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JP2007074909A - 可食性エマルション及びその製造方法 - Google Patents

可食性エマルション及びその製造方法 Download PDF

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Abstract

【課題】 増粘剤の使用を不要とし、リン脂質を利用した経時安定性に優れた新たな可食性エマルションとその製造方法を提供する。
【解決手段】 可食性エマルションを、可食性油にリン脂質と脂肪酸エステルとを混合させた混合液晶を主成分とする乳化分散剤を必須成分として含んで構成する。例えば、大豆リン脂質と脂肪酸ショ糖エステルを混合させて形成した混合液晶を用いるとよい。この場合には、大豆リン脂質と脂肪酸ショ糖エステルの質量分率は、大豆リン脂質の質量をM1、脂肪酸ショ糖エステルの質量をM2、質量分率WsをM2/(M1+M2)とすると、0.1≦Ws<0.8の範囲に設定されるとよい。
【選択図】 なし

Description

本発明は、種々の可食性油に対して得られる経時安定性に優れた可食性エマルションとその製造方法に関する。
食品用乳化剤は、生理的安全性が最重要視されるため、食品添加物としての指定を受ける必要があり、工業用乳化剤に比べて極めて大きな制約がある。現在、日本で許可されている主な食品添加物は、大別すると合成添加物のグリセリン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、プロピレングリコール脂肪酸エステル、天然添加物のレシチンの5種類である。
食品のような複合系での乳化剤の選定は、乳化剤の組み合わせ、共存物質が乳化に及ぼす影響、配合比率などを検討しなければならない。また、食品の乳化においては、多量の乳化剤が必要となる場合には風味を損なう可能性があり、また、可食性植物油の安定なエマルションの調製は一般的に困難とされている。そこで、通常、食品用エマルションは油の凝集・分離を抑制するために増粘剤を加えて見かけ上安定させている(非特許文献1)。
ところで、リン脂質は、生物の細胞や血液などの生体膜中に存在する代表的な脂質であり、生分解性、生理的温和性、乳化力に優れているため、食品のみならず、医薬品、農薬、化粧品などの分野で活用されている。リン脂質は有機溶媒に可溶性であり、水に不溶性である。これを水に分散させると、親水基部位と疎水基部位が規則正しく配向したリオトロピック液晶となり、ラメラ構造をとることが知られている。また、このリン脂質の二分子膜は乳化剤として利用され、超音波や溶媒置換などを行うとベシクルと呼ばれる球状の小胞体に変化する(非特許文献2)。このベシクルは、層状構造のラメラ液晶に比べて内包率が高いため、薬物運搬用(DDS)としても実用化が期待されている(非特許文献3)。
日本油化学会編 現代界面コロイド化学の基礎 丸善 寺田弘、吉田哲郎 リポソーム シュプリンガー・フェアラーク 山川民夫 他 油脂 共立出版
しかしながら、リン脂質のエマルションは、エマルション形成時の平均粒子径が800nmより大きくなると3ヶ月後には二分子膜液晶の状態変化、すなわちゲル化現象を起こして不安定となることが確認されており、可食性油の乳化材としての実用化は難しい。このため、可食性エマルションをリン脂質を利用して形成する場合には、エマルションを安定させる更なる工夫が必要となる。
本発明は、以上のような事情に鑑みてなされたものであり、増粘剤の使用を不要とし、リン脂質を利用した経時安定性に優れた新たな可食性エマルションとその製造方法を提供することを主たる課題としている。
一般の界面活性剤を用いた乳化法では、油と水との界面に界面活性剤が吸着し、その界面エネルギーを低下させることを乳化・分散法の基本としていたので、その界面張力を低下させるために多量の乳化分散剤を必要とするものであった。これに対して、本発明者らは、リン脂質が水に分子溶解せず、リン脂質自身が形成する二分子膜液晶がファンデルワールス力により油滴表面に付着することで油相、乳化剤相、水相の三相構造を形成し、経時安定性に優れたエマルションを形成すること、また、リン脂質の二分子膜に所定の界面活性剤を添加して混合液晶を形成することで粒子の細分化が図れ、ゲル化現象を避けることが可能になることを見出し、本発明を完成するに至った。
即ち、上記課題を達成するために、この発明に係る可食性エマルションは、可食性油にリン脂質と脂肪酸エステルとを混合させた混合液晶を主成分とする乳化分散剤を必須成分として含むことを特徴としている(請求項1)。
ここで、可食性油は、大豆油、菜種油、オリーブ油、米絞り油、機能性添加油(トコフェロール(ビタミンE),リモネン(香料))などを想定しており(請求項5)、リン脂質は大豆リン脂質(大豆レシチン)や卵黄リン脂質(卵黄レシチン)などが適している。また、リン脂質と混合する脂肪酸エステルとしては、食品添加物である脂肪酸エステル(グリセリン脂肪酸エステル,ショ糖脂肪酸エステル,ソルビタン脂肪酸エステル,プロピレングリコール脂肪酸エステルなど)が適しており(請求項6)、一例として、大豆リン脂質と脂肪酸エステルを混合させて形成した混合液晶を用いるとよい(請求項2)。この場合に、脂肪酸エステルとして脂肪酸ショ糖エステルを用いると、大豆リン脂質と脂肪酸ショ糖エステルの質量分率は、前記大豆リン脂質の質量をM1、前記脂肪酸ショ糖エステルの質量をM2、質量分率WsをM2/(M1+M2)で表した場合、0.1≦Ws<0.8の範囲に設定されることが好ましい(請求項3)。
また、可食性エマルションの組成は、重量比が前記リン脂質0.05〜20%、前記脂肪酸エステル0.005〜8.0%、可食性油10〜90%、水バランスで組成することが可能である(請求項4)。
なお、上述した可食性エマルションの調製にあたっては、リン脂質と脂肪酸エステルとを所定の質量分率となるように混合し、リン脂質の重量比が所定の重量パーセントとなるように水を加えて分散させ、この分散液を水相とし、油相の重量比が所定の重量パーセントとなるようにエマルションを調製するとよい(請求項7)。この際、前記分散液は、該分散液の温度を高低させて攪拌する工程を繰り返し、その後熟成させて安定させるとよい。
以上述べたように、この発明によれば、リン脂質と食品乳化剤、具体的には、大豆レシチンと脂肪酸エステルとの混合液晶からなる両親媒性物質を主成分とする乳化分散剤を可食性油に必須成分として含むようにしたので、ゲル化現象を生じない経時安定性に優れた可食性エマルションを形成することが可能となる。
以下、この発明の最良の実施形態を説明する。
[使用した試薬]
以下の実験においては、次の試薬を用いた。
1.非イオン界面活性剤
Polyoxyethylene alkylether (C1429(OCOH;分子量566.83g・mol−1)は合成品(NIKKOL)をそのまま用いた。
2.リン脂質
リン脂質は、下記の化1で示す1,2-Dimyristoyl-sn-gloycero-3-phosphocholine(以下、DMPC;分子量677.94g・mol−1)で Avanti Polar Lipids の合成品をそのまま用いた。このリン脂質は、二鎖型の両イオン界面活性剤である。
3.食品用乳化剤
使用した食品乳化剤を表1に示す。また、化2に大豆レシチン(SLP)の分子構造を、化3にショ糖脂肪酸エステルの分子構造を、化4にソルビタン脂肪酸エステルの分子構造を、化5にポリグリセリン脂肪酸エステルの分子構造を、化6に脂肪酸プロピレングリコールエステルの分子構造をそれぞれ示す。
いずれも提供されたものをそのまま用いた。
4.使用した水
水はイオン交換水(MILLPORE 超純粋装置 日本ミリポア社)で精製した後、さらに蒸留した水を使用した。pH7.0〜7.1(25℃)であった。
5.使用した油
(1)ヘキサデカンは、ALDRICH社(純水99%以上、d=0.773 g・dm−3,分子量;226.45g・mol−1)の合成品をそのまま用いた。
(2)トリオレインは、(分子量;885.43g・mol−1)は和光純薬工業株式会社から購入したものをそのまま用いた。
(3)流動パラフィンは、和光純薬工業株式会社から購入したものをそのまま用いた。
(4)使用した植物油は、横浜油脂工業株式会社から提供されたものをそのまま用いた。組成は、大豆油(C18:F;52.6%,C18;F;24.2%,C16;10.7%),菜種油(C18;F;61.3%,C18:F;20.2%,C18:F;9.0%), 米ぬか油(C18;F;42.3%,C18:F;35.7%,C16;16.1%)である。Cは炭素鎖長、Fは不飽和数である。
[分散液の調製]
乳化剤として用いる混合液晶分散液の調製は以下の2つの方法で行った。
(1)当発明者が行ってきた混合液晶分散液の調製
DMPC、界面活性剤をそれぞれエタノールに均一に溶解させた。その後、所定の混合組成にするため、DMPC/エタノール溶液に界面活性剤/エタノール溶液を添加し、十分に攪拌した。次に、室温下で一晩エタノールを減圧除去し、DMPCと界面活性剤の混合結晶を作製した。この混合結晶にDMPCが0.5wt%となるように水を加え分散させた。次にVortexで5分間攪拌し、35℃の温水に5分間浸けた後、Vortexで5分間攪拌し、氷水に5分間浸け、最後にVortexで5分間攪拌した。この操作を3回繰り返し、リン脂質DMPCのラメラ液晶が熱的に安定な温度(29.5℃)以上である35℃の恒温槽に一昼夜熟成させ、安定な混合液晶状態にした。
(2)実用化に向けた混合液晶分散液の調製
食品用乳化剤のリン脂質SLPと各種食品用乳化剤を所定の質量分率となるように加え、SLPが0.5wt%になるように水を加え、分散させた。分散液は、Homogenizerで5分間攪拌し、60℃の温水に5分間浸け、Homogenizerで5分間攪拌し、氷水に5分間浸け、最後にHomogenizerで5分間攪拌した。これを3回繰り返し、室温で一昼夜熟成した。
[エマルションの調製]
エマルションの調製は、以下の2つの方法で行った。
(1)当発明者が行ってきたエマルションの調製
乳化剤相に所定組成になるように油を加え、フィンガー型超音波発生装置(OHTAKE WOEKS 5202 PZT)で3分間、浴槽型超音波発生装置(Elma TRANSSONIX 570)で2分間照射した。この操作を2回繰り返し、乳化した。
(2)実用化に向けたエマルションの調製
乳化剤相に所定の質量比となるように油相を加え(油相の重量比が所定の重量パーセントとなるように乳化剤相に加え)、Homogenizerで16000回転を5分間攪拌し、乳化した。
[測定]
(1)混合二分子膜厚(d‐spacing)の測定
食品乳化剤と油の添加によるリン脂質二分子膜の長面間隔(001面、d‐spacing)の変化を調べるために、食品乳化剤の質量組成Wsを変化させた混合液晶分散液及び油の濃度を変化させたエマルションについて、散乱粉末型X線回折装置(RAD−rA;理学電機)で測定した。分散液またはエマルションをXRD測定専用のガラスセルに取り、乾燥させないように測定を行った。測定条件は、出力40KV 50mA、Cukα線測定角 2θ=0.2〜5.0°、スキャンスピード1.0°/min、スキャンステップ 0.002°、発散スリット1/2deg,散乱スリット1/6deg、受光スリット0.15mmで行った。
(2)混合二分子膜の相転移温度の測定
食品乳化剤の添加によるリン脂質二分子膜のゲル液晶転移温度Tmの変化を調べるために、食品乳化剤の質量組成Wsを変化させ、示差走査熱量測定(SEIKO;DSC6100)を行った。試料は容量70μlのアルミ製の密封セルに約50μlとり、正確に秤量し密封した。参照試料には測定試料とほぼ同量の水を使用した。測定条件は昇温速度2℃min−1で−5〜90℃の範囲で昇温過程を行った。
(3)粒子径の測定
乳化剤及びエマルションの粒子径を動的光散乱光度計(FPAR‐1000;大塚電子)により測定した。分散液は希薄系プローブ、エマルションに濃厚系プローブを用いて行った。測定温度は保存温度と同様に室温で行った。
(4)分散液の濁度測定
食品乳化剤の添加による分散液の濁度変化を調べるために、紫外・可視分光法(日光分光;V−570U best)で測定した。分散液はSLP0.5wt%一定とし、UV−visの測定条件は波長480nmで固定し吸光度を測定した。
(5)混合液晶の形状観察
乳化剤二分子膜の形状を調べるため、ネガティブ染色法を用いて透過型電子顕微鏡(JEOL;JEM−2000EX/FXII)により観察した。分散液を支持膜付きCuメッシュ上に滴下し、乾燥後モリブテン酸アンモニウムを滴下して1日乾燥させ、TEMにセットして観察した。ネガティブ染色法を用いることで、通常電子密度が低く観察が困難である有機物の組織体を無構造で高電子密度の分子化合物(モリブテン酸アンモニウム)で試料を取り囲み、試料と支持膜との間のコントラストをつけ、組織体の構造や形状を観測する。
(6)エマルションの安定性
調製したエマルションの安定性を静置法によって目視観察した。振とう、攪拌などの外力を加えないように室温で静置させた。経日変化をデジタルカメラで観察した。
[DMPC−C14(EO)による乳化]
一般の界面活性剤はミセルや液晶を形成する。長鎖のアルカンは界面活性剤のミセルやラメラ液晶の疎水基部へ吸着し、可溶化することが知られている。さらにアルカンを過剰に添加すると飽和可溶化以上のアルカンは油滴を形成する。この際、界面活性剤は親水基を水相、疎水基を油滴相に配向してエマルションを形成する。しかし、今回用いたリン脂質の二分子膜に界面活性剤を添加した混合液晶からなるDMPC−C14(EO) は過剰の油剤によりリン脂質ラメラ液晶が油相、乳化剤相、水相からなる三相構造を形成し、低濃度で優れた安定性を示す。さらにリン脂質ラメラ液晶は、ヘキサデカン、オクタデカンなど油剤を変えても同様の乳化傾向を示すと報告されている。そこで、三相乳化機構と安定性についてこれらの知見が大豆油の乳化にも適応するかどうかを検討するために、飽和油及び不飽和油を用いて乳化性を調べた。
[三相乳化機構と安定性]
図1は、DMPC−C14(EO)とヘキサデカンのエマルションと粒子径を示す。乳化剤として用いたリン脂質に対するヘキサデカンのモル分率をXとして表すと、X≦0.5でヘキサデカンはDMPC−C14(EO)混合液晶膜に可溶化し、飽和可溶化状態になる。X>0.5ではヘキサデカンは過剰の油となり、DMPC−C14(EO)ベシクル粒子がヘキサデカンの油滴表面に付着し、油相、乳化剤相、水相からなる三相エマルションを形成すると考えられている。DMPC−C14(EO)とヘキサデカンのエマルションは三相乳化機構によりX≦0.5で白濁するが、X>0.5で透明になり、極めて小さな粒子のエマルションを形成することが報告されている。
一般に食品で使用されている油は、多くの混合物を含む天然の植物油である。これらは三鎖型の不飽和油である。そこで、トリオレインを用いて、ヘキサデカン同様に三相乳化機構を示すかどうかを検討した。
[油による影響]
図2は、DMPC−C14(EO)によるトリオレインのエマルションと粒子径を示す。リン脂質に対するトリオレインのモル分率をXとして表すと、X<0.7でトリオレインはDMPC−C14(EO)混合液晶膜に可溶化し、飽和可溶化状態になる。X>0.7では過剰の油によるDMPC−C14(EO)の単粒子が油滴表面に付着する三相エマルションを形成することが明らかとなった。
トリオレインのエマルションもヘキサデカン同様に三相乳化法によって、安定なエマルションを形成し、外観はX<0.7、X>0.8で白濁するが、X=0.7で青白い干渉光が現れ、粒子径が10nm以下となり極めて小さくなった。
ヘキサデカンと異なり、トリオレインはX<0.7でエマルションの粒子径が大きくなり、光の散乱が増加し、外観に濁りが生じた。しかし、飽和可溶化状態で極めて小さな粒子を形成し、ヘキサデカン同様に安定なナノエマルションを調製することができた。
[リン脂質−食品用乳化剤による可食性製乳化剤の調製]
以上により、リン脂質−界面活性剤の混合乳化剤は油の種類によらず、安定なナノエマルションを調製できることが明らかになった。そこで、界面活性剤の代わりに可食性乳化剤を用い、リン脂質と食品乳化剤との混合膜ベシクルを形成し、透明でナノサイズの乳化剤として用いることができるような分散液の調製を試みた。
[添加する食品乳化剤の決定]
使用するリン脂質SLPは、DLS,TEM観察から水中で363nmのベシクルを形成し、外観は黄濁色であった。そこで、透明でナノサイズの分散液を調製するため、厚生省で認可された食品乳化剤の中から適切な添加物の検討を行った。
現在、食品乳化物は、脂肪酸グリセリンエステル、脂肪酸プロピレングリコールエステル、脂肪酸ソルビタンエステル、脂肪酸ショ糖エステル、大豆リン脂質の5種類が認められている。表2は、今回使用した食品乳化剤の物性を示す。
図3は、SLP−食品乳化剤混合系の外観を示す。分散液の外観は、食品乳化剤の種類に依存し、変化した。グリセリンエステルは外観に変化はなく、ソルビタンエステルは濁度が増加した。しかし、SLP−MSE系では、Ws=0.6とWs=0.7との間で著しく外観が変化し、透明になった。MSEは他の乳化剤に比べて最も親水性が高く、水中で完全に溶解するため、SLP二分子膜との相溶性が高くなると考えられる。そこで、透明性のあるナノエマルションを調製する場合は食品乳化剤としてMSEを用いることに決定した。
[SLP−MSE混合膜分散液の物性の検討]
(XRD測定結果)
図4は、SLP−MSE混合系のX線強度をMSEの質量分率(Ws)を変化させて測定した結果であり、図5は、乳化剤中のMSEの質量分率(Ws)とSLPの二分子膜厚の関係を示す。SLPの二分子膜厚はWs=0.7まで連続的に減少し、0.7<Ws<0.8で不連続となり、Ws=0.8でピークが二つに割れた。このように、膜組成によって膜厚dが変化する理由は、次のように考えられる。すなわち、MSEがリン脂質の二分子膜に可溶化し、疎水基部の鎖長の差異によって空間が生じ分子間力が働くことによってd-spacing が約5.3nmから約4.3nmまで減少すると考えた。その後、混合膜は、Ws=0.7で飽和混合結晶を形成し、粒子径はほぼ一定の100nmになり、Ws>0.7でMSEが過剰に存在し、維持できなくなった二分子膜はWs=0.8で二つの膜状態となりそれぞれのピークを与えた。
(DLS測定結果)
図6は、乳化剤中のMSEの質量分率(Ws)と分散液の粒子径の関係を示す。粒子径はMSEの添加量にともないWs<0.6で363nmから99.0nmまで減少し、Ws>0.7で二つのピークが観測された。二分子膜へのMSEの可溶化は膜の構造変化により、粒子の小さい混合膜ベシクルを形成することがわかった。また、Ws≧0.7の粒子径は、動的光散乱法により測定した結果、2つのピークは約4nmと約100nmであるため、ベシクルの一部が棒状へ状態変化すると考えられる。
以上から、SLP−MSE分散液は、Ws≦0.7でSLPの二分子膜が維持されているためWs≦0.6で混合ベシクル、0.6<Ws≦0.7で混合膜ラメラ液晶を形成することが確認された。
(TEM観察)
さらに、分散液粒子の観察をするため、図7〜図10にTEM写真を示す。SLP単独の分散液は、DLS測定で363nmの粒子を確認したが、TEM観察によると大きさに分布を持つべシクルを形成することがわかった。MSEを添加することにより、Ws≦0.5でSLPを規範とするベシクルが確認され、0.5<Ws≦0.7でベシクルとラメラ液晶、Ws>0.7でラメラ液晶が形成された。MSEの親水基部はSLPに比べて大きいため、二分子膜内に親水基部が入り込めない。一方、SLPは多重層を形成し、MSEを添加すると始めに外側の膜が最密構造をとり、さらに添加すると表面積を広げるために粒子が細分化し、小さなベシクルを形成する。SLPの膜が飽和状態になると、曲率を保てなくなり、棒状のラメラ液晶を形成すると考えられる。
(濁度と外観)
図11に質量パーセント組成と濁度との関係を示す。MSEは単独で水に溶解するため、水に対するSLPの分散濃度を常に0.5wt%で一定とし、480nm固定波長で濁度測定を行った。分散液の濁度は0.4<Ws<0.7で著しく減少し、Ws≧0.7で一定となった。TEM写真より、混合膜ベシクルから混合膜ラメラ液晶へ形状変化する領域と一致するため、濁度はSLPに由来するものと考えられる。
以上から、SLP二分子膜はMSEを添加することにより、構造変化が生じ、混合膜ベシクルは細分化し、さらに添加すると混合膜ラメラ液晶を形成することがわかった。その結果、図12に示すように、透明なSLP−MSEによるナノサイズの粒子を形成する分散液を調製できた。
[三相乳化の検討]
以上で調製した分散液を用いて三相乳化法による可食性エマルションの創製を試みた。用いた分散液は、形状の異なるSLP0.5wt%でWs=0.5のベシクル領域、Ws=0.6のベシクルとラメラ液晶領域、Ws=0.7のラメラ領域とした。
表3及び4に、比較のために、SLP単独系による大豆油の乳化例を乳化温度を室温と50℃に設定した場合を示す。また、表5〜表7において、SLP−MSE混合系による大豆油の乳化例を、Ws=0.5のベシクル領域、Ws=0.6のベシクルとラメラ液晶領域、Ws=0.7のラメラ領域のそれぞれにおいて、乳化温度を室温に設定した場合を示す。
図13〜17は、静置法によるエマルションの安定性をエマルションの外観で示す。SLP単独系では調製後経日3日で油相の多いものから分離した。しかし、SLP−MSE混合膜液晶によるエマルションは経日1日でコアセルベーションが起こり、経日120日においても遊離した油相が確認されず安定なエマルションを維持した。
コアセルベーション下においても、三相乳化法では乳化剤のナノ粒子が油滴界面に安定に付着しているので、エマルションの油滴間は距離があり、油滴同士に分子間力が働かず、合一は起こりにくく、エマルションは安定に存在する。したがって、SLP−MSE混合液晶で調製するエマルションは三相乳化法により、経日1日でコアセルベーション現象が起こっても、経日120日間油滴は安定にエマルション状態を維持した。SLP単独よりSLP−MSEの混合液晶の方が安定になるのは、MSEの共存により二分子膜内の分子凝集力が強くなり、疎水化して膜が安定化するためであると考えられる。
一般の界面活性剤によるエマルションは、油の分量が増大すると、界面活性剤の液晶は疎水基が油滴に配向し、界面活性剤が形成する液晶のピークは消滅する。しかし、三相乳化法によるエマルションは、油の添加後も二分子膜は液晶のピークが維持されていることが報告されている。そこで、SLP−MSEによるエマルションが三相構造を形成していることを確認するため、図18〜20にWs=0.5、Ws=0.6、Ws=0.7のXRD測定の結果を示した。SLP−MSE混合膜液晶の二分子膜厚はWs=0.5で4.52nmがエマルションでは4.55nmに、Ws=0.6で4.37nmがエマルションでは4.72nmに、Ws=0.7で4.26nmがエマルションでは4.33nmに変化した。分散液よりもエマルションの二分子膜厚が僅かに広がったことから二分子膜内に油は可溶化し、油の添加後も液晶二分子膜が維持されていることを確認することができた。図21は、SLP−MSEのWs=0.6によるエマルションを用いて、油の濃度とSLP−MSE混合液晶膜厚との関係を示す。分散液のSLP−MSE混合液晶膜厚は約4.3nmであり、油を加えていくと徐々に広がり、10wt%以降で約4.5nmになる。その後、油成分の増加にも関わらずエマルション状態で変化はなかった。
以上の結果、SLP−MSE混合液晶を用いた三相乳化法により、従来の界面活性剤による乳化技術より乳化調製が簡単であり、しかも安定な可食性エマルションの創製に成功した。
[分散液の形状変化によるエマルションの違い]
前述したように、SLP−MSEの混合比によって、分散液の形状が異なることが確認されたが、この形状変化がエマルションの安定性や乳化法に影響するかを検討するために、粒子径測定を行った。
図22は分散液の形状の違いによる油の濃度と粒子径の変化を示す。Ws=0.5のベシクル領域は、40wt%以降粒子径が大きくなった。Ws=0.6のラメラ型領域は、約200nmで一定となり、Ws=0.7のラメラ領域は、不連続であった。このため、分散液の形状に依存する可能性があることが示唆された。
[リン脂質−食品用乳化剤による可食性エマルションの安定性]
一般の界面活性剤は油・pH・温度によって安定性が異なる。そこで、上述のように創製したSLP−MSEによる可食性エマルションの安定性を検討するために、油,pH,保存温度を変えた。図23〜25に静置法による安定性をエマルションの外観で示す。油はこれまでに検討してきた大豆油の他に、オリーブ油、米ぬか油、菜種油の各植物油、その他一般の油脂である流動パラフィン,油性機能性物質であるトコフェロール(ビタミンE),リモネンを乳化した。
表8に結果を示す。いずれの油もコアセルベーションが起こり、その後、150日間安定であった。pH変化は食品に使用されているpH5以下で安定性を調べた。添加物のないエマルションと同様に経日150日間安定であった。
温度変化は、−20℃、室温、50℃で行った。50℃で保存したものは、30日後に油の凝集が起こった。図26,27にSLP−MSE混合液晶膜変化を調べるためのXRD測定の結果を示す。図27に示されるように、経日30日では50℃保存の系は3つのピークになった。これはSLP−MSE混合液晶膜由来のピークがSLPに由来する2つのピークとMSEのピークとに分かれたためと推測される。すなわち,混合液晶膜が壊れたために油の凝集が起こったことを示し,エマルションの安定性は本質的にはSLP−MSE混合液晶膜の安定性に依存すると推測できる。
[希釈エマルションの安定性]
食品用乳化剤は、低濃度で安定なエマルションを形成することが求められている。そこで、本研究で創製した可食性エマルションを希釈することにより、低濃度の乳化剤で安定なエマルションを形成するかどうかを検討した。
図28は図16で創製したエマルションを10倍に希釈し、粒子径と外観観察を行った結果を示す。粒子径は、いずれの濃度も約200nm一定で、希釈する前のエマルションとほぼ変わらず、安定なエマルションを形成した。一般の界面活性剤では、水で希釈すると水溶液中の界面活性剤濃度の低下により,油滴表面に吸着した界面活性剤分子が脱離するため,油が分離する。しかし、三相乳化法によって創製した可食性エマルションは、微粒子付着によって油を乳化しているため、油滴と乳化剤相が水に安定に分散する。このため、希釈することで安定性に影響することはなく、低濃度な半透明の可食性エマルションを創製することができた。
[脂肪酸エステルの炭素鎖長の違いによる安定性]
上述のショ糖脂肪酸エステルは、炭素鎖長が14である場合の例を示したが、炭素鎖長が異なるショ糖脂肪酸エステルを用いて乳化した結果を表9示す。炭素鎖長が異なることで安定性に影響することはなく、安定したエマルションを形成することができた。
[レシチンの種類による安定性]
上述においては、大豆レシチン(SLP)を用いた例を示したが、卵黄レシチンとショ糖ミリスチン酸エステルの混合系による大豆油の乳化例を表10に示す。卵黄レシチンにおいても安定したエマルションを形成することができた。
[食品用乳化剤の種類による可食性エマルションの安定性]
上述においては、大豆レシチン(SLP)と混合させる食品乳化剤としてショ糖脂肪酸エステルを用いた場合を示したが、大豆レシチン(SLP)と混合させる食品乳化剤(脂肪酸エステル種)を異ならせて大豆油の乳化した例を表11に示す。いずれの食品乳化剤においても、安定した可食性エマルションを形成することができた。
尚、以上においては、リン脂質と脂肪酸エステルとを混合させた混合液晶を主成分とする乳化分散剤を用いて可食性エマルションを形成した例を示したが、上述した混合液晶に代えて、でんぷんやキトサン等の糖ポリマーを用いて乳化しても安定した可食性エマルションを形成することが可能であった。でんぷんによる大豆油、菜種油、オリーブ油、米絞り油の乳化例を表12に、キトサンによる大豆油の乳化例を表13に示す。
[結論]
以上述べたように、可食性植物油の安定なエマルションは、従来調製することが困難であったが、本手法により以下の結果を得ることができた。
1.大豆レシチンと脂肪酸エステルを混合液晶にすることで、良好な微粒子乳化剤にすることができた。
2.混合液晶の微粒子乳化剤は、可食性植物油を油成分90wt%まで安定に乳化することができた。
3.調製した可食性エマルションは、三相エマルションの構造をしている。
4.大豆油で調製したエマルションは、約150nmのサイズの半透明なエマルションになり、乳化技術の新しい実用化の可能性が期待される。
図1は、DMPC−C14(EO)とヘキサデカンのエマルションと粒子径を示す図である。 図2は、DMPC−C14(EO)によるトリオレインのエマルションと粒子径を示す図である。 図3は、SLP−食品乳化剤混合系の外観を示す写真である。 図4、SLP−MSE混合系のXRD測定をMSEの質量分率(Ws)を変化させて測定した結果を示す図である。 図5は、乳化剤中のMSEの質量分率(Ws)とSLPの二分子膜厚の関係を示す図である。 図6は、乳化剤中のMSEの質量分率(Ws)と分散液の粒子径の関係を示す図である。 図7は、分散液粒子を観察したTEM写真である。 図8は、分散液粒子を観察したTEM写真である。 図9は、分散液粒子を観察したTEM写真である。 図10は、分散液粒子を観察したTEM写真である。 図11は、質量パーセント組成と濁度との関係を示す図である。 図12は、SLP−MSE混合系をSLPとMSEとの質量分率(Ws)を変化させて観察した写真である。 図13、静置法によるエマルションの安定性をエマルションの外観で示す写真である。 図14は、静置法によるエマルションの安定性をエマルションの外観で示す写真である。 図15は、静置法によるエマルションの安定性をエマルションの外観で示す写真である。 図16は、静置法によるエマルションの安定性をエマルションの外観で示す写真である。 図17は、静置法によるエマルションの安定性をエマルションの外観で示す写真である。 図18は、SLPとMSEとの質量分率(Ws)を0.5とした場合のXRD測定の結果を示す図である。 図19は、SLPとMSEとの質量分率(Ws)を0.6とした場合のXRD測定の結果を示す図である。 図20は、SLPとMSEとの質量分率(Ws)を0.7とした場合のXRD測定の結果を示す図である。 図21は、SLP−MSEのWs=0.6によるエマルションを用いた場合の油の濃度とSLP−MSE混合液晶膜厚との関係を示す図である。 図22は、分散液の形状の違いによる油の濃度と粒子径の変化を示す図である。 図23は、静置法による安定性をエマルションの外観で示す写真である。 図24は、静置法による安定性をエマルションの外観で示す写真である。 図25は、静置法による安定性をエマルションの外観で示す写真である。 図26は、SLP−MSE混合液晶膜変化を調べるためのXRD測定の結果を示す図である。 図27は、経日30日のXRD測定の結果を示す図である。 図28は、図16で創製したエマルションを10倍に希釈し、粒子径と外観観察を行った結果を示す図である。

Claims (7)

  1. 可食性油にリン脂質と脂肪酸エステルとを混合させた混合液晶を主成分とする乳化分散剤を必須成分として含むことを特徴とする可食性エマルション。
  2. 前記混合液晶は、大豆リン脂質と脂肪酸エステルを混合させて形成されるものであることを特徴とする請求項1記載の可食性エマルション。
  3. 前記脂肪酸エステルは脂肪酸ショ糖エステルであり、前記大豆リン脂質と前記脂肪酸ショ糖エステルの質量分率は、前記大豆リン脂質の質量をM1、前記脂肪酸ショ糖エステルの質量をM2、質量分率WsをM2/(M1+M2)とすると、0.1≦Ws<0.8の範囲に設定されることを特徴とする請求項2記載の可食性エマルション。
  4. 重量比が前記リン脂質0.05〜20%、前記糖エステル0.005〜8.0%、可食性油10〜90%、水バランスで組成されることを特徴とする請求項1記載の可食性エマルション。
  5. 前記可食性油は、大豆油、米絞り油、オリーブ油、菜種油、機能性添加油であることを特徴とする請求項1記載の可食性エマルション。
  6. 前記脂肪酸エステルは、グリセリン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、又はプロピレングリコール脂肪酸エステルであることを特徴とする請求項2記載の可食性エマルション。
  7. リン脂質と脂肪酸エステルとを所定の質量分率となるように混合し、リン脂質の重量比が所定の重量パーセントとなるように水を加えて分散させ、この分散液を水相とし、油相の重量比が所定の重量パーセントとなるようにエマルションを調製することを特徴とする可食性エマルションの製造方法。
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