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JP2007517893A - 脂質組成物及び該脂質組成物の使用方法 - Google Patents

脂質組成物及び該脂質組成物の使用方法 Download PDF

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JP2007517893A JP2006549453A JP2006549453A JP2007517893A JP 2007517893 A JP2007517893 A JP 2007517893A JP 2006549453 A JP2006549453 A JP 2006549453A JP 2006549453 A JP2006549453 A JP 2006549453A JP 2007517893 A JP2007517893 A JP 2007517893A
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Abstract

本発明は、C12からC24の分岐炭化水素若しくはC12からC24の非分岐炭化水素と、中鎖トリグリセリドと、C26からC36の分岐炭化水素若しくはC26からC36の非分岐炭化水素と、コレステリルエステルと、C10からC24の脂肪酸とC10からC20のアルコールからなるエステルと、C10からC24の脂肪酸とC21からC34のアルコールからなるエステルと、グリセロールと、極性脂質を含む組成物に関する。また、本発明は、この組成物を製造する方法並びにこの組成物を用いてLTD型ドライアイ、ATD型ドライアイ、LTD型ドライアイ並びにATD型ドライアイの組み合わせ及び他のドライアイ状態を治療する方法に関する。本発明の組成物は、水成分並びに人工的界面活性剤を略含有しない。脂質組成物を投与しドライアイを治療する方法は、軟膏の持続的な放出を行うとともに軟膏による受像のぼけを防止する。この方法は、下瞼の外皮の下側の眼瞼縁若しくは上瞼の外皮の上側の眼瞼縁に軟膏を塗布する段階と、眼に軟膏を拡散させる段階を備える。更に、涙液干渉像の動態解析を利用して、患者の涙液油層の範囲を解析し、LTD型ドライアイを認識若しくは、LTD型ドライアイの治療に対する反応を評価する形態が開示される。これにより、組成物中の脂質の割合が調整されることとなる。

Description

本発明は、患者のドライアイの状態を治療する組成物並びに該組成物を用いて患者のドライアイ状態を治療する方法に関する。
本出願は、米国特許仮出願第60/535,597号(出願日2004年1月10日)に基づく優先権を主張するものであり、この米国特許仮出願に記載の内容は、本出願に参照として組み込まれるものである。
人間の眼において、安定した前角膜の涙液膜(precorneal tear film)は健康的な眼表面、円滑な眼表面及び快適な眼表面の維持にとって必要不可欠なものである。前角膜の涙液膜の劣化は、結果として、眼の露出する外側表面の脱水症状を引き起こし、眼への異物感、眼の炎症、眼の灼熱感、眼の痛み、眼の充血、眼の掻痒感、受像のぼやけ、軽い場合には羞明感及び深刻な場合には潰瘍形成や感染症といった乾燥症状を引き起こす。
前角膜の涙液膜は、複合流体であり、この複合流体は3つの層若しくは相を備えるものと考えられている。また3つの層のうちいずれか1つが欠如した場合には、不快感を生じ、一時的若しくは恒久的なドライアイ症候群を生ずると考えられている。
眼表面の直接的に隣接する内側の層は、約0.02μmの厚さのムチンからなる薄膜である。ムチンは、結膜内に位置する杯細胞から生じた糖タンパク質基を備える。若しくは、角膜上皮細胞及び結膜上皮細胞から生じた糖タンパク質基を備える。中間の層は、約7.0μmの厚さの漿液層である。漿液層は、涙腺及びKrause腺とWolfring腺といった副涙腺から生じた水の層である。最外の層は、約0.1μmの厚さの油層である。油層は、主にマイボーム腺(瞼板腺としても知られる)から生じる脂質の層である。尚、マイボーム腺は、眼瞼辺縁に沿って並んでいる。
健康な眼の場合、マイボーム腺は連続的にマイボーム腺脂質物質(meibum material)を作り出す。このマイボーム腺脂質物質は、多種の脂質を含み、この多種の脂質は眼瞼辺縁上に分泌される。通常の健康な眼において、瞬目の動作は、眼表面上に均一にマイボーム腺脂質物質を広げ、前角膜の涙液膜の外側部分を形成する。加えて、涙液膜は、分散した電解質及びタンパク質を含有する。
不安定な涙液膜により特徴付けられるドライアイは、一般的に、ATD型ドライアイ(ATD: aqueous tear deficiency)、LTD型ドライアイ(LTD: lipid tear deficiency)及びATD型ドライアイとLTD型ドライアイの組み合わせに大別される。「ドライアイ」として知られる状態の発症のメカニズムについては、今も尚、研究の対象であるが、ドライアイは一般的な臨床学的な問題である。
ATD型ドライアイに対する現在可能な治療は、様々な種類のポリマーを主成分とする人工涙液(好ましくは、非保存性の人工涙液)を、涙液の代替物として、頻繁に投与することである。これらの人工涙液は単に一時的な治療を施すものにすぎない。典型的なポリマーを主成分とする人工涙液は、デキストラン及びヒドロキシプロピル・メチルセルロース・ポリマーを含有する。ある製剤は、水性乳剤及び界面活性剤を備える。他の治療として、涙点閉鎖、アンドロゲンのようなホルモンの投与、サイクロスポリンAのようなサイトカイン遮断薬を投与し、ドライアイの疾病過程の炎症反応成分の抑制若しくは遮断することを挙げることができる。他のもう1つの治療方法として、テトラサイクリンのような抗生物質を局所的若しくは経口的に投与することを挙げることができる。しかしながら、現状において、LTD型ドライアイに対して商業的に利用可能な治療方法並びに薬剤は存在していない。
今日まで、多くのドライアイ患者に効果的な治療方法並びに治療薬剤は存在していない。既存の涙液代替物の投与は、頻繁な投与が必要とされる。例えば、ドライアイの重症度にもよるが、1日当たり数回、一定時間間隔で投与される必要がある。したがって、様々なドライアイの状態を識別する新規且つ改善された方法に対する必要性が存在するといえる。また、LTD型ドライアイ、ATD型ドライアイ若しくはLTD型ドライアイ及びATD型ドライアイが組み合わされたドライアイを患った患者の涙液膜の恒常性を回復若しくは維持する新規且つ改善された手法に対する必要性が存在する。更には、これらのドライアイの症状を改善するための新規且つ改善された組成物及び受像のぼけといった望ましくない副次的効果を生じさせることなく持続的に組成物を放出させる新規且つ改善された投与方法が必要とされる。
この点において、このような必要性を満たす組成物及び投与方法は、見出されておらず、またドライアイ状態を治療するために利用可能な程度には開発されていない。個々の患者の涙液分布形状若しくは角膜表面上に広がる涙液パターンを見出す治療的手法も必要である。更に、ドライアイの治療の臨床的有効性を評価する新規且つ改善された方法も必要である。
本発明は、C12からC24の分岐炭化水素若しくはC12からC24の非分岐炭化水素と、中鎖トリグリセリドと、C26からC36の分岐炭化水素若しくはC26からC36の非分岐炭化水素と、コレステリルエステルと、C10からC24の脂肪酸とC10からC20のアルコールからなるエステルと、C10からC24の脂肪酸とC21からC34のアルコールからなるエステルと、グリセロールと、極性脂質を含むことを特徴とする組成物であり、この組成物は、他の利用可能な製剤よりもドライアイの症状を非常に大きく緩和させる。
ATD(涙液の水分欠乏)、LTD(涙液の脂質欠乏)及びATDとLTDの組み合わせに起因して生じたドライアイの症状の長期間にわたる緩和効果は、本発明の方法の実施形態にしたがって投与された本発明の好適な組成物によりもたらされる。
本発明の組成物は、例えば、まつげに隣接する領域内の上瞼若しくは下瞼の外皮に塗布される。好適な組成物は、水成分をほとんど含まないものであってもよく、また、人工的な界面活性剤をほとんど含まないものであってもよい。本発明は、以下に示す実施形態を備えるものであってもよい。各実施形態が単独で利用されてもよく、また、各実施形態が組み合わされて利用されるものであってもよい。
本発明のある実施形態は、C12からC24のアルカンを含むミネラルオイル若しくは混合物及び中鎖トリグリセリド、スクワラン、コレステリルベヘネートと、ステアリルパルミテート若しくはパルミチン酸ステアリルエステルと、天然若しくは人工ビーズワックスと、グリセロールと、L−α−ホスファチジルコリンを含むことを特徴とする組成物である。中鎖トリグリセリドは、下式の化合物を含む。
Figure 2007517893
R1、R2及びR3はC6からC12の分岐アルキル基若しくは非分岐アルキル基であり、互いに同一のもの、又は互いに異なるものとできる。
他の実施形態において、本発明は、患者のドライアイを治療するための組成物の製造方法に関連する。この方法は、(a)C12からC24のアルカンを含むミネラルオイル若しくは混合物、下式の化合物を含む中鎖トリグリセリド、C26乃至C36の分岐若しくは非分岐炭化水素、グリセロール及び極性脂質を接触させ、原料の第1混合物を製造する段階を備える。
Figure 2007517893
(R1、R2及びR3はC6からC12の分岐アルキル基若しくは非分岐アルキル基であり、互いに同一のもの、又は互いに異なるものとできる。)
更に、この方法は、(b)前記第1混合物を第1の状態に維持し、該第1の状態において前記原料が分散し、第1の溶液若しくは第1の懸濁液が形成される段階と、(c)前記第1混合物と、コレステリルエステル、C10からC24の脂肪酸とC10からC20のアルコールからなるエステル又はC10からC24の脂肪酸とC21からC34のアルコールからなるエステルと接触させ第2混合物を製造する段階と、(d)前記第2混合物を第2の状態に維持し、該第2の状態において前記第1の混合物の原材料が第2の混合物とともに分散し、これにより組成物を形成する段階を備える。
他の実施形態において、本発明は患者に少なくとも1つの脂質を含む軟膏を投与するとともに軟膏の持続的な放出並びに軟膏による受像のぼけを防止することによりドライアイの状態を治療する方法に関連する。
この方法は、下瞼の外皮の下側の眼瞼縁若しくは上瞼の外皮の上側の眼瞼縁に、治療に有効な量の前記軟膏を塗布する段階と、眼に前記軟膏を拡散させる段階を備える。
他の実施形態において、本発明は、極性脂質及び非極性脂質を備える組成物の使用方法に関する。この使用方法は、前記組成物が、水成分、人工界面活性剤、人工ポリマーを略備えず、前記組成物がLTD型ドライアイ、ATD型ドライアイ、LTD型ドライアイ及びATD型ドライアイの組み合わせ、表皮異形成、スティーブンスジョンソン症候群、マイボーム腺疾患、酒さ、眼瞼炎、兎眼、化学傷害、熱傷害、マイボーム腺機能不全を引き起こす疾患からなる群から選択される疾患を治療する医薬品の製造に用いられる。
他の実施形態において、本発明は、患者のドライアイを治療する方法に関連する。この方法は、(a)涙液干渉像の動態解析を用いて、患者の涙液油層の範囲を解析する段階と、(b)前記涙液油層の範囲がLTD型ドライアイの特徴であるか否かを判断する段階を備える。もし前記涙液油層の範囲がLTD型ドライアイの特徴を示すならば、C12からC24の分岐炭化水素若しくはC12からC24の非分岐炭化水素と、中鎖トリグリセリドと、C26からC36の分岐炭化水素若しくはC26からC36の非分岐炭化水素と、コレステリルエステルと、C10からC24の脂肪酸とC10からC20のアルコールからなるエステルと、C10からC24の脂肪酸とC21からC34のアルコールからなるエステルと、グリセロールと、極性脂質とを含む組成物を治療に有効な量だけ投与する段階が実行される。
他の実施形態において、本発明は、薬剤の製造において、開示される組成物の使用方法に関連する。この薬剤は、LTD型ドライアイ、ATD型ドライアイ、LTD型ドライアイ及びATD型ドライアイの組み合わせ、表皮異形成、スティーブンスジョンソン症候群、マイボーム腺疾患、酒さ、眼瞼炎、兎眼、化学傷害、熱傷害、マイボーム腺機能不全を引き起こす疾患からなる群から選択される疾患を治療するために用いられる。
他の実施形態において、本発明は、極性脂質及び非極性脂質を備える組成物の使用方法に関する。この使用方法は、前記組成物が、水成分、人工界面活性剤、人工ポリマーを略備えず、前記組成物がLTD型ドライアイ、ATD型ドライアイ、LTD型ドライアイ及びATD型ドライアイの組み合わせ、表皮異形成、スティーブンスジョンソン症候群、マイボーム腺疾患、酒さ、眼瞼炎、兎眼、化学傷害、熱傷害、マイボーム腺機能不全を引き起こす疾患からなる群から選択される疾患を治療する医薬品の製造に用いられる。
本発明の脂質組成物は、ドライアイを患った患者若しくはドライアイに関連する1若しくはそれ以上の症状を患った患者の眼の安定した脂質涙液膜を回復するのに有効である。本発明により提供されるドライアイ状態の治療に関する他の利点は、患者の涙液分布若しくは角膜表面上に広がる涙液パターンの動態解析を調査する手法である。本発明の組成物は、ドライアイの状態がLTD(脂質欠乏)、ATD(水分欠乏)若しくはLTD(脂質欠乏)とATD(水分欠乏)の組み合わせに起因するか否かによって異なるものとされてもよい。
更に、現在存する方法は、人工涙液を直接的に眼表面に滴下する形態であるが、これとは対照的に、本発明の方法により開示される組成物を塗布することで、この組成物を眼の表面上に拡散させ、これにより、組成物の持続的な放出を可能とするものである。この方法は、組成物が角膜及び結膜と接触する時間を最小限化するとともに組成物による受像のぼやけを防止する。この受像のぼやけは、眼の表面上に過度に組成物が配されたときに生ずるものである。事実、開示される組成物が、本発明に係る方法にしたがって投与されると、薄膜が眼表面を潤滑し、瞬目動作により生ずる摩擦を低減するだけでなく、不十分な涙液膜の生成しかできない眼表面の光学的特性を改善することができる。
本発明に係る上記の若しくは他の特徴並びに有利な効果は、本発明の特定の実施形態への説明により明らかとなる。以下において、図面を用いて説明がなされるが、各図面を通じて同一の部分には同様の符号が付されている。図面は、本発明の原理を説明するために用いられるものであり、拡大縮小することや、一部が強調して示すこともできる。
本発明は、とりわけ、以下に示す好適な実施形態を備える。以下に示す好適な実施形態は、単独で或いは本発明に組み合わせて利用することができる。本発明の特定の実施形態は、説明の目的のために示されるものであり、本発明を何ら限定するものではない。まず、本発明の全体的な特徴が示され、その後、本発明の詳細部分が説明される。本発明の組成物並びに方法の特徴及びその他詳細については、本明細書とともに提出される請求の範囲に示されている。
本発明は、患者のドライアイ状態を治療する組成物並びに方法に関連する。組成物は、本明細書に開示される脂質組成物であり、例えば、軟膏の形態で提供される。本発明に関連して用いられる「治療方法」との用語は、患者のドライアイの状態に関連する症状及び/又は影響を改善すること、予防すること又は緩和することを意味する。患者は、人間又は他の哺乳類を意味する。医学分野の当業者であれば、ドライアイに関連する症状及び/又は影響の予防が絶対的な意味でないことは理解可能である。医学分野において、予防薬の投与が発症の可能性又は重症度を低減することを意味することは理解可能である。
本発明の組成物は、ドライアイの治療に有用である。ドライアイ状態は、マイボーム腺脂質(meibum)の不十分な分泌に起因するLTD型ドライアイであってもよい。開示される組成物並びに開示される本発明の組成物を使用する方法は、眼表面を改善し、十分なマイボーム腺脂質が分泌され、これにより、LTD(脂質欠乏)に起因する眼球刺激を緩和する状態に近い状態とする。更に、開示される組成物並びに方法は、ATD(涙液中の水分欠乏)、LTD(涙液中の脂質欠乏)とATD(涙液中の水分欠乏)が組み合わされたもの及び分泌されるムチンの量が少ないことに起因して生じた眼の不快感を患う患者を治療するために用いられてもよい。ATD(涙液中の水分欠乏)とムチンの不足は両方とも、脂質性涙液膜の形成及び安定性を間接的に損なうものとなる。
前角膜の涙液膜の構成層それぞれは、最外層をなす油層、中間層をなす漿液層と最内層をなすムチン層である。これら層それぞれは特定の機能を備える。神経系により制御される瞬目動作を介して、これら涙液の成分は機械的に眼表面に広げられる。瞼の瞬目動作により制御される1回の動作ごとに、涙液は、常時、鼻涙の排出システムを介して眼から鼻内へ除去される。涙液膜を構成する層のいずれかの欠如は不快感をもたらすとともに、一時的又は恒久的なドライアイ症候群をもたらすこととなる。これらの液体構成因子を妨げる疾患は、通常、不安定な涙液膜(例えば、すぐに離散する眼球前方の涙液膜)を生じさせるとともに様々なドライアイ症状の一般的な特徴を生じせしめる。更に、眼の炎症、羞明、眼精疲労及び眼の痛みといった様々な症状を引き起こす。
(油層(マイボーム腺脂質))
涙液膜の最外をなす油層は、上下瞼上のマイボーム腺及び専用の脂腺から主に分泌される。涙液膜の油層は、漿液層を被覆し、油層の下に配される漿液層の眼表面からの蒸発を十分に遅らせる。不十分なマイボーム腺脂質の分泌は、次第に水成分の蒸発を増大させ、前角膜の涙液膜を薄くする。そして、眼表面が乾燥することとなり、眼球上のドライスポットを形成する。更には角膜及び結膜の上皮の変質(上皮の傷)をもたらすこととなる。
油層は更に、涙液層の表面張力を低減するとともに涙液層の安定性を増大させる役割を担う。マイボーム腺脂質の他の役割は、眼瞼縁を被覆することであり、これにより、瞼の皮膚に沿って生ずる慢性的刺激の増大を、水分を含む涙液により湿らされた接触部に与えることを防ぐバリアとして、マイボーム腺脂質は働く。マイボーム腺脂質の他の役割は、瞬目動作中に眼表面の潤滑を助けることである。これにより、瞬目動作に関連する機械的摩擦を低減するとともに、瞬目動作に起因する微視的損傷を低減させる。リン脂質は、マイボーム腺脂質の成分であり、漿液層と油層の非極性脂質の間の天然の界面活性剤として機能する(Cheol Hwa Song, et al., Enhanced Secretory Group II PLA2 Activity in the Tears of Chronic Blepharitis Patients, Investigative Ophthalmology and Visual Science. 40:2744-2748 (1999)を参照)。
LTD型ドライアイに発展する状態において、涙液中のマイボーム腺脂質の含有量が低減すると、残存するマイボーム腺脂質によるこれらの機能が適切に働かなくなる。特に、例えば、前角膜の涙液膜の不安定性が増大し、前角膜の涙液膜の離散するまでの時間が低減する。加えて、涙液膜の漿液層の蒸発が更に急速になり、眼瞼縁及び皮膚の慢性的刺激を生じせしめる。マイボーム腺脂質の低減の影響は、先天性外杯葉性形成異常、部分的若しくは全体的にマイボーム腺を欠損した多種の発育異常に関連するまれに存在する奇形を有する患者にみることができる。このような患者の眼においては、結果として、マイボーム腺脂質が欠如し、涙液膜がすぐに離散することとなる。このため、角膜混濁といった眼表面の深刻な変質を招来することとなる。
マイボーム腺脂質の欠如の他の例は、様々な形態のマイボーム腺機能不全を患った患者にみることができる。慢性の眼瞼縁は、高齢者の間では多くの場合、共通した症状が見られる。この状態は、マイボーム腺孔周囲の広汎性炎症により特徴付けられる。この広汎性炎症は、腺拡張、腺の変形及び腺萎縮を伴う腺孔の閉塞をもたらすこととなる。眼瞼縁は、血管の拡張とともに厚くなり、また、均一性を失う。乳頭状の肥大を伴う瞼板充血、球状の充血及び点状表層角膜症(SPK:Superficial Punctate Keratopathy)がしばしば生ずる。これら充血や角膜症は、涙液膜の早い離散により臨床的に確認される不安定な涙液膜に起因する。涙液膜のこれら変化は、眼に灼熱感、炎症、異物感、眼精疲労及びこれらに類する症状を生じせしめる。更には視力を変化させる。マイボーム腺が全く正常に機能しないとき、残りのマイボーム腺内の深部からの新鮮なマイボーム腺脂質が涙液膜内に搾り出され、離散するまでの時間が遅くなる(McCulley JP, Sciallis GF, Meibomian keratoconjunctivitis, Am J Ophthalmol.84:788-793 (1996)参照)。
(漿液層)
この層は、涙液の主要な成分であり、涙腺から分泌される。漿液層は角膜への酸素の供給を助ける。漿液層は、タンパク質、電解質及び水並びに眼の健康を維持するための重要な他の物質を含有する。ATD型ドライアイはLTD型ドライアイより広く知られた症状である。ATD型ドライアイの形態は、乾性角結膜炎、眼表面の乾燥部が認められることに特徴付けられる眼表面疾患及び罹患した涙腺により引き起こされる眼表面疾患である。
(ムチン層(粘液層))
ムチン層は、粘性の高い物質であり、角膜の上皮細胞の上面且つ涙液膜の漿液層の下に存する。ムチンが欠如する場合には、涙液は角膜上で球状となる。したがって、ムチン物質は、前角膜の涙液膜の広がりを助け、油層と漿液層の間の境界をもたらす。ムチンは、涙液膜の最下層に限定されず、涙液膜の流体全体に存する。
ムチンは、唾液や胃液内で見つけられる糖タンパク質である。この糖タンパク質は、粘性溶液を形成するとともに身体外面及び内面の潤滑物質又は保護物質として働く唾液及び胃液と同等のものからも見出すことができる。ムチンは、一般的に、高い分子重量の化合物であり、しばしば100,000ダルトンを超える分子重量を有する。また、ムチンは多くの場合グリコシル化する(約80%グリカンまで)。ムチンはウシ顎下腺、イヌ気管、ウシ胆嚢、ネズミの顎下唾液腺及びブタの胃から精製される。疎水相互作用を介して、脂質は非グリコシル化したこれらムチンのタンパク質ドメインに結合する。この結合は、マイボーム腺脂質内の極性リン脂質と漿液層内の水成分との間の相互作用を調整する。涙液中のムチンは、涙液中で天然の界面活性剤として機能し、ムチン濃度は、ムチンレベルに関連する眼用薬剤の効能を判断するのに重要な因子である。人工的な界面活性剤は、市場で入手可能な人工涙液に必要とされるものであるが、本発明においては、人工的活性剤は必要とされず、好ましくは人工活性剤が除去される。
本出願の発明者は、生体内において、涙液中のムチン糖タンパク質の濃度が、脂質の拡散及び厚さ並びに涙液膜の安定性に影響することを発見している。もし、ドライアイ症候群を患った患者の涙液中のムチン糖タンパク質の濃度が、本明細書中で示される生体外検査を用いて判断されるならば、本発明の組成物の脂質含有量は、ムチンレベルにより調整され、最適化される。ムチン成分の欠如に起因する異常な涙液膜の安定性は、所定量の本発明の好適な組成物を上側又は下側の眼瞼縁に塗布することにより改善される。
本発明のある実施形態においては、開示される脂質組成物が眼瞼縁、即ち、睫の内側の瞼の領域に塗布される。組成物が、睫外側の皮膚上に軽くこすれること、摺り合わせられることやはみ出ることは問題とならない。
組成物は、アプリケータを用いて眼瞼縁に塗布することができる。アプリケータの種類として、例えば、アイライナや他の眼周囲の化粧に用いられるアプリケータに類するものを挙げることができる。好適なアプリケータは、図1乃至図3Aに示される。アプリケータは1又はいくつかの排出用開口部を備えるものとできる。しかし、好適な実施形態においては、1つの開口部又は複数の開口部の全体の直径は、約0.5mm以上約5mmの幅であり、各塗布においてこの範囲の瞼の領域を覆うものである。本発明で開示されるアプリケータの使用により、睫内側の瞼の皮膚領域に、開示される組成物を制御可能に塗布することを容易となる。
スティーブンスジョンソン症候群は、マイボーム腺機能不全及び結膜内の杯細胞の損失をもたらす。この結果、ムチン層を失い、涙液膜の不安定さを生じせしめる。結果として、眼表面内の望ましくない変化若しくは眼表面の深刻な損傷を生ずることとなる。
ATD型ドライアイの診断は、漿液分泌の測定に基づく診断基準を用いて簡単におこなわれる。開示される脂質組成物及びこの脂質組成物の投与方法は、脂質涙液バリアの厚さの増大に用いられ、漿液の蒸発速度を低減させる。これにより、LTD型ドライアイのみならずATD型ドライアイを治療することができる。
LTD型ドライアイの診断は、直接的な手法ではない。LTD型ドライアイとATD型ドライアイを区別することは臨床的に重要である。LTD型ドライアイを診断するのに用いられている現状の方法は、以下に示すものに限るものではないが、マイボグラフィを用いてマイボーム腺の形態変化を調査する段階(Robin JB, et al. In vivo transillumination biomicroscopy and photography of meibomian gland dysfunction; Ophthalmology; 92:1423-6 (1985)参照)と、急速な涙液蒸発又は染料吸着とインプレッションサイトロジの組み合わせを観察しながら推量する段階を備える(Shimazaki J, et al. Meibomian gland dysfunction in patients with Sjogren syndrome; Ophthalmology; 105: 1485-8 (1998)参照)。
前角膜の涙液膜の脂質涙液層を調査する1つの非侵襲的方法は、涙液干渉(TI: Tear Interference)の像を用いることである。涙液干渉像の動態解析は、LTD型ドライアイの状態とATD型ドライアイの状態を区別するために用いられる。米国特許第10/131,665号(出願日:2002年4月24日 出願人:Tseng et al 発明の名称:「Apparatus and Method for the Kinetic Analysis of Tear Stability」 公開番号:US2002/0180929)の開示内容は、全体的に本発明に参照として組み込まれる。開示される装置は、涙液安定性の状態を示す涙液膜及び脂質膜の拡散パターンを現わす連続的な像を得るために用いられる。また、ルックアップ・テーブルから涙液脂質層の厚さを判断するために用いられる。LTD型ドライアイの患者に対して、涙液干渉像はゆっくりとした拡散時間と小さな厚さを有する縦縞パターンを作り出す。これは、LTD型ドライアイに特徴的なものであり、ATD型ドライアイでは生じない。ひとたび、ドライアイの状態がLTD型ドライアイであると診断されるならば、開示される組成物が本発明の開示された方法にしたがって投与される。
更に、LTD型ドライアイの患者に投与される組成物は、本発明の要旨を逸脱しなければ、通常の実験的手法により、診断結果及び状態の重症度に応じて、異なるものとできる。米国特許出願第10/131,665号の記載内容に応じて、涙液干渉の動的解析は、更に、本発明の組成物を精錬し、個々の患者の要求に一層合致させ、本明細書に開示される組成物並びに方法を用いて治療されるLTD型ドライアイの患者の治療進行度合いを評価するために用いることができる。
米国特許第10/131,665号の記載内容を利用すると、本発明の他の実施形態を構築できる。この実施形態は、患者のドライアイを治療する方法であり、涙液干渉像の動態解析を利用して患者の前角膜の脂質膜の広がりを解析する段階と、前角膜の脂質膜の広がりがLTD(脂質欠乏)又はLTD(脂質欠乏)及びATD(水分欠乏)の組み合わせの特徴を示すか否かを判断する段階と、もし脂質膜の広がりがLTD(脂質欠乏)又はLTD(脂質欠乏)及びATD(水分欠乏)の組み合わせの特徴を示すならば、本発明に係る方法の実施形態にしたがって、本発明に係る開示される組成物を治療に有効な量だけ投与する段階を備える。
(脂質)
本明細書には、少なくとも2つの異なる化学的構造を有する脂質の混合物を含有する組成物が開示される。これら混合物は、患者の脂質涙液膜の安定性を回復するのに有益である。更に、本明細書には、この少なくとも2つの異なる化学的構造を有する脂質の混合物を含有する組成物を投与する方法が開示される。本明細書において用いられる用語に関して、脂質は、様々な有機分子を意味し、この有機分子には、脂肪酸、グリセリド(グリセロール由来の脂質)、非グリセリド脂質を含む。非グリセリド脂質は、ステロイド、リン脂質、プロスタグランジン、テルペン、室温で固体であるワックス、リポタンパク質及び糖脂質といった複合脂質を含む。脂質は一般的に室温において液状であり、極性溶媒内よりも非極性溶媒中で溶解しやすい。脂肪酸は、長い非分岐のモノカルボン酸であり、このモノカルボン酸は約10から約24の炭素原子を含有する。脂肪酸のpKaは約4.5である。脂肪酸は典型的には、脂肪酸の生合成経路により等しい数の炭素原子を有する。脂肪酸は、典型的には、脂質種の成分として見出される。本明細書に開示される組成物は、例えば、パルミチン酸ミリシルを含むものであってもよい。
グリセリドは、グリセロール分子、C3H5(OH)3の脂質エステルであり、グリセロールの3つの炭素骨格を備える。エステル化は、1、2若しくは3つ全てのOHの位置で生じ、モノグリセリド、ジグリセリド及びトリグリセリドそれぞれを作り出す。脂肪酸基は同一のものであってもよく、異なるものであってもよい。また脂肪酸基は、飽和脂肪酸基でも不飽和脂肪酸基でもよい。開示される組成物のある実施形態において、トリグリセリドは中鎖トリグリセリドであり、例えば、この中鎖グリセリドは、混合された中鎖トリグリセリドを含む(例えば、6個から12個の炭素、或いは8個から10個の炭素)。組成物は、カプリル酸、カプリン酸若しくはより長い炭素鎖を備える脂肪酸のグリセリド或いはこれらの組み合わせを含むものであってもよい。トリグリセリドは天然の脂質である。本発明の実施形態にしたがう組成物は、下式の中鎖トリグリセリドを含む。
Figure 2007517893
(R1、R2及びR3はC6からC12の分岐アルキル基若しくは非分岐アルキル基であり、互いに同一のもの又は、互いに異なるものとすることができる。)
本明細書において用いられる「アルキル」との用語は、直鎖炭化水素構造、分岐炭化水素構造或いは環式炭化水素構造及びこれらの組み合わせを意味する。
本明細書に説明される化合物のうちいくつかは、1若しくはそれ以上の不斉中心を含み、光学異性体、ジアステレオマ及び(R) 若しくは(S) として絶対立体化学の面から定義される他の立体異性を生じさせる。本発明は、全ての可能な異性体及びこれらのラセミ形態並びに光学的に純粋な形態全てを含むものとする。
(ホスホグリセリド)
トリグリセリドと対照的に、ホスホグリセリドは本発明に示されるリン脂質の一種であり極性を有する。リン脂質は、極性を有する先端と非極性の基端を分子上に備えるため、実際には両親媒性(極性及び非極性領域を有する)の分子である。ホスホグリセリドは、グリセロール骨格、2つの脂肪酸残基若しくはエステル基、グリセロール骨格の第3アルコールの炭素に結合するホスホリルエステル基を備える。最も単純なホスホグリセリドは、ホスファジン酸である。開示される組成物の1つの実施形態は、L−α−ホスファチジルコリン(レシチンとしても知られる)、グリセロール骨格から作られるホスホグリセリド、2つの脂肪酸、ホスホリルエステル(エステルのR基はコリンHO-CH2CH2N(CH3)3 +である)である。天然で生ずるリン脂質、L−α−ホスファチジルコリンは、脳組織内で見出される主要な構造的分子である。
他のホスホグリセリドの実施例は、本発明の実施形態にしたがう組成物への使用に好適なものである。このホスホグリセリドは、L−α−ホスファチジルエタノールアミンであり、ケファリンとして知られる。レシチンと同様に、ケファリンは、グリセロール骨格、2つの脂肪酸、エステルのR基がエタノールアミン(HO CH2CH2NH2)であるホスホリルエステル(phosphoryl ester)から作られる。商業的に利用可能なケファリンはヒツジの脳から単離される。
本発明を限定するものではないが、本発明の実施形態に好適に使用される他のホスホグリセリドの例として、ホスホリルエステルのR基がポリオールであるものを挙げることができる。ホスホグリセリドの他の例として、更に、リソホスファチジルコリン、ホスファチジルセリン及びカルジオリピンを挙げることができる。
本発明を限定するものではないが、ホスホグリセリドのグリセロール骨格に結合する脂肪酸残基がデカン酸塩、ドデカン酸塩、テトラデカン酸塩、パルミチン酸塩(ヘキサデカン酸塩:hexadecanoate)、ステアリン酸塩(オクタデカン酸塩:octadecanoate)、エイコサン酸塩、シス-9-オクタデカン酸塩(cis-9-octadecnoate)、シス、シス-9,12-オクタデカジエノアート(cis,cis-9,12-octadecadienoate)及び全てのシス-9,12,15-オクタデカトリエノアート(cis-9,12,15-octadecatrienoate)を含むものであってもよい。
上側の眼瞼縁若しくは下側の眼瞼縁に少量の調合剤を塗布することにより、瞼の瞬目動作ごとに、脂質膜が補充されることとなる。そして、この脂質膜は長期にわたって安定性を維持し続ける。マイボーム腺脂質の本質的な欠如若しくは漿液及び/又はムチン成分の欠如に起因して異常な脂質涙液膜を生じるが、これにより引き起こされる眼球刺激に対する治療にこの新規な治療手法を用いることができる。
好適な実施形態にしたがって得られた調合剤は、好ましくは、水成分を略含有しないものである。また人工活性剤を含有しないものである。本明細書中で用いられる「略含有しない」との用語は、水が調合剤中に含まれないが僅かな湿気成分が存在してもよいことを意味し、例えば、この湿気成分は調合剤中1重量%若しくは0.5重量%以下の割合で残存する。開示される組成物は、好ましくは、水成分を略含有しない。
このようにして、調合剤により脂質成分の保持率が向上する。なぜなら、水成分を略含有しないことにより、鼻涙システムを介する涙液の排出若しくは流出が低減されるためである。
更には、本発明の調合剤から、好ましくは、人工界面活性剤が除去される。なぜなら、このような人工界面活性剤は脂質の広がりを妨げるからである。本明細書中において用いられる「人工界面活性剤」との用語は、非天然的に生ずる界面活性剤を意味し、例えば、このような人工界面活性剤として、ポリオキシエチレン脂肪酸エーテル(polyoxyethylene fatty acid ethers)及びポリオキシエチレン脂肪酸エステル(polyoxyethylene fatty acid esters)及び下記表1に示される他のアニオン性の界面活性剤、カチオン性の界面活性剤、両性イオン界面活性剤、非イオン性界面活性剤を挙げることができる。
Figure 2007517893
本発明による脂質組成物の実施例を表2に示す。表2及びその他の例は本発明の実施例であるが、本発明による方法であればこの実施例に限定されない。表2に示された組成物を、「組成物A」とする。眼病を患っていない者及び眼病患者により使用された場合、組成物Aは涙液膜を安定させるとともに、眼瞼縁に塗布されたときの効果をより長く持続させる。例えば、以下に例示する組成物Aは、眼瞼縁に塗布後少なくとも12乃至24時間効果が持続する。
Figure 2007517893
L‐α‐ホスファチジルコリンはアメリカン・レシチン社より純度95%以上の物(PHOSPHOLIPON 100 G カタログ番号110561)が入手可能である。脂質組成物Bはミネラルオイル、中鎖トリグリセリド、スクワラン、コレステロールベヘネート、パルミチン酸ステアリルエステル、ビーズワックス、グリセロール、純度95%以上のL‐α‐ホスファチジルコリン(PHOSPHOLIPON 100 G)を表2に示した分量で混合し生成される。組成物A及びBは両方とも、ドライアイ疾患を患う患者により使用され、眼瞼縁に塗布後12乃至24時間は症状の緩和効果がある。これの生体内検査については以下の臨床検査の欄で示す。
(脂質組成物を生成する方法)
本発明の他の実施形態は、ドライアイ症状の治療に使用される脂質組成物(本明細書では脂質軟膏とも呼ぶ)の生成方法である。通常は、本発明の組成物は以下に説明する方法若しくは以下に説明する方法を改良した方法によりすぐに入手可能な原料を使用して用意するのが好ましい。この方法において、本明細書で記載していない細部に変更を加えた形態を活用することも可能である。本発明による脂質組成物を生成する方法が、本発明の他の組成物の生成に適用できることは、当該技術分野の当業者に明らかである。以下の説明は、本発明により開示される脂質軟膏、組成物Aの生成に関する要約である。
脂質軟膏の生成に先立ち、生成に使用する全ての器具は消毒された。また、材料を測定する過程や脂質軟膏を混合する過程は、手術用帽子、マスク、手袋を着用した実験者により、層流フード内で実施された。材料を測定中は、誤差防止のために層流フードの作動は中断された。L‐α‐レシチンは使用前に摂氏約4度で冷凍保存された。その後ピンセットとハサミを使用して、L‐α‐レシチンの小片が殺菌済みのはかりに載せられた。殺菌済み層流フード内で、以下の材料が任意の順序で殺菌済みの50mL試験管に添加された。
ミネラルオイル(ライト)13.55g (Spectrum Chemical社 番号M1501)
中鎖トリグリセリド 1.328g (Mead Johnson社 番号0056.64)
グリセロール 0.338g (Sigma Chemical社 番号G7893)
スクワラン 4.68g (Sigma Chemical社 番号S4510)
L‐α‐レシチン
(Phospholipon 100G) 1.26g (American Lecithin Co.社 番号110561)
上記した5種類の材料を試験管に添加後、試験管を摂氏80度の温水槽で1乃至2時間温めた。L‐ホスファチジルコリンが完全に溶解し、全ての材料が完全に分解又は分散するまで約5分毎にボルテックス撹拌し、均質性を有する第1混合物を生成した。第1混合物は濁りがあった。その後以下の材料が任意の順序で試験管内の第1混合物に添加された。
コレステロールベヘネート 2.295g(Sigma Chemical社 番号C‐6509)
パルミチン酸ステアリルエステル 1.125g(Sigma Chemical社 番号P‐6509)
ビーズワックス 1.148g(Aldrich Chemical Co.社 番号24,322‐1)
上記3種類の材料を添加後、上記3種類の材料が第1混合物に混合された。試験管を約80℃の温水槽で約15乃至30分間温めた後、全ての材料が溶解されるまで温水槽中で約5分ごとにボルテックス撹拌を行い、均質性を有する第2混合物が生成され、これを以って脂質組成物とした。ボルテックス撹拌は固形状態の第1混合物における4種類の材料の可溶化に必要な方法である。この4種類の材料は室温では液体状態である。第1混合物及び第2混合物は約50℃から約95℃の温度環境内で保存され、好ましくは約80℃で保存される。温水槽をフード近傍に置き、試験管又は容器内に組成物が充填され、常に組成物は約80℃で管理された。また、ボルテックス撹拌は試験管を温水槽から取り出す際に行われ、試験管内の脂質混合物は、凝固を防止するために迅速に殺菌済みの軟膏チューブに注入された。軟膏チューブを注入する際は水又はアルコールによる組成物への汚染が起こらないよう、注意した。生成された軟膏は室温まで冷却した後、脂質置換処置に使用される。
上記の調合に若干の変更を加えた形態も本発明の範囲内に含まれる。脂質組成を変化させた異なる組成も好適に用意できる。脂質の組成は患者のドライアイ症状の諸条件、症状の重症度、患者の涙液干渉像のパターン解析、又は治療が必要な患者の涙液中のムチン糖タンパク質の濃度に対応して変更できる。
開示された調合剤は、ミネラルオイル、ワセリン、スクワラン及びスクワレンからなる群より選択される炭化水素からなり、炭化水素は分岐炭化水素でも非分岐炭化水素でもよく、また飽和炭化水素でも不飽和炭化水素でもよい。「炭化水素」はアルキル、シクロアルキル、アルケニル、アルキニル、アリール及びそれらの組み合われたものより選択される。ミネラルオイル及びワセリンは主に直鎖炭化水素の混合物である。環状炭化水素を僅かな割合で含んでもよい。実施例において、ミネラルオイル又は主にC12からC24の炭化水素による混合体が、調合剤全体の約10重量%乃至約65重量%、若しくは調合剤の約35重量%乃至約65重量%、若しくは調合剤の約40重量%乃至約60重量%(若しくは単純に全ての成分のうち他の成分を差し引いた残り)で含まれる。脂質組成物の1実施形態にはC26からC36の炭化水素を含む。C26からC36の炭化水素の例として、スクワラン(C3062)又はスクワレン(C3050)が挙げられる。C26からC36の炭化水素は脂質組成物全体の約5重量%乃至約30重量%、若しくは約10重量%乃至約25重量%で含まれる。
開示された調合剤はモノグリセリド、ジグリセリド、トリグリセリド、遊離コレステロール、コレステロールエステル、脂肪酸エステル、ろうエステル、グリコール、極性脂質、遊離脂肪酸、遊離アルコール、若しくはそれと略同等のものからなる群より選択される少なくとも2種類の脂質の混合物からなる。各脂質組成物の濃度は約0.5重量%から約60重量%の範囲である。脂質源の例を限定せずに記載している米国特許第4866049号及び第5278151号明細書は本明細書に参考のために援用される。限定されない脂肪酸エステルの例はパルミチン酸ミリスチル及びパルミチン酸ミリシルを含む。
モノグリセリドは必要に応じて約1重量%乃至約10重量%で含まれる。ジグリセリドは必要に応じて約1重量%乃至約10重量%で含まれる。トリグリセリドは、例えば混合された中鎖トリグリセリド(例えば、6個から12個の炭素、或いは8個から10個の炭素)。混合された中鎖トリグリセリドは、カプリル酸、カプリン酸若しくはより長い炭素鎖長さを備える脂肪酸のグリセリド或いはこれらの組み合わせを含むことができる。このようなトリグリセリドは、約1重量%乃至約20重量%、約2重量%乃至約20重量%、約1重量%乃至約10重量%、又は約1重量%乃至約15重量%で含むことができる。
実施形態に用いられるコレステリルエステルの例としては、コレステリルアラキデート、コレステリルベヘネート、コレステリルパルミテート、及びコレステリルオレアートを含むが、これらに限定されない。一実施形態において、コレステリルエステルは約2重量%乃至約35重量%、約5重量%乃至約35重量%、又は約5重量%乃至約15重量%で含まれる。
実施形態に用いられる脂肪酸エステル及びろうエステルの例としては、パルミチン酸ステアリルエステル、ビーズワックス、人工ビーズワックス、パルミチン酸アラキジルエステル、パルミトレイン酸ステアリルエステル、或いはこれらの組み合わせを含むが、これらに限定されない。脂肪酸エステルは、例えばC10からC24の脂肪酸とC10からC20のアルコール又はC21からC34のアルコールからなるエステルとすることができる。開示された組成物は、約2重量%乃至約35重量%或いは約2重量%乃至約15重量%の脂肪酸エステル及びろうエステルを含むことができる。
ビーズワックスはハチの巣の主成分であって、蜂により生成される。ビーズワックスの主成分は以下の化学式4に示すパルミチン酸ミリシルである。
Figure 2007517893
ビーズワックスはまた、以下の化学式5に示す遊離セロチン酸(ヘキサコサン酸とも呼ばれる)、以下の化学式6に示すトリアンコンタノール、セロチン酸及びトリアンコンタノールのエステル、以下の化学式7に示すヘントリアコンターネ、ポリエステル、及びヒドロキシエステルなどの長鎖アルカンとすることができる。
Figure 2007517893
Figure 2007517893
Figure 2007517893
開示される組成物に使用に適するビーズワックスは、漂白されている又は漂白されていない。開示される組成物に人工ビーズワックスが使用することができる。人工ビーズワックス又は合成ビーズワックスは、天然ビーズワックスの組成を模擬した混合有機酸及び混合アルコールの反応生成物である。人工ビーズワックスは主に、C16からC32の脂肪酸及びC22乃至C34のアルコールのアルキルエステルからなる。
本発明の実施形態による組成物において、多様な炭素鎖の長さをもつグリコール(例えば、グリセロール)が約0.5重量%乃至約5重量%含まれる。必要に応じて、遊離コレステロール、植物ステロール、又はこれらの混合物が約1重量%乃至約5重量%含まれる。パルミチン酸、パルミトレイン酸、オレイン酸、リノレイン酸、又はこれらの混合物により例示される遊離脂肪酸が、必要に応じて約1重量%乃至約5重量%含まれる。
開示される組成物は、極性脂質を含むことができる。極性脂質としては例えばリン脂質(例えば、スフィンゴミエリン、ホスファチジン酸、L‐α‐ホスファチジルコリン、ホスファチジルイノシトール、ホスファチジルセリン、ホスファチジルエタノールアミン、ホスファチジルグリセロール)である。このような極性脂質は約0.5重量%乃至約20重量%又は約1重量%乃至約10重量%含むことができる。
上述したように、ごく僅かな量の水分が本発明の調合に含まれ、人工界面活性剤は本発明の調合からは除外されることが好ましい。本発明により開示された組成物に水溶液、点眼剤、或いはリポソームは含まれない。これらの物質はいずれも、我々の臨床経験から言って患者の目に安定的な脂質膜を定着させない。このような調合剤は眼表面から直ちに流れ落ちるため、本発明で観察されるような持続した治療的効果(即ち、患者に対する24時間以上の持続的な効果)を示さない。開示された組成物は、ドライアイ症状を患う患者と健康な被験者を対象として、涙液膜の拡散及び安定性の動態解析により開発及び検査された眼科用調合剤である。涙液膜の拡散及び安定性の解析は涙液干渉像のパターン及び多様なムチン濃度を含む脂質混合物の生体外検査に基づいて行われた。脂質膜の拡散率、厚さ、及び安定性は涙液中のムチン濃度に部分的に依存する。後者の状況はドライアイ患者の漿液及び/又はムチン涙液の機能不全に起因して生じるものである。本発明により脂質混合物で眼表面に補給を行う調合剤及び治療方法が提供される。
本発明の一実施形態は、約35重量%乃至約65重量%のC12からC24のアルカンからなるミネラルオイル若しくはその混合物と、約1重量%乃至約15重量%の中鎖トリグリセリドと、約10重量%乃至約25重量%のスクワランと、約5重量%乃至約15重量%のコレステリルベヘネートと、約2重量%乃至約15重量%のステアリルパルミテート又はパルミチン酸ステアリルエステルと、約2重量%乃至約15重量%の天然ビーズワックス若しくは人工ビーズワックスのエステルと、約0.5重量%乃至約5重量%のグリセロールと、約2重量%乃至約10重量%のL‐α‐ホスファチジルコリンとからなる組成物である。前記中鎖トリグリセリドは以下の化学式8で示され、R1、R2及びR3は互いに独立したC6からC12の分岐アルキル基若しくは非分岐アルキル基であり、互いに同一のもの、又は互いに異なるものとすることができる。
Figure 2007517893
組成物の一実施形態において、C12からC24のアルカンからなるミネラルオイル又はその混合物は、組成物の約40重量%乃至約60重量%含ませることができ、中鎖トリグリセリドは組成物の約1重量%乃至約10重量%含ませることができる。
上記した材料に加えて、中和剤、希釈剤、結合剤、安定剤、防腐剤などの薬学的に受け入れられる添加剤を含ませることができる。中性PH値は約6.0乃至約7.8の間の範囲が好ましい。非天然発生的な即ち人工的な界面活性剤(例えば、アニオン性、カチオン性、両性イオン性、非イオン性に分類される。表1参照)が調合に含まれないことが好ましい。水分は調合剤に含まれないことが好ましい。
好ましくは、調合剤は軟膏、クリーム、或いはペースト状に生成され、当該技術分野で知られるその他の形態も利用できる。眼科用の組成物は、Remington's Pharmaceutical Sciences (Maack Publishing Co.社、ペンシルバニア州イーストン)に説明され、本参考文献の内容は本明細書に参照のために組み込まれる。本発明の組成物内の効果的な材料の相対的な分量は、患者の状態に応じて効果的な投与を行えるように適切に調整することができる。
組成物A及びBを生体内で試験を行う前に、これらの組成物は本願発明者により開発された生体外検査により試験された。組成物A及びB発見前に複数の異なる調合剤が、用意された。以下の表3に開示される組成物I乃至IVについても、生体外及び生体内の検査で脂質置換処置に適当か否かが試験された。
Figure 2007517893
脂質混合物A及びBのみが、生体外検査で望ましい脂質パターンを形成した。即ち、脂質混合物I、II、III、及びIVは望ましい脂質パターンは形成しなかった。表2で説明される調合は、我々が開発した生体外検査システムに基づき、約0.16μg/mL乃至約8μg/mLのムチン濃度で安定的な脂質膜を生み出した。本発明の実施形態による方法で投与された組成物A及びBのみが、生体内検査でのドライアイ症状の試験において高い効果を示すことがわかった。脂質組成物I、II、III、及びIVは生体内検査でのドライアイ症状の試験において高い効果を示さなかった。
(治療方法及び組成物の投与方法)
本明細書で説明された改良を実現するために、本発明は、開示された組成物の脂質及び他の材料をゆっくりと放出する投与手順を提供する。これにより軟膏による霧視といった望ましくない副作用を回避し、緩和を持続させるために必要な投薬の回数が他の軟膏の塗布方法と比して減ることとなる。
本発明の実施形態において、LTD型ドライアイ、ATD型ドライアイ、及びLTD型ドライアイとATD型ドライアイの組み合わせ、表皮異形成、スティーブンスジョンソン症候群、マイボーム腺疾患、酒さ、眼瞼炎、兎眼、化学傷害、熱傷害、マイボーム腺機能不全を引き起こす疾患からなる群から選択される疾患を治療する方法であって、この方法は、これら疾患を患う患者に対して治療に効果的な量の組成物を投与する段階を備える。
本明細書で使用されているように、「治療に効果的な量」との用語やこの用語に若干の文法的な変更が加わった表現は、「患者に望ましい結果をもたらすために、投与が必要な組成物或いは活性物質の量」のことをいう。投与の結果、(完全な又は部分的な)ドライアイ症状の緩和が期待される。通常は、組成物は望ましい効果を得るために十分な期間にわたり投与される。治療効果は本明細書の記載の通り決定することができ、更に実験動物又は被験者に標準的な薬学的な手順を使用して決定することができる。
患者のドライアイを治療する方法であって、方法は組成物を治療に有効な量だけ投与する段階を備える。一実施形態において、下瞼の外皮又は上瞼の外皮に前記組成物を塗布する段階と、前記組成物を目に拡散させる段階とを備える方法により組成物が投与され、これにより、継続的に前記組成物の放出がなされるとともに前記組成物による受像のぼけが防止又は最小限化される。例えば、ある実施形態において、組成物は下瞼の下側の眼瞼縁若しくは上瞼の上側の眼瞼縁に塗布される。更に、ステロイド、抗生物質、リポカリン、ラクトフェリン、リゾチーム、シクロスポリンAなどのサイトカイン阻害薬及び抗酸化物質からなる群から選択される薬剤活性物質を、該物質が必要な患者の皮膚、眼表面に対して局所的に若しくは経口的に投与し、該投与が前記組成物の投与と同時に若しくは前記組成物の投与と独立して若しくは前記組成物の投与と連続的に行われてもよい。TH2阻害剤、FK‐506、GATA3、抗T細胞物質CD4、CD23、及びシステミックテトラサイクリンの投与を前記組成物の投与と同時に若しくは前記組成物の投与と独立して若しくは前記組成物の投与と連続的に行うことができる。
ドライアイを治療するのに必要とされる本明細書で開示された組成物の治療に有効な量は、幾つかの要因により決定される。幾つかの要因とは例えば、年齢、患者の通常の健康状態、治療が必要な詳細な容態(例えば、患者の涙液中のマイボーム脂質の欠如又は漿液及び/又はムチン涙液成分の欠如)及びその重症度、患者の身体的な活動性である。正確な投与量、投与回数、投与時機は最終的に担当医の裁量によるが、1日2回の適用が好ましい。例えば患者の眼瞼辺縁に対して片方ずつ、約5μg以上約10μg以下の調合剤を適用することができる。この量の脂質混合物であれば、瞬目後約12乃至24時間にわたり安定的な脂質膜を生成するのに十分である。
本発明の別の実施形態は、LTD型ドライアイ、ATD型ドライアイ、或いはLTD型ドライアイとATD型ドライアイの組み合わせを処置するために患者に対して調合剤を投与する方法を備える。通常、調合剤は上瞼又は下瞼に塗布され、ドライアイ症状の持続的な緩和をもたらす。本発明の方法による実施形態においては、本発明による調合剤は、上瞼又は下瞼(マイボーム腺がマイボーム脂質物質を分泌する領域の近く)に適用される。これにより、少量の調合剤を、眼表面に拡散させるとともに、涙液メニスカス中の液体に接触させ、眼球前方の涙液膜に浸入することができる。この調合剤は、睫毛の元近くに手動で塗布され、調合剤の塗布は、コットンのアプリケータ若しくはアイライナを塗るのに使用されるブラシを使用して行うことができる。
本発明による組成物は下瞼の外皮若しくは上瞼の外皮に塗布されてもよく、塗布は少なくとも1日1回から1日6回の頻度で、ドライアイ症状の改善及び重症度の低減をもたらすのに十分な期間にわたり行われてもよい。例えば、組成物は1回の塗布につき眼瞼表面の約1平方センチメートルに塗布することができる。
組成物はチューブ又はシリンジ型アプリケータから塗布されてもよい。シリンジ型アプリケータでは、シリンジ内の少なくとも1つの排出口から軟膏を押し出して組成物が塗布される。本発明の方法の一実施形態では軟膏アプリケータ(10)を用いて実行される。軟膏アプリケータ(10)の構造は図1乃至図3Aに示される。軟膏アプリケータ(10)を用いて本発明による組成物が上瞼又は下瞼近くに調節可能に塗布される。
図1は本発明の方法の一実施形態に使用される軟膏アプリケータ(10)の長手方向断面図である。ある実施形態において、アプリケータ(10)は軟らかいアプリケータ前端部(30)を備え、軟らかいアプリケータ前端部(30)は着脱可能なキャップ(20)により保護される。キャップ(20)は回転可能なアクチュエータ(70)周囲に回転可能に嵌合し、回転可能なアクチュエータ(70)は中空状ハウジング(40)周囲に回転可能に嵌合する。中空状ハウジング(40)は軟膏(52)を保持する容器(50)の壁面を定める。軟らかいアプリケータ・キャップ(30)は先端部(44)の排出口(42)に挿入される。2つのねじ状タブ(46)はアクチュエータ(70)に接続されるとともに、アプリケータ(10)のハウジング(90)内部に配される円柱形スピンドル(80)に当接する。ねじ状タブ(46)は、スピンドル先端(81)の後部の位置(48)で、スピンドル(80)に当接するように配される。スピンドル(80)の外周面に螺旋状のねじ部を備え、ねじ状タブ(46)と回転可能に螺合する。
外周面に螺旋状のねじ部を備えるスピンドルは、周囲をハウジング(90)で覆われるとともに、円錐状の先端(81)を備える。スピンドルの先端(81)は回転可能なプランジャ(82)に当接或いは装着される。又、スピンドル(80)は後部周縁(86)に突部(84)を備える。図1に示される実施形態においては、4つの突部(84)が示される。ハウジング(90)は4つの内側のガイド部(92)を備え、ガイド部(92)がスピンドル(80)の突部(84)を嵌合することで、スピンドル(80)が突部(84)及びガイド(92)同士が衝突を起こすまで回転するのを防ぐとともに、スピンドル(80)の横方向の移動(88)を補助する。突部(84)及びガイド(92)はスピンドル(80)が90度以上即ち4分の1回転以上回転するのを防ぐ。矢印(88)は、プランジャ(82)がリザーバ(50)方向に押圧されるときの、スピンドル(80)及びプランジャ(82)の横方向の移動を示す。
アクチュエータ(70)を時計回り方向に回転させると、タブ(46)はスピンドル(80)の外周面の螺旋状のねじ部と螺合し、スピンドル(80)及びプランジャ(82)がアクチュエータ(70)の長手方向に押圧され、プランジャ(82)がリザーバ(50)内へ進入する。これにより軟膏(52)がアプリケータ前端部(30)の排出用絞り穴(32)から絞り出される。図1に示されるアプリケータは、リップスティックに使用される市販のアプリケータに対して、細部に変更を加えた形態である。変更を加えられる要素は、絞り穴(32)の数と各絞り穴(32)の直径である。一実施形態において絞り穴(32)の数は1乃至5個で、各絞り穴は約0.1から約5mmの直径を備える。絞り穴の数及び直径が一回の塗布で軟膏が皮膚に及ぶ面積、及び皮膚上でのアプリケータの動かし方を決定する要因となる。アクチュエータは手動で回転され、軟膏を容器から調節可能な方法で絞り出すとともに、下瞼の或いは上瞼のできるだけ睫毛の根元に近い皮膚に、アプリケータを滑らせる。図1に示される軟膏アプリケータ(10)の実施形態に類似したアプリケータ(10)の使用法においては、チューブの絞り出し或いは簡易なプランジャ即ちシリンジ型のアプリケータで得られる形態よりも、より調整の効くように軟膏を絞り出すことができる。アプリケータを介して組成物を眼瞼辺縁上に塗布した後、フィンガーチップを使用して追加的な塗布を行うことができる。
アプリケータ(10)を使用して、眼瞼に軟膏を細い線状に塗布すると、アプリケータ(10)先端の排出口(42)が眼瞼縁に近い眼瞼の皮膚に配され、回転式のアクチュエータ(70)が回転され、タブ(46)がスピンドル(80)の外周面のねじ部に螺合する。同時にスピンドル(80)に接するプランジャ(82)が押圧されるととともに、第1の位置から第2の位置へと移動する。これにより組成物(52)の一部が絞り穴(32)から調節可能に絞り出され、眼瞼の皮膚に塗布される。
(初期生体外検査の概要)
ヘリックスプロマチア(HPA、Helix promatia)からのレクチン及び粘膜上皮ムチン(MEM、mucosal epithelial mucin)に対する抗体に基づき、酵素免疫測定法(ELISA、enzyme-linked immunosorbance assay)により、健康な被験者集団の涙液中のムチン濃度が0.21μg/mL乃至0.25μg/mLのブタ切除胃ムチン(PSM、porcine stomach mucin)に相当する範囲にあることが示された。このことから、酵素免疫測定法はPSMの標準量を基準として較正された。ドライアイを発症するリスクの高い年配の患者は、平均約0.75μg/mLのPSMと等しいムチン濃度を有していた。
患者の涙液中のムチン量に等しいとされるブタ切除胃ムチン(PSM)の量が、実験的な調合剤を検査する初期の生体外分析に使用された。
精製ムチン(Sygma社)がフィルタ処理され、BSS眼科用洗浄溶液(Alcon Laboratories社)中に溶解された。細孔0.45mmのフィルタを介してフィルタ処理がされ、不溶性残屑が除去され、連続希釈が行われた。各分析につき、ムチンを含む或いはムチンを含まない5mLのBSS溶液が角膜表面の温度に近似した摂氏32度で予め温められ、35mmペトリ皿(Becton Dickson社)に添加された。ディッシュの3.5mLの高さで切断し、プラスチック製リングを作製した。平均0.14μgの脂質混合物の液滴がステンレス製のスパチュラを介してリング中央の溶液表面に滴下された。特徴的なパターンで拡散する脂質組成物とその最終的な様子がティアスコープ光源(TEARSCOPE light source)(Keeler Instruments社)で視覚化され、3チップカラーCCDカメラ(PANASONIC(登録商標)社)で撮像された。CCDカメラは、倍率1×〜2×の解剖用立体顕微鏡(Carl Zeiss社)に装着された。ティアスコープ光源は、涙液干渉像のパターンに基づいて脂質層の厚さを測定する器具である。ティアスコープ光源は、ディッシュ周縁の全方向から均一な照射を提供する。
それぞれの検査条件につき、連続動画画像フレームが適用時(0秒)から100秒後まで等間隔(20秒間隔)でサンプリングされた。またMETEORフレームグラバー(METEOR frame grabber)(MATROX(登録商標)Electronics System社)を用いてデジタル化され、脂質膜で被覆される領域の割合が計算された。
(生体外検査の結果)
脂質混合物の幾つかの異なる調合が分析された。これらの調合は、室温環境でBSS溶液表面に塗布時、薄膜中に自発的な拡散を発生させ得る。4種類の脂質混合物I、II、III、IVはこの生体外検査では安定的な脂質膜を形成しなかった。しかしながら、一連の脂質組成物Aの検査では、安定的な脂質膜が急速に生成された。平均0.14μgの脂質組成物の塗布が、約0.75cm2の領域を被覆するのに十分であった。
精製後及びフィルタ処理後のムチンが濃度0.16μg/mLでBSS溶液中に添加し、更に脂質組成物Aを添加すると異なる脂質膜を生成した。生成された脂質膜はティアスコープ光源で明確に視覚化された。脂質膜の外観は灰色がかっており、色縁は欠如していた。暗色の薄膜で被覆された無数の小円状の領域と凝集した顆粒が確認された。ムチン濃度を0.8μg/mLまで上昇させると、同様の薄膜が生成されたが、このときの凝集した顆粒の数は、先の濃度0.16μg/mLでの結果よりも少なかった。又、境界は滑らかで、薄膜で被覆される領域は上記の結果よりも矮小であった。このようなパターンは正常な眼上で塗布したときに見られる条件に近似したものであり、本発明の調合によりもたらされる望ましい脂質パターンである。
ムチン濃度を8μg/mLにまで上昇させると、脂質膜により被覆される領域はムチン濃度0.8μg/mLの時と比してあまり変化しないが、不溶性の顆粒がより多く含まれた。脂質の拡散速度を概算するために、所定のフレームの膜の境界をデジタル化して、脂質被覆領域が計算された。ムチンが含まれない場合は、脂質膜は急速にプラスチック製リング内に拡散した。濃度0.16μg/mLのムチンを添加時も、脂質は急速に拡散し、プラスチック製リングで区切られる境界に到達した。分析の結果、ムチン濃度が上昇すると脂質膜の拡散速度は低下することが示された。
拡散速度は除々に低下するが、脂質組成物は濃度0.16μg/mL、0.8μg/mL、8μg/mLのいずれの濃度でもリング境界に到達した。しかしながら、8μg/mLより高い濃度では脂質膜は矮小でリング境界に到達するに至らなかった。更に分析の結果、ムチン濃度の上昇が脂質の拡散を遅らせることが確認された。
この生体外検査において、試験脂質混合物、組成物A、及びムチンを含有する平衡塩類溶液(BSS)の間の相互作用が自発的な脂質拡散に影響を及ぼすことが確認された。特に、BSS溶液中に存在するムチン濃度の上昇が拡散速度を遅らせ、この結果、脂質膜がより厚くなるとともに、異なる外観を呈することが確認された。この結果から水溶液中のムチンが表面上の脂質の挙動に対して影響を及ぼすという概念が裏付けられる。なぜならムチンを水溶液に添加すると表面脂質膜の表面張力を低下させ、脂質膜の拡散及び厚さに影響を及ぼすためである。また、ムチンが分離層として出現するのではなく、涙液膜全体に存在するという概念も裏付けられる。この新しい概念はレーザ干渉及び超微構造的解析を用いた最近の研究により裏付けられたものである。上述した結果は表面層の脂質と水溶液中のムチンの間に密接な関係性が存在することを示唆している。
要約すると、ごく少量の脂質混合物が生理食塩水の表面に添加される。この生理食塩水は涙液の電解質濃度を模倣したものである(0.64%塩化ナトリウム、0.0075%塩化カリウム、0.084%塩化カルシウム二水和物、0.03%塩化マグネシウム六水和物、0.39%酢酸ナトリウム三水和物、及び0.17%クエン酸ナトリウム二水和物が含まれ、それぞれの水溶性のpH値が7.4になるように調整された)。ムチン糖タンパク質が欠如すると、脂質混合物は、生体内での通常の厚さよりもはるかに薄い脂質膜とブラウン運動を行う顆粒を形成する。ムチン糖タンパク質の濃度が中程度の範囲(好ましくはPMSの約0.16μg/mLから約0.8μg/mL、或いは他のムチンでそれに相当する濃度)であれば、均一な厚さの安定的な脂質膜が約20秒乃至40秒間以内で形成される。この技術に基づき、本発明により開示された脂質組成物が、検査が行われた幾つかの脂質混合物の中から選択された。開示された調合剤は、長時間にわたり安定する適度な厚さの脂質膜を生成する。
(臨床試験の概要)
脂質混合物、組成物A及び組成物Bがこの臨床試験において治療に用いられた。臨床試験とその優れた結果については以下に示す。組成物A及びBの脂質成分の内訳については表2を参照のこと。唯一異なる点として、2つの組成物の間で純度の異なるL‐α‐ホスファチジルコリンが用いられた。調合剤を被験者の眼に塗布して検査したところ、症状の主観的記述からも、生体顕微鏡検査による外面的な客観的評価からも副作用は全く観察されなかった。更に、患者の予備治療では調合剤の非毒性が確認され、肯定的な効果が示された。眼瞼辺縁近くの眼瞼の外皮に塗布後5分以内で、多くの患者は爽快感を感じ、目の不快感が軽減されたと答えた。これらの患者はマイボーム腺機能不全、様々な形態のドライアイ症状、化学火傷による瞼の異常、スティーブンスジョンソン症候群、眼類天疱瘡を患っている。
(臨床試験)
以下に、本発明による脂質軟膏が患者の症状を改善させる臨床的効果を示したケースを記載する。更に、この臨床的効果はTIの変化により裏付けられている。
(患者番号1)
(病歴):80歳の女性が、眼に灼熱感、乾燥感、不快感が15年来続くと訴えた。これらの症状は起床直後と夕方にかけてひどくなり、更に午前中は両眼に異物感が伴っていた。右眼の症状は左眼の症状よりも重かった。患者は右側を下にして寝る癖があった。患者は数人の眼科医の診察を受け、何れの眼科医も人工涙液による治療を行ったが、改善は見られなかった。
(検査):視力:右眼:20/30‐1、左眼:20/50。対座法によると視野は正常であった。眼球運動は正常であった。求心性瞳孔障害は認められなかった。強膜炎、兎眼又は眼瞼下垂症は認められなかった。全ての涙点は開き、膨張していた。上下の涙液メニスカスは結膜弛緩症により緩んだ結膜のヒダの重なりでふさがれており、左眼よりも右眼で症状の悪化が認められた。結膜は1+炎症で、左眼よりも右眼が悪化していた。マイボーム分泌不良及びマイボーム腺孔の扁平上皮化生があり、マイボーム腺機能不全が認められた。涙液層破壊時間は右眼:1秒及び左眼:2秒であった。ローズベンガル又はフルオレセインによる染色試験の結果は陰性であった。その他の検査結果は特に異常はなかった。
フルオレセインクリアランステスト(FCT、Fluorescein Clearance Test):反射性涙液分泌とともに正常な漿液分泌があった。クリアランスは遅延した。TI(涙液干渉)の結果、涙液干渉像はLTD型ドライアイに特徴的なゆっくりとした拡散時間と小さな厚さを有する縦縞パターンを作り出した。脂質潤滑剤が眼瞼辺縁に沿う皮膚に塗布されると、このパターンは拡散時間の短縮とともにすぐに改善され、症状は緩和した。患者は脂質潤滑剤を1日1回、防腐剤なしのステロイドを1日3回処方され、2週間後には眼の灼熱感、乾燥、眼の不快感において約80%の回復を見せた。
(患者番号2)
(病歴):67歳女性で、2年半前に両眼にレーシック手術(レーザー光線による近視手術)を受けた眼科に関する経歴があった。術後3ヶ月経過時に左眼に増強処置を施した。術後3ヶ月経過時に、患者は起床時及び午前中に眼に異物感と痛みを感じ、1日中眼が乾燥すると訴え始めた。左眼よりも右眼の症状がひどかった。患者は最近酒さと診断されていた。また20年前に眼瞼4箇所に眼瞼形成手術を受けていた。患者はシクロスポリン点眼薬と防腐剤なしのメチルプレドニゾロンの治療を受けたが、改善は見られなかった。
(検査):視力:右眼:20/80−2、左眼:20/20(コンタクトレンズ装着時)。対座法により視野は正常であった。眼球運動は正常であった。求心性瞳孔障害はなかった。全ての涙点は開き、膨張していた。両眼とも上下の涙液メニスカスは結膜弛緩症による緩んだ結膜のヒダの重なりによりふさがれていた。瞼裂斑が両眼で眼球側頭部の結膜に確認された。顕著な結膜弛緩症が両眼の下結膜円蓋に確認された。結膜充血が眼球露出部に確認された。両眼に強膜炎が2mm認められた。発赤やマイボーム分泌不良により、眼瞼縁のマイボーム腺機能不全が裏付けられた。
フルオレセインクリアランステスト:正常な漿液分泌及び遅延涙液クリアランス(DTC、delayed tear clearance)。涙液干渉像による動態解析が実行され、LTD型ドライアイのパターンが示された。脂質潤滑剤が上下眼瞼の皮膚に塗布されると、このパターンは拡散時間の短縮とともにすぐに改善され、患者の症状は直ちに改善した。患者は脂質潤滑剤が処方され、1ヶ月後には症状が全くないほどに回復し、視力は右眼が20/40に改善した。
(患者番号3)
(病歴):77歳の女性が右眼の流涙と視界不良を訴えた。この症状は起床30分後に現れ、一日中続いた。これらの症状により患者は運転、テレビ観賞、読書が困難となった。症状は一進一退を繰り返しながら、年月を経るにつれ悪化した。以前に、患者は眼瞼炎と診断され自己血清剤による治療を行ったが改善しなかった。患者は2年前に白内障手術を受け、眼内レンズ移植を行っており、手術は成功した。また患者は2年前に右下眼瞼に基底細胞癌除去を行っている。
(検査):視力:矯正なしで右眼:20/30‐2、左眼:20/40‐1。瞬目は良好であった。対座法により視野は正常であった。眼球運動は正常であった。瞳孔には求心性瞳孔障害は認められなかった。眼瞼は右眼で+1下垂が認められたが、左眼には認められなかった。上方に強膜炎の増加が見られた。全ての4箇所の涙点は開き、膨張していた。瞼板は充血しており、右眼のほうが左眼よりも悪かった。眼瞼縁に炎症はなかった。マイボーム分泌不良、腺孔部の化生、粘膜皮膚移行部の前方移動があることから、マイボーム腺機能不全が認められた。結膜弛緩症が両眼の側頭側及び鼻側において認められた。瞼裂斑が両眼の鼻側及び耳側の眼球結膜に認められた。1つの逆睫毛が左下眼瞼に認められた。フルオレセイン染色の結果は陰性であった。涙液層破壊時間は両眼とも0秒であった。
涙液干渉像による動態解析の結果、両眼とも脂質が欠乏していることがわかった。像パターン、厚さ、脂質の拡散時間及び症状は、上下眼瞼に脂質潤滑剤を塗布後、直ちに改善した。漿液の機能を評価するために、FCTが実行され、両眼とも正常な漿液分泌及び反射性涙液を伴う遅延涙液クリアランスがあった。
(患者番号4)
病歴:57歳の女性が、2002年10月に起床時に眼が乾燥すると訴えた。患者は防腐剤なしの人工涙液とコンタクトレンズを使用し、教師として勤務していた。それ以降、患者は起床時の左眼に灼熱感を伴う不快感及び粘液の増加が気になるようになった。患者は局所的なトブラマイシン点眼の治療を受け、症状は消えた。しかしながらコンタクトレンズ装着時の不耐性は引き続き認められ、その症状は右眼にも広がった。1ヵ月後、患者は新たな防腐剤なしの人工涙液とFMLを処方されたが、改善しなかった。患者の眼科医は表在性点状角膜炎及び乾燥を認め、「兎眼」を疑った。症状の訴えは、灼熱感と乾燥が特徴的で眼の掻痒感や痛みは伴わなかった。症状は起床直後がより深刻であった。以前に患者は経口投与の精神安定剤を30年間にわたり内服していた。
(検査):視力は両眼とも20/20であった。瞬目は良好であった。対座法により視野は正常であった。眼球運動は正常であった。瞳孔には求心性瞳孔障害は認められなかった。両眼とも眼瞼下垂は認められなかった。瞼板は1+発赤であった。全ての4つの涙点は開いていた。眼瞼縁の炎症は認められなかった。両眼において瞼裂斑が側頭部の露出部に認められた。マイボーム分泌不良、腺孔部の化生からマイボーム腺機能不全が認められた。軽度の結膜弛緩症が両眼の側頭側に認められた。涙液メニスカスは低かった。涙液層破壊時間は両眼とも0秒であった。その他の検査結果は正常であった。
漿液の機能を評価するために、FCTが実行され、遅延涙液クリアランスを伴う反射性涙液分泌とともに漿液機能不全が示された。防腐剤なしの1%メチルプレドニゾロンを2週間処方した。その次の来診時に、患者は症状の50%の回復を見せた。同日、涙液干渉像による動態解析を行うと、角膜下方のより厚い(色鮮やかな)脂質層並びに角膜上方の顕著な縦縞という混在パターンが示された。脂質潤滑剤を塗布後、脂質の厚さはより均一な拡散を呈し、拡散時間も改善した。更に患者は両眼ともにより湿潤となり、患者はより快適に感じるようになった。涙点プラグが両眼の下涙点に適用された。3週間後、患者は乾燥に関して更に50%の回復を見せた。TI像解析が再度実行され、脂質層は正常な厚さ、拡散時間及びパターンを呈した。
(患者番号5)
(病歴):48歳の女性が2000年12月にラクミタルを服用後、中毒性表皮剥離症を併発したスティーブンスジョンソン症候群を発症した。患者はスティーブンスジョンソン症候群の急性発作からの回復以来、起床時に粘液で上下の瞼がこびりついて眼が開かず、眼の不快感、羞明が一日中続くと訴えた。罹患後最初の6ヶ月間は、患者は両眼に痛み及び羞明を訴えた。患者は強膜レンズ(ボストンレンズ)を試したが、眼の不快感はやや緩和されたものの、結果的に粘液が急激に増加し視界を遮断したため、改善しなかった。患者は全ての4つの涙点について焼灼術による涙点閉塞手術を受け、ある程度の改善が見られた。自己血清点眼剤とラクリサートの使用は効果がなかった。患者は人工涙液を数分置きに使用していた。以前患者は30歳の頃に4つの眼瞼に眼瞼形成を行っていた。
(検査):視力は右眼:20/20−3及び左眼:20/30+1。対座法により視野は正常であった。眼球運動は正常であった。瞳孔には求心性瞳孔障害は認められなかった。強膜炎、兎眼は認められなかったが、眼瞼は1+下垂であった。全ての4箇所の涙点は閉塞状態で、涙液メニスカスの高さは正常以上であった。結膜は露出部及び下瞼板結膜が充血していたが、それ以外の部分は鎮静していた。涙液層破壊時間は両眼とも0秒であった。眼瞼には角質化が右眼の側頭側の上下眼瞼と、左眼の鼻側及び側頭側の領域で見られた。瞼球癒着が両眼の下円蓋部で見られ、左眼よりも右眼のほうが悪化していた。マイボーム分泌不良及びマイボーム腺孔の化成よりMGD(マイボーム腺機能不全)が認められた。左眼上瞼板に傷が発見された。左眼中央部に軽度の角質化が認められた。軽度の逆睫毛が認められた。
涙液干渉像の動態分析の結果、深刻なLTD型ドライアイであることがわかった。脂質軟膏を眼瞼の外側の皮膚に塗布後、患者は直ちに改善傾向が見られ、不快感が著しく減少するとともに人工涙液の使用頻度が減った。TIのパターンも改善した。その後患者は脂質潤滑剤を日常的に使用している。
Figure 2007517893
本発明は好適な実施形態を参考にしながら詳細に記載したが、本発明に係る請求項の範囲及び精神から逸脱しない限りは細部に変更を加えた実施形態が作られうることは当業者には明らかである。
軟膏アプリケータ(10)の長手方向断面図であり、軟膏アプリケータ(10)は本発明の実施形態にしたがって、組成物を塗布するのに用いられる。 軟膏アプリケータ(10)の先端部(44)における断面図である。 ハウジング(90)の縦断面図であり、ガイド部(92)とスピンドル(80)の組立挿入部が示されている。 スピンドル(80)の基端部(図2における2A−2A線)におけるアプリケータ(10)の端部を示す図であり、周面に配された突部(84)が示されている。 図2の2B−2B線におけるハウジング(90)の断面図であり、ガイド部(92)が示されている。 図2の2C−2C線におけるハウジング(90)とスピンドル(80)の組立構造物の断面図である。 アプリケータ(10)の部分断面図であり、ハウジング(90)は取り除かれスピンドル(80)の組立形態が明瞭に示されている。スピンドル(80)はその外周面に螺旋状のねじ部を備え、2つのねじ状タブ(46)と螺合する。ねじ状タブ(46)は、アクチュエータ(70)と接続する。 図3の組立工程を示す。

Claims (38)

  1. (a)C12からC24の分岐炭化水素若しくはC12からC24の非分岐炭化水素と、
    (b)中鎖トリグリセリドと、
    (c)C26からC36の分岐炭化水素若しくはC26からC36の非分岐炭化水素と、
    (d)コレステリルエステルと、
    (e)C10からC24の脂肪酸とC10からC20のアルコールからなるエステルと、
    (f)C10からC24の脂肪酸とC21からC34のアルコールからなるエステルと、
    (g)グリセロールと、
    (h)極性脂質を含むことを特徴とする組成物。
  2. 水成分を略有さないことを特徴とする請求項1記載の組成物。
  3. 人工的な界面活性剤を略有さないことを特徴とする請求項1記載の組成物。
  4. 軟膏、ペースト及びクリームから選択される形態をなすことを特徴とする請求項1記載の組成物。
  5. 前記C12からC24の炭化水素がミネラルオイルを含有することを特徴とする請求項1記載の組成物。
  6. 前記中鎖トリグリセリドが、下式の化合物を含むことを特徴とする請求項1記載の組成物。
    Figure 2007517893
    (R1、R2及びR3はC6からC12の分岐アルキル基若しくは非分岐アルキル基であり、互いに同一のもの又は、互いに異なるものとすることができる。)
  7. 前記C26からC36の炭化水素がスクワランを含むことを特徴とする請求項1記載の組成物。
  8. 前記コレステリルエステルが、コレステリルベヘネートを含むことを特徴とする請求項1記載の組成物。
  9. 前記C10からC24の脂肪酸とC10からC20のアルコールからなるエステルがステアリルパルミテート又はパルミチン酸ステアリルエステルを含むことを特徴とする請求項1記載の組成物。
  10. 前記C10からC24の脂肪酸とC21からC34のアルコールからなるエステルが、パルミチン酸ミリシルを備えることを特徴とする請求項1記載の組成物。
  11. 前記C10からC24の脂肪酸とC21からC34のアルコールからなるエステルが、漂白された又は未漂白のビーズワックスを含むことを特徴とする請求項1記載の組成物。
  12. 前記ビーズワックスが天然のビーズワックス及び人工のビーズワックスからなる群から選択されることを特徴とする請求項11記載の組成物。
  13. 前記極性脂質がリン脂質を含むことを特徴とする請求項1記載の組成物。
  14. 前記リン脂質がL−α−ホスファチジルコリンを含むことを特徴とする請求項13記載の組成物。
  15. (a)約35重量%から約65重量%の前記C12からC24の分岐又は非分岐炭化水素と、
    (b)約1重量%から約15重量%の前記中鎖トリグリセリドと、
    (c)約10重量%から約25重量%の前記C26からC36の分岐又は非分岐炭化水素と、
    (d)約5重量%から約15重量%の前記コレステリルエステルと、
    (e)約2重量%から約15重量%の前記C10からC24の脂肪酸とC10からC20のアルコールからなるエステルと、
    (f)約2重量%から約15重量%の前記C10からC24の脂肪酸とC21からC34のアルコールからなるエステルと、
    (g)約0.5重量%から約5重量%の前記グリセロールと、
    (h)約2重量%から約10重量%の前記極性脂質を含むことを特徴とする請求項1記載の組成物。
  16. (a)C12からC24のアルカンを含むミネラルオイル又は混合物と、
    (b)下式の化合物を含む中鎖トリグリセリドと、
    Figure 2007517893
    (R1、R2及びR3はC6からC12の分岐アルキル基又は非分岐アルキル基であり、互いに同一のもの又は、互いに異なるものとすることができる。)
    (c)スクワランと、
    (d)コレステリルベヘネートと、
    (e)ステアリルパルミテート又はパルミチン酸ステアリルエステルと、
    (f)天然又は人工ビーズワックスと、
    (g)グリセロールと、
    (h)L−α−ホスファチジルコリンを含むことを特徴とする組成物。
  17. (a)約35重量%から約65重量%の前記C12からC24のアルカンを含むミネラルオイル若しくは混合物と、
    (b)約1重量%から約15重量%の前記中鎖トリグリセリドと、
    (c)約10重量%から約25重量%の前記スクワランと、
    (d)約5重量%から約15重量%の前記コレステリルベヘネートと、
    (e)約2重量%から約15重量%の前記ステアリルパルミテート又は前記パルミチン酸ステアリルエステルと、
    (f)約2重量%から約15重量%の前記天然又は人工ビーズワックスと、
    (g)約0.5重量%から約5重量%の前記グリセロールと、
    (h)約2重量%から約10重量%の前記L−α−ホスファチジルコリンを含むことを特徴とする請求項16記載の組成物。
  18. 前記C12からC24のアルカンを含むミネラルオイル又は混合物が、前記組成物の約40重量%乃至約60重量%を占め、
    前記中鎖トリグリセリドが、前記組成物の約1重量%乃至約10重量%を占めることを特徴とする請求項17記載の組成物。
  19. 患者のドライアイ状態を治療する組成物を製造する方法であって、該方法は、
    (a)C12からC24のアルカンを含むミネラルオイル又は混合物、下式の化合物を含む中鎖トリグリセリド、C26乃至C36の分岐又は非分岐炭化水素、グリセロール及び極性脂質を接触させ、原料の第1混合物を製造する段階と、
    Figure 2007517893
    (R1、R2及びR3はC6からC12の分岐アルキル基又は非分岐アルキル基であり、互いに同一のもの又は、互いに異なるものとすることができる。)
    (b)前記第1混合物を第1の状態に維持し、該第1の状態において前記原料が分散し、第1の溶液又は第1の懸濁液が形成される段階と、
    (c)前記第1混合物をコレステリルエステル、C10からC24の脂肪酸とC10からC20のアルコールからなるエステル、C10からC24の脂肪酸とC21からC34のアルコールからなるエステルと接触させ、第2混合物を製造する段階と、
    (d)前記第2混合物を第2の状態に維持し、該第2の状態において前記第1の混合物の原材料が第2の混合物とともに分散し、これにより組成物を形成する段階を備えることを特徴とする方法。
  20. 前記第1の状態並びに前記第2の状態における温度が、約50℃以上約90℃以下であることを特徴とする請求項19記載の方法。
  21. 前記第1の状態において、第1の期間、前記第1混合物を撹拌し、該第1混合物が外見上均質化し、
    前記第2の状態において、第2の期間、前記第2混合物を撹拌し、該第2混合物が外見上均質化することを特徴とする請求項19記載の方法。
  22. 請求項1乃至18いずれかの組成物を治療に有効な量だけ投与する段階を備えることを特徴とする患者のドライアイ状態の治療方法。
  23. LTD型ドライアイ、ATD型ドライアイ、LTD型ドライアイ及びATD型ドライアイの組み合わせ、表皮異形成、スティーブンスジョンソン症候群、マイボーム腺疾患、酒さ、眼瞼炎、兎眼、化学傷害、熱傷害、マイボーム腺機能不全を引き起こす疾患からなる群から選択される疾患を治療する方法であって、請求項1乃至18いずれかに記載の組成物を治療に有効な量だけ患者に投与する段階を備えることを特徴とする方法。
  24. 患者のドライアイを治療する方法であって、
    (a)涙液干渉像の動態解析を用いて、患者の涙液油層の範囲を解析する段階と、
    (b)前記涙液油層の範囲がLTD型ドライアイの特徴であるか否かを判断し、前記涙液油層の範囲がLTD型ドライアイの特徴を示すならば、請求項1乃至18いずれかに記載の組成物を治療に有効な量だけ投与する段階を備えることを特徴とする方法。
  25. 下瞼の外皮若しくは上瞼の外皮に前記組成物を塗布する段階と、前記組成物を目に拡散させる段階とを備える方法により前記組成物が投与され、
    これにより、継続的に前記組成物の放出がなされるとともに前記組成物による受像のぼけが防止若しくは最小限化されることを特徴とする請求項22乃至24いずれかに記載の方法。
  26. 前記組成物が、下瞼の下側の眼瞼縁又は上瞼の上側の眼瞼縁に塗布されることを特徴とする請求項25記載の方法。
  27. ステロイド、抗生物質、シクロスポリンA及び抗酸化物質からなる群から選択される薬剤活性物質を、患者の皮膚、眼表面に対して局所的に又は経口的に投与し、該投与が前記組成物の投与と同時に又は前記組成物の投与と独立して又は前記組成物の投与と連続的に行われることを特徴とする請求項22記載の方法。
  28. 前記組成物が瞼に対して1回当たり、約10μg以上約50μg以下であることを特徴とする請求項22乃至26いずれかに記載の方法。
  29. 前記組成物が下瞼の外皮及び上瞼の外皮に塗布され、ドライアイの状態を改善する若しくはドライアイの症状の重症度を低減させるのに十分な期間、前記組成物の塗布が1日に少なくとも1回行われることを特徴とする請求項23記載の方法。
  30. 前記組成物が、各投与において、瞼表面の約1cmの領域に塗布されることを特徴とする請求項25記載の方法。
  31. 前記組成物の塗布が、1日当たり1回乃至6回行われることを特徴とする請求項22乃至30いずれかに記載の方法。
  32. アプリケータ(10)の前端部(30)に配される少なくとも1つの排出用絞り穴(32)から前記組成物(52)を押し出すことにより、前記組成物(52)が塗布され、
    前記アプリケータ(10)は、前記組成物(52)を収容する円筒形状のリザーバ(50)を定める中空ハウジング(40)を備え、
    前記リザーバ(50)は、前記絞り穴(32)と流体が流通可能なように連通し、
    前記アプリケータ(10)は、前記リザーバ(50)から前記絞り穴(32)を介して前記組成物(52)を弾性的に押し出すプランジャ(82)を備え、
    該プランジャ(82)は、前記リザーバ(50)内に嵌入されるとともに該リザーバ(50)内を移動可能であり、
    前記アプリケータ(10)は更に、アクチュエータ手段(70)を備え、該アクチュエータ手段(70)は、前記リザーバ(50)内に前記組成物(52)が留まる第1の位置から前記絞り穴(32)を介して前記組成物(52)の一部が押し出されるとともに下瞼の外皮又は上瞼の外皮に塗布される第2の位置まで選択的に移動可能であることを特徴とする請求項22乃至31いずれかに記載の方法。
  33. 前記プランジャ(82)の表面が前記アプリケータ(10)のハウジング(90)内に位置する円筒形状のスピンドル(80)の先端(81)に接触し、
    前記スピンドル(80)は、その外周面にねじ部を備え、
    該ねじ部は、前記アクチュエータ(70)に固定されたタブ(46)と摩擦により噛合い、
    前記アクチュエータ(70)は回転可能であるとともに前記中空ハウジング(40)に摩擦により嵌合し、
    前記方法は更に、前記アクチュエータ(70)を回転させ、前記タブ(46)を前記スピンドル(80)の外周面のねじ部に噛合わせるとともに、前記プランジャ(82)を前記スピンドル(80)に接触させて前記第1の位置から前記第2の位置に引き、これにより、前記絞り穴(32)を介して前記組成物(52)の一部が制御可能に押し出され、瞼の皮膚に前記組成物(52)の一部が塗布されることを特徴とする請求項22乃至32いずれかに記載の方法。
  34. 患者に少なくとも1つの脂質を含む軟膏を投与するとともに軟膏の持続的な放出並びに軟膏による受像のぼけを防止することによりドライアイの状態を治療する方法であって、
    該方法は、下瞼の外皮の下側の眼瞼縁又は上瞼の外皮の上側の眼瞼縁に、治療に有効な量の前記軟膏を塗布する段階と、
    眼に前記軟膏を拡散させる段階を備えることを特徴とする方法。
  35. 前記軟膏が、略水成分を含有せず、また、人工の界面活性剤を略含有しないことを特徴とする請求項34記載の方法。
  36. LTD型ドライアイ、ATD型ドライアイ、LTD型ドライアイ及びATD型ドライアイの組み合わせ、表皮異形成、スティーブンスジョンソン症候群、マイボーム腺疾患、酒さ、眼瞼炎、兎眼、化学傷害、熱傷害、マイボーム腺機能不全を引き起こす疾患からなる群から選択される疾患を治療する医薬品の製造における請求項1乃至18いずれかに記載の組成物の使用。
  37. 極性脂質及び非極性脂質を備える組成物の使用であって、前記組成物が、水成分、人工界面活性剤、人工ポリマーを略備えず、
    前記組成物がLTD型ドライアイ、ATD型ドライアイ、LTD型ドライアイ及びATD型ドライアイの組み合わせ、表皮異形成、スティーブンスジョンソン症候群、マイボーム腺疾患、酒さ、眼瞼炎、兎眼、化学傷害、熱傷害、マイボーム腺機能不全を引き起こす疾患からなる群から選択される疾患を治療する医薬品の製造に用いられることを特徴とする組成物の使用。
  38. 下瞼の外皮の下側の眼瞼縁又は上瞼の外皮の上側の眼瞼縁に、治療に有効な量の前記組成物を塗布する段階と、前記組成物を眼に拡散させる段階を備える前記組成物の搬送が行われ、これにより前記組成物の持続的放出がなされるとともに、前記組成物による受像のぼけが防止されることを特徴とする請求項37記載の組成物の使用。
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