イオントフォレーシス装置は一般に、プラス又はマイナスのイオンに解離した薬剤イオンを保持する作用側電極構造体と、作用側電極構造体の対極の役割を有する非作用側電極構造体を備えており、これら両構造体を生体皮膚に当接させた状態で、作用側電極構造体に薬剤イオンと同一極性の電圧を印加することにより薬剤イオンが生体内に投与される。
特許文献1は、薬剤の投与効率が高く、通電時における薬剤の分解を防止できるイオントフォレーシス装置を開示している。
図5は、特許文献1に開示されるイオントフォレーシス装置の構成を示す説明図である。
図示されるように、特許文献1のイオントフォレーシス装置は、電源130から第1導電型の電圧を印加される電極111、電解液を保持する電解液保持部112、第2導電型のイオン交換膜113、第1導電型の薬剤イオンを含む薬剤液を保持する薬剤液保持部114及び第1導電型のイオン交換膜115を有する作用側電極構造体110と、電源130から第2導電型の電圧を印加される電極121、電解液を保持する電解液保持部122、第1導電型のイオン交換膜123、電解液を保持する電解液保持部124及び第2導電型のイオン交換膜125を有する非作用側電極構造体120とを備えている。
このイオントフォレーシス装置では、薬剤液保持部114と皮膚の間にイオン交換膜115が介在するため、生体表面又は生体内に存在するイオンであって、薬剤イオンの反対導電型に荷電したイオン(以下、「生体対イオン」という)の薬剤液保持部114への移行が遮断される。従って、生体対イオンの移動により消費される電流量が低減され、その結果、薬剤イオンの投与効率が上昇する。また、薬剤イオンの電解液保持部112への移行はイオン交換膜113により遮断されるため、通電の際に薬剤が電極111の近傍で分解することが防止される。
本願出願人は、特許文献1のイオントフォレーシス装置における作用側電極構造体110を更に改良したイオントフォレーシス装置を案出し、これを米国特許仮出願第60/693668号(以下、「出願1」という)として出願している。
図6(A)は、出願1において一実施形態として開示される作用側電極構造体210を示す説明図である。
図示されるように、作用側電極構造体210は、第1導電型の電圧を印加される電極211、電解液を保持する電解液保持部212、第2導電型のイオン交換膜213及び第1導電型のイオン交換膜215とから構成されており、イオン交換膜215には第1導電型の薬剤イオンがドープされている。
作用側電極構造体210を備えるイオントフォレーシス装置では、生体対イオンの移行がイオン交換膜215により遮断されるために薬剤の投与効率が上昇し、薬剤イオンの電解液保持部212への移行がイオン交換膜213により遮断されるために通電時における薬剤の分解が防止できるなど、特許文献1のイオントフォレーシス装置と同様の効果が達成される。
加えて、作用側電極構造体210を備えるイオントフォレーシス装置では、薬剤イオンが生体皮膚に最も近接して配置される部材であるイオン交換膜215に保持されるために薬剤の投与効率が更に上昇し、薬剤イオンがイオン交換膜215中のイオン交換基に結合した状態で保持されるために薬剤イオンの安定性、保存性が向上し、更に作用側電極構造体210の組み立てに際してウェットな状態での取り扱いが必要であった薬剤液保持部114が省略されているために製造工程が簡略化されるなどの追加的な効果が達成される。
本願出願人は、特許文献1のイオントフォレーシス装置の改良に係る更に他のイオントフォレーシス装置を案出し、これを特願2005−222893号(以下、「出願2」という)として出願している。
図6(B)、(C)は、出願2において実施形態として開示される作用側電極構造体310及び非作用側電極構造体320を示す説明図である。
図示されるように作用側電極構造体310は、第1導電型の電圧を印加される電極311、電解液を保持する電解液保持部312、第1導電型のイオン交換膜313、第2導電型のイオン交換膜313′、第1導電型の薬剤イオンを含む薬剤液を保持する薬剤液保持部314及び第1導電型のイオン交換膜315から構成されており、非作用側電極構造体320は、第2導電型の電圧を印加される電極321、電解液を保持する電解液保持部322、第2導電型のイオン交換膜323、第1導電型のイオン交換膜323′、電解液を保持する電解液保持部324及び第2導電型のイオン交換膜325から構成されている。
作用側電極構造体310を備えるイオントフォレーシス装置では、イオン交換膜313′、315を備えるが故に、薬剤の投与効率が上昇し、通電時における薬剤の分解が防止されるなど、特許文献1のイオントフォレーシス装置と同様の効果が達成される。
加えて作用側電極構造体310では、電解液保持部312と薬剤液保持部314の間に反対導電型の2つのイオン交換膜313、313′が配置されているために、装置の保存中における電解液保持部312と薬剤液保持部314の間でのイオンの移行を遮断できる。従って、電解液保持部312の第2導電型のイオンが薬剤液保持部314に移行することに起因する装置の保存中における薬剤の変質を防止できるという追加的な効果が達成される。
非作用側電極構造体320を備えるイオントフォレーシス装置では、電解液保持部322と電解液保持部324の間に反対導電型の2つのイオン交換膜323、323′が配置されているために、装置の保存中における2つの電解液保持部322、324間でのイオンの移行を遮断できる。従って、電解液保持部322に電極反応の抑止や緩衝効果に優れる電解液を使用し、電解液保持部324に生体への安全性の高い電解液を使用するなど、それぞれに異なる組成の電解液を使用した場合に、両電解液保持部の電解液が装置の保存中に混合してしまうことを防止することができる。
国際公開第03/037425号パンフレット
本発明は、出願1、2に開示されるイオントフォレーシス装置と同様の効果が達成されることに加えて、製造工程の簡略化という追加的な効果を達成することが可能なイオントフォレーシス装置を提供することをその目的とする。
本発明は、出願1、2に開示されるイオントフォレーシス装置と同様の効果が達成されることに加えて、製造の自動化や大量生産化を行い易いという追加的な効果を達成することが可能なイオントフォレーシス装置を提供することをもその目的とする。
本発明は、出願1、2に開示されるイオントフォレーシス装置と同様の効果が達成されることに加えて、製造コストを低減できるという追加的な効果を達成することが可能なイオントフォレーシス装置を提供することをもその目的とする。
本発明は、出願1、2に開示されるイオントフォレーシス装置に好適に使用できる複合イオン交換膜を提供することをもその目的とする。
本発明は、第1導電型の第1イオン交換膜及び前記第1イオン交換膜に積層された第2導電型の第2イオン交換膜からなり、前記第1イオン交換膜及び前記第2イオン交換膜が一体に接合された複合イオン交換膜を有する電極構造体を備えることを特徴とするイオントフォレーシス装置であり(請求項1)、第1導電型の第1イオン交換膜及び前記第1イオン交換膜に積層された第2導電型の第2イオン交換膜からなり、前記第1イオン交換膜及び前記第2イオン交換膜が一体に接合されていることを特徴とするイオントフォレーシス用複合イオン交換膜である(請求項7)。
請求項1、7における複合イオン交換膜は、第1導電型の第1イオン交換膜と、これに積層された第2導電型の第2イオン交換膜とから構成される。従って、この複合イオン交換膜は、例えば作用側電極構造体210におけるイオン交換膜213及び第1導電型のイオン交換膜215など、出願1に開示されるイオントフォレーシス装置の作用側電極構造体を構成する部材として使用することができる。同様に、この複合イオン交換膜は、例えば作用側電極構造体310又は非作用側電極構造体320におけるイオン交換膜313及びイオン交換膜313′、或いはイオン交換膜323及びイオン交換膜323′など、出願2に開示されるイオントフォレーシス装置の作用側電極構造体又は非作用側電極構造体を構成する部材として使用することができる。
更に、請求項1、7における複合イオン交換膜は、第1イオン交換膜と第2イオン交換膜が一体に接合された構成を有していために、上記のそれぞれの場合における作用側電極構造体や非作用側電極構造体の製造工程を簡略化させることが可能であり、製造の自動化、大量生産化、或いは製造コストの低減を図ることが可能である。
上記複合イオン交換膜における第1イオン交換膜と第2イオン交換膜の接合の方法は任意である。例えば、第1、第2イオン交換膜を重ね合わせて熱圧着することにより接合し、或いは接着剤を用いて第1、第2イオン交換膜間を接合し、或いは第1又は第2イオン交換膜上において、イオン交換樹脂を塗布、硬化させて第2又は第1イオン交換膜を製膜することにより接合するなど、多様な方法で上記接合を行うことができる。
第1、第2イオン交換膜は、少なくとも電極構造体の製造中における取り扱いにより両者が容易に分離してしまわない程度の強度をもって接合されている必要がある。
本発明は、第1導電型の第1イオン交換膜、前記第1イオン交換膜に積層された半透膜及び前記半透膜に積層された第2導電型の第2イオン交換膜からなり、前記第1イオン交換膜、前記半透膜及び前記第2イオン交換膜が一体に接合された複合イオン交換膜を有する電極構造体を備えることを特徴とするイオントフォレーシス装置とすることも可能であり(請求項2)、第1導電型の第1イオン交換膜、前記第1イオン交換膜に積層された半透膜及び前記半透膜に積層された第2導電型の第2イオン交換膜からなり、前記第1イオン交換膜、前記半透膜及び前記第2イオン交換膜が一体に接合されていることを特徴とするイオントフォレーシス用複合イオン交換膜とすることも可能である(請求項8)。
請求項2、8における複合イオン交換膜は、第1導電型の第1イオン交換膜、半透膜及び第2導電型の第2イオン交換膜が積層されて構成されているために、出願1に開示されるイオントフォレーシス装置の作用側電極構造体を構成する部材として使用することができ、或いは出願2に開示されるイオントフォレーシス装置の作用側電極構造体又は非作用側電極構造体を構成する部材として使用することができる。
更に、請求項2、8における複合イオン交換膜は、第1イオン交換膜、半透膜及び第2イオン交換膜が一体に接合された構成を有しているために、上記のそれぞれの場合における作用側電極構造体や非作用側電極構造体の製造工程を簡略化させることが可能であり、製造の自動化、大量生産化、或いは製造コストの低減を図ることが可能である。
上記複合イオン交換膜における第1イオン交換膜、半透膜及び第2イオン交換膜の接合の方法は任意である。例えば、これら3つの膜を重ね合わせて熱圧着することにより接合し、或いは第1イオン交換膜と半透膜の界面、半透膜と第2イオン交換膜の界面に介在させた接着剤によりこれらを接合し、或いは半透膜の両面に、イオン交換樹脂を塗布、硬化させて第1、第2イオン交換膜を製膜することで接合するなど、多様な方法で上記接合を行うことができる。
第1イオン交換膜、半透膜及び第2イオン交換膜は、少なくとも電極構造体の製造中における取り扱いにより、それぞれが容易に分離してしまわない程度の強度をもって接合されている必要がある。
イオントフォレーシス装置は、上記の通り、生体に投与すべき薬剤を保持する作用側電極構造体と、その対極としての役割を有する非作用側電極構造体とを有することが通常であるが、その場合には、作用側電極構造体と非作用側電極構造体の少なくとも一方が上記複合イオン交換膜を備えるイオントフォレーシス装置が上記請求項1、2のイオントフォレーシス装置であり、好ましくはその双方が上記複合イオン交換膜を備えるものとすることができる。また請求項7、8の複合イオン交換膜は、上記の場合における作用側電極構造体と非作用側電極構造体の少なくとも一方に使用され、好ましくはその双方に使用される。
イオントフォレーシス装置の種類によっては、電源の両極に接続される2つの電極構造体の双方に生体に投与すべき薬剤が保持される場合があり(この場合は双方の電極構造体が、作用側電極構造体であるとともに非作用側電極構造体である)、或いは電源のそれぞれの極に複数の電極構造体が接続される場合もあるが、そのような場合は、これらの電極構造体の少なくとも一つが上記複合イオン交換膜を備えるイオントフォレーシス装置が上記請求項1、2のイオントフォレーシス装置であり、好ましくはその全てが上記複合イオン交換膜を備えるものとすることができる。また請求項7、8の複合イオン交換膜は、上記の場合における少なくとも一つの電極構造体に使用され、好ましくはその全てに使用される。
請求項1又は2の発明においては、
前記電極構造体が、
第1電極と、
前記第1電極に接触する電解液を保持する第1電解液保持部とを更に有し、
前記複合イオン交換膜が前記第1電解液保持部の前面側に配置され、
前記第1イオン交換膜が前記第2イオン交換膜の前面側に配置され、
前記第1イオン交換膜に第1導電型の薬剤イオンがドープされているものとすることもできる(請求項3)。
請求項3のイオントフォレーシス装置では、出願1に係るイオントフォレーシス装置と同様の効果が達成される。
即ち、第1イオン交換膜の作用により、生体対イオンの第1イオン交換膜側への移行が遮断されるために薬剤イオンの投与効率が向上し、第2イオン交換膜の作用により、薬剤イオンの電解液保持部への移行が遮断されるために通電時における薬剤の分解が防止され、薬剤イオンが生体皮膚に最も近接する部材である第1イオン交換膜にドープされているために薬剤の投与効率が一層上昇し、薬剤イオンが第1イオン交換膜のイオン交換基にイオン結合した状態で保持されるために薬剤イオンの安定性、保存性が向上し、ウェットな状態での取り扱いが必要となる薬剤液保持部を備えないために製造工程が簡略化されるなどの効果が達成される。
加えて、請求項3のイオントフォレーシス装置では、複合イオン交換膜が一体に接合された構成を有しているため、製造工程を更に簡略化し、製造の自動化、大量生産化を容易なものとし、製造コストを低減することが可能になるという追加的な効果が達成される。
請求項1又は2の発明においては、
前記電極構造体が、
第1電極と、
前記第1電極に接触する電解液を保持する第1電解液保持部と、
前記第1電解液保持部の前面側に配置され、第1導電型の薬剤イオンを含む薬剤液を保持する薬剤液保持部と更に備え、
前記複合イオン交換膜が前記第1電解液保持部と前記薬剤液保持部の間に配置されているものとすることもできる(請求項4)。
請求項4のイオントフォレーシス装置では、出願2に係るイオントフォレーシス装置と同様の効果が達成される。
即ち、薬剤液保持部と電解液保持部の間に第1導電型の第1イオン交換膜及び第2導電型の第2イオン交換膜を有する複合イオン交換膜が配置されるため、薬剤イオンの電解液保持部への移行、及び電解液保持部の第2導電型のイオンの薬剤液保持部への移行が遮断され、通電時における薬剤の分解や、装置の保存中における薬剤の変質が防止される。
加えて、請求項4のイオントフォレーシス装置では、上記の効果に加え、複合イオン交換膜が一体に接合された構成を有しているため、製造工程を更に簡略化し、製造の自動化、大量生産化を容易なものとし、製造コストを低減することが可能になるという追加的な効果が達成される。
本発明は、第1導電型の薬剤イオンを保持する作用側電極構造体と、
前記作用側電極構造体の対極としての非作用側電極構造体とを備えるイオントフォレーシス装置であって、
前記非作用側電極構造体が、
第2電極と、
前記第2電極に接触する電解液を保持する第2電解液保持部と、
前記第2電解液保持部の前面側に配置された電解液を保持する第3電解液保持部と、
前記第2電解液保持部と前記第3電解液保持部の間に配置された複合イオン交換膜であって、第1導電型の第1イオン交換膜及び前記第1イオン交換膜に積層された第2導電型の第2イオン交換膜からなり、前記第1イオン交換膜及び前記第2イオン交換膜が一体に接合された前記複合イオン交換膜とを有することを特徴とするイオントフォレーシス装置とすることもできる(請求項5)。
請求項5のイオントフォレーシス装置では、第2、第3電解液保持部の間に第1導電型の第1イオン交換膜及び第2導電型の第2イオン交換膜を有する複合イオン交換膜が配置されるため、両電解液保持部の電解液に含まれるイオンの両電解液保持部間での移行が遮断される。従って、第2電解液保持部に電極反応の抑止や緩衝効果に優れる電解液を使用し、第3電解液保持部に生体への安全性の高い電解液を使用するなど、両電解液保持部に異なる組成の電解液を使用した場合に、両電解液保持部の電解液が装置の保存中に混合してしまうことが防止される。
本発明は、第1導電型の薬剤イオンを保持する作用側電極構造体と、
前記作用側電極構造体の対極としての非作用側電極構造体とを備えるイオントフォレーシス装置であって、
前記非作用側電極構造体が、
第2電極と、
前記第2電極に接触する電解液を保持する第2電解液保持部と、
前記第2電解液保持部の前面側に配置された電解液を保持する第3電解液保持部と、
前記第2電解液保持部と前記第3電解液保持部の間に配置された複合イオン交換膜であって、第1導電型の第1イオン交換膜、前記第1イオン交換膜に積層された半透膜及び前記半透膜に積層された第2導電型の第2イオン交換膜からなり、前記第1イオン交換膜、前記半透膜及び前記第2イオン交換膜が一体に接合された前記複合イオン交換膜とを有することを特徴とするイオントフォレーシス装置とすることも可能である(請求項6)。
請求項6のイオントフォレーシス装置では、請求項5と同様の効果が達成されることに加え、第1、第2イオン交換膜の間に半透膜が配置されているために、通電の際に第1、第2イオン交換膜の間で水の電気分解を生じることが防止される。
本明細書において「薬剤」の語は、調製されているか否かに関わらず、一定の薬効又は薬理作用を有し、病気の治療、回復又は予防、健康の増進又は維持、或いは美容の増進又は維持などの目的で生体に適用される物質の意味で用いている。
本明細書における「薬剤イオン」は、薬剤がイオン解離することにより生じるイオンであって、薬効又は薬理作用を担うイオンを意味し、「薬剤対イオン」は、薬剤イオンの対イオンを意味する。薬剤の薬剤イオンへの解離は、薬剤を水、アルコール類、酸、アルカリなどの溶媒に溶解させることにより生じるものであっても良く、更に電圧の印加やイオン化剤の添加等を行うことにより生じるものであっても良い。
本明細書における「薬剤液」は、薬剤を溶解させた液体状の溶液だけでなく、溶媒中において薬剤の少なくとも一部が薬剤イオンに解離する限り、薬剤を溶媒に懸濁又は乳濁させたもの、軟膏状又はペースト状に調整されたものなど各種の状態のものを含む。
本明細書における「皮膚」は、イオントフォレーシスによる薬剤投与を行い得る生体表面を意味しており、例えば口腔内の粘膜なども含まれる。「生体」は人又は動物を意味する。
本発明における「第1導電型」は、プラス又はマイナスの電気極性を意味し、「第2導電型」は第1導電型と反対の導電型(マイナス又はプラス)を意味する。
本発明における電解液保持部の電解液に含まれる第1電解イオン、第2電解イオンは必ずしもそれぞれ単一種類である必要はなく、いずれか一方又は双方が複数種類であっても構わない。同様に、薬剤液保持部に含まれる薬剤イオン、或いは第1イオン交換膜にドープされる薬剤イオンは必ずしも単一種類である必要はなく、複数種類であっても構わない。
イオン交換膜には、イオン交換樹脂を膜状に形成したものの他、イオン交換樹脂をバインダーポリマー中に分散させ、これを加熱成型などにより製膜することで得られる不均質イオン交換膜や、イオン交換基を導入可能な単量体、架橋性単量体、重合開始剤などからなる組成物や、イオン交換基を導入可能な官能基を有する樹脂を溶媒に溶解させたものを、布や網、或いは多孔質フィルムなどの基材に含浸充填させ、重合又は溶媒除去を行った後にイオン交換基の導入処理を行うことにより得られる均質イオン交換膜など各種のものが知られている。本発明のイオン交換膜には、これらの任意のイオン交換膜が使用できるが、これらのうち、多孔質フィルムの孔中にイオン交換樹脂を充填したタイプのイオン交換膜が特に好適に使用される。
より具体的には、カチオン交換膜としては、(株)トクヤマ製ネオセプタCM−1、CM−2、CMX、CMS、CMBなどの陽イオン交換基が導入されたイオン交換膜が使用でき、アニオン交換膜としては、例えば、(株)トクヤマ製ネオセプタAM−1、AM−3、AMX、AHA、ACH、ACSなどの陰イオン交換基が導入されたイオン交換膜を使用できる。
本明細書における「第1導電型のイオン交換膜」は、第1導電型のイオンを選択的に通過させる機能を有するイオン交換膜、即ち、第1導電型のイオンが、第2導電型のイオンよりも通過し易いイオン交換膜を意味する。第1導電型がプラスである場合には「第1導電型のイオン交換膜」はカチオン交換膜であり、第1導電型がマイナスである場合には「第1導電型のイオン交換膜」はアニオン交換膜である。
同様に、「第2導電型のイオン交換膜」は、第2導電型のイオンを選択的に通過させる機能を有するイオン交換膜、即ち、第2導電型のイオンが、第1導電型のイオンよりも通過し易いイオン交換膜を意味する。第2導電型がプラスである場合には「第2導電型のイオン交換膜」はカチオン交換膜であり、第2導電型がマイナスである場合には「第2導電型のイオン交換膜」はアニオン交換膜である。
カチオン交換膜に導入される陽イオン交換基としては、スルホン酸基、カルボン酸基、ホスホン酸基等を挙げることができ、強酸性基であるスルホン酸基を使用することにより、輸率の高いカチオン交換膜を得ることができるなど、導入する陽イオン交換基の種類によってイオン交換膜の輸率を制御することが可能である。
アニオン交換膜に導入される陰イオン交換基としては、1〜3級アミノ基、4級アンモニウム基、ピリジル基、イミダゾール基、4級ピリジニウム基、4級イミダゾリウム基等を挙げることができ、強塩基性基である4級アンモニウム基や4級ピリジニウム基を使用することにより、輸率の高いアニオン交換膜を得ることができるなど、導入する陰イオン交換基の種類によってイオン交換膜の輸率を制御することが可能である。
陽イオン交換基の導入処理としては、スルホン化、クロロスルホン化、ホスホニウム化、加水分解などの種々の手法が、また陰イオン交換基の導入処理としては、アミノ化、アルキル化などの種々の手法が知られているが、このイオン交換基の導入処理の条件を調整することにより、イオン交換膜の輸率を調整することが可能である。
また、イオン交換膜中のイオン交換樹脂量や膜のポアサイズなどによってもイオン交換膜の輸率を調整することが可能である。例えば、多孔質フィルム中にイオン交換樹脂が充填されたタイプのイオン交換膜の場合にあっては、0.005〜5.0μm、より好ましくは0.01〜2.0μm、最も好ましくは0.02〜0.2μmの平均孔径(バブルポイント法(JIS K3832−1990)に準拠して測定される平均流孔径)の多数の小孔が、20〜95%、より好ましくは30〜90%、最も好ましくは30〜60%の空隙率で形成された5〜140μm、より好ましくは10〜120μm、最も好ましくは15〜55μmの膜厚を有する多孔質フィルムを使用し、5〜95質量%、より好ましくは10〜90質量%、特に好ましくは20〜60質量%の充填率でイオン交換樹脂を充填させたイオン交換膜を使用することができるが、これらの多孔質フィルムが有する小孔の平均孔径、空隙率、イオン交換樹脂の充填率によってもイオン交換膜の輸率を調整することが可能である。
本明細書において第1導電型又は第2導電型のイオン交換膜について述べる「イオンの通過の遮断」は、必ずしも一切のイオンを通過させないことを意味するのではなく、例えば、ある程度の速度をもってイオンの通過が生じる場合であっても、その程度が小さいが故に実用上十分な期間に渡って装置を保存しても通電の際に薬剤の電極近傍での変質が生じない程度に薬剤イオンの通過が抑制され、或いは薬剤の投与効率を十分に高めることができる程度に生体対イオンの通過が抑制される場合などが含まれる。
同様に、本明細書において第1導電型又は第2導電型のイオン交換膜について述べる「イオンの通過の許容」は、イオンの通過に一切の制約が生じないことを意味するのではなく、イオンの通過がある程度制限される場合であっても、反対導電型のイオンに比較して十分に高い速度又は量をもって通過させる場合を含む。
本明細書において半透膜や接着剤について述べる「イオン又は分子の通過の遮断」、「イオン又は分子の通過の許容」も上記と同様であり、イオンや分子を一切通過させないことや、イオンや分子の通過に一切の制限を生じないことを意味するものではない。
以下、図面に基づいて本発明の実施形態を説明する。
図1は、本発明に係るイオントフォレーシス装置Xの概略構成を示す説明図である。
なお、以下では、説明の便宜上、薬効成分がプラスの薬剤イオンに解離する薬剤(例えば、塩酸リドカインや塩酸モルヒネなど)を投与するためのイオントフォレーシス装置を例として説明するが、薬効成分がマイナスの薬剤イオンに解離する薬剤(例えば、アスコルビン酸など)を投与するためのイオントフォレーシス装置の場合は、以下の説明における電源の極、各イオン交換膜の導電型、及びドーピング層やカチオン交換膜にドープされるイオンの導電型を逆転させることで、以下の実施態様と実質的に同一の効果を達成できるイオントフォレーシス装置を構成することができる。
図示されるように、イオントフォレーシス装置Xは、電源30と、電源30のプラス極と給電線31により接続された作用側電極構造体10及び電源30のマイナス極と給電線32により接続された非作用側電極構造体20から構成されている。
作用側電極構造体10及び非作用側電極構造体20は、その内部に以下に述べる各種の構造を収容できる空間が形成され、下面16b、26bが開放された容器16、26を備えている。この容器16、26はプラスチックなどの任意の素材から形成することができるが、好ましくは内部からの水分の蒸発や外部からの異物の侵入を防ぐことができ、生体の動きや皮膚の凹凸に追随できる柔軟な素材から形成される。また容器16、26の下面16b、26bには、イオントフォレーシス装置Xの保存中における水分の蒸発や異物の混入を防ぐための適宜の材料からなる取り外し可能なライナーを貼付することができ、容器16、26の下端縁16e、26eには、薬剤投与の際に皮膚との密着性を高めるための粘着剤層を設けることが可能である。
電源30としては、電池、定電圧装置、定電流装置、定電圧・定電流装置などを使用することができるが、0.01〜1.0mA/cm2、好ましくは、0.01〜0.5mA/cm2の範囲で電流調整が可能であり、50V以下、好ましくは、30V以下の安全な電圧条件で動作する定電流装置を使用することが好ましい。
図2(A)、(B)は、上記イオントフォレーシス装置Xの作用側電極構造体10として使用することができる作用側電極構造体10a、10bの構成を示す断面説明図である。
作用側電極構造体10aは、電源30の給電線31に接続される電極11と、電極11に接触する電解液を保持する電解液保持部12と、電解液保持部12の前面側に配置された複合イオン交換膜15aを有している。
複合イオン交換膜15aは、電解液保持部12の電解液に接触して配置されるアニオン交換膜15Aと、アニオン交換膜15Aの前面側に配置され、プラスの薬剤イオンがドープされたカチオン交換膜15Cから構成されており、アニオン交換膜15Aとカチオン交換膜15Cは接合されている。
アニオン交換膜15Aとカチオン交換膜15Cの接合方法は任意であるが、その例としては、熱圧着により両者を接合する方法、アニオン交換膜15A上においてカチオン交換樹脂を塗布、硬化させてカチオン交換膜15Cを製膜し、或いはカチオン交換膜15C上においてアニオン交換樹脂を塗布、硬化させてアニオン交換膜15Aを製膜することで接合する方法、アニオン交換膜15Aとカチオン交換膜15Cの間に接着剤を塗布し、この接着剤により接合する方法などを挙げることができる。
カチオン交換膜15Cへの薬剤イオンのドープは、薬剤イオンを含む薬剤液にカチオン交換膜15Cを浸漬することにより行うことができる。カチオン交換膜15Cへの薬剤イオンのドープ量は、このときの薬剤液中の薬剤イオンの濃度や、浸漬時間、浸漬回数などにより制御することができる。カチオン交換膜15Cへの薬剤イオンのドープは、アニオン交換膜15Aとの接合の前後のいずれの段階において行っても構わない。
作用側電極構造体10aでは、後述のように、電極11にプラスの電圧を印加した際に、電解液保持部12のプラスイオンがアニオン交換膜15Aを通過できることが必要であるめ、アニオン交換膜には、例えば0.7〜0.98など、ある程度輸率の低いものが使用される。
ここでのアニオン交換膜15Aの輸率は、電解液保持部12の電解液と、適当な濃度の薬剤イオンを含む薬剤液(例えば、上記カチオン交換膜15Cへの薬剤イオンのドープに使用した薬剤液)の間にアニオン交換膜15Aを配置した状態で、電解液側に第1導電型の電圧を印加したときにアニオン交換膜15Aを介して運ばれる総電荷のうち、薬剤液中のマイナスイオンがアニオン交換膜15Aを通過することにより運ばれる電荷量の割合として定義される。
同様の理由で、アニオン交換膜15Aとカチオン交換膜15Cの接合に接着剤を用いる場合には、その接着剤が、少なくとも電解液保持部12の電解液中のプラスイオンを通過させる特性を有していることが必要である。
電解液保持部12は、任意の電解質を溶解した電解液を保持することができるが、水の電気分解よりも酸化電位の低い電解質を使用し、或いは複数種類の電解質を溶解した緩衝電解液とすることで、通電の際に酸素ガスや水素イオンが発生することを抑制し、或いは水素イオンの発生によるpH変化を抑制することができる。
また電解液保持部12のプラスイオンの移動度が、カチオン交換膜15Cにドープされた薬剤イオンより大きい場合には、そのプラスイオンが薬剤イオンに優先して生体に移行して薬剤イオンの投与効率を低下させる可能性があるため、電解液保持部12の電解液は、薬剤イオンよりも移動度の大きいプラスイオンを含まない組成とすることが好ましい。
電解液保持部12は、電解液を液体状体で保持することができ、ガーゼ、濾紙、水性ゲルなどの適当な吸収性の担体に含浸させて保持することもできる。
作用側電極構造体10aを備えるイオントフォレーシス装置Xでは、出願1に開示されるイオントフォレーシス装置と同様のメカニズムにより薬剤イオンの投与が行われる。
即ち、カチオン交換膜15Cを生体皮膚に当接させて電極11にプラスの電圧を印加することにより、カチオン交換膜15Cにドープされた薬剤イオンが生体に移行する。また、電解液保持部12のプラスイオンがアニオン交換膜15Aを介してカチオン交換膜15Cに移行し、生体に移行した薬剤イオンを置換する。
作用側電極構造体10aを備えるイオントフォレーシス装置Xは、出願1に開示されるイオントフォレーシス装置と同様、下記(1)〜(4)の効果を達成することができる。
(1)保存中における薬剤イオンの電解液保持部12への移行がアニオン交換膜15Aにより遮断されるため、通電時における薬剤イオンの電極11近傍での分解を防止することができる。なお、上記のようにある程度輸率の低い(輸率が0.7〜0.98の)アニオン交換膜15Aを使用した場合でも、保存中の(無通電の状態での)薬剤イオンの電解液保持部12への移行は十分に抑制することができる。
(2)薬剤の投与に際して、カチオン交換膜15Cは、マイナスに帯電した生体対イオンの侵入を遮断するため、薬剤の投与効率を上昇させることができる。
(3)薬剤イオンが生体皮膚に最も近接して配置される部材であるカチオン交換膜15Cにドープされているため、薬剤の投与効率を更に上昇させることができる。
(4)薬剤イオンは、カチオン交換膜15C中のイオン交換基にイオン結合した状態で保持されるために、変質などに対する安定性、保存性が向上する。従って、装置の保存期間を延長でき、或いは安定化剤、抗菌剤、防腐剤などが不要となり、又はその使用量を低減させることができる。
作用側電極構造体10aを備えるイオントフォレーシス装置Xでは更に、アニオン交換膜15Aとカチオン交換膜15Cが接合により一体化された複合イオン交換膜15aが使用されているため、作用側電極構造体10aの組み立て作業を容易化でき、製造の自動化、大量生産化が容易となり、製造コストを低減することが可能になるという追加的な効果が達成される。
なお、作用側電極構造体10aでは、通電の際にアニオン交換膜15Aとカチオン交換膜15Cの間において水の電気分解が生じる場合があり、その場合には、薬剤の投与効率の低下や生体界面におけるpH変動を生じることになるため、上記水の電気分解が生じないように、或いはこれを許容範囲に納めることができるように通電条件、或いはアニオン交換膜15A、カチオン交換膜15Cの輸率などを調整することが望ましい。
作用側電極構造体10bは、複合イオン交換膜15aに代えて、複合イオン交換膜15bを備える点を除いて作用側電極構造体10aと同一の構成を有している。
複合イオン交換膜15bは、アニオン交換膜15Aと、アニオン交換膜15Aの前面側に配置された半透膜15Sと、半透膜15Sの前面側に配置され、薬剤イオンがドープされたカチオン交換膜15Cとからなり、アニオン交換膜15A、半透膜15S及びカチオン交換膜15Cは一体に接合されている。
この接合は、複合イオン交換膜15aについて上記したと同一の方法により行うことができる。即ち、熱圧着による接合、半透膜15S上におけるアニオン交換膜15A及び/又はカチオン交換膜15Cの製膜、或いは接着剤による接合などの方法を採ることができる。
カチオン交換膜15Cへの薬剤イオンのドープは、複合イオン交換膜15aについて上記したと同様の方法で行うことができる。
半透膜15Sには、電解液保持部12の電解液中のプラスイオンの通過を許容できる特性を有する任意の半透膜を使用することができ、例えば、アクリル系、ポリウレタン系などの水性ゲルや、濾紙、分画分子量膜などの濾過膜を使用することができる。
作用側電極構造体10bは、作用側電極構造体10aについて上記したと同様の効果を達成できることに加え、アニオン交換膜15Aとカチオン交換膜15Cが半透膜15Sにより離間されているために、アニオン交換膜15Aとカチオン交換膜15Cの間での水の電気分解の発生を防止又は抑制できるという追加的な効果が達成される。
図3(A)〜(F)は、上記イオントフォレーシス装置Xの作用側電極構造体10として使用することができる他の態様の作用側電極構造体10c〜10hの構成を示す断面説明図である。
作用側電極構造体10cは、電源30の給電線31に接続される電極11と、電極11に接触する電解液を保持する電解液保持部12と、その前面側に配置された複合イオン交換膜13cと、その前面側に配置された薬剤液を保持する薬剤液保持部14とを備えている。
複合イオン交換膜13cは、電解液保持部12の電解液に接触して配置されるアニオン交換膜13Aと、薬剤液保持部14の薬剤液に接触して配置されるカチオン交換膜13Cから構成され、アニオン交換膜13Aとカチオン交換膜13Cは、複合イオン交換膜15aと同様の態様で一体に接合されている。
複合イオン交換膜13cは、通電時に電解液保持部12のプラスイオン及び/又は薬剤液保持部14のマイナスイオンの通過を許容する特性を有していることが必要であるため、アニオン交換膜13A、カチオン交換膜13Cの少なくとも一方には、例えば0.7〜0.98など、ある程度輸率の低いものが使用される。
ここでのアニオン交換膜13Aの輸率は、電解液保持部12の電解液と、薬剤液保持部14の薬剤液の間にアニオン交換膜13Aを配置した状態で、電解液側にプラスの電圧を印加したときにアニオン交換膜13Aを介して運ばれる総電荷のうち、薬剤液中のマイナスイオンがアニオン交換膜13Aを通過することにより運ばれる電荷量の割合として定義され、カチオン交換膜13Cの輸率は、電解液保持部12の電解液と、薬剤液保持部14の薬剤液の間にカチオン交換膜13Cを配置した状態で、電解液側にプラスの電圧を印加したときにカチオン交換膜13Cを介して運ばれる総電荷のうち、電解液中のプラスイオンがカチオン交換膜13Cを通過することにより運ばれる電荷量の割合として定義される。
電解液保持部12は、任意の電解質を溶解した電解液を保持することができるが、水の電気分解よりも酸化電位の低い電解質を使用し、或いは複数種類の電解質を溶解した緩衝電解液とすることで、通電の際に酸素ガスや水素イオンが発生することを抑制し、或いは水素イオンの発生によるpH変化を抑制することができる。
薬剤液保持部14には、薬効成分がプラスの薬剤イオンに解離する薬剤の溶液が薬剤液として保持される。薬剤液保持部14は、薬剤液を液体状態で保持することができ、或いはガーゼ、濾紙、水性ゲルなどの適当な吸収性の担体に含浸させて保持することもできる。
作用側電極構造体10cを備えるイオントフォレーシス装置Xでは、出願2に開示されるイオントフォレーシス装置と同様、薬剤液保持部14を生体皮膚に当接させた状態で電極11にプラスの電圧を印加することで、薬剤イオンの生体への投与が行われる。
作用側電極構造体10cを備えるイオントフォレーシス装置Xは、出願2に開示されるイオントフォレーシス装置と同様の効果を達成することができる。
即ち、電解液保持部12と薬剤液保持部14の間に反対導電型の2つのイオン交換膜13A、13Cが配置されているために、装置の保存中における薬剤液保持部14の薬剤イオンの電解液保持部12への移行、及び電解液保持部12のマイナスイオンの薬剤液保持部14への移行が遮断される。従って、通電の際の電極11近傍における薬剤の分解が防止され、装置の保存中における薬剤液保持部14中での薬剤の変質を防止できる。
なお、上記のような輸率の低い(輸率が0.7〜0.98の)アニオン交換膜13A又はカチオン交換膜13Cを使用した場合でも、装置の保存中における薬剤イオン又は電解液保持部12のマイナスイオンの移行は十分に抑制することができる。
更に、作用側電極構造体10cを備えるイオントフォレーシス装置Xでは、アニオン交換膜13Aとカチオン交換膜13Cが接合により一体化された複合イオン交換膜13cが使用されているため、作用側電極構造体10cの組み立て作業を容易化でき、製造の自動化、大量生産化が容易となり、製造コストを低減することが可能になるという追加的な効果が達成される。
なお、作用側電極構造体10cでは、アニオン交換膜13Aとカチオン交換膜13Cの間において水の電気分解が生じる場合があり、その場合には、薬剤の投与効率の低下や生体界面におけるpH変動を生じることになるため、上記水の電気分解が生じないように、或いはこれを許容範囲に納めることができるように通電条件、或いはアニオン交換膜13A、カチオン交換膜13Cの輸率などを調整することが望ましい。
作用側電極構造体10dは、複合イオン交換膜13cに代えて、複合イオン交換膜13dを備える点を除いて作用側電極構造体10cと同一の構成を有している。
複合イオン交換膜13dは、アニオン交換膜13Aと、アニオン交換膜13Aの前面側に配置された半透膜13Sと、半透膜13Sの前面側に配置されたカチオン交換膜13Cとからなり、アニオン交換膜13A、半透膜13S及びカチオン交換膜13Cは一体に接合されている。
この接合は、複合イオン交換膜15aについて上記したと同一の方法により行うことができる。
アニオン交換膜13A、カチオン交換膜13Cには、複合イオン交換膜13cと同様のアニオン交換膜13A、カチオン交換膜13Cを使用することができる。
半透膜13Sには、少なくとも電解液保持部12の電解液中のプラスイオンを通過させる特性を有している限り任意の膜を使用することができ、例えば、アクリル系、ポリウレタン系などの水性ゲルや、濾紙、分画分子量膜などの濾過膜を使用することができる。
作用側電極構造体10dは、作用側電極構造体10cについて上記したと同様にして使用され、同様の効果を達成できる。更に作用側電極構造体10dでは、アニオン交換膜13Aとカチオン交換膜13Cが半透膜13Sにより離間されているために、アニオン交換膜13Aとカチオン交換膜13Cの間での水の電気分解の発生を防止又は抑制できるという追加的な効果が達成される。
作用側電極構造体10e、10fは、複合イオン交換膜13e、13fの向きが作用側電極構造体10c、10dの場合と逆になっている点を除いて、作用側電極構造体10c、10dと同様の構成を有している。
即ち、作用側電極構造体10e、10fでは、カチオン交換膜13Cが電解液保持部12の電解液に接触するように配置され、アニオン交換膜13Aが薬剤液保持部14の薬剤液に接触するように配置されている。
作用側電極構造体10e、10fを備えるイオントフォレーシス装置Xは、作用側電極構造体10c、10dを備えるイオントフォレーシス装置Xについて上記したと同様の効果を達成する。
加えて作用側電極構造体10e、10fでは、電極11に印可される電圧(プラス)と同一導電型のイオン交換膜(カチオン交換膜13C)が電極11に近い側に配置され、その反対導電型のイオン交換膜(アニオン交換膜13A)が電極11に遠い側に配置されているために、作用側電極構造体10c、10dの場合よりもアニオン交換膜13Aとカチオン交換膜13Cの間での水の電気分解が生じ難くなるという追加的な効果が達成される。
作用側電極構造体10g、10hは、それぞれ作用側電極構造体10e、10fと同様の構成を有することに加えて、薬剤液保持部14の前面側にカチオン交換膜15を有している。
作用側電極構造体10g、10hを備えるイオントフォレーシス装置Xでは、カチオン交換膜15を生体皮膚に当接させた状態で電極11にプラスの電圧を印加することで、薬剤イオンの生体への投与が行われる。
作用側電極構造体10g、10hを備えるイオントフォレーシス装置Xは、作用側電極構造体10e、10fを備えるイオントフォレーシス装置Xについて上記した効果を達成できることに加え、カチオン交換膜15により生体対イオンの薬剤液保持部14への移行が遮断されるために、薬剤の投与効率が上昇するという追加的な効果を達成することができる。
なお、図示はしないが、作用側電極構造体10c、10dの薬剤液保持部14の前面側にカチオン交換膜を配置した作用側電極構造体(この作用側電極構造体を、それぞれ「作用側電極構造体10i」、「作用側電極構造体10j」という)も同様に、作用側電極構造体10c、10dについて上記した効果に加え、薬剤の投与効率の上昇という追加的な作用効果が達成される。
作用側電極構造体10c、10e、10gにおいては、アニオン交換膜13A及びカチオン交換膜13Cのいずれか一方が、電解液保持部12中の電解質の分子及び/又は薬剤液保持部14中の薬剤の分子の通過を遮断できる分子量分画特性を有するものとすることが可能であり、これにより、装置の保存中に未解離の電解質分子及び/又は薬剤分子がそれぞれ薬剤液保持部14又は電解液保持部12に移行し、その結果、薬剤液保持部14における薬剤の変質や通電の際における電極11近傍での薬剤の分解を生じることを防止することができる。
作用側電極構造体10d、10f、10hにおいても、アニオン交換膜13A、半透膜13S及びカチオン交換膜13Cのいずれかが、電解液保持部12中の電解質の分子及び/又は薬剤液保持部14中の薬剤の分子の通過を遮断できる分子量分画特性を有するものとすることが可能であり、これにより上記と同様の効果を達成できる。
図4(A)〜(D)は、イオントフォレーシス装置Xの非作用側電極構造体20として使用することができる非作用側電極構造体20a〜20dの構成を示す断面説明図である。
非作用側電極構造体20aは、電源30の給電線32に接続される電極21と、電極21に接触する電解液を保持する電解液保持部22と、その前面側に配置され、複合イオン交換膜13eと同様の構成を有する複合イオン交換膜23aと、その前面側に配置された電解液を保持する電解液保持部24と、その前面側に配置されたアニオン交換膜25を備えている。
電解液保持部22、24には任意の組成の電解液を保持することが可能であるが、電解液保持部22、24にそれぞれ異なる組成の電解液を保持させることで、好ましい性能を有するイオントフォレーシス装置を提供できる。例えば、電解液保持部22には、水の電気分解よりも酸化電位の低い電解質を使用し、或いは複数種類の電解質を溶解した緩衝電解液を使用するなど、電極21における電極反応の防止機能やpH変動に対する抑制機能に優れる電解液を使用する一方、電解液保持部24には、生体への安全性に優れる電解液を使用することが可能である。
そして、そのような異なる組成の電解液を電解液保持部22、24が保持されている場合においては、電解液保持部22と電解液保持部24の間に反対導電型の2つのイオン交換膜23A及び23Cを有する複合イオン交換膜23aを配置することにより、装置の保存中における両電解液保持部22、24中の電解液が混合してしまうことが防止できるという効果が達成される。
更に、非作用側電極構造体20aを備えるイオントフォレーシス装置Xでは、アニオン交換膜23Aとカチオン交換膜23Cが接合により一体化された複合イオン交換膜23aが使用されているため、非作用側電極構造体20aの組み立て作業を容易化でき、製造の自動化、大量生産化が容易となり、製造コストを低減することが可能になるという追加的な効果が達成される。
非作用側電極構造体20bは、複合イオン交換膜23aに代えて、複合イオン交換膜23bを備える点を除いて非作用側電極構造体20aと同一の構成を有している。この複合イオン交換膜23bは、複合イオン交換膜13fと同様の構成である。
非作用側電極構造体20bは、非作用側電極構造体20aについて上記したと同様の効果を達成できることに加え、アニオン交換膜13Aとカチオン交換膜13Cが半透膜13Sにより離間されているために、アニオン交換膜13Aとカチオン交換膜13Cの間での水の電気分解を生じ難くできるという追加的な効果が達成される。
非作用側電極構造体20c、20dは、複合イオン交換膜23c、23dの向きが非作用側電極構造体20a、20bの場合と逆になっている点を除いて、非作用側電極構造体20a、20bと同様の構成を有している。
即ち、非作用側電極構造体20c、20dでは、アニオン交換膜23Aが電解液保持部22の電解液に接触するように配置され、カチオン交換膜13Cが電解液保持部24の電解液に接触するように配置されている。
非作用側電極構造体20c、20dを備えるイオントフォレーシス装置Xは、非作用側電極構造体20a、20bを備えるイオントフォレーシス装置Xについて上記したと同様の効果を達成することに加え、作用側電極構造体10e、10fについて上記したと同様の理由により、アニオン交換膜23Aとカチオン交換膜23Cの間での水の電気分解が生じ難くなるという追加的な効果が達成される。
非作用側電極構造体20a、20cにおいては、アニオン交換膜23A及びカチオン交換膜23Cのいずれか一方が、電解液保持部22中の電解質の分子及び/又は電解液保持部24中の電解質の分子の通過を遮断できる分子量分画特性を有するものとすることが可能であり、これにより、装置の保存中に未解離の電解質分子が、2つの電解液保持部22、24間でに移行し、その結果、両電解液保持部22、24の組成が混合してしまうことを防止することができる。
非作用側電極構造体20b、20dにおいても、アニオン交換膜23A、半透膜23S及びカチオン交換膜23Cのいずれかが、電解液保持部22中の電解質の分子及び/又は電解液保持部24中の電解質の分子の通過を遮断できる分子量分画特性を有するものとすることが可能であり、これにより上記と同様の効果を達成することができる。
上記から明らかなように、下記(1)、(2)の組み合わせの作用側電極構造体及び非作用側電極構造体を有するイオントフォレーシス装置Xは、両電極構造体の複合イオン交換膜として同一構成の部材を使用することが可能である。このことは、イオントフォレーシス装置Xの製造工程を簡略化し、製造の自動化、大量生産化を容易にし、又は製造コストを低減させることに大きく寄与する。
特に、(3)〜(6)の組み合わせのイオントフォレーシス装置Xでは、作用側電極構造体であるか、非作用側電極構造体であるかに関わらず、複合イオン交換膜の向きを同一にできるため、製造工程の簡略化、製造の自動化、大量生産化、又は製造コストの低減に更に大きく寄与することができる。
更に、(7)、(8)の組み合わせのイオントフォレーシス装置Xにおいても、上記に準じる効果が達成される。即ち、作用側電極構造体10a、10bに使用される複合イオン交換膜15a、15bのカチオン交換膜15Cには、薬剤イオンをドープすることが必要ではあるが、両電極構造体の複合イオン交換膜として同一の部材を使用することが可能であり、このことは、イオントフォレーシス装置Xの製造工程を簡略化し、製造の自動化、大量生産化を容易にし、又は製造コストを低減させることに大きく寄与する。
(1)作用側電極構造体10c、10e、10g又は10iと、非作用側電極構造体20a、20cの組み合わせ
(2)作用側電極構造体10d、10f、10h又は10jと、非作用側電極構造体20b、20dの組み合わせ
(3)作用側電極構造体10c又は10iと、非作用側電極構造体20cの組み合わせ
(4)作用側電極構造体10e又は10gと、非作用側電極構造体20aの組み合わせ
(5)作用側電極構造体10d又は10jと、非作用側電極構造体20dの組み合わせ
(6)作用側電極構造体10f又は10hと、非作用側電極構造体20bの組み合わせ
(7)作用側電極構造体10aと、非作用側電極構造体20a又は20cの組み合わせ
(8)作用側電極構造体10bと、非作用側電極構造体20b又は20dの組み合わせ
以上、いくつかの実施形態に基づいて本発明を説明したが、本発明は、これらの実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲の記載内において種々の改変が可能である。
例えば、上記実施形態では、生体に投与すべき薬剤を保持する作用側電極構造体と、その対極としての役割を有する非作用側電極構造体とを備えるイオントフォレーシス装置を例として説明したが、電源の両極に接続される2つの電極構造体の双方に生体に投与すべき薬剤が保持されるイオントフォレーシス装置や、電源のそれぞれの極に複数の電極構造体が接続されるイオントフォレーシス装置にも同様にして本発明を適用することができる。
そして上記のいずれの場合においても、1又は複数の作用側電極構造体及び1又は複数の非作用側電極構造体のうちの少なくとも1つの電極構造体が本願請求項1又は2の構成を有するイオントフォレーシス装置は、本発明の範囲に含まれる。
例えば、生体に投与すべき薬剤を保持する作用側電極構造体と、その対極としての役割を有する非作用側電極構造体とを備えるタイプのイオントフォレーシス装置に関して言えば、本願請求項1又は2に従う作用側電極構造体を備える一方、非作用側電極構造体としては、例えば図5に示す非作用側電極構造体120など、本願請求項1又は2に従わない非作用側電極構造体を備えるイオントフォレーシス装置であっても、先願1又は先願2と同様の効果を発揮することに加えて、作用側電極構造体の製造工程が簡略化され、製造の自動化、大量生産化が容易となり、或いは製造コストが低減できるという本願発明の基本的な効果は達成されるのであり、そのようなイオントフォレーシス装置も本発明の範囲に含まれる。
或いは、本願請求項1又は2に従う作用側電極構造体を備える一方、イオントフォレーシス装置そのものには非作用側電極構造体を設けずに、例えば、生体皮膚に作用側電極構造体を当接させ、アースとなる部材にその生体の一部を当接させた状態で作用側電極構造体に電圧を印加して薬剤の投与を行うようにすることも可能であり、この場合も上記本願発明の基本的な効果は達成されるのであり、そのようなイオントフォレーシス装置も本発明の範囲に含まれる。
同様に、本願請求項1又は2に従う非作用側電極構造体を備える一方、作用側電極構造体としては、例えば、図5に示す作用側電極構造体110など、本願請求項1又は2に従わない作用側電極構造体を備えるイオントフォレーシス装置であっても、上記本願発明の基本的な効果は達成されるのであり、このようなイオントフォレーシス装置も本発明の範囲に含まれる。
また、上記実施形態では、作用側電極構造体、非作用側電極構造体及び電源がそれぞれ別体として構成されている場合について説明したが、これらの要素を単一のケーシング中に組み込み、或いはこれらを組み込んだ装置全体をシート状又はパッチ状に形成して、その取扱性を向上させることも可能であり、そのようなイオントフォレーシス装置も本発明の範囲に含まれる。