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JP2005156249A - 生体成分分離溶液 - Google Patents

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JP2005156249A JP2003392515A JP2003392515A JP2005156249A JP 2005156249 A JP2005156249 A JP 2005156249A JP 2003392515 A JP2003392515 A JP 2003392515A JP 2003392515 A JP2003392515 A JP 2003392515A JP 2005156249 A JP2005156249 A JP 2005156249A
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博之 菅谷
Shigehisa Wada
茂久 和田
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Abstract

【課題】 臨床プロテオーム解析をする際に、微量成分の検出に対して妨害となる物質を取り除かれた溶液を得る。
【解決手段】 分子量1.5万未満のタンパク質と分子量6万以上のタンパク質との透過比率が20以上である膜分離ユニットを用いて分離され、総タンパク質中の分子量6万以上のタンパク質の濃度組成比が0.5未満であることを特徴とする生体成分分離溶液。この溶液は、質量分析、電気泳動、液体クロマトグラフィー等のタンパク質分析に用いられ、高感度の分析が可能になる。
【選択図】 なし

Description

本発明は生体成分、特にヒトの血液、尿等からの分析用溶液に関する。
近年、ポストゲノム研究として、プロテオーム解析研究(プロテオミクス)が注目され始めた。遺伝子産物であるタンパク質は遺伝子よりも疾患の病態に直接リンクしていると考えられることから、タンパク質を網羅的に調べるプロテオーム解析の研究成果は診断と治療に広く応用できると期待されている。しかも、ゲノム解析では発見できなかった病因タンパク質や疾患関連因子を多く発見できる可能性が高い。
プロテオーム解析の急速に進展しだしたのは、技術的には質量分析装置(mass spectrometer: MS)による高速構造分析が可能となってきたことが大きく、MALDI-TOF-MS (matrix assisted laser desorption ionization time-of-flight mass spectrometry) 等の実用化によって、ポリペプチドのハイスルースループット超微量分析が可能となり、従来検出し得なかった微量タンパク質までが同定可能となり、疾患関連因子の探索に強力なツールとなってきている。
プロテオーム解析の臨床応用の第一目的は、疾患によって誘導あるいは消失するバイオマーカータンパク質の発見である。バイオマーカーは、病態に関連して挙動するため、診断のマーカーとなり得るほか、創薬ターゲットとなる可能性も高い。すなわち、プロテオーム解析の成果は、特定遺伝子よりも診断マーカーや創薬ターゲットとなる可能性が高いため、ポストゲノム時代の診断と治療の切り札(エビデンス)技術となり、同定されたバイオマーカーは患者の薬剤応答性評価や副作用発現予測という直接的に患者が享受しえる利益につながることから、いわゆるテーラーメード医療(オーダーメード医療)の推進に大きな役割を果たすといえる。
臨床研究にプロテオーム解析(臨床プロテオミクス)を導入する場合には、大量の検体を迅速、確実に解析することが求められており、しかも臨床検体は微量で貴重なために高分解能・高感度・高機能測定を迅速に行う必要がある。この大きな推進力となったのは質量分析(mass spectrometry)であり、質量分析装置のもつ超高感度でハイスループットの特性の貢献するところが大きい。しかしながら、その手法や機器が急速に改良されてきてはいるものの、プロテオーム解析が臨床現場で簡便かつ迅速に実施できる状況にはまだない。
ヒト・タンパク質は10万種以上とも推定されているが、血清中に含まれるタンパク質だけでも約1万種類にものぼるといわれ、総量としての血清中濃度は約60〜80mg/mLである。血清中の高含量のタンパク質は、アルブミン(分子量66kDa)、免疫グロブリン(150〜1000kDa)、トランスフェリン(80kDa)、ハプトグロビン(>85kDa)、リポタンパク質(数100kDa)等であり、いずれも大量(>mg/mL)に存在する。一方、病態のバイオマーカーや病因関連因子と考えられているペプチドホルモン、インターロイキン、サイトカイン等の生理活性タンパク質の多くは、極微量 (<ng/mL)にしか存在せず。その含有量比は高分子の高含量成分に比べて、実にnanoからpicoレベルである。タンパク質の大きさという点では、タンパク質全種類の70%以下は分子量60kDa以下であり、上記の極微量なバイオマーカータンパク質はいずれもこの領域に含まれる場合がほとんどである(例えば非特許文献1)。これらのタンパク質は腎臓を通過して尿中に一部排泄されるため、血液のみならず尿を検体として測定することも可能である。
一般的な血清学的検査でプロテオーム解析するには、病因関連の微量成分検出の妨害となる分子量6万以上の高分子成分を除外することがまず必須となる。また、分子量6万未満の成分についてはできるだけ多く回収することが必須となる。
この高分子量タンパク質の分離手段として、現状では高速液体クロマトグラフィー (liquid chromatography: LC) や二次元電気泳動 (2 dimensional-polyacrylamide gel electrophoresis: 2D-PAGE) が用いられているが、これらは、微量のサンプルしか処理できないために、目的とするサンプル量も少なく、MS分析、2次元電気泳動分析などのタンパク質分析を行っても検出されない場合がある。
この点が解決されると、臨床プロテオーム解析による臨床検査の診断の迅速性は飛躍的に向上すると期待できる。具体的には、効率的に目的タンパク質群を分画・分離できるデバイスがあればよい。
アルブミンを主な対象物質として、すでに実用化されている製品あるいは開示されている技術としては、ブルー色素などのアフィニティーリガンドを固定化した担体(たとえば、日本ミリポア社:"Montage Albumin Deplete Kit(登録商標)"、日本バイオ・ラッド社:AffiGel Blueゲル(登録商標))、高分子量成分を遠心分離ろ過によって分画する遠心管形式の装置(たとえば、日本ミリポア社:"アミコンウルトラ(登録商標)")、特表2002−542163号公報(特許文献1)に開示されている電気泳動原理によって分画する方法(たとえば、グラディポア社:"Gradiflow(登録商標)"システム)、Cohnのエタノール沈澱などの伝統的な沈殿法やクロマトグラフィーによって分画する方法(例えば非特許文献2)などがある。
しかしこれらは、いずれも分離分画性能が十分ではなかったり、微量サンプルには不適当であったり、サンプルが希釈されてしまったり、あるいは質量分析等に障害となる薬剤が混入したりするなどの問題点がある。
また、人工腎臓、人工肺、血漿分離装置などに使用されている分離膜はその用途に応じて様々な大きさのものが開発され、生体成分との適合性を向上させるような改善もされているが(特許文献2)、臨床プロテオームが抱えている問題の解決を示唆するものはない。
これらを解決する溶液の開発により、医学研究ならびに臨床現場でプロテオーム解析が広く行われるようになり、より迅速で高精度な検査や診断が可能となって、有用な治療法がない難治性の疾患の原因究明や早期の診断法の開発には強力なツールとなると期待できる。
特表2002−542163号公報 特許3297707号明細書 アンダーソン・NL(Anderson NL),アンダーソン・NG( Anderson, NG)著,「ザ・ヒューマン・プラズマ・プロテオーム:ヒストリー・キャラクター・アンド・ダイアグノスティック・プロスペクツ (The human plasma proteome: history, character, and diagnostic prospects)」,モレキュラー・アンド・セルラー・プロテオミクス(Molecular & Cellular Proteomics),(米国),ザ・アメリカン・ソサエティー・フォー・バイオケミストリー・アンド・モレキュラー・バイオロジー・インコーポレーテッド(The American Society for Biochemistry and Molecular Biology, Inc.),2002年,第1巻,p845-867. 日本生化学会編,「新生化学実験講座(第1巻)タンパク質(1)分離・精製・性質」, 東京化学同人, 1990年
上述のとおり、臨床プロテオーム解析をする際に、妨害となる過剰な高分子量のタンパク質を除去することが必要である。
極最近でも、Affi-Gel Blueゲルを用いた方法(N. Ahmed et al., Proteomics, On-line版, 2003/06/23)や"Gradiflow"システムを用いた方法(D. L. Rothemund et al. (2003), Proteomics, vol. 3, pp279-287)などが有効な改良されたアルブミン除去法として発表されて程度であり、より多くの情報を得るための分析用溶液はない。こらは、本発明が解決しようとする課題である。
本発明に係る溶液は以下のような構成をとる。
(a) 分子量1.5万未満のタンパク質と分子量6万以上のタンパク質との透過比率が20以上である膜分離ユニットを用いて分離され、総タンパク質中の分子量6万以上のタンパク質の濃度組成比が0.5未満である生体成分分離溶液。
(b) 透過比率が70以上である上記(a)記載の生体成分分離溶液。
(c) 濃度組成比が0.1未満である上記(a)〜(b)のいずれかに記載の生体成分分離溶液。
(d) 膜分離ユニット中の少なくとも一つのユニットが非対称構造を有する膜を内蔵している上記(a)〜(c)のいずれかに記載の生体成分分離溶液。
(e) 生体成分が血液、血漿、血清などの血液由来物、尿、腹水、唾液、涙液、脳脊髄液、胸水もしくは細胞からのタンパク質抽出液である上記(a)〜(d)のいずれかに記載の生体成分分離溶液。
(f) 溶液がタンパク質分析に用いられる上記(a)〜(e)のいずれかに記載の生体成分分離溶液。
(g) タンパク質分析が質量分析、電気泳動、および/または液体クロマトグラフィーである上記(a)〜(f)のいずれかに記載の生体成分分離溶液。
本発明における生体成分分離溶液によって、特に血液、血清、血漿をはじめとする生体成分から従来検出されなかった微量のタンパク質を数多く検出することが可能となる。本発明者らは、特定の膜分離ユニットを用いて、全タンパク質中の分子量6万以上のタンパク質の濃度が低い生体成分分離溶液を得ることを可能にし、優れた分析結果を得ることに成功した。
本発明で言う[生体成分分離溶液]とは、血液などの生体成分(生体由来の溶液)を原液として特定の処理を行いタンパク質の構成を変えた溶液のことである。ここで、「血液」とはヒトなどの動物血液のことであり、血清、血漿など血液中の一部の成分からなる溶液も含まれる。「生体由来の溶液」とは血液の他、尿、唾液、涙液、脳脊髄液、腹水、胸水もしくは細胞からのタンパク質抽出液など生体関連の物質でタンパク質を含む溶液のことである。
本分離溶液はタンパク質分析に好ましく用いられる。分析法としては特に限定しないがLCや2D-PAGE、核磁気共鳴(NMR)、MALDI-TOF-MSやESI-MS等を例示することができる。これらは、アルブミン等の一部の溶液中に多量に存在するタンパク質が高い含有率で含まれていることによって、分析感度が低くなる分析方法であり、本溶液を用いることによって、高感度分析が可能となる。
分子量1.5万未満のタンパク質とはタンパク質の中でも比較的分子量が小さいタンパク質であり、血液であれば総タンパク質に対して存在割合が低いが、種類は非常に多い。ここでは、分子量1.16万であるβ2−ミクログロブリンを指標として用いる。分子量6万以上のタンパク質とは、血液であればアルブミンや免疫グロブリントランスフェリンなどが該当し原液中に高含有率で存在する。ここでは分子量が6万に近いアルブミンを指標にした。
本発明でいう「分離」とは回収目的のタンパク質と廃棄目的のタンパク質を弁別することをいう。主なタンパク質を分離・分画する手法は、濃度差による凝集沈殿法、分子篩い効果、イオン的相互作用、疎水的相互作用、水素結合、アフィニティーによる特異的結合などを利用したクロマトグラフィー、さらに電気泳動などが挙げられる。分離能を上げるためには、一般的には単一の手法では難しく、通常、複数の分離モードを利用して達成される。たとえば、陽イオンクロマトグラフィーと逆相液体クロマトグラフィーの組み合わせや、ゲルろ過とアフィニティークロマトグラフィーの組み合わせ、逆相液体クロマトグラフィーとSDS-PAGEの組み合わせなどである。
「膜」とは多孔性の分離膜のことであり、平面フィルター、カートリッジ式フィルター等の平膜型分離膜(平膜)、中空糸等の中空状分離膜(中空糸膜)のいずれも用いることができるが、一般に、中空糸膜は処理液量あたりの表面積が大きく、圧損も少なくできるため、最も効率よく用いることができる。また、平膜は製膜が容易で安価に作成することができると言う利点がある。
「膜分離を含むシステム」とは膜を用いて血液などの原液を分画する膜分画工程を含むシステムのことである。本発明の溶液を得るためには少なくともこの工程を含むことが必要である。またこの他にもアルブミン以上の分子量であるタンパク質を吸着する工程を組み合わせても良い。
本発明の溶液を得るためには分子量1.5万未満のタンパク質と分子量6万以上のタンパク質との透過比率が20以上である膜分離ユニットを用いることが必要であり、透過比率は50以上であることが好ましく、更には100以上であることが好ましい、上限値は特に設けないが、この値があまりにも高い膜分離ユニットでは、分子量1.5万未満のタンパク質を回収する量が少なくなってしまうことが懸念されるため、好ましくは10000以下である方がよい。このシステムには中空糸モジュールを用いることが好ましい。中空糸はタンパク質関係では従来より人工腎臓(透析モジュール)として多く利用されているが、いずれもアルブミン等のタンパク質を漏れさせないように保持され、クレアチニンや尿素などの低分子成分を漏出させて中空糸内腔側を流れる血液を浄化する目的で使用される。本発明においても、中空糸内腔側から漏出する画分を分析のために収集する方法で用い、中空糸内腔側にはアルブミン等の高分子量成分を保持しながら、主に分子量5kDa以下のタンパク質成分を漏出させる方法を取る方法を例示することができる。このような、目的と手法で中空糸を分画デバイスとして用いるのは、本発明で初めて達成された。平膜を用いても同様の結果を得ることは可能であるが、特に中空糸は処理液量あたりの表面積が大きくする事が容易であり、操作上の圧損が少ないため、効率よく本発明を実施することができる。
また、必要に応じて上記の工程から得られる液から水分などの溶媒を取り除きタンパク質を濃縮する工程もシステムに含んでいることが好ましい。本発明では分画、濃縮の各工程を単独で処理を行い組み合わせることも可能であるが、各工程に適切なフィルターあるいは中空糸モジュールを配置し、これらを連結することによって、簡便なタンパク質分画デバイス装置を完成させることも可能である。
本発明のデバイスの概念図は後述する図1のとおりであり、実際の構成は以下のとおりである。
(1)分画工程
「分画工程」とは水溶液中のアルブミン以上の分子量であるタンパク質を分画する工程を意味する。ここでいう「分画」とは分子量によりタンパク質を弁別することをいう。本工程では、平面フィルターあるいは中空糸モジュールの膜に分子篩い効果を有する多孔性膜を用い、分離ふるいによる分子分画を行う。特に中空糸を用いることは分画膜表面積が極めて大きくなるため、有効である。
本発明で用いる膜の素材は特に限定しないが、セルロース、セルローストリアセテト等のセルロースアセテート系ポリマー、ポリカーボネート、ポリスルホンやポリエーテルスルホンなどのポリスルホン系ポリマー、ポリメチルメタクリレート等のポリメタクリレート、ポリアクリレート、ポリアミド、ポリ弗化ビニリデン、ポリアクリロニトリル、ポリエステル、ポリウレタン、ポリスチレン、ポリエチレンおよびポリプロピレンからなる群より1種類以上選択される高分子を含む素材が使用される。この中でも近年透析器などに良く用いられているポリスルホンは分画特性が良好であるために好ましい素材である。膜構造に関しては、緻密層と空隙率が高く膜強度を維持する支持層の多層構造からなる非対称構造を有する膜を用いることが好ましい。この非対称構造は電子顕微鏡を用いて膜の断面構造を1000倍の観察条件にて観察した場合にて判断する。膜厚み方向に対して空孔が確認できない層と空孔が確認できる層の両者が存在するか否かによって判断する。また、この非対称構造は被処理液を接触する面近傍が最も緻密であることが好ましい。これは濾過をかけたときの目詰まりを低減できるからである。
膜にはできるだけタンパク質が吸着しないことが好ましく、親水性の膜が好ましい。これらの親水性膜は必要とするタンパク質の吸着を抑え、無駄なく回収する効果がある。親水性膜では、親水性の単量体と疎水性の単量体を共重合させたものや、親水性の高分子と疎水性の高分子をブレンド製膜したもの、あるいは疎水性の高分子からなる膜の表面に親水性ポリマーを結合、付着させたもの、疎水性の高分子からなる膜の表面を化学処理、プラズマ処理、放射線処理したものなどがあげられるが、親水化されていればその方法は特に限定されない。親水性成分は特に限定しないが、ポリエチレングリコールなどのポリアルキレンオキサイド、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアルコール、ポリヒドロキシエチルメタクリレート、ポリアクリルアミドなどの親水性高分子が好ましい。
(2)濃縮工程
「濃縮工程」とは水溶液中のタンパク質を濃縮する工程を意味する。ここでいう「濃縮」とは水溶液中から水などの溶媒を除去し、残液中のタンパク質、ポリペプチド等の生体由来の溶質が濃縮されることをいう。本工程では、平面フィルターあるいは中空糸モジュールの膜に分子篩い効果を有する多孔性膜を用い、分離ふるいによる濃縮を行う。サンプルが少量の場合には、遠心型のチューブに平面フィルターを貼り付けた濃縮デバイスを、大量のサンプルの場合には、中空糸を用いることが有効である。
本発明で用いる膜の素材は特に限定しないが、セルロース、セルローストリアセテート等のセルロースアセテート系ポリマー、ポリカーボネート、ポリスルホンやポリエーテルスルホンなどのポリスルホン系ポリマー、ポリメチルメタクリレート等のポリメタクリレート、ポリアクリレート、ポリアミド、ポリ弗化ビニリデン、ポリアクリロニトリル、ポリエステル、ポリウレタン、ポリスチレン、ポリエチレンおよびポリプロピレンからなる群より1種類以上選ばれる高分子を含む素材が使用される。この中でも近年透析器などに良く用いられているポリスルホンは分画特性と高い透水性を有する膜を得ることができるために好ましい素材である。
膜構造に関しては、均一構造に近いスポンジ構造を有するものや、緻密層と空隙率が高く膜強度を維持する支持層の多層構造からなる非対称膜のいずれも用いることができる。
膜の分子分画性能に関しては、生理的食塩水中でペプチドを通過させない程度の分子分画能(カットオフ値:0.01〜0.5kDa以下)を有する膜か限外ろ過膜を用いる。
(3)全体の構成ならびに運転条件
各工程は溶液流路で直結され、連続して稼動できることによって、簡便かつ自動的に連続運転できるという効果が得られるが、必要により、各工程を独立して稼動させてもよい。チューブにはポンプが装着され、ポンプにより送液されるが、小規模の場合にはシリンジによる送液、遠心チューブ型装置による遠心操作で行っても構わない。すなわち、アルブミン以上の分子量であるタンパク質を分画する工程を行う第一の中空糸モジュールと、タンパク質を濃縮する工程を同時に行う第二の中空糸モジュールが水溶液流路で直結されているような態様も含まれる。
上記の(1)〜(2)は単独の工程としても使用することができるが、各工程はそれぞれ異なる処理工程であるため、好ましくは少なくとも2つの工程を組み合わせることによって、より優れた効果を得ることができる。
本発明は生体成分、特にヒトの血漿、尿、唾液、涙液、脳脊髄液、腹水、胸水等のからの生体分子の分離に適する。上記の各フィルターならびに中空糸モジュールのサイズならびに還流液の流速は、原料とする血漿や尿等の生体材料の質と量に依存して適宜決められるが、いわゆる卓上サイズで実施する場合、血漿では1〜400mL好ましくは5〜100mLで実施され、流速は1〜100mL/minが好ましくは2〜10mL/minで行われる。
また、膜分離システムは高速処理が可能であり、所要時間としては、1回の処理時間が1〜6時間以内で、検体のコンタミネーションおよびバイオハザードの防止の点から、一連のデバイスは一回使用とする装置を作製する事が可能である。電気泳動システムや液体クロマトグラフィーを用いる分析では、機器を再使用して用いるため、検体による汚染の危険性や再生した分析カラムによる再現性への影響などが問題となることがあり、操作の煩雑さも含めて必ずしも多数の検体の頻回処理には向いていない。本発明になるタンパク質分画デバイスはディスポーザブル仕様が可能であり、検体からの汚染の回避や分析の再現性の確保の点からも大きな利点である。
このようにして総タンパク質中の分子量6万以上のタンパク質の組成比率が低い液を得ることができるが、高感度の分析を行うためにはその組成比が0.5未満である必要があり、好ましくは0.1未満、さらに好ましくは0.01未満であることがよく、できるだけ小さい方がよい。
このようにして得られた分析検体(生体成分精製溶液)は、液体クロマトグラフ、電気泳動、MS等の各種のタンパク質分析に有用であるが、特に好ましくはMS、電気泳動を用いたプロテオーム解析に有用である。本装置が直接あるいは間接的に連結できるMSは特に限定されないが、好ましくは、電子スプレーイオン化型、大気圧イオン化型、四重極(QQQ)型、磁気セクター型、飛行時間型、MS/MS、MSn、FT-MS型、イオン捕捉型およびこれらの組合せ型のものである。また、MS/MSまたはMSn(例えばMS3)のようなタンデムMSを含む。タンデムMSの場合は、全てのタイプのMSが適用可能であるが、特にイオン捕捉、四重極−飛行時間(Q-TOF)、FT-MS、および四重極およびイオン捕捉とのセクター機器の組合せを使用することが効率がよい。これにより、MS/MSおよび/またはMSn測定において生じるピークの選択的な検出が可能となる。
本装置との組み合わせによる分析により、各種微量タンパク質成分の構造情報を集めることができるが、それらはペプチド・マスフィンガープリント(peptide-mass fingerprint: PMF)のみならず、各ペプチドの一次構造情報(アミノ酸配列)も含まれる。
以下、本発明の溶液得るための一態様例につき、図を用いながら説明する。
図1は、本発明のタンパク質分画装置の概念図(分画、濃縮の2工程の例)である。液の流れを矢印で示してある。血清などの材料の検体はバルブ1から第1工程のモジュール5に注入され、溶液循環回路(チューブ)2の中をポンプ3によって送液せられ、循環する。第1工程で処理された回収液は、回収口4から得られる。この態様が1工程の単位であり、2工程では2段の繰り返しが、3工程では3段繰り返えすことになる。図1は3段の例を示しており、第2工程のモジュール6と第3工程のモジュール7が連結されている。処理された回収液は、回収口に直結されたチューブによって次工程のモジュールに注入される。処理液は工程のモジュールおよび/もしくは回路内から回収される。
以下、実施例にて本発明を詳細に説明するが、本発明の範囲がこれらの実施例にのみ限定されるものではない。
透過比率の測定方法
ヒト血清(SIGMA社 H1388もしくは同等品)を3000rpm15分の条件にて遠心処理を行い沈殿物を取り除いた後0.45μmのフィルター処理を行う。被測定モジュールに内蔵されている膜に対して原液(人血清)側の液を循環するポンプと濾過をかけるポンプを接続し、PBS(日本製薬社製ダルベッコPBS(−))水溶液を充填しておく。
原液を循環流量1ml/min、濾過流量0.2mL/minの流速で20℃にて濾過を開始する。この時モジュール出口の原液は戻さずに廃棄する。30分から60分後の液を採取し、モジュール原液入口、出口および濾液中のアルブミンおよびβ2ミクログロブリンの濃度を測定し、これらの測定値からアルブミンおよびβ2ミクログロブリンのふるい係数を算出する。この時原液側濃度はモジュール入口、出口の濃度の平均値を用いる。得られたβ2ミクログロブリンのふるい係数をアルブミンのふるい係数で除した値を透過比率とする。
2次元電気泳動によるタンパク質分析
得られた生体成分分離溶液を2次元電気泳動法によって分析した。方法は次の通りである。
1.生体成分分離溶液に80%ショ糖溶液を等量加え、泳動用サンプルとする。
2.市販の等電点電気泳動用ゲルであるIEF-PAGEmini pH3-10 1mm厚(TEFCO製)を泳動槽にセットする。
3.上部バッファー(0.05M 水酸化ナトリウム)200mlと下部バッファー(0.01M リン酸)500mlを入れる。
4.上部バッファーで各ウエルを洗浄し、10%ショ糖溶液を20ulのせる。
5.ウエルに入れたショ糖溶液の下に1.で調整したサンプルをおく。
6.泳動槽にカバーをし電源につなぎ、100Vで30分、200Vで30分、さらに500Vで60分泳動する。
7.ゲルカセットからゲルを取り出し、40%酢酸水溶液に浸け、30分振とうする。
8.クマシーブリリアントブルー染色液(CBB染色)にて5分染色し、脱色液(10%メタノール、7.5%酢酸)にて脱色しバンドを確認し、水を換えながら30分以上水洗する。
9.ゲルを1レーン分切り出す。
10.切り出したゲル片をSDS-PAGE用泳動バッファーに10-20分浸し平衡化させる。
11.市販のSDS-PAGE用ゲルであるSDS-PAGEmini 4-20% 1.5mm厚 2-Dwell(TEFCO製)を泳動槽にセットする。
12.泳動バッファーを入れ、泳動バッファーでウエルを洗浄する。
13.9.のゲル片を、2次元目のSDS-PAGEminiのウエルに気泡が入らないように注意しながら移す。小さいウエルには市販の分子量マーカーであるレインボーマーカー(アマシャム)を1ulのせる。
14.1%アガロース/泳動バッファーでゲルを封入する。
15.泳動槽にカバーをし電源につなぎ、15mAで120分程度(ブロモフェノールブルーがゲルの下端まで移動するまで)泳動する。
16.ゲルカセットからゲルを取り出し、CBB染色、銀染色を行う。銀染色は、市販のキットである銀染色IIキットワコー(和光純薬社製)を使用する。
(実施例1)
非対称構造を有するポリスルホン中空糸100本を束ね、中空糸中空部を閉塞しないようにエポキシ系ポッティング剤で両末端をガラス管モジュールケースに固定し、ミニモジュールを作成した。該ミニモジュールの直径は約7mm、長さは約17cmであり、一般的な中空糸膜型透析器同様に中空糸の外側のポート(透析液ポート)を2個有している。該ミニモジュールの中空糸およびモジュール内部を蒸留水にて洗浄した。
その後、PBS(日水製薬社製ダルベッコPBS(−))水溶液を充填し、中空糸膜ミニモジュール(以降、ミニモジュール1と略す)を得た。本ミニモジュールを2本作成し、うち1本の透過比率を測定したところ70.5であった。残りの1本は以下の実験に用いた。
ヒト血清(SIGMA社 H1388、 Lot 28H8550)を3000rpm15分の条件にて遠心処理を行い沈殿物を取り除いた後0.45μmのフィルター処理を行った。ミニモジュール1の透析液側の一方をキャップし、一方はシリコーンチューブをつなぎ、ペリスターポンプに接続した。中空糸膜内側の液は入口と出口をシリコーンチューブでつなぎ、ペリスターポンプを用いて血清を循環できるようにした。4mlの血清を用いて循環流量5ml/min、濾過流量0.2mL/minの流速で20℃、4時間濾過を実施した(本工程は、主にアルブミンより大きいタンパク質を分画する工程に相当する)。
この時濾過された容量分はPBSを血清に加えて循環する液量は一定に保った。4時間で得た濾液52.5ml中のアルブミン濃度は61mg/l、α1−ミクログロブリン濃度は0.4mg/l、β2ミクログロブリン濃度は0.066mg/Lであった。用いたヒト血清中のアルブミン濃度は33000mg/l、α1−ミクログロブリン濃度は16.5mg/L、β2−ミクログロブリン濃度は1.17mg/Lであり、アルブミン濃度の大幅低下が認められた。溶液の総タンパク質はMicro BCA Protein Assay(PIERCE社製)を用いて、検量線にはBSA用いて測定を行った。濾液中の総タンパク質濃度は275mg/mlであり、総タンパク濃度に対するβ2−ミクログロブリン濃度は0.22であった。
(実施例2)
ポリスルホン(ソルベー社製ユーデル(登録商標)P-3500)18重量部およびポリビニルピロリドン(BASF社製K30)9重量部をN,N'−ジメチルアセトアミド72重量部および水1重量部の混合溶媒に加え、90℃で14時間加熱して溶解し、製膜原液を得た。この製膜原液を外径0.3mm、内径0.2mmのオリフィス型二重円筒型口金の外側の管より吐出した。芯液としてN,N'−ジメチルアセトアミド58重量部および水42重量部からなる溶液を内側の管より吐出した。吐出された製膜原液は、乾式長350mmを通過した後、水100%の凝固浴に導かれ、中空糸が得られた。
得たれた中空糸の構造を電子顕微鏡(日立社製S800)にて確認したところ非対称構造を有していた。得られた中空糸を10000本、透析液入口および透析液出口を有する円筒状のプラスチックケースに挿入し、両端部を樹脂で封止して、有効膜面積1.6m2の中空糸膜モジュールを作成した。カチオン性親水性高分子としてポリエチレンイミン(BASF社製、重量平均分子量100万)0.1重量%を含む水溶液を、この中空糸膜モジュールの中空糸膜内面側および外面側に、それぞれ1000mL通液し、モジュール内を該水溶液で充填した。
この後、該モジュールにγ線照射した。γ線吸収線量は27kGyであった。該モジュールの中空糸を切り出し、100本束ね、中空糸中空部を閉塞しないようにエポキシ系ポッティング剤で両末端をガラス管モジュールケースに固定し、ミニモジュールを作成した。該ミニモジュールの直径は約7mm、長さは約17cmであり、一般的な中空糸膜型透析器同様に透析液ポートを2個有している。中空糸およびモジュール内部を蒸留水にて洗浄した。その後、PBS(日水製薬社製ダルベッコPBS(−))水溶液を充填し、ポリエチレンイミン固定化中空糸膜ミニモジュール(以降ミニモジュール2と略す)を得た。本ミニモジュールを2本作成し、うち1本の透過比率を測定したところ400であった。残りのミニモジュールを以下の実験に用いた。
ヒト血清(SIGMA社、H1388、 Lot 28H8550)を3000rpm、15分の条件にて遠心処理を行い濾液および沈殿物を取り除いた後0.45μmのフィルター処理を行った。まず、実施例1と同じ中空糸膜ミニモジュール(ミニモジュール1)を準備し、透析液側の一方をキャップし、一方はシリコーンチューブをつないだ。
中空糸膜内側の液は入口と出口をシリコーンチューブでつなぎ、ペリスターポンプを用いて血清を循環できるようにした。さらに、ミニモジュール2も透析液側の一方をキャップし、一方はシリコーンチューブをつなぎ、ペリスターポンプに接続した。中空糸膜内側の液は入口と出口およびミニモジュールの透析液側をシリコーンチューブでつなぎ、PBSを充填し、ペリスターポンプを用いて液を循環できるような、ミニモジュールが2段直列につながったシステムを作成した。
ここで、ミニモジュール1がアルブミン以上の分子量であるタンパク質を分画する工程、ミニモジュール2がアルブミン以上の分子量であるタンパク質を吸着する工程と、アルブミン以上の分子量であるタンパク質を分画する工程に相当する。血清およびミニモジュール2の循環液の循環流量5mL/min、濾過流量0.2mL/minの流速で20℃、4時間濾過を実施した。
この時濾過された容量分はPBSを血清に加えて循環する液量は一定に保った。4時間で得た濾液中のアルブミン濃度は0.62mg/L、α1−ミクログロブリン濃度は0.036mg/L、β2−ミクログロブリン濃度は0.05mg/Lであった。用いたヒト血清中のアルブミン濃度は33000mg/l、α1−ミクログロブリン濃度は16.5mg/L、β2−ミクログロブリン濃度は1.17mg/Lであり、アルブミン濃度の大幅な低下を認めた。濾液中の総タンパク質濃度は8.1mg/lであり、総タンパク質濃度に対するアルブミン濃度の比率は0.08であった。このサンプルを2次元電気泳動にて分析した結果を図2に示す。
図2は実施例2で得られた生体成分精製溶液の2次元電気泳動写真である。図2から判るように、分子量6万未満の場所に多くの独立したスポットが見られる。
本デバイスによって分離したサンプルは低分子量領域に数多くのスポットを得ることが出来た。
(比較例1)
ヒト血清を比較サンプルとして2次元電気泳動分析を行った。結果を図3に示す。図3は、ヒト血清を溶液とした2次元電気泳動写真である。図3では、スポットがブロードであり、物質を特定することができないと共に、低分子量領域でのスポットはほとんど観察されない。
本発明のタンパク質分画装置の概念図である。 実施例2で得られた生体成分精製溶液溶液の2次元電気泳動写真である。 ヒト血清を溶液とした2次元電気泳動写真である。
符号の説明
1 バルブ
2 溶液循環回路(チューブ回路)
3 ポンプ
4 処理液回収口
5 第1工程モジュール
6 第2工程モジュール
7 第3工程モジュール

Claims (7)

  1. 分子量1.5万未満のタンパク質と分子量6万以上のタンパク質との透過比率が20以上である膜分離ユニットを用いて分離され、総タンパク質中の分子量6万以上のタンパク質の濃度組成比が0.5未満であることを特徴とする生体成分分離溶液。
  2. 透過比率が70以上であることを特徴とする請求項1記載の生体成分分離溶液。
  3. 濃度組成比が0.1未満であることを特徴とする請求項1〜2のいずれか1項記載の生体成分分離溶液。
  4. 膜分離ユニット中の少なくとも一つのユニットが非対称構造を有する膜を内蔵していることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項記載の生体成分分離溶液。
  5. 生体成分が血液、血漿、血清などの血液由来物、尿、腹水、唾液、涙液、脳脊髄液、胸水もしくは細胞からのタンパク質抽出液であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項記載の生体成分分離溶液。
  6. 溶液がタンパク質分析に用いられることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項記載の生体成分分離溶液。
  7. タンパク質分析が質量分析、電気泳動、および/または液体クロマトグラフィーであることを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項記載の生体成分分離溶液。
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