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JP2007155022A - 転動装置 - Google Patents

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JP2007155022A JP2005351988A JP2005351988A JP2007155022A JP 2007155022 A JP2007155022 A JP 2007155022A JP 2005351988 A JP2005351988 A JP 2005351988A JP 2005351988 A JP2005351988 A JP 2005351988A JP 2007155022 A JP2007155022 A JP 2007155022A
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JP2005351988A
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Shinji Fujita
慎治 藤田
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NSK Ltd
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Abstract

【課題】高温環境下であり且つ大きな接触応力が作用するような条件下、又は、高温環境下であり且つ無潤滑下というような厳しい条件下でも好適に使用可能な転動装置を提供する。
【解決手段】アンギュラ玉軸受の玉3はSUJ2で構成されており、玉3の転動面3aには潤滑性を有するDLC層Dが設けられている。DLC層Dは、Cr,W,Ti,Si,Ni,Zr,及びFeのうちの2種以上の金属からなる金属層Mと、前記金属及び炭素からなる複合層Fと、炭素からなるカーボン層Cと、の3層で構成されていて、該3層は表面側からカーボン層C,複合層F,金属層Mの順に配されている。また、複合層F中の炭素の割合は、金属層M側からカーボン層C側に向かって徐々に増加している。さらに、DLC層Dの等価弾性定数は100GPa以上240GPa以下である。さらに、玉3の平均残留オーステナイト量は6体積%以下である。
【選択図】図1

Description

本発明は、潤滑性に優れる転動装置に係り、特に、高温環境下において好適に使用可能な転動装置に関する。
ダイヤモンドライクカーボン(以降はDLCと記すこともある)は、その表面がダイヤモンドに準ずる硬さを有し、摺動抵抗も摩擦係数が0.2以下と二硫化モリブデンやフッ素樹脂と同様に小さいことから、従来から潤滑性材料として使用されている。
例えば、磁気ディスク装置においては、磁気素子又は磁気ディスクの表面に数十オングストロームのDLC膜を形成することにより、磁気素子と磁気ディスクとの間の潤滑性を高めて磁気ディスクの表面を保護している。
一方、上記のような特異な表面の性質から、DLCは転がり部材の新たな潤滑性材料として注目されており、近年、軸受への潤滑性の付与に利用されている。
例えば、特許文献1には、軌道輪の軌道面や転動体の表面に金属を含有するDLC膜を備えた転がり軸受が開示されている。この転がり軸受においては、前記DLC膜により接触応力が緩和される。
また、CVD法,プラズマCVD法,イオンビーム形成法,イオン化蒸着法等によって、軌道輪の軌道面や転動体の表面にDLC膜を形成した転がり軸受等の転動装置が知られている(例えば、特許文献2〜6)。
国際公開WO99/14512号公報 特開平9−144764号公報 特開2000−136828号公報 特開2000−205277号公報 特開2000−205279号公報 特開2000−205280号公報
しかしながら、転がり軸受等の転動装置においては、軌道輪の軌道面や転動体の表面に大きな接触応力が作用するので、繰り返し応力によってDLC膜が破損してしまうおそれがあった。
このような破損が起きる原因としては、以下の2点が考えられる。
まず、1点目は、鋼とDLC膜との密着性を向上させるために介在された金属中間層の脆性化の問題である。すなわち、金属中間層を構成する金属とDLC膜を構成する炭素とが結合して脆さを有する金属カーバイドが生成するため、金属中間層が脆性化して、DLC膜が破損しやすくなるのである。そして、金属中間層が1種の金属で構成されている場合は金属カーバイドの脆さが大きいため、破損の要因となりやすい。
2点目は、DLC膜は、応力が作用しても非常に変形しにくい性質を有しているという問題である。DLCは硬く高弾性であるので、ステンレス鋼や軸受鋼等のような等価弾性定数の小さい金属材料に被覆されていると、両者の等価弾性定数の違いから、母材の変形にDLCが追従することができずに、DLC膜が破損する場合がある。
さらに、転がり軸受は高温環境下で使用されると、軸受材料中の残留オーステナイトが膨張することが知られている。通常外輪はハウジングで拘束されているため膨張が起こりにくいが、転動体及び内輪は外径側を拘束されていないので、容易に膨張が起こり寸法変化が生じることとなる。その結果、軸受の隙間詰まりが起こり、焼付き等の不具合が生じる場合がある。
そこで、本発明は、上記のような従来技術が有する問題点を解決し、高温環境下であり且つ大きな接触応力が作用するような条件下、又は、高温環境下であり且つ無潤滑下というような厳しい条件下でも好適に使用可能な転動装置を提供することを課題とする。
前記課題を解決するため、本発明は次のような構成からなる。すなわち、本発明に係る請求項1の転動装置は、外面に軌道面を有する内方部材と、前記内方部材の軌道面に対向する軌道面を内面に有し前記内方部材の外側に配された外方部材と、前記両軌道面間に転動自在に配された転動体と、を備える転動装置において、前記転動体が下記の7つの条件を満足することを特徴とする。
条件1:炭素を0.5質量%以上1.2質量%以下、ケイ素を0.15質量%以上1.5質量%以下、マンガンを0.1質量%以上2質量%以下、クロムを1質量%以上2.5質量%以下含有し、残部が鉄及び不可避の不純物である鋼で構成されている。
条件2:潤滑性を有するダイヤモンドライクカーボン層が転動面に被覆されている。 条件3:前記ダイヤモンドライクカーボン層は、クロム,タングステン,チタン,ケイ素,ニッケル,ジルコニウム,及び鉄のうちの2種以上の金属からなる金属層と、前記金属及び炭素からなる複合層と、炭素からなるカーボン層と、の3層で構成されている。
条件4:前記3層は、前記ダイヤモンドライクカーボン層の表面側から前記カーボン層,前記複合層,前記金属層の順に配されている。
条件5:前記複合層中の炭素の割合は、前記金属層側から前記カーボン層側に向かって徐々に増加している。
条件6:前記ダイヤモンドライクカーボン層の等価弾性定数は100GPa以上240GPa以下である。
条件7:平均残留オーステナイト量が6体積%以下である。
このような転動装置は、転動体の母材である鋼と前記カーボン層との間に前記複合層及び前記金属層が介在しているので、潤滑性に優れた前記ダイヤモンドライクカーボン層(以降においてはDLC層と記すこともある)と母材である鋼との密着性が優れている。特に、前記複合層中の炭素の割合が、前記金属層側から前記カーボン層側に向かって増加しているので、DLC層と母材である鋼との密着性がより優れたものとなる。
また、複合層を、クロム(Cr),タングステン(W),チタン(Ti),ケイ素(Si),ニッケル(Ni),ジルコニウム(Zr),及び鉄(Fe)のうちの2種以上の金属と炭素とで構成したので、1種の金属と炭素とで構成した場合と比べて、金属と炭素との結合により生成した金属カーバイドの脆さが小さい。よって、複合層の脆さが小さいので、繰り返し応力やせん断力が負荷されてもDLC層が破損しにくい。なお、使用する金属は、炭素との化学量論比が異なるものを組み合わせることが好ましい。
さらに、転動体の転動面にDLC層が被覆されていて転動体の摩擦係数が低いので、本発明の転動装置は、焼付きが生じやすい高温環境下で使用されても焼付きが生じにくく長寿命である。
また、転動体の平均残留オーステナイト量が6体積%以下であるため、転動装置がより長寿命となる。なお、本発明においては、平均残留オーステナイト量とは、転動体全体における残留オーステナイト量の平均値を意味する。例えば、表面から中心部までの残留オーステナイト量の分布を測定し、その平均値を算出することにより得ることができる。
さらに、DLC層の等価弾性定数が100GPa以上240GPa以下であれば、母材である前記鋼よりもDLCの方が小さい等価弾性定数を有することとなるので、繰り返し応力が作用した際にDLC層が変形することが可能となる。その結果、母材の変形にDLC層が追従することが可能となるので、DLC層の破損が生じにくい。
前記DLC層の等価弾性定数が240GPa超過であると、前記鋼よりもDLC層の方が大きい等価弾性定数を有することとなるので、繰り返し応力が作用した際の母材の変形にDLC層が追従することが困難となって、DLC層の破損が生じやすくなる。一方、100GPa未満であると、DLC層の硬さが低くなって、摩耗が生じやすくなる。
なお、DLC層のような薄膜については、通常の方法では弾性定数を測定することはできないため、本発明においては以下の方法により測定された、弾性定数に準拠する等価弾性定数を用いる。すなわち、押し込み深さを少なくともDLC層の厚さ内として微小硬度計による測定を行い、得られた荷重−除荷曲線により等価弾性定数を求める。
例えば、DLC層の厚さが2μm以下である場合は、押し込み荷重を0.4〜50mNの間で適宜設定して測定を行う。本発明においては、エリオニクス社製の微小硬度計を使用し、押し込み荷重を50mNとして測定した等価弾性定数を用いる。
この他の等価弾性定数の測定方法としては、フィッシャー社製の微小硬度測定装置を用いる方法がある。この方法においては、(マイクロ)ビッカース硬度計は使用せず、静電容量で制御できる微小硬度計又はナノインデンテータを用いることが望ましい。なおかつ、押し込み深さはDLC層の厚さ内とする必要がある。そして、前記微小硬度計又はナノインデンテータにより得られた荷重−除荷曲線の弾性変形量から、等価弾性定数を求める。
なお、HRC60の高炭素クロム鋼(SUJ2)の表面の等価弾性定数を上記の方法により求めると250GPaとなり、通常カタログ等に記載されている210GPaよりも大きい結果となる。これは、上記の方法が微小な押し込み領域における測定であることから、SUJ2の表面の加工硬化層の影響を受けるためである。
また、本発明に係る請求項2の転動装置は、請求項1に記載の転動装置において、前記ダイヤモンドライクカーボン層は、非平衡型マグネトロンを用いたスパッタリングにより形成されたものであることを特徴とする。
このような物理的成膜法は、CVD法,プラズマCVD法,イオンビーム形成法,イオン化蒸着法等と比較して、好適な等価弾性定数及び強度を有するDLC層が得られやすいので、転動装置のような大きな接触応力が作用する装置を構成する部品に対して好適である。
さらに、本発明に係る請求項3の転動装置は、請求項1又は請求項2に記載の転動装置において、前記転動体は、浸炭窒化処理が施されたものであり、表層部の残留オーステナイト量が5体積%以上20体積%以下であることを特徴とする。このような構成であれば、DLC層の離脱に伴う転動装置の寿命低下を抑制することができる。
以上のように、本発明の転動装置は、大きな接触応力が作用しても破損しにくい潤滑膜(DLC層)を転動体に備えているので、大きな接触応力が作用するような条件下でも好適に使用することが可能である。また、優れた潤滑性を有しているので、無潤滑下においても好適に使用することが可能である。そして、摩耗や発熱が少ない上、繰り返し応力に対して強く長寿命である。
なお、本発明の転動装置としては、転がり軸受,直動案内軸受(リニアガイド装置),ボールねじ,直動ベアリング等があげられる。
そして、前記内方部材とは、転動装置が転がり軸受の場合は内輪、同じく直動案内軸受の場合は案内レール、同じくボールねじの場合はねじ軸、同じく直動ベアリングの場合は軸を、それぞれ意味する。また、前記外方部材とは、転動装置が転がり軸受の場合は外輪、同じく直動案内軸受の場合はスライダ、同じくボールねじの場合はナット、同じく直動ベアリングの場合は外筒を、それぞれ意味する。
ここで、転動体の母材である鋼について説明する。
〔ケイ素の含有量について〕
転がり軸受等の転動装置には高面圧に耐える性能が求められるため、転動装置を構成する転動体はSUJ2,SCR420等の鋼で構成され、さらに浸炭処理,浸炭窒化処理等の硬化処理が施されている。ところが、このような鋼に対して非平衡型マグネトロンを用いたスパッタリングを行うと、処理が高温であるため、金属層を形成中に残留オーステナイトが分解してしまい、母材である鋼とDLC層との間に強い密着が生じにくいという不都合がある。
残留オーステナイト量を確保して上記のような不都合を解消するためには、鋼中のケイ素の含有量は0.15質量%以上とする必要がある。また、ケイ素は、製鋼時に脱酸剤として作用し、焼入れ性や焼戻し軟化抵抗性を向上させるとともに、基地のマルテンサイトを強化して寿命を向上させるという効果も有している。
ただし、ケイ素の含有量が多すぎると、金属層の形成時に金属層の金属とケイ素とが反応して金属間化合物が生成する。この金属間化合物は脆いため、母材である鋼とDLC層との密着性が低下してDLC層の強度が低下してしまう。また、ケイ素の含有量が多すぎると、鋼の被削性,鍛造性,及び冷間加工性が著しく低下するおそれがある。これらの不都合が生じにくくするためには、鋼中のケイ素の含有量は1.5質量%以下とする必要がある。
なお、SUJ2,SCR420等の鋼に高温での焼戻し処理を施すことにより、残留オーステナイト量を低下させて、その後の高温処理(DLC層を形成する処理)における残留オーステナイトの分解を防ぐ方法も考えられるが、高温での焼戻し処理は鋼の硬さの低下を引き起こすので好ましくない。また、サブゼロ処理により残留オーステナイト量を低下させる方法も考えられるが、その後の高温処理において鋼の硬さの低下が生じるおそれがある。さらに、ステンレス鋼,M50等の高合金鋼を母材として用いる方法も考えられるが、これらの高合金鋼は高価であるという問題がある。よって、ケイ素の含有量を0.15質量%以上1.5質量%以下とした鋼を母材として用いることが好ましい。
〔炭素の含有量について〕
転がり軸受の転動体として要求される鋼の清浄度を得るためには、炭素の含有量は0.5質量%以上とする必要がある。ただし、1.2質量%超過であると、残留オーステナイトが増加して、転動体の寸法安定性が低下したり、共晶炭化物が生成して短寿命となったりするおそれがある。鋼の清浄度を向上させ、残留オーステナイトの過多や共晶炭化物の生成を防止するためには、炭素の含有量は0.75質量%以上1.1質量%以下とすることが好ましい。
〔マンガンの含有量について〕
マンガンは、ケイ素と同様に製鋼時に脱酸剤として作用するため、マンガンの含有量は0.1質量%以上とする必要がある。また、マンガンは、鋼の焼入れ性を高め、熱処理後の強度や転動疲労強度の向上にも寄与する。ただし、2質量%超過であると、寸法安定性に有害な残留オーステナイトが生成したり、加工性が低下したりするおそれがある。
〔クロムの含有量について〕
クロムは、鋼の焼入れ性を高め、熱処理後の強度や転動疲労強度の向上に寄与する元素であるため、クロムの含有量は1質量%以上とする必要がある。ただし、2.5質量%超過であると、加工性が低下したり、共晶炭化物が生成するという問題が生じるおそれがある。
2種以上の金属と炭素とからなる複合層を有するダイヤモンドライクカーボン層は、密着性に優れており且つ脆さが小さい。そのため、本発明の転動装置は、大きな接触応力が作用するような条件下や無潤滑下においても好適に使用可能である。また、ダイヤモンドライクカーボン層の等価弾性定数が、100GPa以上240GPa以下であるので、繰り返し応力が作用してもダイヤモンドライクカーボン層の破損が生じにくい。
さらに、転動体の転動面にダイヤモンドライクカーボン層が被覆されているとともに、転動体の平均残留オーステナイト量が6体積%以下であるため、本発明の転動装置は高温環境下で使用されても焼付きが生じにくく長寿命である。
本発明に係る転動装置の実施の形態を、図面を参照しながら詳細に説明する。図1は、本発明に係る転動装置の一実施形態であるアンギュラ玉軸受の構成を示す縦断面図であり、図2は、図1のA部分を拡大して示した部分拡大断面図である。
図1のアンギュラ玉軸受は、軌道面1aを有する内輪1と、内輪1の軌道面1aに対向する軌道面2aを有する外輪2と、両軌道面1a,2a間に転動自在に配された複数の玉3と、両軌道面1a,2a間に複数の玉3を軸受の円周方向にわたって等配に保持する保持器4と、シール5,5と、を備えている。なお、保持器4やシール5は備えていなくてもよい。
内輪1,外輪2,及び玉3は、炭素を0.5質量%以上1.2質量%以下、ケイ素を0.15質量%以上1.5質量%以下、マンガンを0.1質量%以上2質量%以下、クロムを1質量%以上2.5質量%以下含有し、残部が鉄及び不可避の不純物である鋼(例えばSUJ2)で構成されている。
さらに、玉3の転動面3aには、潤滑性を有し且つ等価弾性定数が100GPa以上240GPa以下であるダイヤモンドライクカーボン(DLC)層Dが設けられている。そして、このDLC層Dは、図2に示すように、Cr,W,Ti,Si,Ni,Zr,及びFeのうちの2種以上の金属からなる金属層Mと、前記金属及び炭素からなる複合層Fと、炭素からなるカーボン層Cと、の3層で構成されていて、該3層は表面側からカーボン層C,複合層F,金属層Mの順に形成されている。なお、軌道面1a,2aにはDLC層Dは設けられていない。
次に、DLC層を有する玉3の製造方法について説明する。まず、ヘッダー加工,フラッシング加工,粗旋削加工により、上記のような鋼製の線材から素球を製造し、以下に示すような熱処理を施した。すなわち、RXガス,エンリッチガス,及びアンモニアガスの混合ガス雰囲気下で830℃で3時間浸炭窒化焼入れを施した後、160〜270℃で焼戻しを施した。このような浸炭窒化焼入れが施されているため、玉の表層部(前記浸炭窒化焼入れにより形成された浸炭窒化層)には5体積%以上20体積%以下の残留オーステナイトが存在し、且つ、玉3全体の平均残留オーステナイト量は6体積%以下である。
なお、このような浸炭窒化焼入れに限らず、浸炭焼入れやずぶ焼入れを施してもよい。浸炭焼入れの一例としては、RXガス及びエンリッチガスの混合ガス雰囲気下で840℃で3時間浸炭焼入れを施した後、160〜320℃で焼戻しを施すという処理があげられる。また、ずぶ焼入れの一例としては、RXガス雰囲気下で840℃で0.5時間焼入れを施した後、160〜320℃で焼戻しを施すという処理があげられる。
上記のような熱処理を施したら、タンブラー処理(バレル処理)を施し、さらに150〜320℃で焼戻しを施した。そして、表面粗さRaが0.01μm以下となるまでラップ仕上げを施し、さらに以下のような処理を施して表面にDLC層を形成して完成球とした。
DLC層Dを形成する方法について説明する。油分を脱脂した玉3を株式会社神戸製鋼所製のアンバランスドマグネトロンスパッタリング装置504(以降はUBMS装置と記す)に設置し、アルゴンプラズマによるスパッタリングを用いて、転動面3aにボンバード処理を15分間施した。
そして、タングステン及びクロムをターゲットとして、転動面3aにこの2種類の金属をスパッタリングして成膜し、金属層Mを形成した。次に、この2種類の金属のスパッタリングを続けながら、カーボンをターゲットとした炭素のスパッタリングを開始した。このようなスパッタリングによって、前記2種類の金属と炭素とが結合した金属カーバイドからなる複合層Fが、金属層Mの上に形成された。
さらに、前記2種類の金属のスパッタ効率を徐々に減少させながら、炭素のスパッタ効率を徐々に増加させた。そして、前記2種類の金属のスパッタリングを終了し、炭素のスパッタリングのみとして、複合層Fの上にカーボン層Cを形成した(DLC層D全体の厚さは2.2μm)。
このようなスパッタリングにより成膜を行えば、2種類の金属で構成された層(金属層M)から炭素で構成された層(カーボン層C)に向かって、層の組成が連続的に徐々に変化していくDLC層Dを形成することができる。このような構成のDLC層Dは、各層(金属層M,複合層F,及びカーボン層C)の間の密着性が非常に優れているとともに、潤滑性に優れたカーボン層Cと母材である鋼との密着性が非常に優れている。
UBMS装置は、スパッタリングに用いるターゲットを複数装着でき、各ターゲットのスパッタ電源を独立に制御することにより、各成分のスパッタ効率を任意に制御することができるので、上記のような成膜に好適である。例えば、上記の場合の複合層F及びカーボン層Cを成膜する工程においては、金属ターゲットのスパッタ電源(DC電源)の電力を低減させながら、同時にカーボンターゲットのスパッタ電源(DC電源)の電力を増加させればよい(このとき、玉3には負のバイアス電圧を印加する)。
DLC層の等価弾性定数は、玉に印加するバイアス電圧を制御するか、又は導入するガスの分圧を制御することにより、変化させることができる。この導入するガス(アルゴン,水素,メタン等の炭化水素系ガス)の種類や分圧比を制御すれば、DLC層の等価弾性定数とともに表面の摺動抵抗を自在にコントロールすることが可能であるので、前記ガスを単独又は混合して導入することにより、目的にあった所望のDLC層を形成することができる。さらに、DLC層の厚さは、スパッタ時間により精度よく制御することができる。
ここで、グロー放電発光分析装置(島津製作所株式会社製のGDLS−9950)を使用して、DLC層Dを形成する元素を分析した結果を、図3の測定チャートに示す。チャートの横軸は表面からの深さを示し、0μmがDLC層の表面を意味している。また、縦軸は、その深さ位置における各元素の含有量を示している。
なお、アルゴンガスを使用した放電によって深さ方向の情報を得ているため、母材である鋼とDLC層Dとの界面において、各元素の含有量を示す曲線がブロードとなっている。また、鋼とDLC層Dとの界面が8000nm付近に位置していることから、このチャートからはDLC層Dの厚さは約8μmであることが読み取れるが、この分析法は直径2mmの円形部分について放電発光により分析するため、深さ方向の精度上約8μmとなって現れるものであって、実際のDLC層Dの厚さは2.2μmである。
なお、本実施形態は本発明の一例を示したものであって、本発明は本実施形態に限定されるものではない。
例えば、本実施形態においては、非平衡型マグネトロンを用いたスパッタリングによりDLC層を成膜したが、パルスレーザーアーク蒸着法やプラズマCVD法等を用いることもできる。ただし、等価弾性定数及び塑性変形硬さ等を独立に制御することが容易な非平衡型マグネトロンを用いたスパッタリングが最も好適である。
また、本実施形態においては、アンギュラ玉軸受を例示して説明したが、本発明の転動装置は様々な転がり軸受に対して適用することができる。例えば、深みぞ玉軸受,円筒ころ軸受,円すいころ軸受,針状ころ軸受,自動調心ころ軸受等のラジアル形の転がり軸受や、スラスト玉軸受,スラストころ軸受等のスラスト形の転がり軸受である。
さらに、本実施形態においては、転動装置として転がり軸受を例示して説明したが、本発明の転動装置は、他の様々な種類の転動装置に対して適用することができる。例えば、直動案内軸受,ボールねじ,直動ベアリング等の他の転動装置にも好適に適用可能である。
〔実施例〕
以下に、実施例を示して、本発明をさらに具体的に説明する。上記した図1のアンギュラ玉軸受とほぼ同様の構成の軸受において、母材である鋼の組成、DLC層の等価弾性定数、転動体の平均残留オーステナイト量、及び転動体の表層部の残留オーステナイト量をそれぞれ種々変更した試験軸受を用意して(表1,2を参照)、軸受の寿命を評価する耐久試験を行った。
Figure 2007155022
Figure 2007155022
なお、アンギュラ玉軸受の内輪及び外輪の寸法は内径30mm、外径62mm、厚さ15mmで、内輪及び外輪の軌道面の横断面形状は、玉の直径の52%の曲率半径を有する円弧状である。さらに、内外輪の軌道面間に配置した玉の直径は3/8インチであり、玉の数は12個であり、保持器は黄銅製である。
耐久試験の条件は、以下の通りである。
回転速度:10000min-1
荷重 :動定格荷重の45%(P/C=0.45)
雰囲気温度:130℃
潤滑剤 :アルバニアグリース
上記のような条件で試験軸受を回転させ、DLC層が損傷するか又は焼付きが生じるまでの時間を測定した。なお、回転時の振動数が初期の5倍になったら、DLC層に損傷が生じたと判定した。また、軸受温度が150℃になったら、金属接触が起こって焼付きが生じたと判定した。
1種の試験軸受につき10個ずつ耐久試験を行って、その平均値を寿命とした。結果を表1,2に示す。なお、表1,2に記載した寿命の数値は、比較例1の試験軸受の寿命を1とした場合の相対値で示してある。
表1,2から分かるように、実施例の試験軸受は、高温環境下であり且つ大きな接触応力が作用するような条件下使用されても、焼付きが生じにくく長寿命であった。そして、実施例7,8の試験軸受は、転動体の表層部の残留オーステナイト量が5体積%以上20体積%以下であるため、鋼の組成が同一である実施例4〜8の試験軸受の中では特に長寿命であった。
本発明に係る転動装置の一実施形態であるアンギュラ玉軸受の構成を示す縦断面図である。 図1のA部分を拡大して示した部分拡大断面図である。 ダイヤモンドライクカーボン層を形成する元素を分析した測定チャートである。
符号の説明
1 内輪
1a 軌道面
2 外輪
2a 軌道面
3 玉
3a 転動面
D ダイヤモンドライクカーボン層
M 金属層
F 複合層
C カーボン層

Claims (3)

  1. 外面に軌道面を有する内方部材と、前記内方部材の軌道面に対向する軌道面を内面に有し前記内方部材の外側に配された外方部材と、前記両軌道面間に転動自在に配された転動体と、を備える転動装置において、前記転動体が下記の7つの条件を満足することを特徴とする転動装置。
    条件1:炭素を0.5質量%以上1.2質量%以下、ケイ素を0.15質量%以上1.5質量%以下、マンガンを0.1質量%以上2質量%以下、クロムを1質量%以上2.5質量%以下含有し、残部が鉄及び不可避の不純物である鋼で構成されている。
    条件2:潤滑性を有するダイヤモンドライクカーボン層が転動面に被覆されている。 条件3:前記ダイヤモンドライクカーボン層は、クロム,タングステン,チタン,ケイ素,ニッケル,ジルコニウム,及び鉄のうちの2種以上の金属からなる金属層と、前記金属及び炭素からなる複合層と、炭素からなるカーボン層と、の3層で構成されている。 条件4:前記3層は、前記ダイヤモンドライクカーボン層の表面側から前記カーボン層,前記複合層,前記金属層の順に配されている。
    条件5:前記複合層中の炭素の割合は、前記金属層側から前記カーボン層側に向かって徐々に増加している。
    条件6:前記ダイヤモンドライクカーボン層の等価弾性定数は100GPa以上240GPa以下である。
    条件7:平均残留オーステナイト量が6体積%以下である。
  2. 前記ダイヤモンドライクカーボン層は、非平衡型マグネトロンを用いたスパッタリングにより形成されたものであることを特徴とする請求項1に記載の転動装置。
  3. 前記転動体は、浸炭窒化処理が施されたものであり、表層部の残留オーステナイト量が5体積%以上20体積%以下であることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の転動装置。
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