれCf及びCrとして、後輪舵角可変手段は後輪の舵角θwrが上記19にて表される値になるよう制御されるよう構成される(好ましい態様14)。
以下に添付の図を参照しつつ、本発明を幾つかの好ましい実施例について詳細に説明する。
[第一の実施例]
図1は本発明による車両の走行制御装置の第一の実施例を示す概略構成図、図2及び図3はそれぞれ右前輪について第一の実施例の要部をスケルトン図として示す解図的側面図及び解図的背面図である。
図1に於いて、第一の実施例の走行制御装置10は車両12に搭載されている。車両12は操舵輪である右前輪14FR及び左前輪14FLと、非操舵輪である右後輪14RR及び左後輪14RLとを有している。図1に示されている如く、左右の前輪14FL及び14FRは運転者によるステアリングホイール16の操作に応答して駆動されるラック・アンド・ピニオン型のステアリング装置18によりラックバー20及びタイロッド22L及び22Rを介して転舵される。
走行制御装置10は左右の前輪14FL及び14FRの間に配設されたアクティブスタビライザ装置24を含み、左右の後輪14RL及び14RRの間には通常のスタビライザ26が配設されている。アクティブスタビライザ装置24はアンチロールモーメントを増減するロール剛性可変手段として機能すると共に、必要に応じて左右の前輪14FL及び14FRと車体28との間に作用する上下方向の可変力(スタビライザ力)を左右逆相にて発生することにより前輪と車体との間に作用する上下力を増減する上下力可変手段として機能する。
図示の第一の実施例に於いては、図2及び図3に示されている如く、前輪14FL及び14FRはストラット式のサスペンション30により懸架されている。サスペンション30は右前輪14FRを回転軸線32の周りに回転可能に支持する車輪支持部材34を含み、車輪支持部材34の上端にはストラット36の下端が剛固に連結されている。ストラット36はショックアブソーバ38とコイルスプリング40とを含む周知の構成を有し、上端にてゴムブッシュを含むアッパサポート42により車体28に連結されている。
車輪支持部材34の下端にはボールジョイント44によりサスペンションアーム46の外端が枢着されている。図示の実施例に於いては、サスペンションアーム46はA型アームであり、二つの内端はゴムブッシュを含むジョイント48及び50により車体28に連結されている。アッパサポート42の中心P及びボールジョイント44の中心Qはキングピン軸52を郭定しており、キングピン軸52は右前輪14FRの路面54との接地点Rよりも車両前方側に位置する交点Sに於いて路面54と交差している。
車輪支持部材34には車両後方へ延在するナックルアーム56が一体的に設けられており、ナックルアーム56の先端にはボールジョイント58によりステアリング装置18のタイロッド22R(22L)の外端が連結されている。タイロッド22R(22L)の内端はボールジョイント60によりラックバー20の先端に連結されている。周知の如く、運転者によりステアリングホイール16が回転操作されると、ラックバー20及びタイロッド22L、22Rが車両横方向へ移動され、ナックルアーム56がキングピン軸52の周りに枢動することにより前輪14FL及び14FRがキングピン軸52の周りに回転し、前輪の舵角が変化する。
アクティブスタビライザ装置24は車輌の横方向に延在する軸線に沿って互いに同軸に整合して延在する一対のトーションバー部分24TL及び24TRと、それぞれトーションバー部分24TL及び24TRの外端に一体に接続され車両前方へ延在する一対のアーム部24AL及び24ARとを有している。トーションバー部分24TL及び24TRはそれぞれ図には示されていないブラケットを介して車体28により自らの軸線の周りに回転可能に支持されている。
アーム部24AL及び24ARの先端にはそれぞれボールジョイント62により連結リンク64の下端が枢着され、連結リンク64の上端はそれぞれボールジョイント66によりストラット36のショックアブソーバ38のシリンダに枢着されている。ボールジョイント62の中心及びボールジョイント66の中心はアクティブスタビライザ装置16が発生する可変力(スタビライザ力)の作用線68を郭定している。周知の如く、ショックアブソーバ38は油圧式であるので、車輪のバウンド及びリバウンドの速度に応じた減衰力を発生する。
図2乃至図4に示されている如く、作用線68はキングピン軸52に対し「ねじれ」の位置関係、即ち平行でもなく交差もしない位置関係をなしている。ボールジョイント62はキングピン軸52の周りの右前輪14FRのトーイン方向の回転について見てボールジョイント66よりも回転方向進み側に位置し、これにより作用線68の下方部は作用線68の上方部よりも上記回転方向進み側に位置している。
従って図4(B)に示されている如く、アクティブスタビライザ装置24による可変力Fxが作用線68に沿って右前輪14FRと車体28とを離間させる方向に、即ち下向きに作用すると、右前輪14FRをトーイン方向へ転舵するキングピン軸52の周りのモーメントMxinが発生する。逆に図4(C)に示されている如く、可変力Fxが作用線68に沿って右前輪14FRと車体28とを近付ける方向に、即ち上向きに作用すると、右前輪14FRをトーアウト方向へ転舵するキングピン軸52の周りのモーメントMxoutが発生する。特に図示の実施例に於いては、作用線68及びキングピン軸52はアクティブスタビライザ装置24が発生する可変力によるモーメントのアーム長εsが前述の式13にて表される値になるような位置関係に設定されている。尚左前輪14FLの側も右前輪14FRの側と同様に構成されている。
アクティブスタビライザ装置24はトーションバー部分24TL及び24TRの間にアクチュエータ70を有している。アクチュエータ70は電動機及び減速機構を内蔵し、必要に応じて一対のトーションバー部分24TL及び24TRを相対的に回転駆動することにより、左右前輪の位置に於いて車輌に付与されるアンチロールモーメントを増減し、前輪側の車輌のロール剛性を可変すると共に、作用線68に沿って左右の前輪14FL及び14FRと車体28との間に作用する可変力を増減する。
後輪側のスタビライザ26は車輌の横方向に延在する一つのトーションバー部分26Tと、それぞれトーションバー部分26Tの両端に一体に接続され車両後方へ延在する一対のアーム部26AL及び26ARとを有し、アーム部26AL及び26ARの先端にてそれぞれ左右の後輪14RL及び14RRの車輪支持部材又はサスペンション部材に連結されている。トーションバー部分26Tは図には示されていないブラケットを介して車体28により自らの軸線の周りに回転可能に支持されているが、アクティブスタビライザ装置24のアクチュエータ70に対応するアクチュエータは設けられていない。
アクティブスタビライザ装置24のアクチュエータ70は電子制御装置74によって電動機に対する駆動電流Ixが制御されることにより制御される。尚図1には詳細に示されていないが、電子制御装置74は、互いに接続されたCPU、CPUが実行するプログラム及びマップ(ルックアップテーブル)等を予め記憶したROM、CPUが必要に応じてデータを一時的に格納するRAM、電源が投入された状態でデータを格納するとともに同格納されたデータを電源が遮断されている間も保持するバックアップRAM、及びADコンバータを含むインターフェース等からなるマイクロコンピュータである。
電子制御装置74には横加速度センサ76により検出された車輌の横加速度Gyを示す信号、ヨーレートセンサ78により検出された車両のヨーレートγを示す信号、車速センサ80により検出された車速Vを示す信号、操舵角センサ82により検出された操舵角θを示す信号、回転角度センサ84により検出されたアクチュエータ70の実際の回転角度φを示す信号が入力される。尚横加速度センサ76、ヨーレートセンサ78、操舵角センサ82はそれぞれ車輌の左旋回時又は左旋回方向への操舵の場合を正として横加速度Gy、ヨーレートγ、操舵角θを検出し、回転角度センサ84は車輌の左旋回時の車体のロールを低減する方向を正としてアクチュエータ70の回転角度を検出する。
電子制御装置74は図5に示されたフローチャートに従って路面の横方向の傾斜角βを推定し、路面の横方向の傾斜角βの大きさが小さいときには、アクティブスタビライザ装置24の制御による車両のロール剛性の制御を行い、路面の横方向の傾斜角βの大きさが大きいときには、アクティブスタビライザ装置24により発生される可変力を制御することにより、路面傾斜に起因する下り方向への車体の傾斜を0にし、また路面傾斜に起因する運転者の意図しない下り方向への車両の移動を防止すると共に、その移動防止に必要な運転者の操舵トルクを0に低減する。
次に図5に示されたフローチャートを参照して第一の実施例に於けるアクティブスタビライザ装置により発生される可変力の制御ルーチンについて説明する。尚図4に示されたフローチャートによる制御は図には示されていないイグニッションスイッチの閉成により開始され、所定の時間毎に繰返し実行される。
まずステップ510に於いては横加速度センサ76により検出された車輌の横加速度Gyを示す信号等の読み込みが行われ、ステップ520に於いては車両のヨーレートγ及び車速Vに基づき図6に示されたグラフに対応するマップより又は車両のヨーレートγと車速Vとの積として車両の推定横加速度Gyhが演算され、ステップ530に於いてはgを重力加速度として下記の式21に従って路面の横方向の傾斜角βが演算される。
β=(Gyh−Gy)/g ……(21)
ステップ540に於いては路面の横方向の傾斜角βの絶対値が基準値βo(正の定数)以上であるか否かの判別、即ち路面の横方向の傾斜に基づく可変力の制御が必要であるか否かの判別が行われ、肯定判別が行われたときにはステップ580へ進み、否定判別が行われたときにはステップ550へ進む。
ステップ550に於いてはアクティブスタビライザ装置24の通常制御、即ち旋回時等に於ける車体のロールを抑制するための車両のロール剛性の制御が行われる。尚アクティブスタビライザ装置24による車両のロール剛性の制御は本発明の要旨をなすものではなく、当技術分野に於いて公知の任意の要領にて行われてよい。
例えば少なくとも車輌の横加速度Gyに基づき車輌に作用するロールモーメントが推定され、ロールモーメントの大きさが基準値以上であるときには、ロールモーメントを打ち消す方向のアンチロールモーメントが増大するよう車輌の目標アンチロールモーメントMatが演算される。そして目標アンチロールモーメントMatに基づきアクティブスタビライザ装置24のアクチュエータ70の目標回転角度φtが演算され、アクチュエータ70の回転角度φが目標回転角度φtになるよう制御され、これにより旋回時等に於ける車体のロールが低減される。
ステップ580に於いては路面の横方向の傾斜角βに基づき上述の式14に従って制御量Dsが演算されると共に、制御量Dsに基づいてアクティブスタビライザ装置24のアクチュエータ70の目標回転角度φtが演算され、ステップ600に於いてはアクチュエータ70の回転角度φが目標回転角度φtになるようアクティブスタビライザ装置24が制御される。
かくして第一の実施例によれば、車両が横方向に傾斜した路面を走行する際の車体28の傾斜角βsを0にして車体を水平状態に維持することができ、また路面傾斜に起因する運転者の意図しない下り方向への車両の移動を防止して車両を運転者の意図する方向へ走行させることができ、更には運転者の意図しない下り方向への車両の移動を防止するに必要な運転者の操舵トルクを0に低減することができる。
例えば図16に示されている如く、例えば車輌12が右下がりに傾斜した路面116を走行する場合には、車体12に作用する重力の路面116に平行な成分、即ち下り方向の横力Fsに起因して車体は右側へ傾斜するので、右前輪14FRはリバウンドし左前輪14FLはバウンドした状態になる。第一の実施例によれば、上述の如く路面の傾斜角βに応じてアクティブスタビライザ装置24が制御されることにより、右前輪14FRと車体28とを離間させる可変力が付与されると共に、左前輪14FLと車体28とを接近させる可変力が付与されるので、図16に於いて破線にて示されている如く、車体28の傾斜を低減し車体を水平状態に維持することができる。
また図17に示されている如く、例えば車輌12が右下がりに傾斜した路面118を走行する場合には、車輌12には路面118の下り方向の横力Fsが作用するので、ステアリングホイール16及び前輪14FL、14FRが車輌の直進位置にあっても、車輌12は図17(A)に於いて仮想線の矢印にて示されている如く前進しながら路面116の下り方向、即ち右方向へ移動する。
第一の実施例によれば、上述の如くアクティブスタビライザ装置24により右前輪14FRと車体28とを離間させる可変力が付与され、その可変力により右前輪14FRをトーイン方向へ転舵するモーメントが発生され、またアクティブスタビライザ装置24により左前輪14FLと車体28とを接近させる可変力が付与され、その可変力により左前輪14FLをトーアウト方向へ転舵するモーメントが発生される。
従って図17(B)に示されている如く、右前輪14FR及び左前輪14FLは左旋回方向へ転舵され、重力による路面116の下り方向の横力Fsに対抗する路面116の上り方向の横力Ffが左右の前輪によって発生されるので、車輌12が路面116の下り方向へ移動することを防止し、路面118の長手方向に沿って車輌12を直進走行させることができ、また運転者が右前輪14FR及び左前輪14FLを左旋回方向へ転舵するようステアリングホイール16を操舵し保舵する必要もない。
尚この場合右前輪14FR及び左前輪14FLの転舵に伴ってステアリングホイール16が図17(B)に示されている如く左旋回方向へ自動的に回転されるので、運転者は路面116に横方向の傾斜があるにも拘らず車体28が水平状態を維持し車輌12が直進するのは、アクティブスタビライザ装置24の制御によるものであることを認識することができる。
特に第一の実施例によれば、作用線68及びキングピン軸52はアクティブスタビライザ装置24が発生する可変力によるモーメントのアーム長εsが前述の式13にて表される値になるような位置関係に設定されているので、車輌が横方向に傾斜した路面を走行する際に於ける車体28の傾斜角βsを正確に0にして車体を完全に水平の状態に維持することができ、また路面傾斜に起因する運転者の意図しない下り方向への車両の移動を防止すると共に、その移動防止に必要な運転者の操舵トルクを確実に0に低減することができる。尚このことは後述の第四の実施例についても同様である。
また第一の実施例によれば、左右の前輪と車体との間に作用する上下力を増減する上下力可変手段はアクティブスタビライザ装置24のみであるので、上下力可変手段として電磁ショックアブソーバも使用される後述の第二及び第三の実施例の場合に比して、走行制御装置の構造及び制御を簡単なものにすることができる。
[第二の実施例]
図7は本発明による車両の走行制御装置の第二の実施例を示す概略構成図、図8及び図9はそれぞれ右前輪について第二の実施例の要部をスケルトン図として示す解図的側面図及び解図的背面図である。尚図7乃至図9に於いて図1乃至図3に示された部材と同一の部材には図1乃至図3に於いて付された符号と同一の符号が付されている。
この第二の実施例に於いては、サスペンション30は第一の実施例に於ける油圧式ショックアブソーバ38の代わりに軸力発生手段としての電磁式ショックアブソーバ88を有している。図には示されていないが、電磁式ショックアブソーバ88は電動機と減速機構と回転-直線運動変換機構とを含み、電動機の回転トルクが回転-直線運動変換機構によってショックアブソーバ88の軸線90に沿う軸力に変換され、これにより軸線90に沿って右前輪14FR及び左前輪14FLと車体28との間に作用する可変力を増減し、これによりサスペンション30等と共働して前輪14FR及び14FLとそれより上方の車体部分との間に配設され前輪の車体支持荷重を増減する可変力を作用線としての軸線90に沿って発生するアクティブサスペンション装置として機能する。
図8乃至図10に示されている如く、軸線90はキングピン軸52に対し車両の前方側に位置し且つキングピン軸52に対し「ねじれ」の位置関係をなしている。軸線90は交点Tにて前輪の回転軸線32と交差し、アッパサポート42の中心Uはキングピン軸52の周りの右前輪14FRのトーイン方向の回転について見て交点Tよりも回転方向遅れ側に位置し、これにより軸線90の上方部は軸線90の下方部よりも上記回転方向遅れ側に位置している。尚軸線90は前輪の回転軸線32と交差していなくてもよい。
従って図10(B)に示されている如く、ショックアブソーバ88による可変力Fyが軸線90に沿って右前輪14FRと車体28とを離間させる方向に、即ち上向きに作用すると、右前輪14FRをトーイン方向へ転舵するキングピン軸52の周りのモーメントMyinが発生する。逆に図10(C)に示されている如く、可変力Fyが軸線90に沿って右前輪14FRと車体28とを近付ける方向に、即ち下向きに作用すると、右前輪14FRをトーアウト方向へ転舵するキングピン軸52の周りのモーメントMyoutが発生する。
尚第二の実施例に於いても、アクティブスタビライザ装置24は上述の第一の実施例の場合と同様の構造にて車輌に搭載されているが、作用線68及びキングピン軸52はアクティブスタビライザ装置24が発生する可変力によるモーメントのアーム長εsが前述の式13にて表される値以外の値になるような位置関係に設定されている。また左前輪14FLの側も右前輪14FRの側と同様に構成されている。
電磁式ショックアブソーバ88は電動機に対する駆動電流Iyl、Iyrが電子制御装置74によって制御されることにより制御され、ショックアブソーバ88が発生する可変力は、車輌の通常の走行時には車輌の良好な乗り心地性を確保しつつ車体の上下振動を良好に減衰させると共に、旋回時や加減速時に於ける車体の姿勢変化を低減するよう制御され、車輌が横方向に傾斜した路面を走行する場合には、路面の横方向の傾斜角βに応じて後に詳細に説明する如く制御される。
電子制御装置74は図11に示されたフローチャートに従って路面の横方向の傾斜角βを推定し、路面の横方向の傾斜角βの大きさが小さいときには、アクティブスタビライザ装置24の制御による車両のロール剛性の制御を行うと共に、ショックアブソーバ88について車輌の通常の走行時の制御を行う。これに対し電子制御装置74は路面の横方向の傾斜角βの大きさが大きいときには、傾斜角βに応じてアクティブスタビライザ装置24により発生される可変力及びショックアブソーバ88により発生される可変力を制御することにより、路面傾斜に起因する下り方向への車体の傾斜を0にし、また路面傾斜に起因する運転者の意図しない下り方向への車両の移動を防止すると共に、その移動防止に必要な運転者の操舵トルクを0に低減する。
次に図11に示されたフローチャートを参照して第二の実施例に於けるアクティブスタビライザ装置24及び電磁式ショックアブソーバ88により発生される可変力の制御ルーチンについて説明する。
この第二の実施例に於いては、ステップ1110乃至1150はそれぞれ上述の第一の実施例のステップ510乃至550と同様に実行され、ステップ1150の次に実行されるステップ1160に於いては、ショックアブソーバ88の通常走行時の制御が行われる。尚ショックアブソーバ88の通常走行時の制御は本発明の要旨をなすものではなく、当技術分野に於いて公知の任意の要領にて行われてよい。
またステップ1140に於いて肯定判別が行われたときには、ステップ1180に於いて上記式18に従ってアクティブスタビライザ装置の制御量Ds及びアクティブサスペンション装置が発生する可変力Faが演算されると共に、制御量Dsに基づいてアクティブスタビライザ装置24のアクチュエータ70の目標回転角度φtが演算され、可変力Faが電磁式ショックアブソーバ88の目標可変力Fatに設定される。
またステップ1200に於いてはアクチュエータ70の回転角度φが目標回転角度φtになるようアクティブスタビライザ装置24が制御され、ステップ1210に於いては電磁式ショックアブソーバ88の可変力が目標可変力Fatになるようアクティブサスペンション装置が制御され、これにより車両が横方向に傾斜した路面を走行する際の車体の傾斜角βsが0にされ、また路面傾斜に起因する運転者の意図しない下り方向への車両の移動が防止されると共に、その移動防止に必要な運転者の操舵トルクが0に低減される。
かくして第二の実施例によれば、上述の第一の実施例と同様、車両が横方向に傾斜した路面を走行する際の車体の傾斜角βsを0にすることができ、路面傾斜に起因する運転者の意図しない下り方向への車両の移動を防止して車両を運転者の意図する方向へ走行させることができ、更には運転者の意図しない下り方向への車両の移動を防止するに必要な運転者の操舵トルクを0に低減することができる。
特に第二の実施例によれば、上下力可変手段としてアクティブスタビライザ装置24及び電磁式ショックアブソーバ88が設けられているので、上述の第一の実施例の場合の如く一つの上下力可変手段しか設けられていない場合に比して、各上下力可変手段の可変力発生負担を軽減し、それらを低出力のものにすることができ、このことは後述の第三の実施例についても同様である。
[第三の実施例]
図12は本発明による車両の走行制御装置の第三の実施例を示す概略構成図である。尚図12に於いて図7に示された部材と同一の部材には図7に於いて付された符号と同一の符号が付されている。
この第三の実施例に於いては、上述の第二の実施例と同様、前輪側にはアクティブスタビライザ装置24及び電磁式ショックアブソーバ88が上述の第二の実施例と同様の構造にて設けられており、作用線68及び軸線90はキングピン軸52に対し上述の第二の実施例の場合と同一の関係をなしている。
またこの第三の実施例に於いては、後輪側には左右の前輪14FL及び14FRの操舵とは独立に左右の後輪14RL及び14RRを操舵する後輪舵角可変手段としての後輪操舵装置94が設けられている。後輪操舵装置94はタイロッド98L及び98Rを介して左右の後輪14RL及び14RRを転舵する油圧式又は電動式のアクチュエータ96を含み、アクチュエータ96は電子制御装置74により制御電流Izが制御されることによって制御される。
次に図13に示されたフローチャートを参照して第三の実施例に於けるアクティブスタビライザ装置24及び電磁式ショックアブソーバ88により発生される可変力の制御及び後輪操舵装置94による後輪の舵角制御のルーチンについて説明する。
この第三の実施例に於いては、ステップ1310乃至1360はそれぞれ上述の第二の実施例のステップ1110乃至1160と同様に実行され、ステップ1360の次に実行されるステップ1370に於いては、後輪操舵装置94の通常走行時の後輪舵角制御が行われる。尚後輪操舵装置94の通常走行時の制御は本発明の要旨をなすものではなく、当技術分野に於いて公知の任意の要領にて行われてよい。
またステップ1380は上述の第二の実施例のステップ1180と同様に実行され、ステップ1380の次に実行されるステップ1380に於いては、路面の横方向の傾斜角βに基づき上記式19に従って後輪の舵角θwrが演算されると共に、後輪の舵角θwrが左右の後輪14RL及び14RRの目標舵角θwrtに設定される。
またステップ1400乃至1410はそれぞれ上述の第二の実施例のステップ1200乃至1210と同様に実行され、これにより車両が横方向に傾斜した路面を走行する際の車体の傾斜角βsが0にされ、路面傾斜に起因する運転者の意図しない下り方向への車両の移動が防止されると共に、その移動防止に必要な運転者の操舵トルクが0に低減され、ステップ1410の次に実行されるステップ1420に於いては、ステアリングホイール16により推定される車両の進行方向が車両の実際の進行方向に一致するよう、右後輪14RR及び左後輪14RLの舵角が目標舵角θwrtになるよう制御される。
かくして第三の実施例によれば、上述の第一及び第二の実施例と同様、車両が横方向に傾斜した路面を走行する際の車体の傾斜角βsを0にすることができ、路面傾斜に起因する運転者の意図しない下り方向への車両の移動を防止し、その移動防止に必要な運転者の操舵トルクを0に低減することができるだけでなく、ステアリングホイール16の回転位置より推定される車両の進行方向を車両の実際の進行方向に一致させることができ、これによりステアリングホイール16の回転位置より推定される車両の進行方向が車両の実際の進行方向と一致しないことに起因して運転者が違和感を覚えることを確実に防止することができる。
例えば図17(B)に示されている如く、上述の第一及び第二の実施例の場合には、右前輪14FR及び左前輪14FLの転舵に伴ってステアリングホイール16が左旋回方向へ自動的に回転されるので、車両は直進しているにも拘わらずステアリングホイール16は車両の左旋回位置にあり、このことが運転者にとって違和感になる虞れがある。
これに対し第三の実施例によれば、図18に示されている如く、アクティブスタビライザ装置24及び電磁式ショックアブソーバ88による可変力の制御に伴う前輪の転舵方向とは左右逆方向へ後輪14RL、14RRが転舵されるので、路面の傾斜に起因して車両に作用する横力Fsに対抗して路面傾斜の上り方向へ車両を旋回させようとする横力Frを後輪により発生させることができ、これにより運転者の意図しない横方向への車両の移動を抑制することができ、従って運転者が可変力の制御による前輪の転舵に伴うステアリングホイール16の不必要な回転をキャンセルするよう、即ちステアリングホイール16の回転位置が運転者が希望する車両の進行方向と一致するようステアリングホイールを回転操作し、前輪14FR及び14FLが車両の直進位置へ転舵されても、運転者の意図しない横方向への車両の移動を確実に防止することができると共に、運転者が車両の進行方向とステアリングホイールの回転位置との不一致に起因して違和感を感じることを確実に防止することができる。
特に第三の実施例によれば、後輪の舵角θwrが路面の横方向の傾斜角βに基づいて上記式19に従って演算されると共に、後輪の舵角θwrが左右の後輪14RL及び14RRの目標舵角θwrtに設定されるので、後輪の舵角制御量が上下力可変手段の制御量や可変力の増減変化量に基づいて制御される場合に比して、後輪の舵角の制御を簡便に行うことができ、このことは後述の第四の実施例についても同様である。
尚電磁式ショックアブソーバ88の車体側の枢点Uがキングピン軸52を郭定する点Pと同一である場合には、電磁式ショックアブソーバ88の作用線である軸線90はキングピン軸52と点Pにて交差するので、軸線90はキングピン軸52に対しねじれの位置関係になく、電磁式ショックアブソーバ88はキングピン軸52周りのモーメントを発生することができないが、車体と前輪との間の距離を変化させることはできるので、キングピン軸52周りのモーメントを発生することができるアクティブスタビライザ装置24の如き他の上下力可変手段が設けられている限り、電磁式ショックアブソーバ88の車体側の枢点Uがキングピン軸52を郭定する点Pと同一であってもよい。
[第四の実施例]
図14は本発明による車両の走行制御装置の第四の実施例を示す概略構成図である。尚図14に於いて図1及び図12に示された部材と同一の部材には図1及び図12に於いて付された符号と同一の符号が付されている。
この第四の実施例に於いては、前輪側にはアクティブスタビライザ装置24が上述の第一の実施例と同様の構造にて設けられており、作用線68はキングピン軸52に対し上述の第一の実施例の場合と同一の関係をなしている。また後輪側には左右の前輪14FL及び14FRの操舵とは独立に左右の後輪14RL及び14RRを操舵する後輪操舵装置94が上述の第三の実施例と同様の構造にて設けられている。
次に図15に示されたフローチャートを参照して第四の実施例に於けるアクティブスタビライザ装置24により発生される可変力の制御及び後輪の舵角制御のルーチンについて説明する。
この第四の実施例に於いては、ステップ1510乃至1550、1600はそれぞれ上述の第一の実施例のステップ510乃至550、600と同様に実行され、ステップ1570、1590、1620はそれぞれ上述の第三の実施例のステップ1370、1390、1420と同様に実行される。また上述の第一の実施例のステップ580に対応するステップ1580に於いては、路面の横方向の傾斜角βに基づき上述の式20に従って制御量Dsが演算されると共に、制御量Dsに基づいてアクティブスタビライザ装置24のアクチュエータ70の目標回転角度φtが演算される。
かくして第四の実施例によれば、上述の第三の実施例と同様、車両が横方向に傾斜した路面を走行する際の車体の傾斜角βsを0にすることができ、路面傾斜に起因する運転者の意図しない下り方向への車両の移動を防止し、その移動防止に必要な運転者の操舵トルクを0に低減することができ、更にはステアリングホイール16の回転位置より推定される車両の進行方向を車両の実際の進行方向に一致させことができ、これにより運転者が車両の進行方向とステアリングホイールの回転位置との不一致に起因して違和感を感じることを確実に防止することができる。
以上に於いては本発明を特定の実施例について詳細に説明したが、本発明は上述の実施例に限定されるものではなく、本発明の範囲内にて他の種々の実施例が可能であることは当業者にとって明らかであろう。
例えば上述の各実施例に於いては、アクティブスタビライザ装置24のトーションバー部分24TL及び24TRが前輪の回転軸線32に対し車両の前方側に位置し、アーム部24AL及び24ARが前輪の回転軸線32に対し車両の後方側に位置しているが、連結リンク64の下端(車体側端部)がキングピン軸52の周りの前輪のトーイン方向の回転について見て連結リンク64の上端(車輪側端部)に対し回転方向進み側に位置している限り、アクティブスタビライザ装置24は車両に対し任意の態様にて組み込まれていてよい。
また上述の第一及び第四の実施例に於いては、作用線68及びキングピン軸52はアクティブスタビライザ装置24が発生する可変力によるモーメントのアーム長εsが前述の式13にて表される値になるような位置関係に設定されているが、上下力可変手段が前輪のキングピン軸に対しねじれの位置関係をなす作用線に沿って可変力を作用させることにより上下力を増減し、前輪と車体とを離間させる方向に可変力を作用させることにより前輪をトーイン方向へ転舵する方向のキングピン軸周りのモーメントを発生するよう構成されている限り、車体の傾斜を確実に低減することができると共に、運転者の意図しない路面傾斜の下り方向への車両の移動を確実に抑制することができ、また車両の移動を抑制するに必要な操舵トルクを確実に低減することができる。従ってアクティブスタビライザ装置24が発生する可変力によるモーメントのアーム長εsは前述の式13にて表される値以外の値であってもよい。
また上述の第二及び第三の実施例に於いては、電磁式ショックアブソーバ88の下端は車輪支持部材34に剛固に連結されているが、電磁式ショックアブソーバ88の下端は前輪と共にキングピン軸52の周りに枢動する任意の部材に枢着されてもよく、その場合には電磁式ショックアブソーバ88が発生する可変力の作用線は車体28に対する上端の枢着部の中心(U)と電磁式ショックアブソーバ88の下端の枢着部の中心とにより郭定され、キングピン軸52の周りの前輪のトーイン方向の回転について見て、上端の枢着部の中心は下端の枢着部の中心に対し回転方向遅れ側に設定される。
また上述の各実施例に於いては、車両のヨーレートγ及び車速Vに基づき車両の推定横加速度Gyhが演算され、gを重力加速度として上記式21に従って路面の横方向の傾斜角βが演算されるようになっているが、車両のヨーレートγ及び車速Vに基づく車両の推定横加速度Gyhと車両の実際の横加速度Gyとの偏差に基づいて路面の横方向の傾斜角が推定されるよう修正されてもよく、また路面の横方向の傾斜角βは当技術分野に於いて公知の他の任意の要領にて演算又は検出されてもよい。
更に上述の第二及び第三の実施例に於いては、上下力可変手段としてアクティブスタビライザ装置24及び電磁式ショックアブソーバ88が設けられているが、これらの実施例に於いてアクティブスタビライザ装置24が省略されてもよい。また上述の各実施例に於ける上下力可変手段はアクティブスタビライザ装置24若しくは電磁式ショックアブソーバ88であるが、所定の作用線に沿って可変力を発生し得るものである限り、当技術分野に於いて公知の任意の手段であってよい。
10…走行制御装置、12…車両、18…ステアリング装置、24…アクティブスタビライザ装置、28…車体、30…サスペンション、38…ショックアブソーバ、46…サスペンションアーム、52…キングピン軸、64…連結リンク、68…作用線、70…アクチュエータ、74…電子制御装置、76…横加速度センサ、78…ヨーレートセンサ、80…車速センサ、82…操舵角センサ、84…回転角度センサ、88…電磁式ショックアブソーバ、94…後輪操舵装置、96…アクチュエータ