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JP2006117223A - 車両用操舵制御装置 - Google Patents

車両用操舵制御装置 Download PDF

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JP2006117223A JP2005106519A JP2005106519A JP2006117223A JP 2006117223 A JP2006117223 A JP 2006117223A JP 2005106519 A JP2005106519 A JP 2005106519A JP 2005106519 A JP2005106519 A JP 2005106519A JP 2006117223 A JP2006117223 A JP 2006117223A
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Abstract

【課題】 操舵トルク入力時の車両挙動のダンピングを向上させて、高速走行時にドライバにとって扱い易い操舵特性を実現することができる車両用操舵制御装置を提供すること。
【解決手段】 ドライバからの操舵トルクを入力するハンドル1を有する操舵系に設けられたトルク制御用のモータ5と、該モータ5を制御するコントローラ13と、を備えた車両用操舵制御装置において、前記コントローラ13は、入力される操舵トルクが高周波になるほど操舵トルクに対するモータトルクの位相遅れを大きくし、その位相遅れは180°近傍となる周波数特性を得る制御を行う手段とした。
【選択図】 図2

Description

本発明は、電動パワーステアリング装置等のように、ドライバからの操舵トルクがハンドル等を介して入力される操舵系にトルク制御用のアクチュエータを備えた車両用操舵制御装置の技術分野に属する。
従来、車両の電動パワーステアリング装置としては、モータの慣性補償を目的として、操舵トルク微分値と車速および操舵速度が増加するにつれ減少する正のゲインとを積算した慣性位相補償量を用いてモータを制御駆動するものが知られている(例えば、特許文献1参照)。
特開2001−114121号公報
しかしながら、従来の車両の電動パワーステアリング装置にあっては、低速では慣性感を感じないように、モータ等の操舵系の慣性をすべて補償するように慣性位相補償量を算出している。また、高速では、低速に比べ慣性位相補償量を減らし、慣性感をドライバへわざと伝えることで、ハンドル操作時のしっかり感(ハンドル切る瞬間に操舵トルクが重い)を演出している。このため、高速では、本来においては補償してドライバに慣性感を伝えないようにするべき慣性を残しているので、操舵中に慣性感を感じてしまい、自然な操舵フィーリングとならない、という問題があった。
本発明は、上記問題に着目してなされたもので、操舵トルク入力時の車両挙動のダンピングを向上させて、高速走行時にドライバにとって扱い易い操舵特性を実現することができる車両用操舵制御装置を提供することを目的とする。
上記目的を達成するため、本発明では、ドライバからの操舵トルクが入力される操舵系に設けられたトルク制御用のアクチュエータと、該アクチュエータを制御する操舵制御手段と、を備えた車両用操舵制御装置において、
前記操舵制御手段は、入力される操舵トルクが高周波になるほど操舵トルクに対するアクチュエータトルクの位相遅れを大きくし、その位相遅れは180°近傍に向かって大きくなることを特徴とする。
よって、本発明の車両用操舵制御装置にあっては、操舵制御手段において、入力される操舵トルクが高周波になるほど操舵トルクに対するアクチュエータトルクの位相遅れを大きくし、少なくともその位相遅れは180°近傍に向かって大きくなる。すなわち、入力される操舵トルクが所定の高周波になると、操舵トルクとは逆方向のアシストトルクが作用することになる。したがって、過渡的な操舵トルクが入った直後はドライバの操舵トルクを重くする方向へ逆アシストが実施され、時間の推移と共にドライバの操舵トルクを軽くする方向ヘアシストが実施されることになる。例えば、レーンチェンジを行い操舵トルクが変化した場合に、切り過程(操舵トルクが増加)では操舵トルクの変化方向の略逆側へアシストトルクが発生し操舵トルクが増加し、戻し過程(操舵トルクが減少)でも操舵トルクの変化方向の略逆側へアシストトルクが発生し操舵トルクが減少する構成になっているので、同じ車両挙動が発生しても操舵トルク変化が大きくなり、操舵トルクに対する車両挙動のゲインを低下させる。その結果、操舵トルク入力時の車両挙動のダンピングを向上させて、高速走行時にドライバにとって扱い易い操舵特性(良好な操舵フィーリング)を実現することができる。
以下、本発明の車両用操舵制御装置を実施するための最良の形態を、図面に示す実施例1〜実施例5に基づいて説明する。
まず、構成を説明する。
図1は実施例1の車両用操舵制御装置を適用した電動パワーステアリングシステムを示す全体図である。実施例1の電動パワーステアリングシステムの操舵系には、ドライバの舵取り操作用のハンドル1と、舵取り動作を行う舵取り機構2とを連結する操舵軸3に、ハンドル1に加わる操舵トルクを検出するトルクセンサ4とドライバの操舵力を補助するモータ5(アクチュエータ)とが配置されている。
前記ハンドル1は、図示しない車室内部のドライバと対向する位置に、軸周りに回動可能に設けられている。前記舵取り機構2は、操舵軸3の下端に一体形成されたピニオン6と、これに噛合するラック軸7とを備えるラック&ピニオン式の舵取り装置により構成されている。前記ラック軸7は、図示しない車両前部に、左右方向摺動可能に固定されており、その両端は、左右のタイロッド8,9を介して操向用の転舵輪10,11に連結されている。
前記モータ5は、モータ5の発生トルクを操舵軸3の回転トルクに変換する減速機12を介して、操舵軸3に結合されている。このモータ5に供給されるモータ電流は、コントローラ13(操舵制御手段)により制御されている。
続いて、図2に示す実施例1の車両用操舵制御装置の制御ブロック図に基づき、実施例1の制御系を説明する。
ドライバによりハンドル1が操舵されると、ハンドル1と機械的に連結された転舵輪10,11が操向される。このとき、トルクセンサ4に入力される捩れ方向の負荷は、操舵トルクとしてコントローラ13へ入力される。さらに、このコントローラ13には、車両の走行速度を検出する車速センサ14等の信号が与えられる。
前記コントローラ13には、モータ端子間電圧を検出する電圧センサ13aやモータ電流を検出する電流センサ13bが内蔵され、モータ速度推定ブロック13cにおいて、モータ端子間電圧とモータ電流を用いてモータ5の回転速度を推定演算する。前記コントローラ13には、操舵トルク,モータ5の回転速度,車速等を用いて演算された電流指令値を入力する電流制御ブロック13dが内蔵され、電流制御ブロック13dにおいて、内蔵する電流センサ13bからのモータ電流を参照しつつ駆動電流を算出する。そして、コントローラ13内の駆動回路13eにおいて、バッテリ15により与えられた電源を用い、算出された駆動電流と一致するモータ駆動電流を作り出し、電流センサ13bを介してモータ5を制御駆動する。
更に、前記コントローラ13内では、電動パワーステアリング特有の違和感を解消するために、いくつかの補償制御が並行して行われる。
一つ目は、操舵系の慣性や摩擦等に起因する応答遅れを補償することを目的とした応答性補償である。微分器13fと応答性補償ゲイン演算ブロック13gとを有し、操舵トルクを微分した値に対し、正の相関を持つアシスト電流をモータ5に流すことで応答性を改善している。
二つ目は、操舵系の特にモータの慣性を補償することを目的とした慣性補償である。微分器13hと慣性補償ゲイン演算ブロック13iとを有し、モータ5の逆起電力から推定したモータ速度を微分することでモータ角加速度を算出し(微分器13h)、算出されたモータ角加速度と事前に計測しておいたモータイナーシャを積算することでモータ5の慣性力として、モータ5の慣性力を打ち消す電流をモータ5に流している。
三つ目は、操舵系の粘性を適切にする粘性補償である。モータ5の逆起電力から推定したモータ速度に応じて粘性補償ゲインを演算する粘性補償ゲイン演算ブロック13jを有し、油圧パワーステアリング相当の特性再現を目指しており、油圧回路に起因する粘性を電動パワーステアリングにより実現するようにしている。なお、上記応答性補償、慣性補償、粘性補償は一般的なものでよく、従来例等にあるように、車速や操舵速度等に応じてゲインを変更しても良い。
四つ目は、操舵トルク入力時の車両挙動のダンピングを改善し、良好な操舵フィーリングを得る位相補償である。車速や操舵トルクや操舵速度(モータ速度)に応じて操舵トルクの周波数特性における位相を補償する位相補償器16(位相補償手段)と、位相補償器16からの操舵トルクと車速により電流指令値を演算する電流指令値演算ブロック13kと、を有する。実施例1においては、検出された操舵トルクを、位相補償器16に通すことにより、過渡的な操舵トルク変化に対して、操舵トルクの高周波域で操舵トルクの反対方向へのアシスト量が増加するようにモータ5を駆動する。
そして、加算器13p,13q,13rにおいて、応答性補償電流指令値と、慣性補償電流指令値と、粘性補償電流指令値と、位相補償電流指令値と、が加算され、この加算値を前記電流制御ブロック13dへの電流指令値とする。
前記位相補償器16は、1次進み/1次遅れによる、
(K−τnum・S)/(1+τden・S)
但し、S:ラプラス演算子、K:ゲイン(=0、>0、<0)、τnum:1次進み時定数(≧0)、τden:1次遅れ時定数(≧0)
による伝達関数で表される特性としている。
そして、前記位相補償器16の1次進み時定数τnumを、操舵トルクや車速や操舵速度(モータ速度)に応じてその特性を変更している。
図3は、操舵トルクに対する1次進み時定数τnumの設定例であり、1次進み時定数τnumは、操舵トルクが大きいときほど大きくなるように設定されている。すなわち、操舵トルクが大きいときほど、逆アシスト量は多くなる。
図4は、車速に対する1次進み時定数τnumの設定例であり、1次進み時定数τnumは、車速に比例して大きくなるように設定されている。すなわち、車速が高いときほど、逆アシスト量は多くなる。
図5は、操舵速度に対する1次進み時定数τnumの設定例であり、1次進み時定数τnumは、ハンドル1の操舵速度が速いときほど、大きくなるように設定されている。すなわち、操舵速度が速いときほど、逆アシスト量は多くなる。
ここで、「操舵速度」は、モータ5の逆起電力を用いて算出する。モータ5の端子間電圧をV、モータ電流をI、モータ5の逆起電力係数をK、モータ5の内部抵抗をRとすると、モータ5の回転速度dθ/dtは、
dθ/dt=I×(V−RI)/K
の式となる。ここで、KとRは、ほぼ一定値と考えることができるので、モータ5の端子電圧Vとモータ電流Iを計測することで、モータ5の回転速度dθ/dtを算出できる。モータ5と操舵軸3は機械的に接続されているので、モータ5の回転速度dθ/dtに減速比を乗算したものが、ハンドル1の操舵速度として推測される。
そして、前記位相補償器16の1次遅れ時定数τdenを、操舵トルクや車速や操舵速度(モータ速度)に応じてその特性を変更している。
図6は、操舵トルクに対する1次遅れ時定数τdenの設定例であり、1次遅れ時定数τdenは、操舵トルクが大きいときほど大きくなるように設定されている。すなわち、操舵トルクが大きいときほど、出力の遅れは多くなる。
図7は、車速に対する1次遅れ時定数τdenの設定例であり、1次遅れ時定数τdenは、車速に比例して大きくなるように設定されている。すなわち、車速が高いときほど、出力の遅れは多くなる。
図8は、操舵速度に対する1次遅れ時定数τdenの設定例であり、1次遅れ時定数τdenは、ハンドル1の操舵速度が大きいときほど、大きくなるように設定されている。すなわち、操舵速度が大きいときほど、出力の遅れは多くなる。
次に、作用を説明する。
[本発明の考え方について]
電動パワーステアリング装置や油圧ポンプ式パワーステアリング装置やステア・バイ・ワイヤ装置等は、モータの反力自由度(任意のタイミングで、任意のアシスト量を、任意の方向へ発生させる)を用いてドライバの感じる操舵反力を任意に調整できるメリットを持つが、従来制御ではその自由度を活用しきれていない。
高速走行時には、ドライバは主に操舵トルク入力で運転しており、操舵トルク入力に対する車両挙動の周波数特性におけるダンピングが良い方が、ドライバにとって扱い易い操舵特性になる。
操舵トルクを用いて操舵トルク入力に対する車両挙動のダンピングを良くするための、制御特性は以下のように求めることができる。
算出に用いる運動方程式のモデルを図9とすると、
車両系は車両2輪モデルとして、
Figure 2006117223
の式であらわされ、操舵系は、本質的な理解がしやすいように、低次化して、
Figure 2006117223
とする。但し、Iz:車両の慣性モーメント、γ:ヨーレート、lf:前軸-車両重心間距離、Cf:前輪コーナリングパワー、N:オーバーオールステアリング比、V:車速、β:スリップ角、lr:後軸-車両重心間距離、m:車両重量、Ih:操舵系慣性、Ch:操舵系粘性、θ:操舵角、ξ:トレール、Tm:モータトルク、Th:操舵トルクである。
図9のモデルを図10に示すように、電動パワーステアリングの制御モデルに書き換えて、操舵トルクに対するアシストトルクの制御特性を検討する。
ここで、操舵トルクに対するアシストトルクの伝達関数をF(S)とする(Sはラプラス演算子)。操舵トルク入力に対する車両挙動のダンピングを良くすることは、操舵トルク入力に対する操舵角のダンピングを良くすることと同意である。なぜなら、操舵角から車両挙動が発生し(車両2輪モデルの運動方程式)、車両挙動から操舵トルクが決まるからである(操舵系の運動方程式)。そこで、操舵トルクに対する操舵角の伝達関数をH(S)とすると、図10より
Figure 2006117223
となる。ここで、G(S)はすでに図10に示したように、操舵角入力に対する車両挙動の伝達関数であり、
Figure 2006117223
であるため、分子と分母をそれぞれ、GnとGdと置いておく。
目標とH(S)の特性を以下として、分子と分母をそれぞれHn*、Hd*とすると、
Figure 2006117223
となる。
ここで、操舵トルクから操舵角への伝達関数H(S)のダンピングが良くなるように、例えば、H(S)が2次系となるアシスト特性F(S)を逆算すると、
Figure 2006117223
となる。上記F(S)を計算すると、その厳密解のコントローラの周波数特性は、図11の実線特性となる。
また、その時の操舵トルクに対する操舵角の周波数応答は、図12の実線特性となり、ダンピングが良くなることが分かる。
F(S)のコントローラの周波数応答の物理的意味を解釈すると、操舵トルクに対する車両挙動のダンピングをよくするためには、操舵トルク入力が高周波になるにつれアシストトルクの位相遅れが大きくなり逆方向へアシストする特性が望ましいことが分かる。本解釈を踏まえたうえで、厳密解を1次/1次の形で近似すると、図11の点線で示す特性となり、厳密解と同様に操舵トルクに対する車両挙動のダンピングをよくすることが可能である。
以上の説明では、操舵系や車両のモデルを簡易な式で表現しているが、より現実に近い高次のモデルを使用してもよい。また、理想の特性を2次で表現しているが、1次またはより高次でもよいし、位相遅れが一定であったりしてもよいことはいうまでもない。
一方、従来例では、慣性補償を目的としたトルク微分の時定数は、一般的に数msecから10数msecであり、この時定数の場合にいくらゲインを変更したとしても、図11に示す周波数特性は実現できない。
すなわち、慣性補償を目的としたトルク微分制御量を増減させただけでは、操舵トルク入力に対する車両挙動の周波数特性におけるダンピングが良くさせることはできない。例えば、図13に示すように、操舵トルク入力に対する横加速度の周波数特性をみると、高速でダンピングが悪化している。
本発明では、操舵トルク入力に対する車両挙動の理想形を実現することを狙いとする。つまり、人間−自動車系を考慮した場合、高速走行時においてドライバは主に操舵トルクを入力として車両運動を制御しているといわれており、操舵トルクに対する車両挙動(横Gやヨーレート)のゲインを周波数に関係なく力一定に保つことにより(例えば、図13の理想の特性)、人間にとって扱い易い車両になるはずである。
そこで、実際の操舵トルクに対する車両挙動をみると、車両の操舵トルク入力に対する車両挙動の周波数特性は、図13に示すように、高速になると所定周波数におけるダンピングが悪化するという問題がある。
理想の特性を実現するコントローラ特性を、車両と操舵系のモデルから計算すると、図14に示すようになる。つまり、操舵トルクに対するアシスト特性を、操舵トルクの入力が高周波になるにつれて位相遅れが大きくなる。
[位相補償作用について]
次に、実施例1の位相補償器16による操舵トルクに対するモータトルクの位相補償について説明する。
位相補償器16を下記の式(8)に示すように、1次進み/1次遅れで構成した場合、その周波数特性は、図14の実線のようになる。本発明の根幹となる位相補償器16の特性のポイントは、高周波になるにつれて操舵トルクとは逆の方向へアシストする。すなわち、位相遅れが大きくなり位相が反転することにある。
C(S)=(K−τnum・S)/(1+τden・S) …(8)
そして、この位相補償器16の出力は、過渡的な入力、例えば、ステップ状の操舵トルク入力があった場合、図15に示すような特性となる。図15において、出力の下方へのゲインは、1次進みの時定数τnumで決まる。また、出力の遅れは、1次遅れの時定数τdenで決まることになる。そして、操舵トルクに対する定常的なアシスト量は、ゲインKで決まる。
この出力の時系列推移から分かるように、コントローラ13は、指令電流値(目標電流値)として、過渡入力が入った直後は、ハンドル1を重くする方向へ逆アシストを実施し、時間の推移とともにハンドル1を軽くする方向へアシストを実施することとなる。
したがって、実施例1では、過渡的な操舵トルクが検出されたとき、例えば、レーンチェンジを行い操舵トルクが変化した場合に、切り過程(操舵トルクが増加)では操舵トルクの変化方向の略逆側へアシストトルクが発生し操舵トルクが増加し、戻し過程(操舵トルクが減少)でも操舵トルクの変化方向の略逆側へアシストトルクが発生し操舵トルクが減少する構成になっているので、同じ車両挙動が発生しても操舵トルク変化が大きくなり、操舵トルクに対する車両挙動のゲインを低下させる。その結果、図12に示したダンピングが改善され、ドライバへ違和感を与えることなく、良好な操舵フィーリングが得られる。
また、操舵トルクの入力周波数が高くなると、逆アシストトルクの出力を大きくするため、高速走行時におけるレーンチェンジ等の速い操舵に対して、逆方向のアシスト量が多くなり、ハンドル1が重くなる。よって、ドライバの急操舵を防止でき、車両の不要な挙動を抑制できる。さらに、逆アシストによるステアリング剛性の低下により、操舵量に対する車両挙動、すなわち、ステア特性をアンダーステアとすることができるため、車両の走行安定性を向上できる。
このような構成にすることにより、図12や図13に示す操舵トルク入力に対する操舵角や車両挙動のダンピングがよくなり、周波数に関係なくゲインの上昇を防ぐことができる。
[時定数の設定作用について]
図15からも明らかなように、ステップ状の操舵トルク入力があった場合、出力の下方へのゲインは、1次進みの時定数τnumで決まる。つまり、狙いとする理想特性を実現するには、上記(8)式において、1次遅れの時定数τdenやゲインKよりも、1次進みの時定数τnumをどのように決めるかが最も重要となる。そこで、1次進み時定数τnumの設定による作用について説明する。
実施例1では、1次進み時定数τnumを操舵トルクが大きいほど大きくなるように設定している(図3)。よって、旋回時の保舵からの切り増し操舵、切り戻し操舵時に、保舵時の操舵トルクに応じて操舵トルク変化量が増減されるため、旋回保舵時のしっかり感を演出できる。特に、操舵トルクが低いところでも、所定の操舵トルク変化が発生するため、直進時にハンドル1の中立感を出すことができる。さらに、操舵トルクが大きくなる場合は、1次進み時定数τnumに所定の上限を設けているので、ハンドル1が不要に重くなりすぎることを防止することができる。なお、1次進み時定数τnumに所定の上限を設けるのではなく、制御量にリミット値を設定しても良い。
実施例1では、1次進み時定数τnumを車速が高いほど大きくなるように設定している(図4)。よって、低速では操舵トルク変化量が少なくなるため、軽快なステアリング操舵が容易となる。一方、高速では操舵トルク変化量が増えるため、操舵トルクに対する車両挙動のゲインが低下し車両の走行安定性が高まる。
実施例1では、1次進み時定数τnumを操舵速度が速いほど大きくなるように設定している(図5)。よって、操舵速度が速いほど、操舵トルク変化量は増加するため、急操舵になるほど、車両の走行安定性が高まる。さらに、逆起電力を利用したハンドル1の操舵速度推定には、信号ノイズ等に起因して、所定の分解能以下の検知が困難となる。実施例1では操舵速度の低いところは一定の逆アシストの1次進み時定数τnumとしているので、変動を防いだ上で、微小な操舵時に中立感を出すことが可能となる。さらに、操舵速度が非常に速い場合は、1次進み時定数τnumに所定の上限を設けているので、ハンドル1が不要に重くなりすぎることを防止することができる。なお、1次進み時定数τnumに所定の上限を設けるのではなく、制御量にリミット値を設定しても良い。
次に、効果を説明する。
実施例1の車両用操舵制御装置にあっては、下記に列挙する効果を得ることができる。
(1) ドライバからの操舵トルクを入力するハンドル1を有する操舵系に設けられたトルク制御用のモータ5と、該モータ5を制御するコントローラ13と、を備えた車両用操舵制御装置において、前記コントローラ13は、入力される操舵トルクが高周波になるほど操舵トルクに対するモータトルクの位相遅れを大きくし、その位相遅れは180°近傍となる周波数特性、あるいは、180°近傍を維持する周波数特性を得る制御を行うため、操舵トルク入力時の車両挙動のダンピングを向上させて、高速走行時にドライバにとって扱い易い操舵特性を実現することができる。
(2) ドライバからの操舵トルクを入力するハンドル1を有する操舵系に設けられたトルク制御用のモータ5と、該モータ5を制御するコントローラ13と、を備えた車両用操舵制御装置において、前記コントローラ13は、入力される操舵トルクが高周波になるほど操舵トルクに対するモータトルクの位相遅れを大きく、かつ、ゲインKを大きくし、その位相遅れは180°近傍となる周波数特性、あるいは、180°近傍を維持する周波数特性を得る制御を行うため、操舵トルク入力時の車両挙動のダンピングを大幅に向上させて、高速走行時にドライバにとって扱い易い操舵特性を実現することができる。
(3) 前記コントローラ13は、前記周波数特性を、車両と操舵系とで定まる位相遅れと位相進みを補償する位相補償器16にて実現したため、適用車両および使用するユニットに応じて、上記作用・効果を最適に実現することができる。
(4) 前記位相補償手段は、1次進み/1次遅れによる位相補償器であり、
(K−τnum・S)/(a+τden・S)
但し、S:ラプラス演算子、K:ゲイン(=0、>0、<0)、τnum:1次進み時定数(≧0)、a:定数(>0)、τden:1次遅れ時定数(≧0)
による伝達関数で表される特性としたため、簡単な制御特性であることで、コントローラ13の実装が容易になると共に、発散による制御不安定化を解消することができる。
(5) 前記位相補償器16は、1次進み時定数τnumを操舵トルクが大きくなるほど大きな値となるように設定したため、旋回時の保舵からの切り増しや切り戻しにおいて、旋回保舵時のしっかり感を演出することができる。特に、操舵トルクが低いところでも、所定の操舵トルク変化が発生するため、直進時にハンドル1の中立感を出すことができる。
(6) 前記位相補償器16は、1次進み時定数τnumを車速が高くなるほど大きな値となるように設定したため、低速での軽快なステアリング操舵を容易としながら、高速での車両の走行安定性を高めることができる。
(7) 前記位相補償器16は、1次進み時定数τnumを操舵速度が速いほど大きな値となるように設定したため、急操舵になるほど車両の走行安定性を高めることができる。
(8) 前記位相補償器16は、1次遅れ時定数τdenを、操舵トルク、車速、操舵速度に応じて変化させる設定としたため、操舵トルク・車速・操舵速度の各値が高いほど1次遅れ時定数τdenが大きな値になるように設定することで、操舵トルク・車速・操舵速度により決まる走行状態に応じて最適の出力の遅れ特性によるモータアシスト制御を実行することができる。
実施例2は、緊急回避や不安定車両挙動発生時の修正操舵時等の大きな操舵や非常に速い操舵に対しては、不要に操舵トルクを重くすることなく、修正操舵をし易くするようにした例である。
実施例2の車両用操舵制御装置では、前記位相補償器16は、図16に示すように、1次進み時定数τnumを、操舵トルクが第1設定値TS1までの直進操舵域までは一定値とし、操舵トルクが第1設定値TS1から第2設定値TS2までの操舵領域では操舵トルクが大きくなるほど大きな値とし、操舵トルクが第2設定値TS2を超えると操舵トルクが大きくなるほど小さな値となるように設定している。
また、前記位相補償器16は、図17に示すように、1次進み時定数τnumを、操舵速度が第1設定値VS1までの直進操舵域までは一定値とし、操舵速度が第1設定値VS1から第2設定値VS2までの操舵領域では操舵速度が速くなるほど大きな値とし、操舵速度が第2設定値VS2を超えると操舵速度が大きくなるほど小さな値となるように設定している。なお、他の構成は、実施例1と同様であるので、図示並びに説明を省略する。
次に、作用を説明すると、実施例2では、通常の運転に使用する操舵トルクで決まる所定の操舵トルク以内(操舵トルク≦第2設定値TS2)では、旋回時の保舵からの切り増し操舵、切り戻し操舵時に、保舵時の操舵トルクに応じて操舵トルク変化量が増減されるため、旋回保舵時のしっかり感を演出できる。特に、操舵トルクが低いところでも、所定の操舵トルク変化が発生するため、直進時にハンドル1の中立感を出すことができる。加えて、操舵トルクが第2設定値TS2を超える領域では、逆アシスト量を少なくしているため、緊急回避や不安定車両挙動発生時の修正操舵時等の大きな操舵に対しては、不要に操舵トルクを重くすることなく、修正操舵をし易くすることができる。
また、通常の運転に使用する操舵速度で決まる所定の操舵速度以内(操舵速度≦第2設定値VS2)では、操舵速度が速いほど、操舵トルク変化量は増加するため、急操舵になるほど、車両の走行安定性が高まる。さらに、逆起電力を利用したハンドル1の操舵速度推定には、信号ノイズ等に起因して、所定の分解能以下の検知が困難となる。これに対し、操舵速度の低い領域(操舵速度≦第1設定値TS1)は、一定値による逆アシストの1次進み時定数τnumとしているので、変動を防いだ上で、微小な操舵時に中立感を出すことが可能となる。加えて、操舵速度が第2設定値VS2を超える領域では、逆アシスト量を少なくしているため、緊急回避や不安定車両挙動発生時の修正操舵時等の非常に速い操舵に対しては、不要に操舵トルクを重くすることなく、修正操舵をし易くすることができる。なお、他の作用は実施例1と同様であるで、説明を省略する。
次に、効果を説明する。
実施例2の車両用操舵制御装置にあっては、実施例1の(1),(2),(3),(4)の効果に加え、下記に列挙する効果を得ることができる。
(9) 前記位相補償器16は、1次進み時定数τnumを、操舵トルクが第1設定値TS1までの直進操舵域までは一定値とし、操舵トルクが第1設定値TS1から第2設定値TS2までの操舵領域では操舵トルクが大きくなるほど大きな値とし、操舵トルクが第2設定値TS2を超えると操舵トルクが大きくなるほど小さな値となるように設定したため、操舵トルクが第1設定値TS1までの領域では、直進時にハンドル1の中立感を出し、操舵トルクが第1設定値TS1から第2設定値TS2までの領域では旋回保舵時のしっかり感を演出し、操舵トルクが第2設定値TS2を超える領域、つまり、緊急回避や不安定車両挙動発生時の修正操舵時等の大きな操舵に対しては、不要に操舵トルクを重くすることなく、修正操舵をし易くすることができる。
(10) 前記位相補償器16は、1次進み時定数τnumを、操舵速度が第1設定値VS1までの直進操舵域までは一定値とし、操舵速度が第1設定値VS1から第2設定値VS2までの操舵領域では操舵速度が速くなるほど大きな値とし、操舵速度が第2設定値VS2を超えると操舵速度が大きくなるほど小さな値となるように設定したため、操舵速度が第1設定値VS1までの直進操舵域では、変動を防いだ上で微小な操舵時に中立感を出し、操舵速度が第1設定値VS1から第2設定値VS2までの操舵領域では急操舵になるほど車両の走行安定性を高め、操舵速度が第2設定値VS2を超える領域、つまり、緊急回避や不安定車両挙動発生時の修正操舵時等の非常に速い操舵に対しては、不要に操舵トルクを重くすることなく、修正操舵をし易くすることができる。
実施例3は、コントローラ13の位相補償器16を二つのブロックに分けて制御するようにした例である。
すなわち、実施例2の車両用操舵制御装置では、図18に示すように、位相補償器16は、(K−τnum・S)/(1+τden・S)の式を分解して、
K/(1+τden・S)+(−τnum・S)/(1+τden・S)とし、
K/(1+τden・S)による1次遅れ補償ブロック16’と、(−τnum・S)/(1+τden・S)による近似微分補償ブロック16"と、の二つのブロックに分けて補償制御を行うようにしている。なお、図18において、13sは近似微分補償ブロック16"からの指令電流値を加算する加算器13sである。他の構成は実施例1または実施例2と同様であるので、同一構成には同一符号を付して説明を省略する。
作用についても、(K−τnum・S)/(1+τden・S)を一つのブロックで表現した実施例1におけるコントローラ13の位相補償器16での作用を、実施例2では、2つに分けたK/(1+τden・S)による1次遅れ補償ブロック16’と、(−τnum・S)/(1+τden・S)による近似微分補償ブロック16"と、により行う。なお、他の作用は実施例1または実施例2と同様であるので説明を省略する。
次に、効果を説明する。
実施例3の車両用操舵制御装置にあっては、実施例1の効果、あるいは、実施例2の効果に加えて、下記の効果を得ることができる。
(11) 前記位相補償器は、(K−τnum・S)/(1+τden・S)の式を分解して、
K/(1+τden・S)+(−τnum・S)/(1+τden・S)とし、K/(1+τden・S)による1次遅れ補償ブロック16’と、(−τnum・S)/(1+τden・S)による近似微分補償ブロック16"と、の二つのブロックに分けて補償制御を行うため、実施例1,2の場合に比べ、より簡単な制御特性となり、コントローラ13への実装をさらに容易とすることができる。
実施例4は、操舵状態(切り/戻し/スラローム)を判断する操舵状態判断部を設け、操舵状態に応じて位相補償器の制御量を変更するようにした例である。
すなわち、図19に示す実施例4の車両用操舵制御装置の制御ブロック図に基づき制御系を説明すると、実施例4では、操舵トルクと操舵速度を入力し、操舵状態(切り/戻し/スラローム)を判断する操舵状態判断部17(ハンドル切り/戻し判断手段)と、操舵が切り過程に対応した特性を持つ切り時位相補償器16aと、戻し過程(スラローム含む)に対応した特性を持つ戻し時位相補償器16bと、前記操舵状態判断部17の出力に応じて、切り時位相補償器16aと戻し時位相補償器16bとを切り替えるスイッチ部18と、を有する。なお、他の構成は実施例1と同様であるので、対応する構成に同一符号を付して説明を省略する。
次に、作用を説明する。
[操舵状態判断動作について]
操舵状態判断部17の動作を図20で説明する。
図20(a)にレーンチェンジを行った場合の操舵パターンを示す。戻しまたはスラロームの判断は、操舵トルクの極性と操舵速度の極性が異なる場合に戻しFLGが1になり、操舵速度が0を含めた所定値となった場合に戻しFLGが0になることで実現される。
操舵状態判断制御ブロックを図20(b)に示す。操舵トルク(handle trq)と操舵速度(handle speed)の極性を判断し、正の場合は1を負の場合は−1をそれぞれ算出する(STEP101とSTEP102)。両者の積算を行い(STEP103)、積算値が負の場合は極性が異なるので1を出力し、積算値が正の場合は極性が同じとして0を出力する(STEP104)。積算値が0から1へ変わった瞬間に戻しFLGは0から1への変化する。一方、操舵速度が0を含めた所定値になった時を判定し(STEP105)、その瞬間に戻しFLGは1から0へと変化する。以上により操舵状態判定部17は、切り過程であるか戻しまたはスラローム過程であるか判断する。
[操舵状態に応じた位相補償特性について]
操舵状態に応じた位相補償特性を、図21にて説明する。一例として、コントローラ13の位相補償を、K/(1+τden・S)+(−τnum・S)/(1+τden・S)と二つのブロックに分けた場合の説明を行う。
STEP111では、操舵トルクをK/(1+τden・S)の所定のゲインを掛けた1次遅れで処理を行う。STEP112では、操舵トルクを(−τnum・S)/(1+τden・S)なる所定のゲインと時定数による近似微分処理を行う。STEP113では、切り過程の場合は、STEP112の出力を第一の制限値に制限する。STEP114では、戻し過程の場合は、STEP112の出力を第二の制限値に制限する。STEP115では、図20で説明した操舵状態判断部17において操舵状態(切り/戻し/スラローム)を判断する。STEP116では、操舵状態判断部17の出力に応じて、切り過程と判断した場合はSTEP113の出力を、戻し過程と判断した場合はSTEP114を切り替えて出力する。STEP117では、STEP111とSTEP116の出力の和をとりトルク位相補償値とする。ここで、前記第一の制限値と前記第二の制限値の大小関係は、第一の制限値>第二の制限値である。
[トルク位相補償作用について]
続いてトルク位相補償作用について、図22〜図24を用いて説明する。
一般的に操舵特性は、図22に示すように、中立のしっかり感が出易く、かつ、微小な車両挙動変化を操舵反力変化としてドライバへ伝達でき、大きな操舵量では操舵トルクの増加を抑制しハンドルが軽く操作できるように、操舵トルクの勾配は大きな操舵量範囲にくらべ微小な操舵量範囲が大きくなっている。
図23に示す操舵角特性にてレーンチェンジを行うと、上述した操舵特性になっているため、図23の操舵トルク特性のA部に示すように、操舵トルクの変化は、スラローム過程における操舵角が0付近または操舵トルクが0付近で大きくなる。しかし、レーンチェンジにおけるスラローム過程では、ドライバは反力から車両挙動を感じながら操舵はしておらず、むしろ、フィードフォワード的に操舵しているため、操舵角に対する操舵トルクの変化は少ない方が操舵フィーリングは良い。ちなみに、中立の操舵トルク変化が大きくなると、スラローム操舵の途中で引っ掛かり感となり、スムースな操作を妨げる。
そこで、図23の制御量特性に示すように、切り過程と戻し過程(スラローム含む)との最大値を制限し、切り過程にくらべ戻し過程(スラローム含む)の制限値を小さくすることにより、図24に示すように、スラローム過程における操舵角が0付近または操舵トルクが0付近での操舵トルク変化を少なくし、操舵フィーリングは良くすることが可能となる。なお、他の作用は実施例3と同様であるので説明を省略する。
次に、効果を説明する。
実施例4の車両用操舵制御装置にあっては、実施例3の効果に加えて、下記の効果を得ることができる。
(12) ハンドルの切り操作とハンドル戻し操作を判断する操舵状態判断部17を設け、前記位相補償器16は、ハンドルの切り過程では制御量を第一の制限値に制限し、ハンドルの戻し過程では制御量を第一の制限値より小さい第二の制限値に制限するため、ドライバが積極的に操作する切り過程では有効にダンピングを働かせ、かつ、スムースなハンドル戻しを実現することができる。
実施例5は、操舵状態(切り/戻し/スラローム)を判断する操舵状態判断部を設け、操舵状態に応じて位相補償器のゲインを変更するようにした例である。なお、構成的には、図19に示す実施例4の車両用操舵制御装置の制御ブロック図と同様であるので、図示並びに説明を省略する。
次に、作用を説明すると、操舵状態判断動作については、図20に示す実施例4と同様である。
[操舵状態に応じた位相補償特性について]
操舵状態に応じた位相補償特性を、図25にて説明する。一例として、コントローラ13の位相補償を、K/(1+τden・S)+(−τnum・S)/(1+τden・S)と二つのブロックに分けた場合の説明を行う。
STEP121では、操舵トルクをK/(1+τden・S)の所定のゲインを掛けた1次遅れで処理を行う。STEP122では、操舵トルクを(−τnum・S)/(1+τden・S)なる所定のゲインと時定数による近似微分処理を行う。STEP123では、切り過程の場合は、STEP122の出力に第一のゲインを積算する。STEP124では、戻し過程の場合は、STEP122の出力を第二のゲインを積算する。STEP125では、図20で説明した操舵状態判断部17において操舵状態(切り/戻し/スラローム)を判断する。STEP126では、操舵状態判断部17の出力に応じて、切り過程と判断した場合はSTEP123の出力を、戻し過程と判断した場合はSTEP124を切り替えて出力する。STEP127では、STEP121とSTEP126の出力の和をとりトルク位相補償値とする。ここで、前記第一のゲインと前記第二のゲインの大小関係は、第一のゲイン>第二のゲインである。
[トルク位相補償作用について]
続いてトルク位相補償作用について、図26〜図28を用いて説明する。
一般的に操舵特性は、図26に示すように、中立のしっかり感が出易く、かつ、微小な車両挙動変化を操舵反力変化としてドライバへ伝達でき、大きな操舵量では操舵トルクの増加を抑制しハンドルが軽く操作できるように、操舵トルクの勾配は大きな操舵量範囲にくらべ微小な操舵量範囲が大きくなっている。
図27の操舵角特性に示す操舵角にてレーンチェンジを行うと、上述した操舵特性になっているため、図27の操舵トルク特性に示すように、操舵トルクの変化は、スラローム過程における操舵角が0付近または操舵トルクが0付近で大きくなる。しかし、レーンチェンジにおけるスラローム過程では、ドライバは反力から車両挙動を感じながら操舵はしておらず、むしろ、フィードフォワード的に操舵しているため、操舵角に対する操舵トルクの変化は少ない方が操舵フィーリングは良い。ちなみに、中立の操舵トルク変化が大きくなると、スラローム操舵の途中で引っ掛かり感となり、スムースな操作を妨げる。
そこで、図23の制御量特性に示すように、切り過程と戻し過程(スラローム含む)との制御量のゲインを異なる値として、切り過程にくらべ戻し過程(スラローム含む)のゲインを小さくすることにより、スラローム過程における操舵角が0付近または操舵トルクが0付近での操舵トルク変化を少なくし、操舵フィーリングは良くすることが可能となる。
次に、効果を説明する。
実施例5の車両用操舵制御装置にあっては、実施例3の効果に加えて、下記の効果を得ることができる。
(13) ハンドルの切り操作とハンドル戻し操作を判断する操舵状態判断部17を設け、前記位相補償器16は、ハンドルの切り過程では制御出力に第一のゲインを積算し、ハンドルの戻し過程では制御出力に第一のゲインより小さい第二のゲインを積算するため、ドライバが積極的に操作する切り過程では有効にダンピングを働かせ、かつ、スムースなハンドル戻しを実現することができる。
実施例6は、保舵状態を判断する保舵状態判断部を設け、保舵状態と操舵状態に応じて位相補償器の特性を変更する例である。
すなわち、図29に示す実施例6の車両用操舵制御装置の制御ブロック図に基づき制御系を説明すると、実施例6では、操舵トルクと操舵速度を入力し、保舵状態を判断する保舵状態判断部20(保舵判断手段)と、操舵に対応した特性を持つ操舵時位相補償器16cと、保舵に対応した特性を持つ保舵時位相補償器16dと、保舵状態判断部20の出力に応じて、操舵過程の操舵時位相補償器16cと保舵過程の保舵時位相補償器16dとを切り替えるスイッチ部21と、を有する。なお、他の構成は実施例1と同様であるので、対応する構成に同一符号を付して説明を省略する。
次に、作用を説明する。
[保舵状態判断動作について]
保舵状態判断部20の動作を図30で説明する。図30(a)にレーンチェンジを行った場合の操舵パターンを示す。保舵判断は、操舵トルクが所定値以上入力さているときに、操舵速度が所定値以下の場合に保舵と判断している。
保舵・操舵状態判断制御ブロックを図30(b)に示す。STEP131では、操舵トルクの絶対値算出し、STEP132では、操舵トルクの絶対値が所定のA以上の場合は1を出力し、それ以外は0を出力し、STEP133では、操舵速度の絶対値算出し、STEP134では、操舵速度の絶対値が所定のB以下の場合は1を出力し、それ以外は0を出力する。STEP135では、STEP132とSTEP133の論理積を取り、共に1の場合は1を出力、それ以外は0を出力する。STEP136では、STEP135の出力が0から1に変わった場合のみ戻し開始と判断する。STEP137では、操舵速度の絶対値が所定のC以上の場合は1を出力、それ以外は0を出力する。STEP136では、STEP137の出力が0から1に変わった場合のみ戻し終了と判断する。
[保舵・操舵状態に応じた位相補償特性について]
保舵・操舵状態に応じた位相補償特性を、図31にて説明する。一例として、コントローラ13の位相補償を、K/(1+τden・S)+(−τnum・S)/(1+τden・S)と二つのブロックに分けた場合の説明を行う。
STEP141では、操舵トルクをK/(1+τden・S)の所定のゲインを掛けた1次遅れで処理する。STEP142では、操舵トルクを(−τnum・S)/(1+τden・S)なる所定のゲインと時定数による近似微分処理を行う。STEP143では、操舵時の場合は、STEP142の出力に第一のゲインを積算する。STEP144では、保舵時の場合は、STEP142の出力に第二のゲインを積算する。STEP145では、図30(b)で説明した操舵状態判断部20にて操舵トルクが所定値以上入力さているときに、操舵速度が所定値以下の場合に保舵と判断する。STEP146では、操舵状態判断部20の出力に応じて、操舵時と判断した場合はSTEP143の出力を、保舵時と判断した場合はSTEP144の出力を切り替える。STEP147では、STEP141とSTEP146の出力の和をとりトルク位相補償値とする。ここで、第一のゲインと第二のゲインの大小関係は、第一のゲイン<第二のゲインである。
[トルク位相補償作用について]
続いてトルク位相補償作用について図32および図33を用いて説明する。
図32に示す操舵角特性により操舵角にてレーンチェンジを行うと、本発明による制御を行わないと図32に示す操舵トルク特性が必要となる。
一般に、操舵から保舵になる場合に操舵力と保舵力には差があり、保舵力が操舵力より軽い方が扱い易くなる。本制御を用いると図32の制御量特性に示すように、保舵になった場合に位相補償量を増加させているので、図33に示すように、操舵トルクのリサージュ波形において、操舵トルクと保舵トルクの差が大きくなる。
次に、効果を説明する。
実施例6の車両用操舵制御装置にあっては、実施例3の効果に加えて、下記の効果を得ることができる。
(14) ハンドルの保舵を判断する保舵状態判断部20を設け、前記位相補償器16は、保舵直後は制御のゲインを大きくするため、操舵時のダンピングだけでなく、保舵後の操舵時の操舵トルク変化を大きくし、扱い易い操舵特性を実現することができる。
実施例7は、操舵入力や車両挙動等から保舵か操舵かを判断する保舵判断部を設け、保舵時の位相補償量を操舵時の位相補償量よりも減少させる例である。
すなわち、図34に示す実施例7の車両用操舵制御装置の制御ブロック図に基づき制御系を説明すると、実施例7では、操舵トルクとモータ速度を入力し、保舵状態を判断する保舵判断部(保舵判断手段)22を有する。また、モータ速度は、位相補償器16にも入力される。なお、他の構成は図2に示した実施例1と同様であるので、対応する構成に同一符号を付して説明を省略する。
次に、作用を説明する。
[操舵状態に応じた位相補償量変更動作について]
保舵判断部22と保舵判断部出力に応じた位相補償器16の動作を、図35を用いて説明する。
STEP101では、操舵トルクに不感帯を設ける。不感帯の値は、トルクセンサ4の不感帯相当ではなく、この値以上ならドライバの意思による操舵であると判断できる操舵トルク値である。STEP102では、不感帯を通した操舵トルクの極性の判断を行い、正(例えば右操舵)の場合は1、負(例えば左操舵)の場合は0を出力する。STEP103では、モータ速度の極性判断を行い、正(例えば右回転)の場合は1、負(例えば左回転)の場合は0を出力する。STEP104では、両者の出力を積算する。
STEP105では、両者の極性が異なる場合は1を出力、その他の場合を出力する。すなわち、操舵が切り過程か(例えば、トルクが正でモータ回転方向も正)、戻し過程か(例えば、トルクは正だがモータ回転方向は負)の判断をしている。STEP106では、モータ速度の絶対値が所定のω1以下の場合は1を出力、ω1より大きい場合は0を出力する。ω1はモータ回転、すなわち、ドライバによる操舵が行われハンドルが回転している状態を検知できる値である。
STEP107では、STEP105の出力が0から1へ切り替わった瞬間にビットを1にする。その他の状態では出力は0である。STEP108では、STEP106の出力が0から1へ切り替わった瞬間にビットを1にする。その他の状態では出力は0である。
STEP109では、STEP107とSTEP108のビット出力が共に1になった場合に1を出力、それ以外の場合は0を出力する。すなわち、ハンドルが戻し過程からそれ以外の状態になり、ハンドルの操作量が止まった瞬間の検知をしている。STEP110では、STEP109のビットが1になった瞬間に保舵制御FLGが1になる。また、後述するSTEP117のビットが1になった瞬間に保舵制御FLGは0となる。
STEP111では、モータ速度の絶対値が所定のω1より大きくなる、すなわち、操舵が開始された時に1を出力し、それ以外は0を出力する。STEP112は、STEP110の保舵制御FLGが1になった瞬間に0にリセットされるタイマーである。すなわち、保舵制御FLGの開始からの経過時間を出力する。
STEP113では、STEP110の保舵制御FLGが1になった瞬間の操舵トルクをT2として記憶する。STEP114では、T2に応じて変化する制御最大継続時間t1を算出する。保舵制御FLGが1になる瞬間は、例えば、レーンチェンジが終了して、真っ直ぐ走行するために保舵を開始した瞬間である。保舵中の車両挙動変動はその瞬間に発生している車両挙動に比例する(起振力となる)。また、保舵中に車両挙動変動が発生しつづける、減衰時間とも比例する。操舵トルクは式(3)で示したように、車両挙動から決まるものであるので、保舵を開始した瞬間の操舵トルクに応じて、保舵中に車両挙動変動と減衰時間は決まる。
STEP115では、STEP114で出力される減衰時間、すなわち、制御継続最大時間と、112のタイマー出力を比較し、制御時間が制御継続最大時間になったら1になり、それ以外は0を出力する。STEP116では、その出力が1から0へ変わった瞬間、すなわち、制御時間が制御継続最大時間に達したら1を出力し、それ以外は0を出力する。
STEP117では、STEP111かSTEP116のどちらかまたは両方が1になったら1を出力し、それ以外は0を出力する。すなわち、操舵が行われたか、制御継続最大時間が経過したら1を出力する。STEP110では、前述した開始ビットを117の終了ビットで保舵制御FLGは生成され、保舵制御FLGが1の場合は、補正制御を行う。
STEP118では、上述した位相補償器16で、保舵か操舵かに関係なく操舵トルクの位相補償を行う。STEP119では、STEP118の位相補償した操舵トルクと位相補償しないそのままの操舵トルクが入力されており、保舵制御FLGの出力に応じて、操舵時には位相補償した操舵トルクが出力され、保舵時には位相補償しない操舵トルクが出力されるSWである。STEP120では、補正した操舵トルクの最大値を制限して、大きな横風、大きな路面カントとか、タイヤからの大きな入力はドライバに操舵トルク変化として伝達する。また、制御量を作成する各種センサが失陥した場合でも、制御量に上限を設けることで、失陥に起因する操舵トルク変化を抑制できる。
よって、実施例7の車両用操舵制御装置にあっては、レーンチェンジ直後にハンドルを中立付近にて保持した場合に、発生する操舵トルク変化の原因であるタイヤからの入力、すなわち、車両挙動を素直に伝達し、自然な路面フィーリングも伝えることができる。
[保舵時の操舵トルク変動抑制作用]
図36を用いて実施例7の保舵時操舵トルク変動抑制作用を説明する。図36はレーンチェンジした場合の、操舵角と操舵トルクと車両挙動としてのヨーレートとの時系列推移を示している。レーンチェンジのためのハンドル操作は、図36(a)に示すように、1秒から操作が開始され3秒で終了する。3秒後は直進しているので、ハンドル角が0で維持される。その時のヨーレートは図36(b)に示すように、ハンドル角入力に対し遅れて発生する。そして、3秒以降のハンドル角が0で維持されているときに、車両特性により決まるヨーレートが継続して発生している。図36(c)には操舵トルクを示している。細線が従来例の操舵トルクであり、太線が実施例7の操舵トルクとなる。ハンドル操作中(1〜3秒)の従来例と実施例7との差がすでに説明したダンピングを改善する効果となる。そして、3秒後以降の保舵時において、実施例7のように制御することで、ハンドル角が0で維持されているときの操舵トルク変動を低下させることができる(図36(d))。
次に、効果を説明する。
実施例7の車両用操舵制御装置にあっては、実施例1の効果に加え、以下の効果を得ることができる。
(15) ハンドルの保舵を判断する保舵判断部22を設け、位相補償器16は、保舵時の位相補償量を操舵時の位相補償量よりも減少させるため、例えば、レーンチェンジ直後にハンドルを中立位置にて保持した場合に、車両特性に起因した操舵トルク変動を抑制でき、車両のふらつきが少ない操舵フィーリングを実現できる。
(16) 位相補償器16は、保舵時の位相補償量をゼロとするため、保舵時の操舵トルク変動を最小限に抑えることができる。
実施例8は、操舵から保舵へと操舵状態が変化したとき、時間の経過と共に位相補償量を減少させる例である。なお、構成的には、図34に示した実施例7の車両用操舵制御装置の制御ブロック図と同様であるので、図示並びに説明を省略する。
作用を説明する。
[操舵状態に応じた位相補償量変更動作について]
実施例8の保舵判断部22と保舵判断部出力に応じた位相補償器16の動作を、図37を用いて説明する。なお、図35に示した各STEPと同一のSTEPには、同一のSTEP番号を付して説明を省略する。
STEP201は、STEP112のタイマー出力を入力として、保舵が開始かれてからの継続時間tが進むにつれて減少するゲインG1を出力するマップである。G1の最大値はtが0近傍で1とすることで、操舵時と保舵時の制御量を一致させて制御の切り替わりによる不連続さを抑制することができる。G1をtの経過につれて減少させることで、操舵から保舵へ変わったときに徐々に制御量を変更して、さらに制御の切り替わりによる不連続さを抑制することができる。G1の最小値は0であり、G1が最小値となるtはマップ214の出力するt1より短い時間とすることで、レーンチェンジ直後にハンドルを中立付近にて保持した場合に、発生する操舵トルク変化の原因であるタイヤからの入力、すなわち、車両挙動を素直に伝達し、自然な路面フィーリングも伝えることができる。
STEP202では、STEP118とSTEP201の積をとり、保舵時の補正位相補償した操舵トルクを出力する。STEP203では、STEP118の位相補償した操舵トルクと後述する補正を行った補正位相補償操舵トルクが入力されており、210が出力する保舵制御FLGが0の場合、すなわち、操舵の場合は位相補償した操舵トルクを出力し、210が出力する保舵制御FLGが1の場合、すなわち、保舵の場合は補正位相補償した操舵トルクを出力する。
よって、実施例8の車両用操舵制御装置にあっては、操舵から保舵に変わった場合に制御量の急変を防ぐことができ、より自然な操舵フィーリングを実現できる。
[保舵時の操舵トルク変動抑制作用]
図38を用いて実施例8の保舵時操舵トルク変動抑制作用を説明する。図38はレーンチェンジした場合の、操舵角と操舵トルクと車両挙動としてのヨーレートとの時系列推移を示している。レーンチェンジのためのハンドル操作は、図38(a)に示すように、1秒から操作が開始され3秒で終了する。3秒後は直進しているので、ハンドル角が0で維持される。その時のヨーレートは図38(b)に示すように、ハンドル角入力に対し遅れて発生する。そして、3秒以降のハンドル角が0で維持されているときに、車両特性により決まるヨーレートが継続して発生している。図38(c)には操舵トルクを示している。細線が従来例の操舵トルクであり、太線が実施例8の操舵トルクとなる。ハンドル操作中(1〜3秒)の従来例と実施例8との差がすでに説明したダンピングを改善する効果となる。そして、3秒後以降において、実施例8のように制御することで、ハンドル角が0で維持されているときの操舵トルク変動が低下することが判る(図38(d))。さらに、実施例8では、実施例7と比較して、3秒直後の操舵トルク変動がより低下し滑らかに変化している。その結果、より滑らかな操作フィーリングを実現できる。
次に、効果を説明する。
実施例8の車両用操舵制御装置にあっては、実施例7の効果に加え、以下の効果を得ることができる。
(17) 位相補償器16は、操舵から保舵へと操舵状態が変化したとき、状態変化した瞬間から時間が経過するほど、位相補償量を減少させるため、制御の切り替わりによる不連続さを抑制することができ、ドライバへ与える違和感を低減できる。
(18) 位相補償器16は、位相補償量をゼロに収束させるため、保舵時の操舵トルク変動を最小限に抑えることができる。
実施例9は、ハンドルの手放しを判断する手放し判断部を設け、手放し時の位相補償量を非手放し時の位相補償量よりも増加させる例である。
すなわち、図39に示す実施例9の車両用操舵制御装置の制御ブロック図に基づき制御系を説明すると、実施例9では、操舵トルクとモータ速度を入力とし、手放し状態を判断する手放し判断部(手放し判断手段)23を有する。なお、他の構成は実施例7と同様であるので、対応する構成に同一符号を付して説明を省略する。
次に、作用を説明する。
[手放し判定方法について]
手放し判定の考え方をまず説明する。操舵トルクとモータ角速度を計測して、両者の2階微分が以下所定の関係を満たすならば手放しと判定することにより、正確な手放し判断することができる。
操舵系のモデルとして、ハンドル慣性(Jh)と、モータと減速機とラック等のトルクセンサより路面側にある系の慣性(Jm)と、両者を結合するトルクセンサの剛性(ks)で考える。ドライバから操作量である操舵トルク(Th)と操舵角(θh)、モータの角度をハンドル軸換算したモータ角度(θm)、トルクセンサの検出する操舵トルク(Ts)とする。
α > Jh・(dot(dot(Ts))/ks + ks・dot(dot(θm))) + Ts …(9)
ここで、αは所定値である。
上記操舵系のモデルでは、ハンドル周りの運動方程式は、
Th = Jh・dot(dot(θh)) + ks・(θh − θm)) …(10)
となる。
式(10)において、手放しだとするとThが0となるので、理想状態でのハンドル周りの運動方程式は
0 = Jh・dot(dot(θh)) + ks・(θh − θm) …(11)
となる。
式(11)において、ks・(θh − θm)はトルクセンサの検出トルク値(Ts)に相当するので、式(11)にて手放しと判断するにはdot(dot(θh))を算出すればよい。
Ts = ks・(θh − θm) …(12)
トルクセンサの検出トルク値の式(12)より、両辺を2階微分すると、
dot(dot(Ts)) = ks・(dot(dot(θh)) − dot(dot(θm))) …(13)
となる。
式(13)を変形すると、
dot(dot(θh)) = dot(dot(Ts))/ks + ks・dot(dot(θm)) …(14)
となり、式(14)を式(11)へ代入すると、式(9)が得られることになる。
以上のように、電動パワーステアリングにおいて、操舵トルクセンサの検出値とモータの角加速度を使用して、正確な手放し判断が可能となる。ここで、モータの角加速度はモータの角度を直接計測して2階微分してもよいし、モータの速度を直接計測して1階微分してもよいし、モータの逆起電力を利用してモータの端子間電圧とモータ電流とを計測してモータ角速度を推定し、推定したモータ角速度を1階微分してもよい。
[手放し状態に応じた位相補償量変更動作について]
手放し判断部23と手放し判断部出力に応じた位相補償器16の動作について、図40を用いて説明する。
STEP101、STEP102では、手放し判定部23に入力されたトルクセンサ信号は2階微分される。STEP103では、トルクセンサ剛性の逆数とトルクの2階微分値とを積算する。STEP104では、モータ角速度を1階微分する。STEP105では、モータ角速度の1階微分値に減速機ギア比を積算して、ハンドル軸に換算したモータ角加速度算出する。STEP106では、モータ角加速度にトルクセンサ剛性を積算する。STEP107では、STEP104とSTEP106の出力を加算する。STEP108では、STEP107出力にハンドル慣性を積算する。STEP109では、STEP108出力にトルクセンサ信号を加算し、式(9)の右辺が算出される。STEP110では、式(9)の右辺、すなわち、推定されたドライバトルクの絶対値を取る。
STEP111は、これ以下のドライバトルクを手放しと判断する所定のαである。STEP112では、推定されたドライバトルクと手放し判断の所定値との比較を行い、推定されたドライバトルクが所定値より大きい場合は手放しFLGとして0を出力し、それ以外の場合は手放しFLGは1が出力される。推定されたドライバトルクが0であれば、理論上完全な手放しとなるが、例えば、ドライバが所定操舵角を入力後、ハンドルに手を添える程度で自然にハンドルを戻すような操舵パターンにおいては、操舵トルクはわずかに発生していることになる。その場合にも、本制御による安定性向上を実現するために、式(9)の左辺である判断値は0ではなく所定のαとすることが望ましい。また、各種センサ信号にノイズが含まれることによる誤動作を防ぐことも可能になる。
STEP113は、上述し位相補償器で、手放しか非手放しかに関係なく操舵トルクの位相補償を行っている。STEP114は、位相補償16器の非手放し時のゲインである。ゲインはここでは図示していないが、車速や操舵トルク、転舵速等に応じて変更してもよい。STEP115は、手放しFLGの出力に応じて、非手放し時にはSTEP113とSTEP114にて決まる位相補償した操舵トルクが出力され、手放し時には後述する位相補償をした操舵トルクが出力されるSWである。STEP116は、モータ角速度を入力としたゲインG2のマップである。モータ角速度が大きくなるにつれてゲインは大きくなる。本ゲインG2は手放し時のゲインを決めるものの一つであり、モータ角速度が大きい場合には位相補償の制御量が増加することになる。
STEP117は、車速を入力としたゲインG3のマップである。低車速域ではゲインG3は0であり、車速が上がるにつれてG3は大きくなる。低車速域では車両の安定性はもともと高く、収束性を向上させる必要性はほとんどない。また、車速が高くなるにつれて、車両の収束性は悪くなっていくので、高速になるにつれて本制御量を増加させることで、収束性を上げることが可能となる。
STEP118では、位相補償した操舵トルクにモータ角速度に応じたゲインG2と車速に応じたゲインG3との積をとることで、手放し時の位相補償としている。STEP119では、補正した操舵トルクの最大値を制限して、大きな横風、大きな路面カントとか、タイヤからの大きな入力はドライバに操舵トルク変化として伝達する。また、制御量を作成する各種センサが失陥した場合でも、制御量に上限を設けることで、失陥に起因する操舵トルク変化を抑制できる。
[手放し時の収斂性について]
電動パワーステアリングは、モータの慣性やモータおよび減速機の摩擦により、図41に示すように、走行時に所定の操舵角を入力した後、ハンドルから手を放して車両が安定するまでの時間が長くかかったり、左右へのオーバーシュートを何回も繰り返したりする(手放し安定性、もしくは収斂性が悪い)。この問題に対し、特開平8−332964号公報に記載の技術では、ハンドル戻し過程で操舵速度が高い場合は手放しと判断し、操舵速度に比例したダンピングを行っている。
ところが、上記従来技術では、ドライバが速く操舵した場合にも手放しと判定され、ダンピングが加算されてしまうため、不要に操舵トルクが増大してハンドルが重くなってしまい、自然な操舵フィーリングを実現できないという問題があった。
[手放し時の収斂性向上作用]
これに対し、実施例9の車両用操舵制御装置では、手放し時には制御量を転舵速や車速といった車両挙動に影響を与える条件で変更することで、手放し収束性を向上させることが可能となる。
図42に示す実験データを用いて実施例9の手放し時収斂性向上作用を説明する。図42は所定の操舵角を入力したのちにハンドルから手を離した場合の、(a)操舵角、(b)操舵トルク、(c)車両挙動の時系列推移を示している。細線は実施例9の制御を実施しない従来例における電動パワーステアリング制御の場合の手放しであり、太線が実施例9のものである。
図42に示すように、実施例9の制御がより手放し後の収斂性が高いことがわかる。また、手放し時には位相補償量を増加させることで、当然収束が早くなることはいうまでもない。さらに、手放し時にモータ角速度が速いということは、車両挙動も大きいことを意味するので、モータ角速度が大きい程、本制御量を増加させてより早い車両の収束を実現できる。
次に、効果を説明する。
実施例9の車両用操舵制御装置にあっては、実施例1の効果に加え、以下の効果を得ることができる。
(19) ハンドルの手放しを判断する手放し判断部23を設け、位相補償器16は、手放し時の位相補償量を非手放し時の位相補償量よりも増加させるため、手放し時の収斂性を向上させることができ、高速走行時の安定感を実現できる。
(20) 位相補償器16は、アクチュエータの駆動速度または車両挙動の一方が増加するほど、手放し時の位相補償量を増加させるため、より早い車両の収束を実現できる。
(21) 位相補償器16は、車速が高くなるほど手放し時の位相補償量を増加させるため、高速走行時におけるより早い車両の収束を実現できる。
実施例10は、手放し時の推定ドライバトルクが大きくなるほど位相補償量を減少させる例である。なお、構成的には、図39に示した実施例9の車両用操舵制御装置の制御ブロック図と同様であるので、図示並びに説明を省略する。
作用を説明する。
[手放し状態に応じた位相補償量変更動作について]
実施例10の手放し判断部23と手放し判断部出力に応じた位相補償器16の動作について、図43を用いて説明する。なお、図40に示した各STEPと同一のSTEPには、同一のSTEP番号を付して説明を省略する。
STEP201では、STEP110(推定操舵トルク算出手段)の出力である推定ドライバトルク(推定操舵トルク)と手放し判断の所定値との比較を行い、推定ドライバトルクが所定値より大きい場合は手放しFLGとして0を出力し、それ以外の場合は手放しFLGは1が出力される。推定されたドライバトルクが0であれば、理論上完全な手放しとなるが、例えば、ドライバが所定操舵角を入力後、ハンドルに手を添える程度で自然にハンドルを戻すような操舵パターンにおいては、操舵トルクはわずかに発生していることになる。その場合にも、本制御による安定性向上を実現するために、式(9)の左辺である判断値は0ではなく所定のαとすることが望ましい。また、各種センサ信号にノイズが含まれることによる誤動作を防ぐことも可能になる。
STEP202は、推定ドライバトルクを入力としたゲインG4のマップである。推定ドライバトルクのマップは、推定値がセンサの誤差等に起因する推定精度できまる所定のγより小さい範囲では、略一定の値である。これにより、完全に手放しの場合、すなわち、推定値が0である場合は、手放し時制御量を最大にして車両およびハンドルの収束性を向上させることができる。推定ドライバトルクが所定のγより大きくなるにつれ、ゲインは低下しドライバの意思により操舵する場合に発生するトルクβ付近において、ゲインは非手放し時のゲインG1と同じになる。
すなわち、推定ドライバトルクが大きくなるにつれ、ゲインを低下させることで、手放し制御手段の制御量を減らし、ハンドル戻り速度が、手放し時と軽く手を添えているときとで、ほぼ同じにすることが可能となる。そして、手を添えているかどうかにかかわらず、ほぼ一定のハンドル戻しとすることで、ドライバの違和感を抑制できる。推定ドライバトルクが大きい場合は、ドライバによる操舵が行われているのでゲインを非手放し時のゲインと同じとすることで、制御の切り替わりによる不連続な操舵フィーリングを抑制することができる。
STEP203では、位相補償した操舵トルクに推定ドライバトルクに応じたゲインG4を積算して、手放し時の位相補償としている。
よって、実施例10の車両用操舵制御装置にあっては、手放しから操舵に変わった場合に制御量の急変を防ぐことができ、より自然な操舵フィーリングを実現できる。
次に、効果を説明する。
実施例10の車両用操舵制御装置にあっては、実施例9の効果に加え、以下の効果を得ることができる。
(22) 手放し時の推定ドライバトルクを算出する推定操舵トルク算出手段(STEP110)を設け、位相補償器16は、手放し時の推定ドライバトルクが大きくなるほど手放し時の位相補償量を減少させるため、手放し時とハンドルに軽く手を添えているときとで、ハンドル戻り速度をほぼ同じとすることができ、ドライバへ与える違和感を抑制できる。
(23) 位相補償器16は、手放し時の推定操舵トルクが大きくなるほど手放し時の位相補償量を非手放し時の位相補償量へ収束させるため、手放しから操舵に変わった場合に制御量の急変を防ぐことができ、より自然な操舵フィーリングを実現できる。
実施例11は、操舵入力、車両挙動等から路面μを推定する路面μ検出部を設け、推定路面μが低いほど、位相遅れ量を増加させる例である。
すなわち、図44に示す実施例11の車両用操舵制御装置の制御ブロック図に基づき制御系を説明すると、実施例11では、操舵トルク、モータ速度、モータ電流および車両挙動を入力とし、路面μを推定する路面μ検出部(路面μ推定手段)24を有する。なお、他の構成は実施例7と同様であるので、対応する構成に同一符号を付して説明を省略する。
次に、作用を説明する。
[路面μに応じた位相遅れ量増加動作について]
路面μ推定部24と路面μ推定部出力に応じた位相補償器16の動作を、図45を用いて説明する。
STEP101では、モータ電流にトルク定数kmを掛けてモータの出力しているモータトルクを算出する。図45では割愛しているが、モータトルクをハンドル軸へ伝達する際に減速機を用いるならば、そのモータトルクにその減速比を積算してハンドル軸換算のモータトルクを算出する。STEP102では、モータ角速度に操舵系の粘性Cを積算して、操舵系の粘性抵抗トルクを算出する。STEP103では、モータ角速度を微分してモータ角加速度を算出する。STEP104では、モータ角加速度に操舵系の慣性を積算して、操舵系の慣性トルクを算出する。
STEP105では、検出した操舵トルクとモータトルクと粘性抵抗トルクと慣性トルクとから路面からの入力トルク(以下路面トルク)を算出する。操舵系の特性を決める支配的な操舵系粘性と操舵系慣性とで表現する簡単なモデルで説明する。前記操舵モデルでは、トルクの釣り合いは下式で表現できる。
Th+Tm=Tsat+Iθ"+Cθ' …(15)
ここで、Thはドライバによる操舵トルク、Tmはモータトルク、Tsatは路面トルク、Iは操舵系慣性、Cは操舵系粘性、θは操舵角である。
操舵系をより高次なモデルで表現してもよいし、モータ角速度ではなく実際に操舵角や操舵速度を計測して実路面トルクの算出に用いてもよい。
STEP106では、操舵角から式(1),(2)を用いて、路面μが1の場合の基準車両挙動γ、βを算出する。STEP107では、基準車両挙動γ、βと操舵角と車速を入力として、その他は定数として計算することで基準路面トルクを算出する。算出式は下記の式(16)となる。
ξ・Cf/N・(θ/N−lf・γ^/V−β^) …(16)
ここで、^は推定値を表す。
STEP108では、実路面トルクと基準路面トルクとの比が路面μに相当するので、実路面トルクを基準路面トルクで割り算することで、推定路面μを算出する。以上の説明では、操舵トルクから路面μを推定しているが、路面μの推定方法はいかなる方法を用いても良い。
STEP109は、推定路面μに応じて位相補償の係数Kを変更するマップである。推定路面μが低くなるにつれて、Kは小さくなる。位相補償の係数Kを変更した場合の、位相補償手段の周波数特性を図46に示す。図46に示すように、推定路面μが低いほど、Kを小さくすることにより、路面μが低下したと判断されると位相補償手段の位相遅れは大きくなり、路面μ低下による車両挙動変化(共振周波数低下)に対応した位相補償となり、ドライバにとって扱い易い操舵特性を実現できる。
STEP110は、推定路面μに応じて位相補償の係数τnumを変更するマップである。推定路面μが低くなるにつれて、τnumは大きくなる。位相補償の係数τnumを変更した場合の位相補償手段の周波数特性を図47に示す。図47に示すように、推定路面μが低いほどτnumを大きくすることにより、路面μが低下したと判断されると位相補償手段の位相遅れは大きくなり、かつ、ゲインも大きくなる。従って、路面μ低下による車両挙動変化(ダンピング悪化、共振周波数低下)に対応した位相補償となり、ドライバにとって扱い易い操舵特性を実現できる。
STEP111は、推定路面μに応じて位相補償の係数τdenを変更するマップである。推定路面μが低くなるにつれて、τdenは大きくなる。位相補償の係数τdenを変更した場合の、位相補償手段の周波数特性を図48に示す。図48に示すように、推定路面μが低いほどτdenを大きくすることにより、路面μが低下したと判断されると位相補償手段の位相遅れは大きくなり、路面μ低下による車両挙動変化(共振周波数低下)に対応した位相補償となり、ドライバにとって扱い易い操舵特性を実現できる。
STEP112は、STEP109からSTEP111のマップで決まる定数にて操舵トルクの位相補償を行う、位相補償器である。STEP113では、補正した操舵トルクの最大値を制限して、大きな横風、大きな路面カントとか、タイヤからの大きな入力はドライバに操舵トルク変化として伝達する。また、制御量を作成する各種センサが失陥した場合でも、制御量に上限を設けることで、失陥に起因する操舵トルク変化を抑制できる。
よって、実施例11の車両用操舵制御装置では、路面μが変化した場合でも、操舵トルク入力時の車両挙動のダンピングを確実に確保すること可能となり、低μ路での走行時にもドライバにとって扱い易い操舵特性を実現できる。
[低μ路における操舵トルクに対する車両挙動のダンピング向上作用]
路面μが変化すると車両運動特性は変化するため、変化した車両特性に応じて操舵特性を変更しなければ路面μに応じたドライバにとって扱い易い特性は実現できない。路面μが低下し路面からの反力が減少すると、アシスト量は路面μに応じて変化しないため、ドライバの感じる操舵トルクは減少する。操舵トルクが小さいと同じ慣性量でも慣性感は強く感じてしまうため、従来技術では、低μ路ではより不自然な操舵フィーリングとなってしまう。
また、路面μが低下すると、路面からの入力が少なくなるため、操舵入力に対する操舵トルク変化が少なくなり、特に中立付近での微小な入力に対して操舵トルクが変化せず中立がはっきりしないという問題がある。
低μ路においても、高速走行時にドライバは主に操舵トルク入力で運転しており、操舵トルク入力に対する車両挙動の周波数特性におけるダンピングが良い方が、ドライバにとっては扱い易い。そこで、実施例11では、路面μ変化に伴う車両特性変更に応じて、低μ路でも操舵トルク入力に対する車両挙動の周波数特性におけるダンピングが良くなるように制御特性を変更し、ドライバにとって扱い易くすることを目的としたものである。
路面μが変化した場合の操舵トルクに対する操舵角の周波数特性を図49に示す。算出方式は、路面μ変化をCf、Crに含ませて計算し、路面μ=1の場合と路面μ=0.2の場合とを比較した。路面μが低下すると、ダンピングが悪くなるとともに、共振周波数が低下することが分かる。そこで、路面μの低下に応じて、ダンピングが良くなり、かつ、変化した共振周波数に応じて制御特性を変更することが望ましい。
路面μが変化しても操舵トルク入力に対する操舵角の周波数特性が同じ2次系となるように、制御特性を計算すると、コントローラの周波数特性は図50に示すように変更する必要がある。図50からわかるように、路面μの低下に応じて制御特性の遅れを大きくすることで、路面μが変化してもドライバにとって扱い易い操舵特性が実現できることになる。
また、路面μが低下したときに悪化するダンピングに対しては、制御量を増加させることで対応が可能となる。さらに、路面μが低下して操舵トルクが減少している場合でも、路面μの低下に応じて制御量を増加させることで、操舵トルクが小さくてもダンピングのよい特性を実現できる。
次に、効果を説明する。
実施例11の車両用操舵制御装置にあっては、実施例1の効果に加え、以下の効果を得ることができる。
(24) 操舵入力、車両挙動等から路面μを推定する路面μ検出部24を設け、位相補償器16は、推定路面μが低いほど、位相遅れ量を増加させるため、路面μが変化した場合でも、操舵トルク入力時の車両挙動のダンピングを確実に確保することが可能となり、低μ路での走行時にもドライバにとって扱い易い操舵特性を実現できる。
(25) 位相補償器16は、1次進み/1次遅れによる位相補償器であり、
(K−τnum・S)/(a+τden・S)
但し、S:ラプラス演算子、K:ゲイン(≧0)、τnum:1次進み時定数(≧0)、a:定数(>0)、τden:1次遅れ時定数(>0)
による伝達関数で表される特性としたため、簡単な制御特性であることで、コントローラ13の実装が容易になると共に、発散による制御不安定化を解消することができる。
(26) 位相補償器16は、推定路面μが低いほど、ゲインKを小さくするため、路面μ低下による車両挙動変化(共振周波数低下)に対応した位相補償となり、ドライバにとって扱い易い操舵特性を実現できる。
(27) 位相補償器16は、推定路面μが低いほど、1次進み時定数τnumを大きくするため、路面μ低下による車両挙動変化(ダンピング悪化、共振周波数低下)に対応した位相補償となり、ドライバにとって扱い易い操舵特性を実現できる。
(28) 位相補償器16は、推定路面μが低いほど、1次遅れ時定数τdenを大きくするため、路面μ低下による車両挙動変化(共振周波数低下)に対応した位相補償となり、ドライバにとって扱い易い操舵特性を実現できる。
図51は、実施例12の路面μ推定部24と路面μ推定部出力に応じた位相補償器16の動作を示す制御ブロック図であり、実施例12は、図45に示したSTEP101〜STEP105に代えて、ラック軸力に基づいて実路面トルクを計測するSTEP201を設けた点で、実施例11と異なる。なお、実施例12の作用および効果は、実施例12と同様であるため、説明を省略する。
実施例13は、車速が高くなるほど位相遅れを大きくする例である。なお、構成的には、図44に示した実施例11の車両用操舵制御装置の制御ブロック図と同様であるので、図示並びに説明を省略する。
次に、作用を説明する。
[路面μに応じた位相遅れ量増加動作について]
実施例13の路面μ推定部24と路面μ推定部出力に応じた位相補償器16の動作を、図52を用いて説明する。なお、図45に示した各STEPと同一のSTEPには、同一のSTEP番号を付して説明を省略する。
STEP301は、推定路面μと車速に応じて位相補償の係数Kを変更するマップである。推定路面μが低くなるにつれてKは小さくなる。また、車速が高くなるほどKは大きい。さらに、車速が高くなるほどK/推定路面μのゲインの絶対値は低くなる。推定路面μが低いほどKを小さくすることで、路面μが低下したと判断されると位相補償手段の位相遅れは大きくなり、路面μ低下による車両挙動変化(共振周波数低下)に対応した位相補償となり、ドライバにとって扱い易い操舵特性を実現できる。また、車両挙動が不安定と感じやすい高速なほど、制御量は増加するので、ドライバの安心感は向上する。さらに、車速が高くなるほどK/推定路面μのゲインの絶対値は低くなるので、結果として路面μが低い程、低車速から制御量が増加する。低μ路においては、ドライ路よりより低車速でドライバは不安と感じるので、本制御により、そのような場合でもドライバの安心感を向上させることができる。
STEP302は、推定路面μに応じて位相補償の係数τnumを変更するマップである。推定路面μが低くなるにつれてτnumは大きくなる。また、車速が高くなるほどτnは小さくなる。さらに、車速が高くなるほどτnum/推定路面μのゲインの絶対値は低くなる。推定路面μが低いほどτnumを大きくすることで、路面μが低下したと判断されると位相補償手段の位相遅れは大きくなり、路面μ低下による車両挙動変化(ダンピング悪化、共振周波数低下)に対応した位相補償となり、ドライバにとって扱い易い操舵特性を実現できる。また、車両挙動が不安定と感じやすい高速なほど、制御量は増加するので、ドライバの安心感は向上する。さらに、車速が高くなるほどK/推定路面μのゲインの絶対値は低くなるので、結果として路面μが低い程、低車速から制御量が増加する。低μ路においては、ドライ路よりより低車速でドライバは不安と感じるので、本制御により、そのような場合でもドライバの安心感を向上させることができる。
STEP303は、推定路面μに応じて位相補償の係数τdenを変更するマップである。推定路面μが低くなるにつれてτdenは大きくなる。また、車速が高くなるほどτdenは低くなる。さらに、車速が高くなるほどτd/推定路面μのゲインの絶対値は低くなる。推定路面μが引くほどτdenを大きくすることで、路面μが低下したと判断されると位相補償手段の位相遅れは大きくなり、路面μ低下による車両挙動変化(共振周波数低下)に対応した位相補償となり、ドライバにとって扱い易い操舵特性を実現できる。また、車両挙動が不安定と感じやすい高速なほど、制御量は増加するので、ドライバの安心感は向上する。さらに、車速が高くなるほどK/推定路面μのゲインの絶対値は低くなるので、結果として路面μが低い程、低車速から制御量が増加する。低μ路においては、ドライ路よりより低車速でドライバは不安と感じるので、本制御により、そのような場合でもドライバの安心感を向上させることができる。
すなわち、実施例13の車両用操舵制御装置にあっては、路面μと車速に応じて、最適な操舵トルク入力時の車両挙動のダンピングを確実に確保すること可能となり、路面μが低いとドライ路より低速で不安と感じるような車速でも扱い易い操舵特性を実現し、ドライバへ安心と感じさせることが可能となる。
次に、効果を説明する。
実施例13の車両用操舵制御装置にあっては、実施例11の効果に加え、以下の効果を得ることができる。
(29) 位相補償器16は、車速が高くなるほど、位相遅れを大きくするため、路面μに対応した位相補償となり、ドライバにとって扱い易い操舵特性を実現できる。
(30) 位相補償器16は、車速が高くなるほど、位相補償量を増加させるため、路面μが低いほど、低車速域からの制御量を増加させることで、低μ路におけるドライバの安心感を向上させることができる。
実施例14は、操舵トルクが高周波になるほど操舵トルクに対するアクチュエータトルクのゲインが小さくなる負の第一指令値と、操舵トルクが高周波になるほど操舵トルクに対するアクチュエータトルクの位相遅れが180°近傍となる第二指令値と、に基づいてモータ5のトルク指令値を設定する例である。
すなわち、図53に示す実施例14の車両用操舵制御装置の制御ブロック図に基づき制御系を説明すると、実施例14は、位相補償器25aと、リミッタ25bと、不感帯25cと、位相補償器25dと、リミッタ25eとからなる制御部(操舵制御手段)25を備えている。
位相補償器25aは、1次進み/1次遅れによる伝達関数で表される特性であり、操舵トルクと車速に応じて第二指令値を作成する。リミッタ25bは、第二指令値に制限をかける。
不感帯25cは、トルクセンサ4のノイズを除去し、位相補償器25dへ出力する。位相補償器25dは、1次遅れによる伝達関数で表される特性であり、操舵トルクと車速に応じて第一指令値を作成する。リミッタ25eは、第一指令値に制限を掛ける。
すなわち、実施例14では、検出された操舵トルクを、制御部25に通すことにより、操舵トルクが高周波になるほど操舵トルクに対するモータトルクが小さくなる負の第一指令値と、操舵トルクが高周波になるほど操舵トルクに対するモータトルクの位相遅れが略180°に近づく第二指令値とを作成し、これらを加算してモータ5のトルク指令値とする。2つの位相補償器25a,25dは、車速に応じてその特性を変更できるものとする。
そして、加算器13p,13q,13t,13rにおいて、応答性補償電流指令値と、慣性補償電流指令値と、粘性補償電流指令値と、第二指令値と、第一指令値を電流指令値演算ブロック13kに通過させた値と、が加算され、この加算値を電流制御ブロック13dへの電流指令値とする。なお、他の構成は、実施例1と同様であるので、図示並びに説明を省略する。
次に、作用を説明する。
[第一指令値と第二指令値の設定ロジック]
第二指令値を作成する位相補償器25aを下記の式(17)に示すように、1次進み/1次遅れで構成した場合、その周波数特性は、図54の破線のようになる。実施例14において、第二指令値の根幹となる位相補償器25aの特性のポイントは、高周波になるにつれて操舵トルクとは逆の方向へアシストする。すなわち、位相遅れが大きくなり位相が反転することにある。
C2(S)=(1−τnum・S)/(1+τden・S) …(17)
そして、この位相補償器25aの出力は、過渡的な入力、例えば、ステップ状のトルク入力があった場合、実施例1に示した図15のような特性となる。図15において、出力の下方へのゲインは、1次進みの時定数τnunで決まる。そして、実施例14ではτnunを車速の関数とする。また、出力の遅れは、1次遅れの時定数τdenで決まることになる。そして、操舵トルクに対する定常的なアシスト量は位相補償器25aの定常ゲインを1としているので、本処理をした操舵トルクを車速で決まる電流指令値演算ブロック13kのアシストマップで決めることになる。
この出力の時系列推移から分かるように、コントローラ13は、目標電流値として、過渡入力が入った直後は、ハンドル1を重くする方向へ逆アシストを実施し、時間の推移とともにハンドル1を軽くする方向へアシストを実施することとなる。
ドライバの操舵方向に対し、瞬間とはいえ反対方向へアシストすることになるので、ドライバの感じる操舵トルクは重くなる。したがって、リミッタ25bを設けることで、操舵トルクが不要に重くなるのを防ぐことができる。
続いて、第一指令値を作成する位相補償器25dを下記の式(18)に示すように、1次遅れで構成した場合、その周波数特性は、図54の実線のようになる。実施例14における第一指令値の根幹となる位相補償器25dの特性のポイントは、高周波になるにつれて操舵トルクに対するアシスト量が減少し、そのアシスト方向は操舵トルクと逆方向であることである。
C1(S) = -A/(1+τ1s) …(18)
そして、この位相補償器25dの出力は、1次遅れであるので詳細な説明は割愛するが、ゆっくりとした入力に対しては位相遅れ少なくそのまま出力され操舵トルクが重くなる方向へアシストが発生する。周波数が早くなるにしたがって、出力は減少して位相遅れは大きくなるので、アシスト量はほとんど無くなる。そのゲインAは、実施例14では車速の関数とする。
ゆっくりとした操舵の場合は、やはりドライバの操舵方向に対し、ドライバの感じる操舵トルクは重くなる。したがって、リミッタ25eを設けることで、操舵トルクが不要に重くなるのを防ぐことができる。
また、車両振動やトルクセンサの電気的なノイズの影響によるアシスト力の変動、すなわち、操舵トルクの変動を防ぐために、ノイズ相当に対しては不感帯25cを設けている。
ここで、第一指令値の時定数τ1と第二指令値の時定数τdenとの関係は、τ1>τdenが望ましい。図54はτ1>τdenの場合の周波数特性を示している。その場合に、低周波数領域では、第一指令値のゲインが高く、第二指令値のゲインが低くなっている。従って、微小でゆっくりとした操舵シーン、例えば、高速における直進走行時において、操舵に対して逆方向へモータからアシストされるので、微小な入力に対し素早く操舵トルクが発生するだけでなく、路面インフォメーションを位相遅れ少なく、協調して伝達することが可能になる。
また、高周波数領域では、第一指令値のゲインが低く、第二指令値のゲインが高い、また、その位相は略180°ずれている。したがって、第二指令値により操舵トルク入力時の車両挙動のダンピングを向上させて、高速走行におけるカーブやレーンチェンジといったドライバが積極的に操舵するシーンにおいてドライバにとって扱い易い操舵特性を実現できる。
さらに、図55,56に示すように、第二指令値のゲインτnum、第一指令値のゲインAを車速の関数として、車速の増加に応じてゲインを高めることで、しっかりとした操舵感や車両のダンピングが要求される高速での効果を実現することができる。
次に、効果を説明する。
実施例14の車両用操舵制御装置にあっては、以下の効果を得ることができる。
(31) 制御部25は、操舵トルクが高周波になるほど操舵トルクに対するアクチュエータトルクのゲインが小さくなる負の第一指令値と、操舵トルクが高周波になるほど操舵トルクに対するアクチュエータトルクの位相遅れが180°近傍となる第二指令値と、の加算値に基づいて、モータ5のトルク指令値を設定する。よって、第二指令値により操舵トルク入力時の車両挙動のダンピングを向上させ、高速走行におけるカーブやレーンチェンジといったドライバが積極的に操舵するシーンにおいてドライバにとって扱い易い操舵特性を実現できる。また、第一指令値により、第二指令値のゲインが低下するような微小でゆっくりとした操舵シーン、例えば、高速における直進走行時において、操舵に対して逆方向へモータ5からアシストされるので、微小な入力に対し素早く操舵トルクが発生するだけでなく、路面インフォメーションを位相遅れ少なく、協調して伝達することが可能となる。
(32) 制御部25は、第一指令値の遅れ時定数τ1を、第二指令値の遅れ時定数τdenよりも大きな値となるように設定したため、微小でゆっくりとした操舵シーン、例えば、高速における直進走行時において、操舵に対して逆方向へモータからアシストされるので、微小な入力に対し素早く操舵トルクが発生するだけでなく、路面インフォメーションを位相遅れ少なく、協調して伝達することが可能になる。
(33) 制御部25は、第二指令値を設定するための1次進み/1次遅れによる位相補償器25aを備え、
(K−τnum・S)/(a+τden・S)
但し、S:ラプラス演算子、K:ゲイン(≧0)、τnum:1次進み時定数(≧0)、a:定数(>0)、τden:1次遅れ時定数(>0)
による伝達関数で表される特性とした。よって、簡単な制御特性であることで、コントローラ13の実装が容易になると共に、発散による制御不安定化を解消することができる。
(34) 制御部25は、第一指令値と第二指令値の少なくとも一方のゲインの絶対値を、車速が高くなるほど大きくするため、車両のダンピングや、操舵中立付近でのしっかり感が要求される、高速において、より確実に両者を実現できる。
(35) 制御部25は、第一指令値と第二指令値にリミッタ25b,25eを設けたため、不要に操舵トルクが重くなるのを防止できる。
(36) 制御部25は、第一指令値に不感帯25cを設けたため、センサノイズ等による誤動作を防ぐことができる。
実施例15は、実施例14に対し、位相補償方法を異ならせた例であり、まず、構成について説明すると、実施例15の車両用操舵制御装置は、図57に示すように、位相補償器25a'と、位相補償器25d'と、位相補償器16と、を備えている。
位相補償器25a'は、近似微分による伝達関数で表される特性を有している。位相補償器25d'は、1次遅れによる伝達関数で表される特性を有している。位相補償器16は、車速や操舵トルクや操舵速度(モータ速度)に応じて操舵トルクの周波数特性における位相を補償する。位相補償器16の出力は、電流指令値演算ブロック13kに送られ、位相補償電流指令値が算出される。
そして、加算器13p,13q,13r,13uにおいて、応答性補償電流指令値と、慣性補償電流指令値と、粘性補償電流指令値と、第二指令値と、第一指令値と、位相補償電流指令値と、が加算され、この加算値を電流制御ブロック13dへの電流指令値とする。なお、他の構成は、実施例14と同様であるので、説明を省略する。
次に、作用を説明する。
[第一指令値と第二指令値の設定ロジック]
実施例15では、操舵トルクに対する定常的なアシストは、位相補償器16と電流指令値演算ブロック13kで決まる。位相補償器16は、通常の電動パワーステアリング制御と同様にサーボ系の安定性を確保するためのものである。位相補償器16にて位相補償された操舵トルクと車速で決まるアシスト量は電流指令値演算ブロック13kのマップにて算出される。
第二指令値を作成する位相補償器25a'を、下記の式(19)に示すように、近似微分で構成した場合、その周波数特性は、図58の破線のようになる。実施例15の第二指令値の根幹となる位相補償器25a'の特性のポイントは、高周波になるにつれて操舵トルクとは逆の方向へアシストする。すなわち、位相遅れが大きくなり位相が反転することにある。
C2(S)=−τnS/(1+τden・S) …(19)
そして、この位相補償器25a'の出力は、一般的な近似微分であるので詳細な説明は割愛するが、過渡的な入力、例えば、ステップ状のトルク入力があった場合、瞬間逆方向へアシストを発生することになる。逆方向への大きさは進みの時定数τnumで決まる。そして、実施例15ではτnunを車速の関数とする。また、出力の遅れは、1次遅れの時定数τdenで決まることになる。
したがって、コントローラ13は、目標電流値として、過渡入力が入った直後は、ハンドル1を重くする方向へ瞬間逆アシストを実施し、時間の推移とともにハンドル1を軽くする方向へアシストを実施することとなる。
ドライバの操舵方向に対し、瞬間とはいえ反対方向へアシストすることになるので、ドライバの感じる操舵トルクは重くなる。したがって、リミッタ25bを設けることで、操舵トルクが不要に重くなるのを防ぐことができる。
続いて、第一指令値を作成する位相補償器25d'を下記の式(20)に示すように、1次遅れで構成した場合、その周波数特性は、図58の実線のようになる。実施例15の第一指令値の根幹となる位相補償器25の特性のポイントは、高周波になるにつれて操舵トルクに対するアシスト量が減少し、そのアシスト方向は操舵トルクと逆方向であることである。
C1(S) = -A/(1+τ1・s) …(20)
そして、この位相補償器25d'の出力は、1次遅れであるので詳細な説明は割愛するが、ゆっくりとした入力に対しては位相遅れ少なくそのまま出力され操舵トルクが重くなる方向へアシストが発生する。周波数が早くなるにしたがって、出力は減少して位相遅れは大きくなるので、アシスト量はほとんどなくなる。そのゲインAは、実施例15では車速の関数とする。
次に、効果を説明する。
実施例15の車両用操舵制御装置にあっては、以下の効果を得ることができる。
(37) 位相補償器25a'は、近似微分であるため、実施例14の場合に比べ、より簡単な制御特性となり、コントローラ13への実装をさらに容易とすることができる。
実施例16は、操舵速度の1次遅れ処理後の信号に応じてモータ5のダンピング補正制御量を算出する例である。なお、構成的には、図1に示す実施例1の車両用操舵制御装置の全体図と同様であるので、図示並びに説明を省略する。
次に、作用を説明する。
[モータ指令値演算動作について]
図59に、モータ指令値演算制御ブロックを示す。
STEP101では、操舵トルク入力値に対するモータ指令電流が算出される。STEP102では、ハンドル1の操舵速度に対し、1次遅れ要素で処理する。ハンドル1の操舵速度は、モータ端子間電圧とモータ電流を用いて演算したモータ5の回転速度から求めることができる(操舵速度検出手段に相当)。
続いて、STEP103では、負のゲインK2を積算し、STEP104では、STEP103の出力からダンピング補正制御量を演算し、STEP105では、モータ指令電流にダンピング補正制御量を加算する。STEP106では、STEP105の出力に基づいてモータ指令値を演算し、モータ5へ出力する。STEP102〜STEP105により、検出された操舵速度の1次遅れに基づいてダンピング補正制御量を算出し、このダンピング補正制御量と操舵トルクに応じた基本制御量とに基づいてモータ5を補償制御する補償制御手段が構成される。図60に、1次遅れ要素を0.01/(0.01s+1)、ゲインK2を−1とした場合のシミュレーション結果を示す。
図61において信号の概形を説明する。操舵トルクTの立ち上がりは操舵角θの立ち上がりに比べて早いため、実施例16の操作を施すと、モータ指令値I*は図61(c)ような波形となる。なお、操舵トルクTの立ち上がりから操舵角θの立ち上がりにかかる時間Δtはごく小さいので、シミュレーショングラフ上ではほぼ同時である。
これにより、図61(c)に示すように、A:ハンドル回転開始時に瞬間的に逆方向へアシストし、B:トルクの立ち上がりに対してアシストを遅らせる理想的なアシスト特性が実現され、転舵速度や車速に関係なく操作時のハンドル1の抜けや急な戻りを防ぎ、ドライバの安心感や操作性の向上、操舵中立位置付近のしっかり感を両立でき、より扱い易い良好な操舵フィーリングが保たれる。
ここで、操舵トルクの立ち上がり時点から操舵角が立ち上がるまでの時間は正方向のアシストが発生する。これは、モータ5の摩擦や操舵系のねじれに起因するトルク発生の遅れを軽減し、より自然な反力を実現する作用がある。さらに、操舵量の小さい範囲でのゲインを上げることで、上記制御作用はより効果的となる。
図62に示すように、操舵速度の変化による操舵量が大きいときの操舵速度は高くなり(図62(a))、それに伴いダンピング補正量は大きくなる(図62(b))。ところが、図63に示すように、操舵量が小さい範囲での操舵速度は低くなるため(図63(a))、ダンピング補正量は不足する。よって、操舵角が小さい範囲、すなわち操舵速度が低い範囲でダンピング量のゲインK2を大きくすることで(図63(b))、ハンドル回転移動量によって大きくダンピング量が異なるのを防ぐ効果がある。
[本実施例の考え方]
従来の電動モータを用いたパワーステアリングシステム(EPS)では、検出した操舵トルクに応じて電動モータの回転を制御することにより、ハンドルの回転操作に対してアシスト力を付与している。例えば、特許第3412579号公報に記載の技術では、操舵トルクの微分値に応じた制御量を操舵トルクに応じた制御量に加えたり、車速および操舵速度に応じて電動モータの慣性力やフリクションに起因した操舵トルクによるアシスト力の不足を補償したりすることで、ハンドルの抜けや急な戻りを抑制している。
実施例1で述べたように、理想的な操舵特性を実現するための操舵トルクに対する操舵角の周波数特性は、図11に示した特性となる。これの理想的解を解釈すると、
(i) ハンドル回転開始時に瞬間的に逆方向へアシストする。
(ii) 操舵トルクの立ち上がりに対してアシストを遅らせる。
の2点であると言える。これを時系列で表すと、図64のように描くことができる。
ここで、応答性のみを向上させた上記従来技術では、上記理想とするアシスト特性を作り出すことは不可能であった(図65参照)。さらに、本来補償すべきモータの慣性を残すことになるため、操舵感に不自然さが残る。例えば、ハンドルを速く回転操作するほど操舵トルクの微分値が増加して電動モータによる操舵アシスト力が増加するので、ハンドルをゆっくり回動操作したときと、素早く回動操作したときとでは、ドライバが受ける操舵反力に対する大きな差が生じたり、ハンドル操作の反転時には、操舵トルクに応じた制御量と操舵トルクの微分値に応じた制御量の符号が異なるため、ハンドル操作に抜けを感じたり、急な戻りが発生したりと、いずれも良好な操舵フィーリングが得られないという問題があった。
これに対し、実施例16の車両用操舵制御装置では、(i)ハンドル回転開始時に瞬間的に逆方向へアシストし、(ii) 操舵トルクの立ち上がりに対してアシストを遅らせることにより、操舵トルク入力に対する車両挙動のダンピングが向上し、理想に近いアシスト特性を実現可能であるため、対象とする車両の状況に応じて装置の仕立てが可能となる。また、トルクの逆アシストによってゆっくりした操舵速度のときは、ダンピング量が少なくなるため、中立の保持・直進性、中立微舵付近のしっかり感が良くなる。急操舵時、高速時には、ダンピング量が大きくなるため、ハンドルの抜けや急な戻りを防止でき、自然な操舵感と安心感、操作性の向上が実現される。
次に、効果を説明する。
実施例16の車両用操舵制御装置にあっては、以下の効果を得ることができる。
(38) 操舵速度を検出する操舵速度検出手段を設け、コントローラ13は、検出された操舵速度の1次遅れに基づいてダンピング補正制御量を算出し、このダンピング補正制御量と操舵トルクに応じた基本制御量とに基づいてモータ5を補償制御する補償制御手段(STEP102〜STEP105)を備える。よって、操舵トルクの立ち上がりに対してアシストを遅らせる理想的なアシスト特性が実現され、転舵速度や車速に関係なく操作時のハンドル1の抜けや急な戻りを防ぎ、ドライバの安心感や操作性の向上、操舵中立位置付近のしっかり感を両立できる。
(39) 補償制御手段は、操舵速度の低い領域では、操舵速度の高い領域よりもダンピング補正制御量を増加させるため、ハンドル回転移動量によって大きくダンピング量が異なるのを防ぐことができる。
実施例17は、操舵トルクの1階微分と操舵速度の1次遅れ処理後の信号に応じてモータ5のダンピング補正制御量を算出する例である。
次に、作用を説明する。
[モータ指令値演算動作について]
図66に、モータ指令値演算制御ブロックを示す。なお、図59に示した各STEPと同一のSTEPには、同一のSTEP番号を付して説明を省略する。
STEP201では、検出された操舵トルクの1階微分値を算出する。STEP202では、操舵トルクの1階微分値に負のゲインK2を積算し、ダンピング補正制御量を算出する。STEP203では、モータ指令電流に2つのダンピング補正制御量を加算する。STEP102〜STEP104,STEP201〜STEP203により、補償制御手段が構成される。
図67において信号の概形を説明する。図67(b)のように操舵トルクTの1階微分T'に負のゲインK1を積算したものと、ハンドル1の操舵速度θ'に対し、1次遅れ要素で処理した後に、負のゲインK2を積算したものとを、アシストの基準となる操舵トルクに応じた制御量に加算すると、加工後のモータ指令信号I*は図67(d)のように逆アシストと遅れを持った波形となる。
これにより、ハンドル回転開始時に瞬間的に逆方向へアシストし、操舵トルクの立ち上がりに対してアシストを遅らせる理想的なアシスト特性が実現され、操舵速度や車速に関係なく操作時のハンドルの抜けや急な戻りを防ぎ、ドライバの安心感や操作性の向上、中立微舵付近のしっかり感を両立でき、より扱い易い良好な操舵フィーリングが保たれる。この場合、操舵トルクに対する操舵角の遅れに対する正方向のアシストが発生しないが、高速走行時の急転舵や抜け防止にはより効果的となる。なお、図68に、K1を1,000、K2を−1とした場合のシミュレーション結果を示す。
次に、効果を説明する。
実施例17の車両用操舵制御装置にあっては、以下の効果を得ることができる。
(40) 補償制御手段(STEP102〜STEP104,STEP201〜STEP203)は、操舵トルクの1階微分値に基づいてダンピング補正制御量を算出するため、操舵トルクの立ち上がりに対してアシストを遅らせる理想的なアシスト特性が実現され、転舵速度や車速に関係なく操作時のハンドル1の抜けや急な戻りを防ぎ、ドライバの安心感や操作性の向上、操舵中立位置付近のしっかり感を両立できる。
実施例18では、実施例17に対し、操舵トルクの1階微分と操舵速度の1次遅れより決定されるダンピング制御量を車両速度の関数とした例である。
次に、作用を説明する。
[モータ指令値演算動作について]
図69に、モータ指令値演算制御ブロックを示す。なお、図66に示した各STEPと同一のSTEPには、同一のSTEP番号を付して説明を省略する。
STEP301では、検出された車速に基づいて制御量ゲインGainVを設定する。この制御量ゲインGainVは、STEP301のブロック内に示すように、低車速域にて小さく、高車速域にて大きくなるように設定されている。STEP302では、STEP103の出力にSTEP301で設定された制御量ゲインGainVを乗算してダンピング補正制御量を演算する。STEP303では、STEP202の出力にSTEP301で設定された制御量ゲインGainVを乗算してダンピング補正制御量を演算する。STEP102,STEP103,STEP201〜STEP203,STEP301〜STEP303により、補償制御手段が構成される。
これにより、ハンドル回転開始時に瞬間的に逆方向へアシストし、トルクの立ち上がりに対してアシストを遅らせる理想的なアシスト特性が実現され、操舵速度や車速に関係なく操作時のハンドルの抜けや急な戻りを防ぎ、ドライバの安心感や操作性の向上、中立微舵付近のしっかり感を両立でき、より扱い易い良好な操舵フィーリングが保たれる。特に車速に応じたダンピング制御が可能となり、ダンピングの必要な高速領域での確実なダンピング向上に、より効果的となる(図70)。
次に、効果を説明する。
実施例18の車両用操舵制御装置にあっては、実施例17の効果に加え、以下の効果を得ることができる。
(41) 車両の速度を検出する車速センサ14を設け、補償制御手段(STEP102,STEP103,STEP201〜STEP203,STEP301〜STEP303)は、低車速域ではダンピング補正制御量を減少させ、高車速域ではダンピング補正制御量を増加させる。よって、車速に応じたダンピング制御が可能となり、ダンピングの必要な高速領域において、確実なダンピング向上を実現できる。
実施例19では、実施例17に対し、ダンピング補正制御量の決定を操舵角および操舵トルクの関数とした例である。
次に、作用を説明する。
[モータ指令値演算動作について]
図71に、モータ指令値演算制御ブロックを示す。なお、図66に示した各STEPと同一のSTEPには、同一のSTEP番号を付して説明を省略する。
STEP401では、検出された操舵角に基づいて、制御量ゲインGainθを設定する。この制御量ゲインGainθは、STEP401のブロック内に示すように、操舵角の小さい領域で大きく、操舵角の大きな領域で小さくなるように設定されている。STEP402では、検出された操舵トルクに基づいて、制御量ゲインGainTを設定する。この制御量GainTは、STEP402のブロック内に示すように、操舵トルクの小さい領域で大きく、操舵トルクの大きな領域で小さくなるように設定されている。
STEP403では、STEP403の出力にSTEP401で設定された制御量ゲインGainθと、STEP402で設定された制御量ゲインGainTを乗算してダンピング補正制御量を演算する。STEP404では、STEP403の出力にSTEP401で設定された制御量ゲインGainθと、STEP402で設定された制御量ゲインGainTを乗算してダンピング補正制御量を演算する。STEP102,STEP103,STEP201〜STEP203,STEP401〜STEP404により、補償制御手段が構成される。
次に、効果を説明する。
実施例19の車両用操舵制御装置にあっては、実施例17の効果に加え、以下の効果を得ることができる。
(42) 補償制御手段(STEP102,STEP103,STEP201〜STEP203,STEP401〜STEP404)は、操舵トルクの小さい領域では、操舵トルクの大きな領域よりもダンピング補正制御量を増加させるため、操舵トルクの大きさによって大きくダンピング量が異なるのを防ぐことができる。
(43) 補償制御手段(STEP102,STEP103,STEP201〜STEP203,STEP401〜STEP404)は、操舵角の小さい領域では、操舵角の大きな領域よりもダンピング補正制御量を増加させるため、操舵角の大きさによって大きくダンピング量が異なるのを防ぐことができる。
実施例20は、操舵速度の1次遅れ信号の変わりに、車両挙動の1階微分信号(ヨーレートの1階微分信号および横加速度の1階微分信号)に基づいてダンピング補正制御量を算出する例である。
図72に実施例20の車両用操舵制御装置を適用した電動パワーステアリングシステムの全体図を示す。実施例20では、図1に示した実施例1の電動パワーステアリングシステムに対し、ヨーレートを検出するヨーレートセンサ26と、車両の横加速度を検出する横加速センサ27を追加している。
次に、作用を説明する。
[モータ指令値演算動作について]
図73に、モータ指令値演算制御ブロックを示す。なお、図59に示した各STEPと同一のSTEPには、同一のSTEP番号を付して説明を省略する。
STEP501では、検出されたヨーレートを1階微分する。STEP502では、ヨーレートの1階微分値に対し、1次遅れ要素で処理する。STEP503では、負のゲインK2を積算し、STEP504では、STEP503の出力からダンピング補正制御量を演算する。
STEP505では、検出された横加速度を1階微分する。STEP506では、横加速度の1階微分値に対し、1次遅れ要素で処理する。STEP507では、負のゲインK2を積算し、STEP508では、STEP507の出力からダンピング補正制御量を演算する。STEP509では、モータ指令電流に2つのダンピング補正制御量を加算する。STEP102,STEP501〜STEP509により、補償制御手段が構成される。
次に、効果を説明する。
実施例20の車両用操舵制御装置にあっては、以下の効果を得ることができる。
(44) 車両挙動(ヨーレート、横加速度)を検出する車両挙動検出手段(ヨーレートセンサ26、横加速センサ27)を設け、補償制御手段(STEP102,STEP501〜STEP509)は、検出された車両挙動(ヨーレート、横加速度)の1階微分値に基づいてダンピング補正制御量を算出する。よって、操舵トルクの立ち上がりに対してアシストを遅らせる理想的なアシスト特性が実現され、転舵速度や車速に関係なく操作時のハンドル1の抜けや急な戻りを防ぎ、ドライバの安心感や操作性の向上、操舵中立位置付近のしっかり感を両立できる。
実施例21は、ダンピング補正制御量に制限値を設ける例である。
作用を説明する。
[モータ指令値演算動作について]
図74に、モータ指令値演算制御ブロックを示す。なお、図69に示した各STEPと同一のSTEPには、同一のSTEP番号を付して説明を省略する。
STEP601では、操舵速度に基づいて制御量ゲインGainθ'を設定する。この制御量ゲインGainθ'は、STEP601のブロック内に示すように、操舵速度θ'が低いときは大きく、操舵速度θ'が高いときは小さくなるように設定されている。STEP602では、STEP103の出力にSTEP601で設定された制御量ゲインGainθ'を乗算してダンピング補正制御量を演算する。STEP603では、STEP202の出力にSTEP601で設定された制御量ゲインGainθ'を乗算してダンピング補正制御量を演算する。STEP604では、STEP602で算出したダンピング補正制御量とSTEP603で算出したダンピング補正制御量を加算する。
STEP605では、STEP604の出力に対し、リミッタにより制限値を設ける。これにより、補正量として適切な範囲を超えないようにすることができる。リミッタは、図74に示すように、操舵トルクTが小さいとき0、操舵トルクTが大きいとき所定値となり、この間では操舵トルクTに比例して大きくなるように設定されている。STEP102,STEP103,STEP201〜STEP203,STEP601〜STEP605により、補償制御手段が構成される。
次に、効果を説明する。
実施例21の車両用操舵制御装置にあっては、以下の効果が得られる。
(45) 補償制御手段(STEP102,STEP103,STEP201〜STEP203,STEP601〜STEP605)は、ダンピング補正制御量に制限値を設けたため、モータ5、センサ類、指令系統の失陥による多過アシストを防止でき、操舵フィーリングの悪化を抑制できる。
実施例22では、実施例16〜21において、ダンピング補正制御量を、操舵速度に適当な負のゲインを乗じたもので決定する例である。ただし、ドライバの操舵トルクを重くする方向への逆アシスト量には制限を設ける。
これにより、図75のシミュレーション結果に示すように、実施例22では、実施例16〜21に比較して、逆アシストの応答性やその大きさを決定し易く、高車速域のように、ドライバにとってトルクのフィードバックが重要な情報である場合には、より操作性と操舵感の向上が図られる。
実施例23では、実施例22において、ダンピング補正制御量を、操舵速度に適当な負のゲインを乗じたものと、操舵速度の1次遅れとで決定する。ただし、逆アシスト量には制限を設ける。これにより、図76のシミュレーション結果に示すように、実施例16〜21に比較して、逆アシスト量が大きくなるため、ドライバにとってトルクのフィードバックが重要な情報である高車速域において、より操作性と操舵感の向上が図られる。
実施例24は、操舵トルクの信号と操舵速度の信号に不感帯を設けると共に、ダンピング補正制御量に制限を設けた例である。
次に、作用を説明する。
[モータ指令値演算動作について]
図77に、モータ指令値演算制御ブロックを示す。なお、図74に示した各STEPと同一のSTEPには、同一のSTEP番号を付して説明を省略する。
STEP701では、操舵トルクに不感帯を設ける。STEP702では、STEP202の出力からダンピング補正制御量を演算する。STEP703では、操舵速度に不感帯を設ける。STEP704では、操舵角から目標トルクT*を演算する。目標トルクT*は、STEP704のブロック内に示すように、負の値に設定され、操舵角θが所定の微小角度以下のときは、操舵角θが大きくなるほど小さくなり、操舵角θが所定の微小角度を超えたときは、操舵角θが大きくなるほど小さくなるように設定されている。
STEP705では、STEP704の出力に対し、リミッタにより制限値を設ける。これにより、補正量として適切な範囲を超えないようにすることができる。リミッタは、図77に示すように、目標トルクT*が小さいとき0、目標トルクT*が大きいとき所定値となり、この間では目標トルクT*に比例して大きくなるように設定されている。
STEP706では、STEP104で算出したダンピング補正制御量とSTEP702で算出したダンピング補正制御量を加算する。STEP102〜STEP104,STEP201〜203,STEP604,STEP701〜STEP706により、補償制御手段が構成される。
すなわち、実施例24の車両用操舵制御装置では、センサ信号に対して不感帯(STEP701,702)を設けることで、ノイズや外乱、微少な片流れやカントに対して逆アシストが発生し、操舵重やアシストの変動による操作性や操舵感の悪化の発生を防ぐことができる。
(他の実施例)
以上、本発明の車両用操舵制御装置を各実施例に基づき説明してきたが、具体的な構成については、これらの実施例に限られるものではなく、特許請求の範囲の各請求項に係る発明の要旨を逸脱しない限り、設計の変更や追加等は許容される。
実施例では、モータの逆起電力を利用してハンドルの操舵速度を推測したが、ハンドルに角度センサを取り付け、出力値を微分することで操舵速度としてもよいし、ハンドルにタコジェネレータ等の角速度センサを取り付けても良い。更に、モータの角度や角速度を直接計測するセンサを取り付けても良いことはいうまでもない。
実施例では、位相補償を(K−τnum・S)/(1+τden・S)として1次/1次の例を説明したが、本発明の根幹となるポイント、高周波になるにつれて操舵トルクとは逆の方向へアシストする。すなわち、位相遅れが大きくなり位相が反転する特性であれば、例えば、図14の点線で示す高次の伝達関数(厳密解)としても良いし、図14の一点破線で示す遅れ要素だけとしても良いし、さらには、図14の二点破線で示すむだ時間(不感時間)としても良いことはいうまでもない。
実施例では、位相補償器16の1次進み時定数τnumを、操舵トルク・車速・操舵速度のそれぞれに応じて変化させる例を示したが、1次進み時定数τnumを、操舵トルク・車速・操舵速度の3つのパラメータのいずれか一つ、または複数に応じて少なくとも1つに応じて変化させる構成としてもよい。
実施例では、位相補償器16の1次遅れ時定数τdenを、操舵トルク・車速・操舵速度のそれぞれに応じて変化させる例を示したが、1次遅れ時定数τdenを、操舵トルク・車速・操舵速度の3つのパラメータのいずれか一つ、または複数に応じて変化させる構成としてもよい。
実施例4の操舵状態判断部17は、操舵トルクと操舵速度の極性のみに着目したアルゴリズムとしたが、このアルゴリズムである必要はなく、他の判断手法や信号を用いてもよい。
実施例6の保舵状態判断部20は、操舵トルクと操舵速度のみに着目したアルゴリズムとしたが、このアルゴリズムである必要はなく、他の判断手法や信号を用いてもよい。
実施例14では、制御部25の特性を車速のみで変更しているが、操舵角や操舵力や操舵速度等を用いて変更してもよいことはいうまでもない。
実施例20では、車両挙動の1階微分信号として、ヨーレート信号および横加速度の1階微分信号を用いた例を示したが、車両横滑り角の1階微分信号を用いても良い。
各実施例では、電動パワーステアリング装置のモータアシストトルク制御に適用した車両用操舵制御装置を示した。しかし、例えば、ソレノイドバルブによる制御で逆アシストが可能な油圧パワーステアリングリング装置の油圧アシストトルク制御にも適用することができるし、また、ステア・バイ・ワイヤ制御装置での操舵反力アクチュエータの反力制御に適用することもできるし、さらには、操舵輪である前輪に補助舵角を与えるアクチュエータを備えた保持舵角制御に適用することもできる。要するに、ドライバからの操舵トルクを入力する操舵トルク入力手段(ハンドル等)を有する操舵系に設けられたトルク制御用のアクチュエータと、該アクチュエータを制御する操舵制御手段と、を備えた車両に適用することができる。
実施例1の車両用操舵制御装置が適用された電動パワ−ステアリングシステムを示す全体図である。 実施例1の車両用操舵制御装置の制御ブロック図である。 実施例1の位相補償器における操舵トルクに対する1次進み時定数特性図である。 実施例1の位相補償器における車速に対する1次進み時定数特性図である。 実施例1の位相補償器における操舵速度(モータ速度)に対する1次進み時定数特性図である。 実施例1の位相補償器における操舵トルクに対する1次遅れ時定数特性図である。 実施例1の位相補償器における車速に対する1次遅れ時定数特性図である。 実施例1の位相補償器における操舵速度(モータ速度)に対する1次遅れ時定数特性図である。 制御特性の算出に用いる運動方程式の車両2輪モデルを示す図である。 図9に示すモデルを伝動パワーステアリングの制御モデルに書き換えた制御ブロック図である。 操舵トルクから操舵角への伝達関数のダンピングが良くなるように2次系となるアシスト特性計算した場合の厳密解と1次近似によるコントローラの周波数特性図である。 操舵トルクから操舵角への伝達関数のダンピングが良くなるように2次系となるアシスト特性計算した場合の厳密解と1次近似による操舵トルクに対する操舵角の周波数応答特性図である。 従来例の横G/操舵トルク周波数特性図である。 実施例1の位相補償器による操舵トルクに対するモータトルクのゲインと位相の周波数特性図である。 実施例1の位相補償器にステップ状の操舵トルクを入力した場合の出力特性図である。 実施例2の位相補償器における操舵トルクに対する1次進み時定数特性図である。 実施例2の位相補償器における操舵速度(モータ速度)に対する1次進み時定数特性図である。 実施例3の車両用操舵制御装置の制御ブロック図である。 実施例4の車両用操舵制御装置の制御ブロック図である。 実施例4の車両用操舵制御装置においてレーンチェンジを行った場合の操舵角・操舵トルク・戻しFLGのタイムチャートと操舵状態判断制御ブロック図である。 実施例4の車両用操舵制御装置における操舵状態に応じた位相補償特性を示すブロック図である。 一般的な操舵角−トルク特性図である。 実施例4の車両用操舵制御装置においてレーンチェンジを行った場合の操舵角・操舵トルク・制御量のタイムチャートである。 実施例4の車両用操舵制御装置での効果をあらわす操舵角−トルク特性図である。 実施例5の車両用操舵制御装置における操舵状態に応じた位相補償特性を示すブロック図である。 一般的な操舵角−トルク特性図である。 実施例5の車両用操舵制御装置においてレーンチェンジを行った場合の操舵角・操舵トルク・制御量のタイムチャートである。 実施例5の車両用操舵制御装置での効果をあらわす操舵角−トルク特性図である。 実施例6の車両用操舵制御装置の制御ブロック図である。 実施例6の車両用操舵制御装置においてレーンチェンジを行った場合の操舵角・操舵トルク・戻しFLGのタイムチャートと保舵状態判断制御ブロック図である。 実施例6の車両用操舵制御装置における保舵・操舵状態に応じた位相補償特性を示すブロック図である。 実施例6の車両用操舵制御装置においてレーンチェンジを行った場合の操舵角・操舵トルク・制御量のタイムチャートである。 実施例6の車両用操舵制御装置での効果をあらわす操舵角−トルク特性図である。 実施例7の車両用操舵制御装置の制御ブロック図である。 実施例7の車両用操舵制御装置における操舵状態に応じた位相補償量変更制御ブロック図である。 実施例7の車両用操舵制御装置においてレーンチェンジを行った場合の操舵角・ヨーレート・操舵トルクのタイムチャートである。 実施例8の車両用操舵制御装置における操舵状態に応じた位相補償量変更制御ブロック図である。 実施例8の車両用操舵制御装置においてレーンチェンジを行った場合の操舵角・ヨーレート・操舵トルクのタイムチャートである。 実施例9の車両用操舵制御装置の制御ブロック図である。 実施例9の車両用操舵制御装置における操舵状態に応じた位相補償量変更制御ブロック図である。 電動パワーステアリングの収斂性を示すタイムチャートである。 実施例9の車両用操舵制御装置における手放し時のダンピング向上作用を示す操舵角・操舵トルク・ヨーレートのタイムチャートである。 実施例10の車両用操舵制御装置における操舵状態に応じた位相補償量変更制御ブロック図である。 実施例11の車両用操舵制御装置の制御ブロック図である。 実施例11の車両用操舵制御装置における路面μに応じた位相補償量変更制御ブロック図である。 実施例11の位相補償手段において係数Kを変更した場合の周波数特性を示す図である。 実施例11の位相補償手段において係数τnumを変更した場合の周波数特性を示す図である。 実施例11の位相補償手段において係数τdenを変更した場合の周波数特性を示す図である。 実施例11の路面μが変化した場合の操舵トルクに対する操舵角の周波数特性を示す図である。 実施例11のコントローラにおいて路面μが変化しても操舵トルク入力に対する操舵角の周波数特性が同じ2次系となるように設定した場合の周波数特性を示す図である。 実施例12の車両用操舵制御装置における路面μに応じた位相補償量変更制御ブロック図である。 実施例13の車両用操舵制御装置における路面μに応じた位相補償量変更制御ブロック図である。 実施例14の車両用操舵制御装置の制御ブロック図である。 実施例14の車両用操舵制御装置における第一指令値と第二指令値の周波数特性図である。 実施例14の第二指令値のゲインτnumの設定マップである。 実施例14の第一指令値のゲインAの設定マップである。 実施例15の車両用操舵制御装置の制御ブロック図である。 実施例15の車両用操舵制御装置における第一指令値と第二指令値の周波数特性図である。 実施例16の車両用操舵制御装置のモータ指令値演算制御ブロック図である。 実施例16の車両用操舵制御装置のシミュレーション結果を示す図である。 実施例16の車両用操舵制御装置におけるダンピング補正制御作用を示す操舵角・操舵トルク・モータ指令信号のタイムチャートである。 実施例16の車両用操舵制御装置における操舵速度が大きい場合のダンピング補正量のタイムチャートである。 実施例16の車両用操舵制御装置における操舵速度が小さい場合のダンピング補正量のタイムチャートである。 実施例16の車両用操舵制御装置における理想アシスト特性を時系列で表した図である。 従来の電動パワーステアリングシステムのアシスト特性を時系列で表した図である。 実施例17の車両用操舵制御装置のモータ指令値演算制御ブロック図である。 実施例17の車両用操舵制御装置におけるダンピング補正制御作用を示す操舵角・操舵トルク・モータ指令信号のタイムチャートである。 実施例17の車両用操舵制御装置のシミュレーション結果を示す図である。 実施例18の車両用操舵制御装置のモータ指令値演算制御ブロック図である。 実施例18の車両用操舵制御装置におけるダンピング向上作用を示す図である。 実施例19の車両用操舵制御装置のモータ指令値演算制御ブロック図である。 実施例20の車両用操舵制御装置を適用した電動パワーステアリングシステムの全体図である。 実施例20の車両用操舵制御装置のモータ指令値演算制御ブロック図である。 実施例21の車両用操舵制御装置のモータ指令値演算制御ブロック図である。 実施例22の車両用操舵制御装置のシミュレーション結果を示す図である。 実施例23の車両用操舵制御装置のシミュレーション結果を示す図である。 実施例24の車両用操舵制御装置のモータ指令値演算制御ブロック図である。
符号の説明
1 ハンドル
2 舵取り機構
3 操舵軸
4 トルクセンサ
5 モータ(アクチュエータ)
6 ピニオン
7 ラック軸
8,9 タイロッド
10,11 転舵輪
12 減速機
13 コントローラ(操舵制御手段)
14 車速センサ
15 バッテリ
16 位相補償器(位相補償手段)
16’ 1次遅れ補償ブロック
16" 近似微分補償ブロック
16a 切り時位相補償器
16b 戻し時位相補償器
16c 操舵時位相補償器
16d 保舵時位相補償器
17 操舵状態判断部(ハンドル切り/戻し判断手段)
18 スイッチ部
20 保舵状態判断部(保舵判断手段)
21 スイッチ部
22 保舵判断部
23 手放し判断部
24 路面μ検出部
25 制御部(操舵制御手段)
25a 位相補償器
25b リミッタ
25c 不感帯
25d 位相補償器
25e リミッタ
26 ヨーレートセンサ
27 横加速度センサ

Claims (49)

  1. ドライバからの操舵トルクが入力される操舵系に設けられたトルク制御用のアクチュエータと、該アクチュエータを制御する操舵制御手段と、を備えた車両用操舵制御装置において、
    前記操舵制御手段は、入力される操舵トルクが高周波になるほど操舵トルクに対するアクチュエータトルクの位相遅れを大きくし、少なくともその位相遅れは180°近傍に向かって大きくなることを特徴とする車両用操舵制御装置。
  2. 請求項1に記載された車両用操舵制御装置において、
    前記操舵制御手段は、入力される操舵トルクが高周波になるほど操舵トルクに対するアクチュエータトルクの位相遅れを大きくし、その位相遅れは180°近傍となる周波数特性を得る制御を行うことを特徴とする車両用操舵制御装置。
  3. ドライバからの操舵トルクが入力される操舵系に設けられたトルク制御用のアクチュエータと、該アクチュエータを制御する操舵制御手段と、を備えた車両用操舵制御装置において、
    前記操舵制御手段は、入力される操舵トルクが高周波になるほど操舵トルクに対するアクチュエータトルクの位相遅れを大きく、かつ、ゲインを大きくし、その位相遅れは180°近傍となる周波数特性を得る制御を行うことを特徴とする車両用操舵制御装置。
  4. 請求項1に記載された車両用操舵制御装置において、
    前記操舵制御手段は、入力される操舵トルクが高周波になるほど操舵トルクに対するアクチュエータトルクの位相遅れを大きくし、その位相遅れは所定の周波数以上において180°近傍を維持する周波数特性を得る制御を行うことを特徴とする車両用操舵制御装置。
  5. 請求項3に記載された車両用操舵制御装置において、
    前記操舵制御手段は、入力される操舵トルクが高周波になるほど操舵トルクに対するアクチュエータトルクの位相遅れを大きく、かつ、ゲインを大きくし、その位相遅れは所定の周波数以上において180°近傍を維持する周波数特性を得る制御を行うことを特徴とする車両用操舵制御装置。
  6. 請求項2ないし5のいずれか1項に記載された車両用操舵制御装置において、
    前記操舵制御手段は、前記周波数特性を、車両と操舵系とで定まる、位相遅れと位相進みを補償する位相補償手段にて実現したことを特徴とする車両用操舵制御装置。
  7. 請求項6に記載された車両用操舵制御装置において、
    前記位相補償手段は、1次進み/1次遅れによる位相補償器であり、
    (K−τnum・S)/(a+τden・S)
    但し、S:ラプラス演算子、K:ゲイン(=0、>0、<0)、τnum:1次進み時定数(≧0)、a:定数(>0)、τden:1次遅れ時定数(≧0)
    による伝達関数で表される特性としたことを特徴とする車両用操舵制御装置。
  8. 請求項7に記載された車両用操舵制御装置において、
    前記位相補償手段は、1次進み時定数τnumを操舵トルクが大きくなるほど大きな値となるように設定したことを特徴とする車両用操舵制御装置。
  9. 請求項7または請求項8に記載された車両用操舵制御装置において、
    前記位相補償手段は、1次進み時定数τnumを車速が高くなるほど大きな値となるように設定したことを特徴とする車両用操舵制御装置。
  10. 請求項7ないし9のいずれか1項に記載された車両用操舵制御装置において、
    前記位相補償手段は、1次進み時定数τnumを操舵速度が速いほど大きな値となるように設定したことを特徴とする車両用操舵制御装置。
  11. 請求項7ないし10のいずれか1項に記載された車両用操舵制御装置において、
    前記位相補償手段は、1次遅れ時定数τdenを、操舵トルク、車速、操舵速度の少なくとも1つに応じて変化させる設定としたことを特徴とする車両用操舵制御装置。
  12. 請求項7に記載された車両用操舵制御装置において、
    前記位相補償手段は、1次進み時定数τnumを、操舵トルクが第1設定値までの直進操舵域までは一定値とし、操舵トルクが第1設定値から第2設定値までの操舵領域では操舵トルクが大きくなるほど大きな値とし、操舵トルクが第2設定値を超えると操舵トルクが大きくなるほど小さな値となるように設定したことを特徴とする車両用操舵制御装置。
  13. 請求項7に記載された車両用操舵制御装置において、
    前記位相補償手段は、1次進み時定数τnumを、操舵速度が第1設定値までの直進操舵域までは一定値とし、操舵速度が第1設定値から第2設定値までの操舵領域では操舵速度が速くなるほど大きな値とし、操舵速度が第2設定値を超えると操舵速度が大きくなるほど小さな値となるように設定したことを特徴とする車両用操舵制御装置。
  14. 請求項7に記載された車両用操舵制御装置において、
    前記位相補償手段は、(K−τnum・S)/(a+τden・S)の式を分解して、
    K/(a+τden・S)+(−τnum・S)/(a+τden・S)とし、
    K/(a+τden・S)による1次遅れ補償ブロックと、
    (−τnum・S)/(a+τden・S)による近似微分補償ブロックと、
    の二つのブロックに分けて補償制御を行うことを特徴とする車両用操舵制御装置。
  15. 請求項6ないし14のいずれか1項に記載された車両用操舵制御装置において、
    ハンドルの切り操作とハンドル戻し操作を判断するハンドル切り/戻し判断手段を設け、
    前記位相補償手段は、ハンドルの切り過程では制御量を第一の制限値に制限し、ハンドルの戻し過程では制御量を第一の制限値より小さい第二の制限値に制限することを特徴とする車両用操舵制御装置。
  16. 請求項6ないし14のいずれか1項に記載された車両用操舵制御装置において、
    ハンドルの切り操作とハンドル戻し操作を判断するハンドル切り/戻し判断手段を設け、
    前記位相補償手段は、ハンドルの切り過程では制御出力に第一のゲインを積算し、ハンドルの戻し過程では制御出力に第一のゲインより小さい第二のゲインを積算することを特徴とする車両用操舵制御装置。
  17. 請求項6ないし16のいずれか1項に記載された車両用操舵制御装置において、
    ハンドルの保舵を判断する保舵判断手段を設け、
    前記位相補償手段は、保舵直後は制御のゲインを大きくすることを特徴とする車両用操舵制御装置。
  18. 請求項6ないし請求項17のいずれか1項に記載された車両用操舵制御装置において、
    ハンドルの保舵を判断する保舵判断手段を設け、
    前記位相補償手段は、保舵時の位相補償量を操舵時の位相補償量よりも減少させることを特徴とする車両用操舵制御装置。
  19. 請求項18に記載された車両用操舵制御装置において、
    前記位相補償手段は、保舵時の位相補償量をゼロとすることを特徴とする車両用操舵制御装置。
  20. 請求項18または請求項19に記載された車両用操舵制御装置において、
    前記位相補償手段は、操舵から保舵へと操舵状態が変化したとき、状態変化した瞬間から時間が経過するほど、前記位相補償量を減少させることを特徴とする車両用操舵制御装置。
  21. 請求項20に記載された車両用操舵制御装置において、
    前記位相補償手段は、前記位相補償量をゼロに収束させることを特徴とする車両用操舵制御装置。
  22. 請求項6ないし請求項21のいずれか1項に記載された車両用操舵制御装置において、
    ハンドルの手放しを判断する手放し判断手段を設け、
    前記位相補償手段は、手放し時の位相補償量を非手放し時の位相補償量よりも増加させることを特徴とする車両用操舵制御装置。
  23. 請求項22に記載された車両用操舵制御装置において、
    前記位相補償手段は、前記アクチュエータの駆動速度または車両挙動の一方が増加するほど、手放し時の位相補償量を増加させることを特徴とする車両用操舵制御装置。
  24. 請求項22または請求項23に記載された車両用操舵制御装置において、
    前記位相補償手段は、車速が高くなるほど手放し時の位相補償量を増加させることを特徴とする車両用操舵制御装置。
  25. 請求項22ないし請求項24のいずれか1項に記載された車両用操舵制御装置において、
    手放し時の推定操舵トルクを算出する推定操舵トルク算出手段を設け、
    前記位相補償手段は、手放し時の推定操舵トルクが大きくなるほど手放し時の位相補償量を減少させることを特徴とする車両用操舵制御装置。
  26. 請求項25に記載された車両用操舵制御装置において、
    前記位相補償手段は、手放し時の推定操舵トルクが大きくなるほど手放し時の位相補償量を非手放し時の位相補償量へ収束させることを特徴とする車両用操舵制御装置。
  27. 請求項6ないし請求項26のいずれか1項に記載された車両用操舵制御装置において、
    操舵入力、車両挙動等から路面μを推定する路面μ推定手段を設け、
    前記位相補償手段は、推定路面μが低いほど、位相遅れ量を増加させることを特徴とする車両用操舵制御装置。
  28. 請求項27に記載された車両用操舵制御装置において、
    前記位相補償手段は、1次進み/1次遅れによる位相補償器であり、
    (K−τnum・S)/(a+τden・S)
    但し、S:ラプラス演算子、K:ゲイン(≧0)、τnum:1次進み時定数(≧0)、a:定数(>0)、τden:1次遅れ時定数(>0)
    による伝達関数で表される特性としたことを特徴とする車両用操舵制御装置。
  29. 請求項28に記載された車両用操舵制御装置において、
    前記位相補償器は、推定路面μが低いほど、ゲインKを小さくすることを特徴とする車両用操舵制御装置。
  30. 請求項28または請求項29に記載された車両用操舵制御装置において、
    前記位相補償器は、推定路面μが低いほど、1次進み時定数τnumを大きくすることを特徴とする車両用操舵制御装置。
  31. 請求項28ないし請求項30のいずれか1項に記載された車両用操舵制御装置において、
    前記位相補償器は、推定路面μが低いほど、1次遅れ時定数τdenを大きくすることを特徴とする車両用操舵制御装置。
  32. 請求項27ないし請求項31のいずれか1項に記載された車両用操舵制御装置において、
    前記位相補償手段は、車速が高くなるほど、位相遅れを大きくすることを特徴とする車両用操舵制御装置。
  33. 請求項27ないし請求項32のいずれか1項に記載された車両用操舵制御装置において、
    前記位相補償手段は、車速が高くなるほど、位相補償量を増加させることを特徴とする車両用操舵制御装置。
  34. 請求項2ないし請求項33に記載された車両用操舵制御装置において、
    前記操舵制御手段は、操舵トルクが高周波になるほど操舵トルクに対するアクチュエータトルクのゲインが小さくなる負の第一指令値と、操舵トルクが高周波になるほど操舵トルクに対するアクチュエータトルクの位相遅れが180°近傍となる第二指令値と、の加算値に基づいて、前記アクチュエータのトルク指令値を設定することを特徴とする車両用操舵制御装置。
  35. 請求項34に記載された車両用操舵制御装置において、
    前記操舵制御手段は、前記第一指令値の遅れ時定数τ1を、第二指令値の遅れ時定数τdenよりも大きな値となるように設定したことを特徴とする車両用操舵制御装置。
  36. 請求項34または請求項35に記載された車両用操舵制御装置において、
    前記操舵制御手段は、前記第二指令値を設定するための1次進み/1次遅れによる位相補償器を備え、
    (K−τnum・S)/(a+τden・S)
    但し、S:ラプラス演算子、K:ゲイン(≧0)、τnum:1次進み時定数(≧0)、a:定数(>0)、τden:1次遅れ時定数(>0)
    による伝達関数で表される特性としたことを特徴とする車両用操舵制御装置。
  37. 請求項34または請求項35に記載された車両用操舵制御装置において、
    前記位相補償手段は、近似微分であることを特徴とする車両用操舵制御装置。
  38. 請求項34ないし請求項37のいずれか1項に記載された車両用操舵制御装置において、
    前記操舵制御手段は、前記第一指令値と第二指令値の少なくとも一方のゲインの絶対値を、車速が高くなるほど大きくすることを特徴とする車両用操舵制御装置。
  39. 請求項34ないし請求項38のいずれか1項に記載された車両用操舵制御装置において、
    前記操舵制御手段は、前記第一指令値と第二指令値の少なくとも一方にリミッタを設けたことを特徴とする車両用操舵制御装置。
  40. 請求項34ないし請求項39のいずれか1項に記載された車両用操舵制御装置において、
    前記操舵制御手段は、前記第一指令値と第二指令値の少なくとも一方に不感帯を設けたことを特徴とする車両用操舵制御装置。
  41. 請求項5に記載された車両用操舵制御装置において、
    操舵速度を検出する操舵速度検出手段を設け、
    前記操舵制御手段は、検出された操舵速度の1次遅れに基づいてダンピング補正制御量を算出し、このダンピング補正制御量と操舵トルクに応じた基本制御量とに基づいて前記アクチュエータを補償制御する補償制御手段を備えることを特徴とする車両用操舵制御装置。
  42. 請求項41に記載された車両用操舵制御装置において、
    前記補償制御手段は、操舵トルクの1階微分値に基づいて前記ダンピング補正制御量を算出することを特徴とする車両用操舵制御装置。
  43. 請求項41または請求項42に記載された車両用操舵制御装置において、
    車両挙動を検出する車両挙動検出手段を設け、
    前記補償制御手段は、検出された車両挙動の1階微分値に基づいて前記ダンピング補正制御量を算出することを特徴とする車両用操舵制御装置。
  44. 請求項41ないし請求項43のいずれか1項に記載された車両用操舵制御装置において、
    車両の速度を検出する車両速度検出手段を設け、
    前記補償制御手段は、低車速域では前記ダンピング補正制御量を減少させ、高車速域では前記ダンピング補正制御量を増加させることを特徴とする車両用操舵制御装置。
  45. 請求項41ないし請求項44のいずれか1項に記載された車両用操舵制御装置において、
    前記補償制御手段は、操舵速度の低い領域では、操舵速度の高い領域よりも前記ダンピング補正制御量を増加させることを特徴とする車両用操舵制御装置。
  46. 請求項41ないし請求項45のいずれか1項に記載された車両用操舵制御装置において、
    前記補償制御手段は、操舵トルクの小さい領域では、操舵トルクの大きな領域よりも前記ダンピング補正制御量を増加させることを特徴とする車両用操舵制御装置。
  47. 請求項41ないし請求項46のいずれか1項に記載された車両用操舵制御装置において、
    前記補償制御手段は、操舵角の小さい領域では、操舵角の大きな領域よりも前記ダンピング補正制御量を増加させることを特徴とする車両用操舵制御装置。
  48. 請求項41ないし請求項47のいずれか1項に記載された車両用操舵制御装置において、
    前記補償制御手段は、前記ダンピング補正制御量を算出する各検出手段の後段に、不感帯を設定したことを特徴とする車両用操舵制御装置。
  49. 請求項41ないし請求項48のいずれか1項に記載された車両用操舵制御装置において、
    前記補償制御手段は、前記ダンピング補正制御量に制限値を設けたことを特徴とする車両用操舵制御装置。
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