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JP2007095471A - 生物発電用アノード及びこれを利用する発電方法及び装置 - Google Patents

生物発電用アノード及びこれを利用する発電方法及び装置 Download PDF

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JP2007095471A JP2005282760A JP2005282760A JP2007095471A JP 2007095471 A JP2007095471 A JP 2007095471A JP 2005282760 A JP2005282760 A JP 2005282760A JP 2005282760 A JP2005282760 A JP 2005282760A JP 2007095471 A JP2007095471 A JP 2007095471A
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達夫 下村
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Abstract

【解決課題】アノードの活性化過電圧を低く抑えることによって、結果的に十分低いアノード電位を得て、含水有機性物質から効率的に電気エネルギーを得る方法及び装置を提供する。
【解決手段】嫌気性条件下で生育可能な微生物、有機性物質を含有する溶液もしくは懸濁液、電子メディエータ及びアノード1を含む嫌気性域4と、分子状酸素及びカソード3を含む好気性域5と、嫌気性域4及び好気性域5とを画定する隔膜2と、を具備し、アノード1及びカソード3を電力利用機器に電気的に接続して閉回路6を形成し、嫌気性域4内での有機性物質を電子供与体とする微生物の酸化反応と好気性域5内での酸素を電子受容体とする還元反応とを利用する発電装置。電子メディエータをアノード表面に固定化させたカーボンナノチューブ(CNT)または気相成長炭素繊維(VGCF)と結合させ、該アノードのpH7における標準電極電位(E0’)範囲が-0.13V〜-0.28Vである性質を保持させる。
【選択図】図1

Description

本発明は、廃水、廃液、し尿、食品廃棄物、その他の有機性廃棄物、汚泥などの有機性物質またはその分解物を基質とし、その基質と空気中の酸素との酸化還元反応を、嫌気性生物による酸化反応と、酸素の還元反応に分離することによって発電を行う生物発電技術に関する。
廃水、廃液、し尿、食品廃棄物、その他の有機性廃棄物または汚泥(以下、「含水有機性物質」とする)を分解して利用可能なエネルギーを取り出す方法として、メタン発酵を始めとする嫌気発酵法によってメタン等を生産して、これを用いて発電を行う方法や、生物の嫌気呼吸反応から直接電気を取り出す生物電池法などが考案されている。
しかしながら、メタン発酵を始めとする嫌気発酵法によりメタン、エタノール、水素などを生産し、これらを用いて発電を行う方法は、生物による物質生産過程と生産物を燃料とした発電過程の2段階のステップを必要とするため、エネルギー効率が悪く、装置も複雑になる問題がある。
一方、微生物を利用して、アノード周辺の電子供与体からの電子を、アノードとカソードを回路として導通することでカソード周辺の電子受容体(主に溶存酸素)に供与して電流を得る方法が報告されている(特許文献1、2、及び3)。これらの方法ではカソードを水中に設置するため、水中での溶存酸素の拡散速度が全体の反応の律速となる可能性が高い。すなわち、水中での溶存酸素の還元反応は水中での酸素の拡散速度に依存するため、無撹拌時の電極単位表面積当たりの電流量は過電圧に関わりなく20μA/cm2が最大値となる。これは空気中の酸素を用いた場合の値(過電圧200mVで約300mA/cm2)と比較して著しく小さいため、含水有機性物質の酸化及び発電の制限因子となることがわかる。
また、別の例では微生物に電子メディエータ(電子伝達の媒体物質)を加えて、微生物を飢餓状態に維持することによって効率良く電子を取り出す方法が提案されており(特許文献4)、この文献中には、カソードとして酸素または空気極が使用できると記載されている。しかしながら当該文献中には、空気極を用いる場合の具体的な装置の構造などの記載および実施例はなく、問題を解決するための手段として当業者が実施できるようには開示されていない。
電子メディエータを利用する生物電池技術として、含水有機性物質又はその分解物を基質として、基質と酸素との酸化還元反応を、嫌気性微生物による酸化反応と、酸素の還元反応に分離することによって発電を行う方法が提案されている(特許文献3及び非特許文献1〜3)。しかし、これらの方法において用いられている電子メディエータの標準電極電位は、一般に生物電池反応に用いられる嫌気性微生物の最終電子受容物質の標準電極電位と重ならず、有効な電位のカスケードを形成できないという問題がある。例えば、これまでに提案されている電子メディエータとその標準電極電位は、下記表1のとおりである。
Figure 2007095471
一方、一般的な生物電池反応に用いられる嫌気性微生物である硫黄還元菌、酸化鉄(III)還元菌の最終電子受容物質である硫黄及び鉄の標準電極電位は、下記表2のとおりである。
Figure 2007095471
表2より、硫黄還元菌の持つ電子伝達系の末端還元酵素(硫黄還元酵素)は、-0.28Vの標準電極電位を持つ物質を還元することができ、一方、酸化鉄(III)還元菌の持つ電子伝達系の末端還元酵素(酸化鉄(III)還元酵素)は、+0.20Vの標準電極電位を持つ物質を還元することができることがわかる。これらの末端還元酵素は微生物の外膜やペリプラズムに存在しており、菌体外の酸化鉄や0価の硫黄を還元できることから効率的な生物発電のために有効な触媒となり得る。ところが、これまで提案されている電子メディエータの標準電極電位は、表1に示すように、A〜Gの電子メディエータのいずれも鉄還元の標準電極電位よりも低いので、酸化鉄(III)還元酵素−電子メディエータ−アノード間で有効な電位のカスケードを形成できない。同様に、表1C〜Gの電子メディエータは硫黄還元の標準電極電位よりも低いので、硫黄還元酵素−電子メディエータ−アノード間で有効な電位のカスケードを形成できない。表1A及びBの電子メディエータは硫黄還元の標準電極電位よりも高いので、理論上は硫黄還元酵素による還元が可能であるが、電位差が0.3V以上もあり、生物学的な電子伝達が困難である可能性が高い。その上、発電効率を高めるためにはカソードの酸素還元反応に対してできるだけ大きな電位差を生じさせることが求められるが、電子メディエータの電位が高いので0.3V以上の電位差を損失してしまい、エネルギー損失が大きくなる。
そこで、硫黄還元菌を用いた生物電池系において、アントラキノン−2,6−ジスルホン酸(AQ-2,6-DS)を嫌気性域に添加することにより電子伝達効率の向上を試みる提案がなされた(非特許文献2)。AQ-2,6-DSの標準電極電位は-0.185Vであり、硫黄還元酵素−電子メディエータ間で有効な電位のカスケードを形成するのに適当な物質であると考えられる。しかし、提案されている系においては、AQ-2,6-DSは液相中に添加されただけで、アノード(酸化電極)に担持されていないため、電極との反応性が低く、添加効果は24%の電流値増加に留まっている。また、連続的に発電する場合には、嫌気性域内の基質液を更新する際に電子メディエータも一緒に系外に排出されてしまい、常に電子メディエータを添加し続けなければならない、という問題がある。
また、ニュートラルレッドをアノードにアミド結合を用いて担持する試みが提案されている(非特許文献3)。この提案によれば、グラファイト電極の酸化によりカルボキシ基を導入し、ジシクロヘキシルカルボジイミドの共存下でニュートラルレッドと反応させてアミド結合を形成する際、下記構造式:
Figure 2007095471
中、矢印で示す9位の第二級アミンにカルボキシ基が結合すると考えられる。ところが、グラファイトに結合したニュートラルレッドのサイクリックボルタンメトリにおける電流値ピークは、-0.42V付近に認められ、遊離の状態での標準電極電位-0.325Vよりも0.1V程度低下している。この変動により、生物による電子メディエータの利用がさらに困難になる。これは、9位の第二級アミンに化学修飾を施すことにより、ニュートラルレッドの標準電極電位が大幅に変動したためと考えられる。
すなわち、電子メディエータを用いた生物発電技術において、微生物の末端還元酵素−電子メディエータ−アノード間で有効な電位カスケードを形成し、活性化過電圧の低い導電基材を利用する技術が求められている。
特開2000−133327号公報 特開2000−133326号公報 特表2002−520032号公報 米国特許4652501号明細書 特願2005−088158号明細書 Roller et al., 1984, Journal of Chemical Technology and Biotechnology 34B: 3-12 Bond et al., 2002, SCIENCE 295: 483-485 Park et al., 2000, Biotechnology Letters 22: 1301-1304
本発明の課題は、上記のような従来技術の問題点を解決し、簡易な装置・方法により、効率的に生物発電ができる生物発電用のアノードを提供すること、より具体的には、嫌気性生物の最終還元酵素−電子メディエータ−アノード間で有効な電位カスケードを形成することを可能として、結果的に十分低いアノード電位を得て、含水有機性物質から効率的に電気エネルギーを得ることができる生物発電用アノード、その製造方法、並びにこれを利用する発電方法及び装置を提供することにある。
上述したように、微生物の末端還元酵素−電子メディエータ−アノード間で有効な電位カスケードを形成するためには、電子メディエータの電位は硫黄還元の標準電極電位よりも高い-0.28V以上であることが望ましい。その一方、実用的な発電を行うことを目的とした場合には、カソードとの電位差をなるべく大きく取るために、アノードの電位はできるだけ低い値であることが必要であると考えられる。
これらの知見から、発明者らは嫌気性微生物の最終電子受容物質の標準電極電位を指標として電子メディエータを選択し、さらにこれをアノード表面に固定化し、必要に応じてさらにアミノ基やスルホン酸基などで修飾を行うことにより、pH7におけるアノードの標準電極電位を-0.13V〜-0.28Vの範囲内で、なるべく-0.28Vに近い電位になるよう設定することを考案した(特許文献5)。この発明においては、アノード基材としてグラファイト、多孔質グラファイト、金、白金、または金属酸化物(TiO2など)を用い、これらにアミド結合、金または白金-イオウ結合またはシランカップリングによって電子メディエータを固定化する方法が開示されている。
そして、この従来得ている知見に基づいてさらに研究を重ねたところ、電子メディエータを、導電性ファイバーを介して導電性基材に導入することにより、上記目的を従来の発明よりもさらに効果的に達成しうることを知見した。
本発明は上記知見に基づいてなされたものであり、本発明によれば、表面から突出する導電性ファイバーを有する導電性基材を含み、該導電性ファイバーには電子メディエータが固定化されており、pH7における標準電極電位(E0’)が-0.13V〜-0.28Vの範囲内にあることを特徴とする生物発電用アノードが提供される。
また、本発明によれば、嫌気性雰囲気下で生育可能な微生物、有機性物質を含有する溶液もしくは懸濁液、本発明の生物発電用アノードを含む嫌気性域と、分子状酸素及びカソードを含む好気性域と、該嫌気性域及び該好気性域とを画定する隔膜と、を具備し、該アノード及び該カソードを電力利用機器に電気的に接続して閉回路を形成し、該嫌気性域内での有機性物質を電子供与体とする酸化反応と該好気性域内での酸素を電子受容体とする還元反応とを利用して発電する発電装置が提供される。
また、本発明によれば、嫌気性雰囲気下で生育可能な微生物、有機性物質を含有する溶液もしくは懸濁液、本発明の生物発電用アノードを含む嫌気性域と、分子状酸素及びカソードを含む好気性域と、該嫌気性域及び該好気性域とを画定する隔膜と、を具備し、該アノード及び該カソードを電力利用機器に電気的に接続して閉回路を形成し、該嫌気性域内での有機性物質を電子供与体とする酸化反応と該好気性域内での酸素を電子受容体とする還元反応とを利用して発電する発電方法が提供される。
以下、本発明について更に詳細に説明する。
本発明の生物発電用アノードは、表面から突出するCNTまたはVGCFなどの導電性ファイバーを有する導電性基材と、該CNTまたはVGCFに固定化された電子メディエータと、を含み、pH7における標準電極電位(E0’)が-0.13V〜-0.28Vの範囲内、好ましくは-0.15V〜-0.27Vの範囲内にあることを特徴とする。
以下、更に詳述する。
本発明において用いることができる導電性基材としては、生物発電装置において用いられる電極基材であって表面から導電性ファイバーが突出し得る電極基材であることが好ましく、グラファイト、カーボンブラック、フラーレン、CNT、VGCFなどの粉体素材を固結させたもの、アルミニウム、ニッケル、鉄、銅、金、白金などの金属、ステンレス鋼、モネル(スペシャルメタル社、登録商標)などのニッケル−銅合金、鉄-シリコン合金、カルシウム-シリコン合金、アルミニウム-亜鉛-シリコン合金、モリブデン-バナジウム合金などの合金を好ましく挙げることができる。特にグラファイト、カーボンブラック、フラーレン、CNT、VGCFなどの炭素六員環を含む導電性基材を用いた場合、その表面にCVD法または電気泳動法で固定化するCNTまたはVGCFとの間で強固な結合を形成しやすいのでより好ましい。上記のうちカーボンブラック、フラーレン、CNT、VGCFは通常粉体として供給されるため、電極基材として使用する場合は、押し固めて成形し焼成するか、石油または石炭ピッチを含浸させて焼成するか、ポリアミン(日本触媒製エポミン(登録商標)等のポリエチレンイミン、ポリアリルアミン)、ポリアミド(ポリアクリル酸)などの接着力のある樹脂をメタノールなどの溶媒で希釈したものと混合して接着成形するか、あるいはナフィオン(登録商標)溶液(デュポン社製5%ナフィオン117溶液)を含浸させて50kgf/cm2程度の圧力をかけつつ170℃で固結させるなどの方法で成型することができる。
また、導電性基材としては、上述した材料からなる基材にさらに被覆を施したものも好ましく用いられる。被覆物としては、電解酸化(多孔質)アルミニウム、多孔質ニッケル、多孔質ポリシランフィルムなどが好ましく用いられる。特に、電解酸化アルミニウム及び多孔質ポリシランフィルムはその孔径が数ナノメートルから数百ナノメートルであってCNTやVGCFの大きさと適合し、また孔が被覆表面から底部の導電性基材表面まで貫通している特徴を持つためCNTやVGCFと導電性基材との間の電気抵抗が少なく、好ましいアノードを形成することができる。
また、ポリシランなどの非導電性の物質を被膜材料として用いる場合には、予め該被膜材料にカーボンブラックなどの導電性の粉体を添加しておくことにより、形成後の多孔質被膜に導電性を持たせることができ、上記導電性ファイバーと導電性基材との間の電気抵抗を少なくすることもできる。
本発明に用いることができる導電性ファイバーとしては、電子メディエータとの電子伝達活性化過電圧が低いカーボンナノチューブ(CNT)、気相成長炭素繊維(VGCF)などが挙げられる。
CNTまたはVGCFの直径は数ナノメートルから200ナノメートル程度、単層もしくは多層の六員環グラファイトシートチューブ構造を主として持つものが好ましい。また、カップスタック型のもの(例えばクレオス社製カルベールなど)も好ましい。単層カーボンナノチューブの場合は、電気抵抗の小さいグラファイトシートの巻き角度(キラリティー)を持つものがより好ましい。
導電性基材の表面に固定化された導電性ファイバーは、少なくとも導電性基材または被覆物の表面から10ナノメートル以上の長さに突出していることが望ましく、好ましくは100ナノメートル以上の長さで突出していることが望ましい。
このようにアノード基材表面から突出した位置まで導電性ファイバーが到達し、そこに電子メディエータが固定化されることによって以下に述べるような好ましい影響がある。
すなわち、一般的な微生物の末端還元酵素は細胞膜の内側に向いており、電子伝達系より上流側の酸化還元物質も細胞膜に含まれていて、外膜によって電極からは隔離されている。一方、GeobacterやShewanellaなどの電極に最終電子伝達を行える微生物(電極活性な微生物)は、末端還元酵素が外膜上にあり、ここから電極または電子メディエータに電子を渡していると考えられている。しかしながら電極表面に電子メディエータを固定化し、その電子メディエータが末端還元酵素により還元可能な立体構造を持っていたとしても、まだ障害が残る可能性が有る。上述の電極活性な微生物群はいずれもグラム陰性菌であるが、グラム陰性菌の外膜の表面には少なくとも10nm程度の長さを持つ、六員環炭素が直鎖状につながったリポ多糖が林立しており、またリン脂質からなる外膜自体の厚さも8nm程度あり、さらに膜にはかなり凹凸があることが観察されている。末端還元酵素はこのリン脂質の膜上に存在すると考えられ、平滑な電極上に長さ1nmにも満たない電子メディエータを固定化したとして、物理的に末端還元酵素と接触できる効率は高くないと考えられる。ところが、上述したように突起した導電性ファイバーの表面に電子メディエータが化学的に結合していれば、固定化された電子メディエータは微生物の末端還元酵素と直接結合し、電子伝達系から電子を受け取ることが容易となり、電子伝達速度、すなわち発電速度を向上させることができる。
導電性基材の表面における導電性ファイバーの好ましい占有率は、固定化される導電性ファイバーの長さや官能基の密度により大きく変動する。目安としては、最終的に導入される電子メディエータのモル量に換算して導電性基材の投影面積当たり0.1μmol〜100μmol/cm2とするのが好ましい。
本発明において用いることができる電子メディエータは、標準電極電位が-0.13Vから-0.28Vの範囲内にあるか、もしくはアノードに固定化された後にアノードとしての標準電極電位が上記範囲内にあり、酸化型、還元型何れの状態においても環境中で安定である物質(酸化還元物質)で、生物の呼吸を阻害せず、生物によって容易に還元され得るものを好ましく挙げることができる。好ましくは、本発明において用いることができる電子メディエータは、アントラキノン誘導体、ナフトキノン誘導体、ベンゾキノン誘導体、イソアロキサジン誘導体からなる群より選択される酸化還元物質である。具体的には、アントラキノンカルボン酸類(AQC)、アミノアントラキノン類(AAQ)、ジアミノアントラキノン類(DAAQ)、アントラキノンスルホン酸類(AQS)、ジアミノアントラキノンスルホン酸類(DAAQS)、アントラキノンジスルホン酸類(AQDS)、ジアミノアントラキノンジスルホン酸類(DAAQ DS)、エチルアントラキノン類(EAQ)、メチルナフトキノン類(MNQ)、メチルアミノナフトキノン類(MANQ)、ブロモメチルアミノナフトキノン類(BrMANQ)、ジメチルナフトキノン類(DMNQ)、ジメチルアミノナフトキノン類(DMANQ)、ラパコール(LpQ)、ヒドロキシ(メチルブテニル)アミノナフトキノン類(ALpQ)、ナフトキノンスルホン酸類(NQS)、トリメチルベンゾキノン類(TMABQ)、フラビンモノヌクレオチドおよびこれらの誘導体からなる群より選ばれる1つ以上の酸化還元物質を挙げることができ、より具体的には、アントラキノン-2-カルボン酸(AQC)、1-アミノアントラキノン(AAQ)、1,5-ジアミノアントラキノン(DAAQ)、アントラキノン-2-スルホン酸(AQS)、1,5-ジアミノアントラキノン-2-スルホン酸(DAAQS)、アントラキノンジスルホン酸(AQDS)、1,5-ジアミノアントラキノンジスルホン酸(DAAQ DS)、2-エチルアントラキノン(EAQ)、2-メチル-1,4-ナフトキノン(MNQ)、2-メチル-5-アミノ-1,4-ナフトキノン(MANQ)、2-ブロモ-3-メチル-5-アミノ-1,4-ナフトキノン(BrMANQ)、2,3-ジメチル-1,4-ナフトキノン(DMNQ)、2,3-ジメチル-5-アミノ-1,4-ナフトキノン(DMANQ)、ラパコール(LpQ)、2-ヒドロキシ-3-(3-メチル-2-ブテニル)-5-アミノ-1,4-ナフトキノン(ALpQ)、1,2-ナフトキノン-4-スルホン酸(NQS)、2,3,5-トリメチルベンゾキノン(TMABQ)、フラビンモノヌクレオチド(FMN)およびこれらの誘導体からなる群より選ばれる物質を好ましく用いることができる。本発明において電子メディエータとして好ましく用いることができる物質の構造式を下記に示す。
Figure 2007095471
次に、本発明の生物発電用アノードの製造方法について説明する。
本発明の生物発電用アノードの製造方法は、導電性基材を準備する前処理工程と、導電性基材に対して導電性ファイバーが突出するように導電性ファイバーを固定する導電性ファイバー固定工程と、導電性ファイバーに対して電子メディエータを固定化して導入する電子メディエータ導入工程とを行うことを特徴とする。
以下、各工程について説明する。
<前処理工程>
前処理工程は、基材の少なくとも表面に存在するアルミニウム層に酸化電位を印加して、基材表面を多孔質化することを含むことが好ましい(第1の前処理)。
また、前処理工程は、基材の表面に存在するポリシラン層に紫外線を照射し、基材表面を多孔質化することを含むことが好ましい(第2の前処理)。
このような前処理を行うことにより、多孔質被膜の部分が導電性ファイバーを保持するチャネルを形成するので、使用時に導電性ファイバーがアノードから脱落しにくくなると言う利点がある。
第1の前処理は、例えばアルミニウム導電性基材またはアルミニウムで被覆された導電性基材をアノードとして用い、0.3mol/Lのシュウ酸液中で40Vの電圧をかけて1時間以上酸化することにより、不規則な多孔質の電解酸化アルミニウム層を得る。これをそのまま使用しても良いが、より望ましくはさらに次に示す処理を施したものを使用するのが良い。この酸化アルミニウム層をいったんリン酸等で取り除いて、再び0.3mol/Lのシュウ酸液中で40〜80Vの電圧をかけて5分程度電解酸化することにより、均一な六角格子状の配列で100〜200nmのピッチの孔を形成すること等により行うことができる。
また、第2の前処理は、導電性基材の表面にポリメチルフェニルシラン(分子量130,000)と粒径10nmのカーボンブラックの等重量混合物をトルエンで希釈したものを塗布し、約1μmの厚みの導電性ポリシランゲル被膜を得る。これに紫外線を照射してSi-Si結合を切断することにより、アルミニウムの場合と同様にナノサイズの孔をあけることなどにより行うことができる。
<導電性ファイバー固定工程>
上記導電性ファイバー固定工程は、CVD法によって上記導電性基材の表面に直接成長させるか、または別途作製したものを電気泳動法により多孔質被膜の孔隙に導入させることにより行うことができる。
CVD(化学気相成長)法を用いる方法としては、例えばグラファイト基材の表面に金属触媒として鉄ナノ粒子(CNT用には粒径1〜10nm、VGCF用には10〜100nm)を付着させ、加熱して有機物を取り除きFe2O3にしたものを原料として用いることができる(米Atomate社より購入することも可能)。これをCVD装置の炉の中に入れ、700℃に加温しつつエチレンと水素を1:20の割合で混合したガスをアルゴンまたは窒素とともに通気することによって、5〜30分間の反応時間で数μmまたはそれ以上の長さのカーボンナノチューブ(CNT)または気相成長炭素繊維(VGCF)を成長させることができる。金属触媒としては鉄のほかにコバルトなども用いられ、コバルトとモリブデンの酢酸塩を用いても良い。また、エチレンの代わりにアセチレンやメタン、もしくはエタノールを用いても良い。
電気泳動法を用いる方法としては、前処理により多孔質とした導電性基材を電気泳動槽の中に入れ、予めイソプロパノール中に混合して超音波によって分散させておいた導電性ファイバーを添加する。この状態で上記導電性基材をマイナス極とし、2×103V/cmの電位勾配を印加することにより、溶媒中の導電性ファイバーを整列させ、マイナス極である導電性基材の方向へ泳動させることができる。導電性基材表面に到達した導電性ファイバーは多孔質被覆の孔隙に挿入され、そこで保持されるので、アノードとして使用することができる。この場合、上記の電気泳動・固定化後に後述する方法で導電性ファイバーに電子メディエータを固定化しても良く、予め電子メディエータを固定化した導電性ファイバーを用いて電気泳動・固定化を行っても良い。
<電子メディエータ導入工程>
本発明において、電子メディエータである酸化還元物質をポリマーに固定化させる方法としては、電子メディエータの酸化還元活性を阻害しないような方法を用いることが好ましい。また、ポリマーに固定化された電子メディエータは水環境中で安定であって、容易に分解、剥離しない性質及び形態であることが望ましい。具体的には、下記表-3に示す化学結合方法が適切である。
Figure 2007095471
したがって、本発明において、電子メディエータを導電性ファイバーに固定化するには、使用する導電性ファイバーに導入する、あるいは予め導入されている官能基と電子メディエータに導入する、あるいは予め存在している官能基との組み合わせに応じて、表-3に示す方法から適切な化学修飾及び結合方法を選択することができる。
例えば、電極素材としてカーボンナノチューブを使用し、電子メディエータとしてAQC(アントラキノン−2−カルボン酸)を使用する場合には、AQCが有するカルボキシ基を利用した結合方法を好ましく選択することができる。具体的には、カーボンナノチューブを98%硫酸/70%硝酸の3:1混合液中で酸化又は70%硝酸液中で超音波をかけ酸化させるによって開裂させて末端をカルボン酸とし、これに塩化チオニルなどを反応させて酸クロリドを生成させる。次いで、得られた酸クロリドにアンモニアを反応させて、カルボン酸アミドを生成させる。さらに、得られたカルボン酸アミドをホフマン転位反応によりアミノ基に転位させる。このように処理したカーボンナノチューブに、ジシクロヘキシルカルボジイミド共存下で、AQCを反応させると、AQCのカルボキシ基とグラファイトのアミノ基とのアミド結合が形成され、AQCをグラファイトに安定に固定化することができる。
導入されたカルボキシ基の量は、例えば滴定によって炭酸水素ナトリウムの消費量から測定することができる。このようにしてカルボキシ基を導入したカーボンナノチューブをジクロロメタンに浸漬し、導入されたカルボキシ基の約100倍モルに相当するオキサリルクロリドと数滴のジメチルホルムアミドを添加して室温で4〜12時間程度撹拌しながら反応させることにより、カルボキシ基を酸クロリド基に変換することもできる。しかる後に、カーボンナノチューブをジクロロメタンで洗浄し、テトラヒドロフラン溶媒中へ移す。ここに1,3-プロパンジアミンを上記同様に約100倍モルになるように添加し、室温で4〜12時間程度撹拌しながら反応させることにより、アミノ基を導入することができる。
あるいは、上記の酸化方法で導入されたヒドロキシ基を用い、ブロモメチル基を有する電子メディエータとエーテル結合を形成させることもできる。
同様に、導電性ファイバーとしてVGCFを使用し、電子メディエータとしてAQS、AQ-2,6-DS、AQ-2,7-DS、AQ-1,5-DS、メタニルイエロー、メチルオレンジのようなスルホン酸基を有する物質を固定化する場合には、VGCFに上記の方法でアミノ基を導入した後、ジシクロヘキシルカルボジイミド共存下で、電子メディエータを反応させることによって、スルホンアミド結合を形成させて、電子メディエータをVGCFに固定化することができる。
あるいは、上記のようなスルホン酸基を有する物質を固定化する場合には、スルホン酸基を予めスルホニルクロリド基に変換しておき、しかる後に上述の電解酸化法でアミノ基を導入したVGCFと反応させることによりスルホンアミド結合を形成させることもできる。
Figure 2007095471
具体的には、電子メディエータに対し1/2モルに相当する量のスルホランと4倍モルに相当する量のオキシ塩化リンとを含むアセトニトリル溶媒中70℃で1時間反応させ、スルホン酸基をスルホニルクロリド基に変換する。これを濾過して氷水で洗浄後、乾燥させることにより、電子メディエータのスルホン酸基をスルホニルクロリド基とすることができる。これをテトラヒドロフラン溶媒中で上記アミノ基を導入したVGCFと接触させ、添加したスルホニルクロリドに対し5倍モルに相当する量のトリエチルアミンを共存させつつ室温で12時間程度反応させることにより、VGCFと電子メディエータとの間にスルホンアミド結合を形成させることができる。
また、導電性ファイバーとしてCNTを使用し、電子メディエータとしてLpQを使用する場合には、CNTに導入した末端カルボン酸を還元して、ヒドロキシ基を導入し、LpQの4位の炭素をブロモメチル化した後、ヒドロキシ基を導入したCNTとエーテル結合させて、固定化することがより好ましい。
または、導電性ファイバーとしてCNTを使用し、電子メディエータとしてFMNを使用する場合には、CNTにヒドロキシ基を導入し、FMNの2個のメチル基のいずれかを等モルのN-ブロモコハク酸イミドを用いて臭素化したものとアルカリ条件下で反応させて、エーテル結合により固定化することができる。
導電性ファイバーへの電子メディエータの導入操作は、導電性ファイバー固定化工程の前に行っても良く、後に行っても良い。固定化前に導電性ファイバーに電子メディエータを導入する方法は、化学反応の操作性や収率の面で有利である事が多い。一方、固定化後に電子メディエータを導入する方法は導電性ファイバーの固定化後露出している面にのみ電子メディエータが導入されるので、アノードの導電性を高く維持するという面で有利である場合が多い。したがって実際にアノードを作製する場合には、両方の方法を検討し、より最終的に大きな電流密度が得られる方法を採用すべきである。
またこの時、電子メディエータ導入工程は付着・固定化工程の前でも後でも良い。ただし1,5-ジアミノアントラキノンなどの複数のアミノ基を持つ電子メディエータを使用する場合は、ポリマーを導電性基材に固定化してから電子メディエータと接触させないと、ポリマー分子間で電子メディエータを介した架橋反応が生じてしまい、ポリマーがさらに高分子化して導電性基材へ塗布することが困難になってしまうため、付着・固定化工程を先に行うのが好ましい。
さらに、本発明によれば、上述の生物発電用アノードを利用する生物発電装置も提供される。
本発明の生物発電装置は、嫌気性雰囲気下で生育可能な微生物、有機性物質を含有する溶液もしくは懸濁液及び上述の生物発電用アノードを含む嫌気性域と、分子状酸素及びカソードを含む好気性域と、該嫌気性域及び該好気性域とを画定する隔膜と、を具備し、該アノード及び該カソードを電力利用機器に電気的に接続して閉回路を形成し、該嫌気性域内での有機性物質を電子供与体とする生物の酸化反応と該好気性域内での酸素を電子受容体とする還元反応とを利用して発電する生物発電装置である。
含水有機性物質を長期間にわたって連続的に処理する装置に本発明の生物発電用アノードを用いる場合には、含水有機性物質中及びアノード表面において嫌気性微生物が連続的に増殖することから、あまりにも細密な3次元網目構造状、細いチューブ状または隙間の狭い積層板状の構造のアノードを用いると、微生物菌体による流路の閉塞、片流れ、デッドゾーンの形成等により含水有機性物質の分解及び発電効率が低下することが考えられる。このため、アノードの形態は、金網状、多孔質または表面に凹凸または襞がある一次構造であって、3次元網目状、チューブ状または積層板状の空間(含水有機性物質が流入してくる流路)を持つ2次構造を形成しており、かつ上記流路は処理対象となる含水有機性物質の流動性に応じて数mmから数cmの開度を持つことが望ましい。
本発明において、好気性域であるカソード側では、酸素を電子受容体とする還元反応が進行する。カソードの少なくとも一部を、構造体内に空隙を有する導電性の多孔質材料、網状又は繊維材料で構成し、その空隙中に水/空気の接触界面、すなわち空気(酸素)と水とを隣接させる場を構築することが好ましく、空気中の酸素および水面の水に接触する効率を高めて、空気中の酸素の還元反応(電極反応)を促進できる。例えば、微細孔を有する導電性の多孔質材料に樹脂バインダで導電性粒子(カーボン、不活性金属、金属酸化物など)を結着したものをカソードとして用いることで、毛細管現象及び表面の親水化等により水を効果的に吸い上げて、微細孔内部に水/空気の接触界面を形成させて、空気中の酸素と水とを効率良く接触させて酸素の還元反応を促進することができる。
さらに、カソードに白金族元素、銀、遷移金属元素から選ばれる少なくとも一種類を含有する合金あるいは化合物からなる触媒を担持することが好ましく、空気中の酸素の還元反応(電極反応)を促進することができる。白金族元素とは白金(Pt)、ルテニウム(Ru)、ロジウム(Rh)、パラジウム(Pd)、オスミウム(Os)またはイリジウム(Ir)を指し、いずれも電極触媒として有効である。また、ニッケル(Ni)、ビスマス(Bi)、チタン酸化物をドープした銀粉末を担持したもの、ファーネスブラック又はコロイド状グラファイトに銀を担持したもの、鉄(Fe)、コバルト(Co)、フタロシアニン、ヘミン、ペロブスカイト、Mn4N、金属ポルフィリン、MnO2、バナジン酸塩、またはY2O3-ZrO2複合酸化物を用いたものも電極触媒として好ましく用いることができる。
本発明において、アノードとカソードとは電力利用機器等に電気的に接続されて、両者間で電子交換を行って閉回路を形成する。その一方で、有機性物質の還元能を無駄なく電気エネルギーとして取り出すためには、有機性物質が酸化剤(被還元物質)、即ち空気中の酸素と接触して還元能を消費させないように、上記有機性物質と空気中の酸素が接触しないように両者を隔離することが好ましい。これらの条件を同時に満たすためには、カソードと嫌気性雰囲気下で生育可能な微生物及び有機性物質を含む溶液又は懸濁液とを隔膜、例えば固体高分子隔膜で隔てることが望ましい。このような構造をとることにより、カソードは空気中の酸素と容易に接触することができ、また上記隔膜中に存在する水を介して水素イオンの受給または水酸化物イオンの排出を行うことができる。また、隔膜はできるだけ空気中の酸素を透過しないものがよく、アノード側、即ち有機性物質に酸素が浸透して有機性物質の還元能を低下させることを防ぐことが望ましい。
このような隔膜としては、親水性があり高い陽イオン交換能を有するスルホン酸基を有するフッ素樹脂系イオン交換膜(陽イオン交換膜)や、第4級アンモニウム塩を有する水酸化物イオン(陰イオン交換膜)などが好ましく用いられる。また、より安価な隔膜として主鎖部のみをフッ素化したフッ素樹脂系イオン交換膜や、芳香族炭化水素系膜も利用できる。このようなイオン交換膜としては、例えばIONICS製NEPTON CR61AZL-389、トクヤマ製NEOSEPTA CM-1または同CMB、旭硝子製Selemion CSV、IONICS製NEPTON AR103PZL、トクヤマ製NEOSEPTA AHA、旭硝子製Selemion ASVなどの市販製品を好ましく用いることができる。陽イオン交換膜は、カソードでの酸素の還元に必要な水素イオン及び水をアノードからカソードへ供給するために用いることができ、陰イオン交換膜は、水と酸素との反応から発生した水酸化物イオンをカソードからアノードへと供給するために用いることができる。
また、嫌気性域と好気性域とを隔離するために用いる隔膜としては、陰イオン交換膜を用いることもできる。具体的には、アンモニウムヒドロキシド基を有するヒドロキシドイオン交換膜を好ましく挙げることができる。このような陰イオン交換膜としては、例えば、IONICS製NEPTON AR103PZL-389、トクヤマ製NEOSEPTA ALE、旭硝子製Shelemion ASVなどの市販製品を好ましく用いることができる。この場合、嫌気性域に存在する有機酸などの陰イオン性の有機性物質が隔膜を透過して好気性域に至る(いわゆるクロスフローの現象)と、そこで酸素の消費が行われて有機物が無駄に酸化されるとともに好気性域において好気性の生物が増殖してカソードを汚染することになるので、用いる陰イオン交換膜は分子篩い効果を持ち、酢酸などの分子量60以上の陰イオンを透過しにくい性質を持っていることが望ましい。このような性質を持つ陰イオン交換膜としては例えばアストム製ネオセプタALE04-4 A-0006膜がある。
さらに、本発明において用いることができる隔膜としては、官能基を有しないMF(マイクロフィルタ)、UF(ウルトラフィルタ)膜やセラミック、焼結ガラスなどの多孔質濾材、ナイロン、ポリエチレン、ポリプロピレン製の織布等を用いることができる。これらの官能基を有しない隔膜は、孔径が5μm以下で、非加圧条件でガスを透過しないものが好ましく、例えば、Schweiz Seidengazefabrik製のPE-10膜、Flon Industry製のNY1-HD膜などの市販品を好ましく用いることができる。
本発明の生物発電装置において、嫌気性域は、嫌気性雰囲気下で生育可能な生物の呼吸反応により、有機性物質由来の電子が微生物体内の電子伝達系を介して最終的にアノードに受け渡される微生物の酸化反応を進行させる生物反応室でもあり、好気性域は、酸素を電子受容体とする還元反応を進行させる空気反応室でもある。本生物発電装置の嫌気性域には、嫌気性微生物とアノードの間で電子を伝達するために適切な電位を有する電子メディエータが固定化されているアノードを設けているので、生物の最終還元酵素−電子メディエータ−アノード間で有効な電位カスケードが形成される。また、該電子メディエータはアノード上のCNTまたはVGCFなどの導電性ファイバーに固定化されているため、グラファイトなどに電子メディエータが固定化されている場合に比べ発電時の分極を低く抑えることができ、取り出せる電力を大きくすることができる。
また、導電性ファイバーによって構成される微細な突起上に電子メディエータが固定化されているため、グラファイトなどの比較的平滑な表面上に電子メディエータが固定化されている場合と比べて微生物の外膜上に存在する末端還元酵素との接触効率が向上し、発電量を増加させることができる。
本生物発電装置において、嫌気性域(生物反応室)と好気性域(空気反応室)を画定するための隔膜が陽イオン交換膜である場合、カソードにおいて水素イオンを利用する還元反応は、水素イオン濃度条件によっては本発明の発電に関与する全体の反応速度を制限する場合がある。すなわちアノードでの酸化反応が生物によるものであるため、極端な酸性条件は生物の活性を阻害するという理由で好ましくない可能性もある。また、水素イオン濃度が低濃度である場合、例えば、pH5以上の条件でアノード側において水素イオンが発生し、該水素イオンが拡散により陽イオン交換膜を透過してカソード側に供給されることとなる。このとき、カソード側における水素イオン濃度は10-5mol/L程度またはそれ以下と見積もられる。このように水素イオン濃度が低濃度条件になるとカソード側における酸素還元反応の速度が低下することとなり、また、アノード側の水素イオンが効率的にカソード側へと移動しないことも予想される。すなわち、このような場合には電池を形成する支持電解質としての電気抵抗(内部抵抗)が大きくなる可能性がある。一方、この反応系の利点は、常にアノード側からカソード側へと水および水素イオンの供給が行われるためにカソード側への水分の供給が充分に行われ、カソード側の酸素が膜を介してアノード側へ透過してアノード側の還元能を消費してしまう、いわゆるクロスフローの問題が生じにくいことである。
陽イオン交換膜を嫌気性域と好気性域の間の隔膜として用いた場合、カソード側の反応においては、空気中の酸素を消費して水が発生する。このため常に換気を行って酸素を補給するとともに、水分を除いてカソードが過度に濡れるのを防ぐ必要がある。ただし、このとき供給する空気の湿度及び流量によってカソード側の保水量が変化するため、乾燥−加湿の制御は適宜行うことが望ましい。空気の供給及び排出による換気の方法としては、開放系で自然に対流置換させる方法、カソードの周囲を外殻で被包して空気室を設けて、空気室内を通風機により強制換気する方法、同じく空気室を設けて、酸化還元反応により生じる熱で空気室内を暖め、対流を生じさせて空気と水蒸気を上昇させて換気する方法が考えられ、本発明の装置を設置する場所、規模等の条件に合わせて換気方法を採用することが好ましい。
一方、陰イオン交換膜を嫌気性域と好気性域の間の隔膜として用いた場合、すなわち、好気性域において水と酸素から水酸化物イオンを発生させる反応系を採用した場合には、好気性域は嫌気性域と比較して水の保持量が非常に小さいため、アノードでの水素イオン発生量と等モルの水酸化物イオンをカソードにおいて発生させれば、カソード側のpH、すなわち水酸化物イオン濃度を非常に高くすることができる。高濃度の水酸化物イオンは効率良く陰イオン交換膜を透過するので、支持電解質の電気抵抗(内部抵抗)を小さくすることができる。一方、この反応系は、常にカソード側からアノード側へのイオン移動が行われるためにカソード側への水供給が難しくなること、および上記イオン移動に伴ってカソード側の酸素が膜を介してアノード側へ透過してアノード側の還元能を消費してしまう、上述したクロスフローの問題が生じる可能性が有るという課題がある。
さらに、カソード側の反応においては、酸素とカソード表面の水が消費され、水酸化物イオンが発生する。このため、常に換気を行って酸素を補給するとともに、水分を補給してカソードが乾燥するのを防ぐ必要がある場合がある。特に、換気空気が乾燥している場合、アノード側からの浸透による水供給速度がカソードでの蒸発および還元反応による水消費速度を下回る場合には、該換気空気を加湿するか、水蒸気を添加することによりカソードへ水分を供給することが望ましい。
以上のように、嫌気性域と好気性域の間の隔膜として利用される陽イオン交換膜および陰イオン交換膜は、発電反応に関与する反応系を大きく変える効果を持ち、それぞれ長所と改善すべき課題を持つので、どちらを採用するかは装置の構造や用途、含水有機性物質の性質に応じて判断すべきである。
また、水素イオンまたは水酸化物イオンの移動効率を高めるためには、カソードと上記隔膜との間の距離はなるべく短いほうが良く、装置構造上可能であれば両者は接合していることが望ましい。特に、隔膜の一部がカソード電極の多孔質構造内部の空隙内に網目状に侵入して結合していると、多孔質構造中に含まれる空気と隔膜に含まれる水とで形成される水/空気接触界面の面積が飛躍的に増大するので、空気中の酸素を還元する反応効率が増大して発電性能を高めることができる。
同様に、水素イオンまたは水酸化物イオンの移動を容易にし、電解液系の電気抵抗を小さくするために、アノードと上記隔膜との距離もなるべく短くすることが望ましく、アノードと隔膜とが接触もしくは接合していることが好ましい。但し、この場合には、含水有機性物質が隔膜と接触してその中の水が隔膜に吸収されるようにするために、アノードは透水性を有する形態、例えば多孔質材料や網状材料で構成したり、或いは通水孔を有する形態、例えば格子状若しくは櫛状の形態とすることが必要である。また、アノードと隔膜とを接触させて配置することが装置の構造上困難な場合は、例えば、撹拌または循環水流を生じさせてアノードと隔膜との間を循環する水流を作るようにし、水素イオンまたは水酸化物イオンの移動を容易にすることが望ましい。
また、アノード内にイオン交換性の高分子を含浸させるか、またはアノード基材又は導電性ファイバーと陽イオン交換性繊維(スルホン酸グラフト繊維など)とを織り込むかまたは不織布として混合することにより、アノード側で発生する水素イオンを回収し、このイオン交換性高分子または繊維を何らかの方法で(例えば塩橋のようにイオン交換繊維または樹脂のパイプを介して)延長してカソードと結合することにより、アノード−カソード間で水素イオンの回路を形成することも好ましい。
また、本発明の生物発電装置においては、有機性物質の電子を効率よくアノードに受け渡すことができるように、アノードの表面積を大きくすることが好ましい。また、アノードが有機性物質と効率よく接触し、アノードとカソードとの間でイオン交換が効率よく行われると同時にアノードとカソードとが電気的には絶縁していることが好ましい。そこで生物反応室及び酸素反応室を内部に画定する反応容器の形態は、例えばアノードを筒型、例えば円筒形としてその中を有機性物質が流れる構造として、アノードとカソードとを隔膜を挟む3層状構造とすることが好ましい。また、含水有機性物質や増殖した生物が滞留するようなデッドゾーンを形成しないように考慮すべきである。このための一つの手法として、有機性物質とアノード電極との接触効率を上げるために、撹拌装置もしくは循環水流発生装置を反応容器内部に設けることが好ましい。また、反応容器を気密な構造とする場合は、嫌気性ガスが容器内に蓄積して有効容積が低下することを防止するため、なんらかのガス抜きの機構を備えることが望ましい。この嫌気性ガスは流路を空洗する方法に利用することもできる。また、嫌気性域に嫌気性雰囲気下で生育可能な微生物及び有機物質を含む溶液又は懸濁液の供給機構及び排出機構を設け、好気性域に酸素又は空気の供給機構及び排出機構を設けることも好ましい。
本発明の生物発電方法は、嫌気性雰囲気下で生育可能な微生物、有機性物質を含有する溶液もしくは懸濁液、上述の生物発電用アノードを含む嫌気性域と、分子状酸素及びカソードを含む好気性域と、該嫌気性域及び該好気性域とを画定する隔膜と、を具備し、該アノード及び該カソードを電力利用機器に電気的に接続して閉回路を形成し、該嫌気性域内での有機性物質を電子供与体とする微生物の酸化反応と該好気性域内での酸素を電子受容体とする還元反応とを利用して発電する生物発電方法である。
本発明においては、電子メディエータが固定化されたアノードを嫌気性雰囲気下で生育可能な微生物及び有機性物質を含む溶液又は懸濁液と接触させて、有機性物質を電子供与体とする微生物による酸化反応を進行させる。このアノード側での反応、有機性物質を電子供与体とする微生物による酸化反応は、含水有機性物質中で嫌気性微生物(通性又は絶対嫌気性微生物)によって生化学的に触媒され、主に微生物の嫌気呼吸により、有機性物質由来の電子が微生物体内の電子伝達系を介して最終的にアノードに受け渡される。したがって、本発明に係る発電反応を効率よく進行させるためには、微生物の細胞膜内で電子伝達系を終結するものではなく、細胞外膜(細胞膜外)で電子をアノードで捕捉しやすい、アノードへの電子伝達を触媒するような微生物(「電極活性な微生物」)を利用することが望ましい。このようなアノードへの電子伝達を触媒する微生物としては、硫黄S(0)還元菌、酸化鉄(III)還元菌、二酸化マンガンMnO還元菌、脱塩素菌などが好ましく用いられる。このような微生物として、例えばDesulfuromonas sp.、Desulfitobacterium sp.、Geobivrio thiophilus sp.、Clostridium thiosulfatireducens sp.、Acidithiobacillus sp.、Thermoterrabacterium ferrireducens sp.、Geothrix sp.、Geobacter sp.、Geoglobus sp.、Shewanella putrefaciens sp.などが特に好ましく用いられる。特に、硫黄還元菌は、最終電子受容体である硫黄の標準電極電位が-0.28Vと非常に低いので、酸化鉄(III)還元菌よりも低い電位を有する電子メディエータに電子を伝達することができ、エネルギー的に有利である。このような硫黄還元活性を有する微生物として、例えば、Desulfuromonas sp.、Desulfitobacterium sp.、Geobivrio thiophilus sp.、Clostridium thiosulfatireducens sp.、Acidithiobacillus sp.などが好ましく用いられる。
これらの微生物は、含水有機性物質中において主要な微生物ではないことが多いため、本発明の方法を実施するにあたっては、最初に、アノード側にこれらの微生物を植菌し、アノード表面にこれらの微生物が主に付着している状態を形成しておくことが好ましい。これらの微生物が優先的に生物反応室内で増殖するために、アノードに電子を渡すことによる呼吸反応(電極呼吸)が酸発酵やメタン発酵よりもエネルギー的に有利である場の面積を大きくすべきであり、具体的には嫌気性域(微生物反応室)内のアノード表面積をなるべく大きくすることが好ましい。また、アノード表面に生物を付着させた後、嫌気性域(微生物反応室)内にこれらの微生物の増殖に適当な培地を供給することが望ましく、さらにアノードの電位をある程度高く維持することにより、アノード表面でのこれらの微生物の増殖を促すことがより望ましい。これらの微生物(群)を前培養もしくは生物反応室内で培養するための方法として、これらの微生物(群)の培地として報告されているスラリー状の硫黄、酸化鉄(III)、二酸化マンガンなどを電子受容体とする培地を好ましく用いることができ、例えばHandbook of Microbial Media (Atlasら1997, CRC Press)に記載されているAncylobacter/Spirosoma培地、Desulfuromonas培地、Fe(III) Lactate Nutrient培地などが好ましく用いられる。
本発明において用いる有機性物質の性状は、嫌気性雰囲気下で生育可能な微生物が増殖するアノード周辺に分子状酸素を供給しないように液体状または懸濁液、あるいは固形分の間隙が水で飽和している状態であることが望ましい。アノード周辺での有機性物質の酸化反応は主に微生物による呼吸反応によって触媒されることから、アノード周辺内に投入される有機性物質は固形分の粒径が小さく、水中によく溶解または分散し、低分子であることが望ましく、また、微生物にとって易分解性の物質であることが望ましい。使用する有機性物質の種類によりこれらの条件が満たされない場合には、物理的、化学的または生物学的な前処理を行って有機性物質の生物分解性を高めることができる。そのような方法としては、例えば、粉砕機による破砕、熱分解、超音波処理、オゾン処理、次亜塩素酸塩処理、過酸化水素処理、硫酸処理、生物による加水分解、酸生成、低分子化処理が考えられる。これらの前処理に要するエネルギーは、前処理による主反応容器での発電エネルギーの向上とのバランスを考え、最適な前処理条件を選ぶことができる。
また、使用用途に応じて、経時的に上記流路を水洗または空洗して余剰の微生物菌体及び菌体外分泌物を除去することが望ましい。この際、空洗に使用する気体に酸素が含まれると、嫌気性域(微生物反応室)である反応容器中の嫌気性微生物に悪影響を及ぼす可能性があるため、不活性ガスまたは反応容器中で発生した嫌気性のガスを利用することが望ましい。
好ましい実施の形態
以下、添付図面を参照しながら、本発明による発電装置をより具体的に説明する。以下の記載は、本発明の技術思想を具現化する幾つかの具体的形態を説明するもので、本発明はこの記載に限定されるものではない。
図1は本発明の一態様に係る生物発電ユニットの具体例である。例えば、図1に示す本発明の生物発電装置の一具体例は、電子メディエータが電極基材表面から突出する導電性ファイバーに固定化されているアノード1を含む嫌気性域4、隔膜(電解質膜)2、および多孔質カソード3を含む好気性域5が三重の筒状体をなすことによって構成される。筒状体の最内隔空間形態である嫌気性域4に嫌気性条件下で生育可能な微生物及び有機性物質(「基質」ともいう)を含む溶液又は懸濁液を流し、筒状体の最外隔空間形態である好気性域5には分子状酸素を含む空気を存在させる。好気性域5には、分子状酸素を供給する手段(図示せず)が設けられている。好気性域5内に配置されている多孔質カソードは、カソードの少なくとも一部が、構造体内に空隙を有する導電性の多孔質材料、網状又は繊維状材料によって形成されている。嫌気性域4と好気性域5とを隔離する隔膜2は、物質交換係数が大きな隔膜、たとえばDuPont社製のNafion(登録商標)、アストム社製ネオセプタ(登録商標)などの固体高分子電解質膜で構成されている。
嫌気性域4内では、有機性物質を電子供与体とする微生物の酸化反応が進行し、好気性域5内では、酸素を電子受容体とする還元反応が進行する。こうして、アノード1とカソード3の間に電位差が生じる。この状態でアノード1とカソード3とを導線6によって電力利用機器に電気的に接続することにより電位差電流が流れ、一方、電解質膜2を介して嫌気性域4と好気性域5の間でイオンが移動することにより、閉回路が形成される。反応が進行するにつれて、嫌気性域4には水素イオンが発生し、嫌気性域の水溶液は酸性を呈する。一方、好気性域5には水酸化物イオンが発生して好気性域5内に発生する水はアルカリ性溶液となる。
好気性域5内に発生するアルカリ性水溶液を適宜回収して嫌気性域4内へ注入する流路(図示せず)を設けてもよい。この流路を通してアルカリ性水溶液を好気性域5から嫌気性域4に循環させることにより、嫌気性域4の水素イオン濃度が極端に上昇して生物の呼吸活性を阻害したり、導入した塩基性官能基の中和能力を越えてしまったりするのを防ぐことができる。
発電ユニットを構成する筒状体の内径は、基質の流動性に応じ、数mmから数cm、場合によっては数十cmに設定することができる。図1に示すような発電ユニットは、適当な材料の支持層またはケーシングで保持することによりその物理的強度を増すことができる。この場合、筒状体を更に外殻で被包して外殻と筒状体との間の空間を空気室とし、空気室に空気を供給及び排出する手段を形成するようにしてもよい。
図示した実施形態においては、アノード1、隔膜2及びカソード3を円筒形とする3層構造を採用し、隔膜2を介してアノード1とカソード3とを配置している。このような構成とすることによって、アノード1及びカソード3の表面積を大きくし、アノード1が基質と効率良く接触して基質の動かないデッドゾーンをできるだけ小さくすることができるので、アノード1とカソード3との間でイオン交換が効率良く行われると同時に、アノード1とカソード3は電気的に絶縁され、有機性物質(基質)の電子が効率良くアノード1に受け渡されることになる。また、多孔質カソード3の空隙中に空気と水との接触界面を存在させた状態で空気と接触させることにより、空気中の酸素および水面の水に接触する効率を高めることができ、電極上での酸素の還元反応を効率良く進行させることができる。
図1に示すような三層筒状体の本発明に係る生物発電装置においては、用途に応じてアノードを含む嫌気性域を外側に、カソードを含む好気性域を内側に配置し、好気性域に空気を流通させる手段を配して該装置を基質液中に設置することで、発電運転を行うこともできる。また、この場合、筒状体を例えばU字型に形成し、両端を基質液の液面から出して、筒内部の空間に空気が流通できるようにしてもよい。このように好気性域を内筒とする構成の場合には、好気性域の内筒の内径を数mm程度またはそれ以下に小さくしても閉塞の生じる心配がない点が有利である。更に、三層筒状体において、内側の筒状体を多孔質カソードを含む好気性域、外側の筒状体をアノードを含む嫌気性域とすると、カソードに比較して外側のアノードの表面積を大きくすることができるので有利である。さらにアノードの表面積を広くするため、アノードの表面に凹凸や襞をもたせることも可能である。一方、カソード側の内径は、反応効率も関係するが、空気が容易に流通するだけの径があれば良く、閉塞の危険性がほとんどないため、内径を数mm程度またはそれ以下まで小さくすることが可能である。この場合、筒状体を更に外殻で被包して筒状体の外側空間を基質の流れる微生物反応室とし、生物反応室に基質を供給及び排出する手段を配置することによって装置を構成することができる。
また、図1に示すような筒状形態又は他の形態の生物発電ユニットを複数個並べて生物発電装置を構成することもできる。例えば、図2には、図1の生物発電ユニットを複数個並べた形態を示し、図4には平板状の生物発電ユニットを3個並べた形態を示す。
図2に示す生物発電装置においては、図1に示すようなアノードの内筒1、隔膜2及びカソードの外筒3から構成される三層筒状体(発電ユニット)50が複数本、外殻によって形成される空気室7の中に配置されている。基質は、流入ポンプ8により流入部9を介して複数配置された発電ユニット50の内部4へ分配注入される。ここで酸化分解を受けた基質は、流出部10を介して反応容器の外へ出た後、処理済み基質11として系外へ排出される。また、基質の一部は循環ポンプ12により再び流入部9へ戻される。この循環流によってアノード1と基質の接触が促進される。反応容器内に蓄積した生物菌体及び汚泥は、経時的に余剰汚泥排出口13を開くことにより排出される。また、同じく13より、水、不活性ガス、嫌気ガスを注入することにより反応容器内を逆洗、空洗することができる。反応容器内で嫌気性ガスが発生した場合は、排気口19から排出することができる。この嫌気性ガスを貯留して空洗に使用してもよいことは上述したとおりである。
一方、多孔質カソード3に酸素を供給するため、ブロワ14を用いて空気室7へ通気を行うことができる。ただし用途に応じて強制換気が必要でない場合には、空気室7を取り外して、各発電ユニット50の外筒であるカソード3が外気に触れるように装置を構成してもよい。通気された空気は、空気室7内の発電ユニットの間の空間5を流れ、カソード3と接触した後に、排気口15から排出される。また、カソードでの還元反応により生成した水は、水蒸気として排気口15から排出されるか、凝縮水として凝縮水ドレイン16から排出される。
導線6は、アノードとの接続部17により複数の発電ユニット50の内筒1に、またカソードとの接続部18により複数の発電ユニット50の外筒3に電気的に接続される。この際、導線6は、周囲の環境と電気的に絶縁し、電気的短絡及び導線表面での酸化還元反応が起こらないようにすることが必要である。
なお、図2に示す装置についても、図1に関して上記に説明したのと同様に、カソードを内筒、アノードを外筒として各発電ユニットの筒状体50を構成し、各筒状体50内部空間へ空気を供給し、発電ユニット50の筒状体の外側のアノードに基質を接触させるようにすることもできる。
カソードについては、いかに効率良く電極上での酸素の還元反応を進行させるかが課題となる。このためには、カソードの少なくとも一部を、構造体内に空隙を有する導電性の多孔質材料、網状又は繊維状材料によって形成して、このカソードの空隙中に空気と水との接触界面を存在させた状態で空気と接触させることにより、空気中の酸素および水面の水に接触する効率を高めることが好ましい。
図3に本発明の生物発電装置において採用することのできるカソードの構造の一例を断面図で示す。図3(A)は、隔膜2及びカソード3の構造の断面を示したものであり、図3(B)は、図3(A)を空気室側5から見た図である。また、図3では、隔膜2が陽イオン交換膜である場合の反応系を示す。図3に示すカソードは、多孔質のマトリックス20に、好ましくは白金族元素、銀、遷移金属元素から選ばれる少なくとも一種類を含有する合金あるいは化合物からなる触媒21を担持する構造を有し(図3(A)、空気室側5から見た場合網目状の構造を呈している(図3(B)。このような構成を取ることにより、カソードが、水面または隔膜を経由する水を基材の親水性によって吸い上げつつ空気中の酸素と接触することができ、電極のミクロな構造中に空気ネットワーク22と水溶液ネットワーク23を持つことによって空気/水接触界面の面積を増大させ、空気中の酸素および水面の水に接触する効率を高めることができる。酸素と水素イオンが触媒21上で反応することにより、空気中の酸素の還元反応を促進することができる。
図3(C)に、本発明の生物発電装置において採用することのできるカソード構造の別の一例を示す。図3(C)においても、隔膜2が陽イオン交換膜である場合の反応系を示す。図3(C)に示すカソードは、隔膜2と同じ材料からなる溶液を、多孔質のマトリックス20の隔膜2との接合面側に塗布して乾燥させることによって、隔膜構造体の一部を多孔質マトリックス20の微細孔内部に浸入させたものである。このような構成を取ることにより、イオン交換および触媒の利用率を向上させ、空気中の酸素の還元反応を促進することができる。
以下、実施例により本発明を詳述するが、これらは本発明を何ら限定するものではない。
以下の実施例及び比較例において、アノードを変えた以外は、図4に示す実験室用の生物発電装置を用い、発電性能を比較した。
生物発電装置は、図4に示すように、1辺の長さ100mm、厚さ10mmのセルフレーム2枚(25、26)を隣接配置し、セルフレームの両側に同寸のセパレーター24を2枚積層させてセパレーター24を両側面とする積層構造体とした。この積層構造体の内部に、アノード1、隔膜2として陽イオン交換膜(DuPont製Nafion)及びカソード3として白金を担持したカーボンペーパーをこの順番に接触配置し、ナフィオン溶液用いてアノード1、隔膜2、カソード3の順に接着させ、一方のフレーム24とアノード1との間に嫌気性域31を、他方のフレーム24とカソード3との間に好気性域32を形成した。この積層構造体を互い違いに3ユニット積層し、隣接するユニット間のフレーム24は共用させて、実験用の発電装置を構成した。3ユニット間の嫌気性域31、31’、31”には基質液流路27−28を、好気性域32、32’、32”には空気流路29−30を形成した。また、図示していないが、各アノード1及び各カソード3を導線により電気的に直列に接続して、電流量計及び可変抵抗器(電力利用機器)を介して閉回路を形成した。電流量計を含む回路の外部抵抗は、可変抵抗器を0Ωとした場合10Ω以下であった。
[実施例1、比較例1]
カーボンにCVD法でCNTを生成した後にAQDSを固定化した場合と、カーボンに直接AQDSを固定化した場合の発電性能の比較
導電性基材(多孔質カーボン)にCVD法を用いてCNTを形成後、その表面に電子メディエータとしてアントラキノン−2,6−ジスルホン酸(AQ-2,6-DS)を固定化してアノードを製作した。
導電性基材であるカーボンペーパー(Electrochem 社製EC-20-10-7)に、以下に述べるCVD法を用いて導電性ファイバー(CNT)を形成させ、しかる後に電子メディエータであるAQDSをジアミンを介してスルホンアミド結合によって固定化させることにより形成した。このとき、AQDSは導電性ファイバー上に導電性基材の投影面積あたり10μmol/cm2の密度で固定化されていた。CVD法によるカーボンペーパー表面でのCNTの形成、CNT表面への電子メディエータAQDSの固定化は以下の通り行った。
カーボンペーパー表面に酢酸コバルトと酢酸モリブデンを各1mmol/Lの濃度でエタノールに溶解させた混合液を塗布し、乾燥後に600℃で1時間加熱して金属微粒子を形成させるとともに有機物を除いた。これをAtomate社製Advanced LP CVD systemの炉中に入れ、700℃に加温しつつエチレンを100sccm(標準状態でのガス体積cm3/分)、ヘリウムを200sccmの速度で通気した。20分間反応させることにより、多層カーボンナノチューブ(MWCNT)を生成した。
これを98wt%硫酸/70 wt %硝酸の3:1混合液中で酸化し、MWCNTの主に先端部にカルボキシ基を導入した。これをジクロロメタンに浸漬し、導入されたカルボキシ基の約100倍モルに相当するオキサリルクロリドと数滴のジメチルホルムアミドを添加して室温で4〜12時間程度撹拌しながら反応させることにより、上記カルボキシ基を酸クロリド基に変換した。これをジクロロメタンで洗浄し、テトラヒドロフラン溶媒中へ移した。ここに1,3-プロパンジアミンを上記同様に約100倍モルになるように添加し、室温で4〜12時間程度撹拌しながら反応させることにより、アミノ基を導入した。
一方、AQDSのスルホン酸基を酸クロリド基とするため以下の操作を行った。AQDSに対して1/2モルに相当する量のスルホランと4倍モルに相当する量のオキシ塩化リンとを含むアセトニトリル溶媒中70℃で1時間反応させ、AQDSの持つスルホン酸基をスルホニルクロリド基とした。これを濾過して氷水で洗浄後、乾燥させることにより、スルホン酸基をスルホニルクロリド基に変換したAQDSを精製した。これをテトラヒドロフラン溶媒中で上記アミノ基を導入した導電性ファイバーと接触させ、添加したスルホニルクロリドに対し5倍モルに相当する量のトリエチルアミンを共存させつつ室温で12時間程度反応させることにより、MWCNTと電子メディエータとの間にスルホンアミド結合を形成した。
このアノードを用い、pH7の水溶液中において印加電位を-0.28Vから-0.18V(水素標準電極電位)までシフトすることによって放電が行われたことから、該アノードの標準電極電位E0’は-0.28V〜-0.18Vの間にあると考えられる。
比較例1
導電性基材であるカーボンペーパー(Electrochem 社製EC-20-10-7、多孔質グラファイト)に、導電性ファイバーなしで実施例1の方法に準じてAQDSを直接固定化させることにより対照アノード(1)を形成した。このとき、AQDSは導電性基材上に導電性基材の投影面積あたり10μmol/cm2の密度で固定化されていた。この対照アノード(1)を用い、pH7の水溶液中において印加電位を-0.28Vから-0.13V(水素標準電極電位)までシフトすることによって放電が行われたことから、対照アノード(1)の標準電極電位E0’は-0.28V〜-0.13Vの間にあると考えられる。
<発電性能>
図4に示す実験室用の生物発電装置を用い、実施例1及び比較例1で製作した生物発電用アノードの発電性能を比較した。
生物発電装置の嫌気性域31、31’、31”には、運転開始前に硫黄還元菌集積培養体を各1mL添加した。使用した硫黄還元菌集積培養体は以下の方法で作製した。クロボク土0.1gを植種源とし、130mL容のバイアル瓶にHandbook of Microbial Media (Atlasら1997, CRC Press)に記載されているDesulfuromonas培地(表-4)を100mL注入して、気相を窒素ガス置換したものに添加し、密閉して、28℃の温度条件下で振とう培養し、2週間後に菌液5mLを新しく調製したバイアル瓶に植え継ぐという操作を5回繰り返し、10週間後に得られた菌液を嫌気性微生物集積培養体とした。なお、植種元である土壌は特にクロボク土に限定するものではなく、ローム土やシルトであってもよい。
基質液として、含水有機性物質のモデルとして0.1mol/Lのグルコース水溶液に0.01g/Lのイーストエキストラクトを混合して調製した基質液を用いた。
運転開始から10日間は、生物が嫌気性域(生物反応室)内に付着するのを待つため通液を行わず、Handbook of Microbial Media (Atlasら1997, CRC Press)に記載されているDesulfuromonas培地(表-4)を嫌気性域(生物反応室)側に充填して硫黄還元菌の優占化を促した。
Figure 2007095471
運転開始後10日目より、基質液の滞留時間を2日間として馴養運転を行い、運転開始後20日目より嫌気性域内での滞留時間を500分間とする通常運転にして、アノード、カソード間の電流量及び電圧を測定した。なお、好気性域への空気の供給は滞留時間0.5分間とした。
実施例1、比較例1においては、馴養運転期間中を含めて、常にカソード・アノード間は電気的に接続した状態とし、最大の電力量が得られるよう可変抵抗を調整した。試験結果を表-5に示す。
Figure 2007095471
測定期間中の平均発生電流は、実施例1の方が比較例1に比べて、2.3倍の高い電流量を発生したことがわかる。また、平均電圧は実施例1において対照1よりも1.5倍向上した。したがって得られた電力は実施例1の方が比較例1よりも3.45倍大きかった。
この結果より、導電性ファイバー(CNT)を介してAQDSを固定化したアノードの方が、直接AQDSを固定化したアノードよりも発電性能において優れていることが認められた。
[実施例2、比較例2]
電解酸化アルミニウムにCVD法でVGCFを形成し、その後AQCを固定化した場合(実施例2)と、電解酸化アルミニウムに予めAQCを固定化したカーボンブラック粉末を塗布した場合(比較例2)との発電性能の比較
実施例2において生物発電装置に装備したアノード1は、以下に述べる方法により導電性基材(アルミニウム)の電解酸化、CVD法によるVGCFの形成、電子メディエータアントラキノン−2−カルボン酸(AQC)の固定化を行って作製した。発電ユニットの構成及びアノード以外の実験条件は、実施例1と同様とした。
純度99.999%のアルミニウム板(レアメタリック社製AL-32-83-0300)をアノード1の導電性基材として用い、0.3mol/Lのシュウ酸液中で40Vの電圧をかけて15℃の条件下で1時間酸化することにより多孔質の電解酸化アルミニウム層を得た。この酸化アルミニウム層をいったん1mol/Lリン酸で取り除いて、再び0.3mol/Lのシュウ酸液中で80Vの電圧をかけて5分間程度電解酸化することにより、均一な6角格子状の配列で200nmのピッチの孔を形成させた。これを10μmol/Lの酢酸コバルト水溶液に浸漬し、上記アルミニウム板をマイナス極として10V/cmの電位勾配を印加することによりコバルトを酸化アルミニウム孔の内部に沈着させた。これを実施例1と同様にAtomate社製Advanced LP CVD systemの炉中に入れ、600℃に加温しながら100sccmの速度で一酸化炭素ガスを通気し、コバルトを還元した。その後温度を650℃に上げ、通気ガスをアセチレン/窒素の1:9混合ガスに変更して同じ通気速度で30時間反応させることにより、平均径100nmのVGCFを形成させた。
上記電極をアノードとして水素標準電極に対し+1Vの電位を印加しつつ70wt%硫酸液中で酸化し、上記VGCFにカルボキシ基を導入した。これをジクロロメタンに浸漬し、導入されたカルボキシ基の約100倍モルに相当するオキサリルクロリドと数滴のジメチルホルムアミドを添加して室温で4〜12時間程度撹拌しながら反応させることにより、上記カルボキシ基を酸クロリド基に変換した。これをジクロロメタンで洗浄し、テトラヒドロフラン溶媒中へ移す。ここに1,3-プロパンジアミンを上記同様に約100倍モルになるように添加し、室温で4〜12時間程度撹拌しながら反応させることにより、アミノ基を導入した。
これを1g/Lのジシクロヘキシルカルボジイミド溶液に浸漬し、1時間反応させた後で1mol/LになるようAQCを添加して、アミド結合によりAQCを固定化した。
アノードの標準電極電位E0’は-0.21V〜-0.16Vの範囲内にあった。また、AQCの固定化密度は導電性基材の投影面積あたり1μmol/cm2程度であった。
比較例2
比較例2に用いる対照アノード(2)は、実施例2の方法で電解酸化したアルミニウム板にAQCを直接固定化したカーボンブラックを塗布したものを用いた。カーボンブラックは東海カーボン製Toka black #5500を用い、0.125mol/Lのスルファニル酸水溶液に100g/Lとなるよう懸濁して70℃まで加温し3時間攪拌した後、室温まで冷却した。次に、ここに硝酸と亜硝酸ナトリウムをそれぞれ0.15mol/Lとなるように添加し、約30℃の温度下で発泡が停止するまで3時間程度反応させた。これをエタノールで洗浄し、スルホン酸基を導入したカーボンブラックを得た。ついでこれをスルホン酸基に対して等モルに相当する量のスルホランと8倍モルに相当する量のオキシ塩化リンとを含むアセトニトリル溶媒中70℃で1時間反応させ、スルホン酸基をスルホニルクロリド基に変換した。これを濾過して氷水で洗浄後、乾燥させることにより、スルホン酸基をスルホニルクロリド基に変換したカーボンブラックを精製した。これをジクロロメタンで洗浄し、テトラヒドロフラン溶媒中へ移す。ここに1,3-プロパンジアミンを約100倍モルになるように添加し、室温で4〜12時間程度撹拌しながら反応させることにより、アミノ基を導入した。このアミノ基導入カーボンブラックを1g/Lのジシクロヘキシルカルボジイミド溶液に浸漬し、1時間反応させた後で1mol/LになるようAQCを添加して、アミド結合によりAQCを固定化した。
上記操作によりAQCを固定化したカーボンブラックを日本触媒製エポミン(登録商標)の5%エタノール溶液に懸濁し、上記電解酸化アルミニウム板に塗布して乾燥させることにより、比較例2の対照アノード(2)とした。比較例2において、塗布、硬化後のAQCによる電極被覆密度は導電性基材の投影面積あたり約10μmol/cm2であった。対照アノード(2)の標準電極電位E0’は-0.23V〜-0.18Vの範囲内にあった。
<発電性能>
実施例2及び比較例2で得たアノードを用いて図4に示す生物発電装置で行った発電試験結果を表-6に示す。
Figure 2007095471
発生電流量は、実施例2の方が比較例2に比べて、26倍高い値を示した。発生電圧は、実施例2の方が比較例2に比べて、1.53倍高い値を示した。比較例2の電流量が小さかった理由としては、導電性基材の表面が酸化されており電気抵抗が大きくなっていたため、孔の内部に入り込んだ一部のAQCのみが電子メディエータとして有効に働いたためと考えられる。この結果より、アルミニウムの導電性基材に対して導電性ファイバー(VGCF)を介してAQCを固定化したアノードの方が、カーボンブラックにAQCを固定化して塗布したアノードよりも発電性能において優れていることが認められた。
なお、実施例2で得られた発生電流は実施例1で得られたものの1/2以下であった。これは電子メディエータの固定化密度が低かったためと考えられる。ただし実施例2で作製したCVD法による導電性ファイバー(VGCF)は多孔質アルミニウムにより保持されているため、長期間使用する場合の耐久性に優れることが期待される。
[実施例3、比較例3]
グラファイト板にポリシランを被覆し、紫外線で多孔質化して、CNTを分散させた液中に浸漬し、電気泳動法によりCNTをポリシラン孔中に挿入させ、AQDSを固定化した場合(実施例3)と、グラファイト板に直接AQDSを固定化した場合(比較例3)との発電性能の比較
多孔質グラファイト板(東海カーボン製G-50)を導電性基材として用い、ポリシラン(ポリメチルフェニルシラン、分子量13万)及びカーボンブラック(Toka Black #5500)をそれぞれ0.5%濃度となるようにテトラヒドロフランに溶解したものに浸漬した。これを取り出して乾燥させ、ポリシラン被覆導電性基材とした。
これを水銀ランプ下に置いて紫外線を10分間照射し、多孔質導電性ポリシランとした。このようにして用意した導電性基材をイソプロパノールを満たした電気泳動槽の中に入れ、CNT(和光純薬製カーボンナノチューブ多層、20〜30nm)を0.5g/Lとなるように添加し、超音波をかけてCNTを分散させた。しかる後に上記導電性基材をマイナス極とし、2×103V/cmの電位勾配を印加することにより、溶媒中のCNTを上記ポリシラン被覆中に挿入した。
このようにして得た電極をアノードとして水素標準電極に対し+1Vの電位を印加しつつ70%硫酸液中で酸化し、上記CNTにカルボキシ基を導入した。これをジクロロメタンに浸漬し、導入されたカルボキシ基の約100倍モルに相当するオキサリルクロリドと数滴のジメチルホルムアミドを添加して室温で4〜12時間程度撹拌しながら反応させることにより、上記カルボキシ基を酸クロリド基に変換した。これをジクロロメタンで洗浄し、テトラヒドロフラン溶媒中へ移す。ここに1,3-プロパンジアミンを上記同様に約100倍モルになるように添加し、室温で4〜12時間程度撹拌しながら反応させることにより、アミノ基を導入した。
一方、実施例1と同様の方法でAQDSのスルホン酸基を酸クロリド基に変換したものを用意し、これをテトラヒドロフラン溶媒中で上記アミノ基を導入したCNTと接触させ、添加したスルホニルクロリドに対し5倍モルに相当する量のトリエチルアミンを共存させつつ室温で12時間程度反応させることにより、グラファイトと電子メディエータとの間にスルホンアミド結合を形成した。
このアノードを用い、pH7の水溶液中において印加電位を-0.28V〜-0.18V(水素標準電極電位)までシフトすることによって放電が行われたことから、アノードの標準電極電位E0’は-0.28V〜-0.18Vの間にあると考えられる。また、AQDSの固定化密度は導電性基材の投影面積あたり4μmol/cm2程度であった。
比較例3
比較例3において生物発電装置に装備した対照アノードは、実施例3で用いたと同じ多孔質グラファイトに直接+1Vの電位を印加しつつ70%硫酸液中で酸化し、カルボキシ基を導入した。その後は実施例3と同様にアミノ基の導入を行い、予めスルホン酸基をスルホン酸クロリド基に変換しておいたAQDSとスルホンアミド結合を形成させることにより対照アノード(3)を作製した。
対照アノード(3)の標準電極電位E0’は-0.21V〜-0.16Vの範囲内にあった。また、AQDSの固定化密度は導電性基材の投影面積あたり5μmol/cm2程度であった。
<発電性能>
実施例3及び比較例3で得たアノードを用いて図4に示す生物発電装置で行った発電試験結果を表-7に示す。
Figure 2007095471
測定期間中の平均発生電流は、実施例3の方が比較例3に比べて1.85倍の高い値を示した。また、平均発生電圧は実施例3の方が比較例3に比べて1.5倍の高い値を示した。この結果より、グラファイトの導電性基材に対して導電性ファイバー(VGCF)を介してAQCを固定化したアノードの方が、カーボンブラックにAQCを固定化して塗布したアノードよりも発電性能において優れていることが認められた。
なお、実施例3で得られた発生電流は実施例1で得られたものの76%程度と、やや低い値を示した。これは電子メディエータの固定化密度が低かったためと考えられる。ただし実施例3で作製した電気泳動法による固定化導電性ファイバー(CNT)は多孔質ポリシランにより保持されているため、長期間使用する場合の耐久性に優れることが期待される。
以上説明したように、本発明の生物発電アノードを利用する生物発電により、廃水、廃液、し尿、食品廃棄物、その他の有機性廃棄物、汚泥などの含水有機性物質またはその分解物を効率的に酸化分解し、従来の生物電池よりも多くの電気エネルギーを得ることが可能である。本発明は、含水有機性物質の酸化分解、および還元電位を利用した発電方法として広く利用されることが期待される。
図1は、本発明の発電装置の構成を示す概念図である。 図2は、本発明の発電装置の構成例を示す概念図である。 図3は、本発明の発電装置に用いることができるカソード電極の構造の一例を示す概念図であり、図3Aは断面図、図3Bは図3Aの空気室側から見た平面図である。図3Cはカソード電極構造の別の一例を示す断面図である。 図4は、実施例で用いた本発明の発電装置の構成を示す概念図である。
符号の説明
1:生物発電用アノード
2:隔膜
3:カソード
4:内筒体内部
5:筒状体周囲の空間
6:導線
7:空気室
8:流入ポンプ
9:流入部
10:流出部
11:処理済み有機性物質排出部
12:循環ポンプ
13:余剰汚泥排出口
14:空気ブロワ
15:排気口
16:凝縮水ドレイン
17:アノードとの接続部
18:カソードとの接続部
19:排気口
20:多孔質マトリックス
21:触媒
22:空気ネットワーク
23:水溶液ネットワーク
24:セパレータ
25:セルフレーム(嫌気性域:アノード側)
26:セルフレーム(好気性域:カソード側)
27:含水有機性物質注入口
28:分解廃液排出口
29:空気導入口
30:空気排出口
31:嫌気性域(生物反応室)
32:好気性域(空気反応室)

Claims (16)

  1. 表面から突出する導電性ファイバーを有する導電性基材を含み、該導電性ファイバーには電子メディエータが固定化されており、pH7における標準電極電位(E0’)が-0.13V〜-0.28Vの範囲内にある生物発電用アノード。
  2. 前記導電性ファイバーは、カーボンナノチューブ(CNT)または気相成長炭素繊維(VGCF)である請求項1に記載の生物発電用アノード。
  3. 前記電子メディエータは、アントラキノン誘導体、ナフトキノン誘導体、ベンゾキノン誘導体、イソアロキサンジン誘導体からなる群より選択される1つ以上の酸化還元物質である請求項1又は2に記載の生物発電用アノード。
  4. 前記電子メディエータは、アントラキノンカルボン酸類(AQC)、アミノアントラキノン類(AAQ)、ジアミノアントラキノン類(DAAQ)、アントラキノンスルホン酸類(AQS)、ジアミノアントラキノンスルホン酸類(DAAQS)、アントラキノンジスルホン酸類(AQDS)、ジアミノアントラキノンジスルホン酸類(DAAQ DS)、エチルアントラキノン類(EAQ)、メチルナフトキノン類(MNQ)、メチルアミノナフトキノン類(MANQ)、ブロモメチルアミノナフトキノン類(BrMANQ)、ジメチルナフトキノン類(DMNQ)、ジメチルアミノナフトキノン類(DMANQ)、ラパコール(LpQ)、ヒドロキシ(メチルブテニル)アミノナフトキノン類(ALpQ)、ナフトキノンスルホン酸類(NQS)、トリメチルアミノベンゾキノン類(TMABQ)、フラビンモノヌクレオチド(FMN)およびこれらの誘導体からなる群より選ばれる1つ以上の酸化還元物質である請求項3に記載の生物発電用アノード。
  5. 前記導電性基材は、導電性を有する炭素素材を含むことを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の生物発電用アノード。
  6. 前記導電性基材は、グラファイト、カーボンブラック、フラーレン、カーボンナノチューブ(CNT)、気相成長炭素繊維(VGCF)よりなる群のうち少なくとも1種を含む請求項5に記載の生物発電用アノード。
  7. 前記導電性基材は、多孔質被膜をさらに表面に有する請求項項1〜6のいずれかに記載の生物発電用アノード。
  8. 前記導電性ファイバーは、電気泳動法によって前記導電性基材表面の前記多孔質被膜に固定化される請求項7に記載の生物発電用アノード。
  9. 請求項1〜8のいずれか1項に記載の生物発電用アノードの製造方法であって、
    導電性基材を準備する前処理工程と、
    導電性基材に対して導電性ファイバーが突出するように導電性ファイバーを固定する導電性ファイバー固定工程と、
    導電性ファイバーに対して電子メディエータを固定化して導入する電子メディエータ導入工程とを行う生物発電用アノードの製造方法。
  10. 上記導電性ファイバー固定工程は、化学気相成長法(CVD法)により行われることを特徴とする請求項9記載の生物発電用アノードの製造方法。
  11. 上記導電性ファイバー固定工程は、電気泳動法により行われる請求項9記載の生物発電用アノードの製造方法。
  12. 前記導電性基材を準備する前処理工程は、基材の少なくとも表面に存在するアルミニウム層に酸化電位を印加し、該基材表面を多孔質化することを含む請求項9〜11の何れか1項に記載の生物発電用アノードの製造方法。
  13. 前記導電性基材を準備する前処理工程は、基材の表面に存在するポリシラン層に紫外線を照射し、該基材表面を多孔質化することを含む請求項9〜11の何れか1項に記載の生物発電用アノードの製造方法。
  14. 前記導電性ファイバーは、化学気相成長法(CVD法)によって前記導電性基材表面から突出して成長したものである請求項1〜7のいずれか1項に記載の生物発電用アノード。
  15. 嫌気性雰囲気下で生育可能な微生物、有機性物質を含有する溶液もしくは懸濁液、請求項1〜8のいずれか1項に記載の生物発電用アノードを含む嫌気性域と、分子状酸素及びカソードを含む好気性域と、該嫌気性域及び該好気性域とを画定する隔膜と、を具備し、該アノード及び該カソードを電力利用機器に電気的に接続して閉回路を形成し、該嫌気性域内での有機性物質を電子供与体とする微生物の酸化反応と該好気性域内での酸素を電子受容体とする還元反応とを利用して発電する発電装置。
  16. 嫌気性雰囲気下で生育可能な微生物、有機性物質を含有する溶液もしくは懸濁液、請求項1〜8のいずれか1項に記載の生物発電用アノードを含む嫌気性域と、分子状酸素及びカソードを含む好気性域と、該嫌気性域及び該好気性域とを画定する隔膜と、を具備し、該アノード及び該カソードを電力利用機器に電気的に接続して閉回路を形成し、該嫌気性域内での有機性物質を電子供与体とする微生物の酸化反応と該好気性域内での酸素を電子受容体とする還元反応とを利用して発電する発電方法。
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