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JP2007245687A - 環状ポリオレフィンフィルムの製造方法 - Google Patents

環状ポリオレフィンフィルムの製造方法 Download PDF

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JP2007245687A JP2006076211A JP2006076211A JP2007245687A JP 2007245687 A JP2007245687 A JP 2007245687A JP 2006076211 A JP2006076211 A JP 2006076211A JP 2006076211 A JP2006076211 A JP 2006076211A JP 2007245687 A JP2007245687 A JP 2007245687A
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Abstract

【課題】流延ビード24aでのカワバリの発生を抑制して、スジ状の欠陥がない環状ポリオレフィンフィルムを製造する。
【解決手段】環状ポリオレフィンを含む固形成分と溶媒とからなるドープ24を、流延ダイ81から流延ドラム82に流出して流延膜24bを形成する。流延ビード24aの乾燥速度を、固形成分1kgあたり4kg/分以下に抑える。流延ダイ81からのドープ24の吐出速度を3m/分以上とする。吐出口81の周辺でのドープ24の固化や流延ビード24aでのカワバリ発生が抑制されるので、流延ビード24aにスジがあらわれなくなる。これにより、長手方向に延びるスジ等のムラがないフィルム62を製造することができる。
【選択図】図3

Description

本発明は、環状ポリオレフィンフィルムの製造方法に関するものである。
環状ポリオレフィンフィルムは、吸湿性や透湿性に関してセルロースアシレートよりも光学部材として優れた特性を有し、かつ、光学特性の温湿度依存性が少なく、光学ムラが発現しにくいという特長をもつ。そこで、高輝度化、高コントラスト化、大画面化へ向かっている液晶表示装置等の光学製品にとっては、セルロースアシレートフィルムに代わる部材としての環状ポリオレフィンフィルムに対してますます期待が大きくなっている。
環状ポリオレフィンフィルムの製造方法としては、溶融製膜方法と溶液製膜方法との両方が挙げられるが、光学フィルムとしてのよりよい性能を発現させるためには後者の方が優れる。連続製法としての溶液製膜方法は、周知のように、ポリマーをはじめとする固体成分が溶媒に溶解したドープを走行する支持体の上に流延ダイから流出させて流延することにより流延膜を形成し、この流延膜を支持体から剥がして乾燥する方法である。
しかしながら、流延ダイからドープを流出し続けていると、流延ダイの吐出口にドープが滞留したり、吐出口からその周辺にドープがぬれ広がったりして、そのまま乾燥していくことにより、乾燥して流延ダイに付着したままのドープは、流延ダイから支持体に至って形成される流延ビードにスジを付けてしまい、流延膜にもそのスジが残ってしまう。また、流延中に流延ビードにカワバリが発生してしまうこともある。この状態のままフィルムの製造を続けると、フィルムには長手方向に延びるスジ状欠陥が確認され、幅方向におけるフィルムの厚みムラとして問題となる。
スジ状に確認される厚みムラを無くすために、流延ダイ自体のキズを無くすことの他に、流延ダイのリップにおけるドープの滞留を抑制する方法、流延ダイの先端におけるカワバリの発生を抑制する方法等、種々の方法が提案されている。例えば、特許文献1は、ドープの粘度、流延直後に送る熱風の温度、支持体の移動速度、流延ダイのリップ先端の形状を規定することにより、流延ダイのリップにドープが滞留することを防止する方法を提案する。特許文献2は、リップ先端におけるリボン状ドープ、つまり流延ビードについて、その伸張応力を所定の範囲とすることにより流延ダイの先端におけるカワバリの発生を抑制する方法を提案している。また、特許文献3には、流延ビードに加わる伸張応力やピン角度を規定した溶液製膜方法、特許文献4には、ドープと流延ダイのリップ先端部との剥離に必要な力を40g/cm以下にすることにより、流延ダイのリップ先端でのカワバリ発生を抑制する溶液製膜方法が提案されている。
特開平8−25381号公報 特開2001−71338号公報 特開2002−254453号公報 特開2004−66613号公報
しかしながら、環状ポリオレフィンを溶融製膜方法により製造する場合には、上記に挙げた方法では不十分である。
そこで、本発明は、流延ダイの先端のいわゆるリップ部にドープが付着して滞留することを抑制すること、及び流延ビードにおけるカワバリを抑制することとの両方により、フィルムの長手方向に延びるスジ状欠陥を防止するポリオレフィンフィルムの製造方法を提供することを目的とする。
そこで、本発明では、環状ポリオレフィンを含む固体成分と溶媒とからなるドープを流延ダイから流出させて支持体上に流延膜を形成し、この流延膜を前記支持体からフィルムとして剥ぎ取って乾燥する環状ポリオレフィンフィルムの製造方法において、前記流延ダイから吐出された直後の前記ドープの乾燥速度を、前記固体成分1kgあたり4kg/分以下とすることを特徴として構成されている。
前記流延ダイからドープを吐出する吐出速度を3m/分以上とすることが好ましく、流延ダイからドープが吐出される方向と、支持体の流延膜が形成される面における法線のうち流延ダイの吐出口の中心を通る直線とがなす角θを0度以上60度以下とし、直線上における支持体と流延ダイとの距離を0.5mm以上5mm以下とすることが好ましい。
ドープと流延ダイのリップ先端部との剥離抵抗が40g/cm以下であり、かつ、流延時におけるドープの剪断粘度η(Pa・s)と流延ダイから支持体に至るドープの伸張速度ε(1/sec)との関係が150Pa<3・η・ε<15000Paを満たすことが好ましく、流延ダイから吐出された直後のドープの表面における固形成分の濃度を16重量%以上25重量%以下とすることが好ましい。
構成されている。
本発明により、流延ダイの先端のいわゆるリップ部にドープが付着して滞留することを抑制するとともに流延ビードにおけるカワバリを抑制することができ、これにより、フィルムの長手方向に延びるスジ状欠陥のないポリオレフィンフィルムを製造することができる。
以下に、本発明の実施様態について詳細に説明する。ただし、本発明はここに挙げる実施様態に限定されるものではない。まず、本発明における環状ポリオレフィンについて説明し、その後、そのフィルムの製造方法について述べるものとする。
[環状ポリオレフィン及び微粒子]
本発明における環状ポリオレフィンとは、環状オレフィン構造を有する重合体であり、その例としては、(1)ノルボルネン系重合体、(2)単環の環状オレフィンの重合体、(3)環状共役ジエンの重合体、(4)ビニル脂環式炭化水素重合体、及び(1)〜(4)の各水素化物などがある。本発明に好ましい重合体は、下記一般式(II)で表される繰り返し単位を少なくとも1種以上含む付加(共)重合体環状ポリオレフィン、及び、一般式(I)で表される繰り返し単位の少なくとも1種以上をさらに含んでなる付加(共)重合体環状ポリオレフィンである。また、一般式(III)で表される環状繰り返し単位を少なくとも1種含む開環(共)重合体も好適に使用することができる。
Figure 2007245687
Figure 2007245687
Figure 2007245687
式中、mは0〜4の整数を表す。R〜Rは、水素原子または炭素数1〜10の炭化水素基、X〜X、Y〜Yは水素原子、炭素数1〜10の炭化水素基、ハロゲン原子、ハロゲン原子で置換された炭素数1〜10の炭化水素基、−(CHCOOR11、−(CHOCOR12、−(CHNCO、−(CHNO、−(CHCN、−(CHCONR1314、−(CHNR1314、−(CHOZ、−(CHW、または、XとYあるいはXとYあるいはXとYから構成された(−CO)O、(−CO)NR15を示す。なお、R11〜R15は、水素原子、炭素数1〜20の炭化水素基、Zは炭化水素基またはハロゲンで置換された炭化水素基、WはSiR16 3−p (R16は炭素数1〜10の炭化水素基、Dはハロゲン原子−OCOR16または−OR16、pは0〜3の整数を示す)、nは0〜10の整数を示す。
〜X、Y〜Yの置換基に分極性の大きい官能基を導入することにより、光学フィルムの厚さ方向レターデーション(Rth)を大きくすることができるとともに、面内レターデーション(Re)の発現性を大きくすることができる。Re発現性の大きなフィルムは、フィルム製造過程でフィルムを延伸することにより、Re値を大きくすることができる。
ノルボルネン系付加(共)重合体は、特開平10−7732号、特表2002−504184号、US2004229157A1号、WO2004/070463A1号等の各公報に開示されており、ノルボルネン系多環状不飽和化合物同士を付加重合することによって得られる。また、必要に応じ、ノルボルネン系多環状不飽和化合物と、次のようなジエン化合物とを付加重合して得ることもできる。ジエン化合物としては、共役ジエン、非共役ジエン、線状ジエンの各化合物等がある。共役ジエン化合物としては、エチレン、プロピレン、ブテン、ブタジエン、イソプレンを例示することができる。非共役ジエン化合物としてはエチリデンノルボルネンを例示することができる。線状ジエン化合物としてはアクリロニトリル、アクリル酸、メタアクリル酸、無水マレイン酸、アクリル酸エステル、メタクリル酸エステル、マレイミド、酢酸ビニル、塩化ビニルを例示することができる。ノルボルネン系付加(共)重合体は、三井化学(株)よりアペルの商品名で発売されており、ガラス転移温度(Tg)が互いに異なる複数のグレードがある。それらは例えばAPL8008T(Tg70℃)、APL6013T(Tg125℃)、APL6015T(Tg145℃)などである。また、ポリプラスチックス(株)よりTOPAS8007、同6013、同6015などのペレットが製品として発売されている。さらに、Ferrania社よりAppear3000が発売されている。
ノルボルネン系重合体水素化物は、特開平1−240517号、特開平7−196736号、特開昭60−26024号、特開昭62−19801号、特開2003‐1159767号、特開2004‐309979号等の各公報に開示されているように、多環状不飽和化合物を付加重合あるいはメタセシス開環重合したのち水素添加することにより作られる。本発明に用いるノルボルネン系重合体において、R〜Rは水素原子または−CHが好ましく、X及びYは水素原子、Cl、−COOCHが好ましく、その他の基は適宜選択される。このノルボルネン系樹脂は、JSR(株)からアートン(Arton)GあるいはアートンFという商品名で発売されており、また日本ゼオン(株)からゼオノア(Zeonor)ZF14、ZF16、ゼオネックス(Zeonex)250あるいはゼオネックス280という商品名で市販されており、本発明では以上のものをフィルムとすることができる。
[溶剤]
環状ポリオレフィンが溶解することができるものであれば、溶剤は特に限定されない。好ましい例ととして、ジクロロメタン、クロロホルム等の塩素系化合物、炭素原子数が3〜12の鎖状炭化水素、環状炭化水素、芳香族炭化水素、エステル、ケトン、エーテルから選ばれる化合物が好ましい。エステル、ケトンおよび、エーテルは、環状構造を有していてもよい。炭素原子数が3〜12の鎖状炭化水素類の例としては、ヘキサン、オクタン、イソオクタン、デカンなどが挙げられる。炭素原子数が3〜12の環状炭化水素類としてはシクロペンタン、シクロヘキサン及びその誘導体が挙げられる。炭素原子数が3〜12の芳香族炭化水素としては、ベンゼン、トルエン、キシレンなどが挙げられる。炭素原子数が3〜12のエステルの例としては、エチルホルメート、プロピルホルメート、ペンチルホルメート、メチルアセテート、エチルアセテート、ペンチルアセテートが挙げられる。炭素原子数が3〜12のケトンの例としては、アセトン、メチルエチルケトン、ジエチルケトン、ジイソブチルケトン、シクロペンタノン、シクロヘキサノン、メチルシクロヘキサノンが挙げられる。炭素原子数が3〜12のエーテルの例としては、ジイソプロピルエーテル、ジメトキシメタン、ジメトキシエタン、1,4−ジオキサン、1,3−ジオキソラン、テトラヒドロフラン、アニソール、フェネトールが挙げられる。2種類以上の官能基を有する有機溶剤の例としては、2−エトキシエチルアセテート、2−メトキシエタノール、2−ブトキシエタノールが挙げられる。有機溶剤の好ましい沸点は35℃以上かつ150℃以下である。なお、本発明においては、乾燥性、粘度等のドープ物性調節のために、2種以上の化合物の混合物を溶剤として用いることができ、さらに、混合物を溶媒として用いるときには、その混合物にいわゆる貧溶媒が添加されていてもよい。
添加する貧溶媒は、使用するポリマー種により適宜選択することができる。例えば、良溶媒として塩素系有機溶剤を使用する場合には、アルコールを好適に使用することができる。アルコールとしては、直鎖、分枝、環状のいずれの構造を有していてもよく、その中でも飽和脂肪族炭化水素であることが好ましい。アルコールは、第一級〜第三級のいずれのものであってもよい。アルコールの例としては、メタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、1−ブタノール、2−ブタノール、t−ブタノール、1−ペンタノール、2−メチル−2−ブタノールおよびシクロヘキサノールが含まれる。なお、アルコールとしては、フッ素系アルコールも用いられる。例えば、2−フルオロエタノール、2,2,2−トリフルオロエタノール、2,2,3,3−テトラフルオロ−1−プロパノールなども挙げられる。貧溶媒のなかでも特に1価のアルコールは、剥離抵抗の低減効果があり、好ましく使用することができる。選択する良溶剤によって特に好ましいアルコールは変化するが、乾燥負荷を考慮すると、沸点が120℃以下のアルコールが好ましく、炭素数が1〜6の1価アルコールがさらに好ましく、炭素数1〜4のアルコールが特に好ましく使用することができる。環状ポリオレフィンのドープを作成する上で特に好ましい混合溶剤は、ジクロロメタンを主溶剤とし、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノールあるいはブタノールから選ばれる1種以上のアルコールを貧溶媒にする組み合わせである。
[添加剤及びその他のフィルム成分]
環状ポリオレフィンのドープには、用途に応じた種々の添加剤及びその他のフィルム成分を加えることができる。添加剤としては、(1)劣化防止剤、(2)紫外線防止剤、(3)レターデーション(光学異方性)調節剤、(4)剥離促進剤、(5)可塑剤、(6)赤外吸収剤、(7)微粒子等が挙げられる。添加剤は、固体でも油状物でもよく、すなわち、その融点や沸点によって特に限定されるものではない。例えば、融点が20℃以下と20℃以上の紫外線吸収材料の混合使用、同様に劣化防止剤の混合使用等も可能である。赤外吸収剤(赤外吸収染料)としては、例えば特開平2001−194522号公報に記載されており、それらは本発明でも使用することができる。またその添加するタイミングは環状ポリオレフィンのドープ製造工程中のいずれの工程でも良いし、またはドープ製造工程の最後に添加剤の添加工程を加えて添加をしてもよい。各添加剤の添加量は、所望の機能が発現する限りにおいて特に限定されない。また、多層構造の環状ポリオレフィンフィルムを製造する場合には、各層毎に添加物の種類や添加量を変えてもよい。
(1)劣化防止剤
本発明では、ドープに、公知の劣化防止剤(酸化防止剤)を添加することができ、フェノール系やヒドロキノン系の酸化防止剤がある。例としては、2,6−ジ−t−ブチル,4−メチルフェノール、4,4’−チオビス−(6−t−ブチル−3−メチルフェノール)、1,1’−ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン、2,2’−メチレンビス(4−エチル−6−t−ブチルフェノール)、2,5−ジ−t−ブチルヒドロキノン、ペンタエリスリチル−テトラキス[3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネートなどが挙げられる。その他の例としては、トリス(4−メトキシ−3,5−ジフェニル)ホスファイト、トリス(ノニルフェニル)ホスファイト、トリス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)ホスファイト、ビス(2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、ビス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイトなどのリン系の酸化防止剤が挙げられる。酸化防止剤の添加量は、環状ポリオレフィン100質量部に対して、0.05〜5.0質量部が好ましい。
(2)紫外線吸収剤
得られるフィルムを偏光板に用いる場合や液晶と共に使用する場合に、偏光板や液晶等の劣化防止の観点から、紫外線吸収剤がドープに添加されることが好ましい。紫外線吸収剤としては、波長370nm以下の紫外線の吸収能に優れ、かつ、良好な液晶表示性の観点から、波長400nm以上の可視光の吸収が少ないものが好ましい。好ましく用いられる紫外線吸収剤の具体例としては、ヒンダードフェノール系化合物、オキシベンゾフェノン系化合物、ベンゾトリアゾール系化合物、サリチル酸エステル系化合物、ベンゾフェノン系化合物、シアノアクリレート系化合物、ニッケル錯塩系化合物などが挙げられる。
ヒンダードフェノール系化合物の例としては、2,6−ジ−tert−ブチル−p−クレゾール、ペンタエリスリチル−テトラキス〔3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕、N,N’−ヘキサメチレンビス(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシ−ヒドロシンナミド)、1,3,5−トリメチル−2,4,6−トリス(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)ベンゼン、トリス−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)−イソシアヌレイトなどが挙げられる。ベンゾトリアゾール系化合物の例としては、2−(2′−ヒドロキシ−5′−メチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2,2−メチレンビス(4−(1,1,3,3−テトラメチルブチル)−6−(2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)フェノール)、(2,4−ビス−(n−オクチルチオ)−6−(4−ヒドロキシ−3,5−ジ−tert−ブチルアニリノ)−1,3,5−トリアジン、トリエチレングリコール−ビス〔3−(3−tert−ブチル−5−メチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕、N,N’−ヘキサメチレンビス(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシ−ヒドロシンナミド)、1,3,5−トリメチル−2,4,6−トリス(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)ベンゼン、2(2’−ヒドロキシ−3’,5‘−ジ−tert−ブチルフェニル)−5−クロルベンゾトリアゾール、(2(2’−ヒドロキシ−3’,5‘−ジ−tert−アミルフェニル)−5−クロルベンゾトリアゾール、2,6−ジ−tert−ブチル−p−クレゾール、ペンタエリスリチル−テトラキス〔3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕などが挙げられる。これらの紫外線防止剤の添加量は、環状ポリオレフィンに対する質量割合を1ppm〜1.0%とすることが好ましく、10〜1000ppmとすることがさらに好ましい。
(3)レターデーション調節剤
フィルムが所定のレターデーション値を発現するように、芳香族環を少なくとも2つ有する化合物をレターデーション調節剤として用いることができる。レターデーション調節剤を使用する場合には、環状ポリオレフィン100質量部に対して0.05〜20質量部の範囲の割合で使用することが好ましく、0.1〜10質量部の範囲の割合で使用することがより好ましく、0.2〜5質量部の範囲の割合で使用することがさらに好ましく、0.5〜2質量部の範囲の割合で使用することが最も好ましい。なお、2種類以上のレターデーション調節剤を併用してもよい。なお、レターデーション調節剤は、250〜400nmの波長領域に最大吸収を有する化合物であることが好ましく、可視領域には実質的に吸収能を有していない化合物であることが好ましい。
レターデーション調節剤の「芳香族環」は、芳香族炭化水素環に加えて、芳香族性ヘテロ環を含む。芳香族炭化水素環は、6員環(すなわち、ベンゼン環)であることが特に好ましい。芳香族性ヘテロ環は一般に、不飽和ヘテロ環である。芳香族性ヘテロ環は、5員環、6員環または7員環であることが好ましく、5員環または6員環であることがさらに好ましい。芳香族性ヘテロ環は一般に、最多の二重結合を有する。ヘテロ原子としては、窒素原子、酸素原子および硫黄原子が好ましく、窒素原子が特に好ましい。芳香族性ヘテロ環の例には、フラン環、チオフェン環、ピロール環、オキサゾール環、イソオキサゾール環、チアゾール環、イソチアゾール環、イミダゾール環、ピラゾール環、フラザン環、トリアゾール環、ピラン環、ピリジン環、ピリダジン環、ピリミジン環、ピラジン環および1,3,5−トリアジン環が含まれる。芳香族環としては、ベンゼン環、フラン環、チオフェン環、ピロール環、オキサゾール環、チアゾール環、イミダゾール環、トリアゾール環、ピリジン環、ピリミジン環、ピラジン環および1,3,5−トリアジン環が好ましく、特に1,3,5−トリアジン環が好ましく用いられる。具体的には、例えば特開2001−166144号公報に開示される化合物が好ましく用いられる。
レターデーション調節剤が有する芳香族環の数は、2〜20であることが好ましく、2〜12であることがより好ましく、2〜8であることがさらに好ましく、2〜6であることが最も好ましい。二つの芳香族環の結合関係は、(a)縮合環を形成する場合、(b)単結合で直結する場合、(c)連結基を介して結合する場合の3つのタイプに分類することができ、いずれの結合関係を有する化合物であってもよい。なお、芳香族環の結合のため、スピロ結合は形成できないことは言うまでもない。
(a)の縮合環、つまり、2つ以上の芳香族環の縮合環の例としては、インデン環、ナフタレン環、アズレン環、フルオレン環、フェナントレン環、アントラセン環、アセナフチレン環、ビフェニレン環、ナフタセン環、ピレン環、インドール環、イソインドール環、ベンゾフラン環、ベンゾチオフェン環、インドリジン環、ベンゾオキサゾール環、ベンゾチアゾール環、ベンゾイミダゾール環、ベンゾトリアゾール環、プリン環、インダゾール環、クロメン環、キノリン環、イソキノリン環、キノリジン環、キナゾリン環、シンノリン環、キノキサリン環、フタラジン環、プテリジン環、カルバゾール環、アクリジン環、フェナントリジン環、キサンテン環、フェナジン環、フェノチアジン環、フェノキサチイン環、フェノキサジン環およびチアントレン環が挙げられる。中でも、ナフタレン環、アズレン環、インドール環、ベンゾオキサゾール環、ベンゾチアゾール環、ベンゾイミダゾール環、ベンゾトリアゾール環およびキノリン環が好ましい。
(b)の単結合は、2つの芳香族環の炭素原子間の結合であることが好ましい。2以上の単結合で2つの芳香族環を結合して、2つの芳香族環の間に脂肪族環または非芳香族性複素環を形成してもよい。
(c)の連結基も、上記(b)の単結合と同様に、2つの芳香族環の炭素原子間を結合するものであることが好ましい。連結基は、アルキレン基、アルケニレン基、アルキニレン基、−CO−、−O−、−NH−、−S−、またはこれらの組み合わせであることが好ましい。組み合わせからなる連結基の例を以下に示す。なお、以下の連結基の例の左右の関係は、逆になってもよい。
c1:−CO−O−
c2:−CO−NH−
c3:−アルキレン−O−
c4:−NH−CO−NH−
c5:−NH−CO−O−
c6:−O−CO−O−
c7:−O−アルキレン−O−
c8:−CO−アルケニレン−
c9:−CO−アルケニレン−NH−
c10:−CO−アルケニレン−O−
c11:−アルキレン−CO−O−アルキレン−O−CO−アルキレン−
c12:−O−アルキレン−CO−O−アルキレン−O−CO−アルキレン−O−
c13:−O−CO−アルキレン−CO−O−
c14:−NH−CO−アルケニレン−
c15:−O−CO−アルケニレン−
上記の芳香族環および連結基は、置換基を有していてもよい。この置換基の例としては、ハロゲン原子(F、Cl、Br、I)、ヒドロキシル基、カルボキシル基、シアノ基、アミノ基、ニトロ基、スルホ基、カルバモイル基、スルファモイル基、ウレイド基、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、脂肪族アシル基、脂肪族アシルオキシ基、アルコキシ基、アルコキシカルボニル基、アルコキシカルボニルアミノ基、アルキルチオ基、アルキルスルホニル基、脂肪族アミド基、脂肪族スルホンアミド基、脂肪族置換アミノ基、脂肪族置換カルバモイル基、脂肪族置換スルファモイル基、脂肪族置換ウレイド基、非芳香族性複素環基が挙げられる。
アルキル基の炭素原子数は、1〜8であることが好ましい。環状アルキル基よりも鎖状アルキル基の方が好ましく、直鎖状アルキル基が特に好ましい。アルキル基は、さらに置換基を有していてもよく、その置換基の例としては、ヒドロキシ、カルボキシ、アルコキシ基、アルキル置換アミノ基がある。アルキル基(置換アルキル基を含む)の例には、メチル、エチル、n−ブチル、n−ヘキシル、2−ヒドロキシエチル、4−カルボキシブチル、2−メトキシエチルおよび2−ジエチルアミノエチル等の各基が含まれる。
アルケニル基の炭素原子数は2〜8の範囲が好ましい。環状アルケニル基よりも鎖状アルケニル基の方が好ましく、鎖状アルケニル基の中でも直鎖状アルケニル基が特に好ましい。アルケニル基の中にさらに置換基が含まれていてもよい。アルケニル基の例には、ビニル、アリル、1−ヘキセニルがある。アルキニル基の炭素原子数は、2〜8であることが好ましい。環状アルキケニル基よりも鎖状アルキニル基の方が好ましく、鎖状アルキニル基の中でも直鎖状アルキニル基が特に好ましい。アルキニル基の中にさらに置換基が含まれていてもよい。アルキニル基の例には、エチニル、1−ブチニルおよび1−ヘキシニルがある。
脂肪族アシル基の炭素原子数は、1〜10であることが好ましい。脂肪族アシル基の例には、アセチル、プロパノイル、ブタノイルが含まれる。脂肪族アシルオキシ基の炭素原子数は、1〜10であることが好ましい。脂肪族アシルオキシ基の例には、アセトキシが含まれる。アルコキシ基の炭素原子数は、1〜8であることが好ましい。アルコキシ基は、アルコキシ基等の置換基を有するいわゆる置換アルコキシ基であってもよい。アルコキシ基(置換アルコキシ基を含む)の例としては、メトキシ、エトキシ、ブトキシおよびメトキシエトキシ等の各基が含まれる。アルコキシカルボニル基の炭素原子数は、2〜10であることが好ましい。アルコキシカルボニル基の例には、メトキシカルボニル及びエトキシカルボニルの各基が含まれる。アルコキシカルボニルアミノ基の炭素原子数は、2〜10であることが好ましい。アルコキシカルボニルアミノ基の例としては、メトキシカルボニルアミノ及びエトキシカルボニルアミノの各基がある。
アルキルチオ基の炭素原子数は、1〜12であることが好ましい。アルキルチオ基の例としては、メチルチオ、エチルチオおよびオクチルチオの各基が挙げられる。アルキルスルホニル基の炭素原子数は、1〜8であることが好ましい。アルキルスルホニル基の例としては、メタンスルホニル基及びエタンスルホニル基が挙げられる。脂肪族アミド基の炭素原子数は、1〜10であることが好ましい。脂肪族アミド基の例としては、アセトアミド基が挙げられる。脂肪族スルホンアミド基の炭素原子数は、1〜8であることが好ましい。脂肪族スルホンアミド基の例としては、メタンスルホンアミド、ブタンスルホンアミド、n−オクタンスルホンアミドの各基が挙げられる。脂肪族置換アミノ基の炭素原子数は、1〜10であることが好ましい。脂肪族置換アミノ基の例としては、ジメチルアミノ、ジエチルアミノおよび2−カルボキシエチルアミノの各基が挙げられる。
脂肪族置換カルバモイル基の炭素原子数は、2〜10であることが好ましい。脂肪族置換カルバモイル基の例としては、メチルカルバモイル基およびジエチルカルバモイル基が挙げられる。脂肪族置換スルファモイル基の炭素原子数は、1〜8であることが好ましい。脂肪族置換スルファモイル基の例としては、メチルスルファモイル基及びジエチルスルファモイル基が挙げられる。脂肪族置換ウレイド基の炭素原子数は、2〜10であることが好ましい。脂肪族置換ウレイド基の例としては、メチルウレイド基が挙げられる。
非芳香族性複素環基の例としては、ピペリジノ基及びびモルホリノ基が挙げられる。レターデーション調節剤の分子量は、300〜800であることが好ましい。
レターデーション調節剤としては、1,3,5−トリアジン環を含む化合物の他に、直線的な分子構造を有する棒状化合物も好ましく用いることができる。直線的な分子構造とは、熱力学的に最も安定な構造において棒状化合物の分子構造が直線的であることを意味する。熱力学的に最も安定な構造は、結晶構造解析または分子軌道計算によって求めることができる。例えば、分子軌道計算ソフト(例、WinMOPAC2000、富士通(株)製)を用いて分子軌道計算を行い、化合物の生成熱が最も小さくなるような分子の構造を求めることができる。分子構造が直線的であるとは、上記のように計算して求められる熱力学的に最も安定な構造において、主鎖の構成する角度が140度以上であることを意味する。
少なくとも二つの芳香族環を有する棒状化合物としては、下記一般式(IV)で表される化合物が好ましい。
一般式(IV): Ar−L−Ar
上記一般式(IV)において、Ar及びArは、それぞれ独立に、芳香族基である。芳香族基は、アリール基(芳香族性炭化水素基)、置換アリール基、芳香族性ヘテロ環基および置換芳香族性ヘテロ環基を含む。アリール基および置換アリール基の方が、芳香族性ヘテロ環基および置換芳香族性ヘテロ環基よりも好ましい。芳香族性へテロ環基のヘテロ環は、一般には不飽和である。芳香族性ヘテロ環は、5員環、6員環または7員環であることが好ましく、5員環または6員環であることがさらに好ましい。芳香族性へテロ環は一般に最多の二重結合を有する。ヘテロ原子としては、窒素原子、酸素原子または硫黄原子が好ましく、窒素原子または硫黄原子がさらに好ましい。芳香族基の芳香族環としては、ベンゼン環、フラン環、チオフェン環、ピロール環、オキサゾール環、チアゾール環、イミダゾール環、トリアゾール環、ピリジン環、ピリミジン環およびピラジン環が好ましく、ベンゼン環が特に好ましい。
一般式(IV)において、Lは、アルキレン基、アルケニレン基、アルキニレン基、−O−、−CO−およびそれらの組み合わせからなる基から選ばれる二価の連結基である。アルキレン基は、環状構造を有していてもよい。環状アルキレン基としては、シクロヘキシレンが好ましく、1,4−シクロへキシレンが特に好ましい。鎖状アルキレン基としては、直鎖状アルキレン基の方が分岐を有するアルキレン基よりも好ましい。アルキレン基の炭素原子数は、1〜20であることが好ましく、より好ましくは1〜15であり、さらに好ましくは1〜10であり、さらに好ましくは1〜8であり、最も好ましくは1〜6である。
アルケニレン基及びアルキニレン基は、環状構造よりも鎖状構造を有することが好ましく、分岐を有する鎖状構造よりも直鎖状構造を有することがさらに好ましい。アルケニレン基およびアルキニレン基の炭素原子数は、好ましくは2〜10であり、より好ましくは2〜8であり、さらに好ましくは2〜6であり、さらに好ましくは2〜4であり、最も好ましくは2(ビニレンまたはエチニレン)である。アリーレン基は、炭素原子数は6〜20であることが好ましく、より好ましくは6〜16であり、さらに好ましくは6〜12である。一般式(IV)の分子構造において、Lとこれを挟むAr及びArとが形成する角度は、140度以上であることが好ましい。
棒状化合物としては、下記一般式(V)で表される化合物がさらに好ましい。
一般式(V):Ar−L−X−L−Ar
上記一般式(V)において、ArおよびArは、それぞれ独立に、芳香族基である。芳香族基の定義および例は、一般式(IV)のArおよびArと同様である。
一般式(V)において、LおよびLは、それぞれ独立に、アルキレン基、−O−、−CO−及びこれらの組み合わせからなる基より選ばれる二価の連結基である。アルキレン基は、環状構造よりも鎖状構造を有することが好ましく、分岐を有する鎖状構造よりも直鎖状構造を有することがさらに好ましい。アルキレン基の炭素原子数は、1〜10であることが好ましく、より好ましくは1〜8であり、さらに好ましくは1〜6であり、さらに好ましくは1〜4であり、1または2(つまり、メチレンまたはエチレン)であることが最も好ましい。L及びLは、−O−CO−または−CO−O−であることが特に好ましい。一般式(V)において、Xは、1,4−シクロへキシレン、ビニレンまたはエチニレンである。溶液の紫外線吸収スペクトルにおいて最大吸収波長(λmax)が250nmより短波長である棒状化合物を、二種類以上併用してもよい。レターデーション発現剤の添加量は、環状ポリオレフィンに対して0.1〜30質量%であることが好ましく、0.5〜20質量%であることがさらに好ましい。
(4)剥離促進剤
環状ポリオレフィンフィルムの剥離抵抗を小さくする添加促進剤としては、いわゆる界面活性剤に、効果の顕著なものが多くみつかっている。好ましい添加促進剤としては燐酸エステル系の界面活性剤、カルボン酸またはカルボン酸塩系の界面活性剤、スルホン酸またはスルホン酸塩系の界面活性剤、硫酸エステル系の界面活性剤が挙げられる。また、上記界面活性剤の炭化水素鎖に結合している水素原子の一部をフッ素原子に置換したフッ素系界面活性剤も有効である。以下に剥離促進剤を例示する。
RZ−1 C17O−P(=O)−(OH)
RZ−2 C1225O−P(=O)−(OK)
RZ−3 C1225OCHCHO−P(=O)−(OK)
RZ−4 C1531(OCHCHO−P(=O)−(OK)
RZ−5 {C1225O(CHCHO)−P(=O)−OH
RZ−6 {C1835(OCHCHO}−P(=O)−ONH
RZ−7 (t−C−C−OCHCHO−P(=O)−(OK)
RZ−8 (iso−C19 −C−O−(CHCHO)−P(=O)−(OK)(OH)
RZ−9 C1225SONa
RZ−10 C1225OSONa
RZ−11 C1733COOH
RZ−12 C1733COOH・N(CHCHOH)
RZ−13 iso−C17−C−O−(CHCHO)−(CHSONa
RZ−14 (iso−C19−O−(CHCHO)−(CHSONa
RZ−15 トリイソプロピルナフタレンスルフォン酸ナトリウム
RZ−16 トリ−t−ブチルナフタレンスルフォン酸ナトリウム
RZ−17 C17 33CON(CH)CHCHSONa
RZ−18 C12 25−CSO・NH
剥離剤の添加量は環状ポリオレフィンに対して0.05〜5質量%が好ましく、0.1〜2質量%がさらに好ましく、0.1〜0.5質量%が最も好ましい。
(5)可塑剤
環状ポリオレフィンは、一般的に、セルロースアセテートと比較して柔軟性に乏しく、フィルムとされてこれに曲げ応力やせん断応力がかけられると、フィルムに割れ等が生じ易い。また、得られたフィルムを光学製品に用いるために加工する際に、切断等をするとその切断部にひびが入りやすく、切り屑が発生しやすい。発生した切り屑は、フィルムを汚染し、光学製品の光学的欠陥の原因となっていた。そこで、この問題点を改良するために、可塑剤をドープに添加することができる。可塑剤の具体例としては、フタル酸エステル系、トリメリット酸エステル系、脂肪族二塩基酸エステル系、正リン酸エステル系、酢酸エステル系、ポリエステル・エポキシ化エステル系、リシノール酸エステル系、ポリオレフィン系、ポリエチレングリコール系の各化合物を挙げることができる。
使用することができる可塑剤としては、常温常圧下で、液状でありかつ沸点が200℃以上の化合物が好ましい。具体的な化合物名としては、以下を例示することができる。
脂肪族二塩基酸エステル系としては、例えばジオクチルアジペート(230℃/760mmHg)、ジブチルアジペート(145℃/4mmHg)、ジ−2−エチルヘキシルアジペート(335℃/760mmHg)、ジブチルジグリコールアジペート(230〜240℃/2mmHg)、ジ−2−エチルヘキシルアゼレート(220〜245℃/4mmHg)、ジ−2−エチルヘキシルセバケート(377℃/760mmHg)等が挙げられる。フタル酸エステル系としては、例えば、ジエチルフタレート(298℃/760mmHg)、ジヘプチルフタレート(235〜245℃/10mmHg)、ジ−n−オクチルフタレート(210℃/760mmHg)、ジイソデシルフタレート(420℃/760mmHg)等が挙げられる。また、ポリオレフィン系としては、ノルマルパラフィン、イソパラフィン、シクロパラフィン等のパラフィンワックス類(平均分子量330〜600、融点45〜80℃)、流動パラフィン類(JIS規格 K2231ISOVG8、同VG15、同VG32、同VG68、同VG100等)、パラフィンペレット類(融点56〜58℃、58〜60℃、60〜62℃等)、塩化パラフィン、低分子量ポリエチレン、低分子量ポリプロピレン、低分子量ポリイソブテン、水添ポリブタジエン、水添ポリイソプレン、スクアラン等が挙げられる。
可塑剤の添加量は、環状ポリオレフィンに対して0.5〜40.0質量%、好ましくは1.0質量%〜30.0質量%、より好ましくは3.0%〜20.0質量%である。可塑剤の添加量が0.5質量%よりも少ないと可塑効果が不十分で、加工適性が向上しない。また、40質量%よりも多いと長時間経った場合に、可塑剤が分離溶出する場合が有り、光学的ムラ、他部品の汚染等が発生し、好ましくない。
(7)微粒子
上記の各種環状ポリオレフィンに微粒子を添加することにより、添加しない場合よりもフィルム表面の動摩擦係数を低くしてフィルムをハンドリングする時にフィルムに加わる応力を低減することができる。本発明で使用できる微粒子としては、特に限定されず、有機あるいは無機の各化合物の微粒子を使用することができる。
微粒子として使用することができる無機化合物としては、ケイ素を含む化合物、二酸化ケイ素、酸化チタン、酸化亜鉛、酸化アルミニウム、酸化バリウム、酸化ジルコニウム、酸化ストロングチウム、酸化アンチモン、酸化スズ、酸化スズ・アンチモン、炭酸カルシウム、タルク、クレイ、焼成カオリン、焼成ケイ酸カルシウム、水和ケイ酸カルシウム、ケイ酸アルミニウム、ケイ酸マグネシウム、リン酸カルシウム等が好ましく、ケイ素を含む無機化合物や金属酸化物がさらに好ましい。フィルムの濁度を低減できるという観点からは二酸化ケイ素が特に好ましい。二酸化ケイ素の微粒子としては、例えば、アエロジルR972、R974、R812、200、300、R202、OX50、TT600(以上、すべて日本アエロジル(株)製)等の商品名の市販品が使用可能である。酸化ジルコニウムの微粒子としては、例えば、アエロジルR976及びR811(以上、日本アエロジル(株)製)等の商品名の市販品が使用可能である。
微粒子として使用することができる有機化合物としては、ポリテトラフルオロエチレン、セルロースアセテート、ポリスチレン、ポリメチルメタクリレート、ポリプロピルメタクリレート、ポリメチルアクリレート、ポリエチレンカーボネート、澱粉等がある。これらの粉砕分級物も使用することができる。また、懸濁重合法で合成した高分子化合物、スプレードライ法あるいは分散法等により球型にした高分子化合物も用いることができる。
これらの微粒子の1次平均粒子径は、フィルムのヘイズを低く抑えるという観点から、好ましくは1〜20000nmであり、より好ましくは1〜10000nmでありさらに好ましくは2〜1000nmであり、特に好ましくは5〜500nmである。微粒子の1次平均粒子径は、透過型電子顕微鏡による粒子の平均粒径から求められる。購入した微粒子は凝集していることが多く、使用の前に公知の方法で予め分散することが好ましい。分散により二次粒子径を200〜1500nmにすることが好ましく、300〜1000nmにすることがさらに好ましい。
微粒子の添加量は環状ポリオレフィン100質量部に対して0.01〜0.3質量部が好ましく、0.05〜0.2質量部がさらに好ましく、0.08〜0.12質量部が最も好ましい。
微粒子を添加した環状ポリオレフィンフィルムの好ましいヘイズの範囲は2.0%以下であり、さらに好ましい範囲は1.2%以下であり、特に好ましくは0.5%以下である。微粒子を添加した環状ポリオレフィンフィルムの好ましい動摩擦係数は0.8以下であり、特に好ましくは0.5以下である。動摩擦係数は、JISやASTMが規定する方法に従い、鋼球を用いて測定することができる。ヘイズは日本電色工業(株)製1001DP型ヘイズ計を用いて測定することができる。
[ドープ製造]
図1にドープ製造設備を示す。ただし、本発明はここに示すドープ製造装置及び方法に限定されない。ドープ製造設備10は、溶媒を貯留するための溶媒タンク11と、ポリマー、つまり環状ポリオレフィンを供給するためのホッパ12と、添加剤を貯留するための添加剤タンク15と、溶媒とポリマーと添加剤とを混合して混合液16とする混合タンク17と、混合液16を加熱するための加熱装置18と、加熱された混合液16の温度を調整するための温度調整器21と、温度調整器21を出た混合液16をろ過するろ過装置22と、ろ過装置22からのドープ24の濃度を調整するためのフラッシュ装置26と、濃度調整されたドープ24をろ過するためのろ過装置27とを備える。そしてドープ製造設備10には、さらに、溶媒を回収するための回収装置28と、回収された溶媒を再生するための再生装置29とが備えられている。そして、このドープ製造設備10は、ストックタンク32を介してフィルム製造設備33に接続されている。なお、送液量を調節するためのバルブ36〜38と、送液用のポンプ41,42とがドープ製造設備10には設けられているが、これらが配される位置及び数の増減については適宜変更される。
ドープ製造設備10を用いるときにはドープ24は以下の方法で製造される。バルブ37を開とすることにより、溶媒は溶媒タンク11から混合タンク17に送られる。次に、ポリマーがホッパ12から混合タンク17に送り込まれる。このとき、ポリマーは、計量と送出とを連続的に行う送出手段により混合タンク17に連続的に送りこまれてもよいし、計量して所定量を送出するような送出手段により混合タンク17に断続的に送り込まれてもよい。また、添加剤溶液は、バルブ36の開閉操作により必要量が添加剤タンク15から混合タンク17に送り込まれる。
添加剤は、溶液として送り込む方法の他に、例えば添加剤が常温で液体である場合には、その液体状態のままで混合タンク17に送り込むことができる。また、添加剤が固体である場合には、ホッパ等を用いて混合タンク17に送り込む方法も可能である。添加剤を複数種類添加する場合には、添加剤タンク15の中に複数種類の添加剤を溶解させた溶液を入れておくこともできる。または、複数の添加剤タンクを用いて、それぞれに添加剤が溶解している溶液を入れ、それぞれ独立した配管により混合タンク17に送り込むこともできる。
前述した説明においては、混合タンク17に入れる順番が、溶媒、ポリマー、添加剤であったが、この順番に限定されるものではない。例えば、ポリマーを混合タンク17に送り込んだ後に、好ましい量の溶媒を送液することもできる。また、添加剤は必ずしも混合タンク17でポリマーと溶媒と混合することに限定されず、後の工程でポリマーと溶媒との混合物にインライン混合方式等で混合されてもよい。
混合タンク17には、その外表を覆い、混合タンク17との間に伝熱媒体が供給されるジャケット46と、モータ47により回転する第1攪拌機48と、モータ51により回転する第2攪拌機52が取り付けられていることが好ましい。混合タンク17は、ジャケット46の内側に流れ込む伝熱媒体により温度調整され、その好ましい温度範囲は−10℃〜55℃の範囲である。第1攪拌機48,第2攪拌機52のタイプを適宜選択することにより、ポリマーが溶媒により膨潤した混合液16を得る。第1攪拌機48は、回転する軸部材にアンカー翼を備えるものであることが好ましく、第2攪拌機52は、ディゾルバータイプの偏芯型攪拌機であることが好ましい。
次に、混合液16は、ポンプ41により加熱装置18に送られる。加熱装置18は、管本体(図示せず)とこの管本体との間に伝熱媒体を通すためのジャケットとを有するジャケット付き管であることが好ましく、さらに、混合液16を加圧する加圧部(図示せず)を有することが好ましい。このような加熱装置18を用いることにより、加熱条件下または加圧加熱条件下で混合液16中の固形分を効果的かつ効率的に溶解させることができる。以下、このように加熱により固形成分を溶媒に溶解する方法を加熱溶解法と称する。加熱溶解法においては、混合液16を溶剤の沸点以上の温度に加熱したり、または、溶剤の臨界点まで高温高圧に加圧加熱することが好ましい。ジクロロメタンを主溶媒として使用する場合には、多くの環状ポリオレフィンは、20℃〜100℃の加熱温度下で溶解することができる。
なお、加熱溶解法に代えて冷却溶解法により固形成分を溶媒に溶解させてもよい。冷却溶解法とは、混合液16を温度保持した状態またはさらに低温となるように冷却しながら溶解を進める方法である。冷却溶解法では、ポリマーが溶剤により膨潤された混合液16を−20℃〜−100℃の温度に冷却した後に、20℃〜100℃に加熱することが好ましい。以上のような加熱溶解法または冷却溶解法によりポリマーを溶媒に十分溶解させることが可能となる。
混合液16を温度調整器21により略室温とした後に、ろ過装置22によりろ過して不純物や凝集物等の異物を取り除きドープ24とする。ろ過装置22に使用されるフィルタは、その平均孔径が50μm以下であることが好ましい。
ろ過後のドープ24は、バルブ38によりストックタンク32に送られて一旦貯留された後、フィルムの製造に用いられる。
ところで、上記のように、固形成分を一旦膨潤させてから、溶解して溶液とする方法は、ポリマーの溶液における濃度を上昇させる場合ほど、ドープ製造に要する時間が長くなり、製造効率の点で問題となる場合がある。そのような場合には、目的とする濃度よりも低濃度のドープを一旦つくり、その後に目的の濃度とする濃縮工程を実施することが好ましい。
濃縮の方法としては、特に限定するものはないが、例えば、加熱した低濃度のドープをノズルから容器内に吹き込み、ドープをノズルから容器内壁に当たるまでの間で溶剤をフラッシュ蒸発させるとともに、溶剤蒸気を容器から抜き出し、高濃度とされたドープを容器底から抜き出す方法(例えば、米国特許第2,541,012号、米国特許第2,858,229号、米国特許第4,414,341号、米国特許第4,504,355号各明細書等などに記載の方法)等を適用することができる。
本実施形態のフラッシュ蒸発による濃縮工程では、バルブ38により、ろ過装置22でろ過されたドープ24をフラッシュ装置26に送り、このフラッシュ装置26でドープ24の溶媒の一部を蒸発させることによりドープ24を濃縮することができる。濃縮されたドープ24はポンプ42によりフラッシュ装置26から抜き出されてろ過装置27へ送られる。ろ過の際のドープ24の温度は、0℃〜200℃であることが好ましい。ろ過装置27で異物を除去されたドープ24は、ストックタンク32へ送られ一旦貯留されてからフィルム製造に用いられる。なお、濃縮されたドープ24には気泡が含まれていることがあるので、ろ過装置27に送る前に予め泡抜き処理を実施することが好ましい。泡抜き方法としては、例えばドープ24に超音波を照射する超音波照射法等の、公知の種々の方法が適用される。
また、フラッシュ装置26でのフラッシュ蒸発により発生した溶媒ガスは、凝縮器(図示せず)を備える回収装置28により凝縮されて液体となり回収される。回収された溶媒は、再生装置29によりドープ製造用の溶媒として再生されて再利用される。このような回収及び再生利用により、製造コストの点での利点があるとともに、閉鎖系で実施されるために人体及び環境への悪影響を防ぐ効果がある。
以上の製造方法により、ポリマー濃度が5質量%以上40質量%以下であるドープ24を製造することができる。ポリマー濃度は15質量%以上30質量%以下の範囲とすることがより好ましく、16質量%以上25質量%以下の範囲とすることがさらに好ましい。また、添加剤の質量は、ドープ中の固形分全体の質量を100とすると1以上20以下の範囲とすることが好ましい。
ドープの粘度は25℃で1Pa・s〜500Pa・sの範囲であることが好ましく、5Pa・s〜200Pa・sの範囲であることがさらに好ましい。粘度は以下の方法で測定することができる。ドープからサンプリングしたサンプル1mLをレオメーター(CLS 500)に入れ、直径4cm/2°のSteel Cone(共に、TA Instrumennts社製)を用いて測定する。サンプルは予め測定開始温度にて温度が一定となるまで保温しておき、測定はその後に開始する。
[フィルム製造]
環状ポリオレフィンフィルムを製造する方法を説明する。図2はフィルム製造設備33の概略図であり、図3は流延ダイ近傍の概略図である。ただし、本発明は、ここに示すようなフィルム製造方法及び設備に限定されるものではない。フィルム製造設備33には、ストックタンク32から送られてくるドープ24から異物を除去するろ過装置61と、このろ過装置61でろ過されたドープ24を流延して環状ポリオレフィンフィルム(以下、単にフィルムと称する)62とする流延室63と、フィルム62の両側端部を保持してフィルム62を搬送しながら乾燥するテンタ64と、フィルム62の両側端部を切り離す耳切装置67と、フィルム62を複数のローラ68に掛け渡して搬送しながら乾燥する乾燥室69と、フィルム62を冷却するための冷却室71と、フィルム62の帯電量を減らすための除電装置72と、側端部にエンボス加工を施すナーリング付与ローラ対73と、フィルム62を巻き取る巻取室76とが備えられる。
ストックタンク32には、モータ77で回転する攪拌機78が取り付けられており、撹拌によりドープ24の固形分の析出や凝集が抑制される。そしてこのストックタンク32はポンプ80を介してろ過装置61と接続する。
ろ過装置61のフィルタは、絶対ろ過精度が0.1μm〜100μmであることが好ましく、0.5μm〜25μmであることがより好ましい。フィルタの厚さは、0.1mm〜10mmが好ましく、0.2mm〜2mmがさらに好ましい。このようなフィルタを用いる場合には、ろ過圧力は1.6MPa以下が好ましく、1.3MPa以下がより好ましく、1.0MPa以下がさらに好ましく、0.6MPa以下が特に好ましい。フィルタの素材としては、ガラス繊維、セルロース繊維、ろ紙、ポリ四フッ化エチレンなどのフッ素系ポリマー等の従来公知である材料や、他にセラミックス、金属等も例示される。
流延室63には、ドープ24を流出する流延ダイ81と、走行する支持体としての流延バンド82とを備える。流延ダイ81はコートハンガー型のダイが好ましい。流延ダイ81の材質としては、析出硬化型のステンレス鋼が好ましく、その熱膨張率は2×10−5(℃−1)以下であることが好ましい。そして、電解質水溶液での強制腐食試験でSUS316と略同等の耐腐食性を有し、さらに、ジクロロメタン、メタノール、水の混合液に3ヵ月浸漬しても気液界面にピッティング(孔開き)が生じないような耐腐食性を有するものが好ましい。なお、流延ダイ81は、鋳造後1ヶ月以上経過した素材を研削加工することにより作製されることが好ましく、これにより、流延ダイ81の内部をドープ24が一様に流れ、後述する流延膜24bにスジなどが生じることが防止される。流延ダイ81のドープ24と接するいわゆる接液面は、その仕上げ精度が表面粗さで1μm以下、真直度がいずれの方向にも1μm/m以下であることが好ましい。流延ダイ81のスリットのクリアランスは、自動調整により0.5mm〜3.5mmの範囲で調整可能とされている。
流延ダイ81のリップ先端の接液部の角部分について、その面取り半径Rは、流延ダイ81の全巾にわたり一定かつ5μm以上50μm以下とされている。この面取り半径Rが5μm未満であると流延ビート24aにスジ等が発生する場合があり、50μmよりも大きいとリップクリアランスの均一化が困難となって流延膜24bの厚みが不均一となることがある。先端リップの算術平均粗さRaは、0.013μm以上1.6μm以下とすることが好ましい。Raが0.013未満とするには超精密加工が必要となりコスト高の原因となる一方、1.6μmよりも大きいと流延ビート24aにスジ等が入ってしまうことがある。
流延ダイ81の幅は特に限定されるものではないが、最終製品となるフィルム62の幅の1.01倍〜1.3倍程度であることが好ましい。また、製膜の際のドープ24の温度が所定温度に保持されるように、流延ダイ81の温度を制御する温度コントローラが流延ダイ81に取り付けられることが好ましい。さらに、流延ダイ81には、厚み調整ボルト(ヒートボルト)が幅方向に所定の間隔で複数備えられ、このヒートボルトによりスリットの隙間を自動調整する自動厚み調整機構が備えられることがより好ましい。予め設定されるプログラムによりポンプ(高精度ギアポンプが好ましい)81の送液量に応じてプロファイルが設定されてそのプロファイルに応じてヒートボルトが調整される。ドープの送り量を精緻に制御するために、ポンプ80は高精度ギアポンプであることが好ましい。また、フィルム製造設備33中には、例えば赤外線厚み計のような厚み測定機を設け、厚みプロファイルに基づく調整プログラムと厚み測定機による検知結果とにより、自動厚み調整機構へのフィードバック制御を行ってもよい。製品としてのフィルム62の両側端を除く任意の2つの位置での厚み差が1μm以内とすることが好ましい。
流延ダイ81のリップ先端には硬化膜が形成されていることがより好ましい。硬化膜の形成方法は、特に限定されるものではないが、セラミックスコーティング、ハードクロムメッキ、窒化処理方法などが挙げられる。硬化膜としてセラミックスを用いる場合には、研削することができ気孔率が低く脆くなく耐腐食性が良く、かつドープ24との親和性及び密着性がないものが好ましい。具体的には、タングステン・カーバイド(WC)、Al、TiN、Crなどが挙げられるが、中でも特に好ましくはWCである。WCコーティングは、溶射法で行うことができる。
ドープ24が流延ダイ81のリップ先端で局所的に乾燥固化することを防止するために、リップ先端に液を供給するための液供給装置(図示しない)をリップ先端近傍に取り付けることが好ましい。供給する液は、ドープ24との親和性に優れるものが好ましいので、ドープ24の溶媒成分と同じものが好ましい。液が供給される位置は、流延ビードの両端部とリップ先端の両端部と外気とにより形成される三相接触線の周辺部が好ましい。供給される液の流量は、片側それぞれに対し0.1mL/分〜1.0mL/分とすることが好ましい。これにより、異物、例えばドープ24から析出した固形成分や外部から流延ビードに混入したものが流延膜24b中に混合してしまうことを防止することができる。なお、液を供給するポンプとしては、脈動率が5%以下のものを用いることが好ましい。
流延ダイ81の下方の流延バンド82は、回転ローラ85,86に掛け渡され、少なくともいずれか一方の回転ローラの駆動回転により連続的に搬送される。
流延バンド82の幅は特に限定されるものではないが、ドープ24の流延幅の1.05倍〜1.5倍の範囲のものを用いることが好ましい。また、長さは60m〜120m、厚みは1mm〜2mmであり、表面は表面粗さが0.05μm以下となるように研磨されていることが好ましい。厚みムラは0.5%以下であることが好ましい。
流延バンド82の素材は、特に限定されるものでないが、ステンレス製であることが好ましく、十分な耐腐食性と強度とを有するようにSUS316製であることがより好ましい。
回転ローラ85,86には、伝熱媒体を回転ローラ85,86に供給してローラの表面温度を制御する伝熱媒体循環装置87が取り付けられていることが好ましく、これにより流延バンド82の表面温度を所定の値にする。本実施形態では、回転ローラ85,86に伝熱媒体流路(図示せず)が形成されており、その流路中を、所定の温度に保持されている伝熱媒体が通過することにより、回転ローラ85,86の温度が所定の値に保持されるものとなっている。流延バンド82の表面温度は、溶媒の種類、固形成分の種類、ドープ24の濃度等に応じて適宜設定する。
回転ローラ85,86、及び流延バンド82に代えて回転ドラム(図示せず)を支持体として用いることもできる。この場合には、回転速度ムラが0.2%以下となるように高精度で回転できるものであることが好ましい。回転ドラムは、表面の平均粗さが0.01μm以下であることが好ましく、表面がハードクロムメッキ処理等を施されているものが好ましい。これにより、十分な硬度と耐久性とを向上させることができる。なお、回転ドラム、流延バンド82、回転ローラ85,86は、表面欠陥が最小限に抑制されていることが好ましい。具体的には、30μm以上のピンホールが無く、10μm以上30μm未満のピンホールは1個/m以下であり、10μm未満のピンホールは2個/m以下であることが好ましい。
流延ダイ81と支持体である流延バンド82との位置関係について説明する。吐出口81aからドープが吐出される方向を直線L1で表わす。また、図3のように流延ダイ81と流延バンド82とを側面から見た図において、流延バンド82の露出面における法線のうち吐出口81aを通る直線をL2とする。図3に示す流延ダイ81の吐出口81aと流延バンド82との距離L(mm)は、0.5mm以上5mm以下とすることが好ましく、より好ましくは1mm以上4mm以下であり、最も好ましくは1mm以上3mm以下である。なお、この場合の距離L(mm)とは、前記直線L2上で測定される距離である。距離L(mm)が0.5mm未満であると、回転ローラ45の回転に伴う流延バンド82の上下方向における位置変動により、リップ先端と流延バンド82とが接触するおそれがある。また、距離L(mm)が5mmを超えると、流延ビード69aの形成が不安定になるおそれがある。
直線L1と直線L2とのなす角を以下の説明において流延ダイの角度θと称する。なお、流延ダイの角度θは、直線L1と直線L2とが交差する吐出口81aの中心部を回転中心として直線L1が直線L2の反時計回りに90度まで回転した位置の場合をプラスの値、時計回りに90未満回転した位置の場合をマイナスの値として示す。流延ダイの角度θ(度)は、0度以上60度以下であることが好ましく、より好ましくは5度以上60度以下であり、最も好ましくは10度以上60度以下である。流延ダイの角度θが0度とは直線L1が直線L2に重なることを意味する。流延ダイの角度θが0度未満であると、ドープ24の吐出の向きが流延バンド82の走行の向きに逆らうように、吐出口81aが向けられていることとなるので、下流側のリップ先端81bにドープ24が多量に付着して流延ビード69aの形成が困難となる。また、流延ダイの角度θが60度を越えると、流延ダイ81が流延バンド82に対して傾きすぎてしまうので、上流側のリップ先端81cにドープ24が多量に付着して流延が困難となるおそれがある。
流延ダイ81の近傍には、流延ダイ81から流延バンド82にかけて形成される流延ビート24aの流延バンド82走行方向における上流側を圧力制御するために減圧チャンバ90が備えられることが好ましい。
バンド53の近傍には、流延膜24bの溶媒を蒸発させるために風を吹き付ける送風ダクト91〜93と,流延膜24bの形状を乱すような風が流延膜24bにあたることを抑制するための遮風板94とが備えられる。
流延室63には、その内部温度を所定の値に保つための温調装置97と、揮発している有機溶媒を凝縮回収するための凝縮器(コンデンサ)98とが設けられる。そして、凝縮液化した有機溶媒を回収するための回収装置99が流延室63の外部に設けられている。
流延室63の下流の渡り部101には、送風機102が備えられる。また、耳切装置67には、切り取られたフィルム62の側端部屑を細かく切断処理するためのクラッシャ103が備えられる。
乾燥室69には、フィルム62から蒸発して発生した溶媒ガスを吸着回収するための吸着回収装置106が取り付けられている。そして、図2においては乾燥室69の下流に冷却室71が設けられているが、乾燥室69と冷却室71との間にフィルム62の含水量を調整するための調湿室(図示しない)を設けてもよい。除電装置72は、除電バー等の強制除電装置であり、フィルム62の帯電圧を所定の範囲(例えば、−3kV〜+3kV)となるように調整できるものである。除電装置72については、冷却室71の下流側に配される例を図示しているが、この設置位置に限定されるものではない。ナーリング付与ローラ対73は、フィルム62の両側端部にエンボス加工でナーリングを付与するものである。巻取室76の内部には、フィルム62を巻き取るための巻取ロール107と、その巻き取り時のテンションを制御するためのプレスローラ108とが備えられている。
次に、以上のようなフィルム製造設備33を使用してフィルム62を製造する方法の一例を以下に説明する。ドープ24は、攪拌機78の回転により常に均一化されている。ドープ24には、この攪拌の際にも各種添加剤を適宜混合させることもできる。
ドープ24はストックタンク32に送られて、流延に供されるまで固形分の析出や凝集が撹拌により抑制される。そして、ろ過装置61でのろ過により、所定粒径以上のサイズの異物やゲル状の異物が取り除かれる。
そしてドープ24は、流延ダイ81から走行する流延バンド82上に流出あるいは吐出されることにより流延される。流延バンド82に生じるテンションが10N/m〜10N/mとなるように、回転ローラ85と回転ローラ86との相対位置、及び少なくともいずれか一方の回転速度が調整される。また、流延バンド82と回転ローラ85,86との相対速度差は、0.01m/min以下となるようにされる。流延バンド82の速度変動を0.5%以下とし、流延バンド82が一周する際に生じる幅方向における蛇行は1.5mm以下とされることが好ましい。この蛇行を抑制するために、流延バンド82の両端の位置を検出する検出器(図示しない)とこの検出器による検出データに応じて流延バンド82の位置を調整する位置調整機(図示なし)とを設けて、流延バンド82の位置をフィードバック制御することがより好ましい。さらに、流延ダイ81直下における流延バンド82について、回転ローラ85の回転に伴う上下方向の位置変動が200μm以内となるようにすることが好ましい。また、流延室63の温度は、温調装置97により−10℃〜57℃とされることが好ましい。なお、流延室63の内部で蒸発した溶媒は回収装置99により回収された後、再生させてドープ製造用の溶媒として再利用される。流延速度は10m/分以上200m/分以下の範囲で一定とすることが好ましい。
流延ダイ81から流延バンド82にかけては流延ビート24aが形成され、流延バンド82上には流延膜24bが形成される。流延ビート24aの様態を安定させるために、このビード24bに関し上流側のエリアが所定の圧力値となるように減圧チャンバ90で制御されることが好ましい。減圧値は、ビードに関し下流側のエリアよりも−2000Pa〜−10Paの範囲で一定とすることが好ましい。なお、減圧チャンバ90にジャケット(図示しない)を取り付けて、内部温度が所定の温度を保つようにすることが好ましい。また、流延ビードの形状を所望のものに保つために、流延ダイ81のエッジ部に吸引装置(図示せず)を取り付けてビードの両側を吸引することが好ましい。このエッジ吸引風量は、1L/min.〜100L/min.の範囲であることが好ましい。
流延ダイ81からのドープ24の吐出速度を3m/min以上とすることが好ましく、より好ましくは5m/min以上である。吐出速度を3m/min以上とすることで流延ダイの吐出口でのドープ24の滞留が抑制される。また、吐出速度の下限は特に限定されるものではないが、3m/min未満であると生産性が低下するために好ましくない。なお、ドープ27の吐出速度は、ドープ流量を吐出口43aの面積で除することにより求めることができる。また、ドープ27の吐出速度は、吐出口43aのクリアランスを調整すること、ドープ流量を増減することにより等の方法により制御することができる。
前記ドープ24と前記流延ダイ81のリップ先端部との剥離抵抗が小さければ小さいほど好ましく、その許容できる範囲はゼロ以上40×10mN/cm以下であり、より好ましくは20×10mN/cm以下であり、さらに好ましくは5×10mN/cm以下でありゼロであることが最も好ましい。ドープ27と流延ダイ43のリップ先端部との剥離抵抗とは、流延ダイ43でドープを乾かしてこれを剥離するために要する力であり、剥離荷重ともいわれるものである。剥離抵抗が40g/cmを超えると、ドープ24が流延ダイ81に付着しやすくなり、カワバリの発生の原因となる。なお、剥離抵抗の調整は、主として流延ダイリップ先端部の表面材質とドープの組成との関係を基にこれらを適宜決定することにより行われる。
ドープ24とリップ先端部との剥離抵抗は、ロードセルにより、具体的には次の方法により測定することができる。流延ダイ43と同じ材質及び同じ表面粗さの金属板上にドープ27を滴下し、ドクターブレードを用いて均等な厚さに展延し乾燥する。カッターナイフで乾燥したドープ27に均等幅の切れ込みを入れ、切れ片の端部を手で剥がしてストレンゲージにつながったクリップで挟み、ストレンゲージを斜め45度方向に引き上げながら、荷重変化を測定する。なお、剥離抵抗の調整は、主として流延ダイリップ先端部の表面材質とドープの組成との関係を基にこれらを適宜決定することにより行われる。
また、流延時、つまり、流延ダイ81から吐出される時のドープ24の剪断粘度η(Pa・s)と流延ビート24aの伸張速度ε(1/sec)とが150Pa<3・η・ε<15000Paの条件を満たすことが好ましく、500Pa<3・η・ε<10000Paを満たすことがより好ましい。(3・η・ε)の値が150Pa未満であるとドープ24がリップ先端に滞留するおそれがある。また、(3・η・ε)の値が15000Paを超えると流延膜24bの平面性が悪化するおそれがある。
流延ビード69aの伸張速度εは、本明細書中では、吐出口43aの中央部における数値としている。特開2001−71338号公報の[0020]に記載される式を用いて求めることができる。なお、本明細書の伸張速度εとは同公報における伸張ひずみ速度である。具体的には以下である。吐出口43aの中央部における流延ビード69aの剪断粘度η、伸張応力をτ、吐出速度をv1、接触開始点速度をv2、先端リップのクリアランスをCL、フィルム82の厚みをt、流延ビード69aの長さをLとする。なお、接触開始点速度とは、流延ビード69aが流延バンド46に接触し始めた位置における流延ビード69の流れ速度であり、流延バンド46の速度や流延速度に代えてもよい。すると、伸張速度εは以下の式を用いて求められる。したがって、伸張速度εは、剪断粘度η、吐出速度v1、接触開始点速度v2、先端リップのクリアランスCL、フィルム82の厚みt、流延ビード69aの長さLを制御することにより調整することができる。
τ=ε*η
=(v2−v1)/L*η
=(v2−t/CL*v2)L*η
流延ビート24aの厚みムラなどの欠陥やカワバリの発生を抑制するために、流延ビードの乾燥速度をできるだけ小さくすることが好ましく、ゼロとすることが最も好ましい。製造環境としてゼロにすることが無理である場合であっても、固形成分1kgあたり4kg/分以下に抑えることが好ましく、3.5kg/分以下に抑えることがより好ましく、3.0kg/分以下に抑えることがさらに好ましい。これにより、吐出口81a近傍でドープ24が固化したり流延ビード24aでカワバリ等が発生してしまうことが抑制されて、流延膜24bにスジ等のムラが発生しなくなる。上記乾燥速度は、流延ビート24aの固形成分1kgに対して、1分間に蒸発する溶媒の質量(kg)を示す。流延ビート24aの乾燥速度の調整は、流延ダイ81の温度,ドープ24の処方(例えば、添加剤を含有させる)、流延室63の内部温度、送風ダクト91〜93からの送風温度や湿度等を調整することで容易に行うことができる。
流延ダイ81から出た直後の流延ビート24aの表面における固形分濃度は16重量%以上25重量%以下であることが好ましい。この固形分濃度が16重量%よりも小さいと、流延ビート24aの粘度が低すぎて伸張応力が不足するために、流延ビート24aがリップ先端部81b,81cに付着したときに剥がれにくくなるという問題が生じる場合があり、一方25重量%よりも大きいと吐出口81aで形成されるシャークスキン面の状態が悪化するという問題が生じる場合がある。シャークスキン面とは、流延ビード69aの鮫肌状になった表面である。なお、流延ダイ81から出た直後の流延ビート24aの表面における固形分濃度は、製造ラインにおいてオンラインで実測することが困難であるので、流延ダイ81に送り込むドープ24の固形分濃度をこの値としてもよい。
流延膜24bは、自己支持性を有するものとなった後に、剥取ローラ109で支持されながら流延バンド82から剥ぎ取られる。
流延膜24bを生乾きのフィルム62として流延バンド82から剥離するときに、剥離抵抗が大きいと、流延方向にフィルム62が不規則に伸ばされて光学的な異方性ムラがフィルム62に生じて、レターデーションが不均一になる。例えば、伸びたところと伸びていないところとが流延方向に交互に現れて段状のムラができてしまったフィルム62を液晶表示装置に装填すると、線状あるいは帯状にムラが見えるようになる。このような問題を発生させないためには、フィルムの剥離抵抗をフィルム幅1cmあたり0.25N以下にすることが好ましい。剥離抵抗はより好ましくは0.2N/cm以下、さらに好ましくは0.15N以下、特に好ましくは0.10N以下である。剥離抵抗0.2N/cm以下のときはムラが現れやすい液晶表示装置においても剥離起因のムラは全く認められず、特に好ましい。剥離抵抗を小さくする方法としては、前述のように剥離剤を添加する方法と、使用する溶剤組成の選択による方法がある。
流延バンド62からの流延膜24bの剥離抵抗は、ドープ24と流延ダイの先端リップとの剥離抵抗の測定と同じように、ロードセルを用いる。ストレンゲージを斜め45度方向に引き上げながら荷重変化を測定するときに、剥離されたフィルム中の揮発分も測定する。乾燥時間を変えて何回か同じ測定を行い、実際のフィルム製造工程における剥離時の残留揮発分と同じ残留揮発分時のフィルムの剥離荷重を定める。剥離速度が速くなると剥離荷重は大きくなる傾向があり、実際に近い剥離速度で測定することが好ましい。
剥離時の好ましい溶媒残留率は5質量%〜60質量%である。10質量%〜50質量%がさらに好ましく、20質量%〜40質量%が特に好ましい。残留溶媒率が少ない状態で流延膜24bを剥離すると、後工程で蒸発させるべき溶媒の量が少なくてすむので、生産性が向上して好ましい。一方、残留溶媒率が多い状態ではフィルムの強度や弾性が小さくてフィルムの強度が剥離力に負けてしまい、フィルムが切断したり伸びたりしてしまう。また剥離後の自己保持力が乏しく、変形、シワ、クニックを生じやすくなる。また、レターデーションに分布を生じる原因にもなる。なお、上記の溶媒残留率は乾量基準の値Xであり、X(%)={(フィルムサンプルの質量(g)−B)/B}×100により求める。フィルムサンプルの質量とは、流延バンド82から剥がした直後のフィルム62の一部をフィルムサンプルとして取り出して測定した値であり、Bは、そのサンプルフィルムを115℃で空気恒温槽にて1時間乾燥した後に測定した質量(g)である。
溶媒を含んだ状態のフィルム62は、複数のローラに支持されて渡り部101を搬送された後に、テンタ64に送られる。渡り部101とテンタ64との少なくともいずれかひとつにおいては、フィルム62の流延方向と幅方向との少なくとも1方向を、延伸前の寸法に対し100.5%〜300%の寸法となるように延伸することが好ましい。渡り部101では、下流側のローラの回転速度を上流側のローラの回転速度よりも速くすることにより、フィルム62にドローテンションを付与させることができる。また、渡り部101では、送風機102から所望の温度の乾燥風がフィルム62近傍に送られ、またはフィルム62に直接吹き付けられ、フィルム62の乾燥を進行させる。このとき乾燥風の温度は20℃〜250℃であることが好ましい。
テンタ64に送られたフィルム62は、その両端部がクリップ64a等の保持手段により把持されて搬送されながら乾燥される。クリップに代えてピンとし、ピンによりフィルムを突き刺して保持してもよい。また、テンタ64の内部を異なった温度ゾーンに区画分割して、その区画毎に乾燥条件を適宜調整することが好ましい。なお、テンタ64では、フィルム62を幅方向に延伸させることが可能とされている。
フィルム62は、テンタ64で所定の残留溶媒量まで乾燥された後、その両側端部が耳切装置67により切断除去される。切り離された両側端部はカッターブロワ(図示なし)によりクラッシャ103に送られる。クラッシャ103により、側端部は粉砕されてチップとなる。このチップはドープ製造用に再利用されるので、原料の有効利用を図ることができる。なお、この両側端部の切断工程については省略することもできるが、前記流延工程から前記フィルムを巻き取る工程までのいずれかで行うことが好ましい。
一方、両側端部を切断除去されたフィルム62は、乾燥室69に送られ、さらに乾燥される。乾燥室69の内部温度は、特に限定されるものではないが、ポリマーの耐熱性(ガラス転移点Tg、熱変形温度、融点Tm、連続使用温度等)に応じて決定され、Tg以下とすることが好ましい。乾燥室69では、フィルム62はローラ68に巻き掛けられながら搬送され、ここで蒸発して発生した溶媒ガスは、吸着回収装置106により吸着回収される。溶媒成分が除去された空気は、乾燥室69の内部に乾燥風として再度送られる。なお、乾燥室69は、送風温度を変えるために複数の区画に分割されていることがより好ましい。また、耳切装置67と乾燥室69との間に予備乾燥室(図示せず)を設けてフィルム62を予備乾燥すると、乾燥室69でフィルム温度が急激に上昇することが防止されるので、乾燥室69でのフィルム62の形状変化を抑制することができる。
フィルム62は、冷却室71で略室温にまで冷却される。なお、乾燥室69と冷却室71との間に調湿室を設ける場合には、調湿室では所望の湿度及び温度に調整された空気をフィルム62に吹き付けることが好ましい。これにより、フィルム62のカールの発生や巻き取る際の巻き取り不良を抑制することができる。
溶液製膜方法では、支持体から剥ぎ取られたフィルム(環状ポリオレフィンフィルム)を巻き取るまでの間に、乾燥工程や側端部の切除除去工程などの様々な工程が行われている。これらの各工程内、あるいは各工程間では、フィルムは主にローラにより支持または搬送されている。これらのローラには、駆動ローラと非駆動ローラとがあり、非駆動ローラは、主に、フィルムの搬送路を決定するとともに搬送安定性を向上させるために使用される。
除電装置72により、フィルム62が搬送されている間の帯電圧を所定の値とする。除電後の帯電圧は−3kV〜+3kVとされることが好ましい。さらに、フィルム62は、ナーリング付与ローラ対73によりナーリングが付与されることが好ましい。なお、ナーリングされた箇所の凹凸の高さが1μm〜200μmであることが好ましい。
フィルム62は、巻取室76の巻取ロール107で巻き取られる。プレスローラ108で所望のテンションをフィルム62に付与しつつ巻き取ることが好ましい。なお、テンションは巻取開始時から終了時まで徐々に変化させることがより好ましく、これによりフィルムロールにおける過度な巻き締めを防止することができる。巻き取られるフィルム62の幅は600mm以上であることが好ましく、1400mm以上1800mm以下であることが好ましい。また、本発明は、フィルムの厚みが15μm以上100μm以下の薄いフィルムを製造する場合にも適用することができる。
本発明では、ドープ24を流延する際に、2種類以上のドープを同時積層共流延又は逐次積層共流延させる方法を用いてもよい。同時積層共流延を行う際には、フィードブロックを取り付けた流延ダイを用いても良いし、マルチマニホールド型流延ダイを用いても良い。共流延により複層からなるフィルムは、表面に露出する2層のうちいずれか一方が、フィルム全体の厚みの0.5%〜30%の厚みをもつことが好ましい。さらに、同時積層共流延を行う場合には、互いに粘度が異なる複数のドープをつくり、粘度の高い方のドープが粘度の低い方のドープにより包み込まれて流延ダイから流出するように流延を実施することが好ましい。また、同時積層共流延を行なう場合には、流延ビードのうち外界と接する、つまり露出するドープが、内部のドープよりも、貧溶媒の比率が大きい処方とされることが好ましい。
実験1〜3は本発明の実施態様であり、実験4〜7は本発明に対する比較実験である。詳細は実験1で説明し、実験2〜7では実験1と異なる条件のみを説明して実験1と同じ条件の説明を略す。
[実験1]
(1)環状ポリオレフィンの合成
精製したトルエン100質量部とノルボルネンカルボン酸メチルエステル100質量部とを、反応槽に入れた。次に、トルエンに溶解した状態のエチルヘキサノエート−Niを25mmol%と、トリ(ペンタフルオロフェニル)ボロンを0.225mol%と、トルエンに溶解した状態のトリエチルアルミニウム0.25mol%とを、前記反応槽に入れた。なお、これらmmol%及びmol%で示す濃度は、上記のトルエンとノルボルネンカルボン酸メチルエステルとのモル数の和に対する割合である。そして、反応槽内部を撹拌しながら18時間室温で重合反応を実施した。このようにして得られた液を過剰量のエタノールの中に入れて、重合生成物を析出沈殿させた。この沈殿物を精製した後に65℃24時間真空乾燥して環状ポリオレフィンを得た。
(2)ドープ原料の仕込み
図1に示すドープ製造設備10を用いて、環状ポリオレフィンのドープ24をつくった。原料及びその配合は以下に示す通りである。なお、溶媒の原料であるジクロロメタンとメタノールとは、いずれも、予め含水率を0.5質量%以下としたものである。
・環状ポリオレフィン 113質量部
・ジクロロメタン 380質量部
・メタノール 70質量部
攪拌羽根を有する4000Lのステンレス製混合タンク17でジクロロメタンとメタノールとをよく攪拌した。混合タンク17には、第1攪拌機48と第2攪拌機52とが備えられてある。第1攪拌機48は、回転する軸部にアンカー翼を備えるものであり、第2攪拌機52は、ディゾルバータイプの偏芯型攪拌機である。次に、環状ポリオレフィンのフレーク状粉体をホッパ13から混合タンク17に徐々に添加した。まず、第1攪拌機48の回転速度を周速1m/secとするとともに、第2攪拌機52の回転速度を5m/secとして、30分間回転させ、環状ポリオレフィンを溶媒に分散した。分散開始時の温度は25℃であり、30分後の温度は48℃であった。そして、予め調製した添加剤溶液を添加剤タンク15からバルブ19で送液量を調整して、全体が2000kgとなるようにした。添加剤溶液の分散を終了した後に、高速攪拌を停止した。そして、第1攪拌機48のアンカー翼の回転速度を周速0.5m/secとしてさらに100分間攪拌し、環状ポリオレフィンが膨潤した混合液16を得た。膨潤終了までは窒素ガスにより混合タンク17内を0.12MPaになるように加圧した。この際の混合タンク17の内部は、酸素濃度が2vol%未満であり防爆上問題のない状態を保った。また混合液16中の水分量は0.3質量%であった。
(3)溶解・濾過
混合液16を混合タンク17からポンプ41を用いて加熱装置18に送った。加熱装置18で混合液16を50℃まで加熱して、更に2MPaの加圧下で90℃まで加熱し、完全に溶解した。このときの加熱時間は15分であった。溶解した混合液16を温度調整器21で36℃まで温度を下げ、公称孔径8μmの濾材を有するろ過装置22を通過させドープ24を得た。ろ過装置22における1次側圧力は1.5MPa、2次側圧力は1.2MPaとした。ろ過装置22については、高温にさらされるフィルタ、ハウジング及び配管をハステロイ(商品名)合金製で耐食性の優れたものとし、保温加熱用の伝熱媒体を流通させるジャケットを備えたものとした。
(4)濃縮・濾過・脱泡・添加剤
次に、ドープ24を、80℃、常圧とされたフラッシュ装置26内でフラッシュ蒸発させて、蒸発した溶媒を凝縮器で回収した。フラッシュ後のドープ24の固形分濃度は、23重量%である。なお、凝縮された溶媒はドープ製造用として再利用すべく、回収装置28で回収して再生装置29で再生した後に溶媒タンク11に送られた。回収装置28,再生装置29では、蒸留や脱水を行った。フラッシュ装置26の本体であるタンクには攪拌軸にアンカー翼を備えた攪拌機(図示しない)を設け、この攪拌機を周速0.5m/secで回転させることにより、フラッシュされたドープ24を攪拌して脱泡を行った。このタンク内のドープ24の温度は25℃であり、タンク内におけるドープ24の平均滞留時間は50分であった。このドープ24を採取して25℃で測定した剪断粘度は、剪断速度10(sec−1)で450Pa・sであった。
次に、このドープ24に弱い超音波を照射することにより泡抜きを実施した。その後、ポンプ42によりドープ24を1.5MPaに加圧した状態で、ろ過装置27を通過させた。ろ過装置27には2つのフィルタが設けられており、上流側が最小公称孔径10μmの焼結繊維金属フィルタ、下流側が最小公称孔径10μmの焼結繊維フィルタである。それぞれの1次側圧力は1.5MPa,1.2MPaであり、2次側圧力は1.0MPa,0.8MPaであった。ろ過後のドープ24の温度を36℃に調整して2000リットルのステンレス製ストックタンク32にドープ24を送って貯蔵した。ストックタンク32は中心軸にアンカー翼を備えた攪拌機78を有しており、アンカー翼を周速0.3m/secで回転させて、ドープ24を常時攪拌した。なお、ドープ24を濃縮する工程からストックタンク32に至る装置や部材の接液部には、腐食などの問題は全く生じなかった。
(5)吐出・直前添加・流延・ビード減圧
フィルム製造設備33を用いてフィルム62を製造した。ストックタンク32内のドープ24を高精度のギアポンプ80でろ過装置61へ送った。このギアポンプ80は、ポンプ80の1次側を増圧する機能を有している。1次側の圧力が0.8MPaになるようにインバーターモータによりギアポンプ80の上流側に対するフィードバック制御を行った。ギアポンプ80は容積効率99.2%、吐出量の変動率0.5%以下の性能をもち、吐出圧力は1.5MPaであった。そして、ろ過装置61を通ったドープ24を流延ダイ81に送液した。
流延ダイ81は、幅が1.8mであり、フィルム62の乾燥後の厚みが95μmとなるように、ドープ24の吐出量を調整した。吐出口81aから出されるドープ24の幅、つまり流延幅を1700mmとした。なお、流延速度を8m/分とした。ドープ24の温度を20℃に調整するために、流延ダイ81にジャケット(図示しない)を設けてジャケット内に供給する伝熱媒体の入口温度を20℃とした。
流延ダイ81と配管とはすべて、製膜中には20℃に保温した。流延ダイ81は、コートハンガータイプのダイとした。流延ダイ81は、厚み調整ボルトによる自動厚み調整機構を有している。厚み調整ボルトであるヒートボルトは20mmピッチで流延ダイ81の幅方向に複数設けられている。自動厚み調整機構は、ギアポンプ62の送液量に応じた厚みプロファイルを設定することができる。そして、この自動厚み調整機構は、フィルム製造設備33に設置した赤外線厚み計(図示しない)のプロファイルに基づいて、ヒートボルトをフィードバック制御する。このようにして、フィルム62は、側端部各20mmを除いた中央部において幅方向に50mm離れた任意の2点の厚み差が1μm以内であり、幅方向における厚みのばらつきが3μm/m以下となるように厚みを調整された。また、厚みの全体でのばらつきは平均厚みに対して±1.5%以下となるように調整された。
また、流延ダイ81の上流側には、流延ビート24aの上流側を減圧するための減圧チャンバ90を設置した。この減圧チャンバ90により、流延ビート24aの上流側と下流側とで1Pa〜5000Paの一定の圧力差が生じるように減圧度を流延速度に応じて調整した。そして、前記圧力差の一定値は流延ビート24aの長さが5mm〜15mmとなるように設定された。本実施例では、減圧チャンバ90により流延ビート24aの上流側の圧力を前面部よりも150Pa低くした。減圧チャンバ90の内部温度を所定の温度で一定にするためにジャケット(図示しない)を取り付け、流延部周囲のガスの凝縮温度よりも高い温度となるように、35℃に調整された伝熱媒体をジャケットの内側に供給した。吐出口81aにおける流延ビート24aの上流側と下流側とにはそれぞれラビリンスパッキン(図示しない)を設けてある。また、吐出口81aの両側端部には開口部を設け、さらに、流延ビート24aの両縁の乱れを調整するためのエッジ吸引装置(図示しない)を取り付けた。エッジ吸引装置は、1L/min〜100L/minの範囲となるようにエッジ吸引風量を調整することができるものであり、本実施例ではエッジ吸引風量を30L/min〜40L/minの範囲となるように適宜調整した。
(6)流延ダイ
流延ダイ81の素材は、熱膨張率が2×10−5(℃−1)以下の析出硬化型のステンレス鋼である。これは、電解質水溶液での強制腐食試験でSUS316と略同等の耐腐食性を有する素材である。また、この素材は、ジクロロメタン,メタノール,水の混合液に3ヶ月浸漬しても気液界面にピッティング(孔開き)が生じない耐腐食性を有していた。流延ダイ81の接液面の仕上げ精度は表面粗さで1μm以下、真直度はいずれの方向にも1μm/m以下であり、スリットのクリアランスは1.0mmとした。流延ダイ81のリップ先端81b,81cの接液部の角部分は、面取り半径Rが全巾に亘り50μm以下になるように加工されてある。また、流延ダイ81のリップ先端には、溶射法によりWC(タングステンカーバイト)コーティングをおこない硬化膜を設けた。
流延ダイ81から流出するドープ24が局所的に乾燥固化することを防止するために、ドープ24を可溶化するための溶剤を流延ビート24aの両側端部と吐出口81aとの界面部に対し、それぞれ0.5ml/分ずつ供給した。溶剤を供給するポンプの脈動率は5%以下であった。用いた溶剤は、ジクロロメタン92質量部とメタノール8質量部との混合物である。
(7)流延バンド
流延バンド82として幅2.1mで長さが70mのステンレス製のエンドレスバンドを使用した。流延バンド82は、厚みが1.5mm、表面粗さが0.05μm以下、全体の厚みムラが0.5%以下になるように予め研磨されたものである。その材質はSUS316であり、十分な耐腐食性と強度を有する。流延バンド82は、2個の回転ローラ85,86により走行させた。走行時における流延バンド82の走行方向における張力は1.5×10N/mとし、流延バンド82と回転ローラ85,86との相対速度差が0.01m/min以下になるようにするとともに、流延バンド82の走行速度変動を0.5%以下とした。また、流延バンド82が1周する間に幅方向で変位する量、つまり蛇行幅が1.5mm以内となるように、流延バンド82の両端縁の位置を検出して制御した。なお、流延室63の内部には、流延バンド82周辺の圧力の変動を抑えるための風圧変動抑制手段(図示しない)を設けてある。
回転ローラ85,86は、流延バンド82の温度調整を行うことができるように、内部に伝熱媒体を送り込むことができるものとした。回転ローラ85,86のうち流延ダイ81側の回転ローラ85には、5℃の伝熱媒体を流し、他方の回転ローラ86には流延膜24bを乾燥するために40℃の伝熱媒体を流した。流延直前の流延バンド82の幅方向における中央部の表面温度は15℃とし、その両側端部の温度差は6℃以下であった。
流延ダイ81のダイ高さL(mm)が1mm、角度θ(度)が50度になるように流延ダイ81と流延バンド82との各位置を決定した。なお、流延ダイ81のリップ先端と流延バンド82との上下方向の距離変動は200μm以内となるようにした。
(8)流延乾燥
流延室63の温度は、温調設備65により35℃に保ってある。流延ダイ43からのドープ27の吐出速度を2.5m/分とした。なお、流延ビート24aの乾燥速度は、表1の「初期乾燥速度」欄に示す。表1の初期乾燥速度は、流延ビート24aの固体成分1kgあたり、1分間に蒸発する溶媒の質量であり、単位はkg/分である。流延バンド82上に流延されたドープ24から形成された流延膜24bには、最初に流延膜24bに対して平行に流れる乾燥風を送り、流延膜24bを乾燥した。この乾燥風からの流延膜24bへの総括伝熱係数は24kcal/(m・hr・℃)であった。乾燥風の温度は、流延バンド82上部の上流側の送風ダクト91からは135℃の乾燥風を送風した。また下流側の送風ダクト92からは140℃の乾燥風を送風し、流延バンド82下部の送風ダクト93からは65℃の乾燥風を送風した。それぞれの乾燥風の飽和温度は、いずれも−8℃付近であった。流延バンド43上での乾燥雰囲気における酸素濃度を5vol%に保持した。なお、この酸素濃度を5vol%に保持するために空気を窒素ガスで置換した。
流延後5秒間は乾燥風が流延ビート24a及び流延膜24bに直接には当たらないように、遮風板73を設けた。流延ダイ81近傍の静圧変動を±1Pa以下に抑制した。流延膜24bの溶媒含有率が乾量基準で15重量%になったところで流延バンド82から剥取ローラ109で支持しながらフィルム62として剥ぎ取った。乾量基準による溶媒含有率は、サンプリング時におけるフィルム重量をx、そのサンプリングフィルムを乾燥した後の重量をyとするとき{(x−y)/y}×100で算出される値である。また剥取テンションは1×10N/mあり、流延バンド82の速度に対する剥取速度、つまり剥取ローラドローは剥取不良を抑制するために100.1%〜110%の範囲とした。剥ぎ取ったときのフィルム62の表面温度は15℃であった。流延バンド82上でのフィルム62の乾燥速度は、乾量基準で平均60重量%/分であった。
乾燥により発生した溶媒ガスは、−10℃に設定したコンデンサ98で凝縮液化され、回収装置99により回収した。そして水分含有率が0.5%以下となるように溶媒を処理した。溶媒が除去された乾燥風は、再度加熱して乾燥風として再利用した。渡り部101では、送風機102から40℃の乾燥風をフィルム62に送った。なお、渡り部101での搬送の間は、フィルム62に約30Nのテンションを長手方向に付与した。
(9)テンタ搬送・乾燥・耳切
テンタ64に送られたフィルム62は、クリップ64aでその両端部を把持されながらテンタ64の乾燥ゾーン内を搬送され、この間に乾燥風により乾燥された。クリップ64aは、20℃の伝熱媒体の供給により冷却した。クリップ64aの搬送は、チェーンで行われ、そのスプロケットの速度変動は0.5%以下であった。また、テンタ64の内部をフィルム62の走行方向で3つのゾーンに分けて、各ゾーンでの乾燥風の温度を上流側から順に90℃,110℃,120℃とした。乾燥風のガス濃度は−10℃における飽和ガス濃度とした。フィルム62の残留溶媒量がテンタ64の出口で7重量%となるように、各乾燥ゾーンの条件を調整した。テンタ64内部での平均乾燥速度は乾量基準で120重量%/分であった。なお、剥取ローラ109からテンタ64の入口に至るまでの延伸率、いわゆるテンタ駆動ドローは102%とした。
テンタ64では、延伸前のフィルム62の幅を100%としたとき、延伸後の幅が103%となるように、フィルム62を搬送及び乾燥しながら延伸した。テンタ64での延伸率は、クリップ64aによる把持開始位置から幅方向内側で互いに10mm以上離れた位置の任意の2点における延伸率の差が10%以下であり、かつ20mm離れた任意の2点の延伸率の差は5%以下であった。また、テンタ64の入口から出口までの距離に対する、把持開始位置から把持解除位置までの長さの割合を90%とした。テンタ64でフィルム62から蒸発した溶媒は−10℃で凝縮させ液化して回収した。凝縮回収用にコンデンサを設け、その出口温度は−8℃とした。そして凝縮溶媒は、含まれる水分量が0.5質量%以下に調整されて再使用された。そして、テンタ64からフィルム62として送り出した。
テンタ64の出口から30秒以内にフィルム62の両端の耳切を耳切装置50で行った。NT型カッターにより両側50mmの耳をカットし、カットした耳はカッターブロワ(図示しない)によりクラッシャ90に風送して平均80mm程度のチップに粉砕した。このチップは、再度ドープ調製用原料としてCABフレークと共にドープ製造の際の原料として利用した。テンタ64の乾燥雰囲気における酸素濃度は5vol%に保持した。なお、酸素濃度を5vol%に保持するため空気を窒素ガスで置換した。後述する乾燥室69で高温乾燥させる前に、100℃の乾燥風が供給されている予備乾燥室(図示せず)でフィルム62を予備加熱した。
(10)後乾燥・除電
フィルム62を乾燥室69で高温乾燥した。乾燥室69を、フィルム62の搬送方向で4つの区画に分割して、上流側の区画から順に、120℃,130℃,130℃,130℃の乾燥風を送風機(図示せず)から給気した。フィルム62のローラ68による搬送テンションを100N/mとして、最終的に残留溶媒量が0.3質量%になるまで約10分間乾燥した。ローラ68におけるフィルム62のラップ角度、つまりフィルム62の巻き掛け中心角は、90度および180度とした。ローラ68の素材はアルミもしくは炭素鋼であり、その表面にはハードクロム鍍金を施した。ローラ68は、表面が平滑なものとブラストによりマット化加工されたものとした。ローラ68の回転によるフィルム62の位置の振れは、全て50μm以下であった。ローラ68については、テンション100N/mにおける長手方向の撓みが0.5mm以下であるものを選定した。
乾燥風に含まれる溶媒ガスは、吸着回収装置106を用いて吸着回収除去した。使用した吸着剤は活性炭であり、脱着は乾燥窒素による。回収した溶媒は、その水分含有量を0.3質量%以下にしてからドープ調製用溶媒として再利用された。乾燥風には溶媒ガスの他、可塑剤、UV吸収剤、その他の高沸点物が含まれるので、冷却器およびプレアドソーバでこれらを除去して乾燥風を再生循環使用した。そして、屋外排出ガス中のVOC(揮発性有機化合物)が10ppm以下となるように吸脱着条件を設定した。また、全蒸発溶媒のうち、凝縮法で回収する溶媒量は90質量%であり、残りのものの大部分は吸着回収により回収した。
乾燥されたフィルム62を第1調湿室(図示せず)に搬送した。乾燥室69と第1調湿室との間の渡り部には、110℃の乾燥風を送った。第1調湿室には、温度50℃、露点が20℃の空気を送った。さらに、フィルム62のカールの発生を抑制する第2調湿室(図示せず)にフィルム62を搬送し、ここで90℃,湿度70%の空気をフィルム62に直接あてた。
(11)ナーリング、巻取条件
調湿後のフィルム62を、冷却室71で30℃以下に冷却した後に、耳切装置(図示せず)により再度両端部の切断除去をした。除電装置72としての除電バーにより、搬送されるフィルム62の帯電圧が−3kV〜+3kVの範囲となるようにした。さらに、フィルム62の両側端部に、ナーリング付与ローラ対73でナーリングを付与した。ナーリングはフィルム62の片側からエンボス加工を行うことで付与し、ナーリングの幅は10mm、凹凸の高さがフィルム62の平均厚みよりも平均12μm高くなるようにナーリング付与ローラによる押し圧を設定した。
そして、フィルム62を巻取室76に搬送した。巻取室76は、内部温度28℃,湿度70%に保持された。巻取室76には、フィルム62の帯電圧が−1.5kV〜+1.5kVの範囲となるようにイオン風除電装置(図示せず)を設置した。巻取ロール107の径は169mmである。巻き始めテンションが300N/m、巻き終わりが200N/mになるようなテンションパターンとした。巻き取りの際の巻きズレの変動幅、いわゆるオシレート幅を±5mmとし、巻取ロール107に対する巻きズレ周期を400mとした。巻取ロール107に対するプレスローラ108の押し圧は50N/mである。巻き取り時のフィルム62の温度は25℃、含水量は1.4質量%、残留溶媒量は0.3質量%であった。全工程を通して、平均乾燥速度は、乾量基準で20質量%/分であった。巻き取ったフィルム62の全長は3940mであり、幅は1475mmである。巻き緩み、シワはなく、10Gでの衝撃テストにおいても巻きずれが生じなかった。フィルムロールの外観も良好であった。得られたフィルム62の流延方向及び幅方向の厚み及び外観検査を行ったところ、フィルム62には厚み方向の凹凸が無く、平面性は非常に良好であった。なお、このようなフィルムの面状の評価結果については、表1の「フィルム面状」欄に示す。「フィルム面状」欄では、凹凸が認められず平面性が非常に良好である場合を◎、凹凸がほとんど認められず平面性が良好である場合を○、凹凸が有り、用途によっては使用できないような平面性であると判断される場合は△、凹凸が大きく不良品とみなせる場合を×とした。
フィルム62のフィルムロールを25℃、55%RHの貯蔵ラックに1ヶ月保管して、さらに上記と同様に検査した結果、いずれも有意な変化は認められなかった。さらにロール内においても接着も認められなかった。また、フィルム62を製造した後の流延バンド82上には流延膜24bの剥げ残りは全く見られなかった。
[実験2]
ドープ24は、実験1と同じ処方、同じ固形分濃度のものとした。流延ダイ高さL(mm)は1mm、流延ダイの角度θ(度)は50度、流延ダイ81の温度は30℃、ドープ吐出速度は3.5m/分である。流延バンド46の移動速度、つまり流延速度は11m/分である。初期乾燥速度については、これを固形成分1kgあたり乾量基準で4kg/分とした。そして、流延膜24bの溶媒含有率が50重量%以下になったときに流延膜24bをフィルム62として剥ぎ取り、実験1と同じ乾燥処理を行って厚み95μmのフィルム82を得た。得られたフィルム62の流延方向と幅方向との厚み分布及び外観検査を行ったところ、厚み方向の凹凸も無く、平面性は良好であった。
[実験3]
ドープは、実験1と同じ処方で製造し、固形分濃度を25重量%とした。流延ダイ高さL(mm)が3mm、流延ダイの角度θ(度)を10度になるように流延ダイ81を流延バンド82の上方に配した。また、流延ダイ81の温度を30℃、ドープ24の吐出速度を7m/分、流延速度を20m/分とした。初期乾燥速度については、固形成分1kgあたり乾量基準で4kg/分とした。そして、溶媒含有率が50重量%以下となった流延膜24bをフィルム62として流延バンド82から剥ぎ取った。その後、実験1と同じ条件で乾燥処理を行い厚み95μmのフィルム62を得た。得られたフィルム62の流延方向及び幅方向の厚み分布及び外観検査を行ったところ、厚み方向の凹凸も無く、平面性は良好であった。
[実験4]
比較例である実験4では、ドープの処方及び固形分濃度は実験1と同じ条件とした。流延条件については、流延ダイ温度を30℃、初期乾燥速度を4kg/分とした以外は実験1と同じ条件とした。得られたフィルムの流延方向と幅方向との厚み分布及び外観検査を行ったところ、得られたフィルムは、凹凸が有り、用途によっては使用できないような平面性であった。
[実験5]
比較例である実験5では、ドープの処方及び固形分濃度は実験1と同じとした。流延ダイ43の高さL(mm)が3mm、流延ダイの角度θ(度)が−10度となるように流延ダイ43を配した。流延ダイ43の温度を30℃、ドープの吐出速度を7m/分、流延速度を20m/分、初期乾燥速度を4kg/分とした以外は実験1と同じ条件で行った。溶媒含有率が15重量%以下となった流延膜を流延バンド46からフィルムとして剥ぎ取った。その後に実験1と同じ乾燥処理を行い、フィルムを得た。得られたフィルムの流延方向と幅方向との厚み分布及び外観検査を行ったところ、得られたフィルムは、凹凸が有り、用途によっては使用できないような平面性であった。
[実験6]
ドープの成分は実験1と同じであるが、固形分濃度は26重量%とした。初期乾燥速度を4.5kg/分、流延ダイの角度θを−10度、流延ダイの温度を36℃とした。その他の条件は実験3と同じである。フィルムは、凹凸が大きく不良品であった。
[実験7]
流延ダイ43の高さL(mm)が0.3mm、流延ダイの角度θ(度)が10度となるように流延ダイ43を配した。その他の条件は実験5と同じである。得られたフィルムは、凹凸が有り、用途によっては使用できないような平面性であった。
Figure 2007245687
本発明に係るドープ製造設備の概略図である。 本発明に係るフィルム製造設備の概略図である。 流延ダイ及び流延バンド近傍の要部拡大図である。
符号の説明
10 ドープ製造設備
24 ドープ
24a 流延ビード
24b 流延膜
33 フィルム製造設備
62 環状ポリオレフィンフィルム
81 流延ダイ
81a 吐出口
82 流延バンド
L 流延ダイ高さ
L1 ドープの吐出方向
L2 流延バンドの流延面の法線のうち、流延ダイの吐出口の中心を通る直線
θ 流延ダイ角度

Claims (5)

  1. 環状ポリオレフィンを含む固体成分と溶媒とからなるドープを流延ダイから流出させて支持体上に流延膜を形成し、この流延膜を前記支持体からフィルムとして剥ぎ取って乾燥する環状ポリオレフィンフィルムの製造方法において、
    前記流延ダイから吐出された直後の前記ドープの乾燥速度を、前記固体成分1kgあたり4kg/分以下とすることを特徴とする環状ポリオレフィンフィルムの製造方法。
  2. 前記流延ダイから前記ドープを吐出する吐出速度を3m/分以上とすることを特徴とする請求項1記載の環状ポリオレフィンフィルムの製造方法。
  3. 前記流延ダイから前記ドープが吐出される方向と、前記支持体の前記流延膜が形成される面における法線のうち前記流延ダイの吐出口の中心を通る直線とがなす角θを0度以上60度以下とし、
    前記直線上における前記支持体と前記流延ダイとの距離を0.5mm以上5mm以下とすることを特徴とする請求項1または2記載の環状ポリオレフィンフィルムの製造方法。
  4. 前記ドープと前記流延ダイのリップ先端部との剥離抵抗が40×10mN/cm以下であり、
    かつ、流延時における前記ドープの剪断粘度η(Pa・s)と前記流延ダイから前記支持体に至る前記ドープの伸張速度ε(1/sec)との関係が150Pa<3・η・ε<15000Paを満たすことを特徴とする請求項1ないし3いずれか1つ記載の環状ポリオレフィンフィルムの製造方法。
  5. 前記流延ダイから吐出された直後の前記ドープの表面における前記固形成分の濃度を16重量%以上25重量%以下とすることを特徴とする請求項1ないし4いずれか1つ記載の環状ポリオレフィンフィルムの製造方法。
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