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JP2007171158A - 生体分子検出素子とその製造方法及び生体分子検出方法 - Google Patents

生体分子検出素子とその製造方法及び生体分子検出方法 Download PDF

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JP2007171158A
JP2007171158A JP2006170538A JP2006170538A JP2007171158A JP 2007171158 A JP2007171158 A JP 2007171158A JP 2006170538 A JP2006170538 A JP 2006170538A JP 2006170538 A JP2006170538 A JP 2006170538A JP 2007171158 A JP2007171158 A JP 2007171158A
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Miwako Nakahara
美和子 中原
Takashi Inoue
隆史 井上
Shinichi Taniguchi
伸一 谷口
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Abstract

【課題】バイオセンサで生体分子を検出する際に,検体中の生体分子の増幅と生体分子への蛍光標識を省略し,バイオセンサの定量性・再現性を向上させる。
【解決手段】担体表面に金属微粒子101を固定し,この金属微粒子に蛍光分子103が修飾されたプローブ分子102を固定したバイオセンサを用いて,金属微粒子による蛍光消光と蛍光増強効果を利用することにより生体分子を高感度に検出する。
【選択図】図1

Description

本発明は,生体分子をセンシングするための素子とその製造方法,及び生体分子検出素子を用いた生体分子検出方法に関するものである。
近年,ヒト染色体DNAの解読がほぼ終了したことにより,「遺伝子が作り出す機能」を解明する研究が盛んに行われている。そこでは,生体内の遺伝子やタンパク質を特異的かつ網羅的に検出することが必要であり,遺伝子・タンパク質検出技術の開発が世界的に進められている。一方で,生体内に進入した病原菌やウイルスを,遺伝子やタンパク質レベルから特定する技術も従来から検討されており,現在実用化の段階に来ている。このような目的に応じて,特定の遺伝子やタンパク質等の生体分子を検出するための手段として,バイオセンサが用いられている。最も一般的なバイオセンサの構造は,生体分子を捕捉するプローブ分子が固体表面上に固定されたものである。核酸を捕捉する場合には,プローブ分子として主に核酸が用いられ,タンパク質を捕捉する場合には,プローブ分子として主にタンパク質が用いられる。基板にプローブ分子を固定したバイオセンサのメリットは,同一の基板に多種類のプローブ分子をスポッティングあるいはインクジェット方式を用いて固定できることである。このバイオセンサ基板を用いれば,多種類の生体分子に対する網羅的な解析を一度に行うことができる。更なるメリットとして,このバイオセンサ基板を用いた検出は,従来の96穴プレート等を用いて溶液系で反応・検出する方法に比べて簡易であり,ユーザーが扱い易いことが挙げられる。
生体分子を高感度に検出する方法として,蛍光検出を用いた方法が知られている。米国特許第5,424,186号明細書に提示されたように,検体中の生体分子を増幅させた後あるいは増幅中に生体分子に蛍光標識を付け,この蛍光標識した生体分子と,プローブ分子を固定したバイオセンサとを反応させる。反応させた後,蛍光を励起する光をバイオセンサ表面に照射する。この時,蛍光が発光されれば,検体中の蛍光標識された生体分子がバイオセンサに捕捉されたことを意味する。しかし,この方法では,以下に述べるように,定量性や感度の点で課題がある。第一に,生体分子に標識した蛍光分子修飾量のバラツキによって,検出する蛍光強度のバラツキが大きくなるという点である。例えば,生体分子の種類や量,あるいは作業するスタッフによって修飾の効率が異なり,この修飾効率のバラツキがバイオチップから得られるデータの再現性を低下させる。第二に,現状のバイオセンサでは,現状達成できる感度から,検体中の生体分子をあらかじめ増幅させてからバイオセンサと反応させる必要があるという点である。この増幅プロセスによって検査プロセスが煩雑になるだけでなく,増幅時のバラツキから検査結果の定量的解釈が困難になる。
上述した第一の問題点である蛍光標識の問題を解決するために,蛍光標識を用いずに検出する方法が提示されている。特開2004-346177号公報「金ナノ粒子が固定化されたインプリントポリマー」では,基板に金ナノ粒子とプローブ分子を埋め込んだインプリントポリマーを用いて,検体サンプルに標識を行うことなく検出する方法を開示している。プローブ分子が検体中の生体分子と反応すると,金ナノ粒子に由来するプラズモン吸収が変化するため,基板に光を入射した場合,吸収波長のシフトが見られる。このシフト量から検出量を求めるものである。しかし,プラズモン吸収を検出する方法は,蛍光を検出する方法と比べると感度が著しく低いという問題点がある。
また,”Molecular-beacon-based array for sensitive DNA analysis,” Analytical Biochemistry 331, p.216 (2003)では,基板に固定されたプローブ分子として,蛍光分子と蛍光消光分子の双方を有するモレキュラービーコンを用いることで,標識せずに生体分子を検出する例を紹介している。モレキュラービーコンの基本原理は,米国特許第5,925,517号明細書に示され,モレキュラービーコンとは分子の両末端に蛍光分子と消光分子を有するものと定義されている。通常,蛍光分子と消光分子は近接した状態であり,蛍光分子の励起エネルギーが消光分子に移動することで蛍光が消光される。一方,モレキュラービーコンが別の分子と反応するとビーコンの構造が変化し,蛍光分子と消光用分子が離れて蛍光を発する。したがって,モレキュラービーコンを用いた場合,プローブ分子自身が蛍光を発するため,検出すべき生体分子に蛍光標識等をする必要がない。このモレキュラービーコンは,溶液中で生体分子を検出する際の試薬として一般的によく用いられている。
しかし,このモレキュラービーコンを,前述したAnalytical Biochemistry 331, p.216 (2003)に提示されたように基板に固定した場合,蛍光の消光効率が低くなり,かつ蛍光強度が低くなるといった問題がある。これは,基板上では分子運動が大きく抑制されるため,モレキュラービーコンの構造を上手く制御して蛍光の励起エネルギーを消光分子に移動させることが困難になるためである。また,同じく分子運動の抑制によって基板上での生体分子の反応効率が低減し,蛍光強度が低くなるためである。したがって,モレキュラービーコンを基板に固定したバイオセンサを用いる場合には,消光効率を上げ,かつ検出感度を上げることが必要であった。
”Single-mismatch detection using gold-quenched fluorescent oligonucleotides,” Nature Biotechnology 19, p. 365 (2001)は,モレキュラービーコンに通常用いられる消光分子の替わりに金ナノ粒子を用いることで,溶液中での蛍光消光の効率が向上できると報告している。しかし,このモレキュラービーコンは基板に固定されたものではないため,網羅的解析や簡易的な検出を行うことができるバイオセンサとして用いられるものではない。
次に,第二の問題点である増幅時のバラツキを解決するための方法として,バイオセンサの感度を向上させる方法が提示されている。”Gold nanoparticle-assisted oligonucleotide immobilization for improved DNA detection,” IEE Proc.- Nanobiotechnol. 152, p.97(2005)では,プローブ分子である一本鎖のDNAを修飾した金ナノ粒子を基板に固定し,蛍光標識された検体中の分子と反応させる方法を提示している。金ナノ粒子を用いて表面に3D構造を作ることで感度が向上すると報告している。しかし,この場合,検体分子に蛍光標識を行う必要があるため,上述の第一の問題点である標識バラツキの問題を解決することができない。
感度を向上させるために,蛍光増強を用いる方法が,”DNA hybridization assays using metal-enhanced fluorescence”, Biochemical and Biophysical Research Communications 306 (2003)に報告されている。ここでは,プローブ分子である一本鎖のDNAを修飾した銀ナノ粒子を基板に固定し,蛍光標識された検体中の分子と反応させている。反応量を検出するために蛍光励起光を照射すると,銀ナノ粒子の局在プラズモン共鳴効果により蛍光が増強する。この現象を用いることで,感度を向上させることができると提示している。金属ナノ粒子による蛍光増強効果は,”Radiative Decay Engineering: Biophysical and Biomedical Applications,” Analytical Biochemistry 298, p.1 (2001),で詳細に述べられている。しかし,Biochemical and Biophysical Research Communications 306 (2003)で紹介された銀ナノ粒子にDNAを固定したデバイスは,検体分子に蛍光標識を行う必要があるため,上述の第一の問題点である標識バラツキの問題を解決することができない。
また,US2005/0048546 A1には,モレキュラービーコンの消光分子として金属ナノ粒子を用いることで,蛍光増強効果を利用し,検出感度を上げることが記載されている。しかし,この方法も,表面等に固定されていないフリーのモレキュラービーコンを溶液中で混合させることが前提であり,網羅的解析や簡易検出を行うことができるバイオセンサとして用いられるものではない。
米国特許第5,424,186号明細書 特開2004-346177号公報 米国特許第5,925,517号明細書 US2005/0048546 A1 Analytical Biochemistry 331, p.216 (2003) Nature Biotechnology 19, p. 365 (2001) IEE Proc.- Nanobiotechnol. 152, p.97 (2005) Biochemical and Biophysical Research Communications 306 (2003) Analytical Biochemistry 298, p.1 (2001)
本発明の第一の課題は,検出用生体分子を非標識で検出することである。第二の課題は,検出用生体分子を増幅することなく高感度に検出することである。上記二つの課題を解決できる生体分子検出素子によって,生体分子の高精度な検出を,網羅的かつ簡易的に行う。
本発明は,基板やビーズ等の担体表面に金属微粒子が固定され,金属微粒子上にプローブ分子が固定され,プローブ分子に蛍光分子が修飾された生体分子検出素子を用いることで,生体分子を標識することなく検出する。プローブ分子とターゲット分子との反応前には,金属微粒子と蛍光分子間の直線距離を5nm以下とすることで,ターゲット分子がプローブ分子と反応する前には蛍光分子の励起エネルギーが金属微粒子に移動して蛍光を効率良く消光し,反応後には金属微粒子と蛍光分子間の距離が増大して蛍光分子が蛍光を発生するようにする。
また,プローブ分子に修飾された蛍光分子と金属微粒子との間の,前記プローブ分子に沿った距離が約5nmから約100nmの範囲であるプローブ分子を用いることで,蛍光増強効果を得る。尚,ここでいう距離は,金属微粒子の質量中心と,蛍光分子の質量中心間の距離を意味する。プローブ分子が核酸の場合,金属微粒子に固定された核酸の形状がヘアピン構造であるのが好ましい。
金属微粒子の金属としては貴金属,貴金属の合金,あるいは貴金属を積層したものを用いることができる。金属微粒子径は0.6nm以上1μm以下とするのが好ましい。生体分子の反応前後での蛍光強度の比(コントラスト)の高い測定を行うには、金属微粒子径は5nm以上50nm以下が適している。
また,本発明では,金属微粒子による蛍光増強効果を用いることで生体分子を超高感度に検出する。高い蛍光増強効果を得るために,金属微粒子の局在プラズモン共鳴波長をλとするとき,蛍光分子の励起波長λE(nm)は,
λ−100<λE<λ+100
の範囲内にある。高い蛍光増強効果を得るためには、金属微粒子径は10nm以上500nm以下とするのが好ましい。
担体表面にプローブ分子および生体分子の吸着を抑制するためのブロッキング剤分子を固定することで,非特異的に吸着したプローブ分子からのバックグラウンドノイズを反応させる生体分子の吸着を抑制する。また,金属微粒子表面にブロッキング剤分子を固定することで,反応させる生体分子の非特異的吸着を抑制する。
本発明によると,検出すべき生体分子に標識をすることなく,生体分子を検出することが可能である。更には,蛍光増強を用いた高感度検出により,検出すべき生体分子をあらかじめ増幅することなく検出することも可能になる。前述の標識修飾や増幅処理といった前処理プロセスを省くことで,生体分子検出の定量性や再現性を大幅に向上させるのみならず,検出プロセスを簡易化することができる。
図1は,本発明による生体分子検出素子の一例の表面構造を表す図である。この生体分子検出素子は,担体の表面に金属微粒子101が固定され,その金属微粒子の表面に蛍光分子103が修飾されたプローブ分子102が固定された構造を有する。プローブ分子102は湾曲しており,蛍光分子103は金属微粒子101に接近している。
まず,検出素子の製造方法について説明する。
本実施形態の生体分子検出素子の製造方法は,次の工程(1)〜(7)からなる。
(1)担体の洗浄工程
(2)担体表面への活性基の導入工程
(3)金属微粒子の固定工程
(4)担体表面のブロッキング工程
(5)金属微粒子上へのプローブ分子の固定工程
(6)金属微粒子上のブロッキング工程
(7)プローブ分子構造制御工程
以下,それぞれの工程について説明する。
(1)担体の洗浄工程
目的に応じた担体を用意し,洗浄する。具体的には担体を,例えば,NaOH水溶液等のアルカリ性水溶液で洗浄した後,HCl水溶液等の酸性水溶液で洗浄し,純水ですすいだ後に減圧乾燥する。あるいは,硫酸と過酸化水素を約4:1で混合した溶液で有機物汚染を洗浄する。
担体としては,ガラス基板(スライドガラス),石英基板,プラスチック基板等を用いることができる。また,金属コーティング基板等でもよい。担体の材質は,表面にシラノール基を有するものが好ましい。担体は平板型でなくてもよい。例えば,ビーズ状,ファイバー状,粉状等であってもよい。ビーズ状の場合には,ポリスチレン等のプラスチックビーズ,金属コーティングビーズ,磁気ビーズ等を用いてもよい。
(2)担体表面への活性基の導入工程
洗浄した担体表面に,反応活性基を有するシランカップリング剤を反応させ,担体表面に活性基を固定する。
シランカップリング剤としては,例えば,基板表面にアミノ基を固定する場合には,3-アミノプロピルトリメトキシシラン(3-aminopropyltrimthoxysilane),3-アミノプロピルトリエトキシシラン(3-aminopropyltriethoxysilane),N-(2-aminoethyl)-3-aminopropyltrimethoxysilane),(aminoethyl-aminomethyl) phenethyltrimethoxysilane等を用いることができる。一方,基板表面にチオール基を固定する場合には,(3-mercaptopropyltrimethoxysilane)を用いることができる。
溶媒としては,例えば,エタノール,メタノール,トルエン,ベンゼン,水等を用いることができる。反応温度は,通常,20℃〜85℃の範囲である。
図2(a)は,担体としてガラス基板を用い,活性基を導入した後の担体表面の様子を示す模式図である。図中,Aは固定化された第一層目の分子を表す。Aの末端には一例としてアミノ基が存在する。
(3)金属微粒子の固定工程
担体表面の活性基と金属微粒子の相互作用により,担体表面に金属微粒子を固定する。図2(b)は,金属微粒子201が固定化された担体表面の様子を示す模式図である。
金属微粒子材料としては,蛍光の消光や増強効果を有する貴金属類である金,銀,白金,パラジウム,ロジウム,イリジウム,ルテニウム,オスミウムのいずれか,あるいはそれらの合金を用いることができる。あるいは,これらの貴金属類で作られた微粒子上に他の貴金属がコーティングされたもの,例えば金微粒子上に銀がコーティングされた金属微粒子を用いてもよい。金属微粒子径は,金属微粒子が安定に存在できる0.6nm以上であり,また局在プラズモン共鳴による蛍光増強効果が得られる1μm以下を用いる。
金属微粒子の固定反応溶媒として,水,あるいはエタノール,トルエンを用いることができる。溶液中での金属微粒子の凝集を防ぐために,保護剤を用いる。保護剤として,クエン酸,メルカプトコハク酸,ポリビニルピロリドン,ポリアクリル酸,テトラメチルアンモニウム,ポリエチレンイミン,1−デカンチオール,1−オクタンチオール,デシルアミン等を用いることができる。
金属微粒子の濃度は,通常,30wt%以下であり,反応温度は,通常,20℃〜85℃の範囲である。また反応時間は,0.5時間から50時間の間である。これらの反応条件を変えることによって,金属微粒子の固定密度を制御することができる。例えば,金属微粒子の固定反応は,固定溶液中の金属微粒子濃度に対する1次反応であり,Langmuir型の反応となる。従って,固定溶液中の金属微粒子濃度や反応時間を変えることで,所望の固定密度を得ることができる。固定密度は,蛍光強度が検出できる金属微粒子密度である1粒子/μm2以上である必要があり,また単層飽和固定となる金属微粒子密度である106粒子/μm2以下が望ましい。
担体表面に,金属微粒子を,蒸着,スパッタリング,CVD等とアニール等の組み合わせにより形成し,固定することもできる。この場合,担体に固定される金属微粒子の大きさや密度は,蒸着,スパッタリング,CVD,アニールを行う条件によって決まる。例えば,蒸着温度,蒸着時間,蒸着時の圧力,蒸着量,スパッタリング時間,CVDに用いるガス種,CVD時の圧力・温度,CVD時間,およびアニール温度,アニール時間等によって大きさや密度を制御できる。担体と金属微粒子の密着性を向上させるために,担体と金属微粒子の間にクロム薄膜等のスペーサを挟んでも良い。
ここで述べた金属微粒子の粒径は,真球上の粒子の直径を指すだけでなく,楕円状の粒子または柱状粒子の短軸方向の径も指すものとする。
(4)担体表面のブロッキング工程
担体表面に形成された活性基のうち,金属微粒子が固定されずに表面に残留した活性基に,後のプロセスで生体分子が吸着する可能性が高い。よって,この残留した活性基をブロッキングする。図2(c)は,プロッキング分子をB1として,ブロッキング処理後の担体表面の様子を示す模式図である。
ブロッキング分子としては,例えば,ポリエチレングリコール鎖を含む分子を用いる。ポリエチレングリコールを含む分子として,スクシンイミド(NHS)活性化エステルを末端に有するカルボキシル系ポリエチレングリコールを用いることができる。カルボキシル基の結合形態として,スクシレート,グルタレート,カルボキシルメチル,カルボキシルペンチルのいずれを用いても良い。また,アルデヒド基を末端に有するアルデヒド系ポリエチレングリコールを用いることもできる。これらのポリエチレングリコール分子として,通常,分子量が10000以下のものを用いる。
その他のブロッキング分子として,BSA(牛血清アルブミン)やリン脂質ポリマーを用いて生体分子の吸着を抑えることもできる。しかし,上記ポリエチレングリコールを用いた場合には,基板表面に共有結合でブロッキング分子を固定できるために,安定なブロッキング層を形成することができる。また,ポリエチレングリコールは,核酸や蛋白質等の生体分子の吸着を抑制する効果が高い。
ここで,担体表面の活性基がアミノ基であり,ブロッキング分子としてNHS活性化エステルを持つカルボキシルメチルポリエチレングリコール(分子量2000)を用いた場合について説明する。
この場合,アミノ基とNHS活性化エステル基を反応させる。NHS活性化エステル基は,Bioconjugate Techniques, Elsevier Science, p.140 (1996)に示されたように,アルカリ性溶液下で容易に加水分解する。一方,アミノ基とNHS活性化エステルを反応させるためには,アミノ基がプロトネーションされないpH領域,すなわちアルカリ性溶液下で反応させる必要がある。そこで,ポリエチレングリコール反応溶液に適したpH領域を見つけることが重要であった。図4にポリエチレングリコール反応溶液のpHと核酸の非特異的な吸着量の関係を示す。図4より,反応溶液としてpH7.0〜pH9.0の領域で非特異吸着量が25%以下に抑制でき,この領域ではポリエチレングリコール分子によるブロッキング効果があることがわかる。
ここで,ポリエチレングリコール溶液のpH調整液として,トリエタノールアミン溶液,塩酸,炭酸ナトリウム溶液,炭酸水素ナトリウム溶液を用いることができる。反応温度は,通常,4℃〜35℃の範囲である。ポリエチレングリコール反応溶液の濃度は,通常,1mM〜1000mMであり,反応時間は10分〜120分である。
(5)金属微粒子上へのプローブ分子の固定工程
担体表面に固定した金属微粒子上に,この金属微粒子と結合することができる基を持つプローブ分子を反応させ,金属微粒子上にプローブ分子を固定する。
図2(d)は,プローブ分子をPとして,担体表面の様子を示す模式図である。
ここで,金属微粒子として金ナノ粒子を用い,プローブ分子として,チオール基を5’末端に持つプローブDNAを用いた場合について説明する。このプローブDNAは3’末端に蛍光分子を修飾している。一般的に,金属微粒子と蛍光分子間の直線距離が5nm以下になると,蛍光分子の励起エネルギーが金属微粒子に移動する速度が極めて大きくなり,蛍光を消光することができる。蛍光分子励起エネルギーの金属微粒子への移動速度は,金属微粒子と蛍光分子間の距離の6乗に反比例する。このため,双方の距離が近ければ近いほど消光効果が大きくなる。消光プローブDNAを用いた場合,固定されたプローブDNA502が図5で示したようなヘアピン構造であれば,蛍光を効率良く消光できる。尚,エネルギー移動速度は,それぞれの蛍光分子の持つライフタイムやエネルギー移動割合が50%になる距離で定義されるForester Distanceによって決まる。よって,金属微粒子501と蛍光分子503間の直線距離が5nm以下は消光の影響が大きい領域であるが,その領域内での消光効率は,用いる蛍光分子や金属微粒子の種類・大きさによって異なる。
ここで,蛍光体は,エネルギーを与えた時に蛍光を放出する物質を意味する。蛍光体として,シアニン系色素であるCy3やCy5,ローダミン系色素,フルオレセイン系色素,エルビウムイオンをドープされた材料等が挙げられるがこれに限定されるわけではない。蛍光体は,1つのプローブ分子に対して1つ結合していても,あるいは複数結合していても良い。この蛍光体は,プローブ分子に共有結合で結合していても良く,また,水素結合,配位結合,イオン結合で結合,あるいは物理吸着等で吸着していても良い。
ここで,固定したプローブDNAの配列は,例えば,
TCCGC AAAAA AAAAA AAAAA AAAAA GCGGA
のように,両末端5塩基が相補的な配列となっている。ここで,相補的な配列とは,水素結合によって安定なペアを作ることができる配列を意味し,Aに対してTあるいはTに対してA,Cに対してGあるいはGに対してCを相補的な配列と言う。両末端が相補的な配列の場合,この両末端同士が水素結合504を形成するため,ヘアピン構造を作り易い。両末端からの相補的な配列の長さは,両末端から8塩基以下が良い。相補的な配列の長さが8塩基よりも大きい場合,両末端同士の水素結合が強固になって安定な構造を作り,このプローブDNAを検体中の生体分子と反応させることが難くなる。一方,この両末端の相補的配列の数が0でも消光の効果が得られる。これは,プローブDNA内の塩基の相補的な結合によってヘアピンを作らない場合でも,蛍光分子が金属微粒子に吸着することによって,蛍光が消光されるためである。上述したプローブDNAの配列のうち,A配列の連なったPoly-A部分の配列を,検出対象となるDNAの配列に応じて変えることができる。
このプローブDNAと検出用の生体分子を反応させ,例えば2本鎖DNAが形成された場合,金ナノ粒子と蛍光分子間の距離が5nm以上に離れる。前述したように,金属微粒子による蛍光の消光効果は,金属微粒子と蛍光分子間の距離の6乗に反比例するため,距離が離れた場合には,蛍光分子からの発光が見られるようになる。その距離が約5nmから約100nmの範囲で,金属微粒子による蛍光の増強効果が得られる。ここで,約5nmから約100nmの範囲の距離と,蛍光増強割合の関係は,用いる蛍光分子の種類や金属微粒子の種類および大きさによって決まる。それぞれの系において,約5nmから約100nmの範囲で蛍光増強が見られるが,最も高い増強効果が得られる距離が約5nmから約100nmの範囲に存在する。
生体分子が反応することによって,金属微粒子とプローブ分子に修飾された蛍光分子の距離が約5nmから約100nmの範囲になる場合には蛍光が増強する。プローブDNAの末端が金ナノ粒子に固定され,プローブ分子のもう一方の末端に蛍光分子が修飾されている場合,プローブDNAの長さが5nmから約100nmの範囲が望ましい。
プローブDNAを溶解させる溶液としては,リン酸バッファなどの中性付近の水溶液を用いることができる。この溶液にプローブDNAを溶解させる。この時のプローブDNAの濃度は,通常,0.5μM〜100μMである。
担体が平板のガラス基板の場合でその上に金ナノ粒子が固定されている場合,基板の所望の位置に,プローブDNAを溶解した反応液をスポッティングすればよい。この時,基板に多種類のプローブDNAをスポッティングすることが可能である。担体がビーズ状の場合,ビーズを,プローブDNAを溶解した反応液に浸漬させればよい。
反応温度は,通常,25℃から40℃の範囲である。また,反応時間は,通常,2時間から24時間の範囲である。反応させる時に溶液が乾燥しないよう,充分湿度を保った環境で反応させる。
金とチオール基は結合し易いため,チオール基を末端に持つプローブDNAが金ナノ粒子上のみに固定される。金ナノ粒子が固定されていない部分は,ポリエチレングリコールで覆われているため,プローブDNAはほとんど吸着しない。
ここでは,金属微粒子を基板に固定した後に,金属微粒子が固定された部分以外の基板表面をブロッキングし,その後にプローブ分子を固定したが,金属微粒子にプローブ分子を固定した後に,この金属微粒子を表面に固定し,その後に金属微粒子が固定された部分以外の基板表面をブロッキングしても良い。
(6)金属微粒子上のブロッキング工程
金属微粒子表面で,プローブDNAが固定されなかった部分は,検出用の生体分子を吸着させる可能性がある。よって,この残留金属微粒子表面をブロッキングする。図2(e)は,ブロッキング剤をB2として,金属微粒子表面をブロッキング処理した後の担体表面の様子を示す模式図である。
ここでは,金属微粒子として金ナノ粒子を用いた場合について説明する。金と反応し易く,かつ生体分子を吸着し難いブロッキング剤として,1−メルカプトヘキサノール,2−メルカプトエタノール等を用いることができる。1−メルカプトヘキサノール,2−メルカプトヘキサノールの水溶液と担体表面を反応させ,ブロッキング材料を固定する。
反応温度は,通常,4℃〜35℃の範囲であり,反応時間は,通常,0.5時間〜10時間である。この反応では,水溶液中のブロッキング剤の濃度が高い場合,ブロッキング剤が金ナノ粒子と反応し金ナノ粒子を覆うことで,担体の間の結合力を弱める。その結果,金属微粒子が担体表面で拡散し金属微粒子が表面で凝集する。濃度と表面拡散の有無の関係を表1に示す。表1から,ブロッキング剤反応溶液の濃度を100μM以下の範囲とした。
ここでは,工程(5)と工程(6)を分けたが,工程(5)(6)を同時に行っても良い。すなわち,金属微粒子上にプローブ分子を固定する際に,プローブ分子を溶解した溶液に,金属微粒子のブロッキング剤も合わせて溶解させた溶液を用いて,同時に固定化を行っても良い。
Figure 2007171158
(7)プローブ分子構造制御工程
金属微粒子上に固定されたプローブ分子について,金属微粒子により蛍光が効率的に消光されるよう,プローブ分子の構造を制御した。上記(5)で述べたように,金属近傍に置かれた蛍光分子は,蛍光分子の励起エネルギーが金属中の自由電子にエネルギー移動を起し消光される。金属微粒子と蛍光分子の距離が非常に近い場合には消光効率が高いが,距離が離れた場合には,消光効率は極めて低くなる。この蛍光分子と金属微粒子の距離をできるだけ近接させ,蛍光を効率良く消光するために,図5に示すようなヘアピン構造を積極的に形成した。
ここでは,金属微粒子501として金ナノ粒子を用い,プローブ分子502としてプローブDNAを用いた場合について説明する。プローブDNAの基板表面を塩強度が低い溶液中にさらすと,DNAのリン酸基によりマイナスにチャージしている塩基同士が反発するため,プローブDNAが伸びた構造となり,ヘアピン構造が形成されにくくなる。よって,適度なイオン強度を持った溶液中でヘアピン構造を形成させる必要がある。この溶液として,炭酸ナトリウム,炭酸カリウム,リン酸ナトリウム,リン酸カリウム,塩化マグネシウム等を用いることができる。溶液のイオン強度は,通常,50mM〜2Mの範囲である。温度は,通常,25℃〜45℃,時間は,0.5時間〜5時間の範囲である。その後,基板を溶液中から取り出し,乾燥する。あるいは,基板を上記のイオン性溶液とを接触させた状態で保存しても良い。
次に,上記(1)から(7)の工程に従って作成した生体分子検出素子を用いた検出方法について説明する。
(8)ハイブリダイゼーション評価工程
前述の(1)〜(7)に述べた工程を経て作成した生体分子検出素子表面に蛍光スキャナーを用いて励起光を照射し,表面からの発光を検出する。プローブ分子の末端に修飾された蛍光分子と金属微粒子の距離が充分近接していれば,蛍光は消光され,検出される蛍光強度は極めて小さくなる。
次に,検出用生体分子と前記の生体分子検出素子を反応させる。具体的には,検出用生体分子を溶解させた溶液に生体分子検出素子の表面を接触させ,平衡状態になるまで反応させる。ここでは,プローブ分子としてプローブDNAを用い,検出用生体分子としても核酸を用いた場合について説明する。
検出用の核酸を,界面活性剤を添加したSSC(Standard Saline Citrate)溶液に溶解し,生体分子検出素子表面にこの溶液を接触させる。溶液中の核酸量は0.1amol〜1nmolである,反応温度は,通常,25℃〜60℃,反応時間は,通常,1時間〜24時間である。検出用の核酸がプローブDNAの配列と完全相補的であった場合,速やかに反応して水素結合によりリンクされた2本鎖DNAを形成する。2本鎖DNAは高分子としてのフレキシビリティーを大幅に失い,リジッドなバネのようになる。反応すると,図6(a)に示した状態から図6(b)に示す状態への構造変化によって,金微粒子601とプローブDNA602に固定された蛍光分子603の距離がd1からd2へ離れるため,蛍光は消光せずに発光する。図中,604は,プローブDNA602とハイブリダイズしたターゲット分子である。更には,金属微粒子の局在プラズモン共鳴により,蛍光強度が増強される。局在プラズモン共鳴と蛍光増強について次に説明する。
金属微粒子は,光が入射されると,金属微粒子内の自由電子が分極し振動する。この金属微粒子内の自由電子の振動と,入射光の振動電場が共鳴することを局在プラズモン共鳴と呼ぶ。局在プラズモン共鳴が起こると,金属微粒子表面での電場強度が入射光の電場強度に比べて数桁大きくなる。
次に上述の蛍光増強についてその二つの要因を説明する。蛍光増強する要因の一つは,蛍光分子の量子効率の向上である。蛍光分子の近傍に金属微粒子が存在する場合,蛍光分子のエネルギー吸収過程で,局在プラズモン共鳴によって金属微粒子近傍の電場増強効果による吸収遷移が生じる。更に,発光過程で,金属微粒子が存在すると新たな発光が生じる。したがって,吸収遷移と発光が増すことから,蛍光分子の量子効率が上がる。ただし,量子効率は1を超えることはないため,量子効率1を持つ蛍光分子では,金属微粒子による量子効率の増加は期待できない。しかし,バイオセンサで用いられている蛍光分子は,量子効率が0.04〜0.3程度のものが多く,これらの蛍光分子に対して金属微粒子による量子効率の向上が期待できる。
第二の要因は,金属微粒子による光散乱強度の増加である。局在プラズモン共鳴により金属微粒子の分極率が増加し近傍の電場が増強されると,金属微粒子からの散乱光強度も増強される。これは,散乱光強度が金属微粒子の分極率の2乗に比例するからである。散乱光強度が増加すれば,蛍光分子を励起させるための入射エネルギーが増加し,従って蛍光発光強度も増加する。
これらの蛍光増強効果は,金属微粒子と蛍光分子の距離が5nmから100nmの間で見られる。プローブ分子として,金属微粒子に固定されたプローブ分子端と,プローブ分子に修飾された蛍光分子間のプローブ分子に沿った距離(d2)が,蛍光増強効果が得られる長さである5nmから100nmの場合,検体分子と反応した後に,蛍光増強効果を利用することができる。以上から,金属微粒子を用いた高効率の蛍光消光と蛍光増強効果により,検体中の生体分子を,標識を行うことなしに超高感度に検出することができる。
この原理に従って,図6(a)に示したプローブ分子602が生体分子604と反応し,図6(b)に示す構造変化が生じた場合,プローブ分子に修飾された蛍光分子603と金属微粒子601の距離d2によって蛍光が増強される。蛍光増強率は距離d2の関数であるが,距離d2はプローブ分子の長さで規定されており常に一定となるため,蛍光増強率も一定になる。したがって,増強された蛍光強度から,生体分子量を定量的に求めることができる。
多種類のプローブDNAがスポッティング固定された生体分子検出素子を用いて,検体中の生体分子を各スポットのプローブDNAと反応させた後に,基板表面からの蛍光強度を測定した場合,あるスポットでは蛍光が消光されており,別のスポットでは高い強度の蛍光が検出されたとする。この結果から,検体中に,蛍光消光されたスポット上のプローブ配列に関連する生体分子が存在しないことがわかる一方,高い強度の蛍光が検出されたスポット上のプローブ配列に関連する生体分子が存在することがわかる。更に,測定した蛍光強度から,この生体分子の存在量を求めることができる。
以上,本発明による生体分子検出素子の製造方法と,その素子を用いた生体分子検出方法の一例について説明した。上記実施形態では,生体分子としてDNAを用いた例を示したが,RNA,タンパク質,PNA,糖鎖あるいはこれらの複合物となった生体分子を用いてもよい。
本発明の生体分子検出素子を用いることで,検体分子を増幅することなしに,かつ標識を行うことなしに,再現性良く検出することができる。また,本発明の生体分子検出素子により,遺伝子発現量の定量解析やSNPsの高選択解析,あるいはタンパク質の高選択解析等を行うことができる。
次に,本発明を実施例により詳細に説明するが,本発明は下記実施例に限定されるものではない。ここでは,本発明を平板型DNAマイクロアレイとビーズアレイに適用した例について説明する。
<実施例1>
(工程1)基板への金属微粒子の固定
担体として,ホウ珪酸ガラスからなるスライドガラスを用意した。基板をNaOH水溶液で洗浄し,HCl水溶液で洗浄し,純水ですすいだ後に減圧乾燥した。図3(a)に示すように,洗浄した基板表面に,シランカップリング剤である3-アミノプロピルトリメトキシシラン(3-aminopropyltrimthoxysilane)を反応させ基板表面をアミノ化した。なお,溶媒はメタノールを用い,シランカップリング剤の濃度は,3%(Volume/Volume)である。また,反応温度は室温であり,反応時間は5分である。
次に,アミノ化した基板に,直径が15nmの金ナノ粒子クエン酸溶液を作用させた。なお,金ナノ粒子の濃度は,0.007%(Weight/Volume)である。また,反応温度は室温であり,反応時間は20時間である。こうして,図3(b)に示すように,金ナノ粒子301を分散固定した基板を得た。この時の金ナノ粒子の密度は約1×1011個/cm2である。
(工程2)ブロッキング剤の固定化
100mMトリエチルアルコール(TEA)をHCl溶液でpH8.0に調整し,スクシンイミド活性化エステルを末端に持つ分子量2000のポリエチレングリコール鎖を溶解させた。溶解直後の溶液に,上記のようにして金ナノ粒子固定した複数の基板を浸漬した。反応温度は25℃で,反応時間は1時間である。反応後,純水で基板を洗浄し,減圧乾燥させた。こうして,図3(c)に示す基板を得た。pH8.0でポリエチレングリコールを固定した後の1μMDNAの吸着量は5×1010分子/cm2以下であり,ポリエチレングリコールを固定していない基板に対する吸着量と比較して約1/20以下に低減することができた。
(工程3)プローブ分子の固定化
50mM K2HPO4と50mM KH2PO4を混合しpH6.7に調整した弱酸性のリン酸バッファに,それぞれ30から60個の塩基配列を持つプローブDNAで,5’末端にチオール基を持ち3’末端に蛍光分子であるCy3を持つプローブDNAを5μM溶解させた。このプローブDNA溶解液を,上記のようにブロッキングした基板の上に,プローブDNA配列毎にそれぞれスポッティングし,図3(d)に示すように,多種類のプローブDNA302が固定された基板を得た。プローブDNAの配列の一つは,
TCCGC AAAAA AAAAA AAAAA AAAAA GCGGA
であり,A配列の連なったPoly-A部分の配列は,検出対象となるDNAの配列に応じた配
列を用いた。Poly-A部として,17merの配列であるAGAGATACATTGACCTT,21merの配列であるCCCTTCTCACTGTTCTCTCAT,または50merの配列であるAGTCGAGCGGTAGCACAGAGAGCTTGCTCTCGGGTGACGAGCGGCGGACG等を用いた。
なお,反応温度は25℃,反応時間は4時間である。また,反応させる時に溶液が乾燥しないよう,充分湿度を保った環境で反応させた。反応後,基板を純水洗浄した。
(工程4)金ナノ粒子上のブロッキング剤の固定
メルカプトヘキサノール水溶液1μMを作成し,この水溶液中にプローブDNAが固定された基板を浸漬した。反応温度は25℃,反応時間は1時間である。反応させた後に純水洗浄を行い,デシケータ中で減圧乾燥し,図3(e)に示す基板を得た。
(工程5)プローブDNAの構造制御
上記のようにして金ナノ粒子表面をブロッキングした基板表面を0.3Mの塩強度を有する2×SSC溶液に浸漬した。浸漬温度は25℃,浸漬時間は2時間である。その後,基板を溶液から取り出し,減圧乾燥した。一方で,同一種類の基板表面に,2×SSC溶液をスポットし,カバーガラスでカバーすることで,溶液を基板表面全体と接触させ,25℃で保存した。
(工程6)反応前の蛍光測定
基板に固定されたプローブDNAからの蛍光強度を,工程5で用いた蛍光スキャナーを用いて測定した。530nmのレーザー光を基板表面にスキャンし,蛍光色素Cy3を励起し,得られた蛍光の強度を測定した。その結果を,図7(a)及び図7(b)の「ハイブリダイゼーション前」に示す。図7(a)はスポットの蛍光像を示す図であり,図7(b)は蛍光強度スポット内平均値を表す図である。尚,図7に示した蛍光強度は,基板を乾燥してから測定した値である。ここでは,基板を乾燥させた後に蛍光強度を測定したが,基板を乾燥させずに上記工程5に示した溶液に浸漬した状態で蛍光強度を測定しても同様の結果が得られた。この場合,基板上に溶液をのせたままカバーガラスでカバーして測定した。カバーガラスを用いる場合,カバーガラスからの自家蛍光を押さえるために,石英ガラス製のカバーガラスを用いる必要がある。
前記工程2により,非特異的に吸着した蛍光分子を有するプローブDNAを極力少なくすることができる表面を構築し,また工程5によってプローブDNA構造を制御することによって,プローブDNAからの蛍光,すなわちバックグラウンドノイズとなる蛍光を抑えることができた。
(工程7)ハイブリダイゼーション
プローブDNAを固定した基板に,プローブDNAと完全相補的な配列をもち,かつ標識を有していない一本鎖のターゲットDNAをハイブリダイゼーションさせた。ハイブリダイゼーション溶液として5×SSC(Standard Saline Citrate)と0.5%SDS溶液(Sodium Dodecyl Sulphate)の混合液を用い,トータルのターゲットDNA量fmolを42℃で4時間ハイブリダイゼーションさせた。その後,2×SSC,0.1%SDS溶液,2×SSC溶液で洗浄を行い,減圧乾燥した。乾燥させた基板表面に対し,蛍光スキャナーを用いて励起光を入射し,表面からの蛍光強度を測定した。
ターゲットDNAとプローブDNAの配列が完全相補的である場合,ハイブリダイゼーションの後に,蛍光強度が著しく増加した。その結果を図7(a)及び図7(b)の「非標識DNAハイブリダイゼーション後」に示す。この場合,ターゲットDNAの配列として,CGTCCGCCGCTCGTCACCCGAGAGCAAGCTCTCTGTGCTACCGCTCGACTを用いている。ハイブリダイゼーションさせる前は,プローブDNAの3’末端に修飾された蛍光分子と金ナノ粒子が近接しているため,蛍光が消光されているが,ハイブリダイゼーションによってリジッドな2本鎖DNAを作った場合,蛍光分子と金ナノ粒子が離れるため,消光が起こらず蛍光を発することがわかる。さらに,金ナノ粒子の局在プラズモン共鳴効果によって,強い蛍光強度を得ることができた。一方,ターゲットDNAとプローブDNAの配列が相補的でない場合,ハイブリダイゼーション後も蛍光は消光されたままであった。
<実施例2>
遺伝子解析用ビーズアレイを製造するために,基板の代わりにビーズを用いて,実施例1の工程1から工程4と同様の方法で,プローブDNAを固定したビーズを得た。ただし,実施例1の工程3ではプローブDNAをスポッティングしたが,本実施例では,プローブDNAを溶解した溶液にビーズを浸漬してビーズにプローブDNAを固定した。この場合,1つのビーズに1種類の配列のプローブDNAを固定した。複数種類のプローブDNAを複数のビーズに固定することで複数種類のビーズを得た。ここで用いたビーズの材質はホウ珪酸ガラスであり,ビーズ径は約100μmである。
図8は,こうして製造した互いに異なるプローブDNAが固定化された10種類のビーズ802をマイクロ流路801に収め1アレイとした場合の遺伝子解析用ビーズアレイを示す模式図である。マイクロ流路801の径は約120μmである。
実施例1に示した工程5〜6と同様の方法によってハイブリダイゼーション前のビーズ表面からの蛍光強度を測定すると,金ナノ粒子による蛍光消光効果によって蛍光が消光された。その結果を,図9(a)に示す。図9の横軸はビーズの種類(ビーズに固定したプローブDNAの配列)であり,縦軸は蛍光強度である。いずれのビーズからも蛍光はほとんど観測されないことが分かる。
次に,実施例1の工程7の方法に従い,ビーズ表面に固定されたプローブDNAのうち1種類のプローブDNAと完全相補的な配列を有するターゲットDNAを含有する試料液をマイクロ流路801に流してハイブリダイゼーションさせ,蛍光強度と均一性を調べた。その結果,図9(b)に示すように,ターゲットDNAと完全相補的な配列を持つプローブDNAが固定されたビーズのみ,強い蛍光強度が観測された。一方,ターゲットDNAと相補的な配列を持たないプローブDNAは,ハイブリダイゼーション後も消光されたままであった。
<実施例3>
金属微粒子の形状の違いによる遺伝子検出性能の差異を調べるため,基板表面のSiO2上に,実施例1の工程1と工程2と同様の方法で,金ナノ粒子とブロッキング剤を固定した。基板として,表面プラズモン共鳴(SPR)測定も行うことができるよう,ガラス上に金薄膜(約50nm)がコートされ,更にこの金薄膜上にSiO2が10nmスパッタリングコートされた基板を用いた。実施例1の工程1では直径15nmの金ナノ粒子のみを用いたが,本実施例では,直径が5nm,6nm,10nm,15nm,30nm,50nm,80nmの金ナノ粒子を固定した。使用した金ナノ粒子クエン酸溶液の濃度は,5nm,6nm,10nmの金ナノ粒子溶液で金含有率0.01%(Weight/Volume)であり,15nm以上の金ナノ粒子溶液で金含有率0.007%(Weight/Volume)である。この時の金ナノ粒子の固定間隔は,隣接する金ナノ粒子の中心間距離をLとし粒子の直径をDとすると,L/Dが約2以上であった。L/Dが2以下程度に接近している場合,粒子周囲の電磁場が干渉しあうことによって,粒子同士の相互作用の影響が生じると報告されている(”Interparticle Coupling Effects on Plasmon Resonances of Nanogold Particles,” Nano Letters Vol. 3, No. 8, p. 1087-1090 (2003),”Optical Properties of Two Interacting Gold Nanoparticles,” Optics Communications 220, p. 137-141 (2003),”Electrodynamics of noble metal nanoparticles and nanoparticle clusters,” Journal of Cluster Science Vol. 10, No. 2 (1999))。本実施例ではL/Dを約2以上とし,粒子同士の相互作用の影響が少ない領域で評価した。すなわち,金ナノ粒子径の大きさが遺伝子検出性能へ及ぼす影響を直に評価できる固定表面を用いた。
次に,この基板上にプローブDNAを固定した。具体的には工程3に示したプローブDNA溶解溶液を用いて固定した。実施例1では,プローブDNAとしてその両末端が相補的な配列を持つDNAを用いたが,本実施例では,両末端に相補的な配列を持たない18merまたは50merの以下に示す配列を有するプローブDNAを用いた。
18mer配列:AGTCGAGCGGTAGCACAG
50mer配列:AGTCGAGCGGTAGCACAGAGAGCTTGCTCTCGGGTGACGAGCGGCGGACG
また実施例1では,蛍光分子としてCy3のみを用いたが,本実施例では,プローブDNAの3’末端にCy3またはCy5を修飾したDNAを使用した。これらのプローブDNAは5’末端にチオール基を有する。
プローブDNA固定時に,プローブDNAの固定量を求めるために,表面プラズモン共鳴(SPR)を用いた測定を行った。以下,SPR測定方法について述べる。プローブDNA固定は,上述した基板表面に固定した金ナノ粒子と,プローブDNA末端のチオール基を反応させて行う。この時,SPR装置に組み込まれた光学プリズムを介して基板裏面側,すなわちガラス側から光を入射すると,金表面の表面プラズマ振動が励起される特定の入射角度で光の反射率が極端に低下する。この角度は,センサ表面の微量な質量(誘電率)の変化に応じてシフトする。したがって,この入射角のシフト量を測定することで,基板表面に固定されたプローブDNAの量を検出できる。本実施例では5nm,6nm,10nm,15nm,30nm,50nm,80nmの金ナノ粒子を固定し,ブロッキング剤の固定を行った基板をそれぞれSPR装置にセットし,SPR装置内に,10μMに調整した上記18merと50merのプローブDNA溶液を流し,単位面積あたりの固定量をそれぞれ算出した。これらの固定量から計算した金ナノ粒子表面上のプローブDNA分子の占有面積は,18merの場合1nm2から4nm2の間であり,50merの場合9nm2から14nm2の間であった。
次に,基板をSPR装置から外し,実施例1の工程5と同様の方法で,基板上に固定したプローブDNAの構造を制御した。実施例1では,溶液として2×SSC溶液を用いて2時間浸漬しているが,本実施例では5×SSC溶液を用いて5分以上2時間以内で浸漬した。
次に,実施例1の工程6と同様な方法で,基板に固定されたプローブDNAから発光された蛍光の強度を,蛍光スキャナーを用いて測定した。実施例1では530nmのレーザー光を基板表面にスキャンさせたが,本実施例では,蛍光分子としてCy5を用いた場合には635nmのレーザー光を,またCy3を用いた場合には532nmのレーザー光を励起光として使用した。その後,Cy3あるいはCy5から発光される蛍光強度を測定した。ここでは,1ピクセル□10μmから検出される蛍光強度を測定した。この蛍光強度測定は,基板表面を5×SSC溶液に浸漬させた状態で行った。上述のSPR測定の結果から得られた□10μm内のプローブDNAの固定分子数と,蛍光スキャナーから得られた蛍光強度から,1プローブDNAあたりの蛍光強度,すなわち1蛍光分子あたりの蛍光強度を算出することができる。算出した1蛍光分子あたりの蛍光強度を図10,11,12に示す。図10は18merプローブDNAを用いた時の金ナノ粒子径と1蛍光分子(Cy3)あたりの蛍光強度の関係を示す図,図11は50merプローブDNAを用いた時の金ナノ粒子径と1蛍光分子(Cy3)あたりの蛍光強度の関係を示す図,図12は50merプローブDNAを用いた時の金ナノ粒子径と1蛍光分子(Cy5)あたりの蛍光強度の関係を示す図である。
次に,実施例1の工程7と同様な方法で,上述の基板に固定したプローブDNAに,蛍光標識していない一本鎖のターゲットDNAをハイブリダイゼーションさせた。本実施例で用いたターゲットDNAの配列は,完全相補的な配列と,特徴的な相補的配列を持たないランダム配列である。用いた相補的な配列を下記に示す。
18mer配列:CTGTGCTACCGCTCGACT
50mer配列:CGTCCGCCGCTCGTCACCCGAGAGCAAGCTCTCTGTGCTACCGCTCGACT
一方,用いたランダム配列を下記に示す。
18mer配列:AAGTGAGCATCATTCACT
50mer配列:TGAGTTTTTTAACCCGATGATTGTACTGCAACAAGTGAGCATCATTCACT
実施例1の工程7では,ハイブリダイゼーションの後に,洗浄・乾燥を行ってから,蛍光スキャナーを用いて基板からの蛍光強度を測定している。しかし,本実施例では,ハイブリダイゼーション後に5×SSC溶液で洗浄し,その後5×SSC溶液に浸漬したまま蛍光強度を測定した。その理由を以下に述べる。蛍光強度は,蛍光分子の周囲にある溶媒の誘電率によって変わる。したがって,ハイブリダイゼーション前後での蛍光強度をより正確に比較する場合に,双方同一の溶媒を用いた環境,つまり5×SSCに浸漬した環境で測定した方が良いためである。この場合,蛍光分子周囲の溶媒に影響されることなくハイブリダイゼーション前後の蛍光強度を比較できる。また,乾燥することによって生じるDNA構造の変性を防止することができる。ターゲットDNAの量は,本実施例では,1fmolから1pmolまで変化させた。
1pmolのターゲットDNAを反応させた時の1蛍光分子あたりの平均蛍光強度を図10,図11,図12に示す。これらの結果から以下のことがわかる。ハイブリダイゼーションさせる前は,プローブDNAの3’末端に修飾された蛍光分子(Cy3,Cy5)と金ナノ粒子が近接しているため蛍光消光の影響によって蛍光強度が小さくなる。一方,ハイブリダイゼーションによってリジッドな2本鎖DNAを作った場合,蛍光分子と金ナノ粒子が離れるため,消光が起こりにくくなり蛍光強度が大きくなる。このハイブリダイゼーション前の蛍光強度(I1)と後の蛍光強度(I2)の比をコントラストC(C=I2/I1)として求めた結果を図13に示す。ここで,バックグラウンドノイズBが無視できないほど大きい場合には,コントラストとして,I1とI2からそれぞれバックグラウンドノイズ分を引いた後の比を用いるが,本測定では,バックグラウンドノイズ分が小さかったため,単なるI1とI2の比をコントラストとしている。
図13を用いて金ナノ粒子の形状とコントラストの関係について述べる。コントラストが大きい場合,すなわち蛍光消光効果と増強効果を上手く利用できる場合には,検出用生体分子を標識することなく高感度に検出することができる。図13から,金ナノ粒子径が5nm以上50nm以下の領域でコントラストが大きくなることがわかる。また,金属微粒子の径が6nm以上15nm以下の領域では,より高コントラストで生体分子を検出できることがわかる。
ここで,この領域でコントラストが大きくなる理由を述べる。高いコントラストを得るためには,ハイブリダイゼーション前に蛍光を効率良く消光させ,ハイブリダイゼーション後に蛍光を効率良く増強させる必要がある。蛍光増強の程度は,金属微粒子が大きくなるに従って増加する。金属微粒子の分極率は粒径の3乗に比例するため,微粒子が小さい場合分極率が小さくなり,微粒子周囲の電磁場強度も小さくなる。粒子径が5nm以下の場合,蛍光増強効果が得られ難く,生体分子と反応させた後に高い蛍光強度を得ることが難しい。一方,50nm以上の場合には粒子周囲に強い蛍光増強場が生じるため,蛍光消光が起こり難くなり,生体分子と反応させる前にも高い蛍光強度を得る。従って,生体分子の反応前後での蛍光強度の比(コントラスト)が小さくなる。以上から,コントラストの高い生体分子高感度測定を行うためには,金属微粒子径は5nm以上50nm以下が適している。更に高いコントラストを得るためには,金属微粒子の径として6nm以上15nm以下が適している。
次に,プローブDNAの長さとコントラストの関係について述べる。50merプローブDNAと18merプローブDNAのコントラストを比較すると,50merプローブDNAのコントラストの方が大きい。この理由について次に述べる。金属微粒子1501の近傍では,蛍光体がナノ粒子へのエネルギー移動によって消光させる消光場1502が図15に示すように存在する。一方,ナノ粒子周辺の電磁場強度が大きくなることによって,増強場1503も,図15に示すように金ナノ粒子近傍に存在する。ここで,消光場が金ナノ粒子の極々近傍にのみ存在するのは,消光の原因であるエネルギー移動速度がナノ粒子からの距離の6乗に反比例し,距離が離れるに従ってエネルギー移動速度が大きく減少するからである。プローブDNAの長さが18merの場合,2本鎖を作った場合の鎖長は約6nmとなる。6nmでは,蛍光分子はハイブリダイゼーション後も金ナノ粒子極近傍の消光場に位置し,強い蛍光強度が得られる増強場に完全に移行することができない。一方,50merの場合,2本鎖の長さは約17nmであり,リジッドな2本鎖を作ると増強場に移行することが可能となり,コントラストが増大する。
比較的高いコントラストが得られる15nm径の金ナノ粒子を用いた時のコントラストと50merターゲットDNA濃度の関係を図14に示す。完全相補的配列を持つDNAのみコントラストが大きくなったことから,ターゲットDNAを選択的に検出できることがわかる。またコントラストとターゲット濃度の関係は,ラングミュアモデルにより精度良くフィッティングできたことから,コントラストの大きさから反応した生体分子量を定量的に求めることが可能である。
本実施例では,SPR測定を行うために,ガラス上に金薄膜(約50nm)がコートされ,かつこの金薄膜上にSiO2が10nmスパッタリングコートされた基板を用いたが,シリコン基板上にSiO2薄膜が形成された基板,石英ガラス,ガラス上でも同様な結果を得ることができる。
<実施例4>
本実施例では,遺伝子を高感度に検出することを目的に,金ナノ粒子を用いた場合の蛍光増強の程度を調べた。具体的には,蛍光増強の程度を定量的に得ることによって,蛍光増強程度と金ナノ粒子径の関係を調べた。本実施例で使用するアレイは,実施例3で述べた方法と同様の方法で,金薄膜上にSiO2を10nmスパッタリングコートした基板上に様々な粒径の金ナノ粒子と蛍光分子(Cy3またはCy5)付きのプローブDNAを固定することによって作製した。本実施例では,以下の配列を持つプローブDNAを用いた。
50mer配列:AGTCGAGCGGTAGCACAGAGAGCTTGCTCTCGGGTGACGAGCGGCGGACG
一方,蛍光増強の効果を定量的に評価するために,金ナノ粒子を用いずに蛍光分子の付いたプローブDNAを固定したアレイも作製した。実施例の工程1と同様の方法で基板表面に官能基をコーティングした。実施例1では3−アミノプロピルトリメトキシシランを用いたが,ここでは,3−メルカプトプロピルトリメトキシシランを用いた。また,反応溶媒にはトルエンを用いた。次に実施例1の工程3と同様の方法でプローブDNAを固定した。プローブDNAの配列は,上述の金ナノ粒子上に固定したプローブDNAの配列と同じである。この場合,ジスルフィド結合を作ることによって基板に共有結合させた。以上により,金ナノ粒子を介して蛍光分子付きプローブDNAを固定した基板と,金ナノ粒子を介さずに同様に蛍光分子付きプローブDNAを固定した基板を作製した。
次に,金ナノ粒子がある場合と、ない場合のそれぞれについて,プローブDNAの固定量を表面プラズモン共鳴(SPR)を用いて算出した。上述したように,金ナノ粒子がある場合には,基板表面に粒径が5nm,6nm,10nm,15nm,30nm,50nm,80nm,100nm,200nm,300nm,500nmの金ナノ粒子をそれぞれ固定後,ブロッキング剤を固定した基板を用いた。一方,金ナノ粒子がない場合には,3−メルカプトプロピルトリメトキシシランを用いてチオール基をコーティングした基板を用いた。これらの基板をSPR装置にセットし,SPR装置内で10μMに調整した上記50merのプローブDNA溶液を流し,単位面積あたりの固定量を算出した。
次に,実施例1の工程7と同様な方法で,上述の基板上にプローブDNAを固定した基板を用いて,ハイブリダイゼーションを行った。ターゲットDNAとして,プローブDNAと完全相補的な配列をもち,かつ標識を有していないDNAを用いた。本実施例で用いたターゲットDNAの配列は,以下の通りである。
50mer配列:CGTCCGCCGCTCGTCACCCGAGAGCAAGCTCTCTGTGCTACCGCTCGACT
ここで,実施例1の工程7では,ハイブリダイゼーションの後に,洗浄・乾燥を行った後に蛍光強度を測定しているが,本実施例では,洗浄後5×SSC溶液に浸漬したまま蛍光強度を測定した。前述したSPR測定より求めた蛍光分子付きプローブDNA固定量と,測定した蛍光強度から,1蛍光分子あたりの平均蛍光強度を算出した。尚,本実施例では,反応させるターゲットDNAの量を1pmolとした。
金ナノ粒子を固定した基板を用いてハイブリダイゼーションした後の1蛍光分子あたりの蛍光強度(I3)と,金ナノ粒子を固定していない基板を用いてハイブリダイゼーションした後の1蛍光分子あたりの蛍光強度(I4)を比較すると,金ナノ粒子を固定した基板では,蛍光強度がより高くなった。蛍光増強係数EをE=I3/I4として求めた結果を図16に示す。その結果,金ナノ粒子径が10nm以上の場合には,蛍光強度を10倍以上に増強することができた。これは,金属微粒子の分極率は粒径の3乗に比例し,微粒子が大きい場合,分極率が大きくなり微粒子周囲の電磁場強度も大きくなることに起因する。したがって,金ナノ粒子径が10nm以上の場合,高い蛍光増強度を得ることが可能である。一方,金ナノ粒子径が波長と同程度に大きくなった場合,金ナノ粒子内の分極が生じ難くなり,金ナノ粒子周囲の電磁場強度も分極率の減少に伴って減少する。したがって,高い蛍光増強効果は,粒子径が10nm以上500nm以下の金ナノ粒子を用いることによって得ることができた。
ここで,Cy3とCy5について比較する。金ナノ粒子径が100nmよりも小さい場合,蛍光増強係数は,Cy3の方がCy5よりも大きくなった。この理由について説明する。金ナノ粒子はその分極によって,局在プラズモン共鳴による光吸収を持つ。金ナノ粒子径が100nmよりも小さい場合,この吸収波長は500〜550nm付近となる。この波長帯では,局在プラズモンと,金ナノ粒子に入射された光が共鳴し,光吸収や近接場散乱が大きくなる。この局在プラズモン共鳴を引き起こす波長を励起波長として用いた場合,近接場散乱光の強度が大きくなり,蛍光強度がより増強すると考えられる。Cy3の励起波長は500〜550nm間にあり局在プラズモン共鳴波長帯にあるのに対し,Cy5の励起は600〜650nmと共鳴帯から外れている。従って,Cy3でより大きな蛍光増強を得られたと考える。
本実施例では,SPR測定を行うために,ガラス上に金薄膜(約50nm)がコートされ,かつこの金薄膜上にSiO2が10nmスパッタリングコートされた基板を用いたが,シリコン基板上にSiO2薄膜が形成された基板,石英ガラス,ガラス上でも同様な結果を得ることができる。
<実施例5>
本実施例では,蛍光標識した遺伝子を高感度に検出することを目的に,金ナノ粒子による蛍光増強を用いた検出を試みた。図17に,用いた検出アレイの模式図を示す。検出するアレイを製造するために,実施例4で述べた方法と同様の方法で,金ナノ粒子とプローブDNAを固定したアレイ表面を得た。実施例4では,蛍光分子が付いたプローブDNAを固定したが,本実施例では,蛍光分子の付いていない50merプローブDNAを固定した。
一方,蛍光増強の効果を定量的に評価するために,金ナノ粒子を用いずにプローブDNAを固定した基板も製造した。実施例4と同様に,3−メルカプトプロピルトリメトキシシランをコーティングした後に,プローブDNAを固定した。実施例4では蛍光分子が付いたプローブDNAを固定したが,本実施例では,蛍光分子の付いていないプローブDNAで,上述の金ナノ粒子上に固定したプローブDNAと同じ配列を持つものを固定した。以上により,金ナノ粒子を介してプローブDNAを固定した基板と,金ナノ粒子を介さずにプローブDNAを固定した基板を作製した。
次に,上述のプローブDNAを固定した基板を用いて,実施例4と同様な方法でプローブDNAと完全相補的な配列を持つ一本鎖の1pmolターゲットDNAをハイブリダイゼーションさせた。実施例4では,標識を有していないターゲットDNAを用いたが,本実施例では,3’末端に標識となる蛍光分子(Cy3またはCy5)が修飾されたターゲットDNAを用いた。ハイブリダイゼーションした後のアレイの模式図を図18に示す。ハイブリダイゼーション後,実施例4に示す方法と同様に蛍光強度の測定を行った。
ここで,反応した1蛍光分子あたりの蛍光強度を算出するために,上述のハイブリダイゼーションをさせる際に,ハイブリダイゼーションしたターゲットDNAの反応量を算出した。反応量の算出には,実施例3に示した方法と同様に表面プラズモン共鳴(SPR)を用いた。作製したSPR測定用基板をそれぞれSPR装置にセットし,SPR装置内にターゲットDNAを含んだ溶液を流し,単位面積あたりのターゲットDNAのハイブリダイゼーション量を算出した。このSPRハイブリダイゼーション量測定結果と前述の蛍光強度測定結果から,ハイブリダイゼーションした1蛍光分子あたりの蛍光強度を算出した。金ナノ粒子を固定した基板上でハイブリダイゼーションした後の1蛍光分子あたりの蛍光強度(I3)と,金ナノ粒子を固定していない基板上でハイブリダイゼーションした後の1蛍光分子あたりの蛍光強度(I4)を比較すると,金ナノ粒子を固定した基板では,蛍光強度がより高くなった。蛍光増強係数EをE=I3/I4として求めた結果,実施例4と同様に,金ナノ粒子径が10nm以上の場合には,蛍光強度を10倍以上に増強することができた。実施例4に記載した金属微粒子径と分極率の関係から,実施例4と同様に,高い蛍光増強効果は,粒子径が10nm以上500nm以下の金ナノ粒子を用いることによって得ることができた。
本実施例では,SPR測定を行うために,ガラス上に金薄膜(約50nm)がコートされ,かつこの金薄膜上にSiO2が10nmスパッタリングコートされた基板を用いたが,シリコン基板上にSiO2薄膜が形成された基板,石英ガラス,ガラス上でも同様な結果を得ることができる。
また,本実施例では,プローブDNAと完全相補的な配列を持つターゲットDNAを用いたが,検出するターゲット分子として,蛍光分子が標識された一塩基配列,例えば,dCTP-Cy3やddCTP-Cy3等,あるいは蛍光分子が修飾された蛋白質,または蛍光分子が修飾された糖鎖,糖蛋白質等を用いても,同様の効果を得ることができる。
本発明による生体分子検出素子の表面の基本構成を表す図。 本発明による生体分子検出素子の製造工程を示す概念図。 本発明による生体分子検出素子の製造工程の具体例を示す概念図。 ブロッキング剤分子であるポリエチレングリコールを固定する時の固定溶液のpHとブロッキング後のDNA吸着量の相関を示す図。 プローブ分子のヘアピン構造の説明図。 プローブ分子と生体分子との反応の前後の状態を表す図。 ハイブリダイゼーション前後のスポットの蛍光像と,蛍光強度スポット内平均値を示す図。 ビーズアレイの概略図。 ハイブリダイゼーション前後のビーズの蛍光強度を示す図。 18merプローブDNAを用いた時の金ナノ粒子径と1蛍光分子(Cy3)あたりの蛍光強度の関係を示す図。 50merプローブDNAを用いた時の金ナノ粒子径と1蛍光分子(Cy3)あたりの蛍光強度の関係を示す図。 50merプローブDNAを用いた時の金ナノ粒子径と1蛍光分子(Cy5)あたりの蛍光強度の関係を示す図。 金ナノ粒子径とコントラストの関係を示す図。 ターゲットDNA濃度とコントラストの関係を示す図。 金ナノ粒子周囲の消光場と増強場を示す図。 金ナノ粒子径と蛍光増強係数の関係を示す図。 本発明による生体分子検出素子の表面の一例として,金ナノ粒子とプローブDNAを固定した表面を表す図。 金ナノ粒子とプローブDNAを固定した表面に,蛍光標識の付いたターゲットDNAを反応させた後の状態を表す図。
符号の説明
101…金属微粒子,102…プローブ分子,103…蛍光分子,201…金属微粒子,301…金ナノ粒子,302…プローブ分子,501…金属微粒子,502…プローブ分子,503…蛍光分子,504…結合部,601…金属微粒子,602…プローブ分子,603…蛍光分子,604…ターゲット分子,801…マイクロ流路,802…ビーズ,1401…コントラストのラングミュアモデルフィッティング値,1501…金ナノ粒子,1502…金ナノ粒子による蛍光消光場,1503…金ナノ粒子による蛍光増強場,1601…基板,1602…金ナノ粒子,1603…プローブDNA,1604…蛍光標識付きターゲットDNA,1701…基板,1702…金ナノ粒子,1703…プローブDNA,1704…蛍光標識付きターゲットDNA

Claims (29)

  1. 担体表面に金属微粒子が固定され,前記金属微粒子の表面にプローブ分子が固定され,前記プローブ分子に蛍光分子が修飾されていることを特徴とする生体分子検出素子。
  2. 請求項1記載の生体分子検出素子において,前記プローブ分子に修飾された蛍光分子と前記金属微粒子を結ぶ直線距離が5nm以下であることを特徴とする生体分子検出素子。
  3. 請求項1記載の生体分子検出素子において,前記プローブ分子に修飾された蛍光分子と金属微粒子との間の,前記プローブ分子に沿った距離が5nm以上100nm以下であることを特徴とする生体分子検出素子。
  4. 請求項1記載の生体分子検出素子において,前記金属微粒子上に前記プローブ分子の末端が固定され,前記プローブ分子の他方の末端に前記蛍光分子が修飾されていることを特徴とする生体分子検出素子。
  5. 請求項1記載の生体分子検出素子において,前記金属微粒子は貴金属類に属する金属,あるいは貴金属類に属する金属の合金又は貴金属類に属する金属を積層したものであることを特徴とする生体分子検出素子。
  6. 請求項1記載の生体分子検出素子において,前記金属微粒子の粒子径が0.6nm以上1μm以下であることを特徴とする生体分子検出素子。
  7. 請求項1記載の生体分子検出素子において,前記金属微粒子の粒子径が5nm以上50nm以下であることを特徴とする生体分子検出素子。
  8. 請求項1記載の生体分子検出素子において,前記担体表面上への前記金属微粒子の固定密度が,1粒子/μm2以上106粒子/μm2以下であることを特徴とする生体分子検出素子。
  9. 請求項1記載の生体分子検出素子において,前記担体表面にシランカップリング剤分子が固定され,前記シランカップリング剤分子に前記金属微粒子が固定されたことを特徴とする生体分子検出素子。
  10. 請求項1記載の生体分子検出素子において,前記担体表面は,前記金属微粒子が固定された部分と,ブロッキング剤分子が固定された部分からなることを特徴とする生体分子検出素子。
  11. 請求項10記載の生体分子検出素子において,前記ブロッキング剤分子がポリエチレングリコール鎖を有することを特徴とする生体分子検出素子。
  12. 請求項1記載の生体分子検出素子において,前記金属微粒子表面が,前記プローブ分子が固定された部分と,ブロッキング剤分子が固定された部分からなることを特徴とする生体分子検出素子。
  13. 請求項1記載の生体分子検出素子において,前記プローブ分子は核酸であり,当該核酸は前記金属微粒子表面に固定された際にヘアピン構造を有することを特徴とする生体分子検出素子。
  14. 請求項1記載の生体分子検出素子において,前記プローブ分子が核酸であり,当該核酸配列の両末端から8塩基未満の配列が互いに相補的な配列であることを特徴とする生体分子検出素子。
  15. 担体表面に金属微粒子が固定され,前記金属微粒子の表面にプローブ分子が固定され,前記プローブ分子に蛍光標識されたターゲット分子を結合させる生体分子検出素子であって,
    前記金属微粒子径が10nm以上500nm以下であることを特徴とする生体分子検出素子。
  16. 請求項15記載の生体分子検出素子において,前記金属微粒子は貴金属類に属する金属,あるいは貴金属類に属する金属の合金又は貴金属類に属する金属を積層したものであることを特徴とする生体分子検出素子。
  17. 担体表面にプローブ分子が固定された生体分子検出素子の製造方法において,
    担体表面に金属微粒子を固定する工程と,
    前記担体表面にブロッキング剤分子を固定する工程と,
    蛍光分子が修飾されたプローブ分子を前記金属微粒子表面に固定する工程と,
    を有することを特徴とする生体分子検出素子の製造方法。
  18. 請求項17記載の生体分子検出素子の製造方法において,前記基板上に金属微粒子を固定する工程が,
    前記担体表面にシランカップリング剤分子を固定する工程と,
    前記担体表面に前記金属微粒子を含む溶液を接触させ,金属微粒子を固定する工程と,
    を有することを特徴とする生体分子検出素子の製造方法。
  19. 請求項17記載の生体分子検出素子の製造方法において,前記ブロッキング剤分子を固定する工程は,ポリエチレングリコール鎖を有する分子を固定する工程であることを特徴とする生体分子検出素子の製造方法。
  20. 請求項19記載の生体分子検出素子の製造方法において,前記ポリエチレングリコール鎖を有する分子を固定する工程において,前記ポリエチレングリコール鎖を有する分子を溶解した固定反応溶液のpHが7.0以上9.0以下であることを特徴とする生体分子検出素子の製造方法。
  21. 請求項17記載の生体分子検出素子の製造方法において,更に,前記金属微粒子表面にブロッキング剤分子を固定する工程を有することを特徴とする生体分子検出素子の製造方法。
  22. 請求項21記載の生体分子検出素子の製造方法において,固定反応溶液のブロッキング剤分子濃度が100μM以下であることを特徴とする生体分子検出素子の製造方法。
  23. 担体表面に金属微粒子が固定され,前記金属微粒子表面にプローブ分子が固定され,前記プローブ分子に蛍光分子が修飾された生体分子検出素子を用い,
    前記生体分子検出素子の前記プローブ分子と非標識の被検生体分子とを反応させる工程と,
    反応後の生体分子検出素子に励起光を照射する工程と,
    前記プローブ分子が固定された領域から発生される蛍光を検出する工程と,
    を有することを特徴とする生体分子検出方法。
  24. 請求項23記載の生体分子検出方法において,前記プローブ分子に修飾された蛍光分子は,前記反応の前には前記金属微粒子に接近して蛍光消光され,前記反応の後には前記金属微粒子から遠ざかり励起光照射によって蛍光を発生することを特徴とする生体分子検出方法。
  25. 請求項23記載の生体分子検出方法において,金属微粒子の局在プラズモン共鳴波長をλ(nm)とするとき,前記蛍光分子の励起波長λE(nm)が,
    λ−100<λE<λ+100
    の範囲にあることを特徴とする生体分子検出方法。
  26. 担体表面に金属微粒子が固定され,前記金属微粒子表面にプローブ分子が固定され,前記プローブ分子に蛍光分子が修飾された生体分子検出素子を用い,
    前記生体分子検出素子に励起光を照射する工程と,
    前記生体分子検出素子の前記プローブ分子が固定された領域から発生される蛍光の強度I1を測定する工程と,
    前記生体分子検出素子の前記プローブ分子と非標識の生体分子を反応させる工程と, 前記生体分子検出素子に励起光を照射する工程と,
    前記生体分子検出素子の前記プローブ分子が固定された領域から発生される蛍光の強度I2を測定する工程と,
    I1とI2の比からコントラストC(C=I2/I1)を求める工程と,
    を有することを特徴とする生体分子検出方法。
  27. 請求項26記載の生体分子検出方法において、前記金属微粒子径が10nm以上500nm以下であることを特徴とする生体分子検出方法。
  28. 担体表面に直径10nm以上500nm以下の金属微粒子が固定され,前記金属微粒子表面にプローブ分子が固定された生体分子検出素子を用い,
    前記生体分子検出素子の前記プローブ分子に蛍光標識付き生体分子を反応させる工程と,
    前記生体分子検出素子に励起光を照射する工程と,
    前記生体分子検出素子の前記プローブ分子が固定された領域から発生される蛍光の強度を測定する工程と,
    を有することを特徴とする生体分子検出方法。
  29. 請求項28記載の生体分子検出方法において,前記金属微粒子の局在プラズモン共鳴波長をλ(nm)とするとき,前記蛍光標識の励起波長λE(nm)が,
    λ−100<λE<λ+100
    の範囲にあることを特徴とする生体分子検出方法。
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