半導体レーザ素子の電極の歪応力のばらつきが半導体レーザの特性に影響を与えることがある。たとえば、電極の歪応力にばらつきがある場合、光の放射角に乱れが生じる場合がある。たとえば、活性層の面と水平な方向から角度を変えて見たときに光強度が滑らかに変化しない問題が生じる。また、電極が半導体レーザ素子の活性層に応力をおよぼし、活性層に転移が生じることがある。転移のある場所では、半導体レーザ素子に通電しても、非発光再結合を引き起こし、多量の熱を発生させるのみで、光を放出しない。また、半導体レーザ素子に通電することによって発生する熱により、活性層に生じた転移を中心として、活性層に転移が広がる。そのため、半導体レーザ素子に通電し続けると、活性層に生じた転移を中心として、転移が増殖し、最終的に半導体レーザ素子は、発振しなくなる。したがって、電極の歪応力のばらつきによって活性層に転移が発生すると、半導体レーザ素子のスロープ効率の低下、発光効率の低下、閾値電流の上昇、および寿命の減少など、半導レーザ素子の特性が悪化する。
前述した従来の技術では、ボンディングメタル層と電極層との間に半田と反応しにくい材料から成るバリアメタル層を設けることによって、反応層の厚みを薄くし、反応層が半導体層に与えるストレスを低減している。しかし、反応層の形成される範囲は、制御が困難なため、反応層が形成される範囲によっては、電極層の歪応力にばらつきが生じる。従来の技術では、この電極層の歪応力のばらつきを低減することができないので、電極層の歪応力のばらつきによって、スロープ効率、発光効率、寿命、および閾値電流などの半導体レーザの特性が悪化する。
したがって本発明の目的は、電極層の歪応力のばらつきを低減し、特性の良い半導体レーザ素子を提供することである。
本発明は、半導体基板と、半導体基板の一表面上に、半導体層が積層されて形成される発光層と、この半導体層の積層方向一方側の発光層の一表面上に設けられ、被接続体に半田によって接続される電極部とを含む半導体レーザ素子であって、
電極部は、
発光層寄りに設けられる電極層と、
電極層の発光層とは反対側の表面上に積層され、前記半田によって、電極層を形成する材料と半田との化合物が形成されることを防止するバリアメタル層と、
バリアメタル層の電極層とは反対側の表面上に積層され、被接続体に接続されるボンディングメタル層とを有し、
前記発光層は、活性層を有し、
前記電極層と活性層との間の最短距離が0.05μm以上3μm以下に選ばれ、
前記電極層の厚みは、0.5μm以上5μm以下に選ばれることを特徴とする半導体レーザ素子である。
本発明に従えば、電極層とボンディングメタル層との間に、半田によって、電極層を形成する材料と半田との化合物が形成されることを防止するバリアメタル層が介在する。電極部を被接続体に半田によって接続する場合、ボンディングメタル層を形成する材料と半田とが合金化する。その合金化の反応は、ボンディングメタル層と半田とが接する面から電極層に向かって進行する。バリアメタル層を形成する材料と半田とは合金化しにくいので、合金化の反応の進行を、バリアメタル層で止めることができる。ボンディングメタル層を形成する材料と半田との合金は、ボンディングメタル層を形成する材料よりも硬度が高く、その歪応力が大きい。したがって、電極部を被接続体に半田によって接続するときに、ボンディングメタル層に、合金化される部分と、合金化されない部分とが形成されると、ボンディングメタル層に歪応力のばらつきが生じる。そのため、電極部を被接続体に接続する半田の温度を予め定める温度にすることで、ボンディングメタル層全体が合金化される。このとき、ボンディングメタル層を形成する材料と半田との合金化の反応の進行を、バリアメタル層で止めることができるので、電極層は合金化されない。ボンディングメタル層全体が、半田との合金のみによって形成されるので、ボンディングメタル層の歪応力のばらつきを低減することができる。ボンディングメタル層の歪応力が、電極層に加わることによって、電極層に歪応力が生じるが、ボンディングメタル層の歪応力のばらつきを低減することで、電極層に生じる歪応力のばらつきを低減することができる。
また、電極層の厚みは、0.5μm以上5μm以下に選ばれる。電極層の厚みが0.5μm未満となると、電極層による放熱効果が小さく、半導体レーザ素子を通電させたときの活性層に生じる熱を、電極層を通して効率良く放散させることができなくなる。また、電極層の厚みが5μを超えて厚くなると、電極層の歪応力と、電極層の歪応力のばらつきとが大きくなる。そのため、電極層が発光層に加える応力が大きくなり、レーザ光の放射角に乱れが生じる場合がある。したがって、電極層の厚みが、0.5μm以上5μm以下に選ばれることによって、放熱効果が大きく、歪応力にばらつきが小さい電極層を形成することができる。
また、電極層と活性層との間の最短距離が0.05μm以上3μm以下に選ばれる。電極層と活性層との間の最短距離が0.05μm未満となり、電極層と活性層とが近接しすぎると、電極層が発光層に加える応力が大きくなる。そのため、レーザ光の放射角に乱れが生じる場合がある。また、電極層と活性層との間の最短距離が3μmを超えると、電極層と活性層との間の距離が離れるので、活性層に発生する熱を、電極層を通して効率良く放散することができなくなる。したがって、電極層と活性層との間の最短距離が0.05μm以上3μm以下に選ばれることによって、電極層による放熱効果が大きく、電極層が発光層に加える応力が小さい半導体レーザ素子となる。
また本発明は、前記電極部と接する前記発光層の一表面は、曲面であることを特徴とする。
本発明に従えば、電極部と接する発光層の一表面は、曲面であるので、発光層の一表面を屈折率導波構造および電流狭窄構造を有する半導体レーザ素子となるように形成することができる。また、電極部と接する発光層の一表面が曲面である場合、電極層の歪応力のばらつきによる応力が、発光層の一表面の特定の部分に局所的に集中する場合がある。この場合、電極層の歪応力のばらつきが発光層に与える影響は、顕著となるが、本発明では、電極部を被接続体に半田によって接続する場合に生じる電極層の歪応力のばらつきを低減することができるので、電極層の歪応力のばらつきが発光層に与える影響を低減することができる。
また本発明は、前記電極層は、メッキ法によって形成されることを特徴とする。
本発明に従えば、電極層はメッキ法によって形成される。メッキ法は、スパッタ法よりも、成膜時に発生する歪応力を制御しやすい。したがって、メッキ法によって形成される電極層は、スパッタ法によって形成される電極層よりも、電極層の歪応力のばらつきが小さい。
また本発明は、前記バリアメタル層の厚みは、50nm以上1000nm未満に選ばれることを特徴とする。
本発明に従えば、バリアメタル層の厚みは、50nm以上1000nm未満となる。電極部を被接続体に半田によって接続する場合、バリアメタル層の厚みが薄く、50nm未満であれば、半田と電極部との合金化の反応をバリアメタル層で止めることができないが、バリアメタル層の厚みが厚く、50nm以上であれば、半田と電極部との合金化の反応をバリアメタル層で止めることができる。また、バリアメタル層の厚みが1000nm以上であれば、バリアメタル層の電気抵抗が大きくなる。バリアメタル層の電気抵抗が大きくなると、半導体レーザ素子に供給される電力のうち、バリアメタル層で消費する電力が大きくなるので、電極部としての性能は、低下する。一方、バリアメタル層の厚みが1000nm未満であれば、バリアメタル層の電気抵抗は、小さいので、性能のよい電極部となる。
また本発明は、前記バリアメタル層は、モリブデン、チタン、および窒化チタンのうち少なくともいずれか1つから形成されることを特徴とする。
本発明に従えば、バリアメタル層は、半田と合金化しにくい材料であるモリブデン、チタン、および窒化チタンのうち少なくともいずれか1つから形成される。電極部を被接続体に半田によって接続する場合、バリアメタル層が半田と合金化しにくい材料から形成されるので、半田と電極部とが合金化する反応の進行をバリアメタル層によって止めることができる。
また本発明は、前記バリアメタル層は、電極層の発光層に臨む一表面を除く残余の表面を覆うことを特徴とする。
本発明に従えば、電極層は、バリアメタル層によってボンディングメタル層と隔てられるので、電極層とボンディングメタル層とが接する部分がない。電極層とボンディングメタル層とが接する部分がある場合、電極部を被接続体に半田によって接続すると、電極層とボンディングメタル層とが接する部分に電極層を形成する材料と半田とが合金化する場合がある。本発明では、電極層は、バリアメタル層によってボンディングメタル層と隔てられるので、半田と電極部とが合金化する反応の進行は、バリアメタル層で止まるので、電極層に半田との合金は、形成されない。
また本発明は、前記電極層は、発光層の半導体層の積層方向一方側から見て、発光層の周縁部を除いた部分に形成されることを特徴とする。
本発明に従えば、発光層の半導体層の積層方向一方側から見て、発光層の周縁部には、電極層が形成されない。発光層の積層方向一方側から見て、発光層の周縁部に電極層が形成される場合、たとえばへき開工程において、電極層を分割しにくいので、半導体レーザ素子に分割不良が生じる場合があるが、本発明では、発光層の半導体層の積層方向一方側から見て、発光層の周縁部には電極層が形成されないので、へき開工程において電極層に起因する半導体レーザ素子の分割不良は、発生しなくなる。
また本発明は、前記バリアメタル層は、発光層の半導体層の積層方向一方側から見て、発光層の周縁部を除いた部分に形成されることを特徴とする。
本発明に従えば、発光層の半導体層の積層方向一方側から見て、発光層の周縁部には、バリアメタル層が形成されない。発光層の積層方向一方側から見て、発光層の周縁部にバリアメタル層が形成される場合、たとえばへき開工程において、バリアメタル層を分割しにくいので、半導体レーザ素子に分割不良が生じる場合があるが、本発明では、発光層の半導体層の積層方向一方側から見て、発光層の周縁部にはバリアメタル層が形成されないので、へき開工程においてバリアメタル層に起因する半導体レーザ素子の分割不良は、発生しなくなる。
また本発明は、前記半導体レーザ素子を製造する半導体レーザ素子の製造方法であって、
前記半導体レーザ素子は、前記半導体基板の他表面上に設けられる第2電極部を含み、
前記発光層を形成した後に、第2電極部を形成し、その後に発光層の一表面上に前記電極部を形成することを特徴とする半導体レーザ素子の製造方法である。
本発明に従えば、第2電極部を形成した後に電極部を形成する。歪応力のばらつきの小さい電極層を形成しても、電極層の形成後、電極層の温度が350℃以上になると、電極層に加わる熱によって電極層の歪応力のばらつきが大きくなる。第2電極層を形成する際に、発光部と、半導体基板と、第2電極部との温度が350℃以上になったとしても、電極部は、形成されていないので、電極部は、第2電極層を形成する際の温度の影響を受けない。したがって、電極層の歪応力のばらつきの小さい電極層を形成することができる。
また本発明は、前記電極層を形成した後の工程において、50℃以上350℃未満の温度範囲内で半導体レーザ素子を製造することを特徴とする。
本発明に従えば、前記電極層を形成した後、50℃以上350℃未満の温度範囲内で半導体レーザ素子を製造する。電極層を形成した後の工程において、電極層の温度が50℃未満となり、電極層の温度の変化量が大きくなると、熱応力によって電極層の歪応力のばらつきが大きくなる。電極層の歪応力のばらつきが大きくなることで、発光層に加わる応力が大きくなる。そのため、レーザ光の放射角に乱れが生じる場合がある。また、歪応力のばらつきの小さい電極層を形成しても、電極層を形成した後の工程において、電極層の温度が350℃以上となると、電極層に加わる熱によって電極層の歪応力のばらつきが大きくなる。電極層の歪応力のばらつきが大きくなることで、発光層に加わる応力が大きくなる。そのため、レーザ光の放射角に乱れが生じる場合がある。したがって、電極層を形成した後、50℃以上350℃未満の温度範囲内で半導体レーザ素子を製造することで、電極層の歪応力のばらつきを低減することができる。
本発明によれば、電極層とボンディングメタル層との間に、半田によって、電極層を形成する材料と半田との化合物が形成されることを防止するバリアメタル層を介在させることで、電極層の歪応力のばらつきを低減することができる。したがって、電極層の歪応力のばらつきによって生じる半導体レーザ素子の特性のばらつきを低減することができ、特性の良い半導体レーザ素子を得ることができる。
また本発明によれば、電極層の厚みが、0.5μm以上5μm以下に選ばれることによって、放熱効果が大きく、歪応力にばらつきが小さい電極層を形成することができる。放熱効果の大きい電極層を形成することで、スロープ効率などの特性の良い半導体レーザ素子を得ることができる。また、歪応力のばらつきが小さい電極層を形成することができるので、発光層に加わる応力を低減することができ、レーザ光の放射角に乱れが生じにくい半導体レーザ素子を得ることができる。
また本発明によれば、電極層と活性層との間の最短距離が0.05μm未満に選ばれることによって、電極層による放熱効果が大きく、電極層が発光層に加える応力が小さい半導体レーザ素子となる。放熱効果の大きい電極層を形成することで、スロープ効率などの特性の良い半導体レーザ素子を得ることができる。また、歪応力のばらつきが小さい電極層を形成することができるので、発光層に加わる応力を低減することができ、レーザ光の放射角に乱れが生じにくい半導体レーザ素子を得ることができる。
また本発明によれば、屈折率導波構造および電流狭窄構造の半導体レーザ素子を形成することができる。また、発光層の一表面が曲面である場合、電極部と接する発光層の一表面に加わる電極層の歪応力が、局所的に集中する場合があり、電極層の歪応力のばらつきが発光層に与える影響が顕著となるが、電極層の歪応力のばらつきを低減することによって、電極層の歪応力のばらつきによって生じる半導体レーザの特性のばらつきを低減することができる。したがって、特性の良い半導体レーザ素子を得ることができる。
また本発明によれば、電極層は、メッキ法によって形成されるので、電極層の歪応力のばらつきを低減することができ、電極層の歪応力のばらつきによって生じる半導体レーザの特性のばらつきを低減することができる。したがって、特性の良い半導体レーザ素子を得ることができる。
また本発明によれば、バリアメタル層の厚みは、50nm以上1000nm未満となる。バリアメタル層の厚みが50nm以上あるので、半田と電極部との合金化の反応の進行をバリアメタル層によって止めることができる。そのため、電極層の歪応力のばらつきを低減することができ、電極層の歪応力のばらつきによって生じる半導体レーザの特性のばらつきを低減することができる。また、バリアメタル層の厚みが1000nm未満であるため、バリアメタル層の持つ電気抵抗が小さく、電極部としての性能は、低下しない。したがって、特性の良い半導体レーザ素子を得ることができる。
また本発明によれば、バリアメタル層は、被接続体に電極部を接続するために用いられる半田と反応しにくい材料から形成されるので、半田と電極部との合金化の反応の進行をバリアメタル層によって止めることができる。そのため、電極層の歪応力のばらつきを低減することができ、電極層の歪応力のばらつきによって生じる半導体レーザの特性のばらつきを低減することができる。したがって、特性の良い半導体レーザ素子を得ることができる。
また本発明によれば、電極層は、バリアメタル層によってボンディングメタル層と隔てられるので、電極層には半田と電極層を形成する材料とは合金化しない。そのため、電極層の歪応力のばらつきを低減することができ、電極層の歪応力のばらつきによって生じる半導体レーザの特性のばらつきを低減することができる。したがって、特性の良い半導体レーザ素子を得ることができる。
また本発明によれば、発光層の積層方向一方側から見て、発光層の周縁部には、電極層が形成されないので、たとえばへき開工程において電極層に起因する半導体レーザ素子の分割不良は、発生しなくなる。したがって、特性の良い半導体レーザ素子を得ることができる。また、半導体レーザ素子の歩留りが良くなり、製造コストを削減することができる。
また本発明によれば、発光層の積層方向一方側から見て、発光層の周縁部には、バリアメタル層が形成されないので、たとえばへき開工程においてバリアメタル層に起因する半導体レーザ素子の分割不良は、発生しなくなる。そのため、特性の良い半導体レーザ素子を得ることができる。また、半導体レーザ素子の歩留りが良くなり、製造コストを削減することができる。
また本発明によれば、第2電極部を形成した後に電極部を形成するので、電極層の歪応力のばらつきを低減することができる。そのため、電極層の歪応力のばらつきによって生じる半導体レーザの特性のばらつきを低減することができる。したがって、特性の良い半導体レーザ素子を得ることができる。
また本発明によれば、電極層を形成した後、50℃以上350℃未満の温度範囲内で半導体レーザ素子を製造することで、電極層の歪応力のばらつきを低減することができる。歪応力のばらつきが小さい電極層を形成することができるので、発光層に加わる応力を低減することができ、レーザ光の放射角に乱れが生じにくい半導体レーザ素子を得ることができる。
図1は、本発明の実施の形態の半導体レーザ素子1の断面図である。図2は、半導体レーザ素子1を簡略化して示す斜視図である。図1は、図2の切断面線I−Iから見た半導体レーザ素子1の断面図である。半導体レーザ素子1は、基板10と、発光層2と、第1電極部3Aと、第2電極部3Bとを含んで構成される。
発光層2は、基板10の厚み方向一表面22上に複数の半導体層が積層されて形成される。第1電極部3Aは、発光層2の半導体層の積層方向一方側の一表面20上に設けられる。第2電極部3Bは、基板10の厚み方向他表面21上に設けられる。
発光層2は、第1クラッド層11と、活性層12と、第2クラッド層13と、第1コンタクト層14Aと、第2コンタクト層14Bと、第3コンタクト層14Cとを含んで構成される。発光層2は、略直方体形状である。レーザ光は、半導体層の積層方向に平行で、かつ発光層2の対向する1対の面から出射する。この1対の面を出射面15と記載する。出射面15に垂直な方向を第1方向Yと定義し、第1方向Yおよび半導体層の積層方向に垂直な方向を第2方向Xと定義し、半導体層の積層方向を第3方向Zと定義する。半導体層の積層方向一方を第3方向Zの一方とする。
基板10は、たとえばn型GaAsから成る。
第1クラッド層11は、基板10の厚み方向一表面22上を覆って積層される。活性層12は、第1クラッド層11の厚み方向一表面24上を覆って積層される。第2クラッド層13は、活性層12の厚み方向一表面25上を覆って積層される。第1コンタクト層14Aは、第2クラッド層13の厚み方向一表面26上の第2方向Xの中央部に形成される。第2コンタクト層14Bは、第2クラッド層13の厚み方向一表面26上の第2方向Xの一端部に形成される。第3コンタクト層14Cは、第2クラッド層13の厚み方向一表面26上の第2方向Xの他端部に形成される。第1コンタクト層14Aと、第2コンタクト層14Bと、第3コンタクト層14Cとは、発光層2の第1方向Yの両端部間にわたって延びる。第1コンタクト層14Aと、第2コンタクト層14Bと、第3コンタクト層とは、略直方体形状である。第1コンタクト層14Aと第2コンタクト層14Bとの対向する面は、予め定める距離L離間する。第1コンタクト層14Aと第3コンタクト層14Cとの対向する面は、予め定める距離L離間する。距離Lは、たとえば5μm〜200μmに選ばれる。
第1クラッド層11は、たとえばn型AlGaAsから成る。活性層12は、たとえばAlGaAsから成る。第2クラッド層13は、たとえばp型AlGaAsから成る。第1コンタクト層14Aと、第2コンタクト層14Bと、第3コンタクト層14Cとは、たとえばp型GaAsから成る。
第1電極部3Aは、酸化膜30と、第1オーミックコンタクト電極層31と、第1接触媒介層32と、薄膜電極層33と、厚膜電極層34と、バリアメタル層35と、ボンディングメタル層36とを含んで構成される。
酸化膜30は、第2コンタクト層14Bの第3方向Z一方側の一表面40上と、第3コンタクト層14Cの第3方向Zの一方側の一表面41上とを覆って形成される。さらに、酸化膜30は、第2クラッド層13の第3方向Z一方側の一表面43上のうち、第1コンタクト層14Aと、第2コンタクト層14Bと、第3コンタクト層14Cとに接しない部分を覆って形成される。第1オーミックコンタクト電極層31は、酸化膜30の第3方向Z一方側の一表面44上と、第1コンタクト層14Aの第3方向Z一方側の一表面42とを覆って積層される。第1接触媒介層32は、第1オーミックコンタクト電極層31の第3方向Z一方側の一表面45上を覆って積層される。薄膜電極層33は、第1接触媒介層32の第3方向Z一方側の一表面46上を覆って積層される。厚膜電極層34は、薄膜電極層33の第3方向Z一方側の一表面47上のうち、第3方向Z一方側から見て発光層2の周縁から予め定める第10の距離U1までの周縁部を除いた部分を覆って積層される。バリアメタル層35は、厚膜電極層34の第3方向Z一方側の一表面48上を覆って積層される。さらに、バリアメタル層35は、薄膜電極層33の第3方向Z一方側の一表面47上のうち、厚膜電極層34と接しない部分であって、かつ第3方向Z一方側から見て発光層2の周縁から予め定める第11の距離U2までの周縁部を除いた部分を覆って積層される。ボンディングメタル層36は、バリアメタル層35の第3方向Z一方側の一表面49上、および薄膜電極層33の第3方向Z一方側の一表面47上のうち、バリアメタル層35および厚膜電極層34と接しない部分を覆って積層される。
第1コンタクト層14A、第2コンタクト層14B、および第3コンタクト層14Cが、上記形状を有するので、第1電極部3Aの第3方向Z一方側の一表面には、第3方向Z一方側から見て、第1コンタクト層14Aと第2コンタクト層14Bとの間、および第1コンタクト層14Aと第3コンタクト層14Cとの間に、第3方向Z一方から他方に延びる溝が形成される。
第1オーミックコンタクト電極層31と第1コンタクト層14Aとは、オーミック接触が取られている。第1オーミックコンタクト電極層31と薄膜電極層33とを直接積層した場合、第1オーミックコンタクト電極層31と薄膜電極層33とは、密着性が悪く、剥離しやすいので、第1オーミックコンタクト電極層31と薄膜電極層33との間に、第1接触媒介層32を介在させ、第1電極部3Aの密着性を良くしている。また、半導体レーザ素子1を通電させた場合、酸化膜30には電流が流れず、第1電極部3Aから第1コンタクト層14Aの第3方向Z一方側の一表面を通って電流は、流れる。これによって、活性層12の第2方向Xの中央部に電流を集めることができるので、半導体レーザ素子1は、電流狭窄構造を有する。
第1オーミックコンタクト電極層31は、たとえばAuZnから成る。第1接触媒介層32は、たとえばチタン(Ti)から成る。薄膜電極層33は、たとえば金(Au)から成る。厚膜電極層34は、たとえばAuから成る。バリアメタル層35は、半田と合金化しにくい材料であって、モリブデン(Mo)、チタン(Ti)、および窒化チタン(TiN)のうち少なくともいずれか1つから成る。ボンディングメタル層36は、たとえばAuから成る。
第1オーミックコンタクト電極層31は、第1の厚みT1を有する。第1接触媒介層32は、第2の厚みT2を有する。薄膜電極層33は、第3の厚みT3を有する。厚膜電極層34は、第4の厚みT4を有する。バリアメタル層35は、第5の厚みT5を有する。ボンディングメタル層36は、第6の厚みT6を有する。ここで層の厚みを以下に定義する。隣接する層が2つある場合の層の厚みは、一方の隣接する層と接する一表面と、他方の隣接する層と接する他表面との最短距離である。隣接する層が1つの場合の層の厚みは、隣接する層と接する一表面と、前記表面とは反対側の他表面との間の最短距離である。
前述した第1の厚みT1は、たとえば50〜200nmに選ばれる。前述した第2の厚みT2は、たとえば100〜200nmに選ばれる。前述した第3の厚みT3は、たとえば100〜500nmに選ばれる。前述した第4の厚みT4は、たとえば1〜5μmに選ばれる。前述した第5の厚みT5は、たとえば100〜200nmに選ばれる。前述した第6の厚みT6は、たとえば300〜500nmに選ばれる。前述した第10の距離U1は、たとえば5μm〜50μmに選ばれる。前述した第11の距離U2は、たとえば5μm〜50μmに選ばれる。
第2電極部3Bは、第2オーミックコンタクト電極層50と、第2接触媒介層51と、基板側電極層52とを含んで構成される。
第2オーミックコンタクト電極層50は、基板10の第3方向Z他方側の他表面21上を覆って積層される。第2接触媒介層51は、第2オーミックコンタクト電極層50の第3方向Z他方側の他表面53上を覆って積層される。基板側電極層52は、第2接触媒介層51の第3方向Z他方側の他表面54上を覆って積層される。
第2オーミックコンタクト電極層50は、たとえばAuGeNiから成る。第2接触媒介層51は、たとえばTiから成る。基板側電極層52は、たとえばAuから成る。
第2オーミックコンタクト電極層50と基板10とは、オーミック接触が取られている。第2オーミックコンタクト電極層50と基板側電極層52とを直接積層した場合、第2オーミックコンタクト電極層50と基板側電極層52とは、密着性が悪く、剥離しやすいので、第2オーミックコンタクト電極層50と基板側電極層52との間に、第2接触媒介層51を介在させ、第2電極部3Bの密着性を良くしている。
図3は、半導体レーザ素子1を通電させたときの状態を模式化して示す断面図である。第1コンタクト層14Aおよび酸化膜30が前述したように形成されているので、半導体レーザ素子1は、リッジ導波路構造および電流狭窄構造を有する。したがって、発光層2に流れる電流は、第1電極部3Aから第1コンタクト層14Aの第3方向Z一方側の一表面42を通り、第2電極部3Bへと向かう。発光層2に流れる電流の向きを図3の矢符Aで示す。また、半導体レーザ素子1は、第1クラッド層11と、活性層12の第2方向Xの中央部と、第2クラッド層の第2方向Xの中央部と、第1コンタクト層14Aの第2方向Xの中央部とによって光導波路を形成している。光導波路が形成されている領域を、図3の破線Bで囲んで示す。
図4は、本発明の半導体レーザ素子1を半田56によって被接続体55に接続したときの断面図である。図5は、半導体レーザ素子1と半田56との接続部を拡大して示す断面図である。被接続体55は、半導体レーザ素子1を実装するための、たとえばシリコン(Si)から成るサブマウントである。半導体レーザ素子1の第1電極部3Aを、たとえば金(Au)と錫(Sn)とから成る半田56によって被接続体55に接続する。半田56は、第1電極部3Aの第3方向Z一方側の一表面に形成される溝にも充填される。第1電極部3Aを形成する材料と半田56とが合金化し、第1電極部3Aに反応層57が形成される。半田56と第1電極部3Aとが合金化する反応は、まずボンディングメタル層36と半田56とが接する部分に生じる。この合金化の反応は、ボンディングメタル層36と半田56とが接する部分から発光層2に向かって進行していくが、バリアメタル層35は、半田56と合金化しにくい材料から形成されており、かつその層厚が第5の厚みT5に選ばれるので、半田56との合金化の反応はバリアメタル層35で止まり、それ以上反応しない。
バリアメタル層35の層厚が50nm未満であれば、半田56との合金化の反応をバリアメタル層35で止めることができず、厚膜電極層34に半田との合金が形成されてしまい、バリアメタル層35としての役割を果たすことができない。また、バリアメタル層35の層厚が1000nm以上であれば、バリアメタル層35の電気抵抗が大きくなる。第1電極部3Aの電気抵抗が大きくなれば、半導体レーザ素子1に供給する電力のうち、第1電極部3Aで消費する電力が大きくなるので、電極としての機能が低下してしまう。
本実施の形態に対する比較例として、ボンディングメタル層36の第6の厚みT6が本実施の形態の厚みよりも厚く、300nm〜500nmに選ばれる場合について説明する。図6は、ボンディングメタル層36の第6の厚みT6が300nm〜500nmに選ばれる場合の、半導体レーザ素子と半田56との接続部を拡大して示す断面図である。
ボンディングメタル層36の層厚が本実施の形態の半導体レーザ素子1より厚いので、ボンディングメタル層36全体が一様に半田56と合金化しない。ボンディングメタル層36には、半田56と合金化していないAuから成る非反応層58と、反応層57とが混在して存在する。反応層57は、非反応層58に比べて硬度が大きく、厚膜電極層34に加える応力も大きい。したがって、ボンディングメタル層の第3方向Zの両端部にわたって反応層57が形成されている部分が厚膜電極層34に加える応力は、大きい。それに比べて、ボンディングメタル層の第3方向Zの両端部にわたって反応層57と非反応層58が混在して形成されている部分が厚膜電極層34に加える応力は、小さい。そのため、厚膜電極層34に加わる応力に、ばらつきが生じる。これによって、厚膜電極層34の歪応力にばらつきが生じる。
本実施の形態に対する比較例として、ボンディングメタル層36の第6の厚みT6が前述の厚みよりも厚く、500nm以上に選ばれる場合について説明する。図7は、ボンディングメタル層36の第6の厚みT6が500nm以上に選ばれる場合の、半導体レーザ素子と半田56との接続部を拡大して示す断面図である。
ボンディングメタル層36の第6の厚みT6が厚く、500nm以上に選ばれる場合、ボンディングメタル層36を形成する材料と半田56との合金化の反応が、バリアメタル層35まで進行しない。この場合、合金化のばらつきにより、応力歪のばらつきが発生する問題が生じる。また、バリアメタル層35は、合金化の反応を止める役割を果たさず、反応層57の第3方向Zの厚みが厚くなる。反応層57の硬度は、ボンディングメタル層36よりも大きいため、反応層57の第3方向Zの厚みが厚くなると、ボンディングメタル層36が発光層2に加える応力は大きくなる。発光層2に加わる応力が大きくなると、スロープ効率、発光効率、寿命、および閾値電流といった、半導レーザ素子の特性が悪化する。また、反応層57の熱伝導率は、非反応層58の熱伝導率よりも小さく、反応層57の第3方向Zの厚みが厚くなると、第1電極部3Aの放熱効果を低下させる。したがって、半導レーザ素子の特性が悪化する。
また、ボンディングメタル層の第6の厚みT6が本発明の実施の形態の厚みより薄く、50nm未満に選ばれる場合、反応層57の層厚が薄くなる。そのため、半田56と第1電極部3Aの密着性が悪くなり、半導体レーザ素子が被接続体55から剥離する場合がある。
図5に示すように、本実施の形態の半導体レーザ素子1では、ボンディングメタル層36の厚みがT6に選ばれるので、ボンディングメタル層36は、半田56と一様に合金化し、ボンディングメタル層36全体が反応層57となる。半田56と合金化して形成される反応層57は、厚膜電極層34に応力を加えるが、ボンディングメタル層36全体が反応層57となるので、厚膜電極層34に加わる応力は、ばらつかない。したがって、前述の問題が発生しにくくなり、厚膜電極層34の歪応力のばらつきは、発生しにくくなる。
また、本実施の形態の半導体レーザ素子1の厚膜電極層34の層の厚さは、第4の厚みT4と厚く、半導体レーザ素子を通電したときに発光層2に発生する熱を、第1電極部3Aによって効率よく放散することができ、特性の良い半導体レーザ素子1となる。
また、本実施の形態の半導体レーザ素子1の、活性層12と厚膜電極層34との間の最短距離は、0.05μm以上3μm以下と短いので、半導体レーザ素子を通電させたときに発生する熱を、第1電極部3Aによって効率よく放散することができ、特性の良い半導体レーザ素子1となる。
また、厚膜電極層34は、バリアメタル層35によってボンディングメタル層36と隔てられるので、厚膜電極層34とボンディングメタル層36とが接する部分が生じない。そのため、ボンディングメタル層36の第1方向Yの一表面27と半田56とが接し、ボンディングメタル層36を形成する材料と半田56との合金化の反応が、ボンディングメタル層36と半田56とが接する面から第1方向Yにバリアメタル層35に進行する場合であっても、厚膜電極層34とボンディングメタル層36とが接する部分がないので、厚膜電極層34を形成する材料と半田56とは、合金化することはない。したがって、厚膜電極層34の歪応力のばらつきは、発生しにくくなる。
また、本発明の実施の形態の半導体レーザ素子1は、リッジ導波路を形成している。このように、第1電極部3Aと発光層2との接する面が平面でない場合、すなわち、第1電極部3Aと発光層2とが曲面で接する場合、厚膜電極層34の歪応力のばらつきによって、発光層2に加わる応力は、局所的に集中する場合がある。たとえば、応力が、第1コンタクト層14Aの酸化膜30および第1オーミックコンタクト層31に接する一表面28に集中して生じる場合がある。この場合、半導体レーザ素子1の特性を悪化させることになるが、本発明の実施の形態では、厚膜電極層34の歪応力のばらつきを低減しているため、局所的に集中する応力の大きさも小さくなり、特性の良い半導体レーザ素子1となる。
なお、本発明の実施の形態の半導体レーザ素子1では、リッジ型導波路を形成する半導体レーザ素子について述べたが、リブ導波路を形成する半導体レーザ素子などであっても、厚膜電極層の歪応力のばらつきを低減しすることができ、特性の良い半導体レーザ素子となる。また、本発明の実施の形態の半導体レーザ素子1では、第1電極部3Aと発光層2とが曲面で接する場合について述べたが、第1電極部と発光層とが、平面で接する場合の半導体レーザ素子であっても、厚膜電極層の歪応力のばらつきを低減しすることができ、特性の良い半導体レーザ素子となる。
次に半導体レーザ素子1の製造方法について説明する。図8は、半導体レーザ素子1の製造手順を示すフローチャートである。
半導体レーザ素子1は、半導体レーザ素子前駆体101をへき開工程によって分割することによって製造される。半導体レーザ素子前駆体101は、へき開工程後に基板10となるべき基板前駆体110と、へき開工程後に発光層2となるべき発光層前駆体102と、へき開工程後に第2電極部3Bとなるべき第2電極部前駆体103Bと、へき開工程後に第1電極部3Aとなるべき第1電極部前駆体103Aとを含んで構成される。
以下に半導体レーザ素子前駆体101を構成する各層の名称を定義する。半導体レーザ素子前駆体101をへき開した後に、第1クラッド層11となるべき層を第1クラッド層前駆体111、活性層12となるべき層を活性層前駆体112、第2クラッド層13となるべき層を第2クラッド層前駆体113、第1コンタクト層14Aとなるべき層を第1コンタクト層前駆体114A、第2コンタクト層14Bとなるべき層を第2コンタクト層前駆体114B、第3コンタクト層14Cとなるべき層を第3コンタクト層前駆体114C、酸化膜30となるべき層を酸化膜前駆体130、第1オーミックコンタクト電極層31となるべき層を第1オーミックコンタクト電極層前駆体131、第1接触媒介層32となるべき層を第1接触媒介層前駆体132、薄膜電極層33となるべき層を薄膜電極層前駆体133、厚膜電極層34となるべき層を厚膜電極層前駆体134、バリアメタル層35となるべき層をバリアメタル層前駆体135、ボンディングメタル層36となるべき層をボンディングメタル層前駆体136、第2オーミックコンタクト電極層50となるべき層を第2オーミックコンタクト電極層前駆体150、第2接触媒介層51となるべき層を第2接触媒介層前駆体151、および基板側電極層52となるべき層を基板側電極層前駆体152と定義する。
図9は、ステップS2終了後の基板前駆体110と、発光層前駆体102と、第2電極部前駆体103Bとの一部の断面図である。図10は、ステップS6終了後の基板前駆体110と、発光層前駆体102と、第2電極部前駆体103Bと、形成途中の第1電極部前駆体103Aとの一部の断面図である。図11は、ステップS9終了後の基板前駆体110と、発光層前駆体102と、第2電極部前駆体103Bと、第1電極部前駆体103Aとの一部の断面図である。図12は、ステップS9終了後の基板前駆体110と、発光層前駆体102と、第2電極部前駆体103Bと、第1電極部前駆体103Aとの一部を簡略化して示す斜視図である。
半導体レーザ素子1の製造を開始すると、ステップS0からステップS1に移り、ステップS1では、発光層前駆体102を形成する。基板前駆体110の厚み方向一方を、前記第3方向Z一方と一致するように定義する。発光層前駆体102は、基板前駆体110の第3方向Z一方の一表面122上に、n型AlGaAsから成る第1クラッド層前駆体111、AlGaAsから成る活性層前駆体112、p型AlGaAsから成る第2クラッド層前駆体113、およびp型GaAsから成るコンタクト層前駆体を液層エピタキシャル法によってこの順に堆積させて形成される。次に、リソグラフィ工程によってコンタクト層前駆体を加工し、第1コンタクト層前駆体114A、第2コンタクト層前駆体114B、および第3コンタクト層前駆体114Cを形成する。
次に、ステップS2に移り、ステップS2では、第2電極部前駆体103Bを形成する。第2電極部前駆体103Bは、n型GaAs基板前駆体110の第3方向Z他方の他表面121上に、たとえばAuGeNiから成る第2オーミックコンタクト電極層前駆体150、たとえばTiから成る第2接触媒介層前駆体151、およびAuから成る基板側電極層前駆体152を真空蒸着法によってこの順に積層して形成される。次に、基板前駆体110と第2オーミックコンタクト電極層前駆体150とがオーミック接触をとるために、400〜500℃で10分間加熱し、基板前駆体110と第2オーミックコンタクト電極層前駆体150とをアロイ処理する。
次に、ステップS3に移り、ステップS3では第1電極部前駆体103Aの酸化膜前駆体130を形成する。発光層前駆体102の第3方向Z一方の一表面120上に、たとえば化学気層成長(Chemical Vapor Deposition:略称CVD)法によってSiO2膜を形成する。その後、リソグラフィ工程によって、第1コンタクト層前駆体114Aの第3方向Z一方の一表面142上に堆積したSiO2膜を除去して酸化膜前駆体130を形成する。
次に、ステップS4に移り、ステップS4では、第1オーミックコンタクト電極層前駆体131を形成する。第1オーミックコンタクト電極層前駆体131は、酸化膜前駆体130の第3方向Z一方の一表面144上、および第1コンタクト層前駆体114Aの第3方向Z一方の一表面142上に、厚みT1のAuZnを、たとえば電子ビーム蒸着法によって堆積して形成される。次に、第1コンタクト層前駆体114Aと第1オーミックコンタクト電極層前駆体131とがオーミック接触を取るために、400〜500℃で、10分間加熱し、第1コンタクト層前駆体114Aと第1オーミックコンタクト電極層前駆体131とをアロイ処理する。
次にステップS5に移り、ステップS5では、第1接触媒介層前駆体132を形成する。第1接触媒介層前駆体132は、第1オーミックコンタクト電極層前駆体131の第3方向Z一方の一表面145上に、厚みT2のTiを、たとえば電子ビーム蒸着法によって堆積して形成される。
次にステップS6に移り、ステップS6では、薄膜電極層前駆体133を形成する。薄膜電極層前駆体133は、第1接触媒介層前駆体132の第3方向Z一方の一表面146上に、厚みT3のAuを、たとえば電子ビーム蒸着法によって堆積して形成される。
次にステップS7に移り、ステップS7では、厚膜電極層前駆体134を形成する。薄膜電極層前駆体133の第3方向Z一方の一表面147上にフォトレジスト膜を塗布する。露光工程および現像工程を経て、不要なフォトレジスト膜を除去し、へき開すべき仮想平面と仮想平面から距離U1離れた面との間のみにフォトレジスト層を残す。フォトレジスト層の第3方向Zの層厚は、厚膜電極層34の第4の厚みT4より厚く選ばれる。厚膜電極層前駆体134は、薄膜電極層前駆体133の第3方向Z一方の一表面147上のうち、フォトレジスト層と接しない部分に第4の厚みT4のAuを、メッキ法によって堆積して形成される。フォトレジスト層の第3方向Zの層厚がT4より厚いので、厚膜電極層前駆体134は、フォトレジスト層上には形成されない。その後、フォトレジスト層をエッチング工程によって除去する。
次にステップS8に移り、ステップS8では、バリアメタル層前駆体135を形成する。厚膜電極層前駆体134の第3方向Z一方の一表面148上、および薄膜電極層前駆体133の第3方向Z一方の一表面147上のうち、厚膜電極層前駆体134と接しない部分に、フォトレジスト層を形成する。露光工程および現像工程を経て不要なフォトレジスト層を除去し、へき開すべき仮想平面と仮想平面から距離U2離れた面との間のみにフォトレジスト層を残す。フォトレジスト層の第3方向Zの層厚は、厚膜電極層34の第4の厚みT4にバリアメタル層35の第5の厚みT5を加えた厚みより厚く選ばれる。その後、バリアメタル層前駆体135は、厚膜電極層前駆体134の第3方向Z一方の一表面148上、および薄膜電極層前駆体133の第3方向Z一方の一表面147上のうち、厚膜電極層前駆体134とフォトレジスト層とに接しない部分に、第5の厚みT5のたとえばTiを、メッキ法によって堆積して形成される。フォトレジスト層の第3方向Zの層厚が第4の厚みT4に第5の厚みT5を加えた値よりも厚いので、バリアメタル層前駆体135は、フォトレジスト層上には形成されない。その後、フォトレジスト層をエッチング工程によって除去する。
次にステップS9に移り、ステップS9では、ボンディングメタル層前駆体136を形成する。ボンディングメタル層前駆体136は、バリアメタル層前駆体135の第3方向Z一方の一表面149上、および薄膜電極層前駆体133の第3方向Z一方の一表面146上のうち、厚膜電極層前駆体134とバリアメタル層前駆体135とに接しない部分に、厚みT6のAuを、メッキ法によって形成する。
次にステップS10に移り、ステップS10では、半導体レーザ素子前駆体101のへき開を行う。半導体レーザ素子前駆体101にけがきを入れてへき開し、半導体レーザ素子前駆体101を複数の半導体レーザ素子1に分割する。へき開すべき面を図12の仮想線Cによって示す。
次にステップS11に移り、半導体レーザ素子1の製造が終了する。
半導体レーザ素子前駆体101のへき開すべき面上に、厚膜電極層前駆体134およびバリアメタル層前駆体135が成膜されている場合、厚膜電極層前駆体134およびバリアメタル層前駆体135は、発光層前駆体102に比べて分割しにくいので、へき開工程において半導体レーザ素子101を分割しにくくなる。そのため、へき開する工程で半導体レーザ素子1に分割不良が生じる場合がある。一方、本実施の形態では、半導体レーザ素子前駆体101のへき開すべき面上に、厚膜電極層前駆体134およびバリアメタル層前駆体135が形成されておらず、へき開工程において、厚膜電極層前駆体134およびバリアメタル層前駆体135に起因する分割不良が生じることはない。そのため、特性の良い半導体レーザ素子1を製造することができる。また、半導体レーザ素子1に発生する分割不良が減少するので、半導体レーザ素子1の歩留りが良くなり、製造コストを削減することができる。
また、本発明の実施の形態の厚膜電極層前駆体134は、電解メッキ法によって形成される。無電解メッキ法では、成膜速度が遅く、膜厚もばらつきも大きい為、膜厚のばらつきによる応力歪のばらつきが大きい。したがって、電解メッキ法によって形成される厚膜電極層前駆体34は、無電解メッキ法によって形成されるよりも、歪応力のばらつきが小さい。
ステップS7でメッキ法によって歪応力のばらつきの少ない厚膜電極層前駆体134を形成した後に、ステップS8〜S10の工程で、厚膜電極層前駆体134の温度が350℃以上になると、熱応力によって厚膜電極層前駆体134の歪応力にばらつきが生じる。ステップS2で第2電極部前駆体103Bを形成する工程において、発光層前駆体102と第2電極部前駆体103Bとのオーミック接触を取るために、400〜500℃でのアロイ工程を経るが、本実施の形態では、ステップS2において第2電極部前駆体103Bを形成した後に、ステップS7において厚膜電極層前駆体134を形成する。また、バリアメタル層前駆体135およびボンディングメタル層前駆体136を積層するステップS8ステップS9の工程での厚膜電極層前駆体134の温度は、50℃以上350℃未満である。したがって、厚膜電極層前駆体134を形成した後の工程で、厚膜電極層前駆体134の温度が350℃以上にならないので、厚膜電極層前駆体134の歪応力のばらつきを低減することができる。また、厚膜電極層前駆体134を形成した後の工程において、厚膜電極層前駆体134の温度が50℃未満となり、厚膜電極層前駆体134の温度の変化量が大きくなると、熱応力によって厚膜電極層前駆体134の歪応力のばらつきが大きくなるが、厚膜電極層前駆体134の温度が50℃以上350℃未満の温度範囲に保たれるので、厚膜電極層前駆体134を形成した後に生じる厚膜電極層前駆体134の歪応力のばらつきを低減することができる。
厚膜電極層の歪応力にばらつきがある場合、レーザ光の放射角に乱れが生じる場合がある。たとえば、活性層の面と水平な方向から角度を変えて見たときに、光強度が滑らかに変化しない問題が生じる場合がある。また、厚膜電極層が半導体レーザ素子の活性層におよぼす応力によって、活性層に転移が生じることがある。転移のある場所では、半導体レーザ素子に通電しても、非発光再結合を引き起こし、多量の熱を発生させるのみで、光を放出しない。また、半導体レーザ素子に通電することによって発生する熱により、活性層に生じた転移を中心として、活性層に転移が広がる。そのため、半導体レーザ素子に通電し続けると、活性層に生じた転移を中心として、転移が増殖し、最終的に半導体レーザ素子は、発振しなくなる。したがって、厚膜電極層が加える応力によって活性層に転移が発生すると、半導体レーザ素子のスロープ効率の低下、発光効率の低下、閾値電流の上昇、および寿命の減少など、半導レーザ素子の特性が悪化する。特に、厚膜電極層の歪応力にばらつきがあると、活性層の局所的な部分に応力が加わる可能性があり、その部分に転移が生じやすくなる。そのため、半導体レーザ素子の特性が悪化する。
本実施の形態の半導体レーザ素子1は、厚膜電極層34の歪応力のばらつきを低減しているので、厚膜電極層34が活性層12に加える応力は、一様となり、厚膜電極層34が活性層12に与える影響は、小さくなる。これによって特性の良い半導体レーザ素子1となる。
図13は、電極部にバリアメタル層を有する半導体レーザ素子の出射光の遠視野での光強度分布を表すグラフであり、半導体レーザ素子に印加する電圧を変化させたときの、各電圧における出射光の遠視野での光強度分布を表す。図13における横軸は、出射角を表す。出射角を、レーザ光が出射する位置と、光軸を含み、活性層の厚み方向に垂直な仮想平面上の測定位置とを結ぶ直線と光軸との角度と定義する。図13における縦軸は、光強度を表す。図13に示すように、電極部にバリアメタル層を有する半導体レーザ素子の光強度は、出射角の絶対値が大きくなるにつれ、光強度が単調に減少する。
電極部にバリアメタル層を有する半導体レーザ素子の比較例として、電極部にバリアメタル層を有する半導体レーザ素子の構成から、バリアメタル層のみを除いた、電極部にバリアメタル層を有しない半導体レーザ素子の出射光の遠視野での光強度分布を図14に示す。図14は、電極部にバリアメタル層を有しない半導体レーザ素子の出射光の遠視野での光強度分布を表すグラフであり、半導体レーザ素子に印加する電圧を変化させたときの、各電圧における出射光の遠視野での光強度分布を表す。図14における横軸は、レーザ光の出射角を表す。図14における縦軸は、光強度を表す。図14に示すように、電極部にバリアメタル層を有しない半導体レーザ素子の光強度は、放射角の絶対値が大きくなるにつれ、光強度が単調には減少せずに、放射角の絶対値が0°付近のピーク以外に、放射角の絶対値が0°から離れた裾の部分にもピークをもつ。
以上のように、電極部にバリアメタル層を形成することによって、出射角の絶対値が大きくなるにつれ、遠視野での光強度が単調に減少する半導体レーザ素子を得ることができる。したがって、レーザ光のうち、出射角度の広い範囲を利用することができる特性の良い半導体レーザ素子を得ることができる。