本発明の実施の形態について図面を参照しながら詳細に説明する。なお、図中同一または相当部分には同一符号を付してその説明は繰返さない。
[実施の形態1]
図1は、この発明の実施の形態1による面発光レーザ素子の概略断面図である。図1を参照して、この発明の実施の形態1による面発光レーザ素子100は、基板101と、バッファ層102と、反射層103,107と、共振器スペーサー層104,106と、活性層105と、選択酸化層108と、コンタクト層109と、SiO2層110と、絶縁性樹脂111と、p側電極112と、n側電極113とを備える。なお、面発光レーザ素子100は、780nm帯の面発光レーザ素子である。
基板101は、n型ガリウム砒素(n−GaAs)からなる。バッファ層102は、n−GaAsからなり、基板101の一主面に形成される。反射層103は、n−AlAs/Al0.3Ga0.7Asの対を一周期とした場合、44.5周期の[n−AlAs/Al0.3Ga0.7As]からなり、バッファ層102上に形成される。
共振器スペーサー層104は、(Al0.1Ga0.9)0.5In0.5Pからなり、反射層103上に形成される。活性層105は、GaInPAs/GaInPの多重量子井戸構造を有し、共振器スペーサー層104上に形成される。
共振器スペーサー層106は、Al0.6Ga0.4Asからなり、活性層105上に形成される。反射層107は、p−Al0.9Ga0.1As/Al0.3Ga0.7Asの対を一周期とした場合、26周期の[p−Al0.9Ga0.1As/Al0.3Ga0.7As]からなり、共振器スペーサー層106上に形成される。
選択酸化層108は、p−AlAsからなり、反射層107中に設けられる。そして、選択酸化層108は、非酸化領域108aと酸化領域108bとからなり、20nmの膜厚を有する。
コンタクト層109は、p−GaAsからなり、反射層107上に形成される。SiO2層110は、共振器スペーサー層104の一部の一主面と、活性層105、共振器スペーサー層106、反射層107、選択酸化層108およびコンタクト層109の端面とを覆うように形成される。
絶縁性樹脂111は、SiO2層110に接して形成される。p側電極112は、コンタクト層109の一部および絶縁性樹脂111上に形成される。n側電極113は、基板101の裏面に形成される。
そして、反射層103,107の各々は、活性層105で発振した発振光をブラッグの多重反射により反射して活性層105に閉じ込める半導体分布ブラッグ反射器を構成する。
図2は、図1に示す活性層105の近傍の断面図である。図2においては、面発光レーザ素子100の発振状態における発振光の電界の強度分布も模式的に示している。図2を参照して、反射層103は、低屈折率層1031と、高屈折率層1032と、組成傾斜層1033とを含む。低屈折率層1031は、n−AlAsからなり、高屈折率層1032は、n−Al0.3Ga0.7Asからなり、組成傾斜層1033は、低屈折率層1031および高屈折率層1032の一方の組成から他方の組成へ向かって組成を変化させたn−AlGaAsからなる。
組成傾斜層1033が設けられるのは、低屈折率層1031と高屈折率層1032との間の電気抵抗を低減するためである。
低屈折率層1031は、d1の膜厚を有し、高屈折率層1032は、d2の膜厚を有し、組成傾斜層1033は、d3の膜厚を有する。
組成傾斜層1033を含まない急峻な界面を備えた反射層の場合には、反射層を構成する低屈折率層と高屈折率層の膜厚は、ブラッグの多重反射の位相条件を満たすように、レーザ発振波長(λ=780nm)に対してλ/4n(nは各半導体層の屈折率、以下同じ。)に設定される。
このλ/4nの膜厚は、各半導体層中における発振光の位相変化量がπ/2となる膜厚である。実施の形態1のように、組成傾斜層1033を含む場合では、各半導体層と組成傾斜層1033を含めた厚さが、ブラッグの多重反射の条件を満たすように設定される。
そして、膜厚d3は、たとえば、20nmに設定され、d1+d3およびd2+d3がブラッグの多重反射の条件を満たすように、膜厚d1,d2の各々が設定される。すなわち、反射層103中における発振光の位相変化量がπ/2となるように、d1+d3およびd2+d3の各々が設定される。
反射層103のうち、共振器スペーサー層104側に配置された3個の低屈折率層1031A,1031B,1031Cは、他の低屈折率層1031の膜厚d1よりも厚い光学的な膜厚D1を有する。そして、光学的な膜厚D1は、mλ/4n(mは2以上の整数)である。すなわち、反射層103を構成する複数の低屈折率層1031のうち、共振器スペーサー層104側に配置された3個の低屈折率層1031A,1031B,1031Cの膜厚は、他の低屈折率層1031の膜厚d1よりも厚いmλ/4n(mは2以上の整数)に設定される。
反射層107は、低屈折率層1071と、高屈折率層1072と、組成傾斜層1073とを含む。低屈折率層1071は、p−Al0.9Ga0.1Asからなり、高屈折率層1072は、p−Al0.3Ga0.7Asからなり、組成傾斜層1073は、低屈折率層1071および高屈折率層1072の一方の組成から他方の組成へ向かって組成を変化させたp−AlGaAsからなる。
その他は、反射層103と同じである。
面発光レーザ素子100において、共振器スペーサー層104,106および活性層105は、共振器120を構成する。共振器120は、これらの半導体層中における発振光の位相変化量が2πとなるように設定されており、一波長共振器構造を形成する。
また、誘導放出確率を高めるために、活性層105は、共振器120(=共振器スペーサー層104,106および活性層105)内における中央部に位置し、かつ、発振光の定在波分布における腹に対応する位置に設けられる。
反射層103,107は、低屈折率層1031,1071側がそれぞれ共振器スペーサー層104,106に接するように構成されており、低屈折率層1031,1071と共振器スペーサー層104,106との界面が発振光の電界の定在波分布における腹となっている。
また、上述したように、d1+d3またはd2+d3は、発振光の位相変化量がπ/2になるように設定されるので、低屈折率層1031,1071と高屈折率層1032,1072との界面では、腹と節とが交互に現れる。
選択酸化層108は、反射層107において、共振器120(=共振器スペーサー層104,106および活性層105)から4周期目の低屈折率層1071中に設けられる。より具体的には、選択酸化層108は、発振波の電界の定在波分布における節の位置に設けられる。
そして、選択酸化層108を設けた低屈折率層1071の膜厚は、組成傾斜層1073の一部を含めた発振波長に対する位相変化量が3π/2となる膜厚に設定される。このように、反射層107の構成層における発振光の位相変化量がπ/2の奇数倍になる場合、多重反射の位相条件を満たすことができる。
図3は、熱抵抗率とAl組成比との関係を示す図である。図3において、縦軸は、熱抵抗率を表し、横軸は、Al組成比を表す。また、曲線k1は、AlxGa1−xAsの熱抵抗率とAl組成比xとの関係を示す。
図3を参照して、熱抵抗率は、Al組成比の増加とともに、大きくなり、0.5付近のAl組成比で極大になり、Al組成比が0.5よりも多くなると、Al組成比の増加とともに、小さくなる。そして、熱抵抗率は、1.0のAl組成比で最も小さくなる。
反射層103を構成する低屈折率層1031は、上述したように、AlAsからなり、約1.1[K・cm/W]の熱抵抗率を有する。また、反射層103を構成する高屈折率層1032は、上述したように、Al0.3Ga0.7Asからなり、約8.5[K・cm/W]の熱抵抗率を有する。したがって、低屈折率層1031は、高屈折率層1032よりも小さい熱抵抗率(=大きい熱伝導率)を有し、反射層103は、第1の熱伝導率を有する低屈折率層1031と、第1の熱伝導率よりも小さい第2の熱伝導率を有する高屈折率層1032とが交互に積層された分布ブラッグ反射器からなる。
図4、図5および図6は、それぞれ、図1に示す面発光レーザ素子100の作製方法を示す第1から第3の工程図である。図4を参照して、一連の動作が開始されると、有機金属気相成長法(MOCVD:Metal Organic Chemical Vapor Deposition)を用いて、バッファ層102、反射層103、共振器スペーサー層104、活性層105、共振器スペーサー層106、反射層107、選択酸化層108、およびコンタクト層109を基板101上に順次積層する(図4の工程(a)参照)。
この場合、バッファ層102のn−GaAsをトリメチルガリウム(TMG)、アルシン(AsH3)およびセレン化水素(H2Se)を原料として形成し、反射層103のn−AlAsおよびn−Al0.3Ga0.7Asをトリメチルアルミニウム(TMA)、トリメチルガリウム(TMG)、アルシン(AsH3)およびセレン化水素(H2Se)を原料として形成する。
また、共振器スペーサー層104の(Al0.1Ga0.9)0.5In0.5Pをトリメチルアルミニウム(TMA)、トリメチルガリウム(TMG)、トリメチルインジウム(TMI)およびフォスフィン(PH3)を原料として形成し、活性層105のGaInPAs/GaInPをトリメチルガリウム(TMG)、トリメチルインジウム(TMI)、フォスフィン(PH3)およびアルシン(AsH3)を原料として形成する。
さらに、共振器スペーサー層106のAl0.6Ga0.4Asをトリメチルアルミニウム(TMA)、トリメチルガリウム(TMG)およびアルシン(AsH3)を原料として形成し、反射層107のp−Al0.9Ga0.1As/Al0.3Ga0.7Asをトリメチルアルミニウム(TMA)、トリメチルガリウム(TMG)、アルシン(AsH3)および四臭化炭素(CBr4)を原料として形成する。
さらに、選択酸化層108のp−AlAsをトリメチルアルミニウム(TMA)、アルシン(AsH3)および四臭化炭素(CBr4)を原料として形成し、コンタクト層109のp−GaAsをトリメチルガリウム(TMG)、アルシン(AsH3)および四臭化炭素(CBr4)を原料として形成する。
その後、コンタクト層109の上にレジストを塗布し、写真製版技術を用いて、コンタクト層109上にレジストパターン130を形成する(図4の工程(b)参照)。この場合、レジストパターン130は、1辺が20μmである正方形の形状を有する。
レジストパターン130を形成すると、その形成したレジストパターン130をマスクとして用いて、共振器スペーサー層104、活性層105、共振器スペーサー層106、反射層107、選択酸化層108およびコンタクト層109の周辺部をドライエッチングにより除去し、さらに、レジストパターン130を除去する(図4の工程(c)参照)。
この場合、ドライエッチングの進行は、プラズマ発光モニターを用いてInの発光を検出すると、ドライエッチングを停止する。より具体的には、面発光レーザ素子100においては、活性層105もInを含むため、ドライエッチングの進行とともにInの発光を検出し始めてから活性層105中のInに対応したInの発光強度の周期的な変動を検出した後に、Inの発光強度がほぼ一定になると、ドライエッチングを停止する。
次に、図5を参照して、図4に示す工程(c)の後、85℃に加熱した水を窒素ガスでバブリングした雰囲気中において、試料を425℃に加熱して、選択酸化層108の周囲を外周部から中央部に向けて酸化し、選択酸化層108中に非酸化領域108aと酸化領域108bとを形成する(図5の工程(d)参照)。この場合、非酸化領域108aは、1辺が4μmである正方形からなる。
その後、気相化学堆積法(CVD:Chemical Vapour Deposition)を用いて、試料の全面にSiO2層110を形成し、写真製版技術を用いて光出射部となる領域およびその周辺領域のSiO2層110を除去する(図5の工程(e)参照)。
次に、試料の全体に絶縁性樹脂111をスピンコートにより塗布し、光出射部となる領域上の絶縁性樹脂111を除去する(図5の工程(f)参照)。
図6を参照して、絶縁性樹脂111を形成した後、光出射部となる領域上に1辺が8μmであるレジストパターンを形成し、試料の全面にp側電極材料を蒸着により形成し、レジストパターン上のp側電極材料をリフトオフにより除去してp側電極112を形成する(図6の工程(g)参照)。そして、基板101の裏面を研磨し、基板101の裏面にn側電極113を形成し、さらに、アニールしてp側電極112およびn側電極113のオーミック導通を取る(図6の工程(h)参照)。これによって、面発光レーザ素子100が作製される。
なお、図4の工程(c)においては、ドライエッチングによって共振器スペーサー層104の一部、活性層105、共振器スペーサー層106、反射層107および選択酸化層108をエッチングし、共振器スペーサー層104をエッチングストップ層として用いると説明したが、この発明においては、これに限らず、工程(c)においては、ドライエッチングとウェットエッチングとを併用してもよい。
この場合、ドライエッチングによってコンタクト層109、反射層107、選択酸化層108および活性層105を順次エッチングし、その後、硫酸系のエッチャントによって(Al0.1Ga0.9)0.5In0.5Pからなる共振器スペーサー層104の一部をウェットエッチングする。
また、コンタクト層109、反射層107、選択酸化層108および活性層105をウェットエッチングしてもよい。
面発光レーザ素子100は、高屈折率層1032よりも大きい熱伝導率を有する低屈折率層1031のうち、共振器120側に配置された3個の低屈折率1031A,1031B,1031Cの膜厚を他の部分の低屈折率層1031の膜厚よりも厚くした反射層103を備えるので、活性層105で発生した熱を低屈折率層1031A,1031B,1031Cによって基板101へ拡散できる。その結果、活性層105で発生した熱を効果的に取り除くことができる。
また、面発光レーザ素子100は、(Al0.1Ga0.9)0.5In0.5Pからなる共振器スペーサー層104を備えるので、反射層103の低屈折率層1031がAlAsによって構成されていても、共振器スペーサー層104の一部と、活性層105、共振器スペーサー層106、反射層107、選択酸化層108およびコンタクト層109の周辺部をエッチング除去してメサ構造を作製する際に、エッチング深さが反射層103に至り、反射層103の低屈折率層1031を構成するAlAsが露出し、図5に示す工程(d)において、反射層103の一部が選択酸化層108と一緒に酸化されるのを防止できる。
上記においては、反射層103を構成する複数の低屈折率層1031の一部の低屈折率層1031A,1031B,1031Cの光学的な膜厚をmλ/4nに設定すると説明したが、この発明においては、これに限らず、反射層103を構成する複数の低屈折率層1031の全ての低屈折率層1031の光学的な膜厚をmλ/4nに設定してもよい。
また、上記においては、活性層105よりも基板101側に設けられる共振器スペーサー層104を(Al0.1Ga0.9)0.5In0.5Pによって構成すると説明したが、この発明においては、これに限らず、共振器スペーサー層104,106の両方を(Al0.1Ga0.9)0.5In0.5Pによって構成してもよい。この場合、図4の工程(c)においては、ドライエッチングは、共振器スペーサー層106の途中で停止される。
その結果、面発光レーザ素子100の活性層105は、隣の面発光レーザ素子の活性層と電気的につながった状態となるが、メサ構造体の周辺部にイオン注入を行って高抵抗化し、隣の面発光レーザ素子と絶縁する。すなわち、この場合、面発光レーザ素子100は、図7に示す面発光レーザ素子100Aからなる。図7は、実施の形態1による面発光レーザ素子の他の概略断面図である。
図7を参照して、面発光レーザ素子100Aは、図1に示す面発光レーザ素子100に高抵抗領域114,114を追加したものであり、その他は、面発光レーザ素子100と同じである。
高抵抗領域114,114は、反射層107および選択酸化層108からなるメサ構造体の両側において、共振器スペーサー層104,106および活性層105の深さ位置に形成される。これによって、面発光レーザ素子100Aの活性層105を隣の面発光レーザ素子の活性層から絶縁できる。
[実施の形態2]
図8は、実施の形態2による面発光レーザ素子の概略断面図である。図8を参照して、実施の形態2による面発光レーザ素子200は、基板201と、バッファ層202と、反射層203,207と、共振器スペーサー層204,206と、活性層205と、選択酸化層208と、コンタクト層209と、SiO2層210と、絶縁性樹脂211と、p側電極212と、n側電極213と、高抵抗領域214とを備える。なお、面発光レーザ素子200は、850nm帯の面発光レーザ素子である。
基板201は、n−GaAsからなる。バッファ層202は、n−GaAsからなり、基板201の一主面に形成される。反射層203は、n−AlAs/Al0.15Ga0.85Asの対を一周期とした場合、38.5周期の[n−AlAs/Al0.15Ga0.85As]からなり、バッファ層202上に形成される。
共振器スペーサー層204は、Al0.15Ga0.85Asからなり、反射層203上に形成される。活性層205は、GaAs/Al0.15Ga0.85Asの多重量子井戸構造を有し、共振器スペーサー層204上に形成される。
共振器スペーサー層206は、(Al0.5Ga0.5)0.5In0.5Pからなり、活性層205上に形成される。反射層207は、p−Al0.9Ga0.1As/Al0.15Ga0.85Asの対を一周期とした場合、23周期の[p−Al0.9Ga0.1As/Al0.15Ga0.85As]からなり、共振器スペーサー層206上に形成される。
選択酸化層208は、p−AlAsからなり、反射層207中に設けられる。そして、選択酸化層208は、非酸化領域208aと酸化領域208bとからなり、20nmの膜厚を有する。
コンタクト層209は、p−GaAsからなり、反射層207上に形成される。SiO2層210は、共振器スペーサー層206の一部の一主面と、反射層207、選択酸化層208およびコンタクト層209の端面とを覆うように形成される。
絶縁性樹脂211は、SiO2層210に接して形成される。p側電極212は、コンタクト層209の一部および絶縁性樹脂211上に形成される。n側電極213は、基板201の裏面に形成される。
高抵抗領域214は、共振器スペーサー206の一部、反射層207、選択酸化層208およびコンタクト層209からなるメサ構造体の両側であって、共振器スペーサー層204,206および活性層205の深さに配置される。
そして、反射層203,207の各々は、活性層205で発振した発振光をブラッグの多重反射により反射して活性層205に閉じ込める半導体分布ブラッグ反射器を構成する。
図9は、図8に示す活性層205の近傍の断面図である。なお、図9においては、面発光レーザ素子200の発振状態における発振光の電界の強度分布も模式的に示している。図9を参照して、反射層203は、低屈折率層2031と、高屈折率層2032と、組成傾斜層2033とを含む。低屈折率層2031は、n−AlAsからなり、高屈折率層2032は、n−Al0.15Ga0.85Asからなり、組成傾斜層2033は、低屈折率層2031および高屈折率層2032の一方の組成から他方の組成へ向かって組成を変化させたn−AlGaAsからなる。
組成傾斜層2033が設けられるのは、低屈折率層2031と高屈折率層2032との間の電気抵抗を低減するためである。
低屈折率層2031は、d4の膜厚を有し、高屈折率層2032は、d5の膜厚を有し、組成傾斜層2033は、d6の膜厚を有する。
組成傾斜層2033を含まない急峻な界面を備えた反射層の場合には、反射層を構成する低屈折率層と高屈折率層の膜厚は、ブラッグの多重反射の位相条件を満たすように、レーザ発振波長(λ=850nm)に対してλ/4nに設定される。
このλ/4nの膜厚は、各半導体層中における発振光の位相変化量がπ/2となる膜厚である。実施の形態2のように、組成傾斜層2033を含む場合では、各半導体層と組成傾斜層2033を含めた厚さが、ブラッグの多重反射の条件を満たすように設定される。
そして、膜厚d4は、たとえば、20nmに設定され、d4+d6およびd5+d6がブラッグの多重反射の条件を満たすように、膜厚d4,d5の各々が設定される。すなわち、反射層203中における発振光の位相変化量がπ/2となるように、d4+d6およびd5+d6の各々が設定される。
反射層203のうち、共振器スペーサー層204側に配置された3個の低屈折率層2031A,2031B,2031Cは、他の低屈折率層2031の膜厚d4よりも厚い光学的な膜厚D2を有する。そして、光学的な膜厚D2は、mλ/4n(mは2以上の整数)である。すなわち、反射層203を構成する複数の低屈折率層2031のうち、共振器スペーサー層204側に配置された3個の低屈折率層2031A,2031B,2031Cの膜厚は、他の低屈折率層2031の膜厚d4よりも厚いmλ/4n(mは2以上の整数)に設定される。
反射層207は、低屈折率層2071と、高屈折率層2072と、組成傾斜層2073と含む。低屈折率層2071は、p−Al0.9Ga0.1Asからなり、高屈折率層2072は、p−Al0.15Ga0.85Asからなり、組成傾斜層2073は、低屈折率層2071および高屈折率層2072の一方の組成から他方の組成へ向かって組成を変化させたp−AlGaAsからなる。
その他は、反射層203と同じである。
面発光レーザ素子200において、共振器スペーサー層204,206および活性層205は、共振器140を構成する。共振器140は、これらの半導体層中における発振光の位相変化量が2πとなるように設定されており、一波長共振器構造を形成する。
また、誘導放出確率を高めるために、活性層205は、共振器140(=共振器スペーサー層204,206および活性層205)内における中央部に位置し、かつ、発振光の定在波分布における腹に対応する位置に設けられる。
反射層203,207は、低屈折率層2031,2071側がそれぞれ共振器スペーサー層204,206に接するように構成されており、低屈折率層2031,2071と共振器スペーサー層204,206との界面が発振光の電界の定在波分布における腹となっている。
また、上述したように、d4+d6またはd5+d6は、発振光の位相変化量がπ/2になるように設定されるので、低屈折率層2031,2071と高屈折率層2032,2072との界面では、腹と節とが交互に現れる。
選択酸化層208は、反射層207において、共振器140(=共振器スペーサー層204,206および活性層205)から4周期目の低屈折率層2071中に設けられる。より具体的には、選択酸化層208は、発振波の電界の定在波分布における節の位置に設けられる。
そして、選択酸化層208を設けた低屈折率層2071の膜厚は、組成傾斜層2073の一部を含めた発振波長に対する位相変化量が3π/2となる膜厚に設定される。このように、反射層207の構成層における発振光の位相変化量がπ/2の奇数倍になる場合、多重反射の位相条件を満たすことができる。
図8に示す面発光レーザ素子200は、図4から図6に示す工程(a)〜工程(h)に従って作製される。そして、図4に示す工程(a)においては、バッファ層202のn−GaAsをトリメチルガリウム(TMG)、アルシン(AsH3)およびセレン化水素(H2Se)を原料として形成し、反射層203のn−AlAsおよびn−Al0.15Ga0.85Asをトリメチルアルミニウム(TMA)、トリメチルガリウム(TMG)、アルシン(AsH3)およびセレン化水素(H2Se)を原料として形成する。
また、共振器スペーサー層204のAl0.15Ga0.85Asをトリメチルアルミニウム(TMA)、トリメチルガリウム(TMG)およびアルシン(AsH3)を原料として形成し、活性層205のGaAs/Al0.15Ga0.85Asをトリメチルアルミニウム(TMA)、トリメチルガリウム(TMG)およびアルシン(AsH3)を原料として形成する。
さらに、共振器スペーサー層206の(Al0.5Ga0.5)0.5In0.5Pをトリメチルアルミニウム(TMA)、トリメチルガリウム(TMG)、トリメチルインジウム(TMI)およびフォスフィン(PH3)を原料として形成し、反射層207のp−Al0.9Ga0.1As/Al0.15Ga0.85Asをトリメチルアルミニウム(TMA)、トリメチルガリウム(TMG)、アルシン(AsH3)および四臭化炭素(CBr4)を原料として形成する。
さらに、選択酸化層208のp−AlAsをトリメチルアルミニウム(TMA)、アルシン(AsH3)および四臭化炭素(CBr4)を原料として形成し、コンタクト層209のp−GaAsをトリメチルガリウム(TMG)、アルシン(AsH3)および四臭化炭素(CBr4)を原料として形成する。
また、図4に示す工程(c)においては、共振器スペーサー層206をエッチング停止層とするドライエッチングによって、コンタクト層209、選択酸化層208および反射層207の周辺部がエッチングされる。
さらに、ドライエッチングによって反射層207、選択酸化層208およびコンタクト層209からなるメサ構造体を形成した後、メサ構造体の両側に水素イオンをイオン注入して高抵抗領域214を形成する。
このように、面発光レーザ素子200においては、活性層205よりも基板201側に設けられる共振器スペーサー層204は、その周辺部がドライエッチングによって除去されない。これは、次の理由による。
共振器スペーサー層204を構成するAl0.15Ga0.85Asは、5.9[K・cm/W]の熱抵抗率を有し、共振器スペーサー層206を構成する(Al0.5Ga0.5)0.5In0.5Pは、15.2[K・cm/W]の熱抵抗率を有するので、熱抵抗率が小さいAl0.15Ga0.85Asからなる共振器スペーサー層204を残して活性層205で発生した熱を効果的に除去するためである。
その他は、実施の形態1と同じである。
[実施の形態3]
図10は、実施の形態3による面発光レーザ素子の概略断面図である。図10を参照して、実施の形態3による面発光レーザ素子300は、基板301と、バッファ層302と、反射層303,307と、共振器スペーサー層304,306と、活性層305と、選択酸化層308と、コンタクト層309と、SiO2層310と、絶縁性樹脂311と、p側電極312と、n側電極313と、高抵抗領域314とを備える。なお、面発光レーザ素子300は、980nm帯の面発光レーザ素子である。
基板301は、n−GaAsからなる。バッファ層302は、n−GaAsからなり、基板301の一主面に形成される。反射層303は、n−AlAs/GaAsの対を一周期とした場合、34.5周期の[n−AlAs/GaAs]からなり、バッファ層302上に形成される。
共振器スペーサー層304は、GaAsからなり、反射層303上に形成される。活性層305は、GaInAs/GaAsの多重量子井戸構造を有し、共振器スペーサー層304上に形成される。
共振器スペーサー層306は、(Al0.5Ga0.5)0.5In0.5Pからなり、活性層305上に形成される。反射層307は、p−Al0.9Ga0.1As/GaAsの対を一周期とした場合、22周期の[p−Al0.9Ga0.1As/GaAs]からなり、共振器スペーサー層306上に形成される。
選択酸化層308は、p−AlAsからなり、反射層307中に設けられる。そして、選択酸化層308は、非酸化領域308aと酸化領域308bとからなり、20nmの膜厚を有する。
コンタクト層309は、p−GaAsからなり、反射層307上に形成される。SiO2層310は、共振器スペーサー層306の一部の一主面と、反射層307、選択酸化層308およびコンタクト層309の端面とを覆うように形成される。
絶縁性樹脂311は、SiO2層310に接して形成される。p側電極312は、コンタクト層309の一部および絶縁性樹脂311上に形成される。n側電極313は、基板301の裏面に形成される。高抵抗領域314は、反射層307、選択酸化層308およびコンタクト層309からなるメサ構造体の両側であって、共振器スペーサー層304,306および活性層305の深さ位置に配置される。
そして、反射層303,307の各々は、活性層305で発振した発振光をブラッグの多重反射により反射して活性層305に閉じ込める半導体分布ブラッグ反射器を構成する。
図11は、図10に示す活性層305の近傍の断面図である。なお、図11においては、面発光レーザ素子300の発振状態における発振光の電界の強度分布も模式的に示している。図11を参照して、反射層303は、低屈折率層3031と、高屈折率層3032と、組成傾斜層3033とを含む。低屈折率層3031は、n−AlAsからなり、高屈折率層3032は、n−GaAsからなり、組成傾斜層3033は、低屈折率層3031および高屈折率層3032の一方の組成から他方の組成へ向かって組成を変化させたn−AlGaAsからなる。
組成傾斜層3033が設けられるのは、低屈折率層3031と高屈折率層3032との間の電気抵抗を低減するためである。
低屈折率層3031は、d7の膜厚を有し、高屈折率層3032は、d8の膜厚を有し、組成傾斜層3033は、d9の膜厚を有する。
組成傾斜層3033を含まない急峻な界面を備えた反射層の場合には、反射層を構成する低屈折率層と高屈折率層の膜厚は、ブラッグの多重反射の位相条件を満たすように、レーザ発振波長(λ=980nm)に対してλ/4nに設定される。
このλ/4nの膜厚は、各半導体層中における発振光の位相変化量がπ/2となる膜厚である。実施の形態3のように、組成傾斜層3033を含む場合では、各半導体層と組成傾斜層3033を含めた厚さが、ブラッグの多重反射の条件を満たすように設定される。
そして、膜厚d7は、たとえば、20nmに設定され、d7+d9およびd8+d9がブラッグの多重反射の条件を満たすように、膜厚d7,d8の各々が設定される。すなわち、反射層303中における発振光の位相変化量がπ/2となるように、d7+d9およびd8+d9の各々が設定される。
反射層303のうち、共振器スペーサー層304側に配置された3個の低屈折率層3031A,3031B,3031Cは、他の低屈折率層3031の膜厚d7よりも厚い光学的な膜厚D3を有する。そして、光学的な膜厚D3は、mλ/4n(mは2以上の整数)である。すなわち、反射層303を構成する複数の低屈折率層3031のうち、共振器スペーサー層304側に配置された3個の低屈折率層3031A,3031B,3031Cの膜厚は、他の低屈折率層3031の膜厚d7よりも厚いmλ/4n(mは2以上の整数)に設定される。
反射層307は、低屈折率層3071と、高屈折率層3072と、組成傾斜層3073とを含む。低屈折率層3071は、p−Al0.9Ga0.1Asからなり、高屈折率層3072は、p−GaAsからなり、組成傾斜層3073は、低屈折率層3071および高屈折率層3072の一方の組成から他方の組成へ向かって組成を変化させたp−AlGaAsからなる。
その他は、反射層303と同じである。
面発光レーザ素子300において、共振器スペーサー層304,306および活性層305は、共振器150を構成する。共振器150は、これらの半導体層中における発振光の位相変化量が2πとなるように設定されており、一波長共振器構造を形成する。
また、誘導放出確率を高めるために、活性層305は、共振器150(=共振器スペーサー層304,306および活性層305)内における中央部に位置し、かつ、発振光の定在波分布における腹に対応する位置に設けられる。
反射層303,307は、低屈折率層3031,3071側がそれぞれ共振器スペーサー層304,306に接するように構成されており、低屈折率層3031,3071と共振器スペーサー層304,306との界面が発振光の電界の定在波分布における腹となっている。
また、上述したように、d7+d9またはd8+d9は、発振光の位相変化量がπ/2になるように設定されるので、低屈折率層3031,3071と高屈折率層3032,3072との界面では、腹と節とが交互に現れる。
選択酸化層308は、反射層307において、共振器150(=共振器スペーサー層304,306および活性層305)から4周期目の低屈折率層3071中に設けられる。より具体的には、選択酸化層308は、発振波の電界の定在波分布における節の位置に設けられる。
そして、選択酸化層308を設けた低屈折率層3071の膜厚は、組成傾斜層3073の一部を含めた発振波長に対する位相変化量が3π/2となる膜厚に設定される。このように、反射層307の構成層における発振光の位相変化量がπ/2の奇数倍になる場合、多重反射の位相条件を満たすことができる。
図12に示す面発光レーザ素子300は、図4から図6に示す工程(a)〜工程(h)に従って作製される。そして、図4に示す工程(a)においては、バッファ層302のn−GaAsをトリメチルガリウム(TMG)、アルシン(AsH3)およびセレン化水素(H2Se)を原料として形成し、反射層303のn−AlAsおよびn−GaAsをトリメチルアルミニウム(TMA)、トリメチルガリウム(TMG)、アルシン(AsH3)およびセレン化水素(H2Se)を原料として形成する。
また、共振器スペーサー層304のGaAsをトリメチルガリウム(TMG)およびアルシン(AsH3)を原料として形成し、活性層305のGaInAs/GaAsをトリメチルガリウム(TMG)、トリメチルインジウム(TMI)およびアルシン(AsH3)を原料として形成する。
さらに、共振器スペーサー層306の(Al0.5Ga0.5)0.5In0.5Pをトリメチルアルミニウム(TMA)、トリメチルガリウム(TMG)、トリメチルインジウム(TMI)およびフォスフィン(PH3)を原料として形成し、反射層307のp−Al0.9Ga0.1As/GaAsをトリメチルアルミニウム(TMA)、トリメチルガリウム(TMG)、アルシン(AsH3)および四臭化炭素(CBr4)を原料として形成する。
さらに、選択酸化層308のp−AlAsをトリメチルアルミニウム(TMA)、アルシン(AsH3)および四臭化炭素(CBr4)を原料として形成し、コンタクト層309のp−GaAsをトリメチルガリウム(TMG)、アルシン(AsH3)および四臭化炭素(CBr4)を原料として形成する。
また、図4に示す工程(c)においては、共振器スペーサー層306をエッチング停止層とするドライエッチングによって、コンタクト層309、選択酸化層308および反射層307の周辺部がエッチングされる。
さらに、ドライエッチングによって反射層307、選択酸化層308およびコンタクト層309からなるメサ構造体を形成した後、メサ構造体の両側に水素イオンをイオン注入して高抵抗領域314を形成する。
このように、面発光レーザ素子300においては、活性層305よりも基板301側に設けられる共振器スペーサー層304は、その周辺部がドライエッチングによって除去されない。これは、次の理由による。
共振器スペーサー層304を構成するGaAsは、2.3[K・cm/W]の熱抵抗率を有し、共振器スペーサー層306を構成する(Al0.5Ga0.5)0.5In0.5Pは、15.2[K・cm/W]の熱抵抗率を有するので、熱抵抗率が小さいGaAsからなる共振器スペーサー層304を残して活性層305で発生した熱を効果的に除去するためである。
その他は、実施の形態1と同じである。
[実施の形態4]
図12は、実施の形態4による面発光レーザ素子の概略断面図である。図12を参照して、実施の形態4による面発光レーザ素子400は、基板401と、バッファ層402と、反射層403,407と、共振器スペーサー層404,406と、活性層405と、選択酸化層408と、コンタクト層409と、SiO2層410と、絶縁性樹脂411と、p側電極412と、n側電極413とを備える。なお、面発光レーザ素子400は、780nm帯の面発光レーザ素子である。
基板401は、n−GaAsからなる。バッファ層402は、n−GaAsからなり、基板401の一主面に形成される。反射層403は、n−AlAs/Al0.37Ga0.63Asの対を一周期とした場合、48.5周期の[n−AlAs/Al0.37Ga0.63As]からなり、バッファ層402上に形成される。
共振器スペーサー層404は、(Al0.1Ga0.9)0.5In0.5Pからなり、反射層403上に形成される。活性層405は、GaInPAs/GaInPの多重量子井戸構造を有し、共振器スペーサー層404上に形成される。
共振器スペーサー層406は、Al0.6Ga0.4Asからなり、活性層405上に形成される。反射層407は、p−Al0.9Ga0.1As/Al0.3Ga0.7Asの対を一周期とした場合、26周期の[p−Al0.9Ga0.1As/Al0.3Ga0.7As]からなり、共振器スペーサー層406上に形成される。
選択酸化層408は、p−AlAsからなり、反射層407中に設けられる。そして、選択酸化層408は、非酸化領域408aと酸化領域408bとからなり、20nmの膜厚を有する。
コンタクト層409は、p−GaAsからなり、反射層407上に形成される。SiO2層410は、共振器スペーサー層404の一部の一主面と、活性層405、共振器スペーサー層406、反射層407、選択酸化層408およびコンタクト層309の端面とを覆うように形成される。
絶縁性樹脂411は、SiO2層410に接して形成される。p側電極412は、コンタクト層409の一部および絶縁性樹脂411上に形成される。n側電極413は、基板401の裏面に形成される。
そして、反射層403,407の各々は、活性層405で発振した発振光をブラッグの多重反射により反射して活性層405に閉じ込める半導体分布ブラッグ反射器を構成する。
図13は、図12に示す活性層405の近傍の断面図である。図13においては、面発光レーザ素子400の発振状態における発振光の電界の強度分布も模式的に示している。図13を参照して、反射層403は、低屈折率層4031と、高屈折率層4032とを含む。低屈折率層4031は、n−AlAsからなり、高屈折率層4032は、n−Al0.37Ga0.63Asからなる。このように、活性層405よりも基板401側に設けられた反射層403は、組成傾斜層を用いずに、低屈折率層4031と、高屈折率層4032とを交互に積層した構造からなる。つまり、低屈折率層4031および高屈折率層4032は、相互に接するように積層される。
低屈折率層4031は、d10の膜厚を有し、高屈折率層4032は、d11の膜厚を有する。
反射層403は、組成傾斜層を含まないので、低屈折率層4031の膜厚d10および高屈折率層4032の膜厚d11は、ブラッグの多重反射の位相条件を満たすように、レーザ発振波長(λ=780nm)に対してλ/4nに設定される。
このλ/4nの膜厚は、各半導体層中における発振光の位相変化量がπ/2となる膜厚である。
反射層403のうち、共振器スペーサー層404側に配置された3個の低屈折率層4031A,4031B,4031Cは、他の低屈折率層4031の膜厚d10よりも厚い光学的な膜厚D4を有する。そして、光学的な膜厚D4は、mλ/4n(mは2以上の整数)である。すなわち、反射層403を構成する複数の低屈折率層4031のうち、共振器スペーサー層404側に配置された3個の低屈折率層4031A,4031B,4031Cの膜厚は、他の低屈折率層4031の膜厚d10よりも厚いmλ/4n(mは2以上の整数)に設定される。
反射層407は、低屈折率層4071と、高屈折率層4072と、組成傾斜層4073と含む。低屈折率層4071は、p−Al0.9Ga0.1Asからなり、高屈折率層4072は、p−Al0.3Ga0.7Asからなり、組成傾斜層4073は、低屈折率層4071および高屈折率層4072の一方の組成から他方の組成へ向かって組成を変化させたp−AlGaAsからなる。そして、低屈折率層4071の膜厚、高屈折率層4072の膜厚および組成傾斜層4073の膜厚は、それぞれ、図2に示す低屈折率層1031の膜厚、高屈折率層1032の膜厚および組成傾斜層1033の膜厚と同じである。
面発光レーザ素子400において、共振器スペーサー層404,406および活性層405は、共振器160を構成する。共振器160は、これらの半導体層中における発振光の位相変化量が2πとなるように設定されており、一波長共振器構造を形成する。
また、誘導放出確率を高めるために、活性層405は、共振器160(=共振器スペーサー層404,406および活性層405)内における中央部に位置し、かつ、発振光の定在波分布における腹に対応する位置に設けられる。
反射層403,407は、低屈折率層4031,4071側がそれぞれ共振器スペーサー層404,406に接するように構成されており、低屈折率層4031,4071と共振器スペーサー層404,406との界面が発振光の電界の定在波分布における腹となっている。
また、上述したように、低屈折率層4031の膜厚d10および高屈折率層4032の膜厚d11は、発振光の位相変化量がπ/2になるように設定され、反射層407の低屈折率層4071の膜厚d1、高屈折率層4072の膜厚d2および組成傾斜層4073の膜厚d3は、d1+d3またはd2+d3が、発振光の位相変化量がπ/2になるように設定されるので、低屈折率層4031,4071と高屈折率層4032,4072との界面では、腹と節とが交互に現れる。
選択酸化層408は、反射層407において、共振器160(=共振器スペーサー層404,406および活性層405)から4周期目の低屈折率層4071中に設けられる。より具体的には、選択酸化層408は、発振波の電界の定在波分布における節の位置に設けられる。
そして、選択酸化層408を設けた低屈折率層4071の膜厚は、組成傾斜層4073の一部を含めた発振波長に対する位相変化量が3π/2となる膜厚に設定される。このように、反射層407の構成層における発振光の位相変化量がπ/2の奇数倍になる場合、多重反射の位相条件を満たすことができる。
図14は、図12に示す活性層405の近傍の断面図およびドーピング量を示す図である。図14を参照して、反射層404を構成する低屈折率層4031のうち、活性層405の近傍に配置された低屈折率層4031A,4031B,4031Cにおいて、発振光の電界の定在波分布の腹に対応する領域のドーピング量は、他の領域におけるドーピング量よりも少ない。
これによって、活性層405で発振した発振光の吸収量を低減し、面発光レーザ素子400の光出力を高くできる。
図15は、AlxGa1−xAsのエネルギーレベルとAlxGa1−xAsのAl組成比との関係を示す図である。図15において、縦軸は、AlxGa1−xAsのエネルギーレベルを表し、横軸は、AlxGa1−xAsのAl組成比xを表す。また、曲線k2は、AlxGa1−xAsの伝導帯のエネルギーレベルを示し、曲線k3は、AlxGa1−xAsの価電子帯のエネルギーレベルを示す。
図15を参照して、AlxGa1−xAsの伝導帯のエネルギーレベルは、Al組成比xが増加するに伴って単調に上昇し、光学的遷移が直接遷移から間接遷移へ変化する0.43のAl組成比で最大値になる。そして、AlxGa1−xAsの伝導帯のエネルギーレベルは、Al組成比xが0,43以上に増加するに従って徐々に低下する(曲線k2参照)。 一方、AlxGa1−xAsの価電子帯のエネルギーレベルは、Al組成比xが増加するに伴って単調に低下する(曲線k3参照)。
上述したように、AlxGa1−xAsの伝導帯のエネルギーレベルは、Al組成比xが0〜0.43の範囲では、Al組成比xの増加に伴って高くなり、Al組成比xが0.43以上の範囲では、Al組成比xの増加に伴って低下する。
したがって、AlxGa1−xAsの伝導帯のエネルギーレベルが同じである2つのAl組成比xが存在することになる。そして、Al組成比xが0.37であるAlxGa1−xAsの伝導帯のエネルギーレベルは、Al組成比xが1.0であるAlAsの伝導帯のエネルギーレベルと一致する。
図16は、Al0.37Ga0.63AsおよびAlAsのエネルギーバンド図である。図16を参照して、フェルミレベルEFが一致するようにAl0.37Ga0.63AsとAlAsとを接合することによって、伝導帯は、フラットとなり、Al0.37Ga0.63AsとAlAsとの界面には、バンド不連続に起因するスパイクは存在しない。
反射層403は、上述したように、AlAsからなる低屈折率層4031と、Al0.37Ga0.63Asからなる高屈折率層4032とを交互に積層した構造からなるので、組成傾斜層を用いずに反射層403を形成しても、反射層403は、電子に対して抵抗となる障壁を持たない。
一方、Al組成比xが0.37から1.0まで変化するAlxGa1−xAsからなる組成傾斜層を用いて反射層403を形成した場合、AlxGa1−xAs(0.37<x<1.0)は、Al0.37Ga0.63AsおよびAlAsよりも大きい熱抵抗率(=小さい熱伝導率)を有する(図3の曲線k1参照)。
したがって、組成傾斜層を用いずに反射層403を形成することにより、反射層403の電気抵抗の増加を防止して反射層403の熱伝導率をさらに大きくでき、活性層405で発生した熱をさらに効果的に取り除くことができる。
なお、図12に示す面発光レーザ素子400は、図4から図6に示す工程(a)〜工程(h)に従って作製される。
また、実施の形態4においては、実施の形態2による面発光レーザ素子200において、反射層203は、組成傾斜層2033を用いずにAlAsからなる低屈折率層と、Al0.37Ga0.63Asからなる高屈折率層とを交互に積層した積層構造からなっていてもよい。これによって、850nm帯のレーザ光を発振する面発光レーザ素子200において、活性層205よりも基板201側に配置された反射層203の電気抵抗を小さくし、さらに、活性層205で発生した熱を効果的に取り除くことができる。
上述した実施の形態1から実施の形態4においては、反射層103,203,303,403を構成する複数の低屈折率層1031,2031,3031,4031のうち、活性層105,205,305,405側に配置された3個の低屈折率層1031A,1031B,1031C/2031A,2031B,2031C/3031A,3031B,3031C/4031A,4031B,4031Cは、全て同じ膜厚(=mλ/4n)に設定されると説明したが、この発明においては、これに限らず、低屈折率層1031A,2031A,3031A,4031Aは、5λ/4nの膜厚に設定され、低屈折率層1031B,2031B,3031B,4031Bは、3λ/4nの膜厚に設定され、低屈折率層1031C,2031C,3031C,4031Cは、2λ/4nの膜厚に設定されるようにしてもよい。すなわち、活性層105,205,305,405よりも基板101,201,301,401側に配置された反射層103,203,303,403を構成する低屈折率層1031,2031,3031,4031の膜厚をλ/4nよりも厚い範囲において活性層105,205,305,405に近い側から順に薄くなるようにしてもよい。
650nm帯、780nm帯、850nm帯および980nm帯において、分布ブラッグ反射器に用いられるAlGaAs材料の典型的なAl組成を表1に示す。
また、図17は、表1に記載された組成で形成された分布ブラッグ反射器の1cm2、1ペア当たりの熱抵抗を示す。図17において、縦軸は、分布ブラッグ反射器の1cm2、1ペア当たりの熱抵抗を表し、横軸は、発振波長を表す。また、曲線k4は、分布ブラッグ反射器が組成傾斜層を含む場合を示し、曲線k5は、分布ブラッグ反射器が組成傾斜層を含まない場合を示す。
なお、図17においては、分布ブラッグ反射器を構成する低屈折率層および高屈折率層の膜厚は、λ/4nに設定され、組成傾斜層の膜厚は、発振波長に関係無く、20nm一定である。
図17を参照して、発振波長が短波長になると、分布ブラッグ反射器に使用可能な高屈折率層のAl組成が大きくなることによって、熱抵抗は、大きくなる。そして、発振波長がさらに短波長になると、Al組成が増加することによって、高屈折率層の熱抵抗が著しく高くなり、組成傾斜層の熱抵抗の方が小さくなるため、650nm帯においては、組成傾斜層を含まない方が熱抵抗が大きくなっている。
また、短波長になると、Al組成の増加に伴い、高屈折率層と低屈折率層との屈折率差が小さくなるため、高い反射率を得るためには、ペア数を増やす必要がある。また、組成傾斜層によって反射率が低下するので、その分ペア数を増やす必要がある。
表2は、組成傾斜層を設けた場合と設けない場合との分布ブラッグ反射器で99.999%を超える反射率を得るのに必要なペア数を示す。
表2に示すように、650nm帯、780nm帯、850nm帯および980nm帯の各波長帯において、組成傾斜層を設けない場合の方が、ペア数が少ない。
図18は、実際のペア数で計算した1cm2当たりの熱抵抗と発振波長との関係を示す図である。図18において、縦軸は、実際のペア数で計算した1cm2当たりの熱抵抗を表し、横軸は、発振波長を表す。また、曲線k6は、組成傾斜層を含む場合を示し、曲線k7は、組成傾斜層を含まない場合を示す。
図18に示す結果から、650nm帯、780nm帯、850nm帯および980nm帯の各波長帯において、組成傾斜層を含まない方が、1cm2当たりの熱抵抗が小さくなることが解る。
表3は、表1に示す低屈折率層および高屈折率層の組み合わせにおける伝導帯のバンド不連続量を示す。
このように、従来、典型的に用いられていた低屈折率層および高屈折率層の組み合わせにおいては、伝導帯側のバンド不連続量は、50meV以上である。
一方、実施の形態4で説明したように、低屈折率層をAlAsによって構成し、高屈折率層をAl0.37Ga0.63Asによって構成すると、伝導帯のバンド不連続量は、0meVとなる。
図19は、抵抗率と波長との関係を示す図である。図19において、縦軸は、抵抗率を表し、横軸は、波長を表す。また、曲線k8は、従来の分布ブラッグ反射器の抵抗率と波長との関係を示し、曲線k9は、低屈折率層をAlAsによって構成し、高屈折率層をAl0.37Ga0.63Asによって構成した分布ブラッグ反射器の抵抗率と波長との関係を示す。
従来の分布ブラッグ反射器においては、発振波長が780nm、850nmおよび980nmと長波長化されると、抵抗率は、急激に大きくなる。一方、低屈折率層をAlAsによって構成し、高屈折率層をAl0.37Ga0.63Asによって構成した分布ブラッグ反射器においては、発振波長が780nm、850nmおよび980nmと長波長化されても、抵抗率は、殆ど大きくならない。
伝導帯のバンド不連続量が0eVとなる材料の組み合わせは、AlAs/Al0.37Ga0.63As以外にも、Al0.9Ga0.1As/Al0.38Ga0.62Asの組み合わせが存在する。
したがって、この発明は、780nm帯、850nm帯および980nm帯の面発光レーザ素子において、伝導帯のバンド不連続量が0eVである低屈折率層および高屈折率層からなる分布ブラッグ反射器を用いることを特徴とする。この特徴によって、電気抵抗の増加を防止して活性層で発生した熱を効果的に取り除くことができる。
なお、伝導帯のバンド不連続量が0eVになるように設計された組成と、実際に結晶成長された組成とは、1%程度の差を含むので、実際には、10meV程度のバンド不連続量が存在する。しかし、この程度のバンド不連続量は、高抵抗化に殆ど影響しないので、この発明においては、低屈折率層と高屈折率層との伝導帯のバンド不連続量が略0とは、低屈折率層と高屈折率層との伝導帯のバンド不連続量が0〜10meVの範囲であることを言う。
[応用例]
図20は、図1に示す面発光レーザ素子100を用いた面発光レーザアレイの平面図である。図20を参照して、面発光レーザアレイ500は、24個の面発光レーザ素子100を所定の間隔で略菱形に配列した構造からなる。
上述したように、面発光レーザ素子100は、活性層105で発生した熱を効果的に取り除くことができるので、面発光レーザアレイ500は、高出力な発振光を出射できる。
なお、面発光レーザアレイ500は、面発光レーザ素子100に代えて面発光レーザ素子100A,200,300,400のいずれかを備えていてもよい。
図21は、図1に示す面発光レーザ素子100または図20に示す面発光レーザアレイ500を用いた電子写真システムの概略図である。図21を参照して、電子写真システム600は、感光ドラム601と、光学走査系602と、書き込み光源603と、同期制御回路604とを備える。
感光ドラム601は、同期制御回路604からの制御に従って、光学走査系602からの成形ビームによって潜像を形成する。光学走査系602は、ポリゴンミラーおよびレンズ収束系からなり、同期制御回路604からの制御に従って、書き込み光源603からのレーザ光を感光ドラム601上に集光する。
書き込み光源603は、面発光レーザ素子100または面発光レーザアレイ500からなり、同期制御回路604からの制御に従って高出力なレーザ光を発振し、その発振したレーザ光を光学走査系602へ出射する。同期制御回路604は、感光ドラム601、光学走査系602および書き込み光源603を制御する。
上述したように、面発光レーザ素子100および面発光レーザアレイ500は、高出力なレーザ光を発振可能であるので、電子写真システム600においては、高速書き込みが可能であり、さらに、高精細な画像を得ることができる。
図22は、図1に示す面発光レーザ素子100を用いた光通信システムの概略図である。図22を参照して、光通信システム700は、機器710,720と、光ファイバアレイ730とを備える。
機器710は、駆動回路711と、レーザアレイモジュール712とを含む。駆動回路711は、レーザアレイモジュール712を駆動する。レーザアレイモジュール712は、面発光レーザ素子100を1次元に配列したアレイモジュールからなる。そして、1次元に配列された複数の面発光レーザ素子100は、光ファイバアレイ730の各光ファイバに連結されている。
レーザアレイモジュール712は、駆動回路711によって駆動されると、高出力なレーザ光を発振し、送信信号を光信号に変換して光ファイバアレイ730を介して機器720へ送信する。なお、光通信システム700においては、1次元に配列された複数の面発光レーザ素子100は、「面発光レーザアレイ」を構成する。
機器720は、フォトダイオードアレイモジュール721と、信号検出回路722とを含む。フォトダイオードアレイモジュール721は、1次元に配列された複数のフォトダイオードからなる。そして、複数のフォトダイオードは、光ファイバアレイ730の各ファイバに連結されている。したがって、フォトダイオードアレイモジュール721の各フォトダイオードは、各光ファイバを介してレーザアレイモジュール512の各面発光レーザ素子100に接続されている。
フォトダイオードアレイモジュール721は、光ファイバアレイ730から光信号を受信し、その受信した光信号を電気信号に変換する。そして、フォトダイオードアレイモジュール721は、その変換した電気信号を受信信号として信号検出回路722へ出力する。信号検出回路722は、フォトダイオードアレイモジュール721から受信信号を受け、その受けた受信信号を検出する。
光ファイバアレイ730は、機器710のレーザアレイモジュール712を機器720のフォトダイオードアレイモジュール721に連結する。
上述したように、面発光レーザ素子100は、高出力なレーザ光を出射できるので、機器710は、伝送誤りを少なくして信号を機器720へ送信できる。その結果、光通信システム700の信頼性を向上できる。
なお、光通信システム700においては、並列光インターコネクションシステムを例に説明したが、この発明による光通信システムは、これに限られず、単一の面発光レーザ素子100を用いたシリアル伝送システムであってもよい。
また、機器間の他にも、ボード間、チップ間およびチップ内インターコネクション等に応用してもよい。
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は、上記した実施の形態の説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
100,100A,200,300,400 面発光レーザ素子、101,201,301,401 基板、102,202,302,402 バッファ層、103,107,203,207,303,307,403,407 反射層、104,106,204,206,304,306,404,406 共振器スペーサー層、105,205,305,405 活性層、108,208,308,408 選択酸化層、108a,208a,308a,408a 非酸化領域、108b,208b,308b,408b 酸化領域、109,209,309,409 コンタクト層、110,210,310,410 SiO2層、111,211,311,411 絶縁性樹脂、112,212,312,412 p側電極、113,213,313,413 n側電極、114,414 高抵抗領域、130 レジストパターン、120,140,150,160 共振器、500 面発光レーザアレイ、600 電子写真システム、601 感光ドラム、602 光学走査系、603 書き込み光源、604 同期制御回路、700 光通信システム、710,720 機器、711 駆動回路、712 レーザアレイモジュール、721 フォトダイオードアレイモジュール、722 信号検出回路、730 光ファイバアレイ、1031,1071,2031,2071,3031,3071,4031,4071 低屈折率層、1032,1072,2032,2072,3032,3072,4032,4072 高屈折率層、1033,1073,2033,2073,3033,3073,4073 組成傾斜層。