JP2005036294A - 反強磁性合金および反強磁性合金を用いた磁気デバイス - Google Patents
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Abstract
【課題】 磁気デバイスに用いられるMn系反強磁性合金はこれを部材として用いた磁気デバイスの動作温度が高くなり、熱安定性に問題が生じている。
【解決手段】 MnとIrの元素を含む合金で、その組成がMn100−xIrx(40≦x≦52)で表される範囲であり、かつL10型の規則配列した結晶を有する反強磁性合金を提供し、この反強磁性合金が従来の反強磁性合金よりも高いネール温度を有することによって、熱安定性に優れた磁気デバイスを得る。
【選択図】 図1
【解決手段】 MnとIrの元素を含む合金で、その組成がMn100−xIrx(40≦x≦52)で表される範囲であり、かつL10型の規則配列した結晶を有する反強磁性合金を提供し、この反強磁性合金が従来の反強磁性合金よりも高いネール温度を有することによって、熱安定性に優れた磁気デバイスを得る。
【選択図】 図1
Description
本発明は、磁性合金およびこれを用いた磁気デバイスに関するもので、地磁気を検出する方位センサーや電流を測定する磁気センサー、またコンピュータの記憶装置として用いられるメモリーやハードディスク記憶装置等に利用されるものである。
反強磁性材料は自発的に磁気モーメントを持つものの、材料を構成する原子の磁気モーメントの向きが、磁気的単位格子内部で打ち消しあう配列となっているため、材料の外部に磁化を発生しない物質である。従って工業材料としての利用は限定された範囲にとどまっていた。1956年にMeiklejohnとBeanは反強磁性を示すコバルト酸化物と強磁性であるコバルト金属の界面において一方向性のバイアス磁場が発生することを発見した(非特許文献1)。この現象は1990年になって、Tsangらによってコンピュータのハードディスク記憶装置の磁気ヘッドにおいてFeMn合金とNiFe合金の積層膜が用いられたこと(非特許文献2)によって脚光を浴びることとなり、おもに磁気信号を電気信号に変化するための磁気デバイスに対して広く用いられるようになった。
現在工業利用されている反強磁性合金では、高温の条件下でも磁気特性の劣化が少ない材料が求められている。例えば、MnとPtの2元合金を用いている技術が開示されている(特許文献1)。この合金の特徴は反強磁性の磁気転移温度であるネール温度が高く、デバイス化した場合の製品が高い耐熱性を保持することである。またMnPt合金は、Mn原子とPt原子が結晶中で規則配列することで結晶の対称性が低くなり、大きな磁気異方性を容易に得ることも可能である。この磁気異方性は反強磁性合金を強磁性膜と積層した場合に、大きな一方向性バイアス磁場を発生しやすくするため磁気特性に関しても好ましい特徴といえる。結晶配列の異方性は結晶格子の大きさに直接現われ、結晶格子のc軸とa軸の比はc/a<1またはc/a>1となる。
また、コンピュータの磁気記録装置において磁気ヘッドの高熱安定性を達成するために用いられる技術としてMnNi反強磁性合金がある(非特許文献3)。MnNi合金はMnPt合金と同様にMn原子とNi原子が規則配列した合金で、耐熱性の指標となるネール温度もMnPt合金よりも高いことが知られている。
また、面心立方構造を有するMnIr反強磁性合金が利用されている(特許文献2)。面心立方構造のMnIr合金ではMn原子とIr原子が不規則に配列した合金であり、合金中のMn組成が高い場合やスパッタ法などを用いて製造された場合に得られる準安定状態の合金膜では安定した特性を得ることができる。しかし、前記のMnPtやMnNiと比較すると高いネール温度が得難く、磁気デバイスの高耐熱性を保証するためには不十分である。
具体的には反強磁性合金を磁気ヘッドの様な磁気デバイスに利用した場合の耐熱性は以下の様に評価される。所望の反強磁性合金はFe、CoやNiを主成分とする強磁性材料と積層された薄膜としてデバイス化される。このとき、反強磁性膜と強磁性膜の積層界面では交換結合バイアスと呼ばれるバイアス磁場が発生し、接合された強磁性膜の磁化の向きを所望の方向に制御する。
ここで、制御された所望の磁化の向きと反対方向に外部から磁場を印加しても、反強磁性合金によるバイアス磁場の効果で強磁性膜の磁化の向きは反転しない。このバイアス磁場は温度が上昇するに連れて減少する傾向を示すが、バイアス磁場が零になる温度をブロッキング温度と呼び、ブロッキング温度が高温であるほど磁気デバイスの耐熱性が向上する。ブロッキング温度は積層膜に用いられた反強磁性合金のネール温度と関係しており、一般にネール温度の高い反強磁性合金を用いるほど高いブロッキング温度が得られる。
ダブリュ・エッチ・マイクルジョン、シー・ピー・ビーン、フィジカル レビュー(W.H.Meiklejohn、C.P.Bean、Physical Review)、102巻、1413頁、1956年(米国) シー・ツアン、エム・チェン、ティー・ヨギ、ケー・ジュ、アイトリプルイー トランザクションズ オン マグネティックス(C.Tsang、M.Chen、T.Yogi、K.Ju、IEEE Transactions on Magnetics) MAG−25巻、1689頁、1990年(米国) 石綿延行 他、第21回日本応用磁気学会学術講演概要集(1997)246頁 米国特許弟5315468号明細書(Fig.2)
特開平9−148132号公報(第6頁、図3)
ダブリュ・エッチ・マイクルジョン、シー・ピー・ビーン、フィジカル レビュー(W.H.Meiklejohn、C.P.Bean、Physical Review)、102巻、1413頁、1956年(米国) シー・ツアン、エム・チェン、ティー・ヨギ、ケー・ジュ、アイトリプルイー トランザクションズ オン マグネティックス(C.Tsang、M.Chen、T.Yogi、K.Ju、IEEE Transactions on Magnetics) MAG−25巻、1689頁、1990年(米国) 石綿延行 他、第21回日本応用磁気学会学術講演概要集(1997)246頁
コンピュータなどの電子機器では高性能化のために高集積化や記憶容量の大容量化が進められている。よって、磁気ヘッドや磁気メモリなどコンピュータ部品もますます小型化が要求されている。このような状況において、材料として用いられる反強磁性合金と強磁性材料もいっそうの薄膜化が必要になっている。電子部品における構成材料の薄膜化は電子回路の電流密度の上昇につながり、ジュール発熱の影響は深刻化している。この問題を解決するための一つの手段は、反強磁性合金のネール温度を上昇させて熱安定性に優れた磁気ヘッドや磁気メモリを提供することである。
(1) 本発明の反強磁性合金は、MnおよびIrの元素を含む合金で、その組成がMn100−xIrx(40≦x≦52)で表される範囲であり、かつ合金の結晶構造がL10型規則構造であることを特徴とする。
ここで、組成比は原子%に相当する。
ここで、組成比は原子%に相当する。
(2) また、本発明の他の反強磁性合金は、MnおよびIrの元素を含む合金で、その組成がMn100−xIrx(40≦x≦52)で表される範囲であり、かつ合金の結晶構造がL10型規則構造であり、Cr、Fe、Co、Ni、Mo、Ru、Rh、Pd、OsおよびPtの元素群の内、少なくとも一種類以上の元素を不純物として含有する反強磁性合金である。
これら不純物の濃度としては、例えば、一種の元素当たり、0.1%以下の範囲内であることが望ましい。
これら不純物の濃度としては、例えば、一種の元素当たり、0.1%以下の範囲内であることが望ましい。
(3) また、本発明の他の反強磁性合金は、MnおよびIrの元素を含む合金で、その組成がMn100−xIrx(40≦x≦52)で表される範囲であり、かつ合金の結晶構造がL10型規則構造であり、スパッタ等法の製造方法を用いて作製された薄膜形状を有する反強磁性合金である。さらに、前記反強磁性合金において、Cr、Fe、Co、Ni、Mo、Ru、Rh、Pd、OsおよびPtの元素群の内、少なくとも一種類以上の元素を不純物として含有していてもよい。これら不純物の濃度としては、例えば、1種の元素当たり、0.1%以下の範囲内であることが望ましい。
(4) 本発明の磁気デバイスは、上記(1)又は(2)に記載の反強磁性合金による薄膜が、Ni、FeおよびCoから選ばれる少なくとも1種以上の元素を主成分とする強磁性合金薄膜と接合された、2層構造を有する磁性薄膜を備える。この2層構造は、例えば軟磁性膜に反強磁性合金膜を接合させた構成を備えるスピンバルブ構造やスピンバルブ型MR素子あるいはスピンバルブ型の記憶素子等の一部分若しくは主要部として用いることができる。また、前記2層構造について、トンネル接合型のMR素子の一部分として用いても良い。本発明の磁気デバイスは、高いネール温度(1080Kから1150K)の反強磁性合金膜を用いることにより、高い温度の環境にあっても動作が安定する。本発明の反強磁性合金を用いることにより600K以上のブロッキング温度を得ることが可能となる。
本発明によって反強磁性材料の磁気特性として高いネール温度を得ることが可能であり、高い温度の動作環境にあっても安定した磁気デバイスを提供することができる。
以下、図を用いて本発明に係る実施例について説明する。なお、これら実施例により本発明が限定されるものではない。図1はMnM反強磁性2元合金(MはIr、Ni、PtおよびPdの元素を表す)について測定したネール温度の比較グラフである。グラフの横軸はM元素の組成(原子%)に相当する。本図中の測定点で表された範囲の組成においては、MnM合金はL10型の規則構造となる。Mとして示される元素がPdからPt、Niになるに連れてネール温度が高くなっていくことが分かる。本発明によるMnIr合金では、前記のMnM合金よりも更に高いネール温度を示した。Mn50Ni50の近傍の組成で最高のネール温度を示すMnNi合金と比較してもMn1−xIrx(40≦x≦52)の組成範囲に渡ってMnNi合金のネール温度よりも高い1080Kから1150Kのネール温度を有する反強磁性合金を得ることができた。
この様に高いネール温度を有するMnIr合金ではL10型の規則構造を有する結晶であることが必要である。図2にMnIr合金の状態図を示す。Ir組成が9原子%以下ではαMn、βMn、δMnなどの結晶構造が複雑に分布しており、組成や温度変化に対して結晶構造は敏感に変化する。Ir組成25原子%の付近ではMn原子とIr原子の存在確率が3:1になるため低温領域ではMn3Irで表されるL12型の規則構造になる。高温になると規則配列は乱されてγMnで表される面心立方構造となる。この構造は低温の場合でもIr組成0.1近傍では安定である。Ir組成40原子%から55原子%の範囲では本発明のL10型の結晶構造(図中AuCu−I型の表示)が得られる。前記の組成範囲よりもIr含有量が若干少ない場合および多い場合には、L10型構造と他の相状態が混在してしまう。
次に、同じMnIrの合金組成を有し、結晶構造の異なる特許文献2に開示の技術と本発明の比較を行う。前記従来技術では反強磁性合金の結晶構造が面心立方構造であるが、図3のグラフに面心立方構造を有する種々の2元Mn系反強磁性合金のネール温度の測定結果を示す。縦軸はネール温度TN(K)、横軸はM元素の組成x(原子%)に相当する。Fe、Ni、Pd、Ptなどの元素が含まれている場合は、Mn組成が少なくなるに従ってネール温度が低下していく傾向を示した。これに対してIr、Rh、Ruなどの元素が含まれている場合にはMn組成が少なくなるに従ってネール温度が上昇する傾向を示した。
図3に示された測定データは面心立方構造が安定して得られる範囲であり、この範囲を超えると結晶構造は変化したり、あるいは他の結晶構造との混合相となってしまう。MnIr合金ではMn組成が92原子%から70原子%程度に減少するに従って、ネール温度が580Kから730K程度まで上昇する傾向を示している。
また、この組成範囲よりもMn含有量が減少した場合、合金の結晶構造はB2構造やB2構造との混合状態となってしまい、所望の結晶構造を得ることが難しい。このように、前記特許文献2に開示の技術は面心立方構造を有するMn系合金としては優れた特性を有するが、本発明のL10型規則構造を有するMnIr合金のネール温度が1080Kから1150Kに在ることと比較すると明らかに特性が劣っている。よって、本発明によるMnIr合金では従来の不規則構造を有するMnIr合金や規則構造を有するMnPt、MnNi合金と比較して熱安定性に優れた反強磁性材料を提供することが可能である。
本発明の実施例ではMnとIrの金属材料として3Nの純度を有する材料を用いてネール温度の測定等を行った。MnやIrの金属材料ではCr、Fe、Co、Ni、Mo、Ru、Rh、Pd、OsおよびPtの元素群の内、少なくとも一種類以上の元素が不純物として含有されているが、これらの不純物がネール温度の低下を引き起こすような現象は観察されなかった。よって、前記の元素群の内、少なくとも一種類以上の元素が0.1原子%程度の濃度で含有されても、反強磁性合金の磁気特性を良好に保つことが可能である。
また、本発明によるその他の実施例では、図4のグラフに示されるように反強磁性合金のネール温度が合金材料の比抵抗によって評価されている。縦軸は比抵抗(μΩ・cm)であり、横軸は温度(K)に相当する。MnIr合金の比抵抗は温度の上昇と共に高くなる傾向を示し、ある温度まで上昇すると変曲点をもつ。前記変曲点はMnIr合金が反強磁性から常磁性状態に磁気相転移することによって比抵抗の変化が現われることから、ネール温度を評価する時にMnIrの比抵抗を測定することで実施することができる。
本発明の実施形態として、所望の組成と結晶構造を有するMnIr反強磁性合金と強磁性材料を積層した薄膜がある。図5のグラフにMnIr反強磁性合金薄膜とNiFe強磁性合金薄膜からなる積層膜の磁気特性を示す。ここに示す実施例では、反強磁性膜の膜厚が30nmで強磁性膜の膜厚が5nmである。積層膜の作製にはスパッタ法を用いた。外部から磁場を印加して得られた磁気ヒステリシスループは積層界面において発生したバイアス磁場を受けてシフトしている。この現象は、本発明による積層膜において強磁性膜の磁化の向きが前記バイアス磁場によって制御されていることを示しており、磁気センサーなどの磁気デバイスを構成する上で重要な要素となる。
図6にコンピュータのハードディスク記憶装置における磁気信号の読み出し素子の概念図(模式的な斜視図)を示す。符号61と62はMnIr反強磁性膜とNiFe強磁性膜からなる積層膜である。63はCuからなるスペーサ用薄膜、64はNiFeを主成分とする強磁性膜である。61、62、63と64からなる積層膜は外部から印加磁場に対して磁気抵抗効果を示し、構成された素子の電気抵抗が変化する。この抵抗変化を65の電極を介して取り出すことで磁気信号を電気信号に変換することができる。
図7にコンピュータのデータメモリに用いられる磁気メモリの記憶セルの概念図を示す。符号71と72はMnIr反強磁性膜とNiFeを主成分とする強磁性膜からなる積層膜である。73は酸化アルミニュウムからなる絶縁スペーサ膜、74はNiFeを主成分とする強磁性膜である。71、72、73と74からなる積層膜は75の導線によって発生する磁場によって磁化の方向が変化する。このとき、72の強磁性膜の磁化方向と74の強磁性膜の磁化方向が同じ向きを向いている場合と互いに反対向きの反平行配列の場合では、76の電極を介して測定される電気抵抗が異なる。この電気抵抗の違いを信号の0と1に対応させることでデジタル回路のメモリとして動作させることができる。
本発明は、磁性合金およびこれを用いた磁気デバイスに利用することができる。特に、地磁気を検出する方位センサーや電流を測定する磁気センサー、またコンピュータの記憶装置として用いられるメモリーやハードディスク記憶装置等に利用することができる。
61 MnIr反強磁性膜、 62 強磁性膜、 63 スペーサ膜、
64 強磁性膜、 65 検出信号用電極、
66 上部磁気シールド膜、 67 下部磁気シールド膜
71 MnRuGa反強磁性膜、 72 強磁性膜、
73 酸化物スペーサ膜、 74 強磁性膜、 75 信号記録用導線、
76 信号検出用電極、
64 強磁性膜、 65 検出信号用電極、
66 上部磁気シールド膜、 67 下部磁気シールド膜
71 MnRuGa反強磁性膜、 72 強磁性膜、
73 酸化物スペーサ膜、 74 強磁性膜、 75 信号記録用導線、
76 信号検出用電極、
Claims (4)
- MnおよびIrの元素を含む合金で、その組成がMn100−xIrx(40≦x≦52)で表される範囲であり、かつ合金の結晶構造がL10型規則構造であることを特徴とする反強磁性合金。
- 請求項1に記載の反強磁性合金において、Cr、Fe、Co、Ni、Mo、Ru、Rh、Pd、OsおよびPtの元素群の内、少なくとも一種類以上の元素を不純物として含有することを特徴とする反強磁性合金。
- 請求項1又は2に記載の反強磁性合金において、スパッタ法を用いて作製された薄膜形状を有することを特徴とする反強磁性合金。
- 請求項1乃至3のいずれかに記載の反強磁性合金による薄膜が、Ni、FeおよびCoから選ばれる少なくとも1種以上の元素を主成分とする強磁性合金薄膜と接合された、2層構造を有する磁性薄膜を備えることを特徴とする反強磁性合金を用いた磁気デバイス。
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JP2003276209A JP2005036294A (ja) | 2003-07-17 | 2003-07-17 | 反強磁性合金および反強磁性合金を用いた磁気デバイス |
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JP2010034182A (ja) * | 2008-07-28 | 2010-02-12 | Tohoku Univ | 磁性薄膜とその成膜方法並びに磁性薄膜の応用デバイス |
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2003
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